説明

磁気軸受装置及び該磁気軸受装置を搭載した固液分離機

【課題】電磁石の電源が入っているときには所定の剛性を維持でき、電源が切られた際にはベアリングにタッチダウン可能で、かつ制御方向に直角な偏心に対しても有効に作用しつつこの偏心方向には磁束の漏れが少ない磁気軸受装置及び該磁気軸受装置を搭載した固液分離機を搭載した固液分離機を提供する。
【解決手段】固定子コア29の下面には2つの電磁石鉄心29a、29bが突設されている。この2つの電磁石鉄心29a、29bの間に一つの環状スロット49が形成されている。この環状スロット49と電磁石鉄心29aの内側及び環状スロット49と電磁石鉄心29bの外側とにそれぞれ巻線を配設する。一方、回転子コア35の上面には、この電磁石鉄心29a、29bに対峙するように回転軸を中心として環状に磁性体51、53が突設されている。この磁性体51、53の間に環状の永久磁石55が固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気軸受装置及び該磁気軸受装置を搭載した固液分離機に係わり、特に電磁石の電源が入っているときには所定の剛性を維持でき、電源が切られた際にはベアリングにタッチダウン可能で、かつ制御方向に直角な偏心に対しても有効に作用しつつこの偏心方向には磁束の漏れが少ない磁気軸受装置及び該磁気軸受装置を搭載した固液分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機の原理で固体と液体を分離する固液分離機は化学工業や鉱業、窯業、金属工業の分野における製品製造や排水処理などに広く用いられている。例えば化学工業の分野では、携帯電話にも用いられているニッケル合金や水酸化アルミなどの合金、微粉の回収に用いられたり、鉱業、窯業、金属工業では微粉炭や金属鉱石の回収に用いられている。
【0003】
固液分離機としては図23に示したような横型が主流である。ところで、横型は筒底に分離水が蓄積し効率が悪いことが認識されている。そこで、この効率を改善するため、図24に示したような縦型にすると、分離水が360度方向に拡散し、効率的に固液分離が可能である。
【0004】
図25にこの縦型固液分離機100の構造を示す。この構造については特許文献1に開示がある。図25において、外筒1の内側にはアンギュラ軸受3を介して内筒5が回転自在に軸支されている。このアンギュラ軸受3により内筒5は径方向、軸方向共に安定して支持されるようになっている。
【0005】
そして、この内筒5の内側には、周囲に螺旋状に突設された分流リブ板6(均等拡散装置)を備えるスクリューコンベアー7が回転自在なようになっている。このスクリューコンベアー7の中間部分には通路9が形成されている。そして、この通路9は、スクリューコンベアー7の中心を貫通する貫通穴11と連通され、更にこの貫通穴11は外筒1の上端に形成されたフィード口13と連通されている。また、外筒1の上面と内筒5、スクリューコンベアー7の間の空間には堰15が形成され、この堰15は外筒1に設けられた排出口17に通じている。
【0006】
内筒5とスクリューコンベアー7は本体上部に取り付けられた図示しない差速装置により速度差をつけて同方向に回転される。原液を本体上部のフィード口13から投入すると貫通穴11及び通路9を介して内筒5とスクリューコンベアー7の間に形成された空間に入る。その後、遠心効果により固形物は内筒5の内壁に付着してスクリューコンベアー7で下方に排出され、比重の軽い分離液は推力によって上昇し、堰15を通って排出口17より外部に排出される。
【0007】
次にこの縦型固液分離機100の特徴について説明する。スクリューコンベアー7の中程には分流リブ板6(均等拡散装置)が設けられており、供給された原液を360度方向に拡散させている。
【0008】
そして、部品一つ一つのバランスを取り、均等に重量配分させて安定構造となっているため、微振動型で安定している。脱水効果は、従来型の脱水機と比較して、5〜20%以上の低含水率である。固液の分離は、遠心力と固形物と液体の比重差で分離させているので、比重差のある固体スラリーであれば、サブミクロンの微細粒子の回収ができる。また、脱水から濃縮まで幅広く対応が可能である。
【0009】
ところで、上述した固液分離作業の効率をより一層上昇させるためには、装置を大型にして処理容量の増加を図ることが望まれる。この際には、装置の大型化にともない、アンギュラ軸受3の径を広げる必要がある。しかしながら、規格により現状のものより大きなアンギュラ軸受3は存在しない。
【0010】
そこで、この問題を解決するため、今回発明者等によりアンギュラ軸受3の替わりに磁気軸受を採用することが提案及び検討された。この装置の大型化に伴い電磁力としては軸方向にほぼ7000(N)程度以上必要であることも検討された。ここに、磁気軸受により軸方向や径方向を支持する先行技術として、従来、例えば特許文献2や特許文献3が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−038068号公報
【特許文献2】特開2005−121157号公報(図8)
【特許文献3】特開平8−296645号公報(図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、従来の特許文献2や特許文献3による方法では電磁石と永久磁石との組み合わせにより吸引力を発生させるものであり、電磁石の鉄心の向きと永久磁石の起磁力の向きとが一致するように配設されている。このため、電磁石の電源を切った後でも永久磁石の鉄心に対する作用により吸引力が残ってしまう。従って、別途配設されたベアリングにタッチダウンさせる形で装置を停止することが出来なかった。
【0013】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、電磁石の電源が入っているときには所定の剛性を維持でき、電源が切られた際にはベアリングにタッチダウン可能で、かつ制御方向に直角な偏心に対しても有効に作用しつつこの偏心方向には磁束の漏れが少ない磁気軸受装置及び該磁気軸受装置を搭載した固液分離機を搭載した固液分離機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このため本発明は、回転軸を中心に回転する回転体に形成された回転コアと、該回転コアに配設され軸方向に磁極を有する永久磁石と、該永久磁石と対峙して配設され軸方向に磁極を有し前記回転軸回りに均等配設された複数の電磁石と、該電磁石が取り付けられた固定子コアと、前記回転体の軸方向位置を検出する位置センサと、該位置センサで検出した位置信号に基づき前記回転体の軸方向の位置を調整する軸方向位置調整手段とを備えて構成してもよい。
【0015】
以上により、軸方向に作用する起磁力を所望としている起磁力の大きさに調整できる。
【0016】
また、本発明(請求項1)は、回転軸を中心に回転する回転体に形成され比透磁率の高い材質からなる回転コアと、該回転コアに対し前記回転軸を中心に環状に形成された複数の磁性体部と、該磁性体部の間に挟装され、径方向に磁極を有する少なくとも一つの永久磁石と、前記磁性体部と対峙して環状に配設され前記永久磁石を介し閉磁路が形成されるように軸方向に向けた磁極をそれぞれ有する複数の電磁石と、該電磁石が取り付けられた固定子コアと、前記回転体の軸方向位置を検出する位置センサと、該位置センサで検出した位置信号に基づき前記回転体の軸方向の位置を調整する軸方向位置調整手段とを備えて構成した。
【0017】
比透磁率は7000以上であることが望ましい。電磁石に流れる電流を切ると閉磁路を流れていた電磁石による磁束は消滅する。このとき、永久磁石の磁界は大部分が比透磁率の高い材質からなる回転コアを流れる漏れ磁束となるため軸方向に作用する磁界は極度に弱まり、回転体は自重により落下し、ベアリング等にタッチダウンする。
【0018】
また、電磁石が環状であり、永久磁石も同様に環状に形成される。このため、電磁石及び磁性体部には永久磁石を介し閉磁路が形成され、半径方向にも復元力を有することができる。このことにより、回転体が半径方向にずれたときにも復元力が働くので半径方向への支持が可能になる。
【0019】
更に、本発明(請求項2)は、請求項1に記載された磁気軸受装置を搭載した縦型の固液分離機であって、前記回転体が内筒であり、該内筒の内側に該内筒とは異なる速度にて駆動されるスクリューを備え、該スクリューを貫通する貫通穴を通じて流入した固体及び液体の混合原液が前記内筒と前記スクリューの間に回転しつつ通されることで固体と液体とが分離されることを特徴とする。
【0020】
内筒の内部を流れる原液が磁性体の場合、原液が磁気軸受付近を通過する際に磁気軸受が作る磁場により影響を受ける恐れがある。しかしながら、本磁気軸受を搭載した固液分離機においては、運転中には磁束は閉磁路を流れ、一方、停止のときには永久磁石の磁界の大部分が比透磁率の高い材質からなる回転コアを流れる漏れ磁束となるため外部に対し磁場の影響を与えることがない。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、回転コアに配設され軸方向に磁極を有する永久磁石と、この永久磁石と対峙して固定子コアに配設され軸方向に磁極を有し回転軸回りに均等配設された複数の電磁石とを備えて構成したので、軸方向に作用する起磁力を所望としている起磁力の大きさに調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態である固液分離機の磁気軸受周辺の概念構成図
【図2】固定子コアの下面の様子
【図3】回転子コアの上面の様子
【図4】簡易モデルの固定子側の断面図
【図5】簡易モデルの回転子側の断面図
【図6】シミュレーションに用いた材料及び仕様
【図7】シミュレーションの解析結果
【図8】本発明の第2実施形態である固液分離機の磁気軸受周辺の概念構成図
【図9】簡易モデルの固定子側の断面図
【図10】簡易モデルの回転子側の断面図
【図11】シミュレーションの解析結果
【図12】シミュレーションの解析結果
【図13】永久磁石を回転子コアに対し配設しなかった場合
【図14】永久磁石を回転子コアに対し配設した場合(その1)
【図15】永久磁石を回転子コアに対し配設した場合(その2)
【図16】磁束密度とアキシャル方向電磁力の解析を行った地点
【図17】磁性体の表面の磁束密度と電磁石電流との関係(永久磁石を配設した場合と配設しない場合)
【図18】回転子コア内の磁束密度と電磁石電流との関係(永久磁石を配設した場合と配設しない場合)
【図19】アキシャル方向電磁力と電磁石電流との関係(永久磁石を配設した場合と配設しない場合)
【図20】本発明の第3実施形態である固液分離機の磁気軸受周辺の概念構成図
【図21】電磁石電流とアキシャル方向の電磁力の関係を有限要素法により解析した結果
【図22】電磁力一定時のギャップ長と電磁石電流の関係
【図23】固液分離機(横型)の概念図
【図24】固液分離機(縦型)の概念図
【図25】縦型固液分離機の構造
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の第1実施形態である固液分離機200の磁気軸受周辺の概念構成図を図1に示す。図1において、外筒21の内壁には外筒21の上端面27と平行に固定子コア29が環状に内側に向けて突設されている。
【0024】
そして、この固定子コア29の下面には、図2に示すように4つの電磁石33A、33B、33C、33D及びギャップセンサ34A、34B、34C、34Dが配設されている。電磁石33A、33B、33C、33Dは上側がN極、下側がS極に励磁されるようになっている。
【0025】
また、内筒25の中央部付近には回転子コア35が周状に突設されている。そして、この回転子コア35の上面には図3に示すように中空環状の永久磁石37が固着されている。永久磁石37は上側がN極、下側がS極に着磁されている。内筒25は、回転軸を中心に回転するようになっている。また、外筒21の上端面と内筒25の外周壁との間にはタッチダウンベアリング23が環状に介設されている。
【0026】
次に、本発明の第1実施形態の動作を説明する。
ギャップセンサ34A、34B、34C、34Dで回転子コア35までの軸方向の距離(ギャップ)を測る。そして、この計測した距離が所望の値となるように電磁石33A、33B、33C、33Dに流す電流を変化させる。このことより、運転中の軸方向位置を調整可能である。
【0027】
なお、図1中には点線で磁束の方向を示している。磁束は、永久磁石37と電磁石33A、33B、33C、33Dとにより発生し、一方のルートは外筒21を通る磁路により形成され、他方のルートは内筒25を通る磁路により形成される。
【0028】
このため、電磁石磁束、永久磁石磁束ともに漏れ磁束が少ない。電磁石33A、33B、33C、33Dの電源が入っているときには所定の剛性を維持でき、電源が切られた際には自重により内筒25は落下し、タッチダウンベアリング23にタッチダウンする。
【0029】
ここに、軸方向にどの程度の起磁力を発生可能かシミュレーションを行った。シミュレーションは、磁気軸受のモデリングと電磁力解析に有限要素法解析ソフトを用いた。基本となる簡易モデルの固定子側の図面を図4に、回転子側の図面を図5に、シミュレーションに用いた材料及び仕様を図6に示す。
【0030】
なお、図4に示すように、固定子コア29には電磁石鉄心29aが4箇所突設され、その周囲にコイルが巻かれて電磁石33A、33B、33C、33Dが形成されている。しかしながら、この電磁石は4個とは限らず、2個若しくは3個等とされてもよい。ギャップセンサ34A、34B、34C、34Dも電磁石に合わせて4個配置したが、X軸方向に一つY軸方向に一つ配設されるようにしてもよい。
【0031】
電磁石33A、33B、33C、33Dは有効ギャップ断面積を広く取れるため、アキシャル電磁力が大きい。
このように電磁石を複数個に分割することでアキシャル方向位置制御に加えて、傾き制御も可能である。
【0032】
解析結果を図7に示す。このことより、電流6(A)程度を流せば軸方向に作用する起磁力が所望としている起磁力7000(N)を超えることが分かる。
【0033】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態である固液分離機300の磁気軸受周辺の概念構成図を図8に示す。なお、図1と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。図8において、固定子コア29の下面には2つの電磁石鉄心29a、29bが突設されている。
【0034】
そして、この2つの電磁石鉄心29a、29bの間に一つの環状スロット49が形成されている。そして、この環状スロット49と電磁石鉄心29aの内側及び環状スロット49と電磁石鉄心29bの外側とにそれぞれ巻線を配設する。磁束の方向は図8に示す通り電磁石鉄心29aについては上向きであり、電磁石鉄心29bについては下向きである。
【0035】
その結果、この環状スロット49を挟んだ形で回転軸を中心として環状に電磁石43、45が形成される。一方、回転子コア35の上面には、この電磁石鉄心29a、29bに対峙するように回転軸を中心として環状に磁性体51、53が突設されている。
【0036】
そして、この磁性体51、53の間に環状の永久磁石55が固着されている。永久磁石55は径方向に設置され内側がN極、外側がS極に構成されている。即ち、永久磁石55の磁極の向きは電磁石43、45の鉄心コア29a、29bの突設方向に対し直角に配設されている。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態の動作を説明する。
ギャップセンサ44で回転子コア35までの軸方向の距離(ギャップ)を測る。そして、この計測した距離が所望の値となるように電磁石43、45に流す電流を変化させる。
【0038】
このことにより、運転中の軸方向位置を調整可能である。なお、図8中には点線で磁束の方向を示している。磁束は、永久磁石55と電磁石43、45とにより生成され、固定子コア29及び磁性体51、53を通り閉磁路が形成される。回転子コア35は電磁鋼板で形成されており、比透磁率が高いため磁束が通り易くなっている。ここに、回転子コア35は電磁鋼板に限らず、炭素鋼であってもよい。比透磁率は7000以上であることが望ましい。
【0039】
電磁石43、45に流れる電流を切ると閉磁路を流れていた電磁石43、45による磁束は消滅する。このとき、軸方向に作用する磁界は極度に弱まり、内筒25は自重により落下し、タッチダウンベアリング23にタッチダウンする。
【0040】
ここに、特許文献2や特許文献3に開示のある方法では、永久磁石の磁極の向きと電磁石の鉄心コアの向きとが一致しているため、電磁石の電流を切った後でも永久磁石の磁界が直接電磁石の鉄心コアに作用し続け吸引力があまり消滅しない。このため、内筒25をタッチダウンベアリング23にタッチダウンさせることはできない。
【0041】
また、電磁石43、45が環状であり、断面が図8に示すようにコの字状であり、これに対峙する磁性体51、53及び永久磁石55も同様に環状に形成され、断面が図8に示すようにコの字状である。このため、電磁石43、45及び永久磁石55により発生する磁束は回転子コア35及び磁性体51、53及び固定子コア29を通り閉磁路が形成されており、半径方向にも復元力を有することができる。このことにより、内筒25が半径方向にずれたときにも復元力が働くので半径方向への支持が可能になる。なお、電磁石43、45の配設方法は環状に限定されるものではなく、電磁石43、45を一つの組として回転軸回りに必要組数(例えば図2に示すように4組)配設されてもよい。
【0042】
更に、内筒25の内部を流れる原液が磁性体の場合、原液が磁気軸受付近を通過する際に磁気軸受が作る磁場により影響を受ける恐れがある。しかしながら、本実施形態の磁気軸受を搭載した固液分離機300においては、運転中には磁束は閉磁路を流れ、一方、停止のときには永久磁石55の磁界の大部分が電磁鋼板を流れる磁束となるため外部に対し磁場の影響を与えることがない。
【0043】
ここに、第2実施形態の磁気軸受について軸方向にどの程度の起磁力を発生可能かシミュレーションを行った。シミュレーションは、磁気軸受のモデリングと電磁力解析に有限要素法解析ソフトを用いた。基本となる簡易モデルの固定子側の図面を図9に、回転子側の図面を図10に示す。解析結果を図11及び図12に示す。
【0044】
このことより、電磁石の電流を切ったとき、即ち電流値0(A)のときに軸方向に働く電磁力が750(N)程度と小さいため内筒25をタッチダウンベアリング23にタッチダウンさせることができる。更に、図12より半径方向にも十分な大きさの復元力を作用させることができることが分かる。
【0045】
次に、本実施形態のように永久磁石55を回転子コア35に対し水平に配設したことによる利点について説明する。
【0046】
仮に、この永久磁石55が配設されなかった場合には、図13に示すように、電磁石磁束により回転子コア35内が磁気飽和すると、アキシャル(軸)方向電磁力も飽和してしまう。このため、大きな電磁力を得るには、回転子コア35を厚くしなければならず、磁気軸受が大型化し好ましくない。
【0047】
これに対し、永久磁石55を回転子コア35に対し水平に配設した場合であって、かつ電磁石43、45に対し、電流を流さなかったときには、永久磁石55の磁束が図14のように通過する。即ち、永久磁石55の磁束は主磁路を通る一方で永久磁石55の漏れ磁束が主磁路とは別に回転子コア35内を通っている。
【0048】
そして、次に電磁石43、45に対し、電流を流した場合には、図15に示すように電磁石磁束が発生し、この電磁石磁束は透磁率の低い永久磁石55を通らず回転子コア35内を通過するため、この回転子コア35内では、電磁石磁束が永久磁石55の漏れ磁束と相殺される形になる。このように、永久磁石55の漏れ磁束が主磁路と逆方向に通過していたため、磁気飽和しにくい。
【0049】
そして、電磁石磁束が大きくなるに連れ、永久磁石55の漏れ磁束分は次第に無くなり、この漏れ磁束が主磁路へ流れるようになる。
このことにより、回転子コア35は薄くでき、磁気軸受の小型、軽量化につながる。また、高ギャップ磁束密度となるため、高電磁力を発生できる。
【0050】
次に、上記永久磁石55を配設したことに伴う効果を立証するため電磁界解析を行った。図16に示すように、磁性体51、53の表面(図中(イ)と示す)と、回転子コア35内(図中(ロ)と示す)の2箇所の磁束密度とアキシャル方向電磁力を解析により求めた。
【0051】
図17には、磁性体51、53の表面の磁束密度と電磁石電流との関係を、永久磁石(図中、PMと略す)を配設した場合と配設しない場合について示す。即ち、永久磁石55を配設しなかった場合には、電流3A付近で磁気飽和の兆候が現れている。一方、永久磁石55を配設した場合には、電流9Aでも磁気飽和の兆候が見られない。
【0052】
また、図18には、回転子コア内の磁束密度と電磁石電流との関係を、永久磁石を配設した場合と配設しない場合について示す。即ち、図17の場合と同様、永久磁石55を配設しなかった場合には、電流3A付近で磁気飽和の兆候が現れている。一方、永久磁石55を配設した場合には、電流9Aでも磁気飽和の兆候が見られない。但し、電流0Aのときに磁束密度が負になっているのは、永久磁石55の漏れ磁束の存在によるためである。
【0053】
更に、図19には、アキシャル方向電磁力と電磁石電流との関係を、永久磁石を配設した場合と配設しない場合について示す。即ち、図17で、永久磁石55を配設しなかった場合に電流9Aのときに0.58T程度であるのに対し、永久磁石55を配設した場合には0.83Tに達し、その結果、アキシャル方向電磁力は図19に示すように約4200Nから7200Nに増加することが分かる。
【0054】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本発明の第3実施形態である固液分離機400の磁気軸受周辺の概念構成図を図20に示す。なお、図1、図8と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。図20において、固定子コア29の下面には回転軸を中心として環状に3つの電磁石鉄心29a、29b、29cが突設されている。
【0055】
そして、この3つの電磁石鉄心29a、29b、29cの間に二つの環状スロット61、63が形成されている。そして、この環状スロット61、63と電磁石鉄心29aの内側及び電磁石鉄心29cの外側とにそれぞれ巻線を配設することで電磁石を構成する。電流の方向は図20に示す通りである。
【0056】
一方、回転子コア35の上面には、この電磁石鉄心29a、29b、29cに対峙するように環状に磁性体71、73、75が突設されている。そして、この磁性体71、73、75の間に永久磁石85、87が固着されている。永久磁石85は水平方向に設置され内側がS極、外側がN極に構成されている。永久磁石87も同様に水平方向に設置されるが、永久磁石85とは異なり内側がN極、外側がS極に構成されている。
【0057】
かかる構成において、永久磁石85、87のN極から発した磁束は磁性体73を通り電磁石鉄心29bを通った後分岐し、それぞれ電磁石鉄心29aと電磁石鉄心29cとを通る。その後、電磁石鉄心29aを通った磁束は磁性体71を介して永久磁石85のS極に戻る。電磁石鉄心29cを通った磁束は磁性体75を介して永久磁石87のS極に戻る。
【0058】
ここに、電磁石鉄心29a、29b、29cの面積及び磁性体71、73、75の面積が増加することで軸方向の電磁力はこの面積比分増加する。また、電磁石鉄心29a、29b、29cの周囲及び磁性体71、73、75の周囲には第2実施形態に比べより多くの磁束を生じており、半径方向にも一層強い復元力を有することができる。このため、内筒25が半径方向にずれたときにもこの復元力により半径方向への支持が一層安定する。
【0059】
また、電磁石に流れる電流を切ると閉磁路を流れていた電磁石による磁束は消滅する。このとき、軸方向に作用する磁界は極度に弱まり、内筒25は自重により落下し、タッチダウンベアリング23にタッチダウンする。
【0060】
更に、本実施形態の磁気軸受を搭載した固液分離機400においては、第2実施形態と同様に磁束は閉磁路を流れるため外部に対し磁場の影響を与えることがない。このため、内筒25の内部を流れる原液が磁性体の場合であっても磁場により影響を与えることはない。
【0061】
なお、本実施形態では環状スロットの数を2つとしたが、この数に限定するものではない。
【実施例1】
【0062】
なお、本発明の第2実施形態である固液分離機300の磁気軸受については試作を行い、以下の通り磁気支持特性の測定と評価を行った。
まず、電磁石43、45を一つの組として回転軸回りに4組配設した。そして、磁気軸受の制御に必要な巻線の時定数を得るため、巻線抵抗とインダクタンスを測定した。表1、2に巻線抵抗、インダクタンスの測定結果をそれぞれ示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
なお、インダクタンスについては、有限要素法による電磁界解析結果も併せて示した。抵抗、インダクタンスともに4つの電磁石でほぼ平衡が取れている。また、インダクタンスの実測値は解析値に比べ9%程度小さいが、これは漏れ磁束の影響によるものと思われる。
【0066】
ギャップセンサ44A、44B、44C、44Dを各電磁石の組に対しそれぞれ1個ずつ合計4個取り付け、磁気浮上試験を行った。実験は無荷重で行い、その際の回転浮上部の重量は1,500Nであった。静止浮上時はギャップ2.5mm、電磁石電流3Aで安定に磁気支持できることを確認した。
【0067】
図21はギャップ長をパラメータにして、電磁石電流とアキシャル方向の電磁力の関係を有限要素法により解析した結果である。また、図22は電磁力1,500N(一定)時のギャップ長と電磁石電流の関係である。ギャップ2.5mmのとき必要な電磁石電流は3Aであり、実測値は解析値によく一致した。
【0068】
次にモータを使って外部駆動によりベルト伝達で磁気軸受回転部を回転させ、回転浮上試験を行った。回転部は回転速度0−300r/minの範囲でタッチダウンせず安定に支持できることを確認した。
【符号の説明】
【0069】
1 外筒
5 、25 内筒
6 分流リブ板
7 スクリューコンベアー
9 通路
11 貫通穴
13 フィード口
17 排出口
21 外筒
23 タッチダウンベアリング
29 固定子コア
33、43 電磁石
34、44 ギャップセンサ
35 回転子コア
37、55、85、87 永久磁石
49、61 環状スロット
51、71、73、75 磁性体
200 、300、400固液分離機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転する回転体に形成され比透磁率の高い材質からなる回転コアと、
該回転コアに対し前記回転軸を中心に環状に形成された複数の磁性体部と、
該磁性体部の間に挟装され、径方向に磁極を有する少なくとも一つの永久磁石と、
前記磁性体部と対峙して環状に配設され前記永久磁石を介し閉磁路が形成されるように軸方向に向けた磁極をそれぞれ有する複数の電磁石と、
該電磁石が取り付けられた固定子コアと、
前記回転体の軸方向位置を検出する位置センサと、
該位置センサで検出した位置信号に基づき前記回転体の軸方向の位置を調整する軸方向位置調整手段とを備えたことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載された磁気軸受装置を搭載した縦型の固液分離機であって、
前記回転体が内筒であり、該内筒の内側に該内筒とは異なる速度にて駆動されるスクリューを備え、
該スクリューを貫通する貫通穴を通じて流入した固体及び液体の混合原液が前記内筒と前記スクリューの間に回転しつつ通されることで固体と液体とが分離されることを特徴とする固液分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−251662(P2012−251662A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−193128(P2012−193128)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【分割の表示】特願2008−215075(P2008−215075)の分割
【原出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(501344348)株式会社シーエムエス (3)
【Fターム(参考)】