説明

窒化物半導体の製造方法、結晶成長速度増加剤、窒化物単結晶、ウエハ及びデバイス

【課題】大口径のC面を有する窒化物半導体や、m軸方向に厚い窒化物半導体を効率よく簡便に製造することができる実用的な製造方法を提供すること。
【解決手段】六方晶系の結晶構造を有するシード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、及び鉱化剤を入れたオートクレーブ内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル的に窒化物半導体を結晶成長させる工程を含む窒化物半導体の製造方法において、前記シード上のm軸方向の結晶成長速度を前記シード上のc軸方向の結晶成長速度の1.5倍以上にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界状態及び/又は亜臨界状態の溶媒を、原料物質及び鉱化剤とともに用いてシード上に窒化物半導体の結晶成長を行う窒化物半導体の製造方法とその結晶成長速度増加剤に関する。また、本発明はその方法により製造した窒化物単結晶、ウエハ及びデバイスにも関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)に代表される窒化物半導体は、発光ダイオード及びレーザーダイオード等の発光デバイスやHEMT及びHBT等の高周波及び高出力の電子デバイスに適用される物質として有用である。特に今後市場の拡大が見込まれている電子デバイス用途においては、その素子サイズが発光デバイスよりも大きいため、生産性の観点からウエハの大口径化がよりいっそう強く望まれており、さらに大口径ウエハ面内で結晶品質の高い均一性も必要とされている。
【0003】
窒化ガリウム結晶は、現在サファイア又は炭化ケイ素等のような基板上にMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法などの気相エピタキシャル成長により作成されている。その際、極性を有するC面の基板を用いて作製することが一般に行われている。しかしながら、成長する結晶の口径は基板のサイズによって規定されているため、この方法では基板と同じ口径の結晶やウエハしか作ることができない。また、気相エピタキシャル法では原料ガスを大面積に均一に曝すことが困難であるため、技術的に大口径の結晶を生産することはできない。
【0004】
一方、近年になって、C面ではなくM面等の非極性面の基板を用いることでデバイスの特性が飛躍的に改善されることが報告されている(非特許文献1参照)。また、M面の基板を用いて結晶成長することを提案する技術もある(特許文献1〜3参照)。しかしながら、現在行われている上述のサファイア又は炭化ケイ素等のような基板上へのMOCVD法などによるヘテロエピタキシャル成長法では、高品質かつ大口径のM面を成長させることは困難である。このため高品質のM面ウエハを得る方法として、窒化ガリウム塊状単結晶からM面ウエハを切り出す手法が望まれている。しかし従来得られている塊状窒化ガリウム単結晶はM面の口径が小さいため、このような塊状窒化ガリウム単結晶からは小口径のM面ウエハしか切り出せない。
【0005】
大口径のC面を有する窒化ガリウム単結晶や、m軸方向に厚い窒化ガリウム単結晶を得るためには、c軸に対して垂直な方向への結晶成長が必要である。c軸に対して垂直な方向への結晶成長については、これまでにも幾つかの検討や提案がなされている。
【0006】
例えば、塩基性鉱化剤系においては、c軸方向の結晶成長速度よりも、c軸に垂直なa軸方向の結晶成長速度の方が速くなることが報告されている(特許文献4および5参照)。しかしながら、この文献には具体的な方法及び結果は開示されていない。また、そもそも塩基性鉱化剤を用いたアモノサーマル法であるため、デバイス製作の障害となるアルカリ金属不純物の混入、高温高圧の必要性、不純物の混入を防ぐための圧力容器内張りとしての貴金属の使用ができないなどの問題があり、実用性の点で障害が多い。さらに、六方晶系のウルツ型結晶構造ではA面よりM面が安定であるため、A面からa軸方向に成長させると安定なM面が生成して結晶成長面が山型になり、大きな面積を持つ平坦な結晶面を成長させることができない。
【0007】
a軸以外の軸方向への結晶成長については、塊状の窒化ガリウム単結晶を得る代表的な手法であるアモノサーマル法で、c軸に垂直なm軸方向にも結晶が成長した例が報告されている(非特許文献2参照)。しかしながら、m軸方向の成長速度はc軸方向の成長速度と同程度であるに過ぎず、m軸方向の成長速度が有意に大きくなる塊状窒化ガリウム単結晶の製造方法はこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics, Vol.44, No.5, 2005, pp. L173-L175
【非特許文献2】Journal of Crystal Growth 287 (2006) 376-380
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−506271号公報
【特許文献2】特開2003−43150号公報
【特許文献3】特開2003−36771号公報
【特許文献4】特表2006−509709号公報
【特許文献5】特表2006−509710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、従来はc軸に垂直な方向への結晶成長を促進する実用的で有効な方法は存在しなかった。このため、大口径のC面を有するウエハを得ることが必要とされているにもかかわらず、その実用的で簡便な製造方法は開発されるに至っていなかった。
また、M面が大きいウエハを得ようとすると、アモノサーマル法などの手法によってc軸方向に結晶成長させて得た塊状の窒化ガリウム単結晶からM面ウエハを切り出す方法をとることになるが、この方法ではC+面とC−面で成長速度が異なるために、得られる結晶の両端面にあたるC+面成長部とC−面成長部の不純物濃度、結晶欠陥数が異なりM面内で均一な品質のウエハを得ることができないという問題があった。
【0011】
本発明者らは、このような従来技術の課題に鑑みて、大口径のC面を有する窒化物半導体や、m軸方向に厚い窒化物半導体を効率よく簡便に製造することができる実用的な製造方法を提供することを本発明の目的として設定した。また、本発明者らは、そのような窒化物半導体の結晶成長を速めることも本発明の目的として設定した。さらに、本発明者らは、均質で品質が優れた窒化物単結晶と、それを用いたウエハ及びデバイスを提供することも本発明の目的として設定した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、c軸方向よりもm軸方向の結晶成長速度が有意に速い結晶成長法を初めて開発し、その方法にしたがって結晶成長を行ったところ、上記課題を解決して本発明の目的を達成しうることを見出した。すなわち、本発明は課題を解決するための手段として、以下の技術を提供するものである。
【0013】
[1] 六方晶系の結晶構造を有するシード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、及び鉱化剤を入れた反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル的に窒化物半導体を結晶成長させる工程を含む窒化物半導体の製造方法であって、前記シード上のm軸方向の結晶成長速度が前記シード上のc軸方向の結晶成長速度の1.5倍以上であることを特徴とする窒化物半導体の製造方法。
【0014】
[2] 前記シード上のm軸方向の結晶成長速度が前記シード上のc軸方向の結晶成長速度の2.0倍以上であることを特徴とする[1}に記載の窒化物半導体の製造方法。
[3] 前記温度が250℃〜490℃であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[4] 前記圧力が60MPa〜160MPaであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[5] 前記原料物質が窒化ガリウム多結晶及び/又はガリウムを含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[6] 前記窒化物半導体がガリウム含有窒化物半導体であることを特徴とする[5]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[7] 前記窒化物半導体が窒化ガリウム結晶であることを特徴とする[5]に記載の窒化物半導体の製造方法。
【0015】
[8] 前記鉱化剤が酸性鉱化剤を含むことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[9] 前記酸性鉱化剤がアンモニウム塩を含むことを特徴とする[8]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[10] 前記酸性鉱化剤がハロゲン化アンモニウムであることを特徴とする[8]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[11] 前記鉱化剤がアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を含むことを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[12] 前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤がハロゲン化マグネシウム及び/又はハロゲン化カルシウムを含むことを特徴とする[11]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[13] 前記鉱化剤として複数の化学種を混在させることを特徴とする[1]〜[12]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[14] 前記鉱化剤としてアンモニウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選択される1以上の化学種を用いることを特徴とする[1]〜[13]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[15] 前記反応容器の内壁の少なくとも一部が貴金属からなることを特徴とする[1]〜[14]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[16] 前記シードとして、六方晶系の結晶構造を有し、M面の面積がC面の面積よりも大きいシードを用いることを特徴とする[1]〜[15]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[17] 前記シードとして劈開面を持つシードを用い、この劈開面上にアモノサーマル的に窒化物半導体成長させることを特徴とする[1]〜[16]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【0016】
[18] 六方晶系の結晶構造を有するシード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、及び複数の化学種からなる鉱化剤を入れた反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル的に窒化物半導体を結晶成長させる工程を含む窒化物半導体の製造方法。
[19] 前記温度が250℃〜490℃であることを特徴とする[18]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[20] 前記圧力が60MPa〜160MPaであることを特徴とする[18]又は[19]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[21] 前記原料物質が窒化ガリウム多結晶及び/又はガリウムを含むことを特徴とする[18]〜[20]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[22] 前記窒化物半導体がガリウム含有窒化物半導体であることを特徴とする[21]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[23] 前記窒化物半導体が窒化ガリウム結晶であることを特徴とする[21]に記載の窒化物半導体の製造方法。[24] 前記鉱化剤が酸性鉱化剤であることを特徴とする[18]〜[23]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[25] 前記酸性鉱化剤がアンモニウム塩を含むことを特徴とする[24]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[26] 前記酸性鉱化剤がハロゲン化アンモニウムを含むことを特徴とする[24]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[27] 前記鉱化剤がアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を含むことを特徴とする[18]〜[26]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[28] 前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤がハロゲン化マグネシウム及び/又はハロゲン化カルシウムを含むことを特徴とする[27]に記載の窒化物半導体の製造方法。
[29] 前記鉱化剤として2種類の化学種を混在させることを特徴とする[18]〜[28]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[30] 前記鉱化剤としてアンモニウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選択される2以上の化学種を用いることを特徴とする[18]〜[29]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[31] 前記反応容器の内壁の少なくとも一部が貴金属からなることを特徴とする[18]〜[30]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[32] 前記シードとして、六方晶系の結晶構造を有し、M面の面積がC面の面積よりも大きいシードを用いることを特徴とする[18]〜[31]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[33] 前記シードとして劈開面を持つシードを用い、この劈開面上にアモノサーマル的に窒化物半導体成長させることを特徴とする[18]〜[32]のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
[34] 六方晶系の結晶構造を有するシード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、及び鉱化剤を入れた反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル的に窒化物半導体を結晶成長させる際の成長速度増加剤であって、複数の化学種の鉱化剤を含有することを特徴とする成長速度増加剤。
[35] 前記温度が250℃〜490℃であることを特徴とする[34]に記載の成長速度増加剤。
[36] 前記圧力が60MPa〜160MPaであることを特徴とする[34]又は[35]に記載の成長速度増加剤。
【0017】
[37] [1]〜[33]のいずれか一項に記載の製造方法により製造した窒化物単結晶。
[38] M面の表面積がC面の表面積よりも大きいことを特徴とする[37]に記載の窒化物単結晶。
[39] [37]または[38]に記載の窒化物単結晶より切り出したウエハ。
[40] [39]に記載のウエハを基板として用いたエピタキシャルウエハ。
[41] [37]または[38]に記載の窒化物単結晶、[39]に記載のウエハ、又は[40]に記載のエピタキシャルウエハを用いたデバイス。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、大口径のC面を有する窒化物半導体や、m軸方向に厚い窒化物半導体を効率よく簡便に製造することができる。また、本発明の成長速度増加剤を用いれば、窒化物半導体の成長速度を有意に増加させることができる。さらに、本発明の窒化物単結晶は、均質で品質が優れている。このため、このような優れた窒化物単結晶を用いた本発明のウエハやデバイスは高機能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】六方晶系の結晶構造の軸と面を説明する図である。
【図2】実施例で用いたソルボサーマル法の結晶製造装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、本発明の窒化物半導体の製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において六方晶系の結晶構造を説明する際に用いているc軸、m軸、a軸とはそれぞれ図1の[1]に示す軸方向を指すものであり、C面とは図1の[2−1]に示す(0001)面<図ではC+面を表示>、M面とは図1の[2−2]に示す(1−100)面、A面とは図1の[2−3]に示す(1−120)面をそれぞれ指すものである。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
(本発明の特徴)
本発明の窒化物半導体の製造方法は、六方晶系の結晶構造を有するシード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、及び鉱化剤を入れた反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル的に窒化物半導体を結晶成長させる工程を含むものである。その特徴は、シード上のm軸方向の結晶成長速度がシード上のc軸方向の結晶成長速度の1.5倍以上、好ましくは1.8倍以上、より好ましくは2.0倍以上、さらに好ましくは2.1倍以上、特に好ましくは2.4倍以上であることにある。また、本発明を別の側面から見た本発明の特徴は、複数の化学種からなる鉱化剤を用いることにある。
【0022】
シード上のm軸方向の結晶成長速度をシード上のc軸方向の結晶成長速度の1.5倍以上にするためには、例えば、結晶成長時の温度及び/又は圧力を所定の範囲内に低下させることが好ましい。具体的には、結晶成長時の温度を250℃〜490℃にし、及び/又は、結晶成長時の圧力を60MPa〜160MPaに設定することにより、m軸方向の結晶成長速度をc軸方向の結晶成長速度の1.5倍以上にすることができる。このとき、鉱化剤として酸性鉱化剤を用いれば、デバイス製作の障害となるアルカリ金属不純物の混入を防ぎ、内壁に貴金属を使用した反応容器を用いて製造することができるため、好ましい。また、複数の化学種を組み合わせた鉱化剤(特に複数の化学種を組み合わせた酸性鉱化剤)を用いれば、溶媒に対する原料の溶解度を高めて結晶成長速度を速めることができるため、より好ましい。
【0023】
本発明者らは、m軸方向の結晶成長を促進するという新しいテーマに取り組み、c軸方向の成長速度とm軸方向の成長速度との相対関係に初めて着目して検討を進めた結果、上記の本発明に到達したものである。本発明の製造方法では、シードの形状や製法を適宜選択することにより、本発明の目的にかなう所望の形状を有する窒化物単結晶を得ることができる。このため、大口径のC面を有する窒化物半導体や、m軸方向に厚い窒化物半導体を効率よく製造することができる。得られる窒化物半導体は、結晶の両側の成長部の結晶品質が等しいため、品質が均一であるという特徴を有する。特に劈開して生成したM面上にアモノサーマルで結晶を成長させれば、一段と速い成長速度でより高品質の結晶やウエハを得ることができる。したがって、本発明によれば、従来法にしたがってc軸方向に結晶成長させて得た塊状の窒化ガリウム単結晶から切り出したM面ウエハに比べて、均一で高品質のウエハが得られる。
【0024】
(使用材料)
本発明では、溶媒として窒素元素を含有する溶媒を用いる。窒素元素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒を挙げることができ、具体的には、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0025】
本発明で用いる溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0026】
本発明の製造方法に用いる鉱化剤は、溶媒に対する原料の溶解度を高める化合物である。成長させる結晶が酸素元素を含まないようにするために、鉱化剤を構成する少なくとも1つの化学種としてアンモニウムイオン(アンモニウム塩)やアミドなどの形で窒素元素を含む化合物を使用することが好ましく、アンモニウムイオン(アンモニウム塩)の形で窒素元素を含む化合物を使用することがより好ましい。
【0027】
本発明で成長させる窒化物単結晶に不純物が混入するのを防ぐために、必要に応じて鉱化剤は精製、乾燥してから使用する。本発明で用いる鉱化剤の純度は、通常は95%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。鉱化剤に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明では、酸性鉱化剤を好ましく用いることができる。酸性鉱化剤を用いれば、低温低圧下でm軸方向の成長を一段と促進することができる。また、酸性鉱化剤は超臨界状態のアンモニア溶媒への13族窒化物結晶原料の溶解性を上げ、好適な反応圧力を下げる効果がある。さらに反応容器の内壁を構成するようなPt等の貴金属に対する反応性が小さいという有利な特性を有する。酸性鉱化剤としては、ハロゲン元素を含む化合物で、ハロゲン化アンモニウム等が挙げられる。具体的には、塩化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、臭化アンモニウム、フッ化アンモニウムが挙げられ、中でも塩化アンモニウムが好ましい。
本発明では、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を用いることもできる。例えば、MgCl2やMgBr2などのハロゲン化マグネシウム、CaCl2やCaBr2などのハロゲン化カルシウム、NaNH2やKNH2やLiNH2などのアルカリ金属アミド、NaClやNaBrなどのハロゲン化ナトリウム、KClやKBrなどのハロゲン化カリウム、CsClやCsBrなどのハロゲン化セシウム、LiClやLiBrなどのハロゲン化リチウムを挙げることができる。
【0029】
本発明では、鉱化剤として1種類の化学種のみを選択して使用してもよいし、2種類以上の化学種を組み合わせて使用してもよい。本発明では、2種類以上の化学種からなる鉱化剤を用いることがより好ましい。組み合わせる化学種の種類や混合比を適宜調整することによって、結晶成長速度を速めたり、c軸方向の結晶成長速度に対するm軸の結晶成長速度の比(m軸/c軸)を大きくしたりすることができる。
【0030】
本発明では、複数の化学種を組み合わせた酸性鉱化剤を用いることが好ましい。特に低温低圧下では、窒化ガリウム等の原料の超臨界アンモニア溶媒に対する溶解度が低下し、結晶成長速度も遅くなるが、複数の化学種を組み合わせた酸性鉱化剤を用いれば、溶媒に対する原料の溶解度を高めて結晶成長速度を速めることができる。特に、ハロゲン化アンモニウム鉱化剤(NH4X)においては、例えば、NH4Clにさらに反応性の高いハロゲンであるBr,Iを含むハロゲン化アンモニウム鉱化剤(NH4Br,NH4I)を混合することにより、超臨界アンモニア溶媒に対する窒化ガリウムの溶解度を向上させることができる。
本発明では、酸性鉱化剤とアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤とを組み合わせて用いることも好ましい。酸性鉱化剤とアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤とを組み合わせて用いる場合は、酸性鉱化剤の使用量を多くすることが好ましい。具体的には、酸性鉱化剤100重量部に対して、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を50〜0.01重量部とすることが好ましく、20〜0.1重量部とすることがより好ましく、5〜0.2重量部とすることがさらに好ましい。アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を添加することによって、c軸方向の結晶成長速度に対するm軸の結晶成長速度の比(m軸/c軸)を一段と大きくすることも可能である。
【0031】
本発明では、アンモニウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩からなる群より選択される1以上(より好ましくは2以上)の化学種を鉱化剤として用いることが好ましく、アンモニウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される1以上(より好ましくは2以上)の化学種を鉱化剤として用いることがより好ましい。
なお、本発明の結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
【0032】
鉱化剤と周期表13族金属元素を含む原料物質との使用割合は、鉱化剤/周期表13族金属元素(モル比)が通常0.0001〜100となる範囲内であり、GaNであれば鉱化剤/Ga(モル比)が通常0.001〜20となる範囲内が好ましい。使用割合は、原料や鉱化剤などの種類や目的とする結晶の大きさなどを考慮して適宜決定することができる。
【0033】
本発明では、周期表13族金属を含む原料を用いる。好ましくは13族窒化物結晶の多結晶原料および/またはガリウムであり、より好ましくは窒化ガリウムおよび/またはガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によっては13族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0034】
本発明において原料として用いる多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属またはその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0035】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常1.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.0001質量%以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性または吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0036】
本発明では、シードを用いる。シードとしては、本発明の製造方法により成長させる窒化物の単結晶を用いることが望ましいが、必ずしも同一の窒化物でなくてもよい。ただし、その場合には、目的の窒化物と一致し、もしくは適合した格子定数、結晶格子のサイズパラメータを有するシードであるか、またはヘテロエピタキシー(すなわち若干の原子の結晶学的位置の一致)を保証するよう配位した単結晶材料片もしくは多結晶材料片から構成されているシードを用いる必要がある。シードの具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)を成長させる場合、GaNの単結晶の他、窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物単結晶、酸化亜鉛(ZnO)の単結晶、炭化ケイ素(SiC)の単結晶等が挙げられる。
【0037】
シードは、溶媒への溶解度および鉱化剤との反応性を考慮して決定することができる。例えば、GaNのシードとしては、MOCVD法やHVPE法でサファイア等の異種基板上にエピタキシャル成長させた後に剥離させて得た単結晶、金属GaからNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、LPE法を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、本発明法を含む溶液成長法に基づき作製された単結晶およびそれらを切断した結晶などを用いることができる。
【0038】
本発明では、劈開して生成したM面を有するシードを用いて結晶成長させることが特に好ましい。劈開して生成したM面を有するシードを用いれば、未研磨のM面を有するシードや精密研磨したM面を有するシードを用いて結晶成長させた場合に比べて、高品質の窒化物半導体を速い成長速度で製造することができる。
【0039】
(反応容器)
本発明の製造方法は、反応容器中で実施する。
本発明に用いる反応容器は、窒化物単結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択する。反応容器は、特表2003−511326号公報(国際公開第01/024921号パンフレット)や特表2007−509507号公報(国際公開第2005/043638号パンフレット)に記載されるように反応容器の外から反応容器とその内容物にかける圧力を調整する機構を備えたものであってもよいし、そのような機構を有さないオートクレーブであってもよい。
本発明に用いる反応容器は、耐圧性と耐浸食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐浸食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41が挙げられる。
【0040】
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、および系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いるには、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として薄膜を形成して反応容器内に設置してもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
【0041】
反応容器の耐浸食性をより向上させるために、貴金属の優れた耐浸食性を利用して、貴金属を反応容器の内表面をライニングまたはコーティングしてもよい。また、反応容器の材質を貴金属とすることもできる。ここでいう貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、およびこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐浸食性を有するPtを用いることが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法に用いることができる反応容器を含む結晶製造装置の具体例を図2に示す。ここでは反応容器としてオートクレーブを用いている。図中、1はバルブ、2は圧力計、3はオートクレーブ、4は結晶成長部、5は原料充填部、6はバッフル板、7は電気炉、8は熱電対、9は原料、10はシード、11は導管を示す。
【0043】
バッフル板6は、結晶成長部4と原料充填部5を区画するものであり、開孔率が2〜20%であるものが好ましく、3〜10%であるものがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、前記の反応容器の材料と同一であることが好ましい。また、より耐浸食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板の表面は、Ni、Ta、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることが好ましく、Pd、Pt、Au、Ir、pBNであることがより好ましく、Ptであることが特に好ましい。
【0044】
バルブ1、圧力計2、導管11についても、少なくとも表面が耐浸食性の材質で構成されるものを用いることが好ましい。例えば、SUS316(JIS規格)であり、Inconel625を使用することがより好ましい。なお、本発明の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、圧力計、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
【0045】
(製造工程)
本発明の製造方法を実施する際には、まず、反応容器内に、シード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、および鉱化剤を入れて封止する。これらの材料を反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。
【0046】
反応容器内へのシードの装填は、通常は、周期表13族金属元素を含む原料物質および鉱化剤を充填する際に同時または充填後に装填する。シードは、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
【0047】
超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
【0048】
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)およびP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0049】
超臨界条件では、窒化物単結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物単結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内は60MPa〜130MPa程度の圧力で保持することが好ましい。圧力は、温度および反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、および死容積の存在によって多少異なる。
【0050】
反応容器内の温度範囲は、下限値が通常250℃以上、好ましくは300℃以上、特に好ましくは350℃以上であり、上限値が好ましくは490℃以下、より好ましくは450℃以下、さらに好ましくは425℃以下、特に好ましくは400℃以下である。また、反応容器内の圧力範囲は、下限値が通常60MPa以上、好ましくは70MPa以上、さらに好ましくは80MPa以上であり、上限値が好ましくは160MPa以下、より好ましくは130MPa以下、さらに好ましくは120MPa以下、特に好ましくは110MPa以下である。なお、最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。より好ましい圧力と温度の上限値の組み合わせは、450℃以下、130MPa以下であり、より好ましい圧力と温度の範囲の組み合わせは、250〜450℃、60〜160MPaである。
【0051】
上記の反応容器の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、および種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは40〜70%とする。
【0052】
反応容器内での窒化物単結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0053】
なお、上記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対によって測定されるものであり、反応容器の内部温度と近似することができる。
【0054】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物単結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0055】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。
さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶および未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0056】
このようにして、本発明の製造方法により窒化物単結晶を製造することができる。所望の結晶構造を有する窒化物単結晶を製造するためには、製造条件を適宜調整することが必要である。
【0057】
(窒化物単結晶)
本発明の製造方法によりm軸方向の成長を促進して製造した窒化物単結晶は、結晶の両側の成長部の結晶品質が等しく、均一で高品質であるという特徴を有する。特に、劈開して生成したM面上に本発明の製造方法にしたがって結晶成長させた場合は、精密研磨のM面上に結晶成長させた場合に比べて一段と高品質な窒化物単結晶をより速い成長速度で得ることができる。
【0058】
また、本発明の製造方法を実施する際に用いるシードの形状を適宜選択することにより、所望の形状を有する窒化物単結晶を得ることができる。例えば、C面を有するシードを用いて本発明の結晶成長を行うことにより、大口径のC面を有する窒化ガリウム単結晶が生産効率よく得られる。具体的には、C面の面積が好ましくは1cm2以上、より好ましくは5cm2以上、さらに好ましくは10cm2以上の窒化ガリウム単結晶を得ることができる。別の例として、M面を有するシードを用いて本発明の結晶成長を行うことにより、m軸方向に厚みを有する窒化物単結晶が一段と高い生産効率で得られる。具体的には、m軸方向の厚みが好ましくは100μm以上、より好ましくは500μm以上、さらに好ましくは1mm以上の窒化ガリウム単結晶を得ることができる。
【0059】
本発明の製造方法により製造した窒化物単結晶は、そのまま使用してもよいし、加工してから使用してもよい。
【0060】
(ウエハ)
本発明の窒化物単結晶を所望の方向に切り出すことにより、任意の結晶方位を有するウエハ(半導体基板)を得ることができる。これによって、C面などの極性面や、M面などの非極性面を有するウエハを得ることができる。特に、本発明の製造方法によって大口径のC面を有する窒化物半導体結晶を製造した場合は、c軸に垂直な方向に切り出すことにより、大口径のC面ウエハを得ることができる。また、本発明の製造方法によって厚くて大口径のM面を有する窒化物半導体を製造した場合は、m軸に垂直な方向に切り出すことにより、大口径のM面ウエハを得ることができる。これらのウエハも、均一で高品質であるという特徴を有する。すなわち本発明によれば、従来法にしたがってc軸方向に結晶成長させて得た塊状の窒化ガリウム単結晶から切り出したM面ウエハに比べて、均一で高品質のウエハが得られる。このようにして得られた本発明のウエハを基板として所望のエピタキシャル成長を行うことにより、さらにエピタキシャルウエハを得ることができる。
【0061】
(デバイス)
本発明の窒化物単結晶やウエハは、デバイス、即ち発光素子や電子デバイスなどの用途に好適に用いられる。本発明の窒化物単結晶やウエハが用いられる発光素子としては、発光ダイオード、レーザーダイオード、それらと蛍光体を組み合わせた発光素子などを挙げることができる。また、本発明の窒化物単結晶やウエハが用いられる電子デバイスとしては、高周波素子、高耐圧高出力素子などを挙げることができる。高周波素子の例としては、トランジスター(HEMT、HBT)があり、高耐圧高出力素子の例としては、サイリスター(IGBT)がある。本発明の窒化物単結晶やウエハは、均一で高品質であるという特徴を有することから、上記のいずれの用途にも適している。中でも、均一性が高いことが特に要求される電子デバイス用途に適している。
【実施例】
【0062】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0063】
(実施例1)
図2に示す装置を用いて結晶成長を行った。
内寸が直径16mm、長さ160mmで白金を内張りしたオートクレーブ3(Inconel625製、約30ml)を用い、原料9としてHVPE製のGaN多結晶7.4gをオートクレーブの原料充填部5に入れ、次いで鉱化剤として十分に乾燥した粉体のNH4Cl(純度99.99%)1.57gをさらにその上から充填した。
【0064】
次いで、底から80mmの位置にバッフル板6をセットし、その上の結晶成長部4にGaNシードを設置した後、素早く、バルブが装着されたオートクレーブの蓋を閉じてオートクレーブ3の計量を行った。ここで用いたGaNシード10は、c軸方向の厚みが500μmで5mm角のC面を有し、そのうちの1側面が劈開によりM面となっているシードである。次いでオートクレーブに付属したバルブ1を介して導管11を真空ポンプに通じるように操作し、バルブ1を開けてオートクレーブ3内を真空脱気した。その後、真空状態を維持しながらオートクレーブ3をドライアイスメタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブ1を閉じた。次いで、導管をNH3ボンベに通じるように操作した後、再びバルブ1を開け、外気に触れることなく連続してNH3をオートクレーブ3内に充填した。流量制御に基づき、NH3をオートクレーブの空洞部の約65%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、再びバルブ1を閉じた。オートクレーブ3の温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させて充填したNH3の増加分の計量を行った。
【0065】
続いて、オートクレーブ3を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉7内に収納した。オートクレーブの下部外面の温度が475℃に、上部外面の温度が425℃になるように温度差をつけながら6時間かけて昇温し、オートクレーブの下部外面の温度が475℃に、上部外面の温度が425℃に達した後、その温度でさらに96時間保持した。オートクレーブ3内の圧力は約120MPaであった。また保持中の温度幅は±5℃以下であった。その後、オートクレーブ3の下部外面の温度が50℃になるまでおよそ9時間かけて降温したのちヒーターによる加熱を止め、電気炉7内で自然放冷した。オートクレーブ3の下部外面の温度がほぼ室温まで降下したことを確認した後、まずオートクレーブに付属したバルブ1を開放し、オートクレーブ3内のNH3を取り除いた。その後オートクレーブ3を計量しNH3の排出を確認した。その後、一旦バルブ1を閉じ、真空ポンプに通ずるように操作し、バルブ1を再び開放し、オートクレーブ3のNH3をほぼ完全に除去した。
【0066】
その後、オートクレーブの蓋を開け、内部を確認したところ、シードのC面上には厚さ50μm、M面上には厚さ82μmのGaN結晶が成長しており、成長速度はそれぞれ12.5μm/day、20.5μm/dayであった。シード表面に成長したGaN結晶を取り出してまずSEM(走査型電子顕微鏡)による結晶面状態を観察したところ、針状結晶や粒塊などは見られなかった。さらにX線回折測定した結果、結晶形はヘキサゴナル型であり、結晶の成長方位はシードと同じくC面上にはc軸に、M面上にはm軸にそれぞれ配向していた。
【0067】
(実施例2〜7、比較例1〜2)
実施例1の結晶成長条件と鉱化剤の種類及び使用量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてGaN結晶の成長を試みた(実施例2〜4、6、7、および比較例1)。実施例5では、劈開によらずスライスにより作成したM面を有するシードを用いた点を変更した以外は実施例2と同様にしてGaN結晶の成長を試みた。比較例2は、公知文献(Journal of Crystal Growth 287(2006)376-380)に記載されているものである。
【0068】
実施例2〜7では、シード表面に成長したGaN結晶を取り出してSEM(走査型電子顕微鏡)による結晶面状態を観察したところ、実施例1と同様に針状結晶や粒塊などは見られず、さらにX線回折測定した結果、結晶形はヘキサゴナル型であり、結晶の成長方位はシードと同じくC面上にはc軸に、M面上にはm軸にそれぞれ配向していた。比較例1および2でもC面上にはc軸に、M面上にはm軸にそれぞれ配向していた。
【0069】
(評価)
実施例2〜7、比較例1〜2の各GaN結晶について、m軸方向の成長速度とc軸方向の成長速度を測定した。成長測定は、得られた結晶のm軸方向の成長量とc軸方向の成長量を測定し、結晶成長時間で除することにより求めた。比較例2については、公知文献(Journal of Crystal Growth 287(2006)376-380)に記載される写真から成長量を割り出し、結晶成長時間で除することにより成長速度を求めた。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜7では、m軸の結晶成長速度をc軸方向の結晶成長速度の1.5倍以上にしてシード上に結晶成長させることができた。特に実施例2、実施例3、実施例5〜7では、m軸の結晶成長速度をc軸方向の結晶成長速度の2倍以上にしてシード上に結晶成長させることができた。それに比べて、比較例1及び比較例2では、m軸の結晶成長速度がc軸方向の結晶成長速度より遅かった。
【0072】
表1の実施例1と実施例4の比較、表1の実施例2と実施例3の比較から明らかなように、鉱化剤としてNH4Clだけを使用した場合に比べて、NH4ClとNH4Brを組み合わせて使用した場合は結晶成長速度を速くすることができた。実施例1と実施例4において、原料の仕込量に対する溶解量の割合(溶解量/仕込量x100)を求めたところ、実施例1は68%、実施例4は91%であった。ここで溶解量は、仕込み量から成長後の残存原料量を引くことにより求めたものである。この結果は、鉱化剤としてNH4Clに加えてNH4Brも組み合わせて使用することによって、溶解量が多くなり、その結果、結晶成長速度が速まることを示している。
【0073】
表1の実施例1と実施例6の比較から明らかなように、鉱化剤としてNH4Clに加えてさらにMgCl2も組み合わせて使用することによって、c軸方向の結晶成長速度に対するm軸の結晶成長速度の比(m軸/c軸)を一段と大きくすることができた。また、実施例7のように、NH4ClとMgCl2を組み合わせて使用した場合の結晶成長条件を調整することによりば、実施例6に比べて結晶成長速度を速めることができた。
【0074】
表1の実施例2と実施例5の比較から明らかなように、劈開によらずスライスにより作成したM面を有するシードの代わりに、劈開により作成したM面を有するシードを用いて結晶成長を行うことにより、m軸方向の成長速度を速めることができる。このことは、劈開により作成したM面を用いて結晶成長させることによって、本発明の効果がより得られやすくなることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、アモノサーマル法の成長速度の異方性を制御して、m軸方向の成長速度を速めることができる。このため、大口径のC面を有する窒化物半導体や、m軸方向に厚い窒化物半導体を効率よく簡便に製造することができる。また、製造される窒化物単結晶は、均質で品質が優れている。このため、このような優れた窒化物単結晶を用いた本発明のウエハやデバイスは高機能を示す。したがって、本発明は産業上有用であり、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0076】
1 バルブ
2 圧力計
3 オートクレーブ
4 結晶成長部
5 原料充填部
6 バッフル板
7 電気炉
8 熱電対
9 原料
10 シード
11 導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶系の結晶構造を有するシード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、及び鉱化剤を入れた反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル的に窒化物半導体を結晶成長させる工程を含む窒化物半導体の製造方法であって、
前記シード上のm軸方向の結晶成長速度が前記シード上のc軸方向の結晶成長速度の1.5倍以上であることを特徴とする窒化物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記シード上のm軸方向の結晶成長速度が前記シード上のc軸方向の結晶成長速度の2.0倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項3】
前記温度が250℃〜490℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項4】
前記圧力が60MPa〜160MPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項5】
前記窒化物半導体がガリウム含有窒化物半導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記鉱化剤が酸性鉱化剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項7】
前記酸性鉱化剤がハロゲン化アンモニウムを含むことを特徴とする請求項6に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項8】
前記鉱化剤がアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤がハロゲン化マグネシウム及び/又はハロゲン化カルシウムを含むことを特徴とする請求項8に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項10】
前記鉱化剤として複数の化学種を混在させることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項11】
前記シードとして、六方晶系の結晶構造を有し、M面の面積がC面の面積よりも大きいシードを用いることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項12】
前記シードとして劈開面を持つシードを用い、この劈開面上にアモノサーマル的に窒化物半導体成長させることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項13】
六方晶系の結晶構造を有するシード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、及び複数の化学種からなる鉱化剤を入れた反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル的に窒化物半導体を結晶成長させる工程を含む窒化物半導体の製造方法。
【請求項14】
前記温度が250℃〜490℃であることを特徴とする請求項13に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項15】
前記圧力が60MPa〜160MPaであることを特徴とする請求項13又は14に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項16】
前記窒化物半導体がガリウム含有窒化物半導体であることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項17】
前記鉱化剤が酸性鉱化剤であることを特徴とする請求項13〜16のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項18】
前記酸性鉱化剤がハロゲン化アンモニウムを含むことを特徴とする請求項17に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項19】
前記鉱化剤がアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤を含むことを特徴とする請求項13〜18のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項20】
前記アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を含む鉱化剤がハロゲン化マグネシウム及び/又はハロゲン化カルシウムを含むことを特徴とする請求項19に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項21】
前記鉱化剤として2種類の化学種を混在させることを特徴とする請求項13〜20のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項22】
前記シードとして、六方晶系の結晶構造を有し、M面の面積がC面の面積よりも大きいシードを用いることを特徴とする請求項13〜21のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項23】
前記シードとして劈開面を持つシードを用い、この劈開面上にアモノサーマル的に窒化物半導体成長させることを特徴とする請求項13〜22のいずれか一項に記載の窒化物半導体の製造方法。
【請求項24】
六方晶系の結晶構造を有するシード、窒素元素を含有する溶媒、周期表13族金属元素を含む原料物質、及び鉱化剤を入れた反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態及び/又は亜臨界状態となるように制御して前記シードの表面にアモノサーマル的に窒化物半導体を結晶成長させる際の結晶成長速度増加剤であって、複数の化学種の鉱化剤を含有することを特徴とする成長速度増加剤。
【請求項25】
前記温度が250℃〜490℃であることを特徴とする請求項24に記載の結晶成長速度増加剤。
【請求項26】
前記圧力が60MPa〜160MPaであることを特徴とする請求項24又は25に記載の結晶成長速度増加剤。
【請求項27】
請求項1〜23のいずれか一項に記載の製造方法により製造した窒化物単結晶。
【請求項28】
M面の表面積がC面の表面積よりも大きいことを特徴とする請求項27に記載の窒化物単結晶。
【請求項29】
請求項27または28に記載の窒化物単結晶より切り出したウエハ。
【請求項30】
請求項27または28に記載の窒化物単結晶、又は請求項29に記載のウエハを用いたデバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−76995(P2012−76995A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−282698(P2011−282698)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2007−263604(P2007−263604)の分割
【原出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】