説明

移植用苗床

【課題】発芽から移植前までの苗の生育が揃い、本圃等へ移植後の苗の活着に必要な肥料成分が十分に供給でき、かつ育苗時の生育障害が起こらず移植時に肥料がこぼれにくい移植用苗床、及びそれを用いる植物の栽培方法を提供する。
【解決手段】連結型育苗鉢内に形成され、培地基材からなる培地層と、培地層の上部に積層された粒状肥料からなる粒状肥料層と、種子又は植物体を有する移植用苗床であり、該粒状肥料が、緩効性窒素肥料を含有し、かつ粒子径1mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2mm以下である移植用苗床、及びそれを用いる植物の栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移植用苗床に関する。詳しくは、移植用の連結型育苗鉢に形成された移植用苗床及び該苗床を用いる植物の育苗、栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい農業技術が開発され、それに伴って農業機械、農業資材等の技術革新が進んだ結果、農作業の大幅な省力化が実現されている。育苗分野でも、種々の育苗技術とそれらに用いられる各種各様の資材が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
特に、近年急速に普及している「セル育苗」は、農家における育苗の煩雑さとリスクを軽減すると共に、苗生産を工場化、分業化できる等の利点を有している。セル育苗は、例えば、連結型プラスチックトレーや連結型ペーパーポット等の育苗用連結鉢(セルトレイともいう)を用いて実施されている。
【0003】
該連結鉢の各々のセル(鉢)には各種の培地・培土(以下、培地という)基材からなる育苗床が形成される。その育苗床に播種して野菜等の幼苗を育成し、育成された幼苗を抜き取り、移植する栽培方法が普及している。
該培地基材としては、特定の粒度分布を持つ原料を混合した基材と界面活性剤を特定の割合で配合した培地(例えば、特許文献1参照)が開示されている。また、塩基交換容量が50〜200meq/100gの範囲である無機素材、非木質系繊維有機素材、肥料成分、及び硝化抑制剤からなる培地(例えば、特許文献2参照)、肥料成分の粒子径が1mm以下であり、かつ緩効性窒素源化合物を窒素換算で10mg/L〜10g/Lの割合で含有する植物育苗培地(例えば、特許文献3参照)等が開示されている。
【0004】
しかし、上記の連結鉢は、セル当たりの容量が従来用いられているポリポットに比べて小さいため、培地の充填量が限定され、各セルから本圃等へ移植後の苗の活着に必要な肥料成分が、培地から十分に得にくいという問題がある。
【0005】
また、育苗時に必要な肥料成分、特に溶脱しやすい窒素成分を苗床に含有させる試みとしては、緩効性肥料と培地基材(保水材)を混合して得られた育苗培地により移植と同時に本田施肥を可能とした水稲育苗培地(例えば、特許文献4参照)、育苗に必要な水分を保持し苗を支持する床土層と、該床土層の上層であって、化学的に溶解度を、あるいは物理的に溶出速度を抑えた緩効性肥料と種子とでなる肥料・種子層と、該肥料・種子層を覆う覆土層とにより形成され、前記緩効性肥料は前記肥料・種子層のみに存在し、前記床土層は育苗期間中に有効な肥料成分を有することを特徴とする苗床の構造(例えば、特許文献5参照)等が開示されている。
【0006】
これらはいずれも粒状肥料の表面を樹脂等で被覆した被覆肥料によるものであるが、容量の小さな連結鉢に適用する場合、通常の粒状肥料の粒子径では各セルに施肥できる粒数が少なくなり、これが各セル間で肥料成分の溶出挙動のばらつき等を原因とする生育不揃いを生じ、苗が機械移植に適用できなくなるおそれがある。
粒子径の小さい粒状肥料の表面を樹脂等で被覆した被覆肥料も開発されているが、被覆加工時に芯の粒状肥料が割れたり、粒子同士が結合して団粒化する等、大量生産しにくく、通常の粒子径の被覆肥料と比べてかなりコスト高である。また、被覆肥料は培地基材との結合力が弱いため、使用方法によっては育苗時の潅水によって浮上し流出したり、移植時に各セルから肥料がこぼれる場合もあった。
被覆肥料を化学的に溶解を抑えた緩効性肥料に換えた場合においても、種子と肥料が接することによる発芽不良が発生するおそれがある。
【0007】
【特許文献1】特開平8−37924号公報
【特許文献2】特開平8−56478号公報
【特許文献3】特開平10−19号公報
【特許文献4】特開昭52−107907号公報
【特許文献5】特開平7−236352号公報
【非特許文献1】「園芸用育苗資材・装置利用の手引」社団法人日本施設園芸協会発行、1991年3月発行、30−73頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、
例えば(1)発芽から移植直前までの苗の生育や収穫期が揃い、
(2)本圃等へ移植後の苗の活着に必要な肥料成分が十分に供給できる、
(3)育苗時の生育障害が起こらず移植時に肥料がこぼれにくい、
などの効果を示す移植用苗床、及びそれを用いる植物の栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前述の課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、連結型育苗鉢内に形成され、培地基材からなる培地層と、培地層の上部に積層された粒状肥料からなる粒状肥料層と、種子又は植物体とを有する移植用苗床であり、該粒状肥料が、緩効性窒素肥料を含有し、かつ粒子径1mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2mm以下である移植用苗床、及びそれを用いる植物の栽培方法によって、前記課題が解決されることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下によって構成される。
(1)連結型育苗鉢内に形成され、培地基材からなる培地層と、培地層の上部に積層された粒状肥料からなる粒状肥料層と、種子又は植物体とを有する移植用苗床であり、該粒状肥料が、緩効性窒素肥料を含有し、かつ粒子径1mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2mm以下である移植用苗床。
【0011】
(2)粒状肥料の質量が1粒当たり0.5〜5mgであり、かつ粒状肥料の充填量が10〜1000粒/セルである前記(1)項記載の移植用苗床。
【0012】
(3)粒状肥料が、水溶性窒素成分を0.001〜10質量%含有する前記(1)または(2)項記載の移植用苗床。
【0013】
(4)緩効性窒素肥料が、アセトアルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素、メチロール尿素重合肥料、及びホルムアルデヒド加工尿素肥料の群から選ばれた少なくとも1種である前記(1)〜(3)項のいずれか1項記載の移植用苗床。
【0014】
(5)粒状肥料が、難水溶性リン酸質肥料及び/または撥水性物質を含有する前記(4)項記載の移植用苗床。
【0015】
(6)連結型育苗鉢内の底部に培地基材を充填し播種を行って培地層を形成した後、播種後から移植前日までの期間に、粒状肥料層を形成させることを特徴とする前記(1)〜(5)項のいずれか1項記載の移植用苗床の作成方法。
【0016】
(7)前記(1)〜(5)項のいずれか1項記載の移植用苗床を用いる植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の移植用苗床を用いれば、
(1)発芽から移植前までの苗の生育が揃い、特に機械移植に適した苗を低コストかつ容易に得ることができる、
(2)収穫揃いが良く、生産管理が容易になる、
(3)育苗時の生育及び移植後の生育に必要な肥料成分を均一に含有し、更に、苗床の粒状肥料が小粒でも肥効を長時間制御できるため、発芽や苗の生育障害が発生しにくく、特に作物の移植栽培に好適である、
などの効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の移植用苗床は、連結型育苗鉢内に形成され、培地基材(保水材)からなる培地層の上部に粒状肥料層を形成させた構造である。
本発明で用いられる連結型育苗鉢に、特に限定はなく、作物の種類等に応じて市販品の中から選択して用いることができる。該連結型育苗鉢としては、農林水産省標準規格や全農標準規格に準じたもの(外枠590mm×300mm)、その他市販品を挙げることができる。具体的には、農林水産省標準規格としては、128セルタイプ(セルの配列8×16、セルの大きさ31mm角×深さ44mm)、200セルタイプ(セルの配列10×20、セルの大きさ26mm角×深さ44mm)、全農標準規格としては、288セルタイプ(セルの配列12×24、セルの大きさ21mm角×深さ38.5mm)、市販品としては、ヤンマー農機製のトレイ20−288穴(セルの大きさ20mm角×深さ40mm)、同トレイ25−200穴(セルの大きさ25mm角×深さ45mm)、同トレイ30−128穴(セルの大きさ30mm角×深さ45mm)、同トレイ35−72穴(セルの大きさ35mm角×深さ45mm)、同トレイ45−55穴(セルの大きさ45mm角×深さ45mm)、同トレイ42−72穴(セルの大きさ42mm角×深さ45mm)、日本甜菜製糖製のペーパーポット(商品名)やチェーンポット(商品名)の紙鉢、ブラックモア製プラグトレイ(外枠546mm×280mm)の800SQ(1セル容量1.5mL)、同トレイ288LITE(1セル容量5.2mL)、同トレイ288DEEP(1セル容量10.0mL)、同トレイ128DEEP(1セル容量22.7mL)等が挙げられる。
本発明で用いられる連結型育苗鉢の一例を図1に示す。
【0019】
本発明の移植用苗床における粒状肥料層に用いられる粒状肥料は、粒子径1mm以上の粒子を70質量%以上、好ましくは90質量%以上含有し、かつ該粒状肥料の最大粒子径が2mm以下、好ましくは1.5mm以下である。粒子径が上記の範囲であれば、肥料成分である尿素−脂肪族アルデヒド縮合物が適度の速度で溶出して緩効性肥料として機能し、比較的小粒で均一であるため、セル(鉢)当たりの施肥粒数が確保できて施肥量のばらつきも少ない。
尚、粒状肥料層には本発明の効果を損なわない範囲で水溶性肥料成分をほとんど含有しない肥料も含ませることができる。水溶性肥料成分をほとんど含まない肥料としては、熔燐やケイ酸加里等が挙げられる。
【0020】
本発明で用いられる粒状肥料は、苗を本圃等へ移植する時に株の根元に含有されて、肥
料成分の吸収利用効率を上げ、高い肥効を発揮できるようにするため、粒状肥料1粒当たりの質量が0.5〜5mg、好ましくは1〜3mgであることが望ましい。粒状肥料1粒当たりの質量が上記の範囲であれば、植物体1株(または種子1粒)当たりの適度の施用粒数が確保できるため、施肥量にばらつきが出にくく、均一で安定した肥効が発揮される。ここで、粒状肥料1粒当たりの質量は1粒づつ計量しても良いが、例えば100粒の質量を計量して求めた平均値でも構わない。
【0021】
本発明においては、移植用育苗鉢(例えば、図1)の各セルには1粒以上の粒状肥料が必要である。好ましくは粒状肥料の充填量は、10〜1000粒/セルであり、更に好ましくは30〜500粒/セルである。下限値未満であるとセル間の肥料成分のばらつきによる移植に適さない苗が育成されるおそれがあり、更には、肥料不足による生育不良が予測される。上限値を超えるとセル容量に占める割合が増し、培地基材の基本物性である保水性を悪化させるおそれがあり、好ましくない。
【0022】
本発明の移植用苗床における粒状肥料層に用いられる粒状肥料は、緩効性窒素肥料を移植用苗床中の窒素肥料の主成分(最も多い成分)として含有する。具体的には、窒素肥料の質量に対して、緩効性窒素肥料を80.0〜99.9質量%含有することが好ましく、より好ましくは85.0〜99.0質量%含有する。緩効性窒素肥料としては、被覆肥料でないことが好ましい。好ましい緩効性窒素肥料としては、例えば尿素−脂肪族アルデヒド縮合物が挙げられる。
本発明で使用される尿素−脂肪族アルデヒド縮合物は、特に限定されず、直鎖状、分岐のある鎖状、環状等の何れの分子構造を持つ尿素−脂肪族アルデヒド縮合物であっても使用することができる。具体的には、肥料取締法(普通肥料の公定規格、肥料の種類)に記載のアセトアルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素、メチロール尿素重合肥料、ホルムアルデヒド加工尿素肥料等を挙げることができる。本発明においてはそれらのうち1種以上を任意に選択し使用すればよい。
【0023】
本発明で用いられる粒状肥料は、肥料成分として、窒素成分を25.0〜42.0質量%含有することが好ましく、より好ましくは30.0〜35.0質量%含有する。
【0024】
本発明で用いられる粒状肥料は、肥料成分として、水溶性窒素成分を、窒素換算で窒素成分全質量に対し、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは1〜7質量%含有する。水溶性窒素成分の含有量が上記の範囲であれば、特に播種から発芽前に粒状肥料層を形成させた場合に、栽培初期の生育遅れ、葉色異常、枯死等の生育不良または遅延を起こすことなく、難水溶性窒素肥料である尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の特徴を補うことができる。尿素−脂肪族アルデヒド縮合物のみの肥料を得ようとした場合、精製工程を介する分コスト高になり実用的でない。水溶性窒素成分としては、尿素、硫安、塩安、硝安等を挙げることができる。
本発明で用いられる水溶性窒素成分は、含有成分が既知のものにおいてはアンモニア態窒素、硝酸態窒素、尿素態窒素等水溶性窒素成分の分析値の和を水溶性窒素成分とするほか、肥料分析法に準拠して測定することができる(例えば、農林水産省農業環境技術研究所著,「肥料分析法(1992年版)」,(財)日本肥糧検定協会発行,1992年12月,p.26−27)。
【0025】
本発明で用いられる緩効性窒素肥料が尿素−脂肪族アルデヒド縮合物を主成分とする場合は、無機化を促進して肥効を十分発揮させるため、粒状肥料に更に難水溶性リン酸肥料を加えることが好ましい。
難水溶性リン酸肥料は、水に難溶性で、植物に対してその正常な発育のために必要なリン酸成分を供給することが可能なものであれば特に限定されない。難水溶性リン酸肥料は、溶解度の低いリン酸化合物を主成分とするものであっても良いが、水溶性のリン酸成分
を固定化し難水溶性にしたもの、粒子状のリン酸肥料の表面を水不溶性あるいは疎水性の物質で被覆したもの、更には、リン酸肥料の微粉末と該リン酸肥料以外の水不溶性あるいは疎水性の微粉末とを混合・造粒したもの等も挙げられる。
【0026】
その中でも、溶解度の低いリン酸化合物は、比較的簡便に用いることができるので好ましい。具体的には、20℃の水に対する溶解度が5g/100mL以下の物質が望ましく、例えば、熔成リン肥、加工リン酸肥料、腐植酸混合リン肥、焼成リン肥、レナニアリン肥、副産リン酸二石灰、副産リン酸三石灰、トーマスリン肥、メタリン酸加里、メタリン酸石灰、メタリン酸苦土、メタリン酸加里苦土、リン鉱石等を挙げることができる。この中でも、熔成リン肥、焼成リン肥、リン鉱石は、特に水に対する溶解度が低いため、本発明に好ましく使用することができる。
【0027】
また、難水溶性リン酸肥料は、その難水溶性リン酸肥料を下記式で示される質量比で30℃の2質量%クエン酸水溶液に浸漬後、含有するリン酸成分の80質量%が該クエン酸水溶液に溶出するのに要する時間が0.1〜2000分の範囲である溶出特性を有するものであることが特に好ましい。
式:難水溶性リン酸肥料/2質量%クエン酸水溶液(質量比)=0.013
【0028】
該溶出時間は具体的には次のような方法で測定することができる。300mL容のポリ瓶に難水溶性リン酸肥料2gと30℃に加熱した2質量%クエン酸水溶液150mLを入れ、30℃の振とう恒温槽で振とうする。経時的に該クエン酸水溶液の上澄みを少量ずつ取り、水で希釈後、希釈液中のリン酸成分をイオンクロマトグラフィーによって定量後、溶出曲線を作成することにより、該難水溶性リン酸肥料が含有するリン酸成分の80質量%が溶出するまでに要した時間を求めることができる。
【0029】
該溶出時間が0.1〜2000分の範囲であれば、尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の無機化速度を容易に制御することが可能である。0.1分を下回る場合、及び2000分を上回る場合には、該無機化速度の制御が困難になる場合がある。
【0030】
難水溶性リン酸肥料の該溶出時間が0.1〜2000分の範囲であるためには、該難水溶性リン酸肥料は水に対する溶解度が低く、単一の結晶で構成されていることが好ましい。更に、形状が粒子状である場合には粒子内に空隙が少ないものであることが好ましい。
【0031】
難水溶性リン酸肥料の溶出時間を0.1〜2000分の範囲に調節する方法は、特に限定されないが、例えば、難水溶性リン酸肥料を粒子状としその粒子径を調節する方法、粒子状の難水溶性リン酸肥料の表面を水不溶性あるいは疎水性の物質で被覆する方法、及び、難水溶性リン酸肥料の微粉末と該リン酸肥料以外の水不溶性あるいは疎水性の微粉末とを混合・造粒する方法等を挙げることができる。
【0032】
そのうち、難水溶性リン酸肥料を粒子状としその粒子径を調節する方法は、比較的簡便に実施可能であり好ましい。その際の粒子径は使用する難水溶性リン酸質肥料の種類や、要求される溶出時間によって異なるが、製造面、或いは尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の無機化速度調節の面から0.01〜0.5mmの範囲であることが好ましい。
【0033】
本発明において尿素−脂肪族アルデヒド縮合物への難水溶性リン酸肥料の添加割合は、特に限定されないが、尿素−脂肪族アルデヒド縮合物に対しP25換算で0.01〜5質量%の範囲であることが好ましい。難水溶性リン酸肥料の添加割合がこの範囲内であれば、尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の無機化速度の制御を効果的に行うことが可能である。
【0034】
前述の尿素−脂肪族アルデヒド縮合物のうち、土壌中での無機化速度の制御が特に難し
い尿素−脂肪族アルデヒド縮合物である2−オキソ−4−メチル−6−ウレイドヘキサヒドロピリミジン(以下、「CDU」という)、グリオキサール縮合尿素、メチロール尿素重合肥料、及びホルムアルデヒド加工尿素肥料において、本発明の効果がより顕著である。
【0035】
尚、尿素−脂肪族アルデヒド縮合物への難水溶性リン酸肥料添加の効果をより安定して得るためには、粒状肥料に含まれる水溶性リン酸成分の含有割合は、尿素−脂肪族アルデヒド縮合物に対して、P25換算で0.5質量%以下であることが好ましい。この観点から、本発明に使用するリン酸肥料は、焼成リン肥及び/または熔成リン肥であることが好ましい。また、難水溶性肥料としてリン酸肥料、普通化成肥料、二成分複合化成肥料、高度化成肥料、有機質肥料等のリン酸成分を含有する肥料を用いるときは、含有するリン酸成分の溶出時間と含有量を考慮して使用することが好ましい。
【0036】
また、難水溶性リン酸肥料を含む尿素−脂肪族アルデヒド縮合物に撥水性物質を含有させることにより、難水溶性リン酸肥料と尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の土壌中における溶解を抑制し、該尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の肥効を更に広い範囲で制御することが可能となる。
粒状肥料で使用される撥水性物質は、防湿性、防水性を有する撥水性物質であれば特に限定されないが、その中でも融点が60〜130℃の範囲、好ましくは60〜100℃の範囲である撥水性物質は、本発明に好ましく使用することができる。撥水性物質の融点が60℃以上であれば、粒状肥料の夏季における保存性が安定し、該融点が130℃以下であれば、粒状肥料の製造時に粒状肥料の温度が130℃を超えるような熱処理を行う必要がなく、粒状肥料の製造時における分解が生じにくい。
【0037】
本発明においては、撥水性物質として天然ワックス、合成ワックスから選ばれた1種以上を適宜使用するのが好ましい。天然ワックスとしては、キャデリンワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油等の植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックスが挙げられ、合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等の合成炭化水素、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド、塩素化炭化水素等が挙げられる。この中でも、硬化ひまし油及びその誘導体が尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の無機化速度を制御するのに効果的である。
【0038】
本発明において撥水性物質の含有割合は、粒状肥料中の難水溶性リン酸肥料、撥水性物質、水溶性肥料及び緩効性窒素肥料の総量に対して好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%の範囲である。撥水性物質の含有割合が上記の範囲であれば、撥水性物質の効果が十分で製造コストの上昇が少ない。
【0039】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、緩効性窒素肥料や水溶性窒素成分、難水溶性リン酸肥料、撥水性物質以外の成分を、粒状肥料の原料として使用することができる。該成分としては緩効性窒素肥料、難水溶性リン酸肥料と水溶性窒素成分以外の肥料、各種造粒助剤、結合材等を挙げることができる。該成分は、緩効性窒素肥料、水溶性窒素成分、難水溶性リン酸肥料、撥水性物質を混合する際に添加するのが望ましい。
また、粒状肥料は、上述の粒状肥料と緩効性窒素肥料成分を含まない難水溶性粒状肥料との配合肥料でも構わない。
【0040】
緩効性窒素肥料、難水溶性リン酸肥料と水溶性窒素成分以外の肥料としては、20℃の純水に対する溶解度が5g/100mL未満の肥料であって、リン酸(P25)成分や加里(K2O)成分を含有するもののほか、骨粉、油かす、肉かす等の有機質肥料、石灰質肥料、苦土質肥料、ケイ酸質肥料、及び微量要素肥料等を挙げることができる。本発明においては必要に応じてそれら肥料の中から1種以上を選択して用いればよい。
【0041】
造粒助剤としては、ベントナイト、クレイ、カオリン、セリサイト、タルク、酸性白土、軽石、珪砂、珪石、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト等の鉱物質、モミガラ、オガクズ、木質粉、パルプフロック、大豆粉等の植物質等を挙げることができる。本発明においては必要に応じてそれら造粒助剤の中から1種以上を選択して用いればよい。
【0042】
結合材としては、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、グリセリン、ゼラチン、糖蜜、微結晶セルロース、ピッチ、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルミナゾル、セメント、ポリリン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、界面活性剤、デンプン、熱硬化性樹脂原料等を挙げることができる。本発明においては必要に応じてそれら結合剤の中から1種以上を選択して用いればよい。
【0043】
本発明の移植用苗床は、上記粒状肥料層の下層に、培地基材(保水材)を含有しており、該培地基材としては育苗に要する水分を保持し得るものであれば何れの材料であっても使用することができる。具体的には、土壌、軽量かつ保水性に優れる植物性繊維材料や、鉱物系材料を挙げることができる。
【0044】
土壌としては、沖積土、洪積土、火山性土、鹿沼土、ボラ土(日向土)、及び腐植土等の天然の土壌及び浄水場発生土を挙げることができる。本発明においては、これらを熱等により殺菌した乾燥殺菌土が好ましい。このような殺菌土としては、赤玉土((株)ソイール製、赤土系殺菌土)や黒玉土((株)ソイール製、黒土系殺菌土)、殺菌ボラ土を挙げることができる。
【0045】
植物性繊維材料としては、ピートモスやヤシガラ(ヤシの果皮から外果皮及び内果皮を除去し取り出された中果皮から更に剛長繊維及び中短繊維を取り出した残滓物等)、樹皮、木材パルプ、もみ殻、大鋸屑等が挙げられる。鉱物系材料としては、例えば、焼成バ−ミキュライト、ベントナイト、ゼオライト等が挙げられる。また、バーミキュライトを焼成する際に残存する焼成残砂を用いても構わない。更に、これらの混合物でも構わない。
また、本発明の移植用苗床の培地基材には、必要に応じて粒状綿等の人工繊維、木炭、くん炭等の有機物の炭化物、パーライト、尿素樹脂発泡体等の土壌改良材を配合することもできる。
【0046】
本発明の移植用苗床に含まれる培地基材(保水材)の割合は、該苗床に対して、10〜70質量%の範囲であることが好ましい。尚、該培地基材のかさ密度は、0.2〜0.7g/cm3であることが好ましい。
【0047】
本発明の移植用苗床は、水溶性窒素質肥料を含有することが好ましい。本発明の移植用苗床中に含有される水溶性窒素質肥料成分は、粒状肥料含有の水溶性窒素成分量と培地基材(保水材)中の水溶性窒素成分量との合計量が植物に悪影響を及ぼさない範囲で該苗床全体の含有量を任意に調整すればよい。その目安としては、培地基材のかさ密度にもよるが、該苗床における水溶性窒素成分が10mg/L〜10g/Lの割合で該苗床に含有させることが好ましく、10mg/L〜1g/Lの割合がより好ましい。
また、本発明の移植用苗床における水溶性窒素成分が上記の範囲であれば、水溶性窒素成分により育苗時必要な窒素成分を確保しながら、移植以降に必要な窒素成分を緩効性窒素肥料の肥効を制御することによって、苗に供給することができる。
【0048】
本発明の移植用苗床に含まれる培地基材(保水材)には必要に応じてリン酸(P25)、加里(K2O)等の成分を含有する肥料を添加することができる。リン酸(P25)、及び加里(K2O)としての添加量の目安は、該苗床における含有量がそれぞれ10mg/L〜10g/Lの範囲であり、好ましくは10mg/L〜1g/Lである。
前記に用いられる肥料としては、具体的には、尿素、硫安、塩安、硝安等の水溶性窒素肥料、熔リン、リン酸1アンモニウム、リン酸2アンモニウム、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、重焼リン、苦土重焼リン等のリン酸質肥料、硫酸加里、塩化加里、重炭酸加里、腐植酸加里等の加里肥料、微量要素肥料これらの混合物等を挙げることができる。
【0049】
この他、本発明の移植用苗床には、必要に応じて殺菌剤、殺虫剤、植物成長調節剤、界面活性剤等を本発明の効果を阻害しない範囲において適量含有させることもできる。
また、本発明の移植用苗床においては、育苗期間中に潅水等により容量が減少する場合もあるので、本発明の効果を損なわない範囲で粒状肥料層の上部にさらに覆土をして覆土層を形成してもかまわない。
【0050】
本発明の移植用苗床を作成するに際し、連結型育苗鉢内の底部(下層)に培地基材を充填し播種を行った後の培地層の上部に、緩効性窒素肥料を含有し、かつ粒子径1mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2mm以下の粒状肥料を施用して粒状肥料層を形成させるのは移植前であればいつでも良い。該粒状肥料を容易に各セルに均一に分布させるためには、作業密度が上がる移植前を避けた播種から移植前日が好ましく、培地層表面に障害物がない発芽前がより好ましい。発芽後に該粒状肥料を施用する場合は、障害物となる植物体の表面が乾燥しているのが好ましい。そのためには、施用直前の潅水は避け、施用後に植物体表面に付着した該粒状肥料を培地層表面に洗い落とすために潅水するのが好ましい。
【0051】
本発明の移植用苗床を用いた植物の栽培方法は、対象作物、肥培管理方法等は特に限定されない。特に本発明の移植用苗床は、水溶性肥料と緩効性窒素肥料とを併用することにより従来用いることが困難とされた、水稲、野菜、花卉、果樹、樹木等の育苗時においても苗床中に含まれる肥料量を増やすことができ、被覆肥料でなくても根に肥料やけを起こさない特長を有する。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、水溶性肥料を少量足してもかまわない。
【0052】
本発明の移植用苗床の使用によって、水溶性肥料成分で速効分を過不足なく供給しながら、緩効性窒素肥料の肥効を長期間制御することにより追肥の省略化ができ、かつ粒子径が小さいため単位面積や植物体当たりの粒数を多くすることができる。そのため、本発明の移植用苗床は、食用作物、園芸作物、鑑賞作物等苗を連結型育苗鉢で育成後、移植する植物の栽培に適している。
【実施例】
【0053】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。尚、以下の実施例における「%」は特に断りがない限り「質量%」である。
【0054】
実施例、比較例で用いられた試験方法は下記の通りである。
(1)肥料成分(窒素、リン酸、加里)
窒素(N):培地50gに窒素成分抽出用調製液(KCl−HCl液;特級塩化カリウ
ム315gを純水3Lに溶かし、塩酸150mLを加えて調製する)300mLを加え1時間攪拌・ろ過して得た抽出液を調製し、無機態窒素量をアンモニア態、亜硝酸態、硝酸態窒素の同時浸出測定法(「土壌養分分析法」、養賢堂、1970年12月発行、p.197−p.200に記載の方法)で測定し(測定値1)、CDU窒素量をジメチルアミノベンズアルデヒド法(「改訂詳解肥料分析法」、養賢堂、1973年1月発行、p.69−p.72に記載の方法)で測定し(測定値2)、測定値1と測定値2の和を窒素の測定値とし、培地のかさ密度(kg/L)より窒素成分(mg/L)を算出した。
リン酸(P25):農林水産省農業環境技術研究所「肥料分析法(一九九二年版)」((財)日本肥糧検定協会、1992年12月発行)に従い、クエン酸2%水溶液で抽出されたリン酸成分を測定し、前記窒素と同様に算出した。
加里(K2O):土壌標準分析・測定法委員会編「土壌標準分析・測定法」(博友社、1986年11月発行)に従い、水溶性陽イオンの項によって加里成分を測定し、前記窒素と同様に算出した。
(2)培地のかさ密度
山中式容積重測定器を使用し、測定容器中の培地質量(kg)の数値を測定容器容積(L)の数値で除して求めた。
(3)pH、EC、水分
土壌標準分析・測定法委員会編「土壌標準分析・測定法」(博友社、1986年11月発行)に従い、pHはガラス電極法、EC(電気伝導度)は1:5水浸出法、水分は乾熱法によって測定した。
【0055】
(尿素−脂肪族アルデヒド縮合物(CDU)の合成例)
尿素60gを水60mLに溶解し、濃塩酸8.5mLを加え、氷冷下にアセトアルデヒド30gを滴下し、50℃で4時間攪拌しながら反応させ析出した結晶を濾過し、水で洗浄した後に減圧乾燥してCDU(純度99.9質量%以上)を得た。得られたCDUを篩い、目開き150μmの篩いの目を通過した粉粒体を以下の試験に用いた。尚、CDU粉粒体の尿素等水溶性肥料含有率は、0.05質量%以下であった(薄層クロマトグラフ法による)。
【0056】
粒状肥料の製造例1(粒状肥料1〜6)
前記のCDU粉粒体、及び尿素(20℃の純水に対する溶解度が107.7g/100mL)を表1に示した割合で投入量の合計が20kgとなるように、容量50Lの球形混合機に投入し5分間混合して、混合物を得た。
次に、該混合物1kgを直径120cmの回転皿型パン造粒機に入れ、40r/minの回転速度で該混合物を転動させながら水及び混合物を少量ずつ添加し、平均粒子径が1.3mm程度になるまで造粒した。造粒後、熱風循環乾燥機を用い120℃の条件下で6時間乾燥し、更に、振動篩で分級して粒子径が1.18〜1.40mmの粒状肥料1を得た。また、粒状肥料1の場合と同様に、表1の割合で投入量の合計が20kgとなるようにして粒状肥料2〜4を得た。
更に、粒状肥料3の製造時に、振動篩で分級して粒子径が2.5〜4.1mmの粒状肥料5、及び粒子径が1.18mm未満の粒状肥料6を同時に得た。粒状肥料6は、篩い目開き1mmパス品の割合が40質量%であった。
【0057】
粒状肥料の製造例2(粒状肥料7)
市販のホルムアルデヒド加工尿素肥料(商品名「オーガナイト」、三井東圧肥料(株)製)を粉砕後、再造粒し粒子径が1.18〜1.70mmの粒状肥料7を得た。粒状肥料7の窒素含量は39.5%、内水溶性窒素成分17.0%であった(水溶性窒素成分は公定分析法の測定値)。1粒当たりの質量(n=100)は1.4mgであった。
【0058】
培地基材の製造例1
焼成バ−ミキュライト(2mm篩パス品、かさ密度0.11[kg/L]、pH(質量比1:5水)8.1)、ピ−トモス(3mm篩パス品、かさ密度0.11[kg/L]、pH(質量比1:5水)4.2)、殺菌ボラ土(4mm篩パス品、かさ密度0.85[kg/L]、pH(質量比1:5水)5.5)を容量比70:23:7の割合で混合し、保水材混合物を得た。該混合物に、肥料成分として重焼リン、リン酸水溶液(32%)、硫酸加里を含む水溶液を質量比633:367割合で、回転容器型混合装置(容量;1m3、回転数;12r/min)で均一になるまで十分に混合し、培地基材を得、実施例1〜5、比較例1〜4に用いた。
該培地基材の製造直後の物理性及び化学性は、かさ密度0.38[kg/L]、pH(質量比1:5水)6.2、EC(質量比1:5水)0.5mS/cm、水分35質量%であり、肥料成分は窒素0mg/L、リン酸1115mg/L、加里 152mg/Lであった。
【0059】
培地基材の製造例2
肥料成分として窒素150mg/Lになるように、尿素を加えた以外は、培地基材の製造例1と同様にして、培地基材を製造し、実施例6に用いた。該培地基材の製造直後の物理性及び化学性は培地基材の製造例1で製造した培地基材と窒素成分以外は同様だった。
【0060】
実施例1
連結型育苗鉢であるヤンマートレイ30−128穴(商品名、ヤンマー農機(株)製、セル容量30mm角×深さ45mm、128穴)に、製造例1で製造した培地基材を充填後、キャベツ(品種「YR天空」、タキイ種苗(株)製)を播種して該基材に埋設し、全50gの粒状肥料1をトレイ上方より全128セルに均一になるように施用し、移植用苗床を得た。表1の粒質量よりセル当たりの粒数を算出すると244粒/セルに相当する。得られた移植用苗床の断面図を図2に示す。
【0061】
実施例2〜4
実施例1の粒状肥料1を粒状肥料2〜4に換えた以外は実施例1と同様にして、移植用苗床を得た。表1の粒質量よりセル当たりの粒数を算出するとそれぞれ、230、230、260粒/セルに相当する。
【0062】
実施例5
実施例1において、粒状肥料1を粒状肥料7に換え、全10gの粒状肥料7をトレイ上方より全128セルに均一になるように施用し、移植用苗床を得た。上記粒質量よりセル当たりの粒数を算出すると56粒/セルに相当する。
【0063】
実施例6
連結型育苗鉢であるヤンマートレイ30−128穴(商品名、ヤンマー農機(株)製、セル容量30mm角×深さ45mm、128穴)に、製造例2で製造した培地基材を充填後、キャベツ(品種「YR天空」、タキイ種苗(株)製)を播種して該基材に埋設した。後述する栽培試験1の中で、播種、育苗開始27日後(移植3日前)に全50gの粒状肥料3をトレイ上方よりトレイ全体に均一になるように施用し、施用直後に十分な潅水をおこない、移植用苗床を得た。
【0064】
【表1】

【0065】
比較例1〜3
実施例1において、粒状肥料1をくみあい31.0CDU窒素粉品(商品名、チッソ旭肥料(株)製、粒度1.00mm篩通過、1粒当たり質量0.5mg未満)、粒状肥料5、粒状肥料6に換えるほかは実施例1と同様に移植用苗床を製造し、それぞれ比較例1、2、3とした。比較例1のセル当たりの充填量は、約0.4gである。なお、比較例1は、粉状であり粒数はカウントできない。表1の粒質量より比較例2、3のセル当たりの粒数を算出するとそれぞれ、26、391粒/セルに相当する。比較例2の断面図を図3に示す。
【0066】
比較例4
ヤンマートレイ30−128穴(商品名、ヤンマー農機(株)製、セル容量30mm角×深さ45mm、128穴)に各セルで培地基材を深さ25mm充填後、キャベツ(品種「YR天空」、タキイ種苗(株)製)を播種すると同時にトレイ上方より全10gの粒状肥料7を全128セルに均一になるように施用して肥料・種子層を形成後、その上に培地基材を覆土、充填して移植用苗床を形成させた。
【0067】
栽培試験1
実施例1〜6、比較例1〜4で製造した苗床を用いて30日間育苗を行い、その様子を調査した。全ての育苗は無加温の透明ポリオレフィンフイルム(商品名:アグリトップハイパワー、チッソ(株)製)を展張した温室内で、潅水を十分に行う他は慣行法に従って行った。育苗後は本圃に移植し、慣行法に準じて栽培を行った。
【0068】
栽培試験1の結果、実施例1〜6の本発明の苗床を用いて育成された苗は各セルの生育が草丈9cm、葉数2枚程度と揃い、根張りも良好であり、本圃に容易に移植できた。実施例1〜3、6は移植後も肥効を持続し、特に、実施例6は長期間の肥効を持続した。本発明の苗床が苗の生育に必要な肥料成分を均一にそして十分に含有し、かつ苗床の水溶性肥料成分が種子の発芽や苗の生育に悪影響を与えないことがわかった。
また、実施例2、3は実施例4、5、6よりも収穫揃いがよかった。実施例2、3は含有している尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の分解(無機化)が制御されたことが観察された。また、実施例6は、地上部に施用の障害物となる苗が形成されているため、施用のムラが若干出たものと考えられる。
比較例1、3、4の育苗培地を用いて育苗した試験区は生育障害が発生した。比較例1、4の場合は、水溶性肥料成分の濃度障害が生じ、比較例3は、徒長し、根張りも不十分であった。これは尿素−脂肪族アルデヒド縮合物の無機化速度が速く、過剰量発生した水溶性窒素成分の影響が原因と推測される。
比較例2の場合は、セル間のばらつきが多く生育が不揃いな苗が育成された。苗床に含まれる粒状肥料の粒子径が大きくて、連結型育苗鉢(セルトレイ)のセル容量が小さいためにセル間での粒数が不均一となり、セル当たりの粒状肥料含有量のばらつきが生じたことを反映しているものと思われる。
【0069】
実施例7
ヤンマートレイ20−288穴(商品名、ヤンマー農機(株)製、セル容量20mm角×深さ40mm、288穴)に培地基材として市販の与作ねぎ専用培土(商品名、チッソ旭肥料(株)製、窒素500mg/L、リン酸1000mg/L、加里 150mg/L、pH6〜7)を充填後、ねぎ(品種「長悦葱」、協和種苗(株)製)を播種して該基材に埋設し、移植前日に全100gの粒状肥料3をトレイ上方より全128セル内に均一になるように施用し、移植用苗床を得た。表1の粒質量よりセル当たりの粒数を算出すると204粒/セルに相当する。
【0070】
比較例5
実施例7において、粒状肥料3を市販の被覆肥料マイクロロングトータル201、70タイプ(商品名、チッソ旭肥料(株)製、粒子径1.0mm〜1.5mm、約350粒/g、窒素12%、リン酸10%、加里11%)に換えるほかは実施例7と同様に移植用苗床を製造し、比較例5とした。
【0071】
栽培試験2
実施例7、比較例5で製造した移植用苗床を用いて60日間育苗を行い、その様子を調査した。育苗は無加温の透明ポリオレフィンフイルム(商品名:アグリトップハイパワー、チッソ(株)製)を展張した温室内で、潅水を十分に行う他は慣行法に従って行った。
【0072】
栽培試験2の結果、実施例7は長期間肥効を持続し、品質の良好な苗が得られた。また、比較例5は潅水時に肥料粒が浮上して流出するほか、育苗終了後の抜き取り時に肥料がこぼれ、移植用苗床には適していないことが観察できた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
特に育苗用連結鉢を用いたセル育苗による植物栽培に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】連結型育苗鉢(セルトレイ)模式図
【図2】本発明の移植用苗床の断面図
【図3】比較例2の移植用苗床の断面図
【符号の説明】
【0075】
1 連結型育苗鉢
2 種子
3 培地基材
4 本発明の肥料
5 粒状肥料5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結型育苗鉢内に形成され、培地基材からなる培地層と、培地層の上部に積層された粒状肥料からなる粒状肥料層と、種子又は植物体とを有する移植用苗床であり、該粒状肥料が、緩効性窒素肥料を含有し、かつ粒子径1mm以上の粒子を70質量%以上含有し、最大粒子径が2mm以下である移植用苗床。
【請求項2】
粒状肥料の質量が1粒当たり0.5〜5mgであり、かつ粒状肥料の充填量が10〜1000粒/セルである請求項1記載の移植用苗床。
【請求項3】
粒状肥料が、水溶性窒素成分を0.001〜10質量%含有する請求項1または2記載の移植用苗床。
【請求項4】
緩効性窒素肥料が、アセトアルデヒド縮合尿素、イソブチルアルデヒド縮合尿素、メチロール尿素重合肥料、及びホルムアルデヒド加工尿素肥料の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項記載の移植用苗床。
【請求項5】
粒状肥料が、難水溶性リン酸質肥料及び/または撥水性物質を含有する請求項4記載の移植用苗床。
【請求項6】
連結型育苗鉢内の底部に培地基材を充填し播種を行って培地層を形成した後、播種後から移植前日までの期間に、粒状肥料層を形成させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の移植用苗床の作成方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の移植用苗床を用いる植物の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−217915(P2006−217915A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6398(P2006−6398)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】