説明

積層フィルムおよび複合フィルム

【課題】バリア性に優れた積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルムと、有機層と、無機層とを該順に有し、前記有機層の厚さが300nm〜2000nmであり、無機層がSiOx(xは0.9〜1.5)で表される珪素酸化物を含み、有機層の表面が、Ra(100 μm 角) < 50 nm、Ra(10μm 角) < 2 nmおよび75 nm < Rz(100 μm 角) < 300 nmを満たす積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムに関する。また、該積層フィルムを貼り合せてなる複合フィルムに関する。特に、太陽電池のバックシートに好ましく用いられるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーを利用する発電手段として太陽光発電システムの普及が進んでいる。太陽電池モジュールの構造は一般的にガラス、太陽電池セル(半導体セル)、バックシートの3層から構成されている。
バックシートはセルを保護し、劣化を防ぐことで、発電効率の維持する役割を果たす。このバックシートには、優れた機械的性質、耐熱性、耐湿性が要求される。例えば、特許文献1や特許文献2には、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた太陽電池裏面保護膜が提案されている。
太陽電池は、永年にわたり野外に放置されるため、高いバリア性が求められる。そのため、基材フィルム上に、有機層と無機層を積層した積層フィルムを用いることが検討されている。かかる積層フィルムを低コストで製造するためには、大面積かつ高速で製造可能なロール トゥ ロール方式が選択される。ロール トゥ ロール方式で生産する場合、基材を高速で搬送する際のフィルムとパスローラー、もしくは、フィルム同士が重なりあったときの摩擦、滑り易さが重要なファクターとなる。いわゆる易滑性が最適でなければならない。積層フィルムが易滑性に劣ると搬送時や巻取り時にシワが発生することも多く、易滑性に対する要求度が高い。
【0003】
ここで、特許文献3には、特定のRaを満たすフィルムがべたつき等の作業性、蒸着層の耐熱水性に優れることが記載されている。一方、特許文献4には、フィルムの突起を調整することにより、接着性や易滑性に優れたフィルムが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−26354号公報
【特許文献2】特開2003−60218号公報
【特許文献3】特開2000−85067号公報
【特許文献4】特開平6−340046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者が検討したところ、上記特許文献1に記載のフィルムでは、べたつき等の作業性や蒸着層の耐熱水性には効果的であるが、易滑性が十分ではないことが分かった。従って、ロール トゥ ロールで生産するとシワ等の問題が起こりやすい。また、特許文献2に記載のフィルムも、ロール トゥ ロールで生産するには易滑性が必ずしも十分ではないことが分かった。さらに、特許文献2に記載のフィルムは、太陽電池において求められるガスバリア性を達成できない。
本願発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、易滑性があり、かつ、太陽電池のバックシート用途において十分なバリア性を有する積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
易滑性を確保する方法としては、マット剤と呼ばれる微粒子を含有するフィルムが一般的であるが、微粒子含有フィルムは表面が非常に粗い。従って、このような粗い面上に無機層を設けると、無機層の緻密さが失われ、バリア能が劣ってしまう。そこで、粗い面の上に有機層を設けて表面を平滑化することが一般的であるが、このような有機層を設けると、その上に設けられる無機層は緻密なものとなりバリア性は向上するが、今度は易滑性が劣ってしまう。かかる状況のもと、基材フィルムと有機層と無機層とを該順に有する積層フィルムにおいて、有機層の表面に大きなうねりを設け、かつ、小さなうねりを無くすことにより、易滑性に必要な滑り性を有しつつ、かつ、緻密な無機層を設けることができることを見出した。具体的には、有機層の表面を所定のRaおよびRzを満たすようにし、かつ、有機層の厚さを所定の厚さとすることによって、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、以下の手段により達成された。
【0007】
(1)基材フィルムと、有機層と、無機層とを該順に有し、前記有機層の厚さが300nm〜2000nmであり、有機層の表面が下記式の全てを満たし、かつ無機層がSiOx(xは0.9〜1.5)で表される珪素酸化物を含む、積層フィルム。
Ra(100 μm 角) < 50 nm
Ra(10μm 角) < 2 nm
75 nm < Rz(100 μm 角) < 300 nm
(2)前記基材フィルムの表面が下記式の全てを満たす、(1)に記載の積層フィルム。
Ra(100μm 角) < 50 nm
300 nm < Rz(100μm 角) < 1200 nm
(3)前記有機層が(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、(1)または(2)に記載の積層フィルム。
(4)前記有機層が多官能(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、(1)または(2)に記載の積層フィルム。
(5)前記有機層が、芳香族性炭素骨格を有する、多官能(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、(1)または(2)に記載の積層フィルム。
(6)前記基材フィルムには微粒子が分散している、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の積層フィルム。
(7)前記微粒子は、珪素酸化物、チタン酸化物およびジルコニウム酸化物から選択される1種または2種以上である、(6)に記載の積層フィルム。
(8)前記微粒子は、カーボンブラックである、(6)に記載の積層フィルム。
(9)前記基材フィルムが、着色剤を含む、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の積層フィルム。
(10)前記有機層がシランカップリング剤を含有する、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の積層フィルム。
(11)前記無機層が珪素酸化物および/またはアルミニウム酸化物を含む、(1)〜(10)のいずれか1項に記載の積層フィルム。
(12)前記無機層が真空蒸着法で製膜されたものである、(1)〜(11)のいずれか1項に記載の積層フィルム。
(12−2)前記無機層がプラズマアシスト蒸着法によって製膜されたものである、(1)〜(12)のいずれか1項に記載の積層フィルム。
(13)(1)〜(12−2)のいずれか1項に記載の積層フィルム2枚が、無機層を設けている側同士が向き合うように接着層を介して接合している複合フィルム。
(14)(1)〜(12−2)のいずれか1項に記載の積層フィルムまたは(13)に記載の複合フィルムを有する太陽電池用バックシート。
(15)(1)〜(12−2)のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法であって、ロール トゥ ロールによってフィルムを搬送することを含む、製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、易滑性があり、かつ、十分なバリア性を有する積層フィルムを提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、積層フィルムを貼り合せて複合フィルムを作成する工程を示す概略図である。
【図2】図2は、複合フィルムを太陽電池用バックシートに応用する例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0010】
1 積層フィルム
2 基材フィルム
3 有機層
4 無機層
5 接着剤層
6 複合フィルム
7 太陽電池用バックシート
8 接着剤層
9 プラスチックフィルム
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本発明における有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。さらに、本発明における(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタアクリレートの両方を意味する。
【0012】
本発明の積層フィルムは、基材フィルムと、有機層と、無機層とを該順に有し、有機層の厚さが300nm〜2000nmであり、有機層の表面が下記式の全てを満たし、かつ無機層がSiOx(xは0.9〜1.5)で表される珪素酸化物を含む、積層フィルムである。
Ra(100μm 角) < 50 nm
Ra(10μm 角) < 2 nm
75 nm < Rz(100μm 角) < 300 nm
有機層の表面を上記のように設定することにより、ロール トゥ ロールで搬送する場合でも、シワや巻絞まりの発生を効果的に抑制でき、かつ、高いバリア性を達成することが可能になる。
【0013】
ここで、本願明細書におけるRaは、算術平均粗さをいい、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値をいう。本願明細書におけるRzは十点平均粗さをいい、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和をいう。
また、Ra(100μm 角)は、100μm角におけるRaをいい、Ra(10μm 角)は10μm角におけるRaをいう。同様に、Rz(100μm 角) は100μm角におけるRzをいう。
【0014】
有機層の表面は、それぞれ、以下の式を満たすことが好ましい。
20nm < Ra(100μm 角) < 40nm
0.5nm < Ra(10μm 角) < 1.0nm
100nm < Rz(100μm 角) < 250nm
【0015】
さらに本発明では、基材フィルムの表面が下記式の全てを満たすことが好ましい。このような構成とすることにより、ロール トゥ ロールで搬送する場合においても、シワや巻絞まりの発生をより効果的に抑制することができる。
Ra(100μm 角) < 50 nm
300 nm < Rz(100μm 角) < 1200 nm
基材フィルムの表面はさらに好ましくは、それぞれ、以下の式を満たすことが好ましい。
20nm < Ra(100μm 角) <40nm
400nm < Rz(100μm 角) <700nm
【0016】
(有機層)
本発明における有機層は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特にさだめるものではないが、(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化してなる層であることが好ましく、多官能(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化してなる層であることがより好ましく、芳香族性炭素骨格を有する多官能(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化してなる層であることがさらに好ましい。芳香族性炭素骨格を有する(メタ)アクリレートを採用することにより、基材フィルムに対する塗布性に優れ、バリア性が向上する傾向にあり好ましい。
芳香族性炭素骨格としては、ベンゼン骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン骨格、ビナフチル骨格、アズレン骨格、ビフェニレン骨格、アセナフチレン骨格、フェナントレン骨格、アントラセン骨格、トリフェニレン骨格、ピレン骨格、クリセン骨格、ナフタセン骨格、ピセン骨格、ペリレン骨格、ベンゾピレン骨格が好ましい例として挙げられる。本発明における、芳香族性炭素骨格は、1つまたは2つ以上の芳香環を有することが好ましく、芳香環を2つ以上有する重合性化合物を硬化させてなる樹脂がより好ましい。1つまたは2つ以上の芳香環を有する芳香族性炭素骨格を有する樹脂を採用することにより、プラズマプロセス中でもより分解されにくい層を形成することができる。この結果、バリア性が良い向上する傾向にある。
本発明における有機層に含まれる樹脂は、3次元架橋性を有する樹脂を用いることも好ましい。このような樹脂を採用することにより、有機層をより緻密な構造とすることができる。
【0017】
以下に、本発明で好ましく用いられる(メタ)アクリレートを例示するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは言うまでも無い。
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
本発明の有機層は、好ましくは、上述したような重合性化合物と、重合開始剤を含む重合性組成物を硬化させて得られるが、重合性組成物に含まれる重合性モノマー成分は、50〜100重量%が芳香族性炭素骨格を有する(メタ)アクリレートであることが好ましい。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の重合性モノマーを含んでいてもよい。他の重合性モノマーとしては、芳香族性炭素骨格を有さない(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
有機層は、また、シランカップリング剤を含んでいることが好ましい。シランカップリング剤を含有することにより、基材と有機層、有機層と無機層の密着性が向上し、剥離故障によるバリア性能の低下を低減させることが可能になる。シランカップリング剤の添加量は、有機層中、5〜30重量%であることが好ましく、10〜25重量%であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、高いバリア性能と密着性を両立できる。本発明で用いられるシランカップリング剤としては、特に定めるものではないが、例えば、信越シリコーン社製 KBM−5103が挙げられる。
【0023】
(重合開始剤)
本発明において、光重合開始剤を用いる場合、重合性組成物中の含量は、重合性化合物の合計量の0.1モル%以上であることが好ましく、0.5〜2モル%であることがより好ましい。このような組成とすることにより、活性成分生成反応を経由する重合反応を適切に制御することができる。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、ランベルティ(Lamberti)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZT、エザキュアKTO46など)が挙げられる。
【0024】
(有機層の形成方法)
有機層の形成方法としては、特に定めるものではないが、例えば、溶液塗布法や真空成膜法により形成することができる。
【0025】
本発明では、通常、重合性化合物を含む組成物を、光照射して硬化させるが、照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.1J/cm2以上が好ましく、0.5J/cm2以上がより好ましい。本発明で用いるような(メタ)アクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で0.5J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0026】
本発明の積層フィルムの有機層の厚さは、300nm〜2000nmであるが、好ましくは、500〜1500nmであり、より好ましくは、750〜1250nmである。このような範囲とすることにより、バリア性と易滑性を両立する最適な有機層表面が得られる。
【0027】
(基材フィルム)
本発明における基材フィルムは、通常、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機層等のバリア層を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0028】
本発明の積層フィルムを、耐熱性が要求される用途に使用する場合、基材フィルムは、耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0029】
本発明で用いられる基材フィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がない。本発明では、厚さが1〜25μm程度の薄いものも用いることができるし、逆に、30〜300μmの厚いものを用いることもできる。
【0030】
本発明における基材フィルムは、マット剤としての微粒子が分散していてもよい。微粒子が分散していることにより、上記のRaおよびRzの要件を満たすフィルムが容易に得られる。このような微粒子としては、珪素酸化物、チタン酸化物およびジルコニウム酸化物が挙げられ、珪素酸化物が好ましい。特に、珪素酸化物を分散させた基材フィルムは、上述の芳香族性炭素骨格を有する多官能(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を含む場合に、塗布性を向上させることができ、極めて好ましい。
【0031】
本発明における基材フィルムは、着色剤として、または、着色剤とマット剤を兼ねて他の微粒子を含んでいてもよい。例えば、カーボンブラック、チタン酸化物、等が挙げられる。特に、基材フィルムに着色剤を添加することにより、基材フィルムを太陽電池のバックシートの最上層として用いることができる。
【0032】
(無機層)
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層は、好ましくは、真空蒸着法またはプラズマアシスト蒸着法によって形成され、真空蒸着法によって形成されることが好ましい。ここで、プラズマアシスト蒸着法とは、真空蒸着中に、プラズマにより蒸着材料をイオン化しながら蒸着する、あるいは別に設けたイオン源から気体イオンを照射する方法をいう。このような方法によって、無機層を設けることにより、緻密な膜を高速に製膜することができる。
【0033】
本発明では、無機層がSiOx(xは0.9〜1.5、好ましくは1.1〜1.3)で表される珪素酸化物を含む。このような珪素化合物は、茶褐色の膜となるため、包装材料や光学材料では避けられる傾向にあったが、本発明で用いてみると、バリア性が高いことが分かった。無機層に含まれるその他の成分は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されないが、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化窒化物または金属酸化炭化物であり、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、CeおよびTaから選ばれる1種以上の金属を含む、酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物または酸化炭化物などを好ましく用いることができる。これらの中でも、Al、In、Sn、ZnおよびTiから選ばれる金属の酸化物、窒化物または酸化窒化物が好ましく、特にAlの金属酸化物、窒化物または酸化窒化物が好ましく、Alの金属酸化物がさらに好ましい。また、無機層は上記のほか、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
本発明により形成される無機層の表面は、それぞれ、以下の式を満たすことが好ましい。
20nm < Ra(100μm 角) < 40nm
0.5nm < Ra(10μm 角) < 2.0nm
400nm < Rz(100μm 角) <700nm
【0034】
無機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0035】
無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層に付き、通常、5〜500nmの範囲内であり、好ましくは10〜200nmである。無機層は複数のサブレイヤーから成る積層構造であってもよい。この場合、各サブレイヤーが同じ組成であっても異なる組成であってもよい。
【0036】
無機層の上にさらにオーバーコート層等の保護層があってもよい。
無機層は、プラスチックフィルムの少なくとも片側に設けられていればよく、両面に設けられていてもよい。さらに、蒸着に使用する金属酸化物もしくは非金属無機酸化物は、2種以上の混合物で使用した場合には、異種の材質が混合された蒸着膜を構成することができる。
【0037】
(複合フィルム)
本発明の積層フィルムは、そのままの状態で用いてもよいが、好ましくは、該積層フィルム同士を、無機層を設けている側同士が向き合うように接着層を介して接合させた複合フィルムとして用いることが好ましい。積層する場合は、ドライラミネート、エクストルージョンラミネート、サーマルラミネート法など従来公知のラミネート方法で貼り合わせることができる。以下、複合フィルムについて詳細に説明する。図1は、2枚の積層フィルム1を、接着剤を用いて貼りあわせて複合フィルム6を作成する工程の概略図をしたものであって、1は積層フィルムを、2は基材フィルムを、3は有機層を、4は無機層をそれぞれ示している。そして、2枚の積層フィルムは、無機層が設けられている側が、向き合うように接着剤層5を介して設けられる。積層フィルムの基材フィルムが薄い場合、塗布や蒸着によって、積層フィルムのカールが発生しやすいが、複合フィルムとすることにより、積層フィルムのカールが発生しても、貼りあわせることにより相殺でき、また無機層表面を保護できるので好ましい。
【0038】
接着剤層は、接着剤を主成分とする層であり、通常、接着剤層の70重量%以上が、接着剤であることをいい、接着剤層の80〜90重量%が接着剤であることが好ましい。接着剤としては、公知の接着剤が広く採用できるが、好ましくは、ウレタン系接着剤である。ここでウレタン系接着剤としては、熱硬化型、紫外線硬化型が挙げられる。バリアフィルムが紫外線を吸収するものである場合、熱硬化型が好ましい。熱硬化型の中には1液型、2液混合型があるが、本発明ではいずれでも好ましく用いられる。本発明においては硬化後に無色透明となる接着剤が好ましい。市販品としては、大日精化社製:セイカボンドEシリーズ、大日本インキ社製:ディックドライLXシリーズ等が挙げられる。さらに、接着剤にシランカップリング剤を添加することも好ましい。シランカップリング剤を添加することにより、接着力をより効果的に高めることができる。また、これら接着剤中には、接着力に影響が無い範囲内で、紫外線吸収剤、光安定剤、無機フィラー、着色剤などの添加剤を加えることが出来る。また、上記接着剤は、例えば、ロールコート、グラビアコート、キスコート、バーコート、その他公知のコーティング方法によってコーティングすることにより、接着剤層を形成することができる。
【0039】
(機能層)
本発明の積層フィルムおよび複合フィルムは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、バリア層の上等に機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、耐溶剤層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0040】
(太陽電池用バックシート)
本発明の積層フィルムおよび複合フィルム、特に複合フィルムは、太陽電池用のシートとして用いることができる。太陽電池用のシートは、フロントシートであっても、バックシートであってもよいが、バックシートとして好ましく用いることができる。図2は、本発明の複合フィルムを太陽電池用バックシートに応用した例を示した概略図であって、6は複合フィルムを示し、7は太陽電池用バックシートを示している。ここで、太陽電池用バックシート7は上側が太陽電池の表側となり、下側が太陽電池の裏側に相当する。必要に応じて、複合フィルム6の表側の基材フィルム2は、接着剤層8を介して、プラスチックフィルム9と貼り合わされることも可能である。例えば、基材フィルム2は白色顔料が添加されたものであり、それに対して絶縁性を向上させるために、透明なプラスチックフィルム9を貼り合わせることが可能である。本実施形態では、プラスチックフィルム9が基材フィルムに貼り合わされているが、基材フィルム2の厚さを厚くして、かつ着色剤を添加することで、プラスチックフィルム9を省略することも可能である。従って、本発明における基材フィルムが、着色剤を含むことも本発明の好ましい実施形態として例示される。一方、太陽電池の裏側に相当する部分に使用される基材フィルム2は耐候性を有するものが好ましく用いられ、もしくは、耐候性を向上させる目的でポリフッ化ビニルなどの耐候性樹脂からなるフィルムと貼り合わせてもよい。
上述のような太陽電池用バックシートと、太陽電池用フロントシートの間に太陽電池素子が設けられる。本発明のバックシートを好ましく適用できる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0042】
1.積層フィルムの作製
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、12μm厚、東レ社製、商品名:ルミラーS10)に以下の手順で有機層および無機層を形成して評価した。
【0043】
(1)第1層(有機層)の形成
PETフィルム上に、下記表に示す組成を有する重合性化合物(化合物A、化合物B、化合物Cのいずれか1つ)18重量部、シランカップリング剤(化合物S)2重量部、紫外線重合開始剤(ランベルティ社製、商品名:KTO46)0.6重量部、2−ブタノン190重量部からなる重合性組成物を、バーコート法により塗布し、窒素置換法により酸素濃度が0.1%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約1J/cm2)して有機層を硬化させ、膜厚が300〜2500nm±50nmの有機層を形成した。
【0044】
(2)第2層(無機層)の形成
真空蒸着装置を用いて、前記有機層の上に無機層(酸化珪素層)を形成した。蒸発材料としてSiOを用い、電子銃により電子線を照射するEB蒸着法により酸化珪素膜を形成した。製膜圧力は0.003Pa、膜厚は80nmであり、XPS測定から、SiOx(X=1.1)であった。このようにして有機層の上に無機層を積層して積層フィルムを作成した。但し、比較例4については、x=1.7となるように調整した。
得られた積層フィルムの特性値(平滑性(Ra、Rz)、水蒸気透過率)を下記表1および表2に示した。
【0045】
<PETフィルムの平滑性(Ra、Rz)の測定>
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記で使用したPETフィルムの平滑性を測定した。測定は、下記条件で行い、同一面内で5回繰り返して測定してその平均値を求めた。
装置 : 走査型原子間力顕微鏡(AFM)(セイコーインスツル社製 型式:SPI-3800N)
走査周波数 1.00Hz
エリア 100000nm
Xデータ数 256
Yデータ数 256
このとき、平滑性は
100μm角の測定面内に対する算術平均粗さ : Ra(100μm角)
100μm角の測定面内に対する十点平均粗さ : Rz(100μm角)
を測定した。
【0046】
<有機層の平滑性(Ra、Rz)の測定>
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、上記で作製した有機層の表面の平滑性を測定した。このとき、測定は、100μm角の場合は上記条件で行い、10μm角の場合はエリアを10000nmに変更した以外は上記条件で行い、同一面内で5点測定してその平均値を求めた。このとき、平滑性は
10μm角の測定面内に対する算術平均粗さ : Ra(10μm角)
100μm角の測定面内に対する算術平均粗さ : Ra(100μm角)
100μm角の測定面内に対する十点平均粗さ : Rz(100μm角)
を測定した。
【0047】
<モコン法による水蒸気透過率(WVTR)の測定>
水蒸気透過率測定装置(モコン社製、型式:PERMATRAN−WR3/33シリーズ Gタイプ)を用いて水蒸気透過率(g/m2/day)を測定した。このときの温度は40℃、相対湿度は90%とした。
【0048】
<すべり性の評価>
PETフィルム、PETフィルムに有機層を設けたフィルム、該フィルム上にさらに無機層を設けた積層フィルムを、それぞれロール トゥ ロールで搬送して、シワの発生の有無を確認し、発生しない場合を○、発生した場合を×とした。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
本願実施例で用いた化合物は、下記のとおりである。
化合物A:
【化5】

化合物B:共栄社化学社製 ライトアクリレートTMP−A
化合物C:ビスフェノールA型エポキシアクリレート、VR−60(昭和高分子社製)
化合物S:信越シリコーン社製 KBM5103
【0052】
上記表の結果から明らかなとおり、本発明の積層フィルムは、いずれも、水蒸気透過率が、0.005g/m2/day以下であった。また、本発明の無機層は、その表面の平滑性を維持していた。多環性芳香族骨格を有する2官能の(メタ)アクリレートを有機層に用いることにより、極めて高いバリア性が確保できることが分かった。
【0053】
2.多層積層フィルムの作成
上記1で作成した積層フィルムにおいて、有機層と無機層をそれぞれ2層づつ設け、他は同様に行い、多層積層フィルムを作成した。これらの多層積層フィルムは、それぞれ、対応する上記1で作成した積層フィルムよりも、バリア性能がより向上することが確認された。
【0054】
3.複合フィルムの作成
上記1で作成した積層フィルムを、無機層が内側となるように、貼り合せて複合フィルムを作成した。複合フィルムにすることで、更にバリア性能が向上することを確認した。
【0055】
太陽電池の作成
上記1で作成した積層フィルムを用いて、太陽電池モジュールを作成した。具体的には、太陽電池モジュール用充填剤として、スタンダードキュアタイプのエチレンー酢酸ビニル共重合体を用いた。10cm角の強化ガラス上に厚さ450μmのエチレンー酢酸ビニル共重合体でアモルファス系のシリコン太陽電池セルを挟み込み充填し、さらにその上に前記積層フィルムを設置することで太陽電池モジュールを作成した。設置条件は、150℃にて真空引き3分行ったあと、9分間圧着を行った。本方法で作成した太陽電池モジュールは、良好に作動し、85℃、85%相対湿度の環境下でも良好な電気出力特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の積層フィルムは、バリア性に優れ、かつ、ロール トゥ ロールで作成できるため、製造も容易である。そのため、太陽電池のシート、特に、バックシートとして好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、有機層と、無機層とを該順に有し、前記有機層の厚さが300nm〜2000nmであり、有機層の表面が下記式の全てを満たし、かつ無機層がSiOx(xは0.9〜1.5)で表される珪素酸化物を含む、積層フィルム。
Ra(100 μm 角) < 50 nm
Ra(10μm 角) < 2 nm
75 nm < Rz(100 μm 角) < 300 nm
【請求項2】
前記基材フィルムの表面が下記式の全てを満たす、請求項1に記載の積層フィルム。
Ra(100μm 角) < 50 nm
300 nm < Rz(100μm 角) < 1200 nm
【請求項3】
前記有機層が(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記有機層が多官能(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記有機層が、芳香族性炭素骨格を有する、多官能(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなる、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記基材フィルムには微粒子が分散している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記微粒子は、珪素酸化物、チタン酸化物およびジルコニウム酸化物から選択される1種または2種以上である、請求項6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記微粒子は、カーボンブラックである、請求項6に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記基材フィルムが、着色剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項10】
前記有機層がシランカップリング剤を含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項11】
前記無機層が珪素酸化物および/またはアルミニウム酸化物を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項12】
前記無機層が真空蒸着法で製膜されたものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層フィルム2枚が、無機層を設けている側同士が向き合うように接着層を介して接合している複合フィルム。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層フィルムまたは請求項14に記載の複合フィルムを有する太陽電池用バックシート。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法であって、ロール トゥ ロールによってフィルムを搬送することを含む、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−46046(P2011−46046A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195234(P2009−195234)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】