説明

空芯コイルおよび空芯コイルの製造方法

【課題】融着線が整列巻で巻回されて形成された空芯コイルにおいて、融着線の絶縁被膜を損傷させることなく占積率を向上させることが可能な構成を備えた空芯コイルを提供すること。
【解決手段】導線と、導線の周りを被覆する絶縁被膜と、絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が整列巻で空芯状に巻回されて形成された空芯コイル1は、高さ方向となるZ方向に導線の弾性変形範囲内で加圧されているとともに、高さ方向に直交するY方向でかつ空芯コイル1の内側に向かって導線の弾性変形範囲内で加圧されている。空芯コイル1では、この加圧部分の占積率が84%以上91%未満となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空芯コイルおよび空芯コイルの製造方法に関するものである。
【0002】
なお、本明細書において、「空芯コイルの高さ」とは、融着線の巻回方向に直交する空芯コイルの厚みをいうものとする。また、「空芯コイルの幅」とは、融着線の巻回方向および空芯コイルの高さ方向の両方向に直交する方向の距離をいうものとする。さらに、「占積率」とは、融着線の巻回方向に直交する空芯コイルの断面部分に存在する融着線の断面積の総和を、空芯コイルのその断面の外形から特定される全断面積で除した値をいうものとする。
【背景技術】
【0003】
従来より、導線と、導線の周りを被覆する絶縁被膜と、絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が空芯状に巻回されるコイル、すなわち強磁性体等の巻芯を備えていない空芯コイルが、リニアモータ等の各種のモータや光ヘッド装置のレンズ駆動装置などに用いられている。この種の空芯コイルとしては、図17に示す空芯コイル101のように、たとえば、融着線が略矩形の空芯状に巻回されて形成されたものが知られている。
【0004】
この空芯コイル101には種々の融着線が用いられ、また、これらの融着線が種々の巻き方で巻回されて空芯コイル101が形成されている。以下、図17に示す空芯コイル101の断面αの例を図18から図21に示し、空芯コイル101に用いられる融着線およびその巻き方の例を説明する。なお、図18から図21に示すY方向およびZ方向は、図17に示すY方向およびZ方向と一致する。
【0005】
図18には、断面が円形状の丸導線を備える融着線102が整列巻で巻回されて形成された空芯コイル101の断面αの例を示す。この空芯コイル101の場合には、融着線102同士の間に間隙103が生じている。また、空芯コイル101は、図18に示すように、Y方向で層状をなすように形成されており、たとえば、n層、n+1層、n+2層等の複数の層を備えている。ここで、整列巻で巻回された空芯コイル101では、たとえば、n+1層の融着線102がn層の融着線102を乗り越えるように斜めに交差する部分があり、この部分がクロスポイント(図示省略)となっている。同様に、n+1層とn+2層との間にもクロスポイントが存在する。
【0006】
また、図19に、断面が長方形状の平角導線を備える融着線105がα巻で巻回されて形成された空芯コイル101の断面αの例を、図20に、断面が長方形状の平角導線を備える融着線106がエッジワイズ巻で巻回されて形成された空芯コイル101の断面αの例を、図21に、断面が正方形状の真四角導線を備える融着線107が整列巻で巻回されて形成された空芯コイル101の断面αの例を示す。
【0007】
従来から、丸導線を備える融着線102が整列巻で巻回されて形成された空芯コイル101の場合、融着線102同士の間に間隙103が生じるため、この間隙103の分だけ空芯コイル101の占積率が低くなるという問題点(以下、第1の問題点とする。)が知られており、この場合の空芯コイル101の実質的な占積率は、一般に80〜83%にしかならない。また、間隙103の大きさにもばらつきがあるため、空芯コイル101のX、Y、Zのそれぞれの方向の寸法精度がばらつくという問題点(以下、第2の問題点とする。)が知られており、この場合の空芯コイル101の寸法精度は、一般に±1.0%以上となってしまう。
【0008】
そのため、融着線102が整列巻で巻回されて形成された空芯コイル101の実質的な占積率を向上させ、また、高さ方向(Z方向)の寸法精度を向上させる方法として、融着線102を整列巻で空芯状に巻回した後、巻回したコイルの内周側および外周側を拘束した状態で、丸導線に塑性変形が生じるまでコイルの高さ方向に加圧することで、空芯コイルの占積率を高める方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照。)。
【0009】
また、融着線102、105、106、107(以下、融着線102等とする。)が略矩形の空芯状に巻回されて形成された空芯コイル101のように、高さ方向(Z方向)から見て内周側が直線状に形成された直線辺部101a、101b、101c、101dを備える空芯コイルでは、直線辺部101a、101b、101c、101dの長手方向(直線辺部101a、101bではX方向、直線辺部101c、101dではY方向)の中央部分で最大となる外側に向かう膨らみが生じ、この膨らみによって空芯コイル101の幅寸法(X方向寸法あるいはY方向寸法)がばらつくといった問題点(以下、第3の問題点とする。)も知られている。たとえば、リニアモータのように、空芯コイル101が並列で配置されて使用される場合、この空芯コイル101の幅寸法のばらつきによって空芯コイル101間の間隔にばらつきが生じ、その結果、空芯コイル101が用いられる装置の特性の低下を招く。特に、直線辺部101a、101b、101c、101dに生じる膨らみは、空芯コイル101の寸法が大きくなると顕著に現れてくることが知られている。
【0010】
【特許文献1】特開昭56−161631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した第1および第2の問題点を解決する方法として提案されている特許文献1に記載された方法では、導線に塑性変形が生じるまでコイルの高さ方向に加圧するため、絶縁被膜に大きな力が加わって、絶縁被膜を損傷するといった問題を生じる。
【0012】
また、上述した第3の問題点を解決する方法として、融着線102等を巻回する巻線機において、融着線102等にかける張力を大きくした状態で、融着線102等を巻回する方法が考えられる。しかしながら、この方法を採用しても、直線辺部101a、101b、101c、101dの中央部分付近では、融着線102等を幅方向(X方向およびY方向)へ押し付ける力は極めて小さいため、空芯コイル101の直線辺部101a、101b、101c、101dに生じる膨らみを若干抑制できる程度である。そのため、空芯コイル101が用いられる装置で必要とされる空芯コイル101の幅方向の寸法精度が確保できない。また、融着線102等にかける張力を大きくするため、融着線102等が有する導線が伸びてその抵抗値が変化するという弊害を生じる。なお、融着線102等にかける張力を大きくした状態で、融着線102等を巻回する場合には、空芯コイル101の高さ方向の寸法精度を向上させることは可能である。
【0013】
また、上述した第3の問題点を解決する方法としては、ローラ等を融着線102等に圧接させながら、融着線102等を巻回する方法も考えられる。この方法によれば、上述した方法よりも空芯コイル101の直線辺部101a、101b、101c、101dに生じる膨らみを抑えることはできるが、融着線102等の導線径のばらつき等の影響で、直線辺部101a、101b、101c、101dに生じる膨らみを十分に抑制できない。
【0014】
そこで、本発明の課題は、融着線が整列巻で巻回されて形成された空芯コイルにおいて、融着線の絶縁被膜を損傷させることなく占積率を向上させることが可能な構成を備えた空芯コイルおよび空芯コイルの製造方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の課題は、空芯状に巻回されて形成された空芯コイルにおいて、融着線の絶縁被膜を損傷させることなく寸法精度を向上させることが可能な構成を備えた空芯コイルおよび空芯コイルの製造方法を提供することにある。
【0016】
さらに、本発明の他の課題は、空芯状に巻回されて形成され、高さ方向から見て内周側が直線状に形成された直線辺部を備える空芯コイルにおいて、空芯コイルの直線辺部に生じる膨らみを十分に抑制し、直線辺部に必要とされる寸法を確保することができる構成を備えた空芯コイルおよび空芯コイルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本発明では、導線と、導線の周りを被覆する絶縁被膜と、絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が整列巻で空芯状に巻回されて形成された空芯コイルにおいて、空芯コイルの少なくとも一部がその高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に、導線の弾性変形範囲内で加圧されているとともに、この加圧部分の占積率が84%以上91%未満であることを特徴とする。
【0018】
本発明では、空芯コイルの少なくとも一部は、その高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に導線の弾性変形範囲内で加圧されている。そのため、絶縁被膜を損傷させることなく加圧された部分の占積率を向上させることができる。また、加圧部分の占積率は84%以上であるから、従来の空芯コイルと比較して占積率を向上させることができる。さらに、加圧部分の占積率が91%未満であるから、加圧力との関係でより効率的に占積率を向上させることができる。
【0019】
また、上記の課題を解決するため、本発明は、導線と、導線の周りを被覆する絶縁被膜と、絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が空芯状に巻回されて形成された空芯コイルにおいて、空芯コイルの少なくとも一部がその高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に、導線の弾性変形範囲内で加圧されているとともに、この加圧方向の寸法精度が±0.2%以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明では、空芯コイルの少なくとも一部は、その高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に導線の弾性変形範囲内で加圧されている。そのため、絶縁被膜を損傷させることなく加圧された方向の寸法精度を向上させることができる。また、加圧方向の寸法精度は±0.2%以下であるから、従来の空芯コイルと比較して加圧方向で寸法精度を向上させることができる。
【0021】
さらに、上記の課題を解決するため、本発明は、導線と、導線の周りを被覆する絶縁被膜と、絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が略矩形の空芯状に巻回されて形成された空芯コイルにおいて、空芯コイルの高さ方向から見て内周側が直線状に形成された複数の直線辺部を備え、直線辺部の少なくとも1つは、空芯コイルの高さ方向と融着線の巻回方向とに直交する方向に導線の弾性変形範囲内で加圧されているとともに、この加圧方向における直線辺部の外周側の膨らみ率が5.0%以下であることを特徴とする。
【0022】
ここで、本明細書において「直線辺部の外周側の膨らみ率」とは、直線辺部の長手方向の中央部分における直線辺部の幅W1と、直線辺部の両端部分における直線辺部の幅W2との相違を比率で表したものをいい、下式によって算出される。
膨らみ率={1−(W2/W1)}×100 (式1)
【0023】
本発明では、空芯コイルの高さ方向から見て内周側が直線状に形成された複数の直線辺部の少なくとも1つが、空芯コイルの高さ方向と融着線の巻回方向とに直交する方向に加圧されており、この加圧方向における直線辺部の外周側の膨らみ率が5.0%以下となっている。すなわち、直線辺部の膨らみが生じる方向に加圧され、直線辺部の外周側の膨らみ率が5.0%以下となっている。そのため、直線辺部に生じる膨らみを抑制し、直線辺部で必要とされる高さ方向と融着線の巻回方向とに直交する方向の寸法を確保することができる。また、直線辺部は、導線の弾性変形範囲内で加圧されているため、絶縁被膜の損傷を防止することができる。
【0024】
本発明において、空芯コイルは多角形状に形成され、複数の直線辺部のうち少なくともいずれか1つは加圧されず、空芯コイルの高さ方向に直交する幅方向における外周側の膨らみ率が12.5%以上となる直線辺部が存在することが好ましい。このように構成すると、膨らみ率が12.5%以上となる直線辺部を加圧する必要がなくなり、空芯コイルの製造が容易になる。
【0025】
本発明において、空芯コイルは、該空芯コイルの高さ方向から見て内周側が円弧状に形成された複数の円弧部を備え、複数の直線辺部および複数の円弧部のうち少なくともいずれか1つは加圧されず、空芯コイルの高さ方向に直交する幅方向における外周側の膨らみ率が12.5%以上となる直線辺部または円弧部が存在することが好ましい。このように構成すると、膨らみ率が12.5%以上となる直線辺部または円弧部を加圧する必要がなくなり、空芯コイルの製造が容易になる。
【0026】
ここで、本明細書において「円弧部の外周側の膨らみ率」とは、円弧部の周方向の中央部分における円弧部の幅W1´と、円弧部の周方向の両端部分における円弧部の幅W2´との相違を比率で表したものをいい、下式によって算出される。
膨らみ率={1−(W2´/W1´)}×100 (式2)
【0027】
本発明において、空芯コイルは整列巻で巻回されて形成されるとともに、整列巻で巻回される際に融着線同士が交差するクロスポイントが複数の直線辺部または複数の円弧部のうちの1つにのみ形成され、このクロスポイントが形成された直線辺部または円弧部の外周側の前記幅方向の膨らみ率が12.5%以上であることが好ましい。このように構成すると、クロスポイントが形成された直線辺部または円弧部を加圧する必要がなくなり、加圧すると絶縁被膜に損傷を生じやすいクロスポイントでの絶縁被膜の損傷を防止することができる。
【0028】
本発明において、融着被膜を融着樹脂とし、熱変形した当該融着樹脂が融着線間に充填されていることが好ましい。すなわち、融着線の巻回後に形成される融着線間の間隙に、加熱時に融着被膜が熱変形した融着樹脂が充填されていることが好ましい。このように構成すると、間隙に充填される融着被膜の量だけ導線を被覆する融着被膜が薄くなり、その結果、空芯コイルの占積率を高めることができる。また、融着被膜の厚みのばらつき等、融着被膜に起因する空芯コイルの寸法のばらつきを抑制することができる。さらに、間隙に充填された融着樹脂によって融着線同士の接着強度が増加し、空芯コイルの剛性も増加する。
【0029】
さらにまた、上記の課題を解決するため、本発明は、導線と、導線の周りを被覆する絶縁被膜と、絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が整列巻で空芯状に巻回されて形成された空芯コイルの製造方法において、融着線を空芯状に巻回し、その後、空芯コイルの少なくとも一部をその高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に、導線の弾性変形範囲内で加圧するとともに、この加圧部分の占積率を84%以上91%未満とすることを特徴とする。
【0030】
本発明の製造方法では、空芯コイルの少なくとも一部を、その高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に導線の弾性変形範囲内で加圧するため、絶縁被膜を損傷させることなく加圧した部分の占積率を向上させることができる。また、加圧部分の占積率は84%以上であるから、従来の空芯コイルと比較して占積率を向上させることができる。さらに、加圧部分の占積率が91%未満であるから、加圧力との関係でより効率的に占積率を向上させることができる。
【0031】
また、上記の課題を解決するため、本発明は、導線と、導線の周りを被覆する絶縁被膜と、絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が空芯状に巻回されて形成された空芯コイルの製造方法において、融着線を空芯状に巻回し、その後、空芯コイルの少なくとも一部をその高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に、導線の弾性変形範囲内で加圧するとともに、この加圧方向の寸法精度を±0.2%以下とすることを特徴とする。
【0032】
本発明の製造方法では、空芯コイルの少なくとも一部を、その高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に導線の弾性変形範囲内で加圧するため、絶縁被膜を損傷させることなく加圧した方向の寸法精度を向上させることができる。また、加圧方向の寸法精度は±0.2%以下であるから、従来の空芯コイルと比較して加圧方向で寸法精度を向上させることができる。
【0033】
さらに、上記の課題を解決するため、本発明は、導線と、導線の周りを被覆する絶縁被膜と、絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が空芯状に巻回されて形成された空芯コイルの製造方法において、空芯コイルの高さ方向から見て内周側が直線状に形成された複数の直線辺部を備えるように融着線を空芯状に巻回し、その後、上記直線辺部の少なくとも1つを、上記空芯コイルの高さ方向と上記融着線の巻回方向とに直交する方向に上記導線の弾性変形範囲内で加圧するとともに、この加圧方向における上記直線辺部の外周側の膨らみ率を5.0%以下とすることを特徴とする。
【0034】
本発明の製造方法では、空芯コイルの高さ方向から見て内周側が直線状に形成された複数の直線辺部の少なくとも1つを、空芯コイルの高さ方向と融着線の巻回方向とに直交する方向に加圧しており、この加圧方向における直線辺部の外周側の膨らみ率を5.0%以下としている。そのため、直線辺部に生じる膨らみを抑制し、直線辺部で必要とされる高さ方向と融着線の巻回方向とに直交する方向の寸法を確保することができる。また、直線辺部は、導線の弾性変形範囲内で加圧されているため、絶縁被膜の損傷を防止することができる。
【0035】
本発明における空芯コイルの製造方法では、融着線の巻回後に、当該巻回された融着線を加熱することが好ましい。また、巻回された融着線は、導線への通電、加熱した金型への装着、赤外線照射および熱風送風の少なくともいずれか1つの加熱方法で加熱することができる。このように構成すると、加熱によって加圧時の加圧力を下げることができ容易に空芯コイルを加圧することができる。また、加圧力を下げることができるので、加圧時における絶縁被膜の損傷を確実に防止することができる。さらに、加圧前に加熱をすると、融着被膜が融解しやすくなるため、より効果的に占積率を向上させることができ、また、寸法精度を確保することができる。また、より効果的に膨らみ率を抑制することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明では、融着線が整列巻で巻回されて形成された空芯コイルの占積率を、融着線の絶縁被膜を損傷させることなく向上させることができる。また、本発明では、空芯状に巻回されて形成された空芯コイルの寸法精度を、融着線の絶縁被膜を損傷させることなく向上させることができる。さらに、本発明では、空芯状に巻回された形成され、高さ方向から見て内周側が直線状に形成された直線辺部を備える空芯コイルの直線辺部に生じる膨らみを十分に抑制し、直線辺部に必要とされる寸法を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0038】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1にかかる空芯コイル1を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。図2は、図1に示す空芯コイル1の底面図で、クロスポイント7が形成される直線辺部6の一部を拡大して示す拡大図である。図3は、融着線2の断面を示す断面図である。図4は、図1に示す空芯コイル1の断面E−Eの一部分で加圧前の状態を拡大して示す部分拡大断面図である。図5は、図1に示す空芯コイル1の断面F−Fの一部分で加圧前の状態を拡大して示す部分拡大断面図である。図6は、図1に示す空芯コイル1を加熱後に加圧した後の断面F−Fの一部分を拡大して示す部分拡大断面図である。図7は、図1に示す空芯コイル1を加熱せずに加圧した後の断面F−Fの一部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
【0039】
(空芯コイルの構成)
本形態の空芯コイル1は、リニアモータ等の各種モータなどに用いられるものであり、図3に示すように、断面が円形状の丸導線2aと、丸導線2aの周りを被覆する絶縁被膜2bと、絶縁被膜2bの周りをさらに被覆する融着被膜2cとを備える融着線2が、図4に示すように、整列巻で巻回されて形成されている。より具体的には、図1(A)に示すように、空芯コイル1は、コイル一端1aからコイル他端1bまで順次巻回された略矩形の空芯状に形成されており、図1(A)の紙面垂直方向から見て内周側が直線状に形成された4つの直線辺部3、4、5、6を備えている。
【0040】
直線辺部3、4は、図1(A)に示すように、図示上下方向を長手方向として、すなわち、図示上下方向を融着線2の巻回方向として、融着線2が巻回されて形成されており、直線辺部3、4は互いに相対向している。また、直線部5、6は図示左右方向を長手方向として、すなわち、図示左右方向を融着線2の巻回方向として、融着線2が巻回されて形成されており、直線辺部5、6は互いに相対向している。本形態では、直線辺部3、4の長手方向の長さは、直線辺部5、6の長手方向の長さよりも長く形成されているが、直線辺部5、6の長手方向の長さは、直線辺部3、4の長手方向の長さよりも長く形成されていても良い。
【0041】
なお、以下の説明では、直線辺部3、4の長手方向をX方向、直線辺部5、6の長手方向をY方向と、融着線2の巻回方向に直交する空芯コイル1の厚み方向(図1(A)の紙面垂直方向)をZ方向(高さ方向)とする。したがって、空芯コイル1の高さ方向(Z方向)に直交するX方向およびY方向はそれぞれ空芯コイル1の幅方向となる。
【0042】
本形態の空芯コイル1では、図2に示すように、融着線2が整列巻で巻回される際に、融着線2同士が交差するクロスポイント7が1つの直線辺部6のみに集中して形成されるように、融着線2が巻回されている。すなわち、図4等に示すように、直線辺部3、4、5にはクロスポイント7が形成されないように、融着線2が巻回されており、本形態では直線辺部6はクロスポイント7の全てが形成されるクロスポイント形成部となっている。なお、本形態の空芯コイル1は、クロスポイント7を有する直線辺部6が形成されるX方向では、寸法精度が要求されない用途に用いられている。
【0043】
ここで、図4に示すように、融着線2の整列巻では、まず、融着線2がZ1方向へ順次巻回されて第1層が形成され、その後、融着線2がZ2方向へ順次巻回されて第2層が形成される。また、その後、融着線2がZ1方向へ順次巻回されて第3層が形成され、以下、同様に、第4層、第5層、第6層が形成される。そして、ある層(n層とする。)から次の層(n+1層とする。)へ至るときには、n層からn+1層へ渡る部分で融着線2同士が交差し、その後の巻回作業では、周方向における同じ部位で、n+1層を形成する融着線2は、n層を形成する融着線2と交差する。この交差する部分がクロスポイント7となり、このクロスポイント7は、融着線2を巻回する際、1周ごとに形成される。このように、整列巻が行われると外観上、クロスポイント7は、空芯コイル1のZ方向の両面に表れる。
【0044】
また、本形態の空芯コイル1では、融着線2が略矩形の空芯状に巻回された後、加熱され、その後、直線辺部3、4の外周側が、図1(A)の矢印Gで示すように、空芯コイル1の内側に向かってY方向に加圧されている。また、空芯コイル1では、加熱後に、直線辺部3、4、5が、図1(B)の矢印Hで示すように、Z方向に加圧されている。空芯コイル1の製造方法については後に詳述する。
【0045】
本形態の融着線2は、直径が0.05mm〜1mmの丸導線2aが用いられており、その伸び率は30〜40%となっている。この伸び率が30〜40%である融着線2を用いることで、直線辺部3、4等の占積率を向上させたり、寸法精度を向上させる等の後述の効果がより容易に得られるようになっている。なお、このような効果を得るためには、伸び率は36%〜40%の範囲であることがより好ましい。ここで、伸び率とは、長手方向に負荷をかけない状態での融着線2の長さをL1、長手方向に負荷をかけて融着線2を伸ばしていき、融着線2が切断される直前の長さをL2としたとき以下の式によって算出される。
伸び率=(L2−L1)/L1×100 (式3)
この伸び率は、融着線2の硬さの代用特性となっており、本形態では比較的柔らかい融着線2が用いられている。
【0046】
(空芯コイルの製造方法)
以上のように構成された空芯コイル1の製造方法を以下に説明する。
【0047】
まず、融着線2を巻線機に装着し、整列巻で矩形の空芯状に巻回する(巻回ステップ)。この巻回の際には、融着線2を制御された所定の温度で加熱する。この巻回ステップにおいて、直線辺部3、4、5、6の内周側は直線状に形成される。
【0048】
融着線2の巻回が終了した後の直線辺部3の一端部分の断面E−Eの一部分は、図4に示すような状態となっている。すなわち、丸導線2aが絶縁被膜2bおよび融着被膜2cに被覆された状態で、融着線2が巻回され、融着線2同士の間には、間隙8が形成されている。また、直線辺部3の他端部分および直線辺部4の両端部分も断面E−Eと同様の状態となっている。なお、図4では、便宜上、一部の融着線2や一部の間隙8についてのみ符号を付している。
【0049】
融着線2の巻回が終了した後の直線辺部3の中央部分の断面F−Fの一部分は、図5に示すような状態となっている。すなわち、丸導線2aが絶縁被膜2bおよび融着被膜2cに被覆された状態で、融着線2が巻回され、融着線2同士の間には、間隙8の他に間隙9も形成されている。この間隙9は、断面E−Eに形成された間隙8よりも大きくなっている。これは、融着線2を巻回する際には、直線辺部3の両端部分から中央部分に向かうにしたがって、空芯コイル1の内側に向かってY方向へ融着線2を押し付ける力がしだいに小さくなることに起因している。また、直線辺部4の中央部分も断面F−Fと同様の状態となっている。そのため、融着線2の巻回が終了した状態では、図1(A)の二点鎖線Iで示すように、直線辺部3、4の外周側には、X方向の中央部分で最大となるY方向外側に向かう膨らみが生じている。なお、図5では、便宜上、一部の融着線2や一部の間隙9についてのみ符号を付している。また、二点鎖線Iで示す状態は説明の都合上、分かりやすくするため、実際より大きな膨らみとしている。
【0050】
また、融着線2の巻回が終了した後の直線辺部5の両端部分の状態は、断面E−Eとほぼ同様の状態となっている。また、直線辺部5の中央部分の状態は断面E−Eと断面F−Fとの中間の状態となっている。すなわち、本形態では、直線辺部5は、直線辺部3、4に比べ、長手方向の長さが短くなっているため、直線辺部5の中央部分に形成される間隙は間隙9よりも小さく、その結果、X方向外側に向かって直線辺部5に生じる膨らみは、直線辺部3、4に比べて小さくなっている(図1の実線状態を参照)。なお、直線辺部6には複数のクロスポイント7が形成され、かつ、加圧されないため、図1(A)に示すように、直線辺部6は外側に大きく膨らんだ状態となっている。
【0051】
その後、巻回が終了した融着線2を加熱する(加熱ステップ)。より具体的には、丸導線2aへの通電、加熱した金型への装着、赤外線照射あるいは熱風送風の加熱方法のうちの1つの方法で、あるいは、複数の加熱方向を組み合わせて融着線2が60℃から230℃となるように加熱する。なお、融着線2への加熱は、巻回ステップにおける温度を制御することで、巻回ステップで行うことも可能である。融着線2への加熱が終了すると、直線辺部3、4の外周側を図1(A)の矢印Gの方向に加圧する(加圧ステップ)。また、直線辺部3、4、5を図1(B)の矢印HのZ方向に加圧する(加圧ステップ)。より具体的には、空芯コイル1の内周側に加圧治具を挿通させた状態で、別の加圧治具を用いて矢印Gおよび矢印Hの方向へ、2〜13メガパスカル(MPa)の加圧力で加圧する。たとえば、矢印Hの方向へは、図1(B)における右端面あるいは左端面のいずれか一方の面を固定して、他方の面を可動するプレス装置が加圧する。また、矢印Hの方向へは、両方の面を可動するプレス装置で加圧することもできる。ここで、この加圧力は、丸導線2aを塑性変形させない力であり、丸導線2aの弾性変形範囲内で空芯コイル1の加圧が行われる。この加圧によって、空芯コイル1は、図1の二点鎖線Iで示す状態から図1の実線で示す状態へと移行する。なお、丸導線2aを塑性変形させない力には、全く塑性変形させない力の他、ほんのわずかに塑性変形させる力を含むものとし、上述した特許文献1のように、大きく塑性変形させる力は含まないことをいう。
【0052】
加圧後の直線辺部3の中央部分の断面F−Fの一部分は、図6に示すような状態となっている。すなわち、丸導線2aは絶縁被膜2bに被覆された状態であるが、融着被膜2cの一部は熱変形して融着樹脂10となって、この融着樹脂10が融着線2同士の間に充填されている。すなわち、加圧前に絶縁被膜2bを被覆していた融着被膜2cの一部が加熱によって融解して融着樹脂10となり、加圧前に形成されていた間隙8、9に流れ込み、この融着樹脂10がほぼ全ての融着線2同士の間に充填されており、間隙8、9がほとんど存在しない状態になっている。この状態では、絶縁被膜2bに被覆された丸導線2a同士が絶縁被膜2bと非常に薄い融着被膜2cとを介して、あるいは絶縁被膜2bのみを介して密着している。なお、直線辺部3および直線辺部4の任意の断面が図6に示す状態と同様の状態となっている。また、G方向への加圧によって、直線辺部3、4の外周側は図1(A)の実線で示すように直線状態に近い状態となっており、加圧前に形成されていた膨らみはほとんど見られなくなっている。
【0053】
また、直線辺部5は、H方向へのみ加圧されるため、一部に融着樹脂10が充填されない間隙8、9が存在するものの、融着被膜2cが加熱によって融解して融解樹脂10となり、加圧前に形成されていた多くの間隙8、9に流れ込んでいる。
【0054】
以上、巻回ステップで融着線2を整列巻で巻回した後、加熱ステップで加熱して、その後、加圧ステップで加圧して空芯コイル1を形成する製造方法を説明したが、融着線2を巻回した後、加熱せずに加圧して空芯コイル1を形成しても良い。その場合、加圧後の直線辺部3の中央部分の断面F−Fの一部分は、図7に示すような状態となっている。すなわち、丸導線2aは絶縁被膜2bに被覆された状態であるが、被覆された融着被膜2cの一部が、加圧による熱の影響で融解して融着樹脂10となり、加圧前に形成されていた間隙8、9に流れ込んでいる。ここで、加熱せずに加圧して空芯コイル1を形成した場合には、融着被膜2cが融解しにくいため、断面F−Fには、図7に示すように、一部に融着樹脂10が充填されない未充填部11を有する状態となっている。なお、加熱せずに加圧した場合、直線辺部3および直線辺部4の任意の断面が図7に示す状態と同様の状態、すなわち、未充填部11を有する状態となっている。また、G方向への加圧によって、直線辺部3、4の外周側は図1(A)の実線で示すように直線状態に近い状態となっており、加圧前に形成されていた膨らみはほとんど見られなくなっている。
【0055】
また、直線辺部5でも、融着被膜2cの一部が、加圧による熱の影響で融解して融着樹脂10となり、加圧前に形成されていた間隙8、9に流れ込んでいるが、H方向へのみ加圧されるため、融着樹脂10が充填されない未充填部11が直線辺部3、4よりも多く存在する状態となっている
【0056】
(実施の形態1の主な効果)
以上説明したように、本形態の空芯コイル1では、融着線2が略矩形の空芯状に巻回された後、加熱された状態あるいは加熱されない状態で、直線辺部3、4の外周側が図1(A)の矢印Gで示すように、空芯コイル1の内側に向かってY方向に加圧されている。また直線辺部3、4、5は、図1(B)の矢印Hで示すように、Z方向に加圧されている。そのため、加圧前に絶縁被膜2bを被覆していた融着被膜2cの少なくとも一部は、加圧による熱の影響で融解して融着樹脂10となり、加圧前に形成されていた間隙8、9に流れ込む。そのため、直線辺部3、4、5では、融着被膜2cの厚さが薄くなり、融着線2同士の間に形成される間隙8、9が小さくなる。したがって、直線辺部3、4、5の占積率を向上させることができる。
【0057】
また、所定の加圧力を加えることで、加圧方向における間隙8、9の大きさのばらつきを小さくすることできる。そのため、直線辺部3、4、5では、加圧方向の寸法を加圧治具の寸法に基づいた寸法とすることができ、加圧方向の寸法精度を向上させることも可能となる。すなわち、直線辺部3、4では、Y方向およびZ方向の寸法精度を向上させることができ、直線辺部5では、Z方向の寸法精度を向上させることができる。さらに、加圧前に直線辺部3、4に形成されていた膨らみを十分に抑制することができる。その結果、Y方向における空芯コイル1の幅寸法の精度を上げることができる。
【0058】
特に本形態では、直線辺部3、4、5にはクロスポイント7が形成されていないため、加圧時に巻回された融着線2には、均等に圧力がかかる。したがって、上述した効果をより、容易にかつ効率的に得ることができる。
【0059】
一方で、空芯コイル1は導線の弾性変形範囲内で加圧されているため、融着線2の絶縁被膜2bの損傷を防止することができる。また、クロスポイント7が形成される直線辺部6は加圧されていないため、加圧すると絶縁被膜2bに損傷を生じやすいクロスポイント7での絶縁被膜2bの損傷を防止することができる。ここで、本形態では、クロスポイント7の全てがクロスポイント形成部となる直線辺部6に形成されている。そのため、周方向の特定部位となる直線辺部6を除いた直線辺部3、4、5は少なくともZ方向には加圧可能となる。したがって、加圧作業時には、直線辺部6を考慮して加圧作業を行えば良くなり、加圧作業が容易になる。
【0060】
本形態では、空芯コイル1の製造方法の1つとして、融着線2を空芯状に巻回する巻回ステップの後に、加熱ステップで加熱してから加圧ステップで加圧する製造方法を採用している。この製造方法を採用する場合には、加熱によって、融着線2の硬度が下がるため、加圧時の加圧力を下げることができ容易に空芯コイル1を加圧することができる。また、加圧力を下げることができるので、加圧時における絶縁被膜2bの損傷を確実に防止することができる。
【0061】
また、巻回ステップの後、加熱ステップで加熱して加圧ステップで加圧する製造方法を採用した場合には、融着被膜2cが加熱によって融解して形成された融着樹脂10がほぼ全ての融着線2間に充填されており、間隙8、9がほとんど存在しない状態になっている。そのため、より多くの融着被膜2cが融解して間隙8、9に流れ込むことになり、より効果的に直線辺部3、4、5の占積率を高めることができる。また、融着被膜2cの厚みのばらつき等、融着被膜2cに起因する直線辺部3、4、5の寸法のばらつきをより効果的に抑制することができる。さらに、間隙8、9に充填された融着樹脂10によって融着線2同士の接着強度が増加し、直線辺部3、4、5の剛性も増加する。
【0062】
上述した本形態の主な効果のうち、直線辺部3、4、5の占積率を高めることできるという効果、直線辺部3、4、5の寸法のばらつきを抑制することができるという効果および加圧前に直線辺部3、4に形成されていた膨らみを十分に抑制することができるという効果についてさらに詳述する。
【0063】
まず、直線辺部3、4、5の占積率を高めることできるという効果を実験データに基づいて詳述する。線径0.35mmの融着線2を巻線機に装着し、融着線2を所定の温度で加熱しながら、Z方向(高さ方向)へ20段、高さ方向に直交する方向(直線辺部3、4ではY方向、直線辺部5、6ではX方向)へ22列(22層)の整列巻で矩形状に巻回した。この際には、巻回後の空芯コイル1のX方向寸法、Y方向寸法、Z方向寸法のそれぞれの目標値を44.05mm、23.26mm、8.36mmとして融着線2を巻回した。巻回が終了したときの直線辺部3、4の占積率は83%であった。その後、巻回された融着線2を約190℃で加熱し、加熱後、空芯コイル1の内周側に加圧治具を挿通させた状態で、直線辺部3、4を矢印Gの方向および矢印Hの方向へ2〜13MPaで加圧した。その結果を図8に示す。
【0064】
図8は、横軸を加圧力(MPa、図中では押し圧力と表記)、縦軸を占積率(%)として、加圧力と占積率との関係を示している。図8のデータS1に示すように、加圧力を大きくすると占積率を84%以上とすることができ、従来の空芯コイルと比べ、占積率を高めることができる。一方、間隙8、9に融着樹脂10が充填され、間隙8、9が減少してくると加圧力を大きくしても占積率はそれほど大きくならない。すなわち、データS1に示すように、占積率を91%以上にしようとすると強大な加圧力を必要とし、製造上、非常に困難になる。また、多くの製造時間が必要になる。したがって、加圧力との関係を考慮すると占積率が91%未満である場合に、より効率的に空芯コイルの占積率を向上させることができる。なお、本出願人は、96%という占積率の空芯コイルの製造に成功しており、91%以上の占積率を有する空芯コイルを作成することは可能である。
【0065】
また、図8のデータS2には、加圧前に加熱を行わず、他の条件は上記と同様とした場合の加圧力と占積率との関係を示している。この場合であっても、加圧力を大きくすると占積率を84%以上とすることができ、従来の空芯コイルと比べ、占積率を高めることができる。一方、加熱をしない場合には、間隙8、9に融着樹脂10が充填されにくいため、加圧力を大きくしても占積率はそれほど大きくならない。すなわち、データS2に示すように、占積率を87%以上にしようとすると強大な加圧力を必要とし、製造上、非常に困難になる。また、多くの製造時間が必要になる。したがって、加圧前に加熱をした方がより効果的に占積率を高めることができる。また、加熱をしないときは、加圧力との関係を考慮すると占積率が87%未満である場合に、より効率的に空芯コイルの占積率を向上させることができる。
【0066】
以上のように、巻回後の空芯コイル1を加圧して、占積率を84%以上91%未満とすると、同一の外形を有する従来の空芯コイルと比較して、起磁力を1〜8%向上させることができ、また、インダクタンスを2〜20%向上させることができる。また、占積率を向上させることができるため、コイル断面が同一である場合には、従来の空芯コイルに比べ丸導線2a等の導線の径を大きくすることができ、その結果、空芯コイル1の抵抗値を下げることができる。
【0067】
次に、直線辺部3、4、5の寸法のばらつきを抑制することができるという効果を実験データに基づいて詳述する。線径0.3mmの融着線2を巻線機に装着し、融着線2を所定の温度で加熱しながら、Z方向(高さ方向)へ24段、高さ方向に直交する方向(直線辺部3、4ではY方向、直線辺部5、6ではX方向)へ25列(25層)の整列巻で矩形状に巻回した。この際には、巻回後の空芯コイル1のX方向寸法、Y方向寸法、Z方向寸法のそれぞれの目標値を48.7mm、24.0mm、7.75mmとして融着線2を巻回した。その後、巻回された融着線2を約190℃で加熱し、加熱後、空芯コイル1の内周側に加圧治具を挿通させた状態で、直線辺部3、4を矢印Gの方向および矢印Hの方向へ3.8MPaで加圧した。その結果を図9に示す。
【0068】
図9は、横軸を試料数、縦軸を寸法(mm)として、加圧前後における直線辺部3、4の中央部分における寸法のばらつきを示しており、(A)は、Y方向(図中ではタテ方向と表記)の寸法のばらつきを、(B)は、Z方向(図中ではヨコ方向と表記)の寸法のばらつきを示している。図9の横軸に示すように、実験では22個の試料を使用した。
【0069】
図9(A)のデータS3に示す加圧前の状態では、直線辺部3、4の中央部分におけるY方向の寸法の平均値は23.885mm、寸法のばらつきは、+1.11〜−0.45%であった。これに対し、図9(A)のデータS4に示す加圧後の状態では、直線辺部3、4の中央部分におけるY方向の寸法の平均値は23.535mm、寸法のばらつきは、+0.06〜−0.06%であり、寸法のばらつきを大幅に低減させることができる。
【0070】
また、図9(B)のデータS5に示す加圧前の状態では、直線辺部3、4の中央部分におけるZ方向の寸法の平均値は7.688mm、寸法のばらつきは、+0.67〜−0.50%であった。これに対し、図9(B)のデータS6に示す加圧後の状態では、直線辺部3、4の中央部分におけるZ方向の寸法の平均値は7.551mm、寸法のばらつきは、+0.12〜−0.14%であり、寸法のばらつきを大幅に低減させることができる。
【0071】
このように、直線辺部3、4では、加圧の方向であるY方向およびZ方向の寸法精度を±0.2%以下とでき、従来に比べ大幅に向上させることができる。また、上記の実験データからわかるように、直線辺部3、4の断面積は3.3%減少しており、占積率が向上していることもわかる。
【0072】
一方、加圧前に加熱を行わずに、加圧力を7.0MPaとし、その他の条件を上記と同様とした場合には、加圧前の直線辺部3、4のY方向の寸法の平均値は23.889mm、寸法のばらつきは、+1.09〜−0.79%であり、加圧後の直線辺部3、4のY方向に寸法の平均値は23.536mm、寸法のばらつきは、+0.14〜−0.15%であった。また、加圧前の直線辺部3、4のZ方向の寸法の平均値は7.687mm、寸法のばらつきは、+0.69〜−0.48%であり、加圧後の直線辺部3、4のZ方向の寸法の平均値は7.551mm、寸法のばらつきは、+0.31〜−0.35%であった。このように、加圧前に加熱を行わない場合であっても、寸法精度を向上させることができる。
【0073】
以上の結果を以下の表1にまとめる。なお、表1ではY方向をタテ方向と表記し、Z方向をヨコ方向と表記している。
[表1]

【0074】
以上のように、巻回後の空芯コイル1を加圧して、寸法精度を向上させることができるため、寸法精度が要求される用途に空芯コイル1を用いることができる。また、空芯コイル1では、間隙8、9に融着樹脂10が充填されているため、空芯コイル1をインサート成型に用いる場合であっても、間隙8、9に起因する発生ガスが少なく、成型時のガス抜きが容易になる。
【0075】
なお、直線辺部6のX方向およびZ方向の寸法精度は±0.2%以上となっている。特に、本形態の空芯コイル1は、クロスポイント7を有する直線辺部6が形成されるX方向では、寸法精度が要求されない用途に用いられているため、X方向の寸法精度を±2%以上とすることができる。そのため、直線辺部6を加圧する必要はなく、加圧すると絶縁被膜2bに損傷を生じやすいクロスポイント7での絶縁被膜2bの損傷を確実に防止することができる。また、クロスポイント7が形成された直線辺部6のX方向の寸法精度が要求されないため、融着線2の巻回作業が容易になる。
【0076】
続いて、加圧前に直線辺部3、4に形成されていた膨らみを十分に抑制することができるという効果を実験データに基づいて詳述する。線径0.35mmの融着線2を10×50mmの巻線機に装着し、融着線2を所定の温度で加熱しながら、Z方向(高さ方向)へ27段、高さ方向に直交する方向(直線辺部3、4ではY方向、直線辺部5、6ではX方向)へ22列(22層)で590ターンの整列巻によって矩形状に巻回した。巻回後の空芯コイル1のY方向寸法は23.5mm、X方向寸法は65mmであった。その後、巻回された融着線2を約190℃で加熱し、加熱後、空芯コイル1の内周側に加圧治具を挿通させた状態で、直線辺部3、4を矢印Gの方向および矢印Hの方向へ5.0MPaで加圧した。なお、実験に20個の試料を使用した。
【0077】
実験の結果、加圧前の状態では、図1に示す直線辺部3、4の両端部分のY方向の幅寸法W2の平均値は6.77mm、直線辺部3、4の中央部分のY方向の幅寸法W1の平均値は6.97mmであった。したがって、上述した式1から求められる平均値の膨らみ率は2.9%であった。また、20個の試料の中では膨らみ率の最大値は5.1%であった。これに対し、加圧後の状態では、幅寸法W2の平均値は6.74mm、幅寸法W1の平均値は6.76mmであり、平均値の膨らみ率は0.3%であった。また、20個の試料の中では膨らみ率の最大値は0.9%であった。このように、加圧によって直線辺部3、4の膨らみを大幅に抑制することができる。具体的には、膨らみ率を1.0%以下とすることができる。
【0078】
一方、加圧前に加熱を行わず、他の条件を上記と同様とした場合には、加圧前の幅寸法W2の平均値は6.78mm、幅寸法W1の平均値は6.97mmであり、平均値の膨らみ率は2.7%であった。また、20個の試料の中では膨らみ率の最大値は5.1%であった。これに対し、加圧後の幅寸法W2の平均値は6.77mm、幅寸法W1の平均値は6.80mmであり、平均値の膨らみ率は0.4%であった。また、20個の試料の中では膨らみ率の最大値は1.5%であった。このように、加圧前に加熱を行わない場合であっても、加圧によって直線辺部3、4の膨らみを大幅に抑制することができる。具体的には、膨らみ率を2.0%以下にすることができる。
【0079】
以上の結果を以下の表2にまとめる。なお、表2では中央部分を中央点と表記し、両端部分を接点部分と表記している。また、加圧前を初期値と表記し、加圧後を押し圧後と表記している。
[表2]

【0080】
なお、加熱後に加圧した場合における幅寸法W1のばらつきを図10に示す。図10は、横軸を試料数、縦軸を幅寸法(mm)として、加圧前後における幅寸法W1の寸法のばらつきを示している。すなわち、図10のデータS7は、加圧前の幅寸法W1のばらつきを、データS8は、加圧後の幅寸法W1のばらつきを示している。
【0081】
以上のように、巻回後の空芯コイル1を加圧して、直線辺部3、4の膨らみ率を大幅に低減することができるため、たとえば、リニアモータのステータ等のように、Y方向に空芯コイル1が並列で配置されて使用されるコイル群では、空芯コイル1同士の間隔にばらつきが生じない。そのため、このようなコイル群では、磁界の強さの分布が均一になり、また、空芯コイル1がそれぞれ有する磁界の相互作用によってステータの磁界の強さが増加する。その結果、Y方向に空芯コイル1が並列で配置されて使用されるコイル群では、精度の高い強い磁場を得ることができ、そのコイル群を備える装置の性能が向上する。たとえば、リニアモータでは、スライダの位置精度や応答性が向上する。また、直線辺部3、4の膨らみ率を大幅に低減することができるため、空芯コイル1が並列で配置されて使用されるコイル群では高密度化を図ることができる。
【0082】
より具体的には、線径0.35mmの融着線2を用いて、上述の条件下で、加熱後に加圧して形成された空芯コイル1をY方向に並列で10個配置した場合、加圧されずに形成された空芯コイルを同じく10個配置した場合と比較して、磁界の強さは約10%増加した。また、加熱なしで加圧して形成された空芯コイル1をY方向に並列で10個配置した場合であっても、磁界の強さは約5%増加した。また、加熱後に加圧して形成された空芯コイル1をY方向に並列で10個配置した場合、磁界強さの位置のばらつきは、標準偏差(σ)で0.01であり、加圧されずに形成された空芯コイルを用いた場合、磁界強さの位置のばらつきは、標準偏差(σ)で0.1であった。すなわち、加熱後に加圧して形成された空芯コイル1を用いることで、磁界強さのばらつきを標準偏差で10分の1とすることができ、ばらつきを大幅に低減することができる。
【0083】
なお、本形態の空芯コイル1は、クロスポイント7を有する直線辺部6が形成されるX方向では、寸法精度が要求されない用途に用いられているため、直線辺部6の膨らみ率は、12.5%以上とすることができる。そのため、直線辺部6を加圧する必要はなく、加圧すると絶縁被膜2bに損傷を生じやすいクロスポイント7での絶縁被膜2bの損傷を確実に防止することができる。また、融着線2の巻回作業が容易になる。
【0084】
[実施の形態2]
図11は、本発明の実施の形態2にかかる空芯コイル21を示す斜視図である。図12は、図11に示す空芯コイル21の平面図である。図13は、図12に示す空芯コイル21の断面e−eの一部分で加圧前の状態を拡大して示す部分拡大断面図である。図14は、図12に示す空芯コイル21の断面f−fの一部分で加圧前の状態を拡大して示す部分拡大断面図である。図15は、図12に示す空芯コイル21を加熱後に加圧した後の断面f−fの一部分を拡大して示す部分拡大断面図である。図15は、図11に示す空芯コイル21を加熱せずに加圧した後の断面f−fの一部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
【0085】
(空芯コイルの構成および製造方法)
本形態の空芯コイル21も上述した空芯コイル1と同様に、リニアモータ等の各種モータなどに用いられるものである。空芯コイル21は、図13等に示すように、断面が略長方形状の平角導線22aと、平角導線22aの周りを被覆する絶縁被膜22bと、絶縁被膜22bの周りをさらに被覆する融着被膜22cとを備える融着線22がα巻で巻回されて形成されている。より具体的には、図11、12に示すように、空芯コイル21は、図12の紙面垂直方向から見て内周側が直線状に形成された相対向する平行な2つの直線辺部23、24と、図12の紙面垂直方向から見て内周側が円弧状に形成され、直線辺部23、24をつなぐ半円状の円弧部25、26とを備え、図12の左右方向に扁平した陸上競技のトラック(陸上トラック)のような形状の空芯状に巻回されて形成されている。直線辺部23、24は、図12の上下方向を長手方向として、すなわち、図12の上下方向を融着線22の巻回方向として、融着線22が巻回されて形成されている。
【0086】
ここで、α巻とは、融着線22が巻回された後の両端がともに空芯コイル21の最外周側にくるように巻回する巻き方であり、巻回時の巻回作業に用いられる固定巻軸に対して両端を互いに反対方向へα形状となるように巻回する巻き方をいう。
【0087】
なお、以下の説明では、直線辺部23、24の長手方向をX方向、融着線22の巻回方向に直交する空芯コイル21の厚み方向(図12の紙面垂直方向)をZ方向、X方向およびY方向に直交する方向をY方向とする。したがって、空芯コイル21の高さ方向(Z方向)に直交するX方向およびY方向が空芯コイル21の幅方向となる。
【0088】
本形態の空芯コイル21は、融着線22が巻回ステップで巻回された後、加熱ステップで加熱され、その後、加圧ステップでY方向およびZ方向に加圧されている。すなわち、直線辺部23、44の外周側が、空芯コイル21の内側に向かってY方向に加圧され、直線辺部23、24および、円弧部25、26がZ方向に加圧されている。以下、空芯コイル21の製造方法について詳述する。
【0089】
まず、融着線22を巻線機に装着し、α巻で空芯状に巻回する。この巻回の際には、融着線22を制御された所定の温度で加熱する。
【0090】
融着線22の巻回が終了した後の直線辺部23の一端部分の断面e−eの一部分は、図13に示すような状態となっている。すなわち、平角導線22aが絶縁被膜22bおよび融着被膜22cに被覆された状態で、融着線22が巻回され、融着線22同士の間には、間隙28が形成されている。また、直線辺部23の他端部分および直線辺部24の両端部分も断面e−eと同様の状態となっている。なお、図13では、便宜上、一部の融着線22や一部の間隙28についてのみ符号を付している。
【0091】
融着線22の巻回が終了した後の直線辺部23の中央部分の断面f−fの一部分は、図14に示すような状態となっている。すなわち、平角導線22aが絶縁被膜22bおよび融着被膜22cに被覆された状態で、融着線22が巻回され、融着線22同士の間には、間隙28の他に間隙29も形成されている。実施の形態1と同様に、融着線22を巻回する際に、直線辺部23の両端部分から中央部分に向かうにしたがって、空芯コイル21の内側に向かってY方向へ融着線22を押し付ける力がしだいに小さくなるため、間隙29aのように、並列する融着線22の間にも間隙が生じている。また、この間隙29は、断面e−eに形成された間隙28よりも大きくなっている。また、直線辺部24の中央部分も断面f−fと同様の状態となっている。そのため、融着線22の巻回が終了した状態では、図12の二点鎖線iで示すように、直線辺部23、24の外周側には、X方向の中央部分で最大となるY方向外側に向かう膨らみが生じている。なお、図14では、便宜上、一部の融着線22や一部の間隙29についてのみ符号を付している。
【0092】
その後、巻回が終了した融着線22を加熱する。この加熱方向は上述した実施の形態1の加熱方法と同様であるため詳細な説明は省略する。融着線22への加熱が終了すると、巻回された融着線22をY方向およびZ方向に加圧する。この加圧方向も上述した実施の形態1の加圧方法と同様であるため詳細な説明は省略する。なお、加圧の際の加圧力は、平角導線22aを塑性変形させない力であり、平角導線22aの弾性変形範囲内で空芯コイル21の加圧が行われる。また、平角導線22aを塑性変形させない力には、全く塑性変形させない力の他、ほんのわずかに塑性変形させる力を含むものとし、上述した特許文献1のように、大きく塑性変形させる力は含まないことをいう。
【0093】
加圧後の直線辺部23の中央部分の断面f−fの一部分は、図15に示すような状態となっている。すなわち、平角導線22aは絶縁被膜22bに被覆された状態であるが、融着被膜22cの一部は熱変形して融着樹脂30となって、この融着樹脂30が融着線22同士の間に充填されている。すなわち、加圧前に絶縁被膜22bを被覆していた融着被膜22cの一部が加熱によって融解して融着樹脂30となり、加圧前に形成されていた間隙28、29、29aに流れ込み、この融着樹脂30がほぼ全ての融着線22同士の間に充填されており、間隙28、29、29aがほとんど存在しない状態になっている。この状態では、絶縁被膜22bに被覆された平角導線22a同士が絶縁被膜22bと非常に薄い融着被膜22cとを介して、あるいは絶縁被膜2bのみを介して密着している。なお、直線辺部23および直線辺部24の任意の断面は図15に示す状態と同様の状態、すなわち、間隙28、29、29aがほとんど存在しない状態となっている。また、Y方向への加圧によって、直線辺部23、24の外周側は図11の実線で示すように直線状態に近い状態となっており、加圧前に形成されていた膨らみはほとんど見られなくなっている。
【0094】
また、円弧部25、26は、Z方向へのみ加圧されるため、一部に融着樹脂30が充填されない間隙28、29、29aが存在するものの、融着被膜22cが加熱によって融解して融解樹脂30となり、加圧前に形成されていた間隙28、29、29aに流れ込んでいる。
【0095】
なお、上述した実施の形態1と同様に、巻回ステップで融着線22を巻回した後、加熱せずに加圧ステップで加圧して空芯コイル21を形成しても良い。その場合、加圧後の直線辺部23の中央部分の断面f−fの一部分は、図16に示すような状態となっている。すなわち、平角導線22aは絶縁被膜22bに被覆された状態であるが、被覆された融着被膜22cの一部が、加圧による熱の影響で融解して融着樹脂30となり、加圧前に形成されていた間隙28、29、29aに流れ込んでいる。また、実施の形態1と同様に、加熱せずに加圧して空芯コイル21を形成した場合には、融着被膜22cが融解しにくいため、図16に示すように、一部に融着樹脂30が充填されない未充填部31が存在した状態となっている。なお、加熱をせずに加圧した場合も、直線辺部23および直線辺部24の任意の断面は図16に示す状態と同様の状態となっている。また、Y方向への加圧によって、直線辺部23、24の外周側は図11の実線で示すように直線状態に近い状態となっており、加圧前に形成されていた膨らみはほとんど見られなくなっている。
【0096】
(実施の形態2の主な効果)
実施の形態2においても、上述した実施の形態1と同様に、直線辺部23、24および円弧部25、26の占積率を高めることできるという効果、直線辺部23、24および円弧部25、26の寸法のばらつきを抑制することができるという効果、および加圧前に直線辺部23、24に形成されていた膨らみを十分に抑制することができるという効果を得ることができる。
【0097】
また、加熱後に加圧する製造方法を採用する場合には、実施の形態1と同様に、加圧時の加圧力を下げることができるため、容易に空芯コイル21を加圧することができ、また、加圧時における絶縁被膜22bの損傷を確実に防止することができる。また、この場合には、より多くの融着被膜22cが融解して間隙28、29に流れ込むため、より効果的に空芯コイル21の占積率を高めることができる。また、融着被膜22cの厚みのばらつき等、融着被膜22cに起因する空芯コイル21の寸法のばらつきをより効果的に抑制することができる。さらに、間隙28、99に充填された融着樹脂30によって融着線22同士の接着強度が増加し、空芯コイル21の剛性も増加する。
【0098】
ここで、上述した本形態の主な効果のうち、加圧前に直線辺部23、24に形成されていた膨らみを十分に抑制することができるという効果を実験データに基づいてさらに詳述する。
【0099】
線サイズ0.24×1.2mmの平角状の融着線22を5×300mmの巻線機に装着し、融着線22を所定の温度で加熱しながら、50ターンのα巻で陸上トラック形状の空芯状に巻回した。巻回後の空芯コイル1のZ方向寸法は29mm、X方向寸法は340mmであった。その後、巻回された融着線22を約190℃で加熱し、加熱後、空芯コイル21の内周側に加圧治具を挿通させた状態で、Y方向およびZ方向へ7.0MPaで加圧した。なお、実験に20個の試料を使用した。
【0100】
実験の結果、加圧前の状態では、図12に示す直線辺部23、24の両端部分のY方向の幅寸法W4の平均値は12.58mm、直線辺部23、24の中央部分のY方向の幅寸法W3の平均値は13.92mmであった。したがって、平均値の膨らみ率は9.6%であった。また、20個の試料の中では膨らみ率の最大値は20.1%であった。これに対し、加圧後の状態では、幅寸法W4の平均値は12.21mm、幅寸法W3の平均値は12.34mmであり、平均値の膨らみ率は1.1%であった。また、20個の試料の中では膨らみ率の最大値は2.4%であった。このように、加圧によって直線辺部23、24の膨らみを大幅に抑制することができる。具体的には、膨らみ率を2.5%以下とすることができる。
【0101】
一方、加圧前に加熱を行わず、他の条件を上記と同様にした場合には、加圧前の幅寸法W4の平均値は12.58mm、幅寸法W3の平均値は13.93mmであり、平均値の膨らみ率は9.6%であった。また、20個の試料の中では膨らみ率の最大値は20.2%であった。これに対し、加圧後の幅寸法W4の平均値は12.57mm、幅寸法W3の平均値は12.98mmであり、平均値の膨らみ率は3.2%であった。また、20個の試料の中では膨らみ率の最大値は4.9%であった。このように、加圧前に加熱を行わない場合であっても、加圧によって直線辺部23、24の膨らみを大幅に抑制することができる。具体的には、膨らみ率を5.0%以下にすることができる。
【0102】
以上の結果を以下の表3にまとめる。なお、表3では中央部分を中央点と表記し、両端部分を接点部分と表記している。また、加圧前を初期値と表記し、加圧後を押し圧後と表記している。
[表3]

【0103】
[他の実施の形態]
上述した各形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形可能である。たとえば、上述した各形態では、円形断面の丸導線2aを備える融着線2が整列巻で巻回されて形成された空芯コイル1あるいは、長方形断面の平角導線22aを備える融着線22がα巻で巻回されて構成された空芯コイル21について説明したが、平角導線を備える融着線がエッジワイズ巻で巻回されて形成された空芯コイルや、正方形断面の真四角導線を備える融着線が整列巻で巻回されて形成された空芯コイルについても本発明の構成を適用することができる。
【0104】
また、上述した実施の形態1では、丸導線2aを備える融着線2が矩形の空芯状に巻回されていたが、融着線2は、図11に示す陸上トラック形状の空芯状に巻回されても良い。この場合には、円弧部25または円弧部26を、クロスポイントの全てが形成されたクロスポイント形成部として、このクロスポイント形成部を加圧しないようにすれば良い。たとえば、円弧部25がクロスポイント形成部となる場合には、図12に示すように、円弧部25の周方向の中央部分における幅W1´と、円弧部25の周方向の両端部分における幅W2´とから上記の式2によって算出される円弧部の膨らみ率は、12.5%以上とすることができる。また、逆に、実施の形態2で説明した平角導線22aを備える融着線22が図1に示す矩形の空芯状に巻回されても良い。
【0105】
さらに、上述した実施の形態1では、一つの直線辺部6がクロスポイント形成部となってクロスポイント7の全てが形成されていたが、たとえば、直線辺部5および6にのみクロスポイント7を形成して、クロスポイント形成部を2箇所としても良い。
【0106】
さらに、融着線の巻回形状は上述した各形態で説明した矩形の空芯状等には限定されず、融着線を円形の空芯状や三角形の空芯状等のその他の形状の空芯状に巻回しても良い。また、たとえば、整列巻で三角形の空芯状に巻回する場合には、三角形の頂点部分をクロスポイントの全てが形成されたクロスポイント形成部として、このクロスポイント形成部を加圧しないようにすれば良い。また、三角形の空芯状に巻回する場合には、3つの直線辺部が形成されることになるが、これらの直線辺部に対し、空芯コイルの高さ方向と融着線の巻回方向とに直交する方向から加圧することで、直線辺部の外周側への膨らみ率を5.0%以下とすることができる。
【0107】
さらにまた、図1、図11等ではある程度の厚みを有する空芯コイル1、21を図示して示しているが、本発明の空芯コイルは高さ方向(Z方向)の寸法が小さい、扁平形状の空芯コイルであっても良い。
【0108】
また、上述した実施の形態1では、直線辺部3、4の外周側を、空芯コイル1の内側に向かってY方向に加圧するとともに、直線辺部3、4、5をZ方向に加圧していたが、直線辺部3、4、5のいずれか1つあるいは2つを加圧しても良いし、直線辺部3、4をY方向あるいはZ方向の一方向にのみ加圧しても良い。また、実施の形態2においては、巻回された融着線22をY方向およびZ方向に加圧していたが、Y方向あるいはZ方向の一方向にのみ加圧しても良いし、直線辺部23、24および円弧部25、26のうちのいずれか1つあるいは2つまたは3つを加圧しても良い。
【0109】
さらに、本発明の空芯コイルは、リニアモータ等のモータ以外にも光ヘッド装置のレンズ駆動装置等の種々の電子、電気機器に用いることができ、これらの機器の性能向上、小型化および省エネルギー化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる空芯コイルを示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図2】図1に示す空芯コイルの底面図で、クロスポイントが形成される直線辺部の一部を拡大して示す拡大図である。
【図3】融着線の断面を示す断面図である。
【図4】図1に示す空芯コイルの断面E−Eの一部分で加圧前の状態を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図5】図1に示す空芯コイルの断面F−Fの一部分で加圧前の状態を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図6】図1に示す空芯コイルを加熱後に加圧した後の断面F−Fの一部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図7】図1に示す空芯コイルを加熱せずに加圧した後の断面F−Fの一部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図8】実施の形態1にかかる空芯コイルにおける加圧力と占積率との関係を示すグラフである。
【図9】実施の形態1にかかる空芯コイルの直線辺部における加圧前後の寸法のばらつきを示すグラフであり、(A)は高さ方向に寸法のばらつきを示し、(B)は幅方向の寸法のばらつきを示す。
【図10】実施の形態1にかかる空芯コイルの直線辺部の中央部分における加圧前後の幅寸法のばらつきを示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態2にかかる空芯コイルを示す斜視図である。
【図12】図11に示す空芯コイルの平面図である。
【図13】図12に示す空芯コイルの断面e−eの一部分で加圧前の状態を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図14】図12に示す空芯コイルの断面f−fの一部分で加圧前の状態を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図15】図12に示す空芯コイルを加熱後に加圧した後の断面f−fの一部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図16】図12に示す空芯コイルを加熱せずに加圧した後の断面f−fの一部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図17】従来技術にかかる空芯コイルを示す斜視図である。
【図18】従来技術にかかる空芯コイルの断面の一例を示す部分断面図である。
【図19】従来技術にかかる空芯コイルの断面の一例を示す部分断面図である。
【図20】従来技術にかかる空芯コイルの断面の一例を示す部分断面図である。
【図21】従来技術にかかる空芯コイルの断面の一例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0111】
1、21 空芯コイル
2、22 融着線
2a 丸導線(導線)
22a 平角導線(導線)
2b、22b 絶縁被膜
2c、22c 融着被膜
3、4、5、23、24 直線辺部
6 直線辺部(クロスポイント形成部)
7 クロスポイント
10、30 融着樹脂
X、Y 幅方向
Z 高さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線と、該導線の周りを被覆する絶縁被膜と、該絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が整列巻で空芯状に巻回されて形成された空芯コイルにおいて、
該空芯コイルの少なくとも一部がその高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に、上記導線の弾性変形範囲内で加圧されているとともに、この加圧部分の占積率が84%以上91%未満であることを特徴とする空芯コイル。
【請求項2】
導線と、該導線の周りを被覆する絶縁被膜と、該絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が空芯状に巻回されて形成された空芯コイルにおいて、
該空芯コイルの少なくとも一部がその高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に、上記導線の弾性変形範囲内で加圧されているとともに、この加圧方向の寸法精度が±0.2%以下であることを特徴とする空芯コイル。
【請求項3】
導線と、該導線の周りを被覆する絶縁被膜と、該絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が空芯状に巻回されて形成された空芯コイルにおいて、
該空芯コイルの高さ方向から見て内周側が直線状に形成された複数の直線辺部を備え、該直線辺部の少なくとも1つは、上記空芯コイルの高さ方向と上記融着線の巻回方向とに直交する方向に上記導線の弾性変形範囲内で加圧されているとともに、この加圧方向における上記直線辺部の外周側の膨らみ率が5.0%以下であることを特徴とする空芯コイル。
【請求項4】
前記空芯コイルは多角形状に形成され、前記複数の直線辺部のうち少なくともいずれか1つは加圧されず、前記空芯コイルの高さ方向に直交する幅方向における外周側の膨らみ率が12.5%以上となる直線辺部が存在することを特徴とする請求項3記載の空芯コイル。
【請求項5】
前記空芯コイルは、該空芯コイルの高さ方向から見て内周側が円弧状に形成された複数の円弧部を備え、前記複数の直線辺部および上記複数の円弧部のうち少なくともいずれか1つは加圧されず、前記空芯コイルの高さ方向に直交する幅方向における外周側の膨らみ率が12.5%以上となる直線辺部または円弧部が存在することを特徴とする請求項3記載の空芯コイル。
【請求項6】
前記空芯コイルは整列巻で巻回されて形成されるとともに、整列巻で巻回される際に前記融着線同士が交差するクロスポイントが前記複数の直線辺部または前記複数の円弧部ののうちの1つにのみ形成され、このクロスポイントが形成された直線辺部または円弧部の外周側の前記幅方向の膨らみ率が12.5%以上であることを特徴とする請求項4または5記載の空芯コイル。
【請求項7】
前記融着被膜を融着樹脂とし、熱変形した当該融着樹脂が前記融着線間に充填されていることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の空芯コイル。
【請求項8】
導線と、該導線の周りを被覆する絶縁被膜と、該絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が整列巻で空芯状に巻回されて形成された空芯コイルの製造方法において、
上記融着線を空芯状に巻回し、
その後、上記空芯コイルの少なくとも一部をその高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に、上記導線の弾性変形範囲内で加圧するとともに、この加圧部分の占積率を84%以上91%未満とすることを特徴とする空芯コイルの製造方法。
【請求項9】
導線と、該導線の周りを被覆する絶縁被膜と、該絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が空芯状に巻回されて形成された空芯コイルの製造方法において、
上記融着線を空芯状に巻回し、
その後、上記空芯コイルの少なくとも一部をその高さ方向および高さ方向に直交する方向の少なくともいずれか一方に、上記導線の弾性変形範囲内で加圧するとともに、この加圧方向の寸法精度を±0.2%以下とすることを特徴とする空芯コイルの製造方法。
【請求項10】
導線と、該導線の周りを被覆する絶縁被膜と、該絶縁被膜の周りをさらに被覆する融着被膜とを備える融着線が空芯状に巻回されて形成された空芯コイルの製造方法において、
該空芯コイルの高さ方向から見て内周側が直線状に形成された複数の直線辺部を備えるように上記融着線を空芯状に巻回し、
その後、上記直線辺部の少なくとも1つを、上記空芯コイルの高さ方向と上記融着線の巻回方向とに直交する方向に上記導線の弾性変形範囲内で加圧するとともに、この加圧方向における上記直線辺部の外周側の膨らみ率を5.0%以下とすることを特徴とする空芯コイルの製造方法。
【請求項11】
前記融着線の巻回後に、当該巻回された融着線を加熱することを特徴とする請求項8から10いずれかに記載の空芯コイルの製造方法。
【請求項12】
前記巻回された融着線は、前記導線への通電、加熱した金型への装着、赤外線照射および熱風送風の少なくともいずれか1つの加熱方法で加熱することを特徴とする請求項11記載の空芯コイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−295106(P2006−295106A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211093(P2005−211093)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【分割の表示】特願2005−517069(P2005−517069)の分割
【原出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000132574)株式会社セルコ (18)
【Fターム(参考)】