説明

移動装置

【課題】機器の誤操作の危険性がなく安全に、かつ移動台を所望する位置に容易に調整することができる移動装置を提供する。
【解決手段】腕支持装置1は、腕台3と、腕台3に作用する外力によって腕台3を移動可能に支持する複数の関節11〜15を有する多関節アーム2と、関節11〜15が各々所定の初期姿勢となるように付勢する複数の定加重ばねと、関節11〜15の動きを制動する制動トルクを制御可能な複数のパウダブレーキと、関節11〜15ごとの作動量を検知する複数のエンコーダと、腕台3に作用する力およびトルクを検知する6軸力トルクセンサと、フットスイッチ4および6軸力トルクセンサによって選択されるモード、並びに、エンコーダおよび/または6軸力トルクセンサからの検出値に基づいて複数のパウダブレーキの各々の制動量を制御する制御部と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕や物などを支持する移動台の移動を制御可能な移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳神経外科手術は、医師が手術顕微鏡で微細な手術部位を観察しつつ、メス等を用いて手作業で処置を行うため、非常に緻密な作業が要求される。また、このような手術は長時間を要するものが多い。手術中には僅かな手の震えなどによっても手術部位以外の組織を損傷させる恐れがあるため、医師は、腕を支持固定する移動装置(支持装置)を使用して手術を実施している。
【0003】
このように用いられる移動装置は、腕を支持するだけでなく、手術部位の位置に合わせて、手先の高さや向き、傾きなどを調整可能な必要がある。このような移動装置の一例として、特許文献1に微細作業用支持具が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された微細作業用支持具では、腕を支持する腕台が、上下動、回動および揺動可能に、基台、支持軸およびリンク部材で支持されている。腕台は、スプリングによる付勢力で高く位置しており、腕台上に上肢が乗せられて重さが加わると付勢力とのバランスにより適宜下降する。また、腕台は、別のスプリングで前上がりに傾くように付勢されており、上向きや下向の力を腕台に加えると前上がりや前下がりに傾斜する。
【0005】
医師は、腕台が所望の傾き、高さ、および向きになったときに足や膝等で固定用のスイッチを操作する。これにより、腕台が固定される。
【0006】
また、このような腕台は、手術に限らず微細な手作業を行う際に用いることで、腕の震えなどを防止できる。
【0007】
【特許文献1】特許第3653546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の特許文献1に記載された微細作業用支持具(移動装置)では、手術中に、医師が手先の方向や位置を動かしたい場合には、スイッチを操作して腕台(移動台)の固定状態を解除し、移動台を所望の傾き、高さ等の位置に移動し、再度スイッチを操作して腕台を固定する。ところが、移動台は、上方および前上がりに付勢されていることから、固定状態を解除した瞬間に付勢力が一気に解除されて、医師の意図に反して上方に大きく動いてしまう場合がある。逆に、付勢力よりも大きい力で移動台に力を加えていたときには、医師の意図に反して下方に大きく動いてしまう場合もある。このように、手術中に思い通りに移動台を移動することが難しく、特に移動台の位置の微調整は難しい。
【0009】
この問題を解決するために、電気モータなどの駆動によって移動台の位置を移動調整できる能動的な移動装置も考えられる。しかしながら、能動的な装置では、移動台の位置を操作する操作レバーの誤操作や、機器の誤動作による患者への危険性が伴う。誤操作を防止するためには、機器操作の十分な習熟が必要である。手術の中断を最小限にするために、操作レバーを足で操作する方式にした場合には、手で操作するよりも操作が一層難しくなるため、一層十分な習熟が必要である。
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、機器の誤操作の危険性がなく安全に、かつ所望する位置に移動台を容易に調整することができる移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の移動装置は、移動台と、該移動台に作用する外力によって該移動台を移動可能に支持する複数の可動部を有する移動機構と、該移動機構に付されて該各可動部が各々所定の初期姿勢となるように付勢する複数の付勢機構と、該移動機構に付されて該可動部ごとの動きを制動する制動量を制御可能な複数の電気制御ブレーキと、該移動機構に付されて該可動部ごとの作動量を検知する複数の作動量センサと、該移動台または該移動機構に付されて該移動台に作用する力および/またはトルクを検知する力覚センサと、動作モードを選択されるモード選択手段と、該動作モード選択手段によって選択されるモード、並びに、該作動量センサおよび/または該力覚センサからの検出値に基づいて該複数の電気制御ブレーキの各々の制動量を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この制動量は、制動力や制動トルクを含んだ概念である。
【0013】
請求項2に記載の移動装置は、請求項1に記載されたもので、前記移動台は、オペレータの腕を支持する腕台であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記モード選択手段によって、前記移動台を微動速度で移動すべき微動モードか、該移動台を該微動速度よりも早い粗動速度で移動すべき粗動モードか、該移動台の待機位置に移動すべき待機位置モードか、該移動台を固定すべき固定モードかを選択されて、該制御部は、前記各モードに応じた制動量で前記複数の電気制動ブレーキを制御することを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の移動装置は、請求項3に記載されたもので、前記制御部は、前記微動モードのときに、前記力覚センサの検出値に基づいて、前記移動台に作用する外力方向に、外力に対応した速度量で該移動台が動くように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする。
【0016】
この速度量は、速度や角速度を含んだ概念である。
【0017】
請求項5に記載の移動装置は、請求項3に記載されたもので、前記制御部は、前記微動モードのときに、前記力覚センサの検出値に基づいて、前記移動台に作用する外力方向に、一定の速度量で該移動台が動くように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする。
【0018】
この速度量には、速度や角速度を含んだ概念である。
【0019】
請求項6に記載の移動装置は、請求項3に記載されたもので、前記制御部は、前記粗動モードのときに、前記力覚センサの検出値に基づいて、前記移動台に作用する外力方向に、該移動台が前記微動モード時の速度量よりも速い一定の速度量で移動するように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の移動装置は、請求項3に記載されたもので、前記制御部は、前記待機位置モードのときに、前記作動量センサの検出値に基づいて、前記複数の可動部を、各々所定の速度量で前記初期姿勢となるよう前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の移動装置は、請求項7に記載されたもので、前記制御部は、前記複数の可動部を順番に1つずつ前記初期姿勢となるように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の移動装置は、請求項8に記載されたもので、前記制御部は、前記各可動部を、前記移動台に近い側から順番に前記初期姿勢となるように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする。
【0023】
請求項10に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記モード選択手段は、前記力覚センサの検出値と所定の閾値とを比較してモードが選択されることを特徴とする。
【0024】
請求項11に記載の移動装置は、請求項10に記載されたもので、前記制御部は、前記閾値としての第1の閾値、および第2の閾値に基づいて判別し、前記移動台の所定方向に作用する外力の大きさが、第1の閾値を超えるときに前記粗動モード、該第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上のときに前記微動モードと判別することを特徴とする。
【0025】
請求項12に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記モード選択手段は、操作スイッチを備えていることを特徴とする。
【0026】
請求項13に記載の移動装置は、請求項12に記載されたもので、前記制御部は、前記操作スイッチの接点状態に基づいて、前記固定モードか否かを判別することを特徴とする。
【0027】
請求項14に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記モード選択手段は、マイクおよび音声認識回路を備えていることを特徴とする。
【0028】
請求項15に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記可動部が関節でなる多関節アームで前記移動機構が構成されていることを特徴とする。
【0029】
請求項16に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記移動機構には、無電源時に作動して前記複数の可動部の各々を固定する複数の無励磁作動ブレーキが付されていることを特徴とする。
【0030】
請求項17に記載の移動装置は、請求項16に記載されたもので、前記複数の無励磁作動ブレーキへの電源の供給を停止させる非常停止スイッチが付されていることを特徴とする。
【0031】
請求項18に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記電気制御ブレーキは、パウダブレーキ、ヒステリシスブレーキ、電気粘性流体ブレーキ、または磁性流体ブレーキのいずれかであることを特徴とする。
【0032】
請求項19に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記作動量センサは、エンコーダ、またはポテンショメータであることを特徴とする。
【0033】
請求項20に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記力覚センサは、6軸力トルクセンサ、または3軸力センサであることを特徴とする。
【0034】
請求項21に記載の移動装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記付勢機構は、定荷重ばね、コイルばね、ねじりコイルばね、板ばね、ゴム、またはカウンタウエイトを備えて付勢するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明の移動装置は、付勢機構で付勢された移動台を、移動台に作用する外力で移動可能に支持する複数の可動部を有する移動機構に付された、可動部の動きを制動する複数の電気制御ブレーキを、制御部が、モード選択手段によって選択されるモード、並びに、作動量センサおよび/または力覚センサの検出値に基づいて各制動量を制御するものである。このため、移動台の移動が制動されて、付勢力や外力によって移動台が意図以上に大きく速く動くことが防止されて、作業中であっても安全かつ所望する位置に確実に調整することができる。さらに、例えばオペレータの腕の力などの外力で移動台が位置調整されるため、例えば電気モータなどで能動的に移動させる装置と比較して、誤操作の危険性がなく安全である。
【0036】
移動装置は、移動台がオペレータの腕を支持する腕台であることにより、腕の位置調整を安定して確実に行うことができる。
【0037】
移動装置は、モード選択手段によって、移動台を微動モードか、粗動モードか、待機位置モードか、固定モードかを選択されて、制御部は、前記各モードに応じた制動量で電気制動ブレーキを制御する。これにより、作業箇所まで粗動モードで迅速に移動台を移動させ、作業箇所近くでは微動モードで所望する位置にゆっくりと確実に調整することができる。僅かな位置変更も微動モードで確実に所望する位置に調整することができる。さらに、待機位置モードを備えることで、付勢機構による付勢力で自動的に、しかも安全な速度で待機位置まで移動台を戻すことができる。さらに、固定モードを備えることで、位置調整した移動台を確実に固定することができる。
【0038】
移動装置は、制御部が微動モードのときに、力覚センサの検出値に基づいて、移動台に作用する外力方向に、外力に対応した速度量で移動台が動くように複数の電気制御ブレーキの制動量を制御する。これにより、オペレータが所望する方向にのみ移動台が移動して、さらに、オペレータの外力の掛け具合で移動台の速さが変化するため、オペレータの意思を細やかに反映させた微動速度で移動台の位置調整を確実に行うことができる。
【0039】
移動装置は、微動モードのときに、制御部が力覚センサの検出値に基づいて、移動台に作用する外力方向に、一定の速度量で移動台が動くように複数の電気制御ブレーキの制動量を制御する。これにより、オペレータの移動台に作用させる外力の大小にかかわらず一定の速度で動くため、位置調整を確実に行うことができる。
【0040】
移動装置は、粗動モードのときに、制御部が力覚センサの検出値に基づいて、移動台に作用する外力方向に、移動台が微動モード時の速度量よりも速い一定の速度量で移動するように複数の電気制御ブレーキの制動量を制御する。これにより、オペレータは所望の方向に移動台を迅速に位置調整することができる。
【0041】
移動装置は、待機位置モードのときに、制御部が作動量センサの検出値に基づいて、複数の可動部を、各々所定の速度量で初期姿勢となるよう複数の電気制御ブレーキの制動量を制御する。この場合の速度量を危険のない速さとすることにより、安全である。
【0042】
移動装置は、制御部が、複数の可動部を順番に1つずつ初期姿勢となるように複数の電気制御ブレーキの制動量を制御する。これにより、可動部が一度に全部動かないため、一層安全である。
【0043】
移動装置は、制御部が、移動台に近い側から順番に初期姿勢となるように複数の電気制御ブレーキの制動量を制御する。これにより、オペレータとの接触や衝突が確実に防止されて、一層安全である。
【0044】
移動装置では、力覚センサの検出値が所定の閾値を超えるか否かでモードが選択されることで作業を中断することなく迅速にモード変更することができる。
【0045】
移動装置では、第1の閾値、および第2の閾値に基づいて判別し、移動台の所定方向に作用する外力の大きさが、第1の閾値を超えるときに粗動モード、第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上のときに微動モードと判別する。これにより、例えば、操作スイッチを操作するよりも迅速にモード切換することができ、かつ作業中の姿勢のままモード切換することができる。
【0046】
移動装置では、モード選択手段は、操作スイッチを備えて構成されていることにより、モード選択を確実に行うことができる。
【0047】
移動装置では、制御部が操作スイッチの接点状態に基づいて固定モードか否かを判別することにより、操作スイッチの操作で移動台を確実に固定でき、安全である。
【0048】
移動装置では、モード選択手段は、マイクおよび音声認識回路を備えて構成されていることにより、作業の中断や姿勢の変化なく、音声によりモード切換することができる。
【0049】
移動装置は、可動部が関節でなる多関節アームで移動機構が構成されていることにより、腕台を複数の自由度でスムーズに移動させることができる。
【0050】
移動装置では、移動機構に、無電源時に作動して複数の可動部の各々を固定する複数の無励磁作動ブレーキが付されていることにより、たとえ停電などで電源の供給が停止したとしても、腕台が固定されるため、安全である。
【0051】
移動装置では、複数の無励磁作動ブレーキへの電源の供給を停止させる非常停止スイッチが付されていることにより、万が一、機器が誤動作したとしても、非常停止スイッチの操作で移動台が即座に固定されるため、安全である。
【0052】
移動装置では、電気制御ブレーキがパウダブレーキ、ヒステリシスブレーキ、電気粘性流体ブレーキ、または磁性流体ブレーキのいずれかであることにより、制動量を安定して確実かつスムーズに可変することができ、腕台をスムーズに位置調整することができる。
【0053】
移動装置では、作動量センサがエンコーダ、またはポテンショメータであることにより、制御部が可動部の作動量を正確に検知できるため、移動台をスムーズに位置調整することができる。
【0054】
移動装置では、力覚センサが6軸力トルクセンサ、または3軸力センサであることにより、移動台に作用する外力を全方位で精細に検知可能なため、所望の位置に正確に位置調整できる。
【0055】
移動装置では、付勢機構が定荷重ばね、コイルばね、ねじりコイルばね、板ばね、ゴム、またはカウンタウエイトを備えて付勢するものであることにより、簡便な構造とすることができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0056】
以下、本発明の実施の好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0057】
図1には、本発明の移動装置の一実施形態である腕支持装置が、椅子に装着されている状態での斜視図が示されている。この腕支持装置1は、一例として、脳神経外科手術や脳外科手術の際に、手術を行う医師が腕を支持固定するために用いられるものである。また、図2には、腕支持装置1の右側(図1の椅子の外側)から観察した側面図、図3には、腕支持装置1の左側(図1の椅子の内側)から観察した側面図、図4には、腕支持装置1の上面図が示されている。図2〜図3では、椅子の図示は省略している。なお、本明細書中で右、左、前、後などの方向を説明する場合には、椅子30に座った医師から見た場合の方向で記載する。
【0058】
図1に示されるように、腕支持装置1は、椅子30の座面31の裏側後部から右手側方に突出する取付台32aに装着されている。なお、椅子30の座面の裏側後部から左手側方に突出する取付台32bにも、腕支持装置1の左右対称形のものが装着されるが、左右対称形である以外は同様のものであるため、図示や説明を省略する。
【0059】
腕支持装置1は、多関節アーム2、腕台3、フットスイッチ4、非常停止スイッチ5、および制御ボックス6を備えている。
【0060】
多関節アーム2は、腕台3に作用する外力によって腕台3を移動可能に支持する複数の可動部を有する移動機構であって、この例では、可動部である5つの関節11,12,13,14,15を有して5自由度に構成されている。関節11〜15は回転関節であり、これらによって、多関節アーム2は、支持部16、肩部17、第1腕部18、第2腕部19、第3腕部20、先端部21が連結されている。以下、図1〜図4を参照しつつ具体的に説明する。
【0061】
支持部16は、その上部までの高さを調整可能な回転ハンドルを備え、椅子30に固定される。支持部16の上部には、関節11を介することで肩部17が回動自在に連結されている。関節11は、その回転軸が垂直方向を向いており、肩部17は、図2に太線矢印で示されるように、首振り回動する。
【0062】
支持部16には、その上部に、関節11の回動を制動するパウダブレーキ11a、関節11の回動した量を検知するエンコーダ11b、および関節11の回動を無電源時に固定する無励磁作動ブレーキ11cが付されている。また、肩部17の下部には、関節11の動きを所定の初期姿勢となるように付勢する定荷重ばね11dが付されている。関節11の初期姿勢は、一例として、肩部17に連結される第1腕部18が、椅子の側面に対して30度の角度で開いた姿勢とする。関節11は、この初期姿勢を可動限界として、初期姿勢よりも内側(椅子30側)の範囲で回動する。
【0063】
肩部17には、関節12を介することで、一例として約35cmの長さの第1腕部18の端部が回動自在に連結されている。関節12は、その回転軸が水平方向を向いており、図2に太線矢印で示されるように、第1腕部18は関節12を支点にして上下方向に往復回動する。この第1腕部18は、平行リンクで構成されている。
【0064】
肩部17には、関節12の回動を制動するパウダブレーキ12a、関節12の回動した量を検知するエンコーダ12b、関節12の回動を無電源時に固定する無励磁作動ブレーキ12c、および、関節12の動きを所定の初期姿勢となるように付勢する定荷重ばね12dが付されている。関節12の初期姿勢は、一例として、水平面に対して第1腕部18の先端側が下向きに30度の角度で下がった姿勢とする。関節12は、この初期姿勢を可動限界として、初期姿勢よりも下側の範囲で回動する。
【0065】
第1腕部18の先端には、関節13を介することで、一例として約35cmの長さの第2腕部19の端部が回動自在に連結されている。関節13は、その回転軸が水平方向に向いており、図2に太線矢印で示されるように、第2腕部19は関節13を支点にして上下方向に往復回動する。この第2腕部19は、平行リンクで構成されている。また、第2腕部19には、関節13近くに、第2腕部19を吊り持ち支持してその動きを可動可能に保持する支持ロッド19aが連結されている。支持ロッド19aは、その他端が肩部17に設けられた第2腕支持部19bに連結されている。
【0066】
肩部17の第2腕支持部19bには、関節13の回動を制動するパウダブレーキ13a、関節13の回動した量を検知するエンコーダ13b、関節13の回動を無電源時に固定する無励磁作動ブレーキ13c、および、関節13の動きを所定の初期姿勢となるように付勢する定荷重ばね13dが付されている。これらによる制動力や付勢力は、支持ロッド19aによって第2腕部19に伝達されている。関節13の初期姿勢は、一例として、第1腕部18に対して90度の角度の位置とする。関節13は、この初期姿勢を可動限界として、初期姿勢よりも開度が大きな角度となる範囲で回動する。
【0067】
第2腕部19の先端には、関節14を介することで第3腕部20が回動自在に連結されている。関節14は、その回転軸が水平方向に向いており、図2に太線矢印で示されるように、第3腕部20は関節14を支点にして前後方向に回動する。関節12〜14の回転軸は、略平行に設けられている。第3腕部20には、関節14近くに、第3腕部20を支持してその動きを規定する支持ロッド20aが連結されている。支持ロッド20aは、その他端が関節13近くに設けられた第3腕支持部20bに連結されている。
【0068】
第3腕支持部20bは、支持ロッド20aを可動可能に支持している。この第3腕支持部20bには、関節14の回動を制動するパウダブレーキ14a、関節14の回動した量を検知するエンコーダ14b、関節14の回動を無電源時に固定する無励磁作動ブレーキ14c、および、関節14の動きを所定の初期姿勢となるように付勢する定荷重ばね14dが付されている。これらによる制動力や付勢力は、支持ロッド20aによって第3腕部20に伝達される。関節14の初期姿勢は、一例として、第2腕部19に対して、後述する腕台3の支柱3dの角度が90度の角度の位置とする。関節14は、この初期姿勢を可動限界として、初期姿勢よりも開度が大きな角度となる範囲で回動する。
【0069】
第3腕部20には、関節15を介することで先端部21が回動自在に連結されている。関節15の回転軸は、関節14の回転軸に直交しており、図2に太線矢印で示されるように、先端部21は首振り回動する。
【0070】
先端部21には、関節15の回動を制動するパウダブレーキ15a、関節15の回動した量を検知するエンコーダ15b、関節15の回動を無電源時に固定する無励磁作動ブレーキ15c、および、関節15の動きを所定の初期姿勢となるように付勢する定荷重ばね15dが付されている。関節15の初期姿勢は、一例として、後述する腕台3の支持棒3cが、第1腕部18に沿った面に平行になる位置とする。関節15は、この初期姿勢を可動限界として、初期姿勢よりも、後述する手支持台3bが内側(椅子30側)に近づく範囲に回動する。
【0071】
先端部21には、6軸力トルクセンサ8を介して、腕台3を支持する支柱3dが取り付けられている。6軸力トルクセンサ8は、力覚センサの一例であって、3軸方向の力、および3軸まわりのトルクを検知するものである。この6軸力トルクセンサ8は、モード選択手段としても機能する。
【0072】
上記したパウダブレーキ11a〜15aは、電気制御ブレーキの一例であって、制動伝達媒体に磁性粉体(パウダー)を用いて、制御電流に比例した制動トルク(制動量の一例)を発生させるものであり、安定して確実かつスムーズに制動トルクを調整可能なものである。さらに、パウダブレーキ11a〜15aは、関節11〜15の回動を停止させて固定(ロック)させる制動トルクを有するものである。
【0073】
エンコーダ11b〜15bは、作動量センサの一例であって、関節11〜15の回転変位量、または回転角変位量などの動きの量に基づいたディジタルパルス信号を出力する。この場合、回転式のエンコーダを用いている。
【0074】
無励磁作動ブレーキ11c〜15cは、電源供給時には無制動で自在に回動するが、無電源時に制動トルクを発揮させるブレーキで、関節11〜15の回動を停止させ固定する制動トルクを有するものである。
【0075】
定荷重ばね11d〜15dは、付勢機構の一例であって、関節の回転位置が変化しても荷重及びトルクがほぼ一定なばねである。定荷重ばねを用いることで、簡便な装置とすることができると共に、各関節11〜15の回転する角速度を容易に制御することができる。
【0076】
腕台3は、移動台の一例であって、オペレータである医師の腕を載せて支持可能なものであり、前腕支持台3aおよび手支持台3bで構成されている。前腕支持台3aは、医師の前腕にフィットして支持するように、樹脂によって上向きの浅い略U字型に形成されている。この前腕支持台3aは、6軸力トルクセンサ8に取り付けられた支柱3dの上部に固定されている。手支持台3bは、手の平の側面を載せて支持するように、前腕支持台3aよりも小さな大きさで、樹脂によって上向きの浅い略U字型に形成されている。図2、図3に示されるように、手支持台3bは、前腕支持台3aの下部から前方に伸びる金属製の支持棒3cの先端に固定されている。支持棒3cは、前腕支持台3aを固定する支柱3dに蝶ナット2本で、手支持台3bの前後方向の位置を調整可能に取り付けられている。
【0077】
腕台3は、関節11〜15が各々の所定の初期姿勢となるように付勢されていることで、待機位置に向けて付勢されている。この付勢力は、腕台3に何も載せられていないときに腕台3を待機位置に移動させ、腕台3の使用時には腕から掛けられる力に支持バランスさせ、医師に適度な反力を与えつつ腕台3の位置を容易に調整可能な付勢力である。腕台3の待機位置は、一例として、医師が椅子30に座った際に医師の術野に対して上方後方で椅子30よりも外側に位置するものであって、腕支持装置1を使用しないときに医師に干渉しない位置であり、再度の使用時に無理なく容易に使用開始できる位置である。
【0078】
フットスイッチ4は、モード選択手段としての操作スイッチの一例であって、図1に示されるように、椅子30の足置台33に備えられて、腕支持装置1の作動モードを固定モードか他のモードかを足で切換操作されるものである。このフットスイッチ4は、踏み込み操作するたびにON/OFF(接点状態)が切り換わる。
【0079】
非常停止スイッチ5は、一例として、腕台3の支柱3dの医師側の側面に設けられた押しボタンスイッチであって、腕台3を緊急固定させるスイッチとして機能する。
【0080】
制御ボックス6は、図1に示されるように椅子30の台座部分に配され、腕支持装置1の作動を制御する制御部などを内蔵する。上記したフットスイッチ4、非常停止スイッチ5、6軸力トルクセンサ8、パウダブレーキ11a〜15a、エンコーダ11b〜15b、および無励磁作動ブレーキ11c〜15cは、各々電気配線(非図示)で制御ボックス6に接続されている。
【0081】
図5には、電気系統図が示されている。制御ボックス6には、制御部9、電源部40、D/A変換器11e〜15e、ドライバ11f〜15f、カウンタ11g〜15g、A/D変換器41、およびアンプ42が備えられている。
【0082】
制御部9は、中央演算装置、動作プログラムや制御用の変数などが記憶されるROM、演算処理に使用されるRAM、外部機器とのインタフェース回路、基準クロック信号を生成用の水晶発振器(共に非図示)などを備えて腕支持装置1の動作を制御する。
【0083】
図5に示されるように、制御部9には、フットスイッチ4が接続されて、このフットスイッチ4のON/OFF信号が入力される。また、制御部9には、6軸力トルクセンサ8によって検知された検知信号が、アンプ42で増幅されて、さらにA/D変換器41でアナログ/ディジタル変換されて入力される。また、制御部9は、出力する5系統の制動制御信号を出力し、この制動制御信号がD/A変換器11e〜15eでディジタル/アナログ変換され、さらに、ドライバ11f〜15fで駆動信号となって、パウダブレーキ11a〜15aを各々独立して制御する。さらに、制御部9には、エンコーダ11b〜15bによって出力されるパルス信号が、カウンタ11g〜15gによってカウントされて検知信号として入力される。この検知信号に基づいて、制御部9は、関節11〜15の回転する角速度や回転角度、回転位置を判別することができる。
【0084】
電源部40は、商用100Vの交流電源(非図示)に接続されて、腕支持装置1の各部に電源供給する。この電源部40から、無励磁作動ブレーキ11c〜15cに電源供給されている。さらに、電源部40には、非常停止スイッチ5が接続されている。電源部40は非常停止スイッチ5が押下されたときに、即座に無励磁作動ブレーキ11c〜15cへの電源供給を停止可能に構成されている。このため、この腕支持台1では、停電などで電源供給が停止された時、および、非常停止スイッチ5が押下された時には、制御部9による処理には無関係に、電源部40から無励磁作動ブレーキ11c〜15cへの電源供給が即座に停止されて、関節11〜15の動きが即座に固定される。これにより、腕台3の動きが固定されて安全である。
【0085】
次に、腕支持装置1の動作および制御方法の一例を、図6に示されるフローチャートに従って説明する。
【0086】
図6のフローチャートに示されるように、制御部9が作動を開始するとまず中央演算処理装置が動作プログラムをROMから読み込むなどの初期化を行う(ステップ61)。続いて、ループ処理を開始する(ステップ62)。このループ処理では、制御部9は、フットスイッチ4がONかOFFかを判別し(ステップ63)、ONであれば腕台3の動きを固定すべき固定モード処理を開始する(ステップ64)。この場合、制御部9は、全てのパウダブレーキ11a〜15aを固定させる制動トルクに制御する(ステップ65)。これにより、関節11〜15の動きが固定されて、腕台3が固定される。
【0087】
ステップ63で、制御部9は、フットスイッチ4がONされてないときには、6軸力トルクセンサ8の検出値を読み取る(ステップ66)。
【0088】
制御部9は、読み込んだ6軸力トルクセンサ8の検出値に基づいて、腕台3を待機位置に移動すべき待機位置モードか否かを判別する(ステップ67)。待機位置モードとは、腕台3を待機位置に自動的に移動させるモードである。待機位置モードとする判別条件は、一例として、腕台3に外力が所定時間作用していないとき、つまり腕台3に腕が所定時間載せられておらず、6軸力トルクセンサ8によって腕台3のみの重さが検知される場合とする。制御部9は、待機位置モードと判別したときに待機位置モード処理を開始する(ステップ68)。
【0089】
この場合には、制御部9は、パウダブレーキ11a〜15aの制動トルクを決定する制動量決定処理A1を行う(ステップ69)。制御部9は、制動量決定処理A1で決定された制動トルクにパウダブレーキ11a〜15aを制御して(ステップ70)、その状態を維持してステップ62に戻る。制動量決定処理A1については後述する。
【0090】
制御部9は、ステップ67で待機位置モードでないと判別したときは、粗動モードか否かを判別する(ステップ71)。粗動モードとは、腕台3を素早く動かして、手術部位近くまで、大まかに位置を調整するモードである。なお、粗動モードのときに腕台3を動かす速度・角速度を粗動速度ともいう。粗動モードとする判別条件は、腕台3の所定方向に作用する力の大きさが第1の閾値を超える場合とする。この所定方向とは、一例として、腕台3の前腕支持台3aを支持する支柱3dの軸方向に、その向きを前腕支持台3aから支柱3dに向かう方向とする。また、第1の閾値とは、一例として、腕台3に腕が載せられているか否か判別可能な値とする。つまり、軽い力で前腕支持台3aを支柱3d方向に押しているときには、粗動モードになる。
【0091】
制御部9は、粗動モードと判別したときに粗動モード処理を開始する(ステップ72)。この場合、制御部9は、パウダブレーキ11a〜15aの制動トルクを決定する制動量決定処理A2を行う(ステップ73)。制御部9は、制動量決定処理A2で決定された制動トルクにパウダブレーキ11a〜15aを制御して(ステップ74)、その状態を維持してステップ62に戻る。制動量決定処理A2については後述する。
【0092】
制御部9は、ステップ71で粗動モードでないと判別したときは、微動モードか否かを判別する(ステップ75)。微動モードとは、腕台3をゆっくりと動かして、その位置を微調整するモードである。なお、微動モードのときに腕台3を動かす速度・角速度を微動速度ともいう。微動モードとする判別条件は、前記した所定方向に腕台3に作用する力の大きさが第2の閾値以上の場合とする。第2の閾値は第1の閾値よりも大きな値とする。第2の閾値とは、一例として、医師が手術を行う際に前腕支持台3aに掛かる力の垂下方向の力よりも若干大きな力とする。つまり、所定の強い力で前腕支持台3aを支柱3d方向に押しているときには、微動モードになる。
【0093】
制御部9は、微動モードと判別したときに微動モード処理を開始する(ステップ76)。この場合、制御部9は、パウダブレーキ11a〜15aの制動トルクを決定する制動量決定処理A3を行う(ステップ77)。制御部9は、制動量決定処理A3で決定された制動トルクでパウダブレーキ11a〜15aを制御して(ステップ78)、その状態を維持してステップ62に戻る。制動量決定処理A3については後述する。
【0094】
制御部9は、ステップ75で微動モードでないと判別したときにはエラーであるとして(ステップ79)、ステップ62に戻る。
【0095】
制御部9は、このステップ62からループ終了のステップ80までのループを短い時間間隔で繰り返し実行する。
【0096】
次に、図7に示されるフローチャートに従って、待機位置モードにおける制動量決定処理A1について説明する。
【0097】
制動量決定処理A1では、先ず制御部9は、エンコーダ15bの検出値に基づいて関節15が初期姿勢にあるか否かを判別する(ステップ101)。制御部9は、関節15が初期姿勢に無いと判別したときは、エンコーダ11bの検出値から、関節15の現在の角速度を算出し、ROMに記憶されている格納速度である目標角速度との差分を計算する(ステップ102)。この目標角速度は、腕台3から医師が手を外したときに腕台3が自動的に動いて待機位置まで戻るのに危険のない安全なゆっくりとした角速度であり、予めROMに設定しておく。
【0098】
続いて、制御部9は、計算した差分に基づいて、関節15が目標角速度になるような制動トルクを計算して、パウダブレーキ15aの制動トルクを決定すると共に、パウダブレーキ11a〜14aの制動トルクを関節11〜14が固定される制動トルクに決定する(ステップ103)。
【0099】
制御部9は、ステップ101で関節15が初期姿勢にあると判別したときは、エンコーダ14bの検出値に基づいて関節14が初期姿勢にあるか否かを判別する(ステップ104)。制御部9は、関節14が初期姿勢に無いと判別したときは、エンコーダ14bの検出値から、関節14の現在の角速度を算出し、目標角速度との差分を計算する(ステップ105)。続いて、制御部9は、計算した差分に基づいて、関節14が目標角速度になるような制動トルクを計算して、パウダブレーキ14aの制動トルクを決定すると共に、パウダブレーキ11a〜13aは関節11〜13が固定される制動トルクに決定する(ステップ106)。すでに初期姿勢にある関節15のパウダブレーキ15aは無制動とする(ステップ106)。なお、以下のステップ109,112,115,116では、すでに初期姿勢にある関節のパウダブレーキは無制動とする。制御部9は、ステップ104で関節15が初期姿勢にあると判別したときは、関節13が初期姿勢にあるか否かを判別する(ステップ107)。
【0100】
以下、同様にして、制御部9は、ステップ107で、関節13が初期姿勢に無いと判別したときには、ステップ108で目標角速度と関節13の現在の角速度との差分を計算して、ステップ109で、関節13が目標角速度になるような制動トルクを計算して、パウダブレーキ13aの制動トルクを決定する。また、ステップ109で、パウダブレーキ11a,12aの制動トルクを、関節11,12が固定される制動トルクに決定する(ステップ109)。ステップ107で関節13が初期姿勢にあると判別したときは、ステップ110を実行する。
【0101】
さらに、制御部9は、関節12が初期姿勢に無いとき(ステップ110)は、ステップ111,112で関節12を目標角速度にするようにパウダブレーキ12aの制動トルクを決定し、パウダブレーキ12aの制動トルクを関節12が固定される制動トルクに決定する。ステップ110で、関節12が初期姿勢にあるときは、制御部9は、ステップ113を実行する。さらに、制御部9は、関節11が初期姿勢に無いとき(ステップ113)は、ステップ114,115で関節11を目標角速度にするようにパウダブレーキ11aの制動トルクを決定する。制御部9は、ステップ113で、関節11が初期姿勢にあると判別したときは、待機位置モードを終了する(ステップ116)。
【0102】
このように制動トルクを決定することで、待機位置モードでは、多関節アーム2が危険のないゆっくりとした格納速度で動くため安全である。また、手術部位に近い関節から順番で、つまり関節15、関節14、関節13、関節12、関節11の順番で、1つずつ初期姿勢に戻るため、医師との接触や衝突が防止されて一層安全である。また、移動による機器の衝撃もない。
【0103】
次に、図8に示されるフローチャートに従って、粗動モードにおける制動量決定処理A2について説明する。
【0104】
説明するにあたり、図10に示されるように、6軸力トルクセンサ8のX,Y,Z軸方向の力成分検出値をFx,Fy,Fzとし、そのX,Y,Z軸回りのモーメント成分の検出値をMx,My,Mzとする。また、同図に示されるように、手支持台3bの先端部のX,Y,Z軸方向の速度成分をVx,Vy,Vzとし、そのX,Y,Z軸回りの角速度成分をωx,ωy,ωzとする。なお、手支持台3bの先端部を単に腕台3先端部ともいう。
【0105】
制動量決定処理A2では、制御部9は、6軸力トルクセンサ8の検出値のZ軸成分の力Fzが0よりも大きいか否か判別する(ステップ120)。力成分Fzが、0よりも大きいとき、すなわち、腕台3から下方向に力が掛っている場合に、制御部9は、6軸力トルクセンサ8の検出値から式(1)によって6軸力トルクの方向ベクトルFunitに変換する(ステップ121)。この変換によって、方向のみを示すベクトルFunitとなる。
【0106】
【数1】

【0107】
次に制御部9は、式(2)によって腕台先端速度・角速度ベクトルVを算出する(ステップ122)。
【0108】
【数2】

式(2)のC−1は、次の式(3)で示される粘性マトリクスCの逆行列である。
【0109】
【数3】

式(3)のCpos1は軸方向、Crot1は軸回りの腕台3の動きの粘性を規定する固定値であって、予め実験等で決定された値である。この場合、制御部9がパウダブレーキ11a〜15aを作動させつつ、腕台3を一定の力で動かすことのできる最大の速度・角速度となるような値に決定する。
【0110】
腕台先端速度・角速度ベクトルVは、次の式(4)で表わされる。
【0111】
【数4】

【0112】
続いて制御部9は、関節11〜15の各関節速度ベクトルSを、ヤコビ行列を用いた逆運動学演算である式(5)から算出し、関節11〜15の目標角速度を算出する(ステップ123)。
【0113】
【数5】

式(5)のJ−1は、多関節アーム2のヤコビ逆行列である。
【0114】
次に制御部9は、その各目標角速度からパウダブレーキ11a〜15aの制動トルクを決定し(ステップ124)、制動量決定処理A2を終了する。
【0115】
ステップ120で、制御部9は、力成分Fzが0よりも大きくないと判別したとき、つまり、腕台3に腕からの重さが掛っていないと判別したときには、腕台3を上方に移動させるものとして、腕台先端速度・角速度ベクトルVを、次の式(6)の固定値とする(ステップ125)。
【0116】
【数6】

式(6)のCONST1は、速いが安全な速度であって実験的に決められる。この腕台先端速度・角速度ベクトルVは、腕台3先端部がCONST1の速度で上方に移動することを意味している。
【0117】
続いて制御部9は、ステップ124で制動トルクを決定し、制動量決定処理A2を終了する。
【0118】
このように制動トルクを決定することで、粗動モードでは、何れの方向にも一定の力で速く腕台3を動かすことができる。また、腕台3に力を掛けなければ、上方にCONST1の速度で移動する。このとき腕台3の移動する速度は、微動速度よりも速い速度・角速度で移動するように設定しておくことで、医師は、所望の方向に腕台3を迅速に位置調整することができる。
【0119】
次に、図9に示されるフローチャートに従って、微動モードにおける制動量決定処理A3について説明する。
【0120】
制動量決定処理A3では、制御部9は、6軸力トルクセンサ8の検出値のZ軸成分の力Fzが0よりも大きいか否か判別する(ステップ130)。力Fzが、0よりも大きいとき、すなわち、腕台3から下方向に力が掛っている場合に、制御部9は、6軸力トルクセンサ8の検出値を、式(7)の6軸力トルクFとする(ステップ131)。6軸力トルクFには、力やトルクの大きさおよび方向が含まれる。
【0121】
【数7】

【0122】
次に制御部9は、次の式(8)で示される粘性マトリクスCを用いて、前述した式(2)のFunitをFに換えて計算して、腕台先端速度・角速度ベクトルVを算出する(ステップ132)。
【0123】
【数8】

式(8)のCpos2は軸方向、Crot2は軸回りの腕台3の動きの粘性を規定する固定値であって、予め実験等で決定された値である。この場合、粗動モードで腕台3が動く速度・角速度もゆっくりと動くような値に設定する。
【0124】
続いて制御部9は、関節11〜15の各関節速度ベクトルSを前述した式(5)から算出し、目標角速度とする(ステップ133)。
【0125】
次に制御部9は、その各目標角速度からパウダブレーキ11a〜15aの制動トルクを決定し(ステップ134)、制動量決定処理A2が終了する。
【0126】
ステップ130で、制御部9は、力成分Fzが0よりも大きくないと判別したとき、つまり、腕台3に腕からの重さが掛っていないと判別したときには、腕台3を上方に移動させるものとして、腕台先端速度・角速度ベクトルVを、次の式(9)の固定値とする(ステップ135)。
【0127】
【数9】

式(9)のCONST2は、CONST1の速度よりも遅い速度であって実験的に決められる。
【0128】
続いて制御部9は、ステップ134で制動トルクを決定し、制動量決定処理A3を終了する。
【0129】
このように処理することで、微動モードでは、医師が所望する方向にのみ移動台が移動して、さらに、医師の腕の力の掛け具合で移動台の移動速度が変化するため、医師の意思を細やかに反映させた微動速度で腕台3の位置調整を確実に行うことができる。また、腕台3に力を掛けなければ、上方にCONST2の速度でゆっくりと移動して位置調整を確実に行うことができる。
【0130】
このように、この腕台支持装置1では、固定モード、待機位置モード、粗動モード、および微動モードを切り換えて腕台3を使用できる。いずれのモードでも、間接11〜15が制御された制動トルクで制動されるため、腕台3の移動が規制されて、付勢力や外力によって腕台3が意図以上に大きく速く動くことが防止されて、作業中であっても安全かつ所望する位置に確実に調整することができる。さらに、医師の腕の力で腕台3が位置調整されるため、例えば電気モータなどで能動的に移動させる装置と比較して、誤操作の危険性がなく安全である。また、定加重ばね11d〜15dを備えたことで、多関節アーム2の自重が支えられるだけでなく、待機位置まで腕台3を外力によらず移動させることができ、さらに、医師の腕に反力を提示することができる。医師は、腕に反力がかかるため、安定して操作することができる。
【0131】
この腕台支持装置1では、手術部位付近まで粗動モードで迅速に移動台を移動させ、手術部位近くでは微動モードで所望する位置にゆっくりと確実に調整することができる。僅かな位置変更も微動モードで確実に所望する位置に調整することができる。さらに、待機位置モードを備えることで、定荷重ばね11d〜15dによる付勢力で自動的に、しかも安全な速度で待機位置まで腕台3を戻すことができる。さらに、固定モードを備えることで、位置調整後の腕台3を確実に固定することができる。
【0132】
上記した腕台支持装置1では、モード選択手段として、固定モードを選択するものとしてフットスイッチ4が備えられ、微動モード、粗動モード、待機位置モードを選択するものとして6軸力トルクセンサが備えられた例について説明したが、フットスイッチ4と同様のスイッチをさらに2つ追加して備えて、追加した1つのフットスイッチに微動モード、追加した他のフットスイッチに粗動モードを対応させて、いずれのフットスイッチがONになるかによって、制御部9が固定モード、微動モード、粗動モードを切換制御してもよい。また、さらにフットスイッチを1つ追加して、待機位置モードへの切り換えも、このさらに追加したフットスイッチで切り換えてもよい。
【0133】
また、モード選択手段として、図5に破線で示したように、マイク45および音声認識回路46を制御部9に接続して、医師がマイク45に音声指示した内容を、音声認識回路46が検出して、その音声指示の内容で制御部9は各モードの切り換えをする構成とすることもできる。また、フットスイッチ4で固定モードを選択し、マイク45および音声認識回路46で微動モード、粗動モード、待機位置モードを選択するように組み合わせる構成としてもよい。
【0134】
また、腕支持装置1が6軸力トルクセンサ8を備えた例について説明したが、可動部の数や移動制御の精度に応じて3軸力センサ、または複数の1軸力センサなどに換えることもできる。例えば、3軸力センサを備えた場合には、力成分だけで位置を制御する。
【0135】
また、腕支持装置1が5自由度の多関節アーム2を備えた例について説明したが、その自由度は任意のものに変更することができる。また、関節は、回転関節に換えて、直動関節を用いることもできる。直動関節の場合、制御部は、外力に対応した速度(速度量の一例)で腕台3が動くように電気制御ブレーキの制動力(制動量の一例)を制御する。
【0136】
また、上記した説明では、腕支持装置1がパウダブレーキ11a〜15aを備えた例について説明したが、これに換えて、電磁コイルの通電で発生する磁界とヒステリシス材の内部磁束の向きとのずれによって制動トルクを発生するヒステリシスブレーキや、制動トルク伝達の媒体に電気粘性流体(ER流体)を用いた電気粘性流体ブレーキ(ERブレーキ)や、制動トルク伝達の媒体に磁性流体(MR流体)を用いた磁性流体ブレーキ(MRブレーキ)を備えることもできる。ここで、電気粘性流体とは、電場の印加によって粘性変化を起こすものであり、磁性流体とは、磁場の印加によって粘性変化を起こすものである。
【0137】
また、腕支持装置1がエンコーダ11b〜15bを備えた例について説明したが、アナログ出力のポテンショメータを用いることもできる。また、定荷重ばね11d〜15dを備えて付勢した例について説明したが、これに換えてコイルばね、ねじりコイルばね、板ばね、ゴム、またはカウンタウエイトを備えて付勢することもできる。これらによっても簡便な構造の装置とすることができる。
【0138】
また、非常停止スイッチ5が腕台3の支柱3dに備えられた例について説明したが、その位置は操作しやすい位置であれば任意の位置に備えることができる。
【0139】
また、本発明の移動装置の一例として、医師が脳神経手術の際に腕を支持するために使用する腕支持装置1について説明したが、本発明は、細かい手作業をする際に腕を支持する腕台に適用することもできるし、顎や足などを支持して移動させる移動装置にも適用することができる。さらに、本発明の移動装置を、他のロボットアームの先端を支持してその動き補助する移動装置に適用することもでき、移動させる対象は特に限定されるものではない。
【0140】
さらに、本発明の移動装置を椅子に装着した例について説明したが、装着する対象は椅子に限定されず、ベッドに装着してもよいし、床に固定してもよい。また、椅子の左右のいずれか片側にだけ装着してもよい。また、椅子と一体化されていてもよい。
【0141】
また、固定モード、待機位置モード、粗動モード、微動モードの5つのモードを切り替え可能な例について説明したが、すべてのモードを備える必要はなく、必要に応じたモードを備えればよい。例えば、固定モードと微動モードの2つのモードを備えるだけでもよい。
【0142】
また、待機位置モードでは、手術部位に近い関節から順番で、関節が1つずつ初期姿勢に戻る例について説明したが、戻す順番は、任意に変更できる。
【0143】
また、粗動モードでは、制動量決定処理A2によって制動トルクを決定した例について説明したが、これは一例であって、腕台3を素早く動かせるように制動量を決定できれば異なる処理で制動量を決定することができる。
【0144】
また、微動モードでは、制動量決定処理A3によって制動トルクを決定した例について説明したが、これは一例であって、腕台3をゆっくりとした速度で動かせるように制動量を決定できれば異なる処理で制動量を決定することができる。また、微動モードで、腕台3の移動速度をゆっくりとした一定の速度・角速度で動くように制御してもよい。このように一定の速度・角速度で動かす場合には、制動量決定処理A3のステップ131において6軸力トルクFを求めていたのに換えて、式(1)を用いて方向ベクトルFunitを算出して用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明を適用する移動装置の一実施形態である腕支持装置が椅子に装着された状態を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用する移動装置の一実施形態である腕支持装置の右側の側面図である。
【図3】本発明を適用する移動装置の一実施形態である腕支持装置の左側の側面図である。
【図4】本発明を適用する移動装置の一実施形態である腕支持装置の上面図である。
【図5】本発明を適用する移動装置の一実施形態である腕支持装置の電気系統図である。
【図6】本発明を適用する制御部9の制御方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明を適用する制御部9の制動量決定処理A1を示すフローチャートである。
【図8】本発明を適用する制御部9の制動量決定処理A2を示すフローチャートである。
【図9】本発明を適用する制御部9の制動量決定処理A3を示すフローチャートである。
【図10】6軸力トルクセンサ8の力・トルク、および腕台3先端部の速度・角速度の各軸成分を示す説明図である。
【符号の説明】
【0146】
1は腕支持装置、2は多関節アーム、3は腕台、3aは前腕支持台、3bは手支持台、3cは支持棒、3dは支柱、4はフットスイッチ、5は非常停止スイッチ、6は制御ボックス、8は6軸力トルクセンサ、11,12,13,14,15は関節、11a,12a,13a,14a,15aはパウダブレーキ、11b,12b,13b,14b,15bはエンコーダ、11c,12c,13c,14c,15cは無励磁作動ブレーキ、11d,12d,13d,14d,15dは定荷重ばね、11e,12e,13e,14e,15eはD/A変換器、11f,12f,13f,14f,15fはドライバ、11g,12g,13g,14g,15gはカウンタ、16は支持部、17は肩部、18は第1腕部、19は第2腕部、19aは支持ロッド、19bは第2腕支持部、20は第3腕部、20aは支持ロッド、20bは第3腕支持部、21は先端部、30は椅子、31は座面、32a,32bは取付台、33は足置台、40は電源部、41はA/D変換器、42はアンプ、61〜80,101〜116,120〜125,130〜135はフローチャートにおけるステップ、A1,A2,A3は制動量決定処理、Fx,Fy,Fzは力成分、Mx,My,Mzはモーメント成分、Vは腕台先端速度・角速度ベクトル、Vx,Vy,Vzは速度成分、X,Y,Zは軸、ωx,ωy,ωzは角速度成分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動台と、該移動台に作用する外力によって該移動台を移動可能に支持する複数の可動部を有する移動機構と、該移動機構に付されて該各可動部が各々所定の初期姿勢となるように付勢する複数の付勢機構と、該移動機構に付されて該可動部ごとの動きを制動する制動量を制御可能な複数の電気制御ブレーキと、該移動機構に付されて該可動部ごとの作動量を検知する複数の作動量センサと、該移動台または該移動機構に付されて該移動台に作用する力および/またはトルクを検知する力覚センサと、動作モードを選択されるモード選択手段と、該動作モード選択手段によって選択されるモード、並びに、該作動量センサおよび/または該力覚センサからの検出値に基づいて該複数の電気制御ブレーキの各々の制動量を制御する制御部と、を備えることを特徴とする移動装置。
【請求項2】
前記移動台は、オペレータの腕を支持する腕台であることを特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
前記モード選択手段によって、前記移動台を微動速度で移動すべき微動モードか、該移動台を該微動速度よりも早い粗動速度で移動すべき粗動モードか、該移動台の待機位置に移動すべき待機位置モードか、該移動台を固定すべき固定モードかを選択されて、該制御部は、前記各モードに応じた制動量で前記複数の電気制動ブレーキを制御することを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記微動モードのときに、前記力覚センサの検出値に基づいて、前記移動台に作用する外力方向に、外力に対応した速度量で該移動台が動くように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする請求項3に記載の移動装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記微動モードのときに、前記力覚センサの検出値に基づいて、前記移動台に作用する外力方向に、一定の速度量で該移動台が動くように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする請求項3に記載の移動装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記粗動モードのときに、前記力覚センサの検出値に基づいて、前記移動台に作用する外力方向に、該移動台が前記微動モード時の速度量よりも速い一定の速度量で移動するように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする請求項3に記載の移動装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記待機位置モードのときに、前記作動量センサの検出値に基づいて、前記複数の可動部を、各々所定の速度量で前記初期姿勢となるよう前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする請求項3に記載の移動装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記複数の可動部を順番に1つずつ前記初期姿勢となるように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする請求項7に記載の移動装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記各可動部を、前記移動台に近い側から順番に前記初期姿勢となるように前記複数の電気制御ブレーキの制動量を制御することを特徴とする請求項8に記載の移動装置。
【請求項10】
前記モード選択手段は、前記力覚センサの検出値と所定の閾値とを比較してモードが選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記閾値としての第1の閾値、および第2の閾値に基づいて判別し、前記移動台の所定方向に作用する外力の大きさが、第1の閾値を超えるときに前記粗動モード、該第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上のときに前記微動モードと判別することを特徴とする請求項10に記載の移動装置。
【請求項12】
前記モード選択手段は、操作スイッチを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記操作スイッチの接点状態に基づいて、前記固定モードか否かを判別することを特徴とする請求項12に記載の移動装置。
【請求項14】
前記モード選択手段は、マイクおよび音声認識回路を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項15】
前記可動部が関節でなる多関節アームで前記移動機構が構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項16】
前記移動機構には、無電源時に作動して前記複数の可動部の各々を固定する複数の無励磁作動ブレーキが付されていることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項17】
前記複数の無励磁作動ブレーキへの電源の供給を停止させる非常停止スイッチが付されていることを特徴とする請求項16に記載の移動装置。
【請求項18】
前記電気制御ブレーキは、パウダブレーキ、ヒステリシスブレーキ、電気粘性流体ブレーキ、または磁性流体ブレーキのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項19】
前記作動量センサは、エンコーダ、またはポテンショメータであることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項20】
前記力覚センサは、6軸力トルクセンサ、または3軸力センサであることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。
【請求項21】
前記付勢機構は、定荷重ばね、コイルばね、ねじりコイルばね、板ばね、ゴム、またはカウンタウエイトを備えて付勢するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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