説明

移動方向検知装置

【課題】光センサの特性ばらつきにかかわらず、より精度よく物体の移動方向を検知することが可能な移動方向検知装置を提供する。
【解決手段】移動方向検知装置1は、マトリックス状に配置された4つのボロメータ11〜14と、情報処理ユニット20とを備える。各ボロメータ11〜14は、基準抵抗器111と直列に接続され、赤外線の強度に応じて抵抗値が変化するボロメータ素子112と、センサ信号を微分して微分信号を取得する微分回路113とを備える。情報処理ユニット20は、入力された微分信号のピークを検出するピーク検出部23と、隣り合う第1ピークP1と第2ピークP2との時間間隔が所定時間以内の場合に、マトリックスの対角線毎にボロメータ11〜14の微分信号の時間的相関値を演算する時間的相関値演算部24と、時間的相関値の積算値の正負に基づいて、物体の移動方向を判定する移動方向判定部25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の移動方向を検知する移動方向検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、超低解像度画像から被写体の移動方向を検出する技術が開示されている。この技術では、8×8のマトリックス状(格子状)に配置され、光ガイド用のパイプによって入射光角度が限定された64個のCdS(硫化カドミウム)素子により、まず、小領域に分割された被写体の像が取得される。そして、小領域に分割された被写体の像に対して、昆虫の視覚情報処理モデルであるEMD(Elementary Motion Detector)が適用され、被写体の移動方向(動作)が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】今川雅人、中村栄治、沢田克敏、「超低解像度動きセンサの開発」、信学技報、社団法人電子情報通信学会、PRMU2005−276(2006−3)、p.115−120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したEMDは、遅延比較器とも呼ばれ、異なる2点で観察した信号を時間をずらして比較することにより信号の動き方向を検出する仕組みである。すなわち、EMDでは、信号が時間経過に伴いどれだけ移動したかを信号の自己相関のチェックにより推定する。このように、EMDの計算は信号の自己相関を求めるものであるため、非特許文献1記載の技術では、各CdS素子のオフセットの影響を防ぐために、信号からDC成分を除去している。
【0005】
具体的には、非特許文献1記載の技術では、EMDの演算において、64個のCdS素子の出力の平均値(フレーム内平均輝度値)をセンサ出力のDC成分とし、各CdS素子の出力から当該DC成分を除去している。そのため、CdS素子毎にオフセットや温度ドリフトなどの特性にばらつきがあると、平均値から求められるDC成分が正確な値とならないため、EMDの演算結果に誤差が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、光センサの特性ばらつきにかかわらず、より精度よく物体の移動方向を検知することが可能な移動方向検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る移動方向検知装置は、光の強度に応じたセンサ信号を出力する複数の光センサと、複数の光センサそれぞれから出力されたセンサ信号を微分して微分信号を取得する微分手段と、微分手段により取得された微分信号のピークを検出するピーク検出手段と、ピーク検出手段により検出された隣り合う第1ピークと第2ピークとの時間間隔が所定時間以内の場合に、複数の微分信号のうち、異なる光センサにおける微分信号の時間的相関値を演算する相関値取得手段と、相関値取得手段により求められた時間的相関値に基づいて、物体の移動方向を判定する移動方向判定手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る移動方向検知装置によれば、信号の時間的相関値を求める際に、光センサから出力されたセンサ信号が微分されて得られる微分信号が用いられるため、光センサのオフセットばらつきなど影響を無視することができる。よって、光センサの特性ばらつきにかかわらず、より精度よく物体の移動方向を検知することが可能となる。ところで、微分信号を用いる場合には、例えば、物体が光センサ上にあったとしても、その物体が動いていないときには微分信号がゼロとなる。したがって、例えば、手などをセンサ上まで動かして止めた場合と、センサ上に何もない場合との区別がつかない。この問題に対して、本発明に係る移動方向検知装置によれば、微分信号に2つのピークが現れ、かつ、第1ピークと第2ピークとの時間間隔が予め定められた所定時間内に収まっている場合に、時間的相関値に基づいて移動方向が判定されるため、例えば手などの物体が近づいてから離れるときの移動方向のみを的確に検出することが可能となる。
【0009】
本発明に係る移動方向検知装置では、上記複数の光センサが、マトリックス状に配列されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る移動方向検知装置では、相関値取得手段が、マトリックス状に配列された光センサのうち、マトリックスの対角線上に位置する異なる光センサについて、微分信号の時間的相関値を演算し、移動方向判定手段が、互いに直交する対角線毎に算出された時間的相関値の正負の組合せに基づいて、物体の移動方向を判定することが好ましい。
【0011】
このようにすれば、マトリックス状に配列された光センサのうち、行上・列上に位置する光センサを用いて時間的相関値の比から移動方向を判定する場合と比較して、時間的相関値の誤差の影響を受け難く、移動方向の誤判定をより低減することが可能となる。
【0012】
本発明に係る移動方向検知装置では、相関値取得手段が、第2ピークが検出された後の所定期間、時間的相関値を積算し、移動方向判定手段が、時間的相関値の積算値の正負に基づいて物体の移動方向を判定することが好ましい。
【0013】
この場合、第2ピークが検出された後、時間的相関値を演算する際の時間遅れを考慮した所定期間に時間的相関値の積算が行われるため、移動方向の誤判定を低減することができる。また、所定期間、時間的相関値が積算されるため、一点の時間的相関値を用いて移動方向を判定する場合と比較して、より誤判定を低減することが可能となる。
【0014】
なお、本発明に係る移動方向検知装置では、上記光センサとして、ボロメータが好適に用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光センサの特性ばらつきにかかわらず、より精度よく物体の移動方向を検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る移動方向検知装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ボロメータ素子の出力波形、微分回路の出力波形、及び各ボロメータの検出信号の和の一例を示す図である。
【図3】EMDの概念図である。
【図4】X・Y座標系での時間的相関値(動きベクトル)の算出方法を説明するための図である。
【図5】A・B座標系での時間的相関値(動きベクトル)の算出方法を説明するための図である。
【図6】A・B座標系での時間的相関値(動きベクトル)の符号と移動方向との関係を示す図である。
【図7】実施形態に係る移動方向検知装置による移動方向判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】(a)は手の移動方向を示し、(b)は各ボロメータの出力波形(A/D値)を示すグラフであり、(c)は時間的相関値(EMD値)を示すグラフである。
【図9】(a)は手の移動方向を示し、(b)は各ボロメータの出力波形(A/D値)を示すグラフであり、(c)は時間的相関値(EMD値)を示すグラフである。
【図10】(a)は手の移動方向を示し、(b)は各ボロメータの出力波形(A/D値)を示すグラフであり、(c)は時間的相関値(EMD値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0018】
まず、図1を用いて、実施形態に係る移動方向検知装置1の構成について説明する。図1は、移動方向検知装置1の構成を示すブロック図である。
【0019】
移動方向検知装置1は、装置上方を移動する、例えば人の手などの物体の移動方向(動き)を非接触で検知するものである。そのために、移動方向検知装置1は、例えば人の手などから入射される赤外線の変化量に応じた電気信号(検出信号)を出力する微分出力型の4つのボロメータ11,12,13,14、及び、該4つのボロメータ11〜14から出力された検出信号を処理して、手などの物体の移動方向を検知する情報処理ユニット20を備えている。この情報処理ユニット20は、マルチプレクサ21、A/D変換部22、ピーク検出部23、時間的相関値演算部24、及び移動方向判定部25を有している。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0020】
4つのボロメータ11〜14は、縦横2個ずつのマトリックス状(格子状)に配列され、赤外線透過窓が設けられた筒状のメタルケース10内に収められている。なお、以下、マトリックス状に配置された4つのボロメータ11〜14をボロメータアレイと呼ぶこともある。各ボロメータ11〜14の構成はすべて同一であるので、ここでは、ボロメータ11を例にして、その構成を説明する。ボロメータ11は、基準抵抗器111、ボロメータ素子112、微分回路113、及び増幅回路114を備えている。
【0021】
ボロメータ素子112は、抵抗変化型の赤外線検出素子であり、外部から赤外線を受けると温度が上昇して抵抗値が変化する。すなわち、例えば手などを近づけたり遠ざけたりした場合、手とボロメータ素子112との距離に応じて、入射される赤外線の強度が変化し、抵抗値が変化する。ボロメータ素子112は、特許請求の範囲に記載の光センサに相当する。
【0022】
ボロメータ素子112は、基準抵抗器111と直列に接続されている。より詳細には、基準抵抗器111の一端は、電源VCCに接続されており、他端が、ボロメータ112の一端と接続されている。また、ボロメータ112の他端はグランドに接続されている。よって、基準抵抗器111とボロメータ素子112との接続点には、基準抵抗器111の抵抗値とボロメータ素子112の抵抗値との比率に応じた電圧値、すなわち、ボロメータ素子112の抵抗値の変化に応じた電圧値が現れる(図2上段を参照)。基準抵抗器111とボロメータ素子112との接続点は、微分回路113に接続されており、ボロメータ素子112の抵抗値の変化に応じた電圧値(センサ信号)が微分回路113に入力される。
【0023】
微分回路113は、ボロメータ素子112から出力されるセンサ信号を微分して微分信号を取得するものであり、特許請求の範囲に記載の微分手段に相当する。微分回路113としては、例えば、オペアンプ、抵抗器、コンデンサで構成される微分回路や、RC微分回路などの公知のものを用いることができる。例えば、ボロメータ11〜14上で手を移動させた場合、微分回路113の出力波形は、図2の中段に示されるように、手が近づいて来るときに正(プラス)方向に立ち上がり、手が離れて行くときに負(マイナス)方向に立ち下がる。また、手がボロメータ11〜14上を移動しているとき、すなわちボロメータ11〜14に入射される赤外線の強さが略変化しないときには、微分回路113の出力波形は、ゼロとなる。微分回路113により生成された微分信号は、増幅部114に出力される。
【0024】
増幅部114は、例えばオペアンプ等を用いた増幅器により構成され、微分回路113から出力された微分信号を増幅する。増幅部114で増幅された微分信号(検出信号)は、情報処理ユニット20に出力される。
【0025】
情報処理ユニット20は、ボロメータ11〜14と接続されており、上述したように、ボロメータ11〜14から入力される検出信号を処理して、例えば人の手などの動きの方向(移動方向)を判断するものである。情報処理ユニット20は、入力インターフェースとしてのマルチプレクサ21並びにA/D変換部22、及び、A/D変換部22を介して入力される検出信号に対して演算処理を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラムやデータを記憶するROM、演算結果などの各種データを一時的に記憶するRAM、及びデータがバックアップされているバックアップRAMなどにより構成されている。
【0026】
情報処理ユニット20では、ROMに記憶されているプログラムが、マイクロプロセッサによって実行されることにより、ピーク検出部23、時間的相関値演算部24、及び移動方向判定部25の機能が実現される。なお、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどはそれぞれ独立したチップから構成されていてもよいし、これらが1つのチップに収められたマイクロコンピュータ(マイコン)により構成されていてもよい。
【0027】
マルチプレクサ21は、4つのボロメータ11〜14の中から、A/D変換を行うボロメータ11〜14を選択して切替えるものである。マルチプレクサ12は、マイクロプロセッサからの制御信号に基づいて、入力するボロメータ11〜14を切替える。マルチプレクサ21により選択されたボロメータ11〜14からの検出信号(微分信号)は、A/D変換部22に送られる。
【0028】
A/D変換部22は、A/Dコンバータにより構成され、マルチプレクサ21により選択されたボロメータ11〜14からの検出信号(微分信号)を所定のサンプリング周期でディジタルデータに変換する。ディジタル変換された検出信号は、ピーク検出部23に出力される。
【0029】
ピーク検出部23は、取り込まれた4つのボロメータ11〜14の検出信号の和を求めるとともに、求められた検出信号の和のピークを時系列的に検出する。また、ピーク検出部23は、検出したピークの時刻を取得する(図2下段参照)。すなわち、ピーク検出部23は、特許請求の範囲に記載のピーク検出手段として機能する。より具体的には、ピーク検出部23は、初期化(リセット)された状態から、A/D変換された値が読み込まれる毎に、読み込まれたA/D値とRAMに保持されている最大値とを比較し、より大きい方の値を新たな最大値として保持(ピークホールド)する。そして、最大値を順次更新して行き、A/D値が下がり出したときに保持されている最大値をピークとし、当該最大値をピーク値とする。ピーク検出部23は、このピーク検出処理を検出信号波形に対して行うことにより、極性が異なる2つのピーク、すなわちプラス側のピークとマイナス側のピークを時系列的に取得する。ここで、図2の下段に示されるように、先(時刻t1)に検出された正のピークを第1ピークP1とし、次(時刻t2)に検出されたピークを第2ピークP2とする。
【0030】
また、ピーク検出部23は、第1ピークP1の時刻t1と第2ピークP2の時刻t2とに加え、第2ピークP2のピーク値y2を取得して一時的に記憶する。なお、ピークの時刻として、A/D変換のサンプリング回数を用いてもよい。すなわち、A/D変換は一定のサンプリング周期で行われているため、A/D変換が行われた回数(サンプリング回数)をカウントしておき、ピークが検出された時点のカウンタ値を時刻として取得する。その場合、時刻の単位(1LSB)は、1/サンプリング周期秒となる。ピーク検出部23により検出された第1ピークP1の時刻t1、及び第2ピークP2の時刻t2とピーク値y2は、時間的相関値演算部24へ出力される。
【0031】
時間的相関値演算部24は、ピーク検出部23により検出された第1ピークP1と第2ピークP2との時間間隔(t2−t1)が所定時間(例えば数秒)以内の場合に、ボロメータ11〜14の検出信号の時間的相関値を演算する。その際、時間的相関値演算部24は、マトリックス状に配列されたボロメータ11〜14のうち、マトリックスの対角線上に位置する異なるボロメータ11〜14の検出信号の時間的相関値を演算する。また、時間的相関値演算部24は、第2ピークP2が検出された後の所定期間、算出された時間的相関値を積算する。ここで、本実施形態では、上記所定期間として、第2ピークP2のピーク値をy2としたとき、第2ピークP2検出後、ボロメータ11〜14の検出信号の和が「0.7×y2〜0.6×y2」となる期間を設定した。例えば、第2ピークP2のピーク値y2のA/D値が2000とした場合には、上記所定期間は、検出信号の和のA/D値が1400〜1200を取る期間となる。時間的相関値演算部24は、特許請求の範囲に記載の相関値取得手段として機能する。
【0032】
時間的相関値(動きベクトル)の計算には、昆虫の複眼で得られた像の動きの方向を検知するモデルであるEMD(Elementary Motion Detector)を用いた。EMDは、隣接する2つのレセプタの明暗情報を用いて時間的相関値を計算するモデルであり、その概念図を図3に示す。EMDの計算式は、次式(1)で表される。
D(t)=A(t)・B(t−Δt)−A(t−Δt)・B(t) ・・・(1)
図3において、レセプタ上を物体が右から左(図3上部の矢印方向)へ移動したときには、相関値D(t)は正となり、レセプタ上を物体が左から右へ移動したときには、相関値D(t)は負となる。これを一次元の動きベクトルとする。
【0033】
上述した、EMDを用いて二次元の動きベクトルを求めるには、図4に示されるように、X軸方向(行方向)に並んだ2組のボロメータ11,12、ボロメータ13,14の時間的相関値Dx(t)と、Y軸方向(列方向)に並んだ2組のボロメータ13,11、ボロメータ14,12の時間的相関値Dy(t)とを合わせて二次元の動きベクトル(Dx(t),Dy(t))とする。
【0034】
より詳細には、次式(2)に基づいて、X軸方向(行方向)のボロメータ11とボロメータ12との時間的相関値(EMD)、及び、ボロメータ13とボロメータ14との時間的相関値(EMD)を算出し、双方の和をX軸方向の時間的相関値D(t)とする。一方、次式(3)に基づいて、Y軸方向(列方向)のボロメータ11とボロメータ13との時間的相関値(EMD)、及び、ボロメータ12とボロメータ14の時間的相関値(EMD)を算出し、双方の和をY軸方向の時間的相関値D(t)とする。
【0035】
(t)=S(t)・S(t−Δt)−S(t−Δt)・S(t)
+S(t)・S(t−Δt)−S(t−Δt)・S(t) ・・・(2)
(t)=S(t)・S(t−Δt)−S(t−Δt)・S(t)
+S(t)・S(t−Δt)−S(t−Δt)・S(t) ・・・(3)
ただし、Sはボロメータ11の検出信号、Sはボロメータ12の検出信号、Sはボロメータ13の検出信号、Sはボロメータ14の検出信号である。
そして、X軸方向の時間的相関値D(t)と、Y軸方向の時間的相関値D(t)とから動きベクトル(D(t),D(t))が取得される。
【0036】
一方、図5に示されるように、マトリックスの対角線(A軸・B軸)上に並んだ2組のボロメータ11,14、及び、ボロメータ13,12を組み合わせて、二次元の動きベクトルを求めることもできる。なお、本実施形態では、この方法を採用した。なお、図5に示されるように、A軸は(x,y)=(1,−1)の方向、B軸は(x,y)=(1,1)の方向とする。
【0037】
この場合、動きベクトルは、ボロメータ11とボロメータ14とのEMDの計算値をA軸方向の時間的相関値D(t)とし、ボロメータ12とボロメータ13とのEMDの計算値をB軸方向の時間的相関値D(t)とし、(D(t),D(t))で定められる。具体的には、A軸方向の時間的相関値D(t)は、次式(4)に基づいて算出され、B軸方向の時間的相関値D(t)は、次式(5)に基づいて算出される。
(t)=S(t)・S(t−Δt)−S(t−Δt)・S(t) ・・・(4)
(t)=S(t)・S(t−Δt)−S(t−Δt)・S(t) ・・・(5)
【0038】
時間的相関値演算部24は、算出した時間的相関値D(t),D(t)を、上述した所定期間の間、積算する。そして、積算された時間的相関値D(t),D(t)は、移動方向判定部25に出力される。
【0039】
移動方向判定部25は、時間的相関値演算部24により求められた、マトリックスの対角線(A軸・B軸)毎に算出された時間的相関値D(t),D(t)の積算値の正負に基づいて、例えば人の手などの物体の移動方向を判定する。すなわち、移動方向判定部25は、特許請求の範囲に記載の移動方向判定手段として機能する。ここで、A・B座標系での時間的相関値の正負と移動方向との関係を図6に示す。なお、図6中の一点鎖線の円は、4つのボロメータ11〜14それぞれの検出範囲を示す。また、図6中では、(D(t),D(t))を(A,B)と簡略化して表示した。
【0040】
移動方向判定部25では、A軸・B軸の時間的相関値D(t),D(t)の積算値の正負に基づいて4方向の判定を行う。すなわち、移動方向判定部25では、図6に示されるように、(A,B)=(+,+)のとき右方向、(A,B)=(−,+)のとき上方向、(A,B)=(−,−)のとき左方向、(A,B)=(+,−)のとき下方向に物体が移動したと判定する。なお、移動方向判定部25により判定された移動方向を示す情報は、動きの有無を示す情報と併せて、外部の電子機器などへ出力される。
【0041】
次に、図7を参照しつつ、移動方向検知装置1の動作について説明する。図7は、移動方向検知装置1による移動方向判定処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、本処理は、情報処理ユニット20において、所定の周期で繰り返し実行される。
【0042】
ステップS100では、4つのボロメータ11〜14の検出信号の和について、第1ピークP1が既に検出済みであるか否かについての判断が行われる。ここで、第1ピークP1が検出済みである場合には、ステップS106に処理が移行する。一方、第1ピークP1がまだ検出されていないときには、ステップS102に処理が移行する。
【0043】
ステップS102では、4つのボロメータ11〜14の検出信号の和について、第1ピークP1が検出されたか否かについての判断が行われる。ここで、第1ピークP1が検出された場合には、ステップS104において、第1ピークP1が検出されてから所定時間(例えば5秒)経過したか否かを判定するためのタイマが起動された後、ステップS106に処理が移行する。一方、第1ピークP1が検出されていないときには、一旦、本処理から抜ける。
【0044】
ステップS106では、第1ピークP1が検出されてから所定時間経過したか否かを判定するためのタイマがタイムアウトしたか否か、すなわち、第1ピークP1が検出されてから所定時間経過したか否かについての判断が行われる。ここで、タイマがタイムアウトしていない場合には、ステップS108に処理が移行する。一方、タイマがタイムアウトしたときには、一旦、本処理から抜ける。
【0045】
ステップS108では、第2ピークP2が検出されたか否かについての判断が行われる。ここで、第2ピークP2が検出された場合には、ステップS110に処理が移行する。一方、第2ピークP2が検出されていないときには、一旦、本処理から抜ける。
【0046】
ステップS110では、第2ピークP2検出後の所定期間の間、A軸方向の時間的相関値D(t)と、B軸方向の時間的相関値D(t)とが演算されるとともに、算出された時間的相関値D(t),D(t)が積算される。なお、A軸方向の時間的相関値D(t)、及びB軸方向の時間的相関値D(t)の求め方は上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0047】
続いて、ステップS112では、ステップS110において求められた、A軸方向の時間的相関値D(t)、及びB軸方向の時間的相関値D(t)それぞれの正負に基づいて、物体の移動方向が判定される。なお、移動方向の判定方向は上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。その後、本処理から一旦抜ける。
【0048】
ここで、図8〜10を参照しつつ、移動方向検知装置1による、人の手の移動方向の検知結果を示す。まず、図8を参照しつつ、ボロメータアレイ上で、手を右から左へ動かした場合の検知結果について説明する。図8(a)は、手の移動方向、すなわち、手が右から左へ動かされたことを示している。図8(b)は、4つのボロメータ11〜14の出力波形(検出信号の変化)を示すグラフである。グラフの横軸は時刻、縦軸は検出信号のA/D値である。図8(b)に示されるように、所定時間内に第1ピークP1及び第2ピークP2が検出されている。
【0049】
図8(c)はA軸及びB軸方向の時間的相関値(EMD値)D(t),D(t)の変化を示すグラフである。グラフの横軸は時刻、縦軸は時間的相関値(EMD値)である。なお、移動方向を判定する際には、上述したように、第2ピークP2検出後、ボロメータ11〜14の検出信号の和が「0.7×y2〜0.6×y2」となる期間、時間的相関値D(t),D(t)を積算した。図8(c)に示されるように、第2ピークP2検出後の所定期間の時間的相関値D(t),D(t)は、(A,B)=(−,−)となっており、左方向に移動したと判定される(図6参照)。よって、移動方向検知装置1による移動方向の判定結果と、実際の手の動きとが一致することが確認された。
【0050】
次に、図9を参照しつつ、ボロメータアレイに対して、手を下から近づけ右に離した場合の検知結果について説明する。図9(a)は、手の移動方向、すなわち、手が下から近づき右方向に離れたことを示している。図9(b)は、4つのボロメータ11〜14の出力波形(検出信号の変化)を示すグラフである。グラフの横軸は時刻、縦軸は検出信号のA/D値である。図9(b)に示されるように、所定時間内に第1ピークP1及び第2ピークP2が検出されている。
【0051】
図9(c)はA軸及びB軸方向の時間的相関値(EMD値)D(t),D(t)の変化を示すグラフである。グラフの横軸は時刻、縦軸は時間的相関値(EMD値)である。なお、移動方向を判定する際には、上述したように、第2ピークP2検出後、ボロメータ11〜14の検出信号の和が「0.7×y2〜0.6×y2」となる期間、時間的相関値D(t),D(t)を積算した。図9(c)に示されるように、第2ピークP2検出後の所定期間の時間的相関値D(t),D(t)は、(A,B)=(+,+)となっており、右方向に移動したと判定される(図6参照)。よって、移動方向検知装置1による移動方向の判定結果と、実際の手の動きとが一致することが確認された。
【0052】
続いて、図10を参照しつつ、ボロメータアレイに対して、手を右から近づけ下に離した場合の検知結果について説明する。図10(a)は、手の移動方向、すなわち、手が右から近づき下方向に離れたことを示している。図10(b)は、4つのボロメータ11〜14の出力波形(検出信号の変化)を示すグラフである。グラフの横軸は時刻、縦軸は検出信号のA/D値である。図10(b)に示されるように、所定時間内に第1ピークP1及び第2ピークP2が検出されている。
【0053】
図10(c)はA軸及びB軸方向の時間的相関値(EMD値)D(t),D(t)の変化を示すグラフである。グラフの横軸は時刻、縦軸は時間的相関値(EMD値)である。なお、移動方向を判定する際には、上述したように、第2ピークP2検出後、ボロメータ11〜14の検出信号の和が「0.7×y2〜0.6×y2」となる期間、時間的相関値D(t),D(t)を積算した。図10(c)に示されるように、第2ピークP2検出後の所定期間の時間的相関値D(t),D(t)は、(A,B)=(+,−)となっており、下方向に移動したと判定される(図6参照)。よって、移動方向検知装置1による移動方向の判定結果と、実際の手の動きとが一致することが確認された。
【0054】
本実施形態によれば、信号の時間的相関値D(t),D(t)を求める際に、ボロメータ素子112から出力されたセンサ信号が微分されて得られる微分信号が用いられるため、ボロメータ素子112(ボロメータ11〜14)のオフセットばらつきなど影響を無視することができる。よって、ボロメータ素子112(ボロメータ11〜14)の特性ばらつきにかかわらず、より精度よく物体の移動方向を検知することが可能となる。
【0055】
ところで、微分信号を用いる場合には、例えば、物体がボロメータ11〜14上にあったとしても、その物体が動いていないときには微分信号がゼロとなる。したがって、例えば、手などをボロメータ11〜14上まで動かして止めた場合と、ボロメータ11〜14上に何もない場合との区別がつかない。この問題に対して、本実施形態によれば、微分信号に2つのピークが現れ、かつ、第1ピークP1と第2ピークP2との時間間隔(t2−t1)が予め定められた所定時間(数秒程度)内に収まっている場合に、時間的相関値D(t),D(t)に基づいて移動方向が判定されるため、例えば手などの物体が近づいてから離れるときの移動方向のみを的確に検出することが可能となる。
【0056】
また、本実施形態によれば、マトリックス状に配列されたボロメータ11〜14のうち、マトリックスの対角線(A軸・B軸)上に位置するボロメータ11〜14毎に算出された時間的相関値D(t),D(t)の正負に基づいて、物体の移動方向が判定される。そのため、マトリックス状に配列されたボロメータ11〜14のうち、行上・列上(X軸上・Y軸上)に位置するボロメータ11〜14を用いて時間的相関値D(t)、D(t)の比から移動方向を判定する場合と比較して、時間的相関値D(t),D(t)の誤差の影響を受け難く、移動方向の誤判定をより低減することが可能となる。
【0057】
本実施形態によれば、第2ピークP2が検出された後の所定期間、時間的相関値D(t),D(t)が積算され、その積算値の正負に基づいて物体の移動方向が判定される。この場合、第2ピークP2が検出された後、時間的相関値D(t),D(t)を演算する際の時間遅れを考慮した所定期間に時間的相関値D(t),D(t)の積算が行われるため、移動方向の誤判定を低減することができる。また、所定期間、時間的相関値D(t),D(t)が積算されるため、一点の時間的相関値D(t),D(t)を用いて移動方向を判定する場合と比較して、より誤判定を低減することが可能となる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、4つのボロメータ11〜14を2行2列のマトリックス状に配置したが、ボロメータの数は4つには限られない。また、ボロメータの配置は2行2列に限られることなく、m行n列のマトリックス状であってもよい。さらに、複数のボロメータの配置は、マトリックス状に限られることなく、例えば千鳥状に配置されていてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、光センサとして赤外線を感知するボロメータ素子112を用いたが、光センサはボロメータ素子112には限られない。例えば、光センサとして、CdS素子などを用いることもできる。また、上記実施形態では、ボロメータ11〜14の出力を微分回路113により微分したが、微分信号出力型の光センサを用いてもよい。その場合、当該光センサが、特許請求の範囲に記載の光センサ及び微分手段に相当する。さらに、ハードウェアとしての微分回路113に代えて、A/D変換後にソフト的に微分処理を行う構成としてもよい。
【0060】
上記実施形態では、A軸・B軸の時間的相関値D(t),D(t)の正負に基づいて、4方向の移動方向を検知したが、動きベクトル(D(t),D(t))に基づいて、物体の移動角度を検知する構成としてもよい。
【0061】
また、上述した、時間的相関値D(t),D(t)を積算する所定期間は、上記実施形態に限られることなく、例えば、検知精度や処理負荷等を考慮して任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 移動方向検知装置
10 メタルケース
11,12,13,14 ボロメータ
111 基準抵抗器
112 ボロメータ素子
113 微分回路
114 増幅回路
20 情報処理ユニット
21 マルチプレクサ
22 A/D変換部
23 ピーク検出部
24 時間的相関値演算部
25 移動方向判定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の強度に応じたセンサ信号を出力する複数の光センサと、
前記複数の光センサそれぞれから出力された前記センサ信号を微分して微分信号を取得する微分手段と、
前記微分手段により取得された前記微分信号のピークを検出するピーク検出手段と、
前記ピーク検出手段により検出された隣り合う第1ピークと第2ピークとの時間間隔が所定時間以内の場合に、前記複数の微分信号のうち、異なる光センサにおける微分信号の時間的相関値を演算する相関値取得手段と、
前記相関値取得手段により求められた前記時間的相関値に基づいて、物体の移動方向を判定する移動方向判定手段と、を備えることを特徴とする移動方向検知装置。
【請求項2】
前記複数の光センサは、マトリックス状に配列されていることを特徴とする請求項1に記載の移動方向検知装置。
【請求項3】
前記相関値取得手段は、前記マトリックス状に配列された光センサのうち、マトリックスの対角線上に位置する異なる光センサについて、微分信号の時間的相関値を演算し、
前記移動方向判定手段は、互いに直交する前記対角線毎に算出された時間的相関値の正負の組合せに基づいて、物体の移動方向を判定することを特徴とする請求項2に記載の移動方向検知装置。
【請求項4】
前記相関値取得手段は、前記第2ピークが検出された後の所定期間、前記時間的相関値を積算し、
前記移動方向判定手段は、前記時間的相関値の積算値の正負に基づいて物体の移動方向を判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動方向検知装置。
【請求項5】
前記光センサは、ボロメータであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の移動方向検知装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−47458(P2012−47458A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186861(P2010−186861)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】