説明

立体多段式植物栽培装置

【課題】レタスなとの無農薬野菜をより効率的且つ低コストで経済的に生育させることができるような波長特性を持たせた電球形蛍光ランプを使用した立体多段式植物栽培装置を提供する。
【解決手段】栽培架台10には、複数の栽培ベッド12が立体的に多段配置されている。栽培ベッド12の上方には、電球形蛍光ランプ16と反射板20とが一体になった光源が等間隔で配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、太陽光を完全に遮断した人工環境下で植物栽培を行う、いわゆる完全制御型植物工場に適用して好適な立体多段式植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の地球環境異変に起因する天候不順により、露地での野菜栽培などが不安定になり、野菜価格の高騰などが毎年のように発生している。そこで、野菜などを周年計画的に安定生産するための栽培手段として、完全制御型植物工場が注目されている。完全制御型植物工場では、太陽光を完全に遮断した建物内で温度・湿度・炭酸ガス濃度などを制御し、高圧ナトリウムランプやメタルハライドランプ、蛍光ランプなどを太陽光に代わる人工光源として利用している。最近では、LED(発光ダイオード)やCCFL(冷陰極蛍光ランプ)を光源とした完全制御型植物栽培工場も開発が行われている。
【0003】
完全制御型植物栽培工場では、複数の栽培ベッドを、ランプからの発熱の影響が少ない蛍光ランプやLEDと共に立体的に多段に配置して、栽培空間を有効活用することで、敷地面積当たりの栽培密度・効率を向上させる方法が多く採用されている。
【0004】
一方、特許文献1及び2には、動植物の育成用若しくは観賞用の照明手段として、消費電力の少ない電球形蛍光ランプを用いることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−276919号公報
【特許文献2】特開2001−69853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に植物の栽培においては、400〜700nmの可視光域の光が必要であり、光合成のピークは450nm付近と660nm付近にあると考えられている。ところが、通常の蛍光ランプは、植物の育成に最も有効な、その450nm付近及び660nm付近の波長が欠けているという欠点がある。また、例えば、リーフ系レタス類などを完全制御型植物工場で栽培する場合、栽培に適した光強度は100〜200μmol/m/s程度である。ところが、光源として直管形蛍光ランプを使用する場合には、例えば、600cm×130cmの栽培面積に対して40Wの直管形蛍光ランプが4本、約160Wの電気量が必要となり、消費電力の多さが問題となる。さらに、野菜の育成に必要な光量を調節するためには、インバータを搭載した安定器を採用する必要があり、光源の設備費も高いものになる。
【0007】
特許文献1及び2に開示されているような電球形蛍光ランプは、比較的安価で、低消費電力、長寿命、且つ近接で強い光量が得られるという特長を持っているが、通常の電球形蛍光ランプは、上述した660nm付近の波長が欠けているという欠点がある。
【0008】
一方、LEDは、任意の波長にピークを持つ光源を作り出すことが比較的容易に可能で、660nm付近に波長ピークを持つ光源を供給することができる。しかしながら、ランプ、即ち、素子1個の光強度が蛍光ランプよりも小さく、例えば、100μmol/m/s以上の光強度を得るためには、蛍光ランプと比較して、より多くのLEDが必要であり、結果として、その総電力量が多くなってしまう。また、何よりも、光源の設備費が、蛍光ランプを利用する場合と比較して、10倍以上も高くなってしまう。これらが、生産された野菜の原価を大きく押し上げる要因となる。
【0009】
本発明の目的は、例えば、完全制御型植物工場において、低い光源コスト(イニシャルコスト及びランニングコスト)で植物を栽培することができる立体多段式植物栽培装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明による立体多段式植物栽培装置は、平面視において互いに重なるように高さ方向に多段配置された複数の栽培ベッドと、前記栽培ベッドの夫々の上面に向けて光を照射するように前記栽培ベッドの夫々の上方に配置された複数の電球形蛍光ランプとを有し、前記電球形蛍光ランプの各々が、650〜660nmの赤色波長域に1つの発光ピークを有している。
【0011】
この構成によると、比較的安価で、低消費電力、長寿命、且つ近接で強い光量が得られる電球形蛍光ランプに、植物の生育に最も有効な660nm付近の波長域の発光ピークを持たせ、これを、例えば、完全制御型植物工場における立体多段式植物栽培装置に用いることで、光利用効率及び光合成効率をより高めた植物栽培を行うことができる。これにより、従来、LEDや蛍光ランプ単独の光では困難であった、植物の形態や光利用効率の向上が可能で、且つ完全制御型植物工場による野菜の供給を低い光源コストで実現することが可能となる。
【0012】
本発明においては、前記電球形蛍光ランプの各々において、650〜660nmの赤色波長域の光エネルギーが全体の光エネルギーの20〜30%であるのが好ましい。これにより、植物の生育効果をより高めることができる。
【0013】
また、前記電球形蛍光ランプの各々が、その電球形蛍光ランプの発光強度を連続的に制御するためのインバータを備えているのが好ましい。これにより、例えば、調光装置と組み合わせることによって、容易に光強度を自在に変えることができるようになり、栽培植物の生育状態に合わせて必要な光量の光を植物に照射することができる。
【0014】
また、本発明においては、複数の前記電球形蛍光ランプごとに1個の反射板が一体的に設けられても良い。この場合には、植物へのより均一な光照射を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な一実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1に、本発明の一実施の形態に係る立体多段式植物栽培装置を備えた完全制御型植物工場の概略的な全体構成を示す。完全制御型植物工場1は、建造物内の1フロアに設けられたものであって、栽培室2と、機械室3と、出荷・作業室4と、管理室5と、倉庫6とから構成されている。出荷・作業室4には、植物工場1の出入り口1aが設けられている。
【0017】
栽培室2には、スチール製又はアルミ製の栽培架台10が、例えば、6列に配列されている。栽培室2の床から天井までの距離は約2.5mである。栽培架台10は、幅が約1.3mで、長さは2m程度から、最長で、例えば、30m程度まで延ばすことができる。栽培室2内の温度及び湿度は、空調機2aによって、植物の生育に最適なものに調整されている。機械室3内には、制御盤、潅水装置、発芽・育苗装置、保冷庫などが設置されている。
【0018】
栽培架台10には、その斜視図である図2に示すように、平面視において互いに重なるように栽培ベッド12が4段に配置されている。栽培ベッド12が配置された棚段の間隔は約0.5mである。なお、栽培室2の天井がより高い場合には、棚段を8〜12段にすることも可能である。栽培ベッド12は、発泡スチロール製の成形品で、軽く、断熱性に富み、且つ適当な強度が保たれている。従って、上方向に何段にでも積み上げることが可能である。また、発泡スチロール製とすることで、断熱効果と、後述するランプからの熱の影響を少なくする効果とがある。栽培ベッド12は、その拡大斜視図及び横断面図である図3(a)及び図3(b)に示すように、ほぼコ字状の横断面を有していて、約20〜30cmの深さの凹部12aが、栽培ベッド12の長手方向に沿って設けられている。凹部12a内には、凹部12aとほぼ同じ高さを有していると共に、幅が約60cmで長さが約120cmの上方開放箱形の栽培コンテナ17が、栽培ベッド12の長手方向に沿って複数配列されている。隣接する栽培コンテナ17同士は、数cm程度離隔している。栽培コンテナ17内には、培地18が保持されている。
【0019】
凹部12aの底面には、栽培ベッド12の長手方向に延びた給水溝12bが設けられている。給水溝12bには、不織布からなる給水シート19の一部が浸漬されている。給水シート19は、栽培コンテナ17の底部に設けられた不図示のスリットを通って培地18内にまで延びており、培地18の底面付近において、そのほぼ全域に亘って底面と並行に広がっている。これにより、培地18の乾燥度に応じて給水することが可能となって、特に水分管理が生育に影響するような作物の栽培の場合に効果的である。
【0020】
図4に、栽培架台10を図2の矢印A方向から見た模式的な側面図を示す。図4に示すように、栽培架台10の下方には、水タンク21が配置されている。水タンク21には、機械室3内の灌水装置から、適宜、水が補給される。水タンク21から排出された水は、ポンプ22によって、給水管23に送られる。給水管23内の水は、各栽培ベッド12の凹部12aの、図中、右端に供給される。凹部12aの右端に供給された水は、凹部12a内を左方に向かって流れる。そして、凹部12aの左端から排出された水は、排水管24から排出されて、水タンク21に戻される。
【0021】
上述したように、給水溝12b内には給水シート19の一部が浸漬されているので、給水溝12b内の水は、毛管現象によって給水シート19に吸い上げられる。そのため、給水シート19から培地18に常に適度な水が与えられることになる。
【0022】
図4に示した例では、水タンク21、ポンプ22、給水管23、及び排水管24からなる循環経路が、栽培架台10上の全ての栽培コンテナ17に共通であるが、例えば、栽培架台10が長いような場合には、上記のような循環経路を、1個〜数個の栽培コンテナ17ごとに設けても良い。その場合には、例えば、万が一の病害などの蔓延を抑制することができる。
【0023】
図3(b)に示すように、各培地18には、土壌水分センサ25が挿入されている。土壌水分センサ25は、培地18の乾き度合いを測定する。この土壌水分センサ25からの出力信号に基づいて、ポンプ22のオン・オフ、又は、給水管23に設けられた不図示の電磁弁の開閉を制御することによって、培地18が常に所望の水分量を含むように管理をすることができる。
【0024】
次に、各培地18にて栽培されている植物に光を照射するための光源について説明する。図5は、栽培架台10における光源の配置を示す模式的な平面図である。図6は、栽培架台10を図2の矢印B方向から見た模式的な正面図である。図2及び図4〜図6に示すように、各栽培ベッド12の上方には、多数の電球形蛍光ランプ16が、栽培架台10の長手方向に沿って等間隔で2列に配列されている。電球形蛍光ランプ16は、栽培架台の大きさによっては、1列若しくは3列以上に配列されても良い。また、図示の例では、電球形蛍光ランプ16は、栽培架台10の各棚段の天井部に水平方向に配列されて取り付けられているが、各棚段の側面部に取り付けられても良い。各電球形蛍光ランプ16には、下方の栽培ベッド12に均一に無駄なく光を照射するための反射板20が設けられている。反射板20は、各電球形蛍光ランプ16ごとに一体型に設け、取り付けや取り外しも容易な構造としている。
【0025】
各電球形蛍光ランプ16は、8〜13W程度の出力を持ち、且つ、450nm、550nm、及び620nmに夫々ピーク波長を持つ3波長発光タイプのものに、例えば、封入ガスの組成を調整して、650〜660nmの赤色波長ピークを付加したものである。このとき、650〜660nmの赤色波長域の光エネルギーを、全体の光エネルギーに対し20〜30%程度に調整する。各電球形蛍光ランプ16と植物体との距離は、10〜20cm程度とし、植物体にできるだけ均一に光が照射されるようにする。また、このときの光強度は、150〜200μmol/m/s程度とする。
【0026】
各電球形蛍光ランプ16には、インバータ(安定器)が一体的に組み込まれており、調光装置と組み合わせることで、光強度を容易に且つ連続的に自在に変えることができるようになっている。これにより、栽培植物の生育状態に合わせて、必要な光量を植物に照射することができる。
【0027】
図2に示すように、各電球形蛍光ランプ16には、ランプの点灯・消灯を自動的に行うオンオフタイマー31、及び、ランプの光強度を制御することができる調光スイッチ32が設けられている。
【0028】
上述した電球形蛍光ランプ16の制御系及び水の循環系(水タンク21、ポンプ22等)は、各栽培架台10ごとに独立して設けられており、これにより、栽培装置である各栽培架台10を1台づつ独立して運転できるようになっている。
【0029】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものでは決してなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を上述の実施形態に施すことが可能である。
【0030】
例えば、上述の実施の形態においては、各電球形蛍光ランプ16に夫々一体的に反射板20を設けているが、図7に示すように、複数の電球形蛍光ランプ16ごとに一体的に反射板40を設けても良い。これにより、栽培植物へのより均一な光照射を行うことができる。
【0031】
また、上述の実施の形態のような培地18を用いず、栽培ベッド12内に直接養液を流して、栽培を行うこともできる。この場合には、水タンク21に、水の代わりに養液を供給し、この養液を、ポンプ22によって循環させる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係る完全制御型植物工場の概略斜視図である。
【図2】図1の完全制御型植物工場内に設けられた栽培架台の斜視図である。
【図3】図2の栽培架台上に支持された栽培ベッドの拡大斜視図及び横断面図である。
【図4】図2の栽培架台を図2の矢印A方向から見た模式的な側面図である。
【図5】図2の栽培架台における光源の配置を示す模式的な平面図である。
【図6】図2の栽培架台を図2の矢印B方向から見た模式的な正面図である。
【図7】本発明に係る光源部の変形例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0033】
1 完全制御型植物工場
2 栽培室
3 機械室
4 出荷・作業室
5 管理室
6 倉庫
10 栽培架台
12 栽培ベッド
16 電球形蛍光ランプ
17 栽培コンテナ
18 培地
20 反射板
21 水タンク
22 ポンプ
23 給水管
24 排水管
31 オンオフタイマー
32 調光スイッチ
40 反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において互いに重なるように高さ方向に多段配置された複数の栽培ベッドと、
前記栽培ベッドの夫々の上面に向けて光を照射するように前記栽培ベッドの夫々の上方に配置された複数の電球形蛍光ランプとを有し、
前記電球形蛍光ランプの各々が、650〜660nmの赤色波長域に1つの発光ピークを有していることを特徴とする立体多段式植物栽培装置。
【請求項2】
前記電球形蛍光ランプの各々において、650〜660nmの赤色波長域の光エネルギーが全体の光エネルギーの20〜30%であることを特徴とする請求項1に記載の立体多段式植物栽培装置。
【請求項3】
前記電球形蛍光ランプの各々が、その電球形蛍光ランプの発光強度を連続的に制御するためのインバータを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の立体多段式植物栽培装置。
【請求項4】
複数の前記電球形蛍光ランプごとに1個の反射板が一体的に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の立体多段式植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−245554(P2008−245554A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89589(P2007−89589)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(594156020)エスペックミック株式会社 (10)
【Fターム(参考)】