説明

移動式の浄水器

【課題】河川や池等の水あるいは塩類等を含有する水(原水)を浄化し飲料用水、農業用水、あるいは工業用水等の淡水にするための移動式の浄水器において、かかる浄水器の実用的かつ具体的な駆動手段・方法を提供すること。
【解決手段】中空糸膜モジュールを有する浄水器が、前後輪の間にエンジンを備え連結部材による後輪駆動タイプの自動二輪車に搭載又は連結されており、該自動二輪車の動力によって前記浄水器の送水用の回転ポンプが駆動するように構成されている移動式の浄水器において、該自動二輪車の動力を該送水用の回転ポンプに伝達する伝達手段が、前記エンジンと後輪の間で前記連結部材に接続自在に配置された回転部材と、前記送水用の回転ポンプの駆動軸に固定された回転部材と、両回転部材を連結する連結部材とからなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や池等の水あるいは塩類等を含有する水(以下、原水という)を浄化し飲料用水、農業用水、あるいは工業用水等の淡水にするための移動式の浄水器に関し、特に、かかる浄水器の駆動手段・方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、海水等の淡水化、純水の製造、廃水処理等の様々な分野の水処理システムにおいて、逆浸透膜(RO膜)モジュールを利用した技術が広く採用されている。淡水化の手順としては、例えば、海水の淡水化の場合は、微生物による逆浸透膜の汚れを防止するために、取水した海水に塩素を注入後、濾過器等を通し、硫酸によるpH調節を行ってから逆浸透膜へ供給する方法が一般的に行われる。しかしながら、かかる方法を実施するためには、大型の装置を特定の場所に設置・固定する必要があるし、当然のことながらコスト的にも高いものとなる。
【0003】
一方、災害等の緊急時においては、災害地あるいは避難地において迅速かつ簡便に、河川や池等の水源から飲料水を確保する必要があり、かかる場合には、移動式の簡易な浄水化手段・方法が必要となる。このような場合には、タンクローリーで給水するとか、トラック等の車両に浄水設備を搭載して目的地まで赴くということも考えられるが、例えば、地震等の災害の場合には、被災地に通じる道路が分断されたり、交通が混雑したりするため迅速な対応が取れないことが多い。また、災害とは関係なくても、砂漠気候の乾燥地帯に見られるように、集落がまばらに存在しかつ水利の便が悪い地方においては、集落ごとに高価な浄水設備を設置することは困難であるので、前記のような移動式の浄水化手段・方法が必要となる。しかし、このような地域・地方においては、大型の車両が通過できるような道路インフラが整備されていない場合が非常に多いという問題がある。
【0004】
前記のような問題点を解消するために、災害地、へき地又は難民の避難地において、河川や池等の水源の水を浄化し、飲料水を造水するための、自転車やモーターサイクルを利用した移動式の造水機が提案されている。例えば、特許文献1には、駆動輪を有する自転車又はモーターサイクルと組み合わされ、これに搭載された造水装置が駆動輪によって駆動するように構成されている移動式の造水装置が開示されている。また、特許文献2には、自転車とこれに搭載された造水装置とからなる移動式の造水機であって、自転車による移動や装置の脱着を便利なように改良した移動式の造水機も開示されている。しかしながら、これらの特許文献に記載された、自転車等の駆動輪を動力源として造水機(浄水器)の送水ポンプを駆動する方法・手段は、実用的かつ具体的な方法・手段としては、必ずしも十分ではない。
【特許文献1】国際公開第2000/59832号パンフレット
【特許文献2】特開2008−86934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、河川や池等の水あるいは塩類等を含有する水(原水)を浄化し飲料用水、農業用水、あるいは工業用水等の淡水にするための移動式の浄水器において、かかる浄水器の実用的かつ具体的な駆動手段・方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明において請求項1に記載された発明は、中空糸膜モジュールを有する浄水器が、前後輪の間にエンジンを備え連結部材による後輪駆動タイプの自動二輪車に搭載又は連結されており、該自動二輪車の動力によって前記浄水器の送水用の回転ポンプが駆動するように構成されている移動式の浄水器において、該自動二輪車の動力を該送水用の回転ポンプに伝達する伝達手段が、前記エンジンと後輪の間で前記連結部材に接続自在に配置された回転部材と、前記送水用の回転ポンプの駆動軸に固定された回転部材と、両回転部材を連結する連結部材とからなることを特徴とする移動式の浄水器である。
【0007】
請求項2に記載された発明は、回転部材がギア部材又はプーリー部材であり、連結部材がチェーン又はベルトであることを特徴とする請求項1記載の移動式の浄水器である。
【0008】
そして、請求項3に記載された発明は、自動二輪車のエンジンを冷却するためのファンが備えられていることを特徴とする請求項1又は2記載の移動式の浄水器である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の移動式の浄水器は、移動に便利であり、かつ、移動先で自動二輪車のエンジンを利用して浄水器の送水ポンプを駆動できるので、その場で、容易に原水を浄化して飲料用水、農業用水、あるいは工業用水等の淡水を得ることができる。そして、その際、浄水器の駆動手段・方法に工夫がされているので、送水ポンプの駆動が容易にできるという特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の移動式の浄水器は、中空糸膜モジュールを有する浄水器が、前後輪の間にエンジンを備え連結部材による後輪駆動タイプの自動二輪車に搭載又は連結されており、該自動二輪車の動力によって前記浄水器の送水用の回転ポンプが駆動するように構成されているものである。そして、本発明の特徴とするところは、該自動二輪車の動力を該送水用の回転ポンプに伝達する伝達手段が、前記エンジンと後輪の間で前記連結部材に接続自在に配置された回転部材と、前記送水用の回転ポンプの駆動軸に固定された回転部材と、両回転部材を連結する連結部材とからなるものである。
【0011】
自動二輪車は、前後輪の間にエンジンを備え、クラッチ、変速機を経てチェーン又はゴム等のベルトで後輪を駆動するタイプのものが最も一般的であり、本発明における自動二輪車もかかるタイプのものを対象としている。また、本発明において、回転部材とは、例えば、プーリー部材やギア部材であり、連結部材とは、例えば、ベルトやチェーンである。
回転部材がギア部材の場合には、連結部材としてはチェーンが、回転部材がプーリー部材の場合には、連結部材としてはゴム等のベルトが用いられる。なお、プーリー部材又はギア部材とは、プーリー又はギアを連結部材に接続自在に配置するための補助部材、あるいは回転ポンプの駆動軸に固定するための補助部材を含むものとして定義される。装着あるいは固定のさせ方は特に制限されるものではなく、公知の方法・手段を採用することができる。
【0012】
以下、図を用いて本発明の一例を説明する。図1は、本発明の移動式の浄水器の全体像を説明するための図であって、浄水器が自動二輪車1の後部に搭載された状態を示す例である。図1において、2は浄水器であり、内部に中空糸膜モジュールと送水用の回転ポンプとそれらの制御手段等を有している。中空糸膜モジュールには、原水源から取水するためのホース(図示せず)や、処理水の排出ホース(図示せず)が取り付けられているのは当然である。3は自動二輪車のエンジンと後輪の操作系の連結部材であり、4は自動二輪車の動力を送水用の回転ポンプに伝達する伝達手段である。また、自動二輪車を停止した状態で、浄水器を長時間運転する場合には、自動二輪車のエンジンが加熱されるので、これを空冷するためのファン(図示せず)が備えられているのが好ましい。そのための動力は駆動輪等の回転やバッテリーを利用することができる。
【0013】
図2は、図1の一部の拡大図であり、自動二輪車の動力を浄水器の送水用の回転ポンプに伝達する伝達手段を説明するための図である。図2において、2は中空糸膜モジュールを有する浄水器(送水用の回転ポンプとその制御手段を含む)、10は自動二輪車のエンジン、11は後輪、12は自動二輪車の操作系のチェーンやベルトからなる連結部材、13はギア部材やプーリー部材等の回転部材、14は送水用の回転ポンプの駆動軸に固定された回転部材、15はチェーン又はベルト等の連結部材を表す。
【0014】
図2において、回転部材がギア部材であり、連結部材がチェーンである場合を例にして説明する。ギア部材13は、自動二輪車の操作系のチェーン12に接続自在に、即ち、噛合させることによって接続させたり、噛合を離脱させたりすることができるように配置されている。ギア部材13は、送水用の回転ポンプの駆動軸に固定されたギア部材14と、チェーン15によって連結されている。従って、自動二輪車のエンジンを始動すると、操作系のチェーンが回転し、ギア部材13とチェーン15を経て動力がギア部材14に伝達され浄水器2が始動する。自動二輪車の走行時には、ギア部材13をチェーン12から離脱させておけばよい。図には示さなかったが、自動二輪車は停止時にはスタンドによって後輪が空転できるようにしておけばよい。図2では、ギア部材13は1個しか示されていないが、場合によっては、2個以上のギア部材を配置して、複数の浄水器に動力を伝達するようにしてもよい。ギヤ部材13は、チエーン12の外側、内側に自由に取り付けることができる。また、長時間の運転の場合には、手段は特に問わないが、ファン等によってエンジンを冷却するようにするのが好ましい。
【0015】
本発明の浄水器は、前後輪の間にエンジンを備え連結部材による後輪駆動タイプの自動二輪車に搭載又は連結されたものであって、前述のようにその送水用の回転ポンプが自動二輪車のエンジンを利用して駆動するように構成されている。具体的には、前記自動二輪車の動力を送水用の回転ポンプに伝達する伝達手段が、エンジンと後輪の間で前記連結部材に接続自在に配置された回転部材と、前記送水用の回転ポンプの駆動軸に固定された回転部材と、両回転部材を連結する連結部材とからなるものである。浄水器は、自動二輪車の後部に搭載されるか、あるいは、連結の場合には、自動二輪車のサイドカーに浄水器を搭載したようなタイプでも、自動二輪車の後ろに牽引された牽引車に搭載したようなものであってもよい。この場合でも、当業者が容易に実施できる単なる設計変更の範囲で、浄水器が自動二輪車に搭載されている場合と基本的に同様な伝達手段を利用できる。
【0016】
本発明においては、原水が浄化され、飲料水、農業用水、工業用水等の塩類の含有量が少ない淡水が得られるが、原水とは、海水や、飲料水や農業用水や工業用水としてそのまま利用することのできない河川水や地下水を意味する。中空糸膜モジュールとは、いわゆる逆浸透膜(RO膜)や限外濾過膜(UF膜)やナノフィルトレーション膜(NF膜)や精密濾過膜(MF膜)を用い、圧力を駆動力とする膜濾過方式によって、イオン、コロイド、高分子物質、菌体等を除去するものであり、色々のタイプのものが知られている。本発明においては、いずれかの中空糸膜モジュールを有する浄水器を用いるものである。膜の素材としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン等ある。自動二輪車に搭載されるタイプとしては、中空糸膜モジュールを垂直方向に配置してなる縦型の浄水器が好ましいが、自動二輪車に連結されるタイプとしては、横型のモジュールでもかまわない。
【0017】
MF膜は、通常、膜の孔径が0.01μmから10μm程度であり、従って、この孔径より大きい物質は捕捉され固液分離が行われる。UF膜は、分子量で千から数十万の高分子物質やコロイド状物質を阻止し、それ以下の低分子物質やイオン類を透過させる分子ふるいの作用効果がある。MF膜のモジュールは、通常、減圧状態から200kPa以下で運転され、UF膜のモジュールは、通常、減圧状態から300kPa以下で運転される。NF膜は、UF膜とRO膜の中間領域での使用に適している。RO膜は、約2nm以下の孔径のものであり、ナトリウムイオン等の塩類を分離できる。
【0018】
本発明においては、前記浄水器が、中空糸膜モジュールと冷却チラーユニット及び/又は滅菌ユニットと組み合わされたものであってもよい。冷却チラーユニットとは、冷媒を使った冷凍機と水を循環させる水回路を有し、空調熱源や機器の温度を一定に保つ装置として知られている。本発明においては、中空糸膜モジュールと冷却チラーユニットを組み合わせ、中空糸膜モジュールに送水される原水の温度を、一定温度、好ましくは4〜10℃に保つのが好ましい。原水の温度が4℃に近いほど、処理効率が高くなる。本発明において、飲料水の取得を意図する場合には、前記浄水器に滅菌ユニットを組合わせることもできる。滅菌ユニットとしては、活性炭、塩素、オゾン、紫外線照射を利用したものなど公知のものを使用することができる。飲料水を長期間保存する場合には、保存水に次亜塩素酸ナトリウムを添加し保存することもできる。
【0019】
図3は、本発明における浄化水の生成過程を説明するためのフローチャートである。図3に示したように、原水は、通常、フィルターを通過し浄水器の送水ポンプを経て中空糸膜モジュールに導入される。中空糸膜モジュールと送水ポンプの間には、冷却チラーユニットを配置して原水の温度をコントロールするようにしてもよい。図3では中空糸膜モジュールを二つ配置した例を示しているが、もちろんこれは一つでもよく、あるいは中空糸膜モジュールが二つ、並列に配置されていてもよい。中空糸膜モジュールから排出された処理水は、そのまま農業用水あるいは工業用水として利用することができる。中空糸膜モジュールから排出された処理水を飲料に供したい場合には、更に、滅菌ユニットを経由して、あるいは、必要なら更にミネラル等を添加し水質を調整するためにミネラル添加ユニットを経て、飲料水として利用される。ミネラル成分とは、塩化ナトリウムや塩化マグネシウムや塩化カルシウムを主体とするものを意味する。添加方法や混合方法は特に限定されるものではなく、また、ミネラル成分は固形粉末として添加混合しても、あるいは水溶液として添加混合してもよい。前記送水ポンプ、冷却チラーユニット又は滅菌ユニットは、いずれも自動二輪車のエンジンやバッテリーの動力を利用して駆動・運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】浄水器が自動二輪車の後部に搭載された本発明の一例を示す図である。
【図2】本発明の動力伝達手段の一例を説明するための図である。
【図3】本発明における浄化水の生成過程を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0021】
1 自動二輪車
2 浄水器
3 自動二輪車のエンジンと後輪の操作系の連結部材
4 自動二輪車の動力を送水用の回転ポンプに伝達する伝達手段
10 自動二輪車のエンジン
11 後輪
12 自動二輪車の操作系の連結部材
13 回転部材
14 送水用の回転ポンプの駆動軸に固定された回転部材
15 連結部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜モジュールを有する浄水器が、前後輪の間にエンジンを備え連結部材による後輪駆動タイプの自動二輪車に搭載又は連結されており、該自動二輪車の動力によって前記浄水器の送水用の回転ポンプが駆動するように構成されている移動式の浄水器において、該自動二輪車の動力を該送水用の回転ポンプに伝達する伝達手段が、前記エンジンと後輪の間で前記連結部材に接続自在に配置された回転部材と、前記送水用の回転ポンプの駆動軸に固定された回転部材と、両回転部材を連結する連結部材とからなることを特徴とする移動式の浄水器。
【請求項2】
回転部材がギア部材又はプーリー部材であり、連結部材がチェーン又はベルトであることを特徴とする請求項1記載の移動式の浄水器。
【請求項3】
自動二輪車のエンジンを冷却するためのファンが備えられていることを特徴とする請求項1又は2記載の移動式の浄水器。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−155180(P2010−155180A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333511(P2008−333511)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(505438719)
【Fターム(参考)】