説明

積層体、これを用いた多層構造体の製造方法、この製造方法により得られる多層構造体及びこの製造方法に用いられる基材

【課題】軟質樹脂フィルムの表面への塗工剤の塗布により他のフィルムを積層させて多層構造体を得る際などに、シワの発生を抑制することができる積層体を提供することを目的とする。また、この積層体を用いた多層構造体の製造方法、この製造方法により得られる多層構造体及びこの製造方法に用いられる基材を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明は、シート状の基材と、この基材の表面に積層されるフィルムAとを備え、上記基材が複数の貫通孔を有し、基材表面における単位面積当たりの貫通孔の数密度が5個/cm以上80個/cm以下であり、かつ、基材の通気度が1.5cc/(cm・sec)以上であり、上記フィルムAが軟質樹脂を主成分として含む積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、これを用いた多層構造体の製造方法、この製造方法により得られる多層構造体及びこの製造方法に用いられる基材に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂や軟質塩化ビニル樹脂等からなる軟質樹脂フィルムは、各軟質樹脂の機能等に応じて、各種のフィルム又はシート材として、また、成形されて、包装材や容器等として多用されている。このような軟質樹脂フィルムは、他の材料との貼り合わせ等のために、接着剤の塗布により表面に接着性フィルムが積層された多層フィルム(多層構造体)として用いられる場合がある。
【0003】
この多層フィルムの形成の際、フィルムの変形を防止することや、接着剤の塗布を容易にすることなどを目的に、図5(A)に示すように、基材フィルム42の表面に軟質樹脂フィルム43を積層しておき、この軟質樹脂フィルム43表面に接着剤44を塗布し、乾燥のために加熱することが行われる場合がある。この際、接着剤44が乾燥することで、接着性フィルムとなる。このように基材フィルム42を用いることで、加熱等に対して軟質樹脂フィルム43の変形等を抑制することができる。しかし、このような方法をとると、軟質樹脂フィルム43内部にまで浸透した接着剤44中の溶媒が加熱の際に気化し、この溶媒が揮発しにくいため、軟質樹脂フィルム43が延伸し、膨らむことがある(図5(B)参照)。その後、例えば、冷却に伴って、または、ガイドロールによりこの軟質樹脂フィルム43の膨らんだ部分が潰されてシワ45が発生する(図5(C))という不都合が生じる。
【0004】
ここで、軟質樹脂フィルムとしては、屈折率等を調整することで熱に対する変形を小さくしたフィルムも開発されている(特開平10−180866号公報参照)。このようなフィルムを軟質樹脂フィルムとして用いた場合、上述の不都合は解消されるとも考えられる。しかし、あらゆる軟質樹脂フィルムにおいて、上記フィルムの開発に用いられた技術を導入することは困難であり、現実的でもない。そこで、軟質樹脂フィルムの特性等を調整すること以外の方法で、上述の不都合を解消することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−180866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、軟質樹脂フィルムの表面への塗工剤の塗布により他のフィルムを積層させて多層構造体を得る際などに、シワの発生を抑制することができる積層体を提供することを目的とする。また、この積層体を用いた多層構造体の製造方法、この製造方法により得られる多層構造体及びこの製造方法に用いられる基材を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
シート状の基材と、この基材の表面に積層されるフィルムAとを備え、
上記基材が複数の貫通孔を有し、基材表面における単位面積当たりの貫通孔の数密度が5個/cm以上80個/cm以下であり、かつ、基材の通気度が1.5cc/(cm・sec)以上であり、
上記フィルムAが軟質樹脂を主成分として含む積層体である。
【0008】
当該積層体は、特定の数密度及び通気度となるように設けられた貫通孔を有するシート状の基材がフィルムA(軟質樹脂フィルム)の裏面に積層された構造を有している。このため、当該積層体において、フィルムAの表面に接着剤等の塗工剤を塗布して乾燥させることで他のフィルムを積層させる際、塗工剤中の溶媒がフィルムAに染み込んだ場合も、基材側からこの溶媒が揮発することができる。従って、当該積層体を用いると、軟質樹脂を主成分として含むフィルムA(層)と他のフィルムB(層)とを備え、シワの発生が抑制された多層構造体を得ることができる。
【0009】
上記基材とフィルムAとの剥離強度としては、0.1N/m以上100N/m以下が好ましい。基材とフィルムAとの剥離強度を上記範囲とすることで、多層構造体の製造の際の最終的な両者間の剥離を容易にしつつ、フィルムAのシワの発生を低減することができる。
【0010】
上記フィルムAの23℃でのヤング率が200MPa以下であることが好ましい。当該積層体によれば、このような柔軟なフィルムAに対しても、シワの発生を低減することができるため、柔軟性の高い多層構造体を得ることができる。
【0011】
上記基材のMD(Machine Direction)方向又はTD(Transverse Direction)方向における150℃、30分条件下の寸法変化率が2%以下であるとよい。このように加熱に対する寸法安定性の高い基材を用いることで、得られる多層構造体のシワや変形の発生をさらに低減することができる。
【0012】
当該積層体は、上記フィルムAの表面に積層されるフィルムBをさらに備え、このフィルムBが塗工剤の塗布及び乾燥により形成されているとよい。当該積層体は、上述した基材を有しているため、乾燥等を経てフィルムBが形成されていても、シワ等の発生が低減されている。
【0013】
上記基材の厚み(T)、フィルムAの厚み(T)及びフィルムBの厚み(T)の関係が、下記式(1)を満たすことが好ましい。
0.1≦T/(T+T)≦10 ・・・ (1)
上記基材、フィルムA及びBの厚みの関係をこのようにすることで、当該積層体が加熱等を経て形成されても、カール等の変形の発生等を低減することができる。
【0014】
当該積層体は、上記フィルムBの表面に積層されるフィルムCをさらに備えるとよい。フィルムCは、例えば、接着性等を有するフィルムBの保護フィルムとして機能することができる。
【0015】
当該積層体は、軟質樹脂を主成分として含む層を有する多層構造体の製造に好適に用いられる。
【0016】
本発明の多層構造体の製造方法は、当該積層体のフィルムA表面へ塗工剤を塗布し、乾燥することにより、フィルムA表面にフィルムBを積層する工程を有する。当該製造方法によれば、軟質樹脂を主成分として含むフィルムA(層)と他のフィルムB(層)とを備え、シワの発生が抑制された多層構造体を得ることができる。
【0017】
当該製造方法において、上記基材の厚み(T)、フィルムAの厚み(T)及びフィルムBの厚み(T)の関係が、下記式(1)を満たすことが好ましい。
0.1≦T/(T+T)≦10 ・・・ (1)
上記基材、フィルムA及びBの厚みをこのような関係とすることで、得られる多層構造体のカール等の変形の発生等を低減することができる。
【0018】
当該製造方法が、上記フィルムBの表面にさらにフィルムCを積層する工程をさらに有するとよい。当該製造方法によれば、フィルムB(層)がフィルムCで保護された多層構造体を得ることができる。
【0019】
当該製造方法が、上記基材を剥離する工程をさらに有するとよい。当該製造方法によれば、このように基材を剥離することで、表面に軟質樹脂を主成分として含むフィルムA(層)を有する多層構造体を得ることができる。また、このように基材を剥離することで、この基材を繰り返し使用することができる。
【0020】
本発明の多層構造体は、当該積層体から得られる。当該多層構造体は、当該積層体から得ることで、軟質樹脂を主成分として含む層を有しているにもかかわらず、製造の際に乾燥等を経てもシワ等の発生が低減されている。
【0021】
本発明の基材は、
軟質樹脂を主成分として含む層を有する多層構造体の製造に用いられ、
複数の貫通孔を有し、表面における単位面積当たりの貫通孔の密度が5個/cm以上80個/cm以下であり、かつ、通気度が1.5cc/(cm・sec)以上のシート状の基材である。当該基材を用いれば、この表面に軟質樹脂を主成分として含むフィルムを積層させて、乾燥等の処理を行う際、上記軟質樹脂を主成分として含むフィルムのシワや変形の発生を低減することができる。従って、当該基材は、軟質樹脂を主成分として含む層を有する多層構造体の製造に好適に用いることができる。
【0022】
当該基材がポリエステル製であり、厚みが5μm以上100μm以下であることが好ましい。当該基材をこのような材質及び厚みとすることで、加熱等に対して、形状が安定し、得られる多層構造体のシワや変形の発生をより抑えることができる。
【0023】
ここで、多層構造体とは、少なくとも2層の層を有する構造体をいう。通気度は、JIS−L1096 A法(フラジール形法)に準拠して測定した値である。剥離強度、ヤング率及び寸法変化率は、それぞれ実施例に記載の方法で測定した値である。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の積層体によれば、軟質樹脂フィルムの表面への塗工剤の塗布により他のフィルムを積層させて多層構造体を得る際などに、シワの発生を抑制することができる。また、本発明の製造方法を用いると、軟質樹脂を主成分として含むフィルム(層)と他のフィルム(層)とを備え、シワの発生が抑制された多層構造体を得ることができる。従って、本発明の多層構造体は、シワの発生が抑制されており、各種フィルム、シート、容器、包装材料等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る積層体を示す模式的断面図
【図2】図1の積層体とは異なる実施形態に係る積層体を示す模式的断面図
【図3】図1及び2の積層体とは異なる実施形態に係る積層体を示す模式的断面図
【図4】図1の積層体を用いて得られる多層構造体を示す模式的断面図
【図5】従来の多層フィルムの製造工程を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の積層体、これを用いた多層構造体の製造方法、この製造方法により得られる多層構造体及びこの製造方法に用いられる基材の実施の形態を詳説する。
【0027】
<積層体>
図1の積層体1は、シート状の基材2と、この基材2の表面に積層されるフィルムA3とを備えている。当該積層体1は、ロール状であっても、枚葉状であってもよい。
【0028】
基材2は、表面から裏面に貫通する複数の貫通孔4を有する。当該積層体1は、このように貫通孔4を有する基材2がフィルムA3(軟質樹脂フィルム)の裏面に積層された構造を有している。このため、例えば、当該積層体1において、フィルムA3の表面への塗工剤の塗布により他のフィルムを積層させる際に、塗工剤中の溶媒がフィルムA3に染み込んだ場合も、この溶媒が基材2側から貫通孔4を介して揮発することができる。従って、当該積層体1を用いると、軟質樹脂フィルムA(層)と他のフィルムB(層)とを備え、シワの発生が抑制された多層構造体を得ることができる。
【0029】
貫通孔4の形状としては、特に限定されず、円柱形状、角柱形状等を挙げることができる。複数の貫通孔4は、略均一に分散されて形成されていることが好ましい。また、複数の貫通孔4は、ランダムに形成されていても、規則性をもって形成されていてもよい。
【0030】
基材2表面における単位面積当たりの貫通孔4の数密度は、5個/cm以上80個/cm以下であり、25個/cm以上60個/cm以下が好ましい。貫通孔4の数密度が上記下限未満の場合は、ガス抜き機能が十分に発揮されず、また、場所により通気性にムラが出るため、乾燥等の際にフィルムA3にシワ等が発生しやすくなる。逆に、貫通孔4の数密度が上記上限を超える場合は、基材2の強度や寸法安定性が低下する場合などがある。
【0031】
基材2の通気度の下限としては、1.5cc/(cm・sec)であり、5cc/(cm・sec)が好ましく、10cc/(cm・sec)がさらに好ましい。基材2の通気度の下限を上記値とすることで、乾燥等の際に発生するガスを基材2から十分に逃がし、フィルムA3のシワや変形を抑制することができる。なお、基材2の通気度の上限としては、特に限定されないが、例えば、20cc/(cm・sec)が好ましい。通気度が高すぎる場合、基材2の強度や寸法安定性が低下する場合などがある。
【0032】
基材2のMD方向又はTD方向における150℃、30分条件下の寸法変化率としては、2%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましい。このような寸法安定性の高い基材2を用いることで、得られる多層構造体のシワや変形の発生をさらに低減することができる。また、基材2において、MD方向及びTD方向の両方向における上記条件下の寸法変化率が上記範囲であることがより好ましい。なお、この寸法変化率の下限としては、特に限定されないが、例えば、0.01%である。
【0033】
基材2の(平均)厚みとしては、特に限定されないが、5μm以上100μm以下が好ましい。基材2の厚みを上記範囲とすることで、加熱等に対して基材2の形状が安定し、得られる多層構造体のシワや変形の発生をより抑えることができる。基材2の厚みが、上記下限未満の場合は、寸法安定性等が低下するおそれがある。逆に、基材2の厚みが、上記上限を超える場合は、取扱性等が低下するおそれがある。
【0034】
基材2の材質としては、特に限定されず、紙、不織布、セラミックス、金属、合成樹脂等を挙げることができるが、取扱性、寸法安定性、貫通孔の形成性等を考慮すると、柔軟性のある材質(合成樹脂、紙、不織布等)が好ましく、合成樹脂がより好ましい。
【0035】
上記合成樹脂としては、例えば、ポリエステルテレフタレート、ポリエステルナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリイミドなどを挙げることができる。これらの中でも、寸法安定性、耐薬品性、フィルムAとの密着性・剥離性等を考慮すると、ポリエステルが好ましく、ポリエステルテレフタレートがより好ましい。
【0036】
フィルムA3は、軟質樹脂を主成分として含む。上記軟質樹脂としては、特に限定されず、例えば、ウレタン樹脂、軟質塩化ビニル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ナイロン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリジエン、シリコーン樹脂などを挙げることができる。フィルムA3は、これらの軟質樹脂を1種又は2種以上を混合して形成することができる。また、フィルムA3は、単層であってもよいし、多層であってもよい。フィルムA3は、主成分である軟質樹脂以外に、例えばその他の樹脂や、フィラー等の添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
フィルムA3の23℃でのヤング率の上限としては、200MPaが好ましく、175MPaがより好ましく、150MPaがさらに好ましい。当該積層体によれば、このような柔軟なフィルムAに対しても、シワの発生を低減することができるため、柔軟性の高い多層構造体を得ることができる。なお、ヤング率が上記上限を超えるフィルムの場合は、基材2を用いなくとも単独で塗工剤の塗布及び加熱を問題なく行え、本発明の効果を十分に得られない場合がある。一方、上記フィルムAの23℃でのヤング率の下限としては、特に限定されないが、例えば10MPaである。
【0038】
上記基材2とフィルムA3との剥離強度としては、0.1N/m以上100N/m以下が好ましく、0.5N/m以上50N/m以下がより好ましく、2N/m以上40N/m以下がさらに好ましい。基材とフィルムAとの剥離強度を上記範囲とすることで、多層構造体の製造の際の最終的な両者間の剥離を容易にしつつ、フィルムAのシワの発生を低減することができる。この剥離強度が、上記下限未満の場合は、製造工程中で基材2とフィルムA3とが剥がれて、変形やシワが発生する場合などがある。逆に、この剥離強度が、上記上限を超える場合は、基材2とフィルムA3との剥離が困難になる。
【0039】
当該積層体1は、例えば、基材2とフィルムA3とを熱ラミネートにより貼り合わせること等によって得ることができる。
【0040】
図2の積層体11は、シート状の基材2と、この基材2の表面に積層されるフィルムA3と、このフィルムA3の表面に積層されるフィルムB5とを備える。基材2とフィルムA3とは、図1の積層体1と同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。
【0041】
フィルムB5は、塗工剤の塗布及び乾燥により形成されている。上記塗工剤としては、溶媒とこの溶媒に溶解されている固形分を含むものであれば特に限定されない。上記塗工剤の具体例としては、例えば、ハードコート剤、防汚剤、接着剤、帯電防止剤、離型処理剤、インク、塗料等を挙げることができる。上記接着剤としては、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などを接着性成分とする酢酸ビニル系接着剤、ウレタンを接着性成分とするウレタン系接着剤、ゴムを接着性成分とするゴム系接着剤等を挙げることができる。上記溶媒としては、例えば、トルエンやメチルエチルケトン等の有機溶媒を挙げることができる。
【0042】
フィルムB5の(平均)厚みとしては、特に限定されないが、乾燥(加熱)後の厚みとして1μm以上20μm以下が好ましい。フィルムB5の厚みが上記下限未満の場合は、フィルムB5の諸機能(例えば、接着剤における接着性等)を発揮できない場合がある。逆に、フィルムB5の厚みが上記上限を超える場合は、塗布後の乾燥に時間を要するなど、生産性が低下する場合がある。
【0043】
当該積層体11は、上述した基材2を有しているため、塗工剤の塗布後の乾燥の際に、塗工剤に含まれる溶媒が貫通孔4から揮発し、シワ等の発生が低減される。
【0044】
当該積層体11において、上記基材の厚み(T)、フィルムAの厚み(T)及びフィルムBの厚み(T)の関係が、下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(1’)を満たすことがさらに好ましい。
0.1≦T/(T+T)≦10 ・・・ (1)
0.2≦T/(T+T)≦ 5 ・・・ (1’)
【0045】
上記基材、フィルムA及びBの厚みの関係をこのようにすることで、当該積層体が加熱等を経て形成されても、カール等の変形の発生等を低減することができる。T/(T+T)が上記下限未満の場合は、加熱等において積層体がカール等の変形が生じやすくなる。逆に、T/(T+T)が上記上限を超えると、取扱性等が低下する場合がある。
【0046】
図3の積層体21は、シート状の基材2と、この基材2の表面に積層されるフィルムA3と、このフィルムA3の表面に積層されるフィルムB5と、このフィルムB5の表面に積層されるフィルムC6を備える。基材2、フィルムA3及びフィルムB5は、図1及び2の積層体1及び11と同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。
【0047】
フィルムC6は、フィルムB5の保護フィルムとして機能することができる。従って、当該積層体21によれば、フィルムB5の表面の例えば接着性などの機能を必要なときまで維持することができるなど、保管性、機能性、汎用性等を高めることができる。
【0048】
フィルムC6の材質としては、特に限定されず、例えば基材2として例示したものを挙げることができる。これらの中でも、ポリエステルが好ましく、ポリエステルテレフタレートが特に好ましい。
【0049】
フィルムC6の(平均)厚みとしては、特に限定されず、例えば5μm以上100μm以下とすることができる。
【0050】
<多層構造体の製造方法>
次に、図1の積層体1を用いた多層構造体の製造方法を説明する。
【0051】
本発明の多層構造体の製造方法は、
当該積層体1のフィルムA3表面へ塗工剤を塗布し、乾燥することにより、フィルムA表面にフィルムB5を積層する工程(工程1:図2参照)
を有し、好ましくは、
上記フィルムBの表面にさらにフィルムC6を積層する工程(工程2:図3参照)、及び/又は
上記基材を剥離する工程(工程3:図4参照)
をさらに有する。
【0052】
当該製造方法によれば、工程1を経ることで、上述のように乾燥の際に塗工剤に含まれる溶媒が基材側から揮発することができる。従って、当該製造方法によれば、軟質樹脂を主成分として含むフィルム(層)と他のフィルム(層)とを備え、シワの発生が抑制された多層構造体(例えば、図4の多層構造体31)を得ることができる。
【0053】
上記工程1における塗工剤の塗布方法は、特に限定されず、スリットコーターを用いる方法など、公知の方法を用いることができる。塗工剤の乾燥方法としても、特に限定されず、乾燥炉を用いる方法など、公知の方法を用いることができる。なお、自然乾燥であってもよい。また、乾燥(加熱)時間も、塗工剤の塗布量等に応じて、適宜設定することができる。
【0054】
上記工程2におけるフィルムCの積層方法としては、特に限定されず、例えば、公知のラミネーター等を用いることができる。上記工程2を経ることで、フィルムB(層)がフィルムCで保護された多層構造体(例えば、図4の多層構造体31)を得ることができる。
【0055】
なお、工程2を経て得られた多層構造体において、上記基材の厚み(T)、フィルムAの厚み(T)及びフィルムBの厚み(T)の関係が、下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(1’)を満たすことがさらに好ましい。
0.1≦T/(T+T)≦10 ・・・ (1)
0.2≦T/(T+T)≦ 5 ・・・ (1’)
【0056】
上記基材、フィルムA及びBの厚みの関係をこのようにすることで、得られる多層構造体のカール等の変形の発生等を低減することができる。T/(T+T)が上記下限未満の場合は、加熱等において積層体がカール等の変形が生じやすくなる。逆に、T/(T+T)が上記上限を超えると、取扱性等が低下する場合がある。
【0057】
当該製造方法において、上記工程3を経ることで、図4に示すフィルムA3(軟質樹脂を主成分として含む層)、フィルムB5(例えば、接着性などの機能等を有する層)、及びフィルムC6がこの順に積層されてなる多層構造体31を得ることができる。当該製造方法によれば、このように工程3として、基材を剥離することで、表面に軟質樹脂を主成分として含むフィルム(層)を有する多層構造体を得ることができる。また、工程3により剥離された基材は、繰り返し使用することができる。
【0058】
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、当該積層体から得られる。当該多層構造体としては、上述した図4の多層構造体31を例示することができる。当該多層構造体31は、軟質樹脂を主成分として含む層(フィルムA3)を有し、さらにこの層の表面に塗工剤により他の層(フィルムB5)が積層されているにもかかわらず、シワ等の発生が低減されている。従って、当該多層構造体は、各種フィルム、シート、容器、包装材料等として好適に用いることができる。
【0059】
<基材>
本発明の基材は、軟質樹脂を主成分として含む層を有する多層構造体の製造に用いられ、複数の貫通孔を有し、表面における単位面積当たりの貫通孔の密度が5個/cm以上80個/cm以下であり、かつ、通気度が1.5cc/(cm・sec)以上のシート状の基材である。当該基材は、図1の積層体1のものと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0060】
当該基材を用いれば、この表面に軟質樹脂を主成分として含むフィルムを積層させて、加熱等の処理を行う際、上記軟質樹脂を主成分として含むフィルムのシワや変形の発生を低減することができる。上記加熱等の処理としては、上述した塗工剤の乾燥や、その他、例えば軟質樹脂の架橋反応等のための処理等を挙げることができる。従って、当該基材によれば、軟質樹脂を主成分として含む層を有する多層構造体の製造に好適に用いることができる。
【0061】
当該基材がポリエステル製であり、厚みが5μm以上100μm以下であることが好ましい。当該基材をこのような材質及び厚みとすることで、加熱等に対して、形状が安定し、得られる多層構造体のシワや変形の発生をより抑えることができる。また、このような材質及び厚みとすることで、ある程度の強度を有し、繰り返しの使用にも十分に耐えることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
なお、各測定は、以下の方法により行った。
【0064】
(厚み)
ダイヤルゲージを用い、5点の平均厚みを測定した。
【0065】
(貫通孔の数密度)
マイクロスコープにて、1cm枠内に完全に収まっている貫通孔の数を測定した。5箇所で測定し、その平均を数密度とした。
【0066】
(通気度)
JIS−L1096 A法(フラジール形法)に準拠して、測定した。
【0067】
(剥離強度)
10cm×10cmの試験片を引張速度200mm/min.でT型剥離し、この剥離の間の試験力(単位長さあたりの引張力)の平均値を算出した。
【0068】
(ヤング率)
20cm×2cmの短冊状試験片を引張試験機にて5mm/min.の速度で引っ張り、応力−ひずみ曲線の始めの直線部分から算出した(n=3の平均値)。
【0069】
(寸法安定率)
150℃の環境に30分静置させた後の、試験片の長さを測定し、加熱前の長さとの差(絶対値)として算出した。
【0070】
[実施例1]
厚み38μmのポリエチレンテレフタレート製フィルム(東洋紡績社製 E5000(寸法安定率 MD方向1%、TD方向0.2%))に、熱針温度250℃、ライン速度30m/min.の加工条件で貫通孔を形成し、シート状の基材を得た。この基材に形成された貫通孔の数密度は50個/cmであり、通気度は10.0cc/(cm・sec)であった。この基材を、厚み50μm、ヤング率105MPaのフィルムA(ウレタン樹脂製)に、80℃の条件で熱ラミネートした。熱ラミネート後の、基材とフィルムAとの剥離強度は20N/mであった。次いで、フィルムAの表面に、塗工剤として、メチルエチルケトンを溶媒とするウレタン系接着剤を50μmの厚みで塗布した。塗布後、100℃に設定した乾燥炉を2分間かけて通過させ、溶媒を揮発させることで積層体を得た。乾燥により得られた接着性のフィルムB(層)の厚みは、5μmであった。得られた積層体における基材とフィルムAとの剥離強度は、40N/mであった。
接着剤の乾燥時に基材とフィルムAとが剥がれて膨れることはなく、シワの発生も見られなかった。
【0071】
[実施例2]
貫通孔の数密度が6個/cm、通気度が1.6cc/(cm・sec)である基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
接着剤の乾燥時に基材とフィルムAとが剥がれて膨れることはなく、シワの発生もほとんど見られなかった。(実質的に問題のない微小なシワが、わずかに見られた。)
【0072】
[実施例3]
フィルムAとして、厚み50μm、ヤング率22MPaの軟質塩化ビニルフィルムを用い、塗工剤として、メチルエチルケトンを溶媒とする塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体の接着剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体における基材とフィルムAとの剥離強度は、8N/mであった。
接着剤の乾燥時に基材とフィルムAとが剥がれて膨れることはなく、シワの発生も見られなかった。
【0073】
[実施例4]
基材の厚みを100μm(加熱収縮率 MD方向1.1%、TD方向0.4%、貫通孔の数密度50個/cm、通気度5.8cc/(cm・sec))とし、フィルムAの厚みを20μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
接着剤の乾燥時に基材とフィルムAとが剥がれて膨れることはなく、シワの発生も見られなかった。
【0074】
[実施例5]
基材の厚みを12μm(寸法安定率 MD方向1.3%、TD方向0.1%、貫通孔の数密度50個/cm、通気度13.5cc/(cm・sec))とし、フィルムAの厚みを130μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
接着剤の乾燥時に、基材とフィルムAとが剥がれて膨れることはなく、シワも発生しなかったが、積層体のカールが発生した。
【0075】
[比較例1]
基材として、貫通孔加工を施していないポリエチレンテレフタレート製フィルム(東洋紡績社製 E5000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。基材とフィルムAとの熱ラミネート後の剥離強度は、30N/mであった。
接着剤の乾燥時に、基材とフィルムAとの界面に溶媒と考えられる揮発ガスが溜まり、基材とフィルムAとの剥離が起き、フィルムAが大きく膨らんで伸ばされた。また、乾燥炉通過後の冷却により、揮発ガスの体積収縮及びフィルムAへの吸収が起き、伸ばされたフィルムAが折りたたまれて、シワが発生した。
【0076】
[比較例2]
貫通孔の数密度が3個/cm、通気度が0.6cc/(cm・sec)である基材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
比較例1に比べて数は少なくなったが、乾燥時に実質的に問題となりうる程度のシワの発生が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、本発明の積層体は、軟質樹脂を主成分として含む層を有する多層構造体の製造に好適に用いることができる。また、本発明の多層構造体は、シワの発生が抑制されており、各種フィルム、シート、容器、包装材料等として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
1、11、21 積層体
31 多層構造体
2 基材
3 フィルムA
4 貫通孔
5 フィルムB
6 フィルムC
42 基材フィルム
43 軟質樹脂フィルム
44 接着剤(接着性フィルム)
45 シワ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材と、この基材の表面に積層されるフィルムAとを備え、
上記基材が複数の貫通孔を有し、基材表面における単位面積当たりの貫通孔の数密度が5個/cm以上80個/cm以下であり、かつ、基材の通気度が1.5cc/(cm・sec)以上であり、
上記フィルムAが軟質樹脂を主成分として含む積層体。
【請求項2】
上記基材とフィルムAとの剥離強度が0.1N/m以上100N/m以下である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
上記フィルムAの23℃でのヤング率が200MPa以下である請求項1又は請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
上記基材のMD方向又はTD方向における150℃、30分条件下の寸法変化率が2%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
上記フィルムAの表面に積層されるフィルムBをさらに備え、
このフィルムBが塗工剤の塗布及び乾燥により形成されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
上記基材の厚み(T)、フィルムAの厚み(T)及びフィルムBの厚み(T)の関係が、下記式(1)を満たす請求項5に記載の積層体。
0.1≦T/(T+T)≦10 ・・・ (1)
【請求項7】
上記フィルムBの表面に積層されるフィルムCをさらに備える請求項5又は請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
軟質樹脂を主成分として含む層を有する多層構造体の製造に用いられる請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層体のフィルムA表面へ塗工剤を塗布し、乾燥することにより、フィルムA表面にフィルムBを積層する工程
を有する多層構造体の製造方法。
【請求項10】
上記基材の厚み(T)、フィルムAの厚み(T)及びフィルムBの厚み(T)の関係が、下記式(1)を満たす請求項9に記載の多層構造体の製造方法。
0.1≦T/(T+T)≦10 ・・・ (1)
【請求項11】
上記フィルムBの表面にさらにフィルムCを積層する工程
をさらに有する請求項9又は請求項10に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項12】
上記基材を剥離する工程
をさらに有する請求項9、請求項10又は請求項11に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項8に記載の積層体から得られる多層構造体。
【請求項14】
軟質樹脂を主成分として含む層を有する多層構造体の製造に用いられ、
複数の貫通孔を有し、表面における単位面積当たりの貫通孔の密度が5個/cm以上80個/cm以下であり、かつ、通気度が1.5cc/(cm・sec)以上であるシート状の基材。
【請求項15】
ポリエステル製であり、厚みが5μm以上100μm以下である請求項14に記載の基材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−82162(P2013−82162A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224726(P2011−224726)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000104906)クラレプラスチックス株式会社 (52)
【Fターム(参考)】