説明

移動体端末用アンテナ追尾装置および移動体端末用アンテナ追尾方法

【課題】指向性可変アンテナを容易に通信衛星へ指向させることが出来る移動体端末用アンテナ追尾装置および移動体端末用アンテナ追尾方法を提供する。
【解決手段】準天頂衛星が配信する端末制御情報は、地球上の各地点から見た準天頂衛星の方角情報を含んでいる。GPS受信部22は、移動体端末10の現在位置を検出し、指向性制御部28はまず、フェーズドアレイアンテナ11の指向性を比較的広く制御する。端末制御情報受信部23は、フェーズドアレイアンテナ11を介して端末制御情報を受信し、姿勢角センサ25および方位センサ26は、移動体端末10の3次元の姿勢角を検出し、アレイファクタ計算部27は、端末制御情報に姿勢角分の補正を施して、アレイファクタ情報をアレイファクタ記憶部21から検索する。指向性制御部28は、補正された指向性制御情報を基にフェーズドアレイアンテナ11の指向性をより狭く制御し準天頂衛星へ指向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体端末に備えたアンテナを目的の通信衛星へ指向させるための移動体端末用アンテナ追尾装置および移動体端末用アンテナ追尾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば日本近辺は、赤道から離れた中緯度に位置しているため、静止衛星を見る仰角がおおよそ45°前後となる。このため、都市部や山間部では、ビルや山岳が遮蔽物となって、静止衛星と移動体との間で行う衛星通信に支障を来すことが問題となっていた。そこで、静止軌道から約45°傾斜し日本上空を通過する軌道上に、3機以上の衛星(以下、準天頂衛星という。)を120°間隔で周回させ、これらの準天頂衛星をハンドオーバ(通信の相手方となる衛星の切り替え)しながら利用することにより、約70°以上の高仰角で移動体衛星通信を行うことが考えられてきた。
【0003】
一般に、低ビットレートのデータ通信または音声通話にかかる通信では、それほど高い回線品質や広帯域性は要求されない。このため、このような準天頂衛星システムでは、準天頂衛星側に大型アンテナを備えて比較的大電力で送信し、移動体端末側に広指向性または無指向性で低利得の小型アンテナを備えれば、移動体衛星通信を行うことができる。
【0004】
一方、例えば静止画像データや動画像データなど、データ量が大きく低誤り率が求められるデータを迅速に伝送するには、格段に広帯域で高品質の衛星通信回線が必要となる。しかし、従来、移動体端末で用いられてきた無指向性または広指向性のアンテナは、利得が低いため伝送帯域が充分にとれず、また、自動車や高周波加工機など地上の雑音源から電波障害を受け易いため、高速で信頼性の高い衛星通信回線を構築するのが困難であるという問題点があった。
【0005】
そこで、測位用アンテナにより受信された軌道情報およびGPS測位情報を用いてアンテナ指向方向を算出し、算出したアンテナ指向方向に放送コンテンツ受信アンテナを駆動して準天頂衛星の追尾を行わせるアンテナ追尾装置が提案されている(特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−80501号公報(段落0021、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記アンテナ追尾装置では、軌道情報とGPS測位情報を用いて、アンテナを追尾させる方向を移動体側で精密に計算しなければならず、移動体側の演算負荷が増大するという問題点があった。
【0008】
本発明は、前記のような問題点に鑑みてなされたものであり、移動体端末に備えた指向性可変アンテナを容易に通信衛星へ指向させることができる移動体端末用アンテナ追尾装置および移動体端末用アンテナ追尾方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の問題点を解決するために、本発明のアンテナ追尾装置は、通信衛星が配信する端末制御情報と測位衛星が配信する測位情報とを受信して移動体端末に備えた指向性可変アンテナを前記通信衛星へ指向させるための移動体端末用アンテナ追尾装置であって、前記端末制御情報は、地球上の各地点から見た前記通信衛星を表す第1の位置を示す位置情報を含み、位置検出手段は、前記測位情報を基に前記移動体端末を表す第2の位置を検出し、第1の指向性制御手段は、前記指向性可変アンテナの指向性を制御し、端末制御情報受信手段は、第1の指向性制御手段により制御された前記指向性可変アンテナを介して前記端末制御情報を受信し、指向性制御情報記憶手段は、前記指向性可変アンテナの指向方向を制御するための指向性制御情報を記憶していて、姿勢角補正手段は、第2の位置に対応する前記端末制御情報に前記移動体端末の3次元の姿勢角分の補正を施し、指向性情報検索手段は、前記姿勢角分の補正を施された前記端末制御情報に対応する前記指向性制御情報を前記指向性制御情報記憶手段から検索し、第2の指向性制御手段は、検索された前記指向性制御情報を基に前記指向性可変アンテナの指向性を第1の指向性制御手段によるときより狭く制御し前記通信衛星へ指向させる構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通信衛星が配信する地球上の各地点から見た通信衛星の方角情報を受信して利用するので、移動体端末に備えた指向性可変アンテナを容易に通信衛星へ指向させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態による準天頂衛星システム1の運用例を示す説明図である。準天頂衛星システム1は、サービスエリア上空を通る真円軌道または長楕円軌道上を120°間隔で周回する3機の準天頂衛星2(1機のみ図示する)と、自身の測位情報および時刻情報をあわせて配信する複数のGPS衛星3と、フェーズドアレイアンテナ11を備えた移動体端末10とを含む。準天頂衛星2の代わりに、同様の通信機能を有し異なる軌道を周回する通信衛星または放送衛星を用いてもよい。また、GPS衛星3の代わりに、他の測位衛星を用いることもできる。
【0012】
図2は、準天頂衛星2が配信する端末制御情報のテーブルを示す図である。
端末制御情報の1レコードには、レコードを一意に示すIDと、経度および緯度で示したサービスエリア内の地区情報と、その地点から準天頂衛星2を見たときの見かけ上の方角、すなわち仰角および方位角とが含まれている。
【0013】
図1に戻り、準天頂衛星2の見かけ上の位置は移動し、かつ、移動体端末10は回転したり傾いたりしうるから、図1(a)のように、フェーズドアレイアンテナ11が準天頂衛星2に正対するときもあり、図1(b)に示すように、フェーズドアレイアンテナ11が準天頂衛星2に正対しないときもある。いずれの場合でも、移動体端末10は、GPS衛星3から取得した測位情報に基づいて現在位置を測位し、準天頂衛星2から端末制御情報を受信してその見かけ上の仰角および方位角を取得し、移動体端末10自身の傾き(ロール角、ピッチ角、ヨー角)分を補正して、フェーズドアレイアンテナ11のメインローブを準天頂衛星2へ指向する機能を有する。
【0014】
図3は、移動体端末10の外観を示す斜視図である。
移動体端末10は、携帯可能な通信機器であるが、車両、船舶、航空機などの移動体に搭載するか、地上に設置するものでもよい。移動体端末10が、準天頂衛星2と相互に通信可能である場合について説明するが、移動体端末10は、準天頂衛星2から放送等の受信を行うが送信は行わないものでもよい。
【0015】
移動体端末10は、筐体15と、フェーズドアレイアンテナ11と、GPS用アンテナ16と、液晶表示装置などからなり移動体端末10の状態や準天頂衛星2と送受する情報などを表示する表示部37と、キーやポインティングデバイスなどからなり送信する情報や移動体端末10への指示を入力するための入力部38とを具備している。移動体端末10が様々な傾斜状態にあっても準天頂衛星2と通信を行えるように、上面のフェーズドアレイアンテナ11のほか、正面のフェーズドアレイアンテナ11bや、側面のフェーズドアレイアンテナ11cを備えることが好ましい。移動体端末10はさらに、音声通話を行うためのスピーカおよびマイクロフォン(いずれも図示せず)を備えてもよい。
【0016】
図4は、移動体端末10の構成を示すブロック図である。
移動体端末10は、ビーム幅の広狭やメインローブの指向方向などの指向特性が可変であるフェーズドアレイアンテナ11と、GPS衛星3からの測位情報を表わす測位信号を受波するGPS用アンテナ16と、フェーズドアレイアンテナ11の指向特性を制御しメインローブを目的の準天頂衛星2へ指向させるためのアンテナ追尾装置12と、フェーズドアレイアンテナ11が目的の準天頂衛星2へ指向したと準天頂衛星2と情報通信を行う情報通信装置13と、内蔵する電池(図示せず)または外部から電力を取り込み移動体端末10内の各部へ電力を供給する電源部14と、前記各要素を格納する筐体15とを具備している。
【0017】
アンテナ追尾装置12は、準天頂衛星2のサービスエリア全体を分割した地区を示す地区情報と各地区ごとのアレイファクタ情報とを関連付けて記憶したアレイファクタ記憶部21と、複数のGPS衛星3から測位情報を表わす測位信号を受波するGPS用アンテナ16と、GPS用アンテナ16で受波した測位信号を基に移動体端末10の現在位置を測位するGPS受信部22と、準天頂衛星2からフェーズドアレイアンテナ11を介して端末制御情報を受信する端末制御情報受信部23と、アレイファクタ記憶部21を参照し、受信した複数の端末制御情報から、GPS衛星3を用いて測位した現在位置が属する地区に対応する端末制御情報を抽出する情報選択部24と、移動体端末10の姿勢角を検出する姿勢角センサ25と、移動体端末10の方位角を検出する方位センサ26と、アレイファクタ記憶部21を参照して現在位置が属する地区のアレイファクタ情報を検索し、検索したアレイファクタ情報を、検出された姿勢角分および方位角分だけ補正するアレイファクタ計算部27と、補正済みのアレイファクタ情報を基にフェーズドアレイアンテナ11のメインローブを準天頂衛星2へ指向させる指向性制御部28(特許請求の範囲の「第1の指向性制御手段」および「第2の指向性制御手段」に相当)とを具備している。
【0018】
アレイファクタ記憶部21は、アレイファクタ情報を恒久的に記憶したROM(Read Only Memory)からなるが、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)からなり、必要に応じて記憶されたアレイファクタ情報の更新を行えるようにしてもよい。
【0019】
姿勢角センサ25は、例えば、振動ジャイロおよび加速度センサ(いずれも図示せず)からなる組を3組含み、ロール角(回転角)、ピッチ角(仰角)、およびヨー角(方位角)を同時的に検出可能な3軸角度センサである。方位センサは、地磁気センサ(図示せず)を含み、方位を検出する機能を有する。また、姿勢角センサ25は、重力センサを含み、回転角および仰角を測定する2軸センサであり、方位センサ26で検出された方位とあわせて3次元の角度を検出するようにしてもよい。
【0020】
情報選択部24は、移動体端末10の現在位置に対応する端末制御情報が得られていないときは、アレイファクタ計算部27へ端末制御情報を送出せず、アレイファクタ計算部27は、補正済みのアレイファクタ情報を出力しない。この場合、指向性制御部28は、予め記憶された制御値で制御を行い、フェーズドアレイアンテナ11を無指向性または広指向性に制御する。なお、フェーズドアレイアンテナ11を無指向性または広指向性に制御する代わりに、端末制御情報を受信するための無指向性または広指向性のアンテナを別に備えてもよい。
【0021】
端末制御情報は、例えばBPSK(Bi-Phase Shift Keying)のような、伝送速度や周波数利用効率に劣るが冗長度が大きく信頼性の高い方式で変調されて配信されているため、フェーズドアレイアンテナ11の利得が低い、すなわち無指向性または広指向性の状態でも、受信して復調することができる。
【0022】
消費電力を低減する観点から、端末制御情報受信部23は、目的の端末制御情報を選択的に受信するように、間欠的に受信動作を行うようにしてもよい。
【0023】
図5は、フェーズドアレイアンテナ11を詳細に示すブロック図である。以下、位相制御によりメインローブの主軸方向を調節する機能について説明するが、フェーズドアレイアンテナ11はさらに、振幅制御によりサイドローブレベルを調節する機能を有してもよい。この場合、サイドローブにより端末制御情報を受信することができる。
【0024】
フェーズドアレイアンテナ11は、多数のアンテナ素子211〜2nmを平面状または曲面状に並べたアンテナアレイ200と、情報通信装置13から送信される信号を各アンテナ素子211〜2nmへ分配するとともに、各アンテナ素子211〜2nmで受信された信号を合成して情報通信装置13へ出力する分配/合成器400と、各アンテナ素子211〜2nmと分配/合成器400との間に挿入され、各アンテナ素子211〜2nmと分配/合成器400とで送受される信号の位相を早める/遅らせる位相器311〜3nmとを具備している。
【0025】
アンテナ素子211〜2nmは、例えばパッチアンテナなど、一方向に指向性を有するアンテナである。アンテナアレイ200に備えるアンテナ素子211〜2nmの基数は、準天頂衛星2からの信号を捕らえやすくするため、ある程度広いビーム幅が好ましく、また、消費電力を抑制する観点から、実用上例えば4段×4列=16基とする。これより高い利得が必要である場合には、アンテナ素子211〜2nmの基数を増やせばよい。
【0026】
また、フェーズドアレイアンテナ11では、各アンテナ素子211〜2nmで受信した信号を増幅する低雑音増幅器(LNA: Low Noise Amplifier)と、受信信号を低い周波数に変換する低雑音ダウンコンバータ(LNB: Low Noise Block Downconverter)と、分配/合成器400からの送信信号を電力増幅して各アンテナ素子211〜2nmへ出力する大電力増幅器(HPA: High-Power Amplifier)と、低雑音増幅器が送信時に破壊されることを防ぐため送受信路を分離するためのサーキュレータとが、各アンテナ素子211〜2nmと分配/合成器400との間に挿入されている(いずれも図示せず)。
【0027】
図1に戻り、図1(a)に示すように、移動体端末10のフェーズドアレイアンテナ11が準天頂衛星2に対して正対しているとき、準天頂衛星2から発射された電波は平面波とみなせるから、位相器311〜3nmでの位相変化量を同じにすれば、準天頂衛星2に対して最大の送受信利得が得られる。図1(b)に示すように、移動体端末10のフェーズドアレイアンテナ11が準天頂衛星2に対して正対していない(傾いている)とき、フェーズドアレイアンテナ11の各アンテナ素子211〜2nmへ異なる位相で到着するから、位相器311〜3nmでの位相変化量を制御し、分配/合成器400へ到着する信号の位相を揃えれば、準天頂衛星2に対して最大の送受信利得が得られる。
【0028】
フェーズドアレイアンテナ11の一形式について例示したが、例えばエスパアンテナなど、指向性の広狭及びメインローブの指向方向が電気的に可変である他の形式のアンテナを用いてもよい。
【0029】
図6は、情報通信装置13を詳細に示すブロック図である。
情報通信装置13は、フェーズドアレイアンテナ11で受信され情報通信装置13へ入力される受信信号を増幅する前置増幅器32aと、送受信信号の搬送波周波数の基準信号を発生する局部発信器34と、基準信号により入力信号を復調する復調器33aと、復調信号をデジタル変換するA−D変換器35aと、情報通信装置13全体の制御および情報の仲介を行う制御部36と、制御部36から送出される信号をアナログ変換するD−A変換器35bと、D−A変換器35bからの信号を局部発信器34からの基準信号を用いて変調する変調器33bと、変調器33bからの信号を電力増幅する電力増幅器32bと、フェーズドアレイアンテナ11から情報通信装置13へ向かう信号を前置増幅器32aに導き、電力増幅器32bから出力される信号をフェーズドアレイアンテナ11に導くサーキュレータ31と、情報通信装置13の状態および制御部36で送受される情報を表示する表示部37と、制御部36へ送信すべき情報や指示を入力する入力部38とを具備している。
【0030】
情報通信装置13から入出力される送受信信号は、例えばQAM(Quadrature Amplitude Modulation)やQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)など、周波数使用効率に優れ高速伝送が可能な変調方式で変調された信号である。そのため、復調器33aは、例えばQAM復調器またはQPSK復調器であり、変調器33bは、例えばQAM変調器またはQPSK変調器を用いる。
【0031】
図7は、アンテナ追尾装置12の動作を示すフローチャートである(適宜図4参照)。
まず、アンテナ追尾装置12において、姿勢角センサ25および方位センサ26は、移動体端末10の姿勢角、すなわち、回転角(ロール角)、仰角(ピッチ角)および方位角(ヨー角)を検出する(ステップS1)。
【0032】
次に、GPS受信部22は、GPS用アンテナ16を通じて、複数のGPS衛星3から測位信号を受信し、移動体端末10の現在位置を測位する(ステップS2)。
【0033】
指向性制御部28は、あらかじめフェーズドアレイアンテナ11を無指向性または広指向性に制御しておく(ステップS3)。
【0034】
端末制御情報受信部23は、無指向性または広指向性になったフェーズドアレイアンテナ11を介して端末制御情報を受信する(ステップS4)。
【0035】
そして、情報選択部24は、受信した端末制御情報の中から測位した現在位置に対応するものを抽出し、アレイファクタ計算部27へ送出する(ステップS5)。
【0036】
アレイファクタ計算部27は、抽出した端末制御情報に、移動体端末10の検出された回転角、仰角および方位角分の補正を施し、指向性制御部28へ送出する(ステップS6)。そして、アレイファクタ計算部27は、アレイファクタ記憶部21を参照し、補正された端末制御情報に対応するアレイファクタ情報を検索する(ステップS7)。
【0037】
指向性制御部28は、検索されたアレイファクタ情報に基づき、フェーズドアレイアンテナ11の各位相器311〜3nmを制御してメインローブを準天頂衛星2に指向させ(ステップS8)、十分な送受信利得が得られるようにする。
【0038】
そこで、情報通信装置13は、準天頂衛星2と、高速・高品質な衛星回線により、情報の送受信または放送の受信を行う(ステップS9)。
【0039】
図8は、準天頂衛星2と移動体端末10との間に障害壁5がある場合の通信状態を示す説明図である。
準天頂衛星システム1bは、準天頂衛星システム1に加えて、ギャップフィラ装置4を具備している。準天頂衛星2からの電波は非常に微弱であるため、移動体端末10が、準天頂衛星2から見てビルなどの障害壁5の陰、トンネル内または室内などのエリアにあるときは、通信を行えないことがある。ギャップフィラ装置4は、これらのエリアにある移動体端末10と、準天頂衛星2との通信を中継するための装置であって、準天頂衛星2からの電波を受信してサービスエリアEg内に再送信するとともに、サービスエリアEg内にある移動体端末10からの電波を受信して準天頂衛星2へ再送信する機能を有する。
【0040】
ギャップフィラ装置4から配信される端末制御情報には、ギャップフィラ装置4自身を示す情報が含まれている。端末制御情報受信部23は、ギャップフィラ装置4からの端末制御情報を受信すると、その旨を示すギャップフィラ検出情報を、情報選択部24およびアレイファクタ計算部27を介して、指向性制御部28へ送出する。指向性制御部28は、ギャップフィラ検出情報を受信すると、フェーズドアレイアンテナ11を無指向性または広指向性に制御する。
【0041】
移動体端末10からギャップフィラ装置4への距離は、準天頂衛星2への距離と比較すると、非常に小さい。そのため、ギャップフィラ装置4のサービスエリアEg内の移動体端末10がギャップフィラ装置4と通信を行うには、低利得のアンテナで十分である。こうして、移動体端末10は、サービスエリアEg内では、ギャップフィラ装置4の中継により、準天頂衛星2と通信を行うことができる。
【0042】
また、前記の構成にかえて、フェーズドアレイアンテナ11の代わりに、情報通信を行うための高利得ビームアンテナと、この高利得ビームアンテナを物理的に駆動する架台と、衛星制御情報を受信するための無指向性アンテナまたは広指向性アンテナとを備えてもよい(いずれも図示せず)。高利得ビームアンテナは、例えばホーンアンテナやリフレクタアンテナなどの開口面アンテナである。広指向性アンテナは、例えばサイドファイアヘリカルアンテナである。
【0043】
このように、本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)準天頂衛星2が配信するサービスエリア内の各地区から見た準天頂衛星2の方角情報を含む端末制御情報を受信し利用するので、移動体端末に備えた指向性可変アンテナを容易に通信衛星へ指向させることができる。
(2)ギャップフィラ装置4がある場合においては、準天頂衛星2と移動体端末2との間に障害壁5があっても、フェーズドアレイアンテナ11を無指向性または広指向性に制御することにより、衛星通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態による準天頂衛星システムの運用例を示す説明図である。
【図2】準天頂衛星が配信する端末制御情報のテーブルを示す図である。
【図3】移動体端末の外観を示す斜視図である。
【図4】移動体端末の構成を示すブロック図である。
【図5】フェーズドアレイアンテナを詳細に示すブロック図である。
【図6】情報通信装置を詳細に示すブロック図である。
【図7】準天頂衛星と移動体端末との間に障害壁がある場合の通信状態を示す説明図である。
【図8】アンテナ追尾装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1,1b 準天頂衛星システム
2 準天頂衛星
3 GPS衛星
4 ギャップフィラ装置
5 障害壁
10 移動体端末
11,11b,11c フェーズドアレイアンテナ
12 アンテナ追尾装置
13 情報通信装置
21 アレイファクタ記憶部
22 GPS受信部
23 端末制御情報受信部
24 情報選択部
25 姿勢角センサ
26 方位センサ
27 アレイファクタ計算部
28 指向性制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信衛星が配信する端末制御情報と測位衛星が配信する測位情報とを受信して移動体端末に備えた指向性可変アンテナを前記通信衛星へ指向させるための移動体端末用アンテナ追尾装置であって、
前記端末制御情報は、地球上の各地点から見た前記通信衛星を表す第1の位置を示す位置情報を含み、
前記測位情報を基に前記移動体端末を表す第2の位置を検出する位置検出手段と、
前記指向性可変アンテナの指向性を制御する第1の指向性制御手段と、
第1の指向性制御手段により制御された前記指向性可変アンテナを介して前記端末制御情報を受信する端末制御情報受信手段と、
前記指向性可変アンテナの指向方向を制御するための指向性制御情報を記憶した指向性制御情報記憶手段と、
第2の位置に対応する前記端末制御情報に前記移動体端末の3次元の姿勢角分の補正を施す姿勢角補正手段と、
前記姿勢角分の補正を施された前記端末制御情報に対応する前記指向性制御情報を前記指向性制御情報記憶手段から検索する指向性情報検索手段と、
検索された前記指向性制御情報を基に前記指向性可変アンテナの指向性を第1の指向性制御手段によるときより狭く制御し前記通信衛星へ指向させる第2の指向性制御手段と
を含むこと特徴とする移動体端末用アンテナ追尾装置。
【請求項2】
通信衛星が配信する端末制御情報と測位衛星が配信する測位情報とを受信して移動体端末に備えた指向性可変アンテナを前記通信衛星へ指向させるための移動体端末用アンテナ追尾装置であって、
前記端末制御情報は、地球上の各地点から見た前記通信衛星を表す第1の位置を示す位置情報を含み、
前記測位情報を基に前記移動体端末を表す第2の位置を検出する位置検出手段と、
前記端末制御情報を受信するための端末制御情報受信アンテナと、
前記端末制御情報受信アンテナを介して前記端末制御情報を受信する端末制御情報受信手段と、
前記指向性可変アンテナの指向方向を制御するための指向性制御情報を記憶した指向性制御情報記憶手段と、
第2の位置に対応する前記端末制御情報に前記移動体端末の3次元の姿勢角分の補正を施す姿勢角補正手段と、
前記姿勢角分の補正を施された前記端末制御情報に対応する前記指向性制御情報を前記指向性制御情報記憶手段から検索する指向性情報検索手段と、
検索された前記指向性制御情報を基に前記指向性可変アンテナを前記通信衛星へ指向させる指向性制御手段と
を含むこと特徴とする移動体端末用アンテナ追尾装置。
【請求項3】
前記端末制御情報受信手段が、地球上に設置され前記通信衛星と前記移動体端末との通信を中継するギャップフィラ装置からの信号を受信すると、前記第2の指向性制御手段は、前記指向性可変アンテナの指向性を前記通信衛星と通信するときより広く制御することを特徴とする請求項1に記載のアンテナ追尾装置。
【請求項4】
前記指向性可変アンテナは、フェーズドアレイアンテナであることを特徴とする請求項1に記載の移動体端末用アンテナ追尾装置。
【請求項5】
前記指向性可変アンテナは、該指向性アンテナを物理的に駆動するアンテナ架台を備えた高利得ビームアンテナであることを特徴とする請求項2に記載の移動体端末用アンテナ装置。
【請求項6】
前記端末制御情報は、前記指向性可変アンテナが前記通信衛星へ指向された後に前記通信衛星と情報通信を行うための信号の伝送速度より低い伝送速度の信号で配信されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の移動体端末用アンテナ追尾装置。
【請求項7】
前記端末制御情報はさらに、前記通信衛星をハンドオーバすべき該通信衛星の前記方角およびその時刻を含み、第2の指向性制御手段または前記指向性制御手段は、該端末制御情報に基づいて前記指向性可変アンテナの指向方向を制御してハンドオーバを行うことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の移動体端末用アンテナ追尾装置。
【請求項8】
前記姿勢角補正手段は、
前記姿勢角を検出する姿勢角検出手段と、
受信した前記端末制御情報から前記移動体端末の位置に対応するものを抽出する端末制御情報抽出手段と、
抽出された前記端末制御情報に前記姿勢角分の補正を施す端末制御情報補正手段と
を含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の移動体端末用アンテナ追尾装置。
【請求項9】
前記姿勢角検出手段は、ジャイロおよび加速度センサからなる組を3組含む3軸角度センサ、または、重力および地磁気を検出して前記移動体端末の回転角、仰角および方位角を検出する姿勢センサを含むことを特徴とする請求項8に記載のアンテナ追尾装置。
【請求項10】
通信衛星が配信する端末制御情報と測位衛星が配信する測位情報とを受信して移動体端末に備えた指向性可変アンテナを前記通信衛星へ指向させるための移動体端末用アンテナ追尾装置による移動体端末用アンテナ追尾方法であって、
前記端末制御情報は、地球上の各地点から見た前記通信衛星を表す第1の位置を示す位置情報を含み、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記測位情報を基に前記移動体端末を表す第2の位置を検出する位置検出過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記指向性可変アンテナの指向性を制御する第1の指向性制御過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が第1の制御過程において制御された前記指向性可変アンテナを介して前記端末制御情報を受信する端末制御情報受信過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記指向性可変アンテナの指向方向を制御するための指向性制御情報を記憶する指向性制御情報記憶過程と、
第2の位置に対応する前記端末制御情報に前記移動体端末の3次元の姿勢角分の補正を施す姿勢角補正過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記姿勢角補正過程において補正された前記端末制御情報に対応する前記指向性制御情報を前記指向性制御情報記憶過程において記憶した前記指向性制御情報から検索する指向性情報検索過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記指向性情報検索過程において検索された前記指向性制御情報を基に前記指向性可変アンテナの指向性を第1の指向性制御過程におけるときより狭く制御し前記通信衛星へ指向させる第2の指向性制御過程と
を含むこと特徴とする移動体端末用アンテナ追尾方法。
【請求項11】
通信衛星が配信する端末制御情報と測位衛星が配信する測位情報とを受信して移動体端末に備えた指向性可変アンテナを前記通信衛星へ指向させるための移動体端末用アンテナ追尾装置による移動体端末用アンテナ追尾方法であって、
前記端末制御情報は、地球上の各地点から見た前記通信衛星を表す第1の位置を示す位置情報を含み、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置は、前記端末制御情報を受信するための端末制御情報受信アンテナを含み、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記測位情報を基に前記移動体端末を表す第2の位置を検出する位置検出過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記端末制御情報受信アンテナを介して前記端末制御情報を受信する端末制御情報受信過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記指向性可変アンテナの指向方向を制御するための指向性制御情報を記憶する指向性制御情報記憶過程と、
第2の位置に対応する前記端末制御情報に前記移動体端末の3次元の姿勢角分の補正を施す姿勢角補正過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が前記姿勢角補正過程において補正を施した前記端末制御情報に対応する前記指向性制御情報を前記指向性制御情報記憶過程において記憶した前記指向性制御情報から検索する指向性情報検索過程と、
前記移動体端末用アンテナ追尾装置が検索された前記指向性制御情報を基に前記指向性可変アンテナを前記通信衛星へ指向させる指向性制御過程と
を含むこと特徴とする移動体端末用アンテナ追尾方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−333068(P2006−333068A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153822(P2005−153822)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】