説明

移動体通信設備検査装置及びシステム

【課題】 移動局の受信品質を、移動局の移動情報に基づき計測器により測定することで正確な評価位置情報に関連づけられ、かつ曖昧さを除去した評価値を提供できるようにする。
【解決手段】 無線通信装置を備える移動体に設置する無線通信装置検査装置を用いる移動体通信設備検査方法であって、前記移動体の位置情報を取得する位置情報取得工程と、無線電波を受信して復調信号の信号対雑音及び歪み比(SINAD)情報を測定する測定工程と、前記位置情報取得工程により取得した位置情報と、測定したSINAD情報と、を関連づけてファイルに保存する記録工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信設備検査装置及びシステムに関し、特に、移動局の通話品質を検査することにより移動体通信設備の回線品質を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
列車運行システムの1つに、鉄道無線と呼ばれるものがある。この鉄道無線は、列車運行管理センタ等と列車との間で様々な指示や連絡等をやりとりするものである。ところが、列車の運行区間には、軌道周辺の地形や建物等の変化や軌道そのものの変更により、鉄道無線の回線品質が悪化する区間が発生する場合がある。
【0003】
電界強度の強弱は、通話品質の良否を決定するための有力な材料となる。例えば、特許文献1に記載の発明は、移動体の走行に応じた車軸パルス信号から移動体が移動した距離を求め、また、移動体に向けて送信される所定周波数の電波が有する電界強度を測定し、移動距離に応じて電界強度を記録することによって、地点毎での電界強度の強弱を記録したデータを作成するものである。しかしながら、この技術は電界強度が弱い区間を高い精度で容易に検出することを目的としており、本発明とは目的が異なる。
【特許文献1】特開2001−281288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、従来、移動体通信の回線品質を評価する方法として移動局の正確な位置情報とその位置における電界強度を測定する方法があった(例えば、特許文献1)。しかしながら、電界強度に基づいた回線品質の評価方法では、妨害信号により劣化した回線品質については正確に評価できないという問題点がある。そのため、電界強度とは別に受信音声を聴取して主観評価を行う必要があった。しかしながら、この主観評価は、人手によるため評価者による曖昧さがあるばかりでなく、評価者が移動しながら評価する場合には評価位置を正確に把握し評価値と関連づけることができない。
【0005】
そこで本発明は、このような問題点に鑑み、移動局の通話品質を、移動局の移動情報に基づき計測器により測定することで正確な評価位置情報に関連づけられ、かつ曖昧さを除去した移動体通信設備の回線品質情報を提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、以下の特徴を有することとする。
【0007】
本発明が提供する移動体通信設備検査装置は、移動体に設置する回線品質測定装置であって、前記移動体の位置情報を取得する位置情報取得手段と、無線電波を受信して復調信号の信号対雑音及び歪み比(以下、「SINAD」という)を測定する測定手段と、前記位置情報取得手段により取得した位置情報と、測定したSINAD情報と、を関連づけてファイルに保存する記録手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成においては、前記位置情報取得手段は、速度発電機の車軸パルス出力とATS検知装置出力を使用して、前記移動体の位置情報を取得することが好ましい。
【0009】
上記構成のいずれにおいても、前記位置情報取得手段は、GPS(Global Positioning System)出力を使用して、前記移動体の位置情報を取得することが好ましい。
【0010】
上記構成のいずれにおいても、前記測定手段は、SINADに代えて、受信した無線電波の復調信号のノイズレベルを回線品質情報として測定し、前記記録手段は、前記測定したSINAD情報に代えて前記ノイズレベルを、前記位置情報に関連づけてファイルに保存してもよい。
【0011】
また、本発明が提供する移動体通信設備検査システムは、上記いずれかの移動体通信設備検査装置と、該移動体通信設備検査装置が収集したデータを基に解析を行う解析装置と、を有する移動体通信設備検査システムであって、前記解析装置は、前記記録手段が保存したファイルから、前記移動体の位置毎のSINADの分布図、評価値を出力する解析手段を有することを特徴とする。
【0012】
上記システムにおいては、前記解析装置は、前記解析手段が過去に出力した評価値であって多段階に評価した評価値を収集した評価知識ベースをさらに有し、前記解析手段は、前記記録手段においてファイルに保存された前記測定したSINAD情報を、前記評価知識ベースに基づき多段階評価値に変換することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、移動局の移動情報に基づき計測器により測定された回線品質情報を記録することで正確な評価位置情報に関連づけられ、かつ曖昧さを除去した移動体通信設備の回線品質の評価を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同じ部位については同一の符号を付し、重複して説明しない。
【0015】
図1のブロック図を参照すると、本実施形態の概略構成が示されている。本実施形態に係る移動体通信設備検査装置は、車両に積載される回線品質測定装置(以下「車上測定装置」という)100と地上解析装置200を備え、車上測定装置100が測定したものを地上解析装置200が解析して、解析結果出力300を出力するものである。以下、各装置の内部構成について説明する。
【0016】
車上測定装置100は、アンテナ101、受信機102、歪率計103、車上PC(Personal Computer)104、分配器105、位置情報算出部106、速度発電機107等を備え、SINAD情報108と位置情報109をファイルに保存する。
【0017】
アンテナ101及び受信機102は、検測対象の鉄道無線の電波を受信する働きをする。歪率計103は、受信信号のSINAD情報108を測定する。歪率計103によるSINAD情報108の測定は、常時続けられており、車上PC104に入力される。また、測定値は、一定の移動距離毎に保存される。
【0018】
位置情報算出部106は、速度発電機107から送出される車軸パルスに基づく移動距離と、位置情報と関連づけられたATS地上子と、を検知することにより路線上の位置情報109を算出し、車上PC104に入力する。
【0019】
一方、車上PC104は、速度発電機107から送出される車軸パルスに基づき、移動距離を算出し、所定の距離を移動した地点で、歪率計103が測定していたその地点のSINAD情報108と、位置情報算出部106により入力されたその地点の位置情報109をファイルに保存する。この時SINAD情報108と位置情報109は関連付けて保存する。
【0020】
地上解析装置200は、地上PC(Personal Computer)201と、評価知識ベース202と、を備える。地上PC201は、車上測定装置100が収集したデータに基づいて、収集したデータを解析する機能を有する。評価知識ベース202は、過去に、検査対象となる路線を走行して収集した多段階評価の評価値が格納されているナレッジデータベースである。
【0021】
次に、本実施形態に係る無線通信設備検査装置の全体動作について説明する。本実施形態に係る無線通信設備検測システムは、まず、車上測定装置100の積載される列車が検査対象となる1路線を走行して、車上測定装置100がその路線のデータを収集する。次に、地上解析装置200が収集したデータを基に解析し、解析結果出力300を出力する。以下、各装置の動作について説明する。
【0022】
図2は、車上測定装置100の動作を示すフローチャートである。車上測定装置100において、まず、アンテナ101及び受信機102が検測対象の鉄道無線の電波を受信する(ステップS201)。次に、受信された信号は歪率計103に入力される(ステップS202)。
【0023】
歪率計103は、常時、SINADを測定している。また、位置情報算出部106は、位置情報を算出している。そこで、車上PC104は、分配器105から得られるパルス信号から所定移動距離に応じたパルス数毎に、歪率計103からSINADを取り込み、ファイルを作成する(ステップS203)。作成されたファイルがSINAD情報108である。同時に位置情報算出部106から位置情報を取り込み、SINAD情報108と関連づけて、ファイルに保存する(ステップS204)。保存されたファイルが位置情報109である。
【0024】
図3は、地上解析装置200の動作を示すフローチャートである。地上解析装置200において、まず、車上測定装置100が収集したデータは、地上PC201に集められる。SINAD情報108と、それに関連づけられた位置情報109は、一定距離毎に収集されている。地上PC201は、収集されたデータを用いて、SINADの分布図を作成する(ステップS301)。
【0025】
次に、地上PC201は、収集されたデータから、SINADが所定のしきい値を下回るような場合に問題のある回線品質と判定し、そのSINADと位置情報を表示する。
【0026】
更に、地上PC201は、過去の測定から作成された評価知識ベース202を用いて、列車の特定位置における多段階評価の評価値を出力することもできる(ステップS303)。
【0027】
上記本実施形態によれば、移動局の通話品質を、移動局の移動情報に基づき位置情報算出部106により測定することで正確な評価位置情報に関連づけることができる。また、評価知識ベース202と比較して、自動的に多段階の評価を出力し、手動による曖昧さを除去した移動体通信設備の回線品質の評価を提供することができる。
【0028】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、地上解析装置200を備えて詳細な検査結果を出力するものであるが、地上解析装置200を備えず車上測定装置100のみによっても、移動局の受信品質を、移動局の移動情報に基づき計測器により測定することで正確な評価位置情報に関連づけ、かつ曖昧さを除去した移動体通信設備の評価を提供するという課題は、達成することができる。
【0029】
なお、具体的実施例としては、乗務員無線では、非通話時空線信号(2280Hz)により変調された搬送波が基地局から送信されるので、空線信号のSINADを測定すればよい。鉄道無線設備では、SINAD低下の主要因がノイズであるため、回線品質の評価に無変調信号を受信し、ノイズメータ(ソホメータ)による復調されたノイズレベルを用いてもよい。列車無線では、基地局から通話時のみ搬送波が送信され、移動局を制御する為の空線信号を使用しない方式のため、回線品質の評価にノイズレベルを用いるようにすれば、基地局から無変調搬送波を送信すればよい。
【0030】
また、本実施例では、位置情報算出部106は、速度発電機107から送出される車軸パルスに基づく移動距離と、位置情報と関連づけられたATS地上子と、を検知することにより路線上の位置情報を算出したが、位置情報109は、GPSを利用してもよい。
【0031】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は鉄道無線に限定されるものではなく移動体通信全般にわたり基地局設置に必要な情報を得る手段として要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係る無線通信設備検測システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の好適な実施の形態に係る無線通信設備検測システムの車上測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の好適な実施の形態に係る無線通信設備検測システムの地上解析装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
100 車上測定装置
200 地上解析装置
300 解析結果出力
101 アンテナ
102 受信機
103 歪率計
104 車上PC
105 分配器
105a 位置情報取得手段
106 位置情報算出部
107 速度発電機
108 SINAD情報
109 位置情報
201 地上PC
202 知識ベース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設置する回線品質測定装置であって、
前記移動体の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
無線電波を受信して復調信号の信号対雑音及び歪み比(SINAD)を測定する測定手段と、
前記位置情報取得手段により取得した位置情報と、測定したSINAD情報と、を関連づけてファイルに保存する記録手段と、を備えることを特徴とする移動体通信設備検査装置。
【請求項2】
前記位置情報取得手段は、速度発電機の車軸パルス出力とATS検知装置出力を使用して、前記移動体の位置情報を取得することを特徴とする請求項1記載の移動体通信設備検査装置。
【請求項3】
前記位置情報取得手段は、GPS出力を使用して、前記移動体の位置情報を取得することを特徴とする請求項1又は2記載の移動体通信設備検査装置。
【請求項4】
前記測定手段は、SINADに代えて、受信した無線電波の復調信号のノイズレベルを回線品質情報として測定し、
前記記録手段は、前記測定したSINAD情報に代えて回線品質情報としての前記ノイズレベルを、前記位置情報に関連づけてファイルに保存することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の移動体通信設備検査装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の移動体通信設備検査装置と、該移動体通信設備検査装置が収集したデータを基に解析を行う解析装置と、を有する移動体通信設備検査システムであって、
前記解析装置は、
前記記録手段が保存したファイルから、前記移動体の位置毎のSINADの分布図、評価値を出力する解析手段を有することを特徴とする移動体通信設備検査システム。
【請求項6】
前記解析装置は、前記解析手段が過去に出力した評価値であって多段階に評価した評価値を収集した評価知識ベースをさらに有し、
前記解析手段は、前記記録手段にファイルに保存された前記測定したSINAD情報を、前記評価知識ベースに基づき多段階評価値に変換することを特徴とする請求項5記載の移動体通信設備検査システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−136219(P2010−136219A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311575(P2008−311575)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(508360626)アートシステム株式会社 (1)
【Fターム(参考)】