説明

積層型木質系電波吸収板材及びその作製方法

【課題】2.4GHz帯域と5.2GHz帯域の2波長付近における電波吸収能に優れ、室内の内装材や天井材等の建材に適し、作製の容易な低価格の積層型電波吸収板材を提供する。
【解決手段】電磁波を反射する金属板上に、少なくとも2層の高誘電率層と少なくとも1層の低誘電率層とを組み合わせて積層した電波吸収板材であって、上記高誘電率層は、2〜6GHz帯域における単層での誘電率が2以上31以下の木質系磁性ボード又は木質系導電性ボードからなり、上記低誘電率層は、厚みが0.6mm以上で、2〜6GHz帯域における単層での誘電率が1以上2未満の非磁性ボード又は空気層からなり、2GHz〜6GHzの全帯域内(帯域幅が4GHz)で19dB以上の電波吸収性能を有する積層型電波吸収板材。木質系ボードは、木粉と磁性粉又は導電性粉とをバインダー樹脂により結合して加圧成形したものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系粉末に磁性粉末又は導電性粉末を混合してバインダー樹脂で固めて成形
した磁性ボード又は導電性ボードを高誘電率層材料として使用した積層型木質系電波吸収
板材及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波吸収材の種類は、(1)金属板裏打ち単層平板型、(2)抵抗皮膜を用いたサリスバ
リー型、(3)誘電損失材料を用いたテーパー型、(4)誘電損失材料を用いた多層平板
型、に大別される。
【0003】
(4)の多層平板型の電波吸収材であって、電波吸収特性の異なる電波吸収層を積層した
、2.2〜2.8GHz帯域と4.8〜5.5GHz帯域に反射減衰量のピークを有する
双峰性特性を呈する電波吸収体が提案されている(特許文献1〜3)。また、入射側から
磁性材料を含むシート層、スペーサー層、カーボン及びフェライトを含む軽量体層、そし
て反射層から構成される電波吸収板からなり、2GHz帯と5GHz帯の複数のGHz帯
に有効な建材が提案されている(特許文献4)。
【0004】
また、 第1誘電体層と、第2誘電体層と、第3誘電体層とがこの順番で積層されること
で構成された電波整合層と、前記第2誘電体層とは反対側の第1誘電体層の表面に設けら
れた反射層とを含んで構成された電波反射抑制建材であって、前記第2誘電体層は、比誘
電率がほぼ1である低誘電率材料から構成され、前記第1、第3誘電体層は、比誘電率が
前記低誘電率材料よりも高い値の材料で構成され、前記反射層は、電波を反射する材料で
構成されている、ことを特徴とする電波反射抑制建材が提案されている(特許文献5)。
【0005】
また、所定の厚さで、裏面に電磁波反射用の金属板が取り付けられた第1フェライト板と
、該第1フェライト板の前面側に位置し、かつ第1フェライト板より薄手状の厚さからな
る第2フェライト板と、第1及び第2フェライト板の間にて所定の幅からなる誘電手段(
空気層、低誘電率発泡樹脂、低誘電率繊維集合体)を設けた電磁波吸収体が提案されてい
る(特許文献6)。
【0006】
さらに、本発明者らは、電波吸収性能に優れた木質系電波吸収ボードを開発している(特
許文献7〜9、非特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-179479号公報
【特許文献2】特開2004-186546号公報
【特許文献3】特開2007-329397号公報
【特許文献4】特開2005-150530号公報
【特許文献5】特開2003-283180号公報
【特許文献6】特開平9-219596号公報
【特許文献7】WO2005/069712
【特許文献8】特開2007-134466号公報
【特許文献9】特開2007-245419号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】成田幸一,岡英夫,磁性木材を用いたGHz帯用電波吸収体の作製に関する実験的検討,電気学会電磁環境研究会資料,社団法人電気学会,2000年 1月18日,EMC−00−1〜17,p.121−127
【非特許文献2】佐藤光治、岡英夫、浪崎安治、Lichteneckerの対数混合則を用いた粉体型磁性木材の電波吸収特性に関する検討、計測自動制御学会東北支部 第288回研究集会、資料番号228−6(2006.5.17)1〜4頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の通信機器の発達に伴い、建物内での電波干渉防止や電波漏洩防止、更には電波盗聴
防止等の電磁環境制御の要求が高まってきている。特に、無線LANの普及はめざましく
、マルチパスなどによる通信品質の劣化や電波の拡散による情報漏洩等の問題にも関心が
もたれている。現在、無線LANでは、2.4〜2.5GHz帯(2.4GHz帯ともい
う)と5.15〜5.25GHz帯(5.2GHz帯ともいう)との2つの帯域で電波が
使用されており、オフィス等では、2.4GHzと5.2GHzが混在する環境下にある
場合があり、建材として、この両帯域で吸収性能の高い電波吸収材が求められている。ま
た、5.8GHzのDSRC(ETC)用電波吸収体を含めた2〜10GHz用電波吸収
体も求められている。
【0010】
電波吸収帯域を広くするために、誘電率、透磁率が異なる材料を積層化し、各層の界面で
反射(多重反射)を行わせる積層型電波吸収体に関する技術が提案されている。積層型電
波吸収体においては、電波吸収体の入射面での電波の大きな反射を防止するために入射方
向から電波吸収体の内部方向に各吸収体層の誘電率、透磁率等を段階的に大きくすること
が望ましい。
【0011】
しかし、電波吸収板材の電波吸収性能と薄型化とは相反する関係にあり、特に1〜3GH
zなどの低周波数の電磁波を吸収するための電磁波吸収板材ほど、電波吸収層の厚みが必
要であるので、薄型化、これによる軽量化は難しい。
【0012】
また、積層型電波吸収体は、多層化するほど吸収できる周波数帯域は広くなるが、積層型
電波吸収体全体として必要な厚さが増大し、作製工程も増加しコスト高となる。
【0013】
本発明者は、これまで、木粉とフェライト等の磁性粉とのバインダー樹脂による結合成形
体である木質系電波吸収ボードを開発してきたが、電波吸収のピークは、周波数0.8〜
1.4GHz帯域のように狭い帯域にとどまるものであった。また、10dB以上の電波
吸収能の帯域幅が1.5GHz以上である木質系電波吸収ボードも開発した(特許文献8
参照)が、これは、図9に示すように、5GHz帯域に電波吸収のピークを持つ実施例2
のものは、2.0〜2.8GHz帯域における電波吸収能が十分ではなかった。
【0014】
従来の一般建材を使った3層型電波吸収体として、2.45GHzと5.2GHzに吸収
のピークを持たせたものが提案されてはいるものの、電波吸収量は15dBの水準にとど
まり、また、電波吸収の範囲も各ピークで狭い。
【0015】
本発明は、2〜6GHzの周波数帯域全域において最低の電波吸収性能が20dB水準(
19dB以上)、すなわち2GHz〜6GHzの全帯域内(帯域幅が4GHz)で電波吸
収性能が19dB以上と広帯域であり、2波長領域、特に2.4GHz帯域と5.2GH
z帯域の2波長付近における電波吸収能に優れ、室内の内装材や天井材等の建材に適し、
作製の容易な低価格の積層型電波吸収板材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らが先に開発した木質系電波吸収ボードは0.8〜1.4GHz帯域や5GHz
帯域等の狭い帯域のみに大きな電波吸収能を有するものであって2〜6GHzの広帯域で
は電波吸収能が十分ではないものであったが、本発明者らは、このような木質系電波吸収
ボードであっても、低誘電率層と組み合わせて積層することによって、2GHz〜6GH
zの全帯域内(すなわち、帯域幅が4GHz)で19dB以上の電波吸収性能を有する(
すなわち、帯域幅が4GHz)の積層型電波吸収板材が得られることを見出した。
【0017】
本発明は、電磁波を反射する金属板上に、少なくとも2層の高誘電率層と少なくとも1層
の低誘電率層とを組み合わせて積層した電波吸収板材であって、上記高誘電率層は、2〜
6GHz帯域における単層での誘電率が2以上31以下の木質系磁性ボード又は木質系導
電性ボードからなり、上記低誘電率層は、厚みが0.6mm以上で、2〜6GHz帯域に
おける単層での誘電率が1以上2未満の非磁性ボード又は空気層からなり、2GHz〜6
GHzの全帯域内で19dB以上の電波吸収性能を有するであることを特徴とする積層型
電波吸収板材、である。
【0018】
上記の木質系磁性ボードは、木粉とフェライト粉とをバインダー樹脂により結合して加圧
成形したものを用いることができる。上記の木質系導電性ボードは、グラファイト粉、炭
素繊維、導電性カーボンブラックから選ばれる炭素材をバインダー樹脂により結合して加
圧成形したものを用いることができる。
【0019】
上記の非磁性ボードは、木粉又はパーライト粉をバインダー樹脂により結合して加圧成形
したボード、発泡ウレタン樹脂、発泡スチレン樹脂のいずれかを用いることができる。
【0020】
上記の高誘電率層の誘電率は電波の入射側から反射側に順次大きい値となるようにするこ
とが好ましい。上記木質系磁性ボード又は木質系導電性ボードは、2GHz〜6GHz帯
域、特に4GHz〜6GHz帯域に電波吸収のピークを有するものが好ましい。上記の積
層型電波吸収板材として30dB以上の電波吸収ピークを有するものも作製できる。
【0021】
この積層型電波吸収板材は、木質系であるため、建材、特に内装材用建材として用いて室
内の電磁環境制御に役立つ。
【0022】
また、本発明は、2GHz〜6GHz帯域における単層での誘電率が2以上31以下の木
質系磁性ボード又は木質系導電性ボードの少なくとも2層と、厚みが0.6mm以上で、
2〜6GHz帯域における単層での誘電率が1以上2未満の非磁性ボードの少なくとも1
層とを電磁波を反射する金属板上に接着剤を用いて積層することを特徴とする上記の積層
型電波吸収板材の作製方法、である。
【0023】
さらに、本発明は、2〜6GHz帯域における単層での誘電率が2以上31以下の木質系
磁性ボード又は木質系導電性ボードの少なくとも2層を厚みが0.6mm以上の空気層を
介在させて電磁波を反射する金属板上に接着剤を用いて積層することを特徴とする請求項
1記載の積層型電波吸収板材の作製方法、である。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、2GHz〜6GHzの全帯域内(すなわち、帯域幅が4GHz)で19dB以
上(20dB水準)の電波吸収性能を有する積層型電波吸収板材を安価な材料を用いて簡
便な作製方法により提供することができる。本発明の積層型電波吸収板材によれば、例え
ば、2GHz帯と5GHz帯、又はDSRC(ETC)用5.8GHz帯の複数のGHz
帯の電波を同時に吸収できるので、効率良く通信環境を改善することができる。さらに、
利用価値の乏しい木材を活用して従来の無機質材料などに代わる内装建材として活用でき
る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】木質系磁性ボードのNicolson-Ross法により算出した複素誘電率を示すグラフである。
【図2】木質系磁性ボードのNicolson-Ross法により算出した複素透磁率を示すグラフである。
【図3】図1、図2に示される材料定数から算出した試料厚さが5mmと10mmの木質系磁性ボードの電波吸収特性を示すグラフである。
【図4】本発明の積層型電波吸収板材の多層構造の概念を示す断面図である。
【図5】実施例1,2及び比較例1の積層型電波吸収板材の電波吸収性能を示すグラフである。
【図6】実施例3の積層型電波吸収板材の電波吸収性能を示すグラフである。
【図7】実施例4の積層型電波吸収板材の電波吸収性能を示すグラフである。
【図8】比較例2の積層型電波吸収板材の電波吸収性能を示すグラフである。
【図9】実施例5の積層型電波吸収板材の電波吸収性能を示すグラフである。
【図10】実施例6の積層型電波吸収板材の電波吸収性能を示すグラフである。
【図11】実施例7の積層型電波吸収板材の電波吸収性能を示すグラフである。
【図12】従来例の木質系磁性ボードの電波吸収特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、積層型電波吸収板材の高誘電率層として、2〜6GHz帯域における単層での
誘電率が2以上31以下の木質系磁性ボード又は木質系導電性ボードを用いる。このボー
ドは、木質系粉末に磁性粉末又は導電性粉末を混合してバインダー樹脂で固めて加圧成形
して作製される。磁性粉末はフェライト粉末が好ましい。導電性粉末は、グラファイト粉
、炭素繊維、導電性カーボンブラックから選ばれる炭素材が好ましい。以下、フェライト
粉末を用いる場合について詳述するが、導電性粉末を使用する場合は、フェライト粉末に
置き換えて導電性粉末を使用することで同様に実施できる。
【0027】
電波吸収体による電波の反射を低減する帯域と該帯域における減衰率は、基本的に電波吸
収体内に含まれる電波を吸収する物質の種類及び量と、吸収体の厚さによって決定される
。電波吸収体に含まれる物質が磁性粉末の場合は、透磁損失により電磁波を減衰させる。
電波吸収体に含まれる物質が導電性粉末の場合は、誘電損失により電磁波を減衰させる。
導電性(誘電性)物質の種類は複素比誘電率により表される。ある波長λの反射を効率的
に低減させ得る電波吸収体の厚さdは、複素比誘電率によって決定される。複素比誘電率
の実数部は大きいほど吸収効果が最大になる周波数における吸収体の厚さを薄くできる。
また、複素比誘電率の虚数部は大きいほど電磁波をよく吸収する。
【0028】
本発明においては、木質系ボードを用いるが、その原料である木質系粉末、磁性粉末又は
導電性粉末、バインダー樹脂の種類や組成比を調整することによって、誘電率を2以上、
31以下の範囲にすることができる。高誘電率層の厚みは、合計で20〜50mmが好ま
しく、それより厚くし過ぎてもコスト高になるだけで好ましくない。より好ましくは、2
5〜45mmである。このような高誘電率層を少なくとも2層用い、低誘電率層の少なく
とも1層と積層して2GHz〜6GHz帯域の所望の電波吸収性能を調整する。
【0029】
磁性粉末としてフェライト粉末を用い5〜10MPa程度で加圧成形した場合は、比重を
0.7〜2.2程度と軽量化することができる。また、ボードの曲げ強度は10〜33N
/mm2程度であり建材として十分な強度を有している。
【0030】
この高誘電率の木質系ボードを電磁波を反射するアルミニウムなどの金属板上に少なくと
も1層の低誘電率層と組み合わせて少なくとも2層積層する。積層は交互に限らず、高誘
電率層を低誘電率層を介在させずに積層してもよい。低誘電率層として電波吸収性能を向
上させるには厚さは少なくとも0.6mmは必要であり、合計では5〜35mm、より好
ましくは15〜30mmが好ましい。低誘電率層として非磁性ボード層を用いる場合は、
非磁性ボード層を積層してもよい。低誘電率層として非磁性ボードを用いる場合は、電波
入射側の最表面に設けてもよい。木質系ボード1層だけでは、低誘電率層と組み合わせて
も単板の木質系電波吸収ボードと構造的にほぼ同じであり、2GHz〜6GHzの全帯域
で19dB以上の電波吸収性能が得られない。合計7層以上では、ボードの枚数、作製工
程が増加し、コスト高になり好ましくない。より好ましくは、合計4〜6層とする。
【0031】
低誘電率層は、2〜6GHz帯域における単層での誘電率が1以上2未満の非磁性ボード
又は空気層からなる。空気層の誘電率は、ほぼ1である。誘電率が1以上2未満の非磁性
ボードとしては、磁性粉末又は導電性粉末を含有しない木粉とフェノール樹脂のみ又はパ
ーライト粉末とフェノール樹脂のみからなる木質系ボード、発泡ウレタン樹脂シートドや
発泡スチレン樹脂シートなどが挙げられる。
【0032】
低誘電率の非磁性ボードを高誘電率層と積層する方法としては、例えば、熱融着又は接着
剤を用いて積層する。接着剤としては、酢酸ビニル樹脂系の木工用ボンドやニトリルゴム
系のボンド、またはウレタン系、SBR系、塩化ビニル系やクロロプレンゴム系などの一
液系の接着剤や、エポキシ樹脂とポリアミドアミン(硬化剤)からなる二液系の接着剤な
どが挙げられる。低誘電率層として空気層を用いる場合は、2枚の高誘電率層間に適宜設
けたスペーサーと接着する。
【0033】
このような木質系ボードの組成、加圧成形法は、本発明者らによって開発され、前記特許
文献7〜9、非特許文献1,2等に記載されている。例えば、一定形状の板状の枠の中に
木粉を一定量充填し、その枠内に、磁性粉又は導電粉とバインダーを混合分散したもの流
し込むか、又はスプレーで塗布することにより組成物を調製し、これを、プレスにより、
加熱・加圧により成形する。
【0034】
木質系ボードを作成するためのバインダーとしては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メ
ラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを用いるが、フェノール樹脂は、熱
硬化性樹脂であり、建材として用いる場合、耐熱性に優れており、また、原材料として粉
体状のものもあるため、作製上の取り扱いがしやすく好ましい。フェライト粉としては、
Mn−Zn系やNi−Zn系フェライト粉末が好ましい。
【0035】
木粉としては、広葉樹、針葉樹のうちの各種のものから選択される1種または2種以上で
よく、チップ(木片)やオガ屑が好ましい。一般的には、木粉の平均粒径は200μm〜
2mmの範囲内にあり、フェライト粉の平均粒径は3〜200μm程度の範囲内にあるこ
とが好ましい。フェライト粉又は炭素材粉末や繊維は粒径の大きいものはより効果が高く
なるが、木粉との混合による板材中の均一な分散がより難しくなる。
【0036】
木粉及びフェライト粉又は炭素材の粉末や繊維の各々の粒径、含有量、並びにボードの厚
みの組合せ設定により単板のGHz周波数帯域での電磁波反射のピーク周波数、減衰量を
調整することができる。
【実施例】
【0037】
以下の方法で単板の木質系ボードを作製し、このボードを積層して積層型電波吸収板材を
作製し、その電波吸収特性を測定した。
<木質系ボードの作製>
磁性粉体と木粉とをフェノール樹脂をバインダーとして、190℃、49N/cm2にて10
分間熱圧縮して、250mm×250mm×18mmの形状のボード状に成形し、木質系
ボードを作製した。磁性粉体は、Mn−Znフェライト(BSF-547,戸田工業製、平均粒径
3,3μm)を、木粉にはオガ屑粉(粒径2mm以下、瀬川興業製)を、バインダーには
、フェノール樹脂(SA-100、旭有機材製)を用いた。粉体を混合する際には適量の水を
用いた。磁性粉体の重量含有量は33%(試料A)、50%(試料B)、66%(試料C
)、80%(試料D)の4段階に変えて表1に示す4種類の電波吸収ボードを作製して試
料とした。
【表1】

【0038】
<電波吸収特性の測定法>
測定には、外径6.95mm、内径3.05mm、厚さ3.0mmに加工した環状試料を
用い、ネットワークアナライザー(Agilent E8361A)により、周波数0.5GHzから1
8GHzでの材料定数(複素誘電率、複素透磁率)をNicolson-Ross法により求めた。求
めた材料定数から、試料裏面をアルミニウム反射板で裏打ちした単層型電波吸収体として
、厚さを5mmと10mmに設定し、各試料ごとに電波吸収量の周波数特性を算出した。
【0039】
<電波吸収特性の測定結果>
図1と図2に、Nicolson-Ross法により算出した材料定数のグラフを示す。図1−1に示
す複素誘電率の実部は、磁性粉体の重量含有率の高い試料が高い値を示し、周波数が高く
なるにつれ、各々減少している。また、図1−2に示す複素誘電率の虚部は、同様に磁性
粉体の重量含有率の高い試料が高い値を示し、実部とは逆に周波数が高くなるにつれて増
加している。図2−1に示す複素透磁率は、実部、虚部ともに周波数が高くなるにつれ減
少しているが、低周波数側では重量含有率の高い試料が高い値を示している。2〜6GH
zでの誘電率e´は、試料A=2.71〜2.54、試料B=4.38〜4.00、試料
C=6.77〜6.11、試料D=11.47〜10.39と算出された。
【0040】
なお、試料A、B,C,Dの曲げ強さは、それぞれ10.1N/mm2、14.8N/mm2,22
.5N/mm2、33.0N/mm2であり、曲げ弾性率は、それぞれ1640N/mm2、2430N/m
m2,3970N/mm2、8830N/mm2であり、建材としての十分な強度を有していた。
【0041】
図3に、材料定数から算出した試料厚さが5mm(図3−1)と10mm(図3−2)の
木質系ボードの電波吸収特性を示すグラフを示す。傾向として、磁性粉体の重量含有率が
高い試料ほど、低い周波数に高いピークを持つが、試料が厚いと重量含有率が低い試料で
も10GHzを超える周波数で最も高いピークを持つものもある。厚さが5mmから10
mmに増加するにつれ、電波吸収ピークが低周波数側にシフトしている。
【0042】
また、20dBを超える吸収量は、試料厚さ5mmでは試料C(フェライト含有量66w
t%)では、6.02GHzにおいて28.5dBであり、試料厚さ10mmでは試料B
(フェライト含有量50wt%)では、12.05GHzにおいて24.2dBであり、
試料C(フェライト含有量66wt%)では、2.51GHzにおいて25.2dBであ
り、試料D(フェライト含有量80wt%)では、1.38GHzにおいて25.7dB
となり、良好な値を示した。しかし、2〜6GHz帯域における電波吸収量は小さい。
【0043】
[実施例1,2]
<積層型電波吸収板材の作製>
図4に、本発明の積層型電波吸収板材の多層構造の概念図を示す。図4は、試料層3層、
空気層2層の5層構造を示している。試料層として、試料A、試料B、試料C、試料Dを
組み合わせた構造の積層板を作製した。表2に、実施例1,2及び比較例1の各層に用い
た試料と厚みを示す。
【0044】
【表2】

【0045】
図5に、実施例1,2及び比較例1の積層型電波吸収板材の電波吸収性能を示す。実施例
1では、積層型電波吸収板材の全体厚みは22.6mmで、電波吸収ボードの合計厚みは
7.6mmであり、図5に示すように、2.38GHzから7.45GHzの範囲で20
dBを超える吸収性能が得られた。実施例2では、積層型電波吸収板材の全体厚みは28
mmで、電波吸収ボードの合計厚みは16.3mmであり、1.98GHzから6.35
GHzの範囲で19dB以上の吸収性能が得られた。
【0046】
比較例1では、積層型電波吸収板材の全体厚みは33mmで、電波吸収ボードの合計厚み
は26mmであり、0.77GHzから10.47GHzの広い帯域で10dBを超える
吸収性能が得られているが、2〜6GHzの帯域では19dBを超える吸収性能は得られ
なかった。この理由は、1層目と3層目との間の空気層の厚みが0.5mmであり、1層
目と3層目に介在させた効果が得られず、1〜3層で高誘電率層1層と実質的に相違しな
いためと推測される。
【0047】
[実施例3〜7]
<木質系ボードの作製>
実施例1,2と同様に木質系ボードを作製した。導電性粉末は、グラファイト(1500M84C
伊藤黒鉛工業製)、炭素繊維(S-244大阪ガスケミカル製)、又はカーボンブラック(カ
ーボンMBPEC-416レジノカラー)を用いた。表3、4、5に試料E〜Pの組成を示す。ま
た、同様に、表6,7に示す組成の非磁性ボードを作製した。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
【表7】

【0053】
<積層型電波吸収板材の作製>
実施例1,2と同様に積層型電波吸収板材を作製した。それぞれの層構造を表8〜10に
示す。各表中の英文字は試料の種類、mmは試料又は空気層の厚み、その下段の数値は4
GHzにおける誘電率を示す。
【表8】

【0054】
【表9】

【0055】
【表10】

【0056】
また、実施例1,2と同様に測定した電波吸収特性を図6〜10に示す。実施例3では、
2GHz〜6GHz帯域での最低の電波吸収能は20.8dBであり、20dBの水準の
帯域は1.90GHz〜6.34GHzであった。実施例4では、2GHz〜6GHz帯
域での最低の電波吸収能は20.5dBであり、20dBの水準の帯域は1.81GHz
〜6.56GHzであった。実施例5では、2GHz〜6GHz帯域での最低の電波吸収
能は22.3dBであり、20dBの水準の帯域は1.82GHz〜6.91GHzであ
った。実施例6では、2GHz〜6GHz帯域での最低の電波吸収能は20.4dBであ
り、20dBの水準の帯域は1.95GHz〜6.03GHzであった。実施例7では、
2GHz〜6GHz帯域での最低の電波吸収能は22.3dBであり、20dBの水準の
帯域は1.89GHz〜6.41GHzであった。いずれも、2GHz〜6GHzの全帯
域内(帯域幅が4GHz)で19dB以上の電波吸収性能を有するものが得られたことが
分かる。
【0057】
比較例2は、低誘電率層を設けないで高誘電率層3層を積層した例であり、図8に示すと
り、電波吸収ボード単板の場合より5GHz帯域の電波吸収能は改善されるものの、所望
の電波吸収性能が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
安価な木材の粉状体(木粉)を有効活用して、低価格で、軽量、高性能の2GHz〜6G
Hzの全帯域で19dB以上の電波吸収性能を有し、特に2.4GHz帯域と5.2GH
z帯域の2波長付近における電波吸収能に優れ、室内の内装材や天井材等の建材に適し、
作製の容易な低価格の積層型電波吸収板材としての利用が大いに期待される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を反射する金属板上に、少なくとも2層の高誘電率層と少なくとも1層の低誘電率
層とを組み合わせて積層した電波吸収板材であって、
上記高誘電率層は、2〜6GHz帯域における単層での誘電率が2以上31以下の木質系
磁性ボード又は木質系導電性ボードからなり、
上記低誘電率層は、厚みが0.6mm以上で、2〜6GHz帯域における単層での誘電率
が1以上2未満の非磁性ボード又は空気層からなり、
2GHz〜6GHzの全帯域内で19dB以上の電波吸収性能を有することを特徴とする
積層型電波吸収板材。
【請求項2】
木質系磁性ボードが木粉とフェライト粉とをバインダー樹脂により結合して加圧成形した
ものであることを特徴とする請求項1記載の積層型電波吸収板材。
【請求項3】
木質系導電性ボードがグラファイト粉、炭素繊維、導電性カーボンブラックから選ばれる
炭素材をバインダー樹脂により結合して加圧成形したものであることを特徴とする請求項
1記載の積層型電波吸収板材。
【請求項4】
非磁性ボードが、木粉又はパーライト粉をバインダー樹脂により結合して加圧成形したボ
ード、発泡ウレタン樹脂、発泡スチレン樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1
記載の積層型電波吸収板材。
【請求項5】
高誘電率層の誘電率は電波の入射側から反射側に順次大きい値であることを特徴とする請
求項1記載の積層型電波吸収板材。
【請求項6】
木質系磁性ボード又は木質系導電性ボードは、4.0GHz〜7.5GHz帯域に電波吸
収のピークを有することを特徴とする請求項1記載の積層型電波吸収板材。
【請求項7】
30dB以上の電波吸収ピークを有することを特徴とする請求項1記載の積層型電波吸収
板材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載した積層型電波吸収板材からなることを特徴とする建材。
【請求項9】
2〜6GHz帯域における単層での誘電率が2以上31以下の木質系磁性ボード又は木質
系導電性ボードの少なくとも2層と、厚みが0.6mm以上で、2〜6GHz帯域におけ
る単層での誘電率が1以上2未満の非磁性ボードの少なくとも1層とを電磁波を反射する
金属板上に接着剤を用いて積層することを特徴とする請求項1記載の積層型電波吸収板材
の作製方法。
【請求項10】
2〜6GHz帯域における単層での誘電率が2以上31以下の木質系磁性ボード又は木質
系導電性ボードの少なくとも2層を厚みが0.6mm以上の空気層を介在させて電磁波を
反射する金属板上に接着剤を用いて積層することを特徴とする請求項1記載の積層型電波
吸収板材の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−187671(P2011−187671A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51185(P2010−51185)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(390004145)城東テクノ株式会社 (53)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】