説明

空気ばね及びその製造方法

【課題】構造を複雑化させることなく、気密性を確保することが可能な空気ばねを提供することを目的とする。
【解決手段】上面板1と、下面板2と、上面板1及び下面板2の間に介装される筒状の可撓部材3と、下面板2に取り付けられる弾性ストッパー4とを備え、下面板2と、弾性ストッパー4とが一体的に接着された構成とし、より好ましくは、下面板2は、可撓部材下端部のビード部3bを嵌合するビード受部8と、ビード受部8よりも半径方向外側に形成されるフランジ部9とを有し、フランジ部9に、フランジ部9と可撓部3cとが接触しないようにするゴム座18が設置され、ゴム座18がフランジ部9に加硫接着した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等に用いられる空気ばね及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両等に用いられる空気ばねとしては、特許文献1の図5に示すように、車両の車体に取り付けられる上面板と、その下方で車輪側に配置される下面板と、上面板及び下面板にわたって配備されるゴム製の可撓部材(ベローズ)と、下面板と車輪側の支持フレームとの間に介装される弾性ストッパーとを備えたものが知られている。上記弾性ストッパーは車体の上下方向の変動を規制するものである。弾性ストッパーは、一般的に、ゴム層と鋼板とを交互に積層してなる積層ゴム構造のものが用いられる。
【0003】
上記弾性ストッパーの頂部には頂板が設けられており、下面板は頂板に固定される。より詳しくは、下面板には可撓部材の下端部のビード部を嵌合するビード受部が形成され、ビード受部よりも半径方向内側にはボルトが挿通可能な貫通孔が形成される。
【0004】
また、頂板において、下面板の貫通孔に対応する位置にはボルトを螺合するねじ穴が形成されており、下面板と頂板とを接合させた状態で、ボルトを下面板の貫通孔に挿通して頂板のねじ穴に螺合することで、下面板が弾性ストッパーに固定される。可撓部材の内部には空気が供給されて加圧状態に維持される。空気ばねは、加圧空気で膨らんだ可撓部材及び弾性ストッパーによって、上下方向の荷重や振動に対して緩衝機能を発揮するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−288236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のごとく、可撓部材の内部は加圧状態に維持されるため、上面板及び下面板を含めて可撓部材全体として気密性を備えることが必要とされる。ところが、特許文献1においては、可撓部材の気密性に関係する下面板部分にボルトの挿通孔が形成されているため、加圧空気がこの挿通孔を通って下面板と頂板の間の隙間から漏れるおそれがあった。
【0007】
そのため、従来は、下面板と頂板との接合面において、下面板及び頂板の少なくとも一方に環状溝部を形成し、この環状溝部にOリングを嵌め込んだ状態で下面板と頂板とを接合することで、両者の接合面における気密性を確保するようにしていた。このように、可撓部材の気密性を確保するためには、環状溝部やOリングが必要となり、その分、空気ばねとして構造が複雑化するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明においては、上記問題に鑑み、構造を複雑化させることなく、気密性を確保することが可能な空気ばねを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る空気ばねは、上面板と、下面板と、前記上面板および下面板の間に介装される筒状の可撓部材と、前記下面板に取り付けられる弾性ストッパーとを備え、前記下面板と、前記弾性ストッパーとが一体的に接着されたことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、下面板と弾性ストッパーとを一体的に接着することで、可撓部材の気密性に関係する下面板部分(ビード受部よりも半径方向内側の部分)に貫通孔を形成する必要がなくなり、空気ばねの構造を複雑化させることなく、可撓部材の気密性を確保することが可能となる。なお、下面板において、弾性ストッパーとの接合面に凹凸を形成しておくことで、弾性ストッパーとの接着面積を増加させ、十分な接着力を確保することができる。
【0011】
弾性ストッパーは、弾性体により形成される。弾性体としては、具体的に、加硫により硬化する天然ゴム、合成ゴム、エラストマー等を挙げることができ、これらを単独で使用したり又は2種以上を併用することができる。弾性ストッパーは、塊状の弾性体のみで構成してもよいし、弾性体と鋼板等の補強材とを交互に積層した積層構造とすることも可能である。
【0012】
下面板と、弾性ストッパーとを一体的に接着するには、接着剤を使用して両者を接着することができるが、弾性ストッパーを加硫成形する際に、下面板と弾性ストッパーとを加硫接着することも可能である。この場合には、弾性ストッパーを構成する弾性体が加硫して下面板と直接接着するため、接着剤が不要であるというメリットを有する。
【0013】
本発明において、可撓部材は、上下両端部に形成されるビード部と、両ビード部間に形成される筒状の可撓部とを有し、下面板は、ビード部を嵌合するビード受部と、ビード受部よりも半径方向外側に形成されるフランジ部とを有し、ビード受部に可撓部材下端部のビード部が嵌合される。
【0014】
上記構成において、空気ばねが水平方向に変位したときには、可撓部材の可撓部が硬質のフランジ部と擦れることで可撓部材の耐久性に影響を及ぼすおそれがあることから、フランジ部に、フランジ部と可撓部とが接触しないようにするゴム座を設置するのが好ましい。
【0015】
ゴム座は、フランジ部とは別体の独立した部材とすることができる。この場合、ゴム座としては、外力が作用したときに異常変形を生じない剛性を備え、フランジ部に対して固定された状態を維持することが必要とされる。すなわち、ゴム座は、位置ずれしないように、フランジ部表面において遊びなく固定可能であることが必要とされる。
【0016】
ゴム座を独立した部材とする場合の具体的な構成としては、たとえば、上面側のゴム層と下面側の金属補強層から構成される積層構造の環状体とすることで剛性を確保し、これをビード受部に嵌合可能な形状に形成したり、フランジ部の外周端部に嵌合可能な形状に形成することができる。さらに、ゴム座のゴム層中に金属ワイヤ等の環状の補強材を埋設すれば、ゴム座18の剛性をより高め、変形を確実に防止することが可能となる。
【0017】
また、ゴム座は、フランジ部と一体に形成することも可能であり、具体的にはゴム座をフランジ部に接着することができる。この場合、フランジ部が金属補強層の役割を果たしてゴム座の位置ずれを効果的に防止可能であることから、ゴム座としては加硫ゴム等の弾性体のみで構成することが可能となる。
【0018】
すなわち、ゴム座をフランジ部と一体に形成することにより、フランジ部とは別の独立した部材とする場合に比べて、構造を簡素化することが可能となり、コスト及び生産性において極めて有利となる。なお、ゴム座をフランジ部に接着する場合において、下面板と弾性ストッパーとを加硫接着する場合には、ゴム座もフランジ部に加硫接着するのが好ましい。
【0019】
すなわち、上面板と、下面板と、前記上面板及び下面板の間に介装される筒状の可撓部材と、前記下面板に取り付けられる弾性ストッパーとを備え、前記可撓部材は、上下両端部に形成されるビード部と、前記両ビード部間に形成される筒状の可撓部とを有し、前記下面板は、前記ビード部を嵌合するビード受部と、前記ビード受部よりも半径方向外側に形成されるフランジ部とを有し、前記ビード受部に前記可撓部材下端部のビード部が嵌合され、前記フランジ部に、前記フランジ部と前記可撓部とが接触しないようにするゴム座が設置された空気ばねの製造方法であって、前記弾性ストッパーを加硫成形する際に、前記弾性ストッパー及びゴム座を前記下面板に加硫接着するようにしたことを特徴とする。
【0020】
このように、弾性ストッパー及びゴム座を下面板に加硫接着するようにすれば、金型に未加硫の弾性体と下面板をセットして加硫する際に、未加硫のゴム座も下面板のフランジ部に配置して金型内でともに加硫することができる。したがって、ゴム座を別に接着する手間を省くことができ、しかも加硫接着によって下面板と弾性ストッパーとの接着力及びフランジ部とゴム座との接着力を強力なものにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、下面板と、弾性ストッパーとを一体的に接着したため、可撓部材の気密性に関係する下面板部分に貫通孔を形成する必要がなくなり、空気ばねの構造を複雑化させることなく、可撓部材の気密性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の空気ばねの実施形態を示す縦断面図
【図2】図1とは別のゴム座の態様を示す要部拡大図
【図3】弾性ストッパーを加硫成形する金型の断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る鉄道車両用空気ばねの実施形態を示す縦断面図である。
【0024】
空気ばねは、車両の車体に取り付けられる上面板1と、その下方で車輪側に配置される下面板2と、上面板1及び下面板2の間に介装される筒状の可撓部材3と、下面板2と車輪側の支持フレームとの間に介装される弾性ストッパー4とを備えている。
【0025】
本実施形態においては、可撓部材3として、ゴム製のベローズを使用している。可撓部材3は、補強コードが埋設された補強ゴム層を中間層とする積層ゴムから構成されており、可撓部材3の上端部及び下端部にはビードコアに補強ゴム層を巻き付けた肉厚のビード部3a,3bが形成されている。すなわち、可撓部材3は、上下両端部に形成されるビード部3a,3bと、ビード部3a,3b間に形成される積層ゴムからなる肉薄で筒状の可撓部3cとを備えている。
【0026】
図1に示すように、上面板1は、金属製で円盤状の支持プレート5と、支持プレート5の中央部において下面板に向かって突出する円筒形状のビード受部6と、支持プレート5の下面においてビード受部6よりも半径方向外側の部分に設けられた保護ゴム層7とを備えている。
【0027】
下面板2は、金属材料によって円盤状に形成される。下面板2の中央部には、上面板1に向かって突出する円筒形状のビード受部8が形成され、ビード受部8よりも半径方向外側にはフランジ部9が形成されている。ビード受部6及び8は、可撓部材3の内部の空気が抜けた場合(デフレートした場合)に、ビード受部6がビード受部8に着座し、車両の安全走行を確保する機能を兼ね備えている。
【0028】
デフレート時にビード受部6及び8が接触する接触面には、それぞれ摺動シート11が固着されている。摺動シート11は薄く強靭なシートに成形可能な熱可塑性あるいは熱硬化性合成樹脂からなり、摩擦係数が小さいものが使用される。具体的には、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。本実施形態ではフッ素樹脂シートを使用している。
【0029】
弾性ストッパー4は、塊状の加硫ゴムからなるゴム成形体12と、ゴム成形体12の底部に取り付けられる底板14とを備えている。ゴム成形体12は、肉厚の椀(ボウル)を伏せたような形状とされており、底板14は、ゴム成形体12に加硫接着されている。
【0030】
下面板2も、底板14と同様にゴム成形体12に加硫接着されており、下面板2と弾性ストッパー4とが一体化される。下面板2の裏面側(弾性ストッパー4との接合面側)には、環状凹部13が形成されており、これにより、下面板2と弾性ストッパー4との接着面積が増大し、より下面板2と弾性ストッパー4とをより強固に接着することができる。
【0031】
フランジ部9にはゴム座18が設置される。ゴム座18は、フランジ部9の外周側面から、フランジ部9上面の外周側の端部にかけて、フランジ部9の外周側の角部を覆うようにリング状に形成されており、ゴム座18の断面形状は略L字状とされている。また、ゴム座18の表面は緩やかな曲面状に形成される。
【0032】
本実施形態では、ゴム座18は加硫ゴムから形成されており、フランジ部9に一体的に加硫接着している。これにより、ゴム座18は、空気ばねが変位したときも位置ずれを生じることなく、フランジ部9と可撓部3cとの間に介装される。そして、可撓部3cとフランジ部9とが直接接触しない構造とされる。
【0033】
なお、ゴム座18は、図2に示すように、フランジ部9に接着せずに、独立した部材とすることも可能である。ただ、この場合には、ゴム座18を加硫ゴムだけで構成すると変形しやすく、外力が作用したときに異常変形を生じ、最終的には位置ずれが生じて、フランジ部9から外れるおそれがある。
【0034】
したがって、ゴム座18を独立した部材とする場合には、例えば、図2に示すように、上面側のゴム層18aと、下面側の金属補強層18bとが一体的に積層された積層構造とする等により強度を高めることが必要とされる。さらに、ゴム座18のゴム層18a中に金属ワイヤ等の環状の補強材18cを埋設すれば、ゴム座18の強度をより高め、変形をより確実に防止し、ゴム座18をフランジ部9に確実に保持することが可能となる。以上述べたように、ゴム座18をフランジ部9に加硫接着することで、構造を簡素化することが可能となる。
【0035】
弾性ストッパー4及びゴム座18を下面板に加硫接着する方法について説明する。図3は、弾性ストッパー4を加硫成形するための金型の一例を示す断面図である。この金型19は、トランスファー成形機の上下一対の熱盤の間に設置された後、熱盤に挟み込まれて金型内の未加硫ゴムが加熱加圧され、これにより加硫成形される。金型19は、上型20と、中型21と、下型22とに上下方向に分割可能とされている。
【0036】
ゴム成形体12は、前述のごとく、肉厚の椀(ボウル)を伏せたような形状とされる。そこで、成形後のゴム成形体12を金型19から脱型容易とするために、中型21は、ゴム成形体12の形状に合わせて上下方向に第一中型23と、第二中型24とに分割可能とされる。
【0037】
また、加硫成形後に、型開きを容易とし、さらに、下面板2及び底板14が一体的に成形された弾性ストッパー4を金型から取り出し可能とするために、第二中型24は左右方向に2分割可能とされている。同様に、第一中型23も左右方向に2分割可能とされている。
【0038】
下型22の上面の中央には円形の凹部が形成されており、この凹部に加硫成形後の弾性ストッパー4の頂部に一体的に加硫接着される円盤状の下面板2がセットされる。なお、図3では、下面板2として、弾性ストッパーとの接合面に環状凹部13が形成されていないフラット形状のものを用いた場合について図示している。
【0039】
下型22には、下面板2をセットした状態で、下面板2(フランジ部9)の外周側面から下面板2の上面の半径方向外端部にかけて空間が形成される。よって、先ず、この空間に未加硫ゴムを充填し、その後、下面板2をセットし、その上に第二中型24をセットする。なお、この部分の未加硫ゴムが加硫されてゴム座18を形成する。
【0040】
第二中型24をセットした状態でその内部に未加硫ゴムを充填する。未加硫ゴムは、帯状のものを用いて敷き詰めていけばよい。第二中型24まで未加硫ゴムを充填した後は、第一中型23をセットし、さらに第一中型23の内部まで未加硫ゴムを充填する。
【0041】
その後、底板14をセットし、その上から上型をセットして金型19を密閉する。そして、金型19をトランスファー成形機の熱盤の間に挟み込み、金型19内の未加硫ゴムを加熱加硫させればよい。以上の方法により、弾性ストッパーを加硫成形する際に、弾性ストッパー4及びゴム座18を下面板2に加硫接着させることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 上面板
2 下面板
3 可撓部材
4 弾性ストッパー
5 支持プレート
6、8 ビード受部
7 保護ゴム層
9 フランジ部
11 摺動シート
12 ゴム成形体
13 環状凹部
14 底板
18 ゴム座
19 金型
20 上型
21 中型
22 下型
23 第一中型
24 第二中型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面板と、下面板と、前記上面板及び下面板の間に介装される筒状の可撓部材と、前記下面板に取り付けられる弾性ストッパーとを備え、前記下面板と、前記弾性ストッパーとが一体的に接着されたことを特徴とする空気ばね。
【請求項2】
前記下面板と、弾性ストッパーとが加硫接着されたことを特徴とする請求項1記載の空気ばね。
【請求項3】
前記可撓部材は、上下両端部に形成されるビード部と、前記両ビード部間に形成される筒状の可撓部とを有し、前記下面板は、前記ビード部を嵌合するビード受部と、前記ビード受部よりも半径方向外側に形成されるフランジ部とを有し、前記ビード受部に前記可撓部材下端部のビード部が嵌合され、前記フランジ部に、前記フランジ部と前記可撓部とが接触しないようにするゴム座が設置され、前記ゴム座が前記フランジ部に加硫接着されたことを特徴とする請求項2記載の空気ばね。
【請求項4】
上面板と、下面板と、前記上面板及び下面板の間に介装される筒状の可撓部材と、前記下面板に取り付けられる弾性ストッパーとを備え、前記可撓部材は、上下両端部に形成されるビード部と、前記両ビード部間に形成される筒状の可撓部とを有し、前記下面板は、前記ビード部を嵌合するビード受部と、前記ビード受部よりも半径方向外側に形成されるフランジ部とを有し、前記ビード受部に前記可撓部材下端部のビード部が嵌合され、前記フランジ部に、前記フランジ部と前記可撓部とが接触しないようにするゴム座が設置された空気ばねの製造方法であって、前記弾性ストッパーを加硫成形する際に、前記弾性ストッパー及びゴム座を前記下面板に加硫接着するようにしたことを特徴とする空気ばねの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122558(P2012−122558A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274699(P2010−274699)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】