説明

窒化タングステン膜の成膜方法

本発明は、タングステン化合物ガスで構成された第一の原料ガスを供給する第一の原料ガス供給工程と、還元ガスを供給する還元工程と、タングステン化合物ガスで構成された第二の原料ガスを供給する第二の原料ガス供給工程と、窒化ガスを供給する窒化工程とを有しており、基板5上にタングステンが析出する工程と、窒化タングステンが形成される工程とが別々に行われるようになっているので、各ガスの流量、各ガスを供給したときの圧力、供給時間、又は、各工程の回数や順番を変えることで、タングステンが析出される量と、窒化タングステンが形成される量が制御することが容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は成膜方法に関し、特に半導体装置の窒化タングステン膜を成膜する方法に関するものである。
【背景技術】
従来から知られている熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法による薄膜の形成は、多くの場合、加熱された基板を設置してある反応槽に、反応材料となるガスを供給し、空間中か基板表面上かで熱化学反応を起こさせ、基板上に膜を析出させるものであった。
この方法によって、W(タングステン)やAl(アルミニウム)のような金属膜やSiO(二酸化ケイ素)等の絶縁膜が形成され、配線の形成や層間絶縁膜として半導体装置に応用されてきた。
また最近ではTiN(窒化チタン)やWN(窒化タングステン)のようなチッ化膜がW用の密着層やCu配線のバリア膜として使用されている。しかし半導体装置の構造が微細になるに従い、CVDによって形成されるそれらの薄膜に要求される性能も次第に高度になってきた。
例えば窒化チタン膜の成膜ではアスペクト比が10以上のコンタクトホールの側壁に一様に成膜することが要求されるようになり、また窒化物によるバリア膜では、5nm以下の膜厚でビィアホールの側壁に一様に成膜することや、その上で従来と同じ程度のコンタクト抵抗を維持することが必要とされるようになってきたが、従来の熱CVD法ではこのような性能を満たす膜を形成することは困難であった。
また、基板にCu配線が形成されている場合には、基板が350℃を超える高温に加熱されると、Cu配線にボイドが生じることがあるので、Cu配線の信頼性を維持するためには基板温度が350℃以下、より好ましくは300℃以下の条件で成膜を行うことが望ましい。
従来技術のバリア膜成膜方法には、フッ化タングステンガスのような原料ガスと、該原料ガスを窒化する窒化ガスと、該原料ガスを還元する還元ガスとを同じ反応槽に供給し、窒化タングステン(WxN)からなるバリア膜を成膜する方法が提案されており、この方法では500℃以下の低い温度条件でバリア膜を成膜することが可能である。(例えば、特開2001−23930号公報参照。)
しかしながら、この成膜方法においても基板を最低でも350℃以上に加熱する必要があるため、実際の工程では380℃程度に基板を加熱して成膜を行っており、Cu配線の信頼性を維持しながら成膜を行うことは困難であった。
また、金属含有ガスからなる原料ガスと、アンモニアのような窒化ガスとを交互に反応槽に供給して成膜を行い、窒化金属からなるバリア膜を形成する方法も提案されている。(例えば、特開平11−54459号公報を参照)。
この方法で窒化タングステン膜を形成すると、WNやWNのように窒素含有率が高く、シリコン基板に対する密着性が高い膜が形成されるが、膜の抵抗が高いためバリア膜には不適切であり、また、成膜レートも遅いため実用に用いるのは困難であった。
更に、従来技術では金属含有ガスからなる原料ガスと、水素ガスとを交互に反応槽に供給して成膜を行い、バリア膜を形成する方法も提案されている。(例えば、特許第3415207号公報、特開平6−89873号公報を参照。)
この方法でタングステン含有ガスを用いて成膜を行うと、タングステンの含有率が非常に高い膜を、早い成膜レートで成膜することができる。タングステン含有率が高い膜はCuに対する密着性が高い上に抵抗も小さい。しかしながら、このような膜はSiOとの密着性が悪いため、シリコン基板上に形成すると、膜が基板から剥離する場合がある。
本発明の他の先行技術文献には特開2000−212749号公報と、特開2001−319930号公報と、特開平7−252660号公報がある。
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、バリア膜の形成やアスペクト比が高いコンタクトホールへの成膜に適用可能な窒化タングステン膜の成膜方法を提供することである。
【発明の開示】
上記課題を解決するために、本発明は処理対象物が配置された減圧雰囲気中に、タングステン化合物のガスを主成分とする第一の原料ガスを供給した後、前記第一の原料ガスを前記減圧雰囲気から排気する第一の原料ガス供給工程と、前記減圧雰囲気中に前記タングステン化合物を還元する還元ガスを供給した後、前記減圧雰囲気中から前記還元ガスを排気する還元工程と、前記減圧雰囲気中に、タングステン化合物のガスを主成分とする第二の原料ガスを供給した後、前記減圧雰囲気中から前記第二の原料ガスを排気する第二の原料ガス供給工程と、前記減圧雰囲気中に、化学構造中に窒素を有し、タングステンと反応して窒化タングステンを生成する窒化ガスを供給した後、前記減圧雰囲気中から前記窒化ガスを排気する窒化工程とを有する窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は、前記第一の原料ガス供給工程と、前記還元工程のいずれか一方を先、他方を後にして前記第一の原料ガス供給工程と、前記還元工程とを連続して行うタングステン析出工程を有する窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は、前記窒化工程と、前記第二の原料ガス供給工程のいずれか一方を先、他方を後にして前記窒化工程と前記第二の原料ガス供給工程とを連続して行う窒化タングステン形成工程を有する窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は、前記第一の原料ガス供給工程と、前記還元工程のいずれか一方を先、他方を後にして前記第一の原料ガス供給工程と、前記還元工程とを連続して行うタングステン析出工程と、前記第二の原料ガス供給工程と、前記窒化工程のいずれか一方を先、他方を後にして前記第二の原料ガス供給工程と、前記窒化工程とを連続して行う窒化タングステン形成工程とを、所望の割合で繰り返して行う工程を含む窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は前記タングステン析出工程と、前記窒化タングステン形成工程とを交互に行う窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は前記繰り返しの割合中の前記タングステン析出工程の比率を、成膜開始から成膜終了までの間に大きくする窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は前記処理対象物の少なくとも一部表面に、金属又は半導体を露出させた窒化タングステン膜の成膜方法であって、前記金属又は前記半導体を露出させた状態で、前記タングステン析出工程を行う窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は、前記第一の原料ガスと、前記第二の原料ガスに、それぞれ同じガスを用いる窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は前記第一原料ガスと、前記第二の原料ガスのいずれか一方又は両方を6フッ化タングステンガスで構成する窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は、前記還元ガスとしてモノシランガスを用いる窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は、前記窒化ガスとしてアンモニアガスを用いる窒化タングステン膜の成膜方法である。
本発明は、前記第一、第二の原料ガス供給工程と、前記還元工程と、前記窒化工程では、前記処理対象物を200℃以上350℃以下の温度に維持する窒化タングステン膜の成膜方法である。
尚、本発明で減圧雰囲気とは、処理対象物を成膜する装置の外部雰囲気(大気圧)よりも低い圧力の雰囲気、即ち、真空雰囲気のことである。
本発明は上記のように構成されており、処理対象物が置かれた減圧雰囲気中に第一の原料ガスを供給すると、第一の原料ガスが処理対象物の表面に吸着する。
処理対象物が置かれた減圧雰囲気から第一の原料ガスを排出した後、該減圧雰囲気に還元ガスを供給すると、処理対象物に吸着された第一の原料ガスと還元ガスとが反応し、第一の原料ガスを構成するタングステン化合物のガスが還元されて処理対象物の表面にタングステンが析出される(タングステン析出工程)。
また、処理対象物が置かれた減圧雰囲気に第二の原料ガスを供給すると、処理対象物上に第二の原料ガスが吸着する。減圧雰囲気から第二の原料ガスを排出した後、窒化ガスを供給すると、処理対象物上で第二の原料ガスと窒化ガスとが反応し、窒化タングステンが形成される(窒化タングステン形成工程)
例えば、原料ガスが窒化される反応と、原料ガスが還元される反応とで、反応に必要な反応熱が大きく異なる場合、従来の熱CVD法のように、窒化ガスや還元ガスのような複数の反応性ガスと、原料ガスとを同時に減圧雰囲気に供給すると、必要な反応熱が小さい方の反応が優先的に進行するため、タングステン化合物のガスが還元される量と、タングステン化合物のガスが窒化される量とを制御することは困難であった。
上述したように、本願発明の成膜方法では、タングステン化合物の還元と窒化とを分けて行っており、第一、第二の原料ガスと還元ガスと窒化ガスの流量や供給時間をそれぞれ制御することで、タングステン化合物が還元される量と、タングステン化合物が窒化される量を容易に制御することが可能であり、所望の組成比率の窒化タングステン膜を形成することができる。
第一の原料ガス供給工程と、還元工程と、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とで一つの単位成膜工程とすると、1回の単位成膜工程で膜厚10nm以上の窒化タングステン膜を成膜することができる。例えば処理対象物の温度を高くすると、吸着される原料ガスの量が少なくなるので、350℃以下の温度範囲で処理対象物の温度を高くする、第一、第二の原料ガスの流量を小さくする、又は供給時間を短くすることで、膜厚10nm未満の薄膜を形成することも可能である。
10nmを超える厚い膜を形成したい場合には、単位成膜工程を繰り返せば膜厚が厚い窒化タングステン膜を得ることができる。
本発明ではタングステンの析出と、タングステンの窒化を別々に行うようになっているので、ガスの流量や供給時間を変えなくても、成膜工程の全体の工程数のうち、タングステン析出工程の割合を多くすれば、タングステン含有率の高い窒化タングステン膜が形成され、逆にタングステン窒化工程の割合を多くすれば窒素含有率が高い窒化タングステン膜が形成される。
窒化タングステン膜はタングステンと窒素との割合が変われば、その電気的特性や密着性が変わるので、処理対象物の成膜面に露出する物質や、必要とされる電気的特性に合わせて、タングステン析出工程と窒化タングステン形成工程との数を変え、使用目的に適した窒化タングステン膜を得ることができる。
例えば、シリコン基板と密着性の高い窒化タングステン膜を形成したい場合には、窒化タングステン形成工程の数を増やし、窒素含有率の高い窒化タングステン膜を形成すればよい。シート抵抗が小さい窒化タングステン膜を形成したい場合にはタングステン析出工程の数を増やし、タングステン含有率が高い窒化タングステン膜を形成すればよい。
タングステン析出工程と、窒化タングステン形成工程とを繰り返し行う場合、窒化タングステン形成工程の数に対するタングステン析出工程の数の比率を、成膜終了時に成膜開始時よりも大きくなるように、成膜開始から成膜終了までの間に変化させれば、処理対象物に密着する側でタングステンの窒素に対する比率が小さく、逆に、処理対象物が密着しない側の面はタングステンの窒素に対する比率が大きくなる。タングステンの窒素に対する比率が小さい場合にはシリコンに対する密着性が高く、タングステンの窒素に対する比率が大きい場合にはシート抵抗が小さくなるので、シリコン基板に対して密着性が高く、かつ、シート抵抗が小さいという2つの特性を兼ね備えた膜が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に用いられる成膜装置の一例を示す断面図である。
第2図は実施例3の窒化タングステン膜の膜表面からの深さと、各原子の原子濃度との関係を示すグラフである。
第3図は実施例4の窒化タングステン膜の膜表面からの深さと、各原子の原子濃度との関係を示すグラフである。
第4図は実施例5の窒化タングステン膜の膜表面からの深さと、各原子の原子濃度との関係を示すグラフである。
第5図は実施例6の窒化タングステン膜の膜表面からの深さと、各原子の原子濃度との関係を示すグラフ
各図中、符号1は成膜装置を示す。符号5は基板を示す。符号11は真空槽を示す。符号15は基板ホルダを示す。符号18は真空排気系を示す。符号19は加熱手段を示す。符号21はシャワーヘッドを示す。符号22は噴出口を示す。符号31〜34はガスボンベを示す。符号41〜44はマスフローコントローラを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下で図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。図1の符号1は本発明に用いる成膜装置の一例を示している。
この成膜装置1は真空槽11を有しており、真空槽11の一壁面にはシャワーヘッド21が取り付けられている。
真空槽11の外部には複数のガスボンベ(ここでは4個)31〜34が設けられている。各ガスボンベ31〜34はマスフローコントローラ41〜44を介してシャワーヘッド21にそれぞれ接続されており、各ガスボンベ31〜34に充填されたガスは、マスフローコントローラ41〜44によって流量が制御された状態で、シャワーヘッド21に供給されるようになっている。
真空槽11内のシャワーヘッド21と対向する位置には基板ホルダ15が配置されており、基板等の処理対象物を基板ホルダ15に保持させると、基板がシャワーヘッド21と対向するようになっている。次に、この成膜装置1を用いて窒化タングステン膜を成膜する工程について説明する。
先ず、基板を上述した成膜装置1とは別の処理装置に搬入し、該処理装置内に、減圧雰囲気を形成した後、該処理装置内にクリーニングガスを供給し、クリーニングガスのプラズマを発生させ、該プラズマにより基板の成膜面のクリーニングを行う(前処理工程)。
上述した成膜装置1の真空槽11には真空排気系18が接続されており、該真空排気系18により真空槽11内部を真空排気し、真空槽11内部に真空槽11の外部雰囲気よりも低圧の減圧雰囲気を形成しておく。この減圧雰囲気を維持したまま、前処理工程後の基板5を処理装置から真空槽11内に搬入すると、基板が減圧雰囲気に置かれる。
次いで、真空排気を続けながら、基板5の成膜面をシャワーヘッド21に向けた状態で、基板ホルダ15に保持させる。図1の符号5は基板ホルダ15に保持された基板を示している。
基板ホルダ15には加熱手段19が内蔵されており、該加熱手段19によって基板ホルダ15を昇温させると、基板ホルダ15に保持された基板5が加熱される。基板ホルダ15は不図示の温度センサーを有しており、該温度センサーによって基板5の温度を測定し、測定される温度に基づいて加熱手段の通電量を制御し、基板5を200℃以上350℃以下の成膜温度に維持する。
予め、各ガスボンベ31〜34には、第一、第二の原料ガスであるタングステン化合物のガスと、還元ガスと、添加ガスと、窒化ガスとがそれぞれ充填されている。シャワーヘッド21の基板5側の面には複数の噴出口22が設けられており、基板5の温度を上述した成膜温度に維持し、真空排気を続けながら、第一の原料ガスをシャワーヘッド21の噴出口22から噴出させると、基板5が置かれた減圧雰囲気中に第一の原料ガスが供給され、減圧雰囲気の圧力が上がる。
ガスボンベ31から第一の原料ガスを基板5が配置された減圧雰囲気に1秒以上の所定時間供給すると、第一の原料ガスを構成するタングステン化合物の分子が基板5の成膜面に多数吸着し、タングステン化合物の多分子層が形成される。
次いで、真空排気を維持しながら、第一の原料ガスの供給を停止し、この状態を所定時間続けると、基板5が置かれた減圧雰囲気から第一の原料ガスが排出され、減圧雰囲気の圧力が下がる(第一の原料ガス供給工程)。このとき、多分子層からタングステン化合物の一部が離脱するが、残りのタングステン化合物は基板5の表面に吸着された状態でとどまるので、基板5の表面にはタングステン化合物の吸着層が多分子層として残る。
次いで、基板5の温度を上述した成膜温度に維持し、真空排気を続けながら、ガスボンベ32から還元ガスを真空槽11内に所定時間供給し、基板5が置かれた減圧雰囲気の圧力を上げると、多分子層を構成するタングステン化合物が還元ガスにより還元されてタングステンが析出する。
還元ガスを所定時間供給後、真空排気を維持したまま、還元ガスの供給を停止し、その状態を所定時間続け、基板5が配置された減圧雰囲気から還元ガスを排出して減圧雰囲気の圧力を下げ、還元工程を終了する。
第一の原料ガス供給工程と、還元工程とで構成されるタングステン析出工程が終了した後では、基板5表面には析出したタングステンの層である多原子層が形成されている。
基板5の温度を上述した成膜温度に維持すると共に、真空排気を続けながら、ガスボンベ33からタングステン化合物のガスで構成された第二の原料ガスを真空槽11内に1秒以上の所定時間供給し、基板5が置かれた減圧雰囲気の圧力を上げると、第二の原料ガスを構成するタングステン化合物の分子が、基板5の成膜面に形成された多原子層に多数吸着し、タングステン化合物の多分子層が形成される。
第二の原料ガスを所定時間供給後、真空排気を続けながら、第二の原料ガスの供給を停止し、その状態を所定時間維持すると、基板5が置かれた減圧雰囲気から第二の原料ガスが排出されて減圧雰囲気の圧力が低下し、基板5上に吸着した第二の原料ガスの一部が脱離するが、吸着層は多分子層として基板5上に残る(第二の原料ガス供給工程)。
第二の原料ガス供給工程後、基板5の温度を上述した成膜温度に維持した状態で、真空排気を続けながら、ガスボンベ34から窒化ガスを真空槽11内に所定時間供給し、基板5が置かれた減圧雰囲気の圧力を上げると、基板5上に形成された多分子層のタングステン化合物が窒化され、窒化タングステンが生成される。
窒化ガスを所定時間供給後、真空排気を続けながら窒化ガスの供給を停止し、その状態を所定時間維持して窒化ガスを真空槽11内部から排出して、基板5が置かれた減圧雰囲気の圧力を低下させ、窒化工程を終了する。
第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とで構成される窒化タングステン形成工程が終了した後では、基板5上に窒化タングステンの形成されている。
上述した、タングステン析出工程と、窒化タングステン形成工程とで1回の単位成膜工程とすると、1回の単位成膜工程で成膜される膜厚よりも膜厚の厚い窒化タングステン膜を形成したい場合には、単位成膜工程を繰り返すことで、膜厚の厚い窒化タングステン膜を形成することができる。
【実施例】
【実施例1】
シリコンウェハを熱酸化処理し、表面に二酸化ケイ素(SiO)を形成した基板5を上述した処理装置に搬入して前処理工程を行った後、上述した成膜装置1に搬入し、第一の原料ガス供給工程と、還元工程と、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とを順番に行い、窒化タングステン膜を形成した。
ここでは、第一の原料ガス供給工程では第一の原料ガスとして6弗化タングステンガス(WF)を供給し、還元工程では還元ガスであるモノシランガス(SiH)と共に、添加ガスである酸素ガス(O)を供給し、第二の原料ガス供給工程では第二の原料ガスとして第一の原料ガスと同じガスを用い、窒化工程では窒化ガスとしてアンモニアガス(NH)を用いた。
尚、前処理工程の条件は、クリーニングガスがアンモニアガス(NH)、高周波電源からの投入電力が300Wであり、処理装置内の圧力が13Pa、処理対象物をプラズマに晒す時間は15秒間であった。
また、成膜条件は、第一、第二の原料ガスの流量が5sccm、還元ガスの流量が100sccm、添加ガスの流量が2sccm、窒化ガスの流量が10sccm、各工程におけるガスの供給時間と排気時間がそれぞれ30秒、各ガスを供給したときの真空槽11内の圧力が1Pa、各工程における基板5の成膜温度が250℃であった。成膜された窒化タングステンの膜厚を測定したところ、その膜厚は18nmであり、シート抵抗は約220Ω/□であった。
また、第一、第二の原料ガスの排気時間をそれぞれ90秒に変えた以外は上述した実施例1と同じ条件で第一の原料ガス供給工程と、還元工程と、第二のガス供給工程と、窒化工程とを10回繰り返して成膜を行ったときに、膜厚12nmの窒化タングステン膜が成膜された。このことから、第一、第二の原料ガスの排気時間を長くし、基板5上に吸着されるタングステン化合物の量を少なくすることで、より膜厚の薄い窒化タングステン膜が得られることがわかる。
尚、第一の原料ガス供給工程と、還元工程と、第二のガス供給工程と、窒化工程とで1サイクルとし、サイクル数を変えて成膜を行い、形成された窒化タングステン膜のシート抵抗を測定したところ、サイクル数とシート抵抗の逆数は比例の関係にあることがわかった。
【実施例2】
基板5として片面に直径0.2μm、深さ1μmのホールが形成されたシリコンウェハを用い、ホールが形成された面を成膜面としてこの成膜面に実施例1と同じ条件で前処理工程と、窒化タングステン膜の成膜を行った。
その窒化タングステン膜の膜厚を測定したところ、ホールの底壁に形成された部分の膜厚は約16nmであり、成膜面のホール以外の部分(フィールド)に形成された部分の膜厚は約18nmであった。
窒化タングステン膜のホールの底壁に形成された部分の膜厚から、フィールドに形成された部分の膜厚を除した値に、100を乗じたものをカバレッジ率とすると、そのカバレッジ率は約90%と高く、本発明の成膜方法はアスペクト比が高いコンタクトホールの埋め込みにも適用可能であることがわかる。
また、窒化タングステン膜のフィールドに形成された部分の膜厚が、実施例1で形成された窒化タングステン膜の膜厚と略等しかったことから、実施例2で形成された窒化タングステン膜のシート抵抗は、実施例1で作成された窒化タングステン膜のシート抵抗と同程度であると推測される。
また、第一の原料ガス供給工程と、還元工程と、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程の各工程における基板5の成膜温度を200℃以上350℃以下の範囲で変化させて成膜を行ったところ、200℃以上350℃以下の成膜温度ではバリア膜の成膜には十分な成膜レートが得られ、またそのシート抵抗も半導体装置のバリア膜として使用可能な範囲であった。
このように、本発明によれば350℃以下と従来の成膜方法よりも低い温度で、成膜を行った場合でも、実用上十分な成膜レートが得られ、かつ、そのシート抵抗もバリア膜として使用可能な範囲になることが確認された。
<実験結果1>
表面に窒化チタン(TiN)膜が形成されたシリコンウェハを基板として用い、該基板を上述した処理装置に搬入し、クリーニングガスとしてアルゴンガスを用い、5秒間アルゴンガスのプラズマを発生させ、窒化チタン膜が形成された面をクリーニングした(前処理工程)。
前処理工程後の基板を上述した成膜装置1の真空槽11内に搬入し、基板が配置された減圧雰囲気に原料ガスである6弗化タングステンガス(流量25sccm)と希釈ガスであるアルゴンガス(流量1000sccm)を30秒間供給した後、原料ガスの供給を停止した(原料ガス供給工程)。
30秒間真空排気を続けて原料ガスを排出した後、還元ガスであるシランガス(50sccm)と、希釈ガスであるアルゴンガス(1000sccm)とを真空槽11内に30秒間供給し、原料ガス供給工程で基板に吸着した6弗化タングステンを還元した後、真空槽11内の還元ガスとアルゴンガスとを排出した(還元工程)。尚、各工程の減圧雰囲気の圧力は100Pa、基板の成膜温度は300℃であった。
上述した原料ガス供給工程と還元工程とからなるタングステン析出工程を5回繰り返して基板5の表面に膜を形成した。形成された膜の膜厚を測定したところ膜厚は約80nmであり、また、形成された膜をAES法(Auger Electron Spectroscopy)で分析したところ、タングステン(W)で構成されたタングステン膜であることがわかった。また、このタングステン膜のシート抵抗を測定したところ、シート抵抗は約2.5Ω/□であった。
<実験結果2>
実施例1で用いた基板と同じ基板を、実施例1と同じ条件でクリーニングを行った後、上述した成膜装置1の真空槽11内に搬入し、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程と記載の順番で1回ずつ行うことを窒化タングステン形成工程とし、この窒化タングステン形成工程を10回繰り返し、基板表面に膜を形成した。ここでは、窒化タングステン工程の各条件は上記実施例1と同じとした。
基板表面に形成された膜をAES法により分析したところ、WNで構成された窒化タングステン膜であることが確認された。その窒化タングステン膜の膜厚を測定したところ、膜厚は約30nmであり、またシート抵抗を測定したところ、シート抵抗は約100,000Ω/□であった。
上述した実験結果1、2から、上記実施例1、2で形成された窒化タングステン膜のWとNの組成比率は4:1〜5:1であると推測でき、上記実験結果1、2と実施例1、2のシート抵抗の値から、タングステンの含有率が高くなる程、シート抵抗が小さくなることがわかる。
上述したように、本願発明では第一の原料ガス供給工程と、還元工程と、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とを別々に行っており、第一、第二の原料ガスの流量や、基板の成膜温度を調整することで、各原料ガス供給工程で基板に吸着されるタングステン化合物のガスの量を制御し、原料ガス供給工程に続く還元工程と窒化工程で、還元されるタングステンの量、及び窒化されるタングステンの量を制御することができる。従って、本発明によれば所望の組成比率の窒化タングステン膜を得ることができる。
また、タングステン析出工程だけを繰り返し行った実験結果1ではタングステンの膜が形成され、窒化タングステン形成工程だけを繰り返し行った実験結果2では、WNの膜が形成されていることから、タングステン化合物ガスの吸着と還元、タングステン化合物ガスの吸着と窒化とを別々に行った実施例1、2では、形成された窒化タングステン膜がタングステン単体の層と、窒化タングステンの層の積層構造になっていると思われる。
タングステンは上述したようなシリコン酸化膜との密着性が悪いことが知られており、タングステン単体の層がシリコン酸化膜上に形成された場合は、形成された膜が基板から非常に剥がれやすくなるはずである。
しかし、実施例1、2で得られた窒化タングステン膜は、従来の熱CVD法で成膜された窒化タングステン膜と同様に基板5から剥がれ難く、またそのシート抵抗の値からも、本願実施例1、2の窒化タングステン膜は、タングステンと窒化タングステンとの積層構造を有するわけではなく、その膜中でタングステンと窒素とが均一に分布した状態になっていると推測される。
以上は、第一、第二の原料ガスの両方を同じ種類のタングステン化合物のガスで構成する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第一、第二の原料ガスを互いに異なる種類のタングステン化合物のガスで構成することもできる。
第一、第二の原料ガスとしては、6弗化タングステンガスや6塩化タングステン(WCl)ガスのようなハロゲン化タングステンガスの他、WOFと、WOFと、WOClと、WOClようなオキシハロゲン化タングステンガス、W(OCと、W(OCのような有機金属化合物のガス、W(CO)と、W(CO)のようなカルボニル化タングステンガス等の種々のタングステン化合物のガスを用いることができる。
また、第一、第二の原料ガスは1種類のタングステン化合物のガスで構成してもよいし、2種類以上のタングステン化合物のガスを混合して用いることもできる。
第一、第二の原料ガス供給工程は、第一、第二の原料ガスのみを真空槽11内に供給する場合に限定されず、例えばアルゴンガスのような希釈ガスを第一、第二の原料ガスと共に供給すれば、第一、第二の原料ガスが希釈ガスで希釈されることで、基板に吸着される量を制御することができる。
また、還元ガスや窒化ガスを供給する際にも、アルゴンガスのような希釈ガスを同時に供給し、還元ガス濃度や窒化ガス濃度を制御することができる。
また、上述した実施例1で述べたように、還元ガスと共に添加ガスとして酸素ガスを供給すると、析出されるタングステンと基板との密着性が向上するという効果がある。このように、窒化タングステンの性能向上のためには、第一、第二の原料ガスと、還元ガスと、窒化ガスをそれぞれ供給する際に、目的に応じた適切な添加ガスを共に供給し、窒化タングステンの膜質を制御することができる。
還元ガスはモノシランガスに限定されるものではなく、第一の原料ガスに用いるタングステン化合物を還元するものであれば、例えばジシランガス(Si)、ジクロルシランガス(SiHCl)を用いることができる。
窒化ガスはアンモニアガスに限定されるものではなく、第二の原料ガスに用いるタングステン化合物を窒化するものであれば、例えばヒドラジンガス(N)や、ヒドラジン中の水素がCxHy(x、yは任意の整数を示す)基に置換されたヒドラジン誘導体のガスを用いることができる。
前処理工程で用いるクリーニングガスの種類もアンモニアガスに限定されず、アルゴンガス等目的に合わせて種々のガスを選択することができる。また、基板ホルダ15に回転軸を設け、回転軸により基板5を水平面内で回転させながら、第一、第二の原料ガス供給工程と、還元工程と、窒化工程の各工程を行えば、基板5の表面に膜厚均一な窒化タングステン膜を形成することができる。
各ガスを供給するときの到達圧力は特に限定されず、10−2Pa以上10Pa未満、より好ましくは数Pa以下の範囲で成膜目的に応じて設定されるものである。
以上は、第一、第二の原料ガス供給工程と、還元工程と、窒化工程でそれぞれ基板5の温度を同じ成膜温度にする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、200℃以上350℃以下の温度範囲であれば、各工程での基板5温度をそれぞれ変えることもできる。
以上は、第一、第二のガス供給工程と、還元工程と、窒化工程とをそれぞれ同じ成膜装置1で行う場合について説明したが、第一、第二のガス供給工程と、還元工程と、窒化工程とを別々の成膜装置で行うこともできる。
第一の原料ガス供給工程と、還元工程と、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とを1サイクルとし、複数サイクルの成膜を行う場合、第一、第二の原料ガスと、還元ガスと、窒化ガスは、各サイクルでそれぞれ同じガスを用いても良いし、またサイクル毎に第一、第二の原料ガスと、還元ガスと、窒化ガスの種類をそれぞれ変えてもよい。
以上は、タングステン析出工程が、第一の原料ガス工程の後に還元工程を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、還元工程で基板5に還元ガスを吸着させた後、第一の原料ガス供給工程で真空槽11内部に第一の原料ガスを供給し、基板5に吸着した還元ガスと、第一の原料ガスとを接触させてタングステンを析出してもよい。
1つのタングステン析出工程を構成する第一の原料ガス工程の数と、還元工程の数は同じである必要がない。例えば、タングステン析出工程は、還元工程と、第一の原料ガス供給工程と、還元工程とを記載した順序で連続して行う場合や、第一の原料ガス供給工程と、還元工程と、第一の原料ガス供給工程を記載した順序で連続して行う場合も含まれる。
また、窒化タングステン形成工程も、第二の原料ガス供給工程の後に窒化工程を行う場合に限定されるものではなく、先ず、窒化工程で基板に窒化ガスを吸着させた後、第二の原料ガス供給工程で真空槽11内部に第二の原料ガスを供給し、基板に吸着した窒化ガスと第二の原料ガスを接触させて、窒化タングステンを形成してもよい。
1つの窒化タングステン形成工程を構成する第二の原料ガス供給工程と、窒化工程の数は同じである必要がない。例えば、窒化タングステン形成工程は、窒化工程と、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とを記載した順序で連続して行う場合や、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程と、第二の原料ガス供給工程とを記載した順序で連続して行う場合も含まれる。
以上は、先ずタングステン析出工程を行い、それに続いて窒化タングステン形成工程を行う場合について説明したが本発明はこれに限定されるものではない。成膜開始時に先ず窒化タングステン形成工程を行って、基板上に窒化タングステンを形成した後、タングステン析出工程を行って窒化タングステンの上にタングステンを析出させてもよい。
要するに本発明は、タングステン析出工程と、窒化タングステン形成工程の工程数と順番、タングステン析出工程を構成する第一の原料ガス供給工程と、還元工程の工程数と順番、窒化タングステン形成工程を構成する第二の原料ガス供給工程の数と順番とを選択して、窒素とタングステンとが所望の比率で含有された窒化タングステン膜を得るものである。
以上は、第一、第二の原料ガスや、還元ガスや、窒化ガス等の全てのガスの供給を停止し、減圧雰囲気を形成する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第一、第二の原料ガスや、還元ガスや、窒化ガスの供給を停止した後、真空排気を続けながら真空槽11にパージガスを供給して、パージガスによってガスを真空槽11内部から押し流すこともできる。本発明に用いるパージガスの種類は特に限定されないが、第一、第二の原料ガス、タングステン、窒化タングステン、及び、処理対象物表面に露出する半導体や金属と反応しないものが好ましく、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
また第一、第二の原料ガス、還元ガス、又は窒化ガスを供給するときに、上述したパージガスを希釈ガスとして一緒に真空槽11内部に供給することもできる。この場合は、第一、第二の原料ガスや、還元ガスや、窒化ガスの供給を停止するときに、パージガスの供給を停止する必要がない。
<実施例2−1>
第一、第二の原料ガスの供給時間をそれぞれ2.5秒に変えた以外は上記実施例1と同じ条件で窒化タングステン膜を成膜した。実施例2−1で成膜された窒化タングステン膜は、実施例1で成膜された窒化タングステン膜に比べ、半分程度の膜厚であった。
<実施例2−2>
第一、第二の原料ガスの供給時間をそれぞれ1秒に変えた以外は上記実施例1と同じ条件で成膜を行った。実施例2−2で成膜された窒化タングステン膜は、実施例1で成膜された窒化タングステン膜に比べ、シート抵抗が10倍近く大きくなった。
これらのことから、第一、第二の原料ガスの供給時間を変え、基板5上に吸着する原料ガスの量を制御することで、所望膜厚、所望シート抵抗の窒化タングステン膜を得られることがわかる。
【実施例3】
タングステン析出工程と、窒化タングステン形成工程とをこの記載の順序で1回ずつ行うことを第一の単位成膜工程とし、上記実施例1と同じ条件で基板5に前処理を行った後、第一の単位成膜工程を10回繰り返して窒化タングステン膜を成膜した。ここでは、第一、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程でのガスの種類は実施例1と同じものを用い、第一、第二の原料ガス供給工程と、窒化工程での各ガスの供給時間と排気時間と、各ガスの流量も実施例1と同じとした。還元工程では添加ガスを用いず、モノシランガスのみを用いた。また、還元工程でのガスの供給時間と排気時間は実施例1と同じとした。
ここでは、タングステン析出工程は、第一の原料ガス供給工程と、還元工程とをこの順番で1回ずつ行い、窒化タングステン形成工程は第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とをこの順番で1回ずつ行った。また、成膜の開始から終了までの基板5の温度はこの実施例では270℃とし、各ガスを供給したときの真空槽11内部の圧力を5×10−2Pa以上0.1Pa以下の範囲にある成膜圧力とし、各ガスを排気したときの真空槽11内部の圧力を成膜圧力未満とした。
この実施例3で形成した窒化タングステン膜の膜厚は135nmであり、その比抵抗は280μΩcmであった。
次に、この窒化タングステン膜をAES法により分析を行い、膜表面からの深さと、各原子の原子濃度の変化との関係を求めた。その結果を図2に示す。
図2の縦軸は各原子の原子濃度(%)を、横軸はスパッタ時間(分)を示しており、スパッタ時間が長いほど膜表面からの深さが深いことになる。
図2から明らかなように、この窒化タングステン膜のWとNとの原子濃度の比率は約6:1であった。
従来技術のようにタングステン化合物のガスと、還元ガスと、窒化ガスとを一緒に真空槽11内部に供給し、窒化タングステン膜を形成した場合には、WとNの原子濃度の比率は1:1又は1:2になるが、実施例3のように第一、第二の原料ガスと、還元ガスと、窒化ガスとを別々に真空槽11に供給すれば、タングステン濃度が従来よりも高い窒化タングステン膜が得られることがわかる。
また、窒化タングステン膜の表面から、スパッタ時間が25分をすぎ、シリコン基板のSiが検出される深さまでの間で、WとNの原子濃度の比率はほぼ一定であった。このことから、成膜開始から成膜終了までの間に、単位成膜工程を構成するタングステン析出工程と、窒化タングステン形成工程の割合を変えずに、単位成膜工程を繰り返せば、深さ方向の原子濃度比率が一定な窒化タングステン膜が形成されることがわかる。
【実施例4】
上記実施例1と同じ条件で基板5に前処理を行った後、上述した第一の単位成膜工程を50回繰り返して窒化タングステン膜を成膜した。ここでは、成膜開始から成膜終了までの基板5の温度は300℃とし、各ガスの供給時間と排気時間はそれぞれ15秒間とした。また、各工程でのガスの種類は実施例3と同じものを用い、各ガスの流量も実施例3と同じとし、各ガスを供給したときの圧力と、各ガスを排気したときの圧力も実施例3と同じとした。タングステン析出工程は、第一の原料ガス供給工程と、還元工程とをこの順番で1回ずつ行い、窒化タングステン形成工程は第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とをこの順番で1回ずつ行った。
実施例4で形成された窒化タングステン膜の膜厚は28.7nmであり、その比抵抗は675μΩcmであった。
【実施例5】
タングステン析出工程を2回繰り返して行うことを第二の単位成膜工程とした。上述した第一の単位成膜工程を6回繰り返して行った後、続けて第二の単位成膜工程を4回繰り返して行うことを第三の単位成膜工程とし、上記実施例1と同じ条件で基板5に前処理を行った後、第三の単位成膜工程を5回繰り返して窒化タングステン膜を形成した。
ここでは、各工程でのガスの種類と、各ガスの流量と、各ガスを供給したときの圧力と、各ガスを排気したときの圧力と、成膜開始から成膜終了までの基板5の温度と、各ガスの供給時間と排気時間の各条件をそれぞれ実施例4と同じとした。ここでは、タングステン析出工程は、第一の原料ガス供給工程と、還元工程とをこの順番で1回ずつ行い、窒化タングステン形成工程は第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とをこの順番で1回ずつ行った。
実施例5で形成された窒化タングステン膜はタングステンが析出する量が多いため、実施例4よりも厚い32nmであった。また、実施例5の窒化タングステン膜の比抵抗は実施例4よりも小さい326μΩcmであった。
実施例4、5で形成された窒化タングステン膜についてAES分析を行い、膜表面からの深さと、各原子の原子濃度の変化とをそれぞれ求めた。それらの結果を図3、図4に示す。
図3と図4を比較すると、実施例5で形成された窒化タングステン膜はタングステンと窒素の比率が実施例4よりも大きく、タングステン析出工程の割合を多くすれば、タングステンと窒素の比率(W/N)が大きい窒化タングステン膜が形成されることがわかる。
【実施例6】
上記実施例1と同じ条件で基板5に前処理を行った後、上述した第一の単位成膜工程を46回繰り返した後、続いて上述した第二の単位成膜工程を8回繰り返して窒化タングステン膜を形成した。
ここでは、各工程でのガスの種類は実施例3〜5と同じものを用いた。
各単位成膜工程において、第一、第二の原料ガス(WF)の流量は5sccm、第一、第二の原料ガスの供給時間は5秒、第一、第二の原料ガスの排気時間は2秒であり、還元ガス(SiH)の流量は50sccm、還元ガスの供給時間は10秒、還元ガスの排気時間は10秒であり、窒化ガス(NH)の流量は11sccm、窒化ガスの供給時間は2秒、窒化ガスの排気時間は10秒であった。また、各ガスを供給したときの圧力と、各ガスを排気したときの圧力と、成膜開始から成膜終了までの基板5の温度は実施例4、5と同じ条件とした。ここでは、タングステン析出工程は、第一の原料ガス供給工程と、還元工程とをこの順番で1回ずつ行い、窒化タングステン形成工程は第二の原料ガス供給工程と、窒化工程とをこの順番で1回ずつ行った。
実施例6で形成された窒化タングステン膜の膜厚は実施例4、5よりもやや厚い37.3nmであった。またその比抵抗は実施例4、5よりも低い284μΩcmであった。
この窒化タングステン膜についてAES分析を行い、膜表面からの深さと、各原子の原子濃度の変化とを求めた。その結果を図5に示す。
図5から明らかなように実施例6で形成された窒化タングステン膜では、膜の表面付近ではタングステンと窒素との含有比率W/Nが大きかったが、深さが深くなるほど除除にW/Nが小さくなっている。図6の符号Dは約8分のスパッタ時間に相当する深さを示しており、その深さDからは窒素濃度がほぼ一定になっている。
このことから実施例6では、成膜開始から深さDに相当する膜厚まではW/Nが小さい膜が形成され、その膜厚から成膜終了まではW/Nが大きい膜が形成されたことがわかる。
W/Nが大きくなると窒化タングステン膜の比抵抗が下がり、逆にW/Nが小さくなるとシリコン基板に対する密着性が高くなることが知られており、実施例6で形成された窒化タングステン膜は処理対象物と密着する側の密着性が高く、処理対象物と反対側は比抵抗が低いという2つの特性を兼ね備えていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
本発明の成膜方法によれば、NとWの比率が所望の組成比率の窒化タングステン膜を成膜することが可能であり、NとWの組成比率を所望比率にすることで窒化タングステン膜のシート抵抗の値を制御することができる。また、本発明の成膜方法によれば、微細なコンタクトホールの埋め込みも可能である。本発明では、1回の原料ガス供給工程でタングステン化合物の多分子層を形成するため、1回の第一の原料ガス工程と、1回の還元工程と、1回の第二の原料ガス供給工程と、1回の窒化工程とで1回の単位成膜工程とすると、1回の単位成膜工程で膜厚が10nm以上の窒化タングステン膜を成膜することが可能である。従って、1回の単位成膜工程で単原子層を形成するALD法に比べて成膜効率が高く、結果として成膜に要する作業時間を短くすることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物が配置された減圧雰囲気中に、タングステン化合物のガスを主成分とする第一の原料ガスを供給した後、前記第一の原料ガスを前記減圧雰囲気から排気する第一の原料ガス供給工程と、
前記減圧雰囲気中に前記タングステン化合物を還元する還元ガスを供給した後、前記減圧雰囲気中から前記還元ガスを排気する還元工程と、
前記減圧雰囲気中に、タングステン化合物のガスを主成分とする第二の原料ガスを供給した後、前記減圧雰囲気中から前記第二の原料ガスを排気する第二の原料ガス供給工程と、
前記減圧雰囲気中に、化学構造中に窒素を有し、タングステンと反応して窒化タングステンを生成する窒化ガスを供給した後、前記減圧雰囲気中から前記窒化ガスを排気する窒化工程とを有する窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項2】
前記第一の原料ガス供給工程と、前記還元工程のいずれか一方を先、他方を後にして前記第一の原料ガス供給工程と、前記還元工程とを連続して行うタングステン析出工程を有する請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項3】
前記窒化工程と、前記第二の原料ガス供給工程のいずれか一方を先、他方を後にして前記窒化工程と前記第二の原料ガス供給工程とを連続して行う窒化タングステン形成工程を有する請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項4】
前記第一の原料ガス供給工程と、前記還元工程のいずれか一方を先、他方を後にして前記第一の原料ガス供給工程と、前記還元工程とを連続して行うタングステン析出工程と、
前記第二の原料ガス供給工程と、前記窒化工程のいずれか一方を先、他方を後にして前記第二の原料ガス供給工程と、前記窒化工程とを連続して行う窒化タングステン形成工程とを、所望の割合で繰り返して行う工程を含む請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項5】
前記タングステン析出工程と、前記窒化タングステン形成工程とを交互に行う請求の範囲第4項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項6】
前記繰り返しの割合中の前記タングステン析出工程の比率を、成膜開始から成膜終了までの間に大きくする請求の範囲第4項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項7】
前記処理対象物の少なくとも一部表面に、金属又は半導体を露出させた請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法であって、
前記金属又は前記半導体を露出させた状態で、前記タングステン析出工程を行う窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項8】
前記第一の原料ガスと、前記第二の原料ガスに、それぞれ同じガスを用いる請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項9】
前記第一原料ガスと、前記第二の原料ガスのいずれか一方又は両方を6フッ化タングステンガスで構成する請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項10】
前記還元ガスとしてモノシランガスを用いる請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項11】
前記窒化ガスとしてアンモニアガスを用いる請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。
【請求項12】
前記第一、第二の原料ガス供給工程と、前記還元工程と、前記窒化工程では、前記処理対象物を200℃以上350℃以下の温度に維持する請求の範囲第1項記載の窒化タングステン膜の成膜方法。

【国際公開番号】WO2004/061154
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564484(P2004−564484)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015776
【国際出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】