説明

窒化物結晶の製造方法、アモノサーマル原料の溶解輸送促進剤および窒化物結晶成長促進剤

【課題】高温高圧条件を採用せずに、アモノサーマル法による窒化物結晶の成長速度を速める方法を提供する。
【解決手段】超臨界アンモニアに腐食または溶解しないアンモニア熱分解触媒7を含むアンモニア中において、アモノサーマル法により窒化物結晶を成長させる。アンモニア熱分解触媒7は、Ru,Rh,Pd,W,ReまたはOsからなる単体であるか、あるいは、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrまたはPtのいずれかの金属とその他の金属との合金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモノサーマル法による窒化物結晶の製造方法に関する。特に、特定の材料を使用することにより、窒化物結晶原料の溶解と輸送を促進し、窒化物結晶の成長を速めた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニア溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニア溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる方法である。アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は溶媒に超臨界および/または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うが、主に水晶(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。一方アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。アモノサーマル法によって単結晶を成長させるためには、十分な量の原料が過飽和状態で存在し析出する必要があるが、そのためには結晶成長用原料が十分に溶媒に溶解して結晶成長領域に輸送され、結晶成長領域において速やかに結晶が析出することが必要である。しかしながら、例えば窒化ガリウムなどの窒化物は、採用しうる温度圧力範囲において純粋なアンモニアに対する溶解度が極めて低いため、実用的な結晶成長に必要な量を溶解させることができないという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するために、窒化ガリウムなどの窒化物の溶解度を向上させる鉱化剤を反応系内に添加することが一般に行われている。鉱化剤は、窒化物と錯体などを形成(溶媒和)することができるため、より多くの窒化物をアンモニア中に溶解させることができる。鉱化剤には、塩基性鉱化剤と酸性鉱化剤があり、塩基性鉱化剤の代表例としてはアルカリ金属アミドを挙げることができ、酸性鉱化剤の代表例としては塩化アンモニウムを挙げることができる(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、これらの鉱化剤を用いてもなお窒化物結晶の成長速度は満足が行く程度にまで高まっていない。アモノサーマル法による窒化物結晶の成長を制御する主要因は、上記の鉱化剤の種類の他に、温度、圧力、温度差にあると考えられている。温度差を大きくすると、得られる結晶の結晶性が悪化してしまうため、高品質な単結晶を得ることができないという問題がある。このため、高品質な窒化物結晶を速やかに成長させるためには、温度と圧力を高くすることが望ましいと認識されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−277182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アモノサーマル法の温度と圧力を上げるためには、それに耐えうる反応容器(オートクレーブ)が無くてはならない。しかしながら、現在入手可能な最高の耐久性を有するRENE41を使用しても、最高使用温度は600〜650℃、最高使用圧力は300〜400MPaで頭打ちとなる。しかも、鋼塊寸法が限られるために、現行の鋼塊製造技術ではオートクレーブの内径はせいぜい100mm程度にしかできない。GaN結晶などの窒化物結晶は、将来的にはLEDやLDなどのオプトデバイス用基板にとどまらず、ハイパワーデバイスや高周波デバイスなどの電子デバイスにも広く利用されることが期待されている。そのためには、径が4インチ(100mm)以上の大型な窒化物結晶が必要であるが、現時点ではオートクレーブの内径に制限があるため、直径が最大でも3インチ(76mm)程度の結晶しか得ることができない。
【0007】
このような従来技術の課題を考慮して、本発明者らは、高温高圧化によらずに結晶成長速度を促進する方法を提供することを目的として鋭意検討を進めた。すなわち、より低い温度圧力条件で十分な成長速度を達成し、大型圧力容器による量産化への道を開くことを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、本発明者らは、特定の触媒を使用すれば高温高圧条件を採用しなくても窒化物結晶の成長を促進しうることを見いだして、本発明を完成するに至った。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0009】
[1] 超臨界アンモニアに腐食または溶解しないアンモニア熱分解触媒を含むアンモニア中においてアモノサーマル法により窒化物結晶を成長させることを特徴とする窒化物結晶の製造方法。
[2] 前記アンモニア熱分解触媒が、Ru,Rh,Pd,W,ReまたはOsからなる単体であるか、あるいは、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrまたはPtのいずれかの金属とその他の金属との合金であることを特徴とする[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[3] 前記アンモニア熱分解触媒が、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrおよびPtからなる群より選択される2種類以上の元素からなる合金であることを特徴とする[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[4] 前記アンモニア熱分解触媒を反応容器内の結晶成長領域に設置することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[5] 前記窒化物結晶を種結晶上に成長させることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[6] 前記窒化物結晶を200MPa以下の圧力下で成長させることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[7] 前記窒化物結晶がガリウムを含む窒化物結晶であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[8] 前記窒化物結晶が単結晶であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[9] 前記窒化物結晶が多結晶であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[10] [1]〜[9]でのいずれか一項に記載のアモノサーマル法により製造される窒化物結晶。
[11] 前記窒化物が窒化ガリウムであることを特徴とする[10]に記載の窒化物結晶。
【0010】
[12] アモノサーマル法によって窒化物結晶を成長させる際に、窒化物結晶成長用の原料をアンモニアに溶解して結晶成長領域に輸送するのを促進する窒化物結晶成長用原料の溶解輸送促進剤であって、
アンモニア熱分解触媒を含むことを特徴とする窒化物結晶成長用原料の溶解輸送促進剤。
[13] 前記アンモニア熱分解触媒が、Ru,Rh,Pd,W,ReまたはOsからなる単体であるか、あるいは、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrまたはPtのいずれかの金属とその他の金属との合金であることを特徴とする[12]に記載のアモノサーマル原料の溶解輸送促進剤。
[14] アモノサーマル法によって窒化物結晶成長用の原料が溶解したアンモニア溶液から窒化物結晶を成長させる速度を促進する窒化物結晶成長促進剤であって、
アンモニア熱分解触媒を含むことを特徴とする窒化物結晶成長促進剤。
[15] 前記アンモニア熱分解触媒が、Ru,Rh,Pd,W,ReまたはOsからなる単体であるか、あるいは、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrまたはPtのいずれかの金属とその他の金属との合金であることを特徴とする[14]に記載の窒化物結晶成長促進剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温高圧条件を採用せずに、窒化物結晶の成長速度を速めることができる。また、本発明によれば、アンモニアへの窒化物結晶成長用原料の溶解と、溶解した原料の結晶成長領域への輸送を促進することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の結晶成長方法に用いることができる装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の窒化物結晶の製造方法とそれに用いる材料について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(アンモニア熱分解触媒)
本発明は、アモノサーマル法により窒化物結晶を成長させる際に、超臨界アンモニアに腐食または溶解しないアンモニア熱分解触媒をアンモニア中に存在させておくことを特徴とする。
アンモニア熱分解触媒とは、350℃以上においてアンモニアの熱分解を促進する作用を有する触媒を意味する。このようなアンモニア熱分解作用を有する触媒か否かは、アンモニアを触媒に接触させて発生した水素あるいは窒素を検出することによって確認することができる。また、超臨界アンモニアに腐食または溶解しない触媒とは、超臨界アンモニア中におかれた後に触媒の断面を電子線マイクロアナライザー(EPMA)で分析したときに、腐食や溶解が観察されない触媒を意味する。実際には、超臨界アンモニア中におかれた後の触媒の重量減少が小さい触媒であると言うことができる。
そのような触媒は、後述する実施例11のようなアモノサーマル条件下に置かれたときの触媒重量減少率が1%以下である。触媒重量減少率は、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.1%以下であり、さらに好ましくは0.05%以下である。
ここで示す触媒重量減少率は、以下の式1で規定される。触媒重量減少率は、使用前の触媒重量よりも使用後の触媒重量が小さい場合に限って用いられる。
【数1】

なお、後述する実施例で示す触媒重量変化率は、以下の式2で規定される。触媒重量変化率が負である場合は触媒の重量が減少していることを表しており、重量変化率が正である場合は触媒の重量が増加していることを表している。
【数2】

【0015】
本発明で用いることができるアンモニア熱分解触媒として、好ましくは、Ru,Rh,Pd,W,ReまたはOsからなる単体であるか、あるいは、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrまたはPtのいずれかの金属とその他の金属との合金を挙げることができる。合金である場合は、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrおよびPtからなる群より選択される2種以上の元素からなる合金を用いることが好ましい。本発明で用いることができるアンモニア熱分解触媒の具体例として、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,Pt−Ir,Ta−W,Pt−Rh,Pt−Pd−Rh,Pt−Re,Pd−Au,Pd−Ag,Pd−Ptなどを挙げることができ、なかでもRu,Rh,Pd,W,Pt−Ir,Ta−W、Pt−Rh,Pt−Pd−Rh,Pd−Ptを好ましく用いることができ、Ru,W,Pt−Irをより好ましく用いることができる。
【0016】
本発明において2種類以上の元素からなる合金を用いる場合、その組成は特に制限されない。例えば、Pt−Ir合金であれば、Irの割合を1〜99%にすることが好ましく、5〜70%にすることがより好ましく、10〜50%にすることがさらに好ましい。また、他の例として、Ta−W合金であれば、Wの割合を1〜99%にすることが好ましく、1.5〜70%にすることがより好ましく、2.5〜50%にすることがさらに好ましい。
【0017】
本発明では、複数のアンモニア熱分解触媒を組み合わせて用いてもよい。また、アンモニア熱分解触媒をそのような作用を有しない他の触媒とともに用いてもよい。ただし、そのような他の触媒の使用量は、本発明のアンモニア熱分解触媒の窒化物結晶成長促進作用を過度に阻害しない量とする。アモノサーマル法に用いられる鉱化剤以外の触媒を100重量%としたとき、アンモニア熱分解触媒が占める割合は、通常30〜100重量%であり、50〜100重量%であることが好ましく、80〜100重量%であることがより好ましい。また、本発明では、アンモニア熱分解触媒と併用する他の触媒は、超臨界アンモニアに腐食または溶解しないものであることが好ましい。超臨界アンモニアに腐食または溶解する触媒は、アンモニア熱分解触媒の作用を減ずる傾向があるため、使用しないことが好ましい。また、使用する場合は使用量を少なくすることが好ましい。
【0018】
本発明で用いるアンモニア熱分解触媒は、担持物質に担持されたものであってもよい。担持物質も超臨界アンモニアに腐食または溶解しないものであることが好ましい。また、アンモニア熱分解触媒の形状は特に制限されず、板状、ブロック状、箔状、棒状などいずれであってもよい。好ましくは、板状、ブロック状である。
【0019】
本発明において、アンモニア熱分解触媒は、窒化物結晶の成長を促進するのに十分な量で使用する。通常は、アモノサーマル法に用いるアンモニアの0.1〜50重量%にすることが好ましく、0.5〜30重量%にすることがより好ましく、1.0〜15重量%にすることがさらに好ましい。
【0020】
アンモニア熱分解触媒は、アモノサーマル法によって窒化物結晶成長用の原料が溶解したアンモニア溶液から窒化物結晶を成長させる速度を促進する窒化物結晶成長促進剤として機能する。また、別の観点から規定すると、アンモニア熱分解触媒は、アモノサーマル法によって窒化物結晶を成長させる際に、窒化物結晶成長用の原料をアンモニアに溶解して結晶成長領域に輸送するのを促進する窒化物結晶成長用原料の溶解輸送促進剤として機能する。アンモニア熱分解触媒のこれらの機能は、塩基性鉱化剤を用いた場合であっても、酸性鉱化剤を用いた場合であっても発揮されるため、汎用性が高い。また、これらの機能は、高温高圧条件を採用しなくても発揮される。このため、本発明によれば、例えば200MPa以下のような低圧下において安価に窒化物結晶を製造することが可能であり、また、低コストで量産化を図ることも可能である。
【0021】
アンモニア熱分解触媒は、窒化物結晶成長用原料をアンモニア中に溶解させる原料溶解領域に設置してもよいし、窒化物結晶を成長させる結晶成長領域に設置してもよい。両方に設置することも可能である。好ましいのは、結晶成長領域に設置する場合であり、特に種結晶の近くに設置することが好ましい。種結晶の近くに設置することによって、窒化物結晶の成長速度を一段と速くすることができる。結晶成長領域に種結晶とアンモニア熱分解触媒をともに設置する場合、その配列は特に制限されないが、例えば、原料溶解領域に近い側にアンモニア熱分解触媒を設置し、遠い側に種結晶を設置することができる。このように設置すれば、溶解した原料がアンモニア熱分解触媒近傍を通過してから種結晶上へ到達することになり、種結晶上への結晶成長を促進させることができる という利点がある。
【0022】
(結晶成長条件)
本発明における窒化物結晶の成長条件としては、通常のアモノサーマル法における窒化物結晶の成長条件を適宜選択して採用することができる。例えば、本発明における窒化物結晶の成長時の圧力は、通常80〜300MPaに設定することが好ましく、100〜250MPaに設定することがより好ましく、100〜200MPaに設定することがさらに好ましい。
また、結晶成長用原料としては、アモノサーマル法による窒化物結晶の成長に通常用いられる原料を適宜選択して用いることができる。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させる場合には、ガリウム源となる原料として金属ガリウム、窒化ガリウム、またはこれらの混合物を用いることができる。
その他の窒化物結晶の成長条件等については、特開2007−238347号公報の製造条件の欄を参照することができる。
【0023】
本発明のアモノサーマル法によれば、通常0.3〜500μm/dayの範囲内の速度で結晶を成長させることができる。成長速度は1〜400μm/dayの範囲内であることが好ましく、10〜300μm/dayの範囲内であることがより好ましく、20〜250μm/dayの範囲内であることがさらに好ましい。ここでの成長速度は、任意の結晶面で切り出された板状種結晶の両面に成長した合計寸法を育成日数で割った値である。
【0024】
(種結晶)
本発明では、結晶成長領域中に種結晶をあらかじめ用意しておき、その種結晶上に窒化物結晶を成長させることが好ましい。種結晶を用いれば、特定のタイプの結晶を選択的に成長させることが可能である。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させる場合、種結晶として六方晶の窒化ガリウム結晶を用いれば、種結晶上に六方晶の窒化ガリウム単結晶を成長させることができる。
【0025】
種結晶は通常薄板状の平板単結晶を用いるが、主面の結晶方位は任意に選択することができる。ここで主面とは薄板状の種結晶で最も広い面を指す。六方晶窒化ガリウム単結晶の場合は(0001)面、(000−1)面に代表される極性面、(10−12)面、(10−1−2)面に代表される半極性面、(10−10)面に代表される非極性面と様々な方位の主面を有する種結晶を用いることにより任意の方位へ結晶成長させることができる。種結晶の切り出し方位は前記のようなファセット面に限らず、ファセット面から任意の角度ずらした面を選択することもできる。
【0026】
また、種結晶の表面粗さ(Rms)は、0.03〜1.0nmの範囲内であることが好ましく、0.03〜0.5nmの範囲内であることがより好ましく、0.03〜0.2nmの範囲内であることがさらに好ましい。ここでいう表面粗さは、原子間力顕微鏡により測定される値である。表面粗さが上記の好ましい範囲内にあれば、初期成長界面での二次元成長がスムーズに開始され、界面での結晶欠陥の導入を抑制し、立方晶窒化ガリウムの生成を抑えやすくなるという利点がある。このような表面粗さにするためには、例えばCMP(化学機械的研磨)を行なえばよい。
上記表面粗さを有さない種結晶については、表面に対して化学エッチング等を行うことにより加工変質層を除去した後に窒化物結晶を成長させることが好ましい。例えば、100℃程度のKOHあるいはNaOHなどのアルカリ水溶液でエッチングすることにより、好ましく加工変質層を除去することができる。この場合も上記表面粗さを制御した場合と同様の効果がある。
【0027】
(反応容器)
本発明のアモノサーマル法は、反応容器中で行う。本発明に用いる反応容器は、窒化物結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択する。本発明では、オートクレーブを用いることが好ましい。本発明に用いる反応容器は、耐圧性と耐腐食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐腐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41、ハステロイ、ワスパロイが挙げられる。
【0028】
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、および系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いるには、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として薄膜を形成して反応容器内に設置してもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
【0029】
本発明の製造方法に用いることができる反応容器を含む結晶製造装置の具体例を図1に示す。 図1は、バッフル板6で内部が2つに仕切られたオートクレーブ1を備えた結晶製造装置である。2つに仕切られた内部のうち、下側は原料5をアンモニア中に溶解させるための原料溶解領域であり、上側は種結晶4を装填して窒化物結晶を成長させるための結晶成長領域である。オートクレーブ1は蓋3で密閉され、外側に設置されたヒーターにより加熱することができるようになっている。加熱温度は熱電対により測定することができる。オートクレーブの蓋3には導管が備えられており、そこからバルブ9を通して図示するように真空ポンプ15、アンモニアボンベ16、窒素ボンベ17へと導かれている。図1に示す製造装置の具体的な使用態様については、後述する実施例を参考にすることができる。
【0030】
バッフル板は、結晶成長領域と原料溶解領域を区画するものであり、開孔率が2〜20%であるものが好ましく、3〜10%であるものがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、前記の反応容器の材料と同一であることが好ましい。
【0031】
バルブ、圧力計、導管についても、少なくとも表面が耐腐食性の材質で構成されるものを用いることが好ましい。例えば、SUS316(JIS規格)であり、Inconel625を使用することがより好ましい。なお、本発明のアモノサーマル法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、圧力計、導管は必ずしも設置されていなくても構わない。
【0032】
(製造工程)
本発明のアモノサーマル法を実施する際には、まず、反応容器内に、種結晶、窒素元素を含有する溶媒、結晶成長のための原料物質、および鉱化剤を入れて封止する。これらの材料を反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。
【0033】
反応容器内への種結晶の装填は、通常は、原料物質、鉱化剤およびアンモニア熱分解触媒を充填する際に同時に行うか、または原料物質および鉱化剤を充填した後にアンモニア熱分解触媒とともに装填する。種結晶は、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
【0034】
超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料溶解領域では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長領域では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
【0035】
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において超臨界状態とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)およびP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0036】
超臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物単結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内は上記の好ましい温度範囲と圧力範囲内に保持することが望ましい。圧力は、温度および反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、および死容積の存在によって多少異なる。
【0037】
上記の反応容器の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、および種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは40〜90%、さらに好ましくは45〜85%とする。
【0038】
反応容器内での窒化物単結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0039】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物単結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0040】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。
さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶および未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
【0041】
このようにして、本発明の方法により窒化物結晶を製造することができる。所望の結晶構造を有する窒化物結晶を製造するためには、製造条件を適宜調整することが必要である。
【0042】
(窒化物結晶)
本発明のアモノサーマル法により得られる窒化物結晶の種類は、選択する結晶成長用原料の種類等によって決まる。本発明によれば、III族窒化物結晶を好ましく成長させることができ、ガリウム含有窒化物結晶をより好ましく成長させることができる。具体的には、窒化ガリウム結晶の成長に好ましく利用することができる。
【0043】
本発明のアモノサーマル法によれば、比較的径が大きな結晶も得ることができる。例えば、最大径が50mm以上である窒化物結晶や、より好ましくは最大径が76mm以上である窒化物結晶や、さらに好ましくは最大径が100mm以上である窒化物結晶を得ることも可能である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0045】
[原料溶解量の検討]
(実施例1)
本実施例では、図1に示す反応装置を用いて、触媒を吊り下げて原料を加熱する実験を行った(図1の種結晶4は本実施例では用いない)。
白金を内張りした内寸が直径15mm、長さ154mmのInconel625製オートクレーブ1(内容積約27cm3)を反応容器として用い、実験を行った。オートクレーブ1の内面を十分に洗浄し乾燥した。触媒の支持に使用する白金製ワイヤー、白金製支持枠、白金製バッフル板、白金メッシュ製原料カゴも同様に洗浄乾燥させた。窒化物結晶成長用の原料として多結晶GaN粒子を用いた。多結晶GaN粒子に対して濃度約50%のフッ酸を用いて付着物の除去を目的とした洗浄を行い、純水で十分リンスした後乾燥させ、12.98gを秤量し白金メッシュ製原料カゴに充填した。
鉱化剤として十分に乾燥させた塩化アンモニウムの試薬を0.74g秤量し、白金メッシュ製原料カゴに多結晶GaN原料と一緒に充填した後、オートクレーブ下部原料域内に原料5として設置した。
【0046】
次にオートクレーブ下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域をほぼ2分する位置に白金製のバッフル板6(開口率10%)を設置した。
最後に、板状のタングステン金属(5mm×5mm×2mm)を直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製支持枠に触媒7として吊るし、タングステン金属の中心がオートクレーブ上部の結晶成長領域の上端から20mm下方に位置するように設置した後、素早くバルブが装着されたオートクレーブの蓋を閉じてオートクレーブの計量を行った。次いで、オートクレーブに付属したバルブ9を介して導管を真空ポンプ15に通じるように操作し、バルブ9を開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスメタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブ9を閉じた。
【0047】
次いで、導管がアンモニアボンベ16に通じるように操作した後、再びバルブ9を開け連続して外気に触れることなくアンモニアをオートクレーブ1に充填した。その後、流量制御に基づき、17.5リットルのアンモニアを毎分2リットルの流量で充填した後、自動的にラインが閉じ充填がストップするのでバルブ9を閉じた。重量変化でアンモニアの投入量を計算した結果、アンモニアの投入量は12.17gであった。
【0048】
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。12時間かけて昇温し、オートクレーブ下部溶液温度が540℃に、上部溶液温度が420℃になるようにオートクレーブ外壁温度を設定したのち、その温度でさらに96時間保持した。オートクレーブ外壁温度とオートクレーブ内部溶液温度との関係はあらかじめ実測して相関式を作成しておいた。オートクレーブ1内の圧力は約130MPaであった。また保持中の制御温度のバラツキは±5℃以下であった。
【0049】
加熱終了後、オートクレーブ1の下部外面の温度が150℃になるまでプログラムコントローラーを用いておよそ8時間で降温した後、ヒーターによる加熱を止め、電気炉内で自然放冷した。オートクレーブ1の下部外面の温度がほぼ室温にまで降下したことを確認した後、まず、オートクレーブに付属したバルブ9を開放しオートクレーブ1内のアンモニアを取り除いた。次に真空ポンプでオートクレーブ1内のアンモニアを完全に除去した。その後、オートクレーブの蓋3を開け内部から支持枠、バッフル板、原料カゴを取り出した。
その後、以下の測定と評価を行った。
【0050】
1)触媒重量変化率の測定
実施例1を実施する前後の触媒重量を測定して、その変化量を算出した。
【0051】
2)原料重量変化率の測定
実施例1を実施する前後の原料カゴ中の原料重量を測定して、その変化量を算出した。
【0052】
3)触媒の腐食状況の評価
実施例1を実施した後の触媒の腐食状況を確認するため、触媒の断面を電子線マイクロアナライザー(EPMA)で分析し、以下の2段階で評価した。
○:触媒の腐食は観察されなかった。
×:触媒の腐食が観察され、触媒を構成する金属元素が溶出していることが確認された。
【0053】
4)触媒上の結晶析出状況の評価
実施例1を実施した後の触媒上のGaN結晶析出状況を触媒の断面を電子線マイクロアナライザー(EPMA)で分析し、触媒表面にGa、Nが検出されることで確認し、以下の3段階で評価した。
◎:触媒表面にGa、Nが検出され、触媒重量変化率が1.0%以上であった。
○:触媒表面にGa、Nが検出され、触媒重量変化率が0.1以上、1.0%未満であった。
×:触媒上に結晶の析出は見られなかった。
【0054】
5)原料輸送効果の評価
上記式2にしたがって原料重量変化率を算出して、原料輸送効果を以下の3段階で評価した。
◎:原料重量変化率が−30%未満であった。
○:原料重量変化率が−30%以上、−8.5%未満であった。
×:原料重量変化率が−8.5%〜0%であった。
【0055】
以上の各測定と評価の結果を表1にまとめて示す。
【0056】
(実施例2〜3および比較例1〜2)
表1に示すように触媒の種類と形状を変更した以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。実施例3ではPtとIrの合金を使用した。また、比較例2では、板状のIrとPt箔を接触させないようにオートクレーブ内に配置した。実施例1と同様に測定と評価を行った結果を表1に示す。
【0057】
(実施例4)
内径が20mmで内容積が約64cm3であるオートクレーブの原料溶解領域に、板状のRu(20mm×5mm×1mm)触媒を原料とともに原料カゴに入れて設置した。内容積が約2倍となるため、鉱化剤、アンモニアの重量は実施例1の2倍の量を使用し、その他は実施例1と同様の条件で実験を行い、測定と評価を行った。その結果、原料カゴ中の触媒には腐食やGaN結晶の析出は認められなかった。また、−15%程度の原料重量変化が観測され、原料の溶解輸送促進効果が確認された。
【0058】
(実施例5)
触媒として、実施例1で用いた板状のW(5mm×5mm×5mm)の他に、比較的小さなブロック状の合金Rene41(商品名)(ASTM材料規格がUNS N07041であるもの。ASTMは、米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials)の略。以下同じ。)を併用して実施例1と同様の条件で実験を行うと、実施例1と同様にWによる原料の溶解輸送促進効果とW上へのGaN結晶析出が認められるが、その程度は腐食するRene41により幾分阻害される。
【0059】
(実施例6)
触媒として、実施例1で用いた板状のW(5mm×5mm×5mm)の他に、比較的小さなブロック状の合金Alloy625(一般名称)(ASTM材料規格がUNS N06625であるもの)を併用して実施例1と同様の条件で実験を行うと、実施例1と同様にWによる原料の溶解輸送促進効果とW上へのGaN結晶析出が認められるが、その程度は腐食するAlloy625により幾分阻害される。
【0060】
(比較例3)
触媒として、実施例1で用いた板状のW(5mm×5mm×5mm)のかわりに、ブロック状の合金Rene41(商品名) (ASTM材料規格がUNS N07041であるもの)を単独で用いて実施例1と同様の条件で実験を行うと、触媒が腐食されてしまい、原料の溶解輸送促進と触媒上へのGaN結晶析出はほとんど観測されない。
【0061】
(比較例4)
触媒として、実施例1で用いた板状のW(5mm×5mm×5mm)のかわりに、ブロック状の合金Alloy625(一般名称)(ASTM材料規格がUNS N06625であるもの)を単独で用いて実施例1と同様の条件で実験を行うと、触媒が腐食されてしまい、原料の溶解輸送促進と触媒上へのGaN結晶析出はほとんど観測されない。
【0062】
(比較例5)
触媒をまったく用いなかったこと以外は実施例と同様の条件で実験を行ったところ、原料重量変化率は−8.5%〜−2.5%であり、GaN結晶の析出はほとんど認められなかった。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例1〜3では、触媒の腐食が認められず、触媒上にGaN結晶の成長が観察された。原料の溶解量も大きくて、原料の輸送が十分行われていることが確認された。このような触媒の効果は、実施例5〜6のように腐食性の触媒を併用したときであっても認められるが、実施例1〜3のように腐食性の触媒を併用しない方がより大きな効果が得られるため好ましい。また、実施例4に示すように、本発明の触媒による原料の溶解輸送促進効果は、触媒を結晶成長領域ではなく原料溶解領域に設置した場合であっても認められる。
【0065】
これに対して比較例1〜4では、原料の溶解量が少なくて、原料の輸送が十分に行われていないことが確認された。また、触媒上へのGaNの析出は確認されなかった。なかでも、比較例3のRene41と比較例4のAlloy625は腐食されており、触媒の断面を電子線マイクロアナライザーで分析したところ、Rene41からはFe、Ni、Coが溶出し、Alloy625からはFe、Ni、Crが溶出していることが確認された。
以上より、本発明にしたがって特定の触媒を使用することによって、原料の溶解輸送促進とGaN結晶析出が達成できることが明らかになった。
【0066】
[結晶成長実験]
次に、種結晶を用いて結晶成長を試みることにより触媒の効果を確認する実験を行った。
【0067】
(実施例11)
本実施例では、図1に示す反応装置を用いて窒化物結晶を成長させた。
白金を内張りした内寸が直径15mm、長さ154mmのInconel625製オートクレーブ1(内容積約27cm3)を反応容器として用い結晶成長を行った。オートクレーブ1の内面を十分に洗浄し乾燥した。結晶成長に使用する白金製ワイヤー、白金製種子結晶支持枠、白金製バッフル板、白金メッシュ製原料カゴも同様に洗浄乾燥させた。窒化物結晶成長用の原料として多結晶GaN粒子を用いた。多結晶GaN粒子に対して濃度約50%のフッ酸を用いて付着物の除去を目的とした洗浄を行い、純水で十分リンスした後乾燥させ、13.05gを秤量し白金メッシュ製原料カゴに充填した。
鉱化剤として十分に乾燥させた塩化アンモニウムの試薬を0.78g秤量し、白金メッシュ製原料カゴに多結晶GaN原料と一緒に充填したのち、オートクレーブ下部原料域内に原料5として設置した。
【0068】
次にオートクレーブ下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域をほぼ2分する位置に白金製のバッフル板6(開口率10%)を設置した。
最後に、板状のタングステン金属(5mm×5mm×2mm)とGaN単結晶からなる種結晶を、直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製種子結晶支持枠に触媒7、種結晶4として吊るし、オートクレーブ上部の結晶成長領域に設置した後、素早くバルブが装着されたオートクレーブの蓋3を閉じオートクレーブの計量を行った。このとき、タングステン金属の中心がオートクレーブ上部の結晶成長領域の上端から40mm下方に位置するように設置し、種結晶の中心がオートクレーブ上部の結晶成長領域の上端から25mm下方に位置するように設置した。次いで、オートクレーブに付属したバルブ9を介して導管を真空ポンプ15に通じるように操作し、バルブ9を開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスメタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブ9を閉じた。
【0069】
次いで、導管がアンモニアボンベ16に通じるように操作した後、再びバルブ9を開け連続して外気に触れることなくアンモニアをオートクレーブ1に充填した。その後、流量制御に基づき、17.5リットルのアンモニアを毎分2リットルの流量で充填した後、自動的にラインが閉じ充填がストップするのでバルブ9を閉じた。重量変化でアンモニアの投入量を計算した結果、アンモニアの投入量は12.45gであった。
【0070】
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーターで構成された電気炉内に収納した。12時間かけて昇温し、オートクレーブ下部溶液温度が540℃に、上部溶液温度が420℃になるようにオートクレーブ外壁温度を設定した後、その温度でさらに96時間保持した。オートクレーブ外壁温度とオートクレーブ内部溶液温度との関係はあらかじめ実測して相関式を作成しておいた。オートクレーブ1内の圧力は約130MPaであった。また保持中の制御温度のバラツキは±5℃以下であった。
【0071】
加熱終了後、オートクレーブ1の下部外面の温度が150℃になるまでプログラムコントローラーを用いておよそ8時間で降温した後、ヒーターによる加熱を止め、電気炉内で自然放冷した。オートクレーブ1の下部外面の温度がほぼ室温にまで降下したことを確認した後、まず、オートクレーブに付属したバルブ9を開放しオートクレーブ1内のアンモニアを取り除いた。次に真空ポンプでオートクレーブ1内のアンモニアを完全に除去した。その後、オートクレーブの蓋3を開け内部から支持枠、バッフル板、原料カゴを取り出した。
【0072】
実施例11の実施前後の触媒と原料の重量を測定して、それぞれの変化率を算出した。また、触媒上へのGaN結晶の析出の有無も観察した。さらに、種結晶のN面上の成長厚みをSEM観察することにより測定した。結果を表2に示す。
【0073】
(実施例12〜13)
表2に示すように触媒の種類と形状を変更した以外は、実施例11と同様にしてGaN結晶の成長を行った。結果を表2に示す。
【0074】
(比較例11)
触媒を使用しなかった以外は実施例11と同様の条件で実験を行った。実施例11〜13と比較して、種結晶表面のGaN結晶の析出はほとんど見られなかった。また、結晶成長条件の変動によるバラツキも大きいことがうかがえた。
【0075】
【表2】

【0076】
実施例11〜13の結果から明らかなように、本発明の触媒を用いたときは、触媒上にGaN結晶の析出は認められず、種結晶上に効率よくGaN結晶が成長した。また、原料の溶解と輸送も十分に行われていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、高温高圧条件を採用せずに、アモノサーマル法によって窒化物結晶を速やかに成長させることができる。また、本発明によれば、窒化物結晶成長用原料をアンモニア中へ速やかに溶解させ、溶解した原料を結晶成長領域へスムーズに輸送することができる。このため、本発明を用いれば、原料を効率よく利用して窒化物結晶をより速く成長させることができる。従来の結晶成長方法では、成長速度を上げるために高温高圧化を追求せざるを得なかったが、本発明によれば比較的低温低圧にて低コストで成長速度を上げることができる。また、大型化を図ることも可能である。したがって、本発明は窒化物結晶の製造工程の省エネルギー化と量産化を可能にし、製造の効率化を達成しうる点で有用であり、製造される窒化物結晶の用途が多岐にわたっていることも考慮すると、本発明の産業上の利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0078】
1 反応容器(オートクレーブ)
2 ライニング
3 オートクレーブ蓋
4 種結晶
5 原料
6 バッフル板
7 触媒
8 圧力センサー
9 バルブ
15 真空ポンプ
16 アンモニアボンベ
17 窒素ボンベ
19 マスフローメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界アンモニアに腐食または溶解しないアンモニア熱分解触媒を含むアンモニア中においてアモノサーマル法により窒化物結晶を成長させることを特徴とする窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記アンモニア熱分解触媒が、Ru,Rh,Pd,W,ReまたはOsからなる単体であるか、あるいは、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrまたはPtのいずれかの金属とその他の金属との合金であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記アンモニア熱分解触媒が、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrおよびPtからなる群より選択される2種類以上の元素からなる合金であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記アンモニア熱分解触媒を反応容器内の結晶成長領域に設置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記窒化物結晶を種結晶上に成長させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記窒化物結晶を200MPa以下の圧力下で成長させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記窒化物結晶がガリウムを含む窒化物結晶であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記窒化物結晶が単結晶であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
前記窒化物結晶が多結晶であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9でのいずれか一項に記載のアモノサーマル法により製造される窒化物結晶。
【請求項11】
前記窒化物が窒化ガリウムであることを特徴とする請求項10に記載の窒化物結晶。
【請求項12】
アモノサーマル法によって窒化物結晶を成長させる際に、窒化物結晶成長用の原料をアンモニアに溶解して結晶成長領域に輸送するのを促進する窒化物結晶成長用原料の溶解輸送促進剤であって、
アンモニア熱分解触媒を含むことを特徴とする窒化物結晶成長用原料の溶解輸送促進剤。
【請求項13】
前記アンモニア熱分解触媒が、Ru,Rh,Pd,W,ReまたはOsからなる単体であるか、あるいは、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrまたはPtのいずれかの金属とその他の金属との合金であることを特徴とする請求項12に記載のアモノサーマル原料の溶解輸送促進剤。
【請求項14】
アモノサーマル法によって窒化物結晶成長用の原料が溶解したアンモニア溶液から窒化物結晶を成長させる速度を促進する窒化物結晶成長促進剤であって、
アンモニア熱分解触媒を含むことを特徴とする窒化物結晶成長促進剤。
【請求項15】
前記アンモニア熱分解触媒が、Ru,Rh,Pd,W,ReまたはOsからなる単体であるか、あるいは、Ru,Rh,Pd,W,Re,Os,IrまたはPtのいずれかの金属とその他の金属との合金であることを特徴とする請求項14に記載の窒化物結晶成長促進剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222152(P2010−222152A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68764(P2009−68764)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】