説明

磁気特性測定方法及び測定器

【課題】
検出コイルを用いて磁性体試料の磁気特性を測定する磁気特性測定器において、巻線間の浮遊容量の大きい検出コイルを用いて測定された場合、その検出コイルにより検出される磁性体試料の磁化変化に対応する応答信号には、しばしば減衰振動波形が含まれてしまい、正確な磁気特性の測定は困難であった。
【解決手段】
あらかじめ、検出コイルにインパルスを入力し、その入力に対する検出コイルの応答出力であるインパルス応答を測定しておく。磁性体試料の計測の際には、この事前に測定されていたインパルス応答との逆畳込みを行う補正回路を用いて、検出コイルにより検出される応答信号を補正し、分布容量の影響が排除された補正信号を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出コイルを用いて磁性体試料の磁気特性を測定する磁気特性測定方法及び測定器に関し、特に、検出コイルにより検出された磁性体試料の磁化変化に対応する応答信号が減衰振動を伴う場合の応答信号の補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体の磁化の検出には、一般的に検出コイルが用いられている。磁性体の磁化変化または、位置変化等によって検出コイル内部の磁束が変化するように、検出コイルを配置すると、この磁束変化に比例した起電力が検出コイルに生じる。この起電力は、磁性体試料の磁化変化に対応する応答信号として検出コイルの両端より出力される。本願では、以降の記述において、この磁性体試料の磁化変化に対応する検出コイルの出力信号を応答信号と呼称する。この応答信号を検出し、積分等の信号処理をすることにより、磁化信号を得ることができる。
【0003】
以下に、従来の磁化検出装置の中でも最も一般的であると思われる、検出コイルを用いた交流磁化検出装置の概要について、図13を用いて説明する。図13に示す交流磁化検出装置は、被測定試料である磁性体試料5に測定磁界を印加するための磁界コイル1a、1b、磁界コイル1a、1bに励磁電流を供給する励磁電源2、その測定磁界によって変化する磁性体試料5の磁化を検出するための検出コイル3、この検出コイル3より出力される応答信号を積分し、積分信号を磁化比例電圧として出力する積分器4、測定磁界を検出し磁界比例電圧を出力する測定磁界検出部6、および、磁化比例電圧と磁界比例電圧をXYグラフとして表示する表示部7を備える。測定磁界検出部6は、一例として、磁界コイル1a、1bに流れる励磁電流を測定し、磁界比例電圧に変換しても良い。
【0004】
励磁電源2によって磁界コイル1a、1bに交流電流を流すと、磁性体試料5には測定磁界が印加される。この測定磁界の変化に追随して磁性体試料5の磁化が変化し、検出コイル3を貫く磁束量が変化し、検出コイル3に起電力が生じ、検出コイル3の両端より応答信号が出力される。この応答信号を取り込み、積分器4で積分すると、磁化比例電圧を得ることが出来る。測定磁界検出部6で得られた磁界比例電圧を横軸に、積分器4で得られた磁化比例電圧を縦軸とし、XYグラフとして表示部7に出力すれば、磁性体の磁気特性を表すヒステリシスループ(MHループ)が表示される。
【0005】
ここで、検出コイル3を貫く磁束は、磁性体試料5の磁化に起因する成分と測定磁界に起因する成分との重ねあわせであるため、磁化に起因する成分のみを抽出するための工夫が必要である。その工夫の例として、図14に示すように、検出コイル3に対して、逆巻きかつ同巻数、同断面積の補償コイル8を検出コイル3に直列につなぎ、測定磁界に起因する成分をキャンセルさせる方法がある。
【0006】
上述した従来の磁気特性測定器において、問題とされるのが、検出コイル3がある特定の共振周波数を有することである。これは、検出感度を上げるために、検出コイル3の巻数を多くすると、巻線間の浮遊容量が無視できなくなり、検出コイル3のインダクタンスと巻線間の浮遊容量がある周波数で共振を起こすことによる。その結果、特に、検出コイル3内の磁束変化が共振周波数以上の周波数成分を持った場合、しばしば検出コイル3の応答信号には、減衰振動波形が含まれることとなる。この振動波形が生じた際の計測結果(ヒステリシスループ)を図15に示す。図15に示すように、検出コイル3からの応答信号に減衰振動波形が含まれる場合、その計測結果は信頼のおけるものではなく、正確な磁気特性の測定において問題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、巻線間の浮遊容量が問題となる検出コイルを用いて測定された応答信号に対して、浮遊容量の影響を補正し、より正確な磁気特性が測定できる磁気特性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の磁気特性測定方法は、磁性体試料の磁気特性を検出する検出コイルのインパルス応答を求めるインパルス応答測定ステップと、磁性体試料に測定磁界を印加する磁界印加ステップと、測定磁界に対する磁性体試料の磁化変化に対応する応答信号を検出コイルより検出する検出ステップと、検出ステップで得られた応答信号を、インパルス応答との逆畳込みによって補正する補正ステップを含む。
この方法によれば、浮遊容量の影響がある検出コイルの出力を適正に補正して、より正しい磁気特性を測定することが出来る。
請求項2記載の磁気特性測定方法のインパルス応答測定ステップでは、インパルス応答を、検出コイルにステップ磁界を印加した場合の検出コイルの応答波形から求める。
請求項3記載の磁気特性測定方法のインパルス応答測定ステップでは、インパルス応答を、検出コイルにインパルス電流を注入した場合の検出コイルの応答波形から求める。
これらの方法によれば、応答信号の補正に必要な検出コイルのインパルス応答を的確に求めることが出来る。
請求項4記載の磁気特性測定方法では、インパルス応答を、振幅項と指数関数項と余弦関数項と単位ステップ関数項の積からなる近似インパルス応答で近似する。
請求項5記載の磁気特性測定方法では、近似インパルス応答を、検出ステップにおいて検出した応答信号から求める。
請求項6記載の磁気特性測定方法では、近似インパルス応答を、応答信号の周波数分析スペクトラムから求める。
請求項7記載の磁気特性測定方法では、近似インパルス応答を、応答信号を時間軸上で表した減衰振動波形から求める。
これらの方法によれば、検出コイルのインパルス応答を、減衰振幅をもつ比較的簡易な式で近似し、近似式の調整パラメーターを、実測した応答パルスの周波数分析スペクトラムあるいは減衰振動波形から求めることが出来る。その結果、通常の検出コイルに広く適用可能な近似インパルス応答を得られる。
請求項10記載の磁気特性測定器は、磁性体試料に測定磁界を印加する磁界コイルと、測定磁界を発生する励磁電流を磁界コイルに流す励磁電源と、測定磁界を検出し、磁界比例電圧を出力する磁界検出部と、測定磁界に対する磁性体試料の磁化変化に対応する応答信号を出力する検出コイルと、応答信号を、検出コイルのインパルス応答との逆畳込みによって補正し、補正信号を出力する補正部と、補正信号を積分して、磁性体試料の磁化量に比例する磁化比例電圧を出力する積分部と、磁界比例電圧と磁化比例電圧とを用いて、磁性体試料のM−Hループを表示する表示部とを備える。
この構成によれば、浮遊容量の影響がある検出コイルの応答信号を適正に補正して、より正しい磁気特性を測定することが出来る磁気特性測定器を提供できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、巻線間の浮遊容量が問題となる検出コイルを用いて測定された応答信号に対して、浮遊容量の影響を補正し、より正確な磁気特性が測定できる磁気特性測定方法および測定器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(逆畳込みの手法)
【0011】
具体的な実施の形態の説明の前に、本発明の要となる検出コイルの出力信号に対する逆畳込みの手法について簡単に説明する。
【0012】
検出コイルにインパルスを入力した場合、分布容量の影響により、検出コイルの応答出力には減衰振動波形が含まれることになる。このインパルス入力に対する分布容量の影響を加味した検出コイルの応答出力を、本願では、インパルス応答と呼称する。このインパルス応答は、一般的に各検出コイルに固有の波形を持つ。
【0013】
ここで、分布容量の影響のない理想的な検出コイルを想定する。この理想的な検出コイルを、本願では理想検出コイルと呼称する。分布容量の影響がないため、この理想検出コイルの出力する応答信号は、減衰振動波形の含まれない「真」の応答信号といえる。本願発明の主題は、現実の検出コイルから出力される減衰振動波形の含まれた応答信号から、仮にコイルが理想検出コイルである場合の減衰振動波形の含まれない応答信号を近似的に推定することにある。
【0014】
ここで、インパルス応答をh(t)、実際の磁化反転による理想検出コイルの応答信号をx(t)、実際の磁化反転による現実の検出コイルの応答信号をy(t)とすると、これらの応答信号間には、「数1」の畳み込み積分が成立する。「数1」の数式中に現れる記号「*」は、畳み込み積分を表す演算記号である。
【数1】

【0015】
一般に数値解析においては、連続関数ではなく離散系関数を用いた方が、計算が容易である。そこで「数1」を離散系関数で表すこととする。離散系におけるサンプリング周期をTとすれば、t=nTとして、連続関数h(t)、y(t)、x(t)を離散系関数h(n)、y(n)、x(n)と置き換えることができる。よって、「数1」を離散系関数で示せば、「数2」の畳み込み和が成立する。
【数2】

【0016】
ここで、「数2」の各項のz変換をY(z)、H(z)、X(z)とする。z変換の定義は、「数3」の通りである。zは離散系伝達関数で用いられる演算子であり、このz変換を用いることにより、離散系における過渡応答の数値解析が容易になる。
【数3】

【0017】
「数3」を用いて「数2」をz変換し整理すると伝達関数Y(z)、H(z)、X(z)の状態方程式「数4」を得ることができる。
【数4】

【0018】
ここで、インパルス応答H(z)の逆関数を一般式で「数5」のように記述する。
【数5】

【0019】
これを「数4」に代入して整理すればX(z)とY(z)の関係式「数6」が得られる。
【数6】

【0020】
「数6」を逆z変換して再度離散系関数で表すと、検出コイルの逆回路を表す差分方程式「数7」が得られる。「数7」の定数群aj,biは、インパルス応答h(n)を測定しz変換することにより定めることができる。測定された応答信号y(k)を「数7」に代入することにより、理想検出コイルの応答信号x(k)、すなわち、浮遊容量の影響の無い検出コイルの応答信号を得ることができる。
【数7】

【0021】
(第一の実施の形態)
【0022】
図1は、本発明の第一の実施の形態における磁気特性測定器のブロック図である。本形態の磁気特性測定器は、磁性体試料15に測定磁界を印加するための磁界コイル11a、11b、この磁界コイル11a、11bに励磁電流を流すための励磁電源12、測定磁界を検出し、磁界比例電圧を出力する磁界検出部16、測定磁界に対する磁性体試料15の磁化変化に対応する応答信号を出力する検出コイル13、この検出コイルに生じた応答信号を検出コイルのインパルス応答との逆畳込みによって補正し、補正信号を出力する補正部19と、補正信号を積分して磁性体試料15の磁化量に比例する磁化比例電圧を出力する積分器14と、磁界比例電圧と磁化比例電圧とを用いて、磁性体試料15のM−Hループを表示する表示部17とを備える。
【0023】
励磁電源12と磁界コイル11a、11bは、励磁電源12からの励磁電流が磁界コイル11a、11bに供給されるように接続される。検出コイル13は、磁界コイル11a、11bが発生する測定磁界が、ほぼ均一になる領域内(均一磁界範囲内)に配置する。また、被測定物である磁性体試料15は、均一磁界範囲内で、かつ、その試料の磁化変化によって検出コイル13を貫く磁束が変化するような位置に配置する。検出コイル13から出力される応答信号は、補正部19および積分器14で処理されたのち表示部17に出力され、また、磁界検出部16からの出力も表示部に送られる。なお、磁界比例電圧、磁化比例電圧の信号レベルが低い場合は、これらの信号ラインにはプリアンプなどの信号増幅器が適宜挿入される。
【0024】
また、磁界検出部16での測定磁界の検出方法としては、ガウスメーターやフラックスコイルなどで測定磁界を直接検出する方法がある。また、この磁界コイル11a、11bによって発生する測定磁界は、磁界コイル11a、11bに通電される励磁電流と比例関係にあるため、この励磁電流を検出することにより、測定磁界を間接的に推定する方法もある。励磁電流の検出には、磁界コイル11a、11bに直列に接続されたシャント抵抗、またはカレントトランスを用いる。
【0025】
本形態の磁気特性測定器の動作を、図2に示すフローチャートに従って説明する。
(インパルス応答測定ステップS1)検出コイル13にインパルスを入力し、その入力に対する検出コイル13のインパルス応答を測定し、その測定結果より差分方程式「数7」の定数群ai、bjを算出して、差分方程式「数7」を定式化する。
【0026】
ここで、差分方程式「数7」の定数群をインパルス応答h(n)より求める方法を以下に示す。インパルス応答測定ステップS1で測定されたインパルス応答は、離散系関数で表すことにより、「数8」で示される数列で書き下すことができる。ここで、Mは減衰振動波形であるインパルス応答がほぼ0に収束するまでのサンプル数である。
【数8】

【0027】
「数8」をz変換することにより「数9」が得られる。
【数9】

【0028】
ここで、「数9」の逆関数は「数10」である。
【数10】

【0029】
「数6」と「数7」の数式間の対応関係を、「数10」に適応すると補正のための差分方程式「数11」が求まる。後述する補正ステップS4においては、この差分方程式「数11」を用いて、逆畳込みによる応答信号の補正を行う。
【数11】

【0030】
なお、一度得られた差分方程式「数11」は、検出コイル13が交換された場合や変形した場合を除き、常用的な補正式として、その後の測定時の補正に活用できる。つまり、このインパルス応答測定ステップS1は、一度この差分方程式「数11」を求めてしまえば、以降はその得られた補正式を利用すればよいため、その後の計測の都度に必ずしも行う必要はない。
【0031】
上述したインパルス応答を測定し、逆畳込みのための差分方程式を決定するまでの過程を本願では、インパルス応答測定ステップと呼称する。
【0032】
(磁界印加ステップS2)磁性体試料15に測定磁界を印加する。磁性体試料15をセットした後、励磁電源12から磁界コイル11a、11bに励磁電流を通電し、測定磁界を発生させる。なお、励磁電流は、正弦波波形の交流電流を用いるのが、一般的である。また、測定磁界が検出され、この測定磁界に比例した磁界比例電圧が表示部に出力される。測定磁界印加に関する、この一連の処理ステップを、本願では、磁界印加ステップと呼称する。
【0033】
(検出ステップS3)磁性体試料15の磁化変化に対応して検出コイル13より出力される応答信号を検出する。磁界印加ステップS2で磁性体試料15に印加された測定磁界により、磁性体試料15の内部磁化が変化し、それに伴い、検出コイル13内部の磁束量が変化し、検出コイル13には起電力が発生し、磁性体試料15の磁化変化に対応する応答信号が出力される。一般に、磁性体試料15が薄膜などの場合、この応答信号は極めて微弱であるため、オペアンプ等の増幅器で信号を増幅する必要がある。検出コイル13の応答信号検出のための、この一連の処理ステップを、本願では、検出ステップと呼称する。
【0034】
(補正ステップS4)検出ステップS3にて得られた検出コイル13の応答信号を補正する。検出コイル13の応答信号には、分布容量の影響による減衰振動波形が含まれている。この応答信号に補正を施し、分布容量の影響がない検出コイルを用いた場合に得られるであろう応答信号を得る。補正方法として、インパルス応答測定ステップS1で求めた差分方程式「数11」による逆畳込み処理を用いる。
【0035】
より具体的には、差分方程式「数11」に基づいた補正回路を構成して、逆畳込みを実行する。すなわち、図3は、本形態の磁気特性測定器に用いられる補正回路のブロック図である。入力端子51より入力された応答信号y(k)は、増幅器52によって、1/p0倍され、加算器53に送られる。ここでp0は差分方程式「数11」中の定数である。加算器53の出力は、遅延素子54−1へ送られる。遅延回路54−1へと送られた信号は、サンプリング周期Tの遅延を伴って、遅延回路54−2へと出力される。この遅延回路54−1の出力信号は、出力端子56から出力される出力信号x(k)より1サンプリング時間(=T)だけ遅れているのでx(k−1)と表せる。遅延回路54−1の場合と同様に、遅延回路54−2へと送られた信号x(k−1)は、さらにサンプリング周期Tの遅延を伴って、次段の遅延回路へと信号x(k−2)として出力される。以下同様に、信号は、M個の遅延回路を通過し、最終段である54−Mにおいては、T×Mだけの遅延を伴った信号x(k−M)が出力される。
【0036】
各遅延回路54−1〜Mより出力される遅延を伴ったM個の信号x(k−N)(Nは1からMまでの整数)は、それぞれ増幅器55−N(Nは1からMまでの整数)により、pN/p0倍される。pN(Nは1からMまでの整数)は、差分方程式「数11」中の定数である。その後、増幅器55−Nで増幅された各信号は、加算器53で加算され、出力端子56より補正信号x(k)として出力される。
【0037】
この応答信号に対する一連の補正処理ステップを、本願では補正ステップと呼称する。図4にこの補正を加える前後の波形を示し、この補正の効果を示す。図4において、波形Fは、補正前の応答信号波形であり、図3のy(k)に相当する。分布容量の影響により減衰振動波形を含んでいることがわかる。波形Gは、補正回路による補正を施した後の応答信号波形(すなわち、補正信号波形)であり、図3のx(k)に相当する。補正回路の働きにより、減衰信号波形が除去され、「真」の応答波形が得られている。
【0038】
(積分ステップS5)補正ステップにより補正された応答信号、すなわち補正信号は、さらに積分処理を施される。積分には、積分器を用いる方法、または、コンピュータなどを手段として数値計算を行い、積分を行う方法がある。この積分処理によって得られた信号は、磁化と比例関係にある磁化比例電圧として、表示部に出力される。この一連の補正信号の積分するステップを、本願では、積分ステップと呼称する。
図5にこの積分処理によって得られる波形を示す。波形Hは、補正ステップを含まない、すなわち、従来技術に基づいた測定方法で検出された磁化比例電圧の波形である。応答信号に含まれる減衰振動波形の影響が積分後の波形にも現れている。波形Iは、本願発明に基づいた測定方法で検出された磁化比例電圧の波形である。波形Hに見られるような減衰振動波形の影響が除去されていることに注意されたい。
【0039】
(表示ステップS6)積分ステップS5において出力された磁化比例電圧を縦軸、磁界印加ステップS2において出力された磁界比例電圧を横軸としてディスプレイにXYグラフとして表示される。一般的には、マルチチャンネルオシロスコープなどを用いて表示する。この表示結果として、MHループが得られる。このMHループを表示するための一連の処理ステップを、本願では、表示ステップと呼称する。以上で本形態の磁気特性測定器の一連の動作が終了する。
【0040】
(第二の実施の形態)
【0041】
第二の実施の形態における磁気特性測定器のブロック図および測定動作のフローチャートは、上述した第一の実施の形態と同様であるが、本形態においては、インパルス応答測定ステップS1におけるインパルスの入力方法として、検出コイル13にステップ磁界を印加する方法を用いる。
図6を用いて、本形態のインパルス応答測定ステップS1をより具体的に説明する。パルス磁界の発生用コイルとして、パルス磁界発生用コイル21を用いる。パルス磁界発生用コイル21は、そのインダクタンスを抑えるため、極力内径を小さくし、かつ、極力巻き数を少なくする。負荷のインピーダンスが低いために、電流源22による電流供給が難しい場合は、電流源22の出力インピーダンスにあわせて、抵抗等をパルス磁界発生用コイル21に直列に接続する。このパルス磁界発生用コイル21には、電流の立ち上がり特性の良い電流源22を接続する。インパルス応答測定ステップS1において、この電流源22よりステップ状の電流をパルス磁界発生用コイル21に供給することによりステップ磁界を発生させる。ステップ磁界が加えられることにより、検出コイル23には、インパルス状の起電力が発生し、インパルス応答を検出することが出来る。
【0042】
(第三の実施の形態)
【0043】
第三の実施の形態における磁気特性測定器のブロック図および測定動作のフローチャートは、上述した第一の実施の形態と同様であるが、本形態においては、インパルス応答測定ステップS1におけるインパルスの入力方法として、検出コイルにインパルス電流を供給する方法を用いる。
図7を用いて、より具体的に説明する。検出コイル33に直列に抵抗34を接続し、抵抗34に並列にパルス電圧源32を接続する。インパルス応答測定ステップS1においては、パルス電圧源32よりパルス電圧を供給することにより、検出コイル33にインパルス電流を流し、その際のインパルス応答を測定する。このインパルス応答は、検出コイル13の浮遊容量の影響を含んでいる応答である。
【0044】
(第四の実施の形態)
【0045】
第四の実施の形態における磁気特性測定器のブロック図および測定動作のフローチャートは、上述した第一の実施の形態と同様であるが、測定動作のフローチャートが異なる。以下で、この測定の違いについて説明する。
本形態においては、図8に示されるフローチャートに従った測定動作が行われる。
(磁界印加ステップS11)試料に測定磁界を印加する。この磁界印加ステップS11の具体的内容は、第一の形態で説明された磁界印加ステップS2と同様である。
(検出ステップS12)検出コイル13より応答信号を検出する。この検出ステップS12の具体的内容は、第一の形態で説明された検出ステップS3と同様である。
(インパルス応答測定ステップS13)本形態と第一の形態との大きな違いは、以下に述べるインパルス応答測定ステップS13にある。本形態では、検出ステップS12で検出した応答信号より近似インパルス応答を算出し、逆畳込みの処理に用いる。
【0046】
インパルス応答の波形は、「数12」で示される振幅項と指数関数項と余弦関数項と単位ステップ関数項の積からなる近似式で近似できる。図9にインパルス応答波形と「数12」より得られる近似波形とを重ねてあわせて示す。波形Dは実際の測定によって得られたインパルス応答であり、波形Eは、これを「数12」で近似したものである。この図の示すとおり、「数12」で示されるインパルス応答の近似式を用いれば、精度よくインパルス応答波形の近似値を得ることができる。また、検出ステップS12で検出された応答信号には、分布容量の影響による減衰振動波形が含まれているが、この減衰振動波形は、検出コイルのインパルス応答波形と近似性がある。すなわち、応答信号に含まれる減衰振動波形に、インパルス応答の近似式「数12」をフィッティングすることにより、近似的なインパルス応答を得ることができる。本願では、この近似的なインパルス応答を近似インパルス応答と呼称する。この手法によれば、「数12」が示すように、振動の周期を決める特性値ωと減衰の時定数であるαの2値によって、検出コイル13のインパルス応答特性を近似的に表すことができる。なお「数12」において、u(n)はステップ関数(n<0でu(n)=0,n>=0でu(n)=1である関数)、TはAD変換のサンプリング周期、A0はインパルス入力の大きさに比例する初期振幅を示す。インパルス応答測定ステップS13では、検出ステップS12で検出された応答信号を「数12」にフィッティングして近似インパルス応答を求め、求められた近似インパルス応答より、補正のための差分方程式を求める。以下にこの差分方程式の算出方法を記述する。
【数12】

【0047】
インパルス応答の近似式「数12」をz変換することにより「数13」が得られる。
【数13】

【0048】
「数13」の逆関数は「数14」で表される。なお、「数14」では、後の差分方程式の導出のために、定数定義により「数5」に対応する式形に書き換えている。
【数14】

【0049】
よって、「数6」と「数7」の数式間の対応関係を、「数14」に適応すると補正のための差分方程式「数15」が求まる。後述する補正ステップS16においては、この差分方程式「数15」を用いて、応答信号の逆畳込み処理を行う。差分方程式「数15」の定数群は、インパルス応答の近似式「数12」の定数ωおよびαより簡単に算出できる。ここで得られた差分方程式「数15」は検出コイル13が交換された場合や変形した場合を除き、常用できる式として、その後の補正に利用できる。つまり、このインパルス応答測定ステップS13は、一度この差分方程式「数15」を求めておけば、以降はその得られた差分方程式「数15」を利用すればよいため、その後の計測の都度に必ずしも行う必要はない。
【数15】

【0050】
(磁界印加ステップS14)実際の磁性測定に移るため、再び試料に測定磁界を印加する。この磁界印加ステップS11の具体的内容は、第一の形態で説明された磁界印加ステップS2と同様である。
(検出ステップS15)検出コイル13より応答信号を検出する。この検出ステップS12の具体的内容は、第一の形態で説明された検出ステップS3と同様である。
【0051】
(補正ステップS16)検出ステップS15にて得られた応答信号に対して補正を施し、分布容量の影響がない検出コイルを用いた場合と同等の応答信号を得る。補正方法として、インパルス応答測定ステップS13で求めた差分方程式「数15」による逆畳込み処理を用いる。
【0052】
より具体的には、差分方程式「数15」に基づいた補正回路を構成して、逆畳込みを実行する。すなわち、図10は、本形態の磁気特性測定器に用いられる補正回路のブロック図である。入力端子61より入力された応答信号y(k)は、遅延回路62−1へ送られる。遅延回路62−1へと送られた信号は、サンプリング周期Tの遅延を伴って、遅延回路62−2へと出力される。この遅延回路62−1の出力信号は、出力端子61から入力される入力信号y(k)より1サンプリング時間(=T)だけ遅れているのでy(k−1)と表せる。遅延回路62−1の場合と同様に、遅延回路62−2へと送られた信号y(k−1)は、サンプリング周期Tの遅延を伴って、遅延回路62−2より信号y(k−2)として出力される。次に、入力信号y(k)、遅延回路からの出力y(k−1)および、y(k−2)は、それぞれ、増幅器63−1、63−2、63−3によって、a0倍、a1倍、a2倍される。ここで、a0、a1、a2は、差分方程式「数15」中の定数である。次に、増幅器63−1、63−2、63−3によって増幅された信号は、加算器64でそれぞれ加え合わされ、加算器65へ出力される。
【0053】
加算器65からの出力は、遅延回路66によって、サンプリング周期Tの遅延を伴って、増幅器67へと出力される。遅延回路66からの出力は、出力端子68から出力される出力信号x(k)より1サンプリング時間(=T)だけ遅れているのでx(k−1)と表せる。増幅器67へと出力された信号x(k−1)は、増幅器67によって(−b1)倍され、加算器65へと出力される。加算器65は、加算器64からの出力、すなわちa0・y(k)+a1・y(k−1)+a2・y(k−2)と、増幅器67からの出力、すなわち(−b1)・x(k−1)を加算して出力端子68より出力する。
【0054】
(積分ステップS17)補正ステップにより補正された応答信号、すなわち補正信号x(k)は、さらに積分処理を施される。この積分ステップS17の具体的内容は、第一の形態で説明された積分ステップS5と同様である。
(表示ステップS18)積分ステップS17において出力された磁化比例電圧を縦軸、磁界印加ステップS2において出力された磁界比例電圧を横軸としてディスプレイにXYグラフとして表示される。
【0055】
(第五の実施の形態)
【0056】
第五の実施の形態における磁気特性測定器のブロック図および測定動作のフローチャートは、上述した第四の実施の形態と同様であるが、本形態においては、インパルス応答測定ステップS13における、応答信号からの近似インパルス応答の算出方法として、応答信号の周波数分析スペクトラムを用いる。以下で、この手法を図11を用いて示す。応答信号41に、FFT等の処理42を施し、応答信号の周波数分析スペクトラム43を得る。応答信号41には、検出コイル13の浮遊容量による減衰振動波形が含まれているため、周波数分析スペクトラム43は、この検出コイル13の共振周波数fにピークを持つ。この共振周波数fの2π倍は、近似インパルス応答の式「数12」におけるωに相当する。この手法により、「数12」の2定数ω、αのうち一方が求まるため、近似インパルス応答を求めるためのフィッティングが容易になる。
【0057】
(第六の実施の形態)
【0058】
第六の実施の形態における磁気特性測定器のブロック図および測定動作のフローチャートは、上述した第四の実施の形態と同様であるが、本形態においては、インパルス応答測定ステップS13における、応答信号からの近似インパルス応答の算出方法として、応答信号を時間軸上で表した減衰振動波形を用いる。この手法を、図12を用いて示す。図12は、応答信号を時間軸上で表した減衰振動波形を図示したものである。この減衰振動波形より、近似インパルス応答「数12」の2定数ω、αを求めることができる。まず、減衰振動波形がy=0の軸と交わる点、すなわちゼロクロス点の間隔Aより、ω=2π/2Aとしてωの値を求めることが出来る。また、第一のピークのピーク値をB、第二のピークのピーク値をCとすれば、α=(ln(B)−ln(C))/2Aとして、各減衰振動のピークの推移よりαを求めることが出来る。ここに、ln(X)は、変数Xに対する自然対数関数である。よって、応答信号を時間軸上で表した減衰振動波形より、容易に近似インパルス応答を算出することが可能である。
【0059】
以上の6つの実施形態において、補正ステップ、積分ステップ、表示ステップ等々をコンピュータに実行させるためのソフトウェアを用いれば、本願発明に関わる多くの機能をコンピュータに担わせることが可能である。コンピュータにてこれらのステップを実行するためには、AD変換を行ってアナログ信号をデジタル信号に変換し、これをコンピュータに取り込む必要がある。AD変換には、コンピュータに内蔵可能なAD変換ボードを用いる。
【0060】
補正ステップにおいては、逆畳込みのための差分方程式をコンピュータによる数値計算で解くことにより、図3、図10に示される補正回路と同様の補正を応答信号に対し行うことができる。
【0061】
積分ステップにおいては、補正ステップで得られた補正信号に対し、コンピュータによる数値積分を施すことにより、アナログ積分器で積分した場合と同様の積分結果を得ることができる。
【0062】
表示ステップにおいては、AD変換でコンピュータに取り込まれた磁界比例電圧、磁化比例電圧をコンピュータに接続されたディスプレイ上にXYグラフとして表示すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本願発明の装置構成
【図2】本願発明の測定動作フロー1
【図3】インパルス応答より求まる補正回路
【図4】補正の効果
【図5】補正後の積分結果
【図6】ステップ磁界によるインパルス応答測定
【図7】インパルス電流によるインパルス応答測定
【図8】本願発明の測定動作フロー2
【図9】「数12」によるインパルス応答の近似
【図10】近似インパルス応答を用いた補正回路
【図11】周波数分析スペクトラムを用いた近似インパルス応答の算出
【図12】応答信号を時間軸上で表した減衰振動波形
【図13】従来技術
【図14】補償コイルを用いた検出コイルの形状
【図15】減衰振動波形の含まれたMHループ
【符号の説明】
【0064】
1a,1b 磁界コイル
2 励磁電源
3 検出コイル
4 積分器
5 磁性体試料
6 測定磁界検出部
7 表示部
8 補償コイル
11a,11b 磁界コイル
12 励磁電源
13 検出コイル
14 積分器
15 磁性体試料
16 測定磁界検出部
17 表示部
19 補正部
21 パルス磁界発生用コイル
22 電流源
23 検出コイル
31a,31b 磁界コイル
32 パルス電圧源
33 検出コイル
34 抵抗
35 補正部
41 応答波形
42 FFT等の信号処理
43 周波数分析スペクトラム
51 入力端子
52 増幅器
53 加算器
54−1,54−2,54−M 遅延回路
55−1,55−2,55−M 遅延回路
56 出力端子
61 入力端子
62−1,62−2 遅延回路
63−1,63−2,63−3 増幅器
64 加算器
65 加算器
66 遅延回路
67 増幅器
68 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体試料の磁気特性を検出する検出コイルのインパルス応答を求めるインパルス応答測定ステップと、
前記磁性体試料に測定磁界を印加する磁界印加ステップと、
前記測定磁界に対する前記磁性体試料の磁化変化に対応する応答信号を前記検出コイルより検出する検出ステップと、
前記検出ステップで得られた前記応答信号を、前記インパルス応答との逆畳込みによって補正する補正ステップを含む、磁気特性測定方法。
【請求項2】
前記インパルス応答測定ステップでは、前記インパルス応答を、前記検出コイルにステップ磁界を印加した場合の応答波形から求める、請求項1記載の磁気特性測定方法。
【請求項3】
前記インパルス応答測定ステップでは、前記インパルス応答を、前記検出コイルにインパルス電流を注入した場合の応答波形から求める、請求項1記載の磁気特性測定方法。
【請求項4】
前記インパルス応答を、振幅項と指数関数項と余弦関数項と単位ステップ関数項の積からなる近似インパルス応答で近似する、請求項1記載の磁気特性測定方法。
【請求項5】
前記近似インパルス応答を、前記検出ステップにおいて検出した前記応答信号から求める、請求項4記載の磁気特性測定方法。
【請求項6】
前記近似インパルス応答を、前記応答信号の周波数分析スペクトラムから求める、請求項5記載の磁気特性測定方法。
【請求項7】
前記近似インパルス応答を、前記応答信号を時間軸上で表した減衰振動波形から求める、請求項5記載の磁気特性測定方法。
【請求項8】
前記補正ステップでは、前記インパルス応答のz変換から求まる伝達関数を有する逆回路を構成して、前記検出ステップにおいて検出した前記応答信号を、前記逆回路を通すことによって補正する、請求項1記載の磁気特性測定方法。
【請求項9】
前記補正ステップでは、前記近似インパルス応答のz変換から求まる伝達関数を有する逆回路を構成して、前記検出ステップにおいて検出した前記応答信号を、前記逆回路を通すことによって補正する、請求項4記載の磁気特性測定方法。
【請求項10】
磁性体試料に測定磁界を印加する磁界コイルと、
前記測定磁界を発生する励磁電流を前記磁界コイルに流す励磁電源と、
前記測定磁界を検出し、磁界比例電圧を出力する磁界検出部と、
前記測定磁界に対する前記磁性体試料の磁化変化に対応する応答信号を出力する検出コイルと、
前記応答信号を、前記検出コイルのインパルス応答との逆畳込みによって補正し、補正信号を出力する補正部と、
前記補正信号を積分して、前記磁性体試料の磁化量に比例する磁化比例電圧を出力する積分部と、
前記磁界比例電圧と前記磁化比例電圧とを用いて、前記磁性体試料のM−Hループを表示する表示部とを備えた、磁気特性測定器。
【請求項11】
前記補正部と前記積分部の少なくともいずれか一方をソフトウェアで実現した、請求項10記載の磁気特性測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−33195(P2007−33195A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215947(P2005−215947)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(500050882)株式会社テスラ (1)
【Fターム(参考)】