説明

磁気記録媒体用基板の製造方法

【課題】ブランク材の残留応力を完全に除去するようにブランク材を適正に矯正することができること。
【解決手段】最上端にあるブランク材14aiの凸面側(巻きの外側)の表面の中央部の周縁が矯正ブロック10の押圧面10PSに当接し、また、最下端にあるブランク材14aiの凹面側の周縁が矯正ブロック12の押圧面12PSに当接するように配置された後、所定の圧力により、ブランク材14aiの凸面が矯正ブロック10の押圧面10PSに倣って反転し、矯正ブロック12の押圧面12に倣って凹面となるまで変形され矯正されるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク等における基材となる磁気記録媒体用基板は、アルミニウムマグネシウム合金に無電解ニッケルリンめっきを施したアルミニウム製基板と、アルミノシリケート系ガラスやソーダライム系ガラスを用いたガラス製基板に大別される。アルミニウム製基板を基材とする磁気ディスクは、主に据え置き型コンピューターの記憶装置の用途に使われている。
【0003】
磁気記録媒体用基板は、例えば、所定の厚さのアルミニウムマグネシウム合金等のフープ材(コイル材)がプレス加工により環状に打ち抜かれ成形される。得られた環状のブランク材における圧延歪やプレス歪は、先ず、例えば、焼鈍工程にて250〜400℃、1枚のブランク材あたり0.1〜1(kg/cm2)圧力で1〜12時間の熱処理を行うことにより取除かれる。次に、熱処理されたブランク材は、旋盤加工と研削加工によって内外径や板厚等の寸法出しや面精度出しが行われることにより、得られる磁気ディスクの形状が作り込まれる。続いて、機械加工されたブランク材は、表面硬化層として無電解ニッケルリンめっきが10〜20μm程度施され、更にそれに対し表面粗さをRa=0.5nm以下にする鏡面加工が施されることによって磁気ディスク用アルミニウム基板となる。その鏡面加工においては、アルミナやコロイダルシリカ等の研磨剤が用いられる。
【0004】
得られた磁気ディスクは、磁気記録再生装置等において高記憶密度と高速アクセスを実現するために5000〜10000rpmの高速回転しながら磁気ヘッドと数ナノメーターの僅かな隙間を維持する必要が有るので磁気ディスク(ブランク材)の比較的高い平坦度が求められる。その平坦度は、例えば、入射光と反射光の干渉を応用したニュートンリング法にて得られる干渉縞の数を計測する方法で測定され、最低部と最高部の高低差で表される。最近の300(Gb/in2)以上の超高密度記録媒体用のアルミニウム基板においては、例えば、直径95mmの磁気記録媒体の場合、平坦度は、例えば、10μm以内であることが必要である。
【0005】
打ち抜かれたブランク材の平坦度を良好にするためには、例えば、特許文献1および特許文献2にも示されるように、ブランク材に加圧された状態で熱処理が施される熱処理方法が提案されている。斯かる熱処理方法においては、環状の各ディスクの孔に案内パイプが貫通するように複数枚のディスクがその厚さ方向に互いに積み重ねられる。案内パイプは、その中を貫通する支持棒により支持されている。これにより、複数のディスクからなるディスク積層体が複数個、形成される。各ディスク積層体は、スペーサを介して案内パイプの中心軸線に沿って積み重ねられた後、所定の重さの錘が最上端にあるディスク積層体上に載せられる。これにより、錘の荷重が積み重ねられた各積層体に作用された状態で熱処理が施されることとなる。
【0006】
このような熱処理方法においては、最上段のディスク積層体と最下段のディスク積層体とは、そのディスク積層体の自重により作用される加圧圧力が異なるので最下段のディスク積層体に、適切な圧力以上の圧力が作用することとなり、適正な平坦度が得られない虞がある。
【0007】
このような問題を解消すべく、例えば、特許文献3にも示されるように、水平に置かれた支柱にスペーサを介して支持された複数のディスク積層体にスプリングの弾性力で加圧した状態で熱処理を行う加圧焼鈍方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−192261号公報
【特許文献2】特開平7−192262号公報
【特許文献3】特開平9−316614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように磁気記録媒体用基板が、フープ材(コイル材)がプレス加工により環状に打ち抜かれ成形される場合、打ち抜かれたブランク材は湾曲状の巻き癖がついているので上述したような加圧焼鈍方法によっても、残留応力が完全に取り切れず熱処理後のブランク材の形状が湾曲した状態となり、従って、ブランク材における良好な平坦度が得られない場合がある。
【0010】
以上の問題点を考慮し、本発明は、磁気記録媒体用基板の製造方法であって、ブランク材の残留応力を完全に除去するようにブランク材を適正に矯正することができる磁気記録媒体用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明に係る磁気記録媒体用基板の製造方法は、凸型球面状の押圧面を有する第1の矯正ブロックと第1の矯正ブロックに対し近接または離隔可能に配され凹型球面状の押圧面を有する第2の矯正ブロックとの間に、湾曲面を有する少なくとも1枚の円板状のブランク材を、湾曲面が第1の矯正ブロックの押圧面に当接されるように配置する工程と、第1の矯正ブロックを第2の矯正ブロックに対し近接させブランク材の湾曲面が第1の矯正ブロックの押圧面に倣って反転し、第2の矯正ブロックの押圧面に倣って凹面となるまで変形され保持された状態で、ブランク材に対し焼鈍する工程と、を含んでなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る磁気記録媒体用基板の製造方法によれば、湾曲面を有する少なくとも1枚の円板状のブランク材を、湾曲面が第1の矯正ブロックの押圧面に当接されるように配置する工程と、第1の矯正ブロックを第2の矯正ブロックに対し近接させブランク材の湾曲面が第1の矯正ブロックの押圧面に倣って反転し、第2の矯正ブロックの押圧面に倣って凹面となるまで変形され保持された状態で、ブランク材に対し焼鈍する工程とを含むことにより、加圧焼鈍時にブランク材の湾曲面を反転させるように余計に変形させて矯正すれば、最終的なブランク材の形状が平坦になる様にして防ぐことができるのでブランク材の残留応力を完全に除去するようにブランク材を適正に矯正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体用基板の製造方法の一例に用いられるディスク矯正装置の構成をブランク材とともに概略的に示す。
【図2】図1に示される例において用いられる一方の矯正ブロックの断面を示す断面図である。
【図3】図1に示される例において用いられる他方の矯正ブロックの断面を示す断面図である。
【図4】(A)および(B)は、それぞれ、本発明に係る磁気記録媒体用基板の製造方法の一例に用いられるディスク矯正装置の他の一例をブランク材とともに概略的に示す。
【図5】各実施例および各比較例におけるブランク材の平坦度の検証についての結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、磁気記録媒体用基板の製造方法の一例に用いられるディスク矯正装置を概略的に示す。
【0015】
図1において、ディスク矯正装置は、図示が省略される基台上に配される矯正ブロック12と、複数枚のブランク材14ai(i=1〜10)を挟んで相対向配置される矯正ブロック10と、所定の重さを有する錘Wとを含んで構成されている。
【0016】
環状のブランク材14aiは、プレス加工により、例えば、板圧1.8mmのアルミニウム合金製のフープ材から打ち抜かれて成形される。その際、ブランク材14aiは、完成品として得られる磁気ディスクの外径および内径の値よりも加工代分だけ外周が大きく内周が小さくなるように、例えば、外径95mm,内径25mmとなるように打ち抜かれる。この時、ブランク材の裏表だけでなく、ブランク材の向きも、フープ材の巻き方向に一致するように揃えておくことが望ましい。
【0017】
得られたブランク材14aiは、後述するように、加圧焼鈍処理された後、ダイヤモンド単結晶バイト、および、それが取付けられた旋盤により、ブランク材14aiの内径および外径の寸法出しおよび面取り加工が行われる。次に、ブランク材14aiの表面は、スポンジ砥石を装着した両面ラップ盤によって所定の厚さになる様にラップ加工される。この状態の基板が、アルミサブストレートと呼称される。
【0018】
続いて、無電解ニッケルめっきが、アルミサブストレートの表面に10〜20μm程度のめっき膜が形成されるように施される。その無電解ニッケルめっきは、12%以上のリンを含有したものが使用される。これは、無電解ニッケルめっきが高温で結晶化すると共に磁性を持つ様になり、磁気ディスクとした場合のノイズ源となるので耐熱非磁性特性を良くする目的からである。無電解ニッケルめっきを完了した状態のアルミサブストレートは、無電解ニッケルサブストレートと呼称される。
【0019】
無電解ニッケルサブストレートは、無電解ニッケルめっきの析出応力を取除く目的で150〜300℃のアニールが行われた後、無電解ニッケルサブストレートの表面が鏡面研磨された後、それが、磁気ディスクの成膜工程に供される。鏡面研磨は、平均粒径0.5〜1.5μmのアルミナ研磨材と平均粒径10〜50nmのコロイダルシリカ研磨材とを順次、使って行われ、その表面における平均表面粗さRaが、例えば、0.2nm以下になるまで行われる。
【0020】
図1において、円柱形状の矯正ブロック12は、例えば、アルミニウムマグネシウム合金で作られ、凹型球面状の押圧面12PSを一方の端面に有している。矯正ブロック12の他方の端面は、平坦面である。矯正ブロック12の直径は、ブランク材14aiの直径に比べ+20mm以上大きいことが望ましい。矯正ブロック12の厚さは、後述するように、加圧時に撓まないことが必要であり、30mm以上であることが望ましい。矯正ブロック12の直径および厚さは、それぞれ、例えば、直径100mm、厚さ50mmに設定されている。
【0021】
但し、矯正ブロック12の大きさが、大き過ぎたり厚すぎたりすると作業性が悪かったり、熱処理用の加熱炉等における矯正ブロック12の配置スペースを大きく取らなければならなかったりするので矯正ブロック12の直径および厚さは、それぞれ、ブランク材14aiの直径に対し+50mm以下の寸法、70mm以下の厚さであることが望ましい。
【0022】
球面12PSの平坦度は、例えば、2μmを超え5μm以下の範囲に設定されている。その際、平坦度FLとは、図1において、球面12PSにおいて、ブランク材14aiの外周縁が当接する位置12t1と球面12PSの中央部における最下端の位置12t2との高低差の値をいう。
【0023】
円柱形状の矯正ブロック10は、例えば、アルミニウムマグネシウム合金で作られ、凸型球面状の押圧面10PSを一方の端面に有している。矯正ブロック10の他方の端面は平坦面である。矯正ブロック10の直径および厚さは、上述の矯正ブロック12の直径および厚さと同一に設定されている。
【0024】
矯正ブロック12の押圧面12PSおよび矯正ブロック10の押圧面10PSは、それぞれ、例えば、図示が省略されるが、回転定盤を備えたラップ盤により形成される。上述のラップ盤は、太陽ギアを内周中央に備えるとともに、歯が内周側を向いたインターナルギアを外周に備えている。そのラップ盤は、各ギヤ及び定盤それぞれの回転方向及び回転数を独立して制御できる様になっている。
【0025】
そのような回転定盤には、スポンジ砥石が貼り付けられている。スポンジ砥石は、シリコンカーバイドやアルミナ等の硬質研磨砥粒がメラミン系の発泡樹脂に分散されたものとされる。
【0026】
矯正ブロック12の押圧面12PSを形成するにあたっては、凹型球面に対応するように上述のスポンジ砥石の形状が内周に比べ外周が低い凸形状とされる。このスポンジ砥石により、ラップ加工が押圧面12PSに対し行われる。
【0027】
上述のように、スポンジ砥石の形状を整えるには、鋳鉄製円板のドレッシングパッドが用いられる。ドレッシングパッドの外周には、歯が刻まれており、その定盤上に設置すると定盤の内周側が太陽ギアと、外周側がインターナルギアと噛み合う様になっている。二つのギアの回転方向および回転数を可変することにより、ドレッシングパッドの自転回数および方向を可変できる。それに、上述の定盤の回転を組み合わせることによって、ドレッシングパッドのスポンジ砥石に対する自転速度および公転速度をそれぞれ制御できる様になっている。例えば、ドレッシングパッドの公転速度が同じ場合に、自転が速い場合には比べ遅い場合は、スポンジ砥石の外周側の削れ方が激しくなるのでスポンジ砥石形状を凸形状にできることとなる。一方、スポンジ砥石形状を凹形状にしたい場合は、逆に、ドレッシングパッドの公転数を早くすることとなる。
【0028】
錘Wは、矯正ブロック10を複数枚のブランク材14aiを介して矯正ブロック12に対し近接する方向に押圧するものとされる。例えば、10枚のブランク材14aiが重ねられる場合、錘Wの重さは、1枚当たり圧力が約0.1〜1.0(kg/cm2)の範囲で作用されるような値に設定されている。これは、ブランク材14aiの形状の矯正に圧力を加えることも必要であり、0.1〜1(kg/cm2)程度の圧力が一枚のブランク材14aiに対し作用するのが良いからである。
【0029】
複数枚のブランク材14aiが矯正ブロック10の押圧面10PSと矯正ブロック12の押圧面12PSとの間に重ねられる場合、図1に示されるように、最上端にあるブランク材14aiの凸面側(巻きの外側)の表面の中央部の周縁が矯正ブロック10の押圧面10PSに当接し、また、最下端にあるブランク材14aiの凹面側の周縁が矯正ブロック12の押圧面12PSに当接するように配置される。最上端にあるブランク材14aiと最下端にあるブランク材14aiとの間にある中間のブランク材14aiは、その曲がりの方向を互いに一致させて積み重ねられる。即ち、矯正ブロック10の押圧面10PS、矯正ブロック12の押圧面12PS及びブランク材14aiの重なる向きが重要である。
【0030】
このようにブランク材14aiを重ねるのは、本発明者によれば、(A)加圧焼鈍後に磁気ディスクの形状が変化する向きが、フープ材の巻き癖と同方向であること、(B)加圧焼鈍を行なっているが巻き癖矯正による残留応力が完全に取り切れずに、ブランク材14aiの形状が元の状態に戻ってしまうことが判ったからである。この巻き癖矯正法を鋭意研究した結果、加圧焼鈍時にこの形状戻り分を考慮して反対方向に余計に変形させて矯正すれば、最終的なブランク材14aiの形状が平坦になる様にして防ぐことが出来ることが判った。
【0031】
なお、矯正ブロック10および12間に挟むブランク材14aiは、1枚でも良いが、量産性を上げるために5枚〜50枚程度のブランク材14aiを上述のように重ねて加圧してもよい。ブランク材14aiを重ねる場合は、一方のブランク材14aiの凹面側の周縁と他方のブランク材14aiの凸面側の周縁が互いに向き合うように重ねることが重要である。
【0032】
斯かる構成において、上述のように重ねられた複数枚のブランク材14aiに対し加圧焼鈍処理を行う場合、加圧焼鈍時の温度は、アルミニウム板を充分に軟化させる必要からその周囲の温度を200℃以上、好ましくは、250℃以上とする必要がある。しかし、アルミ結晶粒径が再結晶化により肥大化すると、その上に形成する無電解ニッケルに欠陥ができやすくなるので400℃以下、好ましくは、350℃以下である必要がある。即ち、加圧焼鈍時の温度は、250℃以上350℃以下の範囲であることが好ましい。
【0033】
加熱時間は、低温程長くしなければならず高温では短くても良い。加熱時間は、例えば、1〜12時間を必要とする。
【0034】
上述の例においては、複数枚のブランク材14aiに対し加圧焼鈍処理を行う場合、錘Wにより複数枚のブランク材14ai全体が加圧されているが、斯かる例に限られることなく、例えば、図4(A)および(B)に示されるように、複数枚のブランク材24ai全体がコイルスプリング28の付勢力により加圧されてもよい。
【0035】
図4(A)においては、ディスク矯正装置は、凹部26Rを有する基台26上に配される矯正ブロック22と、複数枚のブランク材24ai(i=1〜10)を挟んで矯正ブロック22に対し相対向配置される矯正ブロック20と、矯正ブロック22および矯正ブロック20相互間に配される複数枚のブランク材24aiを加圧する加圧機構とを含んで構成されている。
【0036】
環状のブランク材24aiは、プレス加工により、例えば、板圧1.8mmのアルミニウム合金製のフープ材から打ち抜かれて成形される。その際、ブランク材14aiは、完成品として得られる磁気ディスクの外径および内径の値よりも加工代分だけ外周が大きく内周が小さくなるように、例えば、外径95mm,内径25mmとなるように打ち抜かれる。
【0037】
円筒状の矯正ブロック22は、後述する締結ボルト30が挿入される孔22aをその中央部に有している。矯正ブロック22は、例えば、アルミニウムマグネシウム合金で作られ、凹型球面状の押圧面22PSを一方の端面に有している。矯正ブロック22の他方の端面は、平坦面である。矯正ブロック22の寸法は、上述の矯正ブロック12と同一の寸法に設定されている。押圧面22PSの平坦度FLは、例えば、2μmを超え5μm以下の範囲に設定されている。
【0038】
円筒状の矯正ブロック20は、締結ボルト30が挿入される孔20aをその中央部に有している。矯正ブロック20は、例えば、アルミニウムマグネシウム合金で作られ、凸型球面状の押圧面20PSを一方の端面に有している。矯正ブロック20の他方の端面は、平坦面である。矯正ブロック20の寸法は、上述の矯正ブロック10と同一の寸法に設定されている。
【0039】
加圧機構は、所定の間隔をもって配される矯正ブロック20および22を互いに近接する方向に付勢するコイルスプリング28と、二つのワッシャWaおよびWb相互間に自由長から所定長さだけ縮められたコイルスプリング28を保持する締結ボルト30およびナット32とを含んで構成されている。
【0040】
コイルスプリング28は、所定のばね定数を有し、矯正ブロック20の上端面に配されるワッシャWbとそれに向かい合うワッシャWaとの間であって締結ボルト30に巻装されている。
【0041】
上述の加圧焼鈍処理を複数枚のブランク材24aiに対し行う場合、図4(B)に示されるように、締結ボルト30は、矯正ブロック20の孔20a、複数枚のブランク材24aiの孔、および、矯正ブロック22の孔22aを貫通するとともに、ワッシャWaの孔,コイルスプリング28の内周、ワッシャWbの孔を貫通するように配置される。締結ボルト30の先端には、ワッシャWaを介してナット32が締結されている。これにより、コイルスプリング28の所定の弾性力が、ワッシャWbおよび矯正ブロック20を介して複数枚のブランク材24aiに作用することとなる。
【0042】
複数枚のブランク材24aiを矯正ブロック22の押圧面22PSと矯正ブロック20の押圧面20PSとの間に配置するにあたっては、図4(A)に示されるように、予め矯正ブロック22の押圧面22PSと矯正ブロック20の押圧面20PSとの間に配される一対の位置規制治具24内に、上述した要領で複数枚のブランク材24aiが重ねられて配置される。位置規制治具24は、その内周面が各ブランク材24aiの外周縁部に当接することにより各ブランク材24aiを位置決めするものとされる。これにより、複数枚のブランク材24aiが、共通の中心軸線と同心上に重ね合わされることとなる。次に、締結ボルト30が矯正ブロック20の孔20a、複数枚のブランク材24aiの孔、および、矯正ブロック22の孔22aを貫通されるとともに、ワッシャWa,コイルスプリング28の内周、ワッシャWbの孔を貫通された後、一対の位置規制治具24が互いに離隔するように、矯正ブロック20および22相互間から取り外される。そして、上述のように、締結ボルト30の先端に、ワッシャWaを介してナット32が締め込まれ締結されることとなる。従って、複数枚のブランク材24aiは、図4(B)に示されるように、所定の圧力により、図4(A)に示されるブランク材24aiの凸面が図4(B)に示されるように、矯正ブロック20の押圧面20PSに倣って反転し、矯正ブロック22の押圧面22PSに倣って凹面となるまで変形され矯正されることとなる。
【0043】
本願の発明者により、図4(B)に示されるディスク矯正装置を用いて10枚のブランク材24aiに対し加圧焼鈍処理が行われ、得られた10枚のブランク材24aiの平坦度について検証された(図5における実施例1乃至実施例6参照)。また、上述の例における矯正ブロックの平坦度の異なる矯正ブロックを用いた比較例1、比較例3、比較例4、および、上述の例におけるブランク材24aiの初期状態とは異なるようにブランク材24aiの初期の配置向きを反転させた比較例2によって得られたブランク材24aiについて検証された(図5における比較例1乃至比較例4を参照)。
【0044】
加圧焼鈍は、矯正ブロック20および22間に10枚のブランク材を挟み込んで行われた。実施例1〜実施例6においては、平坦度が2μmを超え5μm以下の球面形状の矯正ブロックを用い、凸面の矯正ブロックにはブランク材の凸面側を、凹面の矯正ブロックには凹面側を向い合せる様に挟み込み加圧焼鈍した場合である。
【0045】
無電解ニッケルサブストレートのアニールは、例えば、治具(縦置きカセット)を用いて行われた。その治具は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂で作られ、収容溝を複数個有している。略U字形の断面形状を有する収容溝は、それぞれ、治具の内周面部に長手方向に沿って所定の間隔で形成されている。無電解ニッケルサブストレートを1枚づつ収容する収容溝は、無電解ニッケルサブストレートの外周縁の一部を嵌め込み保持するものとされる。隣接する収容溝は、仕切り壁により仕切られている。これにより、無電解ニッケルサブストレートは、その記録面を互いに向き合わせて水平方向に沿って配列されることとなる。
【0046】
図5は、上述の検証の結果を示す。但し、図5において、ブランク材24aiは、図5に示される各条件で加圧焼鈍された後、その前後でその平坦度が測定された。ブランク材24aiには、更に12μmの無電解ニッケルめっきが施され、無電解ニッケルサブストレートとしてから、媒体磁性膜成膜工程での熱処理を想定して250℃で1hrのアニールが施された後に、再度平坦度の測定を行い、平坦度の悪化の有無が調べられた。図5においては、加圧焼鈍条件と共にブランク材及び無電解ニッケルサブストレートの平坦度を示す。
【0047】
矯正ブロック20および22は、アルミニウム製ブランク材24aiと同組成のアルミマグネシウム合金で作られている。矯正ブロック20および22の外形寸法は、直径100mm、厚さ50mmのものとされた。矯正ブロック20,22及びブランク材24ai,サブストレートの平坦度測定においては、ニデック社製FT−17が用いられ、ニュートンリング法で行われた。平坦度測定は10枚(合計20面)を行いその平均値とした。
【0048】
判定は、250℃で1hrのアニールを行った後の無電解ニッケルサブストレートの平坦度が5μm以下である場合を合格とし、5μmを超える場合を不合格とした。
【0049】
比較例1乃至比較例4において、矯正ブロックの平坦度がマイナスとなっているものは、ブランク材の凸面を矯正ブロックの凹面側に、凹面を凸面に合せて挟み込んだことを表す。
【0050】
図5に示される結果から明らかなように、ブランク材24aiは、焼鈍後に5μm以下に矯正されると共に、無電解ニッケルを施した後に更に250℃で1hrのアニールを施しても、形状に大きな変化は見られず、高密度記憶媒体に必要とされる平坦度5μm以下の平坦度を保持することができた。
【0051】
一方、比較例1は、矯正ブロックに2μmを下回る平坦度のものを用いたので矯正が充分に行われずに、無電解ニッケルサブストレートの250℃で1hrアニール後の平坦度が5μmを越えてしまった。
【0052】
比較例2は、矯正ブロックに対するブランク材の向きを矯正ブロック凸面側にブランク材凹面を矯正ブロック凹面側にブランク材凸面を配して加圧焼鈍した場合である。やはり矯正が、不十分で無電解ニッケルサブストレートの平坦度が5μmを超えてしまった。
【0053】
比較例3および比較例4は、矯正ブロックのどちらかの平坦度が5μmを超えた場合である。やはり、無電解ニッケルサブストレートの平坦度は、5μmを超えてしまった。
【0054】
なお、両側の矯正ブロックの平坦度が5μmを超えた場合は調べていないが、無電解ニッケルサブストレートの平坦度が、5μmを超えてしまうのは自明であると考えられる。
【0055】
また、矯正ブロックの表面形状は、回転定盤を用いるラップ加工において、定盤形状を制御することにより造り込むことができる。ラップ加工の被加工物は、ラップ定盤の形状に倣うので、例えば、矯正ブロックを凸形状にするにはラップ定盤を内周から外周にかけて凹形状に調整することによって可能になる。凹形状にする場合は、逆にラップ定盤を凹形状にすることによって可能になる。矯正ブロックの加工は、ラップ法に限定される訳ではなく、直径φ95の円内で2μmを超え5μm以内の許容公差を持つ凹球面形状に必要な加工精度が得られれば、旋盤加工や研磨加工、プレス加工等他の方法も適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
10、12、20、22 矯正ブロック
10PS,12PS、20PS、22PS 押圧面
24ai ブランク材
28 コイルスプリング
W 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸型球面状の押圧面を有する第1の矯正ブロックと該第1の矯正ブロックに対し近接または離隔可能に配され凹型球面状の押圧面を有する第2の矯正ブロックとの間に、湾曲面を有する少なくとも1枚の円板状のブランク材を、該湾曲面が該第1の矯正ブロックの押圧面に当接されるように配置する工程と、
前記第1の矯正ブロックを前記第2の矯正ブロックに対し近接させ前記ブランク材の湾曲面が該第1の矯正ブロックの押圧面に倣って反転し、前記第2の矯正ブロックの押圧面に倣って凹面となるまで変形され保持された状態で、前記ブランク材に対し焼鈍する工程と、
を含んでなる磁気記録媒体用基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2の矯正ブロックの凹型球面状の押圧面は、2μmを越え5μm以下の平坦度を有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−119039(P2012−119039A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269409(P2010−269409)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】