説明

磁石体の製造用金型

【課題】耐食性と寸法精度に優れかつスズによるコンタミネーションのおそれが無いボンド磁石よりなる磁石体の製造用金型を提供する。
【解決手段】 希土類鉄系合金磁性粉と合成樹脂バインダよりなるボンド磁石1の表面全周を防錆皮膜2で覆った磁石体の製造用金型であって、ボンド磁石1を金型のキャビティ空間S内に当該キャビティ空間Sの内壁と所定の間隙を保って支持すべく上記内壁からキャビティ空間S内へ突出する内側筒体44と支持棒461を備え、これら内側筒体44と支持棒461を、上記間隙内に射出された防錆皮膜材の射出圧に応じてキャビティ空間S内から退出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁石体の製造用金型に関し、特に、希土類鉄系合金磁性粉と合成樹脂バインダよりなるボンド磁石の表面を防錆皮膜で覆った磁石体の製造用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類ボンド磁石はフェライト系ボンド磁石に比べて格段に優れた磁気特性を有することから注目されているが、Nd−Fe−B系やSm−Fe−N系の原料磁性粉は純鉄を含むために錆を生じやすいという欠点がある。そこで、従来はスプレー塗装や電着塗装で磁石成形体の表面に防錆皮膜を形成することによって錆を防止している。このうち電着塗装はスプレー塗装に比して塗膜の均一性や生産性に優れていることから多用されている。
【0003】
なお、特許文献1には、水溶液中のスズの含有量を12ppm以下に抑制した電着塗料でモータ用部品の表面を電着塗装することで、HDD(ハードディスク装置)スピンドルモータ等へ使用した場合の、スズコンタミネーション(汚染)による記憶媒体の記憶破壊を防止する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3644080号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年のHDDに対する小型化、高速化の要請を背景に、HDDスピンドルモータ等に使用されるボンド磁石はさらなる耐食性と寸法精度の向上、およびスズによるコンタミネーションを完全に防止することが要請されている。しかし、従来多用されている電着塗装では、電着治具で挟持した際の、ボンド磁石表面に生じる圧痕による寸法精度の低下やボンド磁石自身の変形による形状精度の低下が避けられず、加えて、塗膜に含有されるスズによるコンタミネーションの発生が問題となっていた。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、耐食性と寸法精度に優れかつスズによるコンタミネーションのおそれが無いボンド磁石よりなる磁石体の製造用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本第1発明では、希土類鉄系合金磁性粉と合成樹脂バインダよりなるボンド磁石(1)の表面全周を防錆皮膜(2)で覆った磁石体の製造用金型であって、ボンド磁石(1)を金型のキャビティ空間(S)内に当該キャビティ空間(S)の内壁と所定の間隙を保って支持すべく上記内壁からキャビティ空間(S)内へ突出する支持手段(44,46,461)を備え、支持手段を、上記間隙内に射出された防錆皮膜材の射出圧に応じてキャビティ空間(S)内から退出させる。
【0007】
本第1発明において、ボンド磁石は支持手段によってキャビティ空間内に当該キャビティ空間の内壁と所定の間隙を保って支持されており、射出された防錆皮膜材は上記間隙に進入して、上記支持手段が位置する部分を除いてボンド磁石の表面に防錆皮膜が形成される。支持手段が位置する部分を除いた間隙内に防錆皮膜材が行き渡ると、間隙内に射出された防錆皮膜材の射出圧に応じて支持手段がキャビティ空間内から退出させられ、支持手段が位置した間隙部分にも防錆皮膜材が進入して防錆皮膜が形成される。このようにして製造された磁石体は、射出された防錆皮膜でボンド磁石の表面全周が覆われるから、耐食性と寸法精度に優れるとともに、スズを含有しない防錆皮膜材を使用することによりコンタミネーションのおそれも解消される。このボンド磁石は中実のものでも良いが、リング状に成形することもでき、このようなリング磁石は着磁されて、ロータハブ内に組み込まれ、ハードディスク用スピンドルモータを構成する。
【0008】
本第2発明では、上記支持手段は、移動体(46)と、基端が移動体(46)に固定されるとともに、先端が上記内壁からキャビティ空間(S)内へ突出し上記ボンド磁石(1)の外表面に当接してこれを支持する支持体(461)とを備え、キャビティ空間(S)へ射出される防錆皮膜材が分流して流入する受圧室(412)を設けて、当該受圧室(412)内に流入した防錆皮膜材の射出圧で移動体(46)を後退移動させることによって支持体(461)をキャビティ空間(S)内から退出させる。本第2発明においては、電気回路を介在させることなく、防錆皮膜材の射出圧によって直接移動体および支持体を移動させることができる。
【0009】
本第3発明では、上記支持手段は、先端が上記内壁からキャビティ空間(S)内へ突出しボンド磁石(1)の外表面に当接してこれを支持する支持体(44)を備え、支持体(44)を移動駆動する駆動手段(62)と、防錆皮膜材の射出圧を検出する圧力検出手段(61)とを設けて、検出される射出圧に応じて駆動手段(62)により支持体(44)をキャビティ空間(S)内から退出させる。
【0010】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の磁石体の製造用金型によれば、耐食性と寸法精度に優れかつスズによるコンタミネーションのおそれが無いボンド磁石よりなる磁石体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1には本発明の金型で製造される磁石体の一例を示す。磁石体Mはリング状のボンド磁石1を備えており、当該ボンド磁石1の表面は全周が、詳細を後述する鋳包み成形によってスズを含有しない熱可塑性樹脂よりなる20〜500μm厚の防錆皮膜2で覆われている。このような磁石体Mは図2に示す工程で製造される。
【0013】
図2において、ステップ101で希土類合金磁性粉と熱硬化性樹脂バインダを混合する。希土類磁性粉としてはNd−Fe−B系ないしSm−Fe−N系の、平均粒径10〜100μmの磁性粉を単独であるいは組み合わせて使用する。また、熱硬化性樹脂バインダとしてはエポキシ樹脂やフェノール樹脂等が使用できる。磁性粉と熱硬化性樹脂バインダの混合物をプレス成形し(ステップ102)加熱硬化させてボンド磁石1とする(ステップ103)。ボンド磁石1は他の製造法でも製造できる。すなわち、図2のステップ104に示すように、上記磁性粉をナイロン12やポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂バインダと混合し、混練造粒した後、射出成形してボンド磁石1を得る(ステップ105)。
【0014】
図2のステップ106では鋳包み成形を行う。これは、上記工程で成形されたボンド磁石1の表面に、既述のようにスズを含有しない防錆皮膜材としての熱可塑性樹脂を射出して、所定厚の防錆皮膜2でボンド磁石1の表面全周を覆い、磁石体Mを得るものである。この場合の熱可塑性樹脂としては、ナイロン12、ナイロン6、PPS等が使用できる。なお、上記磁石体MをHDD(ハードディスクドライブ装置)のスピンドルモータ等に使用する場合には、磁石体Mの周面にリング状バックヨークを接着嵌合させ(ステップ107)、磁石体を着磁した後(ステップ108)、これをロータハブ内に組み込んで接着固定する(ステップ109)。
【0015】
上記鋳包み成形を行うための金型の断面図を図3に示す。図3において、金型は受け板31に固定された可動型(下型)4と、取付け板32に固定された固定型(上型)5を備えている。下型4は受け板31から平面視で四角形に突出する本体部41(図4)を有し、当該本体部41の各辺から四方へ一定幅で一定厚の定盤部42が延びている。本体部41には中心に円形の開口411が上下に貫通形成されてここに円筒スリーブ42が配設されている。
【0016】
上記スリーブ42の筒内にはその中心に、受け板31を上下方向へ貫通する相対的に小径の円柱状マンドレル43が位置しており、当該マンドレル43の外周面とスリーブ42の内周面との間の間隙が円環状のキャビティ空間S(図4)となっている。マンドレル43の外周にはこれに沿って上下動可能な支持手段を構成する支持体としての内側筒体44(図3)が配設され、その外周には外側筒体45が位置している。これら筒体44,45は上端が、スリーブ42の高さ方向の中間位置に至っている。図3の状態では、内側筒体44の上端は、上記キャビティ空間Sの底壁を形成する外側筒体45の上端よりも、前述した防錆皮膜2(図1参照)のほぼ厚み分だけ上方に位置している。両筒体44,45は下端が昇降装置62に連結されて後述のように昇降移動させられる。
【0017】
四角形の本体部41の各側面に対向して定盤部42上にそれぞれ支持手段を構成する移動体たるスライダ46が配設されている。各スライダ46は両側をガイド部材47(図4)により案内されて、本体部41側面に対し接近ないし離間する方向へ直線移動可能である。各スライダ46には、本体部41とスリーブ42を水平に貫通し支持手段を構成する支持体たる支持棒461の基端が固定されている。各スライダ46には底壁前半部に凹所462が形成されて、当該凹所462内には本体部41側面との間に相対的に弱いバネ力のバネ部材463が配設されている。これらバネ部材463のバネ力によって各スライダ46は、定盤部42上に設けたボルトストッパ421に当接する位置まで本体部41側面から離れている。この結果、支持棒461の先端はキャビティ空間S内に突出することなく後退している。
【0018】
上記各スライダ46の後端面46aは、斜め上方へ向くように傾斜した当接面となっている(図3)。スライダ46の後端部内には、斜め上方へ延び、絞られた先端が上記当接面46aに開口する収納空間464が形成されて、当該収納空間464内に、相対的に強いバネ力のバネ部材465で背後を付勢された球体466が設けられ、球体466の一部は収納空間464の開口467(図3)から露出している。
【0019】
本体部41には上面の各辺中央に受圧凹所412が形成されて、受圧凹所412の底壁に、受け板31から本体部41を貫通して上下方向へ延びる受圧棒413(図3)の上端が露出している。受圧棒413は上下動可能で、各受圧凹所412内に左右一対設けられており(図4)、その下端は圧力検出手段たる圧力センサ61(図3)に連結されている。
【0020】
上型5は取付け板32(図3)下面に固定された型板51を有し、型板51には、取付け板32内に形成されたスプル321の下端から分岐した複数のランナ511,512が、マンドレル43の中心に対して内外位置にそれぞれ上下方向へ形成されている。各ランナ511,512の先端は絞られてゲート513になっている。マンドレル43の中心に対し相対的に内側に設けられた各ランナ511は、円環状の上記キャビティ空間S(図4)の上方開放口に対向してその周方向の複数位置に等間隔で位置している。また、マンドレル43の中心に対し相対的に外側に設けられた各ランナ512は、上記各受圧凹所412に対向して設けられている。型板51の下面には各スライダ46に対向させてストライカ52(図3)が突設してあり、各ストライカ52には各スライダ46の当接面46aと略平行に傾斜する当接面52aが形成されている。
【0021】
このような構造の金型で磁石体Mを成形する場合には、図3に示すように、キャビティ空間S内に上方からボンド磁石1を挿置し、この後、図5に示すように、下型4を上型5と衝合させる。この時、ストライカ52の当接面52aがスライダ46の当接面46aに当接する。これにより、各スライダ46はバネ部材463のバネ力に抗して本体部41の各側面に接近するように移動して、各支持棒461の先端がボンド磁石1の外周面の、互いに径方向の対象位置に当接してボンド磁石1を四方から均等に挟持する。このようにして、ボンド磁石1はマンドレル43の中心に対して同心状に位置決めされ、型板51によって閉鎖されたキャビティ空間S内で、ボンド磁石1の下面とキャビティ空間Sの底壁、ボンド磁石1の内周面とキャビティ空間Sの内周壁(マンドレル43の外周面)、ボンド磁石1の外周面とキャビティ空間Sの外周壁、およびボンド磁石1の上面とキャビティ空間Sの頂壁(型板51の下面)との間にそれぞれ20〜500μmの、防錆皮膜1(図1)の厚みにほぼ等しい間隙が生じる。なお、この時、受圧凹所412は型板51とスライダ62の前端面46bとで閉鎖されて受圧室を形成する。
【0022】
この状態で、スプル321からランナ511,512、ゲート513を経て、上記キャビティ空間S内に熱可塑性樹脂を射出すると、熱可塑性樹脂は、キャビティ空間S内に突出している内側筒体44の先端部と支持棒461の先端部を除いたボンド磁石1周囲の間隙に流入して防錆皮膜2が形成される。ボンド磁石1周囲の間隙に十分熱可塑性樹脂が行き渡ると受圧凹所412内の樹脂圧(射出圧)が上昇し、受圧棒413を介して圧力上昇を検出した圧力センサ61の出力信号によって昇降装置62が作動して、内側筒体44が外側筒体45と同一高さまで下降させられる。これにより、内側筒体44の先端がキャビティ空間Sの底壁と面一になり、内側筒体44の先端部が位置したキャビティ空間S内の間隙に熱可塑性樹脂R(図6)が流入して防錆皮膜2が形成される。同時に、受圧凹所412に露出している各スライダ46の前端面46bが押されて、バネ部材465のバネ力に抗して球体466が完全に収納空間464の開口内へ後退するまでスライダ46が後退移動させられて、支持棒461の先端がキャビティ空間Sの外周壁と面一になるまで後退する(図6)。これにより、支持棒461の先端部が位置したキャビティ空間S内の間隙に熱可塑性樹脂Rが流入して防錆皮膜2が形成される。このようにして、ボンド磁石1の全表面が切れ目のない連続した所定厚の防錆皮膜2(図1)で覆われた磁石体Mが成形される。
【0023】
ボンド磁石1の外表面全周に防錆皮膜2が形成された後、熱可塑性樹脂の供給を止め、下型4と上型5を離間させるとスライダ46は図3に示す初期状態に戻される。この後、昇降装置によって内側筒体44と外側筒体45を一体に大きく上昇させて磁石体Mを型外へ排出させる。
【0024】
上記金型で製造された磁石体Mは、ボンド磁石1の外表面全周が所定厚(20〜500μm)の、スズを含有しない防錆皮膜2で覆われているから耐食性に優れるとともに、従来の電着塗膜で覆った場合のようなボンド磁石表面の圧痕による寸法精度の低下やボンド磁石自身の変形による真円度の低下がないから寸法精度に優れている。また、スズによるコンタミネーションの発生も完全に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の金型で製造される磁石体の一例を示す破断斜視図である。
【図2】磁石体の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の金型の一例を示す、型開き状態での垂直断面図である。
【図4】本発明の金型を構成する下型の平面図である。
【図5】本発明の金型の一例を示す、型閉め状態での垂直断面図である。
【図6】本発明の金型の一例を示す、樹脂射出状態での垂直断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…ボンド磁石、2…防錆皮膜、412…受圧凹所(受圧室)、44…内側筒体(支持体)、46…スライダ(移動体)、461…支持棒(支持体)、61…圧力センサ(圧力検出手段)、62…駆動装置(駆動手段)、S…キャビティ空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類鉄系合金磁性粉と合成樹脂バインダよりなるボンド磁石の表面全周を防錆皮膜で覆った磁石体の製造用金型であって、前記ボンド磁石を金型のキャビティ空間内に当該キャビティ空間の内壁と所定の間隙を保って支持すべく前記内壁から前記キャビティ空間内へ突出する支持手段を備え、前記支持手段を、前記間隙内に射出された防錆皮膜材の射出圧に応じて前記キャビティ空間内から退出させるようにした磁石体の製造用金型。
【請求項2】
前記支持手段は、移動体と、基端が前記移動体に固定されるとともに、先端が前記内壁からキャビティ空間内へ突出し前記ボンド磁石の外表面に当接してこれを支持する支持体とを備え、前記キャビティ空間へ射出される防錆皮膜材が分流して流入する受圧室を設けて、当該受圧室内に流入した防錆皮膜材の射出圧で前記移動体を後退移動させることによって前記支持体を前記キャビティ空間内から退出させるようにした請求項1に記載の磁石体の製造用金型。
【請求項3】
前記支持手段は、先端が前記内壁からキャビティ空間内へ突出し前記ボンド磁石の外表面に当接してこれを支持する支持体と、前記支持体を移動駆動する駆動手段と、前記防錆皮膜材の射出圧を検出する圧力検出手段とを備え、検出される前記射出圧に応じて前記駆動手段により前記支持体を前記キャビティ空間内から退出させるようにした請求項1に記載の磁石体の製造用金型。
【請求項4】
希土類鉄系合金磁性粉と合成樹脂バインダよりなるボンド磁石の表面全周を、スズを含有しない射出防錆皮膜で覆った請求項1ないし3のいずれかの製造用金型で製造された磁石体。
【請求項5】
前記ボンド磁石はリング状に成形されている請求項4に記載の磁石体。
【請求項6】
請求項5に記載の磁石体を着磁しロータハブ内に組み込んでなるハードディスク用スピンドルモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−74124(P2009−74124A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243155(P2007−243155)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(595181210)株式会社ダイドー電子 (41)
【Fターム(参考)】