説明

空圧式除振台システムの振動抑制制御方法

【課題】大変位の振動、例えば数mmレベルの振動をアクティブ制御により迅速に抑制するのに適した空圧式除振台システムの振動抑制制御方法を提案すること。
【解決手段】空圧式除振台システムは複数の開閉弁のon−off操作により規定される多値の量子化流量により空気ばねに対する流量を制御して除振台の振動を制御する。空圧制御において配管を用いているため、むだ時間を状態予測制御(F)により除去する。開閉弁のon−off操作を考慮して、制御系にFBMを追加すると共にFBMの前段に不感帯関数Ψと飽和関数Γを追加し、さらに、不感帯関数Ψに不感帯補償器Hを追加する。数mmレベルの大振動を従来の機構に比べて迅速に抑制でき、開閉弁のon−off駆動による制御はサーボ弁を用いた線形制御に比較して高速応答性に優れ、安価に実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空圧式除振台システムの振動抑制制御方法に関し、特に、大変位の振動、例えば数mmレベルの振動をアクティブ制御により迅速に抑制するのに適した空圧式除振台システムの振動抑制制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密部品の製造、測定分野では、床からの振動を抑制するために除振台が広く使用されている。特に空圧式除振台は大重量を低エネルギーで支持でき、高い除振性能を有することから広く使用されている。また、除振台に直接加わる直動外乱によって発生する振動を抑制するために、空圧式除振台へのアクティブ制御についてこれまで種々の提案および研究がなされている。
【0003】
特許文献1には空圧式除振台のアクティブ制御方法および装置が提案されている。また、微分圧力情報を利用しノズルフラッパー型サーボ弁を用いて空気ばねの内圧をアクティブに制御する手法(非特許文献1)、絶対変位センサを利用しボイスコイルモータを用いて除振台に外力を加えることで制振性能を高める手法(非特許文献2)、位置、速度、加速度情報をフィードバックし、さらにフィードフォワードを組み合わせることで空気ばねの内圧を制御し位置決めの高速化をはかる手法(非特許文献3、4)が提案されている。さらに、ボイスコイルモータを多点配置することで制御帯域を広げる手法(非特許文献5)、加速度センサノイズを軽減させることで性能を向上させる手法(非特許文献6、7)、補助タンクを用いたり、空気ばねの形状を工夫して性能を向上させる手法(非特許文献8、9)、スプール型サーボバルブを用いて低消費流量でアクティブに制御する手法(非特許文献10)なども提案されている。一方、本発明に関連する先行技術として非特許文献11〜18において提案されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−112535号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】川嶋健嗣,加藤友規,金恩敬,新井豪,只野耕太郎,香川利春,“圧力微分計を用いた空気ばね式除振台の外乱補償制御”,日本機械学会論文集C編,Vol. 76,No. 764 (2010), pp. 861-868
【非特許文献2】甲斐孝志,涌井伸二,“絶対変位センサを用いた2自由度空圧式除振装置の制御”,日本機械学会論文集C編,Vol. 76,No. 766 (2010), pp. 1489-1495
【非特許文献3】涌井伸二,多田遼太郎,“圧力フィードバックと直列補償を備えた空圧系の位置決め制御”,精密工学会誌,Vol. 74,No.7 (2008), pp. 769-774
【非特許文献4】涌井伸二,山本真臣,高橋正人,“空圧位置決めの一フィードフォワード補償器の機能”,精密工学会誌,Vol. 74,No. 11(2008), pp. 1243-1244
【非特許文献5】高橋正人,涌井伸二,牧野内進,“アクチュエータの多点配置によるアクティブ除振装置の広帯域化”,日本機械学会論文集C編,Vol. 76,No. 763 (2010), pp. 550-556
【非特許文献6】入江亮,高橋正人,涌井伸二,“加速度センサノイズが空圧式除振装置の制御に与える影響”,精密工学会誌,Vol. 75,No.6 (2009), pp. 778-779
【非特許文献7】入江亮,涌井伸二,“相対加速度の積分信号を用いた空圧式除振装置の制御”,精密工学会誌,Vol. 74,No. 9 (2008), pp.1002-1006
【非特許文献8】高橋正人,涌井伸二,“補助タンクを用いた除振台の高性能化”,精密工学会誌,Vol. 75,No. 4 (2009), pp. 542-547
【非特許文献9】涌井伸二,富井太士,高橋正人,“逆テーパ付き空気ばねのモデルの提案 ”,精密工学会誌,Vol. 74,No. 6 (2008), pp.643-644
【非特許文献10】加藤友規,川嶋健嗣,澤本晃一,舩木達也,香川利春“スプール型サーボ弁と層流型高速流量計を用いた空圧式アクティブ除振台の制御”,精密工学会誌,Vol. 72,No. 6 (2006), pp. 772-777
【非特許文献11】星野洋平,小林幸徳,珍田寛,中西光章,“空気圧アクチュエータを用いた除振台のアクティブ制御”,日本機械学会論文集C編,Vol. 73,No. 727 (2007), pp. 677-684
【非特許文献12】相崎秀斗,涌井伸二,“スプール形サーボバルブを備えた空圧式除振装置に対するモデル追従制御の調整法とその効果”,日本機械学会論文集C編,Vol.76.76(20010), pp. 835-841
【非特許文献13】赤坂大介,劉康志,”On-Off制御に対する安定化出力フィードバック則の設計法”,計測自動制御学会論文集,Vol. 44,No. 5 (2008), pp. 415-424
【非特許文献14】冨田健太郎,浅井徹,”PWM型制御入力に基づく安定化制御”,計測自動制御学会論文集,Vol. 42,No. 2 (2006), pp.129-138
【非特許文献15】冨田健太郎,浅井徹,“3値のPWM型制御入力に基づく安定化”,計測自動制御学会論文集,Vol. 44,No. 6 (2008), pp.483-491
【非特許文献16】石川将人,丸田一郎,杉江俊治,“フィードバック変調器を用いた離散値入力制御系の設計”,計測自動制御学会論文集,Vol. 43,No. 1 (2007), pp. 31-36
【非特許文献17】阿部直人,児島晃,むだ時間・分布定数系の制御,初版(2007),p. 34,コロナ社
【非特許文献18】Gao, J., and Huang, B., “Delay-dependent robust guaranteed cost control of an uncertain linear system with state and input delay”, International Journal of Systems Science, Vol. 36, No. 1 (2005), pp. 19-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来における空圧式除振台の振動抑制方法に関する提案、研究は、定常時の微振動制御に対するものである。一方、加工、測定工程を有する工場の生産ラインではワークを除振台に載せた際に数mmレベルの振動が発生し、振動が収まるまで加工、測定工程に進めないといった問題がある。
【0007】
大変位の振動制御としてはステッピングモータで駆動される空圧レギュレータによって空気ばねの内圧を制御する手法(非特許文献11)やスプール型サーボバルブによって流量を制御する手法(非特許文献12)で一部研究されているが、これらの手法では速い応答性を得ることができない。その理由は、大変位を高速で制御しようとすると操作量の飽和領域である最大入力/最小入力を瞬時に用いる必要があるが、線形制御では、最大入力/最小入力への到達が遅れるからである。
【0008】
本発明の課題は、このような問題点に鑑みて、大変位の振動、例えば数mmレベルの振動をアクティブ制御により迅速に抑制するのに適した空圧式除振台システムの振動抑制制御方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の空圧式除振台システムは、
除振台と、
前記除振台を支持している空気ばねと、
on−offの2値を取る少なくとも1つの吸気用開閉弁およびon−offの2値を取る少なくとも1つの排気用開閉弁を介して前記空気ばねに対する圧縮空気の供給および排出を行う空圧回路と、
前記除振台の除振方向の変位または速度に関する情報および前記空気ばね内の空気の圧力変化をフィードバックして前記除振台の振動を抑制するために要求される前記空気ばねに対する圧縮空気の指令流量を算出し、当該指令流量を、前記吸気用開閉弁および前記排気用開閉弁のon−off操作によって得られる離散的な多値の操作流量に変換し、当該操作流量を前記空気ばねに与える制御系とを有していることを特徴としている。
【0010】
本発明の空圧式除振台システムでは、吸気用開閉弁および排気用開閉弁を用いて空圧制御が行われる。すなわち、吸気用開閉弁を開き、排気用開閉弁を閉じることにより空気ばねに圧縮空気が供給され、吸気用開閉弁を閉じ、排気用開閉弁を開くことにより空気ばねから圧縮空気が排出される。
【0011】
並列接続された複数の吸気用開閉弁および並列接続された複数の排気用開閉弁を備えている場合には、複数の吸気用開閉弁のうちの1つ、あるいは2つ以上を同時に開くことにより、多段階の供給流量で、空気ばねに対する圧縮空気の供給が行われ、複数の排気用開閉弁のうちの1つ、あるいは2つ以上を同時に開くことにより、多段階の排気流量で、空気ばねから圧縮空気の排出が行われる。
【0012】
従来において微振動制御で用いられているサーボバルブなどでは、線形領域の入力に対しては応答性が良いが、大変位の振動の抑制制御においては最大入力、最小入力(飽和操作量)が要求されるので、最大入力から最小入力あるいは最小入力から最大入力に瞬時に切り替えることが困難である。このために、大振動の抑制制御を応答性良く行うことができない。本発明では、瞬時に最大入力、最小入力を切り替え可能な開閉式を用いた空圧制御が行われるので、大きな振幅の振動であっても応答性良く抑制することが可能になる。また、開閉弁、例えば開閉式電磁弁は安価であるので、装置の製造コストを低減できるという経済的なメリットも得られる。さらに、複数の吸気用開閉弁および複数の排気用開閉弁を備えている場合には多段階に吸気、排気流量を制御できるので、精度良く振動の抑制制御を行うことができる。
【0013】
ここで、本発明の空圧式除振台システムの振動抑制制御では、空圧制御において配管を用いているため入力むだ時間が存在する。すなわち、開閉弁のon−off指令の時点から空気ばねの内圧変動が始まる時点までに遅れが生ずるので、速い応答性を得るためにはこのむだ時間も補償する必要がある。また、開閉弁のon−off駆動によるため、従来のように線形制御を用いることはできず、on−off操作を考慮したアクティブ制御が必要である。したがって、制御問題としては、
(1)空圧式除振台に入力むだ時間が存在すること、および
(2)操作量として開閉弁のon−off操作を要すること
の2点を考慮する必要がある。
【0014】
上記の制御問題(1)に関して、入力むだ時間を補償する方法としては、むだ時間だけ遅れて出てくる出力を予測し制御をおこなう方法(スミス補償:非特許文献17)やむだ時間を考慮した状態フィードバック則の設計法(Gaoの方法:非特許文献18)が知られている。後者の方がフィードフォワードを用いていないためモデル誤差に対するロバスト性が高い点で有利である。
【0015】
上記の制御問題(2)に関して、on−off操作を考慮した手法としては、on−off操作を有する状態フィードバック則の設計法(非特許文献13)、PWM型入力への変換法(非特許文献14、15)が提案されている。しかしながら、むだ時間を有する本発明の空圧式除振台システムに対してはそのまま適用することができない。これに対して、連続入力を離散入力に変換する手法としてFBM(フィードバック変調器)が提案されている(石川等の方法:非特許文献16)。この手法は量子化器にフィードバックを施して性能を改善するものであり、適応できるシステムのクラスが広いため、むだ時間制御の方法と独立にon−ff操作を考慮することができる点で有利である。
【0016】
本発明の空圧式除振台システムの振動抑制制御方法は、これらの点に基づき、むだ時間を考慮する手法としてはGaoの方法(非特許文献18)を適用し、on−off操作を考慮する手法として石川等の方法(非特許文献16)をベースとし、さらなる性能改善のために修正を施した方法を採用したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空圧式除振台システムでは空圧制御のための開閉弁を使用しているので、空圧式除振台システムで発生した大変位振動を高速に振動抑制制御することが可能である。特に、数mmレベルの大振動を従来の機構に比べて迅速に抑制することができる。また、開閉弁のon−off駆動による制御は、サーボ弁を用いた線形制御に比較して、高速応答性に優れかつ安価に実現できるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)および(b)は本発明の実施の形態1における制御対象である空圧式除振台を示す概略側面図および概略平面図である。
【図2】(a)は空圧式除振台の空圧回路を示すブロック線図であり、(b)は空気ばねを示す説明図である。
【図3】空圧式除振台の振動抑制制御を行う制御システムのハードウエア構成を示す概略ブロック図である。
【図4】制御対象の力学的モデルを示す説明図である。
【図5】電磁弁の量子化規則を示すグラフである。
【図6】制御対象(プラント)を示すブロック線図である。
【図7】圧力マイナーフィードバックを施した制御系を示すブロック線図である。
【図8】図7のシステムにおける圧力追従性能試験の一例を示すグラフである。
【図9】状態フィードバックを施した制御系を示すブロック線図である。
【図10】FBMを追加した制御系を示すブロック線図である。
【図11】不感帯関数および飽和関数を追加した制御系を示すブロック線図である。
【図12】不感帯補償器を追加した制御系を示すブロック線図である。
【図13】Case1の場合の計算機シミュレーション結果を示すグラフである。
【図14】Case2の場合の計算機シミュレーション結果を示すグラフである。
【図15】Case3の場合の計算機シミュレーション結果を示すグラフである。
【図16】Case4の場合の計算機シミュレーション結果を示すグラフである。
【図17】Case4の場合の計算機シミュレーション結果を示すグラフである。
【図18】Case5の場合の計算機シミュレーション結果を示すグラフである。
【図19】Case1の場合の実験結果を示すグラフである。
【図20】Case2の場合の実験結果を示すグラフである。
【図21】Case3の場合の実験結果を示すグラフである。
【図22】Case4の場合の実験結果を示すグラフである。
【図23】Case5の場合の実験結果を示すグラフである。
【図24】(a)および(b)は本発明の実施の形態2における制御対象である空圧式除振台を示す概略側面図および概略平面図である。
【図25】(a)は空圧式除振台の空圧回路を示すブロック線図であり、(b)は空気ばねを示す説明図である。
【図26】空圧式除振台の振動抑制制御を行う制御システムのハードウエア構成を示す概略ブロック図である。
【図27】電磁弁の量子化規則を示すグラフである。
【図28】可変パラメータγの実験値と計算値を示すグラフである。
【図29】可変パラメータγの算出手順を示すブロック線図である。
【図30】電磁弁の3値入力の場合の量子化規則を示すグラフである。
【図31】電磁弁の5値入力の場合の量子化規則を示すグラフである。
【図32】制御対象(プラント)を示すブロック線図である。
【図33】図32の制御対象を用いた計算機シミュレーションと実機実験による、操作量に対する変位と圧力変化の応答状態を示すグラフである。
【図34】図32の制御対象を用いた計算機シミュレーションと実機実験による、操作量に対する変位と圧力変化の応答状態を示すグラフである。
【図35】圧力マイナーフィードバックを施した制御系を示すブロック線図である。
【図36】状態フィードバックを施した制御系を示すブロック線図である。
【図37】図35のシステムにおける圧力追従性能試験の一例を示すグラフである。
【図38】FBM、不感帯関数および飽和関数、並びに不感帯補償器を追加した制御系を示すブロック線図である。
【図39】3値のon−off制御の場合の計算機シミュレーション結果を示すグラフである。
【図40】5値のon−off制御の場合の計算機シミュレーション結果を示すグラフである。
【図41】3値のon−off制御の場合の実験結果を示すグラフである。
【図42】5値のon−off制御の場合の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明を適用した空圧式除振台システムの振動抑制制御方法の実施の形態を説明する。
【0020】
[実施の形態1]
(空圧式除振台)
図1(a)および(b)は本発明の制御対象である空圧式除振台を示す概略側面図および概略平面図である。これらの図に示すように、空圧式除振台1は、架台2と、この上に水平に配置した矩形輪郭の除振台3を備えている。除振台3は、その四隅の位置において4つの空気ばね4により支持されている。各空気ばね4には空圧回路5を介してコンプレッサ6から圧縮空気が供給される。空圧回路5には開閉式電磁弁である吸気用電磁弁7および排気用電磁弁8が介挿されている。各空気ばね4にはその内圧を検出する圧力センサ9が取り付けられており、除振台3にはその変位(除振方向の変位、本例では鉛直方向の変位)を検出するための変位センサ、例えばレーザ変位センサ10が取り付けられている。変位センサの代りに加速度センサを用いることができる。この場合には加速度の信号を積分し、あるいは、フィルタリングすることで、Zの微分信号などをして使用することができる。振動抑制制御においては、検出圧力、検出変位に基づき、一対の電磁弁6、7をオンオフ制御することで、各空気ばね4に対する圧縮空気の供給および排出を制御して、除振台3に振動抑制方向の力を加えるようにしている。
【0021】
吸気用電磁弁7、排気用電磁弁8は、コガネイ社製K2-100HF-04-NCを使用しており、応答時間はOn時3ms、Off時1msである。除振台3の鉛直方向の変位を検出するレーザ変位センサ10は、例えば図1に示すように並列配置し、二つの平均を取ることで鉛直方向の変位とする。レーザ変位センサ10はキーエンス社製LB-02を使用しており、測定範囲は±10mm、応答時間2ms、分解能15mmである。空気ばね4内の空気の圧力を検出する圧力センサ9は、コガネイ社製PS420Aを使用しており、測定圧力範囲0〜1MPa、応答時間は1msである。
【0022】
図2(a)は空圧式除振台1の空圧回路5を示す回路図であり、図2(b)は空気ばね4を示す説明図である。図2(a)に示すように、コンプレッサ6により予めタンク内圧を例えば0.3〜0.4MPaに維持しておき、空圧レギュレータ11(SMC社製AW10-M5BG-N)によって例えば0.2MPaに空気圧を調整しておく。吸気用電磁弁7を開き、排気用電磁弁8を閉じることで空気ばね4に圧縮空気が送りこまれ、空気ばね4の内圧を上げることができる。逆に、吸気用電磁弁7を閉じ、排気用電磁弁8を開くことで空気ばね4内の圧縮空気は外気に放出され、空気ばね4の内圧を下げることができる。このように両電磁弁7、8の開閉により空気ばね4内の空気圧を変化させることで、除振台3に制振用の制御力を加えることができる。例えば、4つの空気ばね4を同時に駆動して鉛直並進方向の運動を制御する。
【0023】
ここで、空圧式除振台1は吸気用電磁弁7、排気用電磁弁8が配管Aを介して空気ばね4と接続されている。このため、電磁弁7、8を開いても、すぐに空気ばね4の内圧が変化するわけではなく、配管内の圧力損失等の影響により一定のむだ時間が生ずる。また図2(b)に示すように、空気ばね4の内室4aの流入口4bに繋がっていると共にバッファタンク4cに繋がっており、振動絶縁性能をより高める機械構成となっている。
【0024】
(制御システム)
図3は上記構成の空圧式除振台1の振動抑制制御を行う制御システムのハードウエア構成を示す概略ブロック図である。制御システム12では、例えば16bitのA/Dコンバータ13を介して取得した変位と圧力に基づき、制御用パーソナルコンピュータ14に接続されているデジタルシグナルプロセッサ15(DSP:mtt社製HeronDSP6x67)内部で制御演算を行い、16bitのD/Aコンバータ16を介して両電磁弁7、8に指令電圧を加える。サンプリング時間は例えば0.2msとしてディジタル制御を行う。空圧式除振台1と制御システム12によって空圧式除振台システムが構成される。
【0025】
(制御対象のモデル化)
次に、制御対象である空圧式除振台1のモデル化について検討する。まず、除振台3の鉛直方向のみの運動に限定して考えるものとする。一般に、空気ばね4のばね定数および粘性定数は空気ばね4の圧力変化に伴い変化するが、圧力変化は微小であることから一定と仮定することができる。この場合、図4に示すモデルのように、空圧式除振台1を単純な1自由度2次系のバネ・マス・ダンパ系と考え、空気ばね4内の熱力学的な平衡条件を考慮して、空圧式除振台1を次式(1)、(2)で示す運動方程式で表される非線形モデルと見做すことができる。
【0026】
式(1)
【数1】

【0027】
式(2)
【数2】

ここで、
m:除振台の質量
k:バネ定数
c:粘性定数
S:除振台と空気ばねの接触面積
:初期圧力(平衡点圧力)
Rs:気体定数
κ:比熱比
Ts:気体温度
L:むだ時間
z(t):除振台の変位
ΔP(t):空気ばねの平衡点圧力Pからの圧力変化
Gd:質量流量(操作流量)
01:バッファタンクの体積
02:平衡点圧力での空気ばねの体積
ΔV(t):平衡点体積(V01+V02)からの体積変化
【0028】
パラメータはインパルス状の外乱に対する図1の空圧式除振台1の実機実験による自由応答から求めることができる。各パラメータの値の例を表1に示す。
【表1】

【0029】
上記の式(2)は体積V01、V02内の圧力が常に同時に変化すると仮定した場合の式であるが、本例の空圧式除振台2は、図2(b)に示すように、空気ばね4の直下に流入口4bがあるため空気流入直後、バッファタンク4cの体積V01に空気が満たされる前に空気ばね4の体積V02内の圧力が変化すると考えられ、過渡時の圧力変化は体積V02が支配的となる。この点を考慮し、式(2)の第2項の体積(V01+V02+ΔV(t))を(V02β+ΔV(t))に置き換え、次式(3)のように修正することができる。
【0030】
式(3)
【数3】

【0031】
ここで、βは影響係数であり、過渡時の圧力変化に対する体積V02の支配度を表すパラメータである。さらに、空気ばね4は鉛直方向であるz方向のみに伸縮すると仮定すると、除振台3と空気ばね4の接触面積Sを用いて式(3)は次式(4)となる。
【0032】
式(4)
【数4】

ただし、z01(等価バッファタンク高さ)、z02(等価空気ばね高さ)は、それぞれ次の通りである。
01=V01/S
02=V02/S
【0033】
一方、質量流量Gd(t)は電磁弁7、8の開閉によって制御される。電磁弁7、8は、指令流量uの値に応じて、次式(5)の規則で流量Gdを制御する。すなわち、u=G/2またはu>G/2のとき電磁弁7を開いて電磁弁8を閉じる。また、u=−G/2またはu<−G/2であれば電磁弁7を閉じて電磁弁8を開く。
【0034】
式(5)
【数5】

【0035】
図5に示すように、電磁弁7、8からなる電磁弁要素は飽和関数と量子化器の特性を有している。すなわち、操作量uによって電磁弁7、8の開閉状態が変化し、その結果、流量Gdは3値の値をとり得る。なお、Gdのとり得る値は一般に非対称になる。これは、空圧レギュレータ圧と空気ばね内圧の差圧に比べ空気ばね内圧と外気圧の差圧が低いことに起因する。
【0036】
以上より、制御システム12の制御対象モデル(空圧式除振台1)は式(1)、(4)、(5)で表される。操作量は指令流量uであり、制御対象モデルの構成要素は電磁弁要素(7、8)、むだ時間L、除振台3である。図6には、制御対象モデル(以下、「プラント」と呼ぶ場合もある。)のブロック線図を示してある。ここで、観測することができる信号は、除振台の変位zと空気ばねの圧力変化ΔPである。除振台の変位速度、すなわち、zの微分信号(変位速度)はオンラインで差分速度演算することにより入手できる。
【0037】
(制御系の設計)
(1)制御系設計の概要
制御系設計は以下の手順で行う。
Step1:圧力フィードバック制御の付加(制御対象モデルの線形化)
制御対象の扱いを容易にするため図9に示すように、圧力フィードバック制御を付加する。その結果、制御対象は後述の式6となる。
Step2:むだ時間Lの考慮(状態予測制御)
式(6)を制御対象としてむだ時間補償を行う。
Step3:on−off操作の考慮
電磁弁のon−off操作により流量の取り得る値は3値に量子化された入力となる。そこで、on−off操作を考慮した補償を行い、応答性能の劣化を防ぐ。
【0038】
(2)Step1:圧力マイナーフィードバック制御の付加
図7に示すように、非線形モデルである制御対象の扱いを容易にするために、図7に示すように、当該プラントの制御系に圧力フィードバック制御をマイナーフィードバックとして施す。図中のuは目標圧力変化ΔPcと圧力変化ΔPとの誤差圧力変化信号である。pは圧力マイナーフィードバックの比例ゲインである。
【0039】
この制御系による圧力追従性能を、実験を通して確かめた。図8はこのときの圧力変化の一例を示すグラフである。比較のため、目標圧力変化ΔPcから圧力変化ΔPまでの伝達関数を時定数0.02sの一次遅れ系と近似した場合の応答を計算機シミュレーションにより求め、図8において一点鎖線で表してある。目標圧力変化ΔPcは1〜3sまでが5kPaであり、その他の時間は0kPaである。
【0040】
なお、ゲインpを過大な値にするとΔPcを5kPaに上げた場合の直後(図8の1〜2s)に流量Gdがチャタリングを起こす傾向が強く、反対に小さい値だと目標圧力変化と圧力変化に大きな偏差が生じてしまう。そこで、ゲインpの値は図8の1〜2sに流量Gdがチャタリングを起こさず、定常圧力偏差も大きくならないように、実機実験を通して決定すればよい。本例の場合には、p=2.2870×10−2とすればよい。
【0041】
図8の応答を見ると、実験での応答と一次遅れ系と近似した場合のシミュレーション応答が定常時においては偏差が残るものの、過渡時において非常に近い応答を示す。さらに一次遅れ系の時定数が0.02sと十分速いため圧力フィードバックを施した閉ループ系のΔPcからΔPまでの伝達関数を近似的に1とみなすことができる。よって、操作量を指令流量uに代えて指令圧力変化ΔPcとし、圧力制御後のシステムを、x=z、xドット=zドット(zの一次微分)を状態変数、u=ΔPcを制御入力として次式(6)で表すことができる。
【0042】
式(6)
【数6】

【0043】
ここで、kは空圧式除振台1のばね定数、cは空圧式除振台1の粘性定数、Lは圧力のむだ時間である。各パラメータはインパルス状の外乱に対する実機実験による自由応答から同定することができる。同定した各パラメータの値の一例を表2に示す。また、式(6)は可制御である。
【0044】
【表2】

【0045】
以上のように、空圧式除振台1を式(6)で表される線形化された制御対象モデルと見做すことができ、これに基づき、制御システム12の制御系を設計することが可能である。ただし、本例では振動抑制のためにレギュレータによる制御を想定し、式(6)によって規定される線形化された制御対象に対して、Fを状態フィードバック制御ゲインとして次式(7)の制御則を考える。図9には、この場合の制御系ブロック図を示してある。
【0046】
式(7)
【数7】

【0047】
(3)Step2:むだ時間補償制御系設計(状態予測制御)
一般的に、状態フィードバック制御ゲインFは、極配置法、最適レギュレータ問題を解くなどの方法で得ることができる。これに対し、むだ時間Lが存在する場合にはその影響を考慮する必要がある。すなわち、むだ時間Lの影響を考慮してフィードバック制御ゲインFを定め、入力u=−Fx(t+L)を施すが、Fの選定方法としては状態予測理論に基づく方法やGaoの方法(非特許文献18)による方法が知られている。
【0048】
ここで、Gaoの方法(非特許文献18)では、入力むだ時間を含むシステムの安定性を保証し、状態変数の収束性を考慮したFをLMI(Linear Matrix Inequality)により求めることができるため、本例の制御系に用いるのに適している。そこで、本例では、Gaoの方法で提案された以下の定理を用いる。
[定理1]
式(6)および(7)で規定される制御系システムにおいて次式(8)のLMIを満足する行列Yと正定対称行列X、Q1、Q2、Q ̄が存在するならば、制御系システムは大域的漸近安定となり、かつ、J<Jを満たす。
【0049】
式(8)
【数8】

【0050】
式(9)
【数9】

【0051】
式(10)
【数10】

ただし、
U=Ax+XA+BY+Y+LBQ ̄B
X:=P−1
Y:=−FP−1=−FX
である。
【0052】
また、評価関数Jと上界関数Jは次式で表される。
式(11)
【数11】

【0053】
式(12)
【数12】

ここで、Q、R、Nは設計パラメータであり、x(0)は状態変数の初期値である。
【0054】
定理1を用いた設計手順としては、まず評価関数J、上界関数Jの設計パラメータQ、R、Nを決定し、次に、式(8)〜(10)のLMIを解き、X、Y、Q1、Q2、Q ̄を求める。最後に、F=−YX−1とすれば、Fが得られる。求められたFを用いたシステム制御系は図9となる。
【0055】
(4)Step3−1:on−off操作を補償した制御系設計
図9のシステム制御系においては操作量のon−off駆動は考慮していない。しかし、実際にはプラント内の電磁弁要素のon−off操作により、流量の取り得る値は3値の量子化された値となる。そこで、石川等の方法(非特許文献16)で提案されているFBM(フィードバック変調器)をゲインpの後段に追加することにより、on−off操作に伴う性能劣化を防ぐことが望ましい。
【0056】
図10には、このシステム制御系のブロック線図を示してある。FBMには、サンプラーおよび0次ホールドS/H、量子化器σおよび補償器C(s)が備わっている。uがFBMの入力であり、uはS/Hへの入力であり、量子化器σは飽和特性を有する量子化器であり、次式(13)により規定される。また、量子化器σは制御対象のプラント内の飽和関数と量子化器と同じ特性をもつように定めている。S/Hとσにより量子化された入力uと量子化される前の入力uの差を、補償器C(s)を通してフィードバックすることで量子化の性能を改善している。
【0057】
式(13)
【数13】

【0058】
なお、本例のプラントでは飽和値GとGの値が異なるため、σは非対称である。一方、S/H、および量子化による誤差はC(s)で周波数整形される。なお、C(s)は次式(14)、(15)で表される。
【0059】
式(14)
【数14】

【0060】
式(15)
【数15】

【0061】
ここで、τ>0は設計パラメータであり、サンプリング時間より大きい値を選ぶことで、FBMの入出力安定が保証されることが示されている。本例では、uはS/Hによってサンプリング時間0.2msで離散化し、C[z]はC(s)をゼロ次ホールドによって離散化するものとした。
【0062】
次に、FBMの特性について説明する。uからuまでのパルス伝達関数K1[z]はσの特性を比例ゲインσと仮定した場合次式(16)となる。
【0063】
式(16)
【数16】

【0064】
ここで入力周波数ω=0、σ(u ̄s)=0の場合を考える。これはFBMへの入力が一定値でかつ微小であるため量子化器σにより線形入力が0に量子化されてしまう場合を想定している。するとC[z]=1、σk=0となり、|K1[ej0]|→∞となる。そのため、uが一定かつ微小な値だとしてもuは増大し、量子化器σによりuはいずれGもしくはGの値に変換されてしまう。つまり、FBMは量子化器σによって量子化された入力を線形入力に近づけるような作用があり、定常入力に対しては積分器のような特性を有している。
【0065】
(5)Step3−2:on−off操作を補償した制御系設計の改良方法1
FBM法を圧力マイナーフィードバックにそのまま適用した場合、応答が振動的になる結果となった。これは圧力信号にノイズが含まれるため、このノイズに敏感に反応してしまうことが一因である。さらに、比較的粗い量子化によって得られた3値入力により厳密に目標値に追従させようとしていることに起因する。そこで、振動的な入力を防止するために、ゲインpの前に不感帯関数Ψを追加し、ノイズに対する反応を鈍くすると共に、厳密な目標追従を避け、或る程度の追従誤差を許容する。
【0066】
また、FBMには飽和関数が含まれているが、FBMへの入力uがGやGより大きさが極端に大きい値であった場合に、uとFBMの出力uとの誤差が大きくなってしまい、極端に大きな値がFBM内でフィードバックされることにより、応答が劣化する場合があった。そこで、飽和関数Γをゲインpの後に追加することで予めFBMへの入力uに飽和制限を加え、uとuの誤差が大きくなるのを防止するように制御則を修正する。これらにより、圧力フィードバックの応答は安定すると期待される。
【0067】
図11のブロック線図は、不感帯関数および飽和関数を追加してon−off操作を補償する本例の改良方法1によって得られるフィードバック制御系を示すものである。図中のu、uが不感帯関数Ψの入出力、u、uが飽和関数Γの入出力である。FBMとpについては前節(Step3−1)と同様である。不感帯関数Ψは次式(17)とした。ここで、δは不感帯の幅を表す。
【0068】
式(17)
【数17】

【0069】
FBM内の量子化器σにも不感帯要素は含まれるが、その機能は根本的に異なる。前節(Step3−1)で述べたように、FBMは操作量の不感帯を打ち消し、線形入力に近づけるように働く。その結果、不感帯内の微小信号であっても、C[z]によって誤差が蓄積され、補償される。一方、新しく追加したΨは、不感帯内の微小信号に不感とするために導入したものである。よって、ΨをFBMの外側に追加することに意味がある。
【0070】
また、飽和関数Γは次式(18)とした。
式(18)
【数18】

上式(18)は制御対象における操作量の上下限値G、Gに対応させている。
【0071】
(6)Step3−3:on−off操作を補償した制御系設計の改良方法2
上記の改良方法1を適用すると、圧力に偏差が残ってしまう場合があった。これは不感帯関数Ψの追加により不感帯内の信号が除去されてしまうからである。そこで、圧力偏差を小さくするために不感帯関数Ψに不感帯補償器Hを追加し、不感帯関数Ψで除かれた情報をフィードバックする。これにより、圧力偏差を小さくすることができると期待される。図12は、改良方法2のシステム制御系を示すブロック線図である。ここで、不感帯関数Ψと飽和関数Γについては改良方法1と同様である。このとき、不感帯補償器Hは次式(19)で表される。
【0072】
式(19)
【数19】

ただし、αは設計パラメータ、不感帯関数の前後の信号をu、uとし、その差分をξとする。なお、サンプリング時間はFBMと同様0.2msである。
【0073】
次に、パラメータαの意味及び設計条件について述べる。まず、入力uからξまでのパルス伝達関数をK[z]とすると、uが不感帯内に留まり、|u|<δとなる場合にはk[z]=z/(z−α)と表せる。この場合、安定条件は、|α|<1となる。よって、|α|<1であることが必要である。次に、不感帯補償器Hの特性について考える。uからuまでのパルス伝達関数K[z]は不感帯関数Ψの特性を比例ゲインΨkと仮定した場合、次式(20)となる。
【0074】
式(20)
【数20】

【0075】
ここで、入力周波数ω=0、Ψk=0の場合を考える。これは不感帯関数Ψへの入力が一定値でかつ不感帯内に留まる場合を想定している。このときゲインは次式(21)となる。
【0076】
式(21)
【数21】

【0077】
この場合、α→1であれば、|K[ej0]|→∞となり、一定値の入力uに対してuが増大するため不感帯を乗り越えるように機能する。これは、先にStep3−1で述べた効果と同様であり、量子化された入力を線形入力に近づけるFBMと同様の機能を持たせることになる。一方、α→0とした場合には、|K[ej0]|→1となり、不感帯補償器Hの効果は失われ、先に述べた改良方法1と等価となる。よってαを調整することで、不感帯関数Ψの効果を調整することができる。そこで、αは1を超えない範囲で調整し、偏差を小さくしつつ、on−off操作に伴うチャタリング低減化のトレードオフをとる。実験結果に基づきαを決定することができる。
【0078】
(制御系設計とシミュレーション結果)
(1)設計条件
以下の各Case1〜5について制御系の設計を行った。各Caseは表3に纏め示してある。
【0079】
Case1:むだ時間については先にStep1で述べた方法で補償するが、on−off操作については考慮しない。制御系のブロック線図は図9に示す通りである。
パラメータの値は、p=2.2970×10−2、F=[3.8040×10 1.9499×10]とした。
【0080】
case2:むだ時間についてはCase1と同様、Step1で述べた方法で補償し、on−off操作についてはStep3−1のFBMで補償する。制御系のブロック線図は図10に示す通りである。FBMのパラメータ値は、τ=0.5とした。これは、サンプリング時間0.2msより大きい値で、圧力サーボ実験を通して定常時に入力がチャタリングを起こさない程度の小さい値として選んだ。他のパラメータp、FはCase1と同様である。
【0081】
Case3:むだ時間についてはCase1と同様に、Step1の方法で補償し、on−off操作についてはStep3−2の改良方法1で補償する。制御系のブロック線図は図11である。不感帯の幅はδ=800とした。これは、圧力センサのノイズに反応しないように実験により求めた。他のパラメータp、τ、FはCase2と同様である。
【0082】
Case4:むだ時間についてはCase1と同様にStep1の方法で補償し、on−off操作についてはStep3−3の改良方法2で補償する。制御系のブロック線図は図12である。不感帯補償器Hのパラメータαは、α=0.99として実験を行ったものの、定常時に操作量にチャタリングが生じてしまった。そこで、定常時にチャタリングが生じない範囲で、かつ圧力の偏差が小さくなるようにαを再調整し、α=0.3と設定し直した。ただし、計算機シミュレーションでは比較のためにα=0.99の場合も行った。他のパラメータp、τ、δ、FはCase3と同様である。
【0083】
Case5:むだ時間については補償せずに、最適レギュレータにより求めたゲインFにより状態フィードバックを施した。一方、on−off操作についてはCase4と同様にStep3−3の改良方法2で補償する。F2は、
F2=[3.0947×10 8.3895×10]とした。これは、重み行列を、
Q〜=diag(4.0×10 1.5×10)、R〜=2.0×10−7として求めた。αはα=0.3とした。他のパラメータp、τ、δはCase4と同様である。
【0084】
【表3】

【0085】
(2)計算機シミュレーション結果
計算機シミュレーション結果を図13〜図18に示す。なお、制御対象は式(1)、(4)、(5)とし、サンプリング周期0.2msとしたディジタル系のシミュレーションを行う。また、圧力センサの観測ノイズは考慮していない。制御性能は、Case1〜Case5の制御を行った場合のインパルス状の外乱に対する時間応答により比較する。インパルス外乱はシミュレーション開始1s経過後に加える。
【0086】
まず、on−off操作補償の効果を検証する。on−off操作について考慮していないCase1では、流量Gdが線形入力として除振台3に加わるものとして操作量uを計算しているため変位に偏差が残ってしまった(図13のz)。
【0087】
これに対し、Case2では、FBMによりon−off操作を考慮しているが、FBM内の流量制限によって、大きな値がFBM内でフィードバックされるため(図14のu)、1.5s付近で大きな変位偏差が生じてしまう。さらに、この偏差を減らすように定常入力に対するFBMの積分特性が働き、2.5s付近で操作量uが加わることにより変位のゆらぎが発生している(図14のz)。
【0088】
Case3では、改良方法1によりFBM内に飽和値を超えた入力が入るのを防止し(図15のu)、Case2で見られた変位のゆらぎを防止することができている。ただし、不感帯内の圧力偏差には反応できないため若干の偏差が残っている(図15のz)。
【0089】
Case4では、α=0.3とした場合には改良方法1と比較して大きな応答改善はみられないものの(図16)、α=0.99とした場合には応答は大幅に改善されており、大きな偏差もなく理想的な応答となった(図17)。以上より、改良方法2でon−off操作を考慮することが外乱抑制に非常に効果的であると検証できた。
【0090】
次に、むだ時間補償の効果を検証する。Case5ではむだ時間を考慮せずに求めた状態フィードバックゲインを用いているため応答は非常に振動的になってしまった(図18)。一方、図16、17に示すCase4ではむだ時間を考慮した状態フィードバックゲインを用いているため理想的な応答となった。以上より、むだ時間を補償することが外乱抑制に効果的であることを検証できた。
【0091】
(実験結果)
次に、Case1〜Case5の制御を行った場合の実験結果を図19〜図23に示す。ただし、外乱は除振台3の上方向高さ30cmの位置からB級軟式野球ボール(質量220g)を自由落下させることにより印加した。外乱は実験開始1s経過後に加えた。
【0092】
まず、on−off操作補償の効果を検証するCase1ではon−off操作については考慮していないため、シミュレーションと同様に変位に偏差が残ってしまった(図19のz)。また、シミュレーションでは見られなかったが、操作量にチャタリングが生じてしまった(図19のuおよびGd)。
【0093】
これに対し、Case2ではFBMによりon−off操作を考慮しているため外乱を与えた直後の1〜2.1sでは偏差を小さくする方向に操作量uが働いている。しかし、0.1s、2.2sおよび3.2s付近で操作量uが加わってしまい、シミュレーションと同様に変位がゆらぐと共に微小振動が発生してしまっている(図20)。これは圧力センサのノイズに敏感に反応してしまうこと、厳密に目標追従させようとするため、微小偏差を蓄積して補償入力を加えること、FBM内の流量制限により、大きな値がFBM内でフィードバックされていることに起因すると考えられる。
【0094】
一方、Case3では、改良方法1によりFBM内に飽和値を超えた入力が入るのを防止し(図21のu)、Case2で見られた変位のゆらぎを防止できている。これはシミュレーション結果と同様である。ただし、不感帯内の圧力偏差には反応できないため若干の偏差が残っている(図21のz)。
【0095】
これに対し、Case4では、改良方法2に基づき、不感帯補償器を追加することにより、応答はシミュレーション結果と同様に大幅に改善されており、大きな偏差もなく微小振動も発生しない理想的な応答となった(図22)。以上より、改良方法2でon−off操作を考慮することが外乱抑制に非常に効果的であると検証した。
【0096】
次に、むだ時間補償の効果を検証する。Case5ではむだ時間を考慮せずに求めた状態フィードバックゲインを用いているため応答は発散してしまった(図23)。ただし、状態変数の収束性条件を緩めるように重み行列を調整することで、安定な応答を得ることも可能であったが、その場合には応答速度は著しく悪化した。なお、詳細を省略するが、スミス補償によりむだ時間を補償した実験結果は、発散はしないものの高い制振性能は得られなかった。
【0097】
一方、Case4ではむだ時間を考慮した状態フィードバックゲインを用いているため先に述べたように理想的な応答となった。以上より、むだ時間を補償することが外乱抑制に効果的であることを検証した。
【0098】
以上説明したように、本例における入力むだ時間とon−off操作を考慮した空圧式除振台の制御系においては、むだ時間を考慮しつつ、on−off操作についてFBMに不感帯補償器等を追加した改良方法2を用いて補償することが外乱抑制に対して最も効果的であることを計算機シミュレーション及び実験により確認できた。
【0099】
したがって、本発明の方法によれば、空圧式除振台で発生した大変位振動を、電磁弁のon−off操作によって、高速に振動抑制制御することが可能である。また、このような弁のon−off駆動による制御は、サーボ弁を用いた線形制御に比較して、高速応答性に優れかつ安価に実現できるため、実用的価値も高いと考えられる。
【0100】
[実施の形態2]
上述した実施の形態1では、on−off駆動開閉弁を用いた3値のon−off操作量を前提とし、外乱抑制に対して高速かつ振動低減効果の高い効果的な制御手法を提案した。これに対して、実施の形態2では、微小な流量調整を行って微振幅の残留振動の抑制が要求されるような場合を想定して、複数のon−off駆動開閉弁を用いることで、操作量を多段とすることにより残留振動を除去することを可能とするものである。また、この場合において、制御対象のモデル化についても考察し、操作量の周波数特性を考慮した可変パラメータモデルを提案し、対象特性の予測精度を向上させ、見通しの良い制御系の設計を可能とした。さらに、提案手法の効果を計算機シミュレーションおよび実機実験により検証した。
【0101】
(空圧式除振台)
図24には実施の形態2における空圧式除振台101を示してあり、除振台103(Herz 社製DT-6050M)は4つの空気ばね104により支持されている。図25に示すように、空圧回路105では、コンプレッサ106により予めタンク内圧を0.3〜0.4MPa に維持しておき、空圧レギュレータ111(SMC 社製AW10-M5BG-N)によって0.2MPaに空気圧を調整しておく。
【0102】
ここで、電磁弁として、2つの吸気用電磁弁107(1)、107(2)と、4つの排気用電磁弁108(1)、108(2)、108(3)、108(4)が備わっている。吸気用電磁弁107(1)、107(2)の一方あるいは双方を開き、排気用電磁弁108(1)〜108(4)を閉じることで空気ばね104に圧縮空気が送りこまれ、空気ばね104の内圧を上げることができる。逆に、吸気用電磁弁107(1)、107(2)を閉じ、排気用電磁弁108(1)〜108(4)の一つあるいは複数を開くことで、空気ばね104内の圧縮空気は外気に放出され空気ばねの内圧を下げることができる。
【0103】
このように、6つの電磁弁の開閉により空気ばね104内の空気圧を変化させることで、除振台103に制御力を加えることができる。また、多段型on−off操作量を実現するために、吸気用電磁弁、排気用電磁弁ともに複数の電磁弁及びスピードコントローラ(流路の開閉度を調整する空圧機器)を使用している。多段流量は、表4のように開く(onにする)電磁弁の組み合わせを変えることで発生させる。なお、流量G2+〜G2−は表5の通りである。
【0104】
【表4】

【0105】
【表5】

【0106】
なお、空圧回路25では、チェック弁140を用いることで排気時に空気が吸気用電磁弁107(1)、107(2)の先端まで逆流するのを防止している。4つの空気ばね104を同時に駆動して鉛直並進方向の運動を制御する。吸気用電磁弁107(1)、107(2)はコガネイ社製K2-100HF-04-NC を使用しており、応答時間はon時3ms、off時1msである。排気用電磁弁108(1)〜108(4)はクロダニューマティクス社製VA01HPSC24-1PE-L5を使用しており、応答時間はon時2ms、off時2msである。除振台の鉛直方向の変位はレーザ変位センサ110により検出する。図24のようにレーザ変位センサ110は並列配置し、二つの平均を取ることで鉛直方向の変位とする。レーザ変位センサ110はキーエンス社製LB-02を使用しており、測定範囲±10mm、応答時間2ms、分解能15μmである。空気ばね104内の空気の圧力は圧力センサ109により検出する。圧力センサ109はコガネイ社製GS610Aを使用しており、測定圧力範囲−100〜100kPa、応答時間は2.5msである。
【0107】
図26のブロック線図で示すように、空圧式除振台101と制御システム112からなる空圧式除振台システムの全体構成は実施の形態1の場合(図3)と同様である。16bitのA/Dコンバータを介して取得した変位と圧力に基づき、DSP35(mtt 社製HeronDSP6x67)内部で制御演算を行い、16bitのD/Aを介してそれぞれの電磁弁に指令電圧を加える。サンプリング時間は0.2msとしてディジタル制御を行う。
【0108】
また、空圧回路105では、電磁弁107(1)、107(2)、108(1)〜108(4)が配管A(図25(a)の点線領域)を介して空気ばね104と接続している。このため、電磁弁を開いても、すぐに空気ばねの内圧が変化するわけではなく、配管内の圧力損失等の影響により一定のむだ時間が生ずる。また、図25(b)のように空気ばね104内はバッファタンク104cと繋がっており、振動絶縁性能をより高める機械構成となっている。
【0109】
(制御対象のモデリング)
(1)基礎運動方程式
実施の形態2においても除振台103の鉛直方向のみの運動に限定して考える。一般に、空気ばね104のばね定数および粘性定数は空気ばね104の圧力変化に伴い変化するが、圧力変化は微小であることから実用上においては一定と仮定することができる。このとき、空気ばね104内の熱力学的な平衡条件を考慮すると、空圧式除振台101の運動方程式は次式(101)、(102)となる。
【0110】
式(101)
【数22】

【0111】
式(102)
【数23】

【0112】
式(101)、(102)において、z(t)は除振台3の鉛直方向の変位、DP(t)は平衡点圧力Pからの圧力変化、V01はバッファタンク4cの体積、V02は平衡点圧力での空気ばね4の体積、DV(t)は平衡点体積(V01+V02)からの体積変化、Gd(t)質量流量、mは除振台103の質量、kは除振台のばね定数、cは除振台の粘性定数、Sは除振台103と空気ばね104の接触面積、Rsは気体定数、κは比熱比、Tsは気体温度、Lは質量流量のむだ時間である。パラメータはインパルス状の外乱に対する図24の空圧式除振台101の実機実験による自由応答から求めることができる。各パラメータの値の例を表6に示す。
【0113】
【表6】

【0114】
(2)周波数に依存した可変パラメータγ(t)
式(102)は体積V01、V02内の圧力が同時に変化すると仮定した場合の式であるが、本システムは図25(b)に示すように、空気ばね104の直下に流入口104bがあるため空気流入直後、バッファタンク104cの体積V01に空気が満たされる前に空気ばね104の体積V02内の圧力が変化すると考えられ、過渡時の圧力変化は体積V02が支配的となる。この点を考慮し、式(102)第1項の体積(V01+V02+ΔV(t))を(V01γ(t)+V02+ΔV(t))に置き換え、さらに第2項の体積(V01+V02+ΔV(t))を(V02β+ΔV(t))に置き換え、次式(103)のように修正する。
【0115】
式(103)
【数24】

【0116】
ここで、βは影響係数であり、過渡時の圧力変化に対する体積V02の支配度を表すパラメータである。γ(t)は操作量の周波数に依存した可変パラメータであり、高い周波数であればあるほど0に近づき、低い周波数であればあるほど1に近づくような特性を持たせる。このように設定することで、より高い周波数の操作量が入った場合にはバッファタンク内の圧力が変化する前に空気ばね内の圧力が変化する物理特性を近似できる。γ(t)の特性は次の手順で求めた。
【0117】
まず、図27に示すような3値入力5周期かつ一定周波数の入力Gdに対し、変位zと圧力変化ΔPの応答がもっとも実験値と一致するようにGdの周波数fごとにγの値を探索的に求め、γ(t)とGdの周波数fの関係を求めた結果を図28に実線で示す。なお、周波数fは3〜125Hzまで変えて実験を行った。γ(t)の特性としては図28の実線の特性を持たせれば良いのだが、オフラインの計算になるので、使い勝手が悪い。そこで、オンラインでγ(t)を計算するために、図28の近似式を求め、図29のブロックに従って計算する。まず流量Gdを関数f(近似微分器)により時間微分し、流量変化率Gdドット(一時微分)を計算する。関数fは次式(104)である。
【0118】
式(104)
【数25】

【0119】
ここで、£はラプラス変換を意味する。fはGdの周波数情報を取り出していることになる。それはGdの周波数が高いときに、Gdドット(一時微分)も平均すると大きい値になるため周波数と似た情報を有しているからである。さらに、Gdの一次微分の絶対値を関数fに入力する.関数fは次式(105)である。
【0120】
式(105)
【数26】

【0121】
ただし、gは設計パラメータである。fはGdの一次微分の絶対値が大きければγ(t)→0に近づき、Gdの一次微分の絶対値が小さければγ(t)→1に近づくため、図28の実線の特性に近い特性をγ(t)に持たせることができる。パラメータgはγ(t)の特性が図28の実線の特性に近づくようにg=3000と設定した。このときのγ(t)の平均値とGdの周波数fの関係を図28の一点鎖線で示す。
【0122】
さらに、空気ばねの体積変化ΔVzの関係は実験よりΔV=hSzと近似できることから、除振台と空気ばねの接触面積Sと係数hを用いて式(3)は次式(106)となる。
【0123】
式(106)
【数27】

ただし、z01、z02はそれぞれ
01=V01/S、
02=V02/S
である。
【0124】
(3)電磁弁の駆動パターンと流量の関係
質量流量Gd(t)は電磁弁の開閉によって制御される。なお、本システムは表1に示すように電磁弁の駆動パターンによって3値入力、5値入力が可能である。次式(107)の規則で流量Gdを制御する。
【0125】
式(107)
【数28】

【0126】
このとき、電磁弁は図30に示すように飽和関数と量子化器の特性を有しており、操作量uによって電磁弁の開閉状態が変化し、その結果、流量Gdは3値の値をとり得る。この場合には、実施の形態1における場合と同様になる。5値入力の場合は、電磁弁は、指令流量uの値に応じて、次式(108)の規則で流量Gdを制御する。
【0127】
式(108)
【数29】

【0128】
このとき、電磁弁は図31に示す特性を有している。なお、Gdのとり得る値は非対称である。これは、空圧レギュレータ圧と空気ばね内圧の差圧に比べ空気ばね内圧と外気圧の差が低いことに起因する。以上より、制御対象は3値のon−off制御の場合には式(101)、(106)、(107)で表され、5値のon−off制御の場合には式(101)、(106)、(108)で表される。
【0129】
また、図32のブロック線図で示すように、操作量は指令流量uであり、制御対象の構成要素は電磁弁、むだ時間、空圧式除振台である。観測信号は変位zと圧力変化ΔPである。また、zの微分信号z(=zドット)は、zをオンラインで差分速度演算することにより入手している。
【0130】
(4)基礎入力に対する応答の検証実験
基礎操作量Gdに対する上記制御対象モデルを用いた計算機シミュレーションと実機実験による変位zと圧力変化ΔPの応答を比較した。Gdは図27に示すような3値入力5周期とし、操作量の周波数fを3〜125hzまで変えて検証した。f=62.5hz、f=12.5hzの結果を図33、図34にそれぞれ示す。比較のためγ(t)をγ(t)=1と固定した場合の応答を一点鎖線で示す。ΔPの急激な変化は表現できていないが、z、ΔPともに定常値は一致しており、高精度にモデリングできていることがわかる。よって、Gdの周波数に依存した可変パラメータγ(t)を用いることが、本システムのモデリングに有効である。
【0131】
(制御系の設計)
(1)制御系設計の概要
制御系設計は以下の手順で行う。
Step1:圧力フィードバック制御の付加
制御対象の扱いを容易にするため図35に示すように、圧力フィードバック制御を付加する。その結果、制御対象は式110となる。
Step2:むだ時間の考慮
式(110)を制御対象としてむだ時間補償をおこなう。
Step3:on−off操作の考慮
電磁弁のon−off操作により流量の取り得る値は3値もしくは5値に量子化された入力となる。そこで、on−off操作を考慮した補償をおこない、応答性能の劣化を防ぐ。ただし、本例では、振動抑制のためにレギュレータによる制御を想定し、後述する式(110)の制御対象に対して、Fを状態フィードバックゲインとして次式(109)の制御則を考える。図36にはこの場合の制御系のブロック線図を示してある。
【0132】
式(109)
【数30】

【0133】
(2)Step1:圧力フィードバック制御の付加
制御対象の扱いを容易にするため、図35に示すように、圧力フィードバック制御をマイナーフィードバックとして施す。これは前述の実施の形態1の場合と同様である。図中のuは目標圧力変化ΔPcと圧力変化ΔPとの誤差圧力変化信号である。また、pは圧力マイナーフィードバックの比例ゲインである。圧力追従性能を実験を通して確かめた。図14はこのときの圧力変化を示している。比較のため、目標圧力変化ΔPcから圧力変化ΔPまでの伝達関数を時定数0.02sの一次遅れ系と近似した場合の応答を計算機シミュレーションにより求め、図37において一点鎖線で表す。
【0134】
目標圧力変化ΔPcは1〜3sまでが5kPaであり、その他の時間は0kPaである。なおゲインp1を過大な値にするとΔPcを5kPaに上げた場合の直後(図37の1〜2s)に流量Gdがチャタリングを起こす傾向が強く、反対に小さい値だと目標圧力変化と圧力変化に大きな偏差が生じてしまう。そこでpの値は図37の1〜2sに流量Gdがチャタリングを起こさず、定常圧力偏差も大きくならないように実機実験を通して決定した。その結果、p=2.4509×10−7とした。
【0135】
図37の応答を見ると、十分速い追従性能を有するため、圧力フィードバックを施した閉ループ系のΔPcからΔPまでの伝達関数を近似的に1とみなす。よって、以降では、操作量を指令流量uに代えて指令圧力変化ΔOcとする。そこで、圧力制御後のシステムを、x=z、xドット=zの一次微分を状態変数、u=ΔPcを制御入力として次式(110)で表す。
【0136】
式(110)
【数31】

ただし、
【数32】

である。
【0137】
は除振台のばね定数、cは除振台の粘性定数である。各パラメータはインパルス状の外乱に対する実機実験による自由応答から同定した。同定した各パラメータの値を表7に示す。また、式(110)は可制御である。
【0138】
【表7】

【0139】
(3)Step2:むだ時間の考慮
実施の形態1における場合と同様であるので省略する。
【0140】
(4)Step3:on−off操作の考慮
図36の制御系においては操作量のon−off駆動は考慮していなかった。しかし、実際にはプラント内の電磁弁のon−off操作により、流量の取り得る値は3値もしくは5値の量子化された値となる。そこで、実施の形態の1の場合のStep3−1、3−2、3−3と同様に、FBM(フィードバック変調器)をゲインpの後段に追加することにより、on−off操作に伴う性能劣化を防ぐ。
【0141】
また、比較的粗い量子化によって得られた3値入力や5値入力により厳密に目標値に追従させようとすると振動的な入力になるため、pの前に不感帯関数Ψを追加する。ただし、不感帯関数Ψの追加により不感帯内の信号が除去されてしまうため、z及びΔPに定常偏差が生じてしまう。そこで、不感帯関数Ψに不感帯補償器Hを追加し、不感帯関数Ψで除かれた情報をフィードバックする。また、FBMの量子化誤差の軽減を図るために飽和関数Γをpの後に追加する。ブロック線図は図38となる。uがFBMの入力である。uはH/H(サンプラーとゼロ次ホールド)への入力である。u、uが不感帯関数Ψの入出力、u、uが飽和関数Γの入出力である。
【0142】
また、FBM内の関数σは3値のon−off制御では次式(116)となる。σは制御対象内の飽和関数と量子化器と同じ特性をもつように定めている。
【0143】
式(116)
【数33】

【0144】
なお、飽和値G2+とG2−の値が異なるため、σは非対称である。5値のon−off制御では次式(117)となる。
【0145】
式(117)
【数34】

【0146】
また、関数C(s)、不感帯関数Ψ、飽和関数Γ、不感帯補償器Hは次式(118)〜(122)で表される。これらは実施の形態1の場合と同様である。
【0147】
式(118)
【数35】

【0148】
式(119)
【数36】

【0149】
式(120)
【数37】

【0150】
式(121)
【数38】

【0151】
式(122)
【数39】

【0152】
(計算機シミュレーション結果)
計算機シミュレーション結果を図39、図40に示す。なお、制御対象は3値のon−off制御では式(101)、(106)、(107)とし、5値のon−off制御では式(101)、(106)、(108)とする。サンプリング周期0.2msとしたディジタル系のシミュレーションを行う。また、圧力センサの観測ノイズは考慮していない。制御性能は、3値のon−off制御、5値のon−off制御を行った場合のインパルス状の外乱に対する時間応答により比較する。インパルス外乱はシミュレーション開始1s経過後に加える。設計パラメータはp、Fはp=2.4509×10−7、F=[38004,97496]である。また、τ、δ、αについては3値のon−off制御の場合はτ=0.5、δ=1100、α=0.2であり、5値のon−off制御の場合はτ=0.003、δ=300、α=0.1である。
【0153】
図39に示すように、3値のon−off制御では1.3s付近以後に入力を加えておらず、残留振動が残っている。一方、図40に示すように、5値のon−off制御では、1.2s付近以後に最大/最小入力G2+、G2−ではなく、微小入力G1+、G1−を加えており、残留振動が小さくなっている。なお、1.5s後の変位の最大振幅を比較すると、3値のon−off制御では382μmであるのに対し、5値のon−off制御では154μmとなっており、5値のon−off制御において、残留振動が大幅に除去されているのがわかる。以上より、多段型入力が残留振動の除去に効果的であることを検証した。
【0154】
(実験結果)
3値のon−off制御、5値のon−off制御を行った場合の実験結果を図41、図42に示す。ただし、外乱は除振台の上方向高さ30cmの位置からB級軟式野球ボール(質量220g)を自由落下させることにより印加した。外乱は実験開始1s経過後に加えた。設計パラメータは計算機シミュレーションと同様である。
【0155】
図41に示すように、3値のon−off制御では1.2s付近以後に入力を加えておらず、残留振動が残っている。一方、図40に示すように、5値のon−off制御では、1.1s付近以後に最大/最小入力G2+、G2−ではなく、微小入力G1+、G1−を加えており、残留振動が小さくなっている。なお、1.5s後の変位の最大振幅を比較すると、3値のon−off制御では181μmであるのに対し、5値のon−off制御では55μmとなっており、5値のon−off制御において、計算機シミュレーション結果と同様に残留振動が大幅に除去されているのがわかる。以上より、多段型入力が残留振動の除去に効果的であることを検証した。
【符号の説明】
【0156】
1、101 空圧式除振台
2、102 架台
3、103 除振台
4、104 空気ばね
4a、104a 内室
4b、104b 流入口
4c、104c バッファタンク
5、105 空圧回路
6、106 コンプレッサ
7、107(1)、107(2) 吸気用開閉弁
8、108(1)〜108(4) 排気用開閉弁
9、109 圧力センサ
10、110 変位センサ
11、111 レギュレータ
12、112 制御システム
13 A/Dコンバータ
14 制御用パーソナルコンピュータ
15 DSP
16 D/Aコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除振台と、
前記除振台を支持している空気ばねと、
on−offの2値を取る少なくとも1つの吸気用開閉弁およびon−offの2値を取る少なくとも1つの排気用開閉弁を介して前記空気ばねに対する圧縮空気の供給および排出を行う空圧回路と、
前記除振台の除振方向の変位(z)または速度に関する情報および前記空気ばね内の空気の圧力変化(ΔP)をフィードバックして前記除振台の振動を抑制するために要求される前記空気ばねに対する圧縮空気の指令流量を算出し、当該指令流量を、前記吸気用開閉弁および前記排気用開閉弁のon−off操作によって得られる離散的な多値の操作流量に変換し、当該操作流量を前記空気ばねに与える制御系とを有していることを特徴とする空圧式除振台システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記空圧回路は、1つの前記吸気用開閉弁と1つの前記排気用開閉弁を備えており、
前記指令流量(u)の値に応じて、式(5)で規定される飽和関数と量子化器の特性を備えた規則に従って、前記空気ばねに対する操作流量(Gd)が3値(G、G、0)に量子化されることを特徴とする空圧式除振台システム。
式(5)
【数A】

【請求項3】
請求項1において、
前記空圧回路は、並列接続された2つの吸気用開閉弁(Val.#1、Val.#2)と、並列接続された4つの排気用開閉弁(Val.#3〜Val.#6)とを備えており、
前記指令流量(u)の値に応じて、以下の表に示す各開閉弁のon−off操作の駆動パターンにより、式(108)で規定される飽和関数と量子化器の特性を備えた規則に従って、前記空気ばねに対する操作流量(Gd:Control input)が5値(G2+、G1+、G1−、G2−、0)に量子化されることを特徴とする空圧式除振台システム。
【表1】

式(108)
【数B】

【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項に記載の空圧式除振台システムの振動抑制制御方法であって、
前記制御系に圧力フィードバックをマイナーフィードバックとして施して、
前記制御系に入力される操作量として指令圧力変化(ΔPc)を採用し、当該指令圧力変化(ΔPc)とマイナーフィードバックされた圧力変化(ΔP)との誤差圧力変化信号(u)を、変換定数ゲイン(p)を介して、前記指令流量(u)に変換することにより、
前記圧力フィードバックを施した後の前記制御系および前記制御対象を含むシステムを、x=z、xドット=zの一次微分、および、u=ΔPcを制御入力として、式(6)で表される状態方程式で規定することを特徴とする空圧式除振台システムの振動抑制制御方法。
式(6)
【数C】


但し、
m:除振台の質量
k:空気ばねのバネ定数
c:空気ばねの粘性定数
S:除振台と空気ばねの接触面積
L:むだ時間(開閉弁に対するon−off指令の発生時点から空気ばね内の圧力変動の開始時点までの応答遅れ)
【請求項5】
請求項4において、
前記むだ時間(L)に起因する前記空気ばねの圧力制御性の劣化を防止するために、前記制御系に入力される前記指令圧力変化(ΔPc)に対して、Fを状態フィードバック制御ゲインとして式(7)で表される状態フィードバックを施し、
式(7)
【数D】

前記むだ時間(L)を含む前記制御系の安定性を保証するための状態フィードバックゲイン(F)の値を、LMI(Linear Matrix Inequality)により求めることを特徴とする空圧式除振台システムの振動抑制制御方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記開閉弁のon−off操作に伴う前記空気ばねの圧力制御性能の劣化を防止するために、前記制御系における前記変換定数ゲイン(p)の後段にフィードバック変調器(FBM)を追加し、
前記フィードバック変調器(FBM)において、前記開閉弁のon−off操作によって得られる前記操作流量(Gd)の量子化規則を表す飽和関数および量子化器と同一特性の飽和関数および量子化器を設けると共に、当該量子化器の入力信号および出力信号の誤差を当該入力信号にフィードバックし、
前記フィードバック変調器(FBM)から出力される流量指令変調信号を前記指令流量(u)として用いることを特徴とする空圧式除振台システムの振動抑制制御方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記制御系による制御が前記誤差圧力変化信号(u)に含まれているノイズ成分に過剰に反応することを防止するために、前記制御系における前記変換定数ゲイン(p)の前段に、式(17)で表される不感帯関数(Ψ)を追加し(u、u:不感帯関数の前後の信号、u=u)、
式(17)
【数E】

前記フィードバック変調器FBMの入力信号(u)と出力信号(u)の誤差を抑制するために、前記変換定数ゲイン(p)と前記フィードバック変調器(FBM)の間に、式(18)で表される飽和関数Γを追加して、前記変換定数ゲイン(p1)を介して前記フィードバック変調器(FBM)に供給される入力信号(u)を、飽和制限を加えた入力信号(u)として当該フィードバック変調器(FBM)に供給することを特徴とする空圧式除振台システムの振動抑制制御方法。
式(18)
【数F】

【請求項8】
請求項7において、
前記制御系による制御結果に生ずる圧力偏差を抑制するために、前記不感帯関数(Ψ)に、式(19)で表される不感帯補償器(H)を追加し、
式(19)
【数G】

但し、
α:設計パラメータ
ξ:不感帯関数の前後の信号u、uの差分
不感帯関数(Ψ)で除かれた信号成分をフィードバックして前記誤差圧力変化信号(u)に加えた入力信号(u1)を、前記不感帯関数(Ψ)に入力することを特徴とする空圧式除振台システムの振動抑制制御方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図1】
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【図2】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−193820(P2012−193820A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59975(P2011−59975)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年10月29日 社団法人計測自動制御学会主催の「計測自動制御学会 中部支部シンポジウム2010」において発表 平成22年11月 3日 社団法人日本機械学会発行の「第53回 自動制御連合 講演会」CD−ROM論文集に発表 平成23年 3月 4日 社団法人計測自動制御学会発行の「第11回 計測自動制御学会 制御部門大会」CD−ROM論文集に発表
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(391038822)ヘルツ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】