説明

積層導体

【課題】電流経路の長さが均等になるような形状やスリットを設けることで電流のアンバランスを低減し、損失を少なくすることで装置の性能を高めることが可能な積層導体を提供する。
【解決手段】 4個のIGBTを並列接続する為の板状導体(N側)、板状導体(P側)を、板状絶縁物を挟んで積層した積層導体において、板状導体(N側)および板状導体(P側)を構成するそれぞれの板状導体11を、中央導体部11Aとその両端に接続される側部導体部11B、11CからなるH型の形状とする。これにより、電流の流出入の基準となる基準点16から見て各端子12、13、14、15までの電流経路17の矢印の距離は等しく、従って流れる電流の量も等しくなる。従って各端子12、13、14、15に接続される4個のIGBTに流れる電流のアンバランスを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無停電電源装置の電力変換部分に使われるIGBTを並列に接続するための積層導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、無停電電源装置等の電力変換部分にはIGBTが使用されている(例えば非特許文献1参照)。そして、複数のIGBTを並列に接続するため積層導体が使用されているが、この従来の積層導体について図面を参照して説明する。
【0003】
図6は従来の積層導体の構造であり、図6を用いて構成を説明する。
【0004】
図6においては、4個のIGBT4が、2行2列のマトリックス状に配置されている。IGBT4の上に、板状導体(N側)2が置かれ、その上に板状絶縁物3、板状導体(P側)1と順に重ねて置かれ、積層導体を形成している。
【0005】
板状導体(N側)2及び板状導体(P側)1は、それぞれ、外部との接続のための端部を有している。
【0006】
また、IGBT4と板状導体(N側)2、及び板状導体(P側)1とは、それぞれ端子(N側)6、及び端子(P側)7によって接続されており、電流5が矢印の流れのように板状導体(N側)2の端部から導体(P側)1の端部へと流れる。
【非特許文献1】松崎,「UPSの技術動向」,雑誌OHM,オーム社, 2002年8月号,p40−42
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の積層導体では複数のIGBTを並列接続する場合、電流の流れる経路の長さが個々のIGBTにより異なるため、電流のアンバランスが大きく、発熱の偏りが起こりやすかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、電流経路の長さが均等になるような形状やスリットを設けることで電流のアンバランスを低減し、損失を少なくすることで装置の性能を高めることが可能な積層導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の本発明は、複数個の半導体素子を並列接続する為の第1および第2の導体を、絶縁物を挟んで積層した積層導体において、第1および第2の導体をそれぞれH型の形状にすることにより複数個の半導体素子間に流れる電流を均等にするようにしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の積層導体において、第1および第2の導体にそれぞれスリットを入れることにより複数個の半導体素子間に流れる電流を均等にするようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導体の形状の工夫やスリットの追加により、個々の半導体素子の端子までの電流経路を理論上等距離にすることができ、結果として電流アンバランスを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の図において、同符号は同一部分または対応部分を示す。
【0013】
(第1の実施形態)
まず、本発明に係る積層導体の第1の実施形態について説明する。図1は、この第1の実施形態における、板状導体(N側)の形状および電流経路を示す図である。なお、板状導体(P側)も同様の形状とする。
【0014】
また、図2はこの板状導体(N側)、板状絶縁物、板状導体(P側)を積層した本実施形態の積層導体の構造を示す断面図、図3は板状導体(N側)、板状絶縁物、板状導体(P側)の重なりと端子の位置関係を説明するための図、図4はこの積層導体の、ほぼ直角に曲げられて形成されている外部との接続のための端部の構成を示す図である。
【0015】
図1に示すように、この板状導体(N側)は、電流経路17の矢印の方向に電流が流れる板状導体11で、H型の形状を施してある。
【0016】
すなわち、この板状導体11は、所定幅、所定長さの中央導体部11Aと、この中央導体部11Aの両端にそれぞれ接続されて形成されている側部導体部11B、11Cからなり、H型の形状となっている。
【0017】
また、中央導体部11Aの一側面の中央付近には、外部接続用導体部11Dが形成され、この外部接続用導体部11Dの他端部はほぼ直角に曲げられ外部との接続のための端部となっている。この外部接続用導体部11Dは、中央導体部11Aに接続される部分は幅が狭く、その先の部分は、広くなっていて、更にその先の部分は直角に曲げられ外部との接続のための端部(図4参照)となっている。
【0018】
側部導体部11B、11Cのそれぞれの両端近傍に位置する端子12、端子13、端子14、端子15はそれぞれIGBTの端子に接続される部分である。電流は電流経路17の方向に流れ、それぞれ端子12、13、14、15に至る。
【0019】
板状絶縁物を挟んで、H型の形状の板状導体(P側)を、もう1枚この板状導体(N側)に重ねる。H型の形状の板状導体(P側)においては、同じように4つの端子から矢印17と逆の経路で電流が流れる。
【0020】
図1に示すように、中央導体部11Aにおける外部接続用導体部11Dに対する電流の流出入の基準となる基準点16から見て各端子12、13、14、15までの電流経路17の矢印の距離は等しく、従って流れる電流の量も等しくなる。
【0021】
上記のように電流の流出入の基準となる基準点から各端子までの電流経路が等距離になるように、板状導体(N側)2および板状導体(P側)1をH型の形状にすることにより、電流アンバランスを低減することができる。その結果としてIGBT間のインピーダンスのばらつきを低く抑えられ、また個々のIGBT間の偏った発熱を抑えることにより装置の性能を高めることが可能である。
【0022】
また、図3に示すように、4つのIGBTの端子(P側)のすべてを内側(中央寄り)、端子(N側)のすべてをその外側に配置したことにより、板状導体(N側)2および板状導体(P側)1を上から見たとき(板面に対して垂直方向から見たとき)、H型の板状導体(P側)1の中央導体部の全面がH型の板状導体(N側)2の中央導体部に重なっている。このように、重なりが多いことによりインダクタンスが減少する。なお、逆に、4つのIGBTの端子(P側)のすべてを外側、端子(N側)のすべてをその内側に配置し、H型の板状導体(N側)2の中央導体部の全面がH型の板状導体(N側)1の中央導体部に重なるようにしてもよい。
【0023】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る積層導体の第2の実施形態について説明する。図5は、この第2の実施形態における、板状導体(N側)の形状および電流経路を示す図である。なお、板状導体(P側)も同様の形状とする。
【0024】
図5に示すように、この板状導体(N側)は、電流経路20の矢印の方向に電流が流れる板状導体11で、H型の形状を施してあり、電流経路20の途中にスリット18を施してある。
【0025】
すなわち、この板状導体11は、第1の実施形態の板状導体11の中央導体部11Aにおいて、外部接続用導体部11Dと接続される部分の両側の部分にスリット18を入れたものである。スリット18の長さ(切り込みの深さ)は、中央導体部11Aの幅の2分の1としてある。
【0026】
端子12、端子13、端子14、端子15はそれぞれIGBTの端子に接続される部分であり、電流は電流経路20の方向に流れる。図1では、基準点16に対して各端子12、13、14、15までの距離は等距離であるが、厳密に言えば基準点16に至る前に電流は左右に別れるため端子13、15の方が端子12、14に比べ電流経路が短くなる。図5ではその対策としてスリット18を設けることで、端子13、15へ流れる電流経路を調節し、端子12、14と等距離になるようにした。つまり板状導体11への電流の流入口である基準点19に対しても各端子12、13、14、15までが等距離となるようになっている。以上より、各端子までの厳密な距離が等距離となるため、図1に比べ同等以上の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態における板状導体(N側)の形状および電流経路を示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態の積層導体の構成を示す断面図。
【図3】本発明の第1の実施形態における板状導体の重なりと端子の位置関係を説明するための図。
【図4】本発明の第1の実施形態における外部との接続のための端部の構成を示す正面図。
【図5】本発明の第2の実施形態における板状導体(N側)の形状および電流経路を示す図。
【図6】従来例の構成を示す図。
【符号の説明】
【0028】
1…板状導体(P側)
2…板状導体(N側)
3…板状絶縁物
4…IGBT
5…電流
6…端子(N側)
7…端子(P側)
11…板状導体
11A…中央導体部
11B、11C…側部導体部
11D…外部接続用導体部
12、13、14、15…端子
16、19…基準点
17、20…電流経路
18…スリット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の半導体素子を並列接続する為の第1および第2の導体を、絶縁物を挟んで積層した積層導体において、前記第1および第2の導体をそれぞれH型の形状にすることにより前記複数個の半導体素子間に流れる電流を均等にするようにしたことを特徴とする積層導体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層導体において、前記第1および第2の導体にそれぞれスリットを入れることにより前記複数個の半導体素子間に流れる電流を均等にするようにしたことを特徴とする積層導体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−210586(P2006−210586A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19674(P2005−19674)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】