説明

磁気媒体および磁気記録再生方法

【課題】安定した情報の記録および再生を行なうことができる。
【解決手段】本実施形態に係る磁気媒体は、第1磁性層、第2磁性層、および非磁性層を含む。第1磁性層は、第1磁性体により形成され、磁化の方向に応じて前記情報が記録される。第2磁性層は、前記第1磁性体と磁気異方性が異なる第2磁性体により形成される。非磁性層は、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に積層され、非磁性体で形成される。前記第1磁性層の磁化と前記第2磁性層の磁化とは、前記非磁性層を介した磁気の交換作用により、互いの磁化が反対方向を向いて結合することを示す反平行結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴再生ヘッドおよび高周波アシスト型記録ヘッドに対応する単層または多層の磁気媒体および磁気記録再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートコミュニティを実現するICT(Information and Communication Technology)基盤の柱の一つとして、低いエネルギー消費および省スペースといった、環境親和性を有する大記録容量のストレージ技術が求められている。これに呼応し、主なストレージ技術である磁気記録の記録密度は、近年の基礎研究、および微細加工などの作製技術の進歩に伴って、目覚ましい速度で向上している。
【0003】
磁気記録における記録密度向上の一例として、三次元磁気記録が提案されている。今までの磁気媒体は、情報を記録する記録層は1層しかないのに対し、三次元記録媒体は、記録層を複数有するので、記録層の数に応じて単位面積の記録密度を単層記録よりも増やすことができる。また、情報の読み出しおよび情報の書き込み時には、磁気共鳴を利用して記録層を選択する。具体的には、各記録層の磁気共鳴周波数を差別化しておき、情報を記録したいまたは情報を再生したい記録層にのみ磁気共鳴を起こす高周波磁界を印加することで、所望の記録層を選択して情報を抽出したり、所望の記録層に情報を記録することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0172055号明細書
【特許文献2】国際公開第2011/030449号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jian-Gang Zhu, Xiaochun Zhu, and Yuhui Tang, “Microwave Assisted Magnetic Recording”, IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS 44, 125(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、磁気共鳴を利用した記録および再生を行なう際、周囲のビットからの漏れ磁界によって引き起こされる磁気共鳴周波数の変化が問題となる。特に、三次元磁気記録方式の場合は、周囲に配置されるビットが多いので漏れ磁界の影響が大きくなる。
【0007】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、安定した情報の記録および再生を行なうことができる磁気媒体および磁気記録再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る情報記録媒体は、磁気媒体は、第1磁性層、第2磁性層、および非磁性層を含む。第1磁性層は、第1磁性体により形成され、磁化の方向に応じて前記情報が記録される。第2磁性層は、前記第1磁性体と磁気異方性が異なる第2磁性体により形成される。非磁性層は、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に積層され、非磁性体で形成される。前記第1磁性層の磁化と前記第2磁性層の磁化とは、前記非磁性層を介した磁気の交換作用により、互いの磁化が反対方向を向いて結合することを示す反平行結合する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る磁気媒体を示す図。
【図2】本実施形態に係る磁気媒体の利用例を示す図。
【図3】本実施形態に係る磁気媒体への情報の書き込み方法を示す図。
【図4】本実施形態に係る磁気媒体に記録された情報の読み出し方法を示す図。
【図5】一般的な記録層を有するビットパターンドメディアの1ドットとその磁気共鳴周波数を測定する磁気トンネルを含む素子との一例を示す図。
【図6】図5に示すビットパターンドメディアの1ドットにおける記録層のノイズスペクトラムの測定結果を示す図。
【図7】本実施形態に係る記録層を有するビットパターンドメディア(BPM)の1ドットとその磁気共鳴周波数を測定する磁気トンネルを含む素子との一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一般に、磁気媒体上の情報は磁化の方向として記録されており、記録密度の向上は、ビットを記録するために使用される磁性体の寸法縮小を意味する。1ビットのサイズを縮小した際に、十分な読み出し信号ノイズ(SN)比を維持するためには、磁気媒体の磁性結晶粒子を微細化する必要がある。ただし、磁性結晶粒子の微細化に伴い、磁性結晶粒子の熱安定性が問題となる。磁性結晶粒子の熱安定性は、KV/kTで表される(但し、K、V、kおよびTは、それぞれ磁性結晶粒子の磁気異方性エネルギー定数、体積、Boltzmann定数および温度を示す)。十分な熱安定性が達成されないと、常温でも熱揺らぎの影響で、磁化の向きが反転し、記録した情報が失われる恐れがある。磁性結晶粒子の微細化を補って熱安定性を維持するためには、磁気異方性を大きく必要があるが、磁気異方性を大きくすると磁性結晶粒子の反転磁界も大きくなるので、情報の書き込みが難しくなる。そこで、情報の書き込みを容易にするため、高周波磁界で媒体の磁気共鳴を起こし、反転磁界を低減させるマイクロ波アシスト(磁気共鳴)磁気記録方式が用いられている。
【0011】
磁性体の磁気共鳴周波数は、式(1)のKittel式で表すことができる。
【数1】

【0012】
但し、γ、h、hおよびMは、それぞれ磁気回転比、磁気異方性磁界、外部磁界および飽和磁化である。周りのビットが反転するたびに漏れ磁界の影響で外部磁界hが変化してしまうので、磁気共鳴周波数が不安定になりやすい。
【0013】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る磁気媒体および磁気記録再生方法について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
本実施形態に係る磁気媒体について図1を参照して説明する。図1(a)は、磁気媒体の一例(断面図)を示し、図1(b)は、記録層の一例(断面図)を示す。
【0014】
本実施形態に係る磁気媒体100は、複数の記録層101と中間層102とを含む。なお、図1に示す磁気媒体100は、記録ビットが分離するビットパターンドメディア(BPM)により形成される例を示すが、連続媒体でもよい。また、本実施形態では、複数の記録層を有するいわゆる三次元磁気記録媒体を例に説明するが、単層でもよく、マイクロ波アシスト磁気記録の単層媒体の場合は、記録層101の1層だけを含む。
記録層101は、磁性体により形成され、磁化の向きを変化させることにより1ビットの情報を記録することができる。
中間層102は、2つの記録層101の間に積層され、記録層101同士を磁気的に隔離する。中間層102は、複数の記録層101の層間に磁気交換結合をもたらさない材料であればよく、例えば、Cuを用いればよい。なお、図1(a)では、記録層101と中間層102とが交互に積層され、記録層101を3層有する磁気媒体100の一例を示すが、これに限らず、磁気媒体100は、同様の積層構造であれば記録層101をさらに複数積層してもよい。
【0015】
さらに図1(b)に示すように、記録層101は、第1磁性層103、第2磁性層104および非磁性層105を含む。
第1磁性層103は、情報の記録安定性を保つため磁気異方性の大きい材料で形成され、例えば、CoCr系合金、FePt系合金、またはCoPt合金といった硬磁性材料により形成される。第1磁性層103は、記録された情報を保持する。なお、KV/kTの値が60以上であれば、上述した合金以外の他の材料を用いてもよい。
第2磁性層104は、第1磁性層103に用いる材料と比較して、磁気異方性の小さい材料で形成され、例えば、NiFe系またはCoFe系といった軟磁性材料を用いる。第2磁性層104は、第1磁性層103の漏れ磁界を打ち消すための層である。
【0016】
非磁性層105は、第1磁性層103と第2磁性層104との間に積層され、例えば、Ruといった非磁性材料で形成される。非磁性層105は、第1磁性層103と第2磁性層104との間の磁気交換結合をもたらす。
この磁気交換結合により、第1磁性層103の磁化と第2磁性層104の磁化とが互いに反対方向(反平行)を向いて強く結合する(以下、反平行結合と呼ぶ)。第1磁性層103と第2磁性層104とが反平行結合することにより、第1磁性層103の漏れ磁界を打ち消すことができる。なお、第1磁性層103の磁化と第2磁性層104との磁化とが反平行に配置される必要があるため、第2磁性層104の保磁力は、第1磁性層103と第2磁性層との間の反平行結合磁界よりも小さくなるように設計される。反平行結合磁界は、第1磁性層103と第2磁性層104とが反平行結合する際の磁界の強さを示す。
次に、磁気媒体100の利用例について図2に示す。
図2に示すように、例えばHDD(Hard Disk Drive)のような円盤形状の多層ディスク200として、本実施形態に係る磁気媒体100を用いる。ここで、記録層101を2層以上とする場合には、第1磁性層103および第2磁性層104の両方、または第1磁性層103の層の組成を変化させるなどの方法により、磁気異方性、飽和磁化などの磁気共鳴周波数に影響を与える特性を変化させ、各層の共鳴周波数を差別化する。共鳴周波数の差別化は、例えば多層ディスク200の上面から下面に向かって順次、各記録層101で異なるように磁気共鳴周波数を高く設定してもよいし、反対に上面から下面に向かって順次磁気共鳴周波数が低くなるように設定してもよい。
【0017】
次に、本実施形態に係る磁気媒体100へ情報を書き込む方法について図3を参照して説明する。
図3(a)に示すように、はじめに記録層101の磁化の向きに対して垂直方向に高周波磁界301を印加する。高周波磁界301は、書き込みを行なう記録層の磁気共鳴周波数と同一となるように設定する。ここでは、高周波磁界301の周波数を、書き込みを行いたい記録層101−2での第1磁性層103−2の磁気共鳴周波数(f4)と同一となるように設定する。高周波磁界301を印加すると、高周波磁界301の影響により磁気共鳴が発生し、第1磁性層103−2の磁化は才差運動を始める。
【0018】
次に、図3(b)に示すように、磁気共鳴が起きる前の磁性層103−2の磁化の向きと反対方向に、ビット(1またはゼロ)を記録するための書き込み磁界(H1)302を印加する。第1磁性層103−2の磁化は、磁気共鳴によりすでに磁化容易軸から離れている状態となっているので、第1磁性層103−2の保磁力以下の書き込み磁界でも磁化が反転する。また、この書き込み磁界(H1)302は、書き込みを行わない記録層101−1の第1磁性層103−1の保磁力よりも小さいため、第1磁性層103の磁化の反転は生じない。なお、図3(b)に示す状態では、第1磁性層103−2と第2磁性層104−2との磁化の向きは、互いに同一の方向となる。また、磁化の反転処理において、第1磁性層103−2と第2磁性層104−2と間の反平行結合は、第1磁性層103−2の反転を妨げるように働くため、反平行結合磁界は小さいことが望ましい。例えば、反平行結合磁界が数百Oe以下であれば、書き込み磁界302よりも小さくなっているため、磁性層103−2の磁化の反転に対する反平行結合の影響を無視できるほど小さくすることができる。
【0019】
最後に、図3(c)に示すように、第1磁性層103−2に印加していた、高周波磁界301と書き込み磁界(H1)302とを停止する。磁界を停止したのち、第1磁性層103−2と第2磁性層104−2との間には反平行結合が働き、非磁性層105を介して第1磁性層103−2と第2磁性層104−2との磁化が反平行配置になろうとする。図3(b)において同一の方向である第1磁性層103−2と第2磁性層104−2との磁化の向きは、第2磁性層104−2の保磁力が反平行結合磁界よりも小さいため、図3(c)に示すように、反平行結合磁界によって磁性層104−2の磁化の向きが反転する。
以上で、記録層101−2の磁化の反転処理が完了し、各記録層に対して同様の処理を行なうことで情報の書き込みを行なうことができる。このように、記録層101内の第1磁性層103と第2磁性層104との磁化の向きが互いに反平行となることで漏れ磁界が少なくなり、磁気共鳴周波数への影響を少なくすることができる。
【0020】
次に、記録した情報を磁気媒体100から読み出す方法について図4を参照して説明する。
情報を読み出したい記録層101−2に、記録層101−2中の磁性層103−2の磁化の向きに対して垂直方向に高周波磁界401を、磁性層103−2の磁化の向きに対して平行方向に再生磁界(H2)402をそれぞれ印加する。高周波磁界401の周波数は、読み出したい記録層101−2の磁性層103−2の磁化の向きに対して、平行方向の再生磁界(H2)402を印加したときの磁性層103−2の磁気共鳴周波数(f4’)と同一にする。なお、f4’は式(2)から求めることができる。
【数2】

【0021】
但し、再生磁界(H2)402は、あらゆる磁性層の反転を起こさないようにするため、第1磁性層103の保磁力および第1磁性層103と第2磁性層104との反平行結合磁界よりも小さくなるように制御する。
【0022】
磁性層103−2の磁化の向きが再生磁界(H2)402の向きと同じ向きの場合、すなわち磁性層103−2の磁化の向きと再生磁界(H2)402の向きとの相対角が略ゼロ度の場合は、図4(a)に示すように、高周波磁界401の周波数が磁性層103−2の磁気共鳴周波数と一致する。そのため、磁性層103−2が磁気共鳴を起こし、磁性層103−2がエネルギーを吸収する。
【0023】
一方、磁性層103−2の磁化の向きが再生磁界(H2)402の向きと反対向きの場合、すなわち磁性層103−2の磁化の向きと再生磁界(H2)402の向きとの相対角が略180度の場合は、図4(b)に示すように、高周波磁界401の周波数が磁性層103−2の磁気共鳴周波数と異なる。そのため、磁性層103−2は磁気共鳴を起こさず、エネルギーが吸収されない。このときの磁性層103−2の磁気共鳴周波数f4’’は、式(3)で求めることができる。
【数3】

【0024】
エネルギー吸収の有無は、スピントルク発振素子などにより磁気媒体に高周波磁界を印加したときのスピントルク発振素子での信号の変化を読み取るなど一般的な手法を用いればよいため、ここでの詳細な説明は省略する。このように、磁性層103−2の磁化の向きと再生磁界402の向きとの相対角に応じた、高周波磁界からのエネルギー吸収の有無から、読み出したい記録層101−2の磁性層103−2の磁化の向きを検知することができ、記録層101に記録された情報を再生することができる。
なお、第1磁性層103の磁気共鳴を利用して情報を再生する代わりに、第2磁性層104の磁気共鳴を利用して、情報を再生してもよい。各記録層の第2磁性層104の磁気共鳴周波数をそれぞれ差別化することにより、読み出したい記録層を選択することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例として2つの記録層を有するビットパターンドメディア(BPM)の1ドットの作製例を示し、一般的な記録層を用いた磁気媒体の積層構造と、本実施形態に係る記録層を用いた磁気媒体の積層構造とを比較する。
【0026】
はじめに、一般的なBPMの1ドットの作製例について図5を参照して説明する。作製法としては、スパッタ法により基板上に成膜した磁性積層膜を、リソグラフィーを用いて1ビットのサイズ(100nm×50nm)に作製する。
図5に示す積層構造500は、磁気媒体501、絶縁層502、磁化固定層503、上部電極504−1、下部電極504−2、および基板505を含む。基板505の上に、下部電極504−2、磁化固定層503、絶縁層502、磁気媒体501および上部電極504−1が順に積層される。さらに、磁気媒体501は、記録層506−1および506−2と、中間層507とで構成される。また、磁化固定層503は、IrMn/CoFe/Ru/CoFeB積層膜であり、IrMn層508、CoFe層509、Ru層510およびCoFeB層511で構成される。
図5の例では、記録層506−2の磁気共鳴周波数に対する、記録層506−1の漏れ磁界の影響を調べるために、絶縁層502と磁化固定層503と、上部電極504−1および下部電極504−2とが積層されている。
【0027】
絶縁層502は、絶縁体で形成され、例えば材料としてMgOを用いて厚さ1nmで形成される。また、上部電極504−1は、Auで形成され、下部電極504−2はCuで形成される。基板505は、ガラス基板を用いればよい。
記録層506−1および記録層506−2は、それぞれ組成が異なるCo合金で形成される。中間層507は、Cuで形成される。記録層506−1および記録層506−2と中間層507の厚さはそれぞれ5nmである。
IrMn層508は、反強磁性体であり、IrMn層508とCoFe層509とが交換バイアス結合する。また、図5に示すように、CoFe層509とCoFeB層511とがRu層510を介して反平行結合している。これにより、磁化固定層503のCoFeB層511の磁化の向きは一定に保持されるとともに、磁化固定層503からの漏れ磁界の影響をなくすことができる。
また、CoFeB層511は、絶縁層502を介して記録層506−2と磁気トンネル接合を形成する。記録層506−2の磁気共鳴の測定は、トンネル磁気抵抗効果(TMR効果)を用いて、熱により励起された記録層506−2の磁化運動のノイズスペクトラムを測定することにより行なう。なお、磁化固定層503のCoFeB層511の磁化の向きはTMR効果の感度を高くする目的で、記録層506の磁化の向きと垂直にする(図5では紙面に垂直な方向)ことが望ましい。
【0028】
次に、図5に示す積層構造を用いて磁気共鳴を測定した結果について図6を参照して説明する。
記録層506−1と記録層506−2との磁化の向きを図5に示すように平行に配置した場合は、積層構造500のノイズスペクトラムをスペクトラアナライザで測定すると、図6に示されるようなスペクトラムが観察される。ピーク601の位置から、磁気共鳴周波数が約3.15 GHzであることが分かる。
磁化固定層503のCoFeB層511の磁化は、反強磁性層であるIrMn層508によって固定されているため、熱揺らぎを無視できる。また、記録層506−1と記録層506−2とは、中間層507を介して巨大磁気抵抗効果(GMR効果)素子を形成しているが、TMR効果と比較してGMR効果の抵抗変化は十分小さいため、観察されたピークは記録層506−2の熱揺らぎによる磁気共鳴信号であることが分かる。
【0029】
次に、記録層506−1の磁化を反転させ、記録層506−1と記録層506−2との磁化の向きを反平行に配置した場合、ノイズスペクトラムよって見積もられる記録層506−2の磁気共鳴周波数は約5.5GHzとなる。
記録層506−1と記録層506−2との磁化の向きを平行に配置した場合、記録層506−2に印加される記録層506−1からの漏れ磁界は、記録層506−2の磁化の向きと反平行であるのに対し、記録層506−1と記録層506−2との磁化の向きを反平行に配置した場合、記録層506−2に印加される記録層506−1からの漏れ磁界は、記録層506−2の磁化の向きと平行となる。この漏れ磁界の影響により、Kittel式から理解できるように、磁気媒体の磁気共鳴周波数が変化してしまう。
【0030】
次に、本実施形態に係る磁気媒体100を用いた積層構造について図7を参照して説明する。
図7に示す積層構造700は、作製方法は図5に示した積層構造500と同様であり、構成についても積層構造500と同様の構成であるが、本実施形態に係る磁気媒体100を用いる点が異なる。すなわち図7の例では、反平行結合した第1磁性層103−1および第2磁性層104−1を含む記録層101−1、中間層102、および第1磁性層103−2および第2磁性層104−2を含む記録層101−2が順に積層される場合を想定する。また、第1磁性層103としてCo合金層を、第2磁性層104としてNiFe層をそれぞれ用いる。なお、Co合金層およびNiFe層の厚さはそれぞれ3nmである。
【0031】
図5に示す積層構造500のノイズスペクトラムを測定した手法と同様に、積層構造700のノイズスペクトラムを測定した結果、記録層101−1の磁化が反転するかしないかに関わらず、記録層101−2の磁気共鳴周波数は約4.5GHzのまま保持される。この結果は、反平行結合した第1磁性層103−1および第2磁性層104−1の2層の磁性体による効果により、記録層101−1からの漏れ磁界が低減されたためと考えられる。
【0032】
以上に示した本実施形態に係る磁気媒体によれば、記録層内の第1磁性層と第2磁性層との磁化の向きが互いに反平行結合することで、外部への漏れ磁界が少なくなり、所望の記録層に対して安定した情報の記録および再生を行なうことができる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
100,501・・・磁気媒体、101,506・・・記録層、102,507・・・中間層、103・・・第1磁性層、104・・・第2磁性層、105・・・非磁性層、200・・・多層ディスク、301,401・・・高周波磁界、302・・・書き込み磁界、402・・・再生磁界、500,700・・・積層構造、502・・・絶縁層、503・・・磁化固定層、504−1・・・上部電極、504−2・・・下部電極、505・・・基板、508・・・IrMn層、509・・・CoFe層、510・・・Ru層、511・・・CoFeB層、601・・・ピーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴により、記録層に情報が記録され、該記録層から該情報が読み出される磁気媒体であって、該記録層は、
第1磁性体により形成され、磁化の方向に応じて前記情報が記録される第1磁性層と、
前記第1磁性体と磁気異方性が異なる第2磁性体により形成される第2磁性層と、
前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に積層され、非磁性体で形成される非磁性層と、を具備し、
前記第1磁性層の磁化と前記第2磁性層の磁化とは、前記非磁性層を介した磁気の交換作用により、互いの磁化が反対方向を向いて結合することを示す反平行結合することを特徴とする磁気媒体。
【請求項2】
前記第2磁性層の磁気異方性の度合いは、前記第1磁性層の磁気異方性の度合いよりも小さく、該第2磁性層の保磁力は、前記反平行結合の磁界よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項3】
前記第1磁性層の第1磁気共鳴周波数と前記第2磁性層の第2磁気共鳴周波数とが互いに異なることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気媒体。
【請求項4】
前記第1磁気共鳴周波数と同一の周波数を有する第1高周波磁界と、前記第1磁性層の保磁力よりも小さい磁界である書き込み磁界とが印加されることにより、該第1磁性層に情報が記録されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁気媒体。
【請求項5】
磁性層における磁化の反転が起きない強度の磁界である再生磁界と第2高周波磁界とが磁性層に印加され、該磁性層の磁化の方向と該再生磁界の方向とがなす相対角に応じて変化する磁気共鳴周波数に基づいて、該第1磁性層に記録された情報が再生されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気媒体。
【請求項6】
前記記録層が複数積層されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の磁気媒体。
【請求項7】
複数の前記記録層はそれぞれ、前記第1磁性層の磁気共鳴周波数が異なることを特徴とする請求項6に記載の磁気媒体。
【請求項8】
複数の前記記録層はそれぞれ、前記第2磁性層の磁気共鳴周波数が異なることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の磁気媒体。
【請求項9】
請求項7に記載の磁気媒体に情報を記録し、該磁気媒体から該情報を再生する磁気記録再生方法であって、
前記情報を記録する場合は、複数の記録層のうち、該情報の記録を行なう第1記録層の第1磁性層に、磁気共鳴周波数と同一である第1高周波磁界と該第1記録層の第1磁性層の保磁力よりも小さい磁界である書き込み磁界とを印加して前記情報を記録し、
前記情報を再生する場合は、該情報の再生を行なう第1記録層の第1磁性層に、該第1磁性層と前記第1記録層の第2磁性層との磁化の反転が起きない強度の磁界である再生磁界と第2高周波磁界とを該第1磁性層に印加し、該第1磁性層の磁化の方向と該再生磁界の方向とがなす相対角に応じて変化する磁気共鳴周波数に基づいて、前記情報を再生することを特徴とする磁気記録再生方法。
【請求項10】
請求項8に記載の磁気媒体から情報を再生する磁気記録再生方法であって、
該情報の再生を行なう第1記録層の第2磁性層に、該第2磁性層の磁化の反転が起きない強度の磁界である再生磁界と高周波磁界とを該第2磁性層に印加し、該第2磁性層の磁化の方向と該再生磁界の方向とがなす相対角に応じて変化する磁気共鳴周波数に基づいて、前記情報を再生することを特徴とする磁気記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−69361(P2013−69361A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205777(P2011−205777)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】