説明

積層フィルムおよび積層フィルムの製造方法

【課題】
積層フィルムの界面接着性に優れ、さらに積層フィルムの引っ張り伸度が大きく、モータ加工性に優れた積層フィルムを提供することを目的とするものである。
【解決手段】
最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドからなる積層フィルムであり、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドからなり、積層フィルムの揉み試験によるフィルム破断までの揉み回数が90回以上であることを特徴とする積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にモータ加工性に優れた積層フィルムに関し、さらに詳しくは、現在自動車メーカーで開発が進んでいるハイブリッドカーなどに使用される駆動用モータや炭酸ガス冷媒用カーエアコンモータ、あるいは、炭酸ガス冷媒用給湯器モータの電気絶縁材に好適な積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドフィルムは、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性および低吸湿性などの性質を有しており、特に電気・電子機器、機械部品および自動車部品などに好適に使用されている。
【0003】
近年、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略称することがある。)フィルムは、その電気絶縁性や低吸湿性の高さを活かし、電気絶縁材料への適用が進められている。例えば、(1)二軸配向したフィルムを電気絶縁材料として用いることが知られている(特許文献1参照)。また、(2)無配向のPPSのシートも知られている(特許文献2)。
【0004】
さらに、(3)無配向のPPS層に二軸配向PPS層が接着剤を介することなく積層されている積層体が知られている(特許文献3および特許文献4参照)。また、(4)ヒートシール性を付与するために、共重合ポリフェニレンスルフィドからなる層を5μm以下積層した積層フィルムが知られている(特許文献5参照)。
【0005】
しかしながら、上記の従来のフィルムやシート、積層フィルムおよび積層体は、下記の問題点を有している。すなわち、上記(1)項のフィルムは、耐衝撃性や引き裂き強さが乏しく、例えば、モータのスロットライナーやウェッジとして用いる場合、フィルムが裂けてしまったり、フィルムが破断したりする問題があった。また、上記(2)項の無配向のシートは、引裂き強さに富むが、引っ張り伸度が小さく、また融点付近の温度にさらされると急激に強度が低下し、形態保持性が著しく悪化してしまうという問題があった。また、上記(3)項の積層体は、接着剤を介さず耐衝撃性に富んでいるが、界面接着性が十分ではなく、モータ加工においてデラミネーションを起こし、フィルム割れが拡大する問題があった。さらに、(4)項の積層フィルムは、界面接着性が十分ではなかった。
【特許文献1】特開昭55-35456号公報
【特許文献2】特開昭56-34426号公報
【特許文献3】特開平2-45144号公報
【特許文献4】特許第2956254号公報
【特許文献5】特開平4−319436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、これらの問題点を解消し、積層フィルムの界面接着性に優れ、さらに積層フィルムの引っ張り伸度が大きく、モータ加工性に優れた積層フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層フィルムは、上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、本発明の積層フィルムは、最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドからなる積層フィルムであって、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドからなり、最外層の二軸配向ポリアリーレンスルフィドと二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドが隣接し、揉み試験によるフィルム破断までの揉み回数が90回以上であることを特徴とする積層フィルムである。
【発明の効果】
【0008】

本発明によれば、以下に説明するとおり、積層フィルムの界面接着性に優れ、さらに積層フィルムの引っ張り伸度が大きく、モータ加工性に優れた積層フィルムを得ることができる。
【0009】
本発明の積層フィルムは、特にハイブリッドカーなどに使用される駆動モータや炭酸ガス冷媒用カーエアコンモータ、あるいは炭酸ガス冷媒用給湯器モータの電気絶縁材として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の積層フィルムは、最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドからなる。本発明で用いるポリアリーレンスルフィドとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するホモポリマあるいはコポリマである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあげられる。
【0011】
【化1】

【0012】
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィドの繰り返し単位としては、上記の式(A)で表される構造式が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、フィルム物性と経済性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましく例示され、ポリマの主要構成単位として下記構造式で示されるポリ−p−フェニレンスルフィド単位を好ましくは92モル%より大きく、より好ましくは95モル%以上含む樹脂である。かかるポリ−p−フェニレンスルフィド成分が92モル%以下では、ポリマの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なうことがある。
【0013】
【化2】

【0014】
繰り返し単位の、好ましくは8モル%未満であれば共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。このような繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基等の置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位、カーボネート単位などが具体例としてあげられ、このうち1つまたは2つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれの形態でも差し支えない。
【0015】
本発明で用いる二軸配向ポリアリーレンスルフィドとは、ポリ−p−フェニレンスルフィドを90重量%以上含む樹脂組成物を、溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムである。ポリ−p−フェニレンスルフィドの含有量が90重量%未満では、組成物としての結晶性が低下し、フィルムの耐熱性、熱寸法安定性、耐加水分解性などが損なわれる場合がある。該組成物中の10重量%未満はポリ−p−フェニレンスルフィド以外のポリマを含むことができる。ポリ−p−フェニレンスルフィド以外のポリマは、例えば、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトンなどの各種ポリマおよびこれらのポリマの少なくとも1種を含むブレンド物を挙げることができる。また,無機または有機フィラー、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、相溶化剤などの添加剤を含むこともできる。
【0016】
本発明の場合、上記二軸配向ポリアリーレンスルフィドを積層シートの最外層に有することが本発明の積層フィルムの破断伸度を有するために必要であり、また、モータ加工時の折り曲げなどによるフィルム割れを抑制するために必要である。さらには、ポリアリーレンスルフィドの耐熱性を向上させる点で必要であるのはむろんである。
【0017】
また、上記二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0018】
本発明の積層フィルムは、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドからなる。本発明で用いる共重合ポリアリーレンスルフィドとは、好ましくは80モル%以上92モル%以下が主成分としてポリ−p−フェニレンスルフィドユニットで構成されていることが好ましい。かかる主成分が80モル%未満では、フィルムの耐熱性低下が著しくなる場合があり、92モル%を超えると、界面接着性を十分高められない場合がある。
【0019】
共重合単位としては、下記式に示すポリ−m−フェニレンスルフィド単位、
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、これらの複合の単位が存在してもかまわない。好ましい共重合単位は、ポリ−m−フェニレンスルフィド単位である。これらの単位の共重合量は、8モル%以上20モル%以下が好ましく、より好ましくは10モル%以上18モル%以下であり、さらに好ましくは、12モル%以上15モル%以下である。かかる共重合成分が8モル%未満では、界面接着性を十分高められない場合があり、モータ加工におけるフィルム割れが発生する場合がある。20モル%を超えると、耐熱性の低下が著しくなる場合がある。
【0027】
本発明で用いられる共重合ポリアリーレンスルフィドの上記主成分と共重合成分との共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0028】
本発明においては、共重合ポリアリーレンスルフィドを構成する共重合体の繰り返し単位の残りの部分においては、さらに他の共重合可能な構成単位で構成されてもよいが、例えば、下記式に代表される3官能性フェニルスルフィドは、共重合体全体の1モル%以下であることが好ましい。
【0029】
【化8】

【0030】
本発明の共重合ポリアリーレンスルフィドの融点は、210℃以上260℃以下が好ましく、より好ましくは220℃以上250℃以下であり、さらに好ましくは、230℃以上240℃以下である。かかる共重合ポリアリーレンスルフィドの融点が210℃未満では、耐熱性の低下が著しくなる場合があり、260℃を超えると界面接着性を十分高められない場合があり、モータ加工におけるフィルム割れが発生する場合がある。共重合ポリアリーレンスルフィドの融点は、共重合成分のモル比によって適宜調製できる。例えば、共重合ポリアリーレンスルフィドの融点を210℃とする場合は、共重合成分のモル比を20モル%とすることにより得ることができる。
【0031】
本発明で用いる二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドとは、上記共重合ポリアリーレンスルフィドを90重量%以上含む樹脂組成物を溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムである。共重合ポリアリーレンスルフィドの含有量が90重量%未満では、界面接着性が損なわれる場合がある。該組成物中の10重量%未満は共重合ポリアリーレンスルフィド以外のポリマを含むことができる。共重合ポリアリーレンスルフィド以外のポリマは、例えば、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトンなどの各種ポリマおよびこれらのポリマの少なくとも1種を含むブレンド物を挙げることができる。また,無機または有機フィラー、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、相溶化剤などの添加剤を含むこともできる。
【0032】
本発明の積層フィルムの積層構成は最外層が2軸配向ポリアリーレンスルフィドであり、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドからなり、二軸配向ポリアリーレンスルフィドと二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドが隣接する他は、特に限定されないが、二軸配向ポリアリーレンスルフィド層(A層)/二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィド層(B層)/二軸配向ポリアリーレンスルフィド層(A層)、A/B/A/B/Aのように積層してもかまわない。積層構成は積層フィルムの厚みにより適宜変更することができる。
【0033】
本発明の二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィド層の厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上30μm以下であり、最も好ましくは20μm以上25μm以下である。二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィド層の厚みが5μm未満の場合、共重合ポリアリーレンスルフィド層の配向緩和が十分進行せず界面接着性を十分得られない場合があり、50μmを超えると、積層フィルムの耐熱性が低下することがある。ここで、二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィド層の厚みとは、積層された二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィド各層の厚みである。
【0034】
また、上記二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0035】
本発明の積層フィルムの厚みは、125μm以上500μm以下であり、より好ましくは200μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは250μm以上350μm以下である。厚みが125μm未満の場合、モータ絶縁フィルムとしての電気絶縁性が十分でない場合があり、厚みが500μmを超えると積層フィルムのラミネート加工性低下し、界面接着性が低下する場合がある。
【0036】
本発明のポリアリーレンスルフィド層と共重合ポリアリーレンスルフィド層の各層は、積層フィルムのモータ加工性を向上させるためにいずれも二軸配向していることが必要である。各層の配向は、ラマン分光法により積層フィルム断面を測定することにより求めることができる。ラマン分光法により得られた配向パラメータは、複屈折に換算することができ、好ましい複屈折は、フィルム破断強度の点から0.01〜0.2である。
【0037】
本発明の積層フィルムは、動的粘弾性測定におけるtanδのピーク温度が115℃以上123℃以下、より好ましくは115℃以上120℃以下、さらに好ましくは115℃以上118℃以下である。tanδのピーク温度が115℃未満の場合、分子鎖運動性が高くなるためか積層フィルムの耐熱性が低下する場合があり、123℃を超えると二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィド層の配向性が高くなるためか界面接着性が低下する場合がある。
【0038】
ここでいうtanδのピーク温度とは、動的粘弾性測定の温度変化におけるtanδ曲線のピーク温度であり、延伸フィルムのガラス転移温度に対応し、α分散ピークと呼ばれるものである。α分散は、分子鎖の伸長配向の度合いにより変化するため、延伸配向が強く、非晶鎖の伸長拘束が強い程、高温側にシフトする。本発明の積層フィルムのtanδのピーク温度は、フィルム長手方向および/または幅方向において上記範囲であることが好ましい態様である。本発明の積層フィルムのtanδのピーク温度を上記範囲とするためには、非晶鎖の伸長拘束を弱くすることにより得ることができ、例えば、積層する二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドの積層厚みを厚くすること、製膜延伸倍率を低下すること、あるいは、熱処理温度を増加することなどにより得られることが可能となる。
【0039】
本発明の積層フィルムの破断伸度は、100%以上150%以下であることが本発明のモータ加工性を得るために好ましい。より好ましくは120%以上150%以下であり、さらに好ましくは130%以上150%以下である。破断伸度が100%未満の場合、モータ加工工程でフィルム割れが発生する場合があり、破断伸度の上限は特に設けないが150%を超えるとフィルムの強度が低下し、フィルムの耐熱性が低下する場合がある。本発明の積層フィルムの破断伸度は、フィルム長手方向および/または幅方向において上記範囲であることが好ましく、特に幅方向の破断伸度が上記範囲であることがモータの加工性を得るために好ましい。積層フィルムの破断伸度を上記範囲とするためには、本願規定の製膜延伸条件、および熱処理条件により積層前の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよび共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムの破断伸度を上記範囲とすること、および、積層フィルムの揉み回数を本願規定の範囲とすることにより得ることが可能となる。本願発明の積層フィルムの揉み回数が小さい場合、積層フィルムの界面接着性が十分ではなく、界面剥離により積層フィルムの破断伸度が低下する場合がある。
【0040】
本発明の積層フィルムの揉み試験におけるフィルム破断までの揉み回数は、特に上限を設けないが、90回以上であることがモータ加工工程でフィルム割れ発生を抑制するために必要である。より好ましくは、100回以上であり、さらに好ましくは120回以上であり、最も好ましくは、140回以上である。揉み回数が90回未満の場合、界面接着性が十分でなく、界面剥離により積層フィルムの破断伸度が低下し、モータ加工工程でフィルム割れを発生する場合がある。また、揉み回数を140回以上とするためには熱ラミネート温度を増加させることが好ましいが、フィルム平面性を悪化する場合がある。揉み試験による揉み回数を上記範囲とするためには、積層フィルムの界面接着性を向上することが必要である。本発明の揉み回数を達成する界面接着性を得るためには、積層する二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドの積層厚み、製膜延伸における面積延伸倍率、熱処理条件を本発明の規定の範囲とすることにより、二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドの非晶鎖配向を緩和でき界面接着性が向上できる。さらに、熱ラミネートにおけるラミネート温度を本願規定の範囲とすることにより界面接着性を向上でき、積層フィルムの揉み回数を得ることが可能となる。ここでいう揉み回数とは、揉み試験機(例えば、スコット耐揉摩耗試験機(東洋精機製))を用い、幅10mm、長さ200mmのサンプルを荷重2.5kg、チャック間距離30mm、ストローク距離50mm、速度120回/分で測定し、フィルムが破断するまでの回数を求めたものである。
【0041】
本発明の積層フィルムを積層する方法は、特に限定されないが、接着剤を介することなく積層する方法、あるいは接着剤を介して積層する方法を用いることができる。界面接着性の観点から接着剤を介することなく積層する方法が好ましい。接着剤を介することなく積層する具体的方法としては、熱融着による熱ラミネート積層が好ましく用いられる。熱ラミネートの方法は特に限定されないが、プロセス性の点から加熱ロールによる熱ラミネートが特に好ましい。
【0042】
本発明の積層フィルムの用途は、特に限定されないが、電気絶縁材料、成形材料用、回路基板材料および工程・離型材料などの各種工業材料用などに用いられ、特に、ハイブリッドカーなどに使用される駆動用モータや炭酸ガス冷媒用カーエアコンモータ、あるいは、炭酸ガス冷媒用給湯器モータの電気絶縁材に好適に用いられる。
【0043】
次いで、積層フィルムを製造する方法について、ポリアリーレンスルフィド樹脂としてポリ−p−フェニレンスルフィド樹脂(以下PPSと略記する場合がある)を用い、共重合ポリアリーレンスルフィド樹脂としてPPSに少量のm−フェニレンスルフィドを共重合させたポリ−m−フェニレンスルフィド樹脂(以下メタ体共重合PPSと略記する場合がある)を用いた場合の積層フィルムの製造を例にとって説明するが、本発明は、下記の記載に限定されないことは無論である。
【0044】
PPS樹脂の製造方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で高温高圧下で反応させる。必要によって、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることもできる。重合度調整剤として、苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し、230〜280℃の温度で重合反応させる。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃の温度で10〜60分間攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃の温度で数回洗浄、乾燥してPPS粒状ポリマを得る。得られた粒状ポリマを、酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃の温度のイオン交換水で数回洗浄し、副生塩、重合助剤および未反応モノマ等を分離する。上記に得られたポリマに必要に応じて、無機または有機の添加剤等を本発明の目的に支障を与えない程度添加し、PPS樹脂を得る。
【0045】
メタ体共重合PPS樹脂の製造方法としては、例えば、次のような方法がある。硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンおよび副成分モノマを本発明でいう比率で配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で重合助剤の存在下、高温高圧下で反応させる。副成分モノマとしては、
【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
【0050】
【化12】

【0051】
【化13】

【0052】
(ここでRは、アルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、これらの複数の副成分モノマが存在してもかまわない。好ましい副成分モノマは、化14である。
【0053】
【化14】

【0054】
次に、本発明の積層フィルムの製造方法について説明する。上記のPPS原料と、メタ体共重合PPS原料を別々の溶融押出装置に供給し、個々の原料の融点以上に加熱する。加熱により溶融された各原料は、溶融押出装置と口金出口の間に設けられた合流装置で溶融状態で2層または3層に積層され、スリット状の口金出口から押し出される。かかる溶融積層体を冷却ドラム上でPPSのガラス転移点以下に冷却し、実質的に非晶状態の2層または3層積層シートを得る。積層構成は特に限定されないが、2層積層の場合、PPS層/メタ体共重合PPS層の2層積層が好ましく、3層積層の場合、メタ体共重合PPS層/PPS層/メタ体共重合PPS層の3層積層が好ましい。溶融押出装置は周知の装置が適用可能であるが、1軸または2軸のエクストルーダが簡便であり好ましく用いられる。
【0055】
次いで、このようにして得られた非晶状態の2層または3層積層シートを、PPSのガラス転移点以上冷結晶化温度以下の範囲で、従来公知の逐次二軸延伸機や同時二軸延伸機により二軸延伸した後、240〜280℃の範囲の温度で熱処理を行い二軸配向2層または3層積層フィルムを得る。
【0056】
延伸は、長手方向に90℃〜120℃で3.0〜4.0倍の範囲で行うことが好ましい。本発明の場合、より好ましい延伸倍率は、3.0〜3.7であり、さらに好ましくは、3.0〜3.5倍である。本発明において、延伸倍率が3.0倍未満の場合、十分なフィルム平面性を有した二軸配向フィルムを得られない場合があり、延伸倍率が4.0倍を超えると本発明の破断伸度、界面接着性を得られない場合がある。ついで、幅方向に90℃〜120℃で2.8〜3.5倍に延伸することが好ましい。より好ましくは、2.8〜3.3倍であり、さらに好ましくは、2.8〜3.0倍である。本発明において、延伸倍率が2.8倍未満の場合、十分なフィルム平面性を有した二軸配向フィルムを得られない場合があり、延伸倍率が3.5倍を超えると本発明の破断伸度を得られない場合がある。
【0057】
本発明においては、面積延伸倍率が8倍以上12.5倍以下であることが、本発明の破断伸度、界面接着性を得るために好ましく、より好ましくは8倍以上12倍以下、さらに好ましくは8倍以上11倍以下である。面積延伸倍率が8倍未満の場合、十分なフィルム平面性を有した二軸配向フィルムを得られない場合があり、12倍を超えると破断伸度、界面接着性が低下する場合がある。
【0058】
熱処理温度は240℃以上、280℃以下であることが好ましく、より好ましくは250℃以上、280℃以下であり、さらに好ましくは、260℃以上、280℃以下である。これにより、二軸配向したメタ体共重合PPS層を配向緩和させることができ、界面接着性を向上させることができる。さらに、長手方向および/または幅方向に各々1〜20%の範囲で制限収縮(リラックス)させることにより、メタ体共重合PPS層の配向緩和が促進でき界面密着性を向上させることができるため好ましい。より好ましくは3〜15%であり、さらに好ましくは5〜10%である。
【0059】
上記方法で得られた二軸配向2層積層フィルムは、PPS層が最外層にくるようにメタ体共重合PPS層を接着層として重ね合わせ(PPS層/メタ体共重合PPS層)/(メタ体共重合PPS層/PPS)の3層積層フィルムを得る。また、(PPS層/メタ体共重合PPS層)/PPSのように二軸配向PPS単膜フィルムを積層し3層積層フィルムとすることもできる。また、(PPS層/メタ体共重合PPS層)/PPS層/(メタ体共重合PPS層/PPS層)とすることもできる。また、メタ体共重合PPS層/PPS層/メタ体共重合PPS層の二軸配向3層積層フィルムを作製し、二軸配向PPS単膜フィルムと(PPS層)/(メタ体共重合PPS層/PPS層/メタ体共重合PPS層)/(PPS層)の5層積層フィルムとすることもできる。製膜における安定性およびラミネートにおける平面性向上の観点から(PPS層/メタ体共重合PPS層)/PPS層/(メタ体共重合PPS層/PPS層)が好ましい。勿論、積層構成はこれらに限定されるものではない。
【0060】
本発明において、二軸配向積層フィルムの積層方法としては、例えば、高温高圧下でラミネートする方法が好ましい。ラミネート温度は、好ましくは245〜265℃、より好ましくは250〜265℃、さらに好ましくは255〜265℃であり、本発明の界面接着性を得るためには好ましい。ここでいうラミネート温度とは、金属ロールの表面温度であり、非接触式温度計あるいは接触式温度計で測定することができる。また、ニップロールは、ゴム材質であることがラミネートフィルムの表面性向上の観点から好ましく、フッ素ゴム、シリコンゴムなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、ニップロールの表面温度は、好ましくは180℃〜240℃であり、より好ましくは、190℃〜240℃であり、さらに好ましくは、200℃〜240℃である。ラミネート圧力は、好ましくは面圧が1〜20kg/cm、より好ましくは5〜20kg/cmであり、さらに好ましくは、10〜20kg/cmであることが本発明の界面密着性を得るために好ましい。二軸配向積層フィルムの積層は、メタ体共重合PPS層を接着層として積層するが、メタ体共重合PPS層をあらかじめ予熱したのちラミネートすることが好ましい。メタ体共重合PPS層を予熱する方法としては、金属ロールもしくは、ニップロール上で抱き角50〜180度、好ましくは60〜180度、さらに好ましくは、90〜180度で加熱ロール上に接触させた後ラミネートすることが本発明の界面接着性を得るために好ましい態様である。ラミネート速度は、0.1〜10m/分、好ましくは0.5〜5m/分、より好ましくは1〜7m/分、さらに好ましくは3〜5m/分であることが、本発明の界面接着性および生産性の観点から好ましい。ラミネートは、PPSのガラス転移点以下で直ちに冷却することが、ラミネートフィルムの平面性と界面接着性および破断伸度の維持の点から好ましい態様である。
【0061】
本発明で用いられる二軸配向メタ体共重合PPS層および二軸配向PPS層には、より強固なヒートシール性を付与するために、コロナ放電処理やプラズマ処理を施すことも本発明の好ましい態様に含まれる。コロナ放電処理時の雰囲気ガスとしては、空気(EC処理)、酸素(OE処理)、窒素(NE処理)、炭酸ガス(CE処理)等から選ばれる少なくとも1種のガスが挙げられる。これらのうち、経済性の観点からはEC処理を用いることが好ましく、上記した接着性向上の観点からはNE処理、またはCE処理で表面処理することが好ましく、本発明においてはNE処理で表面処理することが接着性向上の観点からより好ましい。また本発明においては、本発明の効果を妨げない限り、必要に応じて他のシート層を積層することができる。
【0062】
また、本発明においては、積層フィルムの取り扱い性および加工性を向上させるために、各層に不活性粒子を添加することができる。ここで言う不活性粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンおよび酸化亜鉛などの無機フィラーおよび300℃で溶融しない有機の高分子化合物(例えば、架橋ポリスチレン等)の粒子等を挙げることができる。
【0063】
[特性の測定方法]
(1)破断伸度
ASTM−D882に規定された次の方法に従って、インストロンタイプの引張試験機(オリエンテック社製AMF/RTA-100)を用いて、幅10mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mmとなるようにセットし、25℃の温度で、65%RHの雰囲気条件下で引張速度300mm/分で引張試験を行う。
【0064】
破断伸度は、フィルム長手方向、幅方向の両方をn=5で測定し平均したものを用いる。
【0065】
(2)融解温度(Tm)
擬似等温法にて下記装置および条件で比熱測定を行い、JIS K7121に従って決定した。試料数3にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
【0066】
装置: TA Instrument社製温度変調DSC
測定条件:
加熱温度:270〜570K(RCS冷却法)
温度校正:高純度インジウムおよびスズの融点
温度変調振幅:±1K
温度変調周期:60秒
昇温ステップ:5K
試料重量:5mg
試料容器:アルミニウム製開放型容器(22mg)
参照容器:アルミニウム製開放型容器(18mg)
また、示唆走査熱量計として、セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上300℃で5分間溶融保持し、急冷固化した後、室温から昇温速度20℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を融解温度(Tm)とした。
【0067】
(3)揉み試験
スコット耐揉摩耗試験機(東洋精機製)を用いて、JIS−K−6328にしたがって測定する。サンプルサイズは幅10mm、長さ200mm、荷重2.5kg、チャック間距離30mm、ストローク距離50mm、速度120回/分で測定し、目視でフィルムが破断するまでの回数を求める。以下の基準で判定した。
【0068】
◎140回以上
○:120回以上140回未満
△:90回以上120回未満
×:90回未満。
【0069】
(4)tanδ
動的粘弾性(DMA)測定装置として、DMS6100(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、試料幅5mm、試料長さ(チャック間距離)20mmのサンプルを測定した。詳細な測定条件を下記に示す。
【0070】
測定温度域 : −150℃〜200℃
振動周波数 : 1Hz
振動変位(歪み) : 5μm、 初荷重:50mN
昇温速度 : 2℃/分、 ゲイン:1.5
力振幅初期値 : 100mN。
【0071】
(5)モータ加工性
モータスロット加工機(小田原エンジニアリング社製)を用い、試料を、幅24mm、長さ39mmのスロットに加工速度2ヶ/秒で加工し、目視でフィルム割れの発生したものを不良品とし、不良品発生率を次の基準で評価した。なお、加工個数は各試料100個ずつとする。
◎:不良率が0%
○:不良率が0%を超え5%以下
△:不良率が6%を超え20%以下
×:不良率が20%を超える。
【0072】
(6)溶融粘度
フローテスターCFT−500(島津製作所製)を用いて、310℃、せん断速度200sec−1、口金長さを10mm、口金径を1.0mmとして、予熱時間を5分に設定して測定した。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
(1)メタ体共重合PPS樹脂の製造
オートクレ−ブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する。)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして89モルのp−ジクロベンゼン、副成分モノマとして12モルのm−ジクロロベンゼン、および0.2モルの1,2,4−トリクロルベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cmで加圧封入後、昇温し、260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマを90℃の蒸留水により5回洗浄した後、減圧下120℃の温度にて乾燥して、溶融粘度が1000ポイズであり、融点が240℃のメタ体共重合PPS樹脂を得た。次いで、平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末0.3重量%を添加し均一に分散配合して、320℃の温度にて30mmφ2軸押出機によりガット状に押出し、メタ体共重合PPSのペレットを得た。
【0074】
(2)PPS樹脂の製造
主成分モノマとして101モルのp−ジクロベンゼンを用い、副成分モノマを用いないこと以外は全て上記(1)のメタ体共重合PPSの製造と同様に実施して、PPS樹脂を製造した。なお、PPS樹脂の溶融粘度は、3000ポイズであり、融点は283℃であった。
【0075】
(3)製膜
前記(1)および(2)で得られたメタ体共重合PPS樹脂およびPPS樹脂を、それぞれ180℃の温度で3時間、1mmHgの減圧下で乾燥後、別々のエクストルーダに供給し、溶融状態で口金上部にある二重管型の積層装置で2層になるように導き、続いて設けられたTダイ型口金から吐出させ、25℃の温度の冷却ドラムで急冷し、実質的にメタ体共重合PPS/PPSの2層積層シートを得た。次いで、得られた各積層シートを、表面温度95℃の複数の加熱ロールに接触走行させ、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向に3.3倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と直交方向に100℃の温度で2.8倍(面積延伸倍率9.2倍)に延伸し、続いて265℃の温度で10秒間熱処理した後にフィルム長手方向と直角方向に5%制限収縮(リラックス)処理を行い、100℃の温度で5秒間中間冷却したのち室温まで冷却してメタ体共重合PPS/PPS(20/105μm)の二軸配向積層フィルムを得た。
【0076】
また、PPS樹脂単体を上記製膜条件により別途製膜、熱処理して厚み125μmの単膜フィルムを得た。
【0077】
(4)積層
上記製膜方法で得られた二軸配向積層フィルムおよびPPS単膜フィルムを、メタ体共重合PPS層を接着層として熱ラミネートした。ラミネート条件は、加熱ロールとしてHCrロールを255℃の温度に加熱し、ニップロールはフッ素ゴムロールを用いて240℃に加熱した。また、ラミネート圧は、20kg/cm、ラミネート速度は、2m/分の条件で行った。二軸配向積層フィルムはニップロール上で抱き角90度で予熱した後ラミネートした。ラミネート後は直ちに冷却して巻き取った。上記のようにして得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを3.5×3.0倍(面積延伸倍率10.5倍)とする以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを3.6×3.3倍(面積延伸倍率11.9倍)とする以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例4)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを3.5×3.5倍(面積延伸倍率12.2倍)とする以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0081】
(実施例5)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを260℃で熱処理する以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0082】
(実施例6)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを240℃で熱処理する以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例7)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを4%の制限収縮(リラックス)処理する以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0084】
(実施例8)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを3%の制限収縮(リラックス)処理する以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0085】
(実施例9)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムとPPS単膜フィルムを265℃の温度でラミネートする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示すが、フィルム平面性が悪化するためモータ加工性が低下した。
【0086】
(実施例10)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムとPPS単膜フィルムを250℃の温度でラミネートする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0087】
(実施例11)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムとPPS単膜フィルムを245℃の温度でラミネートする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0088】
(実施例12)
実施例1で副成分モノマとして10モル%のm−ジクロロベンゼンを添加し、融点が250℃のメタ体共重合PPSとする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0089】
(実施例13)
実施例1で副成分モノマとして8モル%のm−ジクロロベンゼンを添加し、融点が255℃のメタ体共重合PPSとする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0090】
(実施例14)
実施例1でメタ体共重合PPS/PPS(15/110μm)の二軸配向積層フィルムとする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0091】
(実施例15)
実施例1でメタ体共重合PPS/PPS(10/115μm)の二軸配向積層フィルムとする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例16)
実施例3で得られたメタ体共重合PPS/PPS(20/105)の二軸配向積層フィルムのメタ体共重合PPS側にNE処理を行い、また、PPS単体のメタ体共重合PPSと接する側をEC処理する以外は、実施例3と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例17)
実施例16でラミネート速度を5m/分とする以外は実施例16と同様に3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0092】
(実施例18)
実施例1でメタ体共重合PPS/PPS(50/75μm)の二軸配向積層フィルムとする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0093】
(実施例19)
実施例1で得られたメタ体共重合PPS樹脂およびPPS樹脂を、溶融状態で口金上部にある三重管型の積層装置でメタ体共重合PPS/PPS/メタ体共重合PPSの3層になるように導き、実施例1と同様にしてメタ体共重合PPS/PPS/メタ体共重合PPS(20/80/20μm)の二軸配向3層積層フィルムを得た。
【0094】
このとき、PPS組成物単体を上記製膜条件により製膜、熱処理して厚み115μmの単膜フィルムを得た。
【0095】
上記で得られた二軸配向3層積層フィルムおよびPPS単膜フィルムを、メタ体共重合PPS層とPPS単膜フィルムが重なるように熱融着してPPS/(メタ体共重合PPS/PPS/メタ体共重合PPS)/PPSの5層積層フィルムを作製した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例20)
メタ体共重合PPS/PPS(10/65μm)とする以外は実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを作製した。また、実施例1と同様にして100μmのPPS樹脂単体を作製した。上記で得られた二軸配向積層フィルムおよびPPS単膜フィルムを(PPS/メタ体共重合PPS)/PPS/(メタ体共重合PPS/PPS)となるよう積層し、実施例1と同様にラミネートを行い5層積層フィルムを作製した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例21)
実施例20で用いた二軸配向積層フィルムを3.5×3.0倍(面積延伸倍率10.5倍)とする以外は、実施例20と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0096】
(実施例22)
実施例20で用いた二軸配向積層フィルムを3.6×3.3倍(面積延伸倍率11.9倍)とする以外は、実施例20と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例23)
実施例20で副成分モノマとして10モル%のm−ジクロロベンゼンを添加し、融点が250℃のメタ体共重合PPSとする以外は実施例20と同様にして5層積層フィルムを作製した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例24)
実施例23で用いた二軸配向積層フィルムを3.5×3.0倍(面積延伸倍率10.5倍)とする以外は、実施例23と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0097】
(実施例25)
実施例23で用いた二軸配向積層フィルムを3.6×3.3倍(面積延伸倍率11.9倍)とする以外は、実施例23と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例26)
実施例25で得られたメタ体共重合PPS/PPS(10/65)の二軸配向積層フィルムのメタ体共重合PPS側にNE処理を行い、また100μmのPPS単体両面にEC処理を行う以外は実施例25と同様にして5層積層フィルムを作製した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
(実施例27)
実施例26でラミネート速度を5m/分とする以外は実施例26と同様に5層積層フィルムを作製した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0098】
(比較例1)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを3.8×3.6倍(面積延伸倍率13.7倍)とする以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0099】
(比較例2)
実施例1で副成分モノマとして10モル%のm−ジクロロベンゼンを添加し、融点が250℃のメタ体共重合PPSとし、二軸配向積層フィルムを3.5×3.5倍(面積延伸倍率12.2倍)、熱処理温度を260℃、メタ体共重合PPS/PPS(10/115μm)とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを製作した。
【0100】
上記で得られた二軸配向積層フィルムおよびPPS単膜フィルムを240℃でラミネートする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0101】
(比較例3)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムとPPS単膜フィルムを240℃の温度でラミネートする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0102】
(比較例4)
実施例1で用いた二軸配向積層フィルムを0%の制限収縮(リラックス)処理する以外は、実施例1と同様にして3層積層フィルムを製作した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0103】
(比較例5)
実施例1でニップロールを加熱しない以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0104】
(比較例6)
実施例1で副成分モノマとして5モル%のm−ジクロロベンゼンを添加し、融点が265℃のメタ体共重合PPSとする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0105】
(比較例7)
実施例1でメタ体共重合PPS/PPS(5/120μm)の二軸配向積層フィルムとする以外は実施例1と同様にして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0106】
(比較例8)
実施例15において、メタ体共重合PPS/PPS/メタ体共重合PPS(5/110/5μm)の二軸配向3層積層フィルムとする以外は実施例15と同様にして5層積層フィルムを作製した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0107】
(比較例9)
実施例1で用いたPPS樹脂単体を実施例1と同様の製膜条件により製膜、熱処理して厚み75μmのPPS単体フィルムを作製した。また、上記PPS樹脂単体の厚み100μmの無配向フィルムを作製した。得られたPPS二軸配向フィルムと無配向フィルムを二軸配向フィルム/無配向フィルム/二軸配向フィルムの順に積層し、実施例1と同様にラミネートして3層積層フィルムを作製した。得られた3層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0108】
(比較例10)
実施例25で表面処理をしない以外は実施例25と同様に5層積層フィルムを作製した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0109】
(比較例11)
実施例25でニップロールを加熱しない以外は実施例25と同様にして5層積層フィルムを作製した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0110】
【表1a】

【0111】
【表1b】

【0112】
【表1c】

【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の積層フィルムは、PPSの優れた熱性、耐薬品性、難燃性、耐衝撃性および耐湿熱性を兼ね備えており、かつ、積層フィルムの界面密着性に優れ、引っ張り伸度が大きく向上しているため、特にハイブリッドカーなどに使用される駆動用モータや炭酸ガス冷媒用カーエアコンモータ、あるいは、炭酸ガス冷媒用給湯器モータの電気絶縁材として好適であり、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドからなる積層フィルムであって、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドからなり、最外層の二軸配向ポリアリーレンスルフィドと二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドが隣接し、揉み試験によるフィルム破断までの揉み回数が90回以上であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
揉み試験によるフィルム破断までの揉み回数が100回以上である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
最外層のポリアリーレンスルフィドがポリ−p−フェニレンスルフィドである請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
共重合ポリアリーレンスルフィドが共重合ポリフェニレンスルフィドである請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
共重合ポリアリーレンスルフィド層が5〜50μmである請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
共重合ポリアリーレンスルフィド層が10〜50μmである請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
共重合ポリアリーレンスルフィド層が、くり返し単位の80モル%以上92モル%以下が下記構造式1で表わされるユニットからなり、かつ、くり返し単位の8モル%以上20モル%以下が下記構造式2で表されるユニットからなるランダム共重合体を主体として構成されている請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルム。
【化1】

【化2】

【請求項8】
積層フィルムの動的粘弾性測定におけるtanδのピーク温度が115℃以上123℃以下である請求項1〜7のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項9】
引張破断伸度が100〜150%である請求項1〜8のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項10】
積層フィルムの面積延伸倍率が8〜12.5倍である請求項1〜9のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項11】
積層フィルムのラミネート温度が245〜265℃である請求項1〜10のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−98941(P2007−98941A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239867(P2006−239867)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】