説明

磁気光学光変調素子

【課題】高速のアナログ光変調が可能で、高周波駆動におけるヒステリシスが非常に小さく、小型化・軽量化を図り、且つ低消費電力で駆動でき、コイル通電により発生するジュール熱を効果的に発散させ、磁気光学膜の温度上昇による磁気特性劣化を防止する。
【解決手段】光路中で偏光子12と検光子13の間に位置し、光が膜面に垂直方向に透過する磁気光学膜14と、磁気光学膜に高周波磁界を印加するコイル16を具備し、コイルによる高周波磁界で光の進行方向に対する磁気光学膜の磁化方向を制御することにより、透過光の強度あるいは位相を変調する磁気光学光変調素子10である。磁気光学膜は非磁性基板19上に成膜され膜面内方向に磁化容易軸を有し、コイルは磁気光学膜の膜面に平行に非磁性基板と一体に形成され、高周波磁界が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加されるようにし、非磁性基板に熱発散膜18が一体的に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光路中で偏光子と検光子との間に位置し、ファラデー効果を利用して透過光の強度あるいは位相を変調するための磁気光学光変調素子に関し、更に詳しく述べると、磁気光学膜と、該磁気光学膜に高周波磁界を印加するコイルとを具備し、該コイルによる高周波磁界によって磁気光学膜の磁化方向を制御する磁気光学光変調素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光変調器は、透過光の強度あるいは位相を変調する光デバイスであり、駆動方式によって、音響光学方式、電気光学方式、及び磁気光学方式などがある。音響光学方式は、原理的には超音波による屈折率分布によって回折格子を形成させるため、消費電力が大きく、相当大きな電源が必要となる。電気光学方式の場合は、電気光学効果を利用するものであり、オン−オフのコントラスト比を大きくするには、電圧を印加する範囲を長くとる(即ち素子の光路長を長くする)必要があり、大型化が避けられない。それらに対して磁気光学方式は、ファラデー効果を利用するもので、光路長の短縮、低コスト化、低消費電力化の可能性があり、他の方式に比べて遙かに有利と考えられている。
【0003】
磁気光学方式の公知例としては、特許文献1に示されているような、光通信で使用する磁気光学光変調器がある。ここでは、多磁区構造を有する磁気光学材料からなる磁気光学素子を使用し、該磁気光学素子に、飽和磁界以上の直流バイアス磁界を印加するための直流磁界発生器と、高周波磁界を印加するための高周波磁界発生器を設けるように構成されている。この磁気光学光変調器は、光通信(赤外線の波長域)での使用を想定しているため、長い光路長が必要となり、基板上に成膜した磁気光学膜を用いる場合には、基板面と平行に光を通すことになる。なお、直流磁界発生器としては、永久磁石あるいは電磁石を用いており、それらは磁気光学素子の磁区を単磁区化する機能を果たしている。
【0004】
ところで、携帯電話機程度のサイズあるいは眼鏡等に装着できる超小型のレーザプロジェクタが開発されている。いずれも小型のレーザと光線走査装置を使って、投影面上で光を高速に動かすことによる残像効果を利用して映像を投影するものである。これらにおいて、カラー映像を投影するためには、当然のことながらRGBの3色の光源を必要とし、それらのうちR(赤色)とB(青色)については発光強度を直接制御できるデバイス(半導体レーザ)が確立している。しかし、G(緑色)については、現在のところ、そのようなデバイスはなく、半導体励起レーザの第2高調波発生(SHG)のレーザを使用することが有望視されている。しかしながら、電源の制御(厳密な素子の温度制御を含む)を行わないと発振効率が著しく低下してしまうため、G(緑色)については、緑色の安定したレーザ発振の後、光源からの光強度を外部光変調器によって変調する方式が採用される。
【0005】
このような用途では、特に小型化・省電力化が要求される。しかし、上記従来構造の磁気光学光変調器では、直流バイアス磁界を印加するための直流磁界発生器を必要とし、永久磁石を用いる場合は小型化・軽量化が難しく、電磁石を用いる場合は消費電力が大きくなり、採用は困難である。
【0006】
また、磁気光学光変調素子の小型化・高速化を図ろうとすると、コイルに高周波電流が流れることにより発生するジュール発熱が小さなコイル部分近傍に蓄積し、コイルの中央に位置している磁気光学膜の温度上昇が生じて、光変調エリアの磁気特性が劣化する恐れがある。
【0007】
【特許文献1】特許第4056726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、高速のアナログ光変調が可能で、高周波駆動におけるヒステリシスが非常に小さく、小型化・軽量化を図り、且つ低消費電力で駆動できるようにすることである。また本発明が解決しようとする他の課題は、コイル通電により発生するジュール熱を効果的に発散させ、磁気光学膜の温度上昇による光変調エリアの磁気特性劣化を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、光路中で偏光子と検光子の間に位置し、光が膜面を垂直方向に透過する磁気光学膜と、該磁気光学膜に高周波磁界を印加するコイルとを具備し、該コイルによる高周波磁界によって光の進行方向に対する磁気光学膜の磁化方向を制御することにより、透過光の強度あるいは位相を変調する磁気光学光変調素子において、前記磁気光学膜は非磁性基板上に成膜され且つ膜面内方向に磁化容易軸を有し、前記コイルは磁気光学膜の膜面に平行に前記非磁性基板と一体に形成され、それによって高周波磁界が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加されるようにすると共に、前記非磁性基板に熱発散膜が一体的に形成されていることを特徴とする磁気光学光変調素子である。なお本発明において、光が膜面に垂直方向、あるいは高周波磁界の方向が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向とは、ほぼ垂直な方向であることを意味しており、厳密に垂直でなければならないと言うことではない。
【0010】
コイルは、渦巻き状の導電パターンを2層、絶縁膜を介して積層し、パターン内周端部を接続した構造であり、該コイルの両端末が共に導電パターンの外周側から引き出され、熱発散膜は渦巻き状の導電パターンの外周側で導電パターンと同じ高さ位置に形成されている構造が好ましい。また、磁気光学膜は、非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜され、コイルは、その一部が非磁性基板に形成されている渦巻き状の溝に埋め込まれた状態で形成されており、熱発散膜は、前記コイルと同じ材料で同じ高さ位置に、且つ内周側から外周側へ向かうスリットによって周方向で複数の領域に区分されるように形成されているのが好ましい。
【0011】
凹部に埋め込まれた状態で成膜されている磁気光学膜は、凹部周壁に接する外周部が除去され、それによって生じる磁気光学膜と凹部周壁との間隙部に遮光性材料が埋め込まれており、該遮光性材料はコイル形成材料と同じ材料であって周方向で複数の領域に区分されている。
【0012】
磁気光学膜、及び導電パターンを含めた非磁性基板の上面全体に透明熱伝導性材料からなる熱発散膜が成膜され、該熱発散膜は、多層誘電体膜であって、その光路長(屈折率×膜厚)が、入射光の1/4波長の奇数倍に設定されている。透明熱伝導性材料としては、例えばアルミナなどがある。
【0013】
磁気光学膜は、非磁性基板上に液相エピタキシャル法で成膜され、900℃〜1200℃のトップ温度でアニール処理したBi置換鉄ガーネット単結晶膜が好ましい。入射光は可視光であって、Bi置換鉄ガーネット単結晶膜は膜厚が1〜9μmであり、光入射面の面積を10000πμm2 以下(半径100μm以下)とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る磁気光学光変調素子は、膜面内方向に磁化容易軸を有する磁気光学膜を使用し、該磁気光学膜の膜面に平行に配置したコイルによって磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に高周波磁界を印加するように構成されているため、直流バイアス磁界のための永久磁石や電磁石が不要となり、装置の小型化・軽量化、並びに低消費電力化を図ることができる。また本発明では、非磁性基板に熱発散膜が形成されているため、コイルへの高周波通電による発熱を効果的に外部へと発散させることができ、コイル部分の温度上昇を抑え、磁気光学膜の特性劣化を防止することができる。
【0015】
コイルは、渦巻き状の導電パターンを2層、絶縁膜を介して積層し、パターン内周端部を接続すると、コイルの両方の端末を、共に導電パターンの外周側から引き出すことができ、外部回路との接続処理などが容易となる。また磁気光学膜を、非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜し、コイルは、その一部が非磁性基板に形成されている渦巻き状の溝に埋め込まれた状態で形成すると、コイルにより発生する高周波磁界を磁気光学膜に効率よく印加することができる。更に、熱発散膜が、前記コイルと同じ材料で同じ高さ位置に設けると、熱の発散効率をより一層向上させることができ、且つ内周側から外周側へ向かうスリットによって周方向で複数の領域に区分しておくと、渦電流損を低減することができる。
【0016】
磁気光学膜を凹部に埋め込まれた状態で成膜する場合、凹部周壁に接する外周部を除去すると、膜成長の過程で中心部とは磁気特性が異なるようになる外周部の影響を受けないため、変調エリア全体にわたって所望の磁気特性のみの良好な磁気光学膜が得られる。磁気光学膜の外周部を除去すると、凹部周壁との間に間隙部が生じるが、その間隙部に遮光性材料を埋め込むことで不要な漏れ光を防止できる。遮光性材料としてコイル形成材料と同じ材料を用いると、導電パターンと同時に形成できるため、工程数の増加を抑えることができる。その際、周方向で複数の領域に区分した構造にすれば、コイルにより高周波磁界が印加されても渦電流損失の増大を防止できる。
【0017】
磁気光学膜上に透明熱伝導性材料膜を形成したり、非磁性基板上に、磁気光学膜上に形成したのと同じ透明熱伝導性材料膜を形成すると、透過光により生じる局所的な発熱(磁気光学膜に入射する光ビームを吸収することによる発熱)及びコイルで生じる発熱を発散し、局所的な温度上昇を防止できる。また、磁気光学膜上の透明熱伝導性材料膜を多層誘電体膜とし、その光路長(屈折率×膜厚)を入射光の1/4波長の奇数倍に設定すると、反射防止膜としても機能させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に示すように、本発明に係る磁気光学光変調素子10は、光路中で偏光子12と検光子13の間に位置し、該磁気光学光変調素子10によって透過光の強度あるいは位相を変調するものである。この磁気光学光変調素子10は、光が膜面を垂直方向に透過する磁気光学膜14と、該磁気光学膜14に高周波磁界を印加するコイル16と、コイルの外周側に設けた熱発散膜18とを具備している。前記磁気光学膜14は、非磁性基板19上に成膜され、膜面内方向に磁化容易軸を有し、前記コイル16は、磁気光学膜14の膜面に平行に前記非磁性基板19と一体に形成され、それによって高周波磁界が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加されるように構成されている。前記コイル16による高周波磁界によって磁気光学膜14の磁化方向を制御する。これによってファラデー回転角が変化し、透過光の強度あるいは位相を変調する。コイルによる発熱は、熱発散膜18によって外部へと導かれ、効果的に発散する。
【0019】
磁気光学膜は、典型的には、非磁性基板上に液相エピタキシャル法で成膜したBi置換鉄ガーネット単結晶膜((BiGdY)3 (FeGa)5 12)を900℃〜1200℃のトップ温度でアニール処理したものであり、このアニール処理によって磁化容易軸が膜面に平行となる。
【0020】
ところで、液相エピタキシャル法で成膜したBi置換鉄ガーネット単結晶膜は、通常、成長誘導磁気異方性のために、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化方向が膜面垂直方向に分かれたストライプ状の磁区が形成される。この場合、光の変調量は磁区の面積比により決定されるが、外部磁界の印加に伴う磁区の変化は磁壁移動により進行するため、高速変調が難しく、更には大きなヒステリシスを有するため制御が困難である。それに対して本発明の構成では、磁気光学膜の磁化容易軸が膜面内方向を向き、殆ど単磁区構造となり、高周波磁界は磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加される。そのため、コイル磁界がゼロのとき、磁化方向は光の進行方向に対して垂直であるので、光の変調は行われない。しかしコイル磁界が増加するのに応じて磁化が膜面に垂直方向を向くので、光の偏波面が回転し、光の変調量が増大する。このとき、磁化の方向は磁界の大きさと共に回転するので、高速で動作しヒステリシスは低減する。このように光の進行方向に対する磁化の向きを外部高周波磁界により任意に変化させることができ、それが磁気光学膜の変調エリア内で均一な磁化回転により行われるため、光の透過量を高速に且つアナログ的に変調することができる。また、直流バイアス磁界のための永久磁石や電磁石が不要となるため、装置の小型化・軽量化、並びに低消費電力化を図ることができる。
【0021】
磁気光学膜は、非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜され、凹部周壁に接する外周部が除去されて、それによって生じる磁気光学膜と凹部周壁との間隙部に遮光性材料を埋め込む構造とする。コイルは、渦巻き状の導電パターンを2層、絶縁膜を介して積層し、パターン内周端部を相互に直列となるように接続し、該コイルの両方の端末をパターン外周側から引き出す。コイルの1層目(下層)が非磁性基板に形成されている渦巻き状の溝に埋め込まれた状態で形成されている構造とするのがよい。これら導電パターンは、例えば銅めっきによって形成する。
【0022】
本発明では、コイルが、磁気光学膜が形成されている非磁性基板と一体に形成されており、コイルの一部が磁気光学膜と同一平面上に形成されているため、コイルを磁気光学膜に可能な限り近づけることができ、高周波磁界の印加効率を高めることができる。また、コイルを構成する渦巻き状の導電パターンを2層にすることにより、コイル端子を導電パターンの外側に設けることが可能となり、端末処理が容易となる。更に、熱発散膜は、コイルと同じ高さで、コイルの外周側に設けることで、コイルで生じるジュール熱を効率よく外部へと発散することができる。熱発散膜を熱伝導率の良好な銅で構成すれば、コイル形成と同時に形成することができ、製造工程が複雑化することもない。
【0023】
磁気光学膜を、非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜すると、膜は、凹部の底面のみならず凹部の周壁面からも成長し、特に凹部の周壁面近傍では荒れた状態となり、外周部の磁気特性が中央部の磁気特性と異なるものとなる。膜面積が大きければあまり影響はないが、小型化と磁界印加効率を高めるために膜面積を必要最小限まで小さくすると、外周部の影響が顕著となる。そこで、上記のように、外周部をエッチングにより除去すると、膜全体を変調エリアとして使用でき、所望の磁気特性となる。但し、磁気光学膜と凹部周壁と間に間隙部が生じ、入射光の一部が必要なファラデー回転をせずに通過する(レーザ光の強度はガウシアン分布であり分布の裾野が間隙部を通過する)ため、光変調特性の劣化が生じる。そこで、間隙部に遮光性材料を埋め込むと、間隙部を通過する漏洩光を遮断でき、所望の変調量を得ることができるし、空間フィルタとしても機能するため干渉ノイズも除去できる。これによって、より一層の小型化、低消費電力化を図ることができる。導電パターンに使用する銅は遮光性材料であるから、遮光性材料の埋め込みを、導電パターンと同じ銅めっきで行えば、同じ工程で行える。
【0024】
入射光が可視光(例えば緑色のレーザ光)の場合、Bi置換鉄ガーネット単結晶膜は、膜厚を1〜9μm、光入射面の面積を10000πμm2 以下(半径100μm以下)とする。膜厚3μmで約±15度のファラデー回転角が得られる。液相エピタキシャル法により作製したBi置換鉄ガーネット単結晶膜をアニール処理すると、成長誘導磁気異方性が消失するので膜と基板との格子ミスマッチに起因する歪み誘導磁気異方性が支配的となる。そして、SGGG基板などではストリエーション(格子定数の変動(ゆらぎ))があるため、これがエピタキシャル成長した磁気光学膜の磁気特性の変動となって顕著に現れてくる。この変動はヒステリシスの原因となりうる。そこで、基板のストリエーションの周期(数百μm程度)に対して磁気光学膜(変調エリア)のサイズを小さくすることにより、ヒステリシスを低減することが可能となる。
【0025】
このようにして、緑色のレーザ光を高速で且つアナログ的に、低消費電力で変調できる小型・軽量の外部光変調器が得られる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。説明を分かり易くするために、以下の各実施例において同様の部材については、同一符号を付す。
【0027】
図2は、本発明に係る磁気光学光変調素子の一実施例を示す模式図である。非磁性基板20上に磁気光学膜22を形成し、その周囲に1層のコイル24を非磁性基板20上に一体に形成する。また、該非磁性基板20上でコイル24の外周側に熱発散膜26を形成する。そして、該コイル24及び熱発散膜26の外表面を覆うように、フォトレジストなどによる保護膜28を形成する。
【0028】
これは最も簡単な構造である。このようにコイル24が1層構造で済む場合には格別の問題は生じない。但し、この構成を利用して印加磁界の強さを高めるために2層構造にしようとすると、絶縁膜の表面に1層目の導電パターンによる凹凸が残るため、2層目を積層し難い傾向がある。そこで、コイルを2層形式とする場合には、次のように磁気光学膜及び1層目の導電パターンを非磁性基板に埋め込むような構造が好ましい。
【0029】
図3〜図4は、2層形式のコイル(1層当たり3ターン)を設けている例である。非磁性基板20に凹部30を形成して磁気光学膜22を成膜するが、該磁気光学膜の凹部周壁に接する外周部を除去し、それによって磁気光学膜22と凹部周壁との間に間隙部32を形成し、遮光性材料34を埋め込んでいる。非磁性基板20上でコイル24と共に、コイル形成材料で外周側に熱発散膜26を形成する。コイルの1層目の導電パターンと下層側の熱発散膜を形成し、絶縁膜36を介してコイルの2層目の導電パターンと上層側の熱発散膜を積層する。下層側と上層側の熱発散膜の間には絶縁膜は無くてもよい。このような構成では、1層目の導電パターン及び下層側の熱発散膜を形成した後に研磨することで表面を平坦化できるため、その上に絶縁膜36を介して位置する2層目の導電パターン24bと上層側の熱発散膜の積層が容易となる。
【0030】
これらの実施例の構成は、コイル24の2層化が容易であるし、磁気光学膜22の磁気特性を均一化でき、コイル24で生じる高周波磁界を効率よく磁気光学膜22に印加できるし、コイルから発生したジュール熱も熱発散膜26で効率よく外部に発散させることができる。
【0031】
なお、図3の実施例では、間隙部の少なくとも一部に遮光性材料を埋め込んでいる。また、図4の実施例では、間隙部全体にコイル形成材料を埋め込んでいる。コイル形成に用いる銅は、遮光性を呈するので、コイル形成材料をそのまま遮光性材料として用いることができる。遮光性材料34を設けることによって、間隙部を通過する漏洩光を遮断でき、所望の変調量を得ることができるし、干渉や回折による悪影響も除去できる。なお、遮光性材料としてコイル形成材料(導電材料)を用いる場合には、円周方向で複数の領域に区分するように設ければ、コイル24からの高周波磁界による渦電流損を低減できる。
【0032】
図5は、図3〜図4で用いている2層形式のコイルにおける導電パターンの例を示している。Aは、1層目の導電パターン24aであり、外周側の端子部38aから内周側に向かって時計回りに3ターン渦巻き状に形成されている。Bは、2層目の導電パターン24bであり、内周側から外周側の端末部38bに向かって時計回りに3ターン渦巻き状に形成されている。いずれの場合も、渦巻き状の導電パターン24a、24bの外周側に熱発散膜26a、26bを設ける。熱発散膜はコイル形成材料と同じ材料でよい。コイル形成に使用する銅は、熱伝導性も良好だからである。但し、導電性を有することから、高周波磁界による渦電流損を低減するために、内周側から外周側に至る放射状のスリット(熱発散膜が無い帯状の部分)40を複数形成し、周方向の領域を複数に区分する。コイルは、1層目の導電パターン24aの上に、2層目の導電パターン24bを、絶縁膜を介して積層する構造である。積層時、1層目と2層目の導電パターン内周側の端部が互いに接続され、合計6ターンのコイルとなる。
【0033】
次に、図4に示す構造の磁気光学光変調素子の製造手順を図6により説明する。
(A)変調エリア形成
まず、非磁性基板20(例えばSGGG基板)に磁気光学膜を埋め込み成膜するための凹部30をエッチングにより形成する。この凹部30は、例えば、半径100μm程度で、最終的に必要な膜厚(1〜9μm)よりも若干深めの円形とする。
(B)磁気光学膜形成
凹部30が完全に埋まるまで、非磁性基板20上に磁気光学膜22を液相エピタキシャル法により成膜する。磁気光学膜22は、Bi置換鉄ガーネット単結晶((BiGdY)3 (FeGa)5 12)からなる。
(C)研磨
磁気光学膜22が凹部30のみに残るように、非磁性基板20上の磁気光学膜を研磨し除去する。そのとき、凹部内の磁気光学膜が所望の膜厚となるまで非磁性基板の表面も研磨する。
(D)エッチングとアニール
変調エリア周辺(凹部30の壁面に接する磁気光学膜の外周部)にエッチングにより間隙部32を形成すると共に、コイル1層目となる導電パターンを形成するための3ターンの渦巻き状の溝42、及び該溝42の外周側に熱発散膜を形成するための凹部44を、エッチングにより形成する。その後、900〜1200℃のトップ温度で磁気光学膜22をアニール処理し、それによって磁化容易軸を膜面垂直方向から膜面内方向にする。
(E)1層目の導電膜形成
非磁性基板20上に、めっきによりコイルの1層目となる導電膜46を形成する。導電膜は、渦巻き状の溝42が埋まる厚さとし、銅めっきで形成する。このとき、間隙部32、及び熱発散膜となる凹部44も同時に埋められる。
(F)1層目導電パターン形成
研磨により非磁性基板20の表面の余分な導電膜を除去し、渦巻き状の溝内の導電材料、間隙部の導電材料、及び凹部内の導電材料を残す。これによって1層目の導電パターン24aと下層側の熱発散膜26aが形成されると共に、間隙部が埋められ、且つ表面が平坦化される。
(G)絶縁膜形成
非磁性基板20及び導電パターン24a、熱発散膜26aの上にフォトレジストなどで絶縁膜28を形成する。このとき、1層目の導電パターン24aの内周端のみ窓部48を開けて導電パターンの内周端部が露出するようにしておく。
(H)2層目導電パターン、上層側の熱発散膜の形成
フォトリソグラフィー技術により1層目の導電パターン24aの上に絶縁膜36を介して2層目の渦巻き状の導電パターン24bを積層する。そのとき、絶縁膜28に形成した窓部48を通じて1層目の導電パターン24aと2層目の導電パターン24bとが導通し、2層6ターンのコイル24が形成される。また、同時に、上層側の熱発散膜26bも積層される。
(I)保護膜形成
表面にフォトレジストなどで保護膜28を形成して、2層目導電パターン24b及び上層側の熱発散膜26bの露出面を覆い、コイル24や熱発散膜26を保護する。
【0034】
図7は、本発明で用いる磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図である。基本的な構成は図4と同様であるので、対応する部分に同一符号を付し、それらについての説明は省略する。この実施例では、磁気光学膜22の表面(上面)に反射防止膜50を形成すると共に、非磁性基板20の下面(磁気光学膜形成面とは反対側の面)にも反射防止膜52を形成している。これによって、光が通過する両面での反射を防止できることになる。
【0035】
図8は、本発明で用いる磁気光学光変調素子の更に他の実施例を示す模式図である。図7と異なる部分のみ説明する。ここでは、非磁性基板20の上面全体に反射防止膜54を形成している。この反射防止膜54は、1層目導電パターン24aの上では絶縁膜としての機能を果たすことになる。
【0036】
ここで反射防止膜を、アルミナのような透明熱伝導性材料膜で構成すると、磁気光学膜での光通過による局所的な発熱、あるいはコイルにおける発熱を発散し、局所的な温度上昇を抑える効果が得られる。
【0037】
図7に示す構造の磁気光学光変調素子を試作した。磁気光学膜により形成される変調エリアは、直径20μm、膜厚3μmである。銅めっきによる2層合計6ターンのコイルは、内周径30μmである。
【0038】
このような図7に示す構造の磁気光学光変調素子について、ファラデー回転角の変化を測定した。測定結果を図9に示す。測定波長は532nmである。横軸は電流であり、飽和したときの電流に対する比率を表し、縦軸はファラデー回転角であり、最大値に対する比率を表している。この磁気光学膜は、膜厚3μmでファラデー回転角は±15度変化する。−側から+側へ向かって電流を変えていった場合のファラデー回転角の変化(黒丸印でプロット)と、+側から−側へ向かって電流を変えていった場合のファラデー回転角の変化(白抜き三角印でプロット)のカーブが重なっており、ヒステリシスの無い変調が可能であることが分かる。
【0039】
なお、温度分布のシミュレーションの結果、図4に示すように非磁性基板と一体に熱発散膜を形成した場合、熱発散板がない場合に比べて、磁気光学膜の最高温度上昇を40%程度抑えることができることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る磁気光学光変調素子の使用状態を示す説明図。
【図2】本発明に係る磁気光学光変調素子の一実施例を示す模式図。
【図3】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図4】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図5】2層形式のコイルにおける導電パターンの例を示す説明図。
【図6】磁気光学光変調素子の製造手順の一例を示す工程図。
【図7】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図8】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図9】電流に対するファラデー回転角の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0041】
10 磁気光学光変調素子
12 偏光子
13 検光子
14 磁気光学膜
16 コイル
18 熱発散膜
19 非磁性基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路中で偏光子と検光子の間に位置し、光が膜面を垂直方向に透過する磁気光学膜と、該磁気光学膜に高周波磁界を印加するコイルとを具備し、該コイルによる高周波磁界によって光の進行方向に対する磁気光学膜の磁化方向を制御することにより、透過光の強度あるいは位相を変調する磁気光学光変調素子において、
前記磁気光学膜は非磁性基板上に成膜され且つ膜面内方向に磁化容易軸を有し、前記コイルは磁気光学膜の膜面に平行に前記非磁性基板と一体に形成され、それによって高周波磁界が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加されるようにすると共に、前記非磁性基板に熱発散膜が一体的に形成されていることを特徴とする磁気光学光変調素子。
【請求項2】
コイルは、渦巻き状の導電パターンを2層、絶縁膜を介して積層し、パターン内周端部を接続した構造であり、該コイルの両端末が共に導電パターンの外周側から引き出され、熱発散膜は渦巻き状の導電パターンの外周側で導電パターンと同じ高さ位置に形成されている請求項1記載の磁気光学光変調素子。
【請求項3】
磁気光学膜は、非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜され、コイルは、その一部が非磁性基板に形成されている渦巻き状の溝に埋め込まれた状態で形成されており、熱発散膜は、前記コイルと同じ材料で同じ高さ位置に、且つ内周側から外周側へ向かうスリットによって周方向で複数の領域に区分されるように形成されている請求項1又は2記載の磁気光学光変調素子。
【請求項4】
凹部に埋め込まれた状態で成膜されている磁気光学膜は、凹部周壁に接する外周部が除去され、それによって生じる磁気光学膜と凹部周壁との間隙部に遮光性材料が埋め込まれており、該遮光性材料はコイル形成材料と同じ材料であって周方向で複数の領域に区分されている請求項3記載の磁気光学光変調素子。
【請求項5】
磁気光学膜、及び導電パターンを含めた非磁性基板の上面全体に透明熱伝導性材料からなる熱発散膜が成膜され、該熱発散膜は、多層誘電体膜であって、その光路長(屈折率×膜厚)が、入射光の1/4波長の奇数倍に設定されている請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気光学光変調素子。
【請求項6】
磁気光学膜が、非磁性基板上に液相エピタキシャル法で成膜され、900℃〜1200℃のトップ温度でアニール処理したBi置換鉄ガーネット単結晶膜である請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気光学光変調素子。
【請求項7】
入射光は可視光であって、Bi置換鉄ガーネット単結晶膜は膜厚が1〜9μmであり、光入射面の面積を10000πμm2 以下とした請求項6記載の磁気光学光変調素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−134245(P2010−134245A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310945(P2008−310945)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】