説明

積層体、それに用いる樹脂シート及び該積層体の用途

【課題】2枚の硬質平面板(一方の平面板には内側に段差を有する)を樹脂シートを介して貼合してなる積層体であって、前記2枚の硬質平面板を樹脂シートを介して貼合する際に生じる気泡を容易に除去し得ると共に、経時的な気泡の発生を抑制することができる積層体を提供する。
【解決手段】硬質平面板同士が樹脂シートを介して貼合されてなる積層体であって、前記硬質平面板の一方は、内側に高さ3〜50μmの段差を有しており、かつ前記樹脂シートの該段差に接する側の表面を0.6mm/分の速度で深さ20μmまで押し込んだ10秒後にかかる押し込み応力が0.2〜1.0MPaであり、前記樹脂シートの厚みが、前記平面板の段差の10〜30倍であることを特徴とする積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、それに用いる樹脂シート及び該積層体の用途に関する。さらに詳しくは、2枚の硬質平面板(一方の平面板には内側に段差を有する)を特定の性状と厚みを有する樹脂シートを介して貼合してなる、特に携帯電話やモバイル機器などの携帯情報端末機器やテレビの画面表示に用いられる内部部材に使用することができる積層体、該積層体に用いられる前記樹脂シート、並びに前記積層体を部材として用いてなる携帯情報端末機器及び静電容量方式タッチパネル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の携帯情報端末機器の情報表示部表面は機器内部の電気回路などを隠蔽するために、ベゼルカバーなどで周縁部を覆っていたが、近年は、薄型化と情報表示部端面からの余分な光を遮断させる観点から、ベゼルカバーに代わって、表示板となる平面板に額縁状に加飾印刷層を施すことなどが行われている。
加飾印刷とは一般に隠蔽性や意匠性を付与するために行われる印刷であるが、加飾印刷を行うことで設けられる3〜50μm程度の微小な段差は、表示板の平面板と他の平面板との貼合時に気泡が混入してしまう原因となる。そのため通常は平面板同士ではなく、どちらか一方を屈曲可能なフィルムを用いるなどして、貼合時における気泡の問題を解消することが多い。
【0003】
一方、携帯情報端末機器として、抵抗膜方式、静電容量方式、電磁誘導方式、赤外線方式等のタッチパネルを搭載したものが既に多く上市されているが、その中でも静電容量方式タッチパネルは、2点検出(マルチタッチ)が可能であり、近年のモバイル製品のアプリケーションに対して有効である。静電容量方式タッチパネルは、表面の静電容量の変化を検出する方式であるため、均一な電場が要求される。通常、薄型化、軽量化、貼合時の気泡混入対策にはフィルム方式が有効であるが、均一な電場を形成するためにはガラスなどの平滑な面が有効となる。そのため、静電容量方式タッチパネルでは、平面板同士の貼合が要求される。
【0004】
従来の携帯情報端末機器の内部部材同士を貼合する方法として、特許文献1にはポリウレタンフィルムからなる芯材の両面に粘着剤を用いた両面粘着テープが提案されている。
しかし、特許文献1の両面粘着テープでは、平面板と変形可能なフィルムを貼合する場合は、多少の段差があっても気泡を残すことなく貼付できるが、平面板同士を貼付する場合、つまり変形不可能な面同士の貼合の場合には、気泡を追い出しながら貼合することができないため、貼付面に気泡が混入し、さらに段差に完全に追従することは困難であった。
【0005】
これに対し、特許文献2には動的粘弾スペクトルの損失正接が0.6〜1.5であり、かつ80℃における貯蔵弾性率が1.0×105Pa以上である粘着剤層を有する両面粘着シートが提案されている。
特許文献2の両面粘着シートは、表面保護パネルを画像表示パネルに貼付した際に混入する気泡を、オートクレーブ処理によって除去することができ、さらにその後加熱促進を行っても前記気泡が復活せず、新たな気泡も発生しない。
また、特許文献3には、25℃におけるtanδが0.5以上である第1層と25℃におけるtanδが0.5未満である第2層及び25℃におけるtanδが0.5以上である第3層からなるディスプレイ用耐衝撃フィルムが提案されている。
特許文献3のディスプレイ用耐衝撃フィルムにおいても、貼合時に発生した気泡を加熱加圧処理により消泡することができ、経時的に気泡が再発することもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−346032号公報
【特許文献2】特開2008−231358号公報
【特許文献3】特開2009−300506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし前記特許文献2に記載の両面粘着シートや前記特許文献3に記載のディスプレイ用耐衝撃フィルムを、平坦なガラスパネルではなく、段差を有する面に貼付した場合には、オートクレーブ処理後に経時的に気泡が発生することが本発明者らによって確認されている。
本発明は、このような状況下になされたもので、2枚の硬質平面板(一方の平面板には内側に段差を有する)を樹脂シートを介して貼合してなる積層体であって、前記2枚の硬質平面板を樹脂シートを介して貼合する際に生じる気泡を容易に除去し得ると共に、経時的な気泡の発生を抑制することができる積層体、この積層体の形成に用いられる樹脂シート及び前記積層体の用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、前記樹脂シートとして、特定の性状と厚みを有するものを使用することにより、前記の特性を有する積層体が容易に得られること、そしてこの積層体は、携帯情報端末機器及び静電容量方式タッチパネル装置の部材として有用であることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)硬質平面板同士が樹脂シートを介して貼合されてなる積層体であって、前記硬質平面板の一方は、内側に高さ3〜50μmの段差を有しており、かつ前記樹脂シートの該段差に接する側の表面を0.6mm/分の速度で深さ20μmまで押し込んだ10秒後にかかる押し込み応力が0.2〜1.0MPaであり、前記樹脂シートの厚みが、前記平面板の段差の10〜30倍であることを特徴とする積層体、
(2)硬質平面板の段差が、印刷層による段差である上記(1)項に記載の積層体、
(3)携帯情報端末機器の画面表示に用いられる上記(1)又は(2)項に記載の積層体、
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の積層体に用いられることを特徴とする樹脂シート、
(5)上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の積層体を部材として用いたことを特徴とする携帯情報端末機器、及び
(6)上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の積層体を部材として用いたことを特徴とする静電容量方式タッチパネル装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2枚の硬質平面板(一方の平面板には内側に段差を有する)を樹脂シートを介して貼合してなる積層体であって、前記2枚の硬質平面板を樹脂シートを介して貼合する際に生じる気泡を容易に除去し得ると共に、経時的な気泡の発生を抑制することができる積層体、この積層体の形成に用いられる樹脂シート、並びに前記積層体を部材として用いてなる携帯情報端末機器及び静電容量方式タッチパネル装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の積層体について説明する。
本発明の積層体は、硬質平面板同士が樹脂シートを介して貼合されてなる積層体であって、前記硬質平面板の一方は、内側に高さ3〜50μmの段差を有しており、かつ前記樹脂シートの該段差に接する側の表面を0.6mm/分の速度で深さ20μmまで押し込んだ10秒後にかかる押し込み応力が0.2〜1.0MPaであり、前記樹脂シートの厚みが、前記平面板の段差の10〜30倍であることを特徴とする。
【0012】
[硬質平面板]
本発明の積層体は、硬質平面板同士が、後述する樹脂シートを介して貼合されたものであり、前記硬質平面板の一方は、内側に高さ3〜50μm、好ましくは5〜35μm、より好ましくは7〜25μmの段差を有している。
硬質平面板の材質としては、通常透明なガラス板や樹脂板が用いられる。このガラス板としては、例えばソーダライムガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、アルミノケイ酸ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英などからなるものを用いることができる。樹脂板としては、例えばアクリル板、ポリカーボネート板や、TCA(トリアセチルセルロース)フィルム等からなる積層板などを用いることができる。他にも携帯電話やモバイル機器などに用いられる硬質な部材であるLCDモジュールやPDPモジュールのように複数の平面板からなる部材が積層されたものであってもよい。
上記硬質平面板の厚みは、当該積層体の用途にもよるが、通常0.08〜5mm程度、好ましくは0.2〜4mm、より好ましくは0.4〜3mmである。
硬質平面板における前記段差は、通常平面板に対して、インクなどを用いて額縁状に加飾印刷層を設けることにより形成される。
加飾印刷層を構成するための印刷方法としては特に制限はなく、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、平判印刷などが使用できる。印刷としては額縁状の電極隠蔽用印刷のみならず、意匠性を付与した印刷を行っても良い。
また加飾印刷層を構成するインクとしては特に制限なく、例えば紫外線硬化型インク、酸化重合型インクなどが使用できる。
【0013】
[樹脂シート]
本発明の積層体における樹脂シートの材質は特に限定されないが、例えばアクリル系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。中でも耐候性に優れ、かつ貯蔵弾性率と平面板への粘着力制御が容易であるアクリル系樹脂が特に好ましい。
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂に特に制限はないが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。
この(メタ)アクリル酸エステル系共重合体としては、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体や他の単量体との共重合体を好ましく挙げることができる。
【0014】
<(メタ)アクリル酸アルキルエステル>
エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
<架橋性官能基含有エチレン単量体>
必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を分子内に有するエチレン性単量体であり、好ましくはヒドロキシ基含有エチレン性不飽和化合物、カルボキシル基含有エチレン性不飽和化合物が用いられる。このような架橋性官能基含有エチレン性単量体の具体的な例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート等のヒドロキシ基含有アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和化合物が挙げられる。上記の架橋性官能基含有エチレン性単量体は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
<他の単量体>
必要に応じて用いられる他の単量体としては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、ビニリデンクロリドなどのハロゲン化オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミドなどのN,N−ジアルキル置換アクリルアミド類などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
(アクリル系樹脂シートの作製)
まず、前述した(メタ)アクリル酸エステル、及び必要に応じて用いられる架橋性官能基含有エチレン性単量体や他の単量体を、それぞれ所定の割合で用い、従来公知の方法に従って共重合を行い、重量平均分子量が、好ましくは50万〜150万程度、より好ましくは60万〜130万程度の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を製造する。重量平均分子量が50万以上とすることで十分な凝集力が得られるため気泡の再発を抑制でき、150万以下とすることで、溶媒を加えて塗工する場合に塗工に適当な溶液粘度を維持することができる。
なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
次に、アクリル系樹脂シート作製用の樹脂組成物溶液を調製する。この樹脂組成物溶液は、前記で得られた(メタ)アクリル酸エステル系重合体と、必要に応じて用いられる架橋剤や他の添加剤、例えば粘着付与剤、顔料、染料、フィラー、酸化防止剤、紫外線吸収剤などとの混合物に、適当な溶媒を加えて、塗工に適した濃度にすることにより、調製することができる。
【0018】
<架橋剤>
必要に応じて用いられる架橋剤としては、従来アクリル系樹脂において架橋剤として慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。このような架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、アジリジン系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩などが挙げられるが、前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が、架橋性官能基としてヒドロキシル基を有する場合には、ポリイソシアネート化合物が好ましく、一方カルボキシル基を有する場合には、金属キレート化合物が好ましい。
【0019】
≪ポリイソシアネート化合物≫
ポリイソシアネート化合物の例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などを挙げることができる。上記ポリイソシアネート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
≪金属キレート化合物≫
架橋剤として用いられる金属キレート化合物には、金属原子がアルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、鉄、スズなどのキレート化合物があるが、性能の点からアルミニウムキレート化合物が好ましい。
アルミニウムキレート化合物としては、例えばジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビスオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノ−N−ラウロイル−β−アラネートモノラウリルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(イソブチルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(2−エチルヘキシルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(ドデシルアセトアセテート)キレート、モノアセチルアセトネートアルミニウムビス(オレイルアセトアセテート)キレートなどが挙げられる。上記金属キレート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明においては、アクリル系樹脂シートは1層の場合は、例えば以下に示す方法によって作製することができる。
前記のようにして調製したアクリル系樹脂シート作製用の樹脂組成物溶液を、重剥離シートの剥離処理面に、乾燥厚みが所定の厚みになるように塗工したのち、加熱処理して重剥離シート上にアクリル系樹脂シートを形成させる。次いで、該アクリル系樹脂シートに、軽剥離シートを、その剥離処理面が接するようにラミネートし、2枚の剥離シートに挟持されたアクリル系樹脂シートを作製する。なお、アクリル系樹脂シートは、単層であってもよく、異なる種類のアクリル系樹脂層を複数有する積層構造のものであってよい。
【0022】
(樹脂シートの性状)
本発明の積層体における樹脂シートは、その段差に接する側の表面を0.6mm/分の速度で深さ20μmまで押し込んだ10秒後にかかる押し込み応力が0.2〜1.0MPaであることを要し、0.4〜0.9MPaであることが好ましい。樹脂シートの押し込み応力が0.2MPa未満の場合、糊の染み出しなどにより歩留まりや加工性が低下する恐れがあり、1.0MPaを超える場合、充分な段差追従性や平面貼合性が得られない。
なお、上記押し込み応力は、下記の方法により測定した値である。
<押し込み応力の測定>
段差に接する側の表面が開放され、かつ縦50mm×横50mmに裁断された剥離シート上の樹脂シート表面に、縦5mm×横5mm×厚み300μmのシリコンウエハチップを5mm×5mmの平面全体を接触させて、万能引張圧縮試験機により、0.6mm/分の速度で、深さ20μmまで押し込み10秒後にシリコンウエハチップにかかる応力を測定する。
【0023】
当該樹脂シートの厚みは、貼付対象である平面板の段差の高さに対して、10〜30倍であることを要し、12〜25倍であることが好ましい。該厚みが10倍以上であると、段差追従性や平面板貼合適性が良好であり、30倍以下であると、打ち抜き加工などの加工性の低下や、糊の染み出しによる歩留まりが低下する恐れがない。
当該樹脂シートの厚みは、貼付対象である平面板の段差の高さに対して、上記範囲にあるように、80〜500μmの範囲から選定することが好ましく、100〜250μmの範囲から選定することがより好ましい。
樹脂シートの厚みが80μm以上の場合、段差追従性や平面板貼合適性が良好であり、樹脂シートの厚みが500μm以下の場合は、打ち抜き加工などの加工性の低下や、樹脂層の膜形成時の表面状態の悪化を抑制できる。
【0024】
本発明の積層体は、2枚の硬質平面板(一方の平面板には内側に段差を有する)を樹脂シートを介して貼合してなる積層体であって、前記2枚の硬質平面板を樹脂シートを介して貼合する際に生じる気泡をオートクレーブ処理等により容易に除去し得ると共に、経時的な気泡の発生を抑制することができ、例えば携帯情報端末機器の画面表示や、テレビの画面表示などに使用される内部部材として好適に用いられる。
本発明はまた、前述した本発明の積層体に用いられる樹脂シートをも提供する。
この樹脂シートについては、当該積層体における樹脂シートとして、前述で説明したとおりであり、特にアクリル系樹脂シートが好適である。
本発明はさらに、当該積層体を部材として用いてなる、携帯情報端末機器及び静電容量方式タッチパネル装置を提供する。
携帯情報端末機器としては、抵抗膜方式、静電容量方式、電磁誘導方式、赤外線方式等のタッチパネルを搭載したものなどがある。
また、静電容量方式タッチパネルは、表面の静電容量の変化を検出する方式であるため、均一な電場が要求される。均一な電場を形成するためにはガラスなどの平滑な面が有効となり、そのため、静電容量方式タッチパネルでは、硬質平面板同士の貼合が要求されることから当該積層体が有効となる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた平面板貼合用樹脂シートの厚み及び性能は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)厚み
各例で得られた基材レス粘着性樹脂シートの剥離シートを取り除いて、JIS K 7130に準じて、定圧厚さ測定器[テクロック社製、製品名「PG−02」]で測定した。また複層の樹脂シートの場合は各樹脂層の厚みは、それぞれラミネートする前の単体樹脂層の状態で測定した。
(2)押し込み応力
各例で得られた樹脂シートを、縦50mm×横50mmの形状に裁断し、軽剥離シートを取り除いて、表出した樹脂層(A層)面に縦5mm×横5mm×厚み300μmのシリコンウエハチップを5mm×5mmの平面全体を樹脂層面に接触させて0.6mm/分の速度で、万能引張圧縮試験機[インストロン社製、製品名「インストロン5581型」]で深さ20μmまで押し込んだ。押し込み10秒後に樹脂層(A層)からシリコンウエハチップにかかる応力を測定した。測定は温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0026】
(3)段差貼付適性
(a)オートクレーブ処理直後
ガラス板[NSGプレシジョン社製、製品名「コーニングガラス イーグルXG」、縦90mm×横50mm×厚み0.5mm]の表面に、紫外線硬化型インク[帝国インキ社製、製品名「POS−911墨」]で、額縁状(外形、縦90mm×横50mm、幅5mm)の印刷を塗布厚み8μm及び15μmとなるようにスクリーン印刷にて行い、紫外線を照射(80W/cmメタルハライドランプ2灯、ランプ高さ15cm、ベルトスピード10〜15m/分)して硬化し、印刷による段差を有するガラス板を作製した。
各例で得られた樹脂シートを、縦90mm×横50mmの形状に裁断し、軽剥離シートを取り除いて、表出した樹脂シート表面に対してラミネーター[フジプラ社製、製品名「LPD3214」]を用いて、前記ガラス板の印刷面に、額縁状の印刷全面を覆うようにラミネートした。
ラミネート後に重剥離シートを剥離し、表出した樹脂層面にガラス板[NSGプレシジョン社製、製品名「コーニングガラス イーグルXG」、縦90mm×横50mm×厚み0.5mm]を前記ラミネーターでラミネートして、段差貼付適性評価用サンプルを作製した。
その後、オートクレーブ処理(50℃、0.5MPa、20分)を施し、目視で気泡の有無を確認した。気泡の有無は下記の基準に沿って、2段階で判定した。
○:気泡が全く確認できない。
×:気泡が確認できる。
(b)オートクレーブ処理7日間放置後
上記(a)と同様な操作を行い、オートクレーブ処理を行ったのち、23℃50%Rh環境下で7日間放置し、同様に気泡の有無を確認した。
(4)抜き加工性
各例で得られた樹脂シートを、抜き加工装置[リンテック社製、製品名「LPM300」]で縦70mm×横40mmのサイズに抜き加工を行い形状変形及び樹脂シートの浸み出しを確認した。
○:形状変形と樹脂シートの浸み出しが目視で確認できなかった。
△:形状変化か樹脂シートの浸み出しがわずかにある。
×:形状変形か樹脂シートの浸み出しが目視で確認できた。
【0027】
調製例1 樹脂組成物溶液1の調製
アクリル系粘着剤[リンテック社製、製品名「P1069」]のメチルエチルケトン希釈液を樹脂組成物溶液1とした。不揮発分濃度30質量%
【0028】
調製例2 樹脂組成物溶液2の調製
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、シクロヘキシルアクリレート(CHA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)からなるアクリル系共重合体(2EHA/CHA/HEA質量比=59.7:40:0.3、重量平均分子量80万)100質量部に、イソシアネート系架橋剤[東洋インキ社製、製品名「BHS−8515」、濃度37.5質量%]0.5質量部混合し、メチルエチルケトンで希釈して不揮発分濃度30質量%の樹脂組成物溶液2を調製した。
【0029】
調製例3 樹脂組成物溶液3の調製
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、シクロヘキシルアクリレート(CHA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)からなるアクリル系共重合体(2EHA/CHA/HEA質量比=59.7:40:0.3、重量平均分子量80万)100質量部に、イソシアネート系架橋剤[東洋インキ社製、製品名「BHS−8515」、濃度37.5質量%]3.0質量部混合し、メチルエチルケトンで希釈して不揮発分濃度30質量%の樹脂組成物溶液3を調製した。
【0030】
調製例4 樹脂組成物溶液4の調製
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、シクロヘキシルアクリレート(CHA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)からなるアクリル系共重合体(2EHA/CHA/HEA質量比=59.7:40:0.3、重量平均分子量80万)100質量部に、イソシアネート系架橋剤[東洋インキ社製、製品名「BHS−8515」、濃度37.5質量%]0.1質量部混合し、メチルエチルケトンで希釈して不揮発分濃度30質量%の樹脂組成物溶液4を調製した。
【0031】
調製例5 樹脂組成物溶液5の調製
ブチルアクリレート(BA)、エチルアクリレート(EA)、アクリル酸(AAc)からなるアクリル系共重合体(BA/EA/AAc質量比=77:20:3、重量平均分子量90万)100質量部に、アルミキレート系架橋剤[綜研化学社製、製品名「M−5A」、濃度4.95質量%]4質量部混合し、メチルエチルケトンで希釈して不揮発分濃度30質量%の樹脂組成物溶液5を調製した。
【0032】
調製例6 樹脂組成物溶液6の調製
ブチルアクリレート(BA)、メチルアクリレート(MA)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)からなるアクリル系共重合体(BA/MA/4HBA質量比=79/20/1、重量平均分子量90万)100質量部に、イソシアネート系架橋剤[綜研化学社製、製品名「TD−75」、濃度75質量%]を0.05質量部混合し、メチルエチルケトンで希釈して不揮発分濃度30質量%の樹脂組成物溶液6を調製した。
【0033】
実施例1
樹脂組成物溶液2を重剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3811」]に塗布し、120℃で2分間加熱して、重剥離シート上に厚み100μmの非段差面貼付層(以下、C層という)を形成した。さらにC層に軽剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3801」]の剥離面をラミネートし、2枚の剥離シートに挟持された基材レス粘着性樹脂シートを作製した。また別途、樹脂組成物溶液1を軽剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3801」]に塗布し、120℃で2分間加熱して、軽剥離シート上に厚み50μmの段差面貼付層(以下、A層という)を形成した。さらに前述の基材レス粘着性樹脂シートの軽剥離シートを剥離して表出したC層とA層を貼合し、2層の樹脂層からなる実施例1の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0034】
実施例2
樹脂組成物溶液1を重剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3811」]に塗布し、120℃で2分間加熱して、重剥離シート上に厚み150μmのA層を形成した。さらにA層に軽剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3801」]の剥離面をラミネートし、1層の樹脂層からなる実施例2の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0035】
実施例3
樹脂組成物溶液4を重剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3811」]に塗布し、120℃で2分間加熱して、重剥離シート上に厚み50μmのC層を形成した。さらにC層に軽剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3801」]の剥離面をラミネートし、2枚の剥離シートに挟持された基材レス粘着性樹脂シートを作製した。
また別途、樹脂組成物溶液3を軽剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3801」]に塗布し、120℃で2分間加熱して、軽剥離シート上に厚み50μmの中間層(以下、B層という)を形成した。次に前述の基材レス粘着性樹脂シートの軽剥離シートを剥離して表出したC層とB層を貼合し、2層の樹脂層からなる基材レス粘着性樹脂シートを得た。
さらに別途、樹脂組成物溶液1を軽剥離シート[リンテック社製、製品名「SP−PET3801」]に塗布し、120℃で2分間加熱して、軽剥離シート上に厚み50μmのA層を形成した。続いて前述の2層の樹脂層からなる基材レス粘着性樹脂シートの軽剥離シートを剥離して表出したB層とA層を貼合し、3層の樹脂層からなる実施例3の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0036】
実施例4
A層が厚み50μmの樹脂組成物溶液4からなり、B層が厚み50μmの樹脂組成物溶液3からなり、C層が厚み50μmの樹脂組成物溶液4からなること以外は、実施例3と同様の方法にて実施例4の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0037】
比較例1
A層が厚み150μmの樹脂組成物溶液2からなること以外は、実施例2と同様の方法にて比較例1の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0038】
比較例2
A層が厚み150μmの樹脂組成物溶液4からなること以外は、実施例2と同様の方法にて比較例2の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0039】
比較例3
A層が厚み50μmの樹脂組成物溶液1からなり、B層が厚み50μmの樹脂組成物溶液5からなり、C層が厚み50μmの樹脂組成物溶液2からなること以外は、実施例3と同様の方法にて比較例3の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0040】
比較例4
A層が厚み50μmの樹脂組成物溶液2からなり、B層が厚み50μmの樹脂組成物溶液6からなり、C層が厚み50μmの樹脂組成物溶液2からなること以外は、実施例3と同様の方法にて比較例4の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0041】
比較例5
A層が厚み150μmの樹脂組成物溶液3からなること以外は、実施例2と同様の方法にて比較例5の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0042】
比較例6
A層が厚み50μmの樹脂組成物溶液1からなること以外は、実施例2と同様の方法にて比較例6の平面板貼合用樹脂シートを得た。
【0043】
実施例1〜4及び比較例1〜6で得られた平面板貼合用樹脂シートについて、諸特性を求めた。その結果を第1表に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
第1表から分かるように、本発明の樹脂シート(実施例1〜4の平面板貼合用樹脂シート)は、いずれも押し込み応力が0.2〜1.0MPaの範囲にあり、段差貼付適性(オートクレーブ処理直後、オートクレーブ処理7日後)及び抜き加工性のいずれもが○(合格)である。
これに対し、比較例1〜5の平面板貼合用樹脂シートは、押し込み応力が0.2〜1.0MPaの範囲を逸脱しており、オートクレーブ処理直後の段差貼付適性、オートクレーブ処理7日後の段差貼付適性及び抜き加工適性のいずれか1つ以上が×(不合格)である。
比較例6の平面板貼合用樹脂シートの総厚が、段差8μmの10倍未満と薄く、段差貼付適性のいずれも×(不合格)である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の積層体は、2枚の硬質平面板(一方の平面板には内側に段差を有する)を樹脂シートを介して貼合してなる積層体であって、前記2枚の硬質平面板を樹脂シートを介して貼合する際に生じる気泡を容易に除去し得ると共に、経時的な気泡の発生を抑制することができ、例えば携帯情報端末機器の画面表示や、テレビの画面表示などに使用される内部部材用として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質平面板同士が樹脂シートを介して貼合されてなる積層体であって、前記硬質平面板の一方は、内側に高さ3〜50μmの段差を有しており、かつ前記樹脂シートの該段差に接する側の表面を0.6mm/分の速度で深さ20μmまで押し込んだ10秒後にかかる押し込み応力が0.2〜1.0MPaであり、前記樹脂シートの厚みが、前記平面板の段差の10〜30倍であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
硬質平面板の段差が、印刷層による段差である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
携帯情報端末機器の画面表示に用いられる請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の積層体に用いられることを特徴とする樹脂シート。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の積層体を部材として用いたことを特徴とする携帯情報端末機器。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の積層体を部材として用いたことを特徴とする静電容量方式タッチパネル装置。

【公開番号】特開2011−218720(P2011−218720A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92231(P2010−92231)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】