説明

積層クッション構造体

【課題】耐熱性、耐久性、クッション性に優れ、かつ蒸れにくく、リサイクルも容易な積層構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】繊維集合体からなるクッション材が表層に、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物が裏層に積層されてなる積層クッション構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なクッション性を有し、蒸れにくく、優れた耐久性を有し、リサイクルが容易な車両用座席、寝具、椅子張り他、各種座席に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
椅子などの家具およびベッド、自動車・電車を始めとする輸送機器などのクッション材には、従来、ウレタンフォーム、ポリエステル繊維詰綿やポリエステル繊維を接着した樹脂綿や固綿などが使用されている。クッションとしての快適な性能を得るために、クッション性の異なるものを複合したり、クッション成形時に二重構造にするなど工夫されたものが多く用いられている。これらのクッション材はいずれも嵩張ったり、小容積でのクッション性の良いものを得ることができないという問題があった。また、着座時の快適性には、その通気度が強く影響するが、ウレタンフォーム、ポリエステル繊維詰綿やポリエステル繊維を接着した樹脂綿や固綿などの従来のクッション材では、通気性を上げるには、限界があった。
【0003】
また、発泡−架橋型ウレタンはクッション材としての耐久性は良好だが、透湿透水性に劣り蓄熱性があるため蒸れやすく、かつ、熱可塑性では無いためリサイクルが困難となり焼却される場合、焼却炉の損傷が大きく、かつ、有毒ガス除去に経費が掛かる。このため埋め立てされることが多くなったが、地盤の安定化が困難なため埋め立て場所が限定され経費も高くなっていく問題がある。また、加工性は優れるが製造中に使用される薬品の公害問題などもある。また、熱可塑性ポリエステル接着詰綿では繊維間が固定されていないため、使用時形態が崩れたり、繊維が移動して、かつ、捲縮のへたりで崇高性の低下や弾力性の低下が問題になる。
【0004】
ポリエステル繊維を接着剤で接着した樹脂綿、例えば接着剤にゴム系を用いたものとして特許文献1〜3があげられ、又、架橋性ウレタンを用いたものとしては、特許文献4があげられる。これらのクッション材は耐久性に劣り、且つ、熱可塑性でなく、単一組成でもないためリサイクルも出来ない等の問題、及び加工性の煩雑さや製造中に使用される薬品の公害問題などもある。
【0005】
ポリエステル硬綿、例えば特許文献5〜6があげられるが、用いている熱接着繊維の繊維成分が脆い非晶性のポリマーを用いるため接着部分が脆く、使用中に接着部分が簡単に破壊されて形態や弾力性が低下するなどの耐久性に劣る問題がある。改良法として、交絡処理する方法が特許文献7で提案されているが、接着部分の脆さは解決されず弾力性の低下が大きい問題がある。また、加工時の煩雑さもある。更には接着部分が変形しにくくソフトなクッション性を付与しにくい問題もある。このため、接着部分を柔らかい、且つ変形しても回復するポリエステルエラストマーを用いた熱接着繊維が特許文献8で、同繊維を用いたクッション材が特許文献9で提案されている。この繊維構造物に使われる接着成分のポリエステルエラストマーは融点を低くする為に、ハードセグメントの酸成分にテレフタル酸を50〜80モル%含有し、ソフトセグメントとしてのポリアルキレングリコールの含有量が30〜50重量%を含有させ、他の酸成分組成として特許文献10に記載された繊維と同様にイソフタル酸等を含有し非晶性が増加させて融点を180℃以下にし、且つ低溶融粘度として熱接着部分の形成を良くしてアメーバー状の接着部を形成しているが塑性変形しやすいため耐熱抗圧縮性が低下する問題点がある。
【0006】
土木工事用に使用する熱可塑性のオレフィン網状体が特許文献11に開示されている。しかし、細い繊維から構成したクッションとは異なり表面が凸凹でタッチが悪く、素材がオレフィンのため耐熱耐久性が著しく劣りクッション材には使用ができないものである。また、塩化ビニールを使った網状構造体が玄関マット用などに提案されているが、塑性変形しやすく、且つ燃焼時に有毒なハロゲン化水素が発生する等クッション材には不適当な構造体である。
【0007】
熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物と、多孔体または繊維集合体からなるクッション材が積層された積層構造体、例えば特許文献12があるが、熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物は張設固定されて弾発性が高く、表層部に配置されているために、積層構造体にかかる人の荷重のほとんどを裏層のクッション材ではなく、表層の調節固定された織編物が支え、従来のクッション材として用いられているウレタンフォームのクッション材に対しクッション性に劣るという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−11352号公報
【特許文献2】特開昭61−141388号公報
【特許文献3】特開昭61−141391号公報
【特許文献4】特開昭61−137732号公報
【特許文献5】特開昭58−136828号公報
【特許文献6】特開平3−249213号公報
【特許文献7】特開平4−245965号公報
【特許文献8】特開平4−240219号公報
【特許文献9】国際公開第91/19032号パンフレット
【特許文献10】特公昭60−1404号公報
【特許文献11】特開昭47−44839号公報
【特許文献12】特開2003−191362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、上記問題点を解決し、耐熱性、耐久性、クッション性に優れ、かつ蒸れにくく、リサイクルも容易な積層構造体を提供することを目的とする。
【0010】
上記課題を解決ための手段、すなわち本発明は、以下の構成からなる。
1.繊維集合体からなるクッション材が表層に、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物が裏層に積層されてなる積層クッション構造体。
2.繊維集合体からなるクッション材が、熱可塑性弾性樹脂からなる上記1記載の積層クッション構造体。
3.繊維集合体からなるクッション材が、少なくとも二層を積層した構造からなる上記1または2記載の積層クッション構造体。
4.少なくとも二層を積層した構造である繊維集合体からなるクッション材の各層の硬度が、表層側にいくにしたがい徐々に低くなる上記3記載の積層クッション構造体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層クッション構造体は、材料及びその積層構造により、電力などのエネルギーを使うことなく、温熱快適性とクッション性を両立した総合的に快適性に優れるクッション体であり、各種座席に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】錘落下試験により得られる錘底面の沈み込み及び跳ね返りの挙動の一例である。
【図2】発汗マネキンを用いた蒸れ感評価結果で、着座中の発汗マネキンの臀部の衣服内絶対湿度の推移を表している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、繊維集合体からなるクッション材へ、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物を積層することが必要である。従来のクッション材のように繊維集合体のみからなるものや、さらにそれらに表皮材を積層した構成では、特に長時間の着座使用の際、座部および背部の雰囲気が高温高湿となり、使用者に蒸れ感を与えてしまう。それに対し、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物を積層することにより、熱や湿気を放出する微小空間が生じ、その不快な蒸れ感を格段に改善できる。
【0014】
本発明に用いる織編物は、モノフィラメントを一部に用いる必要がある。モノフィラメントを用いることにより、熱や湿気を放出するための微小空間を織編物に与えることができるためである。また、モノフィラメントを用いると、摩擦抵抗が少なくなり耐久性に優れる。モノフィラメントの好ましい繊度は100〜6000dtexである。100dtex未満では摩擦に対する抵抗性が少なく、耐久性が十分に得られない可能性があり、6000dtexを超えると織編物製造上の取扱いが難しくなる。より好ましい繊度の範囲は300dtex〜3000dtexである。
【0015】
本発明に用いる織編物の組織は、経編み(シングルラッセル、ダブルラッセル、トリコット)、緯編み、平織、綾織、朱子織、からみ織など種々の織編組織から選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
本発明に用いる織編物は、モノフィラメントのみを用いる必要はなく、例えばポリエステル糸など他のマルチフィラメント糸と組み合わせても良い。例えば、用いるポリエステル糸として、無加工のものを使用しても、ループ加工糸や仮撚加工糸を使用しても、また、両者を混合して使用してもかまわない。また、マルチフィラメント糸は原着糸や先染糸を用いることもできる。ポリエステル糸を使用することは、織編物を構成する糸がすべてポリエステル系となり、リサイクルが容易となることから好ましい。
【0017】
本発明に用いる織編物は、難燃性および耐光性を付与する必要があるならば、難燃剤および耐光剤を含有させた糸を用いたり、あるいは、難燃剤および耐光剤を織編物に付与することができる。弾性糸については原料樹脂に混合する難燃剤として、メラミンシアヌレートを添加したり、燐化合物を付与する方法が知られているが、特にこれに限定されるものではない。また、耐光剤も、カーボンブラックなどの添加による耐光処方を用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0018】
本発明に用いる織編物に使用するモノフィラメントに、色彩を付与する必要があるならば、染料や顔料を含有させても良い。顔料としては、フタロシアニン系有機顔料やカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛など無機顔料を添加する方法が知られているが、特にこれに限定されるものではない。顔料を含む原着糸を使用することにより、染色の手間を省くことができる。
【0019】
本発明に用いる織編物に使用するモノフィラメントの原料としては、熱可塑性弾性樹脂を用いることが必要である。熱可塑性弾性樹脂を用いることによりクッション材として要求される弾性回復性が得られるためである。
【0020】
本発明における熱可塑性弾性樹脂としては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフイン系エラストマーなどから任意に選ぶことができる。熱可塑性弾性樹脂とすることで、再溶融により再生が可能となるため、リサイクルが容易となる効果もある。熱可塑性弾性樹脂中でも特に、熱可塑性ポリエステルブロック共重合体であると、織編物の一部に他のポリエステル糸などを配した場合も、同系列の素材であるため、廃棄時の分別の必要性がなく好ましい。
【0021】
本発明に用いるポリエステル系エラストマーとしては、熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリアルキレンジオールをソフトセグメントとするポリエステルエーテルブロック共重合体、または、脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステルエーテルブロック共重合体が例示できる。ポリエステルエーテルブロック共重合体のより具体的な事例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン2・6ジカルボン酸、ナフタレン2・7ジカルボン酸、ジフェニル4・4′ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、1・4シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、琥珀酸、アジピン酸、セバチン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸または、これらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1・4ブタンジオール、エチレングリコール、トレメチレングリコール、テトレメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1・1シクロヘキサンジメタノール、1・4シクローキサンジメタノール等の脂環族ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約300〜5000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールのうち少なくとも1種から構成される三元ブロック共重合体である。ポリエステルエステルブロック共重合体としては、上記ジカルボン酸とジオール及び平均分子量が約300〜3000のポリラクトン等のポリエステルジオールのうち少なくとも各1種から構成される三元ブロック共重合体である。熱接着性、耐加水分解性、伸縮性、耐熱性等を考慮すると、ジカルボン酸としてはテレフタル酸、または、及びナフタレン2・6ジカルボン酸、ジオール成分としては1・4ブタンジオール、ポリアルキレンジオールとしてはポリテトラメチレングリコールの三元ブロック共重合体または、ポリエステルジオールとしてポリラクトンの三元ブロック共重合体が特に好ましい。特殊な例では、ポリシロキサン系のソフトセグメントを導入したものも使うことができる。また、上記ポリエステルエラストマーは単独または2種類以上混合して使用できる。更には、ポリエステルエラストマーに非エラストマー成分をブレンドされたもの、共重合したもの等も本発明に使用できる。
【0022】
本発明に用いるポリアミド系エラストマーとしては、ハードセグメントにナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等及びそれらの共重合ナイロンを骨格とし、ソフトセグメントには、平均分子量が約300〜5000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールのうち少なくとも1種から構成されるブロック共重合体を単独または2種類以上混合して用いてもよい。更には、非エラストマー成分をブレンドされたもの、共重合したもの等も本発明に使用できる。
【0023】
本発明に用いるポリウレタン系エラストマーとしては、通常の溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)の存在または不存在下に、(A)数平均分子量1000〜6000の末端に水酸基を有するポリエーテル及び又はポリエステルと(B)有機ジイソシアネートを主成分とするポリイソシアネートを反応させた両末端がイソシアネート基であるプレポリマーに、(C)ジアミンを主成分とするポリアミンにより鎖延長したポリウレタンエラストマーを代表例として例示できる。(A)のポリエステル、ポリエーテル類としては、平均分子量が約1000〜6000、好ましくは1300〜5000のポリブチレンアジペート共重合ポリエステルやポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールが好ましく、(B)のポリイソシアネートとしては、従来公知のポリイソシアネートを用いることができるが、ジフェニルメタン4・4′ジイソシアネートを主体としたシソシアネートを用い、必要に応じ従来公知のトリイソシアネート等を微量添加使用してもよい。(C)のポリアミンとしては、エチレンジアミン、1・2プロピレンジアミン等公知のジアミンを主体とし、必要に応じて微量のトリアミン、テトラアミンを併用してもよい。これらのポリウレタン系エラストマーは単独又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0024】
本発明に用いるポリオレフィン系エラストマーとしては、低密度ポリエチレン樹脂であることが好ましく、特にはエチレンと炭素数3以上のαオレフィンからなるエチレン・α−オレフィン共重合体樹脂からなることが好ましい。本発明のエチレン・α−オレフィン共重合体は、特開平6−293813号公報に記載されている共重合であることが好ましく、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンを共重合してなるものである。ここで、炭素数3以上のα−オレフィンとしては、例えばプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−1−ペンテン、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1、トリデセン−1、テトラデセン−1、ペンタデセン−1、ヘキサデセン−1、ヘプタデセン−1、オクタデセン−1、ノナデセン−1、エイコセン−1などが挙げられ、好ましくはブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−1−ペンテン、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1、トリデセン−1、テトラデセン−1、ペンタデセン−1、ヘキサデセン−1、ヘプタデセン−1、オクタデセン−1、ノナデセン−1、エイコセン−1である。また、これら2種類以上を用いることもでき、これらα−オレフィンは通常1〜40重量%共重合される。
この共重合体は、特定のメタロセン化合物と有機金属化合物を基本構成とする触媒系を用いてエチレンとα−オレフィンを共重合することによって得ることができる。
【0025】
繊維集合体からなるクッション材としては、織編物に使用するモノフィラメントの原料として用いることが出来る上記の熱可塑性弾性樹脂からなるものであれば、積層構造体としての弾性回復性が良好となり、座り心地や長時間あるいは繰り返し使用時の耐久性に優れるため好ましい。
【0026】
本発明における繊維集合体からなるクッション材としては、三次元ランダムループ接合構造体、硬綿、不織布、立体編地などがあげられるが、特にこれに限定されるものではないが、好ましくは、三次元ランダムループ接合構造体である。
【0027】
本発明に用いる三次元ランダムループ接合構造体は、熱可塑性弾性樹脂からなる300〜10000dtexの連続線状体を曲がりくねらせランダムループを形成し、夫々のループを互いに溶融状態で接触せしめて、接触部の大部分を融着させてなる三次元ランダムループ接合構造体であって、25%硬度が5〜500N、かつ、70℃の残留歪が35%以下であることが好ましい。
【0028】
連続線状体の繊度が300dtex未満では強度が低くなり反発力が低下するので好ましくない。10000dtexを超えると線状体の構成本数が少なくなり圧縮特性が悪くなるので使用部分が限定される場合がある。本発明の連続線状体のより好ましい繊度は、反発力の得られる400〜10000dtexであり、更に好ましくは500〜50000dtexである。断面形状は特に限定されないが、細い繊度の連続線状体とする場合、異形断面や中空断面は反発力が向上するので好ましい。
【0029】
本発明の三次元ランダムループ接合構造体の25%硬度は、5〜700Nであることが好ましい。25%硬度が5N未満では、反発力が失われるのでクッション材に不適当であり、25%硬度が700Nを越えると弾発性が強くなり、座り心地が悪くなるので、クッション材には不適当なものとなる。本発明のより好ましい硬度は25%硬度が20〜500N、更に好ましくは20〜400Nである。
【0030】
繊維構造体からなるクッション材として充分な耐久性を得るためには、上述の三次元ランダムループ接合構造体の70℃の残留歪が35%以下であることが好ましい。
【0031】
繊維集合体からなるクッション材は、少なくとも二層を積層した構造からなることは好ましい実施形態である。これは、少なくとも二層を積層した構造にすることにより、クッション材の各層のクッション性を変えることにより、クッション材のクッション性を調整することが容易となるためである。
少なくとも二層を積層した構造である繊維集合体からなるクッション材の各層の硬度を、表層側にいくにしたがい徐々に低くすることはより好ましい実施形態である。これは、表層側にいくにしたがい硬度を徐々に低くすることにより、ソフト層が上層になることで初期のタッチ感を良くすることができ、ハード層が下層となることでクッション材にかかる荷重をしっかりと支えることが出来るようになり、より好ましいクッション性を持ったクッション材が得られるからである。
また、クッション材のクッション性の調整の他の方法として、繊維集合体からなるクッション材の製造時に、構成する連続線条体の繊度を厚み方向で変えることにより、厚み方向に硬度が漸次的に移行する構造の三次元ランダムループ接合構造体とすることにより、クッション材の表層側にいくにしたがい硬度が徐々に低くなるクッション材を得る方法も挙げられる。
【0032】
本発明では、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物を裏層に、繊維集合体からなるクッション材が積層されてクッション層を表層に用いることが好ましい。尚、ここでいう表層とは、積層構造体の中で、着座の際、人体に触れる側のこと、裏層とは、人体とは直接触れない側のことを意味する。
【0033】
本発明の積層構造体は、125Paの圧力で通気した際の、通気度が、30〜700cc/cm・secであることが好ましい。クッション材としては、通気度が30cc/cm・sec未満であると、長時間着座した際に蒸れ感を生じ易く、また、一旦湿気を帯びると容易に乾燥しないので、衛生面にも問題を生じる。一方、通気度が700cc/cm・secを超えると空気の流動が頻繁に生じ易くなり、保温の面から問題を生ずる。通気度のより好ましい範囲は、150〜400cc/cm・secである。
【0034】
本発明による積層構造体は、鉄道車輌、自動車、船舶、一般家庭、事務などの座席のシートとして適用できるが、一般家庭、宿泊施設、病院、鉄道車輌、船舶などで用いる寝具、枕などの用途においても有用である。無論、用途との関係で要求性能に合うべき他の素材と組み合わせで用いることもでき、本発明の性能を低下させない範囲で加工を施し、形状を付与することもできる。更に、製品化させる任意の段階で難燃化、防虫抗菌化、耐熱化、撥水撥油化、着色、芳香性などの機能を薬剤添加などにより付与することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。本発明は実施例によって特に制限されるものではない。なお、実施例において用いた測定方法は下記のとおりである。
【0036】
(3次元ランダムループ接合体の繊径)
試料を20cm×20cmの大きさに切断し、10か所から線状体を採集する。10か所で採集した線状体の40℃での比重を密度勾配管を用いて測定する。更に、上記10か所で採集した線状体の断面積を顕微鏡で30倍に拡大した写真より求め、それより線状体の長さ10000m分の体積を求める。得られた比重と体積を乗じた値を繊度(線状体10000m分の重量)とする。(n=10の平均値)
【0037】
(3次元ランダムループ接合体の厚み及び見掛密度)
試料を15cm×15cmの大きさに切断し、無荷重で24時間放置した後、4か所の高さを測定して平均値を試料厚みとする。また試料厚みから体積を求め、試料の重さを体積で除した値で示す。(それぞれn=4の平均値)
【0038】
(3次元ランダムループ接合体の硬度)
テンシロンを用い、直径50mmの加圧板で、50mm/minの圧縮スピードにより、初期厚の75%まで1回予備圧縮を行った後、3分間放置し、同圧縮スピードで再度75%まで圧縮した際の初期厚に対して25%圧縮した時の荷重を測定した。
【0039】
(3次元ランダムループ接合体の70℃の残留歪)
試料を15cm×15cmの大きさに切断し、50%圧縮して70℃乾熱中22時間放置後冷却して圧縮歪みを除き1日放置後の厚み(b)を求め、処理前の厚み(a)から次式、即ち(a−b)/a×100より算出する:単位%(n=3の平均値)
【0040】
(発汗マネキンによる蒸れ感の評価)
発汗マネキンを、50℃20%RHに制御した恒温恒湿室に設置したモデル椅子に座らせ、その後恒温恒湿室の温湿度制御を18℃、50%RHに変更し、着座を継続させた。着座中の30分間、臀部の衣服内絶対湿度を測定した。
【0041】
(モニター試験による蒸れ感の評価)
モデル椅子へ10人のモニターへ座らせ、その蒸れ感を判定した。28℃、75%RHの室内にて着座姿勢で、1時間経過後の蒸れ感を以下の通り判定し、その平均により、総合判定とした。
[評価] 蒸れ感を感じず快適である→○、蒸れを感じる→×、どちらでもない→△
【0042】
(錘落下試験によるクッション性の評価)
モデル椅子上に重さ4.4kg、底面積50cmの鉄製の錘を、座面から錘底面の高さが25cmから自由落下させ、その錘の底面の沈み込みと跳ね返りの挙動を、ハイスピードカメラにより500fpsで計測した。クッション性の評価指標としては図1に示す減衰挙動の、最も錘の底面が沈み込んだ際の深さである最大沈みこみ深さと、錘が2回目に跳ね返った際の座面と錘の底面の跳ね返り挙動により形成される部分の面積である、第二反発エネルギーを用いていた。最大沈み込み深さおよび第二反発エネルギーが小さい程、クッション性に優れると判定した。
【0043】
(モニター試験によるクッション性の評価)
モデル椅子へ10人のモニターへ座らせ、そのクッション性を判定した。28℃、75%RHの室内にて着座姿勢で、1時間経過後の蒸れ感を以下の通り判定し、その平均により、総合判定とした。
[評価] 臀部が痛くない→○、臀部が痛い→×、どちらでもない→△
【0044】
[実施例1]
(織編物の作成)
緯糸として融点222℃のポリエーテルエステル系エラストマーを芯成分、融点182℃のポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分とし、その重量比率が芯:鞘=80:20である2080dtexの弾性モノフィラメント糸を20本/inch(2.54cm)、経糸として830dtexポリエステルマルチフィラメント糸を28本/inch(2.54cm)の織密度とした平織の織物を作成した。この織物の経糸および緯糸の交点を目止めするため、200℃で1分間の乾熱処理を行なった。熱処理後の織物は、モノフィラメントの鞘成分である低融点ポリエーテルエステル系エラストマーが織物の経糸および緯糸の交点部分に接着固化していることを確認した。
(第一層目三次元ランダムループ接合体の作成)
融点200℃のポリエーテルエステル系エラストマーをノズル(ノズル孔径1mm、単孔吐出量1.4g/min・孔)より、240℃で溶融して、吐出させ、ノズル面下250mmに水面が来るよう冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に2cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ毎分1.2mの速度で常温の冷却水中へ引込み固化させ、所定の大きさに切断して三次元ランダムループ接合体を得た。その後得られた三次元ランダムループ接合構造体を、105℃で15分間加熱し、疑似結晶化処理した。得られた三次元ランダムループ接合体は、繊度が2000dtex、見掛密度が55kg/m、厚みが20mm、25%硬度が20N、70℃の残留歪が11.3%であった。
(第二層目三次元ランダムループ接合体の作成)
融点200℃のポリエーテルエステル系エラストマーをノズル(ノズル孔径1mm、単孔吐出量1.4g/min・孔)より、240℃で溶融して、吐出させ、ノズル面下250mmに水面が来るよう冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に2cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ毎分1.1mの速度で常温の冷却水中へ引込み固化させ、所定の大きさに切断して三次元ランダムループ接合体を得た。その後得られた三次元ランダムループ接合構造体を、105℃で15分間加熱し、疑似結晶化処理した。得られた三次元ランダムループ接合体は、繊度が2000dtex、見掛密度が60kg/m、厚みが20mm、25%硬度が50N、70℃の残留歪が11.9%であった。
(積層構造体のおよび評価用モデル椅子の作成)
前述のように作成した織物を座面が35cm×45cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、フレームに張設固定した織物の上に、前述のように作成した厚み20mm、25%硬度が50Nの第二層目三次元ランダムループ接合体を積載し、さらにその上に25%硬度が20Nの第一層目三次元ランダムループ接合体を積層した。このようにして、織物を裏層に、三次元ランダムループ接合体を表層に配置されてなる積層クッション構造体を座面へ組み込んだモデル椅子を作成した。
このようにして作成した積層クッション構造体からなるモデル椅子の蒸れ感、クッション性を評価した。
【0045】
[実施例2]
(織編物の作成)
緯糸として融点222℃のポリエーテルエステル系エラストマーを芯成分、融点182℃のポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分とし、その重量比率が芯:鞘=80:20である2080dtexの弾性モノフィラメント糸を20本/inch(2.54cm)、経糸として830dtexポリエステルマルチフィラメント糸を28本/inch(2.54cm)の織密度とした平織の織物を作成した。この織物の経糸および緯糸の交点を目止めするため、200℃で1分間の乾熱処理を行なった。熱処理後の織物は、モノフィラメントの鞘成分である低融点ポリエーテルエステル系エラストマーが織物の経糸および緯糸の交点部分に接着固化していることを確認した。
(第一層目三次元ランダムループ接合体の作成)
融点200℃のポリエーテルエステル系エラストマーをノズル(ノズル孔径1mm、単孔吐出量1.4g/min・孔)より、240℃で溶融して、吐出させ、ノズル面下250mmに水面が来るよう冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に2cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ毎分1.1mの速度で常温の冷却水中へ引込み固化させ、所定の大きさに切断して三次元ランダムループ接合体を得た。その後得られた三次元ランダムループ接合構造体を、105℃で15分間加熱し、疑似結晶化処理した。得られた三次元ランダムループ接合体は、繊度が2000dtex、見掛密度が60kg/m、厚みが20mm、25%硬度が50N、70℃の残留歪が11.9%であった。
(第二層目三次元ランダムループ接合体の作成)
融点200℃のポリエーテルエステル系エラストマーをノズル(ノズル孔径1mm、単孔吐出量1.4g/min・孔)より、240℃で溶融して、吐出させ、ノズル面下250mmに水面が来るよう冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に2cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ毎分1.2mの速度で常温の冷却水中へ引込み固化させ、所定の大きさに切断して三次元ランダムループ接合体を得た。その後得られた三次元ランダムループ接合構造体を、105℃で15分間加熱し、疑似結晶化処理した。得られた三次元ランダムループ接合体は、繊度が2000dtex、見掛密度が55kg/m、厚みが20mm、25%硬度が20N、70℃の残留歪が11.3%であった。
(積層構造体のおよび評価用モデル椅子の作成)
前述のように作成した織物を座面が35cm×45cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、フレームに張設固定した織物の上に、前述のように作成した厚み20mm、25%硬度が20Nの第二層目三次元ランダムループ接合体を積載し、さらにその上に25%硬度が50Nの第一層目三次元ランダムループ接合体を積層した。このようにして、織物を裏層に、三次元ランダムループ接合体を表層に配置されてなる積層クッション構造体を座面へ組み込んだモデル椅子を作成した。
このようにして作成した積層クッション構造体からなるモデル椅子の蒸れ感、クッション性を評価した。
【0046】
[実施例3]
(織編物の作成)
緯糸として融点222℃のポリエーテルエステル系エラストマーを芯成分、融点182℃のポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分とし、その重量比率が芯:鞘=80:20である2080dtexの弾性モノフィラメント糸を20本/inch(2.54cm)、経糸として830dtexポリエステルマルチフィラメント糸を28本/inch(2.54cm)の織密度とした平織の織物を作成した。この織物の経糸および緯糸の交点を目止めするため、200℃で1分間の乾熱処理を行なった。熱処理後の織物は、モノフィラメントの鞘成分である低融点ポリエーテルエステル系エラストマーが織物の経糸および緯糸の交点部分に接着固化していることを確認した。
(三次元ランダムループ接合体の作成)
融点200℃のポリエーテルエステル系エラストマーをノズル(ノズル孔径1mm、単孔吐出量1.4g/min・孔)より、240℃で溶融して、吐出させ、ノズル面下250mmに水面が来るよう冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に4cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ毎分1.2mの速度で常温の冷却水中へ引込み固化させ、所定の大きさに切断して三次元ランダムループ接合体を得た。その後得られた三次元ランダムループ接合構造体を、105℃で15分間加熱し、疑似結晶化処理した。得られた三次元ランダムループ接合体は、繊度が2000dtex、見掛密度が55kg/m、厚みが40mm、25%硬度が20N、70℃の残留歪が11.4%であった。
(積層構造体のおよび評価用モデル椅子の作成)
前述のように作成した織物を座面が35cm×45cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、フレームに張設固定した織物の上に、前述のように作成した厚み40mm、25%硬度が20Nの三次元ランダムループ接合体を積載した。このようにして、織物を裏層に、三次元ランダムループ接合体を表層に配置されてなる積層クッション構造体を座面へ組み込んだモデル椅子を作成した。
このようにして作成した積層クッション構造体からなるモデル椅子の蒸れ感、クッション性を評価した。
【0047】
[実施例4]
(織編物の作成)
緯糸として融点222℃のポリエーテルエステル系エラストマーを芯成分、融点182℃のポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分とし、その重量比率が芯:鞘=80:20である2080dtexの弾性モノフィラメント糸を20本/inch(2.54cm)、経糸として830dtexポリエステルマルチフィラメント糸を28本/inch(2.54cm)の織密度とした平織の織物を作成した。この織物の経糸および緯糸の交点を目止めするため、200℃で1分間の乾熱処理を行なった。熱処理後の織物は、モノフィラメントの鞘成分である低融点ポリエーテルエステル系エラストマーが織物の経糸および緯糸の交点部分に接着固化していることを確認した。
(第一層目三次元ランダムループ接合体の作成)
融点200℃のポリエーテルエステル系エラストマーをノズル(ノズル孔径3mm、単孔吐出量3.0g/min・孔)より、240℃で溶融して、吐出させ、ノズル面下300mmに水面が来るよう冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に5cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ毎分0.9mの速度で常温の冷却水中へ引込み固化させ、所定の大きさに切断して三次元ランダムループ接合体を得た。その後得られた三次元ランダムループ接合構造体を、105℃で15分間加熱し、疑似結晶化処理した。得られた三次元ランダムループ接合体は、繊度が4900dtex、見掛密度が125kg/m、厚みが20mm、25%硬度が520N、70℃の残留歪が13.0%であった。
(第二層目三次元ランダムループ接合体の作成)
融点170℃のポリエーテルエステル系エラストマーをノズル(ノズル孔径5mm、単孔吐出量3.5g/min・孔)より、240℃で溶融して、吐出させ、ノズル面下400mmに水面が来るよう冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に5cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ毎分1.1mの速度で常温の冷却水中へ引込み固化させ、所定の大きさに切断して三次元ランダムループ接合体を得た。その後得られた三次元ランダムループ接合構造体を、105℃で15分間加熱し、疑似結晶化処理した。得られた三次元ランダムループ接合体は、繊度が10000dtex、見掛密度が90kg/m、厚みが20mm、25%硬度が600N、70℃の残留歪が10.5%であった。
(積層構造体のおよび評価用モデル椅子の作成)
前述のように作成した織物を座面が35cm×45cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、フレームに張設固定した織物の上に、前述のように作成した厚み20mm、25%硬度が600Nの第二層目三次元ランダムループ接合体を積載し、さらにその上に25%硬度が520Nの第一層目三次元ランダムループ接合体を積層した。このようにして、織物を裏層に、三次元ランダムループ接合体を表層に配置されてなる積層クッション構造体を座面へ組み込んだモデル椅子を作成した。
このようにして作成した積層クッション構造体からなるモデル椅子の蒸れ感、クッション性を評価した。
【0048】
[比較例1]
(積層構造体のおよび評価用モデル椅子の作成)
実施例1にて作成した織物を座面が35cm×45cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、フレームに張設固定した織物から下層へ向かって4cmの間隔を保って設置した土台の上へ、実施例1にて作成した厚み20mmの第一層目三次元ランダムループ接合体及び第二層目三次元ランダムループ接合体を積載した。このようにして、織物を表層に、三次元ランダムループ接合体を裏層に配置されてなる積層クッション構造体を座面へ組み込んだモデル椅子を作成した。
このようにして作成した積層クッション構造体からなるモデル椅子の蒸れ感、クッション性を評価した。
【0049】
[比較例2]
市販の大衆車に用いられているカーシートの蒸れ感、クッション性を評価した。なお用いたカーシートは表皮材にパンチングで孔を設けた本革を、クッション材にはモールドウレタンを用いた一般的な構造である。
【0050】
[比較例3]
市販の高級車に用いられているカーシートの蒸れ感、クッション性を評価した。なお用いたカーシートは表皮材にパンチングで孔を設けた本革を、クッション材にはモールドウレタンを用いた一般的な構造であるが、座面から100Wの電力を使い、約0.25m/secで送風することができる空調シートである。
【0051】
発汗マネキンにより得られる蒸れ感の評価結果の例として、実施例1、比較例1〜3の評価結果を図2に示した。図2より、カーシート着座30分後の発汗マネキンの臀部衣服内絶対湿度は、実施例1は比較例2に対し低く、蒸れ感が小さいと判断できる。また、実施例1は比較例1及び比較例3に対し、カーシート着座30分後の発汗マネキンの臀部衣服内絶対湿度が同程度であり、蒸れ感は同程度であると判断できる。この結果から、実施例1は市販の大衆車に用いられているカーシートである比較例1に対して、蒸れ感が小さく、快適性に優れており、比較例3のように電力を使わなくても蒸れ感を小さく維持できると言える。また、実施例1は比較例1に対して、むれ感は同程度であると言える。
【0052】
実施例1〜4および比較例1〜3の発汗マネキンにより得られるカーシート着座30分後の臀部衣服内湿度を表1に示した。表1より、実施例1〜3は一般的なカーシートである比較例2より衣服内湿度が低いのはもちろんのこと、高級車に用いられる空調シートである比較例3と同程度の衣服内湿度であることから、比較例1〜3は比較例3の空調シートのように電力などのエネルギーを使用せずに蒸れ感が小さい、温熱快適性に優れたカーシートであると言える。また実施例1〜3は比較例1に対して、衣服内湿度は同程度で、蒸れ感は同程度であると言える。
【0053】
また実施例4は比較例1、3と比べるとやや臀部衣服内湿度が高く、蒸れ感が大きい傾向であると言えるが、市販の大衆車に用いられているカーシートである比較例2よりは衣服内湿度が低く、蒸れ感が小さい傾向であると言える。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例及び比較例のモニター試験による蒸れ感の評価結果を表2に示した。表2の結果より、実施例1〜3は一般的なカーシートである比較例2より衣服内湿度が低いのはもちろんのこと、高級車に用いられる空調シートである比較例3と同程度の衣服内湿度であることから、実施例1〜3は比較例3の空調シートのように電力などのエネルギーを使用せずに蒸れ感が小さい、温熱快適性に優れたカーシートであると主観評価の結果からも言える。また実施例1〜3は比較例1に対して、蒸れ感は同程度であると主観評価からも言える。
【0056】
また実施例4は比較例1、3と比べると、蒸れ感が大きい傾向であると言えるが、市販の大衆車に用いられているカーシートである比較例2よりは蒸れ感が小さい傾向であると主観評価からも言える。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例及び比較例の錘落下試験によるクッション性の評価結果を表3に示した。表3の結果より、実施例1は、市販の大衆車および高級車に使われているカーシートである比較例2及び比較例3に対し、同程度の最大沈み込み深さと第二反発エネルギーであり、実施例1のクッション性は市販の自動車に使われているカーシートと同程度に優れていると言える。また、実施例1は、比較例1に対し、最大沈み込み深さが深く、第二反発エネルギーが小さいことから、実施例1は比較例1に対し、やわらかく、弾発感が少ないいためクッション性に優れていると言える。
【0059】
実施例2は、市販の大衆車および高級車に使われているカーシートである比較例2及び比較例3に対し、最大沈み込み深さがやや浅く、第二反発エネルギーがやや大きいため、実施例2は市販の自動車に使われているカーシートに対してやや硬く、やや弾発感が大きいたため、クッション性にやや劣ると言える。また、実施例2は、比較例1に対し、最大沈み込み深さが深く、第二反発エネルギーが小さいことから、実施例2は比較例1に対し、やわらかく、弾発感が少ないいためクッション性に優れていると言える。
【0060】
実施例3は、比較例1および、市販の大衆車および高級車に使われているカーシートである比較例2と比較例3に対し、最大沈み込み深さが深く、第二反発エネルギーが小さいため、実施例3は比較例1および、市販の自動車に使われているカーシートに対してやわらかすぎるため、クッション性にやや劣ると言える。
【0061】
実施例4は、比較例1および、市販の大衆車および高級車に使われているカーシートである比較例2と比較例3に対し、最大沈み込み深さが浅く、第二反発エネルギーが大きいため、実施例4は比較例1および、市販の自動車に使われているカーシートに対して硬すぎるため、クッション性に劣ると言える。
【0062】
【表3】

【0063】
実施例及び比較例のモニター試験によるクッション性の評価結果を表4に示した。表4の結果より、実施例1は、市販の大衆車および高級車に使われているカーシートである比較例2及び比較例3に対し、同程度のクッション性であると言える。また、実施例1は、比較例1に対し、クッション性に優れていると言える。
【0064】
実施例2は、市販の大衆車および高級車に使われているカーシートである比較例2及び比較例3に対し、クッション性にやや劣ると言える。また、実施例2は、比較例1に対し、クッション性に優れていると言える。
【0065】
実施例3は、比較例1および、市販の大衆車および高級車に使われているカーシートである比較例2と比較例3に対し、クッション性にやや劣ると言える。また、実施例3は、比較例1に対し、クッション性に優れていると言える。
【0066】
実施例4は、比較例1および、市販の大衆車および高級車に使われているカーシートである比較例2と比較例3に対し、クッション性に劣ると言える。また実施例4は、比較例1に対し、同程度のクッション性で、クッション性に劣ると言える。
【0067】
【表4】

【0068】
上記の蒸れ感及びクッション性の評価結果を表5に示す。実施例1は、表層を織物、裏層を三次元ランダムループ接合体に配してなる比較例1に対し、クッション性に優れ、かつ、蒸れ感は同程度に低い。また実施例1は、一般的なカーシートである比較例2に対し、蒸れ感が低く温熱快適性に優れ、かつ、クッション性は同程度に優れる。実施例1は、高級車のカーシートに使用される空調シートである比較例3に対し、電力を使わずに同程度の蒸れ感で温熱快適性に優れ、かつ、クッション性は同程度に優れる。つまり実施例1は材料及びその積層構造により、電力などのエネルギーを使うことなく、温熱快適性とクッション性を両立した総合的に快適性に優れるクッション体である。
【0069】
実施例2は、表層を織物、裏層を三次元ランダムループ接合体に配してなる比較例1に対し、クッション性にやや優れ、かつ、蒸れ感は同程度に低い。また実施例2は、一般的なカーシートである比較例2に対し、蒸れ感が低く温熱快適性に優れるが、クッション性にはやや劣る。実施例2は、高級車のカーシートに使用される空調シートである比較例3に対し、電力を使わずに同程度の蒸れ感で温熱快適性に優れるが、クッション性にはやや劣る。
【0070】
実施例3は、表層を織物、裏層を三次元ランダムループ接合体に配してなる比較例1に対し、クッション性にやや優れ、かつ、蒸れ感は同程度に低い。また実施例3は、一般的なカーシートである比較例2に対し、蒸れ感が低く温熱快適性に優れるが、クッション性にはやや劣る。実施例3は、高級車のカーシートに使用される空調シートである比較例3に対し、電力を使わずに同程度の蒸れ感で温熱快適性に優れるが、クッション性にはやや劣る。
【0071】
実施例4は、表層を織物、裏層を三次元ランダムループ接合体に配してなる比較例1に対し、クッション性は同程度に劣るが、蒸れ感はやや低い。また実施例4は、一般的なカーシートである比較例2に対し、蒸れ感が低く温熱快適性にやや優れるが、クッション性には劣る。実施例4は、高級車のカーシートに使用される空調シートである比較例3に対し、温熱快適性にやや劣り、クッション性にも劣る。
【0072】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の積層クッション構造体は、材料及びその積層構造により、電力などのエネルギーを使うことなく、温熱快適性とクッション性を両立した総合的に快適性に優れるクッション体であり、各種座席に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体からなるクッション材が表層に、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物が裏層に積層されてなる積層クッション構造体。
【請求項2】
繊維集合体からなるクッション材が、熱可塑性弾性樹脂からなる請求項1記載の積層クッション構造体。
【請求項3】
繊維集合体からなるクッション材が、少なくとも二層を積層した構造からなる請求項1または2記載の積層クッション構造体。
【請求項4】
少なくとも二層を積層した構造である繊維集合体からなるクッション材の各層の硬度が、表層側にいくにしたがい徐々に低くなる請求項3記載の積層クッション構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−31456(P2011−31456A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179155(P2009−179155)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】