説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】ドラムの周上の接合部での厚さの均一性を高め、エアーの残留を防止しインナーライナーおよびカーカスプライの接合部の剥離も有効に軽減した空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】インナーライナー2の幅方向端部と未加硫ゴムシート3の幅方向端部を幅方向に相互に50mm〜500mmずらして貼り合わせて積層体1を製造するアッセンブル工程と、積層体1を、ドラム幅に対応する一定長さに切断して、裁断シート4を製造する裁断工程と、裁断シート4を、その裁断面がドラム5の周方向となり、かつインナーライナー2が内面側となるようにドラム全周に巻きつけて、インナーライナー2の端部と、未加硫ゴムシート3の端部の位置を一定距離ずらして接合する接合工程を有し、インナーライナー2は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を含む第1層と、熱可塑性エラストマーよりなる第2層の積層体で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法、特に、インナーライナーの成形方法に関し、カーカスプライなどの未加硫ゴムシートとインナーライナーとの積層体を製造して生タイヤを成形する工程を含む空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請から、タイヤの軽量化が図られており、タイヤ部材のなかでも、タイヤの内部に配され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れを低減することが要請されている空気遮断層(インナーライナー)においても、その軽量化が求められている。
【0003】
現在、空気遮断層用ゴム組成物は、たとえばブチルゴム70〜100質量%および天然ゴム30〜0質量%を含むブチルゴムを主体とするゴム配合を使用することで、タイヤの耐空気透過性を向上させることが行われている。また、ブチルゴムを主体とするゴム配合はブチレン以外に約1質量%のイソプレンを含み、これが硫黄・加硫促進剤・亜鉛華と相俟って、隣接ゴム層との分子間の共架橋を可能にしている。上記ブチル系ゴムは、通常の配合では乗用車用タイヤでは0.6〜1.0mm、トラック・バス用タイヤでは1.0〜2.0mm程度の厚みが必要となるが、タイヤの軽量化を図るために、ブチル系ゴムより耐空気透過性に優れ、空気遮断層の厚みをより薄くできるポリマーが要請されている。
【0004】
空気入りタイヤの生タイヤの成形において、図7に示すように、インナーライナーPをドラム5A上で成形する際に、インナーライナーフィルムP2を、コンベア上で、未加硫インナーライナーゴムP1に、長手方向の両端縁位置を揃えて予め貼着させて積層体とし、該積層体のインナーライナーフィルムP2を内面側として、バンド上に、その全周にわたって巻き付けて、積層体の両端部を、周上の一個所で重複させて接合部PJを形成し、その後、ステッチングローラーを用いて、その積層体の接合部PJを押し付けてエアー抜きを行うのが一般的である。
【0005】
かかる技術では、インナーライナーフィルムP2と、未加硫インナーライナーゴムP1とをドラム上に巻き付けるにあたって、それらの長手方向の両端縁位置を揃えて予め貼着させることから、その積層体の両端部の、ドラム上での重複接合に際し、ドラム5A上の周上に形成される接合部PJの厚みが必然的に厚くなる。このため接合部PJにステッチングローラーを施しても接合部PJ間にエアーが残留することがあり、その残留エアーが生タイヤの加硫成型によって膨張すると、積層体Pの接合部PJが剥離する虞があった。
【0006】
しかも、この技術では積層体Pの端部がドラム5Aの周上の一個所で接合部を形成するため、成形された生タイヤのインナーライナーの接合部に剥離が生じた場合は、隣接するカーカスプライの損傷を招来することがある。
【0007】
従来技術において、空気入りタイヤの軽量化を意図して、インナーライナーに熱可塑性エラストマーを用いることが提案されている。しかしブチル系ゴムのインナーライナーよりも薄くし、高い耐空気透過性を有する材料は、インナーライナーに隣接するインスレーションゴムやカーカスプライゴムとの加硫接着力がブチル系ゴムのインナーライナーよりも劣ることになる。
【0008】
特にインナーライナーの接合部において接着力が弱いと、走行中に接合部が剥離しタイヤ内圧が低下し、タイヤのバーストを招来することがある。また前記接合部は他部材が内面に露出する構造となるため、エアー漏れの経路となり、タイヤ内圧低下を生じやすくなる。
【0009】
特許文献1(特開2009−208444号公報)には、インナーライナーフィルムと未加硫ゴムシートを、延在方向の両端を相互にずらした状態で貼り付け、この粘着体をドラム上に巻いて未加硫タイヤを成形する技術が開示されている。
【0010】
しかし、延在方向の両端を相互にずらすためには、それぞれ部材を1枚ずつ定寸カットし、個別にずらして張り合わせなければならないため、生産性が低下する可能性がある。また貼り合わせ方法によっては、精度が悪くなり、フィルム間にエアーが溜まることによってタイヤ加硫時に損傷を与えることになる。
【0011】
特許文献2(特開2007―291256号公報)には、天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるゴム成分の100質量部に対して、エチレンービニルアルコール共重合体が15〜30質量部の範囲で含有されたインナーライナー用ゴム組成物を備えた空気入りタイヤが開示されている。しかしこの技術は、インナーライナーの厚さが1mmと厚くタイヤの軽量化の観点で好ましくない。
【0012】
特許文献3(特開平9−165469号公報)にはインナーライナーとして用いるナイロンフィルムが開示されている。ここではナイロンフィルムをRFL処理した後、ゴム組成物からなるゴム糊により、タイヤ内面またはカーカス層と接着させて空気入りタイヤを製造することが開示されている。
【0013】
しかし、この技術では工程が複雑化する問題がある。さらに加硫工程では一般に金型内に収容した未加硫タイヤの内側から金型内面に押し付けて加硫成形を行うが、インナーライナーがナイロンフィルムであるため加硫時にブラダーを加熱する際にナイロンフィルムがブラダーに粘着、接着して破損する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−208444号公報
【特許文献2】特開2007―291256号公報
【特許文献3】特開平9−165469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、インナーライナーとカーカスプライなどの未加硫ゴムシートとの積層体を成形ドラム上に巻きつけてタイヤを成形する方法において、ドラムの周上の接合部での厚さの均一性を高め、エアーの残留を防止しインナーライナーおよびカーカスプライの接合部の剥離も有効に軽減した空気イリタイヤの製造方法を提供する。かかる製造方法を採用することで屈曲亀裂成長性、転がり抵抗性さらに静的空気圧低下率に優れた空気入りタイヤが得られる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、インナーライナーをタイヤ内側に備えた空気入りタイヤの製造方法において、生タイヤの成形は、
(a)インナーライナーの幅方向端部と未加硫ゴムシートの幅方向端部を幅方向に相互に50mm〜500mmずらして貼り合わせて積層体を製造するアッセンブル工程と、
(b)前記積層体を、ドラム幅に対応する一定長さに切断して、裁断シートを製造する裁断工程と、
(c)前記裁断シートを、その裁断面がドラムの周方向となり、かつインナーライナーが内面側となるようにドラム全周に巻きつけて、インナーライナーの端部と、未加硫ゴムシートの端部の位置を一定距離ずらして接合する接合工程を有し、
前記インナーライナーは、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を60質量%以上99.5質量%以下と、炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体を0.5質量%以上40質量%以下含み、厚さが0.05mm以上0.6mm以下である第1層と、未加硫ゴムシート側に配置され、熱可塑性エラストマーよりなり、厚さが0.01mm〜0.3mmである第2層の積層体で形成される前記空気入りタイヤの製造方法に関する。
【0017】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、アッセンブル工程において、インナーライナーの幅と未加硫ゴムシートの幅は異なっており、それらの幅方向の両端部が相互に重複しないように幅方向にずらして貼り合わされることができる。
【0018】
また、第2層は、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを有し、その厚さが0.01mm以上0.3mm以下であり、炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体を、ポリマー成分の0.5質量%以上40質量%以下含むことが好ましい。
【0019】
前記炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体が、ポリブテンおよびポリイソブチレンの少なくともいずれかが、好適に使用できる。そして前記炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体が、数平均分子量300以上3,000以下、重量平均分子量700以上100,000以下、および粘度平均分子量20,000以上70,000以下の少なくともいずれかを満たすことが好ましい。
【0020】
さらに本発明において前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体は重量平均分子量が5万以上40万以下であり、かつスチレン単位含有量が10質量%以上30質量%以下であり、前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体は重量平均分子量が10万以上29万以下であり、かつスチレン単位含有量が10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。そして前記スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は直鎖状であり、重量平均分子量が4万以上12万以下であり、かつスチレン単位含有量が10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明はSIBSと炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体(C4重合体)の混合物を含む第1層と熱可塑性エラストマーの第2層の積層体よりなるインナーライナーを、未加硫ゴムシートとを幅方向に相互にずらして積層し、その積層体をインナーライナーが内面側となるようにしてドラム上に、その全周にわたって巻き付け、インナーライナーおよび未加硫ゴムシートのそれぞれの端部を、ドラムの周方向に相互に離隔した位置で接合させることにより、インナーライナーの接合部と未加硫ゴムシートの接合部における厚みの段差を緩和させることができる。そしてステッチングに際して、それらの接合部のエアーを確実に除去することができ残留エアーに起因する接合部の剥離を軽減できる。
【0022】
また成形されたインナーライナーとカーカスプライなどの未加硫ゴムシートとは相互には円周方向に隔離した接合部が形成されることになることから、カーカスプライの接合部に剥離が生じても、インナーライナーによって該剥離部分は補強されるため、製品タイヤの損傷および破損は緩和されることになる。
【0023】
特に本発明において前記インナーライナーは、タイヤ内側に配置される、厚さが0.05mm〜0.6mmである第1層と、未加硫ゴムシート側に配置される、厚さが0.01mm〜0.3mmである第2層の複合層であるため、隣接するカーカスプライのゴムとの接着力が強化される。そしてカーカスプライの接合部が剥離した場合のインナーライナーによる補強効果は高くなり、一方、インナーライナーの接合部が剥離した場合のカーカスプライによる補強効果は高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】アッセンブル工程を示す概略図である。
【図2】アッセンブル工程の概略を示す斜視図である。
【図3】裁断工程を示す概略図である。
【図4】(a)は、裁断シートの断面図、(b)は裁断シートをドラムに巻き付ける状態を示す概略図である。
【図5】裁断工程を示す概略図である。
【図6】(a)は、裁断シートの断面図、(b)は裁断シートをドラムに巻き付ける状態を示す概略図である。
【図7】従来のインナーライナーの成形方法の概略図である。
【図8】空気入りタイヤの概略断面図である。
【図9】ポリマー積層体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<実施の形態1>
本発明はインナーライナーをタイヤ内側に備えた空気入りタイヤの製造方法であって、該製造方法は、以下の生タイヤの成形工程で行われる。
(a)インナーライナーの幅方向端部と未加硫ゴムシートの幅方向端部を、幅方向に相互に50mm〜500mmの範囲で、ずらして貼り合わせて積層体を製造するアッセンブル工程。
(b)前記積層体を、ドラム幅に対応する一定長さに切断して、裁断シートを製造する裁断工程。
(c)前記裁断シートを、その裁断面がドラム周方向となり、かつインナーライナーが内面側となるようにドラム全周に巻きつけて、インナーライナーの端部と、未加硫ゴムシートの端部の位置を一定距離ずらして接合する接合工程。
【0026】
ここで、本発明の空気入りタイヤの製造方法について図を参照して説明する。
<アッセンブル工程>
図1はアッセンブル工程を示す横方向概略図であり、図2はアッセンブル工程を示す斜視概略図である。図1および図2において、フィルム状のインナーライナー2は離型紙で被覆された状態で、保管ロールR1から第1駆動ローラR2を介して矢印方向に送られて剥離ローラR3,R4において離型紙と分離される。そして、インナーライナー2は、一対のカレンダーロールR7に送られる。
【0027】
一方、未加硫ゴムシート3は、第2駆動ローラR6を介して、一対のカレンダーロールR7に送られる。ここでインナーライナー2と未加硫ゴムシート3は貼合されて積層体1が製造される。積層体1は、巻取ロールR8に巻き取られて一時保管されるか、若しくは、連続的にその後の裁断工程に送られる。ここで、インナーライナー2と未加硫ゴムシート3は、実質的に同じ幅のものが使用されており、これらの両端の位置は相互に、ずらしされており、ずらし距離Lが形成されている。
【0028】
ここでずらし距離Lは、50mm〜500mmの範囲、好ましくは100mm〜300mmの範囲で調製される。ずらし距離Lが、50mmより小さい場合には、未加硫ゴムシートの接合部とインナーライナーの接合部の間隔が狭くなり、接合部での接着不良が生じやすいからである。一方、ずらし距離Lが500mmを超えると、ドラム上でのタイヤ成形が困難となる。
【0029】
なお、インナーライナーは、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体よりなり、厚さが0.05mm〜0.6mmである第1層と、未加硫ゴムシート側に配置され、熱可塑性エラストマーよりなり厚さが0.01mm〜0.3mmである第2層の複合層で構成されている。またインナーライナーの幅は、タイヤサイズによって調整される。
【0030】
本発明では、インナーライナーと未加硫ゴムシートはロールを用いて圧着されるため、空気溜まりがなく、確実に密着させることができ、また効率的で生産性が良い。
【0031】
<裁断工程>
図3は裁断工程を示す斜視概略図である。積層体1はベルトコンベヤによって裁断機に、巻取ロールR8から送られるか、もしくはアッセンブル工程から連続的に送られる。積層体1は、タイヤのサイズに応じて長手方向に所定の長さで裁断され、裁断シート4を製造する。なお積層体の裁断は、ナイフカットなどの従来の技術が採用できる。この裁断シート4の、裁断方向がドラムの円周方向に、長手方向の裁断長さがドラム5の幅方向に対応することになる。またインナーライナーの長さはタイヤサイズによって、適宜、調製される。
【0032】
<接合工程>
図4は、裁断シート(積層体)の接合工程を示す概略図である。ここで図4(a)は、裁断シート4の断面図であり、図4(b)は、裁断シート4をドラム5上に巻きつけ方法を示す概略図である。インナーライナー2がドラム5の表面に隣接するように積層体を巻きつける。ここでインナーライナーの端部2a,2bが相互に接合されて接合部を形成する位置と、未加硫ゴムシートの端部3a,3bが相互に接合されて接合部を形成する位置は、相互にオフセットされることになる。
【0033】
<タイヤの成形・加硫工程>
前述の如く接合工程において、インナーライナーと未加硫カーカスプライの積層体を製造し、これをドラム状で円筒状に形成する。接合工程の後、ドラム両端に位置する積層体の両端部分をビードコアの周りに巻き返した後、ビードコア同士の間隔を狭めながらインナーライナーおよび未加硫カーカスプライよりなる積層体の中央部を膨出変形させる。この作動に伴って積層体の中央部分に、ベルト部材、トレッドゴム等を貼着し、さらにサイ
ドウォール、ビードエーペックスなどの他のゴム部材をも貼り付けて生タイヤを成形する。このように成形された生タイヤを金型に投入して、従来の方法で加硫することで製品タイヤを得る。
【0034】
<インナーライナー>
前記インナーライナーは、SIBSとC4重合体の混合物よりなる第1層と、未加硫ゴムシート側に配置され、熱可塑性エラストマーよりなり、厚さが0.01mm〜0.3mmである第2層の積層体で形成される。
【0035】
<第1層>
スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)を60質量%以上99.5質量%以下と、炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体(以下、「C4重合体」ともいう。)を0.5質量%以上40質量%以下含み、厚さが0.05mm以上0.6mm以下である。
【0036】
(SIBS)
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)を主体とする熱可塑性エラストマーの組成物からなる。SIBSのイソブチレンブロック由来により、SIBSからなるポリマーフィルムは優れた耐空気透過性を有する。したがって、SIBSからなるポリマーをインナーライナーに用いた場合、耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0037】
さらに、SIBSは芳香族以外の分子構造が完全飽和であることにより、劣化硬化が抑制され、優れた耐久性を有する。したがって、SIBSからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0038】
SIBSからなるポリマーフィルムをインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造した場合には、耐空気透過性を確保できる。したがってハロゲン化ブチルゴム等の、従来耐空気透過性を付与するために使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用する必要がなく、使用する場合にも使用量の低減が可能である。これによってタイヤの軽量化が可能であり燃費が向上する。
【0039】
SIBSの分子量は特に制限はないが、流動性、成形化工程、ゴム弾性などの観点から、GPC測定による重量平均分子量が50,000〜400,000であることが好ましい。重量平均分子量が50,000未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、400,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。SIBSは耐空気透過性と耐久性をより良好にする観点から、SIBS中のスチレン成分の含有量は10〜30質量%、好ましくは14〜23質量%であることが好ましい。
【0040】
該SIBSは、その共重合体において、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱い(重合度が10,000未満では液状になる)の点からイソブチレンでは10,000〜150,000程度、またスチレンでは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0041】
SIBSは、一般的なビニル系化合物のリビングカチオン重合法により得ることができ。例えば、特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。
【0042】
(C4重合体)
第1層は、SIBSにC4重合体を混合している。該重合体の低分子量成分は、SIBS由来の耐空気透過性を損なうことなく、第1層と、他のポリマーシートやゴム層との未加硫粘着力および加硫接着力を向上させることができる。したがって、該C4重合体とSIBSを含む第1層をタイヤのインナーライナー部に用いると、隣接するカーカスやインスレーションなどを形成するゴム層との接着力が向上し、インナーライナーとカーカス、またはインナーライナーとインスレーションの間のエアーイン現象を防ぐことができる。
【0043】
炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体のGPC法による数平均分子量は、300以上3,000以下であることが好ましく、500以上2,500以下であることがさらに好ましい。該重合体のGPC法による重量平均分子量は700以上100,000以下であることが好ましく、1,000以上80,000以下であることがさらに好ましい。該重合体のFCC法による粘度平均分子量は20,000以上70,000以下であることが好ましく、30,000以上60,000以下であることがさらに好ましい。該C4重合体としては、ポリブテン、ポリイソブチレンなどが挙げられる。
【0044】
ポリブテンは、モノマー単位としてイソブテンを主体として、さらにノルマルブテンを用い、これらを反応させて得られる長鎖状炭化水素の分子構造を持った共重合体である。ポリブテンとしては、水素添加型のポリブテンも用いることができる。
【0045】
ポリイソブチレンは、モノマー単位としてイソブテンを用いて、これを重合させて得られる長鎖状炭化水素の分子構造を持った共重合体である。
【0046】
(SIBSとC4重合体の混合物)
第1層は、C4重合体を0.5質量%以上40質量%以下含む。該C4重合体の含有量が0.5質量%未満であると、カーカスやインスレーションとの加硫接着力が低下するおそれがあり、40質量%を超えると、耐空気透過性が低下し、さらに粘度が低くなるため押出加工性が悪くなるおそれがある。該C4重合体の含有量は、好ましくは5質量%以上20質量%以下である。一方、第1層中のSIBSの含有量は60質量%以上99.5質量%以下である。SIBSの含有量が60質量%未満であると、耐空気透過性が低下するおそれがあり、99.5質量%を超えると、カーカスやインスレーションとの加硫接着力が低下するおそれがあるため好ましくない。SIBSの含有量は、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。
【0047】
(第1層の厚さ)
SIBSからなる第1層の厚さは、0.05〜0.6mmである。第1層の厚さが0.05mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に第1層がプレス圧力で破れてしまい、タイヤにエアーリーク現象が生じる虞がある。一方、第1層の厚さが0.6mmを超えるとタイヤ重量が増加し低燃費性能が低下する。
【0048】
第1層は、SIBSとC4重合体を押出成形、カレンダー成形などの熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0049】
<第2層>
本発明において、第2層は熱可塑性エラストマー、特にスチレン系熱可塑性エラストマー組成物で構成される。ここでスチレン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてスチレンブロックを含む共重合体をいう。例えば、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう。)、スチレン−イソブチレンブロック共重合体(以下、「SIB」ともいう。)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(以下、「SBS」ともいう。)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレンブロック共重合体(以下、「SEBS」ともいう。)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SEPS」ともいう。)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SEEPS」ともいう。)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SBBS」ともいう。)がある。
【0050】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、その分子構造において、エポキシ基を有してもよく、例えば、ダイセル化学工業(株)社製、エポフレンドA1020(重量平均分子量が10万、エポキシ当量が500)のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(エポキシ化SBS)を使用できる。
【0051】
第2層に用いられる前記スチレン系熱可塑性エラストマーのうち、特にSISおよびSIBが好適である。SISのイソプレンブロックはソフトセグメントであるため、SISからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SISからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスプライのゴム層との接着性に優れているため、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0052】
前記SISの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が100,000〜290,000であることが好ましい。重量平均分子量が100,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、290,000を超えると押出加工性が悪くなるため好ましくない。SIS中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10〜30質量%が好ましい。
【0053】
本発明において、SISにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソプレンでは500〜5,000程度、またスチレンでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0054】
前記SISは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができ、例えば、リビングカチオン重合法により得ることができる。SIS層は、SISを押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0055】
スチレン−イソブチレンブロック共重合体(SIB)のイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SIBからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SIBからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0056】
SIBとしては、直鎖状のものを用いることがゴム弾性および接着性の観点から好ましい。SIBの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が40,000〜120,000であることが好ましい。重量平均分子量が40,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、120,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0057】
SIB中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10〜35質量%であることが好ましい。
【0058】
本発明において、SIBにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソブチレンでは300〜3,000程度、またスチレンでは10〜1,500程度であることが好ましい。
【0059】
前記SIBは、一般的なビニル系化合物のリビング重合法により得ることができ、例えば、攪拌機にメチルシクロヘキサン、n−ブチルクロライド、クミルクロライドを加え、−70℃に冷却した後、2時間反応させ、その後に大量のメタノールを添加して反応を停止させ、60℃で真空乾燥してSIBを製造できる。
【0060】
SIB層は、SIBを押出成形またはカレンダー成形などのスチレン系熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によって成型できる。第2層の厚さは、0.01mm〜0.3mmが好ましい。第2層の厚さが0.01mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第2層がプレス圧力で破れてしまい、加硫接着力が低下する虞がある。一方、第2層の厚さが0.3mmを超えるとタイヤ重量が増加し低燃費性能が低下する可能性がある。第2層の厚さは、さらに0.05〜0.2mmであることが好ましい。
【0061】
<積層体>
本発明においてインナーライナーは第1層と第2層の複合層で構成されるポリマー積層体が使用される。ここで第1層、第2層は熱可塑性エラストマー組成物であり、加硫温度、例えば150℃〜180℃において、金型中で軟化状態にある。軟化状態とは、分子運動性が向上し固体と液体の中間状態を意味する。また、熱可塑性エラストマー組成物が軟化状態では、固体状態よりも反応性が向上するため、隣接する部材と粘着、接着する。そのため、熱可塑性エラストマーの形状変化や隣接部材との粘着、融着を防止するために、タイヤの製造の際には、冷却工程を必要とする。冷却工程は、タイヤ加硫後に、10〜300秒間、50〜120℃に急冷し、ブラダー部内を冷却する。冷却媒体としては、空気、水蒸気、水およびオイルより選択される1種以上が使用される。かかる冷却工程を採用することで、インナーライナーを0.05〜0.9mmの範囲の薄いインナーライナーを形成することができる。
【0062】
<実施の形態2>
実施の形態2では、インナーライナー2の幅W2は、未加硫ゴムシート3の幅W1よりも広く形成される。
【0063】
<裁断工程>
図5は裁断工程を示す概略図である。積層体1はベルトコンベヤによって裁断機に巻取ロールR8から送られるか、もしくはアッセンブル工程から連続的に送られる。積層体1はタイヤのサイズに応じて長手方向に所定の長さで裁断されて裁断シート4が製造される。なお積層体の裁断はナイフカットなどの従来の技術が採用できる。この裁断シート4の裁断方向がドラムの円周方向に、一方、長手方向の裁断長さがドラム5の幅方向に対応することになる。
【0064】
<接合工程>
図6(a)は、積層体の断面図、図6(b)は積層体をドラムに巻き付ける状態を示す概略図である。ここでドラム5の上にインナーライナー2が接するように巻きつけられ、その両端2a、2bは重複するようにして接合部を形成する。その上にインスレーションなどの未加硫ゴムシート3の両端3a、3bを接合するには、未加硫ゴム片6が用いられる。この場合に接合部は2ヶ所形成されるが、前記インナーライナーとの接合部位置とはオフセットされている。
【0065】
<タイヤの構造>
本発明のタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤを図8に基づいて説明する。図8は空気入りタイヤの右半分の概略断面図である。空気入りタイヤ11は、トレッド部12と、該トレッド部両端からトロイド形状を形成するようにサイドウォール部13とビード部14とを有している。さらに、ビード部14にはビードコア15が埋設される。また、一方のビード部14から他方のビード部に亘って設けられ、両端をビードコア15のまわりに巻き返して係止されるカーカスプライ16と、該カーカスプライ16のクラウン部外側には、少なくとも2枚のプライよりなるベルト層17とが配置されている。
【0066】
前記ベルト層17は、通常、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなるプライの2枚をタイヤ周方向に対して、コードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。なおベルト層の両端外側には、トッピングゴム層を設け、ベルト層両端の剥離を軽減することができる。またカーカスプライはポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスプライとその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア15の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス18が配置される。また前記カーカスプライ16のタイヤ半径方向内側には一方のビード部14から他方のビード部14に亘るインナーライナー19が配置されている。
【0067】
次にインナーライナーの加硫タイヤにおけるカーカスプライとの配置状態を図9において示す。図9において、ポリマー積層体PLは、第1層PL1および第2層PL2から構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、第2層PL2がカーカスプライCに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、第2層PL2とカーカスCとの接着強度を高めることができる。得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライCのゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐屈曲亀裂成長性を有する。
【0068】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、従来の製造方法を用いることができる。前記ポリマー積層体PLを用いてインナンーライナーを製造する。空気入りタイヤ11の生タイヤに前記インナーライナーを適用して他の部材とともに加硫成形することによって製造する。ポリマー積層体PLを生タイヤに配置する際は、ポリマー積層体PLの第2層PL2が、カーカスプライCに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置する。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、第2層PL2とカーカス6との接着強度を高めることができる。得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライCのゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐屈曲亀裂成長性を有する。
【実施例】
【0069】
<インナーライナーの製造>
表1、2に示す配合処方にしたがって、各種配合剤を2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)に投入してペレット化した。これを押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイギャップ幅:40mm、シリンダ温度:220℃)を用いて、スクリュ回転数80RPM、押出速度は約9m/分でシートを押出した。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
(注1)IIR:エクソンモービル(株)社製の「エクソンクロロブチル1068」。
(注2)カーボン:東海カーボン(株)製の「シーストV」(N660、N2SA:27m2/g)。
(注3)SIBS:カネカ(株)社製の「シブスターSIBSTAR 102T」(ショアA硬度25、スチレン含量:25質量%)。
(注4)ポリブテン:新日本石油(株)社製の「日石ポリブテン グレードHV300」(数平均分子量300)。
(注5)ナフテン系オイル:出光興産(株)社製の「ダイアナプロセスオイルNM280」。
(注6)SIS:クレイトンポリマー社製の「D1161JP」(スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、重量平均分子量150,000、スチレン単位含有量15質量%)。
(注7)SIB:
攪拌機付き2L反応容器に、メチルシクロヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)589mL、n−ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)613ml、クミルクロライド0.550gを加えた。反応容器を−70℃に冷却した後、α−ピコリン(2−メチルピリジン)0.35mL、イソブチレン179mLを添加した。さらに四塩化チタン9.4mLを加えて重合を開始し、−70℃で溶液を攪拌しながら2.0時間反応させた。次に反応容器にスチレン59mLを添加し、さらに60分間反応を続けた後、大量のメタノールを添加して反応を停止させた。反応溶液から溶剤などを除去した後に、重合体をトルエンに溶解して2回水洗した。このトルエン溶液をメタノール混合物に加えて重合体を沈殿させ、得られた重合体を60℃で24時間乾燥することによりスチレン−イソブチレンジブロック共重合体を得た。
【0073】
スチレン成分含有量:15質量%
重量平均分子量 :70,000
なお、表1、表2の配合において、IIR/NR、SIBS、ポリブテンおよびナフテン系オイルの合計を100質量部として記載した。フィラーの配合量は、前記ポリマー成分の合計を100質量部とした場合の配合部で示した。
【0074】
<未加硫ゴムシート>
本発明において、未加硫ゴムシートは、カーカスプライを用い、そのトッピングゴムの配合は、以下のとおりである。
【0075】
<トッピングゴムの配合A>
天然ゴム(注1) 100質量部
カーボンブラック(注2) 50質量部
亜鉛華(注3) 3質量部
老化防止剤(注4) 0.2質量部
硫黄(注5) 1質量部
加硫促進剤(注6) 1質量部
加硫助剤 (注7) 1質量部
(注1)TSR20
(注2)東海カーボン(株)社製「シーストV」(N660、N2SA:27m2/g)
(注3)酸化亜鉛(ZnO):三井金属鉱業(株)社製「亜鉛華1号」
(注4)大内新興化学社製「ノクラック6C」
(注5)鶴見化学工業(株)社製「粉末硫黄」
(注6)大内新興化学社製「ノクセラーDM」
(注7)ステアリン酸:花王(株)社製、「ステアリン酸ルナックS30」
<空気入りタイヤの製造>
本発明の空気入りタイヤの製造を、前述のアッセンブル工程、裁断工程、接合工程に基づき実施した。詳細は表1に示すように比較例、実施例の空気入りタイヤを製造した。なお加硫は、170℃で20分間、プレス成型し、加硫金型から取り出さずに100℃で3分間冷却した後、加硫タイヤから取り出し、図8に示す基本構造を有する195/65R15サイズのものを製造した。
【0076】
実施例は、いずれも図5に基づきインナーライナーが1300mmとしカーカスプライの寸法を変更することでずらし距離(量)Lを、それぞれ50mm、500mm、250mmと変更している。
【0077】
実施例1〜3は、第1層のSIBSにC4重合体(ポリブテン)を0.5質量%配合した例、実施例4〜6は、第1層のSIBS、第2a層および第2b層にC4重合体(ポリブテン)を0.5質量%配合した例である。
実施例7〜9は、第1層のSIBSにC4重合体(ポリブテン)を、40質量%配合した例、実施例10〜12は、第2a層および第2b層にC4重合体(ポリブテン)を40質量%配合した例である。
【0078】
比較例1は、第1層にIIRを用いた例、比較例2〜4は、第1層、第2a層、第2b層にC4重合体(ポリブテン)を配合した例であるが、インナーライナーとカーカスプライ幅のずらし量が本発明の対象外である。
【0079】
比較例5〜8は、第1層、第2a層、第2b層にC4重合体(ポリブテン)を配合しない例である。比較例9〜11は、第1層のみを用いた例である。
【0080】
本発明の実施例は、いずれもエアーイン性能、屈曲亀裂成長性、転がり抵抗性および静的空気低下率の総合的判定に優れている。
【0081】
<性能試験>
前述の如く製造された空気入りタイヤに関し、以下の方法で性能評価を実施した。
【0082】
(a)第1層の加硫接着力
第1層とカーカス層、および第1層と未加硫ゴムシートを貼り合わせて、170℃で20分間加熱し、加硫接着力測定用のサンプルを作製する。引張剥離試験により剥離力を測定することで加硫接着力とした。得られた数値を比較例1を基準(100)として、実施例1〜32、比較例2〜41の第1層の加硫接着力について、下記式により指数表示した。なお、数値が大きいほど加硫接着力が強く、好ましいことを示す。
【0083】
(加硫接着力指数)=(実施例1〜32、比較例2〜41の加硫接着力)/(比較例1の加硫接着力)×100
(b)エアーイン有無
加硫後のタイヤの内側を検査し、以下の基準で評価した。
【0084】
A:外観上、タイヤ1本あたり、直径5mm以下のエアーインの数が0個、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個。
【0085】
B:外観上、タイヤ1本あたり、直径5mm以下のエアーインの数が1〜3個、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個。
【0086】
C:外観上、タイヤ1本あたり、直径5mm以下のエアーインの数が4個以上、または直径5mmを超えるエアーインの数が1個以上。
【0087】
(c)屈曲亀裂成長試験
屈曲亀裂成長試験は、インナーライナーが割れたり剥がれたりするかどうかで評価した。試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、タイヤ内圧は150KPaで通常よりも低内圧に設定し、荷重は600kg、速度100km/h、走行距離20,000kmでタイヤの内部を観察し、亀裂、剥離の数を測定した。比較例1を基準にして各実施例、比較例の亀裂成長性を、以下の式に基づき指数で表示した。数字が大きいほど屈曲亀裂成長が小さいことを示す。
【0088】
屈曲亀裂成長指数=(比較例1の亀裂の数)/(各実施例の亀裂の数)×100
(d)転がり抵抗指数
(株)神戸製鋼所製の転がり抵抗試験機を用いて、試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、荷重3.4kN、空気圧230kPa、速度80km/hの条件で、室温(30℃)にて走行させて転がり抵抗を測定した。そして、下記の計算式に基づき比較例1を基準100として、実施例の転がり抵抗変化率(%)を指数で表示した。転がり抵抗変化率が大きいほど、転がり抵抗が低減されていることを示す。
【0089】
転がり抵抗指数=(比較例1の転がり抵抗)/(実施例の転がり抵抗)×100
(e)静的空気圧低下率
試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、初期空気圧300kPaを封入し、90日間室温で放置し、空気圧の低下率を計算する。数値が小さいほど、空気圧が減りにくく好ましい。
【0090】
(f)ユニフォミティ
JASOC607:2000の「自動車タイヤのユニフォミティ試験方法」に準拠し、タイヤユニフォミティ試験機を用いてラジアルフォースバリエーション(RFV)を測定した。比較例1を100とする相対値を指数表示した。指数が大きいほどユニフォミティが優れている。測定条件は、リムは8.0×17、タイヤ回転速度は60rpm、空気圧は200kPa、縦荷重は4000kNとした。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、乗用車用空気入りタイヤのほか、トラック・バス用、重機用等の空気入りタイヤの製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0092】
1 積層体、2 インナーライナー、3 未加硫ゴムシート、4 裁断シート、5 ドラム、L ずらし距離(量)、11 空気入りタイヤ、12 トレッド部、13 サイドウォール部、14 ビード部、15 ビードコア、16 カーカスプライ、17 ベルト層、18 ビードエーペックス、19 インナーライナー、PL 積層体、PL1 第1層、PL2 第2層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーライナーをタイヤ内側に備えた空気入りタイヤの製造方法において、生タイヤの成形は、
(a)インナーライナーの幅方向端部と未加硫ゴムシートの幅方向端部を幅方向に相互に50mm〜500mmずらして貼り合わせて積層体を製造するアッセンブル工程と、
(b)前記積層体を、ドラム幅に対応する一定長さに切断して、裁断シートを製造する裁断工程と、
(c)前記裁断シートを、その裁断面がドラムの周方向となり、かつインナーライナーが内面側となるようにドラム全周に巻きつけて、インナーライナーの端部と、未加硫ゴムシートの端部の位置を一定距離ずらして接合する接合工程を有し、
前記インナーライナーは、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を60質量%以上99.5質量%以下と、炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体を0.5質量%以上40質量%以下含み、厚さが0.05mm以上0.6mm以下である第1層と、
未加硫ゴムシート側に配置され、熱可塑性エラストマーよりなり、厚さが0.01mm〜0.3mmである第2層の積層体で形成される前記空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
アッセンブル工程において、インナーライナーの幅と未加硫ゴムシートの幅は異なっており、それらの幅方向の両端部が相互に重複しないように幅方向にずらして貼り合わされる請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
第2層は、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを有し、その厚さが0.01mm以上0.3mm以下であり、炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体を、ポリマー成分の0.5質量%以上40質量%以下含む請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体が、ポリブテンおよびポリイソブチレンの少なくともいずれかである請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記炭素数4のモノマーを重合して得られる重合体が、数平均分子量300以上3,000以下、重量平均分子量700以上100,000以下、および粘度平均分子量20,000以上70,000以下の少なくともいずれかを満たす、請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体は重量平均分子量が5万以上40万以下であり、かつスチレン単位含有量が10質量%以上30質量%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体は重量平均分子量が10万以上29万以下であり、かつスチレン単位含有量が10質量%以上30質量%以下である、請求項3〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は直鎖状であり、重量平均分子量が4万以上12万以下であり、かつスチレン単位含有量が10質量%以上35質量%以下である、請求項3〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−86460(P2013−86460A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231680(P2011−231680)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】