説明

空気入りラジアルタイヤの製造方法

【課題】 ポリケトン繊維の特性を活かして荷重耐久性や高速耐久性を向上するようにした空気入りラジアルタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】 単糸繊度が0.5〜7dtexのポリケトン繊維コードにRFL液(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液)を付与したのちヒートセットとノルマライジングの加熱緊張処理する際、ヒートセット時の張力Thとノルマライジング時の張力Tnとの張力比Th/Tnを1〜2に設定して、加熱緊張処理後のコード寸法を加熱緊張処理前のコード寸法よりも2.5〜5.0%長く伸長させ、該加熱緊張処理後のポリケトン繊維コードをタイヤ補強部に使用した未加硫タイヤを成形し、該未加硫タイヤを加硫成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りラジアルタイヤの製造方法に関し、さらに詳しくは、ポリケトン繊維を補強コードに使用する空気入りラジアルタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリケトン繊維は、ナイロン繊維やポリエステル繊維に比べて、高強度・高弾性率である上に、高い耐熱性や寸法安定性を有することから、各種の産業用資材用途として使用することが期待されている。このような特性に着目して、このポリケトン繊維をタイヤコードにも使用する試みが多数検討されている(特許文献1,特許文献2など)。
【0003】
しかし、従来の提案では、いずれもこのポリケトン繊維の優れた特性が活かされているとはいえず、特にタイヤの荷重耐久性や高速耐久性を向上する観点において十分な性能を発揮するに至っていないのが現状である。
【特許文献1】特開2002−309442号公報
【特許文献2】特開2002−307908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述した従来の問題を解消し、ポリケトン繊維の特性を活かして荷重耐久性や高速耐久性を向上するようにした空気入りラジアルタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明の空気入りラジアルタイヤの製造方法は、単糸繊度が0.5〜7dtexのポリケトン繊維コードにRFL液を付与したのちヒートセットとノルマライジングの加熱緊張処理をする際、前記ヒートセット時の張力Thと前記ノルマライジング時の張力Tnとの張力比Th/Tnを1〜2に設定して、加熱緊張処理後のコード寸法を加熱緊張処理前のコード寸法よりも2.5〜5.0%長く伸長させ、該加熱緊張処理後のポリケトン繊維コードをタイヤ補強部に使用した未加硫タイヤを成形し、該未加硫タイヤを加硫成形することを特徴とするものである。
【0006】
上記ポリケトン繊維コードは、特にタイヤ補強部のうちカーカス層及び/又はベルト補強層に好ましく使用され、それによって空気入りラジアルタイヤの荷重耐久性や高速耐久性を一層向上することができる。
【発明の効果】
【0007】
上述のようにポリケトン繊維コードにRFL液を付与した後の加熱緊張処理において、ヒートセット時とノルマライジング時の張力比Th/Tnを1〜2に設定することにより加熱緊張処理前後におけるコード寸法を2.5〜5.0%伸長させるため、未加硫タイヤを加硫する際の熱収縮応力により、加硫後タイヤ内でポリケトン繊維コードを弛緩させることなく緊張状態にすることができる。したがって、ポリケトン繊維が有する高強度・高弾性率の特性がタイヤに反映されて空気入りラジアルタイヤの剛性を向上させ、荷重耐久性や高速耐久性を向上させると共に,さらに操縦安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においてポリケトン繊維とは、下記式により定義されたポリマーから構成された繊維をいう。
−( CH2−CH2 −CO )n −( R−CO−)m − ・・・(1)
1.05≧(n+m)/n≧1.00 ・・・(2)
【0009】
上記ポリケトンポリマーの繊維化は溶融紡糸法では、ポリケトンの特性が失われるため困難とされ、湿式紡糸法が好ましく採用される。湿式紡糸法によれば所期の高強度・高弾性率のポリケトン繊維が得られ、例えば引張り強度として7cN/dtex以上、好ましくは10cN/dtex以上、さらには15cN/dtex以上が可能である。また、引張り弾性率として100cN/dtex以上、好ましくは150cN/dtex以上、さらには250cN/dtex以上が可能である。
【0010】
本発明において、上記ポリケトン繊維は、タイヤ補強部に使用されるときは、複数のフィラメントを撚り合わせた撚りコードの形態にされる。撚りコードは、紡糸延伸により所要強度や弾性率にしたフィラメントを複数本合糸して下撚りを与え、更にその複数本を合糸して上撚りを与えることにより形成される。
【0011】
この撚りコードを構成する単糸フィラメントの太さ、すなわち単糸繊度としては、好ましくは0.5〜7dtex、より好ましくは1〜4.5dtexの範囲にするのがよい。また、総繊度としては500〜4000dtexが好ましい。単糸繊度が0.5dtex未満の場合、紡糸工程、撚糸工程、製織工程などにおいて毛羽立ちが多発し、コード強力の低下を招く。また、7dtexよりも太いと、ポリケトン繊維が湿式紡糸で得られることからスキンコア構造になり、フィブリル化を起こし易くなり、これもコード強力の低下の原因になる。
【0012】
上記撚りコードをタイヤ補強部に使用するには、予めゴムとの接着性を向上するために、接着剤としてのRFL液(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液)が付与される。RFL液の組成は特に限定されないが、例えば、レゾルシンが0.1〜10重量%、ホルマリンが0.1〜10重量%、ラッテクスが1〜28重量%にすることができる。
【0013】
撚りコードのRFL液処理方法は、撚りコードにRFL液を付与したのち、そのRFL液の乾燥と定着のために加熱緊張処理を行なうことによりRFL処理コードを得る。加熱緊張処理工程は、ヒートセットとノルマライジングとからなり、それぞれ一般には加熱オーブンのなかに搬送ローラが設けられた構成からなり、公知の設備がいずれも使用可能である。RFL液付与後の撚りコードは、ヒートセット・ゾーンとノルマライジング・ゾーンを通過することにより撚りコードに対するRFL液の乾燥定着(固着)と物性の付与が行なわれる。
【0014】
従来の一般的なRFL液付与後の加熱緊張処理工程では、処理の前後において撚りコードの寸法が定長に維持されるように調整されている。しかし、本発明で行なう加熱緊張処理工程は、ヒートセット・ゾーンでの張力Thとノルマライジング・ゾーンでの張力Tnとの張力比Th/Tnを1〜2に調整することにより、好ましくは1超、2以下に調整することにより、加熱緊張処理後のコード寸法を処理前の寸法よりも2.5〜5.0%長く伸長させる。張力比Th/Tnが1よりも小さくては、RFL処理コードを2.5%以上に伸長させることは難しく、また2よりも大きいと、5.0%より大きい伸長量になるため、加硫後のタイヤに歪みを与えるようになる。
【0015】
本発明において、上記ヒートセットおよびノルマライジングにおける加熱温度は特に限定されないが、例えば、ヒートセットでは120〜250℃、またノルマライジングでは120〜270℃にすることができる。
【0016】
上記のようにして長さを伸長させて得たRFL処理コードは、タイヤ補強部に使用して未加硫タイヤを成形し、次いで未加硫タイヤを金型にセットして加硫することにより製品タイヤにする。RFL処理コードを適用するタイヤ補強部としては、カーカス層及び/又はベルト補強層が好ましい。
【0017】
図1は、本発明において製造される空気入りラジアルタイヤの一例を示す半断面図である。
【0018】
1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部、4はカーカス層である。カーカス層4は両端部がそれぞれビードコア5の周りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。カーカス層4は1層だけであってもよく、複数層であってもよい。カーカス層4の補強コード(カーカスコード)は、タイヤ周方向に対して90°±10°の角度に配置されている。
【0019】
上記カーカス層4の外周に、2層のベルト層6がタイヤを1周するように配置されている。2層のベルト層6はそれぞれスチールコードからなり、層間で互いに交差するようになっている。さらにベルト層6の両端部外周に、それぞれ補強コードがタイヤ周方向に螺旋状に巻き付けられて形成されたベルト補強層7が配置されている。
【0020】
このような空気入りラジアルタイヤに対し、未加硫タイヤの成形に際し、上述したRFL処理後のポリケトン繊維コードが、カーカス層4及び/又はベルト補強層7に使用されて、未加硫タイヤが成形される。RFL処理後のポリケトン繊維コードは、上記のように加熱緊張処理後のコード寸法が処理前のコード寸法より2.5〜5.0%長くなっているので、未加硫タイヤを加硫する時の加熱により大きな熱収縮応力を発生し、加硫後タイヤ内において緊張状態になる。ポリケトン繊維コードは高強度・高弾性率の特性を有しているので、このように緊張状態に維持されることにより、空気入りラジアルタイヤの剛性が高い状態になり、そのため荷重耐久性や高速耐久性を向上させることができる。また、操縦安定性も向上させることができる。
【実施例】
【0021】
実施例1〜5、比較例1〜3
タイヤサイズを205/65R15 94H Y390Lとする点を共通にし、カーカス層の層数、カーカスコードの種類、加熱緊張処理後のコード伸長量、ヒートセットとノルマライジングの張力比をそれぞれ表1のように異ならせた8種類の空気入りラジアルタイヤ(実施例1〜5、比較例1〜3)を製作した。
【0022】
これら8種類の空気入りラジアルタイヤについて、下記測定法による荷重耐久性及び操縦安定性を測定し、その測定値を比較例3を100とする指数で表示した結果を表1に記載した。指数値が大きいほど優れていることを意味する。
【0023】
〔荷重耐久性〕
試験タイヤを空気圧180kPaで15×6JJのリムにリム組みし、直径1707mmのドラム上を一定速度81km/hrとして、JATMAで規定された空気圧条件下に対応する最大荷重の85%で4hr、次いで最大荷重の90%で6hr、さらに最大荷重で24hr走行する。ここまで故障がない場合、最大荷重の115%で4hr、次いで最大荷重の130%で2hr、最大荷重の145%で4hr、さらに最大荷重の160%で破壊するまでの走行距離を測定する。
【0024】
〔操縦安定性〕
試験タイヤを空気圧230kPaで15×6JJのリムにリム組みし、排気量2.5リットルの乗用車に装着し、訓練された5人のテストドライバーがテストコースで走行するときのフィーリングを採点し、5人の平均値により表した。
【0025】
【表1】


なお、タイヤを解体した結果によると、比較例1のタイヤではコード切れが発生しており、また比較例2のタイヤではコードが蛇行していた。
【0026】
実施例6,7、比較例4,5
タイヤサイズを205/65R15 94H Y390Lとする点を共通にし、ベルト補強層の補強コードの種類、加熱緊張処理後のコード伸長量、ヒートセットとノルマライジングの張力比をそれぞれ表2のように異ならせた4種類の空気入りラジアルタイヤ(実施例6,7、比較例4,5)を製作した。
【0027】
これら4種類の空気入りラジアルタイヤについて、下記測定法による高速耐久性を測定し、その測定値を比較例5を100とする指数で表示した結果を表2に記載した。指数値が大きいほど優れていることを意味する。
【0028】
〔高速耐久性〕
ドラム径1707mmの試験ドラムを使用し、JIS D−4230に規定によるJIS高速耐久性試験終了後、30分毎に10km/hrづつ加速してタイヤが破壊するまでの走行距離を測定した。
【0029】
【表2】

なお、タイヤを解体した結果によると、比較例4のタイヤでは破壊部にコードが露出していた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の空気入りラジアルタイヤの一例を示す半断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 トレッド部
4 カーカス層
6 ベルト層
7 ベルト補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が0.5〜7dtexのポリケトン繊維コードにRFL液を付与したのちヒートセットとノルマライジングの加熱緊張処理をする際、前記ヒートセット時の張力Thと前記ノルマライジング時の張力Tnとの張力比Th/Tnを1〜2に設定して、加熱緊張処理後のコード寸法を加熱緊張処理前のコード寸法よりも2.5〜5.0%長く伸長させ、該加熱緊張処理後のポリケトン繊維コードをタイヤ補強部に使用した未加硫タイヤを成形し、該未加硫タイヤを加硫成形する空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記タイヤ補強部が、前記ポリケトン繊維コードからなるカーカス層である請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記タイヤ補強部が、ベルト層の少なくとも両端部外周に前記ポリケトン繊維コードをタイヤ周方向に巻回して形成したベルト補強層である請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−123648(P2006−123648A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312770(P2004−312770)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】