説明

移動ロボットの遠方環境認識装置及び方法

【課題】小型かつ安価な装置を用いて、高速走行時に検出が必要な検出必要距離内に存在する平面及びある程度小さな障害物も検出することができ、かつ走行路に対して前方の走行可能領域が傾いており、検出必要距離内に存在する障害物を検出できない場合でも、走行安全性を確保することができる移動ロボットの遠方環境認識装置及び方法を提供する。
【解決手段】移動ロボット10に走行経路の生成に必要な環境地図データ5を出力する遠方環境認識装置。移動ロボット10に固定して配置され前方の平面領域を含む相互に重複する領域の画像を撮像する一対の車載カメラ22と、移動ロボットに固定して配置され前方正面及び所定の検出必要距離に相当する下向き角度でレーザ光を前方左右に走査しその反射光から障害物の位置を検出するレーザセンサ24と、車載カメラとレーザセンサの出力から単一の座標系に定義された平面領域1及び障害物4を含む環境地図データ5を生成するコンピュータ26とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、人がGPS座標系でウェイポイントを入力し、これを通過するように自律的に走行経路の生成を行って走行する自律移動ロボット、又は半自律移動ロボット及び遠隔で操縦する操縦支援装置に係り、特に移動ロボットの遠方環境認識装置及び方法に関する。
なお、半自律移動ロボットとは、自律走行と遠隔操縦とを混成して走行させるロボットである。
【背景技術】
【0002】
移動ロボットの遠方環境認識方法として、車載カメラからのステレオ画像を利用して、走行可能な平面領域及び障害物を検出する技術が、特許文献1〜3に既に開示されている。
【0003】
また、進行方向の斜め下方に向けて測距センサを取り付け、かつ同センサを進行方向に向けて取り付けることで、走行可能領域及び障害物を検出する技術が、特許文献4に既に開示されている。
【0004】
図1は特許文献1〜3の技術が適用される車両の説明図である。
この図において、車両50(移動体)のウィンドシールド上部の左右には、車両50が走行する道路平面領域を含む画像を撮像する一対の撮像手段である基準カメラ52及び参照カメラ54が固定配置される。基準カメラ52及び参照カメラ54は、共通の撮像領域が設定されたCCDカメラ等からなるステレオカメラであり、これらには、撮像した画像を処理することで道路平面領域と障害物となる可能性のある物体とを検出する演算処理装置56が接続される。なお、以下の説明では、基準カメラ52によって撮像された画像を「基準画像」と称し、参照カメラ54によって撮像された画像を「参照画像」と称する。
【0005】
図2は一対の撮像手段間での2次元射影変換を説明するための模式図であり、
図3は平面領域を抽出する手順の説明図である。
先ず、特許文献1〜3における道路平面領域の抽出原理を説明する。
【0006】
図2に示すように、空間中にある平面Π上の観測点M1が基準画像I及び参照画像Iに投影されるとき、基準画像I上での同次座標をm、参照画像I上での同次座標をmとすると、各同次座標m、mは、2次元射影変換行列Hによって関係付けられる。
【0007】
ここで、Hは3×3の射影変換行列である。また、図2において、Oは基準カメラ52の光学中心、O’は参照カメラ54の光学中心、Rは基準カメラ座標系から参照カメラ座標系への回転行列、tは、参照カメラ座標系において参照カメラ54の光学中心から基準カメラ52の光学中心へ向かう並進ベクトル、dは基準カメラ52の光学中心Oと平面Πとの距離、nは平面Πの法線ベクトルである。
【0008】
道路等の走行可能な領域は、空間中でほぼ平面であると見なすことができれば、図3(A)の参照画像Iに対して適切な射影変換を施すことにより、平面の部分に対して図3(B)(C)の基準画像Iに一致するような画像(図3(C))を得ることができる。
一方、平面上にない物体は、射影変換した際に画像(図3(C)と図3(D))が一致しないため、その物体の領域は走行可能な領域でない、あるいは、障害物となり得る領域であると判断することができる。したがって、図3(E)のように、平面の拡がりを算出することにより、走行可能な平面領域及び障害物となる物体の検出が可能となる。
【0009】
上述した特許文献1〜3の手段により、車載カメラからのステレオ画像を利用して、走行可能な前方の平面領域、基準カメラ52の光学中心Oと平面領域との距離d、前方の平面領域の法線ベクトルnを検出することができる。
【0010】
一方、図4は、特許文献4による自律移動車両の側面図である。
この図において自律移動車両61は、記憶した地図情報に基づいて自律的に移動する車両であって、進行方向の斜め下方に向けて車両前面に取付けられた下方測距センサ62と、進行方向に向けて車両前面に取付けられた前方距離センサ63と、車両本体の車輪の回転数から移動量を計測する移動量計測手段(図示せず)とを備え、前方距離センサ63で取得した情報に下方測距センサ62で取得した情報を重ね合わせて地図情報を作成し、障害物を検出して回避を行いつつ移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−217883公報、「ステレオ画像を用いた道路平面領域並びに障害物検出方法」
【特許文献2】特許第4270386公報、「移動体移動量算出装置」
【特許文献3】特許第4297501公報、「移動体周辺監視装置」
【特許文献4】特許第4055701公報、「自律移動車両」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
移動ロボットにおいて、高速走行(例えば約50km/h)を実現するためには、必要な制動距離及び制御サイクルを考慮すると、例えば40m程度の遠距離の平面領域及び障害物位置を計測する必要がある。以下、この距離を「検出必要距離」と呼ぶ。
【0013】
上述した特許文献1〜3の技術では、障害物位置の計測にカメラによるステレオ視を使用するため、遠方(検出必要距離)の縁石や路面上の石などの小さな障害物を検出することは困難である。
【0014】
一方、特許文献4の技術では、走行可能領域を検出するために、斜め下方に向けて下方測距センサ62を備えている。しかし、遠方(検出必要距離)の路面の計測を行う場合、下方測距センサ62の下向き角度θは、水平に対して非常に小さく(例えば3度未満)になるため、路面からの反射が非常に微弱であり、高出力のレーザセンサが必要である。また、レーザセンサのスキャンレートも高く設定する必要がある。そのようなセンサは大型かつ高価なものとなり、移動ロボットへの採用は現実的ではない。
【0015】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の第1の目的は、小型かつ安価な装置を用いて、高速走行時に検出が必要な検出必要距離内に存在する平面及びある程度小さな障害物も検出することができる移動ロボットの遠方環境認識装置及び方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、走行路に対して前方の走行可能領域が傾いており、検出必要距離に存在する障害物を検出できない場合でも、走行安全性を確保することができる移動ロボットの遠方環境認識装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、移動ロボットに、走行経路の生成に必要な環境地図データを出力する遠方環境認識装置であって、
前記移動ロボットに固定して配置され、前方の平面領域を含む相互に重複する領域の画像を撮像する一対の車載カメラと、
前記移動ロボットに固定して配置され、レーザ光を前方左右に走査しその反射光から障害物の位置を検出するレーザセンサと、
前記車載カメラとレーザセンサの出力から、単一の座標系に定義された平面領域及び障害物を含む前記環境地図データを生成するコンピュータと、を備えたことを特徴とする遠方環境認識装置が提供される。
【0017】
本発明の実施形態によれば、前記移動ロボットは、自律的に走行経路の生成を行って走行する自律移動ロボット、半自律移動ロボット、又は遠隔で操縦する操縦支援装置である。
また、前記レーザセンサは、複数のスキャンラインを持つレーザセンサである。
【0018】
また本発明によれば、移動ロボットに、走行経路の生成に必要な環境地図データを出力する遠方環境認識方法であって、
前記移動ロボットに固定して配置された一対の車載カメラにより、前方の平面領域を含む相互に重複する領域の画像を撮像し、
前記移動ロボットに固定して配置されたレーザセンサにより、レーザ光を前方左右に走査しその反射光から障害物の位置を検出し、
前記画像から前記平面領域と該平面領域のカメラ座標系における法線ベクトルとを検出し、
前記平面領域、平面領域の法線ベクトル、障害物の位置から単一の座標系に定義された平面領域及び障害物を含む前記環境地図データを生成する、ことを特徴とする遠方環境認識方法が提供される。
【0019】
本発明の実施形態によれば、路面と正対物の再帰反射率の違いに着眼し、前記レーザセンサの反射光の受光強度により障害物の有無を検出する。
さらに、遠方の計測であることから、障害物位置に対応する地図セルに投票して、地図上を探索窓によって探索し、探索窓内の投票値が閾値を超える場合に、その窓内のセルを障害物として、前記レーザセンサから算出される障害物位置の計測誤差を補正する、ことが好ましい。
【0020】
また、新たに検出された前方の平面領域のカメラ座標系における法線ベクトルが、カメラ座標系において所定の範囲を超える場合に、前記レーザセンサの走査領域が路面上から外れ、障害物検出が有効ではないとして、新たに検出された前方の平面領域を除外して前記環境地図データを生成する。
また、新たに検出された前方の平面領域のカメラ座標系における法線ベクトルから、走行領域に対する車両の角度を算出し、この角度から、レーザ光が地面上の障害物を検出しうる範囲にある領域を算出し、この領域と重複する平面検出領域を選択して、前記環境地図データに反映する。
【発明の効果】
【0021】
上記本発明の装置及び方法によれば、一対の車載カメラ、レーザセンサ、及びコンピュータからなる小型かつ安価な装置により、単一の座標系に定義された平面領域及び障害物を含む前記環境地図データを生成するので、この環境地図データを用いて、自律移動ロボットが自律的に走行経路の生成を行って走行することができる。
【0022】
また、レーザセンサがレーザ光を前方左右に走査しその反射光から障害物の位置を検出するので、高速走行時に検出が必要な検出必要距離に存在する小さな障害物を検出することができる。
【0023】
また、新たに検出された前方の平面領域のカメラ座標系における法線ベクトルが、カメラ座標系において所定の範囲を超える場合に、新たに検出された前方の平面領域を除外して前記環境地図データを生成するので、車両に対して前方の走行可能領域が傾いており、検出必要距離内に存在する障害物を検出できない場合でも、元の走行可能領域のみが表示されるので、走行安全性を確保することができる
【0024】
従って、ステレオカメラ(一対の車載カメラ)、レーザセンサの組合せにより、相互の欠点を補うことができ、遠方の環境認識が実現できる。
また小さな障害物が存在する場合でも、遠方(現状約40m)の環境認識が実現できるため、高速走行(現状約50km/h)が可能となる。

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】特許文献1〜3の手段が適用される車両の説明図である。
【図2】一対の撮像手段間での2次元射影変換を説明するための模式図である。
【図3】特許文献1〜3による平面領域を抽出する手順の説明図である。
【図4】特許文献4による自律移動車両の側面図である。
【図5】本発明が適用される自律移動ロボットの説明図である。
【図6】自律移動ロボットのブロック図である。
【図7】自律移動ロボットの使用状態を示す側面図である。
【図8】自律移動ロボットの特殊な使用状態を示す側面図である。
【図9】移動ロボット10の特殊な使用状態を示す別の説明図である。
【図10】自己位置評定用コンピュータ、画像処理用コンピュータ、及び環境地図生成用コンピュータの動作フロー図である。
【図11】車両制御用コンピュータの動作フロー図である。
【図12】レーザセンサによる障害物検出フロー図である。
【図13】図12の説明図である。
【図14】本発明の遠方環境認識装置から出力する環境地図データの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0027】
図5は、本発明が適用される自律移動ロボットの説明図であり、図6は自律移動ロボットのブロック図である。
【0028】
図5、図6において、自律移動ロボット10は、GPS11、ジャイロセンサ12、自己位置評定用コンピュータ13、車両制御装置14及び操縦装置15を備える。
自律移動ロボット10は、この例では自走する車両であるが、本発明はこれに限定されず、半自律移動ロボットや操縦支援装置であってもよい。なお、以下の説明では、自律移動ロボット10を、単に「移動ロボット」又は「車両」と呼ぶ。
【0029】
車両制御装置14は、この例では経路生成用コンピュータ14a、車両制御用コンピュータ14b、ドライバ14c及びモータ、アクチュエータ14dからなり、経路生成用コンピュータ14aにより自律的に走行経路の生成を行い、車両制御用コンピュータ14b、ドライバ14c及びモータ、アクチュエータ14dにより車両を操縦して走行するようになっている。
操縦装置15は、この例ではノートパソコンであり、人がノートパソコン15によりGPS座標系でウェイポイントを入力し、経路生成用コンピュータ14aに無線で通信するようになっている。
またGPS11、ジャイロセンサ12及び自己位置評定用コンピュータ13により周辺の地図、車両の位置、車両の姿勢を検出し、経路生成用コンピュータ14aに出力するようになっている
【0030】
上述した構成により、人がGPS座標系でウェイポイントを入力することにより、経路生成用コンピュータ14aによりウェイポイントを通過するように移動ロボット10は自律的に走行路検出及び経路生成を行い車両を操縦して走行することができる。
【0031】
本発明の遠方環境認識装置20は、上述した移動ロボット10に走行経路の生成に必要な環境地図データ5を出力する装置である。
【0032】
図5、図6において、本発明の遠方環境認識装置20は、一対の車載カメラ22、レーザセンサ24、及びコンピュータ26を備える。
コンピュータ26は、この例では画像処理用コンピュータ26aと環境地図生成用コンピュータ26bからなり、車載カメラ22とレーザセンサ24の出力から、単一の座標系に定義された平面領域及び障害物を含む環境地図データを生成する。
【0033】
図7は、移動ロボット10の使用状態を示す側面図である。
この図において、一対の車載カメラ22は、例えばステレオカメラであり、移動ロボット10に固定して配置され、前方の平面領域1を含む相互に重複する領域の画像2(ステレオ画像)を撮像する。
画像処理用コンピュータ26aは、上述した特許文献1〜3の手段により、車載カメラ22からのステレオ画像2を利用して、平面領域1と、平面領域1の法線ベクトルn(カメラ座標系における法線ベクトル)を検出する。
【0034】
レーザセンサ24は、この例では、移動ロボット10に固定して配置されたレーザセンサである。またこのレーザセンサ24は、4本のスキャンラインを有しており、前方正面及び所定の検出必要距離に相当する下向き角度でレーザ光3a〜3dを前方左右に走査しその反射光から障害物4の位置を検出するようになっている。
【0035】
この例で、レーザ光3aは、前方正面に水平に照射され、その反射光から、前方に位置する障害物4の位置(方向及び距離)を検出する。また、レーザ光3b〜3dは、レーザ光3aから一定の角度(例えば、0.5〜1.0度)ずつ下向きに傾斜しており、それぞれの反射光から、前方に位置する障害物4の位置(方向及び距離)を検出するようになっている。
【0036】
また、本発明の方法では、路面と正対物の再帰反射率の違いに着眼し、レーザセンサ24の反射光の受光強度により障害物の有無を検出する。
すなわち、画像処理用コンピュータ26aによる平面検出により検出することができなかった、路面上の小さな障害物をレーザセンサ24の反射光の受光強度により検出する。
レーザセンサ24のレーザ光3b〜3dは平面領域1に対しては浅い入射角となり、受光強度は弱い。一方、正対する障害物4は深い入射角となり高い受光強度が得られる。本発明の方法では、この差により、障害物4の検出を行う。また、計測が遠距離となるため、レーザセンサから算出される障害物位置にも誤差があるので、これを考慮した処理を行う。
すなわち、遠方の計測であることから、障害物位置に対応する地図セルに投票して、地図上を探索窓によって探索し、探索窓内の投票値が閾値を超える場合に、その窓内のセルを障害物として、レーザセンサから算出される障害物位置の計測誤差を補正する。
【0037】
環境地図生成用コンピュータ26bは、自己位置評定用コンピュータ13、車載カメラ22及びレーザセンサ24の出力、すなわち、周辺の地図、車両の位置、車両の姿勢、平面領域1、平面領域1の法線ベクトルn、及び障害物4の位置から、単一の座標系に定義された平面領域1及び障害物4を含む環境地図データ5を生成する。
この環境地図データ5は、車両制御装置14の経路生成用コンピュータ14aに入力され、経路生成用コンピュータ14aにより、自律的に走行路検出及び経路生成を行うために用いられる。
【0038】
図8は、移動ロボット10の特殊な使用状態を示す側面図である。
この例では、移動ロボット10が走行中の路面1aに対して前方の走行可能領域1が傾いており、検出必要距離内に存在する障害物4を検出できない場合を示している。
すなわち現在走行する路面1aに対して前方の走行可能領域1が上述したレーザ光3a〜3dの下向き角度(例えば最大約3度)以上に傾くと、レーザ光3a〜3dが路面(走行可能領域1)から外れてしまう。
レーザセンサ24が反射光を検出せず、レーザセンサ24から測距データが出力されないということは、障害物4が存在しないことを意味する。そのためレーザセンサ24の走査範囲が、路面から外れる場合は、障害物4は検出されず、このため、障害物発見の遅れとなる問題が発生する。
この問題を回避するために、本発明では、新たに検出された前方の平面領域1のカメラ座標系における法線ベクトルnが、カメラ座標系において所定の範囲を超える場合に、レーザセンサの走査領域が路面上から外れ、障害物検出が有効ではないとして、新たに検出された前方の平面領域を除外して前記環境地図データ5を生成する。
すなわち、本発明では、移動ロボット10から見た平面領域1の姿勢角とレーザセンサ24のレーザ光3a〜3dの成す角が、想定範囲から外れた場合には、平面検出処理によって新たに検出された前方の平面領域を地図に反映させないという処理をとることで、上記問題を回避する。
この場合、例えば車両10は元の平面領域内で減速し、前記角度が閾値内に戻りしだい、新たに検出された前方の平面領域を地図に反映させて、高速走行を続行する。
【0039】
図9は、移動ロボット10の特殊な使用状態を示す別の説明図である。この図において、(A)は走行領域に対する車両10の角度が正常な場合、(B)は車両10にピッチ角が発生した場合、(C)は車両10にロール角が発生した場合である。
図9(B)の車両10にピッチ角が発生した場合は、図8の場合に相当する。この場合、レーザ光のスキャン範囲27の全体において、レーザセンサ24が反射光を検出せず、レーザ光のスキャンが有効ではない(無効)ため、平面検出結果を反映させない。
【0040】
一方、図9(C)の車両10にロール角が発生した場合は、レーザ光のスキャン範囲27の一部でレーザが有効であるため、この有効範囲では平面検出結果を反映する。
すなわち車両10が例えば時計方向にロールしていて、前方は水平な平面であると画像で検出できた場合、レーザセンサ24ではある角度以上に左側に向いた方向が所定の角度以上に上空を向いてしまい、無効な計測となる。このような場合を想定して、レーザ光のスキャン範囲27の全部の有効・無効を判断するのではなく、スキャンのうち、有効な扇状のエリアを、計測点の向きと平面の向きから決定する。
この場合、新たに検出された前方の平面領域のカメラ座標系における法線ベクトルから、走行領域に対する車両の角度を算出し、この角度から、レーザ光が地面上の障害物を検出しうる範囲にある領域を算出し、この領域と重複する平面検出領域を選択して、前記環境地図データに反映する。
【0041】
図10は、自己位置評定用コンピュータ、画像処理用コンピュータ、及び環境地図生成用コンピュータの動作フロー図であり、S1〜S4の各ステップ(工程)を有する。
ノートパソコン15により、GPS座標系でウェイポイントを入力し、車両制御用コンピュータ14に無線で入力する。
自己位置評定用コンピュータ13は、GPS11とジャイロセンサ12からデータを受信し(S1)、周辺の地図、車両の位置、車両の姿勢を検出し、車両制御用コンピュータ14に出力する。
画像処理用コンピュータ26aは、車載カメラ22からのステレオ画像2を利用して、平面領域1の地図と、車両から見た平面姿勢角(すなわち平面領域1の法線ベクトルn)を検出し(S2)、環境地図生成用コンピュータ26bと車両制御用コンピュータ14に出力する。
環境地図生成用コンピュータ26bは、自己位置評定用コンピュータ13の出力(すなわち、周辺の地図、車両の位置、車両の姿勢)とレーザセンサ24の出力から、障害物の検出処理を行い(S3)、障害物マップ4aを出力する。さらにこの環境地図生成用コンピュータ26bは、障害物マップ4aと車載カメラ22の出力(すなわち、平面領域1、平面領域1の法線ベクトルn)から、地図データを合成して、単一の座標系に定義された平面領域1及び障害物4を含む環境地図データ5を生成し(S4)、車両制御用コンピュータ14に出力する。
【0042】
図11は、車両制御用コンピュータの動作フロー図であり、S11〜S18の各ステップ(工程)を有する。
車両制御用コンピュータ14は、ノートパソコン15からウェイポイントを受信し、自己位置評定用コンピュータ13から車両位置と車両姿勢を受信し、環境地図生成用コンピュータ26bから環境地図データ5を受信し、画像処理用コンピュータ26aから車両から見た平面姿勢角を受信する。
車両制御用コンピュータ14は、ウェイポイント、車両位置、車両姿勢及び環境地図データ5から、ポテンシャル法によりポテンシャル場を生成し(S11)、最急降下法により経路を設定する(S12)。このポテンシャル法と最急降下法は、車両位置や障害物位置のポテンシャルを高く設定し、ウェイポイントや平面領域のポテンシャルを低く設定して、ポテンシャルの高い方から低い方に向かって水が流れるような方向に経路を設定する手法である。
【0043】
車両制御用コンピュータ14は、次いで、旋回半径から車速目標値Aを設定し(S13)、さらに平面姿勢角と車両姿勢から車速目標値Bを設定し(S14)、車速目標値A,Bの小さい方を採用する(S15)。
次いで、車両制御用コンピュータ14は、アクセル、ブレーキ位置の目標値を設定し(S16)、旋回半径からステアリング位相の目標値を設定し(S17)、モータ、アクチュエータを作動させる(S18)。
以上の各ステップを車両制御用コンピュータ14は、所定の制御間隔Δtで繰り返し実施し、自律的に走行経路の生成を行い、車両を操縦して走行する。
【0044】
図12は、レーザセンサによる障害物検出フロー図であり、S21〜S30の各ステップ(工程)を有する。また図13は図12の説明図である。
図12において、レーザセンサ24は、前方正面及び所定の検出必要距離に相当する下向き角度でレーザ光3a〜3dを前方左右に走査し、その反射光の受光強度が所定の閾値以上であるものから測距値を算出する。この場合、車両の走行に支障がある大きさの障害物を確実に検出するように、レーザ光3a〜3dの走査密度(すなわち走査レート)を設定する。
検出されたN0個のデータ(位相と測距値)を出力し(S21)、そのデータから環境認識に必要な位相範囲内のデータN個を抽出し(S22)、車両姿勢角と自己位置を用いて座標変換によりN個の慣性座標特徴(Xe,Ye,Ze)を算出する(S23)。この場合、測距データがない場所は、障害物がないとして扱う。
図13(A)はこの時点(S23)での障害物候補マップを示している。この図において、aは車両位置、bは環境認識に必要な位相範囲、cは障害物候補である。
【0045】
次いで、図12において、障害物候補マップを呼び出し投票作業へ移行し(S24)、N個の障害物候補に対して、座標(Xe,Ye)を地図分解能δで除し、投票セル位置(i,j)を算出し(S25)、投票セル位置(i,j)に投票する(S26)。
次にi=is〜ie、j=js〜jeの環境認識範囲において、探索窓内の投票数の総和を算出し(S27)、投票数の総和が所定の閾値以上である場合(S28)に、探索窓内の地図セルを障害物に設定する(S29)。
図13(B)は、探索窓d内の投票数の総和を算出する状態を示している。
【0046】
次いで、図12において、障害物候補マップから、環境認識範囲で障害物情報を切り出し、障害物マップとして出力する(S30)。図13(C)は、障害物マップの例であり、この図でeは環境認識に必要な範囲、fは障害物である。
【0047】
図14は、本発明の遠方環境認識装置20から出力する環境地図データの説明図である。この図において、(A)はある時刻tまでに検出した平面領域1a、(B)は時刻tに検出した平面領域1、(C)は時刻tに検出した障害物領域fを示している。
【0048】
図14(A)に示す時刻tまでに検出した平面領域1aは、走行可能領域であり、車両aは安全に走行できる。
図14(B)に示す時刻tに検出した平面領域1は、画像処理用コンピュータ26aにより車載カメラ22からのステレオ画像2を利用して検出された平面領域1であり、障害物がない限り車両aは安全に走行できる。
図14(C)に示す時刻tに検出した障害物領域fは、レーザセンサ24により上述した方法で検出される。
図14(C)の図は、上述した単一の座標系に定義された平面領域1及び障害物4を含む環境地図データ5に相当しており、この環境地図データ5に基づき、経路生成用コンピュータ14aにより、自律的に走行路検出及び経路生成を行うことができる。
【0049】
また、図8に示したように、レーザセンサ24の走査範囲が、路面から外れる場合は、障害物4は検出されず、このため、障害物発見の遅れとなるが、本発明では、移動ロボット10から見た平面領域1の姿勢角とレーザセンサ24のレーザ光3a〜3dの成す角が、想定範囲から外れた場合には、平面検出処理によって検出された図14(B)の平面領域1を地図に反映させないという処理をとることで、図14(A)に示す平面領域1aのみを走行可能領域とするので、車両aは安全に走行することができる。
【0050】
上述した本発明の装置及び方法によれば、一対の車載カメラ22、レーザセンサ24、及びコンピュータ26a,26bからなる小型かつ安価な装置により、単一の座標系に定義された平面領域1及び障害物4を含む環境地図データ5を生成するので、この環境地図データ5を用いて、自律移動ロボット10が自律的に走行経路の生成を行って走行することができる。
【0051】
また、レーザセンサ24が前方正面及び所定の検出必要距離に相当する下向き角度でレーザ光3a〜3dを前方左右に走査し、その反射光から障害物4の位置を検出するので、高速走行時に検出が必要な検出必要距離内に存在する小さな障害物4を検出することができる。
【0052】
また、新たに検出された前方の平面領域1の法線ベクトルnと、走行中の路面1aの法線ベクトルnaとの角度が、所定の閾値を超える場合に、新たに検出された前方の平面領域1を除外して環境地図データ5を生成するので、走行中の路面1aに対して前方の走行可能領域1が傾いており、検出必要距離内に存在する障害物4を検出できない場合でも、元の走行可能領域のみが表示されるので、走行安全性を確保することができる
【0053】
従って、ステレオカメラ(一対の車載カメラ)、レーザセンサの組合せにより、相互の欠点を補うことができ、遠方の環境認識が実現できる。
また小さな障害物が存在する場合でも、遠方(現状約40m)の環境認識が実現できるため、高速走行(現状約50km/h)が可能となる。
【0054】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
1 平面領域、1a 走行中の路面、2 画像(ステレオ画像)、
3a〜3d レーザ光、4 障害物、5 環境地図データ、
10 自律移動ロボット(移動ロボット、車両)、11 GPS、
12 ジャイロセンサ、13 自己位置評定用コンピュータ、
14 車両制御装置、14a 経路生成用コンピュータ、
14b 車両制御用コンピュータ、14cドライバ、
14d モータ、アクチュエータ、15 操縦装置、
20 遠方環境認識装置、22 車載カメラ(ステレオカメラ)、
24 レーザセンサ、
26 コンピュータ、26a 画像処理用コンピュータ、
26b 環境地図生成用コンピュータ、27 スキャン範囲


【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動ロボットに、走行経路の生成に必要な環境地図データを出力する遠方環境認識装置であって、
前記移動ロボットに固定して配置され、前方の平面領域を含む相互に重複する領域の画像を撮像する一対の車載カメラと、
前記移動ロボットに固定して配置され、レーザ光を前方左右に走査しその反射光から障害物の位置を検出するレーザセンサと、
前記車載カメラとレーザセンサの出力から、単一の座標系に定義された平面領域及び障害物を含む前記環境地図データを生成するコンピュータと、を備えたことを特徴とする遠方環境認識装置。
【請求項2】
前記移動ロボットは、自律的に走行経路の生成を行って走行する自律移動ロボット、半自律移動ロボット、又は遠隔で操縦する操縦支援装置である、ことを特徴とする請求項1に記載の遠方環境認識装置。
【請求項3】
前記レーザセンサは、複数のスキャンラインを持つレーザセンサである、ことを特徴とする請求項1に記載の遠方環境認識装置。
【請求項4】
移動ロボットに、走行経路の生成に必要な環境地図データを出力する遠方環境認識方法であって、
前記移動ロボットに固定して配置された一対の車載カメラにより、前方の平面領域を含む相互に重複する領域の画像を撮像し、
前記移動ロボットに固定して配置されたレーザセンサにより、レーザ光を前方左右に走査しその反射光から障害物の位置を検出し、
前記画像から前記平面領域と該平面領域のカメラ座標系における法線ベクトルとを検出し、
前記平面領域、平面領域の法線ベクトル、障害物の位置から単一の座標系に定義された平面領域及び障害物を含む前記環境地図データを生成する、ことを特徴とする遠方環境認識方法。
【請求項5】
路面と正対物の再帰反射率の違いに着眼し、前記レーザセンサの反射光の受光強度により障害物の有無を検出する、ことを特徴とする請求項4に記載の遠方環境認識方法。
【請求項6】
障害物位置に対応する地図セルに投票して、地図上を探索窓によって探索し、探索窓内の投票値が閾値を超える場合に、その窓内のセルを障害物として、前記レーザセンサから算出される障害物位置の計測誤差を補正する、ことを特徴とする請求項4に記載の遠方環境認識方法。
【請求項7】
新たに検出された前方の平面領域のカメラ座標系における法線ベクトルが、カメラ座標系において所定の範囲を超える場合に、新たに検出された前方の平面領域を除外して前記環境地図データを生成する、ことを特徴とする請求項4に記載の遠方環境認識方法。
【請求項8】
新たに検出された前方の平面領域のカメラ座標系における法線ベクトルから、走行領域に対する車両の角度を算出し、この角度から、レーザ光が地面上の障害物を検出しうる範囲にある領域を算出し、この領域と重複する平面検出領域を選択して、前記環境地図データに反映する、ことを特徴とする請求項4に記載の遠方環境認識方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−134226(P2011−134226A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294815(P2009−294815)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】