説明

積層体及びその製造方法

【課題】押圧による歪に対する復元性が高く、耐擦傷性に優れ、特に押圧による歪が反復される場合に対する耐擦傷性が高く、耐久性に優れると共に高い反射防止機能を有し、外観が良好な積層体やその製造方法を提供する。
【解決手段】基材11上に、中間層15を介して、ナノ凹凸構造の表面を有する表層12を設けた積層体10であって、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した表層12の貯蔵弾性率(SG)に対する中間層15の貯蔵弾性率(MG)の比(MG/SG)が、0.003以上、0.14以下である積層体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法に関する。また、好ましくは、ナノ凹凸構造を表面に有する場合であっても優れた密着性と耐擦傷性を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
表面にナノ凹凸構造を有するナノ凹凸構造体は、連続的な屈折率の変化によって反射防止性能を発現することが知られている。また、ナノ凹凸構造体は、ロータス効果により超撥水性能を発現することも可能である。ただし、ナノ凹凸構造の表面は、ナノスケールの凸部が傾斜し易く、同じ樹脂で形成された平滑表面に比べ耐擦傷性や耐久性は低い。
【0003】
ナノ凹凸構造を形成する方法としては、例えば、ナノ凹凸構造の反転構造が形成されたスタンパを用いて射出成形やプレス成形する方法、スタンパと透明基材との間に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(以下「樹脂組成物」と言う)を配し、活性エネルギー線の照射により樹脂組成物を硬化させて、スタンパの凹凸形状を転写した後にスタンパを剥離する方法、樹脂組成物にスタンパの凹凸形状を転写してからスタンパを剥離し、その後に活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化させる方法が提案されている。これらの中でも、ナノ凹凸構造の転写性、表面組成の自由度を考慮すると、活性エネルギー線の照射により樹脂組成物を硬化させて、ナノ凹凸構造を転写する方法が好適である。この方法は、連続生産が可能なベルト状やロール状のスタンパを用いる場合に特に好適であり、生産性に優れた方法である。ただし、スタンパの離型時や加熱により凸部が傾斜するのを抑制するため、架橋密度が高く、弾性率の高い樹脂が用いられる。
【0004】
ナノ凹凸構造が良好な反射防止性能を発現するには、隣り合う凸部又は凹部の間隔が可視光の波長以下のサイズである必要がある。このようなナノ凹凸構造体は、同じ樹脂組成物を使用して作製した表面が平滑なハードコートなどの成形体に比べて耐擦傷性に劣り、使用中の耐久性に問題がある。また、ナノ凹凸構造体の作製に使用する樹脂組成物が十分に堅牢でない場合、鋳型からの離型や加熱によって、突起同士が寄り添う現象が起き易い。
【0005】
これまでにも、活性エネルギー線の照射により樹脂組成物を硬化させて、ナノ凹凸構造を転写する方法によリナノ凹凸構造を形成したナノ凹凸構造体や、ナノ凹凸構造を形成するための樹脂組成物が提案されている。しかし、いずれも架橋密度の高い弾性率の高い硬化物である。
【0006】
例えば特許文献1には、最密充填されたシリカゾルを鋳型として可視光の波長以下のナノ凹凸構造を作製することが記載されている。このナノ凹凸構造を形成する樹脂組成物としては、トリメチロールプロパントリアクリレートのような分子量当たりの二重結合数が極めて高い多官能モノマーが用いられている。
【0007】
また特許文献2では、微細凹凸を有するハードコート層は、JIS K5600−5−4に準じた鉛筆硬度試験で「H」以上の硬度を示す樹脂であることが望ましいと記載されている(段落0022)。そして、その実施例では、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなど、分子量当たりの二重結合数が極めて高い多官能モノマーが用いられている。
【0008】
また、基材フィルムとナノ凹凸構造表層の密着性や接着性を高める中間層(特許文献2、3)や、反射防止効果を高めるためにナノ凹凸構造表面の下層の屈折率調節層(特許文献4)を備えた積層体や、凹み傷を復元する機能(自己修復機能)を有する中間層と、その上に屈折率の異なるハードコート層を設けた反射防止フィルム(特許文献5)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−71290号公報
【特許文献2】特開2002−107501号公報
【特許文献3】特許第3627304号公報
【特許文献4】特開2009−31764号公報
【特許文献5】特許第3676260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜4に記載のナノ凹凸構造体は、必ずしも耐擦傷性を満足させるものではない。また、鉛筆硬度試験である程度の硬度を示す硬化樹脂であっても、特にナノ凹凸構造体の場合は微細突起が折れたり曲がったりして反射防止性能が損なわれる場合があり、その用途が限定されてしまう。また、中間層は接着性や反射防止性能の改善を目的とするものであり、耐擦傷性はナノ凹凸構造を構成する樹脂の物性に依存している。また、特許文献5に記載の反射防止フィルムは、押圧による凹みに対する自己修復機能を有する中間層を有するが、充分な耐擦傷性を示さない場合がある。
【0011】
本発明の課題は、上記課題のうち少なくとも1つを解決できる積層体を提供することである。また、本発明の課題は、好ましくは、耐擦傷性に優れる積層体及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の課題は、より好ましくは、押圧による歪に対する復元性が高く、耐擦傷性に優れ、特に、押圧による歪が反復される場合に対する耐擦傷性が高く、耐久性に優れると共に、高い反射防止機能を有し、外観が良好な積層体や、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の構成の積層体が非常に優れた効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の一は、
基材上に、中間層を介して、ナノ凹凸構造の表面を有する表層を設けた積層体であって、
20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した表層の貯蔵弾性率(SG)に対する中間層の貯蔵弾性率(MG)の比(MG/SG)が、0.003以上、0.14以下である積層体である。
【0014】
また、本発明の一は、
基材上に、中間層を介して、ナノ凹凸構造の表面を有する表層を設けた積層体であって、
前記中間層が、下記(A)および(B)のうち少なくとも1つを満たす樹脂組成物を硬化させたものである、積層体である。
【0015】
(A)樹脂組成物中にクロトン酸単位を2質量%以上含む酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を15〜40質量%含む、
(B)重合性モノマー成分を含み、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した前記重合性モノマー成分のtanδ(損失正接)が0.2以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、上記課題の少なくとも1つを解決できる積層体を提供することができる。また、本発明の好ましい実施形態により、耐擦傷性に優れる積層体を提供することができる。また、本発明の好ましい実施形態の積層体は、押圧による歪に対する復元性が高く、耐擦傷性に優れ、特に、押圧による歪が反復される場合に対する耐擦傷性が高く、耐久性に優れると共に、高い反射防止機能を有し、外観が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の積層体の実施形態を示す模式的断面図である。
【図2】ナノ凹凸構造を形成する為に使用するスタンパの製造工程の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[積層体]
本発明の積層体は、基材と中間層と表層から構成される。中間層は2層以上でもよいが、生産性とコストの点から1層であることが望ましい。
【0019】
本発明の一は、基材上に、中間層を介して、ナノ凹凸構造の表面を有する表層を設けた積層体であって、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した表層の貯蔵弾性率(SG)に対する中間層の貯蔵弾性率(MG)の比(MG/SG)が、0.003以上、0.14以下である積層体である。
【0020】
貯蔵弾性率は、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定したとき、表層の貯蔵弾性率(SG)に対する中間層の貯蔵弾性率(MG)の比(MG/SG)が、0.003以上、0.14以下である。20℃、振動周波数1Hzの測定におけるMG/SGは、0.01以上、0.08以下であることが好ましい。中間層と表層がこのような関係の貯蔵弾性率を有することにより、積層体において、負荷される押圧力や摩擦力に対し、これらのエネルギーを分散し、歪変形を抑制することができる。このため、弾性率が極めて高く、押圧力や摩擦に対し、割れ等の損傷を受けやすい表層のナノスケールの凹凸構造の損傷を抑制することができる。
【0021】
貯蔵弾性率は、中間層用材料(中間層原料とも称す)、表層用材料(表面層原料とも称す)をそれぞれ、厚さ500μmのフィルムに成形し、幅5mmの短冊状に打ち抜いて、中間層試験片と、表層試験片を調製し、これを用いて粘弾性測定装置DMS110(セイコーインスツルメンツ株式会社製)により、引張モード、チャック間2cm、1Hzにて−50〜150℃まで2℃/分の昇温の条件で測定し、20℃における中間層試験片の測定値(MG)と、表層試験片の測定値(SG)から、MG/SGを求めることができる。
【0022】
また、中間層と表層は、粘弾性測定装置を用いて振動周波数1Hzの条件で測定した表層のゴム状平坦領域の貯蔵弾性率の極小値(sg)に対する、中間層のゴム状平坦領域の貯蔵弾性率の極小値(mg)の比(mg/sg)が0.009以上、0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.022以上、0.045以下の関係にある。中間層と表層のゴム状平坦領域の貯蔵弾性率の極小値が、このような関係を有することによって、ナノ凹凸表面構造の突起の折れや倒れを低減できる。中間層と表層の貯蔵弾性率は、それぞれの材質、架橋密度等を選択して調整することができる。
【0023】
ゴム状平坦領域は、粘弾性測定において、ガラス転位点より高温側で、温度変化に対して貯蔵弾性率の変化が小さい領域のことである。
【0024】
[基材]
基材は、中間層を介してナノ凹凸構造を表面に有する表層を支持可能なものであれば、その材質はいずれであってもよいが、後述するように、中間体を介して表層を活性エネルギー線の照射により硬化成形を可能とするため、表層の硬化に用いる活性エネルギー線の透過率が高い透光性を有し、活性エネルギー線に対する耐久性を有することが、表層の形成に、遮光性のスタンパの使用を可能とすることから、好ましい。基材の材質としては、具体的には、以下のものを挙げることができる。例えば、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体;セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート等の半合成高分子;ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル;ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン等;これらの複合物として、ポリメチルメタクリレートとポリ乳酸の複合物、ポリメチルメタクリレートとポリ塩化ビニルの複合物;ガラス等が挙げられる。
【0025】
基材は、シート状、フィルム状、立体形状を有するものでもよく、射出成形体、押し出し成形体、キャスト成形体等、いずれの方法によって製造されたかを問われるものではないが、上層の成形を容易にするため、可撓性を有するフィルム状であることが好ましい。基材の表面は、密着性、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性等の特性の改良を目的として、コーティングやコロナ処理が施されたものであってもよい。
【0026】
上記基材がフィルムの場合、その厚さは、500μm以下であることが好ましい。このようなフィルム基材の場合、成形体等の表面に用いて、ナノ凹凸表面を有する成形体を容易に製造することができる。
【0027】
[中間層]
中間層は、表層の貯蔵弾性率との関係において、特定の貯蔵弾性率を有するものであり、特定する貯蔵弾性率を有することにより、押圧力により表面が受ける歪を吸収し、表層に対する耐擦傷性を著しく向上させ、表層に割れ等の損傷が生じるのを抑制することができる。中間層が貯蔵弾性率を有するものとするため、その材質及び層厚を選択することが好ましい。
【0028】
中間層の材質としては、基材や表層との密着性を向上させる成分(密着性成分ともいう。)、復元力を向上させる弾性を有する成分(弾性成分ともいう。)、衝撃吸収能を向上させる成分(衝撃吸収成分ともいう。)等を含有することが好ましい。
【0029】
密着性成分としては、水素結合を形成できる極性部位を有する単量体単位を有することが好ましい。この極性部位としては、例えば、ウレタン結合、カルボキシル基、水酸基が挙げられる。カルボキシル基を有する単量体単位を構成するモノマーとしては、具体的に、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸等を挙げることができる。水酸基を有する単量体単位を構成するモノマーとしては、具体的に、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。また、ラクトン変性(メタ)アクリレート(市販品として、プラクセル(登録商標)シリーズ(ダイセル化学社製)等も挙げることができる。さらに、極性部位を有する単量体単位を構成するモノマーとしては、単官能モノマーに限らず、多官能モノマーも挙げることができる。多官能モノマーとして、具体的に、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の複数の重合性二重結合と水酸基を有するモノマーが挙げられる。尚、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
【0030】
上記ウレタン結合を有する単量体単位を構成するモノマーとして、具体的に、例えば、多官能ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。また市販品としては、例えば、Ebecryl(登録商標)シリーズ(ダイセル・サイテック社製)、アロニックス(登録商標)シリーズ(東亞合成社製)、KAYARAD(登録商標)シリーズ(日本化薬社製)等を使用することができる。上記モノマーは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
弾性成分としては、硬化樹脂の水素結合を強固に形成できるような単量体単位が好ましい。このような単量体単位を構成するモノマーとして、炭素数13〜25の長鎖アルキル基を有するポリカプロラクトン変性活性エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレート等のウレタン(メタ)アクリレートが好適である。このようなモノマーは、特許第3676260号公報等に詳しく記載されている。上記単量体単位を構成するモノマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
衝撃吸収成分としては、柔軟であって、運動性の高い側鎖を有する単量体単位が好ましい。かかる単量体単位を構成するモノマーとしては、アルキル基部分の炭素数が4以上のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数が4以上のポリアルキレンオキサイドモノ(メタ)アクリレートを挙げることができる。また、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃以下になるようなモノマーが好ましい。その具体例として、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。アルキレンオキサイドの繰返し数は所望に物性に応じて選択することができる。これらの単量体単位を構成するモノマーは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
これらの成分は、各成分のモノマーの重合体とし、重合体の混合物として、中間層に含有させることもできるが、上記モノマーを単量体単位として含有する共重合体とすることもできる。
【0034】
中間層中の上記密着性成分は、樹脂成分100質量部に対して、10〜30質量部が好ましく、弾性成分は、40〜80質量部が好ましく、衝撃吸収成分は、3〜20質量部が好ましい。密着性成分を、上記範囲で含有することにより、表層との密着を強力にし、押圧力が負荷された際にも、ずり変形による中間層と表層間の界面剥離が生じるのを抑制し、表層の損傷を抑制することができる。
【0035】
また、衝撃吸収成分の含有量が3質量部以上であれば、中間層に良好な衝撃吸収能を付与することができ、表層に割れ等の損傷が生じるのを抑制することができ、20質量部以下であれば、中間層の強度低下が抑制され、耐擦傷性を向上させ、破壊や剥離を抑制できる。
【0036】
また、弾性成分が上記範囲であれば、押圧力が負荷されて生じる変形、歪の復元性を高めることができ、特に、反復して負荷される押圧力に対し、優れた復元力を有し、表層のナノスケールの凸部の損傷を抑制することができる。
【0037】
中間層は、その他、必要に応じて、上記モノマーから得られる重合体以外の樹脂や、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、近赤外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。特に、帯電防止剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等が表層に含有されると、ナノ凹凸構造の形状の維持が困難になる場合があることから、これらの添加剤は、表層には含有されず、中間層に含有されることが、積層体の耐擦傷性、反射抑制の点から、好ましい。
【0038】
上記帯電防止剤は、積層体に埃等が付着するのを抑制する。帯電防止剤としては、具体的には、例えば、ポリチオール系、ポリチオフェン系、ポリアニリン系等の導電性高分子や、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の無機物微粒子、特開2007−70449号公報に例示されるようなリチウム塩、4級アンモニウム塩等を用いることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、積層体の透明性を損なわず、比較的安価で、安定した性能を発揮するパーフルオロアルキル酸リチウム塩が好ましい。
【0039】
帯電防止剤の中間層中の含有量は、樹脂成分100質量部に対し、0.5〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。帯電防止剤を0.5質量部以上添加することで、積層体の表面抵抗値を下げ、埃が付着するのを抑制することができる。また、コスト面から20質量部以下とすることが好ましい。良好な帯電防止性能を発揮させるためには、表層の厚みを100μm以下にすることが好ましく、より好ましくは、50μm以下である。
【0040】
近赤外線吸収剤は、積層体に断熱効果を付与し、積層体をプラズマディスプレイ等に用いた場合、各種家電の赤外線リモコンの誤作動を抑制することができる。近赤外線吸収剤としては、具体的には、例えば、ジイモニウム系色素、フタロシアニン系色素、ジチオール系金属錯体系色素、置換ベンゼンジチオール金属錯体系色素、シアニン系色素、スクアリウム系色素等の有機系のものや、導電性アンチモン含有錫酸化物微粒子、導電性錫含有インジウム酸化物微粒子、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子等の無機系のものを挙げることができる。
【0041】
これらの各種添加剤は、表層に添加してもよいが、中間層に添加することにより、ナノ凹凸表面形状の維持が阻害されるのを抑制すると共に、経時的にブリードアウトが生じるのを抑制することができる。
【0042】
上記中間層の厚さは、8μm以上40μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上30μm以下、更に好ましくは10μm以上25μm以下、特に好ましくは15μm以上20μm以下である。中間層の厚さが8μm以上であれば、押圧力や摩擦等の積層体への負荷エネルギーを分散させて、表層のナノ凹凸構造の損傷を低減することができる。また、中間層の厚さが40μm以下であれば押圧時の圧縮変形量を低減し、表層がその変形量に追従できずに割れ等の損傷を受けるのを抑制することができる。中間層の厚さ精度は、±2μm以内が好ましく、±1μm以内がより好ましい。
【0043】
また、中間層は、表層との界面を明確にせずに、中間層組成から表層組成へ漸次に移行する構造を有することが、中間層と表層間の密着力を強固にでき、中間層と表層間のずり変形による界面剥離を抑制できることから好ましい。その場合、漸次に移行する領域の中央部分を境界として、中間層の厚さを特定することができる。
【0044】
更に、中間層は単一層、多層構造を有するもの、いずれであってもよいが、単一層とすることが、生産効率及びコストの点から、好ましい。
【0045】
中間層は上記モノマーと添加剤とを含有する中間層用原料、或いは、上記モノマーを予め重合して得られた重合体と添加剤とを含有する中間層用原料を塗布して塗布膜を成形し、この塗布膜を加熱等により、溶剤を除去して、乾燥し、硬化して形成することもできるが、後述するように、上記モノマーと活性エネルギー線重合開始剤とを含有する塗料を用いて塗布膜を形成し、活性エネルギー線照射によりモノマー重合硬化して形成することが好ましい。
【0046】
また、中間層を形成する為の中間層原料(樹脂組成物)としては、下記の重合性モノマー成分、ポリマー成分、活性エネルギー線重合開始剤、又はその他の成分等も好適に用いることができる。なお、重合性モノマーについては上記の説明と重複する記載もある。
【0047】
本発明の実施形態において、中間層を形成するための樹脂組成物は、重合性モノマー成分を含むことが好ましい。重合性モノマー成分は、好ましくは、中間層に密着性、耐擦傷性を付与するために用いられる。
【0048】
また、本発明の実施形態において、中間層は20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した中間層の重合性モノマー成分のtanδ(損失正接)が0.2以上である樹脂組成物を硬化させたものであることが好ましい。つまり、中間層に用いる重合性モノマー成分は、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定したtanδ(損失正接)が0.2以上であることが好ましい。また、本実施形態において、中間層の重合性モノマー成分のtanδ(損失正接)は、20°C、振動周波数1Hzにおいて、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.4以上2以下である。この範囲であれば積層体上の摩擦などのエネルギーをうまく分散でき、積層体の表層への傷付きを低減できる。なお、tanδは、貯蔵弾性率を損失弾性率で除した値であり、一般的な動的粘弾性測定によって評価・算出される。
【0049】
重合性モノマー成分のtanδは、例えば、以下のようにして求めることができる。まず、中間層に用いる重合性モノマーを硬化させて、必要に応じて溶剤を乾燥・除去し、厚さ500μmのフィルムに成形する。次に、このフィルムを幅5mmの短冊状に打ち抜いて試験片を作製する。そして、セイコーインスツルメンツ株式会社製の粘弾性測定装置DMS110(商品名)を用い、引張モード、チャック間2cm、1Hzにて−50〜100℃まで2℃/分の昇温の条件で測定して求めることができる。
【0050】
重合性モノマー成分は、所望の物性の中間層を形成でき、硬化反応によって硬化樹脂からなる中間層を形成できるものであれば良い。好ましくは、上述した各物性を示す硬化樹脂を生成できるモノマーが好ましい。
【0051】
また、重合性モノマー成分は、例えば、透明基材や表層との密着性に寄与する成分、中間層に復元力を付与する成分、中間層に衝撃吸収能を付与する成分を含有することが好ましい。
【0052】
基材や表層との密着性に寄与する成分としては、水素結合を形成できる極性部位を有するモノマーが好ましい。この極性部位としては、例えば、ウレタン結合、カルボキシル基、水酸基が挙げられる。カルボキシル基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸が挙げられる。水酸基を有するモノマーの具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミドが挙げられる。また、ラクトン変性(メタ)アクリレート[市販品としてはダイセル化学社製の「プラクセル(登録商標)」シリーズ等]も挙げられる。さらに、単官能モノマーに限らず、多官能モノマーも使用できる。多官能モノマーの具体例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の複数の重合性二重結合と水酸基を有するモノマーが挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。ウレタン結合を有するモノマーの具体例としては、多官能ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。また市販品としては、例えば、ダイセル・サイテック社の「EbecryI(登録商標)」シリーズ、東亜合成社製の「アロニックス(登録商標)」シリーズ、日本化薬社製の「KAYARAD(登録商標)」シリーズを使用できる。
【0053】
中間層に復元力を付与する成分としては、硬化樹脂の水素結合を強固に形成できるようなモノマーが好ましい。特に、炭素数13〜25の長鎖アルキル基を有するポリカプロラクトン変性活性エネルギー線硬化性ウレタン(メタ)アクリレート等のウレタン(メタ)アクリレートが好適である。このようなモノマーは、特許第3676260号公報等に詳しく記載されている。
【0054】
中間層に衝撃吸収能を付与する成分としては、柔軟であって、運動性の高い倒鎖を有するモノマーが好ましい。そのようなモノマーは、例えば、アルキル基部分の炭素数が4以上のアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキサイド部分の炭素数が4以上のポリアルキレンオキサイドモノ(メタ)アクリレートである。また、ホモポリマーのガラス転移温度が0℃以下になるようなモノマーが好ましい。中でも、上記ポリアルキレンオキサイドモノ(メタ)アクリレートが好ましい。その具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレード、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。アルキレンオキサイドの繰返し数は所望に応じて決定することができる。
【0055】
重合性モノマー成分中の基材や表層との密着性に寄与する成分の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、10〜30質量部が好ましい。重合性モノマー成分中の中間層に復元力を付与する成分の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、40〜80質量部が好ましい。重合性モノマー成分中の中間層に衝撃吸収能を付与する成分の含有量は、樹脂成分100質量部に対して3〜20質量部が好ましい。密着性に寄与する成分の含有量が上記範囲であれば、表層との密着を強力にし、押圧力が負荷された際にも、ずり変形による中間層と表層間の界面剥離が生じるのを抑制し、表層の損傷を抑制できる。衝撃吸収能を付与する成分の含有量が3質量部以上であれば、中間層に良好な衝撃吸収能を付与することができ、表層に割れ等の損傷が生じるのを抑制でき、20質量部以下であれば、中間層の強度低下が抑制され、耐擦傷性を向上させ、破壊や剥離を抑制できる。復元力を付与する成分の含有量が上記範囲内であれば、押圧力が負荷されて生じる変形、歪の復元性を高めることができ、特に、反復して負荷される押圧力に対し、優れた復元力を有し、表層のナノスケールの凸部の損傷を抑制できる。
【0056】
また、本発明の実施形態において、中間層を形成するための樹脂組成物は、ポリマー成分を含むことが好ましい。ポリマー成分は、好ましくは、中間層に密着性を付与するために用いられる。
【0057】
ポリマー成分としては、酢酸ビニルとクロトン酸の混合物の付加重合により得られた酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を好適に使用できる。
【0058】
酢酸ビニル−クロトン酸共重合体中のクロトン酸単位は10質量%以下であることが好ましい。10質量%以下とすることで、中間層の親水性が下がり、表層樹脂との親和性を高め、密着性を発現することができる。
【0059】
ポリマー成分の分子量は、重量平均分子量で10,000以上100,000以下であることが好ましい。重量平均分子量を10,000以上とすることで、ポリマー成分に十分な凝集力を付与することができ、碁盤目剥離試験時の中間層の凝集破壊を防ぐことができる。また、重量平均分子量を100,000以下とすることで、ポリマー成分に十分なタック感を付与することができ、碁盤目剥離試験時の中間層界面での界面剥離を防ぐことができる。
【0060】
中間層原料(樹脂組成物)が酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を含有すると、中間層を設けた積層体に連続的に表層を賦形する場合、そのセット時間が短くとも十分な密着性を示す積層体を得ることができる。また、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体はクロトン酸単位を2質量%以上含むことが好ましい。2質量%以上含むことで、中間層の表面エネルギーを大きくし、表層樹脂との親和性を高め、中間層に密着性を付与することができる。また、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体はクロトン酸単位を10質量%以下含むことが好ましい。10質量%以下とすることで、中間層の親水性が下がり、表層樹脂との親和性を高め、密着性を発現することができる。また、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体の中間層原料中の含有量を15質量%以上とすることで、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体の密着性により、積層体に十分な密着性を付与することができ、40質量%以下とすることで、重合性モノマー成分の衝撃吸収性能を高いレベルで維持することができるため、積層体に十分な耐擦傷性を付与することができる。
【0061】
また、本発明の実施形態において、中間層は、樹脂組成物中にクロトン酸単位を2質量%以上含む酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を15〜40質量%含む樹脂組成物を硬化させたものであることが好ましい。すなわち、中間層原料を100質量%とした際に、クロトン酸単位を2質量%以上含む酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を15〜40質量%含む中間層原料を用いると、中間層を配置した積層体に連続的に表層を賦形する場合、そのセット時間が短くても十分な密着性を示し、かつ、鉛筆硬度試験で「3H」以上の高い耐擦傷性を示す積層体を得ることができる。
【0062】
また、中間層原料は、上記ポリマー成分(酢酸ビニル−クロトン酸共重合体)とともに、上記重合性モノマー成分(20℃において振動周波数1Hzの条件で測定したtanδ(損失正接)が0.2以上である重合性モノマー成分)を含むことが好ましい。この場合、上記重合性モノマー成分の添加量としては、好ましくは55〜85質量%であり、さらに好ましくは70〜80質量%である。上記重合性モノマー成分の添加量を55質量%以上とすることで、積層体に耐擦傷性を付与することができ、85質量%以下とすることで、上記ポリマー成分由来の密着性を維持することができる。
【0063】
上述の説明より、本実施形態において、中間層が、下記(A)および(B)のうち少なくとも1つを満たす樹脂組成物を硬化させたものであることが好ましい。また、より好ましくは、中間層は下記(A)及び(B)の両方を満たす樹脂組成物を硬化させたものであることが好ましい。
【0064】
(A)樹脂組成物中にクロトン酸単位を2質量%以上含む酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を15〜40質量%含む、
(B)重合性モノマーを含み、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した前記中間層の前記重合性モノマー成分のtanδ(損失正接)が0.2以上である。
【0065】
また、本発明の一は、基材上に、中間層を介して、ナノ凹凸構造の表面を有する表層を設けた積層体であって、前記中間層が、下記(A)および(B)のうち少なくとも1つを満たす樹脂組成物を硬化させたものである積層体、としても把握できる。中間層は下記(A)及び(B)の両方を満たす樹脂組成物を硬化させたものであることが好ましい。
【0066】
(A)樹脂組成物中にクロトン酸単位を2質量%以上含む酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を15〜40質量%含む、
(B)重合性モノマー成分を含み、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した前記重合性モノマー成分のtanδ(損失正接)が0.2以上である。
【0067】
本発明の実施形態において、中間層を形成するための樹脂組成物は、活性エネルギー線重合開始剤を含むことができる。活性エネルギー線重合開始剤は、活性エネルギー線を照射することで開裂して、重合反応性モノマー成分の重合反応を開始させるラジカルを発生する化合物であれば良く、特に限定されない。ここで、「活性エネルギー線」とは、例えば、電子線、紫外線、可視光線、プラズマ、赤外線などの熱線等を意味する。特に、装置コストや生産性の観点から、紫外線を用いることが好ましい。
【0068】
活性エネルギー線重合開始剤の種類や使用量は、例えば、中間層原料に活性エネルギー線を照射する環境が酸素存在下か又は窒素雰囲気下か、あるいは、中間層の表面を完全に硬化させたいか又は表面の硬化を不完全な状態にして表層を構成する原料を浸透し易くさせたいか、などの要求に応じて適宜決定すればよい。
【0069】
この活性エネルギー線重合開始剤としては、例えば、特開2009−31764号公報に記載の公知の各種重合開始剤を使用できる。
【0070】
本発明の実施形態において、中間層を形成するための樹脂組成物は、溶剤を含むことができる。上記高分子は、溶剤に溶解して使用することが好ましい。また、中間層原料は、必要に応じて溶剤で希釈されていてもよい。特に、高粘度で均一に塗布することが難しい場合は、コーティング方法に適した粘度となるよう適宜調整することが好ましい。また、溶剤で透明基材の表面を一部溶解することで、透明基材と中間層との密着性を改善することもできる。
【0071】
溶剤は、乾燥方法等に応じて適当な沸点を有するものを選択すればよい。溶剤の具体例としては、トルエンや、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0072】
本発明の実施形態において、中間層を形成するための樹脂組成物は、その他の成分を含むことができる。中間層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、近赤外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。特に、帯電防止剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等が表層に含有されると、ナノ凹凸構造の形状の維持が困難になる場合があることから、これらの添加剤は、表層には含有されず、中間層に含有されることが、積層体の耐擦傷性、反射抑制の点から、好ましい。
【0073】
中間層原料又は溶剤に溶かした高分子の粘度は、コーティング方法に合わせて最適な値に調整すればよい。また、その粘度に応じて、適切なコーティング方法を選択すればよい。例えば、粘度が50mPa・s以下の場合は、グラビアコーティングで透明基材に均一に塗布できる。
【0074】
以上説明した中間層原料を基材上に塗布し、活性エネルギー線を照射することにより、或いは、溶剤に溶かした高分子を塗布して溶剤を乾燥・除去することにより、中間層を形成できる。活性エネルギー線としては、装置コストや生産性の観点から紫外線を使用することが好ましい。紫外線の照射量は、中間層原料が含有する開始剤の量に合わせて適宜決定すればよい。紫外線を照射する環境は、酸素存在下であってもよいし、窒素雰囲気下であってもよい。あえて表面の硬化を不完全な状態にして、表層との密着性を向上することもできる。積算光量の目安は200〜10000mJ/cmである。
【0075】
[表層]
表層は、中間層上に設けられ、ナノ凹凸構造の表面を有し、中間層の貯蔵弾性率との関係において、特定の貯蔵弾性率を有する。ナノ凹凸構造を形成することができる材料として、架橋密度が高く、極めて高弾性を有する樹脂である必要がある。ナノ凹凸構造を有する表層は、引張破断伸びは5%以下であり、押圧力が負荷されると亀裂や損傷を受けやすい。一方、本発明の表層は、中間層との関係において、特定の貯蔵弾性率を有することにより、耐擦傷性を著しく向上させることができ、ナノ凹凸構造による反射防止性や、ロータス効果を長期に亘って維持することができる。
【0076】
表層の材質としては、ナノ凹凸構造を形成するために、架橋密度の高い高弾性樹脂であることが好ましい。かかる樹脂を構成する重合性成分としては、特開2009−31764号公報等に記載されているが、分子中にラジカル重合性結合や、カチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。
【0077】
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、単官能又は多官能モノマーいずれであってもよく、単官能モノマーとしては、具体的には、以下のものを挙げることができる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート誘導体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。
【0078】
ラジカル重合性結合を有する多官能モノマーとしては、具体的に、以下のものを挙げることができる。例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等の三官能モノマー;コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の四官能以上のモノマー;二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレート等が挙げられる。
【0079】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられ、エポキシ基を有するモノマーが特に好ましい。
【0080】
分子中にラジカル重合性結合及び/又はカチオン重合性結合を有するオリゴマー又は反応性ポリマーとしては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物等の不飽和ポリエステル類;ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独又は共重合体の重合性ポリマー等が挙げられる。
【0081】
上記の重合性成分を含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に用いる重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させる際に用いる活性エネルギー線の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0082】
例えば光硬化反応を利用する場合、光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンブインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4′−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
電子線硬化反応を利用する場合、重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンブエ−ト、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン;ベンブインメチルエーテル、ベンブインエチルエーテル、ベンブインイソプロピルエーテル、ベンブインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル,2,4,6−トリメチルベンブイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジエルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。重合開始剤が0.1質量部未満では、重合が進行しにくい。重合開始剤が10質量部を超えると、樹脂層(ナノ凹凸構造)が着色したり、機械強度が低下したりすることがある。
【0085】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、非反応性のポリマーを含有していてもよい。非反応性のポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂−スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0086】
また、表層の材質としては、特開2010−275525号公報等に記載されている、表面エネルギーが小さく、摩擦が小さい、耐擦傷性に優れた樹脂を用いることが好ましい。表層の材質として耐擦傷性に優れた樹脂を用いることで、中間層の衝撃吸収性能とあいまって、優れた耐擦傷性を有する積層体を得ることができる。表面エネルギーが小さい活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、例えば、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物等が挙げられる。
【0087】
アルコキシシラン化合物としては、RSi(OR′)で表されるものが挙げられる。R及びR′は炭素数1〜10のアルキル基を表し、x及びyはx+y=4の関係を満たす整数である。このようなアルコキシシラン化合物としては、具体的には、例えば、テトラメトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキンシラン、トリメチルブトキシシランなどが挙げられる。
【0088】
アルキルシリケート化合物としては、RO[Si(OR)(OR)O]で表されるものが挙げられる。R〜Rはそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基を表し、zは3〜20の整数を表す。このようなアルキルシリケート化合物としては、具体的には、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケートなどが挙げられる。
【0089】
表層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤を含有していてもよい。
【0090】
上記表層の厚さは、活性エネルギー線照射により硬化して形成する際、活性エネルギー線を未硬化の表層中に充分に進行させ、効率よく、均一に硬化を進行させ得る厚さであり、且つ、押圧力に対し、エネルギーを分散させ変形歪を生じさせ、復元可能とする厚さであることが好ましい。一方、過度に厚いと、割れ等の損傷が生じやすくなることから、表層の厚さは、中間層の厚さの0.4〜1.5倍、好ましくは0.5〜1.5倍、より好ましくは0.8〜1.2倍であり、具体的には、6〜29μm等とすることができ、より好ましくは8〜21μmである。
【0091】
表層の厚さは、上記中間層と同様の測定方法による測定値を採用することができ、中間層の界面から、凸部の先端までの距離である。
【0092】
[ナノ凹凸構造表面]
上記表層は表面にナノ凹凸構造を有する。凹凸構造は、凸部及び凹部が等間隔で形成された構造であり、図1(a)の断面図に示すように、表層12aの凸部13aの形状は、円錐状又は角錐状や、図1(b)の断面図に示すように、表層12bの凸部13bの形状は、釣鐘状等が挙げられ、表層膜面の垂直方向で切断したときの断面積の占有率が、凸部先端から表層の膜面に向かって、連続的に増大するような形状を有する。このように断面積が連続的に変化する凸部及び凹部が規則的に形成されることによって、凸部先端から、凹部の底部まで連続的に屈折率を増大させることができる。このため、ナノ凹凸構造表面は、波長に拘らず、反射を抑制し、反射防止性能を示す。
【0093】
良好な反射防止性能を発現するためには、表層のナノ凹凸構造の隣り合う凸部又は凹部の間隔w1(図1(a))は、可視光の波長以下のサイズであることが好ましい。可視光の波長は380〜780nm程度であり、間隔w1が400nm以下であれば、可視光の散乱を抑制し、反射を抑制でき、反射防止膜等の光学用途に好適である。間隔w1の下限値は、製造可能な範囲であればよく、例えば、スタンパを用いて製造する場合、20nm以上が好ましく40nm以上がより好ましい。また、最低反射率や特定波長の反射率の上昇を抑制する観点から、ナノ凹凸構造において、高さd1/間隔w1で表されるアスペクト比は0.5以上が好ましく、より好ましくは1以上であり、更に好ましくは2以上である。該アスペクト比が0.5以上であれば、光反射の抑制効果が良好に得られ、入射角依存性を小さくできる。該アスペクト比の上限は、製造可能な範囲であればよく、例えば、5以下であることが好ましい。凸部の高さ又は凹部の深さは、凹部の中心点(底点)14aから凸部の中心点(頂点)13aまでの垂直距離d1は60nm以上が好ましく、90nm以上がより好ましい。良好な反射防止性能を発現するナノ凹凸構造の形状や製造方法等は、特開2009−31764号公報等に記載される形状を採用することができる。
【0094】
表面のナノ凹凸構造の大きさは、ナノ凹凸構造の縦断面を10分間Pt蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(JSM−7400F:日本電子社製)により加速電圧3.00kVで観察し、隣り合う細孔の間隔(周期)及び細孔の深さを測定し、それぞれ10点ずつ測定し、その平均値を採用することができる。
【0095】
[積層体]
上記積層体は、具体的には、図1に示すように、基材11上に中間層15と表層12が順次積層されたものである。図1(a)の断面図に示すように、表層12の表面は、凸部13及び凹部14が等間隔で形成されている。凸部13の形状は円錐状又は角錐状であり、表層12膜面の垂直方向で切断したときの断面積の占有率が、凸部先端から表層の膜面に向かって、連続的に増大する構造を有する。凸部の先端から凹部の底部まで連続的に占有断面積が変化する凸部13bの形状としては、円錐状、角錐状に限らず、図1(b)に示す、釣鐘状等いずれであってもよい。
【0096】
このように断面積が連続的に変化する凸部及び凹部が規則的に形成されることによって、凸部先端から、凹部の底部まで連続的に屈折率を増大させることができ、波長に拘らず、反射を抑制し、反射防止性能を示す。
【0097】
[製造方法]
このような積層体は、活性エネルギー線を透過させる透光性基材上に中間層用原料を塗布して得られる塗布膜に、活性エネルギー線を照射する中間層形成工程と、中間層に対向して配置した前記ナノ凹凸構造の反転構造を有するスタンパと中間層間に、表層用原料を充填し、活性エネルギー線を照射して、表層用原料を硬化した後、スタンパを剥離する表層形成工程とを有する方法により製造することができる。
【0098】
[中間層形成工程]
中間層形成工程は、活性エネルギー線を透過させる透光性基材上に中間層用原料を塗布して得られる塗布膜に、活性エネルギー線を照射して中間層を形成する工程であり、主として、透光性基材上に塗布膜を形成する塗工工程と、これに活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程とを有する。
【0099】
上記塗布工程において、中間層用原料を調製する。中間層用原料は、上記中間層に含有する密着成分、弾性成分、衝撃吸収成分として例示した単量体単位を構成するモノマーから選択したモノマーの混合物と、活性エネルギー線重合開始剤とを混合し、適宜、その他、溶媒、上記添加剤を含有させ、粘度を調整して調製することができる。
【0100】
上記活性エネルギー線重合開始剤としては、活性エネルギー線照射により開裂して、モノマー成分の重合反応を開始させるラジカルを発生する化合物であることが好ましく、特開2009−31764号公報に記載されるものを使用することができる。使用する活性エネルギー線は、例えば、電子線、紫外線、可視光線、プラズマ、赤外線等を挙げることができる。これらのうち、装置コストや生産性の観点から、紫外線が好ましい。これらの線量は、酸素雰囲気等の環境や、目的とする硬化の程度等により選択することが好ましい。
【0101】
使用する溶媒は、粘度の調整を行うと共に、基材の表面を一部溶解し、基材と中間層との密着性を向上させることもできる。溶剤は、乾燥方法等に応じて適当な沸点を有するものを選択することができ、具体的には、トルエンや、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0102】
中間層用原料は、使用する塗工方法に応じてその粘度を調整することが好ましい。具体的には、50mPa・s以下の場合は、グラビアコーティングを適用することが好ましい。粘度の調整は、溶媒や、これに溶解する樹脂の量を調整することにより行うことができる。
【0103】
ここで、中間層用原料の粘度は、回転式E型粘度計による25℃における測定値を採用することができる。
【0104】
得られた中間層用原料を基材に塗工する塗工方法としては、グラビアコーティング等のコーティング、スプレー塗布、浸漬等、特開平01−216837号公報に記載の方法等、いずれであってもよい。エアナイフにより塗膜の厚さを制御することもできる。
【0105】
得られた塗工膜は、溶剤を除去するため、適宜、加熱、減圧等による乾燥を行うこともできる。但し、急速な乾燥は、塗膜の表面側のみが乾いて内部に溶剤が残る場合や、加熱により基材に変形を生じさせることもあり、溶剤の種類や含有量により、乾燥条件を選択することが好ましい。
【0106】
塗工膜の硬化工程は、活性エネルギー線を照射して、塗工膜を硬化する工程であり、酸素存在下で行うこともでき、窒素雰囲気において行うこともできる。活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。紫外線を照射するランプとしては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、フュージョンランプが挙げられる。紫外線の照射量は、重合開始剤の吸収波長や含有量に応じて決定すればよい。通常、その積算光量は、200〜4000mJ/cmが好ましく、400〜2000mJ/cmがより好ましい。紫外線の照射量が200mJ/cm以上であれば、中間層原料を十分に硬化させて、硬化不足に因る積層体の耐擦傷性低下を抑制することができ、4000mJ/cm以下であれば、中間層の着色や透明基材の劣化を抑制することができる。照射強度も特に制限されないが、透明基材の劣化等を招かない程度の出力に抑えることが好ましい。
【0107】
ここで、塗工膜を完全に硬化させてもよいが、完全に至らない状態、例えば、30〜70%程度の硬化を行ない、上層に設ける表層の硬化時に、硬化を完成させることが、表層との界面において、その組成を漸次に表層の組成へ移行させ、密着性の向上を図ることができるため、好ましい。塗工膜の硬化に使用する活性エネルギー線量の目安は、200〜4000mJ/cmであることが好ましく、500〜2000mJ/cmであることがより好ましい。
【0108】
また、硬化時の雰囲気は酸素濃度1%以下が好ましく、0.1%以下が特に好ましい。酸素濃度を1%以下とすることで、重合成組成物の反応を促進し、残存モノマー量が十分に小さい硬化物を得ることができる。酸素濃度を1%以下とする方法としては、例えば、中間層に活性エネルギー線を照射する際に窒素ガスを吹き付ける方法が挙げられる。
【0109】
中間層の残存モノマー量は3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、1質量%未満が特に好ましい。残存モノマー量を3質量%以下にすることで、中間層の表層のタック感を抑制することができる。中間層の表層にタック感があると、ロールツーロールで積層体を製造する際、ロールへの貼りつきが生じ製造困難となる場合がある。
【0110】
[表層形成工程]
表層形成工程は、中間層に対向して配置した前記ナノ凹凸構造の反転構造を有するスタンパと中間層間に、表層用原料を充填し、活性エネルギー線を照射して、表層用原料を硬化した後、スタンパを剥離する表層形成工程であり、主として、表層用原料を調製する工程と、中間層とスタンパ間に表層用原料を充填、硬化する成形工程と、スタンパを剥離する工程とを有する。
【0111】
[表層用原料の調製工程]
表層用原料の調製工程においては、上記表層に含有する高架橋密度、高硬度の樹脂を構成するモノマーと、活性エネルギー線重合開始剤とを混合し、適宜、その他、溶媒、上記添加剤を含有させ、粘度を調整して調製することができる。
【0112】
表層用原料中、重合開始剤の含有量は、モノマー成分100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。重合開始剤が0.1質量部以上であれば、重合を効率よく進行させることができ、10質量部以下であれば、樹脂層(微細凹凸構造)が着色したり、機械強度が低下するのを抑制することができる。
【0113】
表層用原料に用いる溶媒としては、粘度の調整と共に、中間層の一部を溶解し、中間層へ表層用原料を浸透させることができるものが、中間層と表層の密着性を向上させることができることから、好ましい。表層用原料に用いる溶媒として、具体的には、中間層用原料に使用する溶媒と同様のものを用いることができる。
【0114】
このような表層用原料の粘度は、樹脂組成物の25℃における回転式B型粘度計で測定される粘度が、10000mPa・s以下であることが、スタンパと中間層間への充填が容易であることから、好ましく、より好ましくは、5000mPa・s以下であり、更に好ましく、2000mPa・s以下である。但し、25℃における粘度が10000mPa・s以上の表層用原料であっても、スタンパと中間層間へ充填する際に、予め表層用原料を加温して上記範囲の粘度とすることが可能であるなら、作業性を阻害しないことから、使用することができる。樹脂組成物の70℃における回転式B型粘度計で測定される粘度は、5000mPa・s以下が好ましく、2000mPa・s以下がより好ましい。表層用原料の粘度も中間層用原料の粘度の測定方法と同様の測定方法による測定値を採用することができる。
【0115】
また、ベルト状やロール状のスタンパを用いてナノ凹凸構造を有する表層を連続生産する場合、その作業性を考慮すると、表層用原料の25℃における回転式B型粘度計で測定される粘度は、100mPa・s以上が好ましく、より好ましくは150mPa・s以上であり、更に好ましくは、200mPa・s以上である。表層用原料の粘度が上記範囲にあれば、中間層とスタンパ間に充填した表層用原料がスタンパから漏洩するのを抑制し、その硬化物の厚みを容易に調整することができる。
【0116】
表層用原料の粘度は、モノマーの種類や含有量を調節することで調整できる。具体的には、水素結合等の分子間相互作用を有する官能基や化学構造を含むモノマーを多量に用いることにより、表層用原料の粘度を高くすることができ、分子間相互作用のない低分子量のモノマーを多量に用いると、表層用原料は低粘度に調整することができる。
【0117】
この表層用原料は、その硬化物の屈折率n1が1.40以上であることが好ましく、より好ましくは1.43以上であり、更に好ましくは1.49以上である。該屈折率n1が1.40以上であれば、反射抑制効果を得ることができる。また、表層用原料の硬化物の屈折率n1が1.55以下であることが好ましく、より好ましくは1.52以下である。該屈折率n1が1.55以下であれば、表層において、透光性の低下や着色を抑制することができる。ここで屈折率は、例えば、JIS K7142に準じた測定方法による測定値を採用することができる。
【0118】
また、表面用原料を硬化させた硬化物の引張弾性率は、1GPa以上が好ましい。そのような樹脂組成物を使用すれば、ナノ凹凸構造表面の凸部同士が傾斜するのを抑制することができる。
【0119】
[成形工程]
上記成形工程においては、形成するナノ凹凸構造の反転構造を有するスタンパを中間層に対向して配置し、スタンパと中間層間に、表層用原料を充填することにより、一工程でナノ凹凸構造を形成することができる。この工程については、特開2009−31764号公報等に記載される方法を適用することができるが、以下の方法を挙げることができる。
【0120】
[スタンパの製造方法]
スタンパは、ナノ凹凸構造の反転構造が表面に形成されたものであり、スタンパの材料としては、金属(表面に酸化皮膜が形成されたものを含む。)、石英、ガラス、樹脂、セラミックス等が挙げられる。スタンパの形状としては、ロール状、円管状、平板状、シート状等が挙げられる。スタンバのナノ凹凸構造は表層に形成するナノ凹凸構造の反転構造であり、その大きさの測定は、スタンパの一部の縦断面を1分間Pt蒸着した後、上記表層のナノ凹凸構造の大きさの測定と同様の測定方法による測定値を採用することができる。
【0121】
スタンパの製造方法としては、電子ビームリソグラフィ法、レーザ光干渉法等が挙げられるが、大面積のスタンパやロール形状のスタンパを簡便に作製できるという点から、陽極酸化法によることが好ましい。
【0122】
陽極酸化法は、例えば、図2に示すように、以下の工程(a)〜(e)によって製造することができる。
【0123】
ここで使用するアルミニウム基材は、純度99.0%超のものを用いることが好ましく、より好ましくは、99.5%以上であり、更に好ましくは、99.9%以上である。アルミニウム純度が99.0%超であれば、陽極酸化により形成される細孔が枝別れすることなく規則正しく形成される。工程(a)に先立って、ナノ凹凸構造の反転構造を形成するアルミニウム基材の平面又は曲面(以下、被加工面ともいう。)の酸化皮膜を除去するため、クロム酸/リン酸混合液等に浸漬する前処理を行うこともできる。
【0124】
工程(a)(図2(a)):アルミニウム基材の被加工面を電解液中、定電圧下で陽極酸化して、細孔を有する第1の酸化皮膜を被加工面に形成する第1の酸化皮膜形成工程。
工程(b)(図2(b)):形成された第1の酸化皮膜を全て除去し、陽極酸化の細孔発生点を被加工面に形成する酸化皮膜除去工程。
工程(c)(図2(c)):細孔発生点が形成されたアルミニウム基材の被加工面を電解液中、定電圧下で再度陽極酸化し、前記細孔発生点に対応した細孔を有する第2の酸化皮膜を被加工面に形成する第2の酸化皮膜形成工程。
工程(d)(図2(d)):第2の酸化皮膜の一部を除去して、形成された細孔の孔径を拡大させる孔径拡大処理工程。
工程(e)(図2(e)):前記工程(c)と工程(d)を繰り返し行う工程。
【0125】
工程(a)
工程(a)においては、鏡面化されたアルミニウム基材の被加工面30を電解液中、定電圧下で陽極酸化し、アルミニウム基材の被加工面30に、細孔31を有する第1の酸化皮膜32を形成する。第1の酸化皮膜32の厚さは10μm以下が好ましい。
【0126】
陽極酸化においては高電圧で行うほど細孔径は大きくすることができる。使用する電解液としては、酸性電解液又はアルカリ性電解液を挙げることができるが、酸性電解液が好ましい。酸性電解液としては硫酸、シュウ酸、リン酸、あるいはこれらの混合物が使用できる。
【0127】
反応条件としては、例えば、シュウ酸を電解液として用いる場合、シュウ酸の濃度は、6.5質量%以下が好ましい。シュウ酸の濃度が6.5質量%以下であれば、陽極酸化時の電流値が高くなり粗い表面の酸化皮膜が形成されるのを抑制することができる。また、陽極酸化時の電圧を30〜60Vとすることにより、周期が100nm程度の規則性の高い細孔が形成され、ナノ凹凸構造が規則性を有するものとなり、撥水性の高い積層体が得られる。
【0128】
電解液の温度は、50℃以下が好ましく、35℃以下が更に好ましい。電解液の温度が50℃以下であれば、いわゆる「ヤケ」といわれる現象の発生を抑制し、規則性を有する細孔を形成することができる。
【0129】
工程(b)
工程(a)により形成された第1の酸化皮膜32を全て除去し、除去された第1の酸化皮膜の底部(バリア層と呼ばれる)に、細孔31に対応して周期的な窪み33が形成され、この窪みが、陽極酸化の細孔発生点となり、最終的に形成されるナノ凹凸構造の規則性を向上させることができる(例えば、益田、「応用物理」、2000年、第69巻、第5号、p.558参照。)。
【0130】
第1の酸化皮膜32の全部を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、アルミナを選択的に溶解する溶液によって除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等を用いることができる。
【0131】
工程(c)
細孔発生点33が形成されたアルミニウム基材の被加工面30を電解液中、定電圧下で再度陽極酸化して、細孔発生点に対応した円柱状の細孔35を有する第2の酸化皮膜34を形成する。工程(c)では、工程(a)と同様の条件(電解液濃度、電解液温度、化成電圧等)下で陽極酸化すればよい。工程(c)においても、陽極酸化を長時間施すほど、深い細孔を得ることができるが、ナノ凹凸構造を転写するためのスタンパとしては、工程(c)では厚さが0.01〜0.5μm程度の酸化皮膜を形成すればよく、工程(a)で形成するほどの厚さの酸化皮膜を形成する必要はない。
【0132】
工程(d)
工程(c)の後、第2の酸化皮膜34の一部を除去し、工程(c)で形成された細孔31の径を拡大させる孔径拡大処理を行って、細孔35の径を工程(c)で形成された細孔の径よりも拡大する。孔径拡大処理の具体的方法としては、アルミナを溶解する溶液に浸漬して、工程(c)で形成された細孔の径をエッチングにより拡大させる方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、5.0質量%程度のリン酸水溶液等を用いることができる。工程(d)の時間を長くするほど、細孔の径は大きくなる。
【0133】
工程(e)
再度、工程(c)を行って、細孔35の形状を径の異なる2段の円柱状とし、その後、再度、工程(d)を行う。このように、工程(c)と工程(d)を繰り返すことで、図2(f)に示すように、細孔35の形状を開口部から深さ方向に徐々に径が縮小するテーパー形状に形成することができ、その結果、周期的な複数の細孔からなる微細凹凸構造が形成された陽極酸化アルミナが被加工面に形成されたスタンパ20を得ることができる。
【0134】
工程(c)と工程(d)の繰り返し回数は、回数が多いほど滑らかなテーパー形状にすることができ、少なくとも合計で3回行うことが好ましい。工程(c)と工程(d)の条件、例えば、孔径拡大処理の時間、孔径拡大処理に利用する溶液の温度や濃度を適宜設定することにより、種々のテーパー形状を有する細孔を形成することができる。例えば、工程(d)の処理時間を短縮する等、エッチングの温度・濃度・時間等の条件を変更することによって、深部の拡径率が好適なスタンパを形成することができ、これを用いて、先鋭な先端を有するナノ凹凸構造の形成を可能とする。
【0135】
このように、先鋭な先端部を有する積層体を成形することができるスタンパとしては、最初の工程(c)で形成された細孔35の径に対し、最終工程で形成された先端部の細孔35の径が、1.1〜1.9倍であることが好ましく、より好ましくは1.1〜1.8倍であり、更に好ましくは1.1〜1.7倍である。細孔径倍率が上記範囲であれば、スタンパの反転ナノ凹凸構造の形状を忠実に転写することができる。
【0136】
スタンパの表面には、これを用いて成形した積層体から、スタンパの剥離を容易にするための、離型処理を行うことができる。離型処理としては、シリコーン系ポリマーやフッ素ポリマーをコーティングする方法、フッ素化合物を蒸着する方法、フッ素系またはフッ素シリコーン系のシランカップリング剤をコーティングする方法等が挙げられる。
【0137】
上記ナノ凹凸構造の反転構造を有するスタンパを、中間層に対向して配置し、スタンパと中間層間に表層用原料を充填し、活性エネルギー線を、透光性基材側から照射して、表層用原料を硬化する。活性エネルギー線は、上記中間層の形成において、具体的に例示したものと同様のものを使用することができ、例えば、高圧水銀ランプやメタルハライドランプから放射される活性エネルギー線を用いることができる。このとき、中間層において、完全に硬化を行わなかったときは、表層用原料の硬化と共に、中間層の硬化を行うことができる。活性エネルギー線の照射量は、硬化に必要な量であることが好ましく、例えば、100〜10000mJ/cmとすることができる。
【0138】
活性エネルギー線照射による表層用原料の硬化後、スタンパを剥離し、表層にナノ凹凸構造を有する積層体を得る。スタンパの剥離後、更に、必要に応じて、活性エネルギー線の照射を行ってもよい。
【0139】
本発明の積層体は、高い耐擦傷性と良好な反射防止性能を有し、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置のような画像表示装置、レンズ、ショーウィンドー、眼鏡レンズ等の対象物の表面に適用することができる。また、本発明の積層体は、高い耐擦傷性と良好な撥水性と共に、優れた反射防止性能を有することから、例えば、窓材、屋根瓦、屋外照明、カーブミラー、車両用窓、車両用ミラーの表面に適用することができる。
【0140】
上記積層体を適用する物品が、立体形状を有する場合は、積層体を対象物品の所定部分に貼付けることができ、また、適用物品が画像表示装置である場合は、その表面に限らず、その前面板に本発明の積層体を適用することもできる。上記以外にも、例えば、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、偏光分離素子等の光学用途や、細胞培養シートにも適用できる。
【0141】
[実施例]
以下、本発明について詳細に説明する。以下の記載において、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。
【0142】
[スタンパの作製]
純度99.99%のアルミニウム板を、羽布研磨及び過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨し鏡面化した。
【0143】
(a)工程
このアルミニウム板を、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で30分間陽極酸化を行った。
【0144】
(b)工程
上記工程で酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に6時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
【0145】
(c)工程
このアルミニウム板を、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒陽極酸化を行った。
【0146】
(d)工程
上記工程で酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
【0147】
(e)工程
前記(c)工程及び(d)工程を合計で5回繰り返し、周期100nm、深さ180nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。
【0148】
得られた陽極酸化ポーラスアルミナを脱イオン水で洗浄し、次いで表面の水分をエアーブローで除去し、フッ素系剥離材(ダイキン工業社製、商品名オプツールDSX)を固形分0.1質量%になるように希釈剤(ハーベス社製、商品名HD−ZV)で希釈した溶液に10分間浸漬し、20時間風乾して、表面上に細孔が形成されたスタンパを得た。
【0149】
[中間層用原料]
表1に示す配合量(部)で各成分を混合し、中間層用原料1〜13を得た。
【0150】
表1中の略号は以下の通りである。
「EB8402」:2官能ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック製、商品名EBECRYL8402)
「EB8465」:2官能ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック製、商品名EBECRYL8465)
「EB8701」:3官能ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック製)
「A−600」:2官能ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学製、商品名NKエステルA−600)
「M1200」:2官能ウレタンアクリレート(東亞合成製、商品名アロニックスM1200)
「ATM−4E」:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学製、商品名NKエステルATM−4E)
「TMPT−9EO」:エトキシ化トリメチロールプロパントリメタクリレート(新中村化学株製、商品名NKエステルTMPT−9EO)
「CHDMMA」:シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート(日本合成製)
「AP400」:ポリプロピレングリコール(繰返し数=7)モノアクリレート(日油製、商品名ブレンマーAP400)
「AM230」:末端メチル化ポリエチレングリコール(繰返し数=23)モノアクリレート(新中村化学工業社製、商品名NKエステルAM230G)
「Irg」:1.2 α-ヒドロキシアルキルフェノン(日本チバガイギー社製、商品名Irgacure 184)
「MEK」:メチルエチルケトン
【0151】
【表1】



【0152】
[実施例1]
以下の材料を混合して、活性エネルギー線硬化性表層用原料を調製した。
エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、商品名NKエステルATM−4E)80部
シリコーンジアクリレート(信越化学工業社製、商品名x−22−1602)15部
2−ヒドロキシエチルアクリレート5部
活性エネルギー線重合開始剤
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(日本チバガイギー社製、商品名DAROCURE 1173)0.5部
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(日本チバガイギー社製、商品名DAROCURE TPO)0.5部
【0153】
透明基材として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製、商品名A−4300、厚さ188μm)を用意した。この基材フィルム上に、バーコーターを用いて中間層用原料1を均一塗布し、80℃の乾燥機内に5分間静置した。次いで、中間層用原料を塗布した側から高圧水銀灯を用いて800mJ/cmのエネルギーで紫外線を照射して塗膜を硬化し、中間層を形成した。
【0154】
スタンパの細孔面上に表層用形成用の樹脂組成物を流し込み、その上に中間層が接するように基材フィルムを押し広げながら被覆した。この基材フィルム側から高圧水銀灯を用いて2000mJ/cmのエネルギーで紫外線を照射し、表層用原料を硬化した。その後スタンパを剥離して、ナノ凹凸構造を表面に有する積層体を得た。
【0155】
この積層体の表面には、スタンパのナノ凹凸構造が転写されており、図1(a)に示すような、隣り合う凸部13の間隔w1が100nm、凸部13の高さd1が180nmである略円錐形状のナノ凹凸構造が形成されていた。この積層体の耐擦傷性、鉛筆高度について以下のように評価した。結果を表2に示す。
【0156】
[耐擦傷性]
磨耗試験機(HEIDON:新東科学社製)に1cm四方のキャンバス布を装着し、100gの荷重をかけて、往復距離50mm、ヘッドスピード60mm/sの条件にて積層体の表面を3500回擦傷した。その後、外観を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
◎:傷が確認できない。
○:見る角度によって、または黒い布などの上に置いた場合にのみ、傷が確認される。
×:傷が確認される。
【0157】
[鉛筆硬度]
JIS K5600−5−4に準じて、荷重750gで試験を行った。試験後5分経った時点で、外観を目視にて観察し、傷が付かない鉛筆の硬度に基き、以下の規準で評価を行なった。
◎:4H以上
○:2Hを超え4H未満
×:2H以下
【0158】
[実施例2〜5、比較例1〜8]
表1に示す中間層原料を採用したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。評価結果を表2に示す。
【0159】
【表2】



【0160】
実施例1〜5の積層体は、往復擦傷試験後の外観が良好であり、優れた耐擦傷性を有していた。また実施例1〜3の積層体は鉛筆試験において「3H」以上を示した。
【0161】
比較例1の積層体は、表層の貯蔵弾性率に対する、中間層の貯蔵弾性率の比が低く、強度不足のため、鉛筆試験において表層が中間層とともに抉り取られたり、表層に割れや剥がれが生じた。比較例2〜5の積層体は、いずれも鉛筆試験において「3H」以上を示したが、1Hz、20℃における表層の貯蔵弾性率に対する中間層の貯蔵弾性率の比が高く、突起が脆くなって折れやすくなり、往復擦傷試験において明らかな傷が付いた。比較例6〜8の積層体は、1Hz、20℃における表層の貯蔵弾性率に対する中間層の貯蔵弾性率の比が高く、突起が脆くなって磨耗しやすくなり、往復擦傷試験において傷が付いた。またゴム状平坦部における表層の貯蔵弾性率の極小値に対する、中間層の貯蔵弾性率の極小値の比が高く、鉛筆試験において突起の折れによる傷が生じた。
【0162】
以下、本発明についてさらに実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。以下の記載において、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。また、各種測定及び評価方法は以下の通りである
【0163】
(1)スタンパの細孔の測定:
陽極酸化ポーラスアルミナからなるスタンパの一部の縦断面を1分間Pt蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、商品名JSM−7400F)により加速電圧3.00kVで観察し、隣り合う細孔の間隔(周期)及び細孔の深さを測定した。具体的にはそれぞれ10点ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0164】
(2)ナノ凹凸構造の凹凸の測定:
ナノ凹凸構造の縦断面を10分間Pt蒸着し、上記(1)の場合と同じ装置及び条件にて、隣り合う凸部又は凹部の間隔及び凸部の高さを測定した。具体的にはそれぞれ10点ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0165】
(3)密着性の評価:
JIS K 5400に準拠し、碁盤目剥離試験を行い中間層と表層との密着性を評価した。基盤には厚さ2mmのアクリル板を用いた。碁盤目は10×10の100マスによって行い、100マス中で剥離が起こらなかった数を評価した。
【0166】
(4)中間層中モノマー成分の硬化物の粘弾性測定:
重合性モノマー成分を光硬化させて厚さ500μmのフィルムに成形し、このフィルムを幅5mmの短冊状に打ち抜いたものを試験片とし、セイコーインスツルメンツ株式会社製粘弾性測定装置DMS110を用い、引張モード、チャック問2cm、振動周波数1Hzにて−50〜100℃まで2℃/分で昇温の条件で測定し、tanδを求めた。
【0167】
(5)各層の厚さの測定:
基材、中間層形成後、表層形成後のそれぞれの厚さを測ることで、各層の厚さを算出した。
【0168】
(6)鉛筆硬度試験:
JIS K5600−5−4に準じて、荷重750gで積層体表面の試験を行った。試験後5分経った時点で、外観を目視にて観察し、傷が付かない鉛筆の硬度を記した。2Hで傷が付かず、3Hで傷が付く場合は「2H」と表記した。
【0169】
(7)残存モノマー量の測定:
硬化後の中間層をジメチルフォルムアミドに溶かし、ガスクロマトグラフ質量分析計(ヒューレッドパッカード製 HP6890)を用いて残存モノマー(g)を定量した。
【0170】
式「残存モノマー量(wt%)=残存モノマー(g)/中間層の重量(g)×100」により残存モノマー量を算出した。
【0171】
(8)表面タック感の評価:
硬化後の中間層表面を98KPaの圧力で指で触った際に付着物の有無を評価した。
【0172】
(9)耐擦傷性の評価
磨耗試験機(HEIDON:新東科学社製)に1cm四方のキャンバス布を装着し、100gの荷重をかけて、往復距離50mm、ヘッドスピード60mm/sの条件にて積層体の表面を3500回擦傷した。その後、外観を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
◎:傷が確認できない。
○:見る角度によって、または黒い布などの上に置いた場合にのみ、傷が確認される。
×:傷が確認される。
【0173】
[スタンパの作製]
純度99.99%のアルミニウム板を、羽布研磨及び過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨し鏡面化した。
【0174】
(a)工程:
このアルミニウム板を、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度可16℃の条件で30分間陽極酸化を行った。
【0175】
(b)工程:
上記工程で酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に6時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
【0176】
(c)工程:
このアルミニウム板を、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒陽極酸化を行った。
【0177】
(d)工程:
上記工程で酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
【0178】
(e)工程:
前記(c)工程及び(d)工程を合計で5回線り返し、周期100nm、深さ180nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。
【0179】
得られた陽極酸化ポーラスアルミナを脱イオン水で洗浄し、次いで表面の水分をエアーブローで除去した。その後、フッ素系剥離材(ゲイキンエ業社製、商品名オプツールDSX)を固形分0.1質量%になるように希釈剤(ハーベス社製、商品名HD一ZV)で希釈した溶液に陽極酸化ポーラスアルミナを10分間浸漬した後、20時間風乾し、表面上に細孔が形成されたスタンパを得た。
【0180】
[中間層原料]
表3に示す配合量(部)で各成分を混合し、中間層原料を得た。表3略号は以下の通りである。
【0181】
・「EB8402」:2官能ウレタンアクリレート(ゲイセル・サイテツク製、商品名EBECRYL8402)
・「CHDMMA」:シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート(日本合成製)
・「AP−400」:ポリプロピレングリコール(繰返し数=7)モノアクリレート(日油製、商品名ブレンマーAP−400)
・「CH−09」:クロトン酸単位を8質量%含む酢酸ビニル−クロトン酸共重合体(電気化学工業(株)製、商品名ASR CH−09)
・「TPO」:2,4,6−トリメチルベンブイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(日本チバガイギー社製、商品名Darocure TPO)
・「IRG184」:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(日本チバガイギー(株)製、商品名Irgacure 184)
・「MEK」:メチルエチルケトン
【0182】
【表3】



【0183】
(表層形成用の樹脂組成物の調製)
エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、商品名NKエステルA TM−4E)80部、シリコーンジアクリレート(信越化学工業社製、商品名x−22−1602)15部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5部、活性エネルギー線重合開始剤として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(日本チバガイギー社製、商品名DAROCURE1173)0.5部及び2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(日本チバガイギー社製、商品名DAROCURE TPO)0.5部を混合して、表層形成用の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を得た。
【0184】
[実施例A1]
(中間層の形成)
透明基材としてトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製、FT DT80ULM商品名 厚さ80μm)を用い、表3に示した中間層原料をこの基材フィルム上に、バーコーターを用いて均一に塗布して塗工膜を形成し、100℃の乾燥機内に5分間静置し、中間層を形成した。また、中間層を形成する際に、溶剤乾燥後に中間層原料を塗布した側から高圧水銀灯を用いて、酸素濃度1000ppm以下の窒素雰囲気下で5000mJ/cmのエネルギーで紫外線を照射して塗工膜を硬化させた
【0185】
(ナノ凹凸構造を有する表層の形成)
スタンパの細孔面上に表層形成用の樹脂組成物を流し込み、15秒間かけて該表面形成用の樹脂組成物の上に中間層が接するように基材フィルムを押し広げながら該樹脂組成物を被覆した。この基材フィルム側から高圧水銀灯を用いて空気下で1000mJ/cmのエネルギーで紫外線を照射し、樹脂組成物を硬化した。その後スタンパを剥離して、ナノ凹凸構造を表面に有する積層体を得た。
【0186】
この積層体の表面には、スタンパのナノ凹凸構造が転写されており、図1(a)に示すような、隣り合う凸部13の間隔w1が100nm、凸部13の高さd1が180nmである略円錐形状のナノ凹凸構造が形成されていた。このナノ凹凸構造体の各性能を評価した。結果を表3に示す。
【0187】
[比較例A1]
中間層を形成せずに、基材上に直接表層を形成した以外は、実施例A1と同様にして積層体を得た。評価結果を表3に示す。
【0188】
[実施例A2]
中間層を空気下で1000mJ/cmのエネルギーで照射し硬化させた以外は実施例A1と同様にして積層体を得た。評価結果を表3に示す。
【0189】
また、実施例A1及びA2においては、鉛筆硬度試験で3Hの鉛筆を用いた際に傷が残らず、高い耐擦傷性を有していた。実施例A2は中間層の残存モノマーが4質量%であったため、実施例A1よりもタック感があった。
【0190】
比較例A1の積層体は中間層が無いため、基材と表層の密着性が十分では無かった。
【産業上の利用可能性】
【0191】
本発明の積層体は、表面壁や屋根などの建材用途、家屋や自動車、電車、船舶などの窓材や鏡、人が手で触れうるディスプレイなどに利用可能であり、工業的に極めて有用である。
【符号の説明】
【0192】
10 積層体
11 透明基材
12 表層
13、13b 凸部
13a 凸部の頂点
14 凹部
14a 凹部の底点
15 中間層
48
W1 隣り合う凸部の間隔
d1 凹部の底点から凸部の頂点までの垂直距離
20 スタンパ
30 被加工面
31 細孔
32 第1の酸化皮膜
33 細孔発生点
34 第2の酸化皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、中間層を介して、ナノ凹凸構造の表面を有する表層を設けた積層体であって、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した表層の貯蔵弾性率(SG)に対する中間層の貯蔵弾性率(MG)の比(MG/SG)が、0.003以上、0.14以下である積層体。
【請求項2】
振動周波数1Hzの条件で測定した表層のゴム状平坦領域における貯蔵弾性率の極小値(sg)に対する中間層のゴム状平坦領域における貯蔵弾性率の極小値(mg)の比(mg/sg)が、0.009以上、0.05以下である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記中間層が、下記(A)および(B)のうち少なくとも1つを満たす樹脂組成物を硬化させたものである、請求項1又は2に記載の積層体;
(A)樹脂組成物中にクロトン酸単位を2質量%以上含む酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を15〜40質量%含む、
(B)重合性モノマー成分を含み、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した前記重合性モノマー成分のtanδ(損失正接)が0.2以上である。
【請求項4】
前記中間層が、前記(A)および前記(B)の両方の条件を満たす樹脂組成物を硬化させたものである請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
基材上に、中間層を介して、ナノ凹凸構造の表面を有する表層を設けた積層体であって、
前記中間層が、下記(A)および(B)のうち少なくとも1つを満たす樹脂組成物を硬化させたものである、積層体;
(A)樹脂組成物中にクロトン酸単位を2質量%以上含む酢酸ビニル−クロトン酸共重合体を15〜40質量%含む、
(B)重合性モノマー成分を含み、20℃において振動周波数1Hzの条件で測定した前記重合性モノマー成分のtanδ(損失正接)が0.2以上である。
【請求項6】
前記中間層が、前記(A)および前記(B)の両方の条件を満たす樹脂組成物を硬化させたものである請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記中間層が活性エネルギー線照射による硬化物からなる請求項1乃至6の何れかに記載の積層体。
【請求項8】
前記中間層の厚さが、8μm以上、40μm以下である請求項1乃至7の何れかに記載の積層体。
【請求項9】
前記中間層が、帯電防止剤、紫外線吸収剤及び近赤外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも一種を含有する請求項1乃至8の何れかに記載の積層体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の積層体の製造方法であって、
前記基材は活性エネルギー線を透過させる透光性基材であり、
(1)前記透光性基材上に前記中間層の原料を塗工して得られる塗工膜を形成する工程と、
(2)前記塗工膜に、活性エネルギー線を照射して前記中間層を形成する工程と、
(3)前記中間層に対向して配置された前記ナノ凹凸構造の反転構造を有するスタンパと前記中間層との間に、前記表層の原料を配置する工程と、
(4)前記表層の原料に活性エネルギー線を照射して前記表層を形成する工程と、
(5)前記スタンパを前記表層から剥離する工程と、
を含む積層体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(2)において、前記塗布膜が完全に硬化しない条件で前記活性エネルギー線を照射する請求項10記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記工程(2)において、前記中間層の残存モノマー量が3質量%以下となるよう前記活性エネルギー線を照射する請求項10又は11に記載の積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−196965(P2012−196965A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54430(P2012−54430)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】