説明

積層材の製造方法

【課題】軽量で、水により膨潤せず、植物茎の質感と意匠性に富んだ積層材を得る。
【解決手段】先ず複数の植物茎を互いに平行に配列してシート状物を形成し、複数のシート状物をシート状物を構成する植物茎が互いに交差するように第1接着剤を介して積層して第1積層体を形成する。次いで第1積層体を熱圧成形して第1積層成形体31を形成し、この第1積層成形体31をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎に平行に又は直交するようにスライスして複数のスライス片18を得る。次に平面状の基材19の両面に第2接着剤を塗布し、第2接着剤が塗布された基材19の両面に複数のスライス片18をスライス面が接着面となるように配列して第1層41を形成することにより第2積層体22を得る。更に第2積層体22を冷圧成形又は熱圧成形して板状の第2積層成形体からなる積層材10を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高りゃん、とうもろこし、砂糖きび等のイネ科の植物の茎を主な原料とする強化された積層材の製造方法に関する。更に詳しくは建築用材、家具用材、断熱材、吸音材、ディスプレイ用材、各種工作用材に利用される積層材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の積層材の製造方法として、リグノセルロースを主体とする皮部と多孔性の随部とを有する直線部分の植物茎にリグノセルロースの液化液又はリグノセルロースの樹脂化液である加熱硬化液を含浸処理し、上記植物茎を複数互いに平行に配列し、配列した植物茎を熱圧成形して上記加熱硬化液を加熱硬化させる積層材の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この積層材の製造方法では、植物茎を圧縮して皮部に割れ目を発生させた後、加熱硬化液を含浸処理する。このように構成された積層材では、植物茎に加熱硬化液を含浸すると、加熱硬化液が容易に植物茎の皮部のみならず、芯の多孔性の髄部にまで均一に浸透するとともに、加熱硬化液のリグノセルロースの液化液又はその樹脂化液にはリグノセルロースの加水分解等の分解の際に広範囲の分子量成分が生成されているために、髄部には低分子量成分及び高分子量成分がともに浸透する。それと同時に皮部には低分子量成分が皮層内部へ浸透して皮部の増強効果を示し、また高分子量成分は皮部表層にて樹脂層を形成し、皮部の増強と同時に接着作用を示す。更にリグノセルロースの液化液又はその樹脂化液を使用することにより、積層に際して使用する接着剤の使用量を減らすか或いは全く使用せずに済む効果も得られるとともに、配列した複数の植物茎を熱圧成形すると接着剤が乾燥し、かつ加熱硬化液が硬化して樹脂化合物に変わり、強化された積層材となる。この結果、製造コストが安価で済み、軽量で、水により膨潤しない、用途に富んだ積層材を得られるようになっている。
【特許文献1】特許第2944792号公報(請求項1、請求項2、段落[0005]、段落[0017])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の特許文献1に示された方法で製造された積層材では、その表面に竹のような茎の形状がそのまま表面に露出するため意匠性に乏しく、積層材としての商品価値が低い不具合があった。この点を解消するために、積層材の表面に単板を貼付すると、合板と同様の外観しか現れず、天然素材である植物茎の質感を発揮できない問題点があった。
本発明の目的は、軽量で、水により膨潤せず、植物茎の質感と意匠性に富んだ、積層材の製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、積層材の手触りを良好にすることができる、積層材の製造方法を提供することにある。
本発明の更に別の目的は、中間に位置するシート状物や端部に位置するシート状物のうねりを低減でき、また第1接着剤を容易に塗布できる、積層材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に係る発明は、図1〜図10に示すように、(a) 複数の植物茎11を互いに平行に配列してシート状物13を形成する工程と、(b) 複数のシート状物13をシート状物を構成する植物茎11が互いに交差するように第1接着剤を介して積層して第1積層体21を形成する工程と、(c) 第1積層体21を熱圧成形して板状の第1積層成形体31を形成する工程と、(d) 第1積層成形体31をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎11に平行に又は直交するように所定の幅でスライスして複数のスライス片18を得る工程と、(e) 平面状の基材19の片面又は両面に第2接着剤を塗布する工程と、(f) 第2接着剤が塗布された基材19の片面又は両面に複数のスライス片18をスライス面が接着面となるように配列しかつ互いに第2接着剤により接着して第1層41を形成する工程と、(g) 上記工程(f)で基材19の片面又は両面に第1層41を積層して得られた第2積層体22を冷圧成形又は熱圧成形して板状の第2積層成形体からなる積層材10を形成する工程とを含む積層材の製造方法である。
【0005】
請求項2に係る発明は、(a) 複数の植物茎を互いに平行に配列してシート状物を形成する工程と、(b) 複数のシート状物をシート状物を構成する植物茎が互いに交差するように第1接着剤を介して積層して第1積層体を形成する工程と、(c) 第1積層体を熱圧成形して板状の第1積層成形体を形成する工程と、(d) 第1積層成形体をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎に平行に又は直交するように所定の幅でスライスして複数のスライス片を得る工程と、(e) 平面状の基材の片面又は両面に第2接着剤を塗布する工程と、(f) 第2接着剤が塗布された基材の片面又は両面に複数のスライス片をスライス面が接着面となるように配列しかつ互いに第2接着剤により接着して第1層を形成する工程と、(h) 平面状の第1層の表面に第3接着剤を塗布する工程と、(i) 第3接着剤が塗布された第1層の表面に複数のスライス片をスライス面が接着面となりかつ第1層の配列方向と直交するように配列しかつ互いに第3接着剤により接着して第2層を形成する工程と、(j) 工程(h)と工程(i)を1回ずつ行うか或いは2回以上繰返し行うことにより多重積層体を得る工程と、(k) 多重積層体を冷圧成形又は熱圧成形して板状又は柱状の多重積層成形体からなる積層材を形成する工程とを含む積層材の製造方法である。
【0006】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、図1又は図14に示すように、基材19,99が、第1積層成形体、単板、紙又は不織布であることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、図13に示すように、基材89が、第1積層成形体31をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎11に平行に又は直交するように所定の幅でスライスして得られた複数のスライス片18をスライス面が露出するように配列して互いに接着された配列層であることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、第2積層成形体の表面にパテを塗り込んでサンドペーパーで磨き上げることにより表面を平滑化する工程と、この平滑化した第2積層成形体又は多重積層成形体の表面に透明又は半透明の第1色材又は光沢材を塗布し乾燥する工程とを更に含むことを特徴とする。
請求項6に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、図6に示すように、複数のシート状物13を積層するときに、シート状物13とシート状物13の間に薄いシート16を介在させるか、或いは複数のシート状物13を積層して得られた積層物の一方の面又は双方の面に薄いシート16を重ねて第1積層体21を形成することを特徴とする。
請求項7に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、図11に示すように、複数の植物茎11を第2色材により着色した後、シート状物を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1〜4に係る発明では、第1積層成形体をスライスして形成されたスライス片をそのスライス面が露出するように配列して積層接着して積層材を作製したので、この積層材の表面に従来の木材や合板にない独特の模様が現れる。この結果、本発明の積層材は植物茎の質感と意匠性に富んでいるので、家具・什器の材料や内装品として、或いはオブジェや装飾材料として幅広く利用できる。また高りゃん、とうもろこし、砂糖きびなどの植物茎の直線部分を細片に切断せずに用いるので、軽量でありながら極めて高い曲げ強度を有する積層材を作製できる。更に本発明の積層材は、イソシアネート系化合物を接着剤に用いているため、耐水性に優れており、水により膨潤し難い。この結果、寸法安定性に優れるという効果を奏する。
請求項5に係る発明では、第2積層成形体又は多重積層成形体の表面にパテを塗り込んでサンドペーパーで磨き上げたので、積層材の表面を平滑化することができる。この結果、積層材の手触りも良好となる。また平滑化した第2積層成形体又は多重積層成形体の表面に透明又は半透明の第1色材又は光沢材を塗布し乾燥することで、積層材は更に意匠性に富んだものとなる。
請求項6に係る発明では、複数のシート状物の間に薄いシートを介在したり、或いは複数のシート状物の積層物の両面等に薄いシートを重ねたので、中間に位置するシート状物や端部に位置するシート状物のうねりを低減できるとともに、第1接着剤を容易に塗布できる。
請求項7に係る発明では、植物茎を第2色材により着色したので、これを用いた積層材は更に植物茎の質感と意匠性に富んだものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
<第1の実施の形態>
本発明の積層材の製造方法は、次の工程(a)〜(g)を含む。
(1) 工程(a)
図1及び図2に示すように、本実施の形態の積層材10に用いられる材料は、表面にリグノセルロースを主体とする皮部11aと芯に多孔性の髄部11bを有する構造の植物茎11である。高りゃん、とうもろこし、砂糖きびなどの茎はその代表的なものである。これ以外に、葦、稲、むぎ等のごとき他のイネ科の植物の茎を使用することもできる。植物茎11は葉又は袴の部分を切除した直線部分を細片に切断せずに用いる。これにより細片に切断してボード状に成板した従来のバガスボードやストローボードに比べて、軽量でありながら極めて高い曲げ強度を有する積層材10が僅かな工数で得られる。接着剤を塗布する前に、植物茎11を繊維方向に切開かずにそのまま圧縮ローラ等により圧縮して皮部に割れ目11cを発生させておく(図3及び図4)。圧縮ローラ12,12を用いる場合には、ローラ12,12の外周面にローラの円周方向に延びる複数のリング状の溝(図示せず)を形成することにより、ローラ12,12の圧力で植物茎11の一部が溝に進入して皮部11aの割れ目11cを増やすことができる。この状態で複数の植物茎11を互いに平行に配列してシート状物13を形成する(図5)。シート状物13にするに際して、各植物茎11が分散しないように、配列した全ての茎の端部を糸14で結束するか、図示しないが粘着テープや再湿テープで仮止めするか、或いは糸状又は帯状に接着剤を塗布して全ての茎を結束する。
【0009】
(2) 工程(b)
複数のシート状物13をシート状物を構成する植物茎11が互いに交差するように第1接着剤を介して積層して第1積層体21を形成する。具体的には、全ての方向に均一な曲げ強度をもたせ、積層材10の反りを防止するために、図6に示すように構成する植物茎11がシート状物13毎に交差するようにシート状物13を複数重ね合わせて第1積層体21を作製する。このとき複数のシート状物13を積層して得られた積層物の双方の面に薄いシート16をそれぞれ重ねる。これにより端部に位置するシート状物13のうねりを低減できる。なお、薄いシートをシート状物とシート状物の間に介在させてもよい。この場合、中間に位置するシート状物のうねりを低減できるとともに、第1接着剤を容易に塗布できる。
【0010】
接着剤としては、イソシアネート系接着剤を好適に使用できる。即ち、接着剤は、分子内に少なくとも2つのイソシアネート基を有する室温で液状の化合物と、充填剤とを有する。イソシアネート基を有する室温で液状の化合物としては、トリレン・ジイソシアネート、ジフェニルメタン・ジイソシアネート(以下、MDIという)、キシレン・ジイソシアネート、ヘキサメチレン・ジイソシアネート、ナフタレン・ジイソシアネート等のような分子内に少なくとも2つの同種のイソシアネート基を有し、常温において液状を保つ化合物(モノメリック及びポリメリックの各種異性体を含む。)、又はこれらの化合物の中から選ばれた1種又は2種以上の化合物を含む混合物が挙げられる。
【0011】
充填剤としては、クレー,ベントナイト,カルシウム,マグネシウムなどの炭酸塩や、硫酸カルシウム,ケイ酸カルシウムなどのカルシウム化合物や、アルミニウム,亜鉛,マグネシウム,鉄などの金属酸化物又は水酸化物や、カーボン,ガラス,マイカなどの無機物の粉末又は繊維状物や、木屑,やし殻,籾殻,高りゃんなどの粉末や、クルミ,桃などの種子殻粉や、小麦,米,芋デンプン,脂肪大豆,血粉,カゼインなどのタンパク質粉末又はデンプン質粉末が挙げられる。充填剤の配合割合は、使用可能な粘度の範囲内において、イソシアネート化合物100質量部に対し、50〜200質量部であることが好ましい。充填剤の配合割合を50〜200質量部の範囲に限定したのは、50質量部未満ではイソシアネート化合物がシート状物などの被着体の内部へ浸透し過ぎるため接着性能が不十分となり、200質量部を超えると配合物である接着剤の流動状態が低下しシート状物などの被着体の表面への均一な塗布が困難となるからである。また必要に応じ界面活性剤、難燃剤、着色剤、増粘剤、湿潤剤、可塑剤等を接着剤に添加することができる。なお、上記接着剤は常温接着も可能であるが、耐水性の安定及び生産性向上のために熱圧することが好ましい。
【0012】
(3) 工程(c)
第1積層体21を熱圧成形して板状の第1積層成形体31(図8及び図9)を形成する。具体的には、図7に示すように、第1積層体21は必要に応じて仮圧締を施された後に、この第1積層体21の両面をホットプレス17の金属板17a,17aで挟み、50〜250℃の温度下で0.2〜3MPaの圧力をかけて成形する。成形時にスペーサ17b,17bを配置すれば、第1積層成形体31を所定の厚さにすることができる。なお、第1積層成形体31の厚さは10〜100mmの範囲に設定されることが好ましい。ここで、第1積層成形体31の成形時の温度を50〜250℃の範囲に限定したのは、50℃未満では接着剤の効果が極めて遅く生産性に支障をきたし、250℃を超えると表面が炭化してしまうからである。また第1積層成形体31の成形時の圧力を0.2〜3MPaの範囲に限定したのは、0.2MPa未満では表面の凹凸が大きくなり、3MPaを超えると第1積層成形体31に割れが生じてしまうからである。更に第1積層成形体31の厚さを10〜100mmの範囲に限定したのは、10mm未満ではスライス片18を基材19に配列する手間が多くなり、100mmを超えると熱圧時間が長くなり第1積層成形体31の生産性が低下してしまうからである。
【0013】
(4) 工程(d)
図10に示すように、第1積層成形体31をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎11に平行に又は直交するように所定の幅でスライスして複数のスライス片18を得る。第1積層成形体31の構成要素である植物茎11は交互に直交するように積層されているため、スライス面は、ある植物茎11に対しては平行になるけれども、この植物茎11に隣接する植物茎11に対しては直交する。またスライス片18はジグソーやバンドソーなどにより幅が3〜10mmの範囲になるように切り出される。ここで、スライス片18の幅を3〜10mmの範囲に限定したのは、3mm未満ではスライス片18が折れ易くなってスライス片18の取扱いが不便であり、10mmを超えると接着強度が低下するとともにスライス片18を並べ難くなるからである。
【0014】
(5) 工程(e)
平面状の基材19の両面に第2接着剤を塗布する。この実施の形態では、基材19として、スライスする前の第1積層成形体を用いる。この第1積層成形体からなる基材19の両面に第2接着剤を塗布する。第2接着剤を第1接着剤と同一とすれば、部品管理及び工程管理の上で好ましい。
【0015】
(6) 工程(f)
第2接着剤が塗布された基材19の両面に複数のスライス片18をスライス面が接着面となるように配列して第1層41を形成することにより第2積層体22を得る。このときスライス面以外の面に第2接着剤を塗布しておく。これにより隣接するスライス片18を互いに第2接着剤により接着することができるので、積層材10の強度を向上できる。なお、平面状の基材の片面にのみ第1層を形成することにより第2積層体を作製するときには、平面状の基材の片面のみに第2接着剤を塗布する。
【0016】
(7) 工程(g)
第2積層体22を冷圧成形又は熱圧成形して板状の第2積層成形体からなる積層材10を形成する(図1)。冷圧成形時の圧力は0.1〜2.0MPaの範囲に設定される。また熱圧成形時の圧力は冷圧成形時と同圧力の範囲に設定され、温度は50〜150℃の範囲に設定される。ここで、冷圧成形時又は熱圧成形時の圧力を0.1〜2.0MPaの範囲に限定したのは、0.1MPa未満では積層材10の表面に凹凸が発生し、2.0MPaを超えると積層材10の表面に割れが生じてしまうからである。また熱圧成形時の温度を50〜150℃の範囲に限定したのは、50℃未満では接着剤の硬化が遅くなり、150℃を超えるとパンク(水蒸気爆発)が発生するおそれがあるからである。
【0017】
このような方法で製造された積層材10では、第1積層成形体31をスライスして形成されたスライス片18をそのスライス面が露出するように配列して積層接着して積層材10を作製したので、この積層材10の表面に従来の木材や合板にない独特の模様が現れる。この結果、積層材10は植物茎の質感と意匠性に富んでいるので、家具・什器の材料や内装品として、或いはオブジェや装飾材料として幅広く利用できる。また高りゃん、とうもろこし、砂糖きびなどの植物茎11の直線部分を細片に切断せずに用いるので、軽量でありながら極めて高い曲げ強度を有する積層材10を作製できる。更に本実施の形態の積層材10はイソシアネート系化合物を接着剤として用いるため、耐水性に優れ、水により膨潤し難い。この結果、寸法安定性に優れるという効果を奏する。なお、成形後(工程(g)の後)、第2積層成形体からなる積層材10の表面にパテを塗り込んでサンドペーパーで磨き上げることにより、表面を平滑化することができ、これにより積層材10の手触りも良好となる。またサンドペーパーで磨き上げた後に、第2積層成形体からなる積層材10の表面に透明又は半透明の第1色材又は光沢材(例えば、ニス、漆など)を塗布し乾燥してもよい。これにより積層材10は、植物茎の質感や意匠性を損なわずに更に意匠性に富んだものとなる。
【0018】
また、上記工程(f)の後に、平面状の第1層の表面に第3接着剤を塗布し(工程(h))、第3接着剤が塗布された第1層の表面に複数のスライス片をスライス面が接着面となりかつ第1層の配列方向と直交するように配列しかつ互いに第3接着剤により接着して第2層を形成し(工程(i))、上記工程(h)と工程(i)を1回ずつ行うか或いは2回以上繰返し行うことにより多重積層体を作製し(工程(j))、更にこの多重積層体を冷圧成形又は熱圧成形して多重積層成形体からなる積層材を形成してもよい(工程(k))。この場合、第1の実施の形態より厚い板状の積層材を作製したり、柱状の積層材を作製することができる。成形後(工程(k)の後)、多重積層成形体の表面にパテを塗り込んでサンドペーパーで磨き上げることにより、表面を平滑化することができ、これにより積層材の手触りも良好となる。
【0019】
<第2の実施の形態>
図11は本発明の第2の実施の形態を示す。この実施の形態では、植物茎11の皮部11aに割れ目11cを発生させた後に、植物茎11を第2色材により着色する。具体的には、植物茎11を一対の溝付きの圧縮ローラの間を通過させて圧縮することにより、植物茎11の皮部11aに複数の細かい割れ目11cを発生させた後に、割れ目11cが形成された植物茎11を所定の顔料水溶液61に浸漬する。そして顔料水溶液61が含浸された植物茎11を絞って余剰の顔料水溶液61を除去した後に、50〜150℃に0.5〜3.0時間保持して乾燥する。例えば、顔料水溶液として黒顔料『SD−9020』(DIC社製)の水溶液を用いる場合、植物茎を1〜10kPaの減圧下で10〜120分間黒顔料水溶液に浸漬する。ここで、植物茎の黒顔料水溶液への浸漬時の圧力を1〜10kPaの範囲に限定したのは、1kPa未満では減圧装置が高価となり、10kPaを超えると着色に時間がかかり過ぎるからである。また植物茎の黒顔料水溶液への浸漬時間を10〜120分間の範囲に限定したのは、10分間未満では十分に着色できず、120分間を超えると作業性が低下してしまうからである。また染料水溶液として赤染料『Sumifix Red B』(住友化学社製)を用いる場合、黒色顔料と同条件で着色できる。なお、第2色材としては、黒顔料や赤染料以外に、緑色、黄色、茶色等の色材を用いることができる。上記以外は第1の実施の形態と同一に構成される。このように植物茎11を所望の第2色材により着色したので、これを用いて製造された積層材は第1の実施の形態の積層材より植物茎の質感と意匠性に富んだものとなる。上記以外の作用及び効果は第1の実施の形態とほぼ同様であるので、繰返しの説明を省略する。
【0020】
<第3の実施の形態>
図12は本発明の第3の実施の形態を示す。図12において図3と同一符号は同一部品を示す。この実施の形態では、複数の植物茎11を互いに平行に配列してシート状物73を形成した後に、圧縮ローラ12,12等により圧縮して各植物茎11の皮部11aに割れ目11cを発生させる。この場合、圧縮ローラ12,12等の圧力で植物茎11の結束が解除されないように、伸縮可能な紐や粘着テープ等で結束することが好ましい。上記以外は第1の実施の形態と同一に構成される。このように製造された積層材では、植物茎11をシート状物73にした後にまとめて圧縮ローラ12,12等で圧縮できるので、第1の実施の形態より短時間で植物茎11の皮部11aに割れ目11cを発生させることができる。上記以外の作用及び効果は第1の実施の形態とほぼ同様であるので、繰返しの説明を省略する。
【0021】
<第4の実施の形態>
図13は本発明の第4の実施の形態を示す。図13において図1と同一符号は同一部品を示す。この実施の形態では、基材89が、第1積層成形体31をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎11に平行に又は直交するように所定の幅でスライスして得られた複数のスライス片18をスライス面が露出するように配列して互いに接着された配列層である。この配列層からなる基材89の上面に第2接着剤を塗布した後に(工程(e))、配列層からなる基材89の上面に複数のスライス片18をスライス面が接着面となるように配列しかつ互いに第2接着剤により接着して第1層41を形成して第2積層体82を得る(工程(f))。更に工程(f)で得られた第2積層体82を冷圧成形又は熱圧成形して板状の第2積層成形体からなる積層材80を形成する(工程(g))。上記以外は第1の実施の形態と同一に構成される。このように製造された積層材80では、配列層からなる基材89が第1層41と同一に構成されているため、積層材80の表面に現れる模様がスライス片18の表面の模様のみとなり、間仕切りとして使用した場合、両面より植物茎の質感を得ることができるという効果を奏する。上記以外の作用及び効果は第1の実施の形態とほぼ同様であるので、繰返しの説明を省略する。
【0022】
<第5の実施の形態>
図14は本発明の第5の実施の形態を示す。図14において図1と同一符号は同一部品を示す。この実施の形態では、基材99としてポプラの単板が用いられる。この単板からなる基材99の上面に第2接着剤を塗布した後に(工程(e))、単板からなる基材99の上面に複数のスライス片18をスライス面が接着面となるように配列しかつ互いに第2接着剤により接着して第1層41を形成して第2積層体92を得る(工程(f))。更に工程(f)で得られた第2積層体92を冷圧成形又は熱圧成形して板状の第2積層成形体からなる積層材90を形成する(工程(g))。上記以外は第1の実施の形態と同一に構成される。このように製造された積層材90では、基材99が単板であるので、壁材として使用した場合、ベニヤ板より植物茎の質感と意匠性に富んだものとなる。上記以外の作用及び効果は第1の実施の形態とほぼ同様であるので、繰返しの説明を省略する。
なお、上記第1〜第5の実施の形態では、基材として第1積層成形体、配列層又は単板を用いたが、MDF(Medium Density Fiber Board)、パーティクルボード、OSB(Oriented Strand Boaed:配向性ストランドボード)、紙、不織布、無機板等を用いてもよい。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
図2〜図4に示すように、直径が6〜20mmであって長さを約30cmにカットした直線部分の高りゃん茎11をクリアランス(間隔)5mmの溝付きの圧縮ローラ12,12により圧縮し、茎11の皮部11aに複数の細かい割れ目11cを設けた(図3及び図4)。この高りゃん茎11を着色剤として黒顔料『SD−9020』(DIC社製)の2%水溶液61に3kPaの減圧下で10分間浸漬した(図11)。黒顔料水溶液は皮部11aは勿論、割れ目11cを介して髄部11bに浸透した。この高りゃん茎11をクリアランス(間隔)3mmの絞りロールに通して余剰の黒顔料水溶液61を除去した後に、120℃に1時間保持して乾燥し、黒色に着色した高りゃん茎11を得た。黒色に着色した高りゃん茎11を17本ずつ互いに平行にかつ密接に配列し、茎端部を糸14で結束して幅約30cmのシート状物13を3枚作製した(図5及び図6)。次に3枚のシート状物13と2枚のポプラのシート16(厚さ2.0mm)の片面に、イソシアネート系化合物MR−200(日本ポリウレタン工業社製)100質量部と、炭酸カルシウム100質量部と、ノニオン系界面活性剤2質量部と、可塑剤5質量部と、水5質量部とを配合した接着剤をゴムロールにより塗布した後、構成する高りゃん茎11がシート状物13毎に直交するように3枚のシート状物13を重ね、かつ2枚のポプラのシート16が両端に位置するように重ねて、5層からなる第1積層体21を作製した。次いで図7に示すように、この第1積層体21を厚さ15mmのスペーサ17b,17bを設置した温度150℃に維持したホットプレス17に入れ、第1積層体21の両面を金属板17a,17aで挾み、約2.0MPaの圧力で20分間熱圧成形して厚さ15mmの第1積層成形体31を得た。
【0024】
上記第1積層成形体31をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎11に平行に又は直交するように3mmの幅でスライスして複数のスライス片18を得た(図10)。また基材19として第1積層成形体を用い、この第1積層成形体からなる基材19の両面に第2接着剤を塗布した。第2接着剤は第1接着剤と同一のものを用いた。次に第2接着剤が塗布された基材19の両面に複数のスライス片18をスライス面が接着面となるように配列して第1層31を形成することにより第2積層体22を得た(図1)。このときスライス面以外の面に第2接着剤を塗布し、これにより隣接するスライス片18を互いに第2接着剤により接着した。更に第2積層体22を、110℃の温度で圧縮プレスにより1.0MPaの圧力をかけて熱圧成形した。これにより厚さ21mmの第2積層成形体からなる板状の積層材10を得た。この積層材10を実施例1とした。
【0025】
<実施例2>
高りゃん茎を着色剤として赤染料『Sumifix Red B』(住友化学社製)の3%水溶液に常圧でで30分間浸漬したこと以外は、実施例1と同様にして厚さ21mmの板状の積層材を作製した。この積層材を実施例2とした。
<比較例1>
実施例1の第1積層成形体を2枚用意し、一方の第1積層成形体に第1接着剤を塗布して2層に積層した後に、熱圧成形することにより、厚さ30mmの板状の積層材を得た。この積層材を比較例1とした。
【0026】
<比較試験1及び評価>
実施例1及び2の積層材と比較例1の積層材を室内に7日間放置した後、JIS A 5908に規定されたパーティクルボードの試験方法に準じて常態曲げ強さ、曲げヤング率、厚さ膨潤率等をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

表1より明らかなように、高りゃん茎からなる板状積層材に関して、実施例1及び2は比較例1と曲げ強度及び曲げヤング率が同等であることが判明した。また実施例1及び2は比較例と吸水率及び厚さ膨潤率が同等であることが分かった。以上のことから、実施例1及び2の積層板は植物茎の質感と意匠性に富み、工業的に優れた特性を有することが判った。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明第1実施形態の積層材の製造方法であって基材の両面にスライス片を積層接着する工程を示す斜視図である。
【図2】その出発原料である植物茎の斜視図である。
【図3】その植物茎を圧縮して皮部に割れ目を発生させている状態を示す要部斜視図である。
【図4】図3のA矢視図である。
【図5】圧縮した複数の植物茎を互いに平行に配列してシート状物を形成した状態を示す斜視図である。
【図6】複数のシート状物をシート状物を構成する植物茎の配列方向を互いに交差するように重ね合わせかつ単板で挟持して第1積層体を作製する直前の状態を示す斜視図である。
【図7】図6に示す第1積層体を熱圧成形して第1積層成形体を形成する状態を示す構成図である。
【図8】第1積層成形体の側面図である。
【図9】第1積層成形体の斜視図である。
【図10】第1積層成形体を所定の幅でスライスしてスライス片を作製している状態を示す斜視図である。
【図11】本発明第2実施形態の皮部に割れ目を発生させた植物茎を黒色顔料水溶液に浸漬して植物茎を着色している状態を示す図である。
【図12】本発明第3実施形態の植物茎をシート状物にした後に圧縮して皮部に割れ目を発生させている状態を示す要部斜視図である。
【図13】本発明第4実施形態を示す図1に対応する斜視図である。
【図14】本発明第5実施形態を示す図1に対応する斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
10,80,90 積層材
11 高りゃん茎(植物茎)
13,73 シート状物
16 薄いシート
18 スライス片
19,89,99 基材
21 第1積層体
22,82,92 第2積層体
31 第1積層成形体
41 第1層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 複数の植物茎(11)を互いに平行に配列してシート状物(13)を形成する工程と、
(b) 複数のシート状物(13)をシート状物を構成する植物茎(11)が互いに交差するように第1接着剤を介して積層して第1積層体(21)を形成する工程と、
(c) 前記第1積層体(21)を熱圧成形して板状の第1積層成形体(31)を形成する工程と、
(d) 前記第1積層成形体(31)をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎(11)に平行に又は直交するように所定の幅でスライスして複数のスライス片(18)を得る工程と、
(e) 平面状の基材(19)の片面又は両面に第2接着剤を塗布する工程と、
(f) 前記第2接着剤が塗布された基材(19)の片面又は両面に前記複数のスライス片(18)をスライス面が接着面となるように配列しかつ互いに前記第2接着剤により接着して第1層(41)を形成する工程と、
(g) 前記工程(f)で前記基材(19)の片面又は両面に前記第1層(41)を積層して得られた第2積層体(22)を冷圧成形又は熱圧成形して板状の第2積層成形体からなる積層材(10)を形成する工程と
を含む積層材の製造方法。
【請求項2】
(a) 複数の植物茎を互いに平行に配列してシート状物を形成する工程と、
(b) 複数のシート状物をシート状物を構成する植物茎が互いに交差するように第1接着剤を介して積層して第1積層体を形成する工程と、
(c) 前記第1積層体を熱圧成形して板状の第1積層成形体を形成する工程と、
(d) 前記第1積層成形体をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎に平行に又は直交するように所定の幅でスライスして複数のスライス片を得る工程と、
(e) 平面状の基材の片面又は両面に第2接着剤を塗布する工程と、
(f) 前記第2接着剤が塗布された基材の片面又は両面に前記複数のスライス片をスライス面が接着面となるように配列しかつ互いに前記第2接着剤により接着して第1層を形成する工程と、
(h) 平面状の第1層の表面に第3接着剤を塗布する工程と、
(i) 前記第3接着剤が塗布された第1層の表面に前記複数のスライス片をスライス面が接着面となりかつ前記第1層の配列方向と直交するように配列しかつ互いに前記第3接着剤により接着して第2層を形成する工程と、
(j) 前記工程(h)と前記工程(i)を1回ずつ行うか或いは2回以上繰返し行うことにより多重積層体を得る工程と、
(k) 前記多重積層体を冷圧成形又は熱圧成形して板状又は柱状の多重積層成形体からなる積層材を形成する工程と
を含む積層材の製造方法。
【請求項3】
基材(19,99)が、第1積層成形体、単板、紙又は不織布である請求項1又は2記載の積層材の製造方法。
【請求項4】
基材(89)が、第1積層成形体(31)をその積層面に垂直にかつその構成要素である植物茎(11)に平行に又は直交するように所定の幅でスライスして得られた複数のスライス片(18)をスライス面が露出するように配列して互いに接着された配列層である請求項1又は2記載の積層材の製造方法。
【請求項5】
第2積層成形体又は多重積層成形体の表面にパテを塗り込んでサンドペーパーで磨き上げることにより前記表面を平滑化する工程と、この平滑化した第2積層成形体又は多重積層成形体の表面に透明又は半透明の第1色材又は光沢材を塗布し乾燥する工程とを更に含む請求項1又は2記載の積層材の製造方法。
【請求項6】
複数のシート状物(13)を積層するときに、シート状物(13)とシート状物(13)の間に薄いシート(16)を介在させるか、或いは複数のシート状物(13)を積層して得られた積層物の一方の面又は双方の面に薄いシート(16)を重ねて第1積層体(21)を形成する請求項1又は2記載の積層材の製造方法。
【請求項7】
複数の植物茎(11)を第2色材により着色した後、シート状物(13)を形成する請求項1又は2記載の積層材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−17956(P2010−17956A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181337(P2008−181337)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(390001339)光洋産業株式会社 (46)
【Fターム(参考)】