説明

積層造形金型とその製造方法

【課題】3次元形状で外形の大きな造形物を、ベースプレートの反りを少なくし形状の歪みをなくして精度よく製造する。
【解決手段】ベースプレート22上に硬化層2を積み重ねて所望の造形物5を得る時、硬化層2の焼結時に粉と粉の間の空間が失われ体積が減少、さらに凝固収縮で造形物5の内部に収縮応力110が生じる。造形物5は一旦ベースプレート22と結びつき体積収縮が起こることから、ベースプレート22には引っ張り力による反力111が働く。収縮応力110>反力111の時、ベースプレート22が反って、その上に形成の3次元形状に歪みが生じる。造形物5の下部でベースプレート22との接触面に切り欠き6を設け、ベースプレート22と造形物5間の接触面積を小さくして、収縮で生じる曲げモーメントを小さくし、収縮応力110と反力111の釣り合いがベースプレート22に有利になり、反りを抑えて造形する3次元形状を正しく形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元形状の積層造形物の製造方法に係り、詳しくは光ビームを利用して金属の粉末を層状に積層し連続的に硬化させた3次元形状造形物の積層造形金型とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機質粉末(金属粉)に対して光ビーム(指向性エネルギービーム、例えばレーザビーム)を照射して硬化させ、硬化層を積層して3次元形状造形物を形成する従来技術としては、例えば特許文献1に示される方法があった。図3(a)〜(d)は、特許文献1に記載された3次元形状造形物の製造方法を模式的に示す断面図である。
【0003】
図3(a)に示すように、供給部10の底面12と造形部20の底面24は昇降自在である。底面24の上には板状のベースプレート22が配置されており、ベースプレート22の上に粉末材料1を焼結させてなる硬化層2が順次積み重ねられて造形物5が製造される。移送ブレード30は、供給部10および造形部20の内幅よりも長い板状をなし、供給部10の外側から供給部10および造形部20の上方を通過して造形部20の外側まで水平移動する。予め造形部20では先に形成され積み重ねられた硬化層2の上面を造形部20の上端よりも少し下げている。また、供給部10では、供給部10の上端よりも少し高い位置まで粉末材料1が配置されている。
【0004】
この状態で移送ブレード30を供給部10から造形部20の方向に水平移動させる。図3(b)に示すように供給部10の上端よりも高い部分の粉末材料1が移送ブレード30に押し動かされて、造形部20に移送される。移送ブレード30の下端で均された粉末材料1は、空間4に薄い層状に堆積する。造形部20に粉末材料1を供給し終えた移送ブレード30は、造形部20の外側まで移動する。
【0005】
図3(c)に示すように、造形部20の上面に光ビーム3を所定のパターン状に照射することにで、粉末材料1を硬化させ、新たな硬化層2’を形成する。この光照射工程の間もしくは後に移送ブレード30を供給部10の外側の待機位置に用意しておく。
【0006】
供給部10では、底面12を上昇させて次回に造形部20に供給する粉末材料1を用意しておき、図3(d)に示すように、造形部20の底面24を下降させて、次回に粉末材料1が供給される空間4を設けておく。前記のような工程を繰り返すことによって、造形部20のベースプレート22の上には、複数層の硬化層2が積み重ねられ、所望の3次元形状を有する造形物5が得られることとなる。
【0007】
この方法で製造した3次元形状の積層造形物は、CADデータから直接変換したデータにより製造できるため、通常の機械加工で製造する場合よりも、速く加工ができる。このため、複雑な形状の金型に用いるとより好適である。
【特許文献1】特開2001−150557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の構成では、造形物を形成する硬化層2が焼結する時に粉末状態で生じていた粉と粉の間の空間が溶融時に失われて体積が減少し、さらに凝固収縮することで、一旦ベースプレート22と結びついてから体積収縮が起こることで、ベースプレート22が引っ張り力を受けて反ってしまい、その上に形成される3次元形状が歪んでしまうという課題を有していた。特に、この反り量は造形物とベースプレート22の間の接触面積と接触部分の長さに強い相関関係を持ち、外形が100mmを超える大きさとなる形状の造形物を製作する場合には、ベースプレート22の厚みを十分に取らないと0.01mm以上の反りが発生し、造形物の寸法にも誤差を生じさせることにつながり、精密な金型部品を製作するには支障があった。
【0009】
本発明は、前記従来技術の問題を解決することに指向するものであり、光ビームを利用して金属の粉末を層状に連続的に硬化させて製造する3次元形状の積層造形物で、外形が100mmを超える大きさの造形物を、ベースプレートの反りを少なくすることで形状の歪みを少なくして製造できる、積層造形金型とその製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載した積層造形金型は、ベースプレート上に堆積した金属粉を硬化させた積層造形物からなる積層造形金型であって、積層造形物とベースプレートとの間に、ベースプレートとの接触面以外の面は積層造形物で囲まれなる空間を有し、この空間を積層造形物に形成したことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2〜3に記載した積層造形金型は、請求項1の積層造形金型において、空間のベースプレートと平行な任意の第1断面における第1面積が、第1断面と平行でかつ第1断面より積層方向に離れた任意の第2断面における第2面積よりも大きいこと、さらに、空間のベースプレートとの接触面の長さが2mm以上15mm以下であり、ベースプレートとの接触面からの高さが15mm以下であること、さらに、空間は積層造形物とベースプレートの間に複数あることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載した積層造形金型の製造方法は、ベースプレート上に堆積した金属粉を硬化させた積層造形物からなる積層造形金型の製造方法であって、積層造形物に、ベースプレートとの接触面以外の面が積層造形物で囲まれてなる空間を形成して、ベースプレート上に積層造形物を製造することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6,7に記載した積層造形金型の製造方法は、請求項5の積層造形金型の製造方法において、空間のベースプレートと平行な任意の第1断面における第1面積が、第1断面と平行でかつ第1断面より積層方向に離れた任意の第2断面における第2面積よりも大きく、空間を形成したこと、さらに、空間は積層造形物とベースプレートの間に複数を形成したことを特徴とする。
【0014】
前記構成によれば、光ビームを利用して金属の粉末を層状に連続的に硬化させて製造する3次元形状の積層造形物で、外形が100mmを超える大きさの造形物を、ベースプレートの反りを少なくすることで形状の歪みを少なくして、正確な形状で製造できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光ビームを利用して金属の粉末を層状に連続的に硬化させて製造する3次元形状の積層造形物で、外形が100mmを超える大きさの造形物を、ベースプレートの反りを少なくすることで形状の歪みを少なくして、正確な形状で製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における積層造形物であり、(a),(b)は模式的な断面図、(c)は簡略化した斜視図を示す図である。ここで、前記従来例を示す図3(a)〜(d)において説明した構成部材に対応し同等の機能を有するものには同一の符号を付して示し、以下の各図においても同様とする。
【0018】
図1(a)に示すように、ベースプレート22の上には、複数層の硬化層2が積み重ねられて、所望の3次元形状を有する造形物5が得られるのであるが、造形物5(硬化層2)が焼結する時に粉末状態で生じていた粉と粉の間の空間が溶融時に失われて体積が減少し、さらに凝固収縮することで、造形物5の内部には収縮応力110が生じることになる。さらに、造形物5は一旦ベースプレート22と結びついてから体積収縮が起こることで、ベースプレート22が引っ張り力を受け、反力111が働くこととなるのであるが、収縮応力110>反力111となった場合、ベースプレート22が反ってしまい、その上に形成される3次元形状が歪んでしまう。このため、図1(b)に示すように造形物5の下部でベースプレート22との接触面に、空間となる切り欠き6を設けてある。
【0019】
この結果、分割した個々のベースプレート22と造形物5間の接触面積が小さくなり、造形物5の収縮によりベースプレート22上に生じる曲げモーメントの大きさが小さくなるとともに、造形物5自体にも切り欠き6の形状が追加されたことにより、造形物5の収縮応力110とベースプレート22の反力111の釣り合いがベースプレート22に有利になり、ベースプレート22の反りを抑えることができる。このため、その上に造形される3次元形状を正しく形成することができる。
【0020】
図1(c)に示すように造形物5の全長をLとして、図1(b)に示す点Aにおける歪量をyとした時、収縮応力110を簡単に上向きの均等加重wで近似して、点Bを起点とした均等加重を受ける片持ち梁の式を当てはめると、ヤング率をE、断面2次モーメントをIとして、(数1)
【0021】
【数1】

により、近似的に表すことができる。例えば、造形物5が点Cで完全に分割された場合、点Cを起点とした均等加重を受ける片持ち梁の式を当てはめると、(数2)
【0022】
【数2】

となり、歪量は16分の1に低減できることになるが、実際には造形物5は、金型部品の3次元形状部であり、製品の3次元形状の大きさから全長Lが決まっているため、点Cで完全に分割することはできない。ところが、切り欠き6があるので、造形物5とベースプレート22との接触面に空間を有し、かつ造形物5は空間の上部でつながっている形状を有している。このように、上部で結合されている影響で点Cの左右で各々の造形形状が相互作用を生じさせるため、その相互作用の係数をDとすると、(数3)
【0023】
【数3】

で示されることになる。相互作用の係数がD<16の状態で、切り欠き6を追加した場合の歪量yが、切り欠き6のない場合に比べて小さいことになるが、造形物5の形状に着目すると、切り欠き6が存在することにより反力111に対する抵抗力は確実に弱まるため、相互作用の係数D<16となることは容易に予想できる。
【0024】
本実施の形態1では、ベースプレート22は直方体であり、断面2次モーメントIは図1(c)に示すようにベースプレート22の幅をb、厚さをhとして、(数4)
【0025】
【数4】

となる。効果を確認するために、全長Lを85mmとして、厚み40mmで直方体形状の造形物5を切り欠き6のあるものとないものの2つを、幅bが100mm、厚さhが15mmのベースプレート22を使用して製作した。その結果、切り欠きなしの単純な直方体で造形した場合の歪量y=0.186mm、切り欠きありの場合y=0.15mmとなり、切り欠きの追加で歪量yが小さくなり、その結果ベースプレート22上に形成される造形物5の歪量も小さくなり、所望の3次元形状を有する造形物5を得られることが確認できた。この場合の相互作用の係数Dは約12.97である。
【0026】
参考までに、切り欠きありの場合の歪量yの値は、造形物5の積層厚さを40mmから20mmに減少させた場合の実測値に相当する。また、切り欠き6の断面形状の幅は、少なくとも2mm以上ないと、切り欠き6を設ける効果が得られておらず、また切り欠き6の断面形状の幅が15mmを超えたり、高さが造形物5の厚みの3分の1を超えたりすると、造形物5の強度が下がってしまい、金型部品としての実用に支障をきたす。実際には造形物5の厚みは金型の形状によって変化するため、切り欠きの高さは15mm以下とすることで効果が高くなる。
【0027】
なお、本実施の形態1において、切り欠き6として、ベースプレート22と造形物5との接触面に設けた空間は3角形の断面形状となっているが、切り欠き6の空間は、ベースプレート22との接触面側が広くて造形物5の積層方向に狭くなる形状であれば、台形や5角形や半円や楕円形などでも良く、必ずしも露出している必要はない。
【0028】
図3(c)に示した従来の造形物5となる硬化層2を形成するために、光ビーム3を所定のパターン状に照射する際、切り欠き6として光ビーム3を照射せず選択的に硬化層2を形成しない部分を形成し、かつ切り欠き6の面積を1層目のよりも2層目を小さくして形成し、これを繰り返して、ベースプレート22と造形物5の間に切り欠き6となる空間を形成する。この場合、選択的に硬化層2を形成しない部分は粉末状のままとなることから、造形物5の形成後に取り除くことで切り欠き6となる空間を物理的に形成することになるが、取り除かなくとも、造形物5の構造上の強度に寄与しないため、切り欠き6と同様の機能を有することになる。
【0029】
この切り欠き6の空間として、ベースプレート22と平行な任意の第1断面における第1面積と、第1断面と平行でかつ第1断面より積層方向に離れた任意の第2断面における第2面積を比較した場合、第1面積が、第2面積より大きくなるような、空間を造形物5とベースプレート22間に形成する。つまり、ベースプレート22との接触面以外は造形物5で囲まれている空間を形成する。これにより、歪の少ない積層物5をベースプレート22上に製造することができる。
【0030】
本実施の形態1において、1箇所に1つだけ切り欠き6を施しているが、2箇所以上に切り欠き6を施しても良く、切り欠き6は直線である必要はないため曲線でも良く、複数の切り欠き6が交差したり接したりしていても良い。
【0031】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における積層造形物の簡略化した斜視図である。図2において、造形物5はファンなどの回転体の成型を行うために、円筒形状の外形を持っている。この実施の形態2では、形状が4分割されており、それぞれの形状の歪量がばらつくことは望ましくないため、切り欠き6を4つの形状の境目に4箇所設けている。その結果、ベースプレート22の歪量は小さくなるが、その歪量の減少も4つの形状に均等にもたらされることとなる。この切り欠き6は4箇所設けているが、ベースプレート22との接合面で十字形状に交差する2つの切り欠き6であっても良い。
【0032】
なお、切り欠き6の形状や個数は、積層後の造形物5の形状に合わせて所望の形状や個数とすると好適である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る積層造形金型とその製造方法は、光ビームを利用して金属の粉末を層状に連続的に硬化させて製造する3次元形状の積層造形物で、外形が100mmを超える大きさの造形物を、ベースプレートの反りを少なくすることで形状の歪みを少なくして、正確な形状で製造することができ、3次元形状造形物である積層造形金型およびその製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態1における積層造形物であり、(a),(b)は模式的な断面図、(c)は簡略化した斜視図を示す図
【図2】本発明の実施の形態2における積層造形物の簡略化した斜視図
【図3】従来の3次元形状造形物の製造方法であり、(a)〜(d)は模式的に示す断面図
【符号の説明】
【0035】
1 粉末材料
2,2’ 硬化層
3 光ビーム
4 空間
5 造形物
6 切り欠き
10 供給部
12,24 底面
20 造形部
22 ベースプレート
30 移送ブレード
110 収縮応力
111 反力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレート上に堆積した金属粉を硬化させた積層造形物からなる積層造形金型であって、
前記積層造形物と前記ベースプレートとの間に、前記ベースプレートとの接触面以外の面は前記積層造形物で囲まれてなる空間を有し、前記空間を前記積層造形物に形成したことを特徴とする積層造形金型。
【請求項2】
前記空間の前記ベースプレートと平行な任意の第1断面における第1面積が、前記第1断面と平行でかつ前記第1断面より積層方向に離れた任意の第2断面における第2面積よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の積層造形金型。
【請求項3】
前記空間の前記ベースプレートとの接触面の長さが2mm以上15mm以下であり、前記ベースプレートとの接触面からの高さが15mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の積層造形金型。
【請求項4】
前記空間は前記積層造形物と前記ベースプレートの間に複数あることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層造形金型。
【請求項5】
ベースプレート上に堆積した金属粉を硬化させた積層造形物からなる積層造形金型の製造方法であって、
前記積層造形物に、前記ベースプレートとの接触面以外の面が前記積層造形物で囲まれてなる空間を形成して、前記ベースプレート上に前記積層造形物を製造することを特徴とする積層造形金型の製造方法。
【請求項6】
前記空間の前記ベースプレートと平行な任意の第1断面における第1面積が、前記第1断面と平行でかつ前記第1断面より積層方向に離れた任意の第2断面における第2面積よりも大きく、前記空間を形成したことを特徴とする請求項5記載の積層造形金型の製造方法。
【請求項7】
前記空間は前記積層造形物と前記ベースプレートの間に複数を形成したことを特徴とする請求項5または6記載の積層造形金型の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−101256(P2008−101256A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286002(P2006−286002)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】