説明

神経細胞賦活及び神経伸長促進用組成物

【課題】優れた神経細胞賦活作用及び神経伸長促進作用を有する組成物を提供する
【解決手段】化合物1を含有することを特徴とする神経細胞賦活及び神経伸長促進用の組成物、ならびに化合物1と、化合物2の少なくとも1種を含有することを特徴とする神経細胞賦活及び神経伸長促進用の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(1)で表される化合物を含有する神経細胞賦活及び神経伸長促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経は神経細胞から成り立ち、情報の統合のために体正中部集合して存在する中枢神経系と、中枢外に存在する個別に繊維として存在する末梢神経系に分けられる。存在場所による便宜的な区別であり、それらの機能構造に大きな差異はない。これらの組織に障害が生じると、情報伝達が障害されることによる種々の症状が生じる。例えば、痴呆、アルツハイマー病などの記憶障害にはじまり、顔面神経麻痺、胃無力症、インポテンツ、外眼筋麻痺、排尿困難、便通異常、手足のしびれ、痛み、立ちくらみ、潰瘍などを生じ、著しくQOLを害し、重篤な症状である。神経は再生力が弱いため、当該症状に対し、移植などによる再生医療が主となっている。これに対し、昨今ではより簡便な治療方法として内服製剤等の治療薬、予防薬を用いる方法が採用されつつある。内服製剤を用いた治療方法としては、神経が障害を受けた際にその修復を促す成分としてメチルコバラミンを高用量投与することが知られている。このような背景から、神経再生を促すためのさらなる治療薬が求められていた。
【非特許文献1】日本臨床 VOL.64,8,1553−1559(2006.8.1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、優れた神経細胞賦活作用及び神経伸長作用を有する組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記式(1)に表される化合物(以下、化合物1と表記することがある)が優れた神経細胞賦活作用及び神経伸長作用を有することを見出した。化合物1は、補酵素型ビタミンB12の1種であるメチルコバラミンと類似の構造をとるが、メチルコバラミンの活性中心であるメチル基を持たず、その作用を異にする。化合物1は造血作用が知られており、貧血に伴う諸症状(めまい、ふら付き、手足のしびれなど)の改善を目的として用いられることがある。化合物1の神経細胞賦活作用及び神経伸長促進作用は、本発明において初めて見出されたものである。
【0005】
本発明者らは、化合物1にさらに下記一般式(2)に表される化合物(以下、化合物2と表記することがある)を配合することにより神経細胞賦活効果及び神経伸長効果が高まることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は以下の神経細胞賦活及び神経伸長促進用の組成物を提供するものである。
項1.下記式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする神経細胞賦活及び神経伸長促進用組成物。
【0007】
【化5】

項2.さらに、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする項1に記載の組成物。
【0008】
【化6】

[一般式(2)中、2つの
【0009】
【化7】

は同一又は異なって単結合又は二重結合を示す]
項3.前記式(1)で表される化合物1重量部に対して前記一般式(2)で表される化合物を総量で0.00002〜7.5重量部含有する項1又は2に記載の組成物。
項4.下記式(1)で表される化合物を添加することを特徴とする、神経細胞賦活及び神経伸長促進方法。
【0010】
【化8】

【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、神経細胞に対して優れた神経細胞賦活作用及び神経伸長促進作用を発揮する。このような本願発明の組成物は、特に、従来では再生医療に頼らざるを得なかった神経性の疾患の予防又は治療に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の神経細胞賦活及び神経伸長促進用の組成物は、有効成分として下記式(1)に表される化合物1を含有する。本発明において神経細胞賦活作用とは、神経細胞の活性・機能を高めることを指す。また、神経伸長促進作用とは、神経の軸索伸長を促すことを指す。以下、各成分について説明する。
【0013】
(1)化合物1
化合物1は下記式(1)で表される化合物であって、DSM ニュートリション ジャパン株式会社などから商業的に入手可能である。
【0014】
【化9】

本発明の組成物における化合物1の配合量は、本発明の効果を奏するように適宜設定することができるが、成人(15才以上、体重約60kg)1日量あたり0.0125〜2400mg程度、好ましくは0.025〜1200mg程度、より好ましくは0.05〜600mg程度である。この様な配合量であれば、本発明の組成物の神経賦活作用及び神経伸長促進作用が顕著に発揮される。
【0015】
(2)化合物2
化合物2は、哺乳類の抗貧血因子としての作用が知られている下記一般式(2)で表される化合物であって、DSM ニュートリション ジャパン株式会社などから商業的に入手可能である。
【0016】
【化10】

一般式(1)中、2つの
【0017】
【化11】

は同一又は異なって単結合又は二重結合を示し、二重結合であることが好ましい。上記化合物2を1種単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の組成物における化合物2の配合量は、本発明の効果を奏するように化合物1の配合量に基づいて適宜設定することができ、1重量部の化合物1に対して、総量で通常0.00002〜7.5重量部程度、好ましくは0.01〜2.9重量部程度、より好ましくは0.02〜1重量部程度である。化合物1と化合物2がこの様な割合で含有されることにより、化合物1の神経細胞賦活作用及び神経伸長促進作用が増強される。特に化合物2の配合量は、当該配合割合の範囲内であって、成人(15才以上、体重約60kg)1日量あたり0.0125〜40mg程度、0.025〜20mg程度、0.05〜10mg程度であることが望ましい。
【0019】
本発明の効果が顕著に奏される好ましい実施態様の1つとして、成人(15才以上、体重約60kg)1日量あたり、化合物1を0.05〜600mg程度を含有し;化合物1を1重量部に対して、化合物2を総量で0.02〜1重量部程度の範囲内であって0.05〜10mg程度を含有する組成物が例示される。
【0020】
(3)剤型
本発明の組成物は、従来公知の方法に従って、経口又は非経口の別を問わず各種の製剤剤型に調製することができ、例えば、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤や、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、フィルム等の固形製剤形態の経口製剤;液剤、点滴剤、注射剤、点眼剤等の液状製剤や、錠剤、丸剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤形態の非経口製剤が挙げられる。
【0021】
化合物1は、一部が肝臓で代謝を受けてその構造が変化することが知られていることから、本発明の組成物としては、舌下錠、静脈用注射剤、可食フィルム等の肝臓での代謝の影響が少ない形態が好ましい。
【0022】
本発明の組成物が液状製剤である場合は、凍結保存することもでき、また凍結乾燥等により水分を除去して保存してもよい。凍結乾燥製剤やドライシロップ等は、使用時に注射用蒸留水、滅菌水等を加え、再度溶解して使用される。
【0023】
例えば、本発明の組成物が注射剤、点滴等として調製される場合、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用することができる。なお、この場合、体液と等張な溶液を調整するに充分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを本発明の組成物中に含有させてもよい。また、当分野において一般的に使用されている溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。
【0024】
固形剤として本発明の組成物を調製する場合、例えば、錠剤の場合であれば、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用することができる。このような担体としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、アルギン酸ナトリウム等の結合剤;乾燥デンプン、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、クロスポビドン、ポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。さらに錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。また、前記有効成分を含有する組成物を、ゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等を原料とする従来公知のカプセルに充填して、カプセル剤とすることができる。
【0025】
また、丸剤の形態に調製する場合は、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0026】
上記以外に、添加剤として、例えば、界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩を、得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択し使用することができる。
【0027】
また、アミノ酸、ビタミン類、無機塩類等の他の活性成分を含有させても良い。他の活性成分としては、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒドロキシリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン等のアミノ酸;ビタミンA1、ビタミンA2、カロチン、リコピン(プロビタミンA)、ビタミンB6、ビタミンB1、ビタミンB2、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド、ビオチン等のビタミン類;塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩や、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の無機塩類が挙げられる。
【0028】
本発明の組成物の投与量としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、剤型、患者の年齢、性別、病状の程度等によって適宜設定され得るが、例えば、化合物1の投与量を基準として、成人(15才以上、体重約60kg)1日量あたり、0.0002〜40mg/kg程度、好ましくは0.0004〜20mg/kg程度、より好ましくは0.0008〜10mg/kg程度である。
【0029】
(4)神経細胞賦活及び神経伸長を促進する方法
本発明は、化合物1を投与することを特徴とする神経細胞賦活及び神経伸長を促進する方法を提供するものである。本発明の方法における化合物1、化合物2の具体的種類や配合量等については、上記(1)及び(2)に記載される通りである。
【0030】
このようにして得られる本発明の組成物は、優れた神経細胞賦活作用及び神経伸長促進作用を発揮し得ることから痴呆、アルツハイマー病などの記憶障害、顔面神経麻痺、胃無力症、インポテンツ、外眼筋麻痺、排尿困難、便通異常、手足のしびれ、痛み、立ちくらみ、潰瘍等の神経系の伝達経路に傷害を生じる疾患(または神経系伝達経路の障害によって引き起こされる疾患)の予防又は治療に有用である。
【実施例】
【0031】
以下に実施例、比較例及び処方例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<試験例>
(1)凍結保存のP19 EC cells細胞(マウス胚性腫瘍由来細胞株 理化学研究所提供)を非働化牛胎児血清(以下、FBSと記載する)を15%含有するDMEM液体培地で培養した。
(2)1×105 cells/ml/wellで、レチノイン酸(1μM)を含むDMEM液体培地(FBSなし)で37℃、CO濃度5%で1日間培養した。
(6穴プレートを使用し、1wellに2mLで培養)
(3)上清を取り除き、下記表1〜3に示される濃度(液体培地中の濃度)の被験物質を含む液体培地で培養した。
(4)12時間後に浮遊細胞数を測定し、下記式より神経細胞賦活率を算出した。本試験例において浮遊細胞は、十分な機能、活性を得られず死滅した神経細胞である。結果を表1〜3に示す。
神経細胞賦活率=(A/B)×100(%)
A:各被験物質投与時:(初期細胞数−浮遊細胞数)/初期細胞数
B:被験物質非投与時(比較例1に相当):(初期細胞数−浮遊細胞数)/初期細胞数
(5)前記(4)から60時間後に細胞をトリパンブルーで染色し扁平な形状であって、細胞から外方向に向かって放射状の突起物を伸ばしている細胞(樹状突起を伸ばしている細胞)数を測定した。5つの視野において計測し、その平均値を用いて下記式(I)より神経伸長促進率を算出した。結果を表1及び2に示す。
式(I): 神経細胞伸長促進率=(A/B)×100(%)
A:各被験物質投与時の各視野の(樹状突起細胞数/総細胞数)
B:被験物質非投与時(比較例1に相当)の各視野の(樹状突起細胞数/総細胞数)
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

実施例1から明らかなように、化合物1を培地に添加することによって、神経細胞の賦活作用及び神経細胞伸長促進作用が認められた。また、実施例2〜8に示されるように、化合物1及び化合物2を添加することによってより神経細胞の賦活作用及び神経細胞伸長促進作用が増強された。
以下に本発明の処方例を示す。
【0034】
【表3】

処方例1〜5を、手足のしびれを訴える患者に服用させる有効性試験を実施したところ、各処方例の有効性及び有用性が確認された。
【0035】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を有効成分として含有することを特徴とする神経細胞賦活及び神経伸長促進用組成物。
【化1】

【請求項2】
さらに、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【化2】

[一般式(2)中、2つの
【化3】

は同一又は異なって単結合又は二重結合を示す]
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物1重量部に対して前記一般式(2)で表される化合物を総量で0.00002〜7.5重量部含有する請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
下記式(1)で表される化合物を添加することを特徴とする、神経細胞賦活及び神経伸長促進方法。
【化4】


【公開番号】特開2009−84208(P2009−84208A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256052(P2007−256052)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】