説明

立体交差陸橋のアプローチ部構造およびその架設工法

【課題】立体交差陸橋において、土盛りとその両側の側壁とからなるアプローチ部を採用する場合は工期が長く工事費も高価になり、側道部分も工事に使用するため車線規制が必要で交通渋滞を招く。道路床版と橋脚とからなるアプローチ部を採用する場合は、橋脚の基礎構造が大型化し、その工期も長く工事費も高価になる。
【解決手段】立体交差陸橋のアプローチ部構造3は、道路軸方向に連続的に延びる鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造6と、これら脚壁構造6の上に設ける道路床版構造8とを有する。道路床版構造8は、道路軸方向に所定長さの複数のプレキャスト床版10と、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版10を連結する連結手段11と、プレキャスト床版10を脚壁構造6の上端部に位置決めし且つ連結するアンカー部材12とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体交差陸橋のアプローチ部構造およびその架設工法に関し、特に鉄筋コンクリート製のプレキャスト床版を採用して立体交差陸橋を急速施工可能にした技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、道路の交通渋滞を解消し、道路の使用効率を高めるために、交差点や踏み切りの立体交差化が推進されている。立体交差化する技術としては、交差する一方の道路を掘り下げて立体交差化する技術と、交差する一方の道路に立体交差陸橋を架設することである。前記のように道路を掘り下げて立体交差化することで、周辺環境に与える影響や安全性等の面から問題がある場合は、立体交差陸橋を架設する技術が採用される。
【0003】
一般的な立体交差陸橋は、道路を跨ぐ中央径間構造と、その両側に連なる傾斜状の側径間部およびアプローチ区間とで構成される。前記の中央径間構造は、鋼製橋桁構造又はコンクリート構造で構成され、傾斜状の側径間部も、鋼製の橋構造又はコンクリート構造で構成される。前記アプローチ区間は、盛土と、コンクリート製側壁と、コンクリートとアスファルト製の道路床版構造で構成される。
【0004】
本願の出願人は、特許文献1に示すように、プレストレストコンクリート製のプレキャスト床版を提案した。このプレキャスト床版は、道路軸方向に所定長さを有する道路床版ブロック(道路床版セグメント)であって工場において型枠を用いて所定の形状に量産される道路床版ブロックである。
このプレキャスト床版は、縦横に配置される鉄筋と、道路幅方向に配設された複数のPC鋼線と、道路軸方向の両端部に形成され且つプレキャスト床版とボルト連結する為のボルト連結部とを有するものである。
【0005】
このプレキャスト床版を採用して道路床版を構築する場合、鋼製の桁部材を道路幅方向適当間隔あけて2列に構築し、それら鋼製の桁部材上にプレキャスト床版を順次搭載して位置決めしてから、ボルト連結部において、隣接するプレキャスト床版同士を連結することにより、短期間の工期で、道路床版構造を構築することできる。
【特許文献1】特開平8−246415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
立体交差陸橋のアプローチ部構造として、従来のような、盛土と鉄筋コンクリート製の1対の側壁と道路床版構造とからなる構造を採用する場合には、先ず、1対の鉄筋コンクリート製の側壁を構築し、その後多量の土を1対の側壁の間に搬入して締め固めながら盛土を構築し、上層路盤を締め固め、その上にアスファルト舗装を行うという順序でアプローチ部構造を作ることになる。この場合、工期が長くなり、工事費が高価になるうえ、アプローチ部構造の両側の側道部分にも工事用車両が出入りする関係上、側道部分の車線規制が必要となり、施工時の交通の渋滞が深刻化するという問題がある。
【0007】
前記の特許文献1に記載のプレキャスト床版は道路軸方向と平行な2列の鋼製の桁部材の上にプレキャスト床版を搭載する構造であるが、この構造では、鋼製の桁部材を支持する鋼製又は鉄筋コンクリート製の橋脚、この橋脚の為の基礎構造等を構築する工期が長くなり、工事費も高価になるという問題がある。
【0008】
特許文献1には、プレキャスト床版を鋼製の桁部材に対して位置決めしたり位置規制する為の構造について何ら提案されていない。
【0009】
本発明の目的は、鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造とプレキャスト床版を採用し著しく短い工期で急速に施工可能な立体交差陸橋のアプローチ部構造を提供すること、1対の脚壁構造に対してプレキャスト床版を位置規制して固定可能な立体交差陸橋のアプローチ部構造を提供すること、上記のような立体交差陸橋のアプローチ部構造の架設工法を提供すること、などである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の立体交差陸橋のアプローチ部構造は、立体交差陸橋のアプローチ部構造において、前記アプローチ部構造は、道路幅方向に所定間隔あけて配置され道路軸方向に連続的に延びる鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造と、これら脚壁構造の上に設けるプレストレストコンクリート製の道路床版構造とを有し、前記道路床版構造は、道路軸方向に所定長さの複数のプレキャスト床版と、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する連結手段と、前記プレキャスト床版を脚壁構造の上端部に位置決めし且つ連結するアンカー部材とを有することを特徴とするものである。
【0011】
この立体交差陸橋のアプローチ部構造を架設する場合、最初に、工場において、鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造の複数の分割ブロックをプレキャスト方式で製作すると共に、プレストレストコンクリート製の複数のプレキャスト床版を製作する。次に、複数の分割ブロックと複数のプレキャスト床版を現地に搬送し、1対の脚壁構造を基礎の上に立設してボルト締結にて固定し、それら1対の脚壁構造の上に複数のプレキャスト床版を順次搭載し、アンカー部材によりプレキャスト床版を脚壁構造の上端部に位置決めし且つ連結すると共に、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結手段により連結する。
【0012】
前記1対の脚壁構造の道路幅方向の離間距離は、例えば道路幅の約2/3程度とするのが望ましく、その場合、1対の脚壁構造の架設の際、側道部分を殆ど車線規制することなく、架設することができる。1対の脚壁構造は、道路軸方向に連続するものであるので、基礎構造にかかる荷重を分散できるから、柱状の橋脚の場合の基礎構造と比較して簡単な基礎構造を設けるだけでよく、基礎工事の工期も非常に短くなる。しかも、複数のプレキャスト床版は、クレーン車やフォークリフトにより能率的に設置することができるから、道路床版構造の架設のため工期も非常に短くなる。
【0013】
請求項2の立体交差陸橋のアプローチ部構造は、請求項1の発明において、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版同士が結合される結合端部には、剪断キーとして機能する嵌合部と被嵌合部を設けたことを特徴とする。
請求項3の立体交差陸橋のアプローチ部構造は、請求項1又は2の発明において、前記プレキャスト床版の下面側部位には、脚壁構造の上端部が嵌合する凹溝状の嵌合部が形成されたことを特徴とする。
【0014】
請求項4の立体交差陸橋のアプローチ部構造は、請求項1〜3の何れかの発明において、前記連結手段は、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する複数のPC鋼線を有することを特徴とする。
請求項5の立体交差陸橋のアプローチ部構造は、請求項1〜3の何れかの発明において、前記連結手段は、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版を連結する複数組のボルト連結部を有することを特徴とする。
【0015】
請求項6の立体交差陸橋のアプローチ部構造の架設工法は、立体交差陸橋のアプローチ部構造を架設する工法において、道路幅方向に所定間隔あけて配置され道路軸方向に連続的に延びる鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造を架設する第1工程と、これら脚壁構造の上端にプレストレストコンクリート製の道路軸方向に所定長さの複数のプレキャスト床版を搭載して位置決めする第2工程と、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結手段により連結する第3工程とを有することを特徴とするものである。
【0016】
第1工程において、道路幅方向に所定間隔あけて配置され道路軸方向に連続的に延びる鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造を架設する。第2工程において、これら脚壁構造の上端に鉄筋コンクリート製の道路軸方向に所定長さの複数のプレキャスト床版を搭載して位置決めする。第3工程において、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結手段により連結する。
【0017】
請求項7の立体交差陸橋のアプローチ部構造の架設工法は、請求項6の発明において、前記連結手段は、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する複数のPC鋼線を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明(立体交差陸橋のアプローチ部構造)によれば、道路床版構造を支持する構造として鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造を採用しており、道路軸方向に連続して支持面積が大きいため、基礎構造を簡単化することでき、基礎構造の為の工期を短縮し、工事費も低減できる。特に、1対の脚壁構造を工場においてプレキャスト方式で分割ブロックに製作する場合には、1対の脚壁構造を架設する工期を一層短縮できる。
【0019】
道路床版構造を工場において製作可能な複数のプレキャスト床版で構成し、それら複数のプレキャスト床版を、1対の脚壁構造の上に搭載し、アンカー部材により脚壁構造の上端部に位置決めして連結し、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結手段により連結できるので、道路床版構造を架設する工期も著しく短縮し、急速に架設することでき、工事費も低減できる。アプローチ部構造の施工のために交通渋滞を招くことも少なく、能率的に経済的にアプローチ部構造を施工することができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版同士が結合される結合端部には、剪断キーとして機能する嵌合部と被嵌合部を設けたので、嵌合部と被嵌合部との嵌合を介して、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版の境界部に段差が生じるのを防止でき、複数のプレキャスト床版の一体性を高めることができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、前記プレキャスト床版の下面側部位には、脚壁構造の上端部が嵌合する凹溝状の嵌合部が形成されたので、プレキャスト床版の下面側部位の嵌合部に脚壁構造の上端部を嵌合させることで、脚壁構造に対してプレキャスト床版を位置規制することができ、地震発生時などにおける信頼性を高めることができる。
【0022】
請求項4の発明によれば、前記連結手段は、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する複数のPC鋼線を有するため、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版を強固に連結することができ、複数のプレキャスト床版の一体性を高めることができる。
【0023】
請求項5の発明によれば、前記連結手段は、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版を連結する複数組のボルト連結部を有するため、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版をボルト締結を介して簡単に連結することができる。
【0024】
請求項6の発明(立体交差陸橋のアプローチ部構造の架設工法)によれば、基本的に請求項1と同様の効果がえられる。
請求項7の発明によれば、前記連結手段は、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する複数のPC鋼線を有するため、複数のPC鋼線により、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版を簡単に強固に連結することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の立体交差陸橋のアプローチ部構造は、道路幅方向に所定間隔あけて配置され道路軸方向に連続的に延びる鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造と、これら脚壁構造の上に設けるプレストレストコンクリート製の道路床版構造とを有し、前記道路床版構造は、道路軸方向に所定長さの複数のプレキャスト床版と、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する連結手段と、前記プレキャスト床版を脚壁構造の上端部に位置決めし且つ連結するアンカー部材とを有することを特徴とするものである。
【0026】
本発明の立体交差陸橋のアプローチ部構造の架設工法は、道路幅方向に所定間隔あけて配置され道路軸方向に連続的に延びる鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造を架設する第1工程と、これら脚壁構造の上端に鉄筋コンクリート製の道路軸方向に所定長さの複数のプレキャスト床版を搭載して位置決めする第2工程と、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結手段により連結する第3工程とを有することを特徴とするものである。
【実施例1】
【0027】
以下、実施例に係る立体交差陸橋について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、立体交差陸橋1は、複数の道路が交差する交差点において、一方の道路を跨ぐ状態に構築される陸橋のことである。この立体交差陸橋1は、中央径間部と側径間部とを含む横断橋2と、この横断橋2の両側に連なる1対の傾斜状のアプローチ部構造3とで構成されている。
【0028】
前記横断橋2は例えば鋼製のもので、道路床版を備えた橋桁本体4と、両側の橋脚5と基礎構造とを有し、橋桁本体4と、 1対の橋脚5は、 工場において陸送可能な適当なサイズと重量のブロックに分割した形態で製作され、トレーラーにより現地に搬送して、基礎構造の上に橋脚5を立設し、 それら1対の橋脚5に橋桁本体4を搭載し、必要複数の連結箇所をボルト連結することで架設される。但し、以上の横断橋2の構造は一例であり、短い工期(例えば、基礎工事を含めて2,3週間)で架設可能な構造であればよく、前記の構造に限定されるものではない。
【0029】
図1〜図3に示すように、アプローチ部構造3は、鉄筋コンクリート製の1対(2列)の脚壁構造6と、これら1対の脚壁構造6の基礎となる1対(2列)の基礎構造7と、プレストレストコンクリート製の道路床版構造8と、道路床版構造8の道路幅方向の両端部に立設された1対の鉄筋コンクリート製のプレキャスト壁高欄9とを有する。
【0030】
1対の脚壁構造6は、道路幅方向に所定間隔(例えば、道路幅の約2/3)あけて配置され道路軸方向に連続的に延びる鉛直壁である。脚壁構造6は、道路軸方向に適当間隔(例えば、3m)おきに複数に分割された分割脚壁の形態に工場でプレキャスト方式で製作され、トレーラーにより現地に陸送される。
前記基礎構造7は、アプローチ部構造3を架設する現地の路面下部に構築される鉄筋コンクリート製の基礎であるが、脚壁構造6が道路軸方向に連続しており、脚壁構造6から基礎構造7に作用する荷重も分散されるため、通常の柱状の橋脚の為の基礎構造に比較して非常に簡単な構造で幅および深さの小さな基礎構造である。
【0031】
例えば、基礎構造7の上端には複数のアンカーボルトが植設されたアンカープレートが設けられ、脚壁構造6の下端には、その内部の鉄筋に溶接されたベースプレートが設けられ、脚壁構造6の分割脚壁を基礎構造7上に搭載し、複数のアンカーボルトにて締結することにより、脚壁構造6が構築される。尚、分割脚壁と分割脚壁とが隣接する連結部においては、両方の分割脚壁に嵌入される複数の水平なピン部材を採用してもよく、両方の分割脚壁に亙る連結板を溶接接合したりボルト締結したりして連結してもよく、それぞれ凹凸状の嵌合部により連結してもよく、その他の連結構造を採用してもよい。
【0032】
道路床版構造8は2列の脚壁構造6の上に搭載して固定され、道路床版構造8の上面にはアスファルト舗装された路面が形成される。道路床版構造8は、道路軸方向に所定長さ(例えば、3m)の複数のプレキャスト床版10と、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版10を連結する連結手段11と、プレキャスト床版を脚壁構造6の上端部に位置決めし且つ連結するアンカー部材12などを有する。
【0033】
最初に、鉄筋コンクリート製のプレキャスト床版10について説明する。
このプレキャスト床版10は、図示していないが内部に、鉄筋の他に、道路幅方向に延びるように配設された複数のPC鋼線(プレストレスコンクリート鋼線)が設けられ、強度を高め軽量を図った構造のものである。
図2〜図4に示すように、プレキャスト床版10の下面側には、1対の脚壁構造6の上端部が嵌合する1対の凹溝状の嵌合部13が形成され、各嵌合部13はその両側のほぼ台形状の厚肉部14を介して形成され、各嵌合部13の両側の厚肉部14には、PC鋼線15を挿入する金属製又は合成樹脂製のパイプ15aが道路軸方向に延びるように配設されている。
【0034】
図2〜図4に示すように、プレキャスト床版10の道路軸方向の中間部には、アンカー部材12を挿入する位置決め穴16が予め形成されており、脚壁構造6の上端部には、位置決め穴16に対応するアンカー穴17が予め形成されている。プレキャスト床版10を搭載して位置決めする際に位置決め誤差が避けられないので、前記位置決め穴16とアンカー穴17の少なくとも一方は、アンカー部材12よりも大径に形成する必要があるが、本実施例の場合、位置決め穴16とアンカー穴17の両方ともアンカー部材12よりも大径に形成されている。
【0035】
図3,図4に示すように、プレキャスト床版10は、1対の脚壁構造6の上に搭載され、各嵌合部13にそれに対応する方の脚壁構造6の上端部を嵌合させることで、道路幅方向の位置が位置決めされ、位置決め穴16とアンカー穴17とに鋼製丸棒からなるアンカー部材12を挿入して、位置決め穴16とアンカー穴17とにグラウト18(セメントミルク)を注入し固化させることで、アンカー部材12と固化したグラウト18を介してプレキャスト床版10が脚壁構造6対して正確に位置決めされ固着される。但し、脚壁構造6の上端とプレキャスト床版10との間の隙間から前記のグラウト18が漏出しないように、嵌合部14の全長に亙って脚壁構造6の上端角部にシール部材19が挟着される。
【0036】
このシール部材19は例えばウレタン樹脂などの合成樹脂発泡材からなる。前記注入されたグラウト18は嵌合部13における脚壁構造6とプレキャスト床版10の間の隙間にも侵入するため、そこに侵入して固化したグラウト18によっても、プレキャスト床版10が脚壁構造6に固着される。尚、アンカー部材12の表面にグラウト18との密着力を強めるための多数の凹凸を形成することが望ましい。
【0037】
図5に示すように、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版10同士が結合される結合端部20には、上下方向への相対移動に対して剪断キーとして機能する台形状の嵌合部21と被嵌合部22が形成されている。即ち、プレキャスト床版10の道路軸方向一端には嵌合部21が形成され、他端には被嵌合部22が形成されている。尚、プレキャスト床版10はほぼ同一の成形型を用いて成形されるものであるので、嵌合部21と被嵌合部22を精度よく形成しておけば、複数のプレキャスト床版10を架設した状態において、前記の当接部20に段差が発生しない。
【0038】
次に、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版10を連結する連結手段11は、本実施例の場合、複数のPC鋼線15で構成される。図2〜図5に示すように、道路軸方向に連続する4枚のプレキャスト床版10を各グループとして、各グループのプレキャスト床版10が、前記4列の厚肉部14の4本のパイプ15aに挿入された4本のPC鋼線15でプレストレス状態に連結される。但し、各グループの両端のプレキャスト床版10は、隣接するグループの端部のプレキャスト床版10となる。各グループの道路軸方向端部に位置するプレキャスト床版10における厚肉部14は長さ方向中央部を除去した短尺厚肉部14Aに形成され、PC鋼線15の端部が端部金具23により短尺厚肉部14Aに係止される。
【0039】
このように、複数枚ずつのプレキャスト床版10を4本のPC鋼線15で連結するので、プレキャスト床版10を強固に連結でき、道路床版構造8の強度を高めることができるだけでなく、連結に必要な部品数を少なくし、構造を簡単化することができる。
尚、各グループのプレキャスト床版10の数は前記に限定されるものではなく、3でもよく5以上の数でもよい。 また、各アプローチ部構造3の全部のプレキャスト床版10を1グループとし、それら全部のプレキャスト床版10に亙って連続する4本のPC鋼線15を用いて連結してもよい。尚、プレキャスト床版10を工場において成形する際に、通常の厚肉部14を有するプレキャスト床版10を成形する成形型に、型部品を追加することで、短尺厚肉部14Aを有するプレキャスト床版10を成形することができる。
【0040】
次に、プレキャスト壁高欄9について説明する。
プレキャスト壁高欄9は、鉄筋コンクリート製のもので、工場において、適当な長さ(例えば、9m)の分割ブロックとして製作され、現地に搬送して道路床版構造8の道路幅方向両端部に搭載されて固定される。分割ブロック同士の連結部はそれぞれ凹凸状の嵌合部により連結され、下端部はプレキャスト床版10にボルト連結される。
【0041】
次に、以上のような構造の立体交差陸橋のアプローチ部構造を架設する工法について簡単に説明する。第1の工程において、工場において横断橋2の橋桁4、橋脚5、脚壁構造6の複数の分割脚壁、複数のプレキャスト床版10、プレキャスト壁高欄9の複数の分割ブロックなどを製作する。次に、第1工程と並行的に第2の工程において、現地において横断橋2の橋脚5の基礎構造と、各脚壁構造6のための2列の基礎構造7とを構築する。
【0042】
第3の工程において、現地において横断橋2を架設し、これと並行的に、横断橋2の両側の2列の脚壁構造6を架設する。第4の工程において、これら2列の脚壁構造6の上端に複数のプレキャスト床版10を順次搭載し、アンカー部材12を介して位置決めする。 次に、第5の工程において、道路軸方向に並ぶ複数グループのプレキャスト床版10をPC鋼線15により連結する。次に、第6の工程においてプレキャスト壁高欄9の架設を行う。
【0043】
次に、以上説明した立体交差陸橋のアプローチ部構造3の作用、効果について説明する。道路床版構造8を支持する構造として鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造6を採用するため、基礎構造7を簡単化することでき、基礎構造7の為の工期を短縮し、工事費も低減できる。特に、1対の脚壁構造6を工場においてプレキャスト方式で分割脚壁に製作する場合には、1対の脚壁構造6を架設する工期を一層短縮できる。
【0044】
道路床版構造8を工場において製作可能な複数のプレキャスト床版10で構成し、それら複数のプレキャスト床版10を、1対の脚壁構造6の上に搭載し、アンカー部材12により脚壁構造6の上端部に位置決めして連結し、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版10を連結手段11により連結できるので、道路床版構造8を架設する工期も著しく短縮し、急速に架設することができ、工事費も低減できる。アプローチ部構造3の架設のために交通渋滞を招くことなく、能率的に経済的にアプローチ部構造3を架設することができる。
【0045】
道路軸方向に隣接するプレキャスト床版10同士が結合される結合端部には、剪断キーとして機能する嵌合部21と被嵌合部22を設けたので、嵌合部21と被嵌合部22との嵌合を介して、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版10の境界部に段差が生じるのを防止でき、複数のプレキャスト床版10の一体性を高めることができる。
【0046】
前記プレキャスト床版10の下面側部位には、脚壁構造6の上端部が嵌合する凹溝状の嵌合部13が形成されたので、プレキャスト床版10の下面側部位の嵌合部13に脚壁構造6の上端部を嵌合させることで、脚壁構造6に対してプレキャスト床版10を位置規制することができ、地震発生時などにおける信頼性を高めることができる。
【0047】
前記連結手段11は、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版10を連結する複数のPC鋼線15で構成するため、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版10を強固に連結することができ、複数のプレキャスト床版10の一体性を高めることができる。
【0048】
以上説明した実施形態を部分的に変更する例について説明する。
1)図6に示すように、脚壁構造6の上端部に前記アンカー穴17の代わりに、脚壁構造6の内部の鉄筋に溶接されたスリーブ状のアンカーナット部材30を予め設け、プレキャスト床版10の位置決め穴16から挿入したアンカー部材としてのボルト31をアンカーナット部材30に螺合し、ボルト31の頭部は十分大きな座金板32を介して受け止めるような構造にする。この構造では、脚壁構造6とプレキャスト床版10との連結強度を高め、地震発生時における信頼性を一層高めることができる。
尚、シール部材19が前記実施例と同様に装着され、嵌合部13における脚壁構造6とプレキャスト床版10の間の隙間と位置決め穴16には、前記実施例と同様にグラウト18が充填される。
【0049】
2)図7に示すように、全部のプレキャスト床版10を、短尺厚肉部14Aを有するプレキャスト床版10Aで構成し、PC鋼線15からなる連結手段11に代えて、複数のボルト33とナットで短尺厚肉部14Aを連結するように構成した連結手段11Aを採用することもできる。この場合、連結手段11Aの構成が簡単化し、連結作業も簡単になる。
【0050】
3)前記実施例は、横断橋の両側にアプローチ部構造を備えた立体交差陸橋に本発明を適用した場合を例にして説明したが、アプローチ部構造の数は2つに限らず、1つの場合もあり、3つ以上の場合もある。横断橋の構造も、前記実施例のものに限るものではなく、種々の構造の横断橋を採用可能である。
【0051】
4)本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのようなものも包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
立体交差陸橋のアプローチ部構造を架設する工期を短縮でき、工事費を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例に係る立体交差陸橋の側面図である。
【図2】道路床版構造の要部の平面図である。
【図3】道路床版構造の断面図である。
【図4】プレキャスト床版と脚壁構造の連結部を拡大した断面図である。
【図5】道路床版構造の要部の側面図である。
【図6】変更例に係る図4相当図である。
【図7】変更例に係る図5相当図である。
【符号の説明】
【0054】
1 立体交差陸橋
3 アプローチ部構造
6 脚壁構造
8 道路床版構造
10,10A プレキャスト床版
11,11A 連結手段
12 アンカー部材
15 PC鋼線
20 当接部
21 嵌合部
22 被嵌合部
30 アンカーナット部材
31 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体交差陸橋のアプローチ部構造において、
前記アプローチ部構造は、道路幅方向に所定間隔あけて配置され道路軸方向に連続的に延びる鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造と、これら脚壁構造の上に設けるプレストレストコンクリート製の道路床版構造とを有し、
前記道路床版構造は、道路軸方向に所定長さの複数のプレキャスト床版と、道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する連結手段と、
前記プレキャスト床版を脚壁構造の上端部に位置決めし且つ連結するアンカー部材と、 を有することを特徴とする立体交差陸橋のアプローチ部構造。
【請求項2】
道路軸方向に隣接するプレキャスト床版同士が結合される結合端部には、剪断キーとして機能する嵌合部と被嵌合部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の立体交差陸橋のアプローチ部構造。
【請求項3】
前記プレキャスト床版の下面側部位には、脚壁構造の上端部が嵌合する凹溝状の嵌合部が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の立体交差陸橋のアプローチ部構造。
【請求項4】
前記連結手段は、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する複数のPC鋼線を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の立体交差陸橋のアプローチ部構造。
【請求項5】
前記連結手段は、道路軸方向に隣接するプレキャスト床版を連結する複数組のボルト連結部を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の立体交差陸橋のアプローチ部構造。
【請求項6】
立体交差陸橋のアプローチ部構造を架設する工法において、
道路幅方向に所定間隔あけて配置され道路軸方向に連続的に延びる鉄筋コンクリート製の1対の脚壁構造を架設する第1工程と、
これら脚壁構造の上端にプレストレストコンクリート製の道路軸方向に所定長さの複数のプレキャスト床版を搭載して位置決めする第2工程と、
道路軸方向に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結手段により連結する第3工程と、
を有することを特徴とする立体交差陸橋のアプローチ部構造の架設工法。
【請求項7】
前記連結手段は、道路軸方向に連続的に並ぶ複数のプレキャスト床版を連結する複数のPC鋼線を有することを特徴とする請求項6に記載の立体交差陸橋のアプローチ部構造の架設工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−9348(P2006−9348A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186260(P2004−186260)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】