説明

積層セラミックコンデンサ

【課題】誘電体セラミック層の厚みが1μm以下である積層セラミックコンデンサにおいて、より高い高温負荷特性を得る。
【解決手段】積層された複数の誘電体セラミック層と、各々が複数の誘電体セラミック層間に配置された複数の内部電極層と、複数の内部電極層に電気的に接続された外部電極とを備える積層セラミックコンデンサであって、誘電体セラミック層の一層当たりの厚みをtcとし、内部電極層の一層当たりの厚みをteとするとき、tcが1μm以下、teが1μm以下であるとともに、tc/te≦1を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的に積層セラミックコンデンサに関し、特定的には誘電体セラミック層の厚みが1μm以下という薄層タイプの積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の主用途である積層セラミックコンデンサは、以下のようにして製造されるのが一般的である。
【0003】
まず、その表面に、所望のパターンで内部電極層となる導電材料が付与された、誘電体セラミック原料を含むセラミックグリーンシートが用意される。
【0004】
次に、上述した導電材料が付与されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートが積層されて熱圧着されることによって、一体化された生の積層体が作製される。
【0005】
次に、この生の積層体が焼成されることによって、焼結後の積層体が得られる。この積層体の内部には、上述した導電材料で構成された内部電極層が形成されている。
【0006】
次いで、積層体の外表面上に、内部電極層の特定のものに電気的に接続されるように、外部電極が形成される。外部電極は、たとえば、導電性金属粉末およびガラスフリットを含む導電性ペーストを積層体の外表面上に付与し、焼き付けることによって形成される。このようにして、積層セラミックコンデンサが完成される。
【0007】
近年、機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサにも小型化、大容量化が求められている。これには、誘電体セラミック層の厚みを薄くするのが有効である。特開2005−136046号公報(以下、特許文献1という)には、誘電体セラミック層の厚みが2μm以下の薄層タイプの積層セラミックコンデンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−136046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
昨今では、積層セラミックコンデンサにさらなる小型化、大容量化が要求されている。特許文献1に記載の積層セラミックコンデンサでは、誘電体セラミック層の厚みが1μm以下になると、高温負荷条件下における寿命特性が悪くなり、高温負荷試験における不良率が高くなるという課題があった。
【0010】
そこで、この発明の目的は、このような問題点に鑑み、誘電体セラミック層の厚みが1μm以下である積層セラミックコンデンサにおいて、より高い高温負荷特性を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に従った積層セラミックコンデンサは、積層された複数の誘電体セラミック層と、各々が複数の誘電体セラミック層間に配置された複数の内部電極層と、複数の内部電極層に電気的に接続された外部電極とを備える積層セラミックコンデンサであって、誘電体セラミック層の一層当たりの厚みをtcとし、内部電極層の一層当たりの厚みをteとするとき、tcが1μm以下、teが1μm以下であるとともに、tc/te≦1を満足する。
【0012】
この発明の積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックが、チタン酸バリウム系化合物を主成分とし、副成分にバナジウム(V)を含む組成を有することが好ましい。
【0013】
また、この発明の積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体セラミックの主成分100モル部に対するバナジウムの含有量が、0.02モル部以上0.20モル部以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、この発明の積層セラミックコンデンサにおいて、内部電極層を構成する金属成分の主成分がニッケルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内部電極層の厚みが、誘電体セラミック層の厚みと同じ、または、誘電体セラミック層の厚みよりも大きいので、内部電極層が誘電体セラミック層に与える圧縮応力の影響が大きくなるので、焼成時におけるセラミック粒子の粒成長を適度に抑制することができる。その結果として、焼成後の誘電体セラミック層中のセラミックが、微粒でかつ粒度分布のシャープなグレインで構成されるため、高温負荷条件においても絶縁性が低下しにくくなる。これにより、誘電体セラミック層の厚みが1μm以下である積層セラミックコンデンサの高温負荷特性が向上する。
【0016】
また、この発明において、誘電体セラミック層の組成の主成分がチタン酸バリウム系化合物であり、副成分としてバナジウムが含まれている場合、焼成後のセラミック層中のグレインの粒度分布がさらにシャープとなるので、より厳しい高温負荷条件においても、不良を減らすことができる。バナジウムの含有量が、主成分100モル部に対して0.02モル部以上0.20モル部以下である場合、この効果が顕著になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサを図解的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の積層セラミックコンデンサについて、図1の例を用いて説明する。
【0019】
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ1は、略直方体状のセラミック積層体2を備えている。セラミック積層体2は、複数の積層された誘電体セラミック層3と、各々が複数の誘電体セラミック層3間の界面に沿って形成された複数の内部電極層4および5とを備えている。内部電極層4および5は、セラミック積層体2の外表面にまで到達するように形成される。内部電極層4は、セラミック積層体2の一方側の端面(図1にて左側端面)にまで引き出される。内部電極層5は、セラミック積層体2の他方側の端面(図1にて右側端面)にまで引き出される。このように構成された内部電極層4と内部電極層5とが、セラミック積層体2の内部において、誘電体セラミック層3を介して静電容量を取得できるように交互に配置されている。
【0020】
内部電極層4および5の導電材料は、低コストであるニッケルまたはニッケル合金が好ましい。
【0021】
前述した静電容量を取り出すために、セラミック積層体2の外表面上であって端面上には、内部電極層4および5のいずれか特定のものに電気的に接続されるように、外部電極6および7がそれぞれ形成されている。外部電極6および7に含まれる導電材料としては、内部電極層4および5の場合と同じ導電材料を用いることができ、さらに、銅、銀、パラジウム、銀−パラジウム合金なども用いることができる。外部電極6および7は、このような金属粉末にガラスフリットを添加して得られた導電性ペーストを付与し、焼き付けることによって形成される。
【0022】
本発明でいう誘電体セラミック層3の厚みtcは、隣り合う内部電極層に挟まれた、誘電体セラミック層3の一層当たりの平均厚みのことをいう。セラミック積層体2の表層部に存在して内部電極層4および5に挟まれていない保護層部分としての誘電体セラミック層3は、本発明ではtcの対象とはしない。また、本発明でいう内部電極層4および5の厚みteは、静電容量の形成に寄与する内部電極層の平均厚みである。
【0023】
本発明の積層セラミックコンデンサにおける効果は、tcが1μm以下である場合に発現するため、本発明の積層セラミックコンデンサは、tcが1μm以下である場合を対象としている。そして、tc/te≦1である場合、積層セラミックコンデンサの高温負荷特性の改善の効果がみられる。
【0024】
本発明の誘電体セラミック層3の組成は、静電容量を十分に形成できるものであれば特に限られるものではないが、主成分はチタン酸バリウム系化合物であることが好ましい。ここでいうチタン酸バリウム系化合物とは、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型化合物において、AはBa、Ca、Srからなる元素の群より選ばれる少なくとも1種を含んでBaを必ず含み、BはTi、Zr、Hfからなる元素の群より選ばれる少なくとも1種を含んでTiを必ず含む化合物である。特に、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型化合物は、BaTiO3が好ましく、それ以外の成分の置換量の合計が15モル%以下であることが、高い誘電率と高い信頼性を得るうえで好ましい。必要に応じて、希土類元素、Mg、Mn、などの副成分が含有される。
【0025】
そして、本発明の積層セラミックコンデンサにおける誘電体セラミック層3が、副成分としてバナジウム(V)を含むとき、高温負荷特性のさらなる改善がみられる。主成分100モル部に対するVの含有モル部が0.02〜0.20の範囲であると、上記の改善効果がより顕著になる。
【0026】
Vは主成分を構成するグレインの中に固溶していてもよいし、結晶粒界に酸化物として存在していてもよい。いずれにせよ、適量のV成分が、内部電極層が誘電体セラミック層に与える圧縮応力を効果的に増大させるので、焼結後のグレイン粒度分布をよりシャープにするように作用する。
【実施例】
【0027】
[実験例1]
本実験例は、誘電体セラミック層の組成をある特定の組成に固定し、tcとteを変化させた積層セラミックコンデンサにおいて、tc/teが各種特性に与える影響をみたものである。
【0028】
BaCO3粉末とTiO2粉末を用意した。これらをBaTiO3の組成になるように秤量し、ボールミルにて24時間混合し、乾燥した後、1100℃の温度にて仮焼を行うことにより、平均粒径0.12μmのBaTiO3粉末を得た。
【0029】
このBaTiO3粉末に対し、MgCO3、MnCO3、Dy23、SiO2粉末を、(BaTiO3:Dy:Mg:Mn:Si)のモル比率が100:1.0:1.0:0.3:1.0となるように配合し、ボールミルにて5時間混合し、乾燥し、粉砕することにより、セラミック原料粉末を得た。
【0030】
このセラミック原料粉末に、ポリビニルブチラール系バインダーおよびエタノールを加えて、ボールミルにより24時間湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。このセラミックスラリーをダイコーターによりシート成形し、所定の3種の厚みのグリーンシートを得た。次に、上記セラミックグリーンシート上にNiを主体とする導電ペーストをスクリーン印刷し、内部電極層を構成するための導電ペースト層を所定の厚みになるように形成した。
【0031】
また、面方向で内部電極層がある領域とない領域間の段差対策として、上記セラミック原料粉末を含むペーストを、導電ペーストを形成していない領域に導電ペーストの厚みと同等の厚みになるように塗布した。
【0032】
そして、導電ペースト層が形成されたセラミックグリーンシートを、導電ペーストが外側面に露出して引き出されている側が互い違いになるように複数枚積層することにより、積層体を得た。この積層体を、N2ガス雰囲気中にて300℃の温度に加熱し、バインダーを燃焼させた後,酸素分圧10-10MPaのH2−N2−H2Oガスからなる還元性雰囲気中にて1150℃の温度で2時間焼成することにより、セラミック積層体を得た。
【0033】
焼成後得られたセラミック積層体の両端面にB23−Li2O−SiO2−BaOガラスフリットを含有するCuペーストを塗布し、N2ガス雰囲気中において800℃の温度で焼き付け、内部電極層と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0034】
上述のようにして得られた積層セラミックコンデンサの試料番号1〜9の各試料の外形寸法は幅0.8mm、長さ1.6mmであった。また、静電容量の形成に寄与する誘電体セラミック層の総数は400であり,一層当たりの内部電極層の有効対向面積は0.9mm2であった。また、試料番号1〜9の各試料のtc、te、tc/teの値を表1に示す。
【0035】
上述のようにして得られた積層セラミックコンデンサに対して、室温の誘電率、静電容量の温度特性、高温負荷特性を評価した。また、粒成長度を確認するため、焼成後の平均グレイン径を測定した。評価、測定の詳細条件を以下に示す。
【0036】
・誘電率: 温度は25℃、印加電圧は1kHzにて0.5Vrmsである。
・静電容量の温度特性: 上記印加電圧における静電容量において、25℃の温度での静電容量を基準とした85℃の温度における変化率を示す。
・高温負荷特性: 温度85℃にて、電界強度が4kV/mmになるように電圧を印加して、その絶縁抵抗の経時変化を測定した。試料数は各100個であり、2000時間経過するまでに、絶縁抵抗値が100kΩ以下になった試料を不良と判定し、この不良数を計数した。
・平均グレイン径: 焼成後の試料を破断し、1000℃の温度で熱処理した後、破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。観察像から、300個の粒子の画像解析を行い、円相当径をグレイン径とし、その平均値を求めた。
【0037】
試料番号1〜9の各試料の誘電率、静電容量の温度特性、高温負荷特性、平均グレイン径の結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果より、tcが1μm以下の範囲において、tc/teが1以下である試料番号2、3、5、6、8、9の試料において、高温負荷試験における不良個数がゼロとなり、高温負荷特性が向上していることがわかった。また、これらの試料においては、焼成による粒成長が抑えられていることもわかった。
【0040】
[実験例2]
本実験例は、誘電体セラミック層の組成と、tcと、teとを変化させた積層セラミックコンデンサにおいて、これらの変化が高温負荷特性に与える影響をみたものである。
【0041】
まず、実験例1と同様にして、BaTiO3粉末を得た。
【0042】
このBaTiO3粉末に対し、MgCO3、MnCO3、Dy23、SiO2、V25粉末を、(BaTiO3:Dy:Mg:Mn:Si:V)のモル比率が100:1.0:1.0:0.3:1.0:xとなるように配合し、ボールミルにて5時間混合し、乾燥し、粉砕することにより、セラミック原料粉末を得た。xの値は、表2の試料番号101〜130に示すとおりである。
【0043】
この試料番号101〜130の各試料のセラミック原料粉末をそれぞれ用いて、実験例1と同様の方法にて、表2の試料番号101〜130にて様々な値のtc、te、tc/teを示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。
【0044】
上述のようにして得られた積層セラミックコンデンサに対して、実験例1と同様に高温負荷特性を評価した。ただし、その評価条件は、負荷の電界強度を6.3kV/mmと高くした点のみ、実験例1より変更した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果より、試料番号101、106、111、116、121、126の試料は、tc/te≦1を満足してはいるものの、6.3kV/mmという高い負荷条件下では、若干の不良が出た。ただし、Vを副成分として含む試料番号102〜105、107〜110、112〜115、117〜120、122〜125、127〜130の試料については、6.3kV/mmという高い負荷条件下においても、不良がゼロとなった。
【0047】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
誘電体セラミック層の厚みが1μm以下である積層セラミックコンデンサの高温負荷特性が向上するので、積層セラミックコンデンサの小型化と大容量化に対応することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 積層セラミックコンデンサ
2 セラミック積層体
3 誘電体セラミック層
4,5 内部電極層
6,7 外部電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の誘電体セラミック層と、
各々が前記複数の誘電体セラミック層間に配置された複数の内部電極層と、
前記複数の内部電極層に電気的に接続された外部電極とを備える積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体セラミック層の一層当たりの厚みをtcとし、前記内部電極層の一層当たり
の厚みをteとするとき、tcが1μm以下、teが1μm以下であるとともに、tc/te≦1を満足する
、積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックが、チタン酸バリウム系化合物を主成分とし、副成分にバナジウムを含む組成を有する、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記主成分100モル部に対する前記バナジウムの含有量が、0.02モル部以上0.20モル部以下である、請求項2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記内部電極層を構成する金属成分の主成分がニッケルである、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサ。



【図1】
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【公開番号】特開2012−199597(P2012−199597A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−166963(P2012−166963)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【分割の表示】特願2010−522602(P2010−522602)の分割
【原出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】