説明

積層物の製造方法

【課題】 成形現場の環境温度に左右されず、年間を通じて均一の硬化時間で確実に硬化させる積層物の製法を提供する。
【解決手段】
予め所定形状に成形された熱可塑性樹脂成形品と所定間隔をもって雌型を配置することによってセルを形成し、前記セル内へ重合硬化性樹脂原料を供給しこれを硬化させる積層物の製造方法において、重合硬化性樹脂原料をセル内へ供給する際に、熱可塑性樹脂成形品の温度が予め30℃から該熱可塑性樹脂成形品の荷重たわみ温度−40℃までの範囲で選択した温度に保持した状態であることを特徴とする積層物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂成形品が重合硬化性樹脂原料の硬化物により補強された積層物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂成形物の裏面に繊維強化樹脂(以下「FRP」という)を積層し、強度を向上させた各種の製品が上市されている。例えば、浴槽や洗面ボール等は、その表面層としてゲルコート層に代えて外観に優れたメタクリル樹脂を用い、その裏面をFRPにより積層補強したものが上市されている。
【0003】
例えば、真空成形、圧空成形、プレス成形等により得られる樹脂成形物は、成形物自体の厚みが薄い場合が多い。この場合、樹脂成形物単独ではその形状が維持できず、また使用時に強度が不足することがあり、FRP等を積層して補強する必要が生じる。さらに、樹脂成形物単独では使用温度の上限が低いので、その点からも上述の積層補強が必要となる。
【0004】
一方FRPは通常ハンドレイアップ法やスプレイアップ法によって積層されるが、この方法は、殆どが手作業のため作業に手間と時間を要する。また、有害性の強い溶剤を含む反応性樹脂を使用するために溶剤の蒸発、ガラス繊維等の飛散など作業環境が悪いことが問題となっている。
【0005】
そこで、真空成形した熱可塑性樹脂成形品と型の間にフィラーを含有した樹脂を充填し重合硬化し一体化させた積層物として特許文献1が開示されている。
【0006】
本方式では、型の中に予めフィラーを含有した樹脂を充填させるため、溶剤の蒸発が外気に飛散することなく、ガラスの飛散がないなど、成形は短時間で簡単に行えることから、全体として浴槽の製造が極めて容易となり、また良好な作業環境の下で作業を行えることができる。
【特許文献1】特開平5−237854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1には、フィラーを含有した樹脂をセル部へ供給する際の熱可塑性樹脂成形品の温度条件等が記載されてなく、その温度は成り行きと推定される。
【0008】
熱可塑性樹脂成形体は、成形準備作業効率を考え、成形現場に近い場所で待機していることが多く室温とほぼ同じ温度になっている。
【0009】
このような場合、重合硬化性樹脂原料が所定の表面硬度を発現するまでの硬化時間は熱可塑性樹脂成形体の温度により左右されることがあった。
【0010】
例えば、気温が著しく低下した時に重合硬化性樹脂原料を供給する際、成形型を所定の温度に温調していても、室温とほぼ同じ温度の熱可塑性樹脂成形品によって、熱可塑性樹脂成形品と雌型から形成されるセル内の雰囲気温度が低下してしまう。あるいは、供給した重合硬化性樹脂原料と熱可塑性樹脂成形品が接触した際に、予め所定の温度に温調していた該重合硬化性樹脂原料の熱が該熱可塑性樹脂成形品によって奪われる。前述のような場合、硬化時間は遅延することがあり、積層物は硬化不充分の状態で脱型してしまうことがあった(ここで言う硬化不充分の状態とはバーコル硬度0を指す)。前述の状態で脱型された積層物は、型による形状規制がなくフリーな状態で硬化が進行するため、硬化後の成形寸法精度が管理範囲を逸脱してしまい、形状矯正の実施が必要となる、あるいは積層物を廃棄することがあった。
【0011】
また、前述の状態で脱型される積層物は、表面状態が硬化不充分であるため脱型から硬化までの間において、積層物の表面は小さな衝撃に対しても容易に傷が付きやすい状態にあり、しばしば傷がつくことがあった。当該傷は、その後の硬化収縮等により硬化終了までに製品として致命的な割れにまでに成長することがあった。また、硬化後は当該傷に応力が集中することから積層物への小さな衝撃に対しても容易に割れることがあった。
【0012】
さらに、前述の状態で脱型される積層物は、硬化不充分の状態であるため型との離型性が低下することで通常より脱型に費やす時間が多くかかり所定の生産量を確保することが困難になる場合があった。さらには、生産計画の都合上、無理に脱型させることで、以後の成形作業が困難となるような成形型への損傷を与えてしまうことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明はかかる問題点を解決すべくなされたものである。
【0014】
本発明の要旨は、予め所定形状に成形された熱可塑性樹脂成形品と所定間隔をもって雌型を配置することによってセルを形成し、前記セル内へ重合硬化性樹脂原料を供給しこれを硬化させる積層物の製造方法において、重合硬化性樹脂原料をセル内へ供給する際に、熱可塑性樹脂成形品の温度が予め30℃から該熱可塑性樹脂成形品の荷重たわみ温度−40℃までの範囲で選択した温度に保持した状態である積層物の製造方法にある。
【0015】
前記重合硬化性樹脂原料及び雌型の温度は熱可塑性樹脂成形品の温度に対し±10℃以内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によって、成形現場の環境温度に左右されず、年間を通じて均一の硬化時間で確実に硬化させることができるため、作業性が向上するほか、所望する成形寸法精度の積層物を安定して得ることができる。
【0017】
また、重合硬化性樹脂原料の硬化条件に対し、熱可塑性樹脂成形品の加熱温度を適当に設定することで、重合硬化性樹脂原料の硬化時間を操作することが可能になり、生産性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明で使用する熱可塑性樹脂成形品は、例えば樹脂板を真空成形、圧空成形またはプレス成形等熱成形したものや、成形材料を射出成形したもの等が挙げられる。
【0019】
熱可塑性樹脂成形品は、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等熱成形または射出成形可能な樹脂の成形品などを使用できる。なかでも、耐加水分解性に優れ密着性の低下が少ないことから、メタクリル樹脂が特に好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂成形品の厚みは、特に制限されないが、厚みが薄くなりすぎると溶剤が接触した場合等でクラックが発生することがあるため、厚みが0.3mm以上であることが好ましく、0.8mm以上であることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂成形品が透明である場合は、その裏面側に印刷が施されたものや、フィルムがラミネートされたものであっても良い。
【0021】
これらの熱可塑性樹脂成形品の中でも、積層物が例えば浴槽、洗面ボール、シンク、化粧棚等に使用する場合は、耐加水分解に優れたメタクリル樹脂成形品が好ましい。メタクリル樹脂成形品の中でも、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチル60質量%以上とアクリル酸エステル40質量%以下とからなる重合性原料を重合開始剤の存在下で重合させて得られたメタクリル樹脂板を成形したものが好ましい。重合性原料を重合させる前に、予め重合性原料の一部を重合させて、重合体と単量体との混合物であるシラップを製造し、次いでそのシラップ100質量部に対して0.02〜1.0質量部の架橋剤を添加して鋳型中で注型重合させることによって得られるメタクリル樹脂板を成形したものが、熱成形加工性及び耐溶剤性にすぐれているためより好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂成形品は、重合硬化性樹脂原料がセル内へ供給される際に、予め30℃から該熱可塑性樹脂成形品の荷重たわみ温度−40℃までの範囲で選択された温度に保持されていることが重要である。好ましくは35〜50℃の範囲に加熱されていることである。熱可塑性樹脂成形体の温度が低すぎるとセル内に設置した低温の熱可塑性樹脂成形体によるセル内の雰囲気温度の低下および、重合硬化性樹脂原料が低温の熱可塑性樹脂成形体に接触した際に冷却されることにより硬化に要する時間が長く必要となり生産性が低下する。熱可塑性樹脂成形体の温度が高すぎると熱可塑性樹脂成形品をセルへ設置する際に、あるいは重合硬化性樹脂原料を供給する際に熱可塑性樹脂成形品に変形が起き易く、あるいは表面に傷が付きやすくなる。なお、荷重たわみ温度はJIS K7191に準じて測定して求めたものである。
【0023】
熱可塑性樹脂成形品の加熱方法としては、炉加熱方法、赤外線加熱方法のほか、熱可塑性樹脂成形品が暖められるまで温調した雄型上に放置する方法、温調された雌雄型の間に熱可塑性樹脂成形品を介在させ暖める方法、雌雄型の間に熱可塑性樹脂成形品を介在させ成形型と一緒に該熱可塑性樹脂成形物が暖まるまで炉内に放置する方法、雌型あるいは雄型に熱可塑性樹脂成形品を設置し該熱可塑性樹脂成形物が暖まるまで炉内に放置する方法などが挙げられる。なかでも、熱可塑性樹脂成形品全体を均一に加熱できる方法として、炉加熱による加熱方法が好ましい。
【0024】
熱可塑性樹脂成形品の補強となる補強層形成のために用いる成形型は、雌雄型からなる成形型を用いても良いし、熱可塑性樹脂成形品が重合硬化性樹脂の供給圧力に対し、成形品形状に著しい変形がない場合は、熱可塑性樹脂成形品そのものを雄型として用いても良い。
【0025】
型の材質は、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを用いたFRPの型、FRPとレジンコンクリートなどの積層体からなる型、アルミ合金型、鋳鉄型、電鋳型等、型材質として公知のものが使用できる。なかでも型の製作が簡易で、コストの安いFRPの型が好ましい。
【0026】
雌型には、重合硬化性樹脂をセル内へ供給するための注入口が設けられている。注入口の設置位置、設置数、口径は特に限定しない。積層物の大きさ、形状、供給時間等の条件に合わせて適宜設定すればよい。
【0027】
雌型の温調は、加熱保持された熱可塑性樹脂成形品の保持温度に対し±10℃以内に加熱保持されていることが好ましい。さらに好ましくは±5℃以内に加熱保持されていることである。型と熱可塑性樹脂成形品の温度差が±10℃以内であると、硬化に必要とされる時間が安定するため、常に一定の硬化状態で脱型でき、品質の安定した積層体を安定した生産量で生産できるといった利点がある。
【0028】
雌型の表面処理は、重合硬化性樹脂原料の重合硬化後、容易に雌型から離型するために、重合硬化性樹脂原料が接する側の面を表面処理することが好ましい。雌型と重合硬化性樹脂原料との接触面積を減らすために表面粗さは25μm以下が好ましく、さらに好ましくは6.3μm以下が好ましい。また、離型剤を塗布したり、テフロン(登録商標)などの密着しない材料でラミネートしたりすることが好ましい。
【0029】
なお、ここでの表面粗さとは、JIS B0601における最大高さ;Rmaxのことである。
【0030】
雄型を使用する場合、雄型の温調は、加熱保持された熱可塑性樹脂成形品の保持温度に対し±10℃以内に加熱保持されていることが好ましい。さらに好ましくは±5℃以内に加熱保持されていることである。雄型の温度が低すぎると加熱保持された熱可塑性樹脂成形品が雄型により冷やされ硬化に要する時間が長く必要となり生産性が低下する。雄型の温度が高すぎると熱可塑性樹脂成形品が雄型と接触する部分において変形が起き易く、あるいは表面に傷が付き易くなる。
【0031】
シール材は、熱可塑性樹脂成形品と雌型により形成されるセルの周緑部をシールする材料である。
【0032】
シール材の材質は、例えばフッ素系樹脂製、シリコン系樹脂製、オレフィン樹脂製等、接合用樹脂と化学的に反応しない材質が挙げられる。再使用性を考慮すればフッ素系樹脂製、シリコン系樹脂製、オレフィン樹脂製のシール材が好ましい。
【0033】
シール材の硬度は、容易に圧縮できればよく、特に限定はしないが、スポンジ硬度30以下が好ましい。
【0034】
シール材の断面形状は、熱可塑性樹脂成形品と雌型を確実にシールできる形状であれば特に限定されず、適宜選定すればよい。
【0035】
雌型と熱可塑性樹脂成形品から形成されるセルの空隙部は、積層物の補強層厚さになる。
【0036】
補強層の厚さは、均一でも、あるいは不均一であってもよい。部位別に必要とされる機械的強度を満足する厚さに設定すればよい。ただし、2mm以下の厚さでは、重合硬化性樹脂原料の未充填な部分が発生することがあるため、2mm以下の厚さではバキュームアシスト等の補助力を用いて重合硬化性樹脂原料をセル内へ供給することが好ましい。その際は別途雌型にバキュームアシスト用の孔を設ける必要がある。
【0037】
本発明に使用する重合硬化性樹脂原料としては、例えば、不飽和ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、およびこれらを変性した樹脂などが挙げられる。不飽和ポリエステル樹脂としては、オルソ系、イソ系、テレ系またはビス系不飽和ポリエステル樹脂およびこれらの(メタ)アクリル変性不飽和ポリエステル樹脂並びにオルソ系、イソ系、テレ系またはビス系不飽和ポリエステル樹脂に(メタ)アクリル樹脂を添加した不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。ただし、重合硬化性樹脂原料は、これらに限定されず、所定の形状に成形された熱可塑性樹脂成形品と親和性を有し、重合硬化してかかる熱可塑性樹脂成形品と密着一体化可能なものであればよい。
【0038】
また、重合硬化性樹脂原料はフィラーを含有させても良い。フィラーとしては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、シリカ、ガラス繊維、炭素繊維、有機繊維等を用いることができ、これらは一種または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
さらに、重合硬化性樹脂原料には硬化剤を含有させることが好ましい。
【0040】
重合硬化性樹脂原料の温調は、加熱保持された熱可塑性樹脂成形品の保持温度に対し±10℃以内に加熱保持されていることが好ましい。さらに好ましくは、±5℃以内に加熱されていることである。重合硬化性樹脂原料と熱可塑性樹脂成形品の温度差が±10℃以内であると、硬化に必要とされる時間が安定するため、常に一定の硬化状態で脱型でき、品質の安定した積層体を安定した生産量で生産できるといった利点がある。
【0041】
重合硬化性樹脂原料の加熱方法は、貯蔵されているタンク及び原料輸送する配管類を温調する方法、ミキサー部を設け、ミキシングによるシェア−発熱により加熱する方法、あるいはこれら2つの方法を組み合わせる方法などが挙げられる。
【0042】
重合硬化性樹脂原料の粘度は、セル部への供給時において100〜8000mPa・sであることが好ましい。更に好ましくは1000〜2000mPa・sであることが好ましい。100mPa・s以上であると、重合硬化性樹脂原料にフィラーを含有させた場合、該フィラーの沈降速度は遅くなり、ポンプ内や型への輸送管内でのフィラー沈降量が少なくなる。またセルへの注入後ゲル化までの間にフィラーが沈降することがないため、補強層の厚さ方向でフィラー密度の不均一な分布がない。よって、部位別での硬化時間差の発生に伴う硬化後の積層体の変形や、機械的強度が不均一な積層体を成形することがない。
【0043】
また、8000mPa・s以下であると、セル部への供給及び充填に時間がかからず容易に注入できるため、流動性の悪さから起こる充填中のゲル化による未充填の発生が起こることがない。
【0044】
重合硬化性樹脂原料のセルへの供給方法は、ギヤポンプ、ロータリポンプ、スネークポンプ、プランジャーポンプ、ダイアフラムポンプ、チューブポンプ、ホースポンプなど一般に重合硬化性樹脂原料の輸送用として使用されるポンプが供給方法として挙げられる。その他の方法として、重力を利用し、重合硬化性樹脂原料を型の上部より落下供給させる自重供給方法、予め雌型に重合硬化性樹脂原料を入れておき、熱可塑性樹脂成形品を上方から押し込む方法などが挙げられる。好ましくは、ポンプからの供給圧力による型への負担軽減と作業性を考慮して低脈動な、ギヤポンプ、ロータリポンプ、スネークポンプ、チューブポンプ、ホースポンプを選定することが好ましい。また、重合硬化性樹脂原料を硬化させる際、硬化剤を使用する場合、重合硬化性樹脂原料及び硬化剤のポンプからの吐出定量性を確保するために、吐出量をセンシングしポンプへフィードバックし吐出量を制御する吐出量フィードバック制御を用いることが好ましい。
【0045】
また、重合硬化性樹脂原料のセル内での充填性を良好にするため、セルに振動を与える方法がある。振動を与える場合、重合硬化性樹脂原料の供給開始から供給終了後まで、あるいは供給開始から終了後しばらくした後まで振動を与えることもできる。
【0046】
また、充填性を良好にする方法としては、バキュームアシスト等の補助力を用いてもよい。
【0047】
硬化した重合硬化性樹脂原料の脱型後は、例えば浴槽の場合、上縁部を鉛直下向き、底部を鉛直上向きにし静置させることが好ましい。上縁部を鉛直上向きに静置させると、硬化が進むに伴い、上縁部の4角が鉛直下向きへ垂れ、浴槽製品の管理範囲から逸脱する場合があるためである。
【0048】
また、上縁部のその他の部位において、硬化が進むことによる硬化変形を抑制するために、脱型後は、上縁部の全周囲に渡って荷重をかけることが好ましい。さらに、前述の状態でアフターキュアーをかけることが、積層物を完全に硬化させることができるため好ましい。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
メタクリル樹脂板(商品名:アクリライト(登録商標)PX200(荷重たわみ温度100℃)三菱レイヨン(株)製)を真空成形によりバスタブの形状に成形した。重合硬化性樹脂原料として不飽和ポリエステル樹脂(商品名:ユピカ4542P、日本ユピカ(株)製)100質量部、炭酸カルシウム(商品名:NS#100、日東粉化工業(株)製)150質量部、硬化剤(商品名:パーメックNR、パーキュアーAHの1/1の混合物、何れも日本油脂(株)製)2質量部を用意した。
【0050】
型の材質は、雌雄型ともエポキシ樹脂からなる温調可能なFRP型を使用した。
【0051】
雌型の重合硬化性樹脂原料が接する側の面は、サンドペーパー#800番で仕上げることによって表面粗さ6μm程度に加工し、離型剤(商品名:ダイヤモンドコートEZ−WAY−710、内容物:合成イソパラフィン炭化水素、脂肪族系炭化水素、米国フランクリンインダストリース社)を塗布した。
【0052】
熱可塑性樹脂成形品は雄型上に設置し、雌型は熱可塑性樹脂成形品の底面(上向き)に対し約14mm間隔を空けた。
【0053】
次に熱可塑性樹脂成形品と雌型の周囲をスポンジ硬度20のシリコンスポンジ紐によりシールし、適当な型締め機器により上下から加圧し、密閉したセルを形成した。セルにおける熱可塑性樹脂成形品の温度を炉加熱法によって32℃とし、雌型温度を炉加熱法によって32℃とした。また雄型温度は雄型周囲に取り付けられた温調循環配管に温調水を流し込み温調し31℃とした。
【0054】
重合硬化性樹脂原料は、貯槽タンクの中で不飽和ポリエステル樹脂と炭酸カルシウムを混合、脱泡しながら33℃まで温調し、セル部へ供給する直前に硬化剤とスタティックミキサーにより混合し、当該原料を熱可塑性樹脂成形品と雌型から形成されたセルへ雌型上部より33℃のまま供給した。この供給に伴い、セル内への重合硬化性樹脂原料の未充填部の空気は排気口より排気させた。
【0055】
熱可塑性樹脂成形品を雄型に設置してから、雌型の設置、重合硬化性樹脂原料の型への供給開始まではおよそ3分以内で終了させた。
【0056】
このようにセルに充填した重合硬化性樹脂原料を50分間重合硬化させ、その後脱型し、上縁部に荷重をかけながら、60℃、60分の条件でアフターキュアーを実施し、樹脂製の浴槽を得た。その製造条件と評価結果とを表1に示す。
【表1】

【0057】
温度の単位はすべて「℃」である。
【0058】
バーコル硬さ;JIS K6911に準じて、バーコル硬度計DYZJ934−1型(米国バーバーコルマル社製)を用いて、底部2箇所、上縁部6箇所、側胴部4箇所の合計12箇所について測定した。
【0059】
なお、硬化後浴槽寸法精度とは上縁部の反りを測定したものであって、上縁部に定規を置いて、上縁部中央部が凸であれば+、中央部が凹であれば−とし、+0mmから−3mmのものを「○」、それ以外のものを「×」とした。
【0060】
[実施例2〜4]
熱可塑性樹脂成形品温度、雌型温度、雄型温度及び重合硬化性樹脂原料温度を表に記載の温度に変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂製の浴槽を得、評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1、2]
熱可塑性樹脂成形品温度、雌型温度、雄型温度及び重合硬化性樹脂原料温度を表に記載の温度に変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂製の浴槽を得、評価した。評価結果を表2に示す。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の製法によって得られた積層物は浴槽、洗面ボール、シンク、化粧棚、椅子などに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め所定形状に成形された熱可塑性樹脂成形品と所定間隔をもって雌型を配置することによってセルを形成し、前記セル内へ重合硬化性樹脂原料を供給しこれを硬化させる積層物の製造方法において、重合硬化性樹脂原料をセル内へ供給する際に、熱可塑性樹脂成形品の温度が予め30℃から該熱可塑性樹脂成形品の荷重たわみ温度−40℃までの範囲で選択した温度に保持した状態であることを特徴とする積層物の製造方法。
【請求項2】
重合硬化性樹脂原料及び雌型の温度が熱可塑性樹脂成形品の温度に対し±10℃以内である請求項1記載の積層物の製造方法。

【公開番号】特開2006−27182(P2006−27182A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211979(P2004−211979)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】