説明

積層体、成形品、燃料ホース、及び、積層体の製造方法

【課題】燃料低透過性に優れ、コロナ処理等の表面処理や接着剤を塗布するなどの特殊な処理をしなくても、フッ素樹脂組成物から形成される層とエラストマー組成物から形成される層との接着性に優れた積層体を提供する。
【解決手段】本発明は、フッ素樹脂(a)と前記フッ素樹脂(a)とは異なる含フッ素ポリマー(b)とを含むフッ素樹脂組成物から形成される層(A)、及び、エラストマー(c)を含むエラストマー組成物から形成される層(B)を含む積層体であり、フッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)との質量比(a)/(b)が97〜60/3〜40である積層体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、成形品、燃料ホース、及び、積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昨今の環境意識の高まりから、燃料揮発を防止するための法整備が進み、特に自動車業界では米国を中心に燃料揮発抑制の傾向が著しく、燃料バリア性に優れた材料へのニーズが大きくなりつつある。燃料バリア性に優れた材料として、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が使用されているが、これらの材料は燃料バリア性が高い反面、柔軟性に乏しく、柔軟性が求められる部位に単体で用いることが困難である。それに対してゴム系材料は高い柔軟性を有しているが一般的に燃料バリア性が劣っており、燃料ホース等の自動車部品に使用した場合には燃料の透過が大きく、改善が求められている。これらの問題を解決するために、近年、燃料バリア性が高い樹脂層と柔軟性が高いエラストマー層からなる積層構造を有する燃料ホースが提案されている。
【0003】
燃料バリア性に優れた材料としては、フッ素樹脂があげられる。しかし、フッ素樹脂は本来接着力が低く、フッ素樹脂と他の材料(基材)とを直接接着させることは困難で、熱融着などで接着を試みても、接着強度が不充分であったり、ある程度の接着力があったとしても基材の種類により接着力がばらつきやすく、接着性の信頼性が不充分であったりすることが多かった。
【0004】
フッ素樹脂と他の材料とを接着させる方法として
1.基材の表面をサンドブラスター処理などで物理的に荒らす方法、
2.フッ素樹脂をナトリウム・エッチング、プラズマ処理、光化学的処理などの表面処理を行う方法、
3.接着剤を用いて接着させる方法、
などが主に検討されている。
【0005】
しかし、上記1、2については、処理工程が必要となり、また、工程が複雑で生産性が悪い。また、基材の種類や形状が限定される。そもそも、接着力も不充分であり、得られた積層体の外観上の問題(着色や傷)も生じやすい。
【0006】
上記3の接着剤の検討も種々行われている。一般のハイドロカーボン系の接着剤は、接着性が不充分であるとともに、それ自体の耐熱性が不充分で、一般に高温での成形や加工を必要とするフッ素ポリマーの接着加工条件では、耐えられず、分解による剥離や着色などを起こす。この接着剤を用いた積層体も接着剤層の耐熱性、耐薬品性、耐水性が不充分であるために、温度変化や、環境変化により接着力が維持できなくなり、信頼性に欠ける。
【0007】
一方、官能基を有するフッ素樹脂を用いた接着剤または接着剤組成物による接着の検討が行われている。例えばフッ素樹脂に無水マレイン酸やビニルトリメトキシシランなどに代表されるカルボキシル基、カルボン酸無水物残基、エポキシ基、加水分解性シリル基を有するハイドロカーボン系単量体をグラフト重合したフッ素樹脂を接着剤に用いた報告(例えば特許文献1〜6)やヒドロキシルアルキルビニルエーテルのような官能基を含むハイドロカーボン系単量体をテトラフルオロエチレンやクロロトリフルオロエチレンと共重合した含フッ素共重合体と、イソシアナート系硬化剤との接着性組成物を硬化させ、塩化ビニルとコロナ放電処理されたエチレン/テトラフルオロエチレンポリマー(以下、ETFEともいう)との接着剤に用いた報告(例えば特許文献7)がなされている。これら、ハイドロカーボン系の官能基モノマーをグラフト重合または共重合した含フッ素重合体を用いた接着剤または接着剤組成物は、耐熱性が不充分でフッ素樹脂との高温での加工時や、高温での使用時では分解・発泡などが起き接着強度を低下させたり、剥離したり、着色したりする。また特許文献7に記載の接着剤組成物では、フッ素樹脂はコロナ放電処理を必要とする。
【0008】
また、カルボン酸やその誘導体を含有するパーフルオロビニルエーテル化合物を含フッ素モノマーと共重合した官能基を有する含フッ素重合体を接着剤や接着剤組成物に用いたものが報告されている。特許文献8には、カルボン酸基、それらの誘導体を有するパーフルオロビニルエーテルをテトラフルオロエチレンなどと共重合して導入した官能基を有するフッ素樹脂を用いた積層体が記載されている。これは、カルボン酸基などを有する上記の含フッ素重合体がエポキシ樹脂やウレタン樹脂といった接着性樹脂を介して金属やその他基材に積層したものであって、直接金属やガラス、その他樹脂に接着したものでなく、使用時におけるエポキシ樹脂やウレタン樹脂などの耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性に問題がある。また、エポキシ樹脂やウレタン樹脂を介すると接着は可能であるが、金属やガラス、その他樹脂に直接接着させる方法は明記されていない。
【0009】
また、特許文献9には、合成樹脂層とエラストマー層を積層させる技術が報告されているが、エラストマー層に特定の種類のエラストマーをブレンドする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−18035号公報
【特許文献2】特開平7−25952号公報
【特許文献3】特開平7−25954号公報
【特許文献4】特開平7−173230号公報
【特許文献5】特開平7−173446号公報
【特許文献6】特開平7−173447号公報
【特許文献7】特開平7−228848号公報
【特許文献8】米国特許第4916020号明細書
【特許文献9】特許第2987391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、燃料低透過性に優れ、コロナ処理等の表面処理や接着剤を塗布するなどの特殊な処理をしなくても、フッ素樹脂組成物から形成される層とエラストマー組成物から形成される層との接着性に優れた積層体、該積層体から形成される成形品、燃料ホース、及び積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、フッ素樹脂(a)と前記フッ素樹脂(a)とは異なる含フッ素ポリマー(b)とを含むフッ素樹脂組成物から形成される層(A)、及び、エラストマー(c)を含むエラストマー組成物から形成される層(B)を含む積層体であり、フッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)との質量比(a)/(b)が97〜60/3〜40である積層体に関する。
【0013】
本発明は、上記積層体から形成される成形品でもある。
【0014】
本発明は、上記積層体から形成される燃料ホースでもある。
以下に本発明を詳述する。
【0015】
本発明は、フッ素樹脂(a)と前記フッ素樹脂(a)とは異なる含フッ素ポリマー(b)とを含むフッ素樹脂組成物から形成される層(A)、及び、エラストマー(c)を含むエラストマー組成物から形成される層(B)を含む積層体であり、フッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)との質量比(a)/(b)が97〜60/3〜40である積層体である。
【0016】
上記積層体は、フッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)との質量比(a)/(b)が97〜65/3〜35であることが好ましい。より好ましくは、質量比(a)/(b)が95〜70/5〜30であり、更に好ましくは、質量比(a)/(b)が90〜75/10〜25である。
【0017】
一般に、積層体に高い燃料低透過性を与え得るフッ素樹脂は、他の材料からなる層との接着性に劣る傾向がある。しかしながら、本発明の積層体は、優れた燃料低透過性を有し、しかも高い接着強度を有する。
この理由は、フッ素樹脂(a)に対し、特定の含フッ素ポリマー(b)を特定の質量比で組み合わせることによって、フッ素樹脂組成物とエラストマー組成物とを加熱して成形する際、エラストマーと接着しやすい含フッ素ポリマー(b)が層(A)の表面に析出(ブリードアウト)し、エラストマーと強固に接着するからであり、一方、含フッ素ポリマー(b)よりも燃料低透過性に優れるフッ素樹脂(a)が主に層の内部を構成するからであると推測される。
【0018】
本発明の積層体は、上記構成であることにより、層(A)と層(B)との接着強度が優れるとともに、燃料低透過性、耐薬品性、耐油性、耐熱性、柔軟性を兼ね備える積層体であり、燃料周りのホースや容器、シール材等として有用であり、特には自動車のエンジンならびに周辺装置、AT装置、燃料系統ならびに周辺装置等の燃料輸送用ホース(チューブ)として有用なものである。
【0019】
上記フッ素樹脂(a)は、含フッ素ポリマー(b)と異なるフッ素樹脂であれば特に限定されないが、充分な接着強度が得られることから、以下のような特徴を有することが好ましい。
【0020】
含フッ素ポリマー(b)が樹脂である場合、充分な接着強度が得られることから、上記フッ素樹脂(a)は、融点が含フッ素ポリマー(b)よりも高いことが好ましい。より好ましくは、含フッ素ポリマー(b)よりも20℃以上高いことである。
【0021】
また、上記フッ素樹脂(a)の融点としては、例えば、150〜340℃であることが好ましく、150〜330℃であることがより好ましく、170〜320℃であることがさらに好ましい。上記フッ素樹脂(a)の融点が、150℃未満であると耐熱性が低下するおそれがあり、340℃を超えると層(A)と層(B)との接着強度が低下するおそれがある。
ここで、フッ素樹(a)及び含フッ素ポリマー(b)の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークに対応する温度である。
【0022】
充分な燃料バリア性が得られることから、フッ素樹脂(a)は、燃料透過係数が含フッ素ポリマー(b)よりも低いことが好ましい。燃料透過係数が低いということは、フッ素樹脂(a)のハロゲン含有量が高いともいえる。
【0023】
上記フッ素樹脂(a)の燃料透過係数は、5(g・mm)/(m・day)以下であることが好ましく、4(g・mm)/(m・day)以下であることがより好ましく、3(g・mm)/(m・day)以下であることがさらに好ましく、2(g・mm)/(m・day)以下であることが特に好ましい。燃料透過係数の下限値は特に限定されるものではなく、低ければ低いほど好ましいが、例えば、0.1(g・mm)/(m・day)である。
【0024】
フッ素樹脂(a)及び含フッ素ポリマー(b)の燃料透過係数は、防湿包装材料の透湿度試験方法(JIS Z 0208)におけるカップ法に準ずる方法で求められる値であり、該方法は、60℃の雰囲気下で一定時間に単位面積の膜状物質を通過する模擬燃料(CE10;イソオクタン/トルエン/エタノール=45/45/10体積比)の重量を測定する方法である。本発明においては、このカップ法に準じて、燃料透過係数を測定するものである。
【0025】
フッ素樹脂(a)は、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)、及び、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、エチレン(Et)からなる群より選択される少なくとも1種の単量体に由来する単量体単位から構成されることが好ましい。より好ましくは、TFE、HFP、PAVE及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に由来する単量体単位の合計97〜100モル%と前記単量体以外の単量体に由来する単量体単位0〜3モル%とからなる重合体であり、更に好ましくは、TFE、HFP、PAVE、及び、CTFEからなる群より選択される少なくとも1種の単量体に由来する単量体単位98〜100モル%と前記単量体以外の単量体に由来する単量体単位0〜2モル%とからなる重合体である。
【0026】
フッ素樹脂(a)は、TFE/HFP共重合体(FEP)、CTFE/TFE共重合体、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/PAVE共重合体(PFA)、及び、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂であることが好ましい。より好ましくは、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/PAVE共重合体(PFA)、及び、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂である。
【0027】
フッ素樹脂(a)としては、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/PAVE/CTFE共重合体及びTFE/PAVE共重合体(PFA)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂であることが更に好ましい。
【0028】
フッ素樹脂(a)は、全ハロゲン化フッ素ポリマー(パーハロポリマー)であることが好ましい。これによれば、燃料低透過性をより優れたものとすることができる。ここで全ハロゲン化フッ素ポリマーとは、ポリマー主鎖骨格をなす炭素原子に結合する元素が、水素を含まず、フッ素、塩素などのハロゲン、またはフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基であることを意味する。全ハロゲン化フッ素ポリマーとしては、上述した、FEP、TFE/PAVE/CTFE共重合体、PFA等が好ましく例示される。
【0029】
以下に、フッ素樹脂(a)として好適に用いられる重合体について説明する。
【0030】
CTFE/TFE共重合体
CTFE/TFE共重合体は、CTFE単位とTFE単位の含有モル比がCTFE:TFE=2:98〜98:2であることが好ましく、5:95〜90:10であることがより好ましい。CTFE単位が2モル%未満であると薬液透過性が悪化し、また溶融加工が困難になる傾向があり、98モル%をこえると成型時の耐熱性、耐薬品性が悪化する場合がある。
【0031】
CTFE/TFE共重合体は、CTFE、TFE、並びに、CTFE及びTFEと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、エチレン、VdF、HFP、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。すなわち、TFE/PAVE/CTFE共重合体が好ましい。
【0032】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0033】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0034】
上記CTFE/TFE共重合体は、CTFE及びTFEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、CTFE単位およびTFE単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性および耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0035】
FEP
FEPは、とりわけ耐熱性が優れたものとすることができ、優れた燃料バリア性が発現する点で好ましい。FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%とHFP単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%とHFP単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0036】
FEPは、TFE、HFP、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、当該単量体としてはCTFE及びTFEと共重合可能な単量体として例示した単量体であってもよい。当該単量体としては、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。
【0037】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0038】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0039】
FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性および耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0040】
PFA
PFAは、とりわけ耐熱性が優れたものとすることができ、優れた燃料バリア性が発現する点で好ましい。PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%とPAVE単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜98.5モル%とPAVE単位1.5〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0041】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、PMVEであることが更に好ましい。
【0042】
PFAは、TFE、PAVE、並びに、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、当該単量体としてはCTFE及びTFEと共重合可能な単量体として例示した単量体であってもよい。当該単量体としては、HFP、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。
【0043】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0044】
PFAは、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性および耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0045】
ETFE
ETFEは、力学物性や燃料バリア性が向上する点で好ましい。TFE単位とエチレン単位との含有モル比は20:80〜90:10が好ましく、37:63〜85:15がより好ましく、38:62〜80:20が更に好ましい。
【0046】
ETFEは、TFE、エチレン、並びに、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよい。共重合可能な単量体としては、下記式
CH=CX、CF=CFR、CF=CFOR、CH=C(R
(式中、Xは水素原子またはフッ素原子、Rはエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいフルオロアルキル基を表す。)
で表される単量体が挙げられ、なかでも、CF=CFR、CF=CFOR及びCH=CXで表される含フッ素ビニルモノマーが好ましく、HFP、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕及びRが炭素数1〜8のフルオロアルキル基であるCH=CXで表される含フッ素ビニルモノマーがより好ましい。
【0047】
上記式で示される含フッ素ビニルモノマーの具体例としては、1,1−ジヒドロパーフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロパーフルオロブテン−1、1,1,5−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,7−トリヒドロパーフルオロへプテン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロヘキセン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロオクテン−1、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロブテン−1、3,3,3−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)プロペン−1、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH=CFCFCFCFH)があげられる。
【0048】
また、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体としては、上述したイタコン酸、無水イタコン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸であってもよい。
【0049】
TFE及びエチレンと共重合可能な単量体は、含フッ素重合体に対して0.1〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましく、0.2〜4モル%が特に好ましい。
【0050】
なお、上記含フッ素重合体の各単量体単位の割合は、19F−NMR分析、赤外分光光度計[IR]、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類により適宜組み合わせて得られる値である。
【0051】
含フッ素ポリマー(b)としては、フッ素樹脂(a)と異なる含フッ素ポリマーであればよく、フッ素樹脂であってもよいし、フッ素ゴムであってもよい。含フッ素ポリマー(b)は、例えば、以下のような特徴を有することが好ましい。以下のような特徴を有することにより、フッ素樹脂(a)及び含フッ素ポリマー(b)を含む樹脂組成物と、エラストマー(c)を含むエラストマー組成物とを成形する際の加熱等により、層(A)表面に含フッ素ポリマー(b)が充分に析出(ブリードアウト)するため、層(A)と層(B)との接着強度を優れたものとすることができる。
【0052】
含フッ素ポリマー(b)は、部分ハロゲン化フッ素ポリマーであることが好ましい。
ここで部分ハロゲン化フッ素ポリマーとは、ポリマー主鎖骨格をなす炭素原子にフッ素、塩素等のハロゲン、若しくは、フルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基等のハロゲンを含有する基が結合し、かつポリマー主鎖骨格をなす炭素原子に結合する水素を有する、及び/又は、水素原子を有する上記ハロゲンを含有する基が結合したものである。
【0053】
含フッ素ポリマー(b)は、TFE/HFP/VdF共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)及びTFE/VdF共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、あるいは、HFP/VdF共重合体、TFE/HFP/VdF共重合体、TFE/プロピレン共重合体及びTFE/VdF/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素ゴムであることが好ましい。
【0054】
含フッ素ポリマー(b)は、フッ化ビニリデン(VdF)に由来する繰り返し単位を含むフッ素樹脂又はフッ素ゴムであることが好ましい。VdFは、流動性が高く、例えば、加熱しながら押出成形を行う場合に、層(A)の表面にブリードアウトしやすい。また、炭素原子に結合した水素を有するため、層(B)との接着強度を優れたものとすることができる。含フッ素ポリマー(b)は、フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位を全モノマー単位の10モル%以上含む部分ハロゲン化フッ素ポリマーであることが好ましい。
【0055】
含フッ素ポリマー(b)は、TFE/HFP/VdF共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)及びTFE/VdF共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、あるいは、HFP/VdF共重合体、TFE/HFP/VdF共重合体及びTFE/VdF/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素ゴムであることが好ましい。
【0056】
含フッ素ポリマー(b)が樹脂である場合、上記含フッ素ポリマー(b)は、融点が250℃未満であることが好ましく、180℃未満であることがより好ましい。上記フッ素樹脂(b)の融点が、250℃以上であると、層(A)と層(B)との十分な接着強度が得られないおそれがある。
【0057】
含フッ素ポリマー(b)は、ポリマーの主鎖末端又は側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。これらの官能基を有する場合、含フッ素ポリマー(b)が全ハロゲン化フッ素ポリマーであっても、エラストマー組成物から形成される層(B)とのより高い接着強度が得られる。
【0058】
カルボニル基とは、−C(=O)−を有する官能基である。
【0059】
具体的には、例えば、
カーボネート基[−O−C(=O)−OR(式中、Rは炭素原子数1〜20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2〜20のアルキル基である)]、
ハロホルミル基[−C(=O)X、Xはハロゲン原子]、
ホルミル基[−C(=O)H]、
式:−R−C(=O)−R(式中、Rは、炭素原子数1〜20の2価の有機基であり、Rは、炭素原子数1〜20の1価の有機基である)で示される基、
式:−O−C(=O)−R(式中、Rは、炭素原子数1〜20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2〜20のアルキル基である)で示される基、
カルボキシル基[−C(=O)OH]、
アルコキシカルボニル基[−C(=O)OR(式中、Rは、炭素原子数1〜20の1価の有機基である)]、
カルバモイル基[−C(=O)NR(式中、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である)]、
酸無水物結合[−C(=O)−O−C(=O)−]、
イソシアネート基[−N=C=O]、
等をあげることができる。
【0060】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。上記Rの具体例としては、メチレン基、−CF−基、−C−基などがあげられ、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。また、RおよびRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基などがあげられる。
【0061】
これらカルボニル基の中でも、含フッ素ポリマー(b)への導入のしやすさおよび他材との反応性の観点から、カルボキシル基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、及び、カーボネート基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、−COOH、−OC(=O)OCHCHCH、−COF、及び、−OC(=O)OCH(CHからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0062】
オレフィン基(Olefinic group)とは、炭素−炭素二重結合を有する官能基である。オレフィン基としては、下記式:
−CR=CR10
(式中、R、RおよびR10は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、−CF=CF、−CH=CF、−CF=CHF、−CF=CH及び−CH=CHからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0063】
アミノ基とは、アンモニア、第一級または第二級アミンから水素を除去した1価の官能基である。アミノ基としては、下記式:
−NR1112
(式中、R11およびR12は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、−NH、−NH(CH)、−N(CH、−NH(CHCH)、−N(C、及び、−NH(C)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0064】
含フッ素ポリマー(b)の末端基の個数は、特公昭37−3127号公報および国際公開第99/45044号パンフレットに記されている方法にて測定することができる。例えば、赤外分光光度計を用いてフッ素樹脂のフィルムシートの赤外吸収スペクトル分析し、官能基特有の周波数の吸収帯からその官能基の数を測定する場合、例えば、−COF末端は1884cm−1の吸収帯、−COOH末端は1813cm−1と1775cm−1の吸収帯、−COOCH末端は1795cm−1の吸収帯、−CONH末端は3438cm−1の吸収帯、−CHOH末端は3648cm−1の吸収帯、−CF=CF末端は1790cm−1の吸収帯から計算することができる。
【0065】
含フッ素ポリマー(b)に上記官能基を導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、含フッ素ポリマー(b)重合時に上記官能基を有する単量体を共重合する方法、上記官能基または上記官能基に変換できる官能基を有する重合開始剤を使用して重合を行う方法、フッ素樹脂に高分子反応で上記官能基を導入する方法、酸素共存下でポリマー主鎖を熱分解する方法、二軸押出機など強いせん断力を加えることのできる装置を用いてフッ素樹脂の末端を変換させる方法などをあげることができる。
【0066】
上記官能基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、無水メサコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸等の脂肪族不飽和カルボン酸が挙げられる。
【0067】
含フッ素ポリマー(b)の上記官能基の個数は、含フッ素ポリマー(b)を構成する炭素原子100万個当たり20〜5000個であることが好ましく、30〜4000個であることがより好ましく、40〜3000個であることがさらに好ましい。20個未満であると層(A)と層(B)との接着性が改善されないおそれがあり、5000個をこえると成形物中に発泡が生ずる傾向がある。
【0068】
なお、本発明で用いる上記官能基を有する含フッ素ポリマー(b)は、1つのポリマーにおける主鎖の片末端、両末端または側鎖に上記官能基を有する分子のみで構成されているものだけでなく、ポリマーの主鎖の片末端、両末端または側鎖に上記官能基を有する分子と、上記官能基を含まない分子との混合物であっても良い。
【0069】
上記フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)とを含むものである。
【0070】
上述した特徴を有するフッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)は、適宜組み合わせて用いることができるが、中でも、以下に示す組み合わせで用いることにより優れた接着強度が得られるので好ましい。
【0071】
フッ素樹脂(a)は、全ハロゲン化フッ素ポリマーであり、含フッ素ポリマー(b)は、部分ハロゲン化フッ素ポリマーであることが好ましい。
【0072】
フッ素樹脂(a)の種類としては、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/PAVE共重合体(PFA)、及び、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂であり、含フッ素ポリマー(b)は、TFE/HFP/VdF共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)及びTFE/VdF共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、あるいは、HFP/VdF共重合体、TFE/HFP/VdF共重合体、TFE/プロピレン共重合体及びTFE/VdF/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素ゴムであることが好ましい。このような組み合わせが優れた接着強度が得られる点でより好ましい。
これらの中でも、フッ素樹脂(a)としては、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/PAVE/CTFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂であり、かつ、含フッ素ポリマー(b)は、TFE/HFP/VdF共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)及びTFE/VdF共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、あるいは、HFP/VdF共重合体及びTFE/HFP/VdF共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素ゴムであることが好ましい。
含フッ素ポリマー(b)がフッ素樹脂の場合、フッ素樹脂(a)の融点は含フッ素ポリマー(b)よりも高いことが好ましい。
含フッ素ポリマー(b)が樹脂の場合、フッ素樹脂(a)および含フッ素ポリマー(b)の融点以上である温度において、フッ素樹脂(a)の溶融粘度は含フッ素ポリマー(b)の溶融粘度よりも高いことが好ましい。
なお、上記含フッ素ポリマー(b)がフッ素ゴムである場合でも、フッ素樹脂組成物は架橋剤を特に含む必要はない。
【0073】
上記エラストマー(c)は、エラストマー性を有する化合物であれば特に限定されず、ゴム弾性を有する非晶質の重合体からなるものであればよい。
上記エラストマー(c)としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、シリコーンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム及びアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーであることが好ましい。
【0074】
上記エラストマー組成物は、層(A)との接着力向上の点から、オニウム塩、アミン化合物及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。上記エラストマー組成物は、特にオニウム塩を含むことが好ましく、より好ましくは、オニウム塩及びエポキシ樹脂を含むことである。
特に含フッ素ポリマー(b)がVdFに由来する繰り返し単位を有するポリマーである場合、エラストマー組成物がオニウム塩、又は、オニウム塩及びエポキシ樹脂を含むと、層(A)と層(B)とを特に強固に接着することができる。
【0075】
オニウム塩としては特に限定されず、例えば、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0076】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、例えば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド(以下、DBU−Bともいう)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、式(1):
【0077】
【化1】

【0078】
(式中、3つのRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基であり、Xは1価の陰イオンである)
で示される化合物、
式(2):
【0079】
【化2】

【0080】
(式中、nは、0〜50の整数である)
で示される化合物、および
式(3):
【0081】
【化3】

【0082】
などがあげられる。
【0083】
式(1)中の、3つのRは、それぞれ同じかまたは異なり、水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基である。炭素数1〜30の1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、脂肪族炭化水素基、フェニル基などのアリール基、またはベンジル基があげられる。具体的には、例えば、−CH、−C、−Cなどの炭素数1〜30のアルキル基;−CX、−C、−CH、−CHCX、−CHなどの炭素数1〜30のハロゲン原子含有アルキル基(Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子);フェニル基;ベンジル基;−C、−CHなどのフッ素原子で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基;−C5−n(CF、−CH5−n(CF(nは1〜5の整数)などの−CFで1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基などがあげられる。また、式(4):
【0084】
【化4】

【0085】
のように、窒素原子を含んでいてもよい。
【0086】
これらのうち、層(A)との接着力が良好な点から上記のDBU−Bまたは、3つのRがそれぞれ同じかまたは異なり炭素数1〜20のアルキル基またはベンジル基、Xが1価の陰イオンであり、ハロゲンイオン(F、Cl、Br、I)、OH、RO、RCOO、C、SO2−、SO2−、SO、RSO2−、CO2−、NO(Rは1価の有機基)で表される式(1)で示される化合物、式(2)で示される化合物などが好ましく、式(1)中のXとしては、Clがより好ましい。また、式(2)中では、ゴムとの混練り時の分散性の点から、nは0〜10の整数であることがより好ましく、1〜5の整数であることがさらに好ましい。
【0087】
これらの中でも、特に、式(5):
【0088】
【化5】

【0089】
で示される化合物であることが好ましい。
【0090】
第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、例えば、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCともいう)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどをあげることができ、これらの中でも、層(A)との接着力が良好な点から、BTPPCが好ましい。
【0091】
また、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている化合物を用いることもできる。
【0092】
オニウム塩の配合量は、エラストマー(c)100質量部に対して、0.1〜10.0質量部が好ましく、0.2〜8.0質量部がより好ましく、0.3〜7.0質量部がさらに好ましい。オニウム塩の配合量が、0.1質量部未満であると層(A)との接着性が充分に発現できないおそれがあり、10.0質量部をこえるとエラストマー組成物への分散性が悪化し、機械物性が低下するおそれがある。
【0093】
アミン化合物としては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン(以下、V3ともいう)、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどの脂肪族ポリアミン化合物誘導体や、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル〔4,4’−DPE〕、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン〔BAPP〕、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンジアニリン、ジアニリノエタン、4,4’−メチレン−ビス(3−ニトロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ジアミノピリジン、メラミンなどの芳香族ポリアミン化合物を使用することができる。これらの中でも、層(A)との接着力が良好な点から、V3、4,4’−DPE、BAPPが好ましい。
【0094】
アミン化合物の配合量は、エラストマー(c)100質量部に対して、0.1〜10.0質量部が好ましく、0.2〜8.0質量部がより好ましく、0.3〜7.0質量部がさらに好ましい。アミン化合物の配合量が、0.1質量部未満であると層(A)との接着性が充分に発現できないおそれがあり、10.0質量部をこえるとエラストマー組成物への分散性が悪化し、機械物性が低下するおそれがある。
【0095】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂等があげられる。これらのうちビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、式(6):
【0096】
【化6】

【0097】
で表わされる化合物等があげられる。ここで、式(6)において、nは0.1〜3が好ましく、0.1〜0.5がより好ましく、0.1〜0.3がさらに好ましい。nが0.1未満であると、他材との接着力が低下する傾向がある。一方、nが3をこえると、粘度が高くなり、ゴム中での均一な分散が困難になるおそれがある。
【0098】
エポキシ樹脂の配合量は、エラストマー(c)100質量部に対して、0.1〜20.0質量部が好ましく、0.3〜15.0質量部がより好ましく、0.5〜10.0質量部がさらに好ましい。エポキシ樹脂の配合量が0.1質量部未満であると、層(A)との接着性が充分に発現できないおそれがあり、一方、エポキシ樹脂の配合量が20.0質量部をこえると、均一な分散が困難になり本来のゴム物性が得られないおそれがある。
【0099】
エラストマー組成物に含まれるエラストマー(c)は、未架橋のエラストマーであってもよいし、架橋したエラストマーであってもよいが、層(A)との接着性に優れる点で架橋前のエラストマーであることが好ましい。架橋前のエラストマーを使用すると、積層時に他の層と架橋接着して、高い接着強度を得ることができる。
【0100】
架橋剤としては、通常のエラストマーに使用される架橋剤であれば全て使用できる。例えば、イオウ系架橋剤、パーオキサイド系架橋剤、ポリチオール系架橋剤、キノイド系架橋剤、樹脂系架橋剤、金属酸化物、ジアミン系架橋剤、ポリチオール類、2−メルカプトイミダゾリン、ポリオール系架橋剤、ポリアミン系架橋剤などの架橋剤があり、なかでもパーオキサイド系架橋剤、ポリオール系架橋剤、ポリアミン系架橋剤などが接着特性および得られた架橋ゴムの機械物性の点から好ましい。
【0101】
エラストマー組成物中に配合される架橋剤の配合量としては、エラストマー(c)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜8質量部がより好ましい。架橋剤が、0.1質量部未満であると、架橋密度が低くなり圧縮永久歪みが大きくなるおそれがあり、10質量部をこえると、架橋密度が高くなりすぎるため、圧縮時に割れやすくなるおそれがある。
【0102】
また、エラストマー組成物には必要に応じて添加物、例えば充填材、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、架橋助剤、接着助剤、受酸剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、上記のものとは異なる常用の架橋剤や架橋促進剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0103】
エラストマー組成物は、エラストマー、オニウム塩、アミン化合物、エポキシ樹脂、架橋剤、架橋助剤、共架橋剤、架橋促進剤、及び、充填材などの配合剤を、一般に使用されているゴム混練り装置を用いて混練りすることにより得ることができる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押出機などを用いることができる。
【0104】
特に、架橋剤としてポリオール系架橋剤を用いる場合には、架橋剤・架橋促進剤の融点が比較的高い場合が多く、エラストマー組成物中に均一に分散させるために、架橋剤・架橋促進剤をニーダーなどの密閉型の混練り装置を用いて架橋剤・架橋促進剤の融点以上で混練りした後に、充填材などのその他配合剤をこれ以下の比較的低温で混練りする方法が好ましい。また、架橋剤と架橋促進剤を一旦溶融させ融点降下を起こさせた固溶体を用いて均一分散させる方法もある。
【0105】
架橋条件としては、使用する架橋剤などの種類により適宜決めればよいが、通常、150〜250℃の温度で、1分〜24時間焼成を行う。
【0106】
また、架橋方法としては、スチーム架橋など通常用いられている方法はもちろんのこと、常圧、加圧、減圧下においても、また、空気中においても、どのような条件下においても架橋反応を行うことができる。
【0107】
上記フッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)とを含む樹脂組成物から形成される層(A)は、層(A)の表面において含フッ素ポリマー(b)の割合が増大する。すなわち、上記層(A)は、層(A)の内部と層(A)の表面の組成を分析した場合に、内部よりも表面における含フッ素ポリマー(b)の割合が高いことが好ましい。層(A)の内部とは、例えば、層(A)の厚みをdとした場合に、一方の表面から(d/4)〜(3d/4)の距離に相当する部分である。
【0108】
この層(A)表面で含フッ素ポリマー(B)の比率が増大した状態は、たとえば熱処理後の架橋成形品をESCA(X線光電子分析)やIR(赤外分光法)で化学的に分析することで検証できる。
【0109】
本発明の積層体は、層(A)及び層(B)を含むものであれば特に限定されない。例えば、層(A)/層(B)の2層構造であってもよいし、層(A)及び層(B)の少なくともいずれかを2層以上含む3層以上の積層体であってもよい。また、層(A)及び層(B)以外の他の層(以下「層(C)」ともいう。)を含んでいてもよい。層(C)は、層(A)及び層(B)以外の層であれば、いかなる材料からなる層であってもよい。
【0110】
上記積層体は、層(A)、及び、層(A)の片面に位置する層(B)を含むことが好ましい。層(A)の層(B)が配置されていない面には、層(B)又は層(C)が配置されてもよいし、配置されていなくてもよい。同様に、層(B)の層(A)が配置されていない面には、層(C)が配置されてもよいし、配置されなくてもよい。場合によっては、異なる組成の重合体からなる2種の層(A)を積層させてもよい。
【0111】
層(A)、及び、層(A)の両面に位置する一対の層(B)を含むことが好ましい。すなわち、層(B)/層(A)/層(B)の構造を有することが好ましく、一対の層(B)は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0112】
積層体の構造としては、例えば、層(A)/層(B)の2層構造、層(B)/層(A)/層(B)、層(A)/層(B)/層(A)、層(A)/層(B)/層(C)、層(C)/層(A)/層(B)等の3層構造等が挙げられる。勿論、4層以上の構造であってもよく、上記例示した2層構造、3層構造の間又は外側に、更に、層(A)、層(B)及び層(C)の中から少なくとも1層以上を含む構造であってもよい。
【0113】
本発明の積層体を構成する各層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどのポリマー、炭酸カルシウム、タルク、セライト、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどの無機充填材、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で含有してもよい。
【0114】
本発明の積層体は、柔軟性の観点から層(A)の厚みが5mm以下であることが好ましい。より好ましくは、層(A)の厚みが2mm以下である。
【0115】
上記フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂(a)と前記フッ素樹脂(b)とが充分に分散されたものであることが好ましく、例えば、以下の方法により充分に分散したものとできる。
【0116】
上記フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂(a)と前記フッ素樹脂(a)とは異なる含フッ素ポリマー(b)とを共凝析して共凝析粉末を得てもよい。これにより、フッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)とがフッ素樹脂組成物中により均一に分散され、フッ素樹脂組成物を架橋して特定条件下に熱処理すると、高い機械的強度を持つと同時に、表面に満遍なく含フッ素ポリマー(b)が析出した成形品が得られるものと考えられる。
【0117】
上記共凝析の方法としては、例えば、(i)フッ素樹脂(a)の水性分散液と、含フッ素ポリマー(b)の水性分散液とを混合した後に凝析させる方法、(ii)フッ素樹脂(a)の粉末を、含フッ素ポリマー(b)の水性分散液に添加した後に凝析させる方法、(iii)含フッ素ポリマー(b)の粉末を、フッ素樹脂(a)の水性分散液に添加した後に凝析させる方法が挙げられる。
上記共凝析の方法としては、特に各樹脂が均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0118】
上記フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂(a)の融点以上の温度で溶融混練することにより得られるものであることが好ましい。これにより、フッ素樹脂組成物中のフッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)とがより均一に分散されるため、フッ素樹脂組成物を架橋して特定条件下に熱処理すると、高い機械的強度を持つと同時に、表面に満遍なく含フッ素ポリマー(b)が析出した成形品が得られるものと考えられる。溶融混練の温度としては、例えば、フッ素樹脂(a)の融点よりも5℃以上高い温度であることが好ましく、フッ素樹脂(a)の融点よりも10℃以上高い温度であることがより好ましい。
【0119】
混練方法としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押出機などを用いる方法が挙げられ、特に限定されない。
【0120】
上記フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂(a)が連続相を形成しかつ含フッ素ポリマー(b)が分散相を形成している構造、またはフッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)が共に連続相を形成している構造をとっているものと推定される。
【0121】
上記積層体の製造方法も本発明の1つである。
【0122】
上記積層体の製造方法は、例えば、(1)積層体を構成する各層を溶融状態で共押出成形することにより層間を熱溶融着(溶融接着)させ1段で積層体を形成する方法(共押出成形)、(2)押出機によりそれぞれ別個に作製した各層を重ね合せ熱融着により層間を接着させる方法、(3)予め作製した層の表面上に押出機により溶融樹脂を押し出すことにより積層体を形成する方法、(4)予め作製した層の表面上に、該層に隣接することとなる層を構成する重合体を静電塗装したのち、得られる塗装物を全体的に又は塗装した側から加熱することにより、塗装に供した重合体を加熱溶融して層を成形する方法、等が挙げられる。
【0123】
上記製造方法として、より具体的には、(1)としては、少なくとも層(A)及び層(B)を溶融状態で共押出成形することにより層間を熱溶融着(溶融接着)させ1段で積層体を形成する方法(共押出成形)、(2)としては、押出機によりそれぞれ別個に作製した少なくとも層(A)及び層(B)を重ね合せ、熱融着により層間を接着させる方法、(3)としては、予め作製した層(A)又は層(B)の表面上に、押出機により溶融されたフッ素樹脂組成物又はエラストマー組成物を押し出すことにより積層体を形成する方法、(4)としては、予め作製した層(A)又は層(B)の表面上に、該層に隣接することとなる層を構成するフッ素樹脂組成物又はエラストマー組成物を静電塗装したのち、得られる塗装物を全体的に又は塗装した側から加熱することにより、塗装に供したフッ素樹脂組成物又はエラストマー組成物を加熱溶融して層(A)又は層(B)を成形する方法、等が挙げられる。
【0124】
本発明の積層体がチューブ又はホースである場合、例えば、上記(2)に相当する方法として、(2a)押出機により円筒状の各層をそれぞれ別個に形成し、内層となる層に該層に接触する層を熱収縮チューブにて被膜する方法、上記(3)に相当する方法として、(3a)先ず内層となる層を内層押出機で形成し、この外周面に、外層押出機で該層に接触する層を形成する方法、上記(4)に相当する方法として、(4a)内層を構成する重合体を該層に接触する層の内側に静電塗装したのち、得られる塗装物を加熱オーブンに入れて全体的に加熱するか、又は、円筒状の塗装物品の内側に棒状の加熱装置を挿入して内側から加熱することにより、内層を構成する重合体を加熱溶融して成形する方法、等が挙げられる。
【0125】
本発明の積層体の製造方法においては、上記成形の際の加熱により含フッ素ポリマー(b)が層(A)の表面にブリードアウトすることとなる。そのため、上記(1)、(2)、(3)、(4)等の成形方法における加熱温度は、層(A)を構成する含フッ素ポリマー(b)の融点以上であることが好ましい。
【0126】
上記(1)の方法では、オーブンまたは加熱液浴などの、製品の温度を上昇させる手段によって、エラストマー(C)が架橋するのに充分な温度及び時間で熱溶融着させてもよい。
【0127】
本発明の積層体を構成する各層が共押出可能なものであれば、上記(1)の共押出成形によって形成することが一般的である。上記共押出成形としては、マルチマニホールド法、フィードブロック法等の従来公知の多層共押製造法が挙げられる。
【0128】
上記(2)及び(3)の成形方法においては、各層を形成したのち、層間接着性を高めることを目的として、各層における他の層との接触面を表面処理してもよい。そのような表面処理としては、ナトリウムエッチング処理等のエッチング処理;コロナ処理;低温プラズマ処理等のプラズマ処理が挙げられる。
【0129】
上記成形方法としては、上記(1)〜(3)のいずれかの方法が好ましく、(1)又は(2)の方法がより好ましい。(1)又は(2)の方法を用いることにより、より接着強度を優れたものとすることができる。
例えば、フッ素樹脂(a)は、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/PAVE共重合体(PFA)、及び、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂であり、含フッ素ポリマー(b)は、TFE/HFP/VdF共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)及びTFE/VdF共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、あるいは、HFP/VdF共重合体、TFE/HFP/VdF共重合体、TFE/プロピレン共重合体及びTFE/VdF/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素ゴムである層(A)と、層(B)とを、(1)又は(2)の方法で融着させて積層体を製造することが、接着強度をより優れたものとすることができる点で好ましい。
【0130】
上記積層体から形成される成形品も本発明の1つである。上記積層体から形成されるものであるため、層(A)と層(B)との接着強度が優れる、すなわち、機械的強度に優れるとともに、燃料低透過性、耐薬品性、耐油性、耐熱性、柔軟性を兼ね備える成形品となる。
【0131】
本発明の積層体から形成される成形品は、以下の用途等に用いることができる。
フィルム、シート類;食品用フィルム、食品用シート、薬品用フィルム、薬品用シート、ダイヤフラムポンプのダイヤフラムや各種パッキン等
チューブ、ホース類;自動車燃料用チューブ若しくは自動車燃料用ホース等の燃料用チューブ又は燃料用ホース、溶剤用チューブ又は溶剤用ホース、塗料用チューブ又は塗料用ホース、自動車のラジエーターホース、エアコンホース、ブレーキホース、電線被覆材、飲食物用チューブ又は飲食物用ホース、ガソリンスタンド用地下埋設チューブ若しくはホース、海底油田用チューブ若しくはホース等
ボトル、容器、タンク類;自動車のラジエータータンク、ガソリンタンク等の燃料用タンク、溶剤用タンク、塗料用タンク、半導体用薬液容器等の薬液容器、飲食物用タンク等
その他;キャブレターのフランジガスケット、燃料ポンプのOリング等の各種自動車用シール、油圧機器のシール等の各種機械関係シール、ギア等
上記のなかでも特にチューブ又はホースに好適に用いることができる。
【0132】
上記チューブ又はホースは、その途中に波形領域を有するものであってもよい。このような波形領域とは、ホース本体途中の適宜の領域を、波形形状、蛇腹(corrugated)形状、渦巻き(convoluted)形状等に形成したものである。
【0133】
本発明のチューブ又はホースは、かかる波形の折り目が複数個環状に配設されている領域を有することにより、その領域において環状の一側を圧縮し、他側を外方に伸張することができるので、応力疲労や層間の剥離を伴うことなく容易に任意の角度で曲げることが可能となる。
【0134】
波形領域の形成方法は限定されないが、まず直管状のチューブを成形した後に、引き続いてモールド成形等し、所定の波形形状等とすることにより容易に形成することができる。
【0135】
本発明の積層体は、燃料チューブを含むチューブ、ホース、タンク等の使用時に燃料と接する箇所がある用途に好適に用いることができる。
【0136】
上記積層体から形成される燃料ホースも本発明の1つである。本発明の積層体は、上述したように、層間が強固に接着しており、柔軟性、高い機械的強度、及び、燃料低透過性を有するので、自動車用燃料配管チューブに用いる燃料ホース用積層体として好適に用いることができる。この場合、燃料と接する箇所は層(A)であることが好ましい。すなわち、最内層が層(A)であることが好ましい。
【0137】
燃料チューブの最内層は、ガソリン等の引火性の液体が接して静電荷が蓄積しやすいが、この静電荷によって引火することを避けるため、最内層は導電性フィラーを含むことが好ましい。
【0138】
上記導電性フィラーとしては特に限定されず、例えば、金属、炭素等の導電性単体粉末又は導電性単体繊維;酸化亜鉛等の導電性化合物の粉末;表面導電化処理粉末等が挙げられる。
【0139】
上記導電性単体粉末又は導電性単体繊維としては特に限定されず、例えば、銅、ニッケル等の金属粉末;鉄、ステンレス等の金属繊維;カーボンブラック、炭素繊維、特開平3−174018号公報等に記載の炭素フィブリル等が挙げられる。
【0140】
上記表面導電化処理粉末は、ガラスビーズ、酸化チタン等の非導電性粉末の表面に導電化処理を施して得られる粉末である。上記導電化処理の方法としては特に限定されず、例えば、金属スパッタリング、無電解メッキ等が挙げられる。上述した導電性フィラーのなかでもカーボンブラックは、経済性や静電荷蓄積防止の観点で有利であるので好適に用いられる。
【発明の効果】
【0141】
本発明の積層体は、上記構成よりなることから、燃料低透過性に優れ、コロナ処理等の表面処理や接着剤を塗布するなどの特殊な処理をしなくても、フッ素樹脂組成物から形成される層とエラストマー組成物から形成される層との接着性に優れたものであり、各種成形品として好適に用いることができる。特に、燃料ホース等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0142】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0143】
本明細書における各種の特性については、つぎの方法で測定した。
(1)燃料透過係数
20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10−3)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過係数を求める。
【0144】
【数1】

【0145】
(2)融点
フッ素樹脂(a)及び含フッ素ポリマー(b)の融点は、セイコー型示差走査熱量計〔DSC〕を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークに対応する温度である。
【0146】
(3)組成比
フッ素樹脂(a)及び含フッ素ポリマー(b)の各単量体単位の割合は、19F−NMR分析、赤外分光光度計[IR]、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類により適宜組み合わせて得られる値である。
【0147】
また、実施に用いたフッ素樹脂(a)、含フッ素ポリマー(b)及びエラストマー組成物(c)は、それぞれ以下に示すものである。
【0148】
フッ素樹脂(a−1):クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体比=22mol%/76mol%/2mol%からなるポリマー(燃料透過係数:0.4g・mm/m・day、融点:245℃)
フッ素樹脂(a−2):ネオフロンFEP NP−102 ダイキン工業株式会社製(燃料透過係数:0.4g・mm/m・day、融点:260℃)
【0149】
含フッ素ポリマー(b−1):ネオフロンVP−2000 ダイキン工業株式会社製(融点:132℃)
含フッ素ポリマー(b−2):ネオフロンVP−100 ダイキン工業株式会社製(融点:140℃)
含フッ素ポリマー(b−3):テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体比=33mol%/10mol%/57mol%からなるポリマー(融点:120℃)
含フッ素ポリマー(b−4):テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体比=52mol%/10mol%/38mol%からなるポリマー(融点:170℃)
含フッ素ポリマー(b−5):テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体比=73mol%/6mol%/20mol%/1mol%からなるポリマー(融点:220℃)
含フッ素エラストマー(b−6):テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体比=20mol%/30mol%/50mol%からなるポリマー
【0150】
[エラストマー組成物(c)(NBRフルコンパウンド)の製造]
エラストマー組成物1
アクリロニトリル−ブタジエンゴム(Nipol 1041、JSR株式会社製)100質量部にカーボンブラック(N990、Cancarb Ltd.製)30質量部、酸化亜鉛(ハイステック株式会社製)5質量部、湿式シリカ(NipsilVN3、日本シリカ工業株式会社製)15質量部、ステアリン酸(ルナック、花王株式会社製)1質量部、老化防止剤(A.O.224、KING INDUSTRIES製)2質量部、可塑剤(Thiokol TP95、Morton International製)15質量部、ワックス(カルナバワックス、東亜化成株式会社製)、過酸化物(パークミルD−40、日油株式会社製)2質量部を加えて約130℃でニーダー練を実施した後、アミン系化合物(N,N−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン(V3)、ダイキン工業株式会社製)3質量部、オニウム塩系試薬(8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(DBU−B)、和光純薬株式会社製)2質量部、オニウム塩系試薬(SA−810、サンアプロ株式会社製)1重量部、エポキシ化合物(JER828、ジャパンエポキシレジン株式会社製)5質量部を添加し8インチオープンロールを用いて約30℃で混練し、エラストマー組成物1を得た。
【0151】
エラストマー組成物2
上記エラストマー組成物1と同様のニーダー練を実施した後、オニウム塩系試薬(8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(DBU−B)、和光純薬株式会社製)5質量部、エポキシ化合物(JER828、ジャパンエポキシレジン株式会社製)5質量部を添加し8インチオープンロールを用いて約30℃で混練し、エラストマー組成物2を得た。
【0152】
エラストマー組成物3
上記エラストマー組成物1および2と同様のニーダー練を実施した後、オニウム塩系試薬(8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(DBU−B)、和光純薬株式会社製)5質量部、オニウム塩系試薬(SA−810、サンアプロ株式会社製)3重量部、エポキシ化合物(JER828、ジャパンエポキシレジン株式会社製)5質量部を添加し8インチオープンロールを用いて約30℃で混練し、エラストマー組成物3を得た。
【0153】
製造例1(フッ素樹脂組成物の製造)
(溶融混練予備混合物の調製)
内容積60ccのラボプラストミルを用いてフッ素樹脂(a)および含フッ素ポリマー(b)が、質量比で80/20又は90/10になるように投入し、含フッ素ポリマー(a)の融点以上の温度で10分間溶融混練し、予備混合物を調製した。スクリューの回転数は80rpmとした。続いて、前記予備混合物を細かく微粉砕したものを金型にセットし、ヒートプレス機により、285℃にて20分保持し、溶融状態にした後、3MPaの負荷を1分間与え圧縮成形し、エラストマー組成物のシート状試験片を作製した。製造したフッ素樹脂組成物について表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
実施例1〜27および比較例1〜3
表2に示すエラストマー組成物(厚み約3mm)と、表2に示す厚みのフッ素樹脂組成物シートを重ね合わせ、片方の端部から約10mmに幅約20〜30mmのフッ素樹脂フィルム(厚さ10μm、ダイキン工業株式会社商品名 ポリフロンPTFE M731スカイブフィルム)を両シートの間に挟んだ後、得られるシートが厚み2mmになるよう金属製スペーサーを入れた金型に挿入し、160℃で45分間プレスすることで加硫を施し、シート状の積層体を得た。得られた積層体を幅10mm×長さ40mmの短冊状に切断し、フッ素樹脂組成物シートを剥がして掴みしろとした試験片を作製した。この試験片について、オートグラフ(株式会社島津製作所製 AGS−J 5kN)を使用して、JIS−K−6256(架橋ゴムの接着試験方法)に記載の方法に準拠し、25℃において50mm/minの引張速度で剥離試験を行い、剥離モードを観測し、以下の基準で評価した。得られた結果を表2に示す。
【0156】
(接着評価)
○…積層体の界面で剥離したが、充分に接着しており剥離するのが困難であった。
×…積層体の界面で比較的容易に剥離した。
【0157】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の積層体は、上記構成よりなることから、燃料低透過性に優れ、かつ接着性に優れたものであり、各種成形品として好適に用いることができる。特に、燃料ホース等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(a)と前記フッ素樹脂(a)とは異なる含フッ素ポリマー(b)とを含むフッ素樹脂組成物から形成される層(A)、及び、エラストマー(c)を含むエラストマー組成物から形成される層(B)を含む積層体であり、
フッ素樹脂(a)と含フッ素ポリマー(b)との質量比(a)/(b)が97〜60/3〜40である
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
フッ素樹脂(a)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体及びエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂であり、
含フッ素ポリマー(b)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン及びテトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂、あるいは、ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素ゴムである
請求項1記載の積層体。
【請求項3】
エラストマー(c)は、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴムおよびシリコーンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーである
請求項1又は2記載の積層体。
【請求項4】
フッ素樹脂(a)の燃料透過係数が5g・mm/m2・day以下である請求項1、2又は3記載の積層体。
【請求項5】
エラストマー組成物は、オニウム塩を含む
請求項1、2、3又は4記載の積層体。
【請求項6】
エラストマー組成物は、オニウム塩及びエポキシ樹脂を含む
請求項1、2、3、4又は5記載の積層体。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の積層体から形成される成形品。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の積層体から形成される燃料ホース。

【公開番号】特開2010−253729(P2010−253729A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104220(P2009−104220)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】