磁気検出素子
【課題】 S/N比の良好な磁気検出素子を提供する。
【解決手段】
磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量を非対称にして、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAを多層膜下流部BのΔRAよりも小さくする。これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【解決手段】
磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量を非対称にして、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAを多層膜下流部BのΔRAよりも小さくする。これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜面垂直方向にセンス電流を流すCPP(current perpendicular to the plane)型の磁気検出素子に係り、特に再生ノイズを低減することのできる磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の磁気検出素子を示す断面図である。
このスピンバルブ型磁気検出素子は、下から、反強磁性層2、固定磁性層3、非磁性材料層4、フリー磁性層5、非磁性材料層6、固定磁性層7、反強磁性層8から構成された多層膜9、多層膜9の下と上に形成された電極層1及び電極層10と、フリー磁性層5の両側部に形成されたハードバイアス層11,11及びハードバイアス層11,11の上下に形成された絶縁層12,12並びに絶縁層13,13からなっている。
【0003】
反強磁性層2、8はPtMn、固定磁性層3、7、及びフリー磁性層5はCoFe、非磁性材料層4、6はCu、ハードバイアス層11はCoPtなどの硬磁性材料、絶縁層12、13はアルミナ、電極層1、10はCrなどの導電性材料によって形成されている。
【0004】
図7に示す磁気検出素子は、フリー磁性層5の上下のそれぞれに非磁性材料層4、固定磁性層3、及び非磁性材料層6、固定磁性層7が形成されているデュアルスピンバルブ型磁気検出素子と呼ばれるものであり、ハードディスクなどの記録媒体からの記録磁界を検出するものである。
【0005】
なお、図7に示される磁気検出素子は、多層膜9の各層の膜面と垂直方向に電流が流れるCPP(current perpendicular to the plane)型の磁気検出素子である。
【0006】
固定磁性層3、7の磁化方向は図示Y方向に固定されている。フリー磁性層5の磁化方向は、ハードバイアス層11,11からの縦バイアス磁界によってトラック幅方向(図示X方向)に向けられて単磁区化している。外部磁界が印加されるとフリー磁性層5の磁化が回転し、多層膜9の電気抵抗が変化する。この電気抵抗の変化を電圧変化または電流変化として取り出すことにより外部磁界を検出する。
【0007】
このようなCPP型のデュアルスピンバルブ型素子は、例えば特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2002−157711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のCPP型のデュアルスピンバルブ型素子は、反強磁性層2と反強磁性層8、固定磁性層3と固定磁性層7、非磁性材料層4と非磁性材料層6がそれぞれ同じ材料、同じ膜厚で形成されていた。すなわち、多層膜9はフリー磁性層5の上下で対称的な構成をしていた。
【0009】
近年、膜面垂直方向にセンス電流を流すCPP型の磁気抵抗効果素子において再生出力にスピン伝達トルク(Spin Transfer Torqe;STT)由来のノイズが発生することが見いだされた。
【0010】
スピン伝達トルクとはフリー磁性層、非磁性材料層、及び固定磁性層が積層された多層膜の膜面垂直方向に電流を流すときに、伝導電子のスピン角運動量がフリー磁性層及び固定磁性層を形成する磁性材料のスピン角運動量に伝播して、フリー磁性層のスピン角運動量を揺らがせるトルクである。フリー磁性層のスピン角運動量が揺らぐと再生出力にノイズが重畳し、磁気検出素子のS/N比が低下する。
【0011】
フリー磁性層から固定磁性層に向かう方向に伝導電子が流れるとフリー磁性層の磁化方向を固定磁性層の磁化方向と反平行にするトルクがかかり、固定磁性層からフリー磁性層に向かう方向に伝導電子が流れるとフリー磁性層の磁化方向を固定磁性層の磁化方向と平行にするトルクがかかる。
【0012】
従って、図7に示されるようなデュアルスピンバルブ型磁気検出素子に図示上側から下側に伝導電子が流れるとき、固定磁性層7からフリー磁性層5に向かう伝導電子によってフリー磁性層5にかかるスピン伝達トルクとフリー磁性層5から固定磁性層3に向かう伝導電子によってフリー磁性層5にかかるスピン伝達トルクが相殺しあい、ノイズが低減すると考えられる。
【0013】
しかし、従来のように、多層膜9がフリー磁性層5の上下で対称的な構成をしているCPP型のデュアルスピンバルブ型磁気検出素子では、スピン伝達トルク由来のノイズを十分に低減させることができなかった。
【0014】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、スピン伝達トルク由来のノイズを従来よりも著しく低減させることのできるCPP型の磁気検出素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、フリー磁性層の下に非磁性材料層及び固定磁性層が設けられ、前記フリー磁性層の上に非磁性材料層及び固定磁性層が設けられている多層膜を有し、前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
前記フリー磁性層は、上部フリー磁性層及び下部フリー磁性が直接あるいは他の磁性材料層又は非磁性材料層を介して積層されたものであり、
前記下部フリー磁性層並びにこの下部フリー磁性層より下側の非磁性材料層及び固定磁性層を有する多層膜下部と前記上部フリー磁性層並びにこの上部フリー磁性層より上側の非磁性材料層及び固定磁性層を有する多層膜上部のうち、伝導電子の流れの上流に位置する方を多層膜上流部、伝導電子の流れの下流に位置する方を多層膜下流部としたとき、
前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが前記多層膜下流部のΔRAよりも小さいことを特徴とするものである。
【0016】
フリー磁性層から固定磁性層に向かう方向に伝導電子が流れるときに発生するスピン伝達トルクは、固定磁性層からフリー磁性層に向かう方向に伝導電子が流れるときに発生するスピン伝達トルクよりも小さい。
【0017】
このため、従来のように、多層膜がフリー磁性層の上下で対称的な構成をしているデュアルスピンバルブ型磁気検出素子では、スピン伝達トルクを十分に相殺させることができなかった。
【0018】
本発明では、磁気検出素子の前記多層膜の前記多層膜上流部と前記多層膜下流部を非対称にして、前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAを前記多層膜下流部のΔRAよりも小さくさせている。
【0019】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0020】
スピン伝達トルクが大きくなる条件には、以下に示すものがある。
1.固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値が大きくなること。
【0021】
2.固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値が大きくなること。ただし、βは、ρ↓/ρ↑=(1+β)/(1−β) (−1≦β≦1)の関係式を満たす磁性材料に固有の値である(なお、ρ↓は、伝導電子のうちマイノリティーの伝導電子に対する比抵抗値であり、ρ↑は、伝導電子のうちマジョリティの伝導電子に対する比抵抗値である)。
【0022】
磁性材料を構成する磁性原子は、主に3d軌道または4f軌道の電子の軌道磁気モーメント及びスピン磁気モーメントによって、その磁気モーメントが規定される。磁性原子の3d軌道または4f軌道に存在する電子は、基本的にアップスピンとダウンスピンの数が異なっている。この3d軌道または4f軌道に存在するアップスピンの電子とダウンスピンの電子のうち数が多い方の電子のスピンをマジョリティスピンといい、少ない方の電子のスピンをマイノリティスピンという。
【0023】
一方、磁性材料を流れる電流中には、アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子が含まれている。アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子のうち、磁性材料のマジョリティスピンと同じスピンを有する方をマジョリティの伝導電子といい、磁性材料のマイノリティスピンと同じスピンを有する方をマイノリティの伝導電子という。
【0024】
3.固定磁性層の膜厚が大きくなること。
4.フリー磁性層の分極率Pの絶対値が大きくなること。
5.フリー磁性層のβの絶対値が大きくなること。
6.フリー磁性層と固定磁性層の間に介在する非磁性材料層の膜厚が小さくなること。
7.磁気検出素子の素子面積が小さくなること。
【0025】
従って、以下に示される構成にすると、前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAを前記多層膜下流部のΔRAよりも小さくすることができる。
【0026】
A1.前記多層膜上流部の固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値を、前記多層膜下流部の固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値より小さくする。
【0027】
A2.前記固定磁性層が、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しているときには、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層の分極率Pの絶対値を前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の分極率Pの絶対値よりも小さくする。
【0028】
B1.前記多層膜上流部の前記固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値を、前記多層膜下流部の固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値より小さくする。
【0029】
B2.前記固定磁性層が、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しているときには、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層のβの絶対値が前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層のβの絶対値よりも小さくする。
【0030】
C1.前記多層膜上流部の前記固定磁性層の膜厚を前記多層膜下流部の前記固定磁性層の膜厚より小さくする。
【0031】
C2.前記固定磁性層が、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しているときは、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層の膜厚を前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の膜厚よりも小さくする。
【0032】
D.前記多層膜上流部の素子面積Aを前記多層膜下流部の素子面積Aよりも大きくする。
【0033】
E.前記多層膜上流部の前記非磁性材料層の膜厚を前記多層膜下流部の前記非磁性材料層の膜厚より大きくする。
【0034】
F.前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層の分極率Pの絶対値を、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層の分極率Pの絶対値より小さくする。
【0035】
G.前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層のβの絶対値を、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層のβの絶対値より小さくする。
【0036】
H.前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層の膜厚を、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層の膜厚より小さくする。
【0037】
I.前記フリー磁性層が、第1フリー磁性層、第2フリー磁性層、及び第3フリー磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第1フリー磁性層及び前記第3フリー磁性層が前記非磁性材料層と接しているときは、前記第3フリー磁性層を前記上部フリー磁性層とし、前記第1フリー磁性層を前記下部フリー磁性層とする。
【0038】
なお、前記フリー磁性層は前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層が異なる材料によって形成されることが好ましい。
【0039】
しかし、本発明では、前記フリー磁性層が単一の磁性材料によって形成される単層構造を有していてもよく、この場合には、前記フリー磁性層を膜厚方向に2等分したときの上側半分を前記上部フリー磁性層、下側半分を前記下部フリー磁性層とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明では、磁気検出素子の前記多層膜の前記多層膜上流部と前記多層膜下流部を非対称にして、前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAを前記多層膜下流部のΔRAよりも小さくさせている。
【0041】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1は本発明における第1実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図1に示す磁気検出素子は、いわゆるデュアル型のスピンバルブ型薄膜素子である。
【0043】
第1の電極層20の中央上面には、下から下地層21、シード層22、反強磁性層23、磁性層50と52とその間に形成されたRuなどの非磁性中間層51からなる3層フェリ構造の固定磁性層24、非磁性材料層25及びフリー磁性層26が形成されている。さらにフリー磁性層26の上面に非磁性材料層27、磁性層60と62とその間に形成されたRuなどの非磁性中間層61からなる3層フェリ構造の固定磁性層28、反強磁性層29、及び第2の電極層30が順次積層されている。
【0044】
第1の電極層20は、例えばα−Ta、Au、Cr、Cu(銅)やW(タングステン)などで形成されている。下地層21は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上で形成されることが好ましい。下地層21は50Å以下程度の膜厚で形成される。ただし、この下地層21は形成されていなくても良い。
【0045】
シード層22は、主として面心立方晶から成り、次に説明する反強磁性層23との界面と平行な方向に(111)面が優先配向されている。シード層22は、Cr、NiFe合金、あるいはNi−Fe−Y合金(ただしYは、Cr,Rh,Ta,Hf,Nb,Zr,Tiから選ばれる少なくとも1種以上)で形成されることが好ましい。これらの材質で形成されたシード層22はTa等で形成された下地層21上に形成されることにより反強磁性層23との界面と平行な方向に(111)面が優先配向しやすくなる。シード層22は、例えば30Å程度で形成される。
【0046】
なお本発明における磁気検出素子は各層の膜面と垂直方向にセンス電流が流れるCPP型であるため、シード層22にも適切にセンス電流が流れる必要性がある。よってシード層22は比抵抗の高い材質でないことが好ましい。すなわちCPP型ではシード層22はNiFe合金などの比抵抗の低い材質で形成されることが好ましい。ただし、シード層22は形成されなくても良い。
【0047】
反強磁性層23及び反強磁性層29は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。あるいは反強磁性層23及び反強磁性層29は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnを含有する反強磁性材料により形成されることが好ましい。
【0048】
これらの反強磁性材料は、耐食性に優れしかもブロッキング温度も高く次に説明する固定磁性層24または固定磁性層28との界面で大きな交換異方性磁界を発生し得る。また反強磁性層23及び反強磁性層29は50Å以上で300Å以下,例えば200Åの膜厚で形成されることが好ましい。
【0049】
この実施形態では固定磁性層24及び固定磁性層28は3層のフェリ構造で形成されている。
【0050】
固定磁性層24を構成する符号50及び52の層は磁性層である。磁性層50、52間には非磁性材料によって形成された非磁性中間層51が介在している。同様に、固定磁性層28の磁性層60及び62の間には、非磁性材料によって形成された非磁性中間層51が介在している。固定磁性層24、固定磁性層28の材料については後述する。
【0051】
反強磁性層23と磁性層50の間及び反強磁性層29と磁性層62の間には、交換異方性磁界が発生している。
【0052】
例えば磁性層50の磁化がハイト方向(図示Y方向)に固定された場合、もう一方の磁性層52はRKKY相互作用により、ハイト方向と逆方向に磁化され固定される。また、磁性層62の磁化がハイト方向に固定された場合、もう一方の磁性層60はRKKY相互作用により、ハイト方向と逆方向に磁化され固定される。
【0053】
この構成により固定磁性層24及び固定磁性層28の磁化を安定した状態にでき、また固定磁性層24及び固定磁性層28の磁化方向を強固に固定できる。
【0054】
なお、磁性層50、52及び磁性層60、62の膜厚はそれぞれ10〜70Å程度で形成される。また非磁性中間層51及び非磁性中間層61の膜厚は3Å〜10Å程度で形成される。
【0055】
なお固定磁性層24、固定磁性層28はフェリ構造ではなく単層膜あるいは磁性層のみからなる積層膜で形成されていても良い。
【0056】
また、反強磁性層23、29が存在せず、固定磁性層24、28自体の保磁力で固定磁性層24、28の磁化方向を固定することも可能である。
【0057】
非磁性材料層25及び非磁性材料層27は電気抵抗の低い導電性材料によって形成される。非磁性材料層25及び非磁性材料層27は例えば25Å程度の膜厚で形成される。非磁性材料層25及び非磁性材料層27の材料については後述する。
【0058】
フリー磁性層26は、NiFe合金、CoMnSi合金やCoMnGe合金などからなる単層構造である。ただし、フリー磁性層26がCoFe合金/NiFe合金/CoFe合金の3層積層体などの積層構造を有していてもよい。
【0059】
トラック幅方向(図示X方向)に磁化されているハードバイアス層33,33からの縦バイアス磁界によって、フリー磁性層26の磁化が図示X方向に揃えられている。
【0060】
多層膜T1のトラック幅方向の両側領域の第1の電極層20上には、絶縁層31,31が形成されている。絶縁層31,31は例えばAl2O3、SiO2など一般的な絶縁材料で形成される。
【0061】
絶縁層31,31の上には、バイアス下地層32,32が形成されている。またバイアス下地層32,32の上にはハードバイアス層33,33が形成されている。ハードバイアス層33,33は、フリー磁性層26の両側端面26a,26aに対向する位置に形成される。ハードバイアス層33,33は、トラック幅方向(図示X方向)に磁化されている。
【0062】
バイアス下地層32,32はハードバイアス層33,33の特性(保磁力Hc、角形比S)を向上させるために設けられたものである。
【0063】
本発明では、バイアス下地層32,32は、結晶構造が体心立方構造(bcc構造)の金属膜で形成されることが好ましい。なおこのときバイアス下地層32,32の結晶配向は(110)面が優先配向するのが好ましい。
【0064】
またハードバイアス層33,33は、CoPt合金やCoPtCr合金などで形成される。これら合金の結晶構造は、稠密六方構造(hcp)単相あるいは面心立方構造(fcc)と稠密六方構造(hcp)の混相となっている。
【0065】
また、バイアス下地層32はハードバイアス層33,33の下側にのみ形成されていることが好ましいが、フリー磁性層26の両側端面26a,26aとハードバイアス層33,33間にも若干介在してもよい。フリー磁性層26の両側端面26a,26aとハードバイアス層33,33間に形成されるバイアス下地層32,32のトラック幅方向(図示X方向)における膜厚は1nm以下であることが好ましい。
【0066】
これによりハードバイアス層33,33とフリー磁性層26とを磁気的に連続体にでき、フリー磁性層26の端部が反磁界の影響を受けるバックリング現象などの問題も発生せず、フリー磁性層26の磁区制御を容易にできる。
【0067】
また、絶縁層31,31がフリー磁性層26の両側端面26a,26aとバイアス下地層32,32の間にも存在していると、センス電流がハードバイアス層33,33とバイアス下地層32,32に分流することを防ぐことができるので好ましい。
【0068】
また図1に示すように、ハードバイアス層33,33の上には絶縁層34,34が形成されている。絶縁層34,34は、Al2O3やSiO2などの一般的な絶縁材料で形成される。なおこの実施形態では、絶縁層34,34の上面と反強磁性層29の上面とが連続面となっている。
絶縁層34,34及び反強磁性層29の上には、第2の電極層30が形成されている。
【0069】
この実施形態では、センス電流は第2の電極層30から第1の電極層20に向けて、あるいは、第1の電極層20から第2の電極層30に向けて流れる。すなわち、センス電流は、磁気検出素子の各層を膜面と垂直方向に流れ、このようなセンス電流の流れ方向はCPP型と呼ばれる。
【0070】
固定磁性層28、非磁性材料層27、フリー磁性層26、非磁性材料層25及び固定磁性層24に検出電流(センス電流)が与えられ、走行方向がZ方向であるハードディスクなどの記録媒体からの洩れ磁界がY方向に与えられると、フリー磁性層26の磁化が図示X方向からY方向へ向けて変化する。フリー磁性層26の磁化方向と固定磁性層24の磁性層52の磁化方向の関係、及びフリー磁性層26と固定磁性層28の磁性層60の磁化方向の関係で電気抵抗が変化し(これを磁気抵抗効果という)、この電気抵抗値の変化に基づく電圧変化または電流変化により、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
【0071】
図1に示される磁気検出素子は、下地層21、シード層22、反強磁性層23、固定磁性層24、非磁性材料層25、フリー磁性層26、非磁性材料層27、固定磁性層28、反強磁性層29からなる多層膜T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側端面S1,S1が連続した傾斜面となっている。
【0072】
図1に示された磁気検出素子の特徴部分について説明する。
本実施の形態では、フリー磁性層は単一の磁性材料によって形成される単層構造を有しており、フリー磁性層を膜厚方向に2等分したときの上側半分を上部フリー磁性層26b、下側半分を下部フリー磁性層26cとしている。
【0073】
下部フリー磁性層26c並びにこの下部フリー磁性層26cより下側の非磁性材料層25及び固定磁性層24、反強磁性層23が多層膜下部T1bを構成し、上部フリー磁性層26b並びにこの上部フリー磁性層26bより上側の非磁性材料層27及び固定磁性層28、反強磁性層29が多層膜上部T1bを構成している。
【0074】
センス電流を図示下側から上方向に流すとき、伝導電子は図示上側から下方向に流れるので、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜下部が伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0075】
下側の固定磁性層24の第2固定磁性層52は第1層52a及び第2層52bの積層体であり、第1層52aは第1固定磁性層51とのRKKY的な結合作用を強めるためにCoFe合金を用いて形成されている。第2層52bは分極率P及びβの絶対値が大きいハーフメタル的な合金を用いる。
【0076】
上側の固定磁性層28の第2固定磁性層60は第1層60a及び第2層60bの積層体であり、第1層60aは第1固定磁性層62とのRKKY的な結合作用を強めるためにCoFe合金を用いて形成されている。第2層60bは分極率P及びβの絶対値が大きいハーフメタル的な合金を用いる。
【0077】
分極率Pとは磁性材料からなる層の中に存在するアップスピンの伝導電子の数(存在確率)とダウンスピンの伝導電子の数(存在確率)の比である。
【0078】
ここで、βは、ρ↓/ρ↑=(1+β)/(1−β) (−1≦β≦1)の関係式を満たす磁性材料に固有の値である(なお、ρ↓は、伝導電子のうちマイノリティーの伝導電子に対する比抵抗値であり、ρ↑は、伝導電子のうちマジョリティの伝導電子に対する比抵抗値である)。
【0079】
磁性材料を構成する磁性原子は、主に3d軌道または4f軌道の電子の軌道磁気モーメント及びスピン磁気モーメントによって、その磁気モーメントが規定される。磁性原子の3d軌道または4f軌道に存在する電子は、基本的にアップスピンとダウンスピンの数が異なっている。この3d軌道または4f軌道に存在するアップスピンの電子とダウンスピンの電子のうち数が多い方の電子のスピンをマジョリティスピンといい、少ない方の電子のスピンをマイノリティスピンという。
【0080】
一方、磁性材料を流れる電流中には、アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子が含まれている。アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子のうち、磁性材料のマジョリティスピンと同じスピンを有する方をマジョリティの伝導電子といい、磁性材料のマイノリティスピンと同じスピンを有する方をマイノリティの伝導電子という。
【0081】
「ハーフメタル(Half-metal)的」とは、片方のスピンの伝導電子に対して金属的な振る舞いをし、他方のスピンの伝導電子に対して絶縁体的な振る舞いをする磁性体のことをいう。
【0082】
ハーフメタル的な合金の具体例としてホイスラー合金がある。前記ホイスラー合金の具体例を以下に示す。
【0083】
1.組成式がX2YZまたはXYZで表されるホイスラー型結晶構造を有する金属化合物、
ただし前記XはCu、Co、Ni、Rh、Pt、Au、Pd、Ir、Ru、Ag、Zn、Cd、Feのうち1種または2種以上の元素であり、前記YはMn、Fe、Ti、V、Zr、Nb、Hf、Ta、Cr、Co、Niのうち1種または2種以上の元素であり、前記ZはAl、Sn、In、Sb、Ga、Si、Ge、Pb、Znのうち1種または2種以上の元素である。
【0084】
2.組成式がCo2YZで表されるホイスラー型結晶構造を有する金属化合物、
ただし、前記YはMn、Fe、Crのうち1種または2種以上の元素であり、前記ZはAl、Ga、Si、Geのうち1種または2種以上の元素である。
【0085】
3.組成式がCo2MnZで表される金属化合物、
ただし前記ZはSi又はGeである。
【0086】
図1では、多層膜上流部Aの第2固定磁性層60の分極率Pの絶対値を多層膜下流部Bの第2固定磁性層52の分極率Pの絶対値よりも小さくしている。このために、例えば第2固定磁性層60の第2層60bをCoMnSi合金で形成し、第2固定磁性層52の第2層52bをCoMnGe合金で形成する。
【0087】
このとき、前記多層膜上流部Aの第2固定磁性層60のβの絶対値は前記多層膜下流部Bの第2固定磁性層52のβの絶対値よりも小さくなっている。
【0088】
前述したように、固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値が大きくなるか、固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値が大きくなると、固定磁性層のスピンバルク依存散乱量が大きくなる。
【0089】
従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0090】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比が向上する。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。
【0091】
本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0092】
本実施の形態では、第2固定磁性層52及び第2固定磁性層60の両方をホイスラー合金からなる第2層及びCoFe合金からなる第1層の積層体とした。しかし、多層膜下流部Bの第2固定磁性層52のみホイスラー合金からなる第2層52bを有し、多層膜上流部Aの第2固定磁性層60はCoFeからなる第1層60bのみの構成としてもよい。
【0093】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0094】
このときには、第2固定磁性層52の分極率Pの絶対値を第2固定磁性層60の分極率Pの絶対値よりも小さくさせる。このために、例えば第2固定磁性層52の第2層52bをCoMnSi合金で形成し、第2固定磁性層60の第2層60bをCoMnGe合金で形成し、第2固定磁性層52の分極率P及びβの絶対値を第2固定磁性層60の分極率P及びβの絶対値よりも小さくする。
【0095】
図2は本発明における第2の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0096】
本実施の形態の磁気検出素子は、固定磁性層24と固定磁性層28が同じ材料を用いて形成されており、固定磁性層28の第2固定磁性層60の膜厚t6が固定磁性層24の第2固定磁性層52の膜厚t5よりも小さく形成されている点でのみ図1に示された磁気検出素子と異なっている。
【0097】
上側の固定磁性層28の第2固定磁性層60は第1層60a及び第2層60bの積層体であり、第1層60aは第1固定磁性層62とのRKKY的な結合作用を強めるためにCoFe合金を用いて形成されている。第2層60bは分極率P及びβの絶対値が大きいハーフメタル合金を用いる。同様に、下側の固定磁性層24の第2固定磁性層52も第1層52a及び第2層52bの積層体であり、第1層52aは第1固定磁性層51とのRKKY的な結合作用を強めるためにCoFe合金を用いて形成されている。第2層52bは分極率P及びβの絶対値が大きいハーフメタル合金を用いる。
【0098】
第2固定磁性層60の第2層60bと第2固定磁性層52の第2層52bは同じハーフメタル合金、例えばCoMnGe合金を用いて形成される。あるいは、ハーフメタルでないCoFeやNiFeなどの磁性合金を用いて形成してもよい。
【0099】
本実施の形態では、第2固定磁性層60の第1層60aの膜厚と第2固定磁性層52の第1層52aの膜厚は両方とも10Åである。
【0100】
異なっているのは第2層60bと第2層52bの膜厚であり、例えば、第2層60bの膜厚が20Å、第2層52bの膜厚が50Åである。
【0101】
なお、非磁性材料層25の膜厚t3と非磁性材料層27の膜厚t4は等しく、フリー磁性層26の上部フリー磁性層26bの膜厚t1と下部フリー磁性層26cの膜厚t2も等しい。
【0102】
センス電流を図示下側から上方向に流すとき、伝導電子は図示上側から下方向に流れるので、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜下部が伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0103】
前述したように、固定磁性層の膜厚が大きくなるとスピン依存バルク散乱量が大きくなる。従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0104】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0105】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0106】
このときには、第2固定磁性層52の膜厚t5を第2固定磁性層60の膜厚t6よりも小さくする。
【0107】
図3は本発明における第2の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0108】
本実施の形態の磁気検出素子は、固定磁性層28の第2固定磁性層60と固定磁性層24の第2固定磁性層52が単層になっており、しかも第2固定磁性層60と第2固定磁性層52が同じ材料で形成されている点、及び上側の非磁性材料層27の膜厚t4が下側の非磁性材料層25の膜厚t3よりも大きく形成されている点でのみ図1に示された磁気検出素子と異なっている。
【0109】
第2固定磁性層60と第2固定磁性層52は同じハーフメタル合金、例えばCoMnGe合金を用いて形成される。あるいは、ハーフメタルでないCoFeやNiFeなどの磁性合金を用いて形成してもよい。
【0110】
本実施の形態では、例えば、上側の非磁性材料層27の膜厚t4は90Åであり、下側の非磁性材料層25の膜厚t3は50Åである。
【0111】
なお、第2固定磁性層52の膜厚t5と第2固定磁性層60の膜厚t6は等しく、フリー磁性層26の上部フリー磁性層26bの膜厚t1と下部フリー磁性層26cの膜厚t2も等しい。
【0112】
センス電流を図示下側から上方向に流すとき、伝導電子は図示上側から下方向に流れるので、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜下部が伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0113】
本実施の形態でも、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0114】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0115】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0116】
このときには、非磁性材料層25の膜厚t3を非磁性材料層27の膜厚t4より大きくする。
【0117】
図4は本発明における第4の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0118】
本実施の形態は、フリー磁性層26の上部フリー磁性層55と下部フリー磁性層54が異なる磁性材料によって形成されている点、及び固定磁性層28の第2固定磁性層60と固定磁性層24の第2固定磁性層52が単層になっており、しかも第2固定磁性層60と第2固定磁性層52が同じ材料で形成されている点で、図1に示された磁気検出素子と異なっている。
【0119】
図4では、多層膜上流部Aに属する上部フリー磁性層55の分極率Pの絶対値を多層膜下流部Bに属する下部フリー磁性層54の分極率Pの絶対値よりも小さくする。このために、例えば上部フリー磁性層55をCoMnSi合金で形成し、下部フリー磁性層54をCoMnGe合金で形成する。
【0120】
このとき、上部フリー磁性層55のβの絶対値は下部フリー磁性層54のβの絶対値よりも小さくなっている。
【0121】
前述したように、フリー磁性層の分極率Pの絶対値が大きくなるか、フリー磁性層のβの絶対値が大きくなると、フリー磁性層のスピンバルク依存散乱量が大きくなる。
【0122】
従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0123】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0124】
本実施の形態では、下部フリー磁性層54及び上部フリー磁性層55の両方をホイスラー合金を用いて形成した。しかし、多層膜下流部Bの下部フリー磁性層54のみホイスラー合金を用いて形成し、多層膜上流部Aの上部フリー磁性層55はCoFeやNiFeなどからなる構成としてもよい。
【0125】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0126】
このときには、下部フリー磁性層54の分極率Pの絶対値を上部フリー磁性層55の分極率Pの絶対値よりも小さくさせる。このために、例えば下部フリー磁性層54をCoMnSi合金で形成し、上部フリー磁性層55をCoMnGe合金で形成し、下部フリー磁性層54の分極率P及びβの絶対値を上部フリー磁性層55の分極率P及びβの絶対値よりも小さくする。
【0127】
本実施の形態では、第2固定磁性層52の膜厚t5と第2固定磁性層60の膜厚t6は等しく、上側の非磁性材料層27の膜厚t4と下側の非磁性材料層25の膜厚t3も等しくなっている。
【0128】
フリー磁性層26の上部フリー磁性層55の膜厚t1と下部フリー磁性層54の膜厚t2は等しくてもよい。ただし、多層膜上流部Aを構成する上部フリー磁性層55の膜厚t1が多層膜下流部Bを構成する下部フリー磁性層54の膜厚t2より小さいと、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAと多層膜下流部BのΔRAの差をより大きくできるので好ましい。
【0129】
なお、フリー磁性層26を異なる磁性材料からなる層を3層以上積層した構造にするときには、最上層を上部フリー磁性層とし最下層を下部フリー磁性層とする。
【0130】
例えば図5に示されるような3層構造のフリー磁性層26の場合、下から下部フリー磁性層54、中間フリー磁性層56、上部フリー磁性層55が積層されている。
【0131】
図5に示される磁気検出素子でも、多層膜上流部Aの上部フリー磁性層55の分極率Pの絶対値を多層膜下流部Bの下部フリー磁性層54の分極率Pの絶対値よりも小さくする。このために、例えば上部フリー磁性層55をCoMnSi合金で形成し、下部フリー磁性層54をCoMnGe合金で形成する。中間フリー磁性層56はホイスラー合金やCoFe、NiFeを用いて形成する。
【0132】
このとき上部フリー磁性層55のβの絶対値は下部フリー磁性層54のβの絶対値よりも小さくなっている。
【0133】
前述したように、フリー磁性層の分極率Pの絶対値が大きくなるか、フリー磁性層のβの絶対値が大きくなると、フリー磁性層のスピンバルク依存散乱量が大きくなる。
【0134】
従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0135】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0136】
また、多層膜上流部Aを構成する上部フリー磁性層55の膜厚t1が多層膜下流部Bを構成する下部フリー磁性層54の膜厚t2より小さいと、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAと多層膜下流部BのΔRAの差をより大きくできるので好ましい。
【0137】
図6は本発明における第6の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0138】
図6に示される磁気検出素子は、フリー磁性層84が、第1フリー磁性層85、非磁性中間層86、第2フリー磁性層87、非磁性中間層88、第3フリー磁性層89からなる人工フェリ構造を有している点で図5に示された磁気検出素子と異なっている。第1フリー磁性層85と第2フリー磁性層87の磁化方向は、非磁性中間層86を介したRKKY相互作用によって互いに反平行方向になっている。同様に、第2フリー磁性層87と第3フリー磁性層89の磁化方向も、非磁性中間層88を介したRKKY相互作用によって互いに反平行方向になっている。
【0139】
本実施の形態では、第3フリー磁性層89が本発明の上部フリー磁性層であり、第1フリー磁性層85が本発明の下部フリー磁性層である。
【0140】
すなわち、多層膜上流部Aに属する第3フリー磁性層89の分極率Pの絶対値を多層膜下流部Bに属する第1フリー磁性層85の分極率Pの絶対値よりも小さくする。このために、例えば第3フリー磁性層89をCoMnSi合金で形成し、第1フリー磁性層85をCoMnGe合金で形成する。
【0141】
このとき、第3フリー磁性層89のβの絶対値は第1フリー磁性層85のβの絶対値よりも小さくなっている。
【0142】
前述したように、フリー磁性層の分極率Pの絶対値が大きくなるか、フリー磁性層のβの絶対値が大きくなると、フリー磁性層のスピンバルク依存散乱量が大きくなる。
【0143】
従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0144】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比が向上する。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。
【0145】
本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0146】
本実施の形態では、第1フリー磁性層85及び第3フリー磁性層89の両方をホイスラー合金を用いて形成した。しかし、多層膜下流部Bの第1フリー磁性層85のみホイスラー合金を用いて形成し、多層膜上流部Aの第3フリー磁性層89はCoFeやNiFeなどからなる構成としてもよい。
【0147】
本実施の形態では、第2固定磁性層52の膜厚t5と第2固定磁性層60の膜厚t6は等しく、上側の非磁性材料層27の膜厚t4と下側の非磁性材料層25の膜厚t3も等しくなっている。
【0148】
フリー磁性層26の第3フリー磁性層89の膜厚t11と第1フリー磁性層85の膜厚t10は等しくてもよい。ただし、多層膜上流部Aを構成する第3フリー磁性層89の膜厚t11が多層膜下流部Bを構成する第1フリー磁性層85の膜厚t10より小さいと、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAと多層膜下流部BのΔRAの差をより大きくできるので好ましい。
【0149】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0150】
このときには、第1フリー磁性層85の分極率Pの絶対値を第3フリー磁性層89の分極率Pの絶対値よりも小さくする。このために、例えば第1フリー磁性層85をCoMnSi合金で形成し、第3フリー磁性層89をCoMnGe合金で形成し、第1フリー磁性層85の分極率P及びβの絶対値を第3フリー磁性層89の分極率P及びβの絶対値よりも小さくする。
【0151】
また、多層膜上流部の素子面積を多層膜下流部の素子面積より大きくすることによって磁気検出素子の多層膜の多層膜上流部と多層膜下流部のスピンバルク依存散乱量を非対称にすることもできる。たとえば図1ないし図6に示される磁気検出素子の多層膜の側面は傾斜面になっているので、多層膜下部の素子面積は多層膜上部の素子面積よりも大きくなっている。このとき、多層膜下部T1bを多層膜上流部とし、多層膜上部T1aを多層膜下流部とすると、多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなり、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができる。
【0152】
上述した実施の形態では、フリー磁性層の上下で固定磁性層の材料を異ならせる構成、固定磁性層の膜厚を異ならせる構成、非磁性材料層の膜厚を異ならせる構成、上部フリー磁性層と下部フリー磁性層の材料を異ならせる構成をそれぞれ独立した実施の形態の磁気検出素子の中で説明したが、これらの構成の任意の組み合わせをひとつの磁気検出素子の中で実現してもよい。
【実施例1】
【0153】
以下に示す膜構成のCPP−GMR型磁気検出素子を形成し、フリー磁性層の上側の第2固定磁性層の材料と下側の第2固定磁性層の材料を異ならせたときの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAの変化を調べた。
【0154】
下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(40Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/フリー磁性層(下部フリー磁性層/上部フリー磁性層)/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/保護層Ta(30Å)
なお括弧内の数値は膜厚を表している。
結果を表1に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
比較例1ではフリー磁性層の下側のCoFe層が本発明の下部フリー磁性層であり、上側のCoFe層が本発明の上部フリー磁性層である。比較例1以外の磁気検出素子では、フリー磁性層が単層のCoMnSi層であり、このCoMnSi層を2等分した下側半分を本発明の下部フリー磁性層とし、上側半分を本発明の上部フリー磁性層とする。
【0157】
上記した膜構成において、反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/下部フリー磁性層が本発明の多層膜下部であり、上部フリー磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)が多層膜上部である。
【0158】
なお、実施例1、実施例3では多層膜の下側から上側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は上から下に流れる。従って、実施例1及び実施例3では多層膜上部が多層膜上流部であり、多層膜下部が多層膜下流部である。一方、実施例2、実施例4では多層膜の上側から下側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は下から上に流れる。従って、実施例2及び実施例4では多層膜下部が多層膜上流部であり、多層膜上部が多層膜下流部である。
【0159】
各実施例では、表1に示されるようにフリー磁性層の上側の第2固定磁性層の材料と下側の第2固定磁性層の材料が選択されることによって、多層膜上流部の前記第2固定磁性層の分極率P及びβの絶対値が、前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の分極率P及びβの絶対値よりも小さくなっている。
【0160】
この結果、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなっていることがわかる。
【実施例2】
【0161】
以下に示す膜構成のCPP−GMR型磁気検出素子を形成し、フリー磁性層の上側の第2固定磁性層の膜厚と下側の第2固定磁性層の膜厚を異ならせたときの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAの変化を調べた。
【0162】
下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(40Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層(CoFe/CoMnGe)/非磁性材料層Cu(30Å)/フリー磁性層CoMnSi(下部フリー磁性層/上部フリー磁性層)/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層(CoMnGe/CoFe)/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/保護層Ta(30Å)
なお括弧内の数値は膜厚を表している。また、フリー磁性層は単層のCoMnSi層であり、このCoMnSi層を2等分した下側半分を本発明の下部フリー磁性層とし、上側半分を本発明の上部フリー磁性層とする。
結果を表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
上記した膜構成において、反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/下部フリー磁性層が本発明の多層膜下部であり、上部フリー磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)が多層膜上部である。
【0165】
なお、実施例6、実施例7では多層膜の下側から上側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は上から下に流れる。従って、実施例6及び実施例7では多層膜上部が多層膜上流部であり、多層膜下部が多層膜下流部である。一方、実施例5では多層膜の上側から下側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は下から上に流れる。従って、実施例5では多層膜下部が多層膜上流部であり、多層膜上部が多層膜下流部である。
【0166】
各実施例の結果から、多層膜上流部の第2固定磁性層の膜厚を多層膜下流部の第2固定磁性層の膜厚よりも薄くすることにより、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなることがわかる。
【実施例3】
【0167】
以下に示す膜構成のCPP−GMR型磁気検出素子を形成し、上部フリー磁性層の材料と下部フリー磁性層の材料を異ならせたときの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAの変化を調べた。
【0168】
下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(40Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/フリー磁性層(下部フリー磁性層//上部フリー磁性層)/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/保護層Ta(30Å)
なお括弧内の数値は膜厚を表している。
結果を表3に示す。
【0169】
【表3】
【0170】
実施例8ないし11の磁気検出素子は、フリー磁性層が3層構造である。実施例8、9ではCoMnGe層が下部フリー磁性層、CoFe層が上部フリー磁性層であり、実施例10、11ではCoFe層が下部フリー磁性層、CoMnGe層が上部フリー磁性層である。
【0171】
実施例12ないし14では、フリー磁性層が2層構造である。実施例12、14ではCoMnGe層が下部フリー磁性層、CoMnSi層が上部フリー磁性層であり、実施例13ではCoMnSi層が下部フリー磁性層、CoMnGe層が上部フリー磁性層である。なお、実施例14では上側の第2固定磁性層の材料と下側の第2固定磁性層の材料を異ならせて、多層膜上流部の前記第2固定磁性層の分極率P及びβの絶対値を、前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の分極率P及びβの絶対値よりも小さくさせている。
【0172】
上記した膜構成において、反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/下部フリー磁性層が本発明の多層膜下部であり、上部フリー磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)が多層膜上部である。
【0173】
なお、実施例8、9、12、14では多層膜の下側から上側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は上から下に流れる。従って、実施例8、9、12、14では多層膜上部が多層膜上流部であり、多層膜下部が多層膜下流部である。一方、実施例10、11、13では多層膜の上側から下側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は下から上に流れる。従って、実施例10、11、13では多層膜下部が多層膜上流部であり、多層膜上部が多層膜下流部である。
【0174】
表3に示されるように多層膜上流部に属するフリー磁性層の材料と多層膜下流部に属するフリー磁性層の材料が選択されることによって、上部フリー磁性層の分極率P及びβの絶対値が、下部フリー磁性層の分極率P及びβの絶対値よりも小さくなっている。
【0175】
この結果、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなっていることがわかる。
【実施例4】
【0176】
以下に示す膜構成のCPP−GMR型磁気検出素子を形成し、フリー磁性層の上側の非磁性材料層の膜厚と下側の非磁性材料層の膜厚を異ならせたときの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAの変化を調べた。
【0177】
下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(40Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層(CoFe(10Å)/CoMnGe(40Å))/非磁性材料層Cu/フリー磁性層(CoMnGe(80Å)(下部フリー磁性層(40Å)/上部フリー磁性層(40Å))/非磁性材料層Cu/第2固定磁性層(CoMnGe(40Å)/CoFe(10Å))/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/保護層Ta(30Å)
なお括弧内の数値は膜厚を表している。また、フリー磁性層は単層のCoMnGe層であり、このCoMnGe層を2等分した下側半分を本発明の下部フリー磁性層とし、上側半分を本発明の上部フリー磁性層とする。
結果を表4に示す。
【0178】
【表4】
【0179】
上記した膜構成において、反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層(CoFe(10Å)/CoMnGe(40Å))/非磁性材料層Cu/下部フリー磁性層が本発明の多層膜下部であり、上部フリー磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層(CoMnGe(40Å)/CoFe(10Å))/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)が多層膜上部である。
【0180】
なお、実施例15、実施例16では多層膜の下側から上側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は上から下に流れる。従って、実施例15及び実施例16では多層膜上部が多層膜上流部であり、多層膜下部が多層膜下流部である。一方、実施例17では多層膜の上側から下側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は下から上に流れる。従って、実施例17では多層膜下部が多層膜上流部であり、多層膜上部が多層膜下流部である。
【0181】
各実施例の結果から、多層膜上流部の非磁性材料層の膜厚を多層膜下流部の非磁性材料層の膜厚よりも厚くすることにより、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】本発明における第1の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図2】本発明における第2の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図3】本発明における第3の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図4】本発明における第4の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図5】本発明における第5の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図6】本発明における第6の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図7】従来の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【符号の説明】
【0183】
20 第1の電極層
21 下地層
22 シード層
23、29 反強磁性層
24、28 固定磁性層
25、27 非磁性材料層
26、84 フリー磁性層
30 第2の電極層
31、34 絶縁層
32 バイアス下地層
33 ハードバイアス層
53 磁性層
54 非磁性中間層
55 磁性層
【技術分野】
【0001】
本発明は膜面垂直方向にセンス電流を流すCPP(current perpendicular to the plane)型の磁気検出素子に係り、特に再生ノイズを低減することのできる磁気検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の磁気検出素子を示す断面図である。
このスピンバルブ型磁気検出素子は、下から、反強磁性層2、固定磁性層3、非磁性材料層4、フリー磁性層5、非磁性材料層6、固定磁性層7、反強磁性層8から構成された多層膜9、多層膜9の下と上に形成された電極層1及び電極層10と、フリー磁性層5の両側部に形成されたハードバイアス層11,11及びハードバイアス層11,11の上下に形成された絶縁層12,12並びに絶縁層13,13からなっている。
【0003】
反強磁性層2、8はPtMn、固定磁性層3、7、及びフリー磁性層5はCoFe、非磁性材料層4、6はCu、ハードバイアス層11はCoPtなどの硬磁性材料、絶縁層12、13はアルミナ、電極層1、10はCrなどの導電性材料によって形成されている。
【0004】
図7に示す磁気検出素子は、フリー磁性層5の上下のそれぞれに非磁性材料層4、固定磁性層3、及び非磁性材料層6、固定磁性層7が形成されているデュアルスピンバルブ型磁気検出素子と呼ばれるものであり、ハードディスクなどの記録媒体からの記録磁界を検出するものである。
【0005】
なお、図7に示される磁気検出素子は、多層膜9の各層の膜面と垂直方向に電流が流れるCPP(current perpendicular to the plane)型の磁気検出素子である。
【0006】
固定磁性層3、7の磁化方向は図示Y方向に固定されている。フリー磁性層5の磁化方向は、ハードバイアス層11,11からの縦バイアス磁界によってトラック幅方向(図示X方向)に向けられて単磁区化している。外部磁界が印加されるとフリー磁性層5の磁化が回転し、多層膜9の電気抵抗が変化する。この電気抵抗の変化を電圧変化または電流変化として取り出すことにより外部磁界を検出する。
【0007】
このようなCPP型のデュアルスピンバルブ型素子は、例えば特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2002−157711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のCPP型のデュアルスピンバルブ型素子は、反強磁性層2と反強磁性層8、固定磁性層3と固定磁性層7、非磁性材料層4と非磁性材料層6がそれぞれ同じ材料、同じ膜厚で形成されていた。すなわち、多層膜9はフリー磁性層5の上下で対称的な構成をしていた。
【0009】
近年、膜面垂直方向にセンス電流を流すCPP型の磁気抵抗効果素子において再生出力にスピン伝達トルク(Spin Transfer Torqe;STT)由来のノイズが発生することが見いだされた。
【0010】
スピン伝達トルクとはフリー磁性層、非磁性材料層、及び固定磁性層が積層された多層膜の膜面垂直方向に電流を流すときに、伝導電子のスピン角運動量がフリー磁性層及び固定磁性層を形成する磁性材料のスピン角運動量に伝播して、フリー磁性層のスピン角運動量を揺らがせるトルクである。フリー磁性層のスピン角運動量が揺らぐと再生出力にノイズが重畳し、磁気検出素子のS/N比が低下する。
【0011】
フリー磁性層から固定磁性層に向かう方向に伝導電子が流れるとフリー磁性層の磁化方向を固定磁性層の磁化方向と反平行にするトルクがかかり、固定磁性層からフリー磁性層に向かう方向に伝導電子が流れるとフリー磁性層の磁化方向を固定磁性層の磁化方向と平行にするトルクがかかる。
【0012】
従って、図7に示されるようなデュアルスピンバルブ型磁気検出素子に図示上側から下側に伝導電子が流れるとき、固定磁性層7からフリー磁性層5に向かう伝導電子によってフリー磁性層5にかかるスピン伝達トルクとフリー磁性層5から固定磁性層3に向かう伝導電子によってフリー磁性層5にかかるスピン伝達トルクが相殺しあい、ノイズが低減すると考えられる。
【0013】
しかし、従来のように、多層膜9がフリー磁性層5の上下で対称的な構成をしているCPP型のデュアルスピンバルブ型磁気検出素子では、スピン伝達トルク由来のノイズを十分に低減させることができなかった。
【0014】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、スピン伝達トルク由来のノイズを従来よりも著しく低減させることのできるCPP型の磁気検出素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、フリー磁性層の下に非磁性材料層及び固定磁性層が設けられ、前記フリー磁性層の上に非磁性材料層及び固定磁性層が設けられている多層膜を有し、前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
前記フリー磁性層は、上部フリー磁性層及び下部フリー磁性が直接あるいは他の磁性材料層又は非磁性材料層を介して積層されたものであり、
前記下部フリー磁性層並びにこの下部フリー磁性層より下側の非磁性材料層及び固定磁性層を有する多層膜下部と前記上部フリー磁性層並びにこの上部フリー磁性層より上側の非磁性材料層及び固定磁性層を有する多層膜上部のうち、伝導電子の流れの上流に位置する方を多層膜上流部、伝導電子の流れの下流に位置する方を多層膜下流部としたとき、
前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが前記多層膜下流部のΔRAよりも小さいことを特徴とするものである。
【0016】
フリー磁性層から固定磁性層に向かう方向に伝導電子が流れるときに発生するスピン伝達トルクは、固定磁性層からフリー磁性層に向かう方向に伝導電子が流れるときに発生するスピン伝達トルクよりも小さい。
【0017】
このため、従来のように、多層膜がフリー磁性層の上下で対称的な構成をしているデュアルスピンバルブ型磁気検出素子では、スピン伝達トルクを十分に相殺させることができなかった。
【0018】
本発明では、磁気検出素子の前記多層膜の前記多層膜上流部と前記多層膜下流部を非対称にして、前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAを前記多層膜下流部のΔRAよりも小さくさせている。
【0019】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0020】
スピン伝達トルクが大きくなる条件には、以下に示すものがある。
1.固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値が大きくなること。
【0021】
2.固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値が大きくなること。ただし、βは、ρ↓/ρ↑=(1+β)/(1−β) (−1≦β≦1)の関係式を満たす磁性材料に固有の値である(なお、ρ↓は、伝導電子のうちマイノリティーの伝導電子に対する比抵抗値であり、ρ↑は、伝導電子のうちマジョリティの伝導電子に対する比抵抗値である)。
【0022】
磁性材料を構成する磁性原子は、主に3d軌道または4f軌道の電子の軌道磁気モーメント及びスピン磁気モーメントによって、その磁気モーメントが規定される。磁性原子の3d軌道または4f軌道に存在する電子は、基本的にアップスピンとダウンスピンの数が異なっている。この3d軌道または4f軌道に存在するアップスピンの電子とダウンスピンの電子のうち数が多い方の電子のスピンをマジョリティスピンといい、少ない方の電子のスピンをマイノリティスピンという。
【0023】
一方、磁性材料を流れる電流中には、アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子が含まれている。アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子のうち、磁性材料のマジョリティスピンと同じスピンを有する方をマジョリティの伝導電子といい、磁性材料のマイノリティスピンと同じスピンを有する方をマイノリティの伝導電子という。
【0024】
3.固定磁性層の膜厚が大きくなること。
4.フリー磁性層の分極率Pの絶対値が大きくなること。
5.フリー磁性層のβの絶対値が大きくなること。
6.フリー磁性層と固定磁性層の間に介在する非磁性材料層の膜厚が小さくなること。
7.磁気検出素子の素子面積が小さくなること。
【0025】
従って、以下に示される構成にすると、前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAを前記多層膜下流部のΔRAよりも小さくすることができる。
【0026】
A1.前記多層膜上流部の固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値を、前記多層膜下流部の固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値より小さくする。
【0027】
A2.前記固定磁性層が、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しているときには、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層の分極率Pの絶対値を前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の分極率Pの絶対値よりも小さくする。
【0028】
B1.前記多層膜上流部の前記固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値を、前記多層膜下流部の固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値より小さくする。
【0029】
B2.前記固定磁性層が、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しているときには、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層のβの絶対値が前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層のβの絶対値よりも小さくする。
【0030】
C1.前記多層膜上流部の前記固定磁性層の膜厚を前記多層膜下流部の前記固定磁性層の膜厚より小さくする。
【0031】
C2.前記固定磁性層が、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しているときは、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層の膜厚を前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の膜厚よりも小さくする。
【0032】
D.前記多層膜上流部の素子面積Aを前記多層膜下流部の素子面積Aよりも大きくする。
【0033】
E.前記多層膜上流部の前記非磁性材料層の膜厚を前記多層膜下流部の前記非磁性材料層の膜厚より大きくする。
【0034】
F.前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層の分極率Pの絶対値を、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層の分極率Pの絶対値より小さくする。
【0035】
G.前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層のβの絶対値を、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層のβの絶対値より小さくする。
【0036】
H.前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層の膜厚を、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層の膜厚より小さくする。
【0037】
I.前記フリー磁性層が、第1フリー磁性層、第2フリー磁性層、及び第3フリー磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第1フリー磁性層及び前記第3フリー磁性層が前記非磁性材料層と接しているときは、前記第3フリー磁性層を前記上部フリー磁性層とし、前記第1フリー磁性層を前記下部フリー磁性層とする。
【0038】
なお、前記フリー磁性層は前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層が異なる材料によって形成されることが好ましい。
【0039】
しかし、本発明では、前記フリー磁性層が単一の磁性材料によって形成される単層構造を有していてもよく、この場合には、前記フリー磁性層を膜厚方向に2等分したときの上側半分を前記上部フリー磁性層、下側半分を前記下部フリー磁性層とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明では、磁気検出素子の前記多層膜の前記多層膜上流部と前記多層膜下流部を非対称にして、前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAを前記多層膜下流部のΔRAよりも小さくさせている。
【0041】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1は本発明における第1実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
図1に示す磁気検出素子は、いわゆるデュアル型のスピンバルブ型薄膜素子である。
【0043】
第1の電極層20の中央上面には、下から下地層21、シード層22、反強磁性層23、磁性層50と52とその間に形成されたRuなどの非磁性中間層51からなる3層フェリ構造の固定磁性層24、非磁性材料層25及びフリー磁性層26が形成されている。さらにフリー磁性層26の上面に非磁性材料層27、磁性層60と62とその間に形成されたRuなどの非磁性中間層61からなる3層フェリ構造の固定磁性層28、反強磁性層29、及び第2の電極層30が順次積層されている。
【0044】
第1の電極層20は、例えばα−Ta、Au、Cr、Cu(銅)やW(タングステン)などで形成されている。下地層21は、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1種以上で形成されることが好ましい。下地層21は50Å以下程度の膜厚で形成される。ただし、この下地層21は形成されていなくても良い。
【0045】
シード層22は、主として面心立方晶から成り、次に説明する反強磁性層23との界面と平行な方向に(111)面が優先配向されている。シード層22は、Cr、NiFe合金、あるいはNi−Fe−Y合金(ただしYは、Cr,Rh,Ta,Hf,Nb,Zr,Tiから選ばれる少なくとも1種以上)で形成されることが好ましい。これらの材質で形成されたシード層22はTa等で形成された下地層21上に形成されることにより反強磁性層23との界面と平行な方向に(111)面が優先配向しやすくなる。シード層22は、例えば30Å程度で形成される。
【0046】
なお本発明における磁気検出素子は各層の膜面と垂直方向にセンス電流が流れるCPP型であるため、シード層22にも適切にセンス電流が流れる必要性がある。よってシード層22は比抵抗の高い材質でないことが好ましい。すなわちCPP型ではシード層22はNiFe合金などの比抵抗の低い材質で形成されることが好ましい。ただし、シード層22は形成されなくても良い。
【0047】
反強磁性層23及び反強磁性層29は、元素X(ただしXは、Pt,Pd,Ir,Rh,Ru,Osのうち1種または2種以上の元素である)とMnとを含有する反強磁性材料で形成されることが好ましい。あるいは反強磁性層23及び反強磁性層29は、元素Xと元素X′(ただし元素X′は、Ne,Ar,Kr,Xe,Be,B,C,N,Mg,Al,Si,P,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ag,Cd,Sn,Hf,Ta,W,Re,Au,Pb、及び希土類元素のうち1種または2種以上の元素である)とMnを含有する反強磁性材料により形成されることが好ましい。
【0048】
これらの反強磁性材料は、耐食性に優れしかもブロッキング温度も高く次に説明する固定磁性層24または固定磁性層28との界面で大きな交換異方性磁界を発生し得る。また反強磁性層23及び反強磁性層29は50Å以上で300Å以下,例えば200Åの膜厚で形成されることが好ましい。
【0049】
この実施形態では固定磁性層24及び固定磁性層28は3層のフェリ構造で形成されている。
【0050】
固定磁性層24を構成する符号50及び52の層は磁性層である。磁性層50、52間には非磁性材料によって形成された非磁性中間層51が介在している。同様に、固定磁性層28の磁性層60及び62の間には、非磁性材料によって形成された非磁性中間層51が介在している。固定磁性層24、固定磁性層28の材料については後述する。
【0051】
反強磁性層23と磁性層50の間及び反強磁性層29と磁性層62の間には、交換異方性磁界が発生している。
【0052】
例えば磁性層50の磁化がハイト方向(図示Y方向)に固定された場合、もう一方の磁性層52はRKKY相互作用により、ハイト方向と逆方向に磁化され固定される。また、磁性層62の磁化がハイト方向に固定された場合、もう一方の磁性層60はRKKY相互作用により、ハイト方向と逆方向に磁化され固定される。
【0053】
この構成により固定磁性層24及び固定磁性層28の磁化を安定した状態にでき、また固定磁性層24及び固定磁性層28の磁化方向を強固に固定できる。
【0054】
なお、磁性層50、52及び磁性層60、62の膜厚はそれぞれ10〜70Å程度で形成される。また非磁性中間層51及び非磁性中間層61の膜厚は3Å〜10Å程度で形成される。
【0055】
なお固定磁性層24、固定磁性層28はフェリ構造ではなく単層膜あるいは磁性層のみからなる積層膜で形成されていても良い。
【0056】
また、反強磁性層23、29が存在せず、固定磁性層24、28自体の保磁力で固定磁性層24、28の磁化方向を固定することも可能である。
【0057】
非磁性材料層25及び非磁性材料層27は電気抵抗の低い導電性材料によって形成される。非磁性材料層25及び非磁性材料層27は例えば25Å程度の膜厚で形成される。非磁性材料層25及び非磁性材料層27の材料については後述する。
【0058】
フリー磁性層26は、NiFe合金、CoMnSi合金やCoMnGe合金などからなる単層構造である。ただし、フリー磁性層26がCoFe合金/NiFe合金/CoFe合金の3層積層体などの積層構造を有していてもよい。
【0059】
トラック幅方向(図示X方向)に磁化されているハードバイアス層33,33からの縦バイアス磁界によって、フリー磁性層26の磁化が図示X方向に揃えられている。
【0060】
多層膜T1のトラック幅方向の両側領域の第1の電極層20上には、絶縁層31,31が形成されている。絶縁層31,31は例えばAl2O3、SiO2など一般的な絶縁材料で形成される。
【0061】
絶縁層31,31の上には、バイアス下地層32,32が形成されている。またバイアス下地層32,32の上にはハードバイアス層33,33が形成されている。ハードバイアス層33,33は、フリー磁性層26の両側端面26a,26aに対向する位置に形成される。ハードバイアス層33,33は、トラック幅方向(図示X方向)に磁化されている。
【0062】
バイアス下地層32,32はハードバイアス層33,33の特性(保磁力Hc、角形比S)を向上させるために設けられたものである。
【0063】
本発明では、バイアス下地層32,32は、結晶構造が体心立方構造(bcc構造)の金属膜で形成されることが好ましい。なおこのときバイアス下地層32,32の結晶配向は(110)面が優先配向するのが好ましい。
【0064】
またハードバイアス層33,33は、CoPt合金やCoPtCr合金などで形成される。これら合金の結晶構造は、稠密六方構造(hcp)単相あるいは面心立方構造(fcc)と稠密六方構造(hcp)の混相となっている。
【0065】
また、バイアス下地層32はハードバイアス層33,33の下側にのみ形成されていることが好ましいが、フリー磁性層26の両側端面26a,26aとハードバイアス層33,33間にも若干介在してもよい。フリー磁性層26の両側端面26a,26aとハードバイアス層33,33間に形成されるバイアス下地層32,32のトラック幅方向(図示X方向)における膜厚は1nm以下であることが好ましい。
【0066】
これによりハードバイアス層33,33とフリー磁性層26とを磁気的に連続体にでき、フリー磁性層26の端部が反磁界の影響を受けるバックリング現象などの問題も発生せず、フリー磁性層26の磁区制御を容易にできる。
【0067】
また、絶縁層31,31がフリー磁性層26の両側端面26a,26aとバイアス下地層32,32の間にも存在していると、センス電流がハードバイアス層33,33とバイアス下地層32,32に分流することを防ぐことができるので好ましい。
【0068】
また図1に示すように、ハードバイアス層33,33の上には絶縁層34,34が形成されている。絶縁層34,34は、Al2O3やSiO2などの一般的な絶縁材料で形成される。なおこの実施形態では、絶縁層34,34の上面と反強磁性層29の上面とが連続面となっている。
絶縁層34,34及び反強磁性層29の上には、第2の電極層30が形成されている。
【0069】
この実施形態では、センス電流は第2の電極層30から第1の電極層20に向けて、あるいは、第1の電極層20から第2の電極層30に向けて流れる。すなわち、センス電流は、磁気検出素子の各層を膜面と垂直方向に流れ、このようなセンス電流の流れ方向はCPP型と呼ばれる。
【0070】
固定磁性層28、非磁性材料層27、フリー磁性層26、非磁性材料層25及び固定磁性層24に検出電流(センス電流)が与えられ、走行方向がZ方向であるハードディスクなどの記録媒体からの洩れ磁界がY方向に与えられると、フリー磁性層26の磁化が図示X方向からY方向へ向けて変化する。フリー磁性層26の磁化方向と固定磁性層24の磁性層52の磁化方向の関係、及びフリー磁性層26と固定磁性層28の磁性層60の磁化方向の関係で電気抵抗が変化し(これを磁気抵抗効果という)、この電気抵抗値の変化に基づく電圧変化または電流変化により、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
【0071】
図1に示される磁気検出素子は、下地層21、シード層22、反強磁性層23、固定磁性層24、非磁性材料層25、フリー磁性層26、非磁性材料層27、固定磁性層28、反強磁性層29からなる多層膜T1のトラック幅方向(図示X方向)の両側端面S1,S1が連続した傾斜面となっている。
【0072】
図1に示された磁気検出素子の特徴部分について説明する。
本実施の形態では、フリー磁性層は単一の磁性材料によって形成される単層構造を有しており、フリー磁性層を膜厚方向に2等分したときの上側半分を上部フリー磁性層26b、下側半分を下部フリー磁性層26cとしている。
【0073】
下部フリー磁性層26c並びにこの下部フリー磁性層26cより下側の非磁性材料層25及び固定磁性層24、反強磁性層23が多層膜下部T1bを構成し、上部フリー磁性層26b並びにこの上部フリー磁性層26bより上側の非磁性材料層27及び固定磁性層28、反強磁性層29が多層膜上部T1bを構成している。
【0074】
センス電流を図示下側から上方向に流すとき、伝導電子は図示上側から下方向に流れるので、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜下部が伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0075】
下側の固定磁性層24の第2固定磁性層52は第1層52a及び第2層52bの積層体であり、第1層52aは第1固定磁性層51とのRKKY的な結合作用を強めるためにCoFe合金を用いて形成されている。第2層52bは分極率P及びβの絶対値が大きいハーフメタル的な合金を用いる。
【0076】
上側の固定磁性層28の第2固定磁性層60は第1層60a及び第2層60bの積層体であり、第1層60aは第1固定磁性層62とのRKKY的な結合作用を強めるためにCoFe合金を用いて形成されている。第2層60bは分極率P及びβの絶対値が大きいハーフメタル的な合金を用いる。
【0077】
分極率Pとは磁性材料からなる層の中に存在するアップスピンの伝導電子の数(存在確率)とダウンスピンの伝導電子の数(存在確率)の比である。
【0078】
ここで、βは、ρ↓/ρ↑=(1+β)/(1−β) (−1≦β≦1)の関係式を満たす磁性材料に固有の値である(なお、ρ↓は、伝導電子のうちマイノリティーの伝導電子に対する比抵抗値であり、ρ↑は、伝導電子のうちマジョリティの伝導電子に対する比抵抗値である)。
【0079】
磁性材料を構成する磁性原子は、主に3d軌道または4f軌道の電子の軌道磁気モーメント及びスピン磁気モーメントによって、その磁気モーメントが規定される。磁性原子の3d軌道または4f軌道に存在する電子は、基本的にアップスピンとダウンスピンの数が異なっている。この3d軌道または4f軌道に存在するアップスピンの電子とダウンスピンの電子のうち数が多い方の電子のスピンをマジョリティスピンといい、少ない方の電子のスピンをマイノリティスピンという。
【0080】
一方、磁性材料を流れる電流中には、アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子が含まれている。アップスピンの伝導電子とダウンスピンの伝導電子のうち、磁性材料のマジョリティスピンと同じスピンを有する方をマジョリティの伝導電子といい、磁性材料のマイノリティスピンと同じスピンを有する方をマイノリティの伝導電子という。
【0081】
「ハーフメタル(Half-metal)的」とは、片方のスピンの伝導電子に対して金属的な振る舞いをし、他方のスピンの伝導電子に対して絶縁体的な振る舞いをする磁性体のことをいう。
【0082】
ハーフメタル的な合金の具体例としてホイスラー合金がある。前記ホイスラー合金の具体例を以下に示す。
【0083】
1.組成式がX2YZまたはXYZで表されるホイスラー型結晶構造を有する金属化合物、
ただし前記XはCu、Co、Ni、Rh、Pt、Au、Pd、Ir、Ru、Ag、Zn、Cd、Feのうち1種または2種以上の元素であり、前記YはMn、Fe、Ti、V、Zr、Nb、Hf、Ta、Cr、Co、Niのうち1種または2種以上の元素であり、前記ZはAl、Sn、In、Sb、Ga、Si、Ge、Pb、Znのうち1種または2種以上の元素である。
【0084】
2.組成式がCo2YZで表されるホイスラー型結晶構造を有する金属化合物、
ただし、前記YはMn、Fe、Crのうち1種または2種以上の元素であり、前記ZはAl、Ga、Si、Geのうち1種または2種以上の元素である。
【0085】
3.組成式がCo2MnZで表される金属化合物、
ただし前記ZはSi又はGeである。
【0086】
図1では、多層膜上流部Aの第2固定磁性層60の分極率Pの絶対値を多層膜下流部Bの第2固定磁性層52の分極率Pの絶対値よりも小さくしている。このために、例えば第2固定磁性層60の第2層60bをCoMnSi合金で形成し、第2固定磁性層52の第2層52bをCoMnGe合金で形成する。
【0087】
このとき、前記多層膜上流部Aの第2固定磁性層60のβの絶対値は前記多層膜下流部Bの第2固定磁性層52のβの絶対値よりも小さくなっている。
【0088】
前述したように、固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値が大きくなるか、固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値が大きくなると、固定磁性層のスピンバルク依存散乱量が大きくなる。
【0089】
従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0090】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比が向上する。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。
【0091】
本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0092】
本実施の形態では、第2固定磁性層52及び第2固定磁性層60の両方をホイスラー合金からなる第2層及びCoFe合金からなる第1層の積層体とした。しかし、多層膜下流部Bの第2固定磁性層52のみホイスラー合金からなる第2層52bを有し、多層膜上流部Aの第2固定磁性層60はCoFeからなる第1層60bのみの構成としてもよい。
【0093】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0094】
このときには、第2固定磁性層52の分極率Pの絶対値を第2固定磁性層60の分極率Pの絶対値よりも小さくさせる。このために、例えば第2固定磁性層52の第2層52bをCoMnSi合金で形成し、第2固定磁性層60の第2層60bをCoMnGe合金で形成し、第2固定磁性層52の分極率P及びβの絶対値を第2固定磁性層60の分極率P及びβの絶対値よりも小さくする。
【0095】
図2は本発明における第2の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0096】
本実施の形態の磁気検出素子は、固定磁性層24と固定磁性層28が同じ材料を用いて形成されており、固定磁性層28の第2固定磁性層60の膜厚t6が固定磁性層24の第2固定磁性層52の膜厚t5よりも小さく形成されている点でのみ図1に示された磁気検出素子と異なっている。
【0097】
上側の固定磁性層28の第2固定磁性層60は第1層60a及び第2層60bの積層体であり、第1層60aは第1固定磁性層62とのRKKY的な結合作用を強めるためにCoFe合金を用いて形成されている。第2層60bは分極率P及びβの絶対値が大きいハーフメタル合金を用いる。同様に、下側の固定磁性層24の第2固定磁性層52も第1層52a及び第2層52bの積層体であり、第1層52aは第1固定磁性層51とのRKKY的な結合作用を強めるためにCoFe合金を用いて形成されている。第2層52bは分極率P及びβの絶対値が大きいハーフメタル合金を用いる。
【0098】
第2固定磁性層60の第2層60bと第2固定磁性層52の第2層52bは同じハーフメタル合金、例えばCoMnGe合金を用いて形成される。あるいは、ハーフメタルでないCoFeやNiFeなどの磁性合金を用いて形成してもよい。
【0099】
本実施の形態では、第2固定磁性層60の第1層60aの膜厚と第2固定磁性層52の第1層52aの膜厚は両方とも10Åである。
【0100】
異なっているのは第2層60bと第2層52bの膜厚であり、例えば、第2層60bの膜厚が20Å、第2層52bの膜厚が50Åである。
【0101】
なお、非磁性材料層25の膜厚t3と非磁性材料層27の膜厚t4は等しく、フリー磁性層26の上部フリー磁性層26bの膜厚t1と下部フリー磁性層26cの膜厚t2も等しい。
【0102】
センス電流を図示下側から上方向に流すとき、伝導電子は図示上側から下方向に流れるので、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜下部が伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0103】
前述したように、固定磁性層の膜厚が大きくなるとスピン依存バルク散乱量が大きくなる。従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0104】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0105】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0106】
このときには、第2固定磁性層52の膜厚t5を第2固定磁性層60の膜厚t6よりも小さくする。
【0107】
図3は本発明における第2の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0108】
本実施の形態の磁気検出素子は、固定磁性層28の第2固定磁性層60と固定磁性層24の第2固定磁性層52が単層になっており、しかも第2固定磁性層60と第2固定磁性層52が同じ材料で形成されている点、及び上側の非磁性材料層27の膜厚t4が下側の非磁性材料層25の膜厚t3よりも大きく形成されている点でのみ図1に示された磁気検出素子と異なっている。
【0109】
第2固定磁性層60と第2固定磁性層52は同じハーフメタル合金、例えばCoMnGe合金を用いて形成される。あるいは、ハーフメタルでないCoFeやNiFeなどの磁性合金を用いて形成してもよい。
【0110】
本実施の形態では、例えば、上側の非磁性材料層27の膜厚t4は90Åであり、下側の非磁性材料層25の膜厚t3は50Åである。
【0111】
なお、第2固定磁性層52の膜厚t5と第2固定磁性層60の膜厚t6は等しく、フリー磁性層26の上部フリー磁性層26bの膜厚t1と下部フリー磁性層26cの膜厚t2も等しい。
【0112】
センス電流を図示下側から上方向に流すとき、伝導電子は図示上側から下方向に流れるので、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜下部が伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0113】
本実施の形態でも、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0114】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0115】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0116】
このときには、非磁性材料層25の膜厚t3を非磁性材料層27の膜厚t4より大きくする。
【0117】
図4は本発明における第4の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0118】
本実施の形態は、フリー磁性層26の上部フリー磁性層55と下部フリー磁性層54が異なる磁性材料によって形成されている点、及び固定磁性層28の第2固定磁性層60と固定磁性層24の第2固定磁性層52が単層になっており、しかも第2固定磁性層60と第2固定磁性層52が同じ材料で形成されている点で、図1に示された磁気検出素子と異なっている。
【0119】
図4では、多層膜上流部Aに属する上部フリー磁性層55の分極率Pの絶対値を多層膜下流部Bに属する下部フリー磁性層54の分極率Pの絶対値よりも小さくする。このために、例えば上部フリー磁性層55をCoMnSi合金で形成し、下部フリー磁性層54をCoMnGe合金で形成する。
【0120】
このとき、上部フリー磁性層55のβの絶対値は下部フリー磁性層54のβの絶対値よりも小さくなっている。
【0121】
前述したように、フリー磁性層の分極率Pの絶対値が大きくなるか、フリー磁性層のβの絶対値が大きくなると、フリー磁性層のスピンバルク依存散乱量が大きくなる。
【0122】
従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0123】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0124】
本実施の形態では、下部フリー磁性層54及び上部フリー磁性層55の両方をホイスラー合金を用いて形成した。しかし、多層膜下流部Bの下部フリー磁性層54のみホイスラー合金を用いて形成し、多層膜上流部Aの上部フリー磁性層55はCoFeやNiFeなどからなる構成としてもよい。
【0125】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0126】
このときには、下部フリー磁性層54の分極率Pの絶対値を上部フリー磁性層55の分極率Pの絶対値よりも小さくさせる。このために、例えば下部フリー磁性層54をCoMnSi合金で形成し、上部フリー磁性層55をCoMnGe合金で形成し、下部フリー磁性層54の分極率P及びβの絶対値を上部フリー磁性層55の分極率P及びβの絶対値よりも小さくする。
【0127】
本実施の形態では、第2固定磁性層52の膜厚t5と第2固定磁性層60の膜厚t6は等しく、上側の非磁性材料層27の膜厚t4と下側の非磁性材料層25の膜厚t3も等しくなっている。
【0128】
フリー磁性層26の上部フリー磁性層55の膜厚t1と下部フリー磁性層54の膜厚t2は等しくてもよい。ただし、多層膜上流部Aを構成する上部フリー磁性層55の膜厚t1が多層膜下流部Bを構成する下部フリー磁性層54の膜厚t2より小さいと、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAと多層膜下流部BのΔRAの差をより大きくできるので好ましい。
【0129】
なお、フリー磁性層26を異なる磁性材料からなる層を3層以上積層した構造にするときには、最上層を上部フリー磁性層とし最下層を下部フリー磁性層とする。
【0130】
例えば図5に示されるような3層構造のフリー磁性層26の場合、下から下部フリー磁性層54、中間フリー磁性層56、上部フリー磁性層55が積層されている。
【0131】
図5に示される磁気検出素子でも、多層膜上流部Aの上部フリー磁性層55の分極率Pの絶対値を多層膜下流部Bの下部フリー磁性層54の分極率Pの絶対値よりも小さくする。このために、例えば上部フリー磁性層55をCoMnSi合金で形成し、下部フリー磁性層54をCoMnGe合金で形成する。中間フリー磁性層56はホイスラー合金やCoFe、NiFeを用いて形成する。
【0132】
このとき上部フリー磁性層55のβの絶対値は下部フリー磁性層54のβの絶対値よりも小さくなっている。
【0133】
前述したように、フリー磁性層の分極率Pの絶対値が大きくなるか、フリー磁性層のβの絶対値が大きくなると、フリー磁性層のスピンバルク依存散乱量が大きくなる。
【0134】
従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜T1の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0135】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比を向上させることができる。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0136】
また、多層膜上流部Aを構成する上部フリー磁性層55の膜厚t1が多層膜下流部Bを構成する下部フリー磁性層54の膜厚t2より小さいと、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAと多層膜下流部BのΔRAの差をより大きくできるので好ましい。
【0137】
図6は本発明における第6の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図である。
【0138】
図6に示される磁気検出素子は、フリー磁性層84が、第1フリー磁性層85、非磁性中間層86、第2フリー磁性層87、非磁性中間層88、第3フリー磁性層89からなる人工フェリ構造を有している点で図5に示された磁気検出素子と異なっている。第1フリー磁性層85と第2フリー磁性層87の磁化方向は、非磁性中間層86を介したRKKY相互作用によって互いに反平行方向になっている。同様に、第2フリー磁性層87と第3フリー磁性層89の磁化方向も、非磁性中間層88を介したRKKY相互作用によって互いに反平行方向になっている。
【0139】
本実施の形態では、第3フリー磁性層89が本発明の上部フリー磁性層であり、第1フリー磁性層85が本発明の下部フリー磁性層である。
【0140】
すなわち、多層膜上流部Aに属する第3フリー磁性層89の分極率Pの絶対値を多層膜下流部Bに属する第1フリー磁性層85の分極率Pの絶対値よりも小さくする。このために、例えば第3フリー磁性層89をCoMnSi合金で形成し、第1フリー磁性層85をCoMnGe合金で形成する。
【0141】
このとき、第3フリー磁性層89のβの絶対値は第1フリー磁性層85のβの絶対値よりも小さくなっている。
【0142】
前述したように、フリー磁性層の分極率Pの絶対値が大きくなるか、フリー磁性層のβの絶対値が大きくなると、フリー磁性層のスピンバルク依存散乱量が大きくなる。
【0143】
従って、本実施の形態では、磁気検出素子の多層膜の多層膜上流部Aと多層膜下流部Bのスピンバルク依存散乱量が非対称になる。このとき、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなる。
【0144】
これによって、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができ、磁気検出素子のS/N比が向上する。S/N比が向上するとセンス電流を大きくすることが可能になり、磁気検出素子の再生出力も大きくなる。
【0145】
本発明を用いると原理的にはフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクをゼロにすることもできる。
【0146】
本実施の形態では、第1フリー磁性層85及び第3フリー磁性層89の両方をホイスラー合金を用いて形成した。しかし、多層膜下流部Bの第1フリー磁性層85のみホイスラー合金を用いて形成し、多層膜上流部Aの第3フリー磁性層89はCoFeやNiFeなどからなる構成としてもよい。
【0147】
本実施の形態では、第2固定磁性層52の膜厚t5と第2固定磁性層60の膜厚t6は等しく、上側の非磁性材料層27の膜厚t4と下側の非磁性材料層25の膜厚t3も等しくなっている。
【0148】
フリー磁性層26の第3フリー磁性層89の膜厚t11と第1フリー磁性層85の膜厚t10は等しくてもよい。ただし、多層膜上流部Aを構成する第3フリー磁性層89の膜厚t11が多層膜下流部Bを構成する第1フリー磁性層85の膜厚t10より小さいと、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAと多層膜下流部BのΔRAの差をより大きくできるので好ましい。
【0149】
なお、センス電流を図示上側から下方向に流すときは、伝導電子は図示下側から上方向に流れるので、多層膜下部T1bが伝導電子の流れの上流に位置する多層膜上流部Aとなり、多層膜上部T1aが伝導電子の流れの下流に位置する多層膜下流部Bとなる。
【0150】
このときには、第1フリー磁性層85の分極率Pの絶対値を第3フリー磁性層89の分極率Pの絶対値よりも小さくする。このために、例えば第1フリー磁性層85をCoMnSi合金で形成し、第3フリー磁性層89をCoMnGe合金で形成し、第1フリー磁性層85の分極率P及びβの絶対値を第3フリー磁性層89の分極率P及びβの絶対値よりも小さくする。
【0151】
また、多層膜上流部の素子面積を多層膜下流部の素子面積より大きくすることによって磁気検出素子の多層膜の多層膜上流部と多層膜下流部のスピンバルク依存散乱量を非対称にすることもできる。たとえば図1ないし図6に示される磁気検出素子の多層膜の側面は傾斜面になっているので、多層膜下部の素子面積は多層膜上部の素子面積よりも大きくなっている。このとき、多層膜下部T1bを多層膜上流部とし、多層膜上部T1aを多層膜下流部とすると、多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなり、デュアルスピンバルブ型磁気検出素子のフリー磁性層にかかるスピン伝達トルクを十分に相殺させることができる。
【0152】
上述した実施の形態では、フリー磁性層の上下で固定磁性層の材料を異ならせる構成、固定磁性層の膜厚を異ならせる構成、非磁性材料層の膜厚を異ならせる構成、上部フリー磁性層と下部フリー磁性層の材料を異ならせる構成をそれぞれ独立した実施の形態の磁気検出素子の中で説明したが、これらの構成の任意の組み合わせをひとつの磁気検出素子の中で実現してもよい。
【実施例1】
【0153】
以下に示す膜構成のCPP−GMR型磁気検出素子を形成し、フリー磁性層の上側の第2固定磁性層の材料と下側の第2固定磁性層の材料を異ならせたときの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAの変化を調べた。
【0154】
下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(40Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/フリー磁性層(下部フリー磁性層/上部フリー磁性層)/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/保護層Ta(30Å)
なお括弧内の数値は膜厚を表している。
結果を表1に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
比較例1ではフリー磁性層の下側のCoFe層が本発明の下部フリー磁性層であり、上側のCoFe層が本発明の上部フリー磁性層である。比較例1以外の磁気検出素子では、フリー磁性層が単層のCoMnSi層であり、このCoMnSi層を2等分した下側半分を本発明の下部フリー磁性層とし、上側半分を本発明の上部フリー磁性層とする。
【0157】
上記した膜構成において、反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/下部フリー磁性層が本発明の多層膜下部であり、上部フリー磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)が多層膜上部である。
【0158】
なお、実施例1、実施例3では多層膜の下側から上側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は上から下に流れる。従って、実施例1及び実施例3では多層膜上部が多層膜上流部であり、多層膜下部が多層膜下流部である。一方、実施例2、実施例4では多層膜の上側から下側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は下から上に流れる。従って、実施例2及び実施例4では多層膜下部が多層膜上流部であり、多層膜上部が多層膜下流部である。
【0159】
各実施例では、表1に示されるようにフリー磁性層の上側の第2固定磁性層の材料と下側の第2固定磁性層の材料が選択されることによって、多層膜上流部の前記第2固定磁性層の分極率P及びβの絶対値が、前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の分極率P及びβの絶対値よりも小さくなっている。
【0160】
この結果、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなっていることがわかる。
【実施例2】
【0161】
以下に示す膜構成のCPP−GMR型磁気検出素子を形成し、フリー磁性層の上側の第2固定磁性層の膜厚と下側の第2固定磁性層の膜厚を異ならせたときの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAの変化を調べた。
【0162】
下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(40Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層(CoFe/CoMnGe)/非磁性材料層Cu(30Å)/フリー磁性層CoMnSi(下部フリー磁性層/上部フリー磁性層)/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層(CoMnGe/CoFe)/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/保護層Ta(30Å)
なお括弧内の数値は膜厚を表している。また、フリー磁性層は単層のCoMnSi層であり、このCoMnSi層を2等分した下側半分を本発明の下部フリー磁性層とし、上側半分を本発明の上部フリー磁性層とする。
結果を表2に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
上記した膜構成において、反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/下部フリー磁性層が本発明の多層膜下部であり、上部フリー磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)が多層膜上部である。
【0165】
なお、実施例6、実施例7では多層膜の下側から上側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は上から下に流れる。従って、実施例6及び実施例7では多層膜上部が多層膜上流部であり、多層膜下部が多層膜下流部である。一方、実施例5では多層膜の上側から下側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は下から上に流れる。従って、実施例5では多層膜下部が多層膜上流部であり、多層膜上部が多層膜下流部である。
【0166】
各実施例の結果から、多層膜上流部の第2固定磁性層の膜厚を多層膜下流部の第2固定磁性層の膜厚よりも薄くすることにより、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなることがわかる。
【実施例3】
【0167】
以下に示す膜構成のCPP−GMR型磁気検出素子を形成し、上部フリー磁性層の材料と下部フリー磁性層の材料を異ならせたときの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAの変化を調べた。
【0168】
下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(40Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/フリー磁性層(下部フリー磁性層//上部フリー磁性層)/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/保護層Ta(30Å)
なお括弧内の数値は膜厚を表している。
結果を表3に示す。
【0169】
【表3】
【0170】
実施例8ないし11の磁気検出素子は、フリー磁性層が3層構造である。実施例8、9ではCoMnGe層が下部フリー磁性層、CoFe層が上部フリー磁性層であり、実施例10、11ではCoFe層が下部フリー磁性層、CoMnGe層が上部フリー磁性層である。
【0171】
実施例12ないし14では、フリー磁性層が2層構造である。実施例12、14ではCoMnGe層が下部フリー磁性層、CoMnSi層が上部フリー磁性層であり、実施例13ではCoMnSi層が下部フリー磁性層、CoMnGe層が上部フリー磁性層である。なお、実施例14では上側の第2固定磁性層の材料と下側の第2固定磁性層の材料を異ならせて、多層膜上流部の前記第2固定磁性層の分極率P及びβの絶対値を、前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の分極率P及びβの絶対値よりも小さくさせている。
【0172】
上記した膜構成において、反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/下部フリー磁性層が本発明の多層膜下部であり、上部フリー磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)が多層膜上部である。
【0173】
なお、実施例8、9、12、14では多層膜の下側から上側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は上から下に流れる。従って、実施例8、9、12、14では多層膜上部が多層膜上流部であり、多層膜下部が多層膜下流部である。一方、実施例10、11、13では多層膜の上側から下側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は下から上に流れる。従って、実施例10、11、13では多層膜下部が多層膜上流部であり、多層膜上部が多層膜下流部である。
【0174】
表3に示されるように多層膜上流部に属するフリー磁性層の材料と多層膜下流部に属するフリー磁性層の材料が選択されることによって、上部フリー磁性層の分極率P及びβの絶対値が、下部フリー磁性層の分極率P及びβの絶対値よりも小さくなっている。
【0175】
この結果、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなっていることがわかる。
【実施例4】
【0176】
以下に示す膜構成のCPP−GMR型磁気検出素子を形成し、フリー磁性層の上側の非磁性材料層の膜厚と下側の非磁性材料層の膜厚を異ならせたときの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAの変化を調べた。
【0177】
下地層Ta(30Å)/シード層NiFeCr(40Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層(CoFe(10Å)/CoMnGe(40Å))/非磁性材料層Cu/フリー磁性層(CoMnGe(80Å)(下部フリー磁性層(40Å)/上部フリー磁性層(40Å))/非磁性材料層Cu/第2固定磁性層(CoMnGe(40Å)/CoFe(10Å))/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)/保護層Ta(30Å)
なお括弧内の数値は膜厚を表している。また、フリー磁性層は単層のCoMnGe層であり、このCoMnGe層を2等分した下側半分を本発明の下部フリー磁性層とし、上側半分を本発明の上部フリー磁性層とする。
結果を表4に示す。
【0178】
【表4】
【0179】
上記した膜構成において、反強磁性層PtMn(120Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/非磁性中間層Ru(8Å)/第2固定磁性層(CoFe(10Å)/CoMnGe(40Å))/非磁性材料層Cu/下部フリー磁性層が本発明の多層膜下部であり、上部フリー磁性層/非磁性材料層Cu(30Å)/第2固定磁性層(CoMnGe(40Å)/CoFe(10Å))/非磁性中間層Ru(8Å)/第1固定磁性層CoFe(30Å)/反強磁性層PtMn(120Å)が多層膜上部である。
【0180】
なお、実施例15、実施例16では多層膜の下側から上側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は上から下に流れる。従って、実施例15及び実施例16では多層膜上部が多層膜上流部であり、多層膜下部が多層膜下流部である。一方、実施例17では多層膜の上側から下側に向けてセンス電流を流しており、伝導電子は下から上に流れる。従って、実施例17では多層膜下部が多層膜上流部であり、多層膜上部が多層膜下流部である。
【0181】
各実施例の結果から、多層膜上流部の非磁性材料層の膜厚を多層膜下流部の非磁性材料層の膜厚よりも厚くすることにより、多層膜上流部Aの磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが多層膜下流部BのΔRAよりも小さくなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】本発明における第1の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図2】本発明における第2の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図3】本発明における第3の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図4】本発明における第4の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図5】本発明における第5の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図6】本発明における第6の実施形態の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【図7】従来の磁気検出素子の構造を記録媒体との対向面側から見た部分断面図、
【符号の説明】
【0183】
20 第1の電極層
21 下地層
22 シード層
23、29 反強磁性層
24、28 固定磁性層
25、27 非磁性材料層
26、84 フリー磁性層
30 第2の電極層
31、34 絶縁層
32 バイアス下地層
33 ハードバイアス層
53 磁性層
54 非磁性中間層
55 磁性層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリー磁性層の下に非磁性材料層及び固定磁性層が設けられ、前記フリー磁性層の上に非磁性材料層及び固定磁性層が設けられている多層膜を有し、前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
前記フリー磁性層は、上部フリー磁性層及び下部フリー磁性が直接あるいは他の磁性材料層又は非磁性材料層を介して積層されたものであり、
前記下部フリー磁性層並びにこの下部フリー磁性層より下側の非磁性材料層及び固定磁性層を有する多層膜下部と前記上部フリー磁性層並びにこの上部フリー磁性層より上側の非磁性材料層及び固定磁性層を有する多層膜上部のうち、伝導電子の流れの上流に位置する方を多層膜上流部、伝導電子の流れの下流に位置する方を多層膜下流部としたとき、
前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが前記多層膜下流部のΔRAよりも小さいことを特徴とする磁気検出素子。
【請求項2】
前記多層膜上流部の固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値が、前記多層膜下流部の固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値より小さい請求項1記載の磁気検出素子。
【請求項3】
前記固定磁性層は、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しており、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層の分極率Pの絶対値が前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の分極率Pの絶対値よりも小さい請求項2記載の磁気検出素子。
【請求項4】
前記多層膜上流部の前記固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値が、前記多層膜下流部の固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値より小さい請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気検出素子。
ただし、βは、ρ↓/ρ↑=(1+β)/(1−β) (−1≦β≦1)の関係式を満たす磁性材料に固有の値である(なお、ρ↓は、伝導電子のうちマイノリティーの伝導電子に対する比抵抗値であり、ρ↑は、伝導電子のうちマジョリティの伝導電子に対する比抵抗値である)。
【請求項5】
前記固定磁性層は、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しており、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層のβの絶対値が前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層のβの絶対値よりも小さい請求項4記載の磁気検出素子。
【請求項6】
前記多層膜上流部の前記固定磁性層の膜厚が前記多層膜下流部の前記固定磁性層の膜厚より小さい請求項1ないし5のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項7】
前記固定磁性層は、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しており、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層の膜厚が前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の膜厚よりも小さい請求項6記載の磁気検出素子。
【請求項8】
前記多層膜上流部の素子面積Aが前記多層膜下流部の素子面積Aよりも大きい請求項1ないし7のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項9】
前記多層膜上流部の前記非磁性材料層の膜厚が前記多層膜下流部の前記非磁性材料層の膜厚より大きい請求項1ないし8のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項10】
前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層の分極率Pの絶対値が、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層の分極率Pの絶対値より小さい請求項1ないし9のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項11】
前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層のβの絶対値が、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層のβの絶対値より小さい請求項1ないし10のいずれかに記載の磁気検出素子。
ただし、βは、ρ↓/ρ↑=(1+β)/(1−β) (−1≦β≦1)の関係式を満たす磁性材料に固有の値である(なお、ρ↓は、伝導電子のうちマイノリティーの伝導電子に対する比抵抗値であり、ρ↑は、伝導電子のうちマジョリティの伝導電子に対する比抵抗値である)。
【請求項12】
前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層の膜厚が、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層の膜厚より小さい請求項1ないし11のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項13】
前記フリー磁性層は、第1フリー磁性層、第2フリー磁性層、及び第3フリー磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第1フリー磁性層及び前記第3フリー磁性層が前記非磁性材料層と接しており、
前記第3フリー磁性層が前記上部フリー磁性層であり、前記第1フリー磁性層が前記下部フリー磁性層である請求項1ないし12のいずれかに記載の磁気検出子。
【請求項14】
前記フリー磁性層は単一の磁性材料によって形成される単層構造を有しており、前記フリー磁性層を膜厚方向に2等分したときの上側半分を前記上部フリー磁性層、下側半分を前記下部フリー磁性層とする請求項1ないし9のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項1】
フリー磁性層の下に非磁性材料層及び固定磁性層が設けられ、前記フリー磁性層の上に非磁性材料層及び固定磁性層が設けられている多層膜を有し、前記多層膜の各層の膜面と垂直方向に電流が流れる磁気検出素子において、
前記フリー磁性層は、上部フリー磁性層及び下部フリー磁性が直接あるいは他の磁性材料層又は非磁性材料層を介して積層されたものであり、
前記下部フリー磁性層並びにこの下部フリー磁性層より下側の非磁性材料層及び固定磁性層を有する多層膜下部と前記上部フリー磁性層並びにこの上部フリー磁性層より上側の非磁性材料層及び固定磁性層を有する多層膜上部のうち、伝導電子の流れの上流に位置する方を多層膜上流部、伝導電子の流れの下流に位置する方を多層膜下流部としたとき、
前記多層膜上流部の磁気抵抗変化量×素子面積ΔRAが前記多層膜下流部のΔRAよりも小さいことを特徴とする磁気検出素子。
【請求項2】
前記多層膜上流部の固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値が、前記多層膜下流部の固定磁性層を形成する磁性材料の分極率Pの絶対値より小さい請求項1記載の磁気検出素子。
【請求項3】
前記固定磁性層は、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しており、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層の分極率Pの絶対値が前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の分極率Pの絶対値よりも小さい請求項2記載の磁気検出素子。
【請求項4】
前記多層膜上流部の前記固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値が、前記多層膜下流部の固定磁性層を形成する磁性材料のβの絶対値より小さい請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気検出素子。
ただし、βは、ρ↓/ρ↑=(1+β)/(1−β) (−1≦β≦1)の関係式を満たす磁性材料に固有の値である(なお、ρ↓は、伝導電子のうちマイノリティーの伝導電子に対する比抵抗値であり、ρ↑は、伝導電子のうちマジョリティの伝導電子に対する比抵抗値である)。
【請求項5】
前記固定磁性層は、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しており、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層のβの絶対値が前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層のβの絶対値よりも小さい請求項4記載の磁気検出素子。
【請求項6】
前記多層膜上流部の前記固定磁性層の膜厚が前記多層膜下流部の前記固定磁性層の膜厚より小さい請求項1ないし5のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項7】
前記固定磁性層は、第1固定磁性層と第2固定磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第2固定磁性層が前記非磁性材料層と接しており、前記多層膜上流部の前記第2固定磁性層の膜厚が前記多層膜下流部の前記第2固定磁性層の膜厚よりも小さい請求項6記載の磁気検出素子。
【請求項8】
前記多層膜上流部の素子面積Aが前記多層膜下流部の素子面積Aよりも大きい請求項1ないし7のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項9】
前記多層膜上流部の前記非磁性材料層の膜厚が前記多層膜下流部の前記非磁性材料層の膜厚より大きい請求項1ないし8のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項10】
前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層の分極率Pの絶対値が、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層の分極率Pの絶対値より小さい請求項1ないし9のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項11】
前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層のβの絶対値が、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層のβの絶対値より小さい請求項1ないし10のいずれかに記載の磁気検出素子。
ただし、βは、ρ↓/ρ↑=(1+β)/(1−β) (−1≦β≦1)の関係式を満たす磁性材料に固有の値である(なお、ρ↓は、伝導電子のうちマイノリティーの伝導電子に対する比抵抗値であり、ρ↑は、伝導電子のうちマジョリティの伝導電子に対する比抵抗値である)。
【請求項12】
前記上部フリー磁性層と前記下部フリー磁性層のうち、前記多層膜上流部を構成するフリー磁性層の膜厚が、前記多層膜下流部を構成するフリー磁性層の膜厚より小さい請求項1ないし11のいずれかに記載の磁気検出素子。
【請求項13】
前記フリー磁性層は、第1フリー磁性層、第2フリー磁性層、及び第3フリー磁性層が非磁性中間層を介して積層された人工フェリ構造を有して、前記第1フリー磁性層及び前記第3フリー磁性層が前記非磁性材料層と接しており、
前記第3フリー磁性層が前記上部フリー磁性層であり、前記第1フリー磁性層が前記下部フリー磁性層である請求項1ないし12のいずれかに記載の磁気検出子。
【請求項14】
前記フリー磁性層は単一の磁性材料によって形成される単層構造を有しており、前記フリー磁性層を膜厚方向に2等分したときの上側半分を前記上部フリー磁性層、下側半分を前記下部フリー磁性層とする請求項1ないし9のいずれかに記載の磁気検出素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2006−5185(P2006−5185A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180380(P2004−180380)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】
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