説明

空間光変調器、空間光変調器の駆動方法および露光装置

【課題】共通電極と複数の個別電極との間に双極性電圧パルスを印加して光を変調させる空間光変調器で消費される電力を低減させる。
【解決手段】クロック信号の1/2周期で共通駆動信号の電位が0[V]と正極側のV+「V]とに交互に切り替えられ、当該共通駆動信号が共通電極335に与えられる。また、それに応じて各個別電極333に印加する個別駆動信号の電位が振幅WP(0[V]〜V+「V])で変化されて各個別電極333に与えられる。こうして、共通電極335と各個別電極333との間に双極性電圧パルスが印加されて光変調素子で光変調が実行される。したがって、個別駆動信号を生成するアナログ電圧駆動回路では、オペアンプを単電源で駆動することができ、オペアンプの消費電力を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気光学結晶を用いた空間光変調器、該空間光変調器の駆動方法、および該空間光変調器を用いた露光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気光学結晶であるリチウムナイオベート(LiNbO3)やリチウムタンタレート(LiTaO3)などの電気光学結晶によって構成された光変調デバイスを用いて、光変調を行なう光変調器が提案されている。例えば、特許文献1の光変調器では、周期分極反転構造を有する電気光学結晶で構成される薄板状またはスラブ状の電気光学結晶基板の一方主面に複数の個別電極が設けられる一方、他方主面の全面に共通電極が設けられている。そして、共通電極に対して接地電位を与えながら各個別電極に駆動信号を与えることで共通電極と各個別電極との間で電位差を発生させて電気光学結晶の内部に屈折率分布を発生させる。この屈折率分布は、駆動信号に応じて回折効率が変化する回折格子として機能する。このため、電気光学結晶内部の回折格子の回折効率を駆動信号により変化させることで、当該回折格子を通過する光を変調することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−69946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動信号として単極性信号を用いると、電気光学結晶そのものに電荷が残留することで結晶特性が変動してしまい、その結果、所望の光変調を行うことが困難となる場合があった。そこで、駆動信号として双極性信号を用いる、バイポーラ型駆動を採用することが考えられるが、この場合、共通電極に与えられている電位(上記従来装置では、接地電位)に対し、各個別電極に与える駆動信号の電位を正極側および負極側に所定振幅だけ振る必要がある。このため、各個別電極に駆動信号を与えるために、個別電極に対して一対一の関係で設けられる駆動信号生成部で消費される電力が大きなってしまう。特に、空間光変調器では、チャンネル数と同数の駆動信号生成部を設ける必要があり、近年のチャンネル数の増大に伴って駆動信号生成部の設置個数も増大し、空間光変調器全体で消費される電力量が大幅に増大している。
【0005】
この発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、共通電極と複数の個別電極との間に双極性電圧パルスを印加して光を変調させる空間光変調器で消費される電力を低減させるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる空間光変調器は、データ信号に応じて、電気光学結晶基板の一方主面に対向して設けられる複数の個別電極の各々と、電気光学結晶基板の一方主面または他方主面に対向して設けられる共通電極との間に双極性電圧パルスを印加して所定の周期で電気光学結晶基板を通過する光を変調させる空間光変調器であって、上記目的を達成するため、各個別電極に対応して設けられ、各個別電極に対応するデータ信号によって周期の1/2n(ただし、nは自然数)の周期でかつ双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する個別駆動信号を作成する、複数の個別駆動信号生成部と、共通電極に対応するデータ信号によって周期の1/2nの周期でかつ双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する共通駆動信号を作成する共通駆動信号生成部とを備え、各個別駆動信号生成部が個別駆動信号を各個別駆動信号生成部と対応する個別電極に与えるとともに共通駆動信号生成部が共通駆動信号を共通電極に与えて双極性電圧パルスを印加することを特徴としている。
【0007】
また、本発明にかかる空間光変調器の駆動方法は、データ信号に応じて、電気光学結晶基板の一方主面に対向して設けられる複数の個別電極の各々と、電気光学結晶基板の一方主面または他方主面に対向して設けられる共通電極との間に双極性電圧パルスを印加して所定の周期で電気光学結晶基板を通過する光を変調させる空間光変調器の駆動方法であって、上記目的を達成するため、各個別電極に対し、各個別電極に対応するデータ信号によって周期の1/2n(ただし、nは自然数)の周期でかつ双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する個別駆動信号を与えるとともに、共通電極に対し、共通電極に対応するデータ信号によって周期の1/2nの周期でかつ双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する共通駆動信号を与えることで、双極性電圧パルスを印加することを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明にかかる露光装置は、変調された光を被露光面に照射する露光装置であって、上記目的を達成するため、光源部と、上記した空間光変調器と同一構成を有して光源部からの光が入射される空間光変調器と、空間光変調器と被露光面の間に配置されて電気光学結晶基板からの変調光を被露光面に導く光学系とを備えることを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明では、共通駆動信号生成部が周期の1/2nの周期でかつ双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する共通駆動信号を作成し、共通電極に与える。また、各個別電極に対応して個別駆動信号生成部が設けられ、各個別駆動信号生成部は各個別電極に対応するデータ信号によって周期の1/2nの周期でかつ双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する個別駆動信号を作成し、各個別電極に与える。このように、空間光変調器は、いわゆるバイポーラ型駆動によって光変調を行っているので、電気光学結晶に電荷が残留して結晶特性が変動するのを防止することができ、光変調を安定して行うことができる。しかも、共通駆動信号の電位を双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化させているため、バイポーラ型駆動でありながらも、各個別駆動信号の電位振幅が抑制され、空間光変調器での電力消費量が低減する。
【0010】
ここで、共通駆動信号を、周期の1/2nの周期で、接地電位と第1電位に交互に切り替わる信号とし、各個別駆動信号を、周期の1/2nの周期で、接地電位と第2電位との間で電位が変化する信号としてもよい。このように接地電位(0[V])を基準に共通駆動信号および個別駆動信号の電位振幅を決定してもよく、さらに第1電位および第2電位が接地電位に対して同一の極性でかつ同一電位となるように構成してもよい。これにより、より少ない消費電力で、光変調を安定して行うことができる。
【0011】
また、光の変調特性がオフセット電圧だけ第1極性側にシフトしていることがあるが、この場合、共通駆動信号をオフセット電圧だけ第1極性と反対の第2極性側にシフトし、または各個別駆動信号をオフセット電圧だけ第1極性側にシフトしてもよく、これらによってオフセットの影響を抑制し、所望の光変調を安定して行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、空間光変調を行うために共通電極と複数の個別電極との間に双極性電圧パルスを印加するにあたって、共通駆動信号の電位を双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化させているので、各個別駆動信号の電位についても双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化させることができる。その結果、空間光変調器で消費される電力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる空間光変調器を装備したパターン描画装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示すパターン描画装置の側面図である。
【図3】図1に示すパターン描画装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】光学ヘッドの内部構成を簡略化して示す図である。
【図5】光変調素子および変調部の構成を示す図である。
【図6】アナログ電圧駆動回路の構成を示す図である。
【図7】アナログ電圧駆動回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図8】ユニポーラ型駆動およびバイポーラ型駆動の一例を示す図である。
【図9】本発明の第1実施形態における空間光変調器の駆動を示す図である。
【図10】各電極に与える電位の具体例を示す図である。
【図11】図8(b)に示す比較例と、図9に示す本発明の第1実施形態とを対比した図である。
【図12】オフセットによる回折光の光量変動を示す図である。
【図13】本発明にかかる空間光変調器の第2実施形態における動作を示す図である。
【図14】第2実施形態における電位関係を模式的に示す図である。
【図15】第2実施形態で各電極に与える電位の具体例を示す図である。
【図16】本発明にかかる空間光変調器の第3実施形態における動作を示す図である。
【図17】本発明にかかる空間光変調器の第4実施形態における動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明にかかる空間光変調器を装備したパターン描画装置を示す斜視図であり、図2は図1に示すパターン描画装置の側面図であり、図3は図1に示すパターン描画装置の電気的構成を示すブロック図である。このパターン描画装置100は、感光材料が表面に付与された半導体基板やガラス基板等の基板Wの表面に光を照射してパターンを描画する装置である。
【0015】
このパターン描画装置100では、本体フレーム101に対してカバー102が取り付けられて形成される本体内部に装置各部が配置されて本体部が構成されるとともに、本体部の外側(本実施形態では、図2に示すように本体部の右手側)に基板収納カセット110が配置されている。この基板収納カセット110には、露光処理を受けるべき未処理基板Wが収納されており、本体内部に配置される搬送ロボット120によって本体部にローディングされる。また、未処理基板Wに対して露光処理(パターン描画処理)が施された後、当該基板Wが搬送ロボット120によって本体部からアンローディングされて基板収納カセット110に戻される。
【0016】
この本体部では、図1および図2に示すように、カバー102に囲まれた本体内部の右手端部に搬送ロボット120が配置されている。また、この搬送ロボット120の左手側には基台130が配置されている。この基台130の一方端側領域(図1および図2の右手側領域)が、搬送ロボット120との間で基板Wの受け渡しを行う基板受渡領域となっているのに対し、他方端側領域(図1および図2の左手側領域)が基板Wへのパターン描画を行うパターン描画領域となっている。この基台130上では、基板受渡領域とパターン描画領域の境界位置にヘッド支持部140が設けられている。このヘッド支持部140では、基台130から上方に2本の脚部材141、142が立設されるとともに、それらの脚部材141、142の頂部を橋渡しするように梁部材143が横設されている。そして、図2に示すように、梁部材143のパターン描画領域側側面にカメラ(撮像部)150が固定されてステージ160に保持された基板Wの表面(被描画面、被露光面)を撮像可能となっている。
【0017】
このステージ160は基台130上でステージ移動機構161によりX方向、Y方向ならびにθ方向に移動される。すなわち、ステージ移動機構161は基台130の上面にX軸駆動部161X(図3)、Y軸駆動部161Y(図3)およびθ軸駆動部161T(図3)をこの順序で積層配置したものであり、ステージ160を水平面内で2次元的に移動させて位置決めする。また、ステージ160をθ軸(鉛直軸)回りに回転させて後述する光学ヘッド3に対する相対角度を調整して位置決めする。なお、このようなステージ移動機構161としては、従来より多用されているX−Y−θ軸移動機構を用いることができる。
【0018】
また、X軸駆動部161X、Y軸駆動部161Yおよびθ軸駆動部161Tの駆動源たるモータ(図示省略)には、モータの回転状況に応じたパルス信号を出力するエンコーダECX、ECY、ECTがそれぞれ付設されている。各エンコーダECX、ECY、ECTから出力されるパルス信号は装置全体を制御する制御ユニット200(図3)に設けられる信号発生部206(図3)に取り込まれる構成となっており、当該信号発生部206を介してエンコーダ信号を受けたCPU201が各軸モータの回転量に関する情報を取得し、モータ制御部207と共に各軸モータを制御する。
【0019】
また、このように構成されたヘッド支持部140のパターン描画領域側で光学ヘッド3がボックス172に対して固定的に取り付けられている。なお、光学ヘッド3は本発明にかかる空間光変調器を装備して基板Wに対して光を照射して露光するものであり、本発明の「露光装置」に相当する。その構成および動作については、後で詳述する。
【0020】
また、基台130の反基板受渡側端部(図1および図2の左手側端部)においても、2本の脚部材144が立設されている。そして、この梁部材143と2本の脚部材144の頂部を橋渡しするように光学ヘッド3の照明光学系を収納したボックス172が設けられており、基台130のパターン描画領域を上方から覆っている。したがって、パターン描画装置100が設置されるクリーンルーム内に供給されているダウンフローを本体内部に引き入れたとしても、パターン描画領域にダウンフローが供給されない空間SPが形成される。
【0021】
そこで、本実施形態にかかるパターン描画装置100では、上記空間SPの反搬送ロボット側にステージ160と光学ヘッド3のボックス172とに挟まれた空間SPに向けて温調された気体を吹き出す気体吹出部190が配置されている。この実施形態では、本体部の左手側壁を構成するカバー102を貫通するように2つの気体吹出部190が上下に取り付けられている。これらの気体吹出部190は空調器191に接続されており、制御ユニット200から指令に応じて作動して空調器191で温調された空気を空間SPに向けて吹き出す。これによって、気体吹出部190から吹き出された温調気体が横向きに流れて空間SPを通過する。これによって上記空間SPの雰囲気が入れ替えられてパターン描画領域での温度変化が抑制される。また、このように上記空間SPを通過した空気は搬送ロボット120に流れ込むが、この実施形態では、搬送ロボット120の下方部に排気口192が設けられるとともに、排気口192が配管193を介して空調器191に接続されている。したがって、排気口192を設けたことで搬送ロボット120を取り囲む雰囲気は排気されて同雰囲気内で下向きの気流、つまりダウンフローが形成される。したがって、搬送ロボット120でパーティクルが舞い上がり散乱するのが効果的に防止される。
【0022】
次に光学ヘッド(露光装置)3の構成および動作について説明する。この実施形態では、光学ヘッド3はボックス172に対して固定的に取り付けられており、光学ヘッド3の直下位置で移動している基板Wに対して光を落射することでステージ160に保持された基板Wを露光してパターンを描画する。なお、本実施形態では、光学ヘッド3はY方向に複数チャンネルで光を同時に照射可能となっており、Y方向が「副走査方向」に相当している。また、ステージ160をX方向に移動させることで基板Wに対してパターンを2次元的に描画することが可能となっており、X方向が「主走査方向」に相当している。
【0023】
図4は光学ヘッドの内部構成を簡略化して示す図であり、同図(a)は光学ヘッド3の光軸OAおよび副走査方向Yに沿って光学ヘッド3を上方(すなわち、図1中の(−X)側から(+X)側を向いて見た場合)から見た場合の光学ヘッド3の内部構成を示し、同図(b)は主走査方向Xに沿って図1の装置手前側(左下側)から光学ヘッド3側を見た場合(すなわち、光学ヘッド3の(+Y)側から見た場合)の光学ヘッド3の内部構成を示している。
【0024】
図4に示す光学ヘッド3は、所定の波長(例えば、830、635、405、あるいは、355ナノメートル(nm))の光ビームを出射する半導体レーザなどにより構成された光源部31を有している。なお、355nmのレーザ光を用いる場合は、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザの3倍高調波を用いる固体レーザ光源となる。この光源部31はコリメータレンズ(図示省略)を有しており、半導体レーザから出射される光ビームはコリメータレンズを介して平行光とされて図示を省略するミラーを介して照明光学系32に入射する。
【0025】
この照明光学系32は3枚のシリンドリカルレンズ321〜323により構成されており、光源部31から出射してきた光ビームはシリンドリカルレンズ321〜323の順で通過して空間光変調器33に入射する。これらのうちシリンドリカルレンズ321はY方向にのみビーム拡大機能(負の集光機能)を有しており、シリンドリカルレンズ321を通過した光は光軸OAに垂直な光束断面が円形から次第にY方向に長い楕円形へと変化する。一方、光軸OAおよびY方向に垂直なX方向に関して、シリンドリカルレンズ321を通過した光の光束断面の幅は(ほぼ)一定とされる。また、シリンドリカルレンズ322はY方向にのみ正の集光機能を有しており、シリンドリカルレンズ321を通過した光ビームはシリンドリカルレンズ322によりビーム整形される。つまり、シリンドリカルレンズ322を通過した光は、光束断面がY方向に長い一定の大きさの楕円形とされてシリンドリカルレンズ323へと入射する。このシリンドリカルレンズ323は、X方向にのみ正の集光機能を有し、X方向のみに着目した場合には、図4(b)に示すように、シリンドリカルレンズ323を通過した光LIは集光しつつ、空間光変調器33の入射面331aへと入射する。また、Y方向に関しては、図4(a)に示すように、シリンドリカルレンズ323からの光ビームは平行光ビームとして空間光変調器33に入射する。
【0026】
空間光変調器33は、光変調素子331と、電極基板332と、電気回路基板336と、光変調素子331の強誘電体基板(電気光学結晶基板)内で電界を発生させて強誘電体基板の電気光学結晶を伝播する光を変調する変調部338(図3)とを有している。
【0027】
図5は光変調素子および変調部の構成を示す図である。上述のとおり、空間光変調器33の光変調素子331は、周期分極反転構造を有する(Periodically Poled)電気光学結晶により構成された強誘電体基板を有しており、SiOなどの絶縁層および接合部を介して強誘電体基板を電極基板332で支持している。この実施形態では、酸化マグネシウム(MgO)を添加したリチウムナイオベート(LiNbO3:Lithium Niobate)やストイキオメトリリチウムタンタレート(SLT:Stoichiometric Lithium Tantalate)の単結晶基板に対して処理を加えることで、周期分極反転構造を有する強誘電体基板が薄膜状に形成されている。そして、この強誘電体基板の下面に対して絶縁層が全面均一に形成され、さらに絶縁層に接合部が形成されている。
【0028】
そして、空間光変調器33では、図4および図5に示すように、電極基板332の上方主面には配線領域Raと、光変調素子331を載置するための載置領域Rbとが設けられている。そして、複数の個別電極333の各々が配線領域Raから載置領域RbまでZ軸方向に延設されている。より詳しくは、各個別電極333の(−Z側端部)は配線領域RaでZ方向に延び、載置領域Rbに達している。この載置領域Rbでは各個別電極333の(+Z側端部)がZ方向にほぼ平行に延設されている。なお、本実施形態では各個別電極333のうち配線領域Ra上に位置する部位、つまり各個別電極333の(−Z側端部)は後述する誘導結合の被誘導部であり、以下において「被誘導パターン部」と称する。また、載置領域Rb上に位置する部位、つまり各個別電極333の(+Z側端部)は光変調素子331の強誘電体基板に対向しており、周期分極反転構造を制御するための電極部として機能するため、以下において「個別電極部」と称する。
【0029】
これらの個別電極333を覆うようにSiOなどの絶縁材料で構成される保護膜(図示省略)が電極基板332の上方主面全体に形成されて個別電極333を保護するとともに、保護膜の表面(上方主面)を平坦化している。そして、載置領域Rbでは、載置領域Rbに相当する位置上に光変調素子331が載置されている。こうして、図5に示すように各個別電極333の個別電極部が保護膜を介して強誘電体基板の下方主面と対向して配置される。
【0030】
このように配置された光変調素子331では、強誘電体基板の上方主面全体を覆うように共通電極335が絶縁層(図示省略)を介して形成されている。そして、共通電極335に対して共通駆動信号が与えられる。これに対し、上記した複数の個別電極333の各々に対しては、個別駆動信号が電気回路基板336の上方主面に設けられた配線(図示省略)を介して誘導結合によって変調部338から付与される。なお、共通駆動信号および個別駆動信号、ならびに駆動信号に基づく光変調動作については、後で詳述する。
【0031】
この電気回路基板336の上方主面上には、被誘導パターン部と同一形状を有する、導電材料で構成される配線が被誘導パターン部(個別電極333のうち配線領域Ra上に位置する部位)と一対一で対応して形成されている。このため、互いに一対一で対向する電極間は誘導結合によって電気的に接続される。また、電気回路基板336の下方主面上には、変調部338を構成する複数の電子部品3381が搭載されており、電気回路基板336を介して個別電極333と電気的に接続され、次に説明するように制御ユニット200からの各種信号およびデータに応じてそれぞれ独立して個別電極333に電圧を付与する。
【0032】
変調部338には、図3に示すように、制御ユニット200から露光タイミング信号SG1、露光位置信号SG2および露光データSG3が与えられる。ここで、個別電極333の個数、つまりチャンネル数が少ない場合には、特許文献1に記載の装置と同様に、チャンネル毎に設けられるアナログ電圧駆動回路を一対一で制御ユニット200のバッファ205と電気的に接続し、バッファ205から与えられる露光データSG3に対応する個別駆動信号を電極に付与するように構成してもよい。しかしながら、チャンネル数の増大にしたがってノイズやクロストークなどの影響によって駆動信号の品質が悪くなるとともに、物理的には配線の束が太くなるために配線経路の確保も困難となる。例えば配線が数千本程度以上の場合には、上記問題を避けるために、次に説明するようにシリアライズ部およびデシリアライズ部を組み合わせた方式を1段または複数段設けるのが望ましい。
【0033】
本実施形態では、図5に示すように、変調部338では、複数のチャンネルをまとめて高速のシリアル信号に変換するシリアライズ部3382が複数個設けられるとともに、各シリアライズ部3382に対応してデシリアライズ部3383が設けられている。このようなシリアライズ部3382およびデシリアライズ部3383には、例えば高速のトランシーバを含むTLK1501(テキサス・インスツルメンツ社製 Max1.5Gb/s
)を使用することができる。
【0034】
ここで、具体例を例示してシリアライズ部3382およびデシリアライズ部3383を設けることの優位性について説明する。露光タイミング信号が1[Mbps]の場合、出力1チャンネル当たり1[Mbps]、8ビットとすると、8[Mbps/CH]となる。そして、チャンネル数が5000とすると、露光タイミング信号毎に40[Gbps](=8[Mbps/CH]×5000[CH])の露光データを転送する必要がある。そこで、上記したデバイス(TLK1501)を使用してシリアライズ部3382およびデシリアライズ部3383を構成する場合には、露光データ以外のオーバーヘッドの信号を無視して計算すると、187CH毎に約1.5[Gbps]の速度になるので、5000CHでは27本の高速の信号線を用いればよい。このように信号線の本数を大幅に削減することができる。なお、距離が長くなる場合には、光通信用のデバイスを使用してもよい。
【0035】
図5に戻って説明を続ける。各シリアライズ部3382では、露光タイミング信号SG1に基づいて所定のタイミング信号がタイミング発生部3384から出力されてシリアライザ3385でのシリアル化処理が実行され、これにより生成される高速シリアル信号がアンプにより増幅され、各シリアライズ部3382に対応するデシリアライズ部3383にシリアル伝送される。
【0036】
また、各デシリアライズ部3383においても、露光タイミング信号SG1に基づいて所定のタイミング信号を発生させるタイミング発生部3386が設けられるとともに、高速シリアル信号をチャンネル毎にデシリアライズするデシリアライザ3387が設けられている。さらに、各デシリアライズ部3383に対応してデシリアライズされた露光データに対応する電圧を有する駆動信号を作成するアナログ電圧駆動回路3388、3389が設けられている。なお、本実施形態では、特許文献1と同様に個別電極333に与える個別駆動信号を生成するためにチャンネル数と同数の個別電極用のアナログ電圧駆動回路3388が設けられるのみならず、共通電極335に与える共通駆動信号を生成するための単一の共通電極用アナログ電圧駆動回路3389も設けられている。このように共通電極用アナログ電圧駆動回路3389を追加的に設けた理由については、後で詳述する。
【0037】
これら個別電極用アナログ電圧駆動回路3388および共通電極用アナログ電圧駆動回路3389は図6に示すように同一構成を有している。すなわち、アナログ電圧駆動回路3388,3389のいずれも、2つのラッチ回路338a、338b、ディジタル・アナログ変換回路(DAC)338cおよびオペアンプ338dが直列接続されている。そして、例えば個別電極用アナログ電圧駆動回路3388および共通電極用アナログ電圧駆動回路3389に接続されるデシリアライザ3387(図5中の符号3387A)からデシリアライズされた露光データSG3が各アナログ電圧駆動回路3388、3889の第1ラッチ回路338aに与えられるとともに、露光位置信号SG2がデコーダ338eを介して第1ラッチ回路338aに与えられ、チャンネル毎に光のON/OFFおよび階調制御が決定され、それを示す信号が第2ラッチ回路338bに与えられる。
【0038】
そして、個別電極用アナログ電圧駆動回路3388において、第2ラッチ回路338bにタイミング発生部3386から出力されるタイミング信号、つまり出力トリガ信号が与えられると、そのタイミングで各第2ラッチ回路338bからDAC338cを介してオペアンプ338dにアナログ信号が与えられ、オペアンプ338dからの出力信号が個別駆動信号として個別電極333に付与される。また、共通電極用アナログ電圧駆動回路3389においても、個別電極用アナログ電圧駆動回路3388と同様に、第2ラッチ回路338bにタイミング発生部3386から出力されるタイミング信号、つまり出力トリガ信号が与えられると、そのタイミングで各第2ラッチ回路338bからDAC338cを介してオペアンプ338dにアナログ信号が与えられ、オペアンプ338dからの出力信号が共通駆動信号として共通電極335に付与される。
【0039】
なお、本実施形態では、後述するように共通電極335に与える電位を接地電位(0[V])とV+[V]に交互に切り替えながら各個別電極333に与える電位を制御するため、図7に示すタイミングで動作する。第1ライン目の露光を行うために、露光データSG3に含まれる電位データ、つまり共通電極335の電位が0[V]のときの各個別電極333に与える電位を示す電位データSD1-1と、共通電極335の電位を0[V]とする電位データCD1とが与えられ、その後に出力される出力トリガ信号に同期して各電位データSD1-1、CD1に対応する電位の駆動信号が個別電極333および共通電極335に出力される。また、共通電極335の電位がV+[V]のときの各個別電極333に与える電位を示す電位データSD1-2と、共通電極335の電位をV+[V]とする電位データCD2とが与えられ、その後に出力される出力トリガ信号に同期して各電位データに対応する電位の駆動信号が個別電極333および共通電極335に出力される。こうして、1ライン分の露光が実行される。また、それ以降のライン露光についても同様にして実行される。
【0040】
このように、空間光変調器33では、信号発生部206からの露光データSG3などに応じて、共通電極335に対して共通電極用アナログ電圧駆動回路3389を介して共通駆動信号が与えられるとともに、各チャンネルを構成する個別電極333に対して個別電極用アナログ電圧駆動回路3388を介して個別駆動信号がそれぞれ独立して与えられる。これによって、光変調素子331に対して双極性電圧パルスが印加され、光変調素子331の周期分極反転構造内では、共通電極335と各個別電極333の電位差に応じて両電極333、335の間で生じる電界により分極方位に従った屈折率変化が発生して上記電位差に応じた回折効率を有する回折格子が形成される。その結果、各チャンネルでは、回折効率に応じた光量の回折光DLが発生するとともに、残りの光が0次光L0として光変調素子331を通過する。一方、電位差がゼロのチャンネルでは入射光がそのまま0次光L0として光変調素子331を通過する。なお、双極性電圧パルスの入力態様および光変調動作については、後で詳述する。
【0041】
図4に戻って、光学ヘッド3の構成説明を続ける。上記のように構成された空間光変調器33の出射側(図4の右手側)に、X方向にのみ正の集光機能を有するシリンドリカルレンズ34、レンズ351、アパーチャ3521を有するアパーチャ板352、レンズ353がこの順序で配置されている。なお、この実施形態では、これらの光学要素部品34、351〜353よりなる投影光学系がXY平面において入射レーザ光L1の進む方向(空間光変調器33の入射側の光軸OA)に対して回折角度に応じた角度だけ傾斜して配置されている。
【0042】
この投影光学系のうちシリンドリカルレンズ34はX方向にのみ正の集光機能を有しており、空間光変調器33を通過する光は、図4(b)に示すように、
シリンドリカルレンズ34にてX方向に関してほぼ平行な光とされ、正の集光機能を有するレンズ351に入射する。
【0043】
ここで、レンズ351の前側焦点は個別電極333の(+Z)側の端部近傍における光変調素子331内の位置とされ、レンズ351の後側焦点にアパーチャ3521が位置するようにアパーチャ板352が配置される。そして、光変調素子331中で露光データに応じた回折効率で回折を受けて光変調素子331から射出される回折光DLは、図4(a)の破線で示すようにレンズ34、351を介してアパーチャ3521に集光し、当該アパーチャ3521を通過してレンズ353に入射する。そして、このレンズ353により回折光DLは基板Wの表面上に照射される。例えば第1、3〜5チャンネルの個別電極333と共通電極335との間に電位差を付与したときには、これらのチャンネル(1、3〜5ch)に対応する回折光DLが上記のようにして基板Wの表面上に照射されて各チャンネル(1、3〜5ch)に対応してスポット状に各電位差に応じた光量で露光される。一方、2チャンネルの光、つまり0次光L0は、図4(a)中に実線にて示すように、光軸OAと平行に光変調素子331から出射されるため、アパーチャ3521から離れた位置、つまりアパーチャ板352の表面で遮蔽される。
【0044】
このように、本実施形態では、レンズ351、アパーチャ板352およびレンズ353により、いわゆるシュリーレン光学系35が構成されている。このシュリーレン光学系35は両側テレセントリック光学系と同等の配置であり、図4に示すように、複数のチャンネルを有する光学ヘッド3で基板Wに露光する場合にも、その露光面(基板Wの表面)に対して各チャンネルの回折光DLの主光線(図4中の破線)は垂直であり、露光面のピント方向Zの変動に対して倍率の変化を受けない。その結果、高精度な露光が可能となる。このように、この実施形態では回折光DLを用いて基板Wへのパターン描画を行っている。また、上記のように配置されたレンズ34およびシュリーレン光学系35が、空間光変調器33からの光を基板Wの表面(被露光面、被描画面)に案内している。
【0045】
なお、上記のように構成されたパターン描画装置100は装置全体を制御するために制御ユニット200を有している。この制御ユニット200は、CPU201、記憶部202、演算部203、ハードディスクドライブ(HDD)204、バッファ205、信号発生部206、モータ制御部207等を有している。本実施形態では、演算処理を行う演算処理部として、変調部338に与えるための露光データSG3を演算する専用の演算部203と、露光データの演算処理を除く演算処理を行うCPU201とを有している。このうちCPU201は、記憶部202に記憶されているプログラムや各種データにしたがって装置全体を制御するための演算処理を実行する。
【0046】
一方、演算部203は、ハードディスクドライブ204内の露光用データに基づいて露光データSG3を演算し、1スキャン単位でバッファ205に出力する。このように、本実施形態では、露光データSG3の演算を専門的に行う演算部203を設けているが、CPU201の演算処理に余裕がある場合には、CPU201において露光データSG3の演算を行い、当該露光データSG3をバッファ205に出力するように構成してもよい。この場合、演算部203を省略することができる。こうしてバッファ205に一時的に保存される露光データSG3は信号発生部206から出力される露光タイミング信号SG1に同期して1スキャン単位で変調部338に出力される。そして、変調部338は、個別電極333の各々と、共通電極335との間に双極性電圧パルスを印加して所定の周期で光変調素子331を通過する光を変調させる。
【0047】
ここで、双極性電圧パルスを印加するのは次の理由からである。空間光変調器33を駆動するためには、例えば図8(a)に示すように、共通電極335に接地電位を固定的に与えながら個別電極333に与える電位を所定振幅WPの正極側電位を所定周期PTで与えて駆動する、いわゆるユニポーラ型駆動を採用することができる。なお、同図および後の同種の図面における波形は入力電圧に対する回折光の光量変化を示すものであり、光変調素子331の光変調特性を示している。この光変調特性は共通電極335と個別電極333との電位差に応じてsinθで変化する。
【0048】
このように個別電極333に個別駆動信号として単極性信号を与えてユニポーラ型駆動した場合、光変調素子331に電荷が残留し、結晶特性が変動してしまうことがある。その結果、光変調素子331の光変調特性が変化してしまい、所望の光変調を行うことが困難となる。
【0049】
そこで、例えば図8(b)に示すように、単極性信号の代わりに双極性信号を与えて空間光変調器33を駆動することが考えられる。つまり、所定周期PTを2n(同図(b)では、n=1)に分割し、正極側電位および負極電位に交互に入れ替わる双極性信号を個別電極333に与えて空間光変調器33を駆動してもよい(バイポーラ型駆動)。ただし、この駆動態様を採用した場合、各個別電極333に与える個別駆動信号の電位を正極側および負極側にそれぞれ振幅WPだけ振る必要があり、それに対応すべく、個別電極用アナログ電圧駆動回路3388のオペアンプ338dに正負電源で使用する必要があり、個別電極333に与える電圧の振幅幅は(2×WP)となる。このため、オペアンプ338dに正極電源電流と負極電源電流が流れ、単電源で使用する場合に比べて消費電力が2倍に増加する。しかも、各チャンネルに対して個別電極用アナログ電圧駆動回路3388を設けているため、オペアンプ338dの個数はチャンネル数に相当し、ユニポーラ型駆動に比べて消費電力の増大は避けられない。
【0050】
そこで、本実施形態では、図8(b)に示す比較例での双極性電圧パルスのパルス振幅(2×WP)よりも小さな振幅WPで変化する個別駆動信号を個別電極333に与える一方、1/2周期でかつ上記振幅WPで変化する共通駆動信号を共通電極335に与えることで、比較例と同様の双極性電圧パルスを光変調素子331に印加している。より詳しくは、共通電極用アナログ電圧駆動回路3389は、PT/2の周期で0[V]と、V+[V]との2段階に切り替わる共通信号を生成し、露光タイミング信号SG1に同期して共通電極335に印加する。なお、本実施形態では、電位V+[V]は、光変調特性、つまりsinθの(π/2)に対応する電位に設定している。
【0051】
本実施形態では、共通電極335に0[V]が印加される間、比較例と同様にして個別電極333に与えられる電位に応じた光量の回折光DLが光変調素子331から射出される(図9(a))。一方、共通電極335にV+[V]が印加されると、図9(b)に示すように、光変調素子331の光変調特性(波形)が印加電位V+[V]だけシフトする。このため、例えば個別電極333に電位V+[V]を印加すると、当該個別電極333と共通電極335の間の電位差はゼロとなり、回折光の光量はほぼゼロとなる。また、個別電極333に印加する電位を0[V]以上で、かつV+[V]よりも低い電位に設定すると、同図(b)に示すように、両電極333、335間の電位差は大きくなり、それに伴って回折光の光量も増大する。
【0052】
そこで、本実施形態では、所定周期PTのうちの前半(図9(a)中のT1-1、T2-1、T3-1、…)においては共通電極335に電位0[V]を与えながら個別電極333にVn(ただし、0≦Vn≦V+)を印加し、後半(図9(b)中のT1-2、T2-2、T3-2、…)においては共通電極335に電位V+[V]を与えながら個別電極333に電位((V+)−Vn)を印加している。このように個別電極333に印加する個別駆動信号の電圧振幅を0[V]からV+「V]の振幅WPとし、比較例と同様に双極性電圧パルスを光変調素子331に与えている。例えば図10に示すように、電位V+を10[V]に設定し、個別電極333に与える電位を共通電極335に与える電位の切替に応じて0[V]以上V+[V]以下の範囲で変更させることでバイポーラ型駆動が可能となる。
【0053】
図11は、図8(b)に示す比較例と、図9に示す本発明の第1実施形態とを対比した図である。いずれもクロック信号に基づき個別駆動信号の電位を変化させることで双極性電圧パルスを光変調素子331に与えて回折光の光量を多段階に変化させて階調制御しているが、本発明の第1実施形態によれば、上記したように共通電極335に与える電位を0[V]と正極側のV+「V]とに交互に切り替え、それに応じて個別電極333に印加する個別駆動信号の電圧振幅を振幅WP(0[V]〜V+「V])で変化させているため、各個別電極用アナログ電圧駆動回路3388でオペアンプ338dを単電源で駆動することができ、オペアンプ338dの消費電力を抑制することができる。もちろん、共通電極335に対して0[V]とV+「V]の電位を与えるために、共通電極用アナログ電圧駆動回路3389を追加する必要があり、共通電極用アナログ電圧駆動回路3389のオペアンプ338dによる電力消費が新たに発生するが、個別電極用アナログ電圧駆動回路3388の個数が共通電極用アナログ電圧駆動回路3389に比べて格段に多いため、トータルでの電力消費量は大幅に削減される。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、共通電極335と複数の個別電極333との間に双極性電圧パルスを空間光変調器33に印加して光を変調させる空間光変調器33で消費される電力を低減させることができる。
【0055】
このように、第1実施形態では、露光データSG3を含む信号が本発明の「データ信号」に相当し、2×WPが本発明の「双極性電圧パルスのパルス幅」に相当している。また、個別電極用アナログ電圧駆動回路3388が本発明の「個別駆動信号生成部」に相当し、共通電極用アナログ電圧駆動回路3389が本発明の「共通駆動信号生成部」に相当している。また、「電位V+」が本発明の「第1電位」および「第2電位」に相当している。
【0056】
ところで、上記第1実施形態では、光変調素子331の光変調特性がオフセットしていない、つまり光変調素子331の固有値であるオフセット電圧が0[V]であるが、オフセット電圧が0[V]以外のときには、光変調特性はオフセット電圧分だけオフセットする。この場合、上記第1実施形態をそのまま適用すると、図12に示す問題が生じる。図12はオフセットによる回折光の光量変動を示す図である。同図中で破線にて示す波形はオフセットが生じていないときの光変調素子331の光変調特性を示し、実線にて示す波形はオフセットが生じたときの光変調素子331の光変調特性を示しており、オフセットにより光変調特性はオフセット電圧分だけシフトする。そして、第1実施形態で設定した電位をそのまま個別電極333および共通電極335に印加すると、光変調素子331から射出される回折光DLの光量が不足したり、逆に過剰となることがある。その結果、所望の回折光DLの光強度が得られず、露光光量の過不足が生じ、その結果、高品質なパターン描画が不可能となる。そこで、本発明の第2実施形態では、オフセット分だけ共通電極335に印加する電位を調整してオフセットによる影響をキャンセルしている。また、本発明の第3実施形態では、オフセット分だけ個別電極333に印加する電位を調整してオフセットによる影響をキャンセルしている。以下、第2実施形態および第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0057】
図13は、本発明にかかる空間光変調器の第2実施形態における動作を示す図であり、図12から共通電極335に印加する電位を−V0[V]だけシフトした後の図である。この第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、オフセット電圧に応じて共通電極335に印加する電位を調整している点のみであり、その他の構成は基本的に第1実施形態と同様である。
【0058】
この第2実施形態では、オフセット電圧V0だけ光変調素子331の光変調特性がシフトしている場合、そのオフセット電圧V0を予め求めるとともに、制御ユニット200のハードディスクドライブ204に記憶させる。また、演算部203は、時間T1-1、T2-1、…、Tn-1の間に共通電極335に与える電位が−V0[V]となるように電位データCD1を設定し、時間T1-2、T2-2、…、Tn-2の間に共通電極335に与える電位が(V+)−V0[V]となるように電位データCD2を設定する。このように共通電極335に与える電位を調整することでオフセット方向と逆の方向、例えば図12に示すように正極側にオフセットしている場合には、共通電極335の電位調整によって負極側にシフトしてオフセットがキャンセルされる。
【0059】
ここで、共通電極335および個別電極333に与える電位を一般化して電位関係を整理し、図14を参照しつつ説明する。まず、当該説明において使用する符号について定義する。
【0060】
Voffset:光変調素子331のオフセット電圧、
Vp :オフセット値を中心とする印加電圧
Vcom0 :共通電極335の電位
Vcom1 :時間T1-1、…、Tn-1での共通電極335の電位
Vcom2 :時間T1-2、…、Tn-2での共通電極335の電位
Va0 :共通電極335の電位からの正極側印加電位の初期値
Vb0 :共通電極335の電位からの負極側印加電位の初期値
Va1 :時間T1-1、…、Tn-1での共通電極335の電位からの正極側印加電位
Vb1 :時間T1-1、…、Tn-1での共通電極335の電位からの負極側印加電位
Va2 :時間T1-2、…、Tn-2での共通電極335の電位からの正極側印加電位
Vb2 :時間T1-2、…、Tn-2での共通電極335の電位からの負極側印加電位
また、図14中の特性波形は本来sinカーブあるが、説明理解を容易にするため、直線で図示している。
【0061】
所定周期PTの前半、つまりクロック信号の前半分の時間時間T1-1、…、Tn-1では、図14(a)に示すように、光変調素子331の光変調特性を0[V]中心として振らせるために共通電極335の電位Vcom0をオフセット電圧Voffset分シフトしている。したがって、
Vcom1=Vcom0−Voffset
となる。また、共通電極335の電位が電位Vcom1にシフトした時の電位Va0の電位Va1を求めると、
Va1=Va0+Vcom1(=Va0+(Vcom0−Voffset)=Va0+Vcom0)
となる。
【0062】
一方、所定周期PTの後半、つまりクロック信号の後半分の時間時間T1-2、…、Tn-2では、図14(b)に示すように、光変調特性の負極性側で動作させるために、共通電極335の電位をVcom2に振る。そして、共通電極335の電位がVcom2にシフトした時の電位Vb0の電位Vb2を求めると、
Vb2=Vb0+Vcom2
となる。
【0063】
例えばVcom0=0[V]、Vcom1=−4[V]、Vcom2=17[V]、Voffset=4[V]の場合、共通電極335に電位Vcom1を印加したときの特性波形のオフセット電圧Voffset1=0[V]、共通電極335に電位Vcom2を印加したときの特性波形のオフセット電圧Voffset2=21[V]となる。そして、共通電極335に電位Vcom0、Vcom1、Vcom2を印加するときの電位関係を図15にまとめた。同図に示すように、オフセット値からの電位差は、正極側と負極側とで同一となる。
【0064】
図16は本発明にかかる空間光変調器の第3実施形態における動作を示す図である。この第3実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、個別電極333に対してオフセット電圧を加算した電位を与えている点のみであり、その他の構成は基本的に第1実施形態と同様である。
【0065】
この第3実施形態では、演算部203が記憶部202に記憶されているオフセット電圧V0を読み出し、これを加算して各個別電極333に与える電位を示す電位データSD1-1、SD1-2、…を作成することでオフセットの影響を抑制することができる。なお、共通電極335の電位調整と、個別電極333の電位調整とを組み合わせてオフセットの影響を抑制するように構成することも可能である。また、各個別電極333に印加する個別駆動信号の電圧振幅も、第1実施形態と同様に、図8(b)に示す比較例に比べ、半分程度となるため、オペアンプ338dの消費電力を抑制することができ、上記第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0066】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記第1実施形態では、共通電極335に対して0[V]と正極側の電位V+[V]とを交互に印加するように構成し、個別電極333に印加する個別駆動信号の電圧振幅を振幅WP(0[V]〜V+「V])で変化させているが、共通電極335に対して0[V]と負極側の電位V-[V]とを交互に印加するように構成してもよい。この場合、各個別電極333に印加する個別駆動信号の電圧振幅を振幅WP(0[V]〜V-「V])で変化させればよく、各オペアンプ338dを単電源で駆動することができ、オペアンプ338dの消費電力を抑制することができ、上記第1実施形態と同様の作用効果が得られる。なお、ここでは、電位V-は、光変調特性、つまりsinθの(−π/2)に対応する電位を意味している。
【0067】
また、共通電極335に与える電位の組み合わせは、0[V]とV+[V]、あるいは0[V]とV-[V]に限定されるものではない。例えば図17に示すように、V-/2[V]とV+/2[V]とを交互に共通電極335に印加するように構成してもよい(第4実施形態)。この場合、各個別電極333に印加する個別駆動信号の電圧をV-/2[V]を基準とすればよく、個別駆動信号の電圧振幅を振幅WP(V-/2[V]〜V+/2[V])で変化させればよい。したがって、各個別電極333に印加する個別駆動信号の電圧振幅も、第1実施形態と同様に、図8(b)に示す比較例に比べ、半分程度となるため、オペアンプ338dの消費電力を抑制することができ、上記第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0068】
また、上記実施形態では、周期PTを2分割し、PT/2毎に共通電極335と個別電極333との間で極性を反転させて双極性電圧パルスを光変調素子331に印加しているが、周期PTを2×m(m≧2の整数)倍に分割し、交互に極性を反転させるように構成してもよい。すなわち、PT/2n(ただし、nは自然数)の周期で極性を反転させるように構成すればよく、共通電極用アナログ電圧駆動回路3389で双極性電圧パルスのパルス振幅(2×WP)よりも小さな振幅で変化する共通駆動信号を作成して共通電極335に印加しながら、各個別電極用アナログ電圧駆動回路3388で双極性電圧パルスのパルス振幅(2×WP)よりも小さな振幅で変化する個別駆動信号を作成して各個別電極333に印加することで、双極性電圧パルスを光変調素子331に与えるように構成すればよい。
【0069】
また、上記実施形態では、回折光DLを基板Wに照射してパターンを描画するパターン描画装置に本発明を適用した場合について説明した。しかしながら、0次光L0を基板Wに照射してパターンを描画するパターン描画装置に対しても本発明を適用可能である。
【0070】
また、上記実施形態では、強誘電体基板(電気光学結晶基板)の一方主面に共通電極335を対向させるとともに、他方主面に複数の個別電極333を対向して形成した光変調素子331を用いた空間光変調器33に対して本発明を適用しているが、複数の個別電極333と共通電極335がともに強誘電体基板の一方主面(または他方主面)と対向するように設けた空間光変調器33に対して本発明を適用することができる。
【0071】
また、パターンを描画する記録材料は、プリント配線基板や半導体基板等の感光性材料が塗布された、あるいは、感光性を有する他の材料であってもよく、光の照射による熱に反応する材料であってもよい。
【0072】
さらに、上記のように構成された空間光変調器33はパターン描画以外の用途に用いられてもよく、この場合、光の照射の対象物も記録材料以外であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
この発明は、電気光学結晶を用いた空間光変調器、該空間光変調器の駆動方法、および該空間光変調器を用いた露光装置全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
3…光学ヘッド(露光装置)
31…光源部
33…空間光変調器
34…シリンドリカルレンズ(光学系)
35…シュリーレン光学系
331…光変調素子
333…個別電極
335…共通電極
338…変調部
3388…個別電極用アナログ電圧駆動回路(個別駆動信号生成部)
3389…共通電極用アナログ電圧駆動回路(共通駆動信号生成部)
PT…周期
V0、Voffset1、Voffset2…オフセット電圧
W…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ信号に応じて、電気光学結晶基板の一方主面に対向して設けられる複数の個別電極の各々と、前記電気光学結晶基板の前記一方主面または他方主面に対向して設けられる共通電極との間に双極性電圧パルスを印加して所定の周期で前記電気光学結晶基板を通過する光を変調させる空間光変調器であって、
各個別電極に対応して設けられ、各個別電極に対応するデータ信号によって前記周期の1/2n(ただし、nは自然数)の周期でかつ前記双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する個別駆動信号を作成する、複数の個別駆動信号生成部と、
前記共通電極に対応するデータ信号によって前記周期の1/2nの周期でかつ前記双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する共通駆動信号を作成する共通駆動信号生成部とを備え、
各個別駆動信号生成部が個別駆動信号を各個別駆動信号生成部と対応する個別電極を与えるとともに前記共通駆動信号生成部が共通駆動信号を前記共通電極に与えて前記双極性電圧パルスを印加することを特徴とする空間光変調器。
【請求項2】
前記共通駆動信号は、前記周期の1/2nの周期で、接地電位と第1電位に交互に切り替わる信号であり、
各個別駆動信号は、前記周期の1/2nの周期で、接地電位と第2電位との間で電位が変化する信号である請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
前記第1電位および前記第2電位は前記接地電位に対して同一の極性でかつ同一電位である請求項2に記載の空間光変調器。
【請求項4】
光の変調特性がオフセット電圧だけ第1極性側にシフトしている請求項1ないし3のいずれか一項に記載の空間光変調器であって、
前記共通駆動信号は前記オフセット電圧だけ前記第1極性と反対の第2極性側にシフトされる空間光変調器。
【請求項5】
光の変調特性がオフセット電圧だけ第1極性側にシフトしている請求項1ないし3のいずれか一項に記載の空間光変調器であって、
各個別駆動信号は前記オフセット電圧だけ前記第1極性側にシフトされる空間光変調器。
【請求項6】
データ信号に応じて、電気光学結晶基板の一方主面に対向して設けられる複数の個別電極の各々と、前記電気光学結晶基板の前記一方主面または他方主面に対向して設けられる共通電極との間に双極性電圧パルスを印加して所定の周期で前記電気光学結晶基板を通過する光を変調させる空間光変調器の駆動方法であって、
前記共通電極に対し、前記共通電極に対応するデータ信号によって前記周期の1/2nの周期でかつ前記双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する共通駆動信号を与える一方、
各個別電極に対し、各個別電極に対応するデータ信号によって前記周期の1/2n(ただし、nは自然数)の周期でかつ前記双極性電圧パルスのパルス振幅よりも小さな振幅で変化する個別駆動信号を与えることで、
前記双極性電圧パルスを印加することを特徴とする空間光変調器の駆動方法。
【請求項7】
変調された光を被露光面に照射する露光装置であって、
光源部と、
前記光源部からの光が入射される請求項1ないし5のいずれか一項に記載の空間光変調器と、
前記空間光変調器と前記被露光面の間に配置されて前記電気光学結晶基板からの変調光を前記被露光面に導く光学系と
を備えたことを特徴とする露光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−50513(P2013−50513A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187071(P2011−187071)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】