説明

積層体及びその製造方法

高分子基材の少なくとも片面に、カルボキシル基含有重合体層と多価金属化合物含有層とが隣接して配置された層構成を有する積層体であって、多価金属化合物含有層が、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する積層体、並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、高分子基材上に、ポリ(メタ)アクリル酸に代表されるカルボキシル基含有重合体を含有する層と多価金属化合物を含有する層とが隣接して配置された層構成を有する積層体に関し、さらに詳しくは、ガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れ、低湿条件下ではもとより、高湿条件下でのガスバリア性に優れた積層体に関する。また、本発明は、該積層体の製造方法に関する。
本発明において、積層体とは、例えば、コーティング法、ラミネーション法、蒸着法、またはこれらの方法の組み合わせにより、各層が形成された多層構造体をいう。また、本発明において、フィルムとは、厚みが0.25mm未満のものだけではなく、0.25mm以上のシートをも意味するものとする。さらに、本発明において、ポリ(メタ)アクリル酸とは、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸若しくはこれらの混合物を意味する。
【背景技術】
ポリビニルアルコールフィルムは、ガスバリア性に優れているが、耐湿性及び耐水性が不十分であり、ガスバリア性の湿度依存性も大きく、吸湿によって酸素ガスバリア性が著しく低下し易い。エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルムは、ガスバリア性及び耐水性が比較的良好であるものの、ガスバリア性の湿度依存性が大きい。ポリ(メタ)アクリル酸フィルムは、相対湿度0%のような乾燥条件下では優れたガスバリア性を示すが、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に劣り、特に高湿条件下においてガスバリア性が著しく低下する。
従来、ポリ(メタ)アクリル酸またはその部分中和物とポリビニルアルコールまたは糖類との混合物から形成された塗膜を熱処理することにより、ガスバリア性、耐水性、耐熱水性に優れ、ガスバリア性の湿度依存性が小さなフィルムを得る方法が提案されている(例えば、日本国の特許第2736600号公報、特許第2811540号公報、特許第3203287号公報、及び特許第3340780号公報)。
これらの方法により得られたガスバリア性フィルムは、熱処理により、ポリ(メタ)アクリル酸またはその部分中和物とポリビニルアルコールまたは糖類との間にエステル結合が生成し、高度に架橋(「エステル架橋」という)されている。
上記4件の文献に記載された方法により得られたガスバリア性フィルムの耐熱水性や耐水蒸気性を更に高めるために、エステル結合に加えて、金属イオンによるイオン結合を導入する方法が提案されている。
例えば、ポリ(メタ)アクリル酸とポリビニルアルコールまたは糖類との混合物からなる塗膜を熱処理してフィルムを作製し、次いで、該フィルムをアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む媒体中に浸漬処理して、ポリ(メタ)アクリル酸と金属との間にイオン結合を導入する方法が提案されている(例えば、特開平10−237180号公報)。
特開平10−237180号公報に記載の方法によれば、耐熱水性及び耐水蒸気性が向上したガスバリア性フィルムを製造することができる。しかし、この方法では、熱処理したフィルムを、金属化合物または金属イオンを含有する水溶液などの媒体中において、例えば、90〜130℃程度の高温で比較的長時間にわたって浸漬処理を行う必要がある。
また、ポリ(メタ)アクリル酸またはその部分中和物とポリビニルアルコールまたは糖類との混合物から形成された塗膜の表面に金属化合物層を形成し、該塗膜中への金属化合物の移行によりイオン結合を形成させる方法が提案されている(例えば、特開2000−931号公報)。該塗膜は、熱処理してポリ(メタ)アクリル酸またはその部分中和物とポリビニルアルコールまたは糖類との間にエステル結合が形成されている。
塗膜上に金属化合物層を形成する前記方法によれば、金属化合物層からの金属イオンの移行による固相反応により、塗膜中にイオン結合が形成されて、ガスバリア性、耐熱水性、耐水蒸気性が更に優れたフィルムを製造することができる。この方法により得られたガスバリア性フィルムには、熱処理により生成したエステル結合からなるエステル架橋構造に加えて、カルボキシル基と金属イオンとの間のイオン結合によるイオン架橋構造が導入されている。
上記特開2000−931号公報に記載の方法において、金属化合物層として多価金属化合物と樹脂とを含む混合物層を用いると、層間接着性に優れた多層フィルムを得ることができるが、その場合に、多価金属イオンの移行効率を十分に高めることが望まれていた。
さらに、上記方法では、ポリ(メタ)アクリル酸またはその部分中和物とポリビニルアルコールまたは糖類との間にエステル結合による架橋構造を形成することが必要である。エステル結合を形成しない場合には、エステル架橋されていないポリビニルアルコールまたは糖類の存在により、多層フィルムの耐熱水性や耐水蒸気性が損なわれる。このエステル結合の形成には、前記組成を持つ塗膜を高温条件下で熱処理する必要があることに加えて、エステル結合による強い架僑構造を有しているため、多層フィルムの廃棄処理や再生処理が困難である。
したがって、用途分野や廃棄処理、再生処理などの観点から、ガスバリア性に優れた多層フィルムを得るのに、エステル結合を形成させる場合だけではなく、必ずしもエステル結合を形成しなくても適用可能な方法が求められていた。
【発明の開示】
本発明の目的は、カルボキシル基含有重合体を多価金属によりイオン架橋してなるガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れ、低湿条件下ではもとより、高湿条件下でのガスバリア性にも優れた重合体層を含む積層体を提供することにある。
特に本発明の目的は、高分子基材の少なくとも片面にカルボキシル基含有重合体層と多価金属化合物含有層とが隣接して配置された層構成を有する積層体において、多価金属化合物含有層からの多価金属化合物粒子の移行性に優れた積層体を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、カルボキシル基含有重合体層が必ずしも架橋剤成分(例えば、ポリビニルアルコール、糖類)を含有しなくても、多価金属によるイオン架橋のみで、ガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れた積層体を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記の如き諸特性を有する積層体の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、ポリ(メタ)アクリル酸のようなカルボキシル基含有重合体を多価金属でイオン架橋することにより、ガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れ、低湿条件下ではもとより、高湿条件下でのガスバリア性にも優れたフィルムが得られることを見出した。
具体的には、高分子基材の少なくとも片面に、カルボキシル基含有重合体層を形成し、該カルボキシル基含有重合体層の片面または両面に多価金属化合物含有層を隣接して配置した積層体を形成する。その際、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する混合物を用いて多価金属化合物含有層を形成すると、カルボキシル基含有重合体層への多価金属化合物粒子の移行が効率良く進行し、酸素ガスバリア性に優れた積層体を効率的に得ることができる。
カルボキシル基含有重合体層が架橋剤成分を含有しない場合には、カルボキシル基含有重合体層は、イオン結合のみで架橋されている。このようなカルボキシル基含有重合体層は、通常の使用条件下で、水、熱水、水蒸気などによって溶解したり形状が崩れたりすることはないが、強酸性または強アルカリ性の水に溶解するため、廃棄処理や再生利用が容易である。もちろん、カルボキシル基含有重合体層には、必要に応じて、架橋剤成分を含有させて、エステル結合などによるイオン架橋以外の架橋構造を導入してもよい。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明によれば、高分子基材の少なくとも片面に、カルボキシル基含有重合体層(A)と多価金属化合物含有層(B)とが隣接して配置された層構成を有する積層体であって、多価金属化合物含有層(B)が、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有することを特徴とする積層体が提供される。
また、本発明によれば、高分子基材の少なくとも片面に、(1)カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液を塗布し、乾燥させてカルボキシル基含有重合体層(A)を形成させる工程1と、(2)工程1の前または後に、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する塗工液を塗布し、乾燥させて多価金属化合物含有層(B)を形成させる工程2とを含む、高分子基材の少なくとも片面に、カルボキシル基含有重合体層(A)と多価金属化合物含有層(B)とが隣接して配置された層構成を有する積層体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、多層フィルムの層構成について、その一例を示す断面図である。
図2は、多層フィルムの層構成について、他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
1.高分子基材
本発明で使用する高分子基材の材質は、特に制限されず、各種ポリマーを用いることができる。基材の形態は、一般に、フィルムまたはシート(以下、単に「フィルム」という)、板などの平坦な表面を有するものであるが、所望により、ボトル、カップ、トレー、袋などの容器;その他の立体構造を有するものであってもよい。
基材としては、プラスチックフィルムが好ましく用いられる。プラスチックフィルムを構成するプラスチックの種類には、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂があり、特に制限されないが、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン、環状ポリオレフィンなどのオレフィン重合体類及びその酸変性物;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニル重合体類及びその変性物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類;ポリε−カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレートなどの脂肪族ポリエステル類;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、メタキシレンアジパミド・ナイロン6共重合体などのポリアミド類;ポリエチレングリコール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシドなどのポリエーテル類;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどのハロゲン化重合体類;ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどのアクリル重合体類;ポリイミド樹脂;その他、アルキド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの塗料用バインダー樹脂;セルロース、澱粉、プルラン、キチン、キトサン、グルコマンナン、アガロース、ゼラチンなどの天然高分子化合物;を挙げることができる。
高分子基材としては、これらプラスチック類からなる未延伸フィルムや延伸フィルムが好ましいが、所望により、これらのプラスチック類からなるボトル、カップ、トレー、袋などの容器を用いることができる。
また、プラスチックフィルムや容器などの表面上に、酸化珪素、酸化アルミニウム、アルミニウム、窒化珪素などの無機化合物;金属化合物;などからなる薄膜が、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法により形成されたものを高分子基材として用いることができる。一般に、これらの無機化合物や金属化合物からなる薄膜は、ガスバリア性の付与を目的に用いられる。
2.カルボキシル基含有重合体
本発明で使用するカルボキシル基含有重合体は、分子内に2個以上のカルボキシル基を有する重合体であり、「ポリカルボン酸重合体」と呼ばれることがある。カルボキシル基含有重合体としては、カルボキシル基含有不飽和単量体の単独重合体、カルボキシル基含有不飽和単量体の共重合体、カルボキシル基含有不飽和単量体と他の重合性単量体との共重合体、及び分子内にカルボキシル基を含有する多糖類(「酸性多糖類」ともいう)が代表的なものである。
カルボキシル基には、遊離のカルボキシル基のみならず、酸無水物基(具体的には、ジカルボン酸無水物基)も含まれる。酸無水物基は、部分的に開環してカルボキシル基となっていてもよい。カルボキシル基の一部は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、あるいはアンモニアなどの揮発性の塩基により、部分的に中和されていてもよい。この場合、中和度は、20%以下であることが好ましい。
また、ポリオレフィンなどのカルボキシル基を含有していない重合体にカルボキシル基含有不飽和単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体も、カルボキシル基含有重合体として使用することができる。アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基)のような加水分解性のエステル基を持つ重合体を加水分解して、カルボキシル基に変換した重合体をカルボキシル基含有重合体として使用することもできる。
カルボキシル基含有不飽和単量体としては、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸が好ましい。したがって、カルボキシル基含有重合体には、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸の単独重合体、2種以上のα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体、及びα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸と他の重合性単量体との共重合体が含まれる。他の重合性単量体としては、エチレン性不飽和単量体が代表的なものである。
α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸無水物;これらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸がより好ましい。
α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能な他の重合性単量体、特にエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン;プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;酢酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸アルキルエステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデンなどの塩素含有ビニル単量体;フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのフッ素含有ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;イタコン酸アルキルエステル類;などを挙げることができる。
これらのエチレン性不飽和単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、カルボキシル基含有重合体がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸と酢酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステル類との共重合体である場合は、該共重合体をケン化して飽和カルボン酸ビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換した共重合体も使用することができる。
カルボキシル基含有多糖類としては、例えば、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチンなどの分子内にカルボキシル基を有する酸性多糖類を挙げることができる。これらの酸性多糖類は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、酸性多糖類をα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸の(共)重合体と組み合わせて使用することもできる。ここで、用語「(共)重合体」は、単独重合体または共重合体若しくはこれらの混合物を意味する。
本発明で用いるカルボキシル基含有重合体が、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体である場合には、得られるフィルムのガスバリア性、耐熱水性、耐水蒸気性の観点から、その共重合組成は、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体組成が60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
カルボキシル基含有重合体は、ガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れ、高湿条件下でのガスバリア性にも優れたフィルムが得られやすい点で、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみの重合によって得られる単独重合体または共重合体であることが好ましい。
カルボキシル基含有重合体がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる(共)重合体の場合、その好ましい具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸の重合によって得られる単独重合体、共重合体、及びそれらの2種以上の混合物である。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸の単独重合体及び共重合体がより好ましい。
カルボキシル基含有重合体としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びこれらの2種以上の混合物が特に好ましい。酸性多糖類としては、アルギン酸が好ましい。これらの中でも、入手が比較的容易で、諸物性に優れたフィルムが得られやすい点で、ポリアクリル酸が特に好ましい。
カルボキシル基含有重合体の分子量は、特に制限されないが、フィルム形成性とフィルム物性の観点から、数平均分子量が2,000〜10,000,000の範囲であることが好ましく、5,000〜1,000,000の範囲であることがより好ましく、10,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましい。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。GPC測定では、一般に、標準ポリスチレン換算で重合体の数平均分子量が測定される。
本発明のフィルムを構成する重合体として、カルボキシル基含有重合体以外にも、フィルムのガスバリア性、耐熱水性、耐水蒸気性などの特性を損なわない範囲内において、他の重合体を混合して用いることができる。多くの場合、カルボキシル基含有重合体のみを使用することが好ましい。
原料として使用するカルボキシル基含有重合体は、それを単独で用いて形成したフィルムについて、30℃及び相対湿度0%の乾燥条件下で測定した酸素透過係数が好ましくは1,000cm・μm/(m・day・MPa)以下、より好ましくは500cm・μm/(m・day・MPa)以下、特に好ましくは100cm・μm/(m・day・MPa)以下のものであることが望ましい。原料として使用するカルボキシル基含有重合体の酸素透過係数が低すぎると、本発明の積層体におけるカルボキシル基含有重合体層(A)のガスバリア性、熱水または水蒸気に対する安定性(耐熱水性、耐水蒸気性)が不十分となり易い。
原料として使用するカルボキシル基含有重合体の酸素透過係数は、以下の方法により求めることができる。カルボキシル基含有重合体を水に溶解して濃度10重量%の水溶液を調製する。この水溶液を、バーコーターを用いて、プラスチックフィルム基材上に塗布し、乾燥することにより、乾燥厚さ1μmのカルボキシル基含有重合体層が形成されたコーティングフィルムを作製する。得られたコーティングフィルムについて、30℃及び相対湿度0%の条件下における酸素透過度を測定する。プラスチックフィルム基材として、その酸素透過度が比較的大きいプラスチックフィルムを用いる。得られたカルボキシル基含有重合体の乾燥塗膜を有するコーティングフィルムの酸素透過度が、基材として用いたプラスチックフィルム単独の酸素透過度に対して、10分の1以下であれば、その酸素透過度の測定値を実質的にカルボキシル基含有重合体層単独の酸素透過度と見なすことができる。
上記のようにして得られた測定値は、厚さ1μmのカルボキシル基含有重合体層の酸素透過度であるため、その測定値に1μmを乗じることにより、酸素透過係数に変換することができる。酸素透過度の測定は、例えば、モダンコントロール(Modern Control)社製の酸素透過試験器オクストラン(OXTRAN)2/20を用いて行うことができる。酸素透過度の測定方法は、ASTM D 3985−81〔JIS K 7126に規定されているB法(等圧法)に相当〕に従って実施する。測定値は、単位cm(STP)/(m・day・MPa)で表記することができるが、STPは、酸素の体積を規定するための標準条件(0℃、1気圧)を意味するので、STPを割愛して表記することがある。
本発明では、カルボキシル基含有重合体層(A)を形成するのに、カルボキシル基含有重合体のみを用いることができるが、必要に応じて、カルボキシル基含有重合体を架橋することができる架橋剤成分を用いることができる。
架橋剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、多糖類、グリセリンなどのポリアルコール類;ジイソシアネート化合物、ジエポキシ化合物、カルボジイミド化合物等を挙げることができる。架橋剤は、カルボキシル基含有重合体層(A)を塗工法により形成する際、カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液に含有させて用いる。架橋処理は、カルボキシル基含有重合体と架橋剤を含有する塗工液を塗布し、乾燥させた後、熱処理することにより行うことができる。
架橋剤としてポリビニルアルコールや糖類などのポリアルコール類を用いる場合には、その種類や使用割合、熱処理による架橋条件などは、前述の6つの特許文献を参照することができる。例えば、カルボキシル基含有重合体とポリアルコール類との割合は、通常、5:95〜90:10の重量比である。エステル架橋形成のための熱処理条件は、通常100℃以上、好ましくは100〜300℃、より好ましくは160〜230℃の温度で、通常30秒間〜48時間、好ましくは1分間〜24時間、より好ましくは5分間〜1時間の熱処理時間である。
また、電子線や紫外線などの活性エネルギー線によって、カルボキシル基含有重合体自体を架橋することもできる。この場合、カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液を塗布し、乾燥した塗膜に活性エネルギー線を照射して、架橋構造を形成する。
3.多価金属化合物粒子
本発明で用いる多価金属化合物粒子は、金属イオンの価数が2以上の多価金属原子単体及び多価金属化合物の粒子である。したがって、本発明で使用する多価金属化合物には、多価金属原子単体も含まれる。
多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどの周期表2A族の金属;チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属;アルミニウムを挙げることができるが、これらに限定されない。
多価金属化合物の具体例としては、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン性不飽和カルボン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。無機酸塩としては、例えば、塩化物、硫酸塩、硝酸塩を挙げることができるが、これらに限定されない。多価金属のアルキルアルコキシドも多価金属化合物として使用することができる。これらの多価金属化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
多価金属化合物の中でも、塗工液(コーティング液)の分散安定性と形成される多層フィルムのガスバリア性の観点から、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、及びジルコニウムの化合物が好ましく、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、コバルト、及びニッケルなどの2価金属の化合物がより好ましい。
好ましい2価金属化合物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルトなどの酸化物;炭酸カルシウムなどの炭酸塩;乳酸カルシウム、乳酸亜鉛、アクリル酸カルシウムなどの有機酸塩;マグネシウムメトキシドなどのアルコキシド;などを挙げることができるが、これらに限定されない。
多価金属化合物含有層(B)は、通常、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する塗工液を塗布し、乾燥することにより形成される。多価金属化合物は、粒子の形態で用いられ、塗工液中ではもとより、多価金属化合物含有層中でも粒子形状が維持される。
多価金属化合物粒子の平均粒子径は、塗工液の分散安定性と多価金属化合物粒子の移行性の観点から、好ましくは10nmから10μm(10,000nm)、より好ましくは12nmから1μm(1,000nm)、さらに好ましくは15nmから500nm、特に好ましくは15nmから50nmの範囲であることが望ましい。
多価金属化合物粒子の平均粒子径が大きすぎると、得られる塗膜の膜厚の均一性、表面の平坦性、カルボキシル基含有重合体とのイオン架橋反応性などが不十分となり易い。多価金属化合物粒子の平均粒子径が小さすぎると、カルボキシル基含有重合体とのイオン架橋反応が早期に進行するおそれがあり、また、10nm未満の超微粒子をその状態で均一分散させることが困難である。
多価金属化合物粒子の平均粒子径は、乾燥した固体の場合には、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて計測と計数を行うことにより測定することができる。塗工液中の多価金属化合物粒子の平均粒子径は、光散乱法により測定することができる〔参考文献:「微粒子工学体系」第1巻、第362〜365頁、フジテクノシステム(2001)〕。多価金属化合物粒子は、一次粒子、二次粒子、またはこれらの混合物として存在するが、多くの場合、平均粒子径からみて二次粒子として存在するものと推定される。
4.バインダー樹脂
本発明で使用するバインダー樹脂としては、例えば、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの塗料用として汎用のバインダー樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、多価金属化合物と反応するカルボキシル基を含有しない樹脂である。これらのバインダー樹脂は、単独で用いてもよいが、硬化剤を併用することが多い。
5.界面活性剤
本発明では、多価金属化合物粒子の分散性を高めるため、界面活性剤を使用する。界面活性剤とは、分子内に親水性基と親油性基の両方を持つ化合物であり、アニオン性、カチオン性、両性のイオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤があるが、本発明では、いずれの界面活性剤でも使用することができる。
アニオン系界面活性剤には、例えば、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型がある。カルボン酸型としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルサルコシン酸塩、N−アシルグルタミン酸塩がある。スルホン酸型としては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(分岐鎖)ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリン酸塩が挙げられる。硫酸エステル型としては、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩が挙げられる。リン酸エステル型としては、例えば、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩型、第4級アンモニウム塩型がある。アルキルアミン塩型としては、例えば、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩が挙げられる。第四級アンモニウム塩型としては、例えば、ハロゲン化(塩化、臭化またはヨウ化)アルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化アルキルベンザルコニウムが挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン型、2−アルキルイミダゾリンの誘導体型、グリシン型、アミンオキシド型がある。カルボキシベタイン型としては、例えば、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタインが挙げられる。2−アルキルイミダゾリンの誘導体型としては、例えば、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインが挙げられる。グリシン型としては、例えば、アルキル若しくはジアルキルジエチレントリアミノ酢酸が挙げられる。アミノオキシド型としては、例えば、アルキルアミンオキシドが挙げられる。
非イオン性の界面活性剤としては、例えば、エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型がある。エステル型としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステルが挙げられる。エーテル型としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。エステルエーテル型としては、例えば、脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンが挙げられる。アルカノールアミド型としては、例えば、脂肪酸アルカノールアミドが挙げられる。
スチレン−アクリル酸共重合体などのポリマー骨格を有する界面活性剤も使用することができる。
これらの界面活性剤の中でも、リン酸エステルなどのアニオン系界面活性剤、スチレン−アクリル酸共重合体などのポリマー骨格を有する界面活性剤などが好ましい。
6.積層体とその製造方法
本発明の積層体は、高分子基材の少なくとも片面に、少なくとも1層のカルボキシル基含有重合体層(A)と少なくとも1層の多価金属化合物含有層(B)とが隣接して配置された層構成を有する積層体である。カルボキシル基含有重合体層(A)と多価金属化合物層(B)は、高分子基材の片面または両面に形成するが、多くの場合、片面に形成するだけで所望のガスバリア性を持つ積層体を得ることが可能である。
本発明の積層体の基本的な層構成は、
(i)高分子基材/カルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)、
(ii)高分子基材/多価金属化合物含有層(B)/カルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)、
(iii)高分子基材/カルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)/カルボキシル基含有重合体層(A)
である。
上記の基本的な層構成に加えて、積層体の片面または両面に、少なくとも1つの他の樹脂層を配置してもよい。その他の樹脂層を配置する方法は、特に制限されず、例えば、ラミネーション法やコーティング法などを採用することができる。他の樹脂層としては、基材として用いた樹脂層が挙げられるが、それらに限定されず、ヒートシール性、耐摩耗性、耐熱性などの所望の特性を付与することができる各種樹脂層を配置することが可能である。さらに、本発明の積層体には、所望により、ラミネーション法や蒸着法により金属箔や酸化珪素などの金属層または無機酸化物層などを1層以上形成することができる。
高分子基材の厚みは、特に限定されず、用途に応じて適宜選定することができる。本発明の積層体を多層フィルムの用途に用いる場合には、高分子基材の厚みは、通常1μm〜1mm、好ましくは3〜500μm、より好ましくは5〜100μmの範囲である。カルボキシル基含有重合体層(A)の厚みは、特に限定されないが、フィルム(塗膜)形成時の成形性や多層フィルムのハンドリング性の観点から、通常0.001μm〜1mm、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは、0.1〜10μm、特に好ましくは0.5〜5μmの範囲である。多価金属化合物含有層(B)の厚みは、通常0.001μm〜1mm、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは、0.1〜10μmの範囲である。
本発明の積層体を製造するには、カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液を用いて、高分子基材上または高分子基材上に形成した多価金属化合物含有層上に塗布し、乾燥させて塗膜を形成する。多価金属化合物含有層を形成するには、多価金属化合物、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する塗工液を用いて、高分子基材上または高分子基材上に形成したカルボキシル基含有重合体層上に塗布し、乾燥させて塗膜を形成する。
すなわち、本発明の積層体は、高分子基材の少なくとも片面に、(1)カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液を塗布し、乾燥させてカルボキシル基含有重合体層(A)を形成させる工程1と、(2)工程1の前または後に、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する塗工液を塗布し、乾燥させて多価金属化合物含有層(B)を形成させる工程2とを含む方法により製造することができる。工程1及び工程2は、必要に応じて、順次多数回実施することができる。
カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液は、カルボキシル基含有重合体を均一に溶解または分散することができる溶媒を用いて調製する。溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;N,N−ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒;を挙げることができる。
カルボキシル基含有重合体と溶媒を含有する塗工液中のカルボキシル基含有重合体の濃度は、特に限定されないが、塗工液の安定性、均一性、塗工作業性などの観点から、好ましくは0.1〜60重量%、より好ましくは0.5〜25重量%、特に好ましくは1〜10重量%の範囲であることが望ましい。カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液には、前述の架橋剤を含有させることができる。
カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液には、ガスバリア性を損なわない範囲内で、必要に応じて、その他の重合体、柔軟剤、安定剤、アンチブロッキング剤、粘着剤、モンモリロナイトに代表される無機層状化合物、着色剤、紫外線吸収剤などの添加剤成分を適宜添加することができる。その添加量は、添加剤の総量として、カルボキシル基含有重合体の好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、特に好ましくは1重量%以下であることが望ましい。
多価金属化合物を含有する塗工液は、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を、溶媒に溶解または分散させることにより調製することができる。溶媒は、これらの成分を均一に溶解または分散することができるものであればよく、特に限定されないが、その具体例としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒;トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;を挙げることができる。これらの溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
多価金属化合物を含有する塗工液には、必要に応じて、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、アンチブロッキング剤、粘着剤などの添加剤を適宜・適量で添加することができる。
多価金属化合物粒子とバインダー樹脂との混合比(質量比)は、通常99:1〜1:99、好ましくは85:15〜20:80の範囲である。バインダー樹脂の割合が少なすぎると、カルボキシル基含有重合体層との層間接着性が低下傾向を示す。また、多価金属化合物粒子に対する界面活性剤の混合比(質量比)は、通常99.9:0.1〜50:50の範囲である。
塗工液中での多価金属化合物粒子の含有量は、通常0.05〜59重量%、好ましくは0.05〜30重量%、より好ましくは0.1〜30重量%の範囲である。塗工液中でのバインダー樹脂の含有量は、通常0.05〜50重量%、好ましくは0.05〜30重量%、より好ましくは0.1〜30重量%の範囲である。
界面活性剤は、多価金属化合物粒子が安定して分散するに足る量で用いられるが、塗工液の全量規準で、通常0.0001〜50重量%、好ましくは0.001〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%の割合で含有させることが望ましい。界面活性剤を添加しないと、塗工液中での多価金属化合物粒子の平均粒子径が十分に小さくなるように分散させることが困難になり、その結果、多価金属化合物粒子が均一に分散した塗工液を得ることが難しく、基材上またはカルボキシル基含有重合体層上に塗布するとき、膜厚が均一な塗膜を形成することが難しくなる。
多価金属化合物を含有する塗工液は、溶媒以外の成分の合計濃度が好ましくは0.1〜60重量%、より好ましくは0.5〜50重量%、特に好ましくは1〜30重量%の範囲内にあることが、作業性良く所望の膜厚の塗膜を得る上で好ましい。
カルボキシル基含有重合体に対する多価金属化合物粒子の割合は、カルボキシル基含有重合体のカルボキシル基の合計(At)に対する多価金属化合物粒子の合計(Bt)の化学当量が0.6以上となる割合であることが好ましい。この化学当量は、より好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上である。この化学当量の上限は、通常10.0、好ましくは5.0、より好ましくは2.0である。カルボキシル基含有重合体のカルボキシル基に対する多価金属化合物粒子の化学当量が小さすぎると、カルボキシル基含有重合体層(フィルム)のガスバリア性、耐熱水性、耐水蒸気性などの諸特性が低下傾向を示す。
カルボキシル基の合計は、遊離のカルボキシル基だけではなく、カルボン酸多価金属塩となっているカルボキシル基など他の形態となっているものをも含む。同様に、多価金属化合物の合計は、カルボン酸多価金属塩となっているものも含む。また、これらの計算は、多層構成の全層について行う。
前記化学当量は、例えば、以下のようにして求めることができる。カルボキシル基含有重合体がポリアクリル酸で多価金属化合物が酸化マグネシウムの場合を例に挙げて説明する。ポリアクリル酸の質量を100gとした場合、ポリアクリル酸の単量体単位の分子量は72であり、単量体1分子当たり1個のカルボキシル基を有するため、ポリアクリル酸100g中のカルボキシル基の量は、1.39モルである。このとき、ポリアクリル酸100gに対する1.0化学当量とは、1.39モルを中和する塩基の量である。ポリアクリル酸100gに対して、酸化マグネシウムを0.6化学当量混合する場合、0.834モルのカルボキシル基を中和するだけの酸化マグネシウムを加えればよい。マグネシウムの価数は2価であり、酸化マグネシウムの分子量は40であるため、ポリアクリル酸100gに対する0.6化学当量の酸化マグネシウムとは、16.68g(0.417モル)である。
高分子基材上に、少なくとも1層のカルボキシル基含有重合体層(A)と少なくとも1層の多価金属化合物含有層(B)とが隣接して配置されるように、各塗工液を塗布し、乾燥させる。この場合、1つの塗工液を塗布し、乾燥させた後、その上に他の塗工液を塗布し、乾燥させる方法を採用する。層構成としては、前述の層構成を採用することができるが、高分子基材層をも含めた好ましい層構成としては、例えば、高分子基材層を「基材」、カルボキシル基含有重合体層を「A」、多価金属化合物含有層を「B」として表記すると、多層の層構成の具体例としては、例えば、図1に示す「基材/A/B」(基材1/カルボキシル基含有重合体層2/多価金属化合物含有層3)、図2に示す「基材/B/A/B」(基材21/多価金属化合物含有層22/カルボキシル基含有重合体層23/多価金属化合物含有層24)、あるいは「基材/A/B/A」が挙げられる。もちろん、これ以上の多層となるようにA及びBを交互に重ねて配置してもよい。基材とその上の塗膜との密着性を高めるために、接着剤層を配置することもできる。
各塗工液の塗工方法としては、スプレー法、ディッピング法、コーターを用いた塗布法、印刷機による印刷法など任意である。コーターや印刷機を用いて塗布する場合には、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式などのグラビアコーター;リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーターなどの各種方式を採用することができる。
塗膜の乾燥方去は、特に制限されず、溶媒を蒸発させて固形層を得ることができる方法であればよく、例えば、雰囲気環境下で自然乾燥させる方法、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、その他の任意の乾燥手段を用いる方法などが挙げられる。その他の乾燥方法としては、各種コーターに付属するアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤーなどの乾燥機が代表的なものである。乾燥条件は、塗膜やフィルム、基材などが熱による損傷を蒙らない範囲で任意に設定することができる。乾燥は、塗膜中の溶媒が実質的に除去されるまで行う。カルボキシル基含有重合体層(A)が架橋剤を含有する場合には、乾燥による溶媒の除去に加えて、エステル結合などの架橋構造を導入するための熱処理を行う。
高分子基材上に各層を形成した後、カルボキシル基含有重合体層(A)中へ隣接する多価金属化合物含有層(B)から多価金属化合物粒子を移行させて、カルボキシル基含有重合体の多価金属塩を形成し、カルボキシル基含有重合体層(A)中にカルボキシル基含有重合体の多価金属塩を形成させる。多価金属化合物粒子の移行は、多価金属イオンの形態での移行を含む。
多価金属化合物粒子の移行は、カルボキシル基含有重合体層(A)と多価金属化合物含有層(B)とを有する多層フィルムを常温・常湿下で長時間放置することによって行うことができるが、多価金属化合物粒子の移行を加速化させ、多層フィルムの二次成形加工前に所望のガスバリア性(酸素ガス透過度または酸素ガス透過係数)の水凖を付与するには、熱処理を行うか、あるいは所定の湿度と温度に調製した雰囲気下でエージング(調湿処理)させることが望ましい。
エージング方法としては、多層フィルムを、相対湿度が通常20%以上、好ましくは40〜100%、より好ましくは60〜100%、温度が通常5〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは30〜130℃の雰囲気下に放置する方法が挙げられる。エージングは、上記の条件に調整した気相中または液相中で行う。
エージング時間は、相対湿度や温度によって適宜調整し、所望のガスバリア性が得られるまでとするが、好ましくは10日以内、より好ましくは5日以内、さらに好ましくは2日以内である。エージング時の圧力は、0.001MPa(0.01atm)から1000MPa(10000atm)の範囲から適宜選択することができる。
本発明の積層体は、多価金属化合物含有層(B)からの多価金属化合物粒子の移行性に優れており、カルボキシル基含有重合体層(A)中のカルボキシル基含有重合体が多価金属イオンによってイオン結合(イオン架橋)され、それによって、ガスバリア性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れた塗膜(フィルム)を持つ積層体を得ることができる。バインダー樹脂が存在することにより、多価金属化合物含有層(B)とカルボキシル基含有重合体層(A)との接着性が改善される。界面活性剤が存在することによって、多価金属化合物粒子の移行性が促進される。カルボキシル基含有重合体層(A)がイオン架橋することにより、熱水や水蒸気中でも形状が保持される耐熱水性と耐水蒸気性が付与されることに加えて、高湿度条件下でも優れたガスバリア性を示す積層体を得ることができる。
本発明の積層体は、温度30℃と相対湿度0%、及び温度30℃と相対湿度80%のいずれの条件下においても、酸素透過度が、好ましくは1,000cm(STP)/(m・day・MPa)以下、より好ましくは500cm(STP)/(m・day・MPa)以下、特に好ましくは100cm(STP)/(m・day・MPa)以下のガスバリア性を有するものであることが望ましい。
本発明の積層体は、高分子基材を含む多層フィルムとして用いることが多い。本発明の積層体には、必要に応じて、ラミネーション法やコーティング法などにより、他の樹脂層を1層以上配置することができる。本発明の積層体は、酸素によって変質を受け易い食品、飲料、薬品、医薬品、電子部品などの包装材料として好適である。本発明の積層体は、ボトル、カップ、トレー、チューブ、袋などの包装容器の材料として好適である。このような容器への二次成形加工は、ヒートシール、シート成形(真空成形及び/または圧空成形)など任意である。
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明について、より具体的に説明する。本発明における物性の測定法及び評価法は、下記のとおりである。
(1)酸素透過度:
フィルムの酸素透過度は、酸素透過試験器(Modern control社製OXTRAN 2/20)を用いて、温度30℃及び相対湿度80%の雰囲気下で測定した。単位は、cm/(m・day・MPa)である。
調製例1(塗工液I)
ポリアクリル酸水溶液〔東亞合成(株)製、商品名「アロンA−10H」、濃度25重量%、数平均分子量200,000〕を水とイソプロパノール(IPA)で希釈して、ポリアクリル酸(PAA)の5重量%溶液(塗工液I)を調製した。この塗工液Iの溶媒組成は、水/IPA=50/50(重量比)であった。
調製例2(塗工液II)
ポリアクリル酸水溶液〔東亞合成(株)製、商品名「アロンA−10H」、濃度25重量%、数平均分子量200,000〕をIPAで希釈して、PAAの5重量%溶液を調製した。さらに、該溶液に含まれるPAAのアクリル酸単位のモル数に対して10mol%の割合の水酸化ナトリウムを添加し溶解して、アクリル酸単位の10mol%が中和されたPAA部分中和物溶液(塗工液II)を調製した。塗工液IIの溶媒組成は、水/IPA=90/10(重量比)であった。
調製例3(塗工液III)
ポリアクリル酸粉末〔Aldrich(株)製試薬、数平均分子量450,000〕をIPAに加温下に溶解し、PAAの5重量%溶液(塗工液III)を調製した。塗工液IIIの溶媒組成は、IPAが99重量%以上であった。
調製例4(塗工液IV)
調製例2で調製した塗工液IIに、架橋剤としてグリセリンを添加して、塗工液IVを調製した。塗工液IV中のPAA部分中和物とグリセリンとの比率は、60/40(重量比)であった。
調製例5(塗工液V)
多価金属化合物粒子として、微粒子炭酸カルシウム〔白石工業(株)製、白艶華O、平均粒子径40nm〕を用いた。樹脂として、ウレタン樹脂の溶液〔大日精化(株)製、商品名「インキ用メジウムNTハイラミック」、溶媒=酢酸エチル/酢酸プロピル/メチルエチルケトン/IPA〕を用いた。樹脂の硬化剤として、イソシアネート化合物の溶液〔大日精化(株)製、商品名「ラミックBハードナー」、溶媒=トルエン/メチルエチルケトン/酢酸エチル〕を用いた。界面活性剤として、ソルビタンモノステアレートを用いた。これらの成分を下記の割合になるように混合し、最終的に超音波ホモジナイザーを用いて混合して、塗工液Vを調製した。
炭酸カルシウム: 1000g
ウレタン樹脂(固形分): 500g
ソルビタンモノステアレート: 200g
硬化剤(固形分): 60g
溶媒: 3200g
溶媒は、トルエン/メチルエチルケトン/酢酸エチル/IPAの混合溶媒である。炭酸カルシウム/ウレタン樹脂の重量比は、67/33であり、炭酸カルシウム/界面活性剤の重量比は、84/16である。
調製例6(塗工液VI)
多価金属化合物粒子として、微粒子炭酸カルシウム〔白石工業(株)製、白艶華O、平均粒子径40nm〕を用いた。樹脂として、ドライラミネート用接着剤として用いられているポリエステル樹脂の溶液〔三井武田ケミカル(株)製、商品名「タケラックA−525」、溶媒=酢酸エチル〕を用いた。樹脂の硬化剤として、イソシアネート化合物の溶液〔三井武田ケミカル(株)、商品名「タケネートA52」、溶媒=酢酸エチル〕を用いた。界面活性剤としては、スチレン−アクリル酸共重合体〔大日精化(株)製〕を用いた。これらの成分を下記の割合になるように混合し、最終的に超音波ホモジナイザーを用いて混合して、塗工液VIを調製した。
炭酸カルシウム: 1000g
ポリエステル樹脂(固形分): 1000g
スチレン−アクリル酸共重合体: 1000g
硬化剤(固形分): 80g
酢酸エチル: 6000g
炭酸カルシウム/ポリエステル樹脂の重量比は、50/50であり、炭酸カルシウム/界面活性剤の重量比は、50/50である。
調製例7(塗工液VII)
多価金属化合物粒子として、微粒子酸化亜鉛〔シーアイ化成(株)製、商品名「超微粒子酸化亜鉛Nanotec」、平均粒子径20nm〕を用いた。樹脂として、ポリエステル−ウレタン樹脂の溶液〔住化バイエルウレタン(株)製、ポリエステル−ウレタン水性ディスパージョン、商品名「バイヒドロールPR240」、溶媒=水〕を用いた。界面活性剤として、丸菱油化工業(株)製のリン酸エステル塩型界面活性剤を用いた。これらの成分を下記の割合になるように混合し、最終的に超音波ホモジナイザーを用いて混合して、塗工液VIIを調製した。
酸化亜鉛: 1000g
ポリエステル−ウレタン樹脂(固形分): 500g
リン酸エステル塩型界面活性剤: 100g
水: 3400g
酸化亜鉛/ポリエステル−ウレタン樹脂の重量比は、67/33であり、酸化亜鉛/界面活性剤の重量は、91/9である。
調製例8(塗工液VIII)
塗工液Vにおいて、界面活性剤のソルビタンモノステアレートを添加しなかったこと以外は、調整例5と同様にして、塗工液VIIIを調製した。
調製例9(塗工液IX)
塗工液VIにおいて、界面活性剤のスチレン−アクリル酸共重合体を添加しなかったこと以外は、調整例6と同様にして、塗工液IXを調製した。
調製例10(塗工液X)
塗工液VIIにおいて、界面活性剤のリン酸エステル塩型界面活性剤を添加しなかったこと以外は、調整例7と同様にして、塗工液Xを調製した。
[実施例1]
2軸延伸ポリエステルフィルム〔PETフィルム;東レ(株)製、商品名「ルミラ−P60」、厚さ12μm〕上に、グラビアコーターを用いて塗工液Iを塗布し、乾燥させた(乾燥厚み1μm)。さらにその上に、グラビアコーターを用いて塗工液Vを塗布し、乾燥させた(乾燥厚み1μm)。
このようにして得られた多層フィルムを、温度30℃及び相対湿度80%の雰囲気に調整した恒温恒湿槽中に24時間静置して、金属イオンをPAAフィルム中に移行せしめ、固相反応でPAAの金属塩を形成させた。得られた多層フィルムの酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
[実施例2]
塗工液Iに代えて塗工液IIを用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を測定した。各塗膜の乾燥厚みは、いずれも1μmであった。
[実施例3]
塗工液Iに代えて塗工液IIIを用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を測定した。各塗膜の乾燥厚みは、いずれも1μmであった。
[実施例4]
PETフィルム〔東レ(株)製、商品名「ルミラ−P60」、厚さ12μm〕上に、グラビアコーターを用いて塗工液IVを塗布し、乾燥させた(乾燥厚み1μm)。乾燥後のフィルムをオーブン中で200℃及び15分間の条件で熱処理することにより、PAAとグリセリンとの間で架橋反応を行わせた。このようにして得られたフィルム上に、実施例1同様にグラビアコーターを用いて混合液Vを塗布し、乾燥させた(乾燥厚み1μm)。得られた多層フィルムの酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
[実施例5]
塗工液Vに代えて塗工液VIを用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を測定した。各塗膜の乾燥厚みは、いずれも1μmであった。
[実施例6]
塗工液Vに代えて塗工液VIIを用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を測定した。各塗膜の乾燥厚みは、いずれも1μmであった。
[実施例7]
PETフィルムに代えて2軸延伸ナイロン6フィルム〔ONyフィルム;ユニチカ(株)製、商品名「EMBLEM ONBC」、厚さ15μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。結果を表1に示す。
[実施例8]
PETフィルムに代えて2軸延伸ポリプロピレンフィルム〔OPPフィルム;二村化学(株)製、商品名「太閤FOR」、厚さ20μm〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。結果を表1に示す。
[実施例9]
PETフィルムに代えて未延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム;東レ合成(株)製、商品名「トレファンNO、ZK93FM」、厚さ60μm〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。結果を表1に示す。
[実施例10]
PETフィルムに代えて未延伸の直鎖低密度ポリエチレンフィルム〔LLDPEフィルム;東セロ(株)製、商品名「TUX−TCS」、厚さ50μm〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。結果を表1に示す。
[実施例11]
PETフィルムに代えて酸化ケイ素蒸着PETフィルム〔尾池工業(株)製、商品名「MOS−TR」、厚さ12μm〕を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。塗工液Iは、酸化ケイ素蒸着面に塗布した。結果を表1に示す。
[実施例12]
塗工液Iを酸化ケイ素蒸着PETフィルムの酸化ケイ素蒸着面とは反対側の面(背面)に対して塗布したこと以外は、実施例11と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。結果を表1に示す。
[実施例13]
PETフィルム〔東レ(株)製、商品名「ルミラ−P60」、厚さ12μm〕上に、グラビアコーターを用いて、接着剤〔三井武田ケミカル(株)製ドライラミネート用接着剤、商品名「タケラックA−525」、硬化剤=タケネートA−52〕を塗布し、乾燥させた(乾燥厚み0.5μm)。その上に、塗工液Iを、グラビアコーターを用いて塗布し、乾燥させた(乾燥厚み1μm)。さらにその上に、グラビアコーターを用いて塗工液Vを塗布し、乾燥させた(乾燥厚み1μm)。得られた多層フィルムの酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
[実施例14]
PETフィルム〔東レ(株)製、商品名「ルミラ−P60」、厚さ12μm〕上に、塗布液Vを塗布し、乾燥させた(乾燥厚み0.5μm)。その上に、塗工液Iをグラビアコーターを用いて塗布し、乾燥させた(乾燥厚み1μm)。さらにその上に、グラビアコーターを用いて塗工液Vを塗布し、乾燥させた(乾燥厚み0.5μm)。得られた多層フィルムの酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
比較例1
塗工液Vに代えて界面活性剤を含有しない塗工液VIIIを用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。結果を表1に示す。
比較例2
塗工液Vに代えて界面活性剤を含有しない塗工液IXを用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。結果を表1に示す。
比較例3
塗工液Vに代えて界面活性剤を含有しない塗工液Xを用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製し、酸素透過度を評価した。結果を表1に示す。

【産業上の利用可能性】
本発明によれば、カルボキシル基含有重合体を多価金属によりイオン架橋してなるガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れ、低湿条件下ではもとより、高湿条件下でのガスバリア性にも優れた重合体層を含む積層体及びその製造方法が提供される。
本発明の積層体は、カルボキシル基含有重合体層に対する多価金属化合物含有層からの多価金属化合物粒子の移行性に優れている。本発明の積層体は、カルボキシル基含有重合体層が必ずしも架橋剤成分を含有しなくても、多価金属によるイオン架橋のみで、ガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れている。
本発明の積層体は、ガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、耐水蒸気性に優れ、低湿条件下ではもとより、高湿条件下でのガスバリア性に優れている。本発明の積層体は、これらの諸特性を生かして、例えば、包装材料として好適である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材の少なくとも片面に、カルボキシル基含有重合体層(A)と多価金属化合物含有層(B)とが隣接して配置された層構成を有する積層体であって、多価金属化合物含有層(B)が、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する積層体。
【請求項2】
カルボキシル基含有重合体層(A)が、多価金属化合物含有層(B)から移行した多価金属イオンによってイオン架橋されている請求項1記載の積層体。
【請求項3】
高分子基材の少なくとも片面に、カルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)、多価金属化合物含有層(B)/カルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)、またはカルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)/カルボキシル基含有重合体層(A)がこの順に配置された層構成を有する多層フィルムが配置された請求項1記載の積層体。
【請求項4】
高分子基材の少なくとも片面に、前記層構成の多層フィルムに加えて、少なくとも1層の他の樹脂層が更に配置された層構成を有する請求項1記載の積層体。
【請求項5】
高分子基材がプラスチックフィルムであって、積層体全体が多層フィルムである請求項1記載の積層体。
【請求項6】
カルボキシル基含有重合体に対する多価金属化合物粒子の割合が、カルボキシル基含有重合体のカルボキシル基の合計(At)に対する多価金属化合物粒子の合計(Bt)の化学当量が0.6以上となる割合である請求項1記載の積層体。
【請求項7】
カルボキシル基含有重合体が、カルボキシル基含有不飽和単量体の単独重合体、カルボキシル基含有不飽和単量体の共重合体、カルボキシル基含有不飽和単量体と他の重合性単量体との共重合体、カルボキシル基含有多糖類、またはこれらの2種以上の混合物である請求項1記載の積層体。
【請求項8】
カルボキシル基含有不飽和単量体が、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸である請求項7記載の積層体。
【請求項9】
多価金属化合物粒子が、平均粒子径10nm〜10μmの粒子である請求項1記載の積層体。
【請求項10】
多価金属化合物が、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウムまたはジルコニウムの酸化物、炭酸塩、有機酸塩またはアルコキシドである請求項1記載の積層体。
【請求項11】
多価金属化合物粒子が、2価金属化合物粒子である請求項1記載の積層体。
【請求項12】
多価金属化合物含有層(B)が、多価金属化合物粒子とバインダー樹脂とを、重量比で99:1〜1:99の割合で含有するものである請求項1記載の積層体。
【請求項13】
多価金属化合物含有層(B)が、多価金属化合物粒子と界面活性剤とを、質量比で99.9:0.1〜50:50の割合で含有するものである請求項1記載の積層体。
【請求項14】
カルボキシル基含有重合体層(A)の厚みが0.001μm〜1mmで、多価金属化合物含有層(B)の厚みが0.001μm〜1mmである請求項1記載の積層体。
【請求項15】
高分子基材の少なくとも片面に、少なくとも1層のカルボキシル基含有重合体層(A)と少なくとも1層の多価金属化合物含有層(B)とを塗工法により隣接して形成し、その後、相対湿度20%以上、温度5℃〜200℃の雰囲気下でエージングして、多価金属化合物含有層(B)から多価金属化合物をカルボキシル基含有重合体層(A)中に移行させて、カルボキシル基含有重合体のカルボキシル基と多価金属塩を形成させる方法により得られたものである請求項1記載の積層体。
【請求項16】
高分子基材の少なくとも片面に、(1)カルボキシル基含有重合体を含有する塗工液を塗布し、乾燥させてカルボキシル基含有重合体層(A)を形成させる工程1と、(2)工程1の前または後に、多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する塗工液を塗布し、乾燥させて多価金属化合物含有層(B)を形成させる工程2とを含む、高分子基材の少なくとも片面に、カルボキシル基含有重合体層(A)と多価金属化合物含有層(B)とが隣接して配置された層構成を有する積層体の製造方法。
【請求項17】
前記層構成が、カルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)、多価金属化合物含有層(B)/カルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)、またはカルボキシル基含有重合体層(A)/多価金属化合物含有層(B)/カルボキシル基含有重合体層(A)がこの順に配置された層構成である請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
前記層構成に加えて、少なくとも1層の他の樹脂層を更に配置する請求項16記載の製造方法。
【請求項19】
多価金属化合物粒子、バインダー樹脂、及び界面活性剤を含有する塗工液が、多価金属化合物粒子0.05〜50重量%、バインダー樹脂0.05〜50重量%、及び界面活性剤0.0001〜50重量%を含有するものである請求項16記載の製造方法。
【請求項20】
前記工程1及び2を順次必要回数実施することにより、高分子基材の少なくとも片面に、少なくとも1層のカルボキシル基含有重合体層(A)と少なくとも1層の多価金属化合物含有層(B)とを塗工法により隣接して形成して積層体を形成し、さらに、その後、相対湿度20%以上、温度5℃〜200℃の雰囲気下でエージングして、多価金属化合物含有層(B)から多価金属化合物をカルボキシル基含有重合体層(A)中に移行させて、カルボキシル基含有重合体のカルボキシル基と多価金属塩を形成させる請求項16記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/037534
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514888(P2005−514888)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015867
【国際出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】