説明

移動農機の走行油圧制御装置

【課題】本発明では、第一油圧ポンプからの圧油を操舵回路へ送ると共に、各走行用クラッチの油圧シリンダ作動用の圧油として使用することで、回路構成を分かり易く単純にすることを課題とする。
【解決手段】走行用油圧ポンプ66の圧油を操舵回路67に送り、減圧回路95を介して各走行用クラッチ101,102,103,107の油圧シリンダ作動用の圧油として使用し、さらに、前記減圧回路95の圧力調整戻り油路80の油を前記走行用クラッチ101,102,103,107の潤滑油として利用するように構成したことを特徴とする移動農機の走行油圧制御装置の構成とする。また、戻り油路80における各走行用クラッチ101,102,103,107の潤滑供給部において、各絞り89,92,93と低圧リリーフ弁94を設けたことを特徴とする移動農機の走行油圧制御装置の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動農機の走行油圧制御装置に関する。特に、トラクタや乗用管理機等の移動農機におけるミッションケース内の動力伝動要素を作動する油圧制御装置の潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタ等の移動農機においては、特開2008−20041号公報に記載の走行油圧制御装置の如く、エンジンから走行輪へ動力を伝動するミッションケース内に動力を断続する走行クラッチや多段にわたる変速ギヤと変速クラッチや前輪への動力伝動を断続する前輪駆動クラッチ等を設けて、略一定回転で使用するディゼルエンジンの回転出力を作業条件に応じた速度で走行できるように走行輪の回転を細かく増減速している。また、これらの変速クラッチや前輪駆動クラッチの作動は油圧を用いて操作が軽く容易に行えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−20041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の走行油圧制御装置は、第一油圧ポンプからの圧油出力をパワーステアリング用操舵回路へ流して、この操舵回路からの戻りオイルを各クラッチの潤滑オイルとして使用し、各クラッチの油圧シリンダ作動用の圧油は機体の姿勢制御や作業機作動制御に圧油を送る第二油圧ポンプの圧油を分流して供給している。
【0005】
本発明では、一台の油圧ポンプからの圧油を操舵回路へ流してパワーステアリングを制御し、この操舵回路からの戻りオイルを各クラッチの潤滑オイルとして使用送ると共に、同じ油圧ポンプからの圧油を各走行用クラッチの油圧シリンダ作動用の圧油として使用することで、回路構成を分かり易く単純にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、走行用油圧ポンプ(66)の圧油を操舵回路(67)に送り、減圧回路(95)を介して各走行用クラッチ(101),(102),(103),(107)の油圧シリンダ作動用の圧油として使用し、さらに、前記減圧回路(95)の圧力調整戻り油路(80)の油を前記走行用クラッチ(101),(102),(103),(107)の潤滑油として利用するように構成したことを特徴とする移動農機の走行油圧制御装置としたものである。
【0007】
この構成で、走行用油圧ポンプ(66)の圧油が走行用クラッチ(101),(102),(103),(107)の作動制御と潤滑に使用される。
また、請求項2に記載の発明は、前記戻り油路(80)における各走行用クラッチ(101),(102),(103),(107)の潤滑供給部において、各絞り(89),(92),(93)と低圧リリーフ弁(94)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の移動農機の走行油圧制御装置としたものである。
【0008】
この構成で、複数有る各走行用クラッチ(101),(102),(103),(107)の潤滑部に過不足なくオイルを供給出来る。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明で、走行用油圧ポンプ66で走行用クラッチ101,102,103,107の圧油と潤滑油の供給が行われて回路構成が単純化出来、組立、メンテナンスが容易になる。
【0010】
請求項2の発明で、各走行用クラッチ101,102,103,107の潤滑油供給が過不足なく、良好に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施例トラクタの全体側面図である。
【図2】トラクタの操縦席周りの拡大斜視図である。
【図3】スイッチボックスの正面図である。
【図4】ミッションケースの動力伝動線図である。
【図5】本実施例の油圧回路図である。
【図6】一部変更した油圧回路図である。
【図7】一部の油圧ブロックの平面図である。
【図8】(a)一部の油圧ブロックの平面図である。(b)別実施例の油圧ブロックの側断面図である。
【図9】一部変更した油圧回路図である。
【図10】一部変更した油圧回路図である。
【図11】減圧回路ブロックの断面図である。
【図12】一部変更した油圧回路図である。
【図13】リリーフ弁の側断面図である。
【図14】リリーフ弁の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。
図1には、本発明を実施した作業機としてトラクタ1を示している。
トラクタ1は、機体前部のボンネット内にエンジン2を搭載し、このエンジン2の回転動力をミッションケース3内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を前輪4と後輪5とに伝えるようにしている。機体上の操縦席6周りはキャビン7で覆われている。このエンジン2は、コモンレール式のディゼルエンジンで、始動時にエンジンキーを一度回すと完全な爆発が生じて回転が安定するまでセルモータを回すように制御している。
【0013】
図2と図3に示すごとく、キャビン7の内部で操縦席6の前側にはステアリングハンドル8を立設し、その右側下部に前後進レバー9を設けている。操縦席6の左側には駐車ブレーキレバー10と作業機への動力を出力するPTO軸の変速を行う第一PTO変速レバー11と第二PTO変速レバー12とを配置している。
【0014】
ステアリングハンドル8の下側床面には、左右の前後輪4,5をそれぞれ制動する左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57と全輪を一斉に制動する全ブレーキペダル58を設け、その後右側にエンジンの回転を制御するアクセルペダル13を設けている。このアクセルペダル13は走行速度を調整するために使用する。
【0015】
なお、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57を同時に踏込むと、ブレーキ制動すると共に主変速の変速段を低速側へ変速してエンジンブレーキも作用させる。また、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57を所定限界踏込み量以上に踏込むと、エンジン回転数を低下させる。この際に、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57の踏み込みをやめて元に戻すと、エンジン回転を復帰させ、前後輪4,5への動力伝動とPTO出力軸への動力伝動を復帰させた後にブレーキを解除するようにする。
【0016】
ステアリングハンドル8の前側には、走行速度を表示するメータパネルや作業機の使用状況等を表示する操作パネルを配置したフロントパネル14を設けている。
操縦席6の右側には、スロットルレバー15を立設し、最手前のアイドリング位置から前側に倒すとエンジン2の回転が上昇する。このスロットルレバー15は作業時のエンジン回転数を設定するに使用する。16はシーソー式の第一エンジン回転記憶スイッチで、上側に倒すと第一の記憶回転数になり下側に倒すと第二の記憶回転数になり、指を離すと中立位置に戻る。17はシーソー式の第二エンジン回転記憶スイッチで、上側に倒すと回転数が上昇し下側に倒すと回転数が低下し、スイッチを放した時点の回転数が記憶される。
【0017】
エンジン2の回転数の設定は、第一エンジン回転記憶スイッチ16を上側或いは下側に倒して第二エンジン回転記憶スイッチ17を上側或いは下側へ倒して回転数を上昇或いは降下させて両スイッチ16,17を放すとそのときの回転数が第一エンジン回転記憶スイッチ16の設定回転数として記憶される。
【0018】
スロットルレバー15の隣に副変速レバー18を立設している。この副変速レバー18の変速は、低速、中速、高速の三段と路上走行の変速位置が有り、低速、中速、高速の三段でミッションケース3内のメカ変速部を低速・中速・高速に変速すると共に主変速が八段に変速可能で、路上走行位置では、高速の変速段で主変速が3速以上の変速段を使って変速可能で路上走行に適した速度になる。
【0019】
主変速は油圧制御による四段変速と同じく油圧制御による高・低二段変速の組み合わせで計八段の変速段数を有し、その変速段による平均車速は、前記副変速レバー18の低速・中速・高速と組み合わせて、合計二十四段の変速段となる。主変速の変速段の変更は、後述する走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34で行う。
【0020】
19と20は、外部油圧取出用のサブコントロールレバーで、作業機の油圧シリンダ等へ油圧オイルを供給する場合に使用する。21と22は、予備のサブコントロールレバー取付用溝である。23は、ドラフト比調整ダイアルで、左に回すとポジション側となって、負荷に対する作業機の昇降変化量が少なくなり耕耘深さを浅くし、逆に右に回すとドラフト側となって、負荷に対する作業機の昇降変化量が大きくなり耕耘深さを深くする。
【0021】
24は、上げ調整ダイアルで、左に回すと三点リンクの上昇高さが低くなる。作業機によっては最も高く上げるとトラクタ本体に当たる場合やあまり高く上げない方が作業続行のために作業効率が良い場合に、この上げ調整ダイアル24で調整する。25は、傾き調整ダイアルで、左に回すと作業機が右上がりになり、逆に右に回すと作業機が右下がりになる。
【0022】
26は、四WD切換スイッチで、走行ローダとスーパーフルターン及び二WDターンの位置があり、走行ローダでは通常は二WDでぬかるみや急な坂道或いは凹凸道になると自動的に四WDに切り換わり、又ブレーキをかけたり運転中に停止したりしても四WDの状態になる。二WDは後輪の二輪駆動で、四WDは前後四輪の駆動である。スーパーフルターンは四WDの時の旋回で前輪の速度が増速されてクイックな旋回が可能になり、二WDターンでは四WDの時の旋回で前輪の駆動が抜かれて後輪の片ブレーキ旋回となり、固い圃場においてクイックでスムースな旋回が出来る。
【0023】
27は水平シリンダの昇降スイッチで、三点リンクの水平シリンダを動かすことが出来て作業機の着脱に使用する。28はPTOスイッチで、押して右に回すとPTOクラッチが入り、入った状態で押すと自動で左に回りPTOクラッチが切れる。29はPTO自動スイッチで、左に回すと手動になりPTOクラッチを入れるとPTO軸が常時回転し、右に回すと自動になり走行クラッチを踏んだり三点リンクを上げたりすると回転が止まる。このPTO自動スイッチ29は、主に水田作業時に利用する。
【0024】
30はデフロックスイッチで、外側へ一度押すとデフロックになりもう一度外へ押すとデフロック解除になる。内側には押せなく、外側へ押す度に切り換わる。
31は作業機昇降レバーで、前側が下降で後側が上昇になる。32は作業機昇降スイッチで、後側を1回押すことで前記上げ調整ダイアル24で設定した最上位置に上昇し、前側を1回押すと作業機昇降レバー31で設定した位置まで下降する。
【0025】
33は走行変速上昇スイッチ、34は走行変速降下スイッチで、始動変速段を設定するスイッチで、走行変速上昇スイッチ33を1回押す毎に始動変速段をシフトアップし、走行変速降下スイッチ34を1回押す毎に始動変速段をシフトダウンする。この走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34は、前記副変速レバー18を路上走行にした場合にも同様に副変速が高速で主変速が3速を基準にして始動変速段を上下に変更する。
【0026】
36はスイッチボックスで、蓋を開けると、図3の各種調整スイッチを配置している。
図3のスイッチボックス36内で、37は作業機の上昇・降下モニターランプで、作業機の昇降時に点灯して表示するようにしている。38はATシフト感度ダイアルで、ATシフト作業スイッチ42を押して自動変速にした場合に、車速を増減速する感度を変更するダイアルである。
【0027】
39は作業機の降下速度を調整する降下速度ダイアルで、右に回すと作業機が速く降下するので軽い作業機の場合に使用し、逆に左に回すと作業機がゆっくりと降下するので重い作業機の場合に使用する。
【0028】
40は走行ブレーキ調整ダイアルで、オートブレーキ入切スイッチ48の入時に作用する旋回ブレーキのかかり具合を調整する。
ATシフト路上スイッチ41は、路上走行時すなわち副変速が高速での主変速を自動変速し、ATシフト作業スイッチ42は、作業走行時すなわち副変速が中・低速での主変速を自動変速し、入にすると、副変速レバー18の変速位置に応じて主変速を前回に最も長く使用した変速段へ自動的に変速し、切にすると、副変速レバー18の変速位置に応じて任意に設定する主変速の変速段に変速するようになる。
【0029】
43は主変速の接続感度変速スイッチで、主変速を変速した時の接続フィーリングを変更し、入でモニタが点灯し緩やかな変速をし、切でモニタが消灯し急接続する。この接続感度変速スイッチ43を切にしてプラウ等の牽引系の作業をすると、主変速の変速接続時間が短くなって軽快に作業を行える。
【0030】
44は接続感度PTOスイッチで、ロータリ、牧草1、牧草2があり、ロータリにするとPTOのつながりが速くなり、ロータリが直ぐには土の抵抗に負けない回転力で回るようになり、牧草1或いは牧草2にするとPTOのつながりが緩やかになって、牧草作業機やスノーブロワーなどで使用する。
【0031】
45は水平感度スイッチで、作業機の自動水平制御装置の動作感度が変わり、スイッチを押すと自動水平制御の動きが遅くなり、再びスイッチを押すと元に戻る。
46はバックアップ入切スイッチで、入にすると後進時に作業機が自動で上昇する。47はオートリフト入切スイッチで、入にしてハンドルを回すと自動で作業機が上昇する。48はオートブレーキ入切スイッチで、入にしてハンドルを回すと自動で旋回内側の後輪のみにブレーキがかかる。
【0032】
49は水平切換スイッチで、自動水平にすると水平センサで自動的に作業機の水平を保持し、手動にすると傾き調整ダイアル25で調整が可能になり、平行にするとトラクタ本体に対して三点リンクを常に平行に維持し、傾斜にすると地面に対して三点リンクを一定の傾斜角に保持する。
【0033】
50は3P切換スイッチで、三点リンクへのリフトシリンダ取付位置による制御切換選択を行う。
51はオートアクセルスイッチで、入りにした状態で作業機を上昇するとエンジンの回転数が1700rpmまで低下する。
【0034】
図4は、駆動力の伝動機構を示す線図で、エンジン2から前輪4と後輪5への動力伝動構成を説明する。
エンジン2の出力軸に直結した入力軸110には、第一ギヤ111を固着し、前後進切換クラッチ101を装着している。
【0035】
前後進切換クラッチ101の一方の第二ギヤ112は第一変速軸113に固着した第三ギヤ114に噛み合って減速し、前後進切換クラッチ101の他方の第四ギヤ115はカウンタギヤ117を介して第一変速軸113に固着した第五ギヤ118に噛み合って逆転で動力を伝動している。すなわち、前後進切換クラッチ101を第二ギヤ112側に入れる(繋ぐ)と入力軸110の回転が逆方向回転で第一変速軸113に伝動され、第四ギヤ115側に入れると入力軸110の回転が順方向回転で第一変速軸113に伝動され、第二ギヤ112と第四ギヤ115の両方から離れたニュートラル状態が動力伝動を断ったメインクラッチ切状態で、油圧バルブの制御によってこのメインクラッチ切状態を保持出来るようにしている。すなわち、自動制御或は前後進レバー9によって作動する前後進切換クラッチ101がメインクラッチとして機能している。
【0036】
前記第一変速軸113には前後進切換クラッチ101の伝動下手側に、一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103を装着している。すなわち、この一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103が本発明の多段ギヤ変速クラッチとして機能し、走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34によって変速操作する。
【0037】
第一変速クラッチ102の第一クラッチギヤ120と第二クラッチギヤ122は第二カウンタ軸119に固着した第三クラッチギヤ121と第四クラッチギヤ123に噛み合い、一速用に減速したり三速用に少し増速したりして第一変速軸113の回転を第二カウンタ軸119に伝動している。さらに、第二変速クラッチ103の第五クラッチギヤ124と第六クラッチギヤ126は第二カウンタ軸119に固着した第七クラッチギヤ125と第八クラッチギヤ127に噛み合い、二速用に少し増速したり四速用に大きく増速したりして第一変速軸113の回転を第二カウンタ軸119に伝動している。
【0038】
本発明で、二重噛み状態とは、例えば、一速/三速切換用第一変速クラッチ102を一速に入れ同時に二速/四速切換用第二変速クラッチ103を二速に入れた状態で、第二カウンタ軸119の回転が完全にロックされて回転が先に伝動されなくなる状態、走行系コントローラ87によって、後述する動作条件で制御される。
【0039】
第二カウンタ軸119の伝動下手側に第三カウンタ軸129をカップリング128で連結して回転をそのままで伝動している。この第三カウンタ軸129には小ギヤ130と大ギヤ131を固着している。この小ギヤ130と大ギヤ131は第二変速軸132に装着した高・低速切換クラッチ107のクラッチ大ギヤ133とクラッチ小ギヤ134にそれぞれ噛み合い、第三カウンタ軸129の回転を高速或いは低速で第二変速軸132に伝動している。自動制御或は高・低変速レバー109によって変速操作される高・低速切換クラッチ107が本発明のサブクラッチとして機能する。
【0040】
第二変速軸132の伝動下手側端部に第六ギヤ136を固着し、この第六ギヤ136と第三駆動軸143に回動可能に軸支した大小ギヤ152の大ギヤ部138を噛み合わせて減速伝動している。
【0041】
大小ギヤ152の小ギヤ部139は、ベベルギヤ軸142に軸支した二連副変速クラッチ135の第七ギヤ137に噛み合わせて減速伝動している。さらに、第七ギヤ137と一体に設けた第八ギヤ141を第五カウンタ軸216に固着した第二大ギヤ144に噛み合わせて減速伝動している。
【0042】
第五カウンタ軸216にはさらに第二小ギヤ145が固着され、この第二小ギヤ145がベベルギヤ軸142の第三大ギヤ140と噛み合ってさらに減速伝動されている。従って、第二変速軸132の回転は第六ギヤ136→大ギヤ部138→小ギヤ部139→第七ギヤ137→第八ギヤ141→第二大ギヤ144→第二小ギヤ145→第三大ギヤ140と順次減速されながら伝動されていく。
【0043】
副変速レバー18で操作される二連副変速クラッチ135の第一シフター217と第二シフター218はベベルギヤ軸142へ軸方向にスライド可能に係合していて、第一シフター217を第七ギヤ137側へスライドして係合すると第七ギヤ137の回転がベベルギヤ軸142に伝わり、第二シフター218が第八ギヤ141側へスライドして係合すると第八ギヤ141の回転がベベルギヤ軸142に伝わって、順次減速されてベベルギヤ軸142が低速で回転することになる。
【0044】
ベベルギヤ軸142の回転は第一ベベルギヤ148と第二ベベルギヤ149を経てデフギヤ219に伝動され、デフギヤ219から車軸150と遊星ギヤ151を経て後輪5へ伝動される。
【0045】
以上の説明を要約すると、入力軸110の回転は、まず前後進切換クラッチ101で正転或いは逆転に切り替えられ、一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103で一速から四速まで4段に変速され、高・低速切換クラッチ107で高速と低速の2段に変速され、さらに二連副変速クラッチ135で高・中・低速の3段に変速されて、ベベルギヤ軸142に伝動される。すなわち、入力軸110の回転が4×2×3=24段に変速されて車軸150へ伝動されるのである。
【0046】
前輪4への駆動力伝動は、ベベルギヤ軸142に第九ギヤ147を固着し、この第九ギヤ147を中継ギヤ190に噛み合わせさらに第三駆動軸143に固着した第十ギヤ146に噛み合わせて第三駆動軸143を駆動する。第三駆動軸143を第二カップリング170で前輪増速クラッチ163を装着した変速軸160に連結している。前輪増速クラッチ163の第十一ギヤ167と第十二ギヤ168は第七カウンタ軸164に固着した第十三ギヤ165と第十四ギヤ166に噛み合わせて、通常の前輪駆動から前輪増速に切り替えるようにしている。なお、前輪増速クラッチ163を中立にすると、前輪4の駆動が断たれて後輪のみの駆動になる。
【0047】
第七カウンタ軸164は第三カップリング191で前輪駆動軸169に連結し、さらに、第四カップリング192と延長軸194及び第五カップリング193で前輪駆動ベベル軸171に連結している。
【0048】
前輪駆動ベベル軸171の動力は、前第一ベベルギヤ172、前第二ベベルギヤ173、前デフギヤ174、前第三ベベルギヤ175、前第四ベベルギヤ176、垂直軸177、前第五ベベルギヤ178、前第六ベベルギヤ179、前遊星ギヤ180を経て前輪4を駆動している。
【0049】
次に、図5で前記各変速クラッチを作動させる油圧機器の回路を説明する。
エンジン2で駆動される第一油圧ポンプ60から吐出される圧油は、メインリリーフバルブ63で圧力を調整して機体及び作業機作動油圧回路59に第一油圧回路61から供給している。油圧ポンプ60へ供給される油はサクションフィルタ64を介してミッションケース3内底部のオイル溜りから吸い上げられる。65は油の温度を検出する油温センサで、各油圧シリンダでの作動圧判定の際の参照データとして油温を用いる。
【0050】
第一油圧ポンプ60と同時に駆動される走行用油圧ポンプ66は、ステアリング操作油圧機器回路(操舵回路)67に第二油圧回路62から圧油を供給している。
この操舵回路67を経由した圧油が、第一リリーフバルブ68によって同じ圧力に保持されたメイン回路69で減圧回路95に供給され、一速/三速切換用第一クラッチ102と二速/四速切換用第二クラッチ103及び前後進切換クラッチ101に供給されている構成である。
【0051】
まず第二切換バルブ71を介して二速/四速切換用第二クラッチ103の四速用シリンダ72と2速用シリンダ73に供給し、第一バルブ70を介して一速/三速切換用第一クラッチ102の一速用シリンダ74と三速用シリンダ75に供給している。この一速/三速切換用第一クラッチ102と二速/四速切換用第二クラッチ103はミッションケース3内の上部に位置しているので、第一リリーフバルブ68で調圧された戻り油が戻り油路80から絞り92,93を介して供給されて潤滑される。
【0052】
さらに、クラッチペダル操作バルブ76と前後進切換バルブ78を介して前後進切換クラッチ101の油圧作動部77に供給している。前後進切換バルブ78は前後進切換クラッチ101を前進と後進と中立に切り換えるバルブで、中立は動力が前後輪へ伝わらない動力切状態で、この中立状態は前後進切換バルブ78を中立にすると共にクラッチペダル操作バルブ76で前後進切換バルブ78に流れる圧油を遮断するので安全に中立すなわちクラッチ切で動力伝動を断った状態を保持できる。また、前後進切換クラッチ101の油圧作動部77には、第一リリーフバルブ68で調圧された戻り油が戻り油路80から低圧リリーフ弁94を通って潤滑用オイルが供給される。
【0053】
メイン回路69と分岐したサブ回路81には、前輪増速クラッチ163と高・低速切換クラッチ107と前輪用デフロックシリンダ85と後輪用デフロックシリンダ86と四輪駆動クラッチ油圧シリンダ82及びPTOクラッチ油圧シリンダ84が並列に接続されている。
【0054】
第一リリーフバルブ68で調圧された圧油が、まず、二つの高・低速切換バルブ87a,87bを介して高・低速切換クラッチ107の高・低切換シリンダ88へ供給される。高・低速切換クラッチ107には、第一リリーフバルブ68で調圧された戻り油が戻り油路80から絞り89を通って潤滑用オイルが供給される。
【0055】
圧油は、次に、前輪用デフロックシリンダ85と後輪用デフロックシリンダ86へ切換バルブ90を介して圧油が供給され、さらに、切換バルブ91を介して四輪駆動クラッチ油圧シリンダ82に供給され、最後に、切換バルブ83を介してPTOクラッチ油圧シリンダ84に供給される。
【0056】
図6に示す油圧回路は、低圧リリーフ弁94を組み込む低圧リリーフブロック96と減圧回路95を組み込む減圧回路ブロック97を重ねて組み付けた回路構成で、圧油の流れは図5の油圧回路と同一である。なお、低圧リリーフ弁94と減圧回路95は、鋳鉄である。
【0057】
図7が低圧リリーフブロック96を減圧回路ブロック97に組み付けた平面図である。図8(a)がポペットを用いた配管タイプの低圧リリーフ弁94を減圧回路ブロック97に組み付けた側断面図であり、図8(b)は別タイプの低圧リリーフ弁94を組み付けた側断面図である。このような油圧ブロックのボデーを各機種に共用するために最大公約数で複数のポートを構成しているが、不要なポートは加工で削除することでコンパクトな構成となる。また、低圧リリーフをスプールを用いて構成し、トランスミッションケースに取り付けてリバースの潤滑油をトランスミッションケースの合わせ面より取り出すように構成することで、流量の変化に対応可能となる。
【0058】
図9に示す油圧回路は、減圧回路95の第一減圧弁98を低圧リリーフブロック96内に組み込み、減圧回路ブロック97に低圧リリーフブロック96と第二減圧弁99を組み込み、低圧リリーフブロック96と減圧回路ブロック97を一体的に組み付けている。
【0059】
図10に示す油圧回路は、第一減圧弁98と第二減圧弁99を減圧回路ブロック97に組み込んだ実施例である。図11は、減圧回路ブロック97の断面図で、第一減圧弁98と第二減圧弁99を固定減圧とし、第一リリーフバルブ68を調整ネジ222でリリーフ圧を調整する。調整ネジ222は、頭部にザグリ部224を形成し、ロックナット223と座金225で固定してリリーフ圧を調整する。
【0060】
図12は、第一油圧ポンプ60の油路に、外部取出回路100と機体水平制御回路220と作業機昇降制御回路221を直列に接続した油圧回路図で、外部取出回路100への圧油供給を優先している。この外部取出回路100の圧油取出口は、ミッションケース3の後端左右中央上に搭載したシリンダーケースの後方に配置して、後方から油圧ホースを繋ぎ易くしている。
【0061】
図13は、リリーフ弁の断面図を示し、リリーフ弁本体229内で、スプリング300でばね座228を介してボール227をオイル孔226に押圧して圧油の流れを止めている。ばね座228の外周四箇所に軸方向のスリット溝301を形成することで、リリーフ鳴きの発生を防止している。
【0062】
また、リリーフ鳴きの対策として、スリット溝301を設ける代わりに、ばね座外周228aとばね座高孔228bとの隙間を通常よりも狭くする方法も有る。
図14は、同じく、リリーフ弁の断面図を示し、スプリング300の内空において、ばね座228のボス部304とスプリング受303のボス部305をスリーブ302に挿入しているが、そのボス部304,305の先端にテーパ部304T,305Tを形成して、ばね座228の動きを滑らかにしてオイル圧の変化対応を良くしている。
【0063】
スプリング受303は、調整ネジ306の中心凹部307で受けたボール308で軸方向へスライドしてスプリング300のボール227を押す圧力を変更する。
また、ばね座228の動きを滑らかにする対策として、テーパ部304T,305Tを形成する代わりに、ボス部304,305の外周四箇所に軸方向のスリット溝を形成する方法も有る。
【0064】
トラクタの外部油圧の取り出しにおいては、単複切換操作部を次のように構成してもよい。即ち、ニードル後方の外径に複数の歯数(例えば、スプライン)をもつ形状として、L字プレート内径側も同様の形状加工を行う。そして、L字プレートの抜け止めは、下方からネジにて固定する構成とする。これにより、容易に組み付けが可能で、コストダウンとなる。ニードル後方を六角穴加工する構成でもよい。
【0065】
このような外部油圧のバルブにおいて、単複切換ニードル操作用プレートを、ナットとプレートをカシメで一体化した新規部品で構成すると、組立が容易となる。
また、外部油圧バルブは、中央に取付メタルを設け、左右の面に各々取付可能な構成としてバルブボデーを共用とする。又、中央の取付メタルは外部油圧バルブ(1〜4連目)の通路だけでなく、外部油圧バルブ後方に配置される水平制御バルブ、作業機昇降バルブ等への供給回路となるシリンダーケースへの通路も兼ねるように構成する。これにより、加工工数が低減して廉価な構成となる。
【0066】
また、1連目の外部油圧バルブは、スプール後方にスプリング座(2個)とスプリングを挟み込むようにスプールヘッドで連結して廉価な構成としてもよい。そして、スプール後方のカバーを専用化してもよい。このスプール後方のカバーは、主型を共用(外観形状を合わす)して、中子形状の先端ピンの差し替えでロック有りと無しのカバーができるように構成することで、廉価な構成となる。
【0067】
また、メインスプールに耐食性が必要な場合において、無電解ニッケルメッキを施し、熱処理(ベーキング)で研磨を行う構成とする。これにより、スプール全体でのメッキを行うことができ、寸法精度確保が可能でメッキ膜厚も均一に可能となり、製作原価低減となる。また、無電解ニッケルメッキを施し、高温の熱処理を行いセンタレス研磨を行ってもよい。
【符号の説明】
【0068】
66 走行用油圧ポンプ
67 操舵回路
80 圧力調整戻り回路
89 絞り
92 絞り
93 絞り
94 低圧リリーフ弁
101 走行用クラッチ(前後進切換クラッチ)
102 走行用クラッチ(一速/三速切換用第一変速クラッチ)
103 走行用クラッチ(二速/四速切換用第二変速クラッチ)
107 走行用クラッチ(高・低速切換クラッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用油圧ポンプ(66)の圧油を操舵回路(67)に送り、減圧回路(95)を介して各走行用クラッチ(101),(102),(103),(107)の油圧シリンダ作動用の圧油として使用し、さらに、前記減圧回路(95)の圧力調整戻り油路(80)の油を前記走行用クラッチ(101),(102),(103),(107)の潤滑油として利用するように構成したことを特徴とする移動農機の走行油圧制御装置。
【請求項2】
前記戻り油路(80)における各走行用クラッチ(101),(102),(103),(107)の潤滑供給部において、各絞り(89),(92),(93)と低圧リリーフ弁(94)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の移動農機の走行油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−47493(P2011−47493A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198082(P2009−198082)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】