説明

空気入りタイヤおよびその製造方法

【課題】熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをインナーライナー層として使用した空気入りタイヤにおいて、タイヤの使用開始後、該積層シートのスプライス部の近傍で発生するタイゴム層のクラックや剥がれの発生を防止できる耐久性に優れた空気入りタイヤとその製造方法の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをインナーライナー層として使用した空気入りタイヤにおいて、積層体シートのオーバーラップによるスプライス部にある2層の前記空気透過防止層のうち、非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔が設けられ、該孔を介してスプライス部にある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接に接合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤと空気入りタイヤの製造方法に関する。
【0002】
更に詳しくは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをインナーライナー層として使用した空気入りタイヤにおいて、タイヤの使用開始後、該積層シートのスプライス部の近傍で発生するタイゴム層のクラック、剥がれの発生を防止できる耐久性に優れた空気入りタイヤとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、インナーライナー層として、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層と、タイゴム層の積層体シートを使用した空気入りタイヤに関する提案がされ、検討されている(特許文献1)。
【0004】
通常、このような空気入りタイヤを製造するには、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層用のシート状物と、該熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物と加硫接着されるゴム(タイゴム)シートの積層体シートを、タイヤ成形ドラムに巻き付けてラップスプライスして、タイヤの加硫成形工程に供するという製造手法がとられる。積層体シートは、1枚あるいは複数枚が使用される。すなわち、1枚の積層体シートを用いるときは、その両端をラップスプライスして、あるいは、複数枚の積層体シートを用いるときは、それらの端部どおしがラップスプライスして使用され、いずれにしても、積層体シートが一つの環状を形作るようにして、タイヤ成形ドラムにてラップスプライスして巻き付けられ、タイヤの加硫成形工程に供される。
【0005】
しかし、通常、ロール状の巻き体をなして巻かれた、該積層体シートを、該ロール状巻き体から所要の長さ分を引き出して切断し、タイヤ成形ドラムに巻き付けて該ドラム上においてラップスプライスし、更に加硫成形をしてインナーライナー層を形成させて空気入りタイヤを製造した場合、タイヤ走行開始後に、インナーライナー層を構成している熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のシートと、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性エラストマー組成物のシートと加硫接着されたタイゴムとが、スプライス部の近傍でクラックや剥がれを発生し剥離してしまう場合がある。
【0006】
これを図で説明すると、図3(a)に示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなるシート2とタイゴム層3とからなる積層体シート1は、刃物で所要サイズ(長さ)に切断されて、タイヤ成形ドラム(図示せず)上にて、その端部(1枚の使用なら両端部であり、複数枚の使用なら片端部)にラップスプライス部Sを設けて環状を成すようにしてラップスプライスされる。そして、更にタイヤの製造に必要なパーツ材(図示せず)が巻かれ、ブラダーで加硫成形される。加硫成形後においては、図3(b)にモデル図で示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物のシート2とタイゴム層3からなるインナーライナー層10が形成され、ラップスプライス部S付近では、熱可塑性樹脂または上述の熱可塑性エラストマー組成物からなるシート2が、露出している部分とタイゴム層の中に埋設している部分が形成されている。この熱可塑性樹脂または上述の熱可塑性エラストマー組成物からなるシート2が空気透過防止層2aを構成する。同図で、矢印Dで示した方向はタイヤ周方向である。
【0007】
そして、タイヤの使用開始後、加硫接着されたタイゴム層3と上述した熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のシート2(空気透過防止層2a)とが剥離してしまう現象は、特に、図3(b)で示した熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のシート2(空気透過防止層2a)が露出していてかつタイゴム層3と接しているその先端部付近4などにおいて発生し、まず熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のシート2(空気透過防止層2a)とタイゴム層3の間でクラックが発生し、それがさらに進んでそれらの剥離現象へと進行していく。この原因、特に、空気透過防止層2aとタイゴム層3の間(界面)でクラックが発生する原因は、通常、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のシートからなる空気透過防止層2aは剛性が高いので、上下を空気透過防止層2aに挟まれたタイゴム層は固定され、歪みが抑えられるが、上下を空気透過防止層2aに挟まれていない空気透過防止層2aの先端部付近4のタイゴム層では歪みが抑えられずに大きな応力が発生するためである。また、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のシートとタイゴム層の加硫接着力が十分に高くない場合があるなども考えられる。
【0008】
一方で、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のシート2とタイゴム層3の加硫接着力が十分に高い場合、タイゴム層3内の図3(b)にCで示した箇所付近で応力歪みが集中してクラックが頻発する。該応力歪みは、タイゴム層が表面まで露出している図3(b)で前述のCで示した箇所付近に集中し、その部分でタイゴム層3にはタイヤ周方向の歪み方向を持つ応力歪みが生じていて、これがタイゴム層の該C付近でクラックを生じる原因と考えられるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−241855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物を空気透過防止層とタイゴム層積層体とを積層した積層体シートをインナーライナー層として使用した空気入りタイヤにおいて、タイヤの使用開始後、該積層シートのスプライス部の近傍で発生するタイゴム層のクラックや剥離の発生を防止できる耐久性に優れた空気入りタイヤとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、以下の(1)の構成を有する。
(1)熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをインナーライナー層として使用した空気入りタイヤにおいて、前記積層体シートのオーバーラップによるスプライス部にある2層の前記空気透過防止層のうち、非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔が設けられ、該孔を介して、前記スプライス部にある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接に接合していることを特徴とする空気入りタイヤ。
【0012】
また、かかる本発明の空気入りタイヤにおいて、好ましくは、以下の(2)〜(4)のいずれかの構成を有するものである。
(2)前記積層体シートのオーバーラップによるスプライス部のタイヤ周方向長さが、3〜30mmであることを特徴とする上記(1)記載の空気入りタイヤ。
(3)前記積層体シートのスプライス部と、トレッドゴムのスプライス部およびサイドゴムのスプライス部が、タイヤ周方向で均等な中心角を呈して配置されていることを特徴とする上記(1)または(2)記載の空気入りタイヤ。
(4)前記非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔が設けられ、該孔を介して、前記スプライス部にある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接に接合している部分が、タイヤ幅方向で、少なくともベルト端部からビードフィラー先端部まで延在していることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0013】
また、上述した目的を達成する本発明の空気入りタイヤの製造方法は、以下の(5)の構成を有する。
(5)熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをオーバーラップによるスプライス部を設けてタイヤ内腔に面して配置させてインナーライナー層を形成する空気入りタイヤの製造方法において、前記積層体シートのオーバーラップによるスプライス部にある2層の前記空気透過防止層のうち、非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔を予め設け、しかる後、タイヤ加硫成形工程に供して前記貫通孔を介してスプライス部にある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接接合されるようにしたことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【0014】
また、かかる本発明の空気入りタイヤの製造方法において、好ましくは、以下の(6)の構成を有するものである。
(6)前記オーバーラップによるスプライス部のタイヤ周方向長さを3〜30mmとすることを特徴とする上記(5)記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
請求項1にかかる本発明によれば、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをインナーライナー層として使用した空気入りタイヤにおいて、タイヤの使用開始後、該積層シートのスプライス部の近傍で発生するタイゴム層でのクラック、剥がれの発生が良好に防止できる耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【0016】
特に、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層はフィルム状のものであり、この2層のフィルムが存在するスプライス部は剛性が高くなって、クラックや剥がれが発生しやすいものであるが、本発明によれば、そのフィルムに貫通した孔が開いていることによって剛性が緩和され、クラック、剥がれの発生が抑制される。さらに加えて、貫通した孔を介して上下のタイゴム層が直接的に接合されているため、接合強度が非常に大きく、その点でもタイゴム層のクラック、剥がれの発生を良好に抑制することができるのである。
【0017】
請求項2、3のいずれかにかかる本発明の空気入りタイヤによれば、上記請求項1にかかる本発明の効果を有するとともに、タイヤのユニフォミティに優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【0018】
請求項4にかかる本発明の空気入りタイヤによれば、上記請求項1にかかる本発明の効果を有するとともに、その効果をより確実にかつより高く発揮できる空気入りタイヤを提供することができる。
【0019】
請求項5にかかる本発明の空気入りタイヤの製造方法によれば、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをインナーライナー層として使用した空気入りタイヤを製造するにあたり、タイヤの使用開始後、該積層シートのスプライス部の近傍で発生するタイゴム層でのクラック、剥がれの発生が良好に防止された耐久性に優れた空気入りタイヤを製造する方法を提供することができる。
【0020】
請求項6にかかる本発明の空気入りタイヤの製造方法によれば、請求項5にかかる本発明の効果を有するとともに、ユニフォミティに優れた空気入りタイヤを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は、本発明にかかる空気入りタイヤにおけるインナーライナーのスプライス部付近における空気透過層とタイゴム層の形態例の1例をモデル的に示した側面モデル図であり、(b)はその平面図である。この図は、貫通孔を楕円形状として3列配置で設けた例を示している。
【図2】(a)、(b)は、それぞれ本発明にかかる空気入りタイヤにおけるインナーライナーのスプライス部付近における空気透過層とタイゴム層の形態例の他の1例をモデル的に示した平面図であり、(a)は貫通孔が3列配置のスリット状である例、(b)は貫通孔が3列配置の円形状である例を示している。
【図3】(a)は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるシート2と、該熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物と加硫接着するゴム3を積層した積層体シート1を所定長さで切断し、タイヤ成形ドラムに巻き付けて、該積層体シート1の両端部をラップスプライスした状態を示すモデル図であり、(b)は、(a)に示した状態で加硫成形した後の状態を示したモデル図である。
【図4】本発明にかかる空気入りタイヤの形態の1例を示した一部破砕斜視図である。
【図5】本発明にかかる空気入りタイヤを説明するタイヤ子午線方向の断面図であり、タイヤ幅方向において全幅にわたりオーバーラップスプライス部が存在する中で、特に貫通孔を有するスプライス部を設けると好ましい箇所をモデル的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面などを用いて、更に詳しく本発明の空気入りタイヤについて、説明する。
【0023】
本発明の空気入りタイヤは、図1(a)、(b)に示したように、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層2(2a)とタイゴム層3とを積層した積層体シートをインナーライナー層10として使用した空気入りタイヤにおいて、積層体シートのオーバーラップによるスプライス部Sにある2層の空気透過防止層2aのうち、非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔Vが設けられ、該孔Vを介して、スプライス部Sにある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接に接合していることを特徴とする。
【0024】
このように構成することにより、空気透過防止層2(2a)を形成する熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層はフィルム状のものであり、該フィルムが2層存在するスプライス部Sは剛性が高くなって、クラックや剥がれが発生しやすいのであるが、本発明では、特に、そのスプライス部のフィルムに貫通した孔が開いていることによって剛性が緩和され、クラック、剥がれの発生が抑制される。さらに加えて、貫通した孔を介して上下のタイゴム層が直接的に接合されているため、接合強度が非常に大きく、その点でもタイゴム層のクラック、剥がれの発生を抑制することができる。
【0025】
貫通孔Vの平面形状は、直線状の切れ目が入っただけのスリット形状、楕円形、円形、菱形などの多角形などのいずれでもよく、特に限定はされない。特にスリット形状のような切れ目が入っただけのものでも、タイヤの加硫成形時にはタイヤが膨径するにつれてスリットが、特に周方向に伸ばされて開き、面積を持つ孔に変化するので、本発明を構成することができる。
【0026】
貫通孔Vは、タイヤの成形ドラム上で、あるいは成形ドラムに巻く直前で、針(ニードル)やパンチ加工、スリッター、ミシン目形成ナイフなどを使用して加工形成するのが好ましい。
【0027】
貫通孔Vは、平面視した孔部Vの総合計面積が大きすぎるとスプライス部の強度が低下することにつながるので、該孔部Vの総合計面積は、スプライス部の総面積の5〜50%とするのが好ましい。この好ましい面積比率は、スプライス部のタイヤ全幅にわたり貫通孔を設ける場合でも、あるいは、例えばショルダー部のみに設ける場合でも、該ショルダー部のスプライス部総面積に対する比率として、同様である。
【0028】
積層体シートのオーバーラップによるスプライス部Sのタイヤ周方向長さL(図1)は3〜30mmであることが好ましい。3mmよりも小さいと、スプライスすること自体の効果が小さくなり、その点でクラック、剥がれが発生しやすくなってくる。また、30mmよりも大きい場合には、タイヤのユニフォミティが低下する方向であり好ましくない。中でも、作業のしやすさと効果のバランスから、本発明者らの検討によれば、7〜15mmとするのが最も良い。
【0029】
また、本発明にかかる積層体シートのスプライス部と、トレッドゴムのスプライス部およびサイドゴムのスプライス部が、タイヤ周方向で均等な中心角(約120度)を呈して配置されていることが好ましい。これらのスプライス部をそれぞれ均等に配置することでタイヤのユニフォミティを向上させることができるからである。
【0030】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをオーバーラップによるスプライス部を設けてタイヤ内腔に面して配置させてインナーライナー層を形成する空気入りタイヤの製造方法において、前記積層体シートのオーバーラップによるスプライス部にある2層の前記空気透過防止層のうち、非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔を予め設け、しかる後、タイヤ加硫成形工程に供して、該加硫成形時にタイヤ周方向に該孔の径が伸ばされ、該貫通孔を介してスプライス部にある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接接合されるようにしたものである。
【0031】
この製造方法を実施するときの加硫成形時の条件は、従来から行われているものと同様でよく、特別な条件をとる必要はないが、前述した貫通孔Vを加硫成形工程に供する前に設けておくことが重要である。
【0032】
図4は、本発明にかかる空気入りタイヤの形態の1例を示した一部破砕斜視図である。
【0033】
空気入りタイヤTは、トレッド部11の左右にサイドウォール部12とビード部13を連接するように設けている。そのタイヤ内側には、タイヤの骨格たるカーカス層14が、タイヤ幅方向には左右のビード部13、13間に跨るように設けられている。トレッド部11に対応するカーカス層4の外周側にはスチールコードからなる2層のベルト層15a、15bが設けられている。16はビードフィラーである。矢印Dは図1〜3と同じくタイヤ周方向を示し、矢印Eはタイヤ幅方向を示している。カーカス層14の内側には、インナーライナー層10が配され、そのラップスプライス部Sがタイヤ幅方向に延びて存在している。該ラップスプライス部Sは、貫通孔Vを有していて、その貫通孔Vにはタイゴムが入り込んでいる。
【0034】
オーバーラップによるプライス部Sは、タイヤ全幅にわたり存在するが、そのスプライス部の全幅にわたり貫通した孔Vが設けられている必要はなく、タイヤ幅方向で、少なくとも、図5においてZで示した、「ベルト端部15bからビードフィラー16の先端部までの領域」に延在していることが好ましい。特に、ショルダー部付近は走行中、変形が大きく、そのため、タイゴムのクラックや剥がれが生じやすく、サイドウォール部も含めて、上記領域Zに設けられることが好ましい。上述したように、例えば、ショルダー部だけなど、部分的に貫通孔を設ける場合でも、該貫通孔の総面積は、その部分(例えば、ショルダー部)のスプライス部の総面積の5〜50%とするのが好ましい。「その部分(例えば、ショルダー部)のスプライス部の総面積」は、貫通孔が設けられている幅方向の一方の最端部から他方の最端部までを総面積として求めるものである。
【0035】
本発明で用いることのできる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物、例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体(ETFE)〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0036】
また、本発明で使用できる熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂とエラストマーは、熱可塑性樹脂については上述のものを使用できる。エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ボリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。
【0037】
また、前記した特定の熱可塑性樹脂と前記した特定のエラストマーとの組合せでブレンドをするに際して、相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散層を形成しているエラストマーの粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方又は片方の構造を有する共重合体、或いは熱可塑性樹脂又はエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらはブレンドされる熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)及びそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレン又はEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量は、特に限定されないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0038】
熱可塑性樹脂とエラストマーがブレンドされた熱可塑性エラストマー組成物において、特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよく、好ましい範囲は重量比90/10〜30/70である。
【0039】
本発明において、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物には、空気透過防止層としての必要特性が損なわれない範囲で相溶化剤などの他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性を改良するため、材料の成型加工性をよくするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。また、一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等をインナーライナーとしての必要特性を損なわない限り任意に配合することもできる。熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナーに十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果により十分な剛性を併せ付与することができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができるものである。
【0040】
本発明で使用できる熱可塑性樹脂、エラストマーのヤング率は、特に限定されるものではないが、いずれも、好ましくは1〜500MPa、より好ましくは50〜500MPaにするとよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例などにより、本発明の空気入りタイヤについて具体的に説明する。
【0042】
なお、「スプライス部の耐剥がれ性」の評価は、ドラム試験機にて内圧120kPa、荷重7.24kN、速度81km/hで80時間走行試験をして後、各試験タイヤの内腔のインナーライナー層のスプライス部付近でのタイゴムの剥がれ、クラックの発生の有無の状況を観察して行った。
【0043】
「ユニフォミティ」の評価は、JASO C−607−87に従いRFVを測定して評価をした。n数は10とし、従来例1のタイヤを100として指数で表示した。数値が大きいほどユニフォミティが優れていることを示している。
【0044】
実施例1〜5、従来例1
試験タイヤとして、ベルト2層、カーカス2層のタイヤ構造を有するタイヤサイズ195/65R15 91H(15x6J)の試験タイヤを、各実施例、比較例ごとに各10本を作製した。
【0045】
各試験タイヤにおいて、空気透過防止層に形成した貫通部の構造は、加硫成形後、実施例1〜5はいずれも図1に示したような楕円状の孔(加硫成形前で、幅方向長さ2.8mm、周方向幅1.0mm。加硫成形後では、幅方向長さ3.0mm、周方向幅1.5mm)を開けたものであり、3列並行とした。スプライス部の周方向長さLは、表1に示したとおり、3mm〜35mmとした(なお、スプライス部の周方向長さLが3mmの場合(実施例1)は、孔を1列とした)。従来例1は、貫通孔は一切設けず、スプライスさせただけのものである。
【0046】
インナーライナーの形成のための本発明にかかる積層体シートのスプライス部と、トレッドゴムのスプライス部およびサイドゴムのスプライス部は、実施例1〜4、従来例1のすべてで、タイヤ周方向で均等な中心角(約120度)で配置させた。実施例5だけは、3つのスプライス部を一致させたものである。
【0047】
実施例1〜5のいずれも、貫通孔は、タイヤ幅方向ではベルト端部15bからビードフィラー16の先端部までの領域(図5のZ)にだけ延在させて設けた。
【0048】
タイヤの加硫成形後、貫通孔の総面積は、Z領域でのスプライス部の総面積の45%であった。また、貫通孔は、前記のように、周方向幅が1.5mm、幅方向長さが3.0mmと広がり楕円状であった。それぞれの貫通孔には、本来その上下にあるタイゴムが入り込んでしっかりと互いに接合していた。
【0049】
各試験タイヤの詳細と、耐久性の評価結果を表1に示した。
【0050】
この表1からわかるように本発明によるものは、タイゴムのクラック、剥がれの発生がなく耐久性に非常に優れている。
【0051】
【表1】

【符号の説明】
【0052】
1:積層体シート
2:熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物のシート
2a:空気透過防止層
3:タイゴム層
4:熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のシート2の先端部付近
10:インナーライナー層
11:トレッド部
12:サイドウォール部
13:ビード部
14:カーカス層
15:ベルト層
16:ビードフィラー
C:タイゴム層内で発生するクラックの頻発箇所
D:タイヤ周方向
E:タイヤ幅方向
V:貫通孔
S:ラップスプライス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをインナーライナー層として使用した空気入りタイヤにおいて、前記積層体シートのオーバーラップによるスプライス部にある2層の前記空気透過防止層のうち、非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔が設けられ、該孔を介して、前記スプライス部にある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接に接合していることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記積層体シートのオーバーラップによるスプライス部のタイヤ周方向長さが、3〜30mmであることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記積層体シートのスプライス部と、トレッドゴムのスプライス部およびサイドゴムのスプライス部が、タイヤ周方向で均等な中心角を呈して配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔が設けられ、該孔を介して、前記スプライス部にある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接に接合している部分が、タイヤ幅方向で、少なくともベルト端部からビードフィラー先端部まで延在していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーのブレンド物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる空気透過防止層とタイゴム層とを積層した積層体シートをオーバーラップによるスプライス部を設けてタイヤ内腔に面して配置させてインナーライナー層を形成する空気入りタイヤの製造方法において、前記積層体シートのオーバーラップによるスプライス部にある2層の前記空気透過防止層のうち、非タイヤ内腔側に位置する空気透過防止層に貫通した孔を予め設け、しかる後、タイヤ加硫成形工程に供して前記貫通孔を介してスプライス部にある2層のタイゴム層のゴムどおしが直接接合されるようにしたことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記オーバーラップによるスプライス部のタイヤ周方向長さを3〜30mmとすることを特徴とする請求項5記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−254718(P2012−254718A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128866(P2011−128866)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】