説明

神経変性疾患の治療において用いられる複素環誘導体

本発明は、式(I):HetAr-X-CHR1R2(I)の化合物、それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの異性体、または異性体の混合物に関する。式中、HetArは下記式:


から選択される基を示し、Xは、8から22個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖炭化水素鎖を示し、該炭化水素鎖は-NH-または-NH-CO-基で分断されていてもよく、R1は水素原子を示すか、または-OH、-O(C1-C6)アルキル、-OCO((C1-C6)アルキル)、-OSO2((C1-C6)アルキル)もしくは-OSO3H基を示し、かつR2は水素原子を示すか、または(C2-C6)アルキニル、(C2-C6)アルケニルもしくは(C3-C6)シクロアルキル基を示す。本発明は、式(I)の化合物を調製するための方法、および特に神経変性疾患の治療における式(I)の化合物の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患の治療において有用な、脂肪族鎖で置換されているキノリンまたはキノキサリンモチーフを有するキメラ化合物、ならびにそれを調製するための方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
平均余命が長くなるにつれて、アルツハイマー病またはパーキンソン病などの神経変性疾患を患う人がますます多くなる。
【0003】
神経変性疾患は、神経系、特に脳の機能に進行性に影響をおよぼす疾患である。この疾患はある程度急速に(数週間から数年間)発生することがあり、多くの場合不可逆的である。したがって、神経細胞、特にニューロンの機能が低下し、それによって細胞死が起こりうる。疾患の影響を受ける神経系の領域に応じて、運動技能、言語、記憶、知覚または認知などの様々な機能が影響されうる。最も一般的な神経変性疾患には、特に、アルツハイマー病およびパーキンソン病が含まれる。
【0004】
アルツハイマー病は世界中でおよそ2400万人が罹患しており、精神機能の進行的かつ不可逆的な損失を引き起こす脳組織の疾患である。最初の症状は最近の事象の記憶喪失(健忘)で、続いて認知欠乏が現れ、言語(失語)、運動の組織化(失行)、視覚認識(失認)および実行機能(意思決定および計画など)の領域に拡がる。
【0005】
パーキンソン病は中枢神経系を冒し、漸進的に進行する運動障害、特に体の振戦を引き起こす。
【0006】
現在、これら2つの疾患に対して処方される薬物は、疾患の進行を遅らせるのに効果があるにすぎない。疾患を治癒させるものも、進行を止めるものもなく、したがってこれらの神経変性疾患を治療するための新しく、より活性の強い分子が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本発明は、下記の式(I):
HetAr-X-CHR1R2 (I)
の化合物、ならびにその薬学的に許容される塩、その異性体、または異性体のあらゆる比率での混合物、特に鏡像異性体の混合物、特にラセミ混合物に関する:
式中、
- HetArは

から選択される基を示し、ここでR3およびR4は、互いに独立に、水素原子を示すか、または1から6個の水素原子を含む、飽和もしくは不飽和の、直鎖もしくは分枝鎖の炭化水素鎖を示すか、またはアリール基を示し、R3は好ましくは水素原子を示し、
- Xは、8から22個の炭素原子、好ましくは10から16個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖炭化水素鎖を示し、該炭化水素鎖は-NH-または-NH-CO-基で分断されていてもよく、該基は好ましくはHetArに直接連結しており、
- R1は水素原子またはOR5基を示し、ここでR5は水素原子を示すか、または(C1-C6)アルキル、-CO((C1-C6)アルキル)、-SO2((C1-C6)アルキル)および-SO3Hから選択されるR5a基を示し、かつ
- R2は水素原子を示すか、または(C2-C6)アルキニル、(C2-C6)アルケニルもしくは(C3-C6)シクロアルキル基から選択されるR2a基を示す。
【0008】
「(C1-C6)-アルキル」基とは、本発明の文脈において、1から6個の炭素原子を含む、直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素鎖、特に下記の基を意味する:メチル、エチル。n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチルおよびn-ヘキシル。
【0009】
「(C2-C6)-アルケニル」基とは、本発明の文脈において、例えば、ビニルまたはアリル基、好ましくはビニル基などの、少なくとも1つの二重結合を含み、かつ2から6個の炭素原子を含む、直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖を意味する。
【0010】
「(C2-C6)-アルキニル」基とは、本発明の文脈において、例えば、エチニルまたはプロピニル基、好ましくはエチニル基などの、少なくとも1つの三重結合を含み、かつ2から6個の炭素原子を含む、直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖を意味する。
【0011】
「(C3-C6)-シクロアルキル」基とは、本発明の文脈において、3から6個の炭素原子を含む飽和炭化水素環、特にシクロヘキシル、シクロペンチルまたはシクロプロピル基、有利にはシクロプロピル基を意味する。
【0012】
「アリール」基とは、本発明の文脈において、例えば、フェニルまたはナフチル基、有利にはフェニル基などの、好ましくは5から10個の炭素原子を含み、かつ1つまたは複数の連結された環を含む、芳香環を意味する。
【0013】
「不飽和(の)」とは、本発明の文脈において、炭化水素鎖が1つまたは複数の不飽和を含みうることを意味する。
【0014】
「不飽和」とは、本発明の文脈において、二重または三重結合を意味する。
【0015】
本発明において、「薬学的に許容される」とは、一般に安全、非毒性で、生物学的にもそれ以外でも有害でなく、かつ獣医学的またはヒトの薬学的使用のために許容される、薬学的組成物の調製において有用であるものを意味する。
【0016】
化合物の「薬学的に許容される塩」とは、本発明の文脈において、本明細書において定義するとおり、薬学的に許容され、かつ親化合物の所望の薬理活性を有する塩を意味する。そのような塩には下記が含まれる:
(1)水和物および溶媒和物、
(2)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸と形成される;または酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、サリチル酸、コハク酸、ジベンゾイル-L-酒石酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸と形成される酸付加塩;ならびに
(3)親化合物に存在する酸性プロトンが、金属イオン、例えば、アルカリ金属イオン(例えば、Na+、K+またはLi+)、アルカリ土類金属イオン(Ca2+またはMg2+など)もしくはアルミニウムイオンによって置き換えられているか;または有機もしくは無機塩基と配位結合している場合に形成される塩。許容される有機塩基には、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミンなどが含まれる。許容される無機塩基には、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムが含まれる。
【0017】
「異性体」とは、本発明の文脈において、ジアステレオ異性体または鏡像異性体を意味する。したがって、これらは光学異性体を示し、「立体異性体」とも呼ぶ。したがって、互いの鏡像ではない立体異性体はジアステレオ異性体と呼び、重ね合わせ可能な鏡像ではない立体異性体は鏡像異性体と呼ぶ。
【0018】
4つの同一ではない置換基に連結している炭素原子は「キラル中心」と呼ぶ。
【0019】
2つの鏡像異性体の等モル混合物はラセミ混合物と呼ぶ。
【0020】
本発明の第一の特定の態様によれば、HetArは

を示し、かつXは、飽和直鎖炭化水素鎖であるX1鎖を示すか、またはHetArに直接連結している少なくとも1つの三重結合もしくは二重結合、好ましくは1つの三重結合を含む、不飽和直鎖炭化水素鎖であるX1鎖を示し、該鎖は8から22個の炭素原子、好ましくは10から16個の炭素原子を含む。
【0021】
有利には、X1が不飽和炭化水素鎖を示すとき、X1は、HetArに直接連結している1つだけの不飽和、すなわち二重または三重結合、好ましくは三重結合を含む。
【0022】
本発明の第二の特定の態様によれば、HetArは

を示し、かつR3およびR4は上で定義したとおりであり、かつXは、NHがHetArに直接連結している-NH-X2-または-NH-CO-X2-基を示し、かつX2は8から22個の炭素原子、好ましくは10から16個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖炭化水素鎖を示す。
【0023】
好ましくは、R3は水素原子を示し、かつR4は(C1-C6)アルキルまたはアリール基、有利には(C1-C6)アルキル基を示す。
【0024】
本発明の別の特定の態様によれば、R1は水素原子を示し、かつR2は水素原子を示す。
【0025】
本発明のさらに別の特定の態様によれば、R1はOR5基を示し、かつR2は水素原子または(C2-C6)アルキニル、(C2-C6)アルケニルもしくは(C3-C6)シクロアルキル基から選択されるR2a基を示す。
【0026】
有利には、R1およびR2はそれぞれ水素原子を示すか、またはR1はOH基を示し、かつR2は-C≡CHなどの(C2-C6)アルキニル基、-CH=CH2-などの(C2-C6)アルケニル基または-C3H5などの(C3-C6)シクロアルキル基を示し、好ましくは-C≡CH基を示す。
【0027】
特に、本発明の化合物は

から選択することができる。
【0028】
本発明は、薬物、特に神経栄養性または神経保護性の薬物と同じものして用いるための、有利にはアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症または脳血管障害などの神経変性疾患を治療または予防するための、上で定義した本発明の化合物にも関する。
【0029】
本発明は、神経栄養性または神経保護性の薬物を製造するための、有利にはアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症または脳血管障害などの神経変性疾患を治療または予防するための、上で定義した本発明の化合物の使用にも関する。
【0030】
本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症または脳血管障害などの神経変性疾患の治療法または予防法であって、本発明の化合物の十分な量をそれを必要としている患者に投与する段階を含む方法にも関する。
【0031】
本発明は、少なくとも1つの上で定義した本発明の化合物および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物にも関する。
【0032】
本発明の化合物を経口、舌下、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所または直腸経路により投与することができる。
【0033】
経口、舌下、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所または直腸投与のための本発明の薬学的組成物において、活性成分を伝統的な薬学的担体との混合物としての単位用量剤形で、動物またはヒトに投与することができる。適当な単位用量剤形には、錠剤、ゼラチンカプセル剤、散剤、顆粒剤および経口液剤または懸濁剤などの経口経路による剤形;舌下および口腔投与剤形;非経口、皮下、筋肉内、静脈内、鼻内または眼内投与剤形;ならびに直腸投与用の剤形が含まれる。
【0034】
錠剤形の固体組成物を調製する場合、主要活性成分をゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアゴムなどの薬学的担体と混合する。錠剤はショ糖もしくは他の適当な材料でコーティングすることもでき、またはその活性が延長もしくは遅延するような様式およびそれらがあらかじめ決められた量の活性成分を持続的に放出するような様式で処理することもできる。
【0035】
活性成分を希釈剤と混合し、得られた混合物をゼラチン軟カプセルまたは硬カプセルに加えることにより、ゼラチンカプセル中の製剤を得る。
【0036】
シロップ剤またはエリキシル剤の製剤は、活性成分を甘味剤、防腐剤、ならびに着香剤および適当な着色剤と共に含むことができる。
【0037】
水分散性散剤または顆粒剤は、活性成分を分散剤もしくは湿潤剤、または懸濁化剤、ならびに香味矯正剤または甘味剤と混合して含むことができる。
【0038】
直腸投与のために、直腸温度で融解する結合剤、例えば、カカオ脂またはポリエチレングリコールと共に調製した坐剤を用いる。
【0039】
非経口、鼻内または眼内投与のために、薬理的に適合する分散剤および/または湿潤剤を含む、水性懸濁剤、等張食塩溶液または滅菌注射液剤を用いる。
【0040】
活性成分を、任意に1つまたは複数の添加剤と共に、マイクロカプセル剤の形で製剤することもできる。
【0041】
本発明の化合物は、1日に0.01mgから1,000mgの間の用量で用いることができ、1日1回の単一用量で投与することもでき、または1日を通して数回、例えば、1日に2回同じ用量で投与することもできる。投与する1日用量は、有利には、5mgから500mgの間、さらに有利には10mgから200mgの間である。当業者の経験に従い、これらの範囲外の用量を用いる必要がある場合もある。
【0042】
特定の態様によれば、上で定義した薬学的組成物は、特に神経変性疾患を治療または予防するのに有用な別の活性成分、有利にはドネゼピル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンおよびタクリンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤;セレギリンなどのモノアミンオキシダーゼ阻害剤;エンタカポンなどのカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ阻害剤;アマンタジンおよびバクロフェンなどのグルタミン酸作動阻害剤;サブコメリンなどのコリン作動薬;ペルゴリド、カベルゴリン、ロピニロールおよびプラミペキソールなどのドーパミン作動薬;L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンなどの神経伝達物質類縁体または前駆体;ならびにトリヘキシフェニジルおよびトロパテピンなどの抗コリン作動薬から選択される別の活性成分をさらに含んでいてもよい。
【0043】
本発明は、R1が上で定義したOR5基を示し、かつR2が上で定義したR2a基を示す、上で定義した式(I)の化合物を調製するための方法であって、下記の段階を含む方法にも関する:
- HetArおよびXが前に定義したとおりである下記の式(II):
HetAr-X-CHO (II)
の化合物を、
R2bが、保護型であってもよい、前に定義したR2a基を示し、かつMが、ブロモマグネシウムまたはクロロマグネシウムのようにハロゲン原子に連結されている、リチウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す、式R2b-Mの化合物と一緒にして、
HetArおよびXが前に定義したとおりでありかつR2bが上で定義したとおりである下記の式(III):
HetAr-X-CH(OH)R2b (III)
の化合物を得る段階、
- 任意に、R2b基を脱保護して、上で定義したR2a基の脱保護型を生じさせ、HetAr、R2aおよびXが前に定義したとおりである下記の式(Ia):
HetAr-X-CH(OH)R2a (Ia)
の化合物を得る段階、
- 任意に、前の段階で得られた式(Ia)の化合物のOH基を置換して、HetAr、R1a、R2aおよびXが前に定義したとおりである下記の式(Ib):
HetAr-X-CH(OR1a)R2a (Ib)
の化合物を得る段階、ならびに
- 前の段階で得られかつ化合物(III)、(Ia)または(Ib)に対応する化合物(I)を回収する段階。
【0044】
「アルカリ金属」とは、特にナトリウム、カリウムおよびリチウム、好ましくはリチウムを意味する。
【0045】
「アルカリ土類金属」とは、特にマグネシウムおよびカルシウム、好ましくはマグネシウムを意味する。
【0046】
好ましくは、Mは、ハロゲンに連結されている、好ましくは塩素または臭素に連結されている、リチウムまたはマグネシウムを示す。
【0047】
「R2aの保護型」とは、R2aが-C≡CH基を示す場合、-C≡C-SiRaRbRcなる基を意味し、ここでRa、RbおよびRcは、互いに独立に、上で定義した(C1-C6)アルキル基を示す。有利には、SiRaRbRcはトリメチルシリル(TMS)、tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)またはトリイソプロピルシリル(TIPS)基、好ましくはTMS基を示す。次いで、この保護型を酸性媒質中またはフッ素イオン存在下で脱保護して、-C≡CH官能基を遊離することができる。好ましくは、-C≡C-TMS基をフッ化tert-ブチルアンモニウム(TBAF)存在下で脱保護する。
【0048】
本発明の特定の態様によれば、前述の式(II)の化合物を、HetArおよびXが前に定義したとおりである、下記の式(IV):
HetAr-X-CH2(OH) (IV)
の化合物のアルコール官能基を酸化することにより得ることができる。
【0049】
有利には、この酸化は、特にジメチルスルホキシド(DMSO)および無水トリフルオロ酢酸(TFAA)または塩化オキサリル(ClCOOCCl)存在下、好ましくはDMSOおよびClCOOCCl存在下、スワーン反応により実施する。この反応は、有利には、ジクロロメタン中、有利には低温、特に-40℃よりも低い温度、有利には約-50℃で実施する。
【0050】
本発明は、Xが前に定義したX1鎖を示す、上で定義した式(I)の化合物を調製するための方法であって、下記の段階を含む方法にも関する:
- Halが塩素または臭素原子を示し、かつHetArが前に定義したとおりである、下記の式(V):
HetAr-Hal (V)
の化合物と、R1、R2およびX1が前に定義したとおりである、下記の式(VI):
R2R1CH-X1-H (VI)
の化合物との間で薗頭カップリングを行う段階、
- 任意に、前の薗頭カップリングの段階で得られた化合物の三重結合を水素化する段階、ならびに
- 前の段階で得られた式(I)の化合物を回収する段階。
【0051】
この方法は、任意に、特に脂肪族鎖の末端で、当業者には周知の分子を官能基化する段階を続いて行うことができる。
【0052】
薗頭カップリングは、パラジウム触媒、銅(I)塩および塩基存在下で行う。
【0053】
パラジウム触媒は、有利には、Pd(PPh3)2Cl2またはPd(PPh3)4、好ましくはPd(PPh3)2Cl2でありうる。
【0054】
銅(I)塩はCuIまたはCuBr、好ましくはCuIでありうる。
【0055】
塩基は、式NRdReRfのアミンでありえ、ここでRd、ReおよびRfは、互いに独立に、水素原子または上で定義した(C1-C6)アルキル基を示す。好ましくは、この塩基はアンモニア(NH3)ではない。有利には、これはジエチルアミン(NHEt2)、トリエチルアミン(NEt3)またはジイソプロピルエチルアミン((iPr)2NEt)、好ましくはトリエチルアミンでありうる。
【0056】
この反応は、有利には、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)中、有利には還流温度のTHF中で行う。
【0057】
「水素化」とは、本発明の文脈において、部分または完全水素化、すなわち、それぞれ二重結合または一重結合を生じさせるような様式で三重結合を水素化することを意味する。
【0058】
X1が飽和鎖を示す場合、薗頭カップリング中に得られた化合物の三重結合を完全に還元することが賢明である。
【0059】
この三重結合は、炭素担持パラジウムなどの触媒存在下、水素雰囲気下での水素化により還元することができる。有利には、この反応をエタノール中で行う。
【0060】
加えて、X1が、HetArに直接連結されている少なくとも1つの二重結合を含む不飽和炭化水素鎖を示す場合、部分水素化を行うことによって三重結合を部分的に還元し、二重結合を生じさせることが賢明である。この反応は当業者には周知で、特にリンドラー触媒を用いて行うことができる。
【0061】
この方法の有利な態様によれば、HetArは

を示す。
【0062】
同様に有利には、R2は水素原子を示し、かつR1は前に定義したとおりであり、有利にはR1は水素原子またはOH基、好ましくはOH基を示す。
【0063】
本発明は、Xが前に定義した-NH-CO-X2-基を示す、前に定義した式(I)の化合物を調製するための方法であって、下記の段階を含む方法にも関する:
- HetArが前に定義したとおりである、下記の式(VII):
HetAr-NH2 (VII)
の化合物を、
Zが、活性型であってもよいカルボン酸官能基を示し、かつX2が前に定義したとおりである、下記の式(VIII):
Z-X2-CHR1R2 (VIII)
の化合物とペプチドカップリングさせて、
HetAr、R1、R2およびX2が前に定義したとおりである、下記の式(Ic):
HetAr-NHCO-X2-CHR1R2 (Ic)
の化合物を得る段階、ならびに
- 前の段階で得られた化合物(Ic)に対応する化合物(I)を回収する段階。
【0064】
この方法は、任意に、特に脂肪族鎖の末端で、当業者には周知の分子を官能基化する段階を続いて行うことができる。
【0065】
「カルボン酸の活性型」とは特に、本発明の文脈において、酸塩化物、すなわち、カルボン酸官能基-COOHの代わりの-COCl官能基を意味する。
【0066】
ペプチドカップリングは、有利にはジクロロメタン中、好ましくは室温で(すなわち、15℃から40℃の間、好ましくは20℃から30℃の間、有利には約25℃の温度で)実施する。
【0067】
ペプチドカップリングを酸塩化物と行う場合、前に定義したアミンなどの塩基を反応媒質に加えて反応を促進することが構想される。しかし、この場合、反応は好ましくは塩基を追加することなく実施する。
【0068】
ペプチドカップリングをカルボン酸と行う場合、好ましくはジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、2-H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)またはO-(7-アゾベンゾトリアゾル-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)などのカップリング剤存在下、任意にN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアゾール(HOOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HAt)またはN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホNHS)などのカップリング補助剤と組み合わせて実施する。好ましくは、EDC/HOBtの対を用いる。
【0069】
本発明は、Xが-NH-CH2-X3-基を示し、X3が、7から19個の炭素原子、好ましくは9から15個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖炭化水素鎖を示す、前に定義した式(I)の化合物を調製するための方法であって、下記の段階を含む方法にも関する:
- HetArが前に定義したとおりである、下記の式(VII):
HetAr-NH2 (VII)
の化合物を、
Zが、活性型であってもよいカルボン酸官能基を示し、かつX3が上で定義したとおりである、下記の式(IX):
Z-X3-CHR1R2 (IX)
の化合物とペプチドカップリングさせて、
HetAr、R1およびR2が前に定義したとおりであり、かつX3が上で定義したとおりである、下記の式(X):
HetAr-NHCO-X3-CHR1R2 (X)
の化合物を得る段階、
- アミド官能基をアミンに還元して、HetAr、R1およびR2が前に定義したとおりであり、かつX3が上で定義したとおりである、下記の式(Id):
HetAr-NH-CH2-X3-CHR1R2 (Id)
の化合物を得る段階、ならびに
- 前の段階で得られた化合物(Id)に対応する化合物(I)を回収する段階。
【0070】
この方法は、任意に、特に脂肪族鎖の末端で、当業者には周知の分子を官能基化する段階を続いて行うことができる。
【0071】
ペプチドカップリングは、前の方法について上で定義したとおりに有利に実施する。
【0072】
アミドのアミンへの還元は、有利にはTHF中、好ましくは還流温度のTHF中で、LiAlH4などの還元剤存在下で有利に実施する。
【0073】
有利には、前の2つの方法について、R2は水素原子を示し、かつR1は前に定義したとおりであり、有利にはR1は水素原子またはOH基、好ましくは水素原子を示す。
【0074】
前の2つの方法の有利な態様によれば、HetArは

を示し、ここでR3およびR4は上で定義したとおりである。
【0075】
この特定の場合に、

を出発生成物として用いる。そのような化合物は、以下の反応経路に従って合成することができる。

【0076】
第一の段階(1)において、ケトアルデヒドAを4-ニトロ-フェニレン-1,2-ジアミンBと縮合してニトロ化合物Cを得、これを次いで第二の段階でアミンに還元して、所望の化合物を得る。
【0077】
段階(1)は、有利には水の還流温度で行う。
【0078】
段階(2)で用いる還元剤は、有利にはSnCl2である。この段階はさらに有利にはエタノール中、好ましくは無水エタノール中、有利にはその還流温度で実施する。
【0079】
任意の段階(3)は、有利にはTHF中、低温で、特に約-78℃で、R3Liと、次いでR4Liを化合物Dに加え、続いて特にMnO2存在下、有利にはクロロホルム中、好ましくはクロロホルムの還流温度で、酸化による系の再芳香族化を行う段階を含む。
【0080】
望まれるR3およびR4基に応じて、この最後の段階(3)は実施しなくてもよく、またはR3Liだけを加えるが、R4Liは加えない。
【0081】
加えて、段階(1)を水素原子またはメチルを示すRでのみ実施したが、他のアルキル基もこの反応のために構想しうる。
【0082】
本発明は、以下の非限定的な図および実施例に照らせば、より良く理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1Aは、対照、NGF(100ng/ml)ならびにN1、N2およびN3(100nMおよび1μM)について、分化したPC12細胞のパーセンテージを示す。グラフと共に、それぞれ対照細胞およびNGFまたはN3(100nM)による処理後に得た細胞の3つの写真を示す。図1Bは、対照、NGF(100ng/ml)ならびにN1、N2およびN3(100nMおよび1μM)について、PC12細胞で行った、それぞれ細胞ごとの神経突起の数および細胞ごとの神経突起の長さを示す2つのグラフに関する。3つの写真からも、対照細胞およびNGFまたはN3(100nM)による処理後に得た細胞が、細胞神経突起におけるN3の効果を明らかに示していることがわかる。
【図2】図2は、化合物N3およびZ1のドーパミン作動性ニューロンの生存に対する用量反応曲線を示す。
【図3】図3は、対照、db-cAMP(200μM)およびN3(10nM、100nMおよび1μM)について、細胞ごとの神経突起の長さを示す。3つの写真A、BおよびCはそれぞれ、未処理TH+ニューロン対照、、db-cAMP(200μM)で処理したTH+ニューロンおよびN3(100nM)で処理したTH+ニューロンを示す。
【図4】図4は、対照、db-cAMP(200μM)およびN3(1nM、10nM、100nMおよび1μM)について、ウェルごとのトリチウム化したドーパミンの再取り込みを、未処理対照の値に対するパーセンテージで示す。
【図5】図5は、N3(10nMおよび100nM)について、ウェル内のMAP2+ニューロンの、対照値と比べてのパーセンテージを示す。
【図6】図6は、対照およびN3(10nMおよび100nM)について、ウェルごとのトリチウム化したGABAの再取り込みを、未処理対照の値に対するパーセンテージで示す。
【発明を実施するための形態】
【0084】
実施例
実験項で用いる略語:
1H NMR プロトン核磁気共鳴
13C NMR 炭素核磁気共鳴
IR 赤外吸収
ESI-MS エレクトロスプレー質量分析
MS (EI) 電子衝撃質量分析
eq 当量
【0085】
実施例1:本発明の分子の合成
1. キノキサリン誘導体の合成
これらの分子を以下の反応スキームに従って合成したが、段階(3)および(5)は任意である。

【0086】
1.1. 段階(1):化合物Cの合成
1.1.1. 化合物C1:2-メチル-6-ニトロキノキサリン

水(50ml)中の4-ニトロ-フェニレン-1,2-ジアミン(3.06g、20mmol)およびピルビンアルデヒド(3.6ml、20mmol、40%)の混合物を1.5時間加熱還流する。冷却後、反応混合物を減圧下でろ過し、水で洗浄し、ジクロロメタンに溶解する。溶液を無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。
収率:90%

【0087】
1.1.2. 化合物C2:6-ニトロキノキサリン

グリオキサール(2.8ml、24mmol、40%)を、水(30ml)中の4-ニトロ-フェニレン-1,2-ジアミン(1.53g、10mmol)の溶液にゆっくり加える。混合物を4時間加熱還流する。冷却後、反応混合物を減圧下でろ過し、水で洗浄し、ジクロロメタンに溶解する。溶液を無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。
収率:93%

【0088】
1.2. 段階(2):化合物Dの合成
一般手順:
無水エタノール(50ml)中の化合物C(20mmol)の溶液にSnCl2(1.89g、100mmol)を加える。混合物を窒素の不活性雰囲気下で4時間加熱還流する。冷却後、反応混合物をNaHCO3の飽和溶液でpH8まで塩基性化する。溶液をセライトでろ過し、次いで酢酸エチルで洗浄する。回収した水相を酢酸エチルで3回抽出する。合わせた有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄し、無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。
【0089】
1.2.1. 化合物D1:3-メチル-6-アミノキノキサリン

【0090】
1.2.2. 化合物D2:6-アミノキノキサリン

【0091】
1.3. 段階(3):化合物Eの合成
1.3.1. R3Liだけを加えることによる合成(したがって、R4=HまたはMe)
一般手順:
有機リチウムR3Li(2.5mmol)を、無水THF中の化合物D(1mmol)の溶液に窒素の不活性雰囲気下、-78℃でゆっくり加える。溶液は赤みを帯びた黒色になる。反応混合物を-78℃で2.5時間撹拌し、次いで飽和NH4Cl水溶液で加水分解し、酢酸エチルで抽出し、次いで飽和NaCl水溶液で洗浄する。次いで、有機相を無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。得られた残渣をCHCl3(20ml)に溶解し、次いでMnO2(5mmol、430mg)を加え、溶液を4時間加熱還流する。反応混合物を2mlの水で加水分解し、セライトでろ過し、酢酸エチルで洗浄する。有機相を無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。生成物をシリカカラムでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(2:8)により精製する。
【0092】
1.3.1.1. 化合物E1:2-メチル-3-ブチル-6-アミノキノキサリン

【0093】
1.3.1.2. 化合物E2:2-メチル-3-ヘキシル-6-アミノキノキサリン

【0094】
1.3.1.3. 化合物E3:2-メチル-3-secブチル-6-アミノキノキサリン

【0095】
1.3.1.4. 化合物E4:2-メチル-3-tertブチル-6-アミノキノキサリン

【0096】
1.3.1.5. 化合物E5:2-メチル-3-フェニル-6-アミノキノキサリン

【0097】
1.3.1.6. 化合物E6:3-ブチル-6-アミノキノキサリン

【0098】
1.3.1.7. 化合物E7:3-ヘキシル-6-アミノキノキサリン

【0099】
1.3.1.8. 化合物E8:3-secブチル-6-アミノキノキサリン

【0100】
1.3.1.9. 化合物E9:3-tertブチル-6-アミノキノキサリン

【0101】
1.3.1.10. 化合物E10:3-フェニル-6-アミノキノキサリン

【0102】
1.3.2. R3Liと次いでR4Liを加えることによる合成
一般手順:
第一の有機リチウムR3Li(2.5mmol)を、無水THF中の化合物D(1mmol)の溶液に窒素の不活性雰囲気下、-78℃でゆっくり加える。溶液は赤みを帯びた黒色になる。反応混合物を-78℃で2.5時間撹拌する。混合物を0℃に置き、第二の有機リチウムR4Li(2mmol)をただちにゆっくり加える。混合物を0℃で2時間撹拌する。反応混合物を飽和NH4Cl水溶液で加水分解し、酢酸エチルで抽出する。有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄し、無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。得られた残渣をCHCl3(20ml)に溶解し、次いでMnO2(5mmol、430mg)を加え、混合物を4時間還流する。反応混合物を加水分解し、次いでセライトでろ過する。有機相を無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。生成物をシリカカラムでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(5:5)により精製する。
【0103】
1.3.2.1. 化合物E11:2-ブチル-3-ヘキシル-6-アミノキノキサリン

【0104】
1.3.2.2. 化合物E12:2-ヘキシル-3-ブチル-6-アミノキノキサリン

【0105】
1.3.2.3. 化合物E13:2-ブチル-3-フェニル-6-アミノキノキサリン

【0106】
1.4. 段階(4):化合物Fの合成
1.4.1. 酸塩化物存在下でのペプチドカップリング
一般手順:
窒素の不活性雰囲気下、0℃に置いたジクロロメタン(10ml)中の酸R'COOH(484mg、2mmol)の溶液に、無水ジメチルホルムアミド(DMF)3滴および塩化オキサリル(1.04ml、12mmol)を加える。混合物を0℃で1時間撹拌する。ジクロロメタンおよび過剰の塩化オキサリルを減圧下、70℃で蒸発させる。このようにして得られた酸塩化物R'COClをジクロロメタン5mlに溶解する。
【0107】
窒素雰囲気下、0℃のジクロロメタン(10ml)中の化合物DまたはE(1mmol)の溶液にトリエチルアミン(0.55ml、2mmol)を加え、酸塩化物をジクロロメタン(5ml)中の溶液でゆっくり加える。反応混合物を室温で2時間撹拌する。反応混合物を水で加水分解し、次いでジクロロメタンで抽出する。有機相を無水MgSO4で乾燥し、次いで減圧下で濃縮する。生成物をシリカカラムでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(8:2)により精製する。
【0108】
1.4.1.1. 化合物F1:N-(キノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミド

【0109】
1.4.1.2. 化合物F2:N-(2-メチルキノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミド

【0110】
1.4.1.3. 化合物F3:N-(3-ブチルキノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミド

【0111】
1.4.1.4. 化合物F4:N-(2-ヘキシル-3-ブチルキノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミド

【0112】
1.4.2. カルボン酸存在下でのペプチドカップリング
1.4.2.1. 化合物F5:24-ヒドロキシ-N-(キノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミド

ジクロロメタン(40ml)中の6-アミノキノキサリン(290mg、2mmol)およびヒドロキシペンタデカン酸(518mg、2mmol)の溶液に、トリエチルアミン(0.83ml、6mmol)、EDC(768mg、4mmol)およびHOBt(405mg、3mmol)を加える。混合物を窒素の不活性雰囲気下、室温で終夜撹拌する。反応混合物を加水分解し、ジクロロメタンで抽出し、次いで濃NH4Cl溶液で洗浄する。有機相を無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。次いで、得られた残渣をDMF(10ml)に溶解し、次いでイミダゾール(136mg、2mmol)およびTBDMS-Cl(332mg、2.2mmol)を加える。混合物を窒素の不活性雰囲気下、室温で終夜撹拌する。反応混合物を加水分解し、次いで酢酸エチルで抽出し、無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。シリル化生成物をシリカカラムでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(8:2)により精製する。次いで、生成物をTHF(10ml)に溶解し、TBAF(3ml、THF中1M)を加える。5分後、反応混合物を加水分解し、酢酸エチルで抽出する。有機相を無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。生成物を3段階の全収率38%で得る。
収率:38%(3段階)

【0113】
1.5. 段階(5):化合物Gの合成
一般手順:
窒素の不活性雰囲気下、0℃に置いたTHF(10ml)中のアミドF(1mmol)の溶液に、LiAlH4(304mg、8mmol)を少量ずつゆっくり加える。次いで、混合物を2時間加熱還流する。冷却後、反応混合物を1mlの水で緩やかに加水分解し、次いで1M NaOH溶液を白色沈殿が得られるまで1滴ずつ加える。混合物をセライトでろ過し、酢酸エチルで洗浄し、次いで無水MgSO4で乾燥し、減圧下で濃縮する。
【0114】
1.5.1. 化合物G1:N-(キノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミン

【0115】
1.5.2. 化合物G2:N-(2-メチルキノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミン

【0116】
1.5.3. 化合物G3:N-(3-ブチルキノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミン

【0117】
1.5.4. 化合物G4:N-(2-ヘキシル-3-ブチルキノキサリン-6-イル)ペンタデカンアミン

【0118】
1.5.5. 化合物G5:15-ヒドロキシ-N-(キノキサリン-6-イル)ペンタデシルアミン

【0119】
2. キノリン誘導体の合成
これらの分子を以下の反応スキームに従って合成したが、段階(3)および(5)は任意である。

【0120】
2.1. 段階(1):アルカ-2-イン-1-オールIの合成
一般手順:
窒素の不活性雰囲気下、-35℃の濃アンモニア溶液(100ml)に、10-3mmol(0.05当量)のリチウム片を加える。次いで、触媒量のFe(N03)3と、続いて0.150mmol(3当量)のリチウム片を加える。金属沈着物が現れ、15分以内に消失する。THF(20ml)に溶解した蒸留プロパルギルアルコール(75mmol、1.5当量)を1滴ずつ加える。15分間撹拌した後、THF(20ml)に溶解したブロモアルカンH(50mmol、1当量)を1滴ずつ加える。溶液を6時間撹拌し、次いでアンモニアをフード内で蒸発させる。1晩置いた後、溶液を加水分解し、ジクロロメタンで抽出する。有機相をMgSO4で乾燥し、次いでろ過し、減圧下で蒸発させる。シリカゲルでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(8:2)によりろ過して精製を行う。
【0121】
2.1.1. 化合物I1:ウンデカ-2-イン-1-オール
収率:58%

【0122】
2.1.2. 化合物I2:トリデカ-2-イン-1-オール
収率:75%

【0123】
2.1.3. 化合物I3:ペンタデカ-2-イン-1-オール
収率:72%

【0124】
2.2. 段階(2):アルカ-(n+9)-イン-1-オールJの合成
一般手順:
窒素の不活性雰囲気下、ペンタンで3回洗浄した120mmolのNaH(6.3当量、60%)に、水素化カルシウムで蒸留した440mmol(22当量)の1,3-ジアミノプロパンを分割して加える。混合物を70℃で1時間加熱し、次いでアルキノールI(20mmol、1当量)を加える。混合物を再度70℃で6時間と、次いで50℃で終夜加熱し、最後に加水分解し、次いで酢酸エチルで抽出する。有機相を水で3回と、次いで0.1M HCl溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥し、ろ過し、次いで減圧下で蒸発させる。シリカゲルでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(9:1、8:2および7:3)により逐次ろ過して精製を行う。
【0125】
2.2.1. 化合物J1:ウンデカ-10-イン-1-オール
収率:75%

【0126】
2.2.2. 化合物J2:トリデカ-12-イン-1-オール
収率:67%

【0127】
2.2.3. 化合物J3:ペンタデカ-14-イン-1-オール
収率:97%

【0128】
2.3. 段階(3):化合物Kの合成
一般手順:
窒素の不活性雰囲気下のトリエチルアミン(25mmol、5当量)およびTHF(3ml)中のアルキンJ(5mmol、1当量)および2-クロロキノリン(6.5mmol、1.3当量)の溶液に、PdCl2(PPh3)3(0.25mmol、0.05当量)およびCuI(0.5mmol、0.1当量)をこの順序で加える。混合物を70℃で3時間加熱し、加水分解し、ジクロロメタンで抽出する。次いで、有機相を水と、次いで0.1M HCl溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥し、次いで減圧下で蒸発させる。シリカカラムでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(7:3と、次いで6:4)により精製を行う。アルキン化合物のそれ自体との二量体化により生じさせた二次生成物を、10%から20%の間の収率で得る。
【0129】
2.3.1. 化合物K1:11-(キノリン-2-イル)ウンデカ-10-イン-1-オール

【0130】
2.3.2. 化合物K2:13-(キノリン-2-イル)トリデカ-12-イン-1-オール

【0131】
2.3.3. 化合物K3:15-(キノリン-2-イル)ペンタデカ-14-イン-1-オール

【0132】
2.4. 段階(4):化合物Lの合成
一般手順:
無水エタノール(1ml)中のアルキンK(0.5mmol、1当量)の溶液に、40mgのPd/C(質量約20%)を加える。系を水素気流下、室温で終夜撹拌する。次いで、反応混合物を数滴の水で加水分解し、次いでセライトでろ過する。次いで、ろ液をMgSO4で乾燥し、次いで減圧下で蒸発させる。反応は定量的である。
【0133】
2.4.1. 化合物L1:11-(キノリン-2-イル)ウンデカン-1-オール

【0134】
2.4.2. 化合物L2:13-(キノリン-2-イル)トリデカン-1-オール

【0135】
2.4.3. 化合物L3:15-(キノリン-2-イル)ペンタデカン-1-オール

【0136】
2.5. 段階(5)および(5a):化合物MおよびM'の合成
一般手順:
窒素の不活性雰囲気下、-60℃に置いた、蒸留ジクロロメタン(5ml)に溶解した塩化オキサリル(0.624mmol、2.2当量)の溶液に、1.65mmol(5.8当量)のジメチルスルホキシド(DMSO)をゆっくり加える。15分後、蒸留ジクロロメタン(3ml)に溶解したアルコールKまたはL(0.284mmol、1当量)を加える。温度を-60℃から-50℃の間で2時間維持し、次いでトリエチルアミン(2.84mmol、10当量)を加える。混合物を室温に達するまで撹拌し、次いで加水分解し、ジクロロメタンで抽出する。次いで、有機相を水で3回と、次いで0.1M HCl溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥し、ろ過し、減圧下で蒸発させる。混合物をシリカカラムでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(9:1)により精製する。
【0137】
2.5.1. 化合物M1:11-(キノリン-2-イル)ウンデカ-10-イン-1-アール
収率:68%

【0138】
2.5.2. 化合物M2:13-(キノリン-2-イル)トリデカ-12-イン-1-アール
収率:49%

【0139】
2.5.3. 化合物M3:15-(キノリン-2-イル)ペンタデカ-14-イン-1-アール
収率:82%

【0140】
2.5.4. 化合物M'1:11-(キノリン-2-イル)ウンデカン-1-アール
収率:50%

【0141】
2.5.5. 化合物M'2:13-(キノリン-2-イル)トリデカン-1-アール
収率:91%

【0142】
2.5.6. 化合物M'3:15-(キノリン-2-イル)ペンタデカン-1-アール
収率:88%

【0143】
2.6. 段階(6)および(6a):化合物NおよびN'の合成
2.6.1. R2a=-C≡CHの場合
一般手順:
(a)リチウム溶液の調製
窒素の不活性雰囲気下、-78℃に置いた、THF(5ml)中のトリメチルシリルアセチレン(0.7ml、5mmol、1当量)の溶液に、2.5M n-ブチルリチウム(2ml、5mmol、1当量)を1滴ずつ加える。溶液を-78℃で1時間撹拌する。
【0144】
(b)カップリング
THF(5ml)中のアルデヒドMまたはM'(0.2mmol、1当量)の溶液を窒素の不活性雰囲気下、-78℃に置き、次いで事前に調製した0.24mmol(1.2当量)のリチウム溶液を加える。溶液を-78℃で2時間撹拌する。次いで、反応混合物を加水分解し、ジクロロメタンで抽出する。有機相を合わせ、MgSO4で乾燥し、ろ過し、次いで蒸発させる。得られた生成物は精製せず、次いで脱シリル化した。
【0145】
(c)シリル化した基の脱保護
THF(8ml)中の前の段階(b)で得られたシリル化カップリング生成物(0.1mmol、1当量)の溶液を、窒素の不活性雰囲気下、室温で撹拌する。次いで、0.106mmol(1.06当量)のTBAFを加える。10分後、反応混合物を加水分解し、酢酸エチルで抽出する。合わせた有機相をNaHCO3およびNaClの飽和水溶液で逐次3回洗浄し、MgSO4で乾燥し、ろ過し、減圧下で蒸発させる。シリカカラムでシクロヘキサンおよび酢酸エチルの混合物(9:1)により精製を行う。
【0146】
2.6.1.1. 化合物N1:13-(キノリン-2-イル)トリデカ-1,12-ジイン-3-オール

【0147】
2.6.1.2. 化合物N2:15-(キノリン-2-イル)ペンタデカ-1,14-ジイン-3-オール

【0148】
2.6.1.3. 化合物N3:17-(キノリン-2-イル)ヘプタデカ-1,16-ジイン-3-オール

【0149】
2.6.1.4. 化合物N'1:13-(キノリン-2-イル)トリデカ-1-イン-3-オール

【0150】
2.6.1.5. 化合物N'2:15-(キノリン-2-イル)ペンタデカ-1-イン-3-オール

【0151】
2.6.1.6. 化合物N'3:17-(キノリン-2-イル)ヘプタデカ-1-イン-3-オール

【0152】
2.6.2. R2a=ビニルまたはシクロプロピルの場合
一般手順:
THF(5ml)中のアルデヒドMまたはM'(0.2mmol、1当量)の溶液を窒素の不活性雰囲気下、-78℃に置き、次いで0.24mmol(1.2当量)の臭化ビニルマグネシウムまたは臭化シクロプロピルマグネシウムの2.5M市販溶液を加える。溶液を-78℃で2時間撹拌する。次いで、反応混合物を加水分解し、ジクロロメタンで抽出する。有機相を合わせ、MgSO4で乾燥し、ろ過し、次いで蒸発させる。
【0153】
2.6.2.1. 化合物N4:17-(キノリン-2-イル)ヘプタデカ-1-エン-16-イン-3-オール

【0154】
2.6.2.2. 化合物N5:16-(キノリン-2-イル)ヘキサデカ-1-シクロプロピル-15-イン-2-オール

【0155】
実施例2:生物学的試験
2.1. 実験プロトコル
2.1.1. PC12クロム親和細胞腫細胞における分化活性
維持
細胞を25cm3フラスコ内の10%ウマ血清、5%ウシ胎仔血清、1%グルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合物を補足したRPMI培地中、5%CO2を補足した加湿雰囲気下、37℃で維持する。ウマおよびウシ胎仔血清を使用前に56℃で40分間補体除去する。およそ3日に1回、培養物が80%コンフルエンスに達したときにこれを分割する。各操作を、細胞を掻き取り、次いで1,000rpmで5分間遠心沈降し、細胞凝集物を機械的に解離し、所望の希釈度で播種することにより行う。
【0156】
前処理
処理前に、細胞を1%ウマ血清、0.5%ウシ胎仔血清、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよび50ng/ml NGF(神経成長因子)を補足したRPMIからなる欠乏培地中で5日間培養する。
【0157】
処理
NGFによる5日間の前処理後、細胞をPBS(リン酸緩衝食塩水)で2回洗浄し、欠乏培地を加え、掻き取り、1,000rpmで5分間ペレット化する。次いで、細胞を解離し、血球計で計数し、15.6×103細胞/cm2の濃度で播種する。4時間後、細胞を所望の濃度の様々な本発明の化合物(無水エタノール中の保存溶液、および水中の一連の希釈溶液)で処理する。
【0158】
免疫組織化学
48時間後、細胞を4%ホルムアミド溶液で固定し、次いでPBSで3回洗浄する。次いで、細胞に、赤色スペクトルで発光する蛍光色素(Cy3)に結合した二次抗体によって可視化する、抗β(III)チューブリン免疫組織化学(tuj-1)を行う。
【0159】
画像分析
ウェルごとに少なくとも20の分化細胞を無作為に写真撮影し、それらの神経突起の長さをImageJソフトウェアのNeuronJマクロを用いて測定する。神経突起の数も計数する。次いで、神経突起の平均全長および神経突起数を細胞ごとに算出する。
【0160】
2.1.2. ラット胎仔中脳の一次培養物における神経保護活性
解剖
解剖を、妊娠15日のラットの子宮から胎仔を摘出して行う。次いで、各胎仔の脳を両眼拡大鏡下で切開して、腹側中脳を摘出する。
【0161】
播種
中脳を、2mlのL15培地を含むフラスコに集め、次いで機械的に解離し(30回)、次いで5mlのL15培地を加える。懸濁液を8分間放置する。上清5mlを新しいフラスコに回収し、細胞を再度解離する(30回)。5mlのL15を再度加え、懸濁液を8分間放置する。上清5mlを前のものに加える。次いで、このようにして摘出した細胞を1,000rpmで5分間遠心沈降する。細胞ペレットを、1%B27、1%グルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合物を補足したNeurobasal培地に加える。次いで、細胞を適当な希釈度で播種する(24穴プレートのウェルごとに胎仔0.6および48穴プレートのウェルごとに0.4)。培養物を24穴または48穴プレート中、5%CO2を補足した加湿雰囲気下、37℃でインキュベートする。
【0162】
処理
24時間後、各ウェルの培地の3分の2を、適当な希釈度で試験するために本発明の化合物を加えた新しい培地で置き換える。培地を培養4日後に同様に置き換える。
【0163】
免疫組織化学
培養8日の時点で、細胞を4%ホルムアミド溶液で固定し、次いでPBSで3回洗浄する。次いで、細胞に、いくつかの免疫組織化学の手順を行う:
- 赤色スペクトルで発光する蛍光色素(Cy3)に結合した二次抗体によって可視化する、抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH)。
- 緑色スペクトルで発光する蛍光色素(alexa488)に結合した二次抗体によって可視化する、MAP2(MAP=微小管結合タンパク質)(ニューロンマーカー)。
- 青色スペクトルで発光する核マーカーである、DAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)。
【0164】
分析
TH陽性ニューロンを直接顕微鏡下で、またはMAP2陽性ニューロンをウェルごとに15の画像上で計数し、未処理対照に対するパーセンテージで表して、神経保護を評価する。実験は条件ごとに3つのウェルを含む。3つの独立の実験をこれらの条件下で実施する。ウェルごとに独立に写真撮影した20のニューロンについて、Explora NovaによるNeurite Outgrowthソフトウェアで計算した細胞ごとの神経突起全長は、ドーパミン作動性ニューロンの成熟の状態の指標となる。
【0165】
2.1.3. ドーパミン再取り込みの測定
トリチウム化ドーパミンの取り込み
一次培養物を24穴プレートで12日間、前に示したとおりに処理し、培養する。次いで、培地を、血清を含まず、グルコースを加えた培地(PBS+5mMグルコース)で置き換える。1つのウェルをGBR(5μM)で処理し、非特異的再取り込みを評価するために用いる。細胞をこの培地中で10分間インキュベートする。トリチウム化ドーパミン溶液(PBS 1ml中1mCi/ml 3H-ドーパミン20μl)50μlを各ウェルに加え、細胞を37℃で20分間インキュベートする。
【0166】
ニューロン内のトリチウム化ドーパミンの抽出
次いで、ウェルをPBSで2回洗浄し、次いで蒸留水500μlを加える。ウェルごとに、細胞を掻き取り、液体をシンチレーション液(Biodegradable Counting Scintillant - 液体シンチレーション分光法、BCS)7mlを含むシンチレーションバイアルに移す。試料をシンチレーション計数器を通して計数する。
【0167】
2.1.4. GABA再取り込みの測定
トリチウム化GABA(ガンマ-アミノ酪酸)の取り込み
一次培養物を24穴プレートでウェルごとに胎仔0.5で12日間、前に示したとおりに処理し、培養する。次いで、培地を、血清を含まず、グルコースを加えた培地(PBS+5mMグルコース)で置き換える。細胞をこの培地中で10分間インキュベートする。トリチウム化GABA溶液(PBS 1ml中1mCi/ml 3H-GABA20μl)50μlを各ウェルに加え、細胞を37℃で5分間インキュベートする。GABAは非常に速やかに取り込まれるため、試薬を加える際は素早く行い、同時にあまり多くのウェルを扱わないことが重要である。
【0168】
ニューロン内のトリチウム化GABAの抽出
次いで、1つを除くすべてのウェルをPBSで2回洗浄し、次いで蒸留水500μlを加える。ウェルごとに、細胞を掻き取り、液体をシンチレーション液(Biodegradable Counting Scintillant - 液体シンチレーション分光法、BCS)7mlを含むシンチレーションバイアルに移す。残りの1つのウェルを含むプレートを氷上に30分間置き、次いで同じGABA溶液50μlを加える。5分後、ウェルをPBSで2回洗浄し、次いで細胞を蒸留水500μlで溶解し、掻き取り、液体をシンチレーション液5mlを含むバイアルに移す。このウェルは非特異性を評価するために用いる。試料をシンチレーション計数器を通して計数する。
【0169】
2.2 得られた生物学的結果
2.2.1. PC12クロム親和細胞腫細胞株の分化における本発明の化合物の効果
PC12細胞の神経突起生成は処理後24時間で始まり、48時間後に最高に達する。PC12細胞の分化を定量するために、発明者らは、100nMおよび1μMの本発明の物質による処理の48時間後に、樹状突起の伸長が見られる細胞の数と細胞総数との比を計算した。条件ごとに約100の細胞で、伸長が見られる細胞について顕微鏡レベルでの形態の変化を定量した。したがって、細胞ごとの神経突起の数および神経突起の平均長を、ImageJによるNeuronJ測定ソフトウェアを用いて測定した。
【0170】
図1Aに示すとおり、未処理細胞と比べて、化合物N1、N2およびN3による処理後に2から3倍の細胞が伸長を生じさせ、したがって、本発明の化合物による細胞分化のパーセンテージの増大を示している。NGF(神経栄養成長因子)を実験の陽性対照として用いる。加えて、100nMと1μMとの間で、用量依存的効果はないようである。
【0171】
加えて、細胞ごとの神経突起の数ならびに細胞ごとの神経突起の平均長を含む分化の程度を測定し、対照と比べて、N1、N2およびN3による処理後に伸長の数が多く、長さが長いニューロンが見られた(図1B参照)。
【0172】
2.2.2. 自然変性のモデルにおける一次培養中のドーパミン作動性ニューロンの神経保護および分化における本発明の化合物の効果
本発明の化合物を、培養中のドーパミン作動性ニューロンの自然変性のモデルにおいて試験した。このモデルは、ラット胎仔の腹側中脳の細胞を培養することからなる。培養中の脳のこの部分はドーパミン作動性ニューロンおよび他の主にGABA作動性ニューロンを含む。これらの培養物はまた、グリア細胞、すなわち星状細胞、乏突起膠細胞および小膠細胞からなる。これは、パーキンソン病の特定の局面を模倣するドーパミン作動性ニューロンの自然変性のモデルである。
【0173】
本発明の化合物の神経保護効果を、培養8日後にチロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫組織化学で標識したドーパミン作動性ニューロン(TH+)を計数することにより評価した。したがって、化合物を1nM、10nM、100nMおよび1μMで評価し、基準生成物として用いたジブチリル環状AMP(db-cAMP)の活性と比較した。
【0174】
得られた結果を以下の表1に示す。
【0175】
(表1)培養中の胎仔ドーパミン作動性ニューロンの生存に対する100nMの本発明の化合物の活性

a平均の標準誤差
b分化はニューロン分化の定性的評価である:+はニューロンが対照と類似の形態を有することを示し、++および+++はその伸長が対照ニューロンよりも長くて数が多いニューロンの存在を示し、-はニューロンの神経突起が対照ニューロンよりも短くて数が少ないことを示す。
注:化合物Z1、Z2およびZ3は下記の化学式を有する。

【0176】
これらは本発明の化合物と、キノリン核上の脂肪族鎖の位置だけが異なる(本発明のキノリン誘導体の2位に対して3位)。これらの化合物を、出発生成物として3-ブロモキノリンを用いた以外は、本発明のキノリン化合物と同じ実験プロトコルに従って合成した。
【0177】
本発明のキノリン誘導体:
神経保護活性の増大が、本発明のキノリン化合物すべてで観察され、化合物N2およびN3およびN'3(脂肪族鎖の長い化合物)で特に強く、生存パーセンテージは基準生成物と同じかそれ以上である。
【0178】
加えて、3位で置換されている化合物の活性ははるかに弱いか、または活性がまったくないため、キノリン核上の脂肪族鎖の位置の重要性が注目される。
【0179】
ドーパミン作動性ニューロンの生存に対する化合物N3およびZ1の用量反応曲線を図2に示し、化合物N3の効果は用量依存的であり、100nMで最大となるようであるのに対し、化合物Z1の効果は試験したすべての濃度でゼロであることを示している。データは陰性対照に対するパーセンテージで表している。
【0180】
本発明の化合物の活性をより定量的に評価するために、細胞ごとの神経突起の成長をExplora Novaにより開発されたNeurite Outgrowthソフトウェアを用いて測定した。条件ごとに少なくとも60のニューロンを写真撮影して試験し、次いで結果を考慮に入れたニューロンの数で平均し、正規化した。
【0181】
ドーパミン作動性ニューロンの生存に対して活性がある化合物は、それらの分化に対しても活性を示し、ニューロンの樹状突起伸長はより長くて数が多かった。化合物N3で得られた結果を図3に示す。
【0182】
これらの結果を確認し、処理したドーパミン作動性ニューロンの機能がそのままであることを検証するために、ドーパミン作動性ニューロンのドーパミンを再取り込みする能力を測定した。培養12日目のニューロンをトリチウム化ドーパミン(H3-DA)存在下で短時間培養する。洗浄後、細胞を溶解し、ニューロン内H3-DAを回収し、シンチレーション計数器で検定する。
【0183】
化合物N3で得られた結果を図4に示す(データは未処理対照の値に対するパーセンテージで表す)。これらは、ドーパミン作動性ニューロンによるドーパミン再取り込みは処理ウェルで増大していることを明らかに示している。このことは、ニューロンの機能が処理の間保存されることを示し、前に得られた結果を確認するものである。
【0184】
本発明のキノキサリン誘導体:
したがって、本発明のキノキサリン誘導体はニューロン分化において良好な活性を示す。
【0185】
ドーパミン作動性ニューロンの生存に対するこれらの化合物の活性は、アミド官能基よりもアミン官能基を有するものの方が良好で、キノキサリン核が3位で置換されていない、すなわちR3=Hの場合の方が良好であることにも留意すべきである。
【0186】
2.2.3. 本発明の化合物の表現型特異性
本発明の化合物が特異性を有する可能性を評価するために、発明者らは最も活性が高い化合物N3による試験を続けた。
【0187】
この試験は、化合物N3がドーパミン作動性ニューロンに対して特異的作用を有するかどうかを調べるために、培養物の他の最も代表的なニューロン、すなわちGABA作動性ニューロンを含んだ。
【0188】
第一に、ニューロンを培養し、DIV12で維持する。培養物を固定し、次いでニューロンタンパク質MAP2に対する免疫組織化学により標識する。次いで、ニューロンをウェルごとに15の画像で20倍に拡大した画像により計数する。
【0189】
第二に、これらの結果を確認するために、GABA作動性ニューロンによるGABA再取り込みを、培養物中のトリチウム化GABAの取り込みにより測定した。
【0190】
得られた結果を図5および6に示す(データは未処理対照の値に対するパーセンテージで表す)。これらは、培養物の全ニューロンの生存および活性が増大していることを示している。したがって、化合物N3の活性はこのモデルにおいてドーパミン作動性ニューロンに特異的ではない。
【0191】
作用機作が星状細胞増殖の抑制に関与する有糸分裂阻害剤も、このモデルにおいて保護能力を有する。本発明の化合物の作用機作は不明であるため、有糸分裂阻害活性も除外されず、したがって本発明の化合物は癌に対して有効である可能性を有することになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I):
HetAr-X-CHR1R2 (I)
の化合物、ならびにその薬学的に許容される塩、その異性体、または異性体のあらゆる比率での混合物、特に鏡像異性体の混合物、特にラセミ混合物:
式中、
- HetArは

から選択される基を示し、ここで、R3およびR4は互いに独立して、水素原子を示すか、または1から6個の水素原子を含む、飽和もしくは不飽和の、直鎖もしくは分枝鎖の炭化水素鎖を示すか、またはアリール基を示し、R3は好ましくは水素原子を示し、
- Xは、8から22個の炭素原子、好ましくは10から16個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖炭化水素鎖を示し、該炭化水素鎖は-NH-または-NH-CO-基で分断されていてもよく、該基は好ましくはHetArに直接連結しており、
- R1は水素原子またはOR5基を示し、R5は水素原子を示すか、または(C1-C6)アルキル、-CO((C1-C6)アルキル)、-SO2((C1-C6)アルキル)および-SO3Hから選択されるR5a基を示し、かつ
- R2は水素原子を示すか、または(C2-C6)アルキニル、(C2-C6)アルケニルもしくは(C3-C6)シクロアルキル基から選択されるR2a基を示す。
【請求項2】
- HetArが

を示すとき、Xが、飽和直鎖炭化水素鎖であるX1鎖を示すか、またはHetArに直接連結している少なくとも1つの三重結合もしくは二重結合を含む、不飽和直鎖炭化水素鎖であるX1鎖を示し、該鎖が8から22個の炭素原子、好ましくは10から16個の炭素原子を含み、かつ
- HetArが

を示し、ここでR3およびR4が請求項1で定義したとおりであるとき、Xが、NHがHetArに直接連結している-NH-X2-または-NH-CO-X2-基を示し、かつX2が、8から22個の炭素原子、好ましくは10から16個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖炭化水素鎖を示す、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
- R1が水素原子を示すとき、R2が水素原子を示し、かつ
- R1がOR5基を示すとき、R2が水素原子を示すか、または(C2-C6)アルキニル、(C2-C6)アルケニルもしくは(C3-C6)シクロアルキル基から選択されるR2a基を示す、請求項1および2のいずれか一項記載の化合物。
【請求項4】
R1およびR2がそれぞれ水素原子を示すか、またはR1がOH基を示しかつR2が-C≡CHなどの(C2-C6)アルキニル、-CH=CH2-などの(C2-C6)アルケニル、または-C3H5などの(C3-C6)シクロアルキル、好ましくは-C≡CH基を示す、請求項1から3のいずれか一項記載の化合物。
【請求項5】

から選択される、請求項1から4のいずれか一項記載の化合物。
【請求項6】
薬物、特に神経栄養性または神経保護性の薬物と同じものとして用いるための化合物であって、有利にはアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症または脳血管障害などの神経変性疾患を治療または予防するための、請求項1から5のいずれか一項記載の化合物。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項記載の化合物のうち少なくとも1つと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物。
【請求項8】
特に神経変性疾患を治療または予防するのに有用な別の活性成分を含む薬学的組成物であって、有利にはドネゼピル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンおよびタクリンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤;セレギリンなどのモノアミンオキシダーゼ阻害剤;エンタカポンなどのカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ阻害剤;アマンタジンおよびバクロフェンなどのグルタミン酸作動阻害剤;サブコメリンなどのコリン作動薬;ペルゴリド、カベルゴリン、ロピニロールおよびプラミペキソールなどのドーパミン作動薬;L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニンなどの神経伝達物質類縁体または前駆体;ならびにトリヘキシフェニジルおよびトロパテピンなどの抗コリン作動薬から選択される別の活性成分を含む、請求項7記載の薬学的組成物。
【請求項9】
R1が請求項1で定義したOR5基を示し、かつR2が請求項1で定義したR2a基を示す、請求項1から5のいずれか一項記載の式(I)の化合物を調製するための方法であって、下記の段階を含む方法:
- HetArおよびXが請求項1で定義したとおりである下記の式(II):
HetAr-X-CHO (II)
の化合物を、
R2bが、保護型であってもよい請求項1で定義したR2a基を示し、かつMが、ブロモマグネシウムまたはクロロマグネシウムのようにハロゲン原子に連結されている、リチウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す、式R2b-Mの化合物と一緒にして、
HetArおよびXが請求項1で定義したとおりでありかつR2bが上で定義したとおりである下記の式(III):
HetAr-X-CH(OH)R2b (III)
の化合物を得る段階、
- 任意に、R2b基を脱保護して、請求項1で定義したR2a基の脱保護型を生じさせ、HetAr、R2aおよびXが請求項1で定義したとおりである下記の式(Ia):
HetAr-X-CH(OH)R2a (Ia)
の化合物を得る段階、
- 任意に、前の段階で得られた式(Ia)の化合物のOH基を置換して、HetAr、R1a、R2aおよびXが請求項1で定義したとおりである下記の式(Ib):
HetAr-X-CH(OR1a)R2a (Ib)
の化合物を得る段階、ならびに
- 前の段階で得られかつ化合物(III)、(Ia)または(Ib)に対応する化合物(I)を回収する段階。
【請求項10】
式(II)の化合物を、HetArおよびXが請求項1で定義したとおりである下記の式(IV):
HetAr-X-CH2(OH) (IV)
の化合物のアルコール官能基を酸化することにより得る、請求項9記載の方法。
【請求項11】
Xが請求項2で定義したX1鎖を示す、請求項1から5のいずれか一項記載の式(I)の化合物を調製するための方法であって、下記の段階を含む方法:
- Halが塩素または臭素原子を示しかつHetArが請求項1で定義したとおりである下記の式(V):
HetAr-Hal (V)
の化合物と、R1およびR2が請求項1で定義したとおりでありかつX1が請求項2で定義したとおりである下記の式(VI):
R2R1CH-X1-H (VI)
の化合物との間で薗頭カップリングを行う段階、
- 任意に、前の薗頭カップリングの段階で得られた化合物の三重結合を水素化する段階、ならびに
- 前の段階で得られた式(I)の化合物を回収する段階。
【請求項12】
HetArが

を示す、請求項11記載の方法。
【請求項13】
R2が水素原子を示し、かつR1が請求項1で定義したとおりであり、有利にはR1が水素原子またはOH基、好ましくはOH基を示す、請求項11および12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
Xが請求項2で定義した-NH-CO-X2-基を示す、請求項1から5のいずれか一項記載の式(I)の化合物を調製するための方法であって、下記の段階を含む方法:
- HetArが請求項1で定義したとおりである下記の式(VII):
HetAr-NH2 (VII)
の化合物を、
Zが、活性型であってもよいカルボン酸官能基を示し、かつX2が請求項2で定義したとおりである、下記の式(VIII):
Z-X2-CHR1R2 (VIII)
の化合物とペプチドカップリングさせて、
HetAr、R1およびR2が請求項1で記載したとおりであり、かつX2が請求項1で定義したとおりである、下記の式(Ic):
HetAr-NHCO-X2-CHR1R2 (Ic)
の化合物を得る段階、ならびに
- 前の段階で得られた化合物(Ic)に対応する化合物(I)を回収する段階。
【請求項15】
Xが-NH-CH2-X3-基を示し、X3が、7から19個の炭素原子、好ましくは9から15個の炭素原子を含む飽和または不飽和の直鎖炭化水素鎖を示す、請求項1から5のいずれか一項記載の式(I)の化合物を調製するための方法であって、下記の段階を含む方法:
- HetArが請求項1で定義したとおりである下記の式(VII):
HetAr-NH2 (VII)
の化合物を、
Zが、活性型であってもよいカルボン酸官能基を示し、かつX3が上で定義したとおりである、下記の式(IX):
Z-X3-CHR1R2 (IX)
の化合物とペプチドカップリングさせて、
HetAr、R1およびR2が請求項1で定義したとおりであり、かつX3が上で定義したとおりである、下記の式(X):
HetAr-NHCO-X3-CHR1R2 (X)
の化合物を得る段階、
- アミド官能基をアミンに還元して、HetAr、R1およびR2が請求項1で定義したとおりであり、かつX3が上で定義したとおりである、下記の式(Id):
HetAr-NH-CH2-X3-CHR1R2 (Id)
の化合物を得る段階、ならびに
- 前の段階で得られた化合物(Id)に対応する化合物(I)を回収する段階。
【請求項16】
HetArが

を示し、R3およびR4が請求項1で定義したとおりである、請求項14および15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
R2が水素原子を示し、かつR1が請求項1で定義したとおりであり、有利にはR1が水素原子またはOH基、好ましくは水素原子を示す、請求項14から16のいずれか一項記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2011−528335(P2011−528335A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517959(P2011−517959)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059285
【国際公開番号】WO2010/007179
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(507329402)セントル ナショナル デ ラ ルシュルシュ サイエンティフィーク(シーエヌアールエス) (4)
【Fターム(参考)】