説明

移植組織または臓器への薬剤導入方法ならびに薬剤導入装置

【課題】遺伝子等の薬剤をレーザー光誘起応力波(LISW: laser induced stress wave)を利用して皮膚等の移植組織または臓器に導入し、生着能の高い高性能の移植組織または臓器を製造する方法、該方法を行うための装置ならびに前記方法で製造された高性能の移植組織または臓器の提供。
【解決手段】移植組織または臓器の移植片に薬剤を適用し、該移植片の近傍に配置した光吸収体であってレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収体へレーザー光を照射し誘起された応力波を前記移植片へ適用することを含む、薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子等の薬剤を皮膚等の移植組織または臓器に導入する方法ならびに移植組織または臓器への遺伝子等の薬剤導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子導入に代表されるように、近年細胞内への外来分子導入技術は医学および生物学において重要な技術である。細胞に外来分子を導入する手法は数多く報告されているが、ウイルスを用いない化学的又は物理的外来分子導入法はウイルス法と比較して生体への安全性に優れていることから注目を集めている。特にレーザーを用いた方法は、ビーム径を変化させることによる高い空間制御性や光ファイバーの利用による内視鏡又はカテーテルヘの適用が期待されている。
【0003】
レーザーによる薬剤導入法の具体例として、下記の(a)微小孔形成による方法、(b)レーザー光と色素の相互作用による方法、(c)液中へのパルスレーザー照射による方法が開発されている。
【0004】
(a)微小孔形成による方法
細胞膜にレーザー光を集光し、一時的に微小な孔を形成することで濃度勾配により外来分子を導入する方法(非特許文献1参照)。
(b)レーザー光と色素の相互作用による方法
色素を含む液中に細胞を配置し、レーザー光を細胞膜付近の色素に照射することで局所的に温度上昇をさせ、細胞膜を変性させる方法(非特許文献2参照)。
(c)液中へのパルスレーザー照射による方法
細胞を導入目的物質の存在する液中、ゲル中若しくはゲル表面に配置し、前記液中若しくはゲル又は細胞にパルスレーザーを集光させて照射し、それにより生じた衝撃波により細胞膜を変化させる方法(特許文献1参照)。
【0005】
この他に(d)固体材料へのパルスレーザー照射により誘起した応力波(圧力波)を用いた方法が開発されている。
【0006】
(d)固体材料へのパルスレーザー照射により誘起した応力波(圧力波)を用いた方法
パルスレーザーを吸収固体に照射することにより応力波を発生させ、単一処理で多数の細胞へ外来分子を導入させる方法(非特許文献3および4、ならびに特許文献2から4を参照)。
【0007】
組織または臓器の移植では、機能が低下したか、または失った組織もしくは臓器を取り除き、正常または補助的役割を果たす組織または臓器と取り替える。移植には、ドナーから提供された組織または臓器が用いられることが多く、近年はバイオ工学的に作られた組織または臓器の開発も急速に進んでいる。例えば、皮膚移植においては、人工表皮、人工真皮、人工皮膚等が開発されている。また、ウイルスを用いて移植用皮膚で機能する特定の増殖因子の遺伝子を導入することにより、該増殖因子生成を増強させた移植用皮膚も報告されている(非特許文献5を参照)。
【0008】
また、パルスレーザー誘起応力波を利用して、ラットへin vivoで遺伝子をピンポイントで導入する方法について報告されていた(非特許文献6および7を参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2005-168495号公報
【特許文献2】米国特許第5,658,892号公報
【特許文献3】米国特許第6,689,094号公報
【特許文献4】米国特許第6,562,004号公報
【非特許文献1】U. K. Tirlapur and K. Konig, Nature, 2002年7月 Vol.418, pp.290-291
【非特許文献2】G. Palumbo et al., Journal of Photochemistry and Photobiology B, 1996年10月 Vol.36, No.1, pp.41-46
【非特許文献3】S. Lee and A. G. Doukas, IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, 1999年 Vol.5, No.4, pp.997-1003
【非特許文献4】M. Terakawa et al., Optics Letters, 2004年6月, Vol.29, No.11, pp.1227-1229
【非特許文献5】Gulsun Erdag et al., Molecular Therapy, Vol.10, No.1, pp.76-85, 2004
【非特許文献6】Terakawa et al., Proc. Of SPIE Vol.6078 60780T-1
【非特許文献7】寺川 他、日本光学会 第4回 生体医用工学研究会 講演論文集 p.26-27, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、遺伝子等の薬剤をレーザー光誘起応力波(LISW: laser induced stress wave)を利用して皮膚等の移植組織または臓器に導入し、生着能の高い高性能の移植組織または臓器を製造する方法、該方法を行うための装置ならびに前記方法で製造された高性能の移植組織または臓器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
組織および臓器の種類によっても異なるが、一般に移植した組織または臓器の生着速度は速いとはいい難く、また生着する確率も低く、組織または臓器の移植には問題が残されていた。生着が不完全である組織または臓器では感染症のリスクが高いため、生着速度が早く、かつ生着確率が大きい移植組織または臓器が望まれていた。移植片の生着は、移植片の血管形成に大きく影響を受ける。しかし、例えば皮膚等においては移植時に血管縫合を行わないため、その生着は自然治癒過程に頼らざるを得なかった。一方、ウイルスベクターにより遺伝子を導入した移植用組織及び臓器は細胞増殖能が高いという特徴を有していたが、使用時の安全性に問題があった。
【0012】
レーザー光誘起応力波を利用して、ラットへin vivoで遺伝子を導入する方法についての報告はあったものの、移植組織または臓器の移植片へ遺伝子を導入する方法は報告されていなかった。
【0013】
本発明者は、光吸収体へのレーザー光照射により誘起された応力波(圧力波)を用いて遺伝子を移植組織または臓器中に導入する方法について鋭意検討を行い、180nm〜20μmの波長、0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンス、500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光を用い、移植組織または臓器の移植片に遺伝子等の薬剤を適用し、前記レーザー光を光吸収体または光吸収体と透明部材からなるターゲットに照射することにより発生する応力波を移植片に適用することにより、効率的に移植片に遺伝子等の薬剤を導入できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 移植組織または臓器の移植片に薬剤を適用し、該移植片の近傍に配置した光吸収体であってレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収体へレーザー光を照射し誘起された応力波を前記移植片へ適用することを含む、薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[2] 薬剤が血管新生作用を有する薬剤、感染防止作用を有する薬剤、神経再生促進作用を有する薬剤、細胞増殖作用を有する薬剤および造血作用を有する薬剤からなる群から選択される、[1]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[3] 薬剤が血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子および造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、[2]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[4] 薬剤がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームで化学修飾された、[1]〜[3]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[5] 移植組織または臓器が皮膚、肝臓、腎臓、肝臓、肺、小腸、膵臓および角膜からなる群から選択される[1]〜[4]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[6] 移植組織または臓器が皮膚である、[5]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[7] 移植組織または臓器が生体適合性物質および動物細胞を含む人工皮膚である、[6]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[8] 光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される[1]〜[7]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[9] 光吸収体が透明部材と組み合わさっている[1]〜[8]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[10] 透明部材が透明樹脂またはガラスである、[9]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[11] 透明部材が透明なゲルまたは液体である、[9]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[12] レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である[1]〜[11]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[13] レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する[1]〜[12]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[14] レーザー光の波長が180nm〜20μmである[1]〜[13]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[15] 移植組織または臓器の移植片に薬物が浸透しやすくなるように、前記組織片に切り込みを入れるか、または穴を開ける[1]〜[14]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
[16] 動物の組織または臓器に、血管新生作用を有する薬剤、感染防止作用を有する薬剤、神経再生促進作用を有する薬剤、細胞増殖作用を有する薬剤および造血作用を有する薬剤からなる群から選択される薬剤を適用し、該組織または臓器の近傍に配置した光吸収体であってレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収体へレーザー光を照射し誘起された応力波を前記組織または臓器へ適用することを含む、in vitroで薬剤を組織または臓器に導入することを含む、生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[17] 薬剤が血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子および造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、[16]の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[18] 薬剤がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームで化学修飾された、[16]または[17]の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[19] 動物の組織または臓器が、動物体から取り出された、皮膚、肝臓、腎臓、肝臓、肺、小腸、膵臓および角膜からなる群から選択される組織または臓器である、[16]〜[18]のいずれかの生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[20] 動物の組織または臓器が、動物体から取り出された皮膚である、[19]の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[21] 動物の組織または臓器が、生体適合性物質および動物細胞を含む人工皮膚である、[19]の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[22] 光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される[16]〜[21]のいずれかの生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[23] 光吸収体が透明部材と組み合わさっている[16]〜[22]のいずれかの生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[24] 透明部材が透明樹脂またはガラスである、[23]の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[25] 透明部材が透明なゲルまたは液体である、[23]の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[26] レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である[16]〜[24]のいずれかの生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[27] レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する[16]〜[26]のいずれかの生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[28] レーザー光の波長が180nm〜20μmである[16]〜[27]のいずれかの生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[29] 移植組織または臓器の移植片に薬物が浸透しやすくなるように、前記組織片に切り込みを入れるか、または穴を開ける[16]〜[27]のいずれかの生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
[30] 移植組織または臓器の移植片に導入しようとする薬剤、前記移植組織または臓器の移植片を載せる台、光吸収体と透明部材の組合せあるいは光吸収体よりなるターゲットであって光吸収体がレーザー光を吸収し、応力波を発生し得るターゲット、ならびにレーザー光照射手段を含む、移植組織または臓器の移植片に薬剤を導入するための薬剤導入装置であって、レーザー光を前記ターゲットに照射し、光吸収体から応力波を発生させ、該応力波を移植組織または臓器の移植片に適用し、移植組織または臓器の移植片に薬剤を導入する薬剤導入装置。
[31] さらに、光ファイバーを含み、該光ファイバーの先端に光吸収体と透明部材が含まれる先端容器が含まれ、先端容器の底面に光吸収体があり、透明部材が光吸収体の上に置かれている、[30]の移植組織または臓器の移植片に薬剤を導入する薬剤導入装置。
[32] 薬剤が血管新生作用を有する薬剤、感染防止作用を有する薬剤、神経再生促進作用を有する薬剤、細胞増殖作用を有する薬剤および造血作用を有する薬剤からなる群から選択される、[30]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[33] 薬剤が血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子および造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、[30]〜[32]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[34] 薬剤がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームで化学修飾された、[30]〜[33]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[35] 移植組織または臓器が皮膚、肝臓、腎臓、肝臓、肺、小腸、膵臓および角膜からなる群から選択される[30]〜[34]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[36] 移植組織または臓器が皮膚である、[35]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[37] 移植組織または臓器が生体適合性物質および動物細胞を含む人工皮膚である、[35]の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[38] 光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択され、透明部材が透明樹脂またはガラスである[30]〜[37]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[39] レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である[30]〜[38]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[40] レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する[30]〜[39]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[41] レーザー光の波長が180nm〜20μmである[30]〜[40]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
[42] [1]〜[15]のいずれかの薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法により製造された移植組織または臓器の移植片。
[43] 血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子および造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される遺伝子が発現可能に導入された、[42]の移植組織または臓器の移植片。
[44] 血管新生能が増強された[42]または[43]の移植組織または臓器の移植片。
[45] 生着能の向上した[42]〜[44]のいずれかの移植組織または臓器の移植片。
[46] 移植組織または臓器が皮膚、肝臓、腎臓、肝臓、肺、小腸、膵臓および角膜からなる群から選択される、[42]〜[45]のいずれかの移植組織または臓器の移植片。
[47] 移植組織または臓器が皮膚である、[46]の移植組織または臓器の移植片。
[48] 移植組織または臓器が生体適合性物質および動物細胞を含む人工皮膚である、[46]の移植組織または臓器の移植片。
【発明の効果】
【0015】
本発明の移植組織または臓器への薬剤導入方法により、移植組織または臓器の深部も含んだ移植組織または臓器全体に遺伝子等の薬剤を導入することができる。薬剤としては、血管新生作用や感染防止作用のある活性物質をコードする遺伝子を導入することにより、血管新生機能や感染防止機能を有する高性能な移植組織または臓器の移植片を得ることができる。
【0016】
実施例に示すように、血管新生作用を有する遺伝子を導入した場合、血管新生の生成が増強された移植組織または移植臓器を得ることができる。これにより移植片の生着が促進される。例えば、皮膚を対象とした移植では、早期の移植により感染の防止や体液喪失の防止、痛みの軽減という効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、光吸収体へのレーザー光照射により誘起された応力波(圧力波、laser-induced stress wave(LISW))を用いて遺伝子等の薬剤を移植組織または臓器に導入することにより、高性能の移植組織または臓器を製造する方法である。
【0018】
本発明により、移植組織または臓器に導入される遺伝子等の薬剤は、遺伝子DNAやRNA等の核酸、タンパク質、糖類、ポリペプチド及びこれらの誘導体であり、これら以外の有機化合物および無機化合物も用いることができる。本発明において、用いる遺伝子等の薬剤は細胞内で医薬効果等の効果を発揮し得る物質である。例えば、遺伝子治療に用い得るDNAやRNAであり、生理活性物質をコードするDNA、短鎖のDNA又はRNAのアンチセンスもしくはその活性誘導体、リボザイム、および短鎖の2本鎖RNA(dsRNA;double stranded RNA)等が含まれる。短鎖の2本鎖RNAとしては、例えば、small interfering RNA(siRNA)と称される15〜30塩基対(bp)、好ましくは21〜29bpのリボ核酸等が挙げられる。また、タンパク質は生理活性物質等を用い得る。また、公知のあらゆる医薬化合物を本発明の薬剤として細胞に導入することができる。特に本発明の対象が移植組織または臓器であることから、移植後の組織または臓器の生着率を高め、移植後の感染を防止する観点から、血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤、造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤等が挙げられる。血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤としては、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来創傷治癒因子(PDWHF)、GM-CSF、EGF、TGF-α、HB-DGF、FGF、VEGFやこれらをコードする遺伝子等が挙げられ、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤としては、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18やこれらをコードする遺伝子等が挙げられ、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤としては、NGF、GDNF、Midkineやこれらをコードする遺伝子等が挙げられ、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤としては、EGF、TGF-α、HB-EGF、FGF、HGFやこれらをコードする遺伝子等が挙げられ、造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子等の薬剤としては、GM-CSF、G-CSF、エリスロポエチンやこれらをコードする遺伝子等が挙げられる。また、上記の遺伝子等の薬剤のレセプターをコードする遺伝子を導入してもよい。前記の遺伝子等の薬剤は例示であり、限定されるものではない。移植組織または臓器の生着のためには、特に血行再開が必要であり、この点、血管新生作用のある遺伝子等の薬剤が好ましい。
【0019】
遺伝子はプロモーター等を含む発現プラスミドやベクターに発現可能に組み込んだ状態で、移植組織または臓器中に発現可能に導入する。
【0020】
本発明において、遺伝子等の薬剤は、未処理のまま移植組織または臓器に導入することもできるし、また化学修飾を行って導入することもできる。本発明において、遺伝子等の薬剤の化学修飾とは、移植組織または臓器に導入しようとする薬剤と正味電荷が正電荷である複合体を形成し得る化学物質との複合体を形成させることをいう。複合体が正電荷を有していると、複合体は移植用組織または臓器の細胞の周囲に集積し、レーザー誘起応力波を適用したときに細胞に導入しようとする遺伝子等の薬剤が効率的に細胞に導入される。ここで、遺伝子等の薬剤を細胞の周囲に集積させるとは、細胞膜の透過性が増加したときに遺伝子等の薬剤が細胞中に容易に導入される状態にあることをいい、薬剤が細胞膜に接触している状態も、接触せずにごく近傍に存在している状態も含む。化学修飾に用いる化学物質として、脂質、ペプチド等のポリマー、受容体結合蛋白を持つ外被膜等が挙げられる。前記の脂質、ペプチド等のポリマーは、正電荷を持つ物質であり、正電荷を持ち、導入しようとする薬剤と相互作用して複合体を形成できるものであればよく、遺伝子導入試薬として知られている物質を用いることができる。これらの物質は、正電荷を有するポリマーであり、カチオニックポリマーと呼ぶこともできる。また、陽電荷をもつ脂質を構成成分とする脂質二重膜小胞(カチオニックリポソーム)も用いることができる。具体的には、ポリエチエレンイミン(PEI、直鎖型もしくは分岐型)や市販の遺伝子導入試薬が挙げられる。市販の遺伝子導入試薬として、Lipofectamine(登録商標)、Lipofectamine plus(登録商標)、jet PEI(登録商標)、Oligofectamine(登録商標)、siLentFect(登録商標)、DMRIE-C(登録商標)、Transfectin-Lipid(登録商標)、Effectene(登録商標)などを挙げることができる。このうち、ポリエチレンイミン(PEI)には、直鎖PEIと1級、2級、3級アミンを含む分岐PEIとが存在するがいずれも用いることができる。また、PEIの分子量も限定されない。さらに脱アシル化等の化学修飾されたPEIも用いることができる。その他、アルギニン、ポリアルギニン、ポリ-L-リジン、キトサンなどの塩基性物質を挙げることができる。さらに、Tatなどの細胞透過性ペプチドおよびその誘導体や、NF-κβなどの核移行シグナルを挙げることができる。鎖受容体結合タンパク質を持つ外被膜を用いることにより、外被膜が有するタンパク質が結合する受容体を表面に有する細胞に薬剤を導入することができる。
【0021】
本発明において、化学修飾を施した薬剤を、薬剤の名称および化学修飾に用いた化学物質の名称を用いて、DNA-カチオニックリポソーム、DNA-ポリエチレンイミン(PEI)のように表わすことがある。
【0022】
また、上記の正電荷を持つ化学物質の複数を組合せて用いてもよい。
【0023】
薬剤の化学物質による化学修飾の方法は特に制限されず、物理的吸着、化学結合、イオン結合等が挙げられる。また、カチオニックリポソームの場合は、移植組織または臓器に導入しようとする薬剤をリポソーム内に封入してもよい。これらの化学物質で化学修飾をした薬剤を細胞に適用した場合、該化学修飾薬剤は静電的な相互作用により移植組織または臓器の細胞の周囲に集積し得る。
【0024】
本発明においては、遺伝子等の薬剤をそのまま、または化学修飾を施し、移植組織または臓器に適用し、移植組織または臓器の近傍に配置した光吸収体または光吸収体と透明部材からなるターゲットにパルスレーザー光を照射する。パルスレーザー光は光吸収体に吸収され、応力波(圧力波)が誘起される。これにより移植組織または臓器の細胞の細胞膜の透過性が増大し、遺伝子等の薬剤が細胞内へ導入される。ここで、薬剤を移植組織または臓器に適用するとは、薬剤が移植組織または臓器の細胞に導入されるように、薬剤を移植組織または臓器と接触させ該細胞の近傍に位置させることをいう。具体的には、薬剤を移植組織または臓器に注入すること、滴下すること、塗布すること、移植組織または臓器を薬剤を含む溶液に浸すこと等を含む。
【0025】
本発明において、遺伝子等の薬剤を導入する対象である移植組織または臓器は限定されず、移植が可能なあらゆる組織、臓器を含む。例えば、皮膚、肝臓、腎臓、肺、小腸、膵臓、角膜、心臓、大腸、血管等が挙げられる。これらの組織または臓器は生体から採取したものでも、脳死または心臓停止したドナーから採取したものでもよい。また、動物も限定されずヒトのみならず、他の哺乳動物も含む。移植組織が皮膚である場合、移植皮膚は皮膚全層を含む全層植皮でも皮膚の一部を含む分層植皮でもよい。全層植皮は真皮を含み、分層皮膚は真皮を多くは含まない。また、採取した皮膚片を培養し、面積を増大させた移植片も用いることができる。移植皮膚は皮膚移植を受ける患者自身の皮膚を自家移植するのが好ましいが、同種移植でもよく、例えば、他人の皮膚片を培養したものを用いることができる。さらに、バイオ工学に基づいて製造された人工移植皮膚も対象となり得る。バイオ工学に基づいて製造された人工移植皮膚は、コラーゲン、キトサン、キチン、フィブリン、ゼラチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等の生体親和性高分子物質内に線維芽細胞、角化細胞等の動物皮膚由来細胞を含んだ構造を有している。本発明の方法により、このような代替人工皮膚内の動物細胞に遺伝子などの薬剤類を導入することにより、代替人工皮膚の生着率を向上させることができる。代替人工皮膚としては、例えば、特開2006-136326号公報、特開2004-121523号公報、特開2002-218971号公報、特開2001-104346号公報、特開2000-125855号公報、特開平9-173362号公報、特開平5-317406号公報、特表平11-503946号公報等に記載のものが挙げられるが、これらには限定されない。
【0026】
光吸収体は、レーザー光を吸収し、応力波を発生させるために用いる。光吸収体は、固体状の光吸収固体が好ましく、ゴムや樹脂等のポリマーやモノマー、金属、アモルファス金属、アモルファス合金等のアモルファス物質、結晶等でできた光吸収性の高いものが好ましい。光吸収体は黒色のものを用いてもよい。光吸収体は、用いるレーザー光が吸収されやすい材質のものを用いることが好ましく、用いるレーザー光の波長と適切な光吸収体との組合せとして、532nmまたは694nmのレーザー光とゴム(黒色天然ゴム)との組合せ、532nm、1064nmまたは2100nmのレーザー光と金属(アルミニウム、ステンレス、真鍮、ニッケル等)の組合せならびに193nm、213nm、247nm、266nm、308nmまたは355nmのレーザー光と樹脂の組合せを挙げることができる。
【0027】
さらに、レーザー光を吸収し得る色素を光吸収体として用いることもできる。この場合、遺伝子等の薬剤を導入しようとする組織または臓器に色素を適用し、該組織または臓器を色素で着色し、着色部分にレーザー光を照射すればよい。
【0028】
光吸収体は、光吸収体がレーザーを吸収した際に発生するプラズマを閉じ込めるための、用いる波長のレーザー光を透過させ得る透明部材と組み合わせて用いてもよい。プラズマを該透明部材に閉じ込めることにより、レーザーにより誘起される応力波のインパルス(圧力の時間積分値)が大きくなり、より効率的に遺伝子等の薬剤を移植組織または臓器に導入することが可能になる。透明部材は光吸収体と貼り合わせる等により、重ねて用いればよい。例えば、板状またはシート状の光吸収体と板状またはシート状の透明部材を、それぞれ光吸収層および透明層として接着して用いればよい。透明部材は例えば固体部材である。透明部材の材質は透明でプラズマを閉じ込めることができるものならば、限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、PMMA、ポリメタクリルアクリルアミド等の透明樹脂、石英ガラス等のガラスなどが挙げられる。透明部材の形状およびサイズは、光吸収体に合わせて適宜設計することができる。透明部材の厚さは、例えば、0.1〜数mmである。また、透明部材はポリビニルアルコールゲルやポリアクリルアミドゲル等のゲル状物質、水や緩衝液等の液体であってもよい。ゲル状物質や水を用いると、レーザー誘起応力波の力積(圧力波形の時間積分値)がより大きくなり、従来より低いレーザーエネルギーでも遺伝子導入が可能となる。
【0029】
移植組織または臓器の移植片は、音響インピーダンスの高い、固い材質の台の上に置いてレーザーを照射するのが好ましい。レーザー誘起応力波が台表面で効率よく反射し、その反射波が移植片に作用するため、遺伝子等の導入効果を高めることが可能になる。さらに、上記の透明部材をガラス、光学結晶などの音響インピーダンスの高い材質とすることにより、レーザー誘起応力波は前記台表面と透明部材下面との間で効率よく多重反射を行うため,遺伝子等の導入効果をさらに高めることが可能である。台の材質として、金属、セラミック、強化プラスチック等が上げられる。
【0030】
本発明においては、レーザー光を照射してレーザー誘起応力波を発生させるための、光吸収体または光吸収体と透明部材とを貼り付け等により組合せたものをターゲットと呼ぶことがある。
【0031】
ターゲットの形状およびサイズは、限定されず、遺伝子等の薬剤を導入しようとする移植組織または臓器の状態に応じて適宜設計することができるが、ターゲットの面積を移植組織または臓器の移植片と同等以上にすることが好ましい。例えば、皮膚の植皮片に遺伝子等の薬剤を導入する場合、板状またはシート状のもの等を用いることができる。
【0032】
光吸収体は遺伝子等の薬剤を導入しようとする移植組織または臓器の近傍に配置する。光吸収体は移植組織または臓器から0mm〜50mm、好ましくは0mm〜10mm、より好ましくはOmm〜5mm離れた位置に配置するのが好ましい。この距離は、遺伝子等の薬剤を導入しようとする移植組織または臓器とレーザー光を照射する位置との距離でもある。光吸収体の厚さは、例えば、0.1〜数mmである。
【0033】
本発明において、遺伝子等の薬剤を移植組織または臓器に導入するために、光吸収体に照射するレーザーのパルス幅、波長、強度等の選択が重要である。過度の圧力の適用は、移植組織または臓器の細胞へ損傷を与える。許容範囲内での条件設定が必要である。
【0034】
レーザー光としては、光吸収体に吸収されて応力波を誘起し得るものであれば、限定されない。例えば、固体レーザーは、レーザーを発生させる元素のイオンと該イオンを保持する母材の種類で表されるが、元素として希土類に属するHo(ホロニウム)、Tm(ツリウム)、Er(エルビウム)、Nd(ネオジム)等が挙げられる。母材としてはYAG、YSGG、YVO等が挙げられる。例えば、Nd:YAGレーザー、Ho:YAGレーザー、Tm:YAGレーザー、Ho:YSGGレーザー、Tm:YSGGレーザー、Ho:YVOレーザーおよびTm:YVOレーザー等を用いることができる。また、気体レーザーとしてXeClレーザーを用いることもできる。レーザー光はレーザー発生装置により発生させることができる。
【0035】
(1)パルス幅:光吸収体に照射するレーザー光のパルス幅は、レーザーエネルギーから応力への変換効率に影響を与える。500nsより長いパルス幅では、レーザーエネルギーから応力ヘの変換効率が低い。また500fsより短いパルス幅では、光吸収体にレーザー光が照射された際に発生するプラズマを膨張させることができず、応力波は短時間のみ発生する。以上から前記レーザー光は、500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光が適している。
(2)波長:光吸収体に照射するレーザー光の波長は、レーザーエネルギーから応力への変換効率に影響を与える。用いる吸収体の吸収が高いレーザー光の波長が望ましい。ポリマー、金属等を光吸収体として用いる場合には180nm〜20μmが適している。
(3)強度:光吸収体に照射するレーザー光の強度は主に遺伝子等の薬剤の導入効率および移植組織または臓器の細胞の安全性に影響を与える。一般にレーザー波長は選択が限定的であるため、所望の効果を期待する場合、主にレーザーフルエンスを制御する。しかし、過剰なレーザーフルエンスは移植組織または臓器の細胞の損傷を引き起こしてしまう。そのため、本方法では、0.1mJ/cm2〜10J/cm2、好ましくは0.1mJ/cm2〜2J/cm2のレーザーフルエンスが適している。用いる装置が後述の光ファイバーを含む装置である場合、レーザーフルエンスは低くてもよく、例えば0.1mJ/cm2〜1J/cm2である。
【0036】
レーザー光を照射するスポットの大きさ(面積)は、遺伝子等の薬剤を導入しようとする移植組織または臓器の移植片の大きさ等により適宜決定することができる。照射スポットは点状でもよく、円形でもよい。照射スポットの大きさは、レーザー光のビーム径を変えることにより適宜調節することができる。この際、レーザー光をレンズ等の集光系を通して照射してもよく、集光系を用いることにより、レーザーの照射位置や照射スポットの大きさを適宜調節することができる。この際、レーザービームをガルバノミラー等により走査することにより、大面積の移植片へも効率よく遺伝子等の導入が可能となる。この際、レンズを円筒面レンズとし、レーザービームを線状に集光してもよい。また、レーザービームを走査する代わりに、移植片を置く台を走査しても同様の効果が期待できる。さらに複数のレーザービームを用いることにより、遺伝子等の導入時間をさらに短縮することが可能である。複数のレーザービームを用いる場合、同一部位を同時照射することにより、レーザー光またはレーザー誘起応力波の干渉が発生し、遺伝子等の導入効率を高めることができる。また、移植片の上方および下方からレーザーを同時に照射しても、レーザー誘起応力波の干渉効果が得られ、遺伝子等の薬剤の導入効率を高めることができる。
【0037】
光吸収体から発生した応力波は、移植組織または臓器に適用される。ここで、応力波の移植組織または臓器への適用とは、応力波が移植組織または臓器に伝わり、移植組織または臓器中の細胞に接触し細胞膜の透過性を高めることをいう。
【0038】
レーザー光を照射する際、移植組織または臓器の損傷を防ぐためレーザー光が直接移植組織や臓器に照射されずに応力波だけが移植組織や臓器に接触するようにすることが好ましい。
【0039】
レーザー光は、光ファイバーを介して照射してもよい。光ファイバーを用いる方法においては、光吸収体を光ファイバーの先端に取り付けておけばよい。また、透明部材は、光吸収体の上に置いておく。この場合、光吸収体と透明部材を容器中に取り付け該容器を光ファイバーの先端に取り付ければよい。光ファイバーは石英ファイバーでもガラスファイバーでもよい。
【0040】
なお、本発明の方法は遺伝子等の薬剤を導入する際の空間制御性が高く、移植組織または臓器の任意の部分にのみ血管新生を促進させることも可能である。
【0041】
図1に本発明の移植組織又は臓器へ遺伝子等の薬剤を導入する方法の概要を示す。移植片1を台4の上に置き、移植片1の上に透明部材2および光吸収体3を貼り合わせたターゲットを置く、そこにレンズ5等の集光系を通してレーザー光6をターゲットに照射する。ターゲットでレーザー誘起応力波が発生し、移植片1に当たり遺伝子等の薬剤が移植片の細胞に導入される。図2は図1の方法において、レーザービームを走査して(上の矢印)レーザー光を移植片全体に照射するか、または台を走査して(下の矢印)レーザー光を移植片全体に照射することを示している。図2に示すように、レーザー光を全体に照射するためには、ターゲットの面積は移植片の面積よりも広いことが好ましい。図3は、移植組織または臓器へ遺伝子等の薬剤を導入する方法において、複数のレーザービームを用いる方法を示す。また、図4は、移植片の上方および下方の両方向からレーザー光を照射する方法を示す。図3および図4に示す方法においては、レーザー光またはレーザー誘起応力波が干渉し、遺伝子等の薬剤が移植組織または臓器に導入されやすくなりうる。
【0042】
本発明の方法においては、遺伝子等の薬剤を導入しようとする移植組織または臓器の移植片に化学修飾したか、またはしていない遺伝子等の薬剤の溶液を適用し、遺伝子等の薬剤を導入しようとする移植組織または臓器から0mm〜50mm、好ましくは0mm〜10mm、より好ましくはOmm〜5mm離れた位置に配置された光吸収体に上記レーザー光を照射して、応力波を発生させる。発生した応力波が移植片の細胞に当たり、細胞膜の透過性が増加し、細胞の周囲に集積した化学修飾した薬剤が細胞内に導入される。遺伝子等の薬剤の導入は、シリンジ等を用いて移植片中に薬剤を投与してもよいし、薬剤を移植片に塗布または滴下してもよい。また、予め移植片を薬剤に浸してもよい。移植片の面積が大きい場合は、図5aのように切り込みを入れたり、図5bのように穴を開けることにより移植片を処理して、遺伝子等の薬剤を含む緩衝液に接触させればよい。このような処理により大面積の移植片内に均一かつ高濃度に遺伝子等の薬剤が浸透しやすくなり、遺伝子等の薬剤を効率的に適用することができる。この際の、切り込みまたは穴の大きさ、密度は移植組織または臓器の移植片の大きさ、導入しようとする薬剤の量に応じて適宜決定することができる。
【0043】
さらに、図6のように、移植片を遺伝子等の薬剤を含む緩衝液に浸し接触させた状態で、レーザー照射を行ってもよい。
【0044】
本発明は、移植組織または臓器へ遺伝子等の薬剤を導入するための装置をも包含する。該導入装置は、パルスレーザー発振器等のレーザー光照射手段、照射面積を制御するレンズ等の光学系、光吸収体および透明部材あるいは光吸収体よりなるターゲット、遺伝子等の薬剤、移植片を載せるための台を具備する。パルスレーザー発振器は上記の波長及びパルス幅のパルスレーザーを発振して出射する。本発明の装置をレーザー誘起応力波薬剤導入装置またはレーザー誘起応力波遺伝子導入装置という。
【0045】
図10は、光ファイバーを用いたレーザー誘起応力波(LISW)遺伝子導入装置の構成図を示す。該装置において、光ファイバー10出力端に円筒状の先端容器9が取り付けられている。先端容器9の底面はレーザー吸収体(ターゲット)3となっており、その上に透明部材2が置かれている。ファイバー10から出射したパルスレーザー光6は吸収体3に吸収されてプラズマを生成し、そのプラズマが透明部材2により閉じ込められて、効率よくLISWを発生する。透明材料はPET(ポリエチレンテレフタレート)のような固体材料でもよいが、ゲル状物質や水を用いると、レーザー誘起応力波の力積(圧力波形の時間積分値)がより大きくなり、従来より低いレーザーエネルギーでも遺伝子導入が可能となる。レーザー光のエネルギーが一定値以上に高くなると、光ファーバー自体を破壊する確率が高まるため、このことは安定な伝送に有利である。レーザー光は光吸収体(ターゲット)に照射される。この際に照射されるスポットの直径は限定されないが、2mm〜20mm、好ましくは2mmであり、これは光ファイバーの直径と同じである。光吸収体と透明部材を含む先端容器の径は遺伝子を導入する部位の大きさに適宜設定することができる。
【0046】
光ファイバーを有する装置は消化管や血管等の動物の体腔に挿入することができ、動物体内の組織や器官に薬剤をin vivoで導入することができる。特に、先端容器の直径が2mm程度の場合、前記装置は細い血管に挿入して用いることができる。従って、光ファイバーを有する装置は内視鏡的レーザー誘起応力波薬剤導入装置として用いることができる。前記装置はさらにレーザー光源12、シャッター13、アッテネーター14、レンズ15等を含んでいてもよい。装置を内視鏡的薬剤導入装置として用いる場合、該装置は薬剤を動物体内に投与する手段を含んでいてもよい。あるいは、薬剤をあらかじめ動物に投与しておいてもよい。本発明は図11に示される、動物体内の生きている組織または器官にin vivoで遺伝子等の薬剤を導入するための光ファイバーを有する装置を包含する。この場合、光ファイバーは、適当な保護用チューブ、例えばシースやカテーテル中に入れてもよく、光ファイバーの一端をレーザー光源に連結すればよい。このカテーテルタイプの装置において、光吸収体と透明部材を含む容器はカテーテルの先端に取り付ければよい。本発明は、さらに図11に示す装置を用いて動物体内の生きている組織または器官にin vivoで遺伝子等の薬剤を導入する方法を包含する。本方法において、薬剤が導入される組織、器官は、例えば皮膚、肝臓、腎臓、肺、小腸、膵臓、角膜、心臓、大腸、血管等である。さらに、該組織または器官は腫瘍等に冒されている組織または器官であってもよい。
【0047】
本発明の装置は、移植手術を行う場所に設置する必要は必ずしもなく、例えば、移植組織や移植臓器を提供する組織バンク、皮膚バンク等の臓器バンクに装置を設置し、移植皮膚または移植皮膚に種々の機能を付与し、増強し高性能化した後に医療機関に輸送することもできる。また、本発明の装置を用いることにより、高性能移植組織または臓器製造に伴う遺伝子注入、レーザー照射等の手順は自動化が可能であり、大量処理、大面積処理が可能になる。
【0048】
さらに、本発明は、本発明の移植組織または臓器へ遺伝子等の薬剤を導入する方法により得られた、血管新生作用等の特定の機能を付与する遺伝子等の薬剤が導入され、該機能付与されたまたは該機能が増強された移植組織または臓器の移植片を包含する。例えば、HGFを本発明の方法により導入し、血管新生能が増強された高性能の組織または臓器、具体的には高性能の移植皮膚が挙げられる。血管新生機能が増強されることにより、移植片の生着が促進される。すなわち、本発明の方法で製造される移植組織または臓器は、血管新生作用等の特定の機能を付与する遺伝子等の薬剤を導入していない移植組織または臓器に比べ、生着能が大きい移植組織または臓器である。生着能は、例えば移植しようとする移植組織または移植臓器の移植片を、免疫不全マウス等の実験動物の複数個体に移植し、一定時間経過後の生着率を測定することにより決定することができる。また、本発明の薬剤導入方法によれば、ウイルスベクターを用いることなく遺伝子を導入することができるので、製造される移植組織または臓器はウイルス由来物質を含むことはなく、人体に安全である。さらに、本発明の薬剤導入方法によれば、サイズの大きい移植片にも均一に効率的に薬剤を導入することができるので、製造される移植組織または臓器は均一に薬剤が導入され、移植片全体に対して特定の機能が付与された移植片である。さらにまた、本発明の方法により製造される移植組織または臓器の移植片は、遺伝子等の薬剤を導入するための切れ込みまたは穴を有する場合がある。
【0049】
本発明の方法により、得られた高性能の組織または臓器は公知の組織または臓器の移植方法により、移植が必要な患者に移植することができる。また、移植組織または臓器が皮膚である場合、キチン、キトサン、コラーゲン等の生体適合性材料を含む人工真皮等の人工皮膚と組合せて移植してもよい。
【実施例】
【0050】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0051】
実施例1
移植皮膚内にHepatocyte Growth Factor(HGF)発現遺伝子を輸送・導入することで、移植皮膚内において血管新生が促進されることを見出した。
【0052】
導入する遺伝子は、インビトロジェン社pcDNA3.1のNotI siteにヒトHGF cDNAをコードしたプラスミドベクターを用いた。11週齢Sprague-Dawleyラット(体重300〜380g)の背部から2cm×2cmの皮膚および皮下組織を採取後、皮下脂肪を除去して移植片とした。移植片の裏側から皮内にHGF発現遺伝子プラスミドベクター(濃度1.0μg/μl)をシリンジにより10μl注入し、真皮層側に光吸収体を設置した。遺伝子導入時における構成を図7に示す。光吸収体は厚さ0.5mmの黒色天然ゴムに厚さ1.0mmのポリエチレンテレフタラートを接着したものを用いた。ターゲットと移植片の間に真空シリコングリースを塗布することで音響インピーダンスマッチングを行った。ターゲット設置後、Q-スイッチNd:YAGレーザーの第二高調波(波長532nm、パルス幅6.0ns(FWHM))を平凸レンズ(f=170mm)でターゲット上に直径3mmに集光した。レーザーのエネルギーは全てターゲットに吸収されるため、レーザーは直接皮膚組織と相互作用しない。レーザーフルエンスは1.2J/cm2とした。レーザーは3パルス照射し、各パルス毎にターゲットを交換した。照射後の移植片を同採取部位に貼付し、縫合した。移植3日後、移植皮膚をバイオプシーし、抗CD31抗体による免疫染色により移植皮膚内における新生血管生成領域を特定した。染色した標本を顕微鏡で明視野観察し、取得した画像から染色領域のピクセルが示すRGBの範囲を判別した。各条件ともラット5匹の平均値を求めた(n=5)。移植皮膚内における血管新生の深さ方向依存性を図8に示す。縦軸は皮膚表面からの深さ、横軸は移植皮膚内における新生血管領域を示す。また図9は図8の新生血管領域を積算したグラフである。ラット皮膚から切除した皮膚を再び移植した条件をsham controlとする。ラット皮膚から切除した皮膚にHGF発現遺伝子プラスミドベクターを注入し、応力波を適用した後、移植した条件をHGF+LISWとする。HGF+LISWではsham controlと比較して移植皮膚内の新生血管数が有意に多い結果が得られた。皮膚深さ0.7mmから1.5mmにわたって高密度の血管新生が観察された。この結果は、本発明により高性能の移植皮膚(スーパースキン)が製造できることを示している。
【0053】
実施例2
図10に示した装置を用いて、ラット皮膚にルシフェラーゼ遺伝子を導入した。レーザー光源にはNd:YAGレーザーの第二高調波(波長532 nm,パルス幅6 ns)、光ファイバーにはコア径1 mm、長さ1 mのステップインデックス型石英ファイバー、光吸収体(ターゲット)には黒色天然ゴム、透明部材にはPVA(ポリビニルアルコール)ゲルを用いた。ルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドDNAを導入した。プラスミドをラット皮膚に投与し、図10の装置の先端容器の底の光吸収体をラット皮膚に接触させてレーザー光を照射した。ターゲット上のスポット径は2 mm、レーザーフルエンスは0.7 J/cm2であり、照射パルス数を5, 10, 20と変化させた。レーザー光を照射した後、ルシフェラーゼの活性を測定した。ルシフェラーゼの活性測定はラット皮膚を採取し、ホモジナイザーを用いてホモジナイズし、得られた試料についてルミノメーターを用いて発光を測定することにより行った。
【0054】
図11は皮膚のルシフェラーゼ活性を示す。図11は、また皮膚にプラスミドDNAを注入したのみの場合(レーザー照射なし)、光ファイバーを用いずにレーザー照射を行った場合(透明材料PET,フルエンス1.2 J/cm2)のデータを比較データとして示す。図11に示すように、光ファイバーを有する装置を用いて遺伝子導入を行った場合のルシフェラーゼ活性は、光ファイバーを有しない装置を用いた場合の活性と同等であり、光ファイバーを有する装置を用いて遺伝子導入を行った場合も高い導入効率が得られることがわかた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】移植組織または臓器への遺伝子等の薬剤を導入する方法を示す図である(その1)。
【図2】移植組織または臓器への遺伝子等の薬剤を導入する方法を示す図である(その2)。
【図3】複数のレーザービームを用いて移植組織または臓器へ遺伝子等の薬剤を導入する方法を示す図である。
【図4】移植片の上方および下方からレーザー光を照射して移植組織または臓器へ遺伝子等の薬剤を導入する方法を示す図である。
【図5】移植片の処理方法を示す図である。
【図6】移植片を遺伝子等の薬剤を含む溶液に浸した状態で移植組織または臓器へ遺伝子等の薬剤を導入する方法を示す図である。
【図7】移植用皮膚への遺伝子を導入する方法を示す図である。
【図8】移植片皮膚内における血管新生の深さ方向依存性を示す図である。
【図9】移植片皮膚内における新生血管領域の積算値を示す図である。
【図10】光ファイバーを用いたレーザー誘起応力波遺伝子導入装置の概要を示す図である。
【図11】光ファイバーを用いたレーザー誘起応力波遺伝子導入装置を用いたルシフェラーゼ遺伝子の導入効率を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 移植組織または臓器の移植片
2 台
3 光吸収体
4 透明部材
5 レンズ
6 レーザー光
7 移植片用容器
8 遺伝子等の薬剤を含む溶液
9 光吸収体および透明部材を有する先端容器
10 光ファイバー
11 先端容器
12 レーザー光源
13 シャッター
14 アッテネータ
15 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植組織または臓器の移植片に薬剤を適用し、該移植片の近傍に配置した光吸収体であってレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収体へレーザー光を照射し誘起された応力波を前記移植片へ適用することを含む、薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項2】
薬剤が血管新生作用を有する薬剤、感染防止作用を有する薬剤、神経再生促進作用を有する薬剤、細胞増殖作用を有する薬剤および造血作用を有する薬剤からなる群から選択される、請求項1記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項3】
薬剤が血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子および造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項2記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項4】
薬剤がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームで化学修飾された、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項5】
移植組織または臓器が皮膚、肝臓、腎臓、肺、小腸、膵臓および角膜からなる群から選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項6】
移植組織または臓器が皮膚である、請求項5記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項7】
移植組織または臓器が生体適合性物質および動物細胞を含む人工皮膚である、請求項6記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項8】
光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項9】
光吸収体が透明部材と組み合わさっている請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項10】
透明部材が透明樹脂またはガラスである、請求項9記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項11】
透明部材が透明なゲルまたは液体である、請求項9記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項12】
レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である請求項1〜11のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項13】
レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する請求項1〜12のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項14】
レーザー光の波長が180nm〜20μmである請求項1〜13のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項15】
移植組織または臓器の移植片に薬物が浸透しやすくなるように、前記組織片に切り込みを入れるか、または穴を開ける請求項1〜14のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法。
【請求項16】
動物の組織または臓器に、血管新生作用を有する薬剤、感染防止作用を有する薬剤、神経再生促進作用を有する薬剤、細胞増殖作用を有する薬剤および造血作用を有する薬剤からなる群から選択される薬剤を適用し、該組織または臓器の近傍に配置した光吸収体であってレーザー光を吸収し、応力波を発生し得る物質でできた光吸収体へレーザー光を照射し誘起された応力波を前記組織または臓器へ適用することを含む、in vitroで薬剤を組織または臓器に導入することを含む、生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項17】
薬剤が血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子および造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項16記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項18】
薬剤がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームで化学修飾された、請求項16または17に記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項19】
動物の組織または臓器が、動物体から取り出された、皮膚、肝臓、腎臓、肺、小腸、膵臓および角膜からなる群から選択される組織または臓器である、請求項16〜18のいずれか1項に記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項20】
動物の組織または臓器が、動物体から取り出された皮膚である、請求項19記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項21】
動物の組織または臓器が、生体適合性物質および動物細胞を含む人工皮膚である、請求項19記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項22】
光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択される請求項16〜21のいずれか1項に記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項23】
光吸収体が透明部材と組み合わさっている請求項16〜22のいずれか1項に記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項24】
透明部材が透明樹脂またはガラスである、請求項23記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項25】
透明部材が透明なゲルまたは液体である、請求項23記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項26】
レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である請求項16〜24のいずれか1項に記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項27】
レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する請求項16〜26のいずれか1項に記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項28】
レーザー光の波長が180nm〜20μmである請求項16〜27のいずれか1項に記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項29】
移植組織または臓器の移植片に薬物が浸透しやすくなるように、前記組織片に切り込みを入れるか、または穴を開ける請求項16〜27のいずれか1項に記載の生着能が向上した移植組織または臓器の移植片を製造する方法。
【請求項30】
移植組織または臓器の移植片に導入しようとする薬剤、光吸収体と透明部材の組合せあるいは光吸収体よりなるターゲットであって光吸収体がレーザー光を吸収し応力波を発生し得るターゲット、ならびにレーザー光照射手段を含む、移植組織または臓器の移植片に薬剤を導入するための薬剤導入装置であって、レーザー光を前記ターゲットに照射し、光吸収体から応力波を発生させ、該応力波を移植組織または臓器の移植片に適用し、移植組織または臓器の移植片に薬剤を導入する薬剤導入装置。
【請求項31】
さらに、光ファイバーを含み、該光ファイバーの先端に光吸収体と透明部材が含まれる先端容器が含まれ、先端容器の底面に光吸収体があり、透明部材が光吸収体の上に置かれている、請求項30記載の移植組織または臓器の移植片に薬剤を導入する薬剤導入装置。
【請求項32】
薬剤が血管新生作用を有する薬剤、感染防止作用を有する薬剤、神経再生促進作用を有する薬剤、細胞増殖作用を有する薬剤および造血作用を有する薬剤からなる群から選択される、請求項30記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項33】
薬剤が血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子および造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項30〜32のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項34】
薬剤がカチオニックポリマーまたはカチオニックリポソームで化学修飾された、請求項30〜33のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項35】
移植組織または臓器が皮膚、肝臓、腎臓、肺、小腸、膵臓および角膜からなる群から選択される請求項30〜34のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項36】
移植組織または臓器が皮膚である、請求項35記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項37】
移植組織または臓器が生体適合性物質および動物細胞を含む人工皮膚である、請求項35記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項38】
光吸収体が、ゴム、樹脂および金属からなる群から選択され、透明部材が透明樹脂またはガラスである請求項30〜37のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項39】
レーザー光が500fs〜500nsのパルス幅のパルスレーザー光である請求項30〜38のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項40】
レーザー光が0.1mJ/cm2〜10J/cm2のレーザーフルエンスを有する請求項30〜39のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項41】
レーザー光の波長が180nm〜20μmである請求項30〜40のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する薬剤導入装置。
【請求項42】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の薬剤を移植組織または臓器の移植片に導入する方法により製造された移植組織または臓器の移植片。
【請求項43】
血管新生作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、感染防止作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、神経再生促進作用を有するタンパク質をコードする遺伝子、細胞増殖作用を有するタンパク質をコードする遺伝子および造血作用を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される遺伝子が発現可能に導入された、請求項42記載の移植組織または臓器の移植片。
【請求項44】
血管新生能が増強された請求項42または43に記載の移植組織または臓器の移植片。
【請求項45】
生着能の向上した請求項42〜44のいずれか1項に記載の移植組織または臓器の移植片。
【請求項46】
移植組織または臓器が皮膚、肝臓、腎臓、肺、小腸、膵臓および角膜からなる群から選択される、請求項42〜45のいずれか1項に記載の移植組織または臓器の移植片。
【請求項47】
移植組織または臓器が皮膚である、請求項46記載の移植組織または臓器の移植片。
【請求項48】
移植組織または臓器が生体適合性物質および動物細胞を含む人工皮膚である、請求項46記載の移植組織または臓器の移植片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−49150(P2008−49150A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196580(P2007−196580)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】