説明

移動体用測位装置

【課題】高度が変化する環境下においても精度良く2次元測位を行うことができる移動体用測位装置の提供。
【解決手段】衛星からの衛星電波を移動体で受信して、該移動体の位置を測位する移動体用測位装置において、移動体の姿勢に応じて変化する座標系であって、該移動体を基準とした直交座標系を定義する座標系定義手段と、前記座標系定義手段により定義された直交座標系を用いて、3個の衛星を用いた2次元測位により前記直交座標系における移動体の位置を演算する2次元測位手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星からの衛星電波を移動体で受信して、該移動体の位置を測位する移動体用測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、GPS測位においては、ビル等の建造物等により捕捉できる衛星数が不足することにより3次元測位から2次元測位へ移行する場合に、高度データを補償するために、前回の3次元測位時の高度データを保持し、その前回の高度データを使用して近似的に3次元測位のデータを得るようにすることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−26678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の特許文献1に記載されるような高度を固定するタイプの2次元測位では、高度を固定したまま測位を継続するので、高度が変化する環境下で長時間二次元測位を継続すると誤差が増大して、測位精度が悪化するという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、高度が変化する環境下においても精度良く2次元測位を行うことができる移動体用測位装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の一局面によれば、衛星からの衛星電波を移動体で受信して、該移動体の位置を測位する移動体用測位装置において、
移動体の姿勢に応じて変化する座標系であって、該移動体を基準とした直交座標系を定義する座標系定義手段と、
前記座標系定義手段により定義された直交座標系を用いて、3個の衛星を用いた2次元測位により前記直交座標系における移動体の位置を演算する2次元測位手段とを備えることを特徴とする、移動体用測位装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高度が変化する環境下においても精度良く2次元測位を行うことができる移動体用測位装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0008】
図1は、本発明に係る移動体用測位装置が適用されるGPS(Global Positioning System)の全体的な構成を示すシステム構成図である。図1に示すように、GPSは、地球周りを周回するGPS衛星10と、地球上に位置し地球上を移動しうる車両90とから構成される。尚、車両90は、あくまで移動体の一例であり、その他の移動体としては、自動二輪車、鉄道、船舶、航空機、ホークリフト、ロボットや、人の移動に伴い移動する携帯電話等の情報端末等がありうる。
【0009】
GPS衛星10は、航法メッセージ(衛星信号)を地球に向けて常時放送する。航法メッセージには、対応するGPS衛星10に関する衛星軌道情報(エフェメリスやアルマナク)、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれている。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散されL1波(周波数:1575.42MHz)に乗せられて、地球に向けて常時放送されている。尚、L1波は、C/Aコードで変調されたSin波とPコード(Precision Code)で変調されたCos波の合成波であり、直交変調されている。C/Aコード及びPコードは、擬似雑音(Pseudo Noise)符号であり、−1と1が不規則に周期的に並ぶ符号列である。
【0010】
尚、現在、約30個のGPS衛星10が高度約20,000kmの上空で地球を一周しており、各4個以上のGPS衛星10が55度ずつ傾いた6つの地球周回軌道面に均等に配置されている。従って、天空が開けている場所であれば、地球上のどの場所にいても、常時、少なくとも5個以上のGPS衛星10が観測可能である。
【0011】
車両90には、移動体用測位装置としてのGPS受信機20が搭載される。
【0012】
図2は、GPS受信機20の主要機能の一例を示すブロック図である。
【0013】
GPS衛星10からの電波は、図2に示すように、アンテナ21を介して受信され、測位信号受信部22にて処理される。測位信号受信部22では、衛星軌道情報から衛星座標が算出されると共に、擬似距離及び車両90の速度ベクトルVが算出される。擬似距離は、C/Aコードを追尾して計測されるが、例えばPコードのような他のコードに基づいて計測されてもよい。尚、Pコードの場合、Wコードで暗号化されているので、Pコード同期を行う際に、クロス相関方式を利用したDLLにより、Pコードを取り出すこととしてよい。速度ベクトルVの算出(計測)方法は、ドップラレンジ(ドップラ周波数)を用いた方法であってもよいし、測位結果の前回値と今回値の差分に基づく方法であってもよい。速度ベクトルVの算出方法の一例は後述する。衛星座標は、地球を基準とした地球固定座標系(本例では、典型的な例として、GPS標準のWGS84)で導出される。
【0014】
座標系変換部24では、測位信号受信部22で受信されたGPS衛星10のうち、測位に利用できるGPS衛星10の数が3個以下である場合に、WGS84座標系の衛星座標が、車両90を基準とした直交座標系(以下、ローカル座標系という)に変換される。この変換方法については後に詳説する。他方、座標系変換部24は、測位に利用可能なGPS衛星10の数が4個以上の場合は、非動作となり、この場合、通常通りWGS84座標系の衛星座標が後続の処理で利用される。尚、測位に利用可能なGPS衛星10であるか否かは、信号強度やマルチパスの影響の有無等を考慮して判断されてもよい。
【0015】
姿勢算出部26では、座標系変換部24及び後述の座標系逆変換部30における座標変換時に用いられる車両90の姿勢に関する情報が導出される。この方法についても後に詳説する。
【0016】
測位演算部28では、測位に利用可能なGPS衛星10の数が3個以下である場合には、ローカル座標系の衛星座標と、擬似距離の算出結果に基づいて、車両90の位置(X,Y,Z)が2次元測位により測位演算される。具体的には、2次元測位による測位演算では、以下の関係式が用いられてよい。
ρ=√{(X−X+(Y−Y+(Z−Z}+Δτ・c 式1
ここで、Δτ・cは、主に受信部20の時計誤差を表し、(X,Y,Z)は、GPS衛星10に関するローカル座標系の衛星座標を表す。尚、この式は、GPS衛星10に関するものであるが、他の測位に利用可能なGPS衛星10に対しても同様の関係式が利用される。車両90の位置は、3つのGPS衛星10に対して上述の如く得られるそれぞれの擬似距離ρ及び衛星位置を用いて、三角測量の原理で導出される。2次元測位の場合、車両90の位置のZ成分Zを固定することで未知数を減らし、擬似距離ρに含まれる時計誤差成分が除去される。
【0017】
他方、測位演算部28では、測位に利用可能なGPS衛星10の数が4個以上の場合には、WGS84座標系の衛星座標と、擬似距離の算出結果に基づいて、車両90の位置(x,y,z)が3次元測位により測位演算される。なお、測位結果は、例えば車載ナビゲーションシステムに出力されてもよい。この場合、通常通り、4個以上のGPS衛星10に関する上記式(1)に示した関係式(但し、衛星座標及び車両位置はWGS84座標系で表現)が利用され、最小二乗法等を用いて、時計誤差成分を除去しつつ、WGS84座標系の車両90の位置(x,y,z)が算出されることになる。
【0018】
座標系逆変換部30では、測位に利用可能なGPS衛星10の数が3個以下である場合には、測位演算部28からローカル座標系で出力される測位結果を、逆変換してWGS84座標系に戻す。即ち、座標系逆変換部30では、座標系変換部24で用いられた変換式の逆変換式を用いて、WGS84座標系の測位結果が導出される。この測位結果は、例えば車載ナビゲーションシステムに出力されてもよい。他方、座標系逆変換部30は、測位に利用可能なGPS衛星10の数が4個以上の場合は、非動作となり、この場合、通常通り、測位演算部28からWGS84座標系で出力される測位結果がそのまま出力される。同様に、この測位結果は、例えば車載ナビゲーションシステムに出力されてもよい。
【0019】
図3は、本実施例の基本概念を模式的に示す図である。図3では、測位信号受信部22で利用可能と判断されたGPS衛星10の数、即ち捕捉衛星数が4個以上の状態(a)と、捕捉衛星数が3個になった状態(b)とが時系列的に図示されている。図3に示す例では、車両90は、高度が変化する地形(即ち勾配のある地形)を走行している。
【0020】
本実施例では、上述の如く状態(a)のように4個以上のGPS衛星101,2,3,4が利用できるときは、3次元測位が行われ、自車位置が算出される。GPS衛星10が捕捉されなくなることで状態(a)から状態(b)に移行すると、ローカル座標系を用いて車両90の位置のZ成分Zを固定する2次元測位が実行される。ここで、ローカル座標系は、一例として、図3に示すように、車両90の前後軸方向をX軸とし、車両90の左右の車軸方向をY軸とし、X軸とY軸に直角な方向をZ軸とした直交座標系である。X軸の方向は、車両90の速度ベクトルVの方向に定義される。
【0021】
尚、ローカル座標系の定義に用いられる車両90の速度ベクトルVは、上述の如く測位信号受信部22にて導出されたものであってよい。ここで、速度ベクトルVの算出方法の一例について概説する。
【0022】
車両90の速度の測位は、例えば以下のような関係式に基づいて、最小二乗法等を用いて実行されてよい。尚、文字の上についた記号黒丸は、ドット(時間微分)を表し、例えばドップラレンジdρは、ρドット(擬似距離ρの時間微分)であり、下付き文字kは、GPS衛星10に係るものであることを示す。
【0023】
【数1】

尚、Iドット及びTドットは、電離層誤差の変動量及び対流圏誤差の変動量を表すが、非常に小さいので、ここでは、白色ノイズεとして扱う。また、bドットは、時計誤差の微分値である。また、(V−V)・lのV・lの部分は、単位ベクトルlと衛星移動速度ベクトルVとの内積であり、衛星移動速度ベクトルVは、航法メッセージの衛星軌道情報に基づいて算出され、単位ベクトルlは、測位された車両90の位置(x,y,z)、及び、衛星座標(x,y,z)を用いて、以下のように、算出されてよい。
【0024】
【数2】

また、ドップラレンジdρは、搬送波の波長λ(既知)と、GPS衛星10に関するドップラ周波数Δfを用いて、例えばdρ=λ・Δfにより、算出される。
【0025】
図3に示すように、本実施例によれば、捕捉衛星数が3個になり、2次元測位を行う場合でも、ローカル座標系を用いて車両90の位置のZ成分Zを固定する2次元測位が実行される。尚、2次元測位にて固定されるZ成分Zは、直前の3次元測位で求まった車両90の位置をローカル座標系に変換したときのZ成分である。従って、図3に示すような高度が変化する状況下で2次元測位を継続しても、当該高度変化に起因した誤差を低減することができる。即ち、従来の2次元測位法ではWGS84座標系の高さ方向を固定するため、車両90の移動によって高さが変化する勾配のある地形上では、長時間精度を保つのが困難であったが、本実施例では、斜面に対して鉛直方向の位置変化が固定されるので、車両90が斜面上を長時間移動する状況下でも長時間高い精度で2次元測位を行うことができる。
【0026】
図4は、姿勢算出部26での姿勢算出方法及び座標系変換部24で用いられる座標変換方法の一例を説明する図である。図4では、WGS84座標系の座標系がx−y−z軸で示され、車両90の速度ベクトルV=(v,v,v)と、それに対応したローカル座標系がX−Y−Z軸で示されている。尚、速度ベクトルV=(v,v,v)は、WGS84座標系で表現されている。
【0027】
速度ベクトルVのxy平面上への写像をベクトルNとすると、速度ベクトルVと写像ベクトルNのなす角γは、以下の式で求まる。
【0028】
【数3】

また、ベクトルNとx軸とのなす角αは、以下の式で求まる。
【0029】
【数4】

図4中のβは、車両90のロール角であり、ジャイロや重力加速度を利用した方位角センサ等により検出される。このようにして、姿勢算出部26では、車両90の姿勢角(ヨー角α、ピッチ角γ、ロール角β)に関する情報が算出・検出される。
【0030】
そして、座標系変換部24において、WGS84座標系からローカル座標系の変換は、このようにして得られた車両90の姿勢に関するパラメータα、β、γを用いて、以下の式によって実現される。
【0031】
【数5】

尚、上述の例では、車両90の姿勢角(ヨー角α、ピッチ角γ、ロール角β)のうちロール角βのみを方位角センサにより検出し、ヨー角α及びピッチ角γは車両90の速度ベクトルVから算出しているが、3軸ジャイロセンサ等を用いて車両90の姿勢角(ヨー角α、ピッチ角γ、ロール角β)を直接検出してもよい。
【0032】
図5は、上述の2次元測位を継続している間に本実施例のGPS受信機20により実行される主要処理の一例を示すフローチャートである。図5に示す処理は、特に斜度が変化するような複雑な地形上を車両90が走行している場合に好適である。従って、図5に示す処理は、例えば地図データベース等により斜度が変化するような複雑な地形上を車両90が走行していることが検出された場合であって、且つ、捕捉衛星数が3個である場合に、所定周期毎に繰り返し実行されてもよいし、或いは、地形の如何に関らず、捕捉衛星数が3個である場合に、所定周期毎に繰り返し実行されてもよい。
【0033】
ステップ500が、車両90のピッチ角が変化したか否かが判定される。例えば、車両90のピッチ角の今回値が、前回値に対して所定角度以上変化した場合に、車両90のピッチ角が変化したと判定してもよい。ピッチ角は、方位角センサにより検出されてもよい。尚、この判定には、ノイズ等に影響を無くすためにピッチ角の検出値がフィルタ処理されてもよいし、連続した所定数以上の周期の判定結果が考慮されてもよい。
【0034】
本ステップ500において、車両90のピッチ角が変化したと判定された場合には、ステップ502に進み、車両90のピッチ角が変化していないと判定された場合には、ステップ504に進む。
【0035】
ステップ502では、座標系変換部24において、変化した斜度に対応するために、姿勢算出部26にて新たに算出された姿勢情報に基づいて、現時点の速度ベクトルVの方向を新たなX軸とした新たなローカル座標系が定義される。新たなローカル座標系は、現時点の車両90の姿勢に基づいて定義され、定義方法自体は上述した方法と実質的に同様である。具体的には、前回定義したときから現時点までの姿勢変化量をΔα、Δβ、Δγとすると、新たなローカル座標系(X’、Y’、Z’)への座標変換は、以下の式によって実現される。
【0036】
【数6】

ステップ504では、座標系変換部24において、上記ステップ502で新たに定義されたローカル座標系を用いて、衛星座標がWGS84座標系から新たなローカル座標系に変換される。
【0037】
ステップ506では、測位演算部28において、上記ステップ504で変換された3個のGPS衛星10の衛星座標と、同3個のGPS衛星10に係る擬似距離の測定結果とを用いて、新たなローカル座標系のZ方向を固定した2次元測位により、新たなローカル座標系での車両90の位置が測位される。尚、このとき、2次元測位にて固定されるZ成分Zは、直前の2次元測位で求まった車両90の位置を新たなローカル座標系に変換したときのZ成分である。
【0038】
ステップ508では、座標系逆変換部30において、上記ステップ506で得られた新たなローカル座標系での車両90の位置が、WGS84座標系での車両90の位置へと逆変換される。尚、この逆変換で用いる変換式は、上記ステップ502の変換式に基づく。
【0039】
このように図5に示す処理によれば、図6に概略的に示すように、斜度が変化するような複雑な地形上を車両90が走行している状況でも、斜度が変化するのに対応して、随時ローカル座標系が定義され直されるので、長時間高い精度で2次元測位を行うことができる。
【0040】
図7は、GPS受信機20の主要機能のその他の一例を示すブロック図である。図7に示す構成は、図2に示した構成に対して、姿勢算出部26が、地図データベース34の高度情報を利用して、車両90の姿勢角(地形の勾配)を算出する点が主に異なる。以下では、異なる部分を重点的に説明するが、他の構成は図2に示した構成と同様であってよい。地図データベース34には、各地点の高度情報が記憶される。
【0041】
図8は、地図データベース34の高度情報を利用した姿勢算出方法の説明図である。ヨー角α、ピッチ角γについては、上述と同様の方法で算出されてもよい(数3,4参照)。従って、以下では、地図データベース34の高度情報を利用したロール角βの算出方法について説明する。ここでは、ある時刻における車両90の位置をWGS84座標系で(x,y,z)とし、その時刻の速度ベクトルVをWGS84座標系で(v,v,v)とする。先ず、速度ベクトルVとWGS84座標系のxy平面上で直交するベクトル(x,y,0)を算出する。即ち、速度ベクトルVのxy面上への写像ベクトルN(図4参照)を90度回転させたベクトル(x,y,0)を算出する。次いで、この平面位置(x,y)に対応する地点の高度情報zを、地図データベース34から求める。そして、(x,y,z)と(x,y,z)の差分ベクトルを導出することで、速度ベクトルVに直交するベクトルSが求まる。ここで、ベクトルV,Sで構成される平面が車両90を基準とした水平面となる。従って、ベクトルV,Sに直交するベクトルT(車両90を基準とした鉛直方向)を求め、このベクトルTとWGS84座標系のz軸とのなす角度をロール角βとして求める。このようにして算出される車両90の姿勢角(ヨー角α、ピッチ角γ、ロール角β)は、座標系変換部24における上記の数5の式に従った座標変換に利用される。
【0042】
方位角センサの検出値の変位量を積分して姿勢角を算出する姿勢算出方法では、2次元測位を行う区間が長いときに累積誤差の影響が無視できなくなるが、図7に示す高度情報を利用した姿勢算出方法によれば、方位角センサを用いないことにより累積誤差の影響が無くなり、2次元測位を行う区間が長いときでも高い精度で2次元測位を行うことができる。
【0043】
尚、図7に示す構成において、図5に示した態様でピッチ角の変化に応じてローカル座標系が再定義されるようにしてもよい。
【0044】
図9は、GPS受信機20の主要機能のその他の一例を示すブロック図である。図9に示す構成は、図2に示した構成に対して、補足衛星数が2個まで減少した場合でも2次元測位を継続できるように構成されている点が主に異なる。以下では、異なる部分を重点的に説明するが、他の構成は図2に示した構成と同様であってよい。
【0045】
図9に示す構成は、図2に示した構成に比べて、座標オフセット部36及びメモリ38が追加される。
【0046】
座標オフセット部36では、3個の衛星のうちの1個の衛星が測位に利用不能となった場合に、該測位に利用不能となった衛星に関して、前回の測位演算で用いた衛星位置をローカル座標系で平行移動させて仮想の衛星位置が算出される。平行移動は、速度ベクトルVに沿った平行移動であってよい。例えば、平行移動は、図10に示すように、車両90の変位ベクトルV’を用いて、変位ベクトルV’分だけ実行されてもよい。
【0047】
メモリ38には、座標オフセット部36で仮想の衛星位置を算出するために必要な情報が記憶される。この情報は、前回観測周期の衛星座標及びそれに対応した前回周期の車両90の変位ベクトルV’を含む。
【0048】
図10は、座標オフセット部36で用いられる仮想の衛星位置の算出方法の説明図である。
【0049】
図10に示す例では、時刻t1での車両位置Aでは、3個のGPS衛星101,2,3が測位に利用可能であるが、時刻t2での車両位置Bでは、車両位置Aで測位に利用可能であった3個のGPS衛星101,2,3のうちの、1個のGPS衛星10が測位に利用不能となっている。このとき、座標オフセット部36では、時刻t2でのGPS衛星10の衛星座標(仮想の衛星位置)について、図10に模式的に示すように、時刻t1でのGPS衛星10の衛星座標を、時刻t1での変位ベクトルV’分だけ平行移動して求める。この場合、測位演算部28では、平行移動して求められたGPS衛星10の衛星座標と、通常通り求められた他の2個のGPS衛星102,3の衛星座標とを用いて、2次元測位が継続される。尚、車両90の変位ベクトルV’は、ドップラ周波数から上述の如く求められる時刻t1での速度ベクトルVと時刻t1から時刻t2までの時間Δt(=t2−t1)とに基づいて算出されてもよいし、ジャイロセンサや加速度センサを用いて検出(推定)されてもよい。また、図10に示す例では、時刻t3での車両位置Cでは、再び3個のGPS衛星101,2,3が測位に利用可能となるので、時刻t3から再び、座標オフセット部36でGPS衛星10の衛星座標の平行移動がなされることなく、通常通り求められた各衛星座標を用いた2次元測位が実行される。
【0050】
このように図9に示す構成によれば、同時に測位に利用可能なGPS衛星10が2個に減少した場合でも、2次元測位を継続して行うことができる。また、同時に測位に利用可能なGPS衛星10が2個に減少した場合に例えばジャイロセンサや加速度センサを用いて車両90の移動量を算出して当該移動量を前回の測位結果に積算する慣性測位方法では、これらのセンサの誤差(例えばドリフト等の誤差)が累積し、車両位置Cに至るまで測位精度が悪化するという問題が生じるが、図9に示す構成によれば、かかるセンサの誤差の累積が無く、高精度の測位を継続することができる。
【0051】
尚、図9に示す構成において、姿勢算出部26による姿勢算出方法は、図2に示した構成に関連して説明した方位角センサ等を用いる方法であってもよいし、或いは、図8に示した地図データベース34の高度情報を利用した姿勢算出方法が利用されてもよい。また、図9に示す構成において、図5に示した態様でピッチ角の変化に応じてローカル座標系が再定義されるようにしてもよい。また、図9に示す構成では、2次元測位を用いたが、同様に平行移動により4個以上のGPS衛星10を用いて3次元測位を行うことも可能である。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0053】
例えば、上述の実施例では、測位演算部28において、ローカル座標系で高さ方向を固定した2次元測位により車両90の位置が測位されているが、それに加えて、ローカル座標系で高さ方向を固定した2次元測位により車両90の速度ベクトルが測位されてもよい。この場合、上記の数1及び数2で示した式において、ローカル座標系に変換された各値(例えば衛星座標、車両位置、衛星移動速度ベクトルV)が用いられ、車両90のZ方向の速度成分をゼロに固定した2次元測位が実現されてもよい。
【0054】
また、上述の実施例では、GPSに本発明が適用された例を示したが、本発明は、GPS以外の衛星システム、例えばガリレオ等の他のGNSS (Global Navigation Satellite System)にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る移動体用測位装置が適用されるGPSの全体的な構成を示すシステム構成図である。
【図2】GPS受信機20の主要機能の一例を示すブロック図である。
【図3】本実施例の基本概念を模式的に示す図である。
【図4】姿勢算出部26での姿勢算出方法及び座標系変換部24で用いられる座標変換方法の一例を説明するための説明図である。
【図5】本実施例のGPS受信機20により実行される主要処理の一例を示すフローチャートである。
【図6】斜度が変化するような複雑な地形上を車両90が走行している状況を模式的に示す図である。
【図7】GPS受信機20の主要機能のその他の一例を示すブロック図である。
【図8】地図データベース34の高度情報を利用した姿勢算出方法の説明図である。
【図9】GPS受信機20の主要機能のその他の一例を示すブロック図である。
【図10】座標オフセット部36で用いられる仮想の衛星位置の算出方法の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
10 GPS衛星
20 GPS受信機
21 アンテナ
22 測位信号受信部
24 座標系変換部
26 姿勢算出部
28 測位演算部
30 座標系逆変換部
34 地図データベース
36 座標オフセット部
38 メモリ
90 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星からの衛星電波を移動体で受信して、該移動体の位置を測位する移動体用測位装置において、
移動体の姿勢に応じて変化する座標系であって、該移動体を基準とした直交座標系を定義する座標系定義手段と、
前記座標系定義手段により定義された直交座標系を用いて、3個の衛星を用いた2次元測位により前記直交座標系における移動体の位置を演算する2次元測位手段とを備えることを特徴とする、移動体用測位装置。
【請求項2】
前記座標系定義手段は、前記直交座標系を定義した後に前記移動体のピッチ角度が所定角度以上変化した場合に、前記直交座標系を定義し直す、請求項1に記載の移動体用測位装置。
【請求項3】
前記2次元測位手段は、前記3個の衛星のうちの1個の衛星が測位に利用不能となった場合に、該測位に利用不能となった衛星に関する衛星位置が、前回の測位演算で用いた衛星位置から前記移動体の移動方向に沿って平行移動させた衛星位置にあると仮定して、前記3個の衛星を用いた2次元測位を継続する、請求項1又は2に記載の移動体用測位装置。
【請求項4】
前記座標系定義手段は、前記移動体の速度ベクトルを用いて、前記直交座標系を定義する、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の移動体用測位装置。
【請求項5】
前記座標系定義手段は、前記移動体のピッチ方向の姿勢に関する情報に基づいて、前記直交座標系を定義する、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の移動体用測位装置。
【請求項6】
前記座標系定義手段は、前記移動体のヨー、ピッチ及びロール方向の姿勢に関する情報に基づいて、前記直交座標系を定義する、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の移動体用測位装置。
【請求項7】
前記座標系定義手段は、前記移動体の姿勢に関する情報を、前記移動体に搭載された方位角センサから取得する、請求項5又は6に記載の移動体用測位装置。
【請求項8】
前記座標系定義手段は、前記移動体のロール方向の姿勢に関する情報を、地図データの高度情報に基づいて算出して取得する、請求項1,2、3、4又は6に記載の移動体用測位装置。
【請求項9】
前記座標系定義手段は、前記移動体の前後軸方向をX軸とし、前記移動体の左右の車軸方向をY軸とし、前記X軸とY軸に直角な方向をZ軸とした前記直交座標系を定義し、
前記2次元測位手段は、前記座標系定義手段により定義された直交座標系における前記Z軸方向の成分を固定することで、前記3個の衛星を用いた2次元測位を実現する、請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の移動体用測位装置。
【請求項10】
前記2次元測位手段により演算された前記直交座標系における移動体の位置を、地球を基準とした直交座標系に変換する座標系変換手段を更に備える、請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載の移動体用測位装置。
【請求項11】
前記2次元測位手段は、更に、前記座標系定義手段により定義された直交座標系を用いて、3個の衛星を用いた2次元測位により前記直交座標系における移動体の速度ベクトルをドップラ周波数の観測値に基づき演算する、請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載の移動体用測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−107276(P2010−107276A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277776(P2008−277776)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】