説明

磁気測定装置及び磁気測定方法

【課題】 磁性体の磁気特性の分布を可及的に正確に求めることができるようにする。
【解決手段】 磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせる複数の領域120a〜120rに試料120を分け、これら複数の領域120a〜120rにおける各々の鉄損を、局所磁気センサ113を用いて求め、求めた複数の領域129a〜120rにおける鉄損を用いて、試料120の鉄損の分布を求めることにより、磁束密度や磁界の分布が一様な状態で試料120の鉄損の分布を求めることができるようにして、試料120の鉄損の分布を求める際に、磁束密度や磁界の分布による影響を可及的に除去することができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気測定装置及び磁気測定方法に関し、特に板形状の磁性体の二次元平面における磁気特性を得るために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、2次元磁気測定装置を用いて、例えば結晶粒径が大きく、磁気特性のゆらぎが大きな板状の磁性体における磁気特性(例えば鉄損)のデータを得るようにする技術が提案されている(非特許文献1〜2を参照)。かかる2次元磁気測定装置は、試料である板状の磁性体を介してx軸方向において互いに対向する位置に配設された励磁用継鉄と、この励磁用継鉄に巻き回され、板状の磁性体のx軸方向を励磁する励磁コイルと、板状の磁性体を介してy軸方向において互いに対向する位置に配設された励磁用継鉄と、この励磁用継鉄に巻き回され、板状の磁性体のy軸方向を励磁する励磁コイルとを備えている。
【0003】
このような構成の2次元磁気測定装置の前記励磁コイルに電力を供給して板状の磁性体を励磁させ、x軸方向及びy軸方向のそれぞれにおいて、磁束密度及び磁界を測定する。このとき、板状の磁性体に形成された穴を通してx軸方向に巻き回されたBxコイルと、同じく板状の磁性体に形成された穴を通してy軸方向に巻き回されたByコイルとで磁束密度を測定する。また、板状の磁性体の上方又は下方でx軸方向に巻き回されたHxコイルと、同じく板状の磁性体の上方又は下方でy軸方向に巻き回されたHyコイルとで磁界を測定する。このようにして測定した磁束密度及び磁界から、板状の磁性体の2次元の磁気特性を得るようにしている。しかしながら、かかる技術では、板状の磁性体の磁気特性の分布を得ることができなかった。
【0004】
そこで、2次元磁気特性装置を用いて、板状の磁性体の磁気特性の分布を得るようにする技術として、板状の磁性体全体の平均化された磁束密度が所定の磁束密度になるように、板状の磁性体をx軸方向とy軸方向とに励磁させ、局所磁気センサを用いて板状の磁性体の磁気特性の分布を得るようにする技術が提案されている(非特許文献3を参照)。
鋼材の分布磁気測定技術としては、この外にも、非特許文献4のごとき事例が出ている。そこでは、鋼材の励磁が一方向のみであって、また、所定の大きさに磁束密度がなるように積極的にフィードバック制御していないため、2次元磁気での測定状況にはなっていないが、鋼材磁気特性分布の概略を知る上で有効な測定方法ではある。
【0005】
【非特許文献1】M.Enokizono,"Two-dimensional Magnetic Property",JIEE-A,Vol.115,No1,pp.1-8,1998.
【非特許文献2】K.Fujisaki,Y.Nemoto,S.Sato,M.Enokizono and H.Shimoji,"2-D vector Magnetic method in comparison with conventional method",7th International WorkShop on 1&2-Dimensional Magnetic Measurement and Testing Proceeding,edited by J.Sievert(PTB-E-81).pp.159-166.,2002
【非特許文献3】榎園、田邉,「方向性けい素鋼板の局所二次元磁気特性」日本応用磁気学会誌,22巻,pp.901−904,1998
【非特許文献4】千田、石田、黒澤、小松原「探針法による方向性電磁鋼板の局所磁気特性解析」電気学会論文誌A、119巻6号、pp.783-789、1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述したように、従来の技術では、板状の磁性体全体の平均化された磁束密度が所定の磁束密度になるように、板状の磁性体のx軸方向とy軸方向とを励磁させて板状の磁性体の磁気特性の分布を得るようにしている。このため、板状の磁性体における磁束密度や磁界にも分布が生じてしまう。したがって、得られた磁気特性の分布が、その磁気特性自体に分布が生じているのか、それとも板状の磁性体における磁束密度や磁界の分布によって磁気特性に分布が生じているのかを把握することができなかった。
【0007】
このように、従来の技術では、板状の磁性体の磁気特性の分布を正確に求めることが困難であるという問題点があった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、板状の磁性体の磁気特性の分布を可及的に正確に求めることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気測定装置は、板状の磁性体の磁気特性を測定する磁気特性測定装置であって、前記板状の磁性体の2次元方向における磁束密度を測定する磁束密度測定手段と、前記板状の磁性体の2次元方向における磁界を測定する磁界測定手段と、前記磁束密度測定手段により測定された磁束密度と、前記磁界測定手段により測定された磁界とを用いて、前記板状の磁性体における磁気特性の分布を求める磁気特性分布取得手段とを有し、前記磁束密度測定手段は、磁束密度及び磁界の少なくとも何れか一方の分布が一様と見なせる複数の領域毎に前記板状の磁性体の磁束密度を測定し、前記磁界測定手段は、前記複数の領域毎に前記板状の磁性体の磁界を測定することを特徴とする。
【0009】
本発明の磁気測定方法は、板状の磁性体の磁気特性を測定する磁気特性測定方法であって、磁束密度及び磁界の少なくとも何れか一方の分布が一様と見なせる複数の領域毎に前記板状の磁性体の磁束密度を測定する磁束密度測定ステップと、前記複数の領域毎に前記板状の磁性体の磁界を測定する磁界測定ステップと、前記磁束密度測定ステップにより測定された磁束密度と、前記磁界測定ステップにより測定された磁界とを用いて、前記板状の磁性体における磁気特性の分布を求める磁気特性分布取得ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁束密度及び磁界の少なくとも何れか一方の分布が一様と見なせる複数の領域毎に測定した板状の磁性体の磁束密度と、前記複数の領域毎に測定した前記板状の磁性体の磁界とを用いて、前記板状の磁性体における磁気特性の分布を求めるようにしたので、磁束密度及び磁界の少なくとも何れか一方の分布が一様な状態で、板状の磁性体の磁気特性の分布を求めることができる。これにより、板状の磁性体の磁気特性の分布を求める際に、磁束密度及び磁界の少なくとも何れか一方の分布による影響を可及的に除去することができ、板状の磁性体の磁気特性の分布を可及的に正確に求めることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の磁気測定装置の構成の一例を示した図である。
図1において、磁気測定装置は、後述するような板状の磁性体(以下、必要に応じて試料と称する)120の磁束密度B(={Bx,By})と磁界H(={Hx,Hy})を測定し、測定した磁束密度Bと磁界Hとを用いて、試料120における磁気特性の分布を得るためのものである。
【0012】
図1において、磁気測定装置は、制御部101と、データ格納部102と、表示部103と、入力部104と、X方向電源105と、Y方向電源106と、第1のデジタルオシロスコープ107と、第2のデジタルオシロスコープ108と、駆動部109と、試料設置部110とを有している。
【0013】
制御部101は、磁気測定装置を統括制御するものであり、例えば、CPU、ROM、及びRAMを備えたマイクロコンピュータを用いて構成される。
データ格納部102は、磁気測定装置で測定された磁束密度Bや磁界H等を格納するものであり、例えば、ハードディスクを用いて構成される。
【0014】
表示部103は、磁気測定装置で測定された磁束密度Bと磁界Hとに基づいて求められた試料120の鉄損の分布等を表示するものであり、例えば液晶ディスプレイを用いて構成される。このように本実施形態では、試料120における磁気特性の分布として、鉄損の分布を求めるようにしているが、求める磁気特性の分布は鉄損の分布に限定されず、例えば、透磁率の分布やB8(磁界の大きさが800A/mのときの磁束密度の値)の分布であってもよい。
【0015】
入力部104は、磁気測定装置に対する各種の設定等をオペレータが入力する際に用いられるものであり、キーボードやマウス等を用いて構成される。
なお、制御部101、データ格納部102、表示部103、及び入力部104は、例えば、パーソナルコンピュータにより構成することができる。
【0016】
X方向電源105は、制御部101からの制御に従って、試料120のx軸方向を励磁するために励磁用継鉄111a、111bに巻き回されている励磁コイル112a、112bに電力を供給するためのものである(図2を参照)。Y方向電源106は、制御部101からの制御に従って、試料120のy軸方向を励磁するために励磁用継鉄111c、111dに巻き回されている励磁コイル112c、112dに電力を供給するためのものである(図2を参照)。
【0017】
第1のデジタルオシロスコープ107は、試料120のx軸方向における磁束密度Bxを測定するためのBxプローブ113aに流れる電流波形、試料120のy軸方向における磁束密度Byを測定するためのByプローブ113bに流れる電流波形、X方向電源105から出力される電圧波形、及びY方向電源106から出力される電圧波形を、それぞれ1ch〜4chでモニタするものである。
【0018】
第2のデジタルオシロスコープ108は、試料120のx軸方向における磁界Hxを測定するためのHxコイル113cに流れる電流波形、試料120のy軸方向における磁界Hyを測定するためのHyコイル113dに流れる電流波形、Bxプローブ113aに印加される電圧波形、及びByプローブ113bに印加される電圧波形を、それぞれ1ch〜4chでモニタするものである。
なお、本実施形態では、以上のようにしてモニタされている値は、1周期の波形をN(Nは正の整数、例えばN=512)分割してサンプリングすることにより得られるデジタル信号に変換されて(AD変換されて)制御部201に出力される。
【0019】
ここで、図2を参照しながら、磁気測定装置に配設された試料設置部110の詳細な構成の一例について説明する。
本実施形態の試料設置部110は、励磁用継鉄111a〜111dと、励磁コイル112a〜112dと、局所磁気センサ113とを有している。
【0020】
励磁用継鉄111aと励磁用継鉄111bは、x軸方向において、試料120を介して対向するように配設されている。また、励磁用継鉄111cと励磁用継鉄111dは、y軸方向において、試料120を介して対向するように配設されている。なお、本実施形態における試料120は、例えば、横方向(x軸方向)及び奥行き方向(y軸方向)の長さがそれぞれ80mm、厚さが0.35mmの薄板鋼板である。なお、試料120は、強磁性体、フェリ磁性体、硬磁性体、軟磁性体、パーマロイ等の磁性材料であれば、薄板鋼板でなくてもよいということは言うまでもない。また、後述するように、本実施形態の磁気測定装置では局所磁気センサ113を用いているので、例えば、数十mm以上の大きな結晶粒径を有し、面方向の磁気特性のゆらぎが大きいものを試料120として用いることができる。
【0021】
また、試料120内に磁束を集中させるために、励磁用継鉄111a〜111dの先端は、先細りの形状を有している。さらに、試料120内の磁束を均一にするために、試料120と、励磁用継鉄111a〜111dとの間には、0.1mm程度の隙間が設けられている。
【0022】
励磁コイル112a〜112dは、それぞれ励磁用継鉄111a〜111dに巻き回されている。
局所磁気センサ113は、試料120の一部分の上方に置かれると、その試料120の一部分における磁束密度B(={Bx,By})と、磁界H(={Hx,Hy})とを求める。本実施形態の局所磁気センサ113は、横方向(x軸方向)の長さが20mm、奥行き方向(y軸方向)の長さが20mmであり、横方向(x軸方向)及び奥行き方向(y軸方向)の長さがそれぞれ80mmである試料120よりも面積が小さくなるようにしている。このようにするのは、後述するように、局所磁気センサ113が、磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせる領域の測定を行うようにするためである。
【0023】
図3は、局所磁気センサ113の詳細な構成の一例を示した図である。具体的に図3(a)は、局所磁気センサ113の外観構成の一例を示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)のA−A´方向における局所磁気センサ113の側断面図であり、図3(c)は、局所磁気センサ113の底面図である。また、図3(d)は、図3(a)〜図3(c)に示したHxコイル113c及びHyコイル113dの外観図である。
図3において、局所磁気センサ113は、Bxプローブ113aと、Byプローブ113bと、Hxコイル113cと、Hyコイル113dと、これらBxプローブ113a、Byプローブ113b、Hxコイル113c、及びHyコイル113dを所定の位置に収容するケース113eとを有している。
【0024】
Bxプローブ113aは、試料120におけるx軸方向の磁束密度Bxを得るための針形状のプローブである。本実施形態では、試料120の厚さが0.35mmであり、Bxプローブ113a間の距離が15mmであるので、試料120の厚さがBxプローブ113a間の距離よりも十分に小さいとすることができる。そうすると、試料120におけるx軸方向の磁束密度Bxは、以下の(1式)により求めることができる。
【0025】
【数1】

【0026】
ここで、Vxは、Bxプローブ113a間に生じる電圧[V]であり、Sxは、試料120のx軸方向における有効断面積[m2]である。
【0027】
Byプローブ113bは、試料120におけるy軸方向の磁束密度Byを得るための針形状のプローブである。本実施形態では、試料120の厚さが0.35[mm]であり、Byプローブ113b間の距離が15[mm]であるので、試料120の厚さがByプローブ113b間の距離よりも十分に小さいとすることができる。そうすると、試料120におけるy軸方向の磁束密度Byは、以下の(2式)により求めることができる。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、Vyは、Byプローブ113b間に生じる電圧[V]であり、Syは、試料120のy軸方向における有効断面積[m2]である。
【0030】
Hyコイル113dは、試料120におけるy軸方向の磁界Hyを得るためのコイルであり、試料120の上方において、y軸方向に巻き回されている。Hxコイル113cは、試料120におけるx軸方向の磁束密度Hxを得るためのコイルであり、Hyコイル113d上でx軸方向に巻き回されている。
本実施形態では、Hxコイル113cに流れる電流を用いて、試料120のx軸方向における磁界Hxを求め、Hyコイル113dに流れる電流を用いて試料120のy軸方向における磁界Hyを求めるようにしている。
【0031】
駆動部109は、制御部101からの制御に従って、試料120の上方で局所磁気センサ113が試料120の面に沿って移動するように、局所磁気センサ113を駆動するためのものであり、例えば、ステッピングモータ等を用いて構成される。本実施形態では、図4に示すように、まず、局所磁気センサ113を、試料120の第1の領域120aの上方に移動させる。この第1の領域120aにおける測定が終了すると、局所磁気センサ113を、試料120の第2の領域120bの上方に移動させる。以降同様に、局所磁気センサ113を、第3〜第16の領域120c〜120rの上方に順番に移動させて各領域120c〜120rにおける測定を行う。
【0032】
なお、本実施形態では、駆動部109により局所磁気センサ113を移動させるようにしたが、例えば、オペレータが局所磁気センサ113を移動させるようにしてもよい。
また、本実施形態では、試料120を16個の領域120a〜120rに分けたが、磁束密度及び磁界に生じる分布が所定の範囲内であり、磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせれば、試料120をどのような領域に分けてもよい。
【0033】
本実施形態では、局所磁気センサ113が置かれている部分における磁束密度Bの波形が基準の波形(例えば正弦波)になるように励磁コイル112a〜112dに電力を供給して試料120を励磁させる。この状態でBxプローブ113a、Byプローブ113b、Hxコイル113c、及びHyコイル113dにおける電圧及び電流を測定し、測定した電圧及び電流から、局所磁気センサ113が置かれている部分における磁束密度B(={Bx,By})と、磁界H(={Hx,Hy})とを求めるようにしている。
【0034】
具体的に説明すると、まず、制御部101は、例えば、オペレータの入力部104の操作に基づいて、前記基準の波形を求めるためのパラメータを入力する。本実施形態では、このパラメータとして、最大磁束密度Bmax、最大磁束密度Bmaxに対する最小磁束密度Bminの割合α(=Bmin/Bmax)、及びx軸方向における磁束密度Bxと最大磁束密度Bmaxとのなす角度incを入力する(図5を参照)。
【0035】
本実施形態では、例えば、Bmaxが1T、αが0、incが0°であるパラメータと、Bmaxが1T、αが1、incが0°であるパラメータと、Bmaxが1T、αが0、incが45°であるパラメータとを入力する。
【0036】
そして、制御部101は、入力したパラメータを用いて、試料120におけるx軸方向の磁束密度Bxの基準の波形Bx´(t)を求めると共に、試料120におけるy軸方向の磁束密度Byの基準の波形By´(t)を求める。これら試料120におけるx軸方向の磁束密度Bxの基準の波形Bx´(t)と、試料120におけるy軸方向の磁束密度Byの基準の波形By´(t)は、それぞれ以下の(3式)と(4式)とにより表される。
【0037】
Bx´(t)=Bxo×sin(ωt+φx)・・・(3式)
By´(t)=Byo×sin(ωt+φy)・・・(4式)
ここで、Bxo、φx、Byo、φyは、それぞれ、磁束密度Bの基準の波形を求めるためのパラメータBmax、α、incを用いて決定される。
【0038】
制御部101は、試料120の磁束密度Bが、試料120におけるx軸方向の磁束密度Bxの基準の波形Bx´(t)と、試料120におけるy軸方向の磁束密度Byの基準の波形By´(t)とにより定められる磁束密度Bになるように、励磁コイル112a〜112dに印加する電圧の値(以下、電圧指示値と称す)を、X方向電源105及びY方向電源106に出力する。
【0039】
試料120のx軸方向を励磁するための励磁コイル112a、112bについては、例えば、以下の(5式)で表される電圧指示値Vx(t)をX方向電源105に出力する。また、試料120のy軸方向を励磁するための励磁コイル112c、112dについては、例えば、以下の(6式)で表される電圧指示値Vy(t)をY方向電源106に出力する。
【0040】
【数3】

【0041】
ここで、ex(t)、ey(t)は、以下の(7式)及び(8式)で表される。
ex(t)=Bx´(t)−Bx(t) ・・・(7式)
ey(t)=By´(t)−By(t) ・・・(8式)
ここで、Bx´(t)、By´(t)は、それぞれ前記(3式)及び(4式)で表される基準の波形である。また、Bx(t)は、磁気測定装置で既に測定された磁束密度のx軸方向の波形であり、By(t)は、磁気測定装置で既に測定された磁束密度のy軸方向の波形である。さらに、k1x、k2x、k3x、k1y、k2y、k3yは、一定値であり、オペレータ等によって適宜決定される値である。
【0042】
以上のようにして電圧指示値Vx(t)、Vy(t)を入力したX方向電源105及びY方向電源106は、その電圧指示値Vx(t)、Vy(t)に従って、励磁コイル112a〜112dに電圧を印加する。励磁コイル112a〜112dに印加された電圧と、励磁コイル112a〜112dに流れた電流は、それぞれ、第1のデジタルオシロスコープ107と、第2のデジタルオシロスコープ108でモニタされる。モニタされた電圧及び電流は、AD変換されて制御部101に出力される。これにより、制御部101は、励磁コイル112a〜112dに印加された電圧と、励磁コイル112a〜112dに流れた電流を知ることができる。
【0043】
以上のようにして励磁コイル112a〜112dに電圧が印加され、電流が流れると、試料400がx軸方向に励磁される。そうすると、Bxプローブ113a間に発生する電圧と、Bxプローブ113aに流れる電流とが、それぞれ第2のデジタルオシロスコープ108と、第1のデジタルオシロスコープ107とでモニタされる。モニタされた電圧及び電流は、AD変換されて制御部101に出力される。これにより、制御部101は、Bxプローブ113a間に発生する電圧と、Bxプローブ113aに流れる電流とを知ることができ、これらBxプローブ113aに発生する電圧と、Bxプローブ113aに流れる電流とを用いて、試料120のx軸方向における磁束密度Bxを求めることができる。
【0044】
また、励磁コイル112a〜112dに電圧が印加され、電流が流れると、Hxコイル113cに電圧が誘起され、電流が流れる。このようにしてHxコイル113cに流れる電流は、第2のデジタルオシロスコープ108でモニタされる。これにより、制御部101は、Hxコイル113cに流れる電流を知ることができ、このHxコイル113cに流れる電流を用いて、試料のx軸方向における磁界Hxを求めることができる。
【0045】
同様に、励磁コイル112a〜112dに電圧が印加され、電流が流れると、試料120のy軸方向が励磁される。そうすると、Byプローブ113b間に発生する電圧と、Byプローブ113bに流れる電流とが、それぞれ第2のデジタルオシロスコープ108と、第1のデジタルオシロスコープ107とでモニタされる。モニタされた電圧及び電流は、AD変換されて制御部101に出力される。これにより、制御部101は、Byプローブ113b間に発生する電圧と、Byプローブ113bに流れる電流とを知ることができ、試料120のy軸方向における磁束密度Byを求めることができる。
【0046】
また、励磁コイル112a〜112dに電圧が印加され、電流が流れると、Hyコイル113dに電圧が誘起され、電流が流れる。このようにしてHyコイル113dに流れる電流は、第2のデジタルオシロスコープ108でモニタされる。これにより、制御部101は、Hyコイル112dに流れる電流を知ることができ、試料のy軸方向における磁界Hyを求めることができる。
【0047】
以上のようにして求めた磁束密度Bx、Byのデータが1周期分集まると、制御部201は、以下の(9式)を用いて、磁束密度Bx、Byのデータが収束したか否かを判定する。
【0048】
【数4】

【0049】
この判定の結果、前記(9式)を満たす場合には、制御部201は、磁束密度Bx、Byの1周期分のデータと、それら磁束密度Bx、Byのデータに対応する磁界Hx、Hyの1周期分のデータとをデータ格納部102に格納すると共に、これら磁束密度Bx、Byのデータと、磁界Hx、Hyのデータとを用いて、試料120の1つの領域(例えば第1の領域120a)における透磁率と鉄損とを求める。ここで、試料120の各領域120a〜120rは、磁束密度や磁界に分布が一様であると見なせる小さな領域である。したがって、求められた透磁率や鉄損は、磁束密度や磁界の分布の影響を受けていないものになる。
【0050】
ここで、透磁率は、例えば、磁束密度Bx、Byと磁界Hx、Hyとの比を算出することにより求めることができる。また、鉄損は、例えば、磁束密度Bx、Byのデータと、磁界Hx、Hyのデータとから得られるB−Hカーブの面積を算出することにより求めることができる。
なお、本実施形態では、磁束密度Bx、Byのデータが収束したか否かを判定するようにしたが、磁界Hx、Hyのデータが収束したか否かを判定するようにしてもよい。
【0051】
一方、前記(9式)を満たさない場合には、前記(9式)を満たすまで、磁束密度Bx、Byの1周期分のデータと、磁界のHx、Hyの1周期分のデータとを繰り返し取得する。
【0052】
以上のようにして試料120の1つの領域における透磁率と鉄損とが求まると、試料120の全ての領域について測定を行ったか否かを判定する。この判定の結果、試料120の全ての領域について測定を行っていない場合には、次の領域(例えば第2の領域120b)の上方に局所磁気センサ113を移動させる。
そして、試料120の全ての領域について測定を行うと、制御部101は、試料120における鉄損の分布を求め、求めた鉄損の分布を103に表示する。
【0053】
次に、図6のフローチャートを参照しながら、本実施形態の磁気測定装置の制御部101の概略動作の一例を説明する。
まず、ステップS1において、磁束密度Bの基準の波形を求めるためのパラメータBmax、α、incが入力されるまで待機する。
【0054】
次に、ステップS2において、ステップS1で入力したパラメータBmax、α、incを用いて、局所磁気センサ113が置かれている部分における磁束密度Bの基準の波形を求める(前記(3式)及び(4式)を参照)。
【0055】
次に、ステップS3において、磁束密度Bの測定値を入力するまで待機する。磁束密度Bの測定値を入力すると、ステップS4に進み、前記(7式)及び(8式)を用いて、ステップS12で求めた磁束密度Bの基準の波形と、ステップS3で入力した磁束密度Bの測定値に基づく波形との差分ex(t)、ey(t)を求める。
【0056】
次に、ステップS5において、前記(5式)及び(6式)を用いて、電圧指示値Vx(t)、Vy(t)を求める。
次に、ステップS6において、ステップS5で求めた電圧指示値Vx(t)、Vy(t)を、それぞれX方向電源105、Y方向電源106に出力し、励磁コイル112a〜112dに印加する電圧値を指示する。
【0057】
次に、ステップS7において、ステップS3で入力したと判定した磁束密度Bの測定値が1周期分揃っているか否かを判定する。この判定の結果、1周期分の測定値が揃っていない場合には、1周期分の測定値が揃うまで、ステップS3〜ステップS7を繰り返す。
【0058】
こうして1周期分の測定値が揃うと、ステップS8に進み、前記(9式)の収束条件を満足するか否かを判定する。この判定の結果、前記(9式)の収束条件を満足しない場合には、前記(9式)の収束条件を満足するまで、ステップS3〜ステップS8を繰り返す。
【0059】
こうして前記(9式)の収束条件を満足すると、ステップS9に進み、磁束密度Bと、磁界Hの1周期分のデータをデータ格納部102に格納すると共に、これら磁束密度Bのデータと、磁界Hのデータとを用いて、試料400における透磁率と鉄損を求める。
【0060】
次に、ステップS10において、試料120の全ての領域(例えば図4の第1〜第16の領域120a〜120r)における測定が終了したか否かを判定する。この判定の結果、試料120の全ての領域における測定が終了していない場合には、ステップS11に進み、局所磁気センサ113を駆動するための制御信号を駆動部109に送信する。
【0061】
これにより駆動部109は、局所磁気センサ113を次の領域の上方に移動させる。そして、試料120の全ての領域における測定が終了するまでステップS3〜S11を繰り返す。こうして試料120の全ての領域における測定が終了すると、ステップS12において、試料における鉄損の分布を求め、求めた鉄損の分布を表示部103に表示させる。
【0062】
以上のように本実施形態では、磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせる複数の領域120a〜120rに試料120を分け、これら複数の領域120a〜120rにおける各々の鉄損を、局所磁気センサ113を用いて求め、求めた複数の領域129a〜120rにおける鉄損を用いて、試料120の鉄損の分布を求めるようにしたので、磁束密度や磁界の分布が一様な状態で鉄損の分布を求めることができる。これにより、試料120の鉄損の分布を求める際に、磁束密度や磁界の分布による影響を可及的に除去することができ、試料120の鉄損の分布を可及的に正確に求めることができるようになる。
特に、磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせる複数の領域120a〜120rにおける各々の鉄損を、局所磁気センサ113を用いて求めるので、例えば、数十mm以上の大きな結晶粒径を有し、面方向の磁気特性のゆらぎが大きいものを試料としても、その試料の磁気特性を可及的に正確に求めることができる。
【0063】
なお、本実施形態のように、図6のステップS8において、前記(9式)を用いて収束判定を行えば、より正確な測定を行うことができ好ましいが、必ずしもこの収束判定を行う必要はない。
【0064】
また、本実施形態では、試料120の磁束密度Bが、基準の波形になるように、励磁コイル112a〜112dに対する電圧指示値を決定するようにしたが、試料120の磁界Hが、基準の値になるように、励磁コイル112a〜112dに対する電圧指示値を決定するようにしてもよい。例えば、試料120の磁界Hが800A/mになるように、励磁コイル112a〜112dに対する電圧指示値を決定するようにしてもよい。
【0065】
また、本実施形態のように、磁束密度及び磁界の両方の分布が一様と見なせる複数の領域120a〜120rに試料120を分けるようにすれば、磁束密度や磁界の分布が一様な領域での鉄損を求めることができ、試料120の鉄損の分布をより正確に求めることができ好ましいが、必ずしも磁束密度及び磁界の両方の分布が一様と見なせる複数の領域120a〜120rに試料120を分ける必要はなく、磁束密度及び磁界の少なくとも何れか一方が一様と見なせる複数の領域120a〜120rに試料120を分ければよい。
【0066】
さらに、本実施形態では、磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせる複数の領域120a〜120rを予め決めるようにしているが、実際の測定結果に基づいて、磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせる複数の領域120a〜120rを求めるようにしてもよい。この場合には、例えば、試料120に対し、複数の領域を暫定的に設定し、設定した複数の領域毎に磁束密度及び磁界を求める。そして、求めた各領域における磁束密度及び磁界の分布が、所定の範囲内にある場合には、前記設定した複数の領域を、前記磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせる領域とする。一方、求めた各領域における磁束密度及び磁界の分布が、所定の範囲内にない場合には、その求めた結果に応じて前記設定した複数の領域を再設定する。このようにすれば、磁束密度及び磁界の分布が一様と見なせる複数の領域120a〜120rを、試料120に応じて決定することができるので、試料120の磁気特性をより正確に求めることができる。
【0067】
(本発明の他の実施形態)
前述した実施形態の機能を実現するべく各種のデバイスを動作させるように、該各種デバイスと接続された装置あるいはシステム内のコンピュータに対し、前記実施形態の機能を実現するためのソフトウェアのプログラムコードを供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(CPUあるいはMPU)に格納されたプログラムに従って前記各種デバイスを動作させることによって実施したものも、本発明の範疇に含まれる。
【0068】
また、この場合、前記ソフトウェアのプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、およびそのプログラムコードをコンピュータに供給するための手段、例えば、かかるプログラムコードを格納した記録媒体は本発明を構成する。かかるプログラムコードを記憶する記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0069】
また、コンピュータが供給されたプログラムコードを実行することにより、前述の実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)あるいは他のアプリケーションソフト等と共同して前述の実施形態の機能が実現される場合にもかかるプログラムコードは本発明の実施形態に含まれることは言うまでもない。
【0070】
さらに、供給されたプログラムコードがコンピュータの機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに格納された後、そのプログラムコードの指示に基づいてその機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合にも本発明に含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態を示し、磁気測定装置の構成の一例を示した図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、磁気測定装置に配設された試料設置部の詳細な構成の一例を示した図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、局所磁気センサの詳細な構成の一例を示した図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、鉄損を求める単位で試料を複数の領域に分けた様子の一例を示した図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、楕円磁束の概念の一例を示した図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、磁気測定装置の制御部の概略動作の一例を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
101 制御部
102 データ格納部
103 表示部
104 入力部
105 X方向電源
106 Y方向電源
109 駆動部
112 励磁コイル
113 局所磁気センサ
113a Bxプローブ
113b Byプローブ
113c Hxコイル
113d Hyコイル
120 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の磁性体の磁気特性を測定する磁気特性測定装置であって、
前記板状の磁性体の2次元方向における磁束密度を測定する磁束密度測定手段と、
前記板状の磁性体の2次元方向における磁界を測定する磁界測定手段と、
前記磁束密度測定手段により測定された磁束密度と、前記磁界測定手段により測定された磁界とを用いて、前記板状の磁性体における磁気特性の分布を求める磁気特性分布取得手段とを有し、
前記磁束密度測定手段は、磁束密度及び磁界の少なくとも何れか一方の分布が一様と見なせる複数の領域毎に前記板状の磁性体の磁束密度を測定し、
前記磁界測定手段は、前記複数の領域毎に前記板状の磁性体の磁界を測定することを特徴とする磁気測定装置。
【請求項2】
前記磁束密度測定手段及び前記磁界測定手段を駆動する駆動手段を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気測定装置。
【請求項3】
前記磁束密度測定手段により測定された磁束密度と、前記磁界測定手段により測定された磁界との何れか一方が所定の波形になるように、前記板状の磁性体を2次元方向に励磁する励磁手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気測定装置。
【請求項4】
前記磁束密度測定手段により測定された磁束密度、又は前記磁界測定手段により測定された磁界が収束したか否かを判定する収束判定手段を有し、
前記磁気特性分布取得手段は、前記収束判定手段により収束したと判定された磁束密度又は磁界と、その磁束密度又は磁界に対応する磁界又は磁束密度とを用いて、前記板状の磁性体における磁気特性の分布を求めることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気測定装置。
【請求項5】
前記磁束密度測定手段は、前記板状の磁性体の全ての領域における磁束密度を測定し、
前記磁界測定手段は、前記板状の磁性体の全ての領域における磁界を測定することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の磁気測定装置。
【請求項6】
板状の磁性体の磁気特性を測定する磁気特性測定方法であって、
磁束密度及び磁界の少なくとも何れか一方の分布が一様と見なせる複数の領域毎に前記板状の磁性体の磁束密度を測定する磁束密度測定ステップと、
前記複数の領域毎に前記板状の磁性体の磁界を測定する磁界測定ステップと、
前記磁束密度測定ステップにより測定された磁束密度と、前記磁界測定ステップにより測定された磁界とを用いて、前記板状の磁性体における磁気特性の分布を求める磁気特性分布取得ステップとを有することを特徴とする磁気測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−258481(P2006−258481A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73337(P2005−73337)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】