説明

積層型電子部品及びその製造方法

【課題】インダクタ素子部における内部電極の主成分をAgにしても、高密度であり且つインダクタ素体の劣化が十分に抑制されたインダクタ素体を備える積層型電子部品を提供すること。
【解決手段】インダクタ素体10とインダクタ素体10の内部に配置された内部電極16とを有するインダクタ素子部6を備える積層型電子部品100であって、インダクタ素体10がフェライト組成物及びホウ素酸化物を含有するフェライト焼結体からなり、内部電極16におけるAgの含有率が85質量%以上であり、隣接する内部電極16の間におけるフェライト焼結体のAg含有率が0.18質量%以下である積層型電子部品100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ機器には、ノイズの発生防止、外部からのノイズの侵入防止のために、回路基板の入出力部や回路内に積層型バリスタ、インダクタ(フェライトチップ)及びコンデンサチップ等が組み込まれている。
【0003】
しかし、積層型バリスタ、インダクタ及びコンデンサチップ等の部品を回路基板に設けた場合、これらの部品が基板面積を多く占有してしまい、実装スペースが大きくなってしまう。また、部品点数が増えることによりコストアップしてしまう傾向がある。
【0004】
このような問題に対応するため、各素子チップを互いに接合させた状態で一体化焼結させた複合部品を作製して回路基板に設置することによって、部品点数を減らすとともに部品をコンパクトにして実装スペースを削減することが試みられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、コンデンサとフェライト焼結体を用いたインダクタとを有するLC型複合部品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2727509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような積層型インダクタやLC型複合部品のインダクタ素体に用いられるフェライト焼結体は、電極成分の拡散や、素材の異なる素子間において異種元素が拡散して素子が劣化することを防止するために、低温で焼結することが求められる。フェライト焼結体の焼結温度を低減するためには、酸化ホウ素等の焼結助剤が用いられる。ところが、積層部品など、フェライトとAg(銀)を含有する電極とを同時に焼成して形成する場合は、フェライトの焼結性が大幅に劣化することがあった。
【0007】
本発明者らは、その原因を種々検討したところ、電極材料として銀や銀合金を用いた場合に、電極から拡散するAgが焼結助剤を同伴して焼結体の外部に流出させてしまい、それが焼結の促進を阻害していることが分かった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、インダクタ素子部における内部電極の主成分をAgにしても、高密度であり且つインダクタ素体の劣化が十分に抑制されたインダクタ素体を備える積層型電子部品を提供することを目的とする。また、焼成温度を低くしても密度の高いインダクタ素体を備える積層型電子部品を製造することが可能であり、焼成時の劣化が十分に抑制されたインダクタ素体を備える積層型電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インダクタ素体と該インダクタ素体の内部に配置された複数の内部電極とを有するインダクタ素子部を備える積層型電子部品であって、内部電極におけるAg含有率が85質量%以上であり、インダクタ素体がフェライト組成物及びホウ素酸化物を含有するフェライト焼結体からなり、隣接する内部電極の間におけるフェライト焼結体のAg含有率が0.18質量%以下である積層型電子部品を提供する。
【0010】
本発明の積層型電子部品は、インダクタ素子がホウ素酸化物を含有するフェライト焼結体から構成されるため、焼成温度を例えば800〜940℃の範囲にまで下げても十分に焼結が進行する。したがって、インダクタ素体は高い密度を有する。また、上述の通り、低い焼成温度で焼結することが可能であるため、内部電極の主成分としてAgを用いて内部電極の抵抗を十分に低減することができる。また、内部電極の間におけるフェライト焼結体中のAgの含有率が十分に低減されているため、インダクタ素体の劣化が十分に抑制される。このようにインダクタ素体の劣化が抑制されるとともに高い密度を有することから、インダクタ素体のQ値を高くすることができる。
【0011】
本発明の積層型電子部品は、フェライト焼結体におけるホウ素酸化物の含有率が、Bに換算して0.1〜2質量%であることが好ましい。これによって、インダクタ素体の密度を一層向上することができる。
【0012】
本発明ではまた、フェライト組成物及びホウ素酸化物を含有するインダクタ用のグリーンシートとAgを含む導体部とが交互に積層された積層体を形成する積層工程と、積層体を酸素濃度が5体積%以下である雰囲気中で焼成して、フェライト焼結体からなるインダクタ素体と該インダクタ素体の内部に配置されAgを含有する内部電極とを有するインダクタ素子部を得る焼成工程と、を有する、インダクタ素子部を備える積層型電子部品の製造方法を提供する。
【0013】
上記本発明の積層型電子部品の製造方法では、ホウ素酸化物を含有するグリーンシートを備える積層体を、酸素濃度が5体積%以下である雰囲気中で焼成している。このように酸素濃度が低減された雰囲気中で焼成することによって、焼成中における導体部からグリーンシート内へのAgの拡散を抑制することができる。これによって、Agの拡散に起因するグリーンシート及びフェライト焼結体からの外部へのホウ素酸化物の流出を抑制することができる。したがって、焼成工程における焼成温度を低くしても、十分に高い密度を有するフェライト焼結体からなるインダクタ素体を形成することができる。また、Agの拡散に伴うインダクタ素体の劣化も抑制することができる。このようにインダクタ素体の劣化が抑制されるとともに高い密度を有することから、インダクタ素体のQ値を高くすることができる。
【0014】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法では、内部電極におけるAg含有率が85質量%以上であることが好ましい。本発明の積層型電子部品の製造方法では、インダクタ素体中へのAgの拡散を抑制することが可能であるため、インダクタ素体の劣化を抑制しつつ、内部電極におけるAgの含有率を高くして内部電極の電気抵抗を低減することができる。
【0015】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法では、隣接する内部電極の間におけるフェライト焼結体のAg含有率が0.18質量%以下であることが好ましい。これによって、インダクタ素子部のQ値を高くすることができる。
【0016】
また、本発明の積層型電子部品の製造方法は、積層工程の前に、ホウ素酸化物を含む原料を仮焼して、ホウ素酸化物とフェライト組成物とを含む仮焼体を調製する仮焼工程と、仮焼体を含むグリーンシートを作製するシート形成工程と、を有することが好ましい。これによって、焼結工程において、グリーンシートやフェライト焼結体からホウ素酸化物が外部に流出することを一層抑制することができる。したがって、一層高い密度を有するフェライト焼結体を備えるインダクタ素子部を形成することが可能となる。
【0017】
また、上記仮焼体におけるホウ素酸化物の含有率がBに換算して0.1〜2質量%であることが好ましい。これによって、焼成温度をさらに低くしても、高い密度を有するフェライト焼結体を備えるインダクタ素子部を形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、インダクタ素子部における内部電極の主成分をAgにしても、高密度であり且つインダクタ素体の劣化が十分に抑制されたインダクタ素体を備える積層型電子部品を提供することができる。また、焼成温度を低くしても密度の高いインダクタ素体を備える積層型電子部品を製造することが可能であり、焼成時の劣化が十分に抑制されたインダクタ素体を備える積層型電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の積層型電子部品の好適な一実施形態である積層型フィルタの一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図2】図1に示す積層型フィルタの積層素体部分の分解斜視図である。
【図3】本発明の積層型電子部品に備えられるインダクタ素体を構成するフェライト焼結体の微細構造の一例を模式的に示す拡大断面図である。
【図4】本発明の積層型電子部品のインダクタ素子部における内部電極の間のフェライト焼結体の組成の測定方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の積層型電子部品の一実施形態である複合積層型電子部品の一部を切り欠いて示す斜視図である。図1に示す複合積層型電子部品は、積層型フィルタである。図2は、図1に示す積層型フィルタの積層素体部分を示す分解斜視図である。積層型フィルタ(複合積層型電子部品)100は、積層素体2と、入力端子電極3及び出力端子電極4と、一対のグランド端子電極5とを有する。積層素体2は、インダクタ素子部(インダクタ積層部)6と、バリスタ素子部(バリスタ積層部)7と、インダクタ素子部6及びバリスタ素子部7の間に介在する中間積層部(接合中間体)9とを有する。入力端子電極3及び出力端子電極4は、積層素体2の長手方向における両端部に配置されている。一対のグランド端子電極5は、積層素体2の長手方向における両側面にそれぞれ配置されている。
【0022】
図2に示すように、インダクタ素子部6は、複数のインダクタ層10a〜10iが順次積層されて形成されたインダクタ素体10、及びインダクタ素体10の内部に配置された第1の内部電極16を有する。バリスタ素子部7は、複数のバリスタ層11a〜11dが順次積層されて形成されたバリスタ素体11、及びバリスタ素体11の内部に配置された第2の内部電極17を有する。中間積層部9は、中間層8が複数積層されて形成されている。
【0023】
第1の内部電極16はAgを含有する。第1の内部電極16におけるAg含有率は、第1の内部電極16の電気抵抗を一層低減する観点から、好ましくは88質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。第1の内部電極16は、Ag以外の金属成分として、例えばPdやCuを含有してもよい。なお、上述のAg含有率は、第1の内部電極16全体を基準とし、第1の内部電極16に含まれる銀元素の質量比率である。
【0024】
インダクタ層10a〜10iは、フェライト焼結体からなる。フェライト焼結体は、主成分として、好ましくはNiZn系、又はNiCuZn系のフェライト組成物を含み、より好ましくはNiZn系のフェライト組成物を含む。主成分としてNiZn系のフェライト組成物を含むフェライト焼結体を用いることによって、フェライト焼結体中のCuの含有率が低減され、インダクタ素子部6からバリスタ素子部7へのCu成分の拡散を十分に抑制することができる。これによって、ESD耐量等のバリスタ特性を十分優れたものとすることができる。
【0025】
フェライト焼結体は、フェライト組成物の他にホウ素酸化物を含有する。ホウ素酸化物は、B等の酸化ホウ素、及びNi−Fe−B−O系等の遷移金属ホウ素酸化物を含む。フェライト焼結体におけるホウ素酸化物の含有率は、フェライト焼結体に含まれる全ホウ素元素(B)をBに換算して、好ましくは0.1〜2質量%であり、より好ましくは0.2〜1.3質量%である。フェライト焼結体におけるホウ素酸化物の含有率を上述の範囲にすることによって、フェライト焼結体の密度を一層高くすることができる。
【0026】
遷移金属ホウ素酸化物は、主相(フェライトの結晶相)に対して異相(主相とは異なる結晶相)を形成する傾向がある。遷移金属ホウ素酸化物の具体例としては、NiFeBO等のNi−Fe−B−O系化合物が挙げられる。遷移金属ホウ素酸化物は、走査透過型電子顕微鏡(STEM)やX線回折を用いて同定及び定量することができる。
【0027】
図3は、本実施形態の積層型フィルタ100に備えられるインダクタ素体10を構成するフェライト焼結体の微細構造を模式的に示す拡大断面図である。図3のフェライト焼結体は、主な結晶相A(主相)としてフェライト組成物を含有し、主相とは異なる結晶相B(異相)としてホウ素酸化物(例えば、Ni−Fe−B−O系の酸化物)を含有する。また、フェライト焼結体は、主相及び異相の他に、空孔Cを有する。
【0028】
フェライト焼結体に主成分として含まれるフェライト組成物は、例えば、必須成分として、酸化鉄、酸化亜鉛及び酸化ニッケルを含有し、任意成分として、酸化銅及び酸化マンガンを含有する。
【0029】
フェライト焼結体における酸化鉄の含有率は、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル及び酸化銅の含有率の合計に対して、Fe換算で好ましくは45.0〜50.0mol%であり、より好ましくは45.5〜50.0mol%である。酸化鉄の含有率が50.0mol%を超えると、フェライト焼結体の比抵抗が低下する傾向にある。一方、酸化鉄の含有率が45.0mol%未満であると、フェライト焼結体の密度が低下する傾向にある。
【0030】
フェライト焼結体における酸化亜鉛の含有率は、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル及び酸化銅の含有率の合計に対して、ZnO換算で好ましくは15.5〜30.0mol%であり、より好ましくは18.0〜30.0mol%であり、さらに好ましくは20.0〜28.0mol%である。酸化亜鉛の含有率が30.0mol%を超えると、フェライト焼結体のQ値が低下する傾向にある。一方、酸化亜鉛の含有率が15.5mol%未満であると、焼成温度を高くすることが必要になる場合がある。
【0031】
フェライト焼結体における酸化ニッケルの含有率は、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル及び酸化銅の含有率の合計に対して、NiO換算で好ましくは14〜39mol%であり、より好ましくは16〜35mol%であり、さらに好ましくは18〜30mol%である。酸化ニッケルの含有率が39mol%を超えると、焼成温度を高くすることが必要になる場合がある。一方、酸化ニッケルの含有率が14.0mol%未満であると、フェライト焼結体のQ値が低下する傾向にある。
【0032】
本実施形態のフェライト焼結体は、酸化銅及び/又は酸化マンガンを全く含有していなくてもよい。フェライト焼結体における酸化マンガンの含有量は、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル及び酸化銅の含有量の合計に対して、Mn換算で好ましくは0〜4.0mol%であり、より好ましくは0〜3.5mol%であり、さらに好ましくは0.1〜2.5mol%である。酸化マンガンの含有量が4.0mol%を超えると、焼成温度を高くすることが必要になる場合がある。
【0033】
フェライト焼結体における酸化銅の含有率は、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル及び酸化銅の含有率の合計に対して、CuO換算で好ましくは0〜15.0mol%であり、より好ましくは0〜11mol%である。酸化銅の含有率が15mol%を超えると、電気抵抗が低下する傾向にある。
【0034】
フェライト焼結体は、上述の成分の他に、不純物として少量の金属成分を含有していてもよい。ただし、優れたインダクタ特性を有する積層型フィルタ100とする観点から、フェライト焼結体に不純物として含まれる金属成分の含有率は少ない方が好ましい。特に、Agは、インダクタ特性を劣化させるとともに、フェライト焼結体の焼成時において、ホウ素酸化物と結合してホウ素酸化物をフェライト焼結体の外部に流出させてしまう作用がある。
【0035】
したがって、優れたインダクタ特性を有するインダクタ素体10を備える積層型フィルタ100とする観点から、フェライト焼結体における銀や銀化合物の形態で存在するAgの含有率は低いことが好ましい。具体的には、互いに隣接する2つの第1の内部電極16の間におけるフェライト焼結体のAg含有率は、0.18質量%以下であり、好ましくは0.15質量%以下である。なお、第1の内部電極16の材料としてAgを含有する導電材を用いた場合、インダクタ素体10を構成するフェライト焼結体のうち、互いに隣り合う第1の内部電極16の間の部分のフェライト焼結体のAgの含有率が最も高くなる。第1の内部電極16の間の部分は、インダクタ素体10のインダクタ特性に大きな影響を及ぼすため、この部分のAgの含有率を低減することによって、インダクタ特性に優れた積層型フィルタ100とすることができる。なお、フェライト焼結体のAg含有率は、フェライト焼結体を基準とし、当該フェライト焼結体に含まれる銀や銀化合物などの全ての銀成分の合計を銀元素に換算したときの質量比率である。
【0036】
フェライト焼結体の密度は、好ましくは4.8g/cm以上であり、より好ましくは4.9g/cm以上であり、さらに好ましくは5.0g/cm以上である。密度が4.8g/cm未満であると、透磁率が低下する傾向にある。
【0037】
図2のインダクタ層10b〜10i上のそれぞれには、所望形状の導体パターン16a〜16hが形成されている。具体的には、インダクタ層10d、10f、10h上にはそれぞれ、コイルの略3/4ターン相当の略C字状の導体パターン16c、16e、16gが形成され、インダクタ層10c、10e、10g上にはコイルの略3/4ターン相当の略U字状の導体パターン16b、16d、16fが形成されている。また、インダクタ層10b、10i上には入力端子電極3及び出力端子電極4とそれぞれ接続する導体パターン(引出電極)16a、16hが形成されている。更に、インダクタ層10b〜10hをそれぞれ貫通し、インダクタ層10b〜10hのそれぞれに接する導体パターン間を電気的に接続するビア導体26a〜26gが形成されている。これにより、導体パターン(引出電極)16a、16hと、導体パターン16b〜16gと、ビア導体26a〜26gとが電気的に接続された略4.5ターンのらせん状のコイル(導体部)が形成される。
【0038】
バリスタ層11a〜11dは、例えば、ZnOを主成分とするセラミックス材料からなる。このセラミックス材料には、添加成分としてPr、Bi、Co、Al等を含んでいてもよい。Prに加えてCoを含むと、優れたバリスタ特性と高い誘電率(ε)とを兼ね備えたものとなる。また、Alを更に含むと低抵抗となる。必要に応じて他の添加物、例えば、Cr、Ca、Si、K等の元素が含まれていてもよい。
【0039】
バリスタ素子部7のバリスタ層11b上には、グランド端子電極5と電気的に接続された略矩形状のグランド電極17aが形成されている。また、バリスタ層11c上には、出力端子電極4と電気的に接続された略矩形状のホット電極17bが形成されている。グランド電極(内部電極)17aとホット電極(内部電極)17bとは、互いに対向しており、積層方向から見たときにバリスタ層11bを介して一部が重なり合い、バリスタ機能を発現する構成をなしている。
【0040】
グランド電極17a及びホット電極17bに用いる導電材には、バリスタ層11a〜11dを構成するセラミックス材料と同時焼成できる金属材料を用いる。すなわち、バリスタセラミックスの焼成温度は通常800〜940℃程度であるため、その温度で融解しない金属材料を用いる。例えば、銀、銀−パラジウム合金等の銀合金等を好適に使用することができる。
【0041】
中間層8は、電気絶縁性を有する絶縁材料からなり、例えば、主成分としてZnO及びFeを含む焼結体からなる。このような絶縁材料からなる中間積層部9をインダクタ素子部6とバリスタ素子部7との間に設けることによって、これらの間におけるクロストークを抑制することができる。その結果、インダクタ素子部6がバリスタ素子部7から受ける影響、及びバリスタ素子部7がインダクタ素子部6から受ける影響を緩和することができる。
【0042】
上述の積層構造を有する積層型フィルタ100は、バリスタ電圧を超える高い電圧のノイズが入力側に印加された際に、バリスタ効果によって急激に流れた電流がノイズとなって通過するのを阻止することができる。
【0043】
次に、積層型フィルタ100の製造方法の一例を説明する。積層型フィルタ100の製造方法は、以下の工程を有する。
(1)酸化ホウ素を含む酸化物混合原料を仮焼してホウ素酸化物及びフェライト組成物を含む仮焼体を調製し、仮焼体をスラリー化して磁性体スラリーを得る仮焼工程
(2)磁性体スラリーを用いてインダクタ用のグリーンシート(第1のグリーンシート)を作製するとともに、バリスタスラリーを用いてバリスタ用のグリーンシート(第2のグリーンシート)を作製するシート形成工程
(3)第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートの上に、Agを含む導体部を配置する導体部形成工程、
(4)導体部が配置された複数の第1のグリーンシート及び複数の第2のグリーンシートをそれぞれ積層して積層体を形成する積層工程
(5)積層体を酸素濃度が5体積%以下である雰囲気中で焼成する工程
【0044】
以下、各工程の詳細について説明する。仮焼工程では、ホウ素酸化物及びフェライト組成物を含有する磁性体スラリーを以下の手順で調製する。まず、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化ホウ素の各粉末を用意する。上述した好適なフェライト焼結体の組成に基づいて、用いる粉末を選定し、各粉末の配合比を決定する。
【0045】
フェライト組成物の原料(酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化ニッケル及び酸化銅)の合計に対し、酸化ホウ素の含有率が、B換算で、好ましくは0.1〜2.0質量%、より好ましくは0.2〜1.3質量%となるように添加することが好ましい。
【0046】
秤量したフェライト組成物の原料と酸化ホウ素とを、例えばボールミルで混合して酸化物混合粉末を調製する。なお、ホウ素酸化物源として、酸化ホウ素粉末の代わりに、酸化ホウ素を含有するホウ素系ガラスを用いてもよい。ホウ素系ガラスとしては、一般的に市販されているものを用いることができる。ホウ素系ガラスは、通常、Bのほかに、SiO、ZnO等を含有する。ホウ素酸化物源としてホウ素系ガラスを用いた場合も、低温焼成が可能であり、また、高い比抵抗及び高いQ値を兼ね備えるフェライト焼結体を得ることができる。
【0047】
調製した酸化物混合粉末を、例えば空気雰囲気中で、600〜1000℃、1〜20時間の条件で仮焼して仮焼体を得る。仮焼体は、主成分としてフェライト組成物を含有し、副成分としてホウ素酸化物を含有する。得られた仮焼体は、ボールミル等を用いて粉砕し仮焼粉末を得る。仮焼温度が低過ぎる場合、又は仮焼時間が短過ぎる場合、得られるフェライト焼結体の均一性が損なわれる傾向にある。一方、仮焼温度が高過ぎる場合、又は仮焼時間が長すぎる場合、仮焼体の凝集が進んで粉砕し難くなる傾向がある。
【0048】
次に、仮焼粉末と有機溶剤及び有機バインダを含む有機ビヒクルとを混合して、磁性体スラリーを得ることができる。
【0049】
シート形成工程では、磁性体スラリー及びバリスタスラリーを用いて、インダクタ用のグリーンシート(第1のグリーンシート)及びバリスタ用のグリーンシート(第2のグリーンシート)をそれぞれ作製する。
【0050】
バリスタスラリーは、バリスタ原料粉末と、有機溶剤及び有機バインダを含む有機ビヒクルと、を混合して調製することができる。バリスタ原料粉末としては、従来からよく用いられている原料粉末を用いることができる。例えば、主成分としてZnOを、副成分としてBi、Pr11、CoO、Cr及びAl等を所定量含む混合粉末を用いることができる。また、バリスタ原料粉末として、所定組成のバリスタセラミックスを予め仮焼して粉砕した粉末を用いてもよい。
【0051】
磁性体スラリー及びバリスタスラリーを、ドクターブレード法等によりPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にそれぞれ塗布し、例えば厚さ20〜30μm程度の第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートを作製する。
【0052】
更に、中間層8となる中間材グリーンシートを用意してもよい。中間材グリーンシートは、例えばZnO及びFeを主成分とした混合粉を原料としたスラリーをドクターブレード法によってフィルム上に塗布することによって形成される。なお、焼成後の中間積層部9の厚さが十分なものとなるように、中間材グリーンシートの積層枚数を適宜調整する。
【0053】
導体部形成工程では、第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートの上に、以下の手順でAgを含む導体部(導体パターン、ビア導体)を配置する。まず、作製した第1のグリーンシートの所望の位置、すなわち上述したようなビア導体26a〜26gが形成される予定の位置にスルーホールを形成する。スルーホールはレーザ加工機等により形成することができる。
【0054】
続いて、スクリーン印刷法等によって、第1のグリーンシート上に導電ペーストを塗布して、導体パターン16a〜16hを形成する。また、第1のグリーンシートに形成されたスルーホールに導電ペーストを充填してビア導体26a〜26gを形成する。導体パターン16a〜16h及びビア導体26a〜26gの印刷等に用いる導電ペーストは、Agを含有する。導電ペーストとしては、焼成して第1の内部電極としたときに、Agの含有率が好ましくは85質量%以上、より好ましくは88質量%以上となる組成のものを用いる。具体的には、Ag粉末やAg−Pd合金粉末を主成分として含んでいるものが挙げられる。このように第1の内部電極16のAg含有率を高くすることによって、第1の内部電極16の電気抵抗を十分に低減することができる。
【0055】
第2のグリーンシート上にも、スクリーン印刷法等によって、導電ペーストを用いてグランド電極17a及びホット電極17bを形成する。導電ペーストは、第1のグリーンシート上に塗布したものと同一組成のものを用いてもよいし、異なる組成のものを用いてもよい。
【0056】
積層工程では、導体部が配置された複数の第1のグリーンシート、複数の第2のグリーンシート及び必要に応じて中間材グリーンシートをそれぞれ積層して、以下の手順でグリーン積層体を形成する。まず、導体部が形成されていない第1のグリーンシートと、所定形状の導体部(導体パターン及びビア導体)が形成された第1のグリーンシートと、中間材グリーンシートと、導体部17a又は導体部17bが形成された第2のグリーンシートと、電極が形成されていない第2のグリーンシートとを図2に示すように重ね合わせて積層する。
【0057】
積層してプレスを行い、所定形状に切断して、積層素体2のグリーン積層体を得る。その後、グリーン積層体を、酸素濃度が5体積%以下の雰囲気下、焼成温度800〜940℃、焼成時間2時間の条件で焼成する。これによって、フェライト焼結体からなるインダクタ素体10とインダクタ素体10の内部に配置され、Agを含有する第1の内部電極16を有するインダクタ素子部6と、バリスタ素体11及びバリスタ素体11の内部に配置された第2の内部電極17を有するバリスタ素子部7と、が積層された積層素体2を得ることができる。
【0058】
積層素体2は、酸素濃度が5体積%以下にまで低減された雰囲気下で焼成されたものであるため、Agを含む導体部から第1のグリーンシート中へのAgの拡散を十分に抑制することができる。このため、Agの拡散に伴う第1のグリーンシート中に含まれるホウ素酸化物の外部への流出を抑制すること可能となる。したがって、焼成温度を従来よりも低くしても、フェライト焼結体の密度を十分に高くすることができる。
【0059】
続いて、積層素体2の長手方向における端部及び長手方向における両側面中央に導電ペーストを塗布し、所定の条件(例えば、大気中で650〜800℃)で熱処理を行って端子電極3,4を焼き付ける。導電ペーストとしては、Agを主成分とする粉末を含むものを用いることができる。その後、端子電極表面にめっきを施し、入力端子電極3、出力端子電極4及びグランド端子電極5が形成された積層型フィルタ100を得る。なお、めっきは電解めっきが好ましく、その材料は、例えばNi/Sn、Cu/Ni/Sn、Ni/Pd/Au、Ni/Pd/Ag、Ni/Ag等を用いることができる。
【0060】
上述の製造方法では、焼成工程時における導体部(第1の内部電極16)から第1のグリーンシート(インダクタ素体10を構成するフェライト焼結体)へのAgの拡散量が低減されているため、導体部すなわち第1の内部電極16の間に配置されるフェライト焼結体のAg含有率を十分に低減することができる。互いに隣り合う第1の内部電極16の間におけるフェライト焼結体のAg含有率は、好ましくは0.18質量%以下であり、より好ましくは0.15質量%以下である。このように、導体部の材料としてAgを含有する導電材を用いているにもかかわらず、フェライト焼結体におけるAgの含有率を低減することができる。
【0061】
上述の製造方法によれば、フェライト焼結体は高い密度を有するうえにAgの含有率が低減されているため、十分に優れたインダクタ特性を有する。すなわち、上述の製造方法によれば、十分に電気抵抗が低い第1の内部電極16と、優れたインダクタ特性を有するフェライト焼結体(インダクタ素体10)とを兼ね備えたインダクタ素子部6を具備する積層型フィルタ100を形成することができる。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、積層型フィルタ100は、中間積層部9を有さず、インダクタ素子部6とバリスタ素子部7とが直接接合されていてもよい。また、上記実施形態では、インダクタ素子部とバリスタ素子部とを有する複合積層型電子部品を挙げて説明したが、本発明の積層型電子部品は複合型に限定されるものではなく、インダクタ素子部からなる積層型インダクタであってもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
[積層型フィルタの作製]
(実施例1)
原料粉末として、市販のFe粉末、ZnO粉末、Mn粉末、NiO粉末及びB粉末を準備した。そして、Fe粉末、ZnO粉末、Mn粉末及びNiO粉末が、下記の比率となるように秤量した。
【0065】
Fe :47.5mol%
NiO :26.0mol%
ZnO :25.0mol%
Mn :1.5mol%
【0066】
秤量した各原料粉末の合計に対し、B粉末を0.5質量%添加して、各原料粉末とB粉末を混合して酸化物混合原料を得た。この酸化物混合原料を、720℃、10時間の条件で仮焼して仮焼体を得た。得られた仮焼体を鋼鉄製のボールミルを用いて40時間混合粉砕し、仮焼粉末を調製した。この仮焼粉末と有機ビヒクルとを混合して磁性体スラリーを調製した。
【0067】
この磁性体スラリーをドクターブレード法によってPETフィルム上に塗布して、厚み20μmのインダクタグリーンシートを作製した。インダクタグリーンシート上の所定の位置にレーザ加工機によりスルーホールを形成し、導電ペーストをスルーホールに充填してビア導体を形成した。また、スクリーン印刷法によって、インダクタグリーンシート上に所定形状の導体パターンを形成した。これによって、導体パターンとビア導体とからなる導体部が形成されたインダクタグリーンシートを作製した。なお、ここで用いた導電ペーストは金属成分として銀のみを含有するものを用いた。
【0068】
上記インダクタグリーンシートとは別に、以下の手順でバリスタグリーンシートを形成した。まず、原料粉末として、市販のZnO粉末、Bi粉末、Pr11粉末、CoO粉末、Cr粉末及びAl粉末を準備した。この原料粉末を所定量秤量し、有機ビヒクルと混合してバリスタスラリーを調製した。
【0069】
このバリスタスラリーをドクターブレード法により、PETフィルム上に塗布して厚み30μmのバリスタグリーンシートを作製した。その後、バリスタグリーンシート上にAg及び場合によりPdを含む導電ペーストを用いてスクリーン印刷法により導体パターンを形成した。また、当該導電ペーストを、スルーホール中に充填してビア導体を形成した。これによって、導体パターンとビア導体とからなる導体部が形成されたバリスタグリーンシートを作製した。
【0070】
上述の通り作製したインダクタグリーンシート及びバリスタグリーンシート、並びに導体部が形成されていないインダクタグリーンシート及びバリスタグリーンシートを、図2に示す順序で積層してグリーン積層体を作製した。このグリーン積層体を、所定のサイズに切断した後、表1に示す酸素濃度を有する雰囲気中、焼成温度896℃で2時間焼成して積層素体を得た。
【0071】
その後、積層素体の端部に銀を主成分とする導電ペーストを塗布し、大気中で650〜800℃で焼成して端子電極を焼付けた。そして、端子電極にNi/Sn(Ni、Snの順に)電気めっきを施した。これによって、インダクタ素体及び該インダクタ素体の内部に配置された第1の内部電極を有するインダクタ素子部と、バリスタ素体及び該バリスタ素体の内部に配置された第2の内部電極を有するバリスタ素子部と、が積層された積層型フィルタを得た。
【0072】
[フェライト焼結体の組成分析]
インダクタ素子部の第1の内部電極の間に配置されたフェライト焼結体におけるAg含有率を以下の手順で測定した。図4は組成分析用の試料の作製方法を説明するために、インダクタ素子部の一部を拡大して示す説明図である。図4(a)の積層型フィルタのインダクタ素子部6におけるインダクタ素体(フェライト焼結体)10の表面10Aを、耐水研磨紙(1500番)を用いて、第1の内部電極16Aと第1の内部電極16Bとの間のインダクタ素体(フェライト焼結体)が露出するまで研磨した。図4(b)は、研磨後の試料を模式的に示す説明図である。図4(b)に示すように、最も近接する第1の内部電極16Bからフェライト焼結体の厚みが10μmになるまで研磨した。
【0073】
その後、レーザアブレーションICP質量分析装置(LA−ICP−MS)を用いて、フェライト焼結体の研磨面10Bにおける領域30でAg含有率を測定した。当該装置のレーザ部にはLUV266X(商品名、New Wave Research社製)を、PCP−MS部にはAgilent7500(商品名、アジレントテクノロジー株式会社製)を用いた。レーザ条件は、スポット径20μm(図4(b)中の領域30の直径)、発振周波数10Hz、出力35%とし、ラスタースキャン法によって分析を行った。
【0074】
上述のAg含有率の分析とは別に、フェライト焼結体の切断面を、X線回折によって分析するとともに、走査透過型電子顕微鏡(STEM:日立ハイテク社製、商品名:HD−2000)を用いて観察した。X線回折の結果からフェライト焼結体にはNiFeBOが形成されていることが確認された。
【0075】
また、上記走査透過型電子顕微鏡に付属したエネルギー分散型X線分光装置を用い、フェライト焼結体の切断面における元素の濃度分析を行った。これらの結果から、フェライト焼結体には、NiZnフェライトを含む主相(主な結晶相)、NiFeBOを含む異相(主相とは異なる結晶相)、及び空孔が含まれることが確認された。
【0076】
[第1の内部電極の組成]
インダクタ素体10の内部に配置された第1の内部電極16におけるAg及びPdの含有率は、導体部の形成に用いた金属ペーストに含まれる金属成分全体に対するAg及びPdの質量割合から計算した。結果を表1に示す。
【0077】
[フェライト焼結体の密度の測定]
上述のフェライト焼結体のレーザアブレーションICP質量分析で測定されたAg含有率と同一のAg含有率を有するフェライト焼結体を別途作製した。焼成条件は、積層型フィルタを作製したときと同じ条件とした。このフェライト焼結体の質量と体積とから、フェライト焼結体の密度を算出した。結果は表1に示す通りであった。
【0078】
[インダクタのQ値の測定]
LCRメーター(ヒューレットパッカード社製、商品名:HP4285A)を用い、10MHzにおける積層型フィルタのインダクタのQ値を測定した。結果は表1に示す通りであった。
【0079】
[内部電極の電気抵抗率の測定]
ソースメーター(ケースレー社製、商品名:2400)を用いて、積層型フィルタのインダクタ素子部における第1の内部電極の直流抵抗を測定し、電気抵抗率を算出した。結果は表1に示す通りであった。
【0080】
(実施例2〜4)
インダクタ素子部の第1の内部電極が表1に示す組成となるように、インダクタグリーンシート上の導体部を形成するための導電ペーストの組成を変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の積層型フィルタを作製した。そして、実施例1と同様にして、インダクタのQ値、第1の内部電極の電気抵抗率、インダクタ素子部におけるフェライト焼結体の組成分析、及び密度測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0081】
(実施例5,8)
焼成時における雰囲気(焼成雰囲気)中の酸素濃度を表1に示すとおりにしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5,8の積層型フィルタを作製した。そして、実施例1と同様にして、インダクタのQ値、第1の内部電極の電気抵抗率、インダクタ素子部におけるフェライト焼結体の組成分析、及び密度測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0082】
(実施例6、実施例7)
インダクタ素子部の第1の内部電極が表1に示す組成となるように、インダクタグリーンシート上の導体部を形成するための導電ペーストの組成を変えたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例6,7の積層型フィルタを作製した。そして、実施例1と同様にして、インダクタのQ値、第1の内部電極の電気抵抗率、インダクタ素子部におけるフェライト焼結体の組成分析、及び密度測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0083】
(実施例9、実施例10)
インダクタ素子部の第1の内部電極が表1に示す組成となるように、インダクタグリーンシート上の導体部を形成するための導電ペーストの組成を変えたこと以外は、実施例8と同様にして、実施例9,10の積層型フィルタを作製した。そして、実施例1と同様にして、インダクタのQ値、第1の内部電極の電気抵抗率、インダクタ素子部におけるフェライト焼結体の組成分析、及び密度測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0084】
(比較例1)
焼成時における雰囲気(焼成雰囲気)中の酸素濃度を表1に示すとおりにしたこと以外は、実施例4と同様にして、比較例1の積層型フィルタを作製した。そして、実施例1と同様にして、インダクタのQ値、第1の内部電極の電気抵抗率、インダクタ素子部におけるフェライト焼結体の組成分析、及び密度測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0085】
【表1】

【0086】
表1の結果から、各実施例の積層型フィルタは、密度の大きいフェライト焼結体を備えており、焼成温度を低くしても十分に焼結が進行することが確認された。また、各実施例の積層型フィルタは、電気抵抗率が低い(0.85μΩm以下)第1の内部電極を有するとともに、高いQ値(5以上)を有することが確認された。各実施例の第1の内部電極のAgの含有率を高くしても、フェライト焼結体中へのAgの拡散が十分に抑制されており、これが密度及びQ値の向上に寄与していると考えられる。
【0087】
一方、焼成雰囲気中の酸素濃度を21体積%とした比較例1では、第1の内部電極のAg含有率を85質量%としても、第1の内部電極からフェライト焼結体へのAgの拡散を十分に抑制することができず、フェライト焼結体中のAg含有率が高くなっていることが確認された。Agの拡散に伴って、インダクタグリーンシート中のホウ素酸化物がインダクタグリーンシートの外部に流出してしまったために、フェライト焼結体の密度を高くすることができなかった。
【0088】
(実施例11〜13)
原料粉末として、市販のFe粉末、ZnO粉末、CuO粉末、NiO粉末及びB粉末を準備した。そして、Fe粉末、ZnO粉末、CuO粉末及びNiO粉末が、下記の比率となるように秤量した。
【0089】
Fe :48.8mol%
NiO :20.0mol%
ZnO :20.3mol%
CuO :10.8mol%
【0090】
秤量した各原料粉末の合計に対し、B粉末を0.2質量%添加して、各原料粉末とB粉末を混合して酸化物混合原料を得た。この酸化物混合原料を、720℃、10時間の条件で仮焼して仮焼体を得た。得られた仮焼体を鋼鉄製のボールミルを用いて40時間混合粉砕し、仮焼粉末を調製した。この仮焼粉末と有機ビヒクルとを混合して磁性体スラリーを調製した。
【0091】
この磁性体スラリーを用いたこと、焼成雰囲気中の酸素濃度を表2に示すとおりにしたこと、又は導電ペーストの組成を変えてインダクタ素子部に表2に示す組成を有する第1の内部電極を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例11〜13の積層型フィルタを作製した。そして、実施例1と同様にして、インダクタのQ値、第1の内部電極の電気抵抗率、インダクタ素子部におけるフェライト焼結体の組成分析、及び密度測定を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0092】
【表2】

【0093】
表2に示す結果から、NiCuZn系フェライトを用いた場合も、NiZn系フェライトを用いた場合と同様に、フェライト焼結体の密度が十分に高くなることが確認された。また、各実施例の積層型フィルタは、電気抵抗率が低い第1の内部電極を有するとともに、高いQ値(5以上)を有することが確認された。
【0094】
(実施例14〜16、比較例2)
実施例1と同様にして秤量した各原料粉末の合計に対し、B粉末を1.0質量%添加して各原料粉末とB粉末を混合し、酸化物混合原料を得た。この酸化物混合原料を、720℃、10時間の条件で仮焼して仮焼体を得た。得られた仮焼体を鋼鉄製のボールミルを用いて40時間混合粉砕し、仮焼粉末を調製した。この仮焼粉末と有機ビヒクルとを混合して磁性体スラリーを調製した。
【0095】
この磁性体スラリーを用いたこと、焼成雰囲気中の酸素濃度を表3に示すとおりにしたこと、又は導電ペーストの配合を変えてインダクタ素子部に表3に示す組成を有する第1の内部電極を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例14〜16及び比較例2の積層型フィルタを作製した。そして、実施例1と同様にして、インダクタのQ値、第1の内部電極の電気抵抗率、インダクタ素子部におけるフェライト焼結体の組成分析、及び密度測定を行った。結果は表3に示すとおりであった。
【0096】
【表3】

【0097】
表3に示す結果から、表1と同様にフェライト焼結体の密度が十分に高くなることが確認された。また、各実施例の積層型フィルタは、電気抵抗率が低い(0.85μΩm以下)第1の内部電極を有するとともに、高いQ値(5以上)を有することが確認された。
【0098】
(実施例17〜19、比較例3)
実施例1と同様にして仮焼粉末を調製した。この仮焼粉末に、仮焼粉末を基準としてB粉末を3.0質量%添加して、仮焼粉末とB粉末を含む酸化物混合原料を調製した。この酸化物混合原料と有機ビヒクルとを混合して磁性体スラリーを調製した。
【0099】
この磁性体スラリーを用いたこと、焼成雰囲気中の酸素濃度を表4に示すとおりにしたこと、又は導電ペーストの配合を変えてインダクタ素子部に表4に示す組成を有する第1の内部電極を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例17〜19及び比較例3の積層型フィルタを作製した。そして、実施例1と同様にして、インダクタのQ値、第1の内部電極の電気抵抗率、インダクタ素子部におけるフェライト焼結体の組成分析、及び密度測定を行った。結果は表4に示すとおりであった。
【0100】
【表4】

【0101】
表4に示す結果から、表1と同様にフェライト焼結体の密度が十分に高くなることが確認された。また、各実施例の積層型フィルタは、電気抵抗率が低い第1の内部電極を有するとともに、高いQ値を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、高密度であり且つインダクタ素体の劣化が十分に抑制されたインダクタ素体を備える積層型電子部品を提供することができる。また、焼成温度を低くしても密度の高いインダクタ素体を備える積層型電子部品を製造することが可能であり、焼成時の劣化が十分に抑制されたインダクタ素体を備える積層型電子部品の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0103】
2…積層素体、3…入力端子電極(端子電極)、4…出力端子電極(端子電極)、5…グランド端子電極、6…インダクタ素子部、7…バリスタ素子部、8…中間層、9…中間積層部、10…インダクタ素体、16…第1の内部電極、17…第2の内部電極、17a…グランド電極(導体部)、17b…ホット電極(導体部)、30…領域、100…積層型フィルタ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタ素体と該インダクタ素体の内部に配置された複数の内部電極とを有するインダクタ素子部を備える積層型電子部品であって、
前記内部電極におけるAgの含有率が85質量%以上であり、
前記インダクタ素体がフェライト組成物及びホウ素酸化物を含有するフェライト焼結体からなり、
隣接する前記内部電極の間における前記フェライト焼結体のAgの含有率が0.18質量%以下である積層型電子部品。
【請求項2】
前記フェライト焼結体におけるホウ素酸化物の含有率がBに換算して0.1〜2質量%である、請求項1に記載の積層型電子部品。
【請求項3】
フェライト組成物及びホウ素酸化物を含有するインダクタ用のグリーンシートとAgを含む導体部とが交互に積層された積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を酸素濃度が5体積%以下である雰囲気中で焼成して、フェライト焼結体からなるインダクタ素体と該インダクタ素体の内部に配置されAgを含有する内部電極とを有するインダクタ素子部を得る焼成工程と、を有する、前記インダクタ素子部を備える積層型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記内部電極におけるAgの含有率が85質量%以上である、請求項3に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項5】
隣接する前記内部電極の間における前記フェライト焼結体のAgの含有率が0.18質量%以下である、請求項3又は4に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記積層工程の前に、
ホウ素酸化物を含む原料を仮焼して、前記ホウ素酸化物と前記フェライト組成物とを含む仮焼体を調製する仮焼工程と、
前記仮焼体を含む前記グリーンシートを作製するシート形成工程と、を有する、請求項3〜5のいずれか一項に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記仮焼体におけるホウ素酸化物の含有率がBに換算して0.1〜2質量%である、請求項6に記載の積層型電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−199100(P2011−199100A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65630(P2010−65630)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】