説明

神経精神性疾患用ニコチンアンタゴニスト

【課題】 ニコチン応答性神経精神性疾患の患者に対して新しい治療法を提供する。
【解決手段】 ニコチンアンタゴニスト、特にメカミラミンを投与することによってニコチン応答性神経精神性疾患を治療することができる。メカミラミンと神経弛緩薬との組合せ治療についても開示している。神経精神性疾患としては、ツーレット(Tourette)症候群、精神分裂病、欝病、躁鬱病、振顫、注意欠陥多運動障害、強迫性障害、半身筋緊張異常、激怒暴発および晩発性運動障害が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチン応答性の神経精神性疾患の薬物治療に関し、ニコチンアンタゴニスト(特にメカミラミン)を単独または神経弛緩薬と組み合わせて投与することによる治療に関する。そのような疾患の例としては、精神分裂病、躁鬱病(二極性障害)、強迫性障害、注意欠陥多運動疾患、ツーレット症候群およびその他の運動障害が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
ツーレット症候群(Tourett's Syndrome: TS)は、多重運動および音声チック症を含む症状によって特徴づけられる常染色体上の優性神経精神性疾患である。これは、たいていの場合に、突然の、急速な、短時間の、回帰性の、非周期性の、常同運動(運動性チック症)または音声(音声チック症)を呈する多運動障害であり、不可避的な衝動ではあるが、ある時間抑制することが可能である(非特許文献1)。一般的に、運動性チック症には、瞬き、頭の不随意運動、肩をすくめる、顔を歪めるなどが挙げられ、一方、音声チック症には、咳払い、嗅ぎ込み、鋭い叫び、舌を鳴らす、および穢言などが挙げられる。これらの症状は、一般的には幼児期に始まり、生涯を通して比較的緩和されるものもあれば非常に激しくなるものまで様々である(非特許文献2)。また。多くのTS患者は、強迫性症候群(非特許文献3)、多運動および注意欠陥(非特許文献4)を含むその他の神経精神性の異常を示す。激しい気質または攻撃的な行動による問題もしばしば見られ(非特許文献5および6)、登校拒否や学習不能を起こす(非特許文献7および8)。
【0003】
TSの病原体についてはまだ明らかになっていないが、ドーパミンレセプターのアンタゴニストによって治療効果が得られていることから、過量の線条体のドーパミンおよび/またはドーパミンレセプターの過感作が提言されている(非特許文献9)。TSの治療は、ドーパミンのアンタゴニストであるハロペリドール(商標名ハルドール(Haldol)、マクネイル・ファーマシューティカル(McNeil Pharmaceutical)社(ニュージャージー州ラリタン))を用いて行われることが多く、約70%の症例において有効である(非特許文献10および11)。その他の神経弛緩薬としては、ピモジド(非特許文献12)、フルフェナジン(非特許文献13)およびリスペリドン(非特許文献14)が挙げられる。その他よく用いられる薬剤としてはαアドレナリン性のアンタゴニストであるクロニジンがあり、これは、注意欠陥多運動障害(ADHA)については有効であるが、運動性および音声チック症には40%しか効果がない(非特許文献15および16)。その他に使用され、様々な程度の有効性を有する薬剤としては、クロナゼパム(非特許文献17)、ナロキソン(非特許文献18)およびフルオキセチン(非特許文献19)が挙げられる。最も一般的に使用される薬物の内のひとつはハロペリドールである(非特許文献20)。しかしながら、ハロペリドールの治療投与量は服用の継続を妨げる副作用を伴うことが多く、例えば、集中力の欠如、仮眠状態、欝症、体重増加、パーキンソン様症状などがみられ、さらに長期使用により、晩発性の運動障害が現れる(非特許文献21および22)。舌、顎、胴体および/または四肢の付加的な異常な不随意運動を伴うことから、運動障害という副作用は特に対処しづらい。
【0004】
これらの副作用のため、エレンバーグ(Erenberg)らは、16才までに大部分のTS患者においてハロペリドールまたはその他の神経弛緩薬の使用を中止すべきであるとしている(非特許文献23)。副作用のためにTS患者が薬剤の服用を中止した後では、会話や運動を制御することが困難であり、フルタイムの責任のある多くの職業につく機会が奪われてしまう。法執行官を含む一般の間ではこの症候群は中毒症状とみなされることが多い。予期しない運動および穢言は社会的に大きな障害を引き起こす。
【0005】
ニコチンの全身または尾内投与により、ラットにおけるレセルピン誘導性のカタレプシーが大きく増強されることがわかっている(非特許文献24および25)。追跡実験により、低投与量のニコチンは、ハロペリドール誘導性のカタレプシーも増強することが示された(非特許文献26−28)。これらの前臨床所見から、ニコチンは、TSなどの過運動症行動の治療に使用する神経弛緩薬の治療効果を増強することもできると考えられる。
【0006】
予備臨床試験においては、10人のTS患者に対してハロペリドールおよび商標名ニコレット(Nicorette)というニコチンチューインガム(2mg)を続けて処方した。患者は、チック症およびその他のTS症候群からの迅速、顕著かつ明らかな改善がみられ、これらは、ハロペリドール単独では十分に制御できなかった(非特許文献29)。続いて行った2つの実験では、ニコチンガムは、既にハロペリドールを投与されている患者においてチック症を緩和したが、擬薬ガムでは効果がみられなかった(非特許文献30および31)。しかしながら、ガムの効果の持続は短く(1〜4時間)、苦味および胃腸管に対する副作用により服用の遵守が困難である(非特許文献31)。
【0007】
神経弛緩薬治療に対して十分な応答が得られなかった11人のTS患者について、7mg、24時間の経皮ニコチンパッチ(商標名ニコダーム(Nicoderm)TNP)を使用してみた(非特許文献32)。治療前および治療開始3時間後の患者のチック症をビデオテープに撮影した。3時間では、チック症の頻度および重篤度は47%および34%それぞれ減少した。神経弛緩薬単独で効果がみられた患者よりも、神経弛緩薬による治療でほとんど制御できなかった患者の方がより劇的に改善を示した。TNPの効果は、予想された24時間よりも長時間持続した。TNPの投与前にTS症候群を抑えていた2人の患者においては、さらにニコチンを投与することなく、効果が3週間から4ヶ月持続した。
【0008】
TS患者に対する有効な治療応答をさらに調査するため、20人のTS患者小幼児および青年17人、大人3人)(このうち、18人については神経弛緩薬でチック症が十分に制御できず、2人は薬剤投与経験なし)に2回のTNPを投与した後、様々な期間にわたって経過を追跡した(非特許文献33および34)。応答にはかなりの個人差があったが、TNPの単回投与によって、エール・グローバル・チック重篤度スケール(Yale Global Tic Severity Scale)の平均値の著しい減少は約1から2週間持続することがわかった。従って、経皮によるニコチンはTSの神経弛緩治療に対する有効な補助薬であり、2人の患者に対しては単独投与でも有効であった。
【0009】
TSを示す小児の50%においては、注意欠陥多運動障害(ADHD)も有している。ADHDは、注意力不足、衝動行動の増加および多運動によって特徴づけられる神経生物学的疾患である、ADHDは、現在最もよく診断される幼児期の神経精神状態であり、およそ350万人が罹患している。さらに、ADHDの青年の60%が成人しても症状を呈しており、さらに250万人の患者が存在する。
【0010】
本特許出願は、ニコチンのアンタゴニスト、特にメカミラミン(3−メチルアミノ−2,2,3−トリメチルノルカンファン)の投与に関する。メカミラミンはニコチンのアンタゴニストとしてよく知られており、ニコチンが刺激する神経節をブロックする。メカミラミンは最初は抗高血圧薬として紹介され、交感神経節の伝達をブロックし、それによって血管拡張を起こし、血圧を降下させる(非特許文献35)。一般的に、神経節のブロックにより、膀胱および胃腸管の弛緩、性的機能障害、毛様筋麻痺、口内乾燥症、発汗の減少ならびに起立性低血圧などももたらされる。神経節作用薬としてのメカミラミンの臨床使用はより有効な抗高血圧薬に置き換えられているが、メカミラミンには脳のニコチン結合部位をブロックする能力があるために、メカミラミンに対する科学者の関心は持続している(例えば、非特許文献36および37などを参照)。ニコチン性アセチルコリンレセプター(nAChr)として知られているこれらのニコチン結合部位は、通常、著名な神経伝達物質であるアセチルコリンによって脳内で活性化される。
【0011】
タバコから得られるニコチンは、様々な形態で長年最も広く用いられてきた薬物の内のひとつである(非特許文献38)。ニコチンは、nAChrの調節剤として機能する(非特許文献39)。これらのレセプターを介して、ニコチンは、アセチルコリン、ノルエピネフリン、セトロニンおよびドーパミンを含む数種の神経伝達物質のシナプス前放出を活性化する(非特許文献40)。nAChrに作用して、モノアミン性中枢神経伝達を調節することができる化合物は、神経精神性疾患の処置に対する有効な治療薬となり得る(非特許文献41−44)。
【0012】
いくつかの神経節阻害薬(中枢神経系(CNS)に容易には到達しない薬剤)とは異なり、メカミラミンは、ヒトにおいて中枢神経効果を発揮することが報告されており、それらは例えば、ニコチンのCNS作用を阻害し(非特許文献45)、ならびに認知作用を変化させる(非特許文献46)、電気的脳波を変化させる(非特許文献47)、皮質血流を変化させる(非特許文献48)などである。
【0013】
ほとんどの動物実験においては0.5mg/kg以上のメカミラミンを使用するが、ドリスコール(Driscoll)は、高い回避行動を示すラットに少投与量(<0.3mg/kg、0.5mg/kgではない)のメカミラミンを投与することによって、0.1mg/kgのニコチンを投与した場合とほぼ同様の回避行動の成功回数の増加を示すことを発見した(しかし、0.2mg/kgのニコチンよりは増加が低かった)。この実験に基づき、ドリスコール(Driscoll)は、「メカミラミンは、行動試験においてニコチンを阻害するために使用する程度の投与量でラットに対して予測できない効果を発揮することがある」と結論づけている(非特許文献49)。
【0014】
ニコチンレセプター(ニコチン結合部位)およびそのイオンチャンネル(メカミラミン結合部位)に関する最近の研究において、バナーイー(Banerjee)らは、メカミラミンおよび数種のニコチンアナログ類はメカミラミン結合部位に対して強い親和性(アフィニティー)を有していると開示している(非特許文献50)。ニコチンレセプターチャンネルに作用するアルカロイドに関しても研究が行われている(非特許文献51)。
【0015】
多くの神経精神性疾患は、強迫性障害(OCD)、TS、ADHD、半身筋緊張異常およびハンチントン舞踏病などを含む異常運動または不随意運動を伴うが、そのような運動はこれらに限定されるわけではない。これらの疾病は、脳の基底神経節内における神経化学物質のバランスが崩れていることが原因であると考えられている。ヒトにおいては、アセチルコリンが基底神経節内のnAChrを活性化することによって運動行動を制御する。基底神経節内でのnAChrの作用は十分解明されている(非特許文献52)。ニコチン性刺激は、基底神経節内のドーパミン(DA)産生細胞の活性を活発化するが(非特許文献53および54)、メカミラミンはnAChrを阻害し、基底神経節構造体からのDAの放出を妨げる(非特許文献55)。
【0016】
ローズ(Rose)およびレヴィン(Levin)に付与された特許文献1は、アゴニスト−アンタゴニストの組み合わせによってニコチンおよびその他の薬物の使用量を減らすことについて開示している。ニコチンと組み合わせることによって、ニコチン性アンタゴニストであるメカミラミンはタバコ依存症の治療に用いられる。ローズ(Rose)およびレヴィン(Levin)は、パッチにニコチンとメカミラミンの両方を含有させることを提示している。ローズ(Rose)およびレヴィン(Levin)は、そのようなアゴニスト−アンタゴニストの組合せはその他の精神病理学疾患および神経機能障害(例えば、交感神経性自律神経性疾患による躁鬱病、精神分裂病、高血圧など)を含む場合に用いることができることも示唆している。
【0017】
症状の制御性に優れ、副作用が少ないことは、患者にとって有益である。特に、本明細書に開示している報告の少なくともいくつかにおける患者のように、単一の薬剤を服用することが好ましい。多様な診断にメカミラミンを用いたヒトの患者における発明者らの臨床経験から、様々な使用法が示唆される。本発明は、様々なニコチン応答性神経精神性疾患の治療用にニコチンアンタゴニスト(メカミラミン)を単独または神経弛緩薬と組み合わせて使用することによる症状制御の改善された方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5,774,052号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】ツーレット症候群分類研究グループ(Tourette Syndrome Classification Study Group)、Arch Neurol 50: 1013-16
【非特許文献2】ロバートソン(Robertson), MM, Br J Psychiatry, 154: 147-169, 1989
【非特許文献3】ポールズ(Pauls), DLら、Psychopharm Bull, 22: 730-733, 1986
【非特許文献4】カミングス(Comings), DE、ハイメス(Himes), JA、カミングス(Comings), BG, J Clin Psychiatry, 51: 463-469, 1990
【非特許文献5】リドル(Riddle), MAら、「ウィレーシリーズ:小児期および青年期の精神的健康(Wiley Series in Child and Adolescent Mental Health)」コーエン(Cohen), DJ、ブルン(Bruun), RD、レックマン(Leckman), JF編、ニューヨーク州ジョン・ウィレー&サンズ(John Wiley & Sons)社、pp.151-162, 1988
【非特許文献6】ステルフ(Stelf), ME、ボーンステイン(Bornstein), RA、ハモンド(Hammond), L、「ツーレット症候群の患者およびその家族に関する調査:1987年のオハイオ州におけるツーレット徴候群調査(A survey of Tourette Syndrome Association)」, 、シンシナティ、オハイオツーレット症候群協会(1987 Ohio Tourette Syndrome Association)、1988)、
【非特許文献7】ハリス(Harris), D、シルバー(Silver) AA, Learning Disabilities, 6(1): 1-7, 1995
【非特許文献8】シルバー(Silver), AA、ハーギン(Hagin), RA、「小児期の学習障害(Disorders of Learning Childhood)」、ノシュピッツ(Noshpitz)編、ニューヨーク、ウィレー(Wiley)社、pp.469-508, 1990
【非特許文献9】シンガー(Singer), HS、Ann Neurol, 12: 361-366, 1982
【非特許文献10】エレンバーグ(Erenberg), G、クルーズ(Cruse), RP、ロスナー(Rothner), AD、Ann Neurol, 22: 383-385, 1987
【非特許文献11】シャピロ(Shapiro),AK、シャピロ(Shapiro), E、「ウィレーシリーズ:小児期および青年期の精神的健康(Wiley Series in Child and Adolescent Mental Health)」コーエン(Cohen), DJ、ブルン(Bruun), RD、レックマン(Leckman), JF編、ニューヨーク州ジョン・ウィレー&サンズ(John Wiley & Sons)社、pp.267-280, 1988
【非特許文献12】シャピロ(Shapiro), ESら、 Arch Gen Psychiatry, 46: 722-730, 1989
【非特許文献13】シンガー(Singer), HS、ガモン(Gammon),K、クワァスキー(Quaskey),S, Pediat Neuroscience, 12: 71-74, 1985-1986
【非特許文献14】スタメンコヴィック(Stamenkovic)ら、Lancet 344: 1577-78, 1994
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【非特許文献17】ゴンス(Gonce), M、バービュー(Berbeau), A、Can J Neurol Sci, 4: 279-283, 1977
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【非特許文献19】リドル(Riddle), MAら、J Am Acad Cild Adol Psychiatry 29: 45-48, 1990
【非特許文献20】エレンバーグ(Erenberg), G、クルーズ(Cruse), RP、ロスナー(Rothner), AD、Ann Neurol, 22: 383-385, 1987
【非特許文献21】シャピロ(Shapiro),AK、シャピロ(Shapiro), E、「ツーレット症候群およびチック症:臨床的理解および治療(Tourette's syndrome and Tic Disorders: Clinical Understanding and Treatment)
【非特許文献22】ウィレーシリーズ:小児期および青年期の精神的健康(Wiley Series in Child and Adolescent Mental Health)」コーエン(Cohen), DJ、ブルン(Bruun), RD、レックマン(Leckman), JF編、ニューヨーク州ジョン・ウィレー&サンズ(John Wiley & Sons)社、pp.267-298, 1988
【非特許文献23】エレンバーグ(Erenberg), G、クルーズ(Cruse), RP、ロスナー(Rothner), AD、Ann Neurol, 22: 383-385, 1987
【非特許文献24】モントゴメリー(Montgomery), SP、モス(Moss), DE、マンデルシェイド(Manderscheid), PZ、「マリファナ(Mariluana)84」、ハーヴェイ(Harvey), DJ、パトン(Paton), WDM編、IRLプレス(IRL Press)社(イギリス、オックスフォード)、pp. 295-302, 1985
【非特許文献25】モス(Moss), DEら、Life Sci 44: 1421-1525, 1989
【非特許文献26】サンバーグ(Sanberg), PRら、Biomedicine and Pharmacotherapy 43: 19-23, 1989
【非特許文献27】エメリッチ(Emerich), DF、ノーマン(Norman), AB、サンバーグ(Sanberg), PR、Psychopharmacol Bull 27(3): 385-390, 1990
【非特許文献28】エメリッチ(Emerich), DFら、Pharmacol Biochem Behav 38: 875-880, 1991
【非特許文献29】サンバーグ(Sanberg), PRら、Biomedicine and Pharmacotherapy 43: 19-23, 1989
【非特許文献30】マクコンヴィル(McConville), BJら、Am J Psychiatry 148: 793-794, 1991
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【非特許文献36】マーティン(Martin), BR、オナイヴィ(Onaivi), ES、マーティン(Martin), TJ、Biochemical Pharmacology 38: 3391-3397, 1989
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【非特許文献44】デッカー(Decker), MWら、Life Sci 56: 545-570, 1995
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【非特許文献52】クラーク(Clerk), PBS、パート(Pert), A、Brain Res 348: 355-358, 1985
【非特許文献53】クラーク(Clerk), PBS、J Pharmacol Exper Therapeutics 246: 701-708, 198847;グレンホフ(Grenhoff), J、アストン−ジョーンズ(Aston-Johns), G、スヴェンソン(Svennson), TH、Acta Physiol Acand 128: 351-358, 1986
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【非特許文献55】アーティー(Ahtee), L、カーコラ(Kaakkola), S、Br J Pharmacol 62: 213-218, 1978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、ニコチン応答性神経精神性疾患の患者に対して新しい治療法を提供することである。
【0021】
さらに本発明の目的は、副作用の少ない治療法を提供し、患者の服薬遵守の改善、ならびに生活の質の向上および社会的機能の向上をもたらすことである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本明細書においては、ニコチンアンタゴニストの有効量を投与することを含む、ニコチン応答性神経精神性疾患を有する患者を治療する方法を開示している。好ましくは、ニコチンアンタゴニストはメカミラミン、立体異性体、またはメカミラミンアナログである。メカミラミンの有効量とは、患者の徴候および症状を改善する量である。チック症においては、各患者におけるチックの頻度および/または重篤度を減少させる量である。さらに、有効量の神経弛緩薬を患者に投与する追加の段階も有り得る。神経弛緩薬の例としては、ハロペリドール、ピモジド、フルフェナジンおよびリスペリドンなどが挙げられる。
【0023】
ニコチン応答性疾患の例としては、ツーレット症候群、本態性振顫、半身筋緊張異常、晩発性運動障害およびハンチントン舞踏病(HD)などを含む運動障害が挙げられる。その他のニコチン応答性精神性疾患としては、精神分裂病、欝病、注意欠陥多運動障害、躁鬱病、激怒暴発および強迫性障害が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】メカミラミンおよびその他数個のニコチン性アンタゴニストの化学構造式。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明者らはこれまでに、ハロペリドールによる神経弛緩処置に加えてまたは続けてニコチンを投与することにより、神経弛緩薬単独では制御できなかったチック症およびその他のTS症候群について、迅速かつ顕著な緩和をもたらすことを示している。TS患者における神経弛緩薬およびニコチンの治療作用を理解するためのモデルとして神経弛緩誘導性カタレプシーを利用し、阻害されていない線条体のコリン性介在ニューロン(これは、線条体の外套性GABA突起ニューロンを神経支配している)を活性化することにより、カタレプシーにおけるD2アンタゴニストの活性をニコチンが増強するものと考えられた。このようにして、淡蒼球の阻害も起こる(エメリッチ(Emerich), DFら、Pharmacol Biochem Behav 38: 875-880, 1991)。しかしながら、ニコチンは複雑な神経薬理学的作用を有するため、ニコチンが神経弛緩薬と相互作用してTSの症状を減少させることについての正確なメカニズムを説明することは難しい。ひとつの仮説としては、皮膚から浸透したニコチンは、ニコチンレセプターを持続的に不活化させることによってその治療効果を発揮するということである(シャイトル(Shytle), RDら、Drud Development Research 38(3/4): 290-298, 1996)。この仮説と矛盾しない神経薬理学的作用がイン・ビトロ(in vitro)において観察されている(ルーカス(Lukas), RJ、Drug Dev Res 38: 136-48, 1996)。
【0026】
通常の治療に応答しない数人のTS患者において、発明者らは、ニコチンレセプターアンタゴニストであるメカミラミンが高血圧の治療およびTS徴候群の軽減に適していることを発見した。メカミラミン単独または神経弛緩薬との組合せによる治療の後、TS症候群が改善されたことは予想外であり、これは、一般的には、メカミラミンの効果はニコチンと相対するものであると考えられているからである:つまり、ニコチンによってチック症が軽減するのであれば、メカミラミンを用いるとよりチック症が激しくなると考えられる。従って、メカミラミン治療によって患者に顕著な軽減が観察されたことは驚くべき発見である。発明者らは、メカミラミンに加えて、以下に詳細を記載しているその他のニコチンレセプターアンタゴニストも使用することができるものと考えた。さらに、併発している病状に対する効果を考慮すると、ニコチンレセプターアンタゴニストはTSのみならず、その他の神経精神性疾患(例えば、注意欠陥多運動障害(ADHD)、強迫性障害(OCD)、本態性振顫(ET)、晩発性運動障害(TD)、欝病(D)およびハンチントン舞踏病(HD)など)にも有効であると考えた。ニコチンアンタゴニストはその他のニコチン応答性疾患(例えば、精神分裂病、欝病、躁鬱病、激怒暴発およびパニック状態など)にも効果を発揮することが期待される。
【0027】
半身筋緊張異常もニコチン応答性であり、身体の片側の腕および脚を含む限局性の運動障害である。一般的には成人になって進行し、症状が持続し、異常のない身体側に広がることは稀である。これは、けいれん性斜頚(頭を回したり上下したりする間欠性けいれん)も含む症状のひとつである。身体のより広範な部分を含む一般的かつ部分的な筋緊張においては、抗コリン性薬であるベンゾジアゼピン類、バクロフェン、カルバマゼピン、レセルピンおよびエルドーパが症状の改善に使用されている。重篤な焦点性筋緊張においては、希釈したボツリヌス毒素を問題のある筋肉内に注射するかまたは外科的に神経を切除することがある。片側筋緊張異常もメカミラミンに反応することが期待できる。
【0028】
定義
「ニコチンアンタゴニスト」とは、広範であり、かつ拡大し続けているカテゴリーであり、メカミラミンはそのひとつの例にすぎない。そのような化合物の全てを網羅するリストはスペースの関係で掲載することができない。以下の記載は、この語の範囲に包含される化合物を網羅することを意図するものではなく、どのようにして確認するかを教示するものである。最近、ダリー(Daly),JW(同上)によって興味深いニコチンアンタゴニストおよび関連化合物についての研究が報告されており、参照として取り入れておく。クラーク(Clark)およびレウベン(Reuben)は、ジヒドロ−β−エリスロイジン、メチルリカコニチン、クロルイソンダミンおよびトリメタファンについて開示している(Br. J. Pharmacol. 117: 595-601, 1996)。ノルメカミラミン、N−(1,2,2)トリメチル−1−ビシクロ[2,2,1]−ヘプティベンゼナミン、ジメチルアミノイソカンファン、エクソ−アミノノルボルナン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−アミノピペリジンおよびペンピジンは、活性なニコチンアンタゴニストとして確認されている(バナーイー(Banerjee)、Biochemical Pharmacology 40: 2105-2110, 1990)。この文献およびその中に記載されている試験方法を本明細書中に参考として取り入れておく。ニコチンアンタゴニストのさらなる例としては、エリソジン(デッカー(Decker)、European Journal of Pharmacology 280: 79-89, 1995)、フェニルトロパンカルボン酸メチルエステル類(ラーナー−マーマロシュ(Lerner-Marmarosh)ら、Life Sciences 56(3): PL67-70, 1995)、アリルペンピジンアナログ類(ワン(Wang)ら、Life Sciences 60(15): 1271-1277, 1997)、イボガイン(ダリー(Daly)、Biochemical Pharmacology 40(9): 2105-2110, 1990)が挙げられる。
【0029】
さらに、メカミラミンの様々な立体異性体および置換されたアナログについて活性試験が行われている(ストーン(Stone)ら、J Med Pharm Chem 5(4): 665-90, 1962:本明細書中に参考として取り入れておく)。ラットを用いてニコチン性けいれんおよび散瞳について試験を行ったところ、メチル基がより大きな置換基で置換されると通常活性が失われた。アミノ基上のメチル基またはジメチル基はいずれも他の置換基よりも活性であった。d体は活性であった;しかしながら、dlラセミ体の方がわずかに活性が高かった。従って、メカミラミンのこの用途においては、l体が顕著な活性を有していると考えられる。ストーン(Stone)らは、exo体(メチルアミノ基がメチレン架橋と同じ平面上に存在している)がendo体(メチルアミノ基はメチレン架橋の下にあり、架橋によって形成されたケージの中に存在している)よりも常に強力であったと報告している。さらに、部分構造である2,2−ジメチル−3−メチルアミノブタンも活性であった。d体のいろいろなモデルとその他のアナログとの間では活性に若干差異が認められたことから、神経精神疾患にける活性および効果が異なる可能性が示唆される。
【0030】
このような用途において理論的に活性が期待されるその他の化合物については、米国特許第4,837,218号(神経中毒性損傷の治療に用いるアルキル化ビシクロアルカンアミン類(Alkylated Bicycloalkaneamines for Neurotoxic Injury))、米国特許第2,894,987号(N−アリル−2−アミノイソカンファン)、米国特許第3,148,118号(興奮性の活性剤(Analeptically Active Agents))、米国特許第3,164,601号(興奮性の活性を有するN−置換アミノノルカンファン誘導体(Analeptically Active N-Sucstituted Aminonorcamphane Derivatives))に開示されている。これらの特許を参考として取り入れておく。
【0031】
「有益な効果」とは、臨床的に観察される徴候および症状が基準を超えて明らかに改善していることをさす。例えば、運動障害における有益な効果には、チッック症の頻度および重篤度の減少が含まれるが、それだけではなく、しばしば異常行動の重篤度に先行するまたは重なっている不安、攻撃的激怒および切迫感の前兆の減少という直接には見えない改善も含まれる。治療効果は、臨床観察およびビデオテープによる評価によって定量化することができる。強迫性障害における有益な効果には強迫行為の減少を含み、これは患者からの報告によって確認することができる。スエマル(Suemaru)ら(同上)は、ニコチン誘導性のラットの尾の振顫を利用して振顫を治療する化合物をスクリーニングすることができると提案している。ニコチンの反復投与により、ラットにおいて運動の機能亢進および尾の振顫を誘導することができ、これは、メカミラミン(0.1〜1mg/日、腹腔内投与)で阻止することができるが、ヘキサメソニウムでは、脳内に容易に到達できないため、阻止できない。中枢活性性のクロニジン(アドレナリン性アゴニスト)およびプラゾシン(アドレナリン性アンタゴニスト)は、多運動よりも尾の振顫を顕著に減少させた。しかしながら、中枢活性性のハロペリドールおよびクロルプロマジン(ドーパミン性アンタゴニスト)は、尾の振顫よりも過運動を顕著に減少させた(スエマル(Suemaru), K.、オオイシ(Oishi), R. 、ゴミタ(Gomita), Y、Arch Pharm 350: 153-57, 1994)。
【0032】
エール・グローバル・チック重篤度スケール(Yale Global Tic Severity Scale,YGTTS)は、最も広く用いられている臨床査定評価度であり、チック症の評価に使用される。これは、臨床観察に基づき、チック症の頻度および重篤度の客観的な尺度を提供する。このスケールには、前週に起こしたチックについて患者自身の記憶に基づいて記入するチック症調査表が含まれる。この調査表をガイドとして使用し、医師は、5つの独立した数値(回数、頻度、強度、複雑性および干渉)に関して、運動性チック症および音声チック症の両方について重篤度をランクづけする。さらに、これとは別に、前週において、患者の社会的役割、自尊心などに対して疾患が与える影響を記載した広範な損傷に関する評価もある。
【0033】
チック症を評価するための客観的な方法は、患者をビデオに録画することである。最低5分間のビデオテープを観て、運動性チック症および音声チック症の両方について頻度および重篤度を記録する。ビデオ録画は、薬剤試用(レックマン(Leckman), JFら、Arch Gen Psychiatry, 48: 324-328, 1991;シャピロ(Shapiro), ESら、Arch Gen Psychiatry, 46: 722-730, 1989;マクコンヴィル(McConville), BJ、フォーゲルソン(Fogelson), HM、ノーマン(Norman), AB、クリキロ(Klykylo), WM、マンデルシェイド(Manderscheid), MA、パーカー(Parker), KW、サンバーグ(Sanberg), PR、Am J Psychiatry, 148: 793-794, 1991;シルバー(Silver), AA、シャイトル(Shytle), RD、フィリップ(Philipp), KK、サンバーグ(Sanberg), PR、「生体系におけるニコチンの有効性(The Effects of Nicotine on Biological Systems)II」、PBS クラーク(Clarke)、M. クイック(Quik)およびK. スラウ(Thurau)編、「薬理学における進歩(Advances in Pharmacological Sciences)」、ビルクハウザー出版社(Birkhauser Publishers)、pp. 293-299, 1995);レヴェレイ(Reveley), MAら、Journal of Psychopharmacology Suppliment, A30, 117, 1994)およびチャレンジ試験(チャッペル(Chappel), PBら、Adv Neurol 58: 253-262, 1992)のための臨床評価系についての重要な補助となることが証明されている。最近の報告においては、チャッペル(Chappel)およびその共同研究者らは、ビデオテープによって運動性チック症および音声チック症を確認し、そのようなデータが確立されている臨床評価スケールとよく相関していることを見出している(チャッペル(Chappel), PBら、J Am Acad Child Adolesc Psychiatry, 33: 386-393, 1994)。
【0034】
本明細書において使用している「神経弛緩薬」とは、思考、感情および神経学的状態、特に動作および姿勢(TSの場合に見られるような)に影響を与える薬剤をさす。ほとんど全ての神経弛緩薬は、晩発性運動障害を引き起こすような錐体外路への強力な効果を有する(上記を参照)。神経弛緩薬の例としては、ハロペリドール(商標名ハルドール(Haldol)、マクネイル・ファーマシューティカル(McNeil Pharmaceutical)社(ニュージャージー州ラリタン))、ピモジド(商標名オラップ(Orap)、テヴァ・ファーマシューティカルズ(Teva Pharmaceuticals)社(ペンシルバニア州カルプスヴィル))、フルフェナジンおよびリスペリドン(商標名リスペルダール(Risperdal)、ヤンセン・ファーマシューティカル(Janssen Pharmaceutical)社(ニュージャージー州ティトゥスヴィル))などが挙げられる。
【0035】
「有効投与量」とは、効果を得るために必要なニコチンアンタゴニストの量をさす。必要投与量は、選択した化合物、患者の年齢および体重、疾患の重篤度、投与経路などによって異なるが、以下の臨床実施例に記載しているように、通常行っている実験によって容易に決定することができる。しかしながら一般的には、有効投与量は、一日あたり約0.001mg/kg〜約6mg/kg、好ましくは一日あたり約0.002mg/kg〜約3mg/kg、より好ましくは一日あたり約0.005mg/kg〜約2mg/kg、および最も好ましくは一日あたり約0.01mg/kg〜約1.5mg/kgである。薬剤抵抗性のTSの成人に対する開始投与量は約2.5mg/日であり、症状の再帰に従って投与量を調整する(以下の症例を参照)。中程度のADHDを有する低年齢の子供については、1mg/日以下で開始することが好ましい。神経弛緩薬の有効投与量は、ニコチンアンタゴニストと組み合わせた場合に症状を緩和するような最少量である。発明者らの臨床経験から、数人の患者においては、神経弛緩薬を用いずに最大の治療効果を得ることができる可能性があることが示唆されている。
【0036】
「薬剤学的に許容される」とは、塩または賦形剤などの化合物に許容できない毒性が存在しないことをさす。薬剤学的に許容される塩類としては、塩素、臭素、ヨード、亜硫酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機性陰イオン、ならびに酢酸塩、マロン酸塩、ピルビン酸塩、プロピオン酸塩、ケイヒ酸塩、トシル酸塩およびクエン酸塩などの有機性陰イオンなどが挙げられる。薬剤学的に許容される賦形剤については、「レミントン 薬剤学(Remington7s Pharmaceutical Sciences)」(マック出版社(Mac Pub.))の中で、マーティン(Martin), E.W.が詳細に記載している。
【0037】
ニコチンアンタゴニストを含有する薬剤学的組成物は、ひとつまたはそれ以上の薬剤学的キャリヤを含んでいてもよい。「薬剤学的に許容されるキャリヤ」という語は、比較的不活性で非毒性および非刺激性の一般的に許容される任意の賦形剤をさす。キャリヤを希釈剤とする場合には、ビヒクル、賦形剤または活性成分の媒質として作用する固体、半固体、または液体材料を用いることができる。薬剤学的投与単位形態は、経口および非経口(特に、筋肉内注射および静脈内注射、または皮下移植もしくは経皮投与による)を含むいくつかの投与経路の内の任意の投与経路に合わせて調製することができる。そのような形態の内の代表的なものとしては、錠剤、軟および硬ゼラチンカプセル、粉末、トローチ剤、チューインガム、エマルション、懸濁液、シロップ、溶液、滅菌注射液ならびに滅菌充填粉末などが挙げられる。ニコチンアンタゴニストを含有する組成物は、投与後に任意のまたは全ての化合物を迅速に、持続して、または遅れて放出するように、当該分野において既知の方法によって製剤化することができる。
【0038】
本発明のニコチンアンタゴニスト製剤は経口投与に適しており、好ましいキャリヤを用いて錠剤またはカプセルの形態に製剤化することができる。固体の薬剤学的賦形剤(ステアリン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカ、デンプン、ショ糖、デキストロース、ポリエチレングリコール(PEG)、タルクなど)をその他の従来からある薬剤学的アジュバント(充填剤、潤滑剤、湿潤剤、保存剤、分解防止剤、香料など)および結合剤(ゼラチン、アラビアガム、セルロース、メチルセルロースなど)とともに用いることにより、上述のように使用する、または錠剤化、カプセル封入、もしくは上述したその他の適切な形態に調製するための混合物を得ることができる。製剤化についての一般的な記述は、「レミントン 薬剤学(Remington7s Pharmaceutical Sciences)」(マック出版社(Mac Pub.))を参照のこと。
【0039】
投与様式
投与は経口投与が好ましいが、経皮塗布、経鼻スプレー、気管支吸入、坐薬、非経口注射(例えば、筋肉内または静脈内注射など)などでもよい。非経口投与用のキャリヤとしては、デキストロース、マンニトール、マンノース、ソルビトールの水溶液、生理食塩水、純水、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ピーナッツ油、ゴマ油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。適切な保存剤、安定剤、抗酸化剤、抗微生物剤および緩衝剤(例えば、BHA、BHT、クエン酸、アスコルビン酸、テトラサイクリンなど)を追加として含有することができる。別の方法としては、ニコチンアンタゴニスト製剤を適切なポリマーマトリックスまたは膜内に取り込むまたは封入することによって、皮膚への移植または塗布に適した持続性放出系を提供することができる。その他の系としては、内在性カテーテルおよび商標名アルゼット(Alzet)ミニポンプなどの装置が挙げられる。
【0040】
以上のように、本発明については直接的な説明を行ったが、以下に、有益であった方法における効果に関する実施例を示す。以下の実施例は単なる例示であり、本方法の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0041】
臨床実施例
患者1は、TSと診断された背の高い、体重78.6kgの15才の少年である。この患者は発明者らの診療所の患者であり、重篤なTS症状を効果的に制御する目的で、約1年にわたってハロペリドール2mg/日および週に2回経皮ニコチンパッチ(14mg/24時間)を処方されていた。しかしながら、予定されていた追跡診断の約2ヶ月前にチック症(それまではよく制御されていた)が再発した。そのときハロペリドールの投与量を3mg/日に増やし、またニコチンパッチを貼る頻度を1日おきまで増し、いくらかの改善がみられた。しかしながら、ニコチンパッチによる副作用、特に吐気が患者を苦しめ、パッチを拒否するに至った。さらに、日常的の使用によるニコチン中毒の危険性が増すことから、患者にパッチの使用を続けさせることがためらわれた。
【0042】
患者は診療所に来る2週間前に、ニコチンパッチを中断した。瞬き、眉毛の起毛、顔を歪める、頭の反射動、腹部のチック症、および脚/足の動きが観察された。患者のYGTSSスコアは17/30であり、5分間のチック症は計245回であり、7段階のスケールにおいて全体的な重篤度は3(中程度)と評価された。
【0043】
午前11時30分頃にメカミラミン(5mg)を経口投与した。約2時間後、患者がチック症の衝動が減少したと報告した。YGTSSスコアは6/20であった。チック症はまだ残っているものの、チックの頻度は25%減少した。全体的なチック重篤度は50%まで減少した。午後6時までには、患者は気分がよくなり、チック症は目視できず、副作用もなかったと患者の母親が報告した。しかしながら、翌朝、チック症が再発しはじめた。1ヶ月後、メカミラミン5mg/日を朝食時服用することでチック症は制御されており、患者は緊張がほぐれ、注意深くなったと報告した。30日前までははずかしがりやで無口だった少年は、外向性でよくしゃべるようになった。
【0044】
この最初の患者の治療における臨床経験から、ハロペリドールとメカミラミンとの組合せによって運動性チック症を抑制することができることが示唆された。メカミラミンの経口単回投与による効果は2〜3時間後にあらわれ、約8〜12時間持続した。メカミラミンの一日あたりの投与量は、副作用を示すことなく、211日間続けた。
【0045】
患者2は中学3年生の16才の少年であり、全体的な認知機能は優れているものの、視覚運動機能に重篤な欠陥があった。この患者は10才の時に注意欠陥障害および学習困難からメチルフェニデートおよびデキセドリン(Dexedrine)(デキストロアンフェタミン硫酸塩、スミスクライン・ビーチャム・ファーマシューティカルズ(SmithKline Beecham)社(ペンシルバニア州フィラデルフィア))の投与を開始し、6ヶ月しないうちに運動性および音声チック症を発症した。0.1mgのクロニジンを1日3回用いることにより、患者のチック症は抑えられていたと患者の両親は報告した。しかしながら、この2年間は運動性および音声チックに対しては薬を処方されていなかった。中学2年生の終わりには、数学で落第し、他の教科ではC、Dの評価をつけられ、視覚運動機能の困難性が目立った。書くことが遅く、苦労していた。書く作業を拒否し、書くことにいらつきを覚えるようになり、落第するように運命づけられていると感じていた。患者が発明者らの診療所を訪れたときには、チック症は明かであった:瞬き、口の歪み、大きな身体のチック、肩のすばやい動きおよび反射動、頭のチック、および嗅ぎ込み。患者は「頭の中は活動している」と訴えた(当惑していた)。夏の間に患者は数学を学習しようと試みたため、再度試験を受けることができ、秋には高校に入学した。しかしながら、患者は、「頭の中では過程がわかっている」にもかかわらず、数学の問題の解答に必要な過程(試験において要求されているような)を書き記すことが困難であった。患者は我慢できず、いらつき、投げだそうとしていた。
【0046】
メカミラミンを処方し、夕食後に服用するよう指導した。患者の母親(看護婦)は、5mgのメカミラミンを服用した2時間後に患者が数学の勉強をはじめたと報告した。このとき、患者は忍耐強く、「心が澄んでいる」ように感じ、緊張がほぐれ、気が散ることなく3時間数学の問題に取り組んだ。患者のチック症は、強度および頻度とも低下した。翌朝、患者は落ち着かない感じがし、以前ほどひどくはないものの、チック症が再発した。瞬き、および大きく反射的な身体の動きがあった。患者にメカミラミンを朝食時に5mg、夕食後に2.5mg処方した。12日後、この服薬に関して患者は、以前ほど「亢進」状態ではなく、学業に集中できるようになったと報告した。チック症は時折あらわれるものの、減弱した。血圧は114/80出変化がなかった。この患者においては、メカミラミンと組み合わせて神経弛緩薬を投与しなかったことから、メカミラミン単独でもTSを抑制することができることが示唆された。8週間の治療後、患者の母親は、患者は順調であり、治療の継続を希望しており、高校に入学したと報告した。患者は副作用を示すことなく、メカミラミンを208日間継続使用した。
【0047】
患者3は35才の女性であり、6才の時から重篤な運動性および音声チック症、強迫性障害を伴うTSを呈していた。この患者は3児の母であり、年長の12才の女児もTSであった。数年にわたり、ゾロフト(Zoloft)(セルトラリン塩酸塩、ファイザー(Pfizer)社レリグ(Roerig)部門(ニューヨーク))を含む様々な薬剤を用いて欝病および気分の動揺を抑えようとしてきた。1996年7月に発明者らの診療所において経皮ニコチンパッチ(7mg)を試みたところ、3時間以内にチック症が減弱した。しかしながら、続く24時間以内に膝、足首および手首の関節が痛みだし、膨れてきたため、パッチの使用を中断した。ハロペリドールの試用投与量(0.5mg)を投与した。12時間以内に、ハロペリドールを中止する必要がでた急激な体温上昇がみられた。発明者らの診療所における1年後の追跡診断において、患者は緊張状態であり、楽しそうではなく、複数の重篤なチック症(ほとんど連続的な瞬き、歪み、鼻のけい縮、嗅ぎ込み)ならびに家の中で全てのものが「きちんと収まって」いなければならないという強迫観念にとらわれていた。
【0048】
午後2時に5mgのメカミラミンを服用した。午後5時には、チック症がまだ残ってはいるもののはっきりと軽減し、強度は著しく(50%)低下した。患者は5mgのメカミラミンを4日間続け、チック症が残ってはいるものの弱くなったと報告した。患者は不安感が薄らいでリラックスした気分であると報告した。さらに、メカミラミンの服用中は、ストレスの多い状況においてみられた激怒暴発に対する切迫感が減少したと報告した。メカミラミンの1日1回投与を30日間続けたが、血圧および心拍数の大きな変化はみられなかった。患者は月経の期間中に便秘を訴えたが、その他の副作用については報告していない。メカミラミンの処方が終了した時に、患者はメカミラミンの継続を要求した。この患者の場合には、患者2の場合と同様に、神経弛緩薬は不要であった。患者はメカミラミンを195日間服用し、診断時に、かっとなることが減ったことはうれしいが、「高揚した」気分が捨て難いため、メカミラミンの服用を中断したと言った。
【0049】
患者4は、14才の時からTS歴を有する43才の男性セールスマンである。この患者はハロペリドール(0.5mg、1日2回)および14mgの経皮ニコチンパッチを週に2回使用していたが、運動性および音声チック症の完全な制御はできていなかった。ハロペリドールの投与量を増やす、またはニコチンパッチの頻度を増すよりも、ニコチンパッチを中断し、メカミラミン(5mg/日)を処方した。当初、YGTSSは27/30であり、5分間のビデオテープから、総チック回数は207回、7段階スケールでの全体的な重篤度は4(非常に顕著)であった。メカミラミンの初回服用の約90分後、患者はリラックスした感じがすると報告した。YGTSSは20/20、重篤度は2.5(やや顕著)であった。6時間後、患者は、リラックスした感じが続いていると報告し、顔の歪みおよび頭のけいれんは見られなかった。瞬きはしていたが、軽減していた。しかしながら、翌朝までにはチック症が再発しはじめた。朝食時に5mgのメカミラミンを服用すると、1〜2時間以内に再びチック症の軽減が得られた。約8時間後にチック症が再発しはじめた。追加投与量として、夕食前に2.5mgのメカミラミンを処方した。この投与量によって、夕刻の運動性および音声チック症を抑えた。維持投与量として、メカミラミンを朝食時に5mg、夕食前に2.5mg処方した。ハロペリドール(0.5mg、1日2回)は継続した。ニコチンは中断した。メカミラミンとハロペリドールの少投与量ずつの組合せ使用により、運動性および音声チック症を制御した。
【0050】
最近、患者4は、かかりつけの医師が、メカミラミン治療開始前から始まっていた慢性的な疲労の原因を突き止めることができなかったと報告した。血圧の変化はなかった。しかしながら、患者なメカミラミンを中断し、ニコチンパッチを再開した。
【0051】
患者5は18才の男性であり、初診は15才の時であった。10才の時から、ピモジド(オラップ(Orap)、テヴァ・ファーマシューティカルズ(Teva Pharmaceuticals)社(ペンシルバニア州カルプスヴィル))を16mg/日を用いてTS症候群を治療してきた。患者はチック症に関する強い家族歴を有していた。患者の母親、母方の祖母、母方の叔父および従兄弟は全てツーレット症候群を示していた。初診時、患者は商標名プロザック(Prozac)(フルオキセチン塩酸塩、イーライ・リリー(Eli Lilly)社(インディアナ州インディアナポリス))と共に12mgのピモジドを服用した。運動性チック症はわずかであったが、重篤なパーキンソン様表情を有してふさぎ込んでおり、緊張のため手の細かな振顫は悪化した。ピモジドを4mg/日に減らし、プロザック(Prozac)を中断したところ、持続性の手の振顫を除く欝病およびパーキンソン様症状は緩和した。発明者らの下における治療期間中、中程度の背景分裂を伴う異常なEEGおよび左側頭領域についての鋭敏な動作が認められた。患者をカルマバゼピン、ハロペリドールおよび商標名コゲンチン(Cogentin)(メシル酸ベンツトロピン、メルク(Merck)社(ペンシルバニア州ウエストポイント))を用いて治療し、運動性および音声チック症の顕著な減少が得られた。しかしながら、振顫は持続しており、強迫性障害が優勢になってきた。患者は、「心がどこか別のところをさまよっているよう」で仕事に集中できないと言った。ニコチンパッチを試みたところ、悪心、頭痛、および非服従が起こった。診療所を訪れた2ヶ月後、試用量の2.5mgのメカミラミンを服用した。2時間以内に患者は「落ち着いた気分である」と言い、コミュニティーカレッジでの勉強に戻ることができそうな気分だと言った。さらに、メカミラミン投与前に訴えていた手の振顫はほぼ消失した。
【0052】
患者6は、23才の男性であり、小学2年生の時から重篤なツーレット症候群を示していた。長年にわたり、この患者は、クロニジンおよびクロナゼパム(商標名クロノピン(Klonopin)、ロシュ・ラボラトリーズ(Roche Laboratories)社(ニュージャージー州ナットレー))だけでなく、多くの神経弛緩薬を用いて治療を受けてきた。初診時、患者は少なくとも2年間ピモジドを12mg/日服用しており、感情障害児のためのキャンプにおいてカウンセラーとして働いていた。患者は、救急医療従事者になるコースの試験に2度不合格であった。患者のツーレット症候群は発明者らの診療所において診たものの中で最も重篤であった。患者は常に休みなく動いており、しぶしぶ話し、顔にはチック様の歪みがあり、肩をすくめ、コプロプラキシア(患者の指先は鼠径部を指していた)が見られたが、最もよくあらわれた症状は穢言であった。全ての言葉が本来は性的な意味を有する間投詞を伴って強調され、抑圧され、区切られ、大きかった。患者は笑顔と陽気で隠そうとしていた。しかしながら、患者は恐れと抑欝感を感じており、指は明らかに振顫を呈していた。神経精神学的テストでは、重篤な視覚運動障害が明らかであった。試用量の7mgの経皮ニコチンパッチにより、チック症および穢言の強度は若干弱まった。しかしながら、4時間以内に患者は悪心およびめまいを訴えた。ニコチンパッチの貼りつけ時間を増やしながら、1日1回の使用を1週間試みた。しかしながら副作用が持続し、ニコチンを中断した。
【0053】
ニコチンが体内から排出された2週間後、2.5mgのメカミラミンを1日1回処方した。7日後、患者は、穢言の約70%が消失したと報告した。このときの追跡診断においては、穢言が顕著に減少しているのみならず、残っていたのはささやきであった。休みない動きは顔の歪みがなくなるほど止まっていた。手のわずかな振顫のみが残った。
【0054】
患者7は16才の女子高校生であり、初診は1997年7月であった。ツーレット症候群の長い病歴を有しており、強迫性障害および欝病に対してクロノピン(Klonopin)1mgを1日3回服用しており、チック症にわずかな改善が認められた。25mgのセルトラリンを1日2回および経皮ニコチンパッチを追加したところ、チック症および感情に顕著な改善がみられた。しかしながら、頭痛および悪心を含むニコチンパッチの副作用のため、すぐにニコチンパッチを中断した。1997年の8月中旬、2.5mgのメカミラミンを処方し、セルトラリンを徐々に中断し、クロノピン(Klonopin)を1mg/日まで減らした。2〜3日以内に、患者は、チック症が「著しく減少し」、いらつきがおさまって気分がよくなったと報告した。しかしながら、1997年の12月初旬、患者の母親が「攻撃性と自信喪失」が再び現れはじめ、嗅ぎ込み音声チックがぶり返したと報告した。メカミラミンを3.75mg/日に増やし、欝病、不機嫌およびいらつきの軽減、チック症の若干の改善(10段階のスケールにおいて+4から+5)、学校および友人に対する態度の改善をみた。メカミラミンの副作用に関する訴えはなかった。
【0055】
患者8は、小柄でやせた9才の少年であり、5才の時にADHDと診断され、発明者らの診療所を訪れる約6ヶ月前にメチルフェニデート(20mg、1日2回)を服用していた。メチルフェニデートによって注意力が増し、強行動感は薄らいだが、使用開始4ヶ月以内に運動性チック症を発症した。そこでメチルフェニデートの使用を中断し、また、吐気のため、7mgの経皮ニコチンパッチも許容できないことがわかった。メカミラミンの2.5mgでは最小限の効果しか得られなかったが、3.75mg/日では過運動が抑えられ、注意が持続した。患者は、気分がよく、「悪魔の声」はもう聞こえないと言った。全体的な改善スケールでは、患者の母親は10段階の+3と評価した。210日間の使用において副作用は報告されなかった。
【0056】
患者9は11ヶ月時に発明者らの診療所を訪れた少年であった。この患者の抵抗行為のため、患者の母親は患者を他州に住む父方の叔父に預けていた。14才の時に発明者らの診療所を再訪したときにも運動性および音声チック症はまだ重篤であったが、患者は治療を受けようとしていた。リスペリドン(2mg/日)および経皮ニコチンパッチ(7mg/日、週に約2回)を用いて症状を緩和した。しかしながら、患者はまだ不機嫌で、いらつき、文句が多かった。メカミラミン2.5mg/日を追加した。3週間以内に患者の母親が、メカミラミンを追加して以来、患者は「これまでになかったほど改善して」おり、落ち着き、瞬きは消失し、激怒の暴発が減少したと報告した。メカミラミンの服用を開始してから6ヶ月間の電話での追跡診断期間中、患者の祖母は、患者は自分の意志でリスペリドンを中断し、また、治療開始約5ヶ月後にやはり自分の意志でメカミラミンを中断したと報告した。患者はニコチンパッチを「通常週1回以上」使用し続けている。患者の祖母は、患者のチック症はほぼ抑えられているが、文句は多く、時折激怒すると報告している。
【0057】
患者10は、37才のアルコール中毒症を有する喫煙男性である。欝状態であり、重篤で許容できないほどの穢言および不安性攻撃を呈し、抗欝薬、ベンゾジアゼピンおよびハロペリドールを用いて治療を行い、症状のわずかな改善がみられたのみであった。服薬は遵守していたが、効果が得られていなかった。1997年7月1日にメカミラミン2.5mg/日を開始した。患者は、「リラックスし、うまく話せ(穢言が少なくなった)、流暢に話すようになった」と報告した。しかしながら、患者は「頭痛と胸焼け」を訴えた。1997年12月8日にメカミラミンを再投与した。初期投与量の2.5mgで約1時間穢言を抑制し、続いて患者は、「いらいらして神経質になってきた」と訴えた。メカミラミンを中断した。
【0058】
患者11は、ツーレット症候群、ADHD、OCD、重篤な視覚および運動障害、不安、および自信喪失を有する14才の少年である。この患者が親指の皮をむしる行為は、患者が「不完全」で級友と身体的に異なると感じていることに関連していた。ハロペリドールで症状はある程度制御されていた。経皮ニコチンパッチはハロペリドールの治療効果を高めたが、患者はパッチが気持ち悪く、悪心のため、最終的にはパッチを拒否した。1997年7月17日にメカミラミン2.5mg/日を開始した。初回投与の3時間以内に患者の動作が減少し、落ち着いてきた。患者のチック症の重篤度が顕著に減少した。副作用はなく、血圧は110〜114/70〜76を維持していた。メカミラミン開始1週間以内に患者の母親は、気分および行動の著しい改善、いらつきの減少、両親との楽しいかかわりを報告した。「患者は弟をたたかなくなった。」継続していたハロペリドンおよびクロニジンの投与量を減らした。メカミラミンは215日間続けた。この期間中、患者は、気分、行動および学校に対する態度が「非常に改善」した。しかしながら、持続性の咳は回復しなかった。咳を鎮めるため、メカミラミンを中断し、セルトラリンを開始した。厄介な咳は食事時のみに出るようになった。メカミラミン治療に戻ることを検討中である。
【0059】
患者12は少年であり、9才の時に注意散漫および多運動の治療としてメチルフェニデートを開始した。メチルフェニデートを開始した月にチック症を発症した。ツーレット症候群、OCDおよびADHDの症状が悪化した。患者はピモジド、ハロペリドール、プロザック(Prozac)およびパクシル(Paxil)を組み合わせて服用しており、これによってチックはある程度制御できたが、欝状態が強まり、および学校での居眠りが増えたため、14.5才時に発明者らの診療所を訪れる前の2ヶ月は、学校(中学2年生)を離れて家庭学習をしていた。患者が処方されていた多種類の薬を徐々に減らしてハロペリドール2mgだけにし、クロニジンを加えたが、症状はほとんど変化しなかった。経皮ニコチンパッチ(7mg)を週2回使用することによって症状が軽減した。しかしながら、ニコチンを中断してメカミラミン3.75mg/日を加えると、運動性および音声チック症に明らかな改善がみられた。チック症はわずかに残ってはいるものの、著しく軽減し、強度も弱まった。患者の気分はリラックスしていた。患者は学校でうまくやっており、高校の運動プログラムに参加している。ベンダー−ゲシュタルト(Bender-Gestalt)試験における未熟性はもはや存在しない。患者の血圧は1997年12月には114/80であり、1998年6月12日には100/70であった。副作用の訴えはなかった。
【0060】
患者13は12才の少年であり、9才の時から発明者らの診療所において診察を受けている。4才過ぎから運動性および音声チック症ならびに強迫行為が悪化し、7才以後により悪化した。繰り返し行ったEEGは、異常な「グレード3の不整律、左右同時の独立した中枢性、頭頂部の一時的な棘波」が認められた。テグレトール(Tegretol)によって全症状が悪化した。標準的な処方では患者の運動性および音声チック症を制御することは困難であった。ニコチンはチック症の軽減には役立ったが、患者はニコチンに感受性で許容できない副作用を併発した。1997年8月13日にメカミラミン2.5mg/日を開始した。患者は、「落ち着いており、それほど不平を言わない」と報告した。しかしながら、改善状態は3〜5日しか持続せず、チック症が再発し、頭痛がひどくなった。投与量を5mg/日に増やすと、チック症は減少しなかったが頭痛がひどくなった。血圧は、通常110/76の間であったが、90/68に減少した。心拍数は通常70〜76であったものが68になった。メカミラミンを中断した。
【0061】
患者14は9才の少年であった。外見上の形成障害があり、体格は小柄で、頭部の形状は三角形であり、常に動き、自分の持っている銃および武器についてしゃべっていた。患者は、重篤な運動性および音声チック症、穢言、接触強迫行為、明らかな不安を呈していた。患者は、カルマバゼピン、メチルフェニデートを含む多種類の薬を処方されていたが、運動を増しただけであった。ハロペリドールによって患者の活動は減少したが、効果は3週間しか持続しなかった。経皮ニコチンパッチ(7mg)は吐気を起こしたのみであった。メカミラミン1.25mg/日を使用しても、落ち着きのなさが増し、涙もろく、いらつくようになっただけであった。メカミラミンは10日後に中断した。
【0062】
所見のまとめ:以上の報告のように、14人の患者の内12人は、メカミラミン服用後にチック症および気分が改善した。1人を除く全員が気持ちがリラックスしたと報告した。服薬により、2人の女性患者は気分の動揺がおさまった。服用した投与量において、1人の患者においては顕著な血圧の変化があった。高投与量のメカミラミンは高血圧の治療に使用されるため、投与量は低くすべきであり、十分許容できた。これらの患者は複数の症状を有していた。TSのほかに、患者2はADHDおよび強迫感を有していたが、両者とも新しい治療によって改善した。患者3および7も強迫性行動を示していたが、メカミラミン治療によって減少した。さらに、患者5は手の振顫を呈していたが、メカミラミン投与後に減少した。メカミラミンを使用して治療を行ったこのグループの患者においては、注意散漫、多運動、振顫、強迫性行動、欝病および気分の動揺、ならびにツーレット(Tourette)症候群の運動性および音声チック症の症状が軽減した。
【0063】
従来の治療で症状を制御できなかったこれらのTS患者に対する投与量を以下の表1にまとめている。投与量範囲は約0.03〜0.10mg/kgであった。この範囲を用いて表2の計算を行った。
【表1】

【表2】

【0064】
その他の用途
最近の報告において、ニコチンが精神分裂病(アドラー(Adler), LEら、Am J Psychiatry 150: 1856-1861, 1993)、注意欠損過運動性疾患(ADHD)(レヴィン(Levin), EDら、Psychopharmacology 123: 55-62, 1995)および欝病(サリン−パスキュアル(Salin-Pascual), RJら、Psychopharmacology 121(4): 476-479, 1995)を軽減することが示唆されている。一般的には、これらの「ニコチン応答性」疾患におけるニコチンの治療作用はnAChrの活性化によるものであると考えられている(デッカー(Decker), MWら、Life Sci 56: 545-570, 1995)が、他の多くの薬剤と同様に、ニコチンも複雑な神経薬理学的効果を有することは明らかである。従って、そのようなニコチン応答性疾患を有する多くの患者は、本明細書にその例として開示しているメカミラミンのようなnAChrブロッカーを用いて治療することができ、nAChrブロッカーはニコチン応答性疾患であるTSおよびADHDの症状を緩和した。
【0065】
精神分裂病は、ドーパミン過剰状態を呈していると想定されている精神障害であり、神経弛緩薬を用いて治療することが多いが、ニコチン応答性疾患であるという考えがある。例えば、精神分裂病患者を調査したところ、喫煙率は74%〜92%であり、一方、精神病の患者全体では35%〜54%、および一般人口においては30〜35%であった。喫煙により、集中力が増し、過剰刺激によって不安感が減少して潜在的な精神病を改善すると考えられている(ゴパラスワミー(Gopalaswamy), AK、モルガン(Morgan), R、Br J Psychiatry 149: 523, 1986)。さらに、ニコチンは、精神分裂病および神経弛緩薬治療に関連した認識力の欠陥を改善する何らかの役割を果たしている可能性がある。喫煙により、精神分裂病患者の知覚通門欠陥症が正常化した(アドラー(Adler), LEら、Am J Psychiatry 150: 1856-1861, 1993)ことが発見されており、また、最近の研究では、ニコチンの経皮投与によって、標準的な抗精神薬治療による認識力に対する副作用のいくつかが回復し、一般的な精神分裂病患者においては認識能が改善した(レヴィン(Levin), EDら、Psychopharmacology 123: 55-62, 1995)ことが発見された。ニコチン投与が本当にnAChrブロッカー投与と同様の効果を有していると仮定するならば、メカミラミンおよび関連化合物のようなnAChrブロッカーも、抗精神薬治療による認識力に対する副作用のいくつかを回復させ、精神分裂病患者において認識能を改善させることができるはずである。さらに、ニコチンがTSに対して神経弛緩薬の治療効果を増強する(マクコンヴィル(McConville), BJら、Biological Psychiatry 31: 832-840, 1992)ことから、精神分裂病およびハンチントン舞踏病などの「神経弛緩薬応答性」疾患に対してメカミラミンを補助薬として使用することにより、神経弛緩薬の投与量を減らすことができ、それによって治療効果を減弱させることなく神経弛緩薬の副作用を軽減することができる。
【0066】
以上の記述および実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアンタゴニストを含有する、ニコチン応答性精神性疾患を治療するための組成物。
【請求項2】
前記ニコチン応答性精神性疾患が、ツーレット症候群、精神分裂病、欝病、躁鬱病、注意欠陥多運動障害、激怒暴発、強迫性障害またはこれらの組合せであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ニコチンアンタゴニストを含有する、ニコチン応答性運動性疾患を治療するための組成物。
【請求項4】
前記ニコチン応答性運動性疾患が、ツーレット症候群、本態性振顫、半身筋緊張異常および晩発性運動障害より成る群から選択されることを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項5】
ニコチンアンタゴニストを含有する、ツーレット症候群を治療するための組成物。
【請求項6】
ニコチンアンタゴニストを含有する、注意欠陥多運動障害を治療するための組成物。
【請求項7】
ニコチンアンタゴニストを含有する、注意散漫、多運動、振顫、強迫性行動、欝病および気分の動揺、ツーレット症候群による運動性および音声チック症、またはこれらの組合せを含む徴候および症状を治療するための組成物。
【請求項8】
前記ニコチンアンタゴニストが、メカミラミン、メカミラミンの立体異性体、またはメカミラミンのアナログであることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記ニコチンアンタゴニストがメカミラミンであることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
神経弛緩薬と組み合わせて投与されることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
前記神経弛緩薬が、ハロペリドール、ピモジド、フルフェナジンおよびリスペリドンより成る群から選択されることを特徴とする請求項10記載の組成物。
【請求項12】
ニコチンアンタゴニストが、患者のチック症の頻度および重篤度を軽減させる量で投与されることを特徴とする請求項1から5、および7いずれか1項記載の組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−159285(P2010−159285A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68970(P2010−68970)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2000−506968(P2000−506968)の分割
【原出願日】平成10年8月11日(1998.8.11)
【出願人】(500065794)ザ ユニヴァーシティー オブ サウス フロリダ (1)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【Fターム(参考)】