説明

神経保護作用を有するベンゾアート化合物およびベンズアミド化合物

本発明は、哺乳類の細胞内のβ-アミロイドペプチドおよび/もしくはグルタマートである病原体の毒性が関与している、ヒトなどの哺乳類の神経障害、もしくはアルツハイマー病などの神経病の、少なくともひとつの症状を処置する治療方法を提供し、また、病原体経路に実質的に起因する阻害は、このような治療を必要とする哺乳類への、薬学的に許容される塩を含む N-アリールアミドもしくは (N-アミノアルキル)ベンズアミドの投与を含むのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アルツハイマー病 ( Alzheimer's disease; AD ) は、年長者が罹るもっとも広く知られた認知症 ( dementia ) であり、六十五歳以上のヒトの約10%が罹患し、八十歳以上では40%に及ぶ。遺伝性ADは、この病気の早期発症型(早発型)であり、アミロイド蛋白前駆体 ( amyloid protein precursor; APP ) 遺伝子の種々の変異を伴うものであり、ADの症例の全体の5%に過ぎない。孤発性ADとも呼ばれるこの病気の晩期発症型(遅発型)は、ADの症例の95%を占めており、未だ原因が捉えられていない。様々な危険因子が認定され、また疑われている。これらの危険因子には、apoE遺伝子のε4アレル、社会経済的状況、もしくは既往歴が含まれているが、この病気の発症もしくは進行との因果関係は未だ確立していないままとなっている。
【0002】
臨床的には、ADは認知プロセスおよび記憶改変の、進行性且つ不可逆的な悪化として特徴づけられ、また、通常は抑鬱を含む非認知性症候を伴う(Robert et al., Alzheimer's Disease: from molecular biology to therapy, R. Becker et al., eds., (1996) at 487-493)。アルツハイマー病(AD)神経病態は、組織学的には、老人斑の沈着を伴う脳内のβ-アミロイド(Aβ)ペプチド量の増加(Nikaido et al. (1970) Trans Am. Neurol. Assoc. 95:47-50)、ならびに、タウ蛋白の過剰リン酸化に因る神経原線維変化 ( neurofibrillary tangles; NFT ) の発現(Kosik et al., (1986) PNAS USA 83:4044-8)、として特徴づけられる。Aβは、膜酵素であるβ-セクレターゼおよびγ-セクレターゼによる、β-アミロイド前駆体蛋白質(β-APP)の蛋白分解的開裂反応 ( proteolytic cleavage ) によって生成される。もっとも普通に観察されるAβは、アミノ酸数40の Aβ1-40 型、もしくはアミノ酸数42の Aβ1-42 型であり、 Aβ1-42 型は Aβ1-40 型よりも強い神経毒であると報告されている。Aβの薬物的神経毒性に関する理解が、最近の十年で飛躍的に高まったにもかかわらず、 Aβ1-42 型をターゲットとする治療のありかたでは、この病気の進行を成功裡に緩和できることが示されていない。むしろ、現在の治療のありかたは、Aβの産生の阻害剤、Aβのオリゴマー化および原線維化 ( fibrillization ) を抑制する化合物、抗炎症剤、コレステロール合成阻害剤、抗酸化剤、神経修復因子およびワクチンを含む、ADの研究に基づいている[Selkoe, D. J. (1999) Nature 399, A23-31; Emilien, G., et al. (2000) Arch. Neurol. 57, 454-459; Klein, W. L. (2002) Neurochem. Internat. 41, 345-52; Helmuth, L. (2002) Science 297 (5585), 1260-21]。
【発明の開示】
【0003】
本発明は、血管性痴呆(血管性認知症)もしくは高血圧、老年期鬱病、もしくは感情起伏といった神経病態、ならびにアルツハイマー病の処置方法であって、例えば、グルタマート、または Aβ1-42 、 Aβ1-40 、もしくは Aβ1-43 のようなβ-アミロイドが哺乳類のニューロンに損傷を与える能力を阻害もしくは抑制することによって処置するような方法を提供する。したがって本発明は、アルツハイマー病のような神経病態の徴候の観られるもしくは神経病態を患う哺乳類の処置方法であって、以下の構造式 I の化合物、および、薬学的に許容されうるこれらの化合物の塩、の有効量を哺乳類に投与する方法を提供する。
【0004】
【化2】

ここで、式中の、
a) R1 、 R2および R3 が、独立に、 H 、OH基、ハロ基、CN基、 (C1-C6)アルキル基、 (C1-C6) アルコキシ基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルコキシ基、 (C3-C6)シクロアルキル((C1-C6)アルキル)基、 (C2-C6)アルケニル基、 (C2-C6)アルキニル基、 (C1-C6)アルカノイル基、 ハロ(C1-C6)アルキル基、 ヒドロキシ(C1-C6)アルキル基、 (C1-C6)アルコキシカルボニル基、または、 (C1-C6)アルキルチオ基、 チオ(C1-C6)アルキル基、 (C1-C6)アルカノイルオキシ基、 または N(R5)(R6) であるか、あるいは、 R1 と R2 とが共に、メチレンジオキシ基となっており
b) R5 、 R6、 R7 および R8 が、独立に、 H 、 (C1-C6)アルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル((C1-C6)アルキル)基、 (C2-C6)アルケニル基、アリール基、アリール(C1-C6)アルキル基、アリール(C2-C6)アルケニル基、ヘテロアリール基、ヘテロアリール(C1-C6)アルキル基、であって、前記のシクロアルキル基はオプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含むか、あるいは、R5 および R6、または R7 および R8 が、前記の N と共に、五員環もしくは六員環である複素環または複素芳香環であって、オプションとして R1 で置換されている、また、オプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含むような、複素環または複素芳香環を構成しており、
c) (Alk) が、 (C1-C6)アルキル基、 (C2-C6)アルケニル基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル(C2-C6)アルキル基、もしくは、 [(C2-C6)アルキル(C3-C6)シクロアルキル[(C3-C6)アルキル]基、であって、オプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含み、ならびに、
d) X が、 O もしくは NH基である。
【0005】
好ましくは、 (Alk) は、 -(CH2)-(CH2)2- 、 -(CH2)3- 、もしくは -(CH2)4- のような (C1-C4)アルキル基である。
好ましくは、 R1 、 R2 、 R3 もしくは R4 の内のひとつまたは二つが、 N(R5)(R6) の中にある。
【0006】
好ましくは、 R5 および R6 の双方が H である。
好ましくは、 R7 および R8 の一方または双方が、 (C1-C6)アルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル基であるか、あるいは、一方が H であって、他方が (C1-C6)アルキル基、もしくは (C3-C6)シクロアルキル基である。
【0007】
好ましくは、 R1 、 R2 、 R3 もしくは R4 の内のひとつまたは二つが、 (C1-C6)アルコキシ基である。
好ましくは、 (R5)(R4)N- が、構造式(I)のパラ位、もしくは位置番号4であって、また、 R1、 R2 、 R3 および R4 のうちの二つが (C1-C3)アルキル基ではないのが好ましい。
【0008】
構造式(I)においては、 R1 、 R2 、 R3 および R4のうちの二つが(C1-C3)アルキル基であるのが好ましい。
構造式 II においては、 R1 、 R2 、 R3 および R4のうちのひとつが 4-アミノ基であり、且つその内の三つが H であるときには、 R7 および R8 の双方がエチル基であるのが好ましい。
【0009】
本発明は、薬学的に許容される希釈剤もしくは担体と組み合わされた、構造式 I の化合物、および/もしくは構造式 II の化合物、または薬学的に許容されるこれらの化合物の塩を含み、オプションとして安定剤、保存剤、および吸収制御剤を含むことができるような、薬学的な組成物も提供する。
【0010】
本発明は、薬学的に許容される希釈剤もしくは担体と組み合わされた、構造式 I もしくは構造式 II の化合物、または薬学的に許容されるこれらの化合物の塩を含み、オプションとして、上述にて参照されたひとつもしくは複数の種類の抗AD剤のうちの、ひとつもしくは複数の抗AD剤を含むことができ、また、オプションとして安定剤、保存剤、および吸収制御剤を含むことができるような、剤型単位 ( unit dosage form ) のような薬学的な組成物も提供する。
【0011】
加えて本発明は、ヒトのような哺乳類の、ADもしくはADの徴候に関連する病態または徴候、あるいは、哺乳類の神経細胞(ニューロン)に対するβ-アミロイドペプチドおよび/もしくはグルタマートのような病原体の毒性に関連する病態または徴候を、抑止もしくは処置するための治療方法であって、毒性の阻害を目的とするか、もしくは、後発の病理学的な経路の下方調節 ( down-modulation ) を目的とする、構造式 I の化合物、もしくは薬学的に許容されるその塩の有効量を、このような治療を要する哺乳類に投与することが含まれる、治療方法を提供する。
【0012】
したがって本発明は、脳虚血のようなグルタマート神経系伝達亢進、AIDSに関連する認知症、脳梗塞、脳もしくは脊髄の外傷、およびその類似を含む神経病態を処置する治療方法も提供する。
【0013】
本発明は、AD患者のようなヒトといった哺乳類に観られる少なくともひとつのADの徴候を処置するために有用な薬剤を製造するために使用される構造式 I もしくは II の化合物のみならず、(例えば、ADを患うもしくはADの徴候のある哺乳類に用いるような)投薬治療に用いる構造式 I の化合物を提供する。
【0014】
本発明は、構造式(I)の化合物もしくはその塩を調製するために有用であるような、ここで開示されるプロセスおよび中間生成物だけではなく、構造式 I もしくは II の新規な化合物も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
局所麻酔薬が、スナネズミ ( gerbils ) の脳虚血において、生体内で神経保護作用特性を呈すること[Fujitani et al. (1994), Neurosci. Lett., 179:91-4; Chen et al. (1998) Brain Res., 4:16; Adachi et al. (1999) Brit. J. Anaesth, 83:472]、および海馬ニューロンの一過性低酸素血症 ( hypoxic episode ) において、生体外で神経保護作用特性を呈すること[Lucas et al. (1989) J. Neurosci. Methods, 28:47; Liu et al. (1997) Anesthesiology, 87:1470; Raley-Susman et al., (2001) J. Neurophysiol. 86:2715-26]、が示されている。付随して、プロカインおよびリドカインが、NMDA受容体の活性を抑制する作用[Nishizawa et al., (2002) Anesth. Analg., 94:325-30,]、スナネズミの海馬における酸欠に因る細胞内カルシウム濃度の上昇の鎮静作用[Liu et al., (1997) Anesthesiology, 87:1470]、ならびにスナネズミの脳虚血に因る細胞外グルタマート濃度の上昇の阻害作用[Fujitani et al., 1994, 上述したもの]を有することが示されている。
【0016】
ここで、「アルツハイマー病の処置」 ( "treatment of Alzheimer's disease" ) という語句は、ADの進行を止めるもしくは遅延させること、または少なくともひとつのADの徴候を軽減するもしくは緩和すること、と同様に、少なくともひとつのADの徴候を呈する患者、もしくはADが進行しそうなヒトのADの進行を抑制すること、を含む。多発性硬化症、血管性痴呆、老年期鬱病および感情起伏、ならびに類似のもの、といった任意の神経病態に関して用いている「処置」 ( "treatment" ) という語句も同様に定義される。
【0017】
以下の記述においては、特に別の方法で記述しない限り、以下の定義を用いるものとする。すなわち、ハロ基とは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、もしくはヨード基である。アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基などは、直鎖基および分鎖基の双方を意味するが、「プロピル基」 ( "propyl" ) のような個々の基については直鎖基のみを含み、分鎖異性体は「イソプロピル基」 ( "isopropyl" ) と特に分けて呼ぶ。アリール基とは、フェニル基、もしくは、少なくともひとつの芳香環を有して約9〜10個の環員原子を有するオルト縮合系二環炭素環基、を意味する。ヘテロアリール基とは、炭素原子と、過酸化物ではない酸素原子、硫黄原子、ならびに、 R7 が無いかもしくは上述したものである N(R7) 、であるような1〜4個の複素原子と、から成る約5〜6個の環員原子を有する単環芳香環の、環員炭素原子を介して結合する基のことを指し、また、これらから誘導された約8〜10個の環員原子を有するオルト縮合系二環複素環基も指し、特に、ベンゼン誘導体、または、プロピレン、トリメチレン、もしくはテトラメチレン二価基がベンゼン誘導体に縮合したものを指す。
【0018】
本発明に係る不斉原子を有する化合物が、光学活性体およびラセミ体を持ち、これらを単離できることを当業者は正しく理解できる。化合物の中には、多形性を示すものもある。本発明は、ここで記述する有用な特性を示す本発明に係る化合物の任意のラセミ体、光学活性体、多形体、もしくは立体異性体、またはこれらの混合物をも含み、また、光学活性体を調製する方法(例えば、再結晶の技術、光学活性な出発物質からの合成、不斉合成、もしくは光学活性固定相を用いたクロマトグラフィーによる分離、によってラセミ体を分割する方法)は当該技術分野において公知であり、また、ここで記載する標準試験法、もしくは当該技術分野で公知である他の類似の試験法を用いて抗毒素活性を定める方法も当該技術分野において公知である、ということを理解されたい。
【0019】
以下に列挙する好ましい特異値は、図示される基、置換基、および範囲についてのみのものであるが、これは他の定義値、もしくは基および置換基の範囲を定義する範囲の内の別の値を排除するものではない。
【0020】
特に、 (C1-C6)アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、 3-ペンチル基、もしくはヘキシル基とすることができる。 (C3-C12)シクロアルキル基は、単環、二環もしくは三環とすることができ、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.2]オクテニル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、が含まれ、さらに種々のテルペンおよびテルペノイド構造が含まれる。 (C3-C12)シクロアルキル(C1-C6)アルキル基は、上述のシクロアルキル基を含み、また、シクロプロピルメチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、 2-シクロプロピルエチル基、 2-シクロブチルエチル基、 2-シクロペンチルエチル基、もしくは 2-シクロヘキシルエチル基、とすることができる。ヘテロシクロアルキル基および (ヘテロシクロアルキル)アルキル基は、単環、二環もしくは三環系の上述のシクロアルキル基を含み、また、2〜12個の環員炭素原子に加えてオプションとして 1〜2個の S 、過酸化物ではない O もしくは N(R7) 、を含み、例えば、モルホリニル基 ( morpholinyl ) 、ピペリジニル基 ( piperidinyl ) 、ピペラジニル基 ( piperazinyl ) 、インダニル基、 1,3-ジチアン-2-イル基、およびこれらの類似物である。また、シクロアルキル環系は、任意に1〜3個の二重結合もしくはエポキシ基を含み、また、任意に1〜3個の OH基、 (C1-C6)アルカノイルオキシ基、 (CO) 、 (C1-C6)アルキル基もしくは (C2-C6)アルキニル基で置換される。 (C1-C6)アルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、 sec-ブトキシ基、ペントキシ基、 3-ペントキシ基、もしくはヘキシルオキシ基とすることができる。 (C2-C6)アルケニル基は、ビニル基、アリル基、 1-プロペニル基、 2-プロペニル基、 1-ブテニル基、 2-ブテニル基、 3-ブテニル基、 1,-ペンテニル基、 2-ペンテニル基、 3-ペンテニル基、 4-ペンテニル基、 1-ヘキセニル基、 2-ヘキセニル基、 3-ヘキセニル基、 4-ヘキセニル基もしくは 5-ヘキセニル基とすることができる。 (C2-C6)アルキニル基は、エチニル基、 1-プロピニル基、 2-プロピニル基、 1-ブチニル基、 2-ブチニル基、 3-ブチニル基、 1-ペンチニル基、 2-ペンチニル基、 3-ペンチニル基、 4-ペンチニル基、 1-ヘキシニル基、 2-ヘキシニル基、 3-ヘキシニル基、 4-ヘキシニル基、 もしくは 5-ヘキシニル基とすることができる。 (C1-C6)アルカノイル基は、ホルミル基、アセチル基、プロパノイル基、もしくはブタノイル基とすることができる。 ハロ(C1-C6)アルキル基は、ヨードメチル基、ブロモメチル基、クロロメチル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、 2-クロロエチル基、 2-フルオロエチル基、 2,2,2-トリフルオロエチル基、もしくはペンタフルオロエチル基とすることができる。ヒドロキシ(C1-C6)アルキル基は、ヒドロキシメチル基、 1-ヒドロキシエチル基、 2-ヒドロキシエチル基、 1-ヒドロキシプロピル基、 2-ヒドロキシプロピル基、 3-ヒドロキシプロピル基、 1-ヒドロキシブチル基、 4-ヒドロキシブチル基、 3,4-ジヒドロキシブチル基、 1-ヒドロキシペンチル基、 5-ヒドロキシペンチル基、 1-ヒドロキシヘキシル基、もしくは 6-ヒドロキシヘキシル基といった、1〜2個の OH基で置換されたアルキル基とすることができる。 (C1-C6)アルコキシカルボニル基は、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペントキシカルボニル基、もしくはヘキシルオキシカルボニル基とすることができる。 (C1-C6)アルキルチオ基は、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、ペンチルチオ基、もしくはヘキシルチオ基とすることができる。 (C2-C6)アルカノイルオキシ基は、アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、イソブタノイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、もしくはヘキサノイルオキシ基とすることができる。アリール基は、フェニル基、インデニル基、インダニル基、もしくはナフチル基とすることができる。また、ヘテロアリール基は、フリル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、トリアジニル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、ピラゾリル基、ピロリル基、ピラジニル基、テトラゾリル基、ピリジル基もしくはそのN-オキシド、チエニル基、ピリミジニル基もしくはそのN-オキシド、1H-インドリル基、イソキノリニル基もしくはそのN-オキシド、またはキノリニル基もしくはそのN-オキシド、とすることができる。
【0021】
局所麻酔薬もしくは局部麻酔薬のすべては本発明において有用であると思われ、また、哺乳類の神経伝達を一時的に遮断する、技術的に認識される薬剤の種類である。これらは概して以下の三種の化学構造的分類に括ることができる。すなわち、リドカインのような N-アリールアミド類もしくはカルボキサミド類、ならびに、プロカイン、ベノキシナート ( benoxinate ) 、およびプロパラカイン ( proparacaine ) のようなアミノアルキルベンゾアート類、ならびに、プロカインアミドのようなアミノアルキルベンズアミド類である。好ましい N-アリールアミドは、アミノ置換(C1-C5)カルボン酸の N-(C7-C22)アリールアミド類であって、例えば、脂肪族(C1-C5)カルボン酸の N-[(モノ(C1-C4)アルキル)フェニル]アミドもしくは N-[(ジ(C1-C4)アルキル)フェニル]アミドであり、ここで酸は、 R7 が H もしくは (C1-C5)アルキル基であり、 R8 が (C1-C5)アルキル基であるような (R7)(R8)N-基で置換されているのが好ましい。例えば、好ましいカルボン酸は一般の構造式 (R7)(R8)N(X)CO2H を有し、ここで、 R7 および R8は上述したものであり、また、 X は、 1,1-エチレン基、 1,2-エチレン基、メチレン基、 2,2-プロピレン基、 1,3-プロピレン基、およびその類似物のような、分鎖もしくは直鎖の (C1-C5)アルキレン基である。別の好ましい種類の N-アリールアミドとしては、五員環もしくは六員環の複素環脂肪族カルボン酸類の N-(モノ(C1-C4)アルキル)フェニル]アミドまたは N-(ジ(C1-C4)アルキル)フェニル]アミドであって、ここで酸は、ひとつもしくは二つの [(C1-C4)アルキル置換]N原子、すなわち、 N-ブチルピペリジン-2-カルボン酸を含む。
【0022】
この種の有用な局部麻酔薬は、リドカイン( (2-ジエチルアミノ)-N-(2,6-ジメチルフェニル)-アセトアミド) ( lidocaine; (2-diethylamino)-N-(2,6-dimethylphenyl)-acetamide ) (Lofgren et al.(米国特許2,441,498号)、May & Baker(英国特許706409号)、および Macfarlane & Co.(英国特許758,224号)を参照のこと)、ならびに、ブピバカイン(1-ブチル-N-(2,6-ジメチルフェニル)-2-ピペリジンカルボキシアミド) ( bupivacaine; 1-butyl-N-(2,6-dimethylphenyl)-2-piperidinecarboxyamide ) (Thuresson et al.(米国特許2,955,111号)、 Sterling Drug(英国特許1,166,802号 および 1,180,712号)を参照のこと)、ならびに、メピバカイン(N-(2,6-ジメチルフェニル)-1-メチル-2-ピペリジンカルボキシアミド) ( mepivacaine; piperidinecarboxyamide, N-(2,6-dimethylphenyl)-1-methyl ) 、エチドカイン((N-(2,6-ジメチルフェニル)-2-(エチルプロピルアミノ)ブタンアミド) ( etidocaine; N-(2,6-dimethylphenyl)-2-(ethylpropylamino)butanamide ) Astra(独国特許2162744号)、ならびに、ジブカイン(3-ブトキシ-N- [2-(ジエチルアミノ)エチル]-4-キノリンカルボキシアミド) ( dibucaine; 3-butoxy-N-[2-(diethylamino)ethyl]-4-quinolinecarboxyamide ) Miescher(米国特許1,825,623号)、ならびに、ジクロニン(1-(4-ブトキシフェニル)-3-(1-ピペリジニル-1-プロパノン)) (dyclonine; 1-(4-butoxyphenyl)-3-(1-piperidinyl-1-propanone) ) 、ならびに、プリロカイン(N-(2-メチルフェニル)-2-(プロピルアミノ)プロパンアミド) ( prilocaine; N-(2-methylphenyl)-2-(propylamino)propanamide ) 、ならびに、ピロカイン(1-(ピロリジン-1-イル)-N-(2,6-ジメチルフェニル)アセトアミド) ( pyrrocaine; 1-(pyrrolidin-1-yl)-N-(2,6-dimethylphenyl)acetamide ) 、ジメチルソクイン ( dimethyisoquin ) 、ジペロドン ( diperodon ) 、コカインおよびその類似物(Carroll et al., J. Med. Chem., 34,2719 (1991) 、 Eur. J. Pharmacol., 184, 329 (1990) を参照のこと)、ならびに薬学的に許容されるこれらの塩、を含む。
【0023】
アミノアルキルベンゾアート類は、安息香酸と、一般の構造式が (R7)(R8)N(Alk)OH であるアルコールとのエステルを含み、ここで、 Alk は上述したものである。 R7 は H もしくは (C1-C4)アルキル基、 R8 は(C1-C4)アルキル基であるか、あるいは、 R7 と R8 とが N と共に五員環もしくは六員環の複素環を構成して、オプションとして (C1-C3)アルキル基に置換されているか、またはオプションとして付加的な環員酸素原子もしくは N(R7)-環員原子を含む。安息香酸基は、 (R9)(R10)ArCO2H であって、ここで Ar は、「フェニレン基」 ( "phenylene" ) であり、芳香族の -C6H2-4という基である。また、R9 および R10 はそれぞれ独立に、 H 、ハロ基(好ましくは Cl )、 (R5)(H)N- 、 H2N- もしくは (C1-C5)アルコキシ基である。 Ar は、オプションとして R9および R10 に置換された、 (C6-C12)ヘテロアリール基とすることもできる。
【0024】
有用な局部麻酔薬は、クロロプロカイン(4-アミノ-2-クロロ安息香酸=2-(ジエチルアミノ)エチルエステル) ( chloroprocaine; 4-amino-2-chlorobenzoic acid 2-(diethylamino)ethyl ester ) 、プロカイン(4-アミノ安息香酸=2-(ジエチルアミノ)エチルエステル) ( procaine; 4-aminobenzoic acid 2-(diethylamino)ethyl ester ) 、テトラカイン(4-(ブチルアミノ)安息香酸=2-(ジメチルアミノエチルエステル ( tetracaine; 4-(butylamino)benzoic acid 2-(dimethylaminoethyl ester ) 、Shupe (米国特許3,272,700号)を参照のこと、ならびに、ベノキシナート(4-アミノ-3-ブトキシ安息香酸=2-(ジエチルアミノ)エチルエステル) ( benoxinate; 4-amino-3-butoxybenzoic acid 2-(diethylamino)ethyl ester ) (英国特許654,484号)、ならびに、プロパラカイン(3-アミノ-4-プロポキシ安息香酸=2-(ジエチルアミノ)エチルエステル) ( proparacaine; 3-amino-4-propoxybenzoic acid 2-(diethylamino)ethyl ester ) 、イソブカイン(2-メチル-2-[(2-メチルプロピル)アミノ]安息香酸 1-プロパノール) ( isobucain; 1-propanol, 2-methyl-2-[(2-methylpropyl)amino]benzoate ) 、メプリルカイン([(2-メチル)(2-プロピルアミノ)プロピル]ベンゾアート) ( meprylcaine; [(2-methyl)(2-propylamino)propyl]benzoate ) 、ピペロカイン(2-メチルピペリジン-1-イルプロピル(ベンゾアート)) ( piperocaine; 2-methylpiperidin-1-ylpropyl(benzoate) ) 、プロポキシカイン(2-(ジエチルアミノ)エチル-([2'-メチル-4'-アミノ]ベンゾアート)) ( propoxycaine; 2-(diethylamino)ethyl-([2'-methyl-4'-amino]benzoate) ) 、ブタカイン(((3-ジブチルアミノ)プロピル)-(2'-アミノベンゾアート)) ( butacaine; ((3-dibutylamio)propyl)-(2'-aminobenzoate) ) 、シクロメチルカイン(((3-2'-メチルピペリジン-1-イル))プロピル)-[4'-シクロヘキシルオキシ-ベンゾアート]) ( cyclomethylcaine; ((3-2'-methylpiperidine-1-yl))propyl)-[4'-cyclohexyloxy-benzoate] ) 、ヘキシルカイン(([2-シクロヘキシルアミノ)(1-メチル)]エチル)(ベンゾアート)) ( hexylcaine; ([2-cyclohexylamino)(1-methyl)]ethyl)(benzoate) ) 、ならびに、プロパラカイン(((2-ジエチルアミノ)エチル)[(4'-プロピルオキシ-3'-アミノ)ベンゾアート]) ( proparacaine; ((2-diethylamino)ethyl)[(4'-propyloxy-3'-amino)benzoate] ) 、を含む。
【0025】
好ましい塩は、無機酸および有機酸のアミノ付加塩 ( amino addition salts ) であり、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、フマル酸塩、枸櫞酸塩、リンゴ酸塩、プロピオン酸塩、およびリン酸塩である。本発明で用いるにあたっては、塩酸塩および硫酸塩が好ましい。
【0026】
局部麻酔薬およびその塩については、 Remington's Pharmaceutical Sciences, A. Osol, ed., Mack Pub. Co., Easton, Pa. (16th ed. 1980) 、および The Merck Index (11th ed. 1989) に詳細に記載されている。
【0027】
上述の構造式 I もしくは II において、 R1 の特異値は、 H 、 (C2-C4)アルキル基、 (C2-C4)アルコキシ基、 (C3-C6)シクロアルコキシ基、もしくは (C3-C6)ヘテロシクロアルコキシ基である。
【0028】
R2 の特異値は H である。
R3 の特異値は H である。
R4 の特異値は H 、または好ましくはアミノ基、もしくは (C1-C4)シクロアミノ基である N(R5)(R6) である。
【0029】
N(R7)(R8) の特異値は、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、もしくはプロピルアミノ基である。
(Alk) の特異値は、 -(CH2)1-3- である。
【0030】
好ましい化合物のグループは、アミノアルキルベンゾアート類である構造式 II の化合物である。
別の好ましい化合物のグループは、 N-アミノアルキル-ベンズアミド類、もしくは (N-アリール)アルキルベンズアミド類である、構造式 II の化合物である。
【0031】
本発明に係る好ましい化合物は、リドカイン、プロカイン、テトラカイン、もしくはプロカインアミド、またはこれらの類似物である。
構造式 II のベンズアミド化合物は、以下の反応式Aで示す方法によって調製することができる。
【0032】
〔反応式A〕
【化3】

ベンゾアート類は、アミン III を対応するアルコールに置換して、このアルコールから III をエステル化することによって調製することができる。 SOCl2もしくは (C(O)Cl)2 と反応するフェニル基上の基 R1 、 R2 および/もしくは R3 は、ヒドロキシ基を含む基であるか、またはチオ基を含む基であって、エチオキシエチル基 ( ethyoxyethyl ) 、 THP基、 (C1-C4)3シリル基および類似物といった脱離可能である保護基によって、保護することができる。保護された OH基およびヒドロキシアルキル基は脱保護することができ、有機合成技術分野において公知である手法により、ハロ基、 CN基、アルコキシカルボニル基、アルカノイルオキシ基、およびアルカノイル基に転換することができる。保護されたアミノ基は、当該技術分野において公知である手法によって脱保護して N(R6)(R7) に転換することができる。必要であれば、これらの転換を行う間、 C=O基を保護および/もしくは還元することができ、その後に C=O へと脱保護および再酸化することができる。例えば、 I. T. Harrison, Compendium of Organic Synthetic Reactions, Wiley-Interscience, N.Y. (1971) 、 L. F. Fieser et al., Reagents for Organic Synthesis, John Wiley & Sons, Inc., N.Y. (1967) 、および米国特許5,411,965号を参照のこと。
【0033】
化合物が、安定な無毒の酸性塩もしくは塩基性塩となるに足る程度に塩基性もしくは酸性である場合には、この化合物を塩として投与するのが適切である。薬学的に許容される塩の例としては、生理学的に許容されるアニオンを形成する有機酸付加塩 ( organic acid addition salts ) があり、例えば、トシル酸塩、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、枸櫞酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、琥珀酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、 α-ケトグルタル酸塩、および α-グリセロリン酸塩である。適切な無機塩も形成することができ、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、重炭酸塩、および炭酸塩を含む。
【0034】
薬学的に許容される塩は、例えば、アミンのような充分に塩基性である化合物と、生理学的に許容されるアニオンを与える適切な酸との反応、といった当該技術分野の標準的な手法を用いて得ることができる。アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムもしくはマグネシウム)、または亜鉛の塩も調製することができる。
【0035】
構造式 I の化合物は、薬学的な組成物として構成することができ、また、ヒトの患者のような哺乳類の宿主へ、選択した投与経路(すなわち、経口投与、あるいは、静脈内、筋肉内、局部内もしくは皮下の経路による非経口的投与、または、吸入もしくはガス吸入による非経口的投与)に応じた種々の形状で投与することができる。
【0036】
したがって、本発明に係る化合物は、例えば、不活性希釈剤もしくは消化可能な食用担体といった、薬学的に許容される媒介物と組み合わせて経口的に、体系的に投与することができる。これらは、粉末、ペレット、もしくは懸濁液として、ハードゼラチンカプセルもしくはソフトゼラチンカプセルに封入することができる。経口治療における投与のために、活性化合物をひとつもしくは複数の賦形剤と組み合わせて、経口摂取錠剤、口内錠 ( buccal tablets ) 、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエハース、およびこれらの類似物、といった形態で使用することができる。このような組成物および調合剤は、少なくとも 0.1% の活性化合物を含むべきである。組成物および調合剤の比率は、当然変更することができ、また、便宜的に所与の剤型単位の重量の約 2%〜約 60% とすることもできる。治療において有用な組成物中の活性化合物の量は、有効な投与量が得られるようにする。
【0037】
錠剤、トローチ、丸薬、カプセル、およびそれらの類似物は、以下を含むこともできる。すなわち、トラガカントゴム、アラビアゴム ( acasia ) 、コーンスターチ、もしくはゼラチンなどの糊剤、ならびに、ピロリン酸カルシウムなどの賦形剤、ならびに、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、アルギニン酸およびそれらの類似物などの崩壊剤 ( disintegrating agent ) 、ならびに、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤 ( lubricant ) 。また、蔗糖、果糖、乳糖、もしくはアスパルテームなどの甘味料、または、ペパーミント、冬緑油、もしくはチェリーフレーバーなどの香料を添加することもできる。剤型単位がカプセルである際には、上述した物質を添加した上で、植物油もしくはポリエチレングリコールなどの液体担体を含むことができる。その他さまざまな物質を、コーティングとして、あるいは固形剤型単位の物理的形状を変更するために使うことができる。一例として、錠剤、丸薬、もしくはカプセルは、ゼラチン、ワックス、シェラックワニス、もしくは糖類、ならびにそれらの類似物でコートすることができる。シロップもしくはエリキシル剤は、活性化合物、甘味料としての蔗糖もしくは果糖、保存料としてのメチルパラベンもしくはプロピルパラベン、着色料、ならびに、チェリーフレーバーもしくはオレンジフレーバーなどの香料、を含むことができる。任意の剤型単位を調製するにあたって使用する任意の物質は、当然ながら薬学的に許容されるものであって、使用する量において実質的に無毒であるものとするべきである。加えて、活性化合物は、徐放性製剤、またはパッチ、輸液ポンプ、もしくは移植型デポーなどの装置に組み込むことができる。
【0038】
活性化合物は、静脈内もしくは腹腔内に、輸液もしくは注射して投与することができる。活性化合物もしくはその塩の溶液は、水で調製することができ、任意に無毒性界面活性剤を混合することもできる。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチン、およびそれらの混合物、ならびに油の中で調製して分散させることもできる。通常の条件下での保存および使用においては、これらの製剤には微生物の生長を妨げるための保存料が含まれる。
【0039】
注射、輸液、もしくは吸入に適した薬学的調剤は、滅菌水溶液もしくは分散液を含むことができる。活性成分を含んだ滅菌粉末を調製することができ、これは、滅菌済注射として、または滅菌済輸液もしくは分散液として、即座に調製できるようにするために用いられ、また、任意にリポソーム内に包むこともできる。すべての場合において、最終的な投薬形態は滅菌され、滑沢性とされ、製造および貯蔵の条件下で安定であるようにするべきである。液体担体もしくは媒体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール類、およびそれらの類似物)、植物油、無毒性グリセリンエステル類、ならびにこれらの適切な混合物、を含む、溶媒もしくは分散液とすることができる。例えば、リポソームによる構成、分散液の場合に必要とする粒子径を維持すること、もしくは界面活性剤の使用、などによって、適切な滑沢性を保つことができる。例えばパラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、およびそれらの類似物などの、種々の抗真菌剤および抗菌剤によって、微生物の活動を抑えることができる。多くの場合には、例えば糖類、緩衝液、もしくは食塩であるような等張化剤を含むことが好ましい。例えば、モノステアリン酸アルミニウム、セルロースエーテル類、およびゼラチンであるような、吸収遅延剤を用いることによって、注射可能な組成物の吸収を引き伸ばすことができる。
【0040】
上で列挙した種々の他の成分を、必要であれば濾過滅菌してから加えた適切な溶液に、活性化合物の必要量を併せることによって、滅菌済の注射液を調製することができる。滅菌粉末を用いて滅菌済の注射液の調製を行う場合には、活性成分の粉末に、予め濾過滅菌した溶液に含まれる所望の任意の添加成分を加えたものが得られる、真空乾燥および凍結乾燥の技術を用いる方法が好ましい。
【0041】
局部への投与のために、本発明に係る化合物は純粋な形態、すなわち液体として与えることができる。しかしながら、皮膚への投与においては、一般的には皮膚科学的に許容される担体(固体もしくは液体とすることができる)と組み合わせた組成物もしくは構成物とするのが望ましい。
【0042】
有用な固体担体は、滑石、粘土、セルロース微細結晶、シリカ、アルミナ、およびそれらの類似物などの細粒状固体を含む。有用な液体担体は、水、アルコール類もしくはグリコール類、または水-アルコール/グリコール混合液、を含み、これに本発明に係る化合物の有効量を溶解もしくは分散することができ、また、任意に無毒性界面活性剤を添加することもできる。香料のような佐剤、および付加的な抗菌剤を、所定の使用方法を特質を最大限にするために添加することができる。得られる液体組成物は、包帯および他の手当用品に含浸させて、吸収性パッドから投与することができ、あるいは、ポンプタイプもしくはエアロゾルスプレーを用いて患部にスプレーして投与することができる。
【0043】
合成ポリマー類、脂肪酸類、脂肪酸塩類および脂肪酸エステル類、脂肪酸アルコール類、修飾セルロース類、または修飾無機物質などの濃縮剤 ( thickeners ) を液体担体として使用して、使用者の皮膚に直接塗布するために、薄く塗り拡げることができるようなペースト、ジェル、軟膏、石鹸、およびそれらの類似物を形成することができる。
【0044】
構造式 I の化合物を皮膚に与えるために有用な皮膚科学的組成物は当該技術分野において公知であり、例えば、 Jacquet et al. (米国特許4,608,392号)、 Geria (米国特許4,992,478号)、 Smith et al.(米国特許4,559,157号)、および Wortzman (米国特許4,820,508号)を参照のこと。
【0045】
構造式 I の化合物の有効な投与量は、この化合物の生体外での活性と、動物実験による生体内の活性とを比較して定量することができる。マウスおよび他の動物における有効な投与量からのヒトへの外挿の方法については、例えば米国特許4,938,949号を参照のこと。
【0046】
構造式 I の化合物を、ローションのような液状組成物にする場合の濃度は、一般的に、約 0.1〜25wt% とし、好ましくは約 0.5〜10wt% とする。ジェルもしくは粉末のような半固体または固体の組成物にした場合の濃度は、約 0.1〜5wt% とし、好ましくは約 0.5〜2.5wt% とする。化合物もしくは活性を持つ塩、またはそれらの誘導体の、処置における必要使用量は、選択した特定の塩によってのみ調整されるわけではなく、投与の経路、処置されるヒトの体質、ならびに、患者の年齢および症状に応じても調整することができ、最終的にはかかりつけの医師もしくは臨床医の裁量で決めることになる。
【0047】
しかしながら、適切な投与量は、約 0.5mg/kg 〜約 100mg/kg の範囲と考えられ、例えば、体重に対して一日あたり約 10mg/kg 〜約 75mg/kg の範囲、すなわち患者の体重キログラムに対して一日あたり 3〜約 50mg 、好ましくは 6〜90mg/kg/day の範囲、さらに好ましくは 15〜60mg/kg/day の範囲とする。
【0048】
化合物は、便宜的に剤型単位で投与され、例えば、ほぼ 1〜3g の剤型に対して活性成分を 5mg 、便宜的には 10〜1000mg 、より便宜的には 50〜500mg 含む。
理論上では、活性成分は、活性成分の血漿中濃度のピークが約 0.5〜75μM の範囲となるように投与されるべきであり、好ましくは約 1〜50μM の範囲、より好ましくは約 2〜約 30μM の範囲である。例えば、活性成分を 0.05〜5% で含み、任意に生理食塩水を含む溶液を、静脈注射によって投与することができる。例えば、約 0.5〜3g の構造式 I の化合物を、例えば 0.9% の NaCl および 5〜10% のブドウ糖を含むような約 125〜500ml の静注溶液に溶かすことができる。このような溶液は、数時間以上に亘って点滴することができ、任意に、他の抗ウイルス薬、抗生物質などを組み合わせることができる。活性成分は、 1〜100mg の活性成分を含むボーラス (巨丸薬; bolus ) として経口投与することもできる。約 0.01〜5.0mg/kg/hr の活性成分を与える継続的な注入によって、もしくは、約 0.4〜15mg/kg の活性成分を含む間歇的な注射によって、望ましい血中濃度を維持することができる。
【0049】
便宜的に、単独の投与、または、例えば一日につき二回、三回、もしくは四回以上の投与となるように適切な間隔をとった分割投与によって、望ましい投与量を与えることができる。分割された投与をさらに分割することもでき、例えば、気腹装置からの複数回の吸入、もしくは眼への複数の滴下による投与といった、多数の不均一な間隔をとった投与とすることができる。
【0050】
本発明に係る化合物の、抗ウイルス薬としての能力は、当該技術において公知である薬理学的モデルを用いるか、もしくは後述する試験法を用いて、定量することができる。
以下の記述は、ヒトに用いる治療もしくは予防のための構造式 I の化合物を含む、薬学的な投与形態を示す。

(i) 錠剤 1 mg/錠
プロカインアミド 100.0
乳糖 77.5
ポビドン 15.0
クロスカルメロースナトリウム 12.0
微細結晶セルロース 92.5
ステアリン酸マグネシウム 3.0
300.0

(ii) 錠剤 2 mg/錠
テトラカイン 20.0
微細結晶セルロース 410.0
デンプン 50.0
デンプングリコール酸ナトリウム 15.0
ステアリン酸マグネシウム 5.0
500.0

(iii) カプセル mg/カプセル
テトラカイン 10.0
コロイド二酸化珪素 1.5
乳糖 465.5
アルファ化デンプン 120.0
ステアリン酸マグネシウム 3.0
600.0

(iv) 注射液 1 (1mg/ml) mg/ml
リドカイン 1.0
リン酸水素二ナトリウム 12.0
リン酸二水素ナトリウム 0.7
塩化ナトリウム 4.5
1.0N 水酸化ナトリウム水溶液 適量
(pH 7.0-7.5に調整)
注射用水 1mL程度

(v) 注射液 2 (10mg/ml) mg/ml
プロカイン 10.0
リン酸二水素ナトリウム 0.3
リン酸水素二ナトリウム 1.1
ポリエチレングリコール400 200.0
01N 水酸化ナトリウム水溶液 適量
(pH 7.0-7.5に調整)
注射用水 1mL程度

(vi) エアロゾル mg/缶
リドカイン 20.0
オレイン酸 10.0
トリクロロモノフルオロメタン 5,000.0
ジクロロジフルオロメタン 10,000.0
ジクロロテトラフルオロエタン 5,000.0

本発明について、後述する詳細な例を参照してさらに記述する。なお、 Aβ1-42 ペプチドは American Peptide Co. (Sunnyvale, CA)から購入した。プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロカインアミド、酸化防止剤としての tert-ブチル-フェニルニトロン(PBN)、 N-メチル-D-アスパラート(NMDA)受容体拮抗薬としての (+)-M801 、およびテトロドトキシン(TTX)は、 Sigma (St. Louis, MO)から購入した。プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロカインアミド、SP015、SP016およびSP017は図1に示した。細胞培養供給器は GIBCO (Grand Island, NY)から、細胞培養プラスチック容器は Coming (Corning, NY) および Packard BioSciences Co. (Meriden,CT)から購入した。RNA STAT-60 は TEL-TEST, Inc. (Friendswood, TX) から入手した。 TaqMan(R) 逆転写剤、ランダムヘキサマー、および SYBR(R) Green PCR Master Mix は、 Applied Biosystems (Foster City, CA) から入手した。
【0051】
〔方法論〕
〔A. プロカイン誘導体のインシリコスクリーニング〕
Interbioscreen Database において、 ISIS software (Information Systems, Inc., San Leandro, CA) を用いて、天然に産生する物質からプロカイン構造を含む化合物をスクリーニングした。同定された、酢酸=7-アセトキシ-3-(4-ベンゾイル-ピペラジン-1-イル-メチル)-5-ヒドロキシ-4a,8-ジメチル-2-オキソ-ドデカヒドロ-アズレノ[6,5-b]フラン-4-イルエステル ( acetic acid 7-acetoxy-3-(4-benzoyl-piperazin-1-yl-methyl)-5-hydroxy-4a,8-dimethyl-2-oxo-dodecahydro-azuleno[6,5-b]furan-4-yl ester ) (SP015)、酢酸=5-アセトキシ-3-(4-ベンゾイル-ピペラジン-1-イル-メチル)-4-ヒドロキシ-4a,8-ジメチル-2-オキソ-ドデカヒドロ-アズレノ[6,5-b]フラン-7-イルエステル ( acetic acid 5-acetoxy-3-(4-benzoyl-piperazin-1-yl-methyl)-4-hydroxy-4a,8-dimethyl-2-oxo-dodecahydro-azuleno[6,5-b]furan-7-yl ester ) (SP016)、および、 3-(4-ベンゾイル-ピペラジン-1-イル-メチル)-6,6a-エポキシ-6,9-ジメチル-3a,4,5,6,6a,7,9a,9b-オクタヒドロ-3H-アズレノ[4,5- b]フラン-2-オン ( 3-(4-benzoyl-piperazin-1-yl-methyl)-6,6a-epoxy-6,9-dimethyl-3a,4,5,6,6a,7,9a,9b-octahydro-3H-azuleno[4,5- b]furan-2-one ) (SP017)は、 Interbioscreen(Moscow, Russia)から購入したものである(図1)。
【0052】
〔B. 細胞培養および処置〕
PC12細胞(ラット褐色細胞腫)(ATCC, Manassas, VA) を、グルタミン酸を含まない RPMI 1640 培地(ウシ血清 10% 、ウマ血清 5% を含む)において、37℃および CO2 5%雰囲気下で培養した。これらの細胞は、ニューロン表現型の分化誘導によって可逆的に NGF に応答した。PC12細胞を、九十六穴プレート内でプロカイン、プロカインアミド、リドカイン、テトラカイン、SP015、SP016、SP017もしくはSP008の濃度を高めながら( 1μM 、 10μM および 100μM )、24時間培養した(一穴あたりの細胞数 5×104)。Aβ1-42 は、4℃で一晩培養した後、前記の細胞に加えて、24時間の期間の最終濃度が 0.1μM 、 1μM もしくは 10μM になるようにした。
【0053】
1-42 起因の神経毒性におけるNMDA受容体の役割を研究するために、細胞培地に対して、Aβ1-42を与える直前に、 (+)-MK801 を濃度を高めながら加えた。4時間後に、MTT法を用いて細胞生存率を測定した。グルタマート起因の興奮毒性における、プロカインおよびSP008の作用効果を測定するために、PC12細胞を、 0.3μM 、 1μM 、 3μM 、 10μM 、および 30 μM のプロカインもしくはSP008で24時間前処理した後、グルタマートにさらに24時間曝露した。その後、細胞生存率をMTT法で測定した。 Aβ1-42 起因の神経毒性における、ナトリウムチャネルの役割を解析するために、PC12細胞にナトリウムチャネル阻害剤であるTTXを 3μM 、 30μM もしくは 300μM 与えて4時間培養した後に、 Aβ1-42 を与えた。24時間後にMTT法で細胞生存率を測定した。 Aβ1-42の毒性にともなう酸化ストレス ( oxidative stress ) を、 10μM 、 100μM もしくは 500μM のPBNの存在下でPC12細胞を24時間培養することによって解析した。その後に培地に Aβ1-42 を加えた。24時間後にMTT法で細胞生存率を測定した。
【0054】
〔C. 細胞生存率の定量〕
臭化3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウム(MTT)を用いた測定方法(Trevigen, Gaithersburg, MD)により、 公知の方法[Lecanu et al. (2004) Steroids, 69:1-16]で Aβ の細胞毒性を解析した。 要約すると、 100μl の培地で培養した細胞に 10μl のMTT溶液を加えた。上述した文献と同一の条件下で4時間培養した後、 100μl の洗浄剤を加えて、細胞を37℃で一晩培養した。 600nm および 690nm で青く発色したことを、 Victor spectrophotometer (EGG-Wallac, Gaithersburg, MD)を用いて定量した。 Aβ1-42 の作用効果は、 (DO600 - DO690) で表現した。実験した化合物の保護作用を比較するために、 Aβ1-42 にともなって観察されたMTTのシグナルの減少は、NADPHジアホラーゼの活性を阻害した結果によるものが 100% であると考え、また、実験した化合物の作用効果をこの比率の増減によって示した。
【0055】
〔D. ATP測定〕
公知の方法[Lecanu et al., 上述したもの]と同様に、ATPLite-MTMアッセイ(Packard BioSciences Co.)を用いて、ATP濃度を測定した。要約すると、細胞を黒色の 96-well View PlateTM で培養し、 TopCount NXTTM counter (Packard BioSciences Co.)でATP濃度を製造者の薦めにしたがって測定した。 Aβ1-42 の作用効果は任意単位で表現した。ATPの回復において、実験した化合物の保護作用ポテンシャルを比較するため、 Aβ1-42に起因する ATP濃度の減少は、還元によるものが 100% であると考え、また、実験した化合物の作用効果をこの比率の増減によって示した。
【0056】
〔E. 遊離ラジカルの生成〕
蛍光プローブであるジヒドロキシジクロロフルオレセインジアセタート ( di-hydroxy di-chlorofluorescein diacetate; 2,7-DCF ) (Molecular Probes, Eugene, OR)を用いて、公知の方法[Lecanu et al., 上述したもの]で遊離ラジカルの生成を測定することにより、酸化ストレスを解析した。これらの実験のために、ポリリシンでコートしたマイクロプレート上で細胞を培養した。細胞は RPMI 1640 培地と共に一度洗浄した後、培地を 100μl の RPMI 1640 に替えた。細胞を暗室・室温で 50μM 2,7-DCF 100μl で45分間培養した後、 Victor spectrophotometer (EGG-Wallac, Gaithersburg, MD)を用いて蛍光(励起波長 λ=485nm 、放出波長 λ=535nm)を測定した。
【0057】
〔F. 放射性リガンド結合実験〕
Jurkat細胞に発現させたヒト組み換えシグマ-1受容体 ( human recombinant sigma-1 receptor ) を用いて、放射性リガンド結合実験を行った。 3.0E-10〜1.0E-05M の範囲でプロカインの濃度を高めながら、特異的シグマ-1受容体リガンドである [3H]-(+)-ペンタゾシンを 8nM で加え、22℃で120分間培養して、プロカインのIC50値およびHill係数 nH を求めた。
【0058】
〔G. リアルタイムRT-PCR定量法(Q-PCR)〕
六穴プレートで18時間培養したPC12細胞を、プロカインの濃度を高めながら、必要な時間をかけて処理した。処理後、細胞を 1μM の Aβ1-42に24時間曝露した。培養の終わりに、 RNASTAT-60 (Tel-Test, Inc., Friendswood, TX)を製造者の指示に従って用いて、細胞の total RNAを抽出した。 ABI Prism 7700 sequence detection system(Perkin-Elmer/Applied Biosystems, Foster, City, CA)を用いたQ-PCR法によって、HMG-CoA還元酵素mRNAを定量した。 RT反応(逆転写酵素反応)は、公知の方法[Xu et al. (2003) J. Pharmacol. Ther., 307:1148-57]にしたがって、それぞれの反応について TaqMan(R) Reverse Transcription Reagents に、 1μg の total RNA 、およびプライマーとしてランダムヘキサマーを併せて用いた。ラットの HMG-CoA還元酵素mRNAを、Q-PCR法によって定量するために、プライマーおよびプローブの選択のために構成された PE/AB Primer Express software を用いて、プライマーを GenBank Accession Number BC 019782 にしたがって設計した。上述したプライマーは、 5'-GAC TGT GGT TTG TGA AGC TGT CAT-3' (24 nucleotides) であり、逆転写プライマーは、 5'-AAT ACT TCT CTC ACC ACC TTG GCT-3' (24 nucleotides) である。プライマーは、 BioSynthesis, Inc.(Lewisville, TX) が合成したものである。反応は、 10μl の SYBR(R) Green PCR Master Mix 、および 1μl のプライマー混合液に、 2μl の cDNA を溶いたものを含む、 20μl の反応混合液中で行った。以下のサイクルの条件を用いた。すなわち、初期ステップとして50℃で2分間および95℃で10分間、を行った後に、95℃で15秒および60℃で1分間、を40サイクル行った。 AmpliTaq Gold ポリメラーゼは、95℃に10分間置いて活性化した。同時に 18S RNA を増幅し、内部対照として用いた。プライマーダイマーのような、 PCR産物の非特異的産物の汚染を除くために、サイクル手順の後に、すべての最終PCR産物に対して融解曲線分析を行った。また、ゲノムDNA の汚染を除くために、それぞれのサンプルに対して、 RT反応を起こさない PCR反応も行った。 PCR産物を回収し、 3%(w/v)アガロース電気泳動ゲル上で泳動させて産物の大きさを確認した。 18S RNA およびサンプルの Ct値 ( threshold cycle values; Ct values ) を、 PE/AB computer software を用いて算出した。 Ct は、反応が最大の指数増殖期にあるところに定めた。依存的転写量を x = 2ΔΔCt として計算し、ここで、 ΔΔCt = ΔE - ΔC であり、また ΔE = Ctexperiment- Ct18S 、 ΔC - Ctcontrol - Ct18S である。
【0059】
〔H. 統計解析〕
データは、 mean±SD で示した。得られたデータは、一方向ANOVA および比較のために用いた Dunnett法によって、実験群間で評価した。 p<0.05 のときに有意な差であるとした。
【0060】
〔実施例1. PC12細胞における、MTT法、ATP測定および遊離ラジカルの生成による Aβ1-42の神経毒性の測定(図2)〕
1-42 は、PC12細胞の生存率(p<0.001)(図2A)、および細胞内ATP濃度(p < 0.001)(図2B)の用量依存的な減少を誘発する。用量依存的な相関は遊離ラジカルの生成においても観察され、濃度 1μM および 10μM の Aβ1-42によって、酸化ストレスの有意な増大が誘発された(それぞれ、 p<0.01 および p<0.001)(図2C)。
【0061】
〔実施例2. MTT法によって測定した、プロカインおよびプロカイン誘導体の細胞生存率への作用〕
表1に示したように、MTT法による解析から、 0.1μM および 1μM の Aβ1-42 に起因する毒性に対して、プロカインは重みがある保護作用を呈している。
【0062】
【表1】

1μM および 10μM のプロカインによる処置により、 Aβ1-42 に起因するNADPHジアホラーゼの阻害が、少なくとも 30% 低減されるが(p<0.01)、より高い濃度のプロカインでは作用効果が落ちる。リドカインは、濃度 1μM で用いた場合、もっとも高濃度の Aβ1-42に対してすらも、NADPHジアホラーゼの阻害を有意に低減する(対照群 100.0±5.3% と比較して 71.2±16.6%, n=6, p<0.01 )。 10μM のリドカインでは、 Aβ1-42 の最小の投与量の場合を除いては、 1μM のリドカインで観察した場合と等価な保護作用が得られた。また、濃度 100μM のリドカインでは、濃度 1μM および 10μM のリドカインに較べて、 10μM の Aβ1-42 の場合を除いては作用効果が落ちた。三種の濃度のテトラカインでは、 100μM のテトラカインが 10μM の Aβ1-42 に対して最大の作用効果を発揮した(100.0±5.3% の対照群と比較して、 39.6±16.6%, p<0.001, n=6)。このテトラカインの濃度においてのみ、 0.1μM および 1μM の Aβ1-42に起因するNADPHジアホラーゼの阻害が低減された(それぞれ、 100.0±8.8% の対照群と比較して、 60.1±8.2% (p<0.01, n=6)、および 100.0±6.6% の対照群と比較して、 43.7±7.6% (p<0.001, n=6))。三種の濃度のプロカインアミドの使用によって、 Aβ1-42に起因するNADPHジアホラーゼの阻害が、 0.1μM の Aβ1-42 に対して濃度 100μM を用いた場合を除いて、劇的に低減された。 10μM のプロカインアミドの場合に、最大量の神経保護作用が観られ(それぞれ、 100.0±8.8% の対照群と比較して、 68.0±11.6%(p<0.01, n=6)、 100.0±6.6% の対照群と比較して、 49.3±8.0%(p<0.001, n=6)、および、 100.0±5.3% の対照群と比較して、 51.4±16.7%(p<0.001, n=6))、これは 100μM のテトラカインで得られた作用効果と同等である。
【0063】
同定された天然プロカイン誘導体も、PC12細胞への Aβ1-42 の神経毒性に対して神経保護作用を示したが、上述したプロカインとはその作用を示した濃度が異なっている。SP015は、濃度 1μM および 10μM で最高濃度の Aβ1-42 に用いた場合にのみ保護作用を示したが、一方、SP016は保護作用をまったく示さなかった。 1μM のSP017は、 Aβ1-42 に起因するジアホラーゼの阻害を低減したが、最大の作用効果が得られたのは、実験した三種の濃度の Aβ1-42に対して保護作用を示した 10μM のSP017であった(100.0±8.8% の対照群と比較して、 70.1±21.9%, p<0.05, n=6 、 100.0±6.6% の対照群と比較して、 71.9±14.6%, p<0.01, n=6 、および 100.0±5.3% の対照群と比較して、 69.4±21.7%, p<0.05, n=6)。 100μM のSP017は、 Aβ1-42 の毒性を強めており、毒性を有する疑いがある。
【0064】
〔実施例3. Aβ1-42 に起因するATPの減少に対する、プロカインおよびプロカイン誘導体の作用〕
表2に示したように、プロカインは、 0.1μM の Aβ1-42 に起因するATPの欠乏に対して、用量依存的に保護作用を示す一方、その保護作用は 1μM の Aβ1-42 に対しては一貫性が薄れ、また 10μM の Aβ1-42 に対しては保護作用を示さなかった。
【0065】
【表2】

実験した 1μM および 10μM のリドカインは、 0.1μM および 1μM の Aβ1-42 に曝露したPC12細胞内のATP濃度を回復する(p<0.01, n=6)ことが観察され、もっとも重みのある作用は 0.1μM の Aβ1-42 に対して得られた。実験した 100μM のリドカインでは、 Aβ1-42 のすべての濃度に対して保護作用を及ぼしたが、統計的に有意であったのは 10μM の Aβ1-42 、対照群 100.0±23.4%(p<0.05, n=6)の場合のみであった。実験した三種の濃度のテトラカインおよびプロカインアミドでは、 Aβ1-42に起因する細胞内ATP量の減少を有意に抑止した。
【0066】
プロカインの天然の誘導体であるSP015 1μM と、SP017 1μM および 10μM では、ATPへの Aβ1-42 の作用に対する回復作用が得られた。
〔実施例4. Aβ1-42 に起因する神経毒性に対する、NMDA拮抗薬 (+)-MK801 の作用〕
プロカインおよび他の局所麻酔薬は、NMDA受容体を阻害し、且つ、Aβ1-42 の神経毒性に関与することが示されているNMDA受容体の過剰興奮 ( over-activation ) を阻害する。したがって、プロカインの神経保護作用がNMDA神経伝達の遮断によるものであるかどうかを解析するために、この実験においてNMDAの亢進が起きているかどうかを定めることになる。これを研究するために、非競合性NMDA受容体拮抗薬である (+)-MK801 を Aβ1-42 の神経毒性に対して用いた。 Aβ1-42 に起因するPC12細胞生存率の低下の度合を、 (+)-MK801 は神経毒性用量依存的に減少させる(図3)。濃度 25μM の (+)-MK801 を用いることで、 0.1μM および 1μM の Aβ1-42に起因する毒性から、PC12細胞を保護できる(p<0.05)。濃度 100μM の (+)-MK801 を用いることで、実験したすべての濃度の Aβ1-42に対し、もっとも有意な神経保護作用を与えることができる(p<0.001)。
【0067】
〔実施例5. シグマ-1受容体における、 [3H](+)ペンタゾシンのプロカインによる置換の研究〕
シグマ-1受容体は、カルシウムホメオスタシス、記憶、感情、およびミトコンドリアの機能のような、ADによって改変される重要な生理的機能もしくはプロセスを調節または維持するので、プロカインの持つこの受容体との結合能力を実験することは関心を惹く事案である。これを実験するために、特異的シグマ-1リガンドであるペンタゾシンを、プロカインに置換して測定した。Jurkat細胞に発現させたシグマ-1受容体において、 [3H](+)ペンタゾシンをその結合部位からプロカインに IC50値 = 4.3μM で置換した。Hill係数(nH = 1.0)は、シグマ-1受容体上のプロカインの単独結合部位を表す。
【0068】
〔実施例6. PC12細胞におけるグルタマート起因の興奮毒性への、プロカインおよびSP008の作用〕
100μM のグルタマートは、PC12細胞の生存率を劇的に下げる(p<0.001, n=6; 図5)。プロカインは、このグルタマート起因の神経毒性を二相性的に抑制する。 0.3μM および 10μM において、二つの最大の作用効果が得られた(対照群と比較して p<0.001, n=6)。SP008も、二相性の作用を示し、保護作用のピークはグルタマートの濃度が 3μM のときであって(対照群と比較して p<0.001, n=6)、それ以上の濃度のグルタマートが存在すると神経保護作用が減退している。SP008の神経保護作用は、同一の濃度におけるプロカインの作用よりも重みがある(p<0.001, n=6)。
【0069】
〔実施例7. Aβ1-42 起因の遊離ラジカル生成に対する、プロカインおよびプロカイン誘導体の作用〕
図2Cに示したように、 Aβ1-42 は用量依存的にPC12細胞内の遊離ラジカルの生成を誘発する。プロカイン(図4A)、プロカインアミド(図4B)、リドカイン(図4C)、およびテトラカイン(図4D)は、 Aβ1-42 起因の遊離ラジカル生成を低減する傾向を見せている。この作用が統計的に有意となっているのは、プロカイン 10μM と Aβ1-421μM とで培養した場合(p<0.05, n=6)、プロカイン 1μM と Aβ1-42 0.1μM とで培養した場合(p<0.05, n=6)、テトラカイン 100μM と Aβ1-42 1μM とで培養した場合(p<0.05, n=6)、ならびに、プロカインアミド 1μM および 10μM と Aβ1-42 0.1μM および 1μM とで培養した場合(p<0.01, n=6)である。SP015、SP016およびSP017の化合物は、 Aβ1-42 起因の酸化ストレスには影響を及ぼさない。対照的に、これらの化合物は Aβ1-42 起因の遊離ラジカル生成を増幅する。
【0070】
〔実施例8. PC12細胞におけるHMG-CoA還元酵素mRNA合成への、プロカインの作用〕
1-42 (1μM) は、対照群のPC12細胞と比較して、HMG-CoA還元酵素mRNA合成の有意な増大を誘発する(対照群の量の 1.480±0.17 倍, p<0.05 ; 図6)。プロカインは、 Aβ1-42 起因のmRNA量を、用量依存的に減少させるが、対照群のPC12細胞で測定されているHMG-CoA還元酵素mRNAの基礎量には影響しない。
【0071】
〔考察〕
過去の十年を通して、ADに関連するコリン作動性神経系 ( cholinergic network ) の機能障害の改善が科学コミュニティにおける主要な論点となっている。これによって、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤 ( acetylcholinesterase inhibitors; AchEI ) が、タクリンを筆頭とした治療分類として創設されることになった。有望な臨床データにもかかわらず、タクリンの有用な作用効果は控えめなものであり、また、新世代のAchEIとして示されているガランタミン ( galantamine ) およびドネペジル ( donezepil ) は、症候の遅延をタクリンと比較して改善できていない。この1〜2年間程度の短期の遅延は、患者とその関係者にとってはかけがえのないものではあるけれども、おそらくはコリン作動性のニューロンの進行性変性 ( progressive degeneration )に因るものであり、AchEIの使用を制限するものとなる。ADによって損なわれた患者のコリン作動性神経伝達の改善が、実際的な価値と必要性を有しているとは言え、これはこの病気の進行を食い止めるもしくは回復に向かわせるには不充分なものである。近年、グルタマート作動性NMDAサブタイプ受容体の拮抗薬であるメマンチン ( memantine ) が承認されて米国市場にリリースされているが、AD薬の開発においては大きな進展がなされていないと言える。本発明は、プロカインを出発点としたデータベースのスクリーニングによって得られた天然化合物の類似系統から誘導された、新しい分類の化合物を与えるものである。これらの分子は、ラット褐色細胞腫であるPC12細胞を、 Aβ1-42 の神経毒性から保護することができる。
【0072】
副腎皮質ホルモンであるコルチゾールは、ニューロン死の増大、感情の変化、抑鬱の誘発によってADの進行をさらに悪化させることが述べられており、また、 Xu et al. は、プロカイン由来の調合薬が、ストレスに起因するラットのコルチコステロン亢進 ( hypercorticosteronism ) を低減すると最近にレポートしており[J. Pharmacol. Exp. Ther., 307:1148 (2003)]、プロカインによるADの処置へのアプローチが興味深いとしている。しかしながらプロカインは、 p-アミノ安息香酸およびジエチルアミノエタノールへと速く分解してしまうため、ADの治療に使うのは難しい。SP015、SP016およびSP017は、プロカインを副構造として(図1)データベースを用いて天然化合物をスクリーニングすることによって得られ、また、これらの化合物はキク科植物 ( Asteraceae )の Inula britanica (ホソバオグルマ)および Artemisia glabella 由来である。特に、ヨモギ属 ( Artemisia genus ) の植物は、伝統的に精神機能の喪失もしくは減退の回復薬として用いられているものである[Wake et al., (2000) J. Ethnopharmacol. 69:105-14]。
【0073】
プロカインは、 Aβ1-42 に起因するATP産生の減少を部分的に回復することができ、これはミトコンドリアの呼吸鎖 ( respiratory chain ) における活性を示唆している。ミトコンドリアの機能に対して、SP017はスクリーニングされた天然化合物の内で最大の保護作用を呈し、作用範囲は Aβ1-42 の毒性による阻害の 30〜70% となる。興味深いことに、SP015とSP016は化学的な類似性が高いにもかかわらず、SP016は 1μM を投与しても、低濃度(0.1μM)の Aβ1-42 に対してのみ効果を示しただけであるが、一方、SP015 の 1μM の投与では、実験した内の最高濃度の Aβ1-42 に対しても重みのある保護作用を示した。意外にも、これらの種々の化合物の Aβ1-42 曝露後のPC12細胞の生存率への作用効果は、ATP成分の復元において観察された作用効果と完全には一致しない。特に、SP015は、 1μM および 10μM の濃度で、 10μM の Aβ1-42 に対してのみ神経保護作用を呈したが、SP016ではまったく作用効果は得られなかった。この明瞭な不一致は、細胞内ATP貯蔵量の維持は、保護作用特性を示すプロカインおよびプロカイン誘導体による唯一の機構ではない、ということを示唆している。
【0074】
グルタマート作動性神経系 ( glutamatergic network ) は、β-アミロイドペプチド類も対象にしており、これは、 Aβ1-40[Wu et al., Neuroreport, 6, 2409 (1995)]および Aβ25-35 [Mogensen et al., Neuroreport, 9, 1553 (1998)]は、選択的にNMDA受容体によるラットの海馬におけるシナプス伝達を増大させ、AMPAによるものは増大させないためである。しかしながら、種々の結果からは、非NMDA受容体によるカルシウム応答に係る内向き電流が、分化型ヒトNT2-Nニューロンにおいて Aβ1-42 が示す神経毒性に関与していることが指摘されている[Blanchard et al., Brain Res., 21, 776(1-2):40 (1997)]。したがって、 AMPA/kainate型受容体におけるプロカインの阻害効果であると見做せるデータは存在していないとは言え、観察された神経保護作用についてこのような機構が関与していると証明される可能性は残っている。
【0075】
興味深いことに、NMDA受容体拮抗薬である MK-801 は、アミロイドペプチドの神経毒性に対して、コリン作動性基底核ニューロン ( cholinergic nucleus basalis neurons ) および線条体ニューロン ( striatal neurons ) を保護することが、生体内[Parks et al., J. Neurochem., 76,1050 (2001); Harkany et al., Eur. J. Neurosci., 12,2735 (1999)]、ならびに、生体外の神経芽細胞腫で報告されているが、一方、グルタマート部位に特異的に結合するAP-5では保護作用が得られなかった[Le et al., Brain Res., 686, 49 (1995)]。これらの結果から、アミロイドペプチドが、グルタマート部位に直接結合するというよりは、細胞膜内に貫入した後に、NMDAに関連するカルシウムチャネルの開口状態を安定させるように機能するのであろう、とこれらの文献の著者らは結論している。したがって、 MK-801 が Aβ1-42 起因の神経毒性を用量依存的に著しく低減することは、ここで考察している神経毒性が、NMDA受容体の過剰興奮 ( over-stimulation ) をともなうことを示唆している。さらに言えば、プロカインがPC12細胞におけるグルタマート起因の興奮毒性を低減することは、NMDA起因のカルシウム内向き電流の阻害が、本発明に係る化合物の与える保護作用を齎しているのであろうということを示唆している。マウスCA1錐体ニューロン[Nishizawa et al., Anesth. Analg., 94 325 (2002)]、およびアフリカツメガエル卵母細胞[Sugimoto et al., Brit. J. Pharmacol., 138, 876 (2003)]において、局所麻酔薬がNMDA受容体チャネルを阻害するという最近の発見により、このデータは補強されている。
【0076】
局所麻酔薬がNMDA受容体を阻害するための機構は、これらのそれぞれの pKa に依存する。 pKa が 8.9 であるプロカインは、生理学的な部位においてさらにイオン化され、したがってプロカインはカルシウムチャネルの内側に位置する部位で結合する傾向、および、電圧依存的にふるまう傾向がさらに強まる。他方、リドカインの pKa は 7.9 であり、これから、この分子は生理pHにおいては非イオン・親油性の状態として存在すること、また、この分子が細胞膜に貫入して、NMDA受容体をアロステリックに修飾する、ということが示唆される。中間の pKa を持つテトラカインは、両方の機構によってNMDA受容体を阻害すると予想され、ゆえにこの化合物が、 Aβ1-42 の神経毒性からPC12細胞を最大の効率で保護することが説明できるであろう。
【0077】
天然化合物であるSP015およびSP017は、プロカインを副構造としてデータペースから選択されているため、これらから得られる神経保護作用はこのような活性の機構で説明することができるであろう。興味深いことに、 Aβ1-42 によるラット海馬のNMDA受容体の過剰興奮は、長期の抑鬱として作用することが知られており、同様に、長期増強現象 ( long-term potentiation ) [Kim et al., J. Neurosci., 21, 1327 (2001)]としても作用し、これらは脳のシナプス可塑性 ( synaptic plasticity ) の二つの主要な形態である。この有毒な経路は、ADによって妨害される記憶プロセスに関与すると考えられている。
【0078】
さらにプロカインは、シグマ-1(σ1)受容体に、IC50値 4.3μM 、Hill係数 1.0 として結合する能力を呈し、これは、唯一の結合部位を持つということを示している。いくつかのσ1受容体拮抗薬は、スコポラミン起因のラットの健忘症を、用量依存的に回復させることが知られている。興味深いことに、これらの拮抗薬のうちのひとつであるSA4503は、ラット脳海馬の切片[Horan et al., Synapse, 46. 1 (2002)]、および生体内[Kobayashi et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 279, 106 (1996)]において Ach の放出を増大させ、これから、抗健忘症作用は、コリン作動性経路の活性の一部に因るものであると示唆される。加えて、 Ach の放出におけるσ1受容体への結合の作用は、海馬内では、タクリンと較べてより多いと判断されている[Kobayashi et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 279, 106 (1996)]。加えて、σ1受容体拮抗薬であるイグメシン ( Igmesine ) は、アミロイドの断片 Aβ25-35 を脳室内に ( intracerebroventrically ) 注入されたマウスにおいて、抗鬱剤としての活性を発揮することが近年に示されており、おそらくはモノアミン作動性神経系 ( monoaminergic system ) の修飾を介している[Akunne et al., Neuropharmacol., 41, 138 (2001)]。加えて、近年のデータでは、σ1受容体リガンドによって、ラットの神経細胞を一過性脳虚血 ( transient cerebral ischemia ) から保護し[Goyagi et al., Anesth. Analg., 96, 532 (2003)]、星状細胞における低酸素症起因のATP欠乏を抑止し[Klouz et al., FEBS Lett., 553 157 (2003)]、また、PC12細胞における神経成長因子に起因する、促通性の神経突起発芽 ( facilitated neurite sprouting ) を抑止する[Takebayashi et al., J. Pharm. Exp. Ther., 303, 1227 (2002)]、と報告されている。プロカインは、σ2受容体と較べて選択的にσ1受容体と結合し(IC50値: >10μM)、また、σ2受容体拮抗薬において知られているアポトーシス誘導特性および細胞毒作用を欠いていると考えられる。
【0079】
プロカインは、ラット生体内、および、生体外のdbcAMPで興奮させたライディッヒ細胞[Xu et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 307, 1148 (2003)]における、ストレス起因のコルチゾール増大を下方調整することが近年報告されている。報告されたデータからは、副腎皮質細胞によるコルチゾール産生の減少は、HMG-CoA還元酵素mRNAを制限するコレステロール合成レートの表出であり、また、細胞生存率に関連する、ということが示唆されている。 Aβ1-42 曝露で「ストレスをかけた」PC12細胞内のHMG-CoA mRNAの量に対するプロカインの作用について、ここで述べた内容は、 Xu et al. が cAMP で「ストレスをかけた」副腎細胞について述べていることと同様である。興味深いことに、mRNAの発現の増大を通してHMG-CoAの活性を調整する Aβ1-42 の能力は、ニューロンのコレステロール量および輸送の制御における、β-アミロイドペプチドの生理的機能における近年の発見を補完するものである[Yao et al., Brain Res., 847, 203 (2002); Wood and Igbavboa, Pharmopsychiatry, 36(S2), 3144-148 (2003)]。
【0080】
しかしながら、PC12褐色細胞腫はステロイド類を産生しないため、コルチコステロイド(副腎皮質ホルモン)合成の減少が、プロカインの Aβ1-42に対する保護作用を説明できるとはまず考えられない。プロカインによる、HMG-CoA mRNAの発現の用量依存的減少は、まず、膜流動性の変動、および、細胞膜を通した Aβ1-42 の輸送の変化の直接の結果としてのコレステロール産生の減少という結果を齎す。したがって、これらの変動によって、細胞は Aβ1-42起因の神経毒性に対してより鈍感になると考えられる。加えて、コレステロール合成の減少は、γ-セクレターゼ活性の減少により、APP開裂およびβ-アミロイドペプチド産生を低減することが示されている。
【0081】
すべての公報、特許、および特許文献は、ここでの参照により開示に含まれ、参照によって個々に開示に含まれる。本発明は、さまざまな特定の形態および技術、ならびに好ましい形態および技術を参照して記載されている。しかしながら、本発明の本質および範囲の内において、多数の変種および変形を実施することができるということを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、プロカインの化学構造式、およびいくつかのプロカイン誘導体の化学構造式を示したものである。SP015、SP016、およびSP017は、プロカインおよびプロカインアミドを部分構造とした天然化合物データベースのスクリーニングによって同定されたものである。
【図2】図2(のパネルA〜C)は、MTT法によって測定された、ラット褐色細胞腫由来のPC12細胞の生長への Aβ1-42 の作用を示すグラフ (A) 、および、細胞内のATP濃度の測定によって測定された、ラット褐色細胞腫由来のPC12細胞の生存率への Aβ1-42 の作用を示すグラフ (B) である。遊離ラジカルの生成における Aβ1-42 の作用を、蛍光プローブ(蛍光標識)である 2,7-DCF を用いて測定した (C) 。 Aβ1-42 の濃度を高めながらPC12細胞に曝露し(Cは対照群を指す)、曝露の24時間後に種々のパラメータを測定した。統計的解析は、一方向ANOVAに続いてDunnett法によって行った。 Mean±SD, n=6 。特に定めない限り、対照群と比較して *: p<0.05, ***: p<0.001 。
【図3】Aβ1-42 の神経毒性に対する、非競合性NMDA拮抗薬である (+)-MK801 の保護作用である。PC12細胞は、 Aβ1-42 の濃度を高めながら24時間曝露する前に、 (+)-MK801 の濃度を高めながら24時間前培養した。細胞生存率はMTT法によって測定した。対照細胞(C)は、 (+)-MK801 にも Aβ1-42 にも曝露しなかった。統計的解析は、一方向ANOVAに続いてDunnett法によって行った。 Mean±SD, n=6 。 (+)-MK801 0μM と比較して *: p<0.05, ***: p<0.001 。
【図4】PC12細胞における Aβ1-42 起因の遊離ラジカルの生成に対する、化合物の作用である。P12細胞は、 Aβ1-42の濃度を高めながら曝露する前に、プロカイン (A) 、リドカイン (B) 、テトラカイン (C) 、およびプロカインアミド (D) の濃度を高めながら24時間前培養した。遊離ラジカルの生成は、24時間の Aβ1-42 への曝露の後に、蛍光プローブである 2,7-DCF を用いて測定した。対照細胞は、薬理学的な試薬 にも Aβ1-42にも曝露しなかった。統計的解析は、一方向ANOVAに続いてDunnett法によって行った。 Mean±SD, n=6 。 濃度 0μM と比較した。図を見やすくするため、有意度を表す星印は付していない。
【図5】PC12細胞のグルタマートに起因する細胞死に対する、プロカインおよびSP008((4-エチルピペラジニル-1-イル)-2',3',4'-トリメトキシベンゾアート)の神経保護作用である。PC12細胞は、 100μM のグルタマートに24時間曝露する前に、プロカインもしくはSP008の濃度を高めながら24時間前培養した。細胞生存率はMTT法によって測定した。統計的解析は、一方向ANOVAに続いてDunnett法によって行った。 Mean±SD, n=6 。 0UM と比較して **: p<0.01, ***: p<0.001 。対照群と比較して XXX: p<0.001 。
【図6】PC12細胞における、HMG-CoA還元酵素mRNAの合成に対する、プロカインの作用である。PC12細胞は、 Aβ1-42 1μM に24時間曝露する前に、プロカイン 1μM もしくは 10μM で18時間前培養した。24時間の期間の最後に、リアルタイムPCR定量法 ( realtime quantitative PCR ) を用いて発現したHMG-CoA mRNAを定量した。統計的解析は、一方向ANOVAに続いてDunnett法によって行った。 Mean±SD, n=3 。特に定めていない限り、対照群と比較して *: p<0.05, **: p<0.01 。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経病態の徴候の観られるもしくは神経病態を患う哺乳類の処置方法であって、以下の構造式 I の化合物、
【化1】

(ここで、式中の
a) R1 、 R2および R3 が、独立に、 H 、OH基、ハロ基、CN基、 (C1-C6)アルキル基、 (C1-C6) アルコキシ基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルコキシ基、 (C3-C6)シクロアルキル((C1-C6)アルキル)基、 (C2-C6)アルケニル基、 (C2-C6)アルキニル基、 (C1-C6)アルカノイル基、 ハロ(C1-C6)アルキル基、 ヒドロキシ(C1-C6)アルキル基、 (C1-C6)アルコキシカルボニル基、または、 (C1-C6)アルキルチオ基、 チオ(C1-C6)アルキル基、 (C1-C6)アルカノイルオキシ基、または N(R5)(R6) であるか、あるいは、 R1 と R2 とが共にメチレンジオキシ基となっており、
b) R5 、 R6、 R7 および R8 が、独立に、 H 、 (C1-C6)アルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル((C1-C6)アルキル)基、 (C2-C6)アルケニル基、アリール基、アリール(C1-C6)アルキル基、アリール(C2-C6)アルケニル基、ヘテロアリール基、ヘテロアリール(C1-C6)アルキル基、であって、前記のシクロアルキル基はオプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含むか、あるいは、R5 および R6、または R7 および R8 が、前記の N と共に、五員環もしくは六員環である複素環または複素芳香環であって、オプションとして R1 で置換されている、また、オプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含むような、複素環または複素芳香環を構成しており、
c) (Alk) が、 (C1-C6)アルキル基、 (C2-C6)アルケニル基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル(C2-C6)アルキル基、もしくは、 [(C2-C6)アルキル(C3-C6)シクロアルキル[(C3-C6)アルキル]基、であって、オプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含み、ならびに、
d) X が、 O もしくは NH基である。)
あるいは、薬学的に許容されうるこれらの化合物の塩であって、構造式(I)の R1 、 R2 、 R3 および R4の内の二つが (C1-C3)アルキル基では無いことを条件とする塩、の神経保護作用の有効量を、前記哺乳類に投与する方法。
【請求項2】
前記 (Alk) が、 -(CH2)- 、 -(CH2)2- 、 -(CH2)3- 、もしくは -(CH2)4- のような (C1-C4)アルキル基であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記の R1 、 R2、 R3 もしくは R4 の内のひとつまたは二つが、 N(R5)(R6) であることを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の方法。
【請求項4】
前記の R5 および R6の双方が、 H であることを特徴とする、請求項1、2もしくは3に記載の方法。
【請求項5】
前記の R7 および R8の一方または双方が、 (C1-C6)アルキル基もしくは (C3-C6)シクロアルキル基であるか、あるいは、一方が H であって、他方が (C1-C6)アルキル基もしくは (C3-C6)シクロアルキル基であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記の R1 、 R2、 R3 もしくは R4 の内のひとつまたは二つが、 (C1-C6)アルコキシ基であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記の (R5)(R6)N- が、パラ位もしくは位置番号4であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記の R1 、 R2、 R3 もしくは R4 の内のひとつまたは二つが、アミノ基であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記の R1 、 R2、 R3 および R4 が、 H であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、プロカインアミド、プロカイン、テトラカイン、もしくはリドカイン、または薬学的に許容されるこれらの塩であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記化合物を、経口投与することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物を、非経口的に投与することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物を、吸入もしくはガス注入によって与えることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記神経病態が、アルツハイマー病であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記量が、Aβペプチドに起因する神経毒性を阻害するために有効な量であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記量が、 Aβ1-40 、 Aβ1-42もしくは Aβ1-43 の神経毒性を阻害するために有効な量であることを特徴とする、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記量が、グルタマート起因の神経毒性を阻害するために有効な量であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記神経病態が、グルタマート経路の過剰興奮に因るものであることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記量が、神経細胞内のATP量を維持するために有効な量であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
構造式 I もしくは II の前記化合物が、ヒトに投与されることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ヒトが、ADの初期段階にあることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記ヒトが、ADの患者であることを特徴とする、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記ヒトが、血管性痴呆を患うことを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項24】
前記の R2 が、 H であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記の R3 が、 H であることを特徴とする、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記の R1 、 R2および R3 のそれぞれが、 H であることを特徴とする、請求項25記載の方法。
【請求項27】
構造式(I)もしくは(II)の前記化合物が、薬学的に許容される担体と組み合わされて投与されることを特徴とする、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記担体が液体であることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記担体が固体であることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項30】
薬学的に許容される担体と組み合わされた、構造式(I)もしくは(II)の化合物を含むことを特徴とする、製剤。
【請求項31】
グルタマート神経系もしくは経路の伝達亢進を含む神経障害を処置する治療方法であって、前記神経障害の徴候の観られるもしくは前記神経障害を患う哺乳類に、構造式 I もしくは構造式 II の化合物の有効量を投与することを含むことを特徴とする、治療方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経病態の徴候の観られるもしくは神経病態を患う哺乳類の処置方法であって、以下の構造式 I もしくは構造式 II の化合物、
【化1】

(ここで、式中の
a) R1 、 R2および R3 が、独立に、 H 、OH基、ハロ基、CN基、 (C1-C6)アルキル基、 (C1-C6) アルコキシ基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルコキシ基、 (C3-C6)シクロアルキル((C1-C6)アルキル)基、 (C2-C6)アルケニル基、 (C2-C6)アルキニル基、 (C1-C6)アルカノイル基、ハロ(C1-C6)アルキル基、 ヒドロキシ(C1-C6)アルキル基、 (C1-C6)アルコキシカルボニル基、または、 (C1-C6)アルキルチオ基、チオ(C1-C6)アルキル基、 (C1-C6)アルカノイルオキシ基、または N(R5)(R6) であるか、あるいは、 R1 と R2 とが共にメチレンジオキシ基となっており、
b) R4 が、 H 、 (C1-C6) アルコキシ基、もしくは N(R5)(R6) であって、
c) R5、 R6 、 R7 および R8 が、独立に、 H 、 (C1-C6)アルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル((C1-C6)アルキル)基、 (C2-C6)アルケニル基、アリール基、アリール(C1-C6)アルキル基、アリール(C2-C6)アルケニル基、ヘテロアリール基、ヘテロアリール(C1-C6)アルキル基、であって、前記のシクロアルキル基はオプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含むか、あるいは、R5 および R6、または R7 および R8 が、前記の N と共に、五員環もしくは六員環である複素環または複素芳香環であって、オプションとして R1 で置換されている、また、オプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含むような、複素環または複素芳香環を構成しており、
d) (Alk) が、 (C1-C6)アルキル基、 (C2-C6)アルケニル基、 (C3-C6)シクロアルキル基、 (C3-C6)シクロアルキル(C2-C6)アルキル基、もしくは、 [(C2-C6)アルキル(C3-C6)シクロアルキル[(C3-C6)アルキル]基、であって、オプションとして1〜2個の S 、過酸化物ではない O 、 もしくは N(R5) を含み、ならびに、
e) X が、 O もしくは NH基である。)
あるいは、薬学的に許容されうるこれらの化合物の塩であって、構造式(I)の R1 、 R2 、 R3 および R4の内の二つが (C1-C3)アルキル基では無いことを条件とする塩、の神経保護作用の有効量を、前記哺乳類に投与する方法。
【請求項2】
前記 (Alk) が、 -(CH2)- 、 -(CH2)2- 、 -(CH2)3- 、もしくは -(CH2)4- のような (C1-C4)アルキル基であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記の R1 、 R2、 R3 もしくは R4 の内のひとつまたは二つが、 N(R5)(R6) であることを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の方法。
【請求項4】
前記の R5 および R6の双方が、 H であることを特徴とする、請求項1、2もしくは3に記載の方法。
【請求項5】
前記の R7 および R8の一方または双方が、 (C1-C6)アルキル基もしくは (C3-C6)シクロアルキル基であるか、あるいは、一方が H であって、他方が (C1-C6)アルキル基もしくは (C3-C6)シクロアルキル基であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記の R1 、 R2、 R3 もしくは R4 の内のひとつまたは二つが、 (C1-C6)アルコキシ基であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記の (R5)(R6)N- が、パラ位もしくは位置番号4であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記の R1 、 R2、 R3 もしくは R4 の内のひとつまたは二つが、アミノ基であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記の R1 、 R2、 R3 および R4 が、 H であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、プロカインアミド、プロカイン、テトラカイン、もしくは薬学的に許容されるこれらの塩であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記化合物を、経口投与することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物を、非経口的に投与することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物を、吸入もしくはガス注入によって与えることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記神経病態が、アルツハイマー病であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記量が、Aβペプチドに起因する神経毒性を阻害するために有効な量であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記量が、 Aβ1-40 、 Aβ1-42もしくは Aβ1-43 の神経毒性を阻害するために有効な量であることを特徴とする、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記量が、グルタマート起因の神経毒性を阻害するために有効な量であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記神経病態が、グルタマート経路の過剰興奮に因るものであることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記量が、神経細胞内のATP量を維持するために有効な量であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
構造式 I もしくは II の前記化合物が、ヒトに投与されることを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ヒトが、ADの初期段階にあることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記ヒトが、ADの患者であることを特徴とする、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記ヒトが、血管性痴呆を患うことを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項24】
前記の R2 が、 H であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記の R3 が、 H であることを特徴とする、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記の R1 、 R2および R3 のそれぞれが、 H であることを特徴とする、請求項25記載の方法。
【請求項27】
構造式(I)もしくは(II)の前記化合物が、薬学的に許容される担体と組み合わされて投与されることを特徴とする、請求項1〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記担体が液体であることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記担体が固体であることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項30】
薬学的に許容される担体と組み合わされた、構造式(I)もしくは(II)の化合物を含むことを特徴とする、製剤。
【請求項31】
グルタマート神経系もしくは経路の伝達亢進を含む神経障害を処置する治療方法であって、前記神経障害の徴候の観られるもしくは前記神経障害を患う哺乳類に、構造式 I もしくは構造式 II の化合物の有効量を投与することを含むことを特徴とする、治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−526634(P2006−526634A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514920(P2006−514920)
【出願日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/016036
【国際公開番号】WO2004/108666
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(505445094)サマリタン,ファーマスーティカルス,インク. (9)
【氏名又は名称原語表記】SAMARITAN PHARMACEUTICALS,INC.
【出願人】(505446231)ジョージタウン ユニバーシティー (9)
【氏名又は名称原語表記】GEORGETOWN UNIVERSITY
【出願人】(505445120)
【氏名又は名称原語表記】LECANU,LAURENT
【出願人】(505445119)
【氏名又は名称原語表記】GREESON,JANET
【出願人】(505445108)
【氏名又は名称原語表記】PAPADOPOULOS,VASSILIOS
【Fターム(参考)】