説明

空中線装置及びそれを用いた電子機器

【課題】 美観を損ねることなく非接触で信号又は電力伝送を行う。
【解決手段】 筐体(11)に一体成形されたアンテナ部(19)を備え、前記アンテナ部(19)は、ループ状の主パターン(19a)と、前記主パターン(19a)の一部から枝分かれした所定長の副パターン(19d)と、前記副パターンと前記主パターンとの間に張り渡された導電性テープ(23)とを有する。導電性テープ(23)の貼り付け位置でインダクタンスを調整でき、しかも、アンテナ部(19)を筐体(11)に一体成形したので、アンテナ部(19)が外部から見えず、美観を損なわない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中線装置及びそれを用いた電子機器に関し、詳細には、非接触で信号や電力の伝送を行うための空中線装置及びそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で信号や電力の伝送を行う技術として非接触ICカードが知られている。非接触ICカードは、たとえば、電子改札機に適用するプリペイド方式のICカードであって、電子改札機に設けられたリーダライタに軽く触れるだけで、入出札手続を素早く完了することができる便利なカードであるが、今日においては、かかる用途以外にも、たとえば、社員証や電子運転免許証などにも幅広く用いられているほか、さらに、この技術を適用した携帯電話機等の携帯電子機器も実用化されている。
【0003】
なお、非接触で信号や電力の伝送を行う技術としては、この他にも、電力の供給やバッテリの充電などを非接触で行う技術も知られているが、ここでは、説明を簡単にするために、非接触ICカードの技術を代表にして説明する。
【0004】
図6は、非接触ICカードの回路構成図である。この図に示すように、非接触ICカード1は、アンテナ部2とICチップ3とを備え、アンテナ部2は、ループ型のアンテナパターン4とコンデンサ5とから構成されている。
【0005】
アンテナ部2は、アンテナパターン4のインダクタンス(L)とコンデンサ5のキャパシタンス(C)との並列共振回路を形成しており、アンテナ部2の共振周波数fは、次式(1)によって与えられる。
【0006】
f=1/(2π√LC)・・・・(1)
【0007】
共振周波数fは、たとえば、ISO/IEC14443で標準化されている近接形の非接触ICカードの場合は13.56MHzであり、正確な共振周波数fを得るために、または、コミュニケーションホール(リーダライタからの過大な信号入力によるカードのシャットダウンやリーダライタとの結合不足によるカードの不応答状態のこと。)を解消するのための共振周波数fの調節に、製造段階でLとCの微調整を行っている。
【0008】
Cの微調整は、たとえば、あらかじめコンデンサ5を複数のチップコンデンサで構成しておき、所望のCが得られるように、それらのチップコンデンサを適宜に選択したり(下記の特許文献1参照)、または、コンデンサを切り換えたりしている(下記の特許文献2参照)。
【0009】
また、Lの微調整は、たとえば、アンテナパターン4の一端側に調整用パターンを設けておき、その調整用パターンの接続位置を変更することによってアンテナパターン4の長さを変えたり(下記の特許文献3参照)、または、アンテナパターン4に櫛歯状のパターン(以下、櫛歯パターンという)を設けておき、その櫛歯パターンの櫛歯を選択的にカットすることによってアンテナパターン4の長さを変えたり(下記の特許文献4参照)している。
【0010】
図7は、櫛歯パターンによるLの微調整を示す図である。この図の(a)において、アンテナパターン4は、1ないしは数周のループを描く所定長の主パターン4aと、この主パターン4aの両端に設けられた一対の給電電極4b、4cとを備えるとともに、さらに、主パターン4aの一部に並行して配置された副パターン4dと、この副パターン4dと主パターン4aとの間に張り渡された複数のブリッジパターン4eとを備えており、副パターン4dと複数のブリッジパターン4eとにより、L調整用の櫛歯パターン4fを構成している。
【0011】
このような構成において、インダクタンス(L)を調整する場合は、この図の(b)に示すように、適当な位置のブリッジパターン4eを残して他のブリッジパターン4eをカット(切断)する。たとえば、ここでは、左から2番目のブリッジパターン4eを残して他の全てのブリッジパターン4eをカットしている。
【0012】
このようにして、アンテナパターン4のインダクタンス(L)とコンデンサ5のキャパシタンス(C)を微調整することにより、所望の共振周波数f(たとえば、f=13.56MH)を得ている。または、コミュニケーションホールを解消している。
【0013】
ところで、非接触ICカードの技術を携帯電話機等の携帯電子機器に適用する場合、アンテナパターン4の位置が問題になる。携帯電子機器の筐体はカードに比べて遙かに厚みがあるからであり、たとえば、筐体の内部にアンテナパターン4を実装すると、アンテナパターン4とリーダライタとの距離が離れてしまい、両者のデータ通信に支障を来す恐れがあるからである。
【0014】
したがって、電子機器に適用する場合のアンテナパターン4の位置は、できるだけリーダライタとの距離が短くなるように設定することが求められる。たとえば、アンテナパターン4を筐体の外側表面に貼り付ける(下記の特許文献5参照)と、上記の距離をゼロにできるので好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−063081号公報
【特許文献2】特開2010−147743号公報
【特許文献3】特開2007−306601号公報
【特許文献4】特開2003−224415号公報
【特許文献5】再公表特許WO2007/094494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、筐体の外側表面にアンテナパターン4を貼り付けた場合は、リーダライタとの距離をゼロにしてデータ通信を支障なく行うことができるという利点がある一方、アンテナパターン4が外部に露出するので、携帯電子機器の美観を損ねてしまうという問題点がある。
【0017】
そこで、本発明の目的は、美観を損ねることなく非接触で信号又は電力伝送を行うことができる空中線装置及びそれを用いた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の空中線装置は、筐体に一体成形されたアンテナ部を備え、前記アンテナ部は、ループ状の主パターンと、前記主パターンの一部から枝分かれした所定長の副パターンと、前記副パターンと前記主パターンとの間に張り渡された導電性テープとを有することを特徴とする。
また、本発明の電子機器は、前記空中線装置を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、美観を損ねることなく非接触で信号又は電力伝送を行うことができる空中線装置及びそれを用いた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る携帯電話機10の外観を示す図である。
【図2】携帯電話機10の断面を示す図である。
【図3】実施形態におけるアンテナ部19の一例を示す図である。
【図4】本実施形態におけるインダクタンス(L)の調整を示す図である。
【図5】一体化の二つのケースを示す図である。
【図6】非接触ICカードの回路構成図である。
【図7】櫛歯パターンによるLの微調整を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、携帯電話機への適用を例にして、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る携帯電話機10の外観を示す図である。この図において、携帯電話機10は、手持ちに適した形状を有する下筐体11と上筐体12からなる上下2分割式の筐体13を有し、筐体13の主面(操作の対象となる面のこと)に位置する上筐体12の外面に表示部14と、スピーカ15と、マイク16と、操作キー群17(テンキーを含むキー群)とを配置するとともに、筐体13の裏(主面の反対面)に位置する下筐体11の外面にバッテリ蓋18と、アンテナ部19とを配置している。
【0022】
ここで、アンテナ部19は下筐体11と一体化されている点に特徴がある。この一体化は、インサート成形(または成型)によって行うことができる。すなわち、埋め込み対象であるインサート品(ここではアンテナ部19)を金型内に装填した後、樹脂(下筐体11の原料)を注入し、溶融樹脂でインサート品を包み込み固化させることによって、樹脂とインサート品(アンテナ部19)とを一体化した複合部品(図示の下筐体11)を作ることができる。
【0023】
図2は、携帯電話機10の断面を示す図である。この図に示すように、下筐体11と上筐体12からなる筐体13の内部には、バッテリ20が組み込まれているとともに、さらに、下筐体11に立設する複数の突起21、21の上に電子基板22が取り付けられており、この電子基板22には、不図示の様々な電子部品(CPUやメモリ及びその周辺回路並びに電話用通信ユニットなど)が実装されている。
【0024】
さて、この図において、下筐体11は、インサート成形によって一体化されたアンテナ部19を有している。このアンテナ部19は、冒頭で説明した非接触ICカード技術におけるアンテナ部2(図6参照)と同様に、アンテナパターンのインダクタンス(L)とコンデンサのキャパシタンス(C)との並列共振回路を形成し、その共振周波数fを、前式(1)によって得るというものである。
【0025】
図3は、実施形態におけるアンテナ部19の一例を示す図である。この図において、アンテナ部19のアンテナパターンは、1ないしは数周(図では3周であるが、これは一例に過ぎない)のループを描く所定長の主パターン19aと、この主パターン19aの両端に設けられた一対の給電電極19b、19cとを備えるとともに、さらに、主パターン19aの一部から枝分かれし、且つ、主パターン19aに並行して配置された所定長の副パターン19dとを備えている。
【0026】
本実施形態において、アンテナ部19のインダクタンス(L)の調整は、副パターン19dの電気長を加減することによって行い、具体的には、後述する導電性テープの貼り付けによって行う。
図4は、本実施形態におけるインダクタンス(L)の調整を示す図である。この図に示すように、主パターン19aと副パターン19dとを適当な位置でブリッジするように導電性テープ23の位置合わせを行い、その貼り付け位置を副パターン19dに沿ってずらす(白抜き矢印A、B参照)ことにより、アンテナ部19のインダクタンス(L)を調整することができる。
【0027】
以上のとおりの構成とすることにより、本実施形態においては、以下の効果を奏することができる。
(1)筐体外表面にアンテナ部19が露出しないので、美観を損ねない。なお、導電性テープ23を下筐体11の外面に貼り付けた場合は、この導電性テープ23が外部から見えてしまうため、美観を損なう。したがって、導電性テープ23は、外から見えない面(つまり、下筐体11の内面)に貼り付けることが望ましい。
(2)導電性テープ23の貼り付け位置を変える(図4の白抜き矢印A、B参照)だけで、アンテナ部19のインダクタンス(L)を調整することができる。このため、冒頭の特許文献4に記載の技術(櫛歯パターン4fを有するもの)のようなパターンカット(切断)の作業を必要としない。それゆえ、櫛歯パターン4fを有するアンテナパターンを下筐体11と一体化してインサート成形した場合には、パターンカットを行う際に、下筐体11の一部を切り欠かなければならないが、本実施形態では、そのような切り欠きを必要とせず、したがって、作業の簡素化や筐体13へのダメージ防止を図ることができる。
【0028】
なお、本実施形態においては、インサート成形によってアンテナ部19を下筐体11と一体化するとしているが、その「一体化」の態様には、二つのケースが考えられる。
図5は、一体化の二つのケースを示す図である。まず、第一は、(a)に示すように、アンテナ部19を下筐体11に完全に埋設してしまうというケースであり、第二は、(b)に示すように、アンテナ部19を下筐体11に完全に埋設せず、その一部(少なくとも副パターン19aの全てとその副パターン19aに並行する部分の主パターン19a)を下筐体11の外表面に露出させるというケースである。第二のケースの場合、導電性テープ23と主パターン19a及び副パターン19dとが電気的に接続されるため、インダクタンス(L)の調整の点で好ましいが、美観の点で好ましくない。アンテナ部19の一部や導電性テープ23が外から見えてしまうからである。第二のケースの美観上の欠点を解消するには、(c)に示すように、アンテナ部19の露出面を外表面ではなく、内表面(つまり、筐体13の内部を望む面)にすればよい。
【0029】
また、このような美観上の欠点は上記の第一のケースでは生じないが、この第一のケースでは、導電性テープ23と主パターン19a及び副パターン19dとの電気的な接続を行うことができないという不都合がある。主パターン19aや副パターン19dが完全に下筐体11に埋設されているからであり、導電性テープ23と主パターン19aや副パターン19dとの間に樹脂(下筐体11の材料)が介在するからである。しかしながら、かかる完全埋設状態のパターンであっても“静電容量”による結合(図中の容量Caによる結合)は可能である(たとえば、冒頭の特許文献5参照)から、インダクタンス(L)の調整に支障はない。
【0030】
したがって、本実施形態の技術思想は、上記の第1のケースと第二のケースを含むものであり、いずれのケースを採用するかは、要求される美観の程度や、インダクタンス(L)の調整性能などによって適宜に決定すればよい。
【0031】
なお、以上の説明では、携帯電話機10への適用を示したが、これに限定されないことはもちろんである。非接触ICカードの技術を利用した携帯型の電子機器であればよい。
また、非接触ICカードの技術にも限定されない。たとえば、電磁誘導方式で電力の供給や充電などを行う、いわゆる非接触電源供給技術であってもよい。
【0032】
以下、本発明の特徴を付記する。
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
付記1は、図4に示すように、
筐体(11)に一体成形されたアンテナ部(19)を備え、
前記アンテナ部(19)は、
ループ状の主パターン(19a)と、
前記主パターン(19a)の一部から枝分かれした所定長の副パターン(19d)と、
前記副パターンと前記主パターンとの間に張り渡された導電性テープ(23)と
を有することを特徴とする空中線装置である。
【0033】
(付記2)
付記2は、図4に示すように、
前記導電性テープ(23)は、前記副パターン(19d)と前記主パターン(19a)との間を電気的に接続し、または、静電結合によって接続することを特徴とする付記1に記載の空中線装置である。
【0034】
(付記3)
付記3は、図1に示すように、
付記1または付記2に記載の空中線装置(19)を搭載したことを特徴とする電子機器(10)である。
【符号の説明】
【0035】
10 携帯電話機(電子機器)
11 下筐体(筐体)
19 アンテナ部
19a 主パターン
19d 副パターン
23 導電性テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体に一体成形されたアンテナ部を備え、
前記アンテナ部は、
ループ状の主パターンと、
前記主パターンの一部から枝分かれした所定長の副パターンと、
前記副パターンと前記主パターンとの間に張り渡された導電性テープと
を有することを特徴とする空中線装置。
【請求項2】
前記導電性テープは、前記副パターンと前記主パターンとの間を電気的に接続し、または、静電結合によって接続することを特徴とする請求項1に記載の空中線装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の空中線装置を搭載したことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−253702(P2012−253702A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126896(P2011−126896)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(310006855)NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】